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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-12
(45)【発行日】2023-09-21
(54)【発明の名称】多孔質ガラスセラミックス
(51)【国際特許分類】
   C03C 10/02 20060101AFI20230913BHJP
   B01J 27/195 20060101ALI20230913BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20230913BHJP
【FI】
C03C10/02
B01J27/195 M
B01J35/02 J
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018061208
(22)【出願日】2018-03-28
(65)【公開番号】P2019172490
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2020-09-08
【審判番号】
【審判請求日】2022-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000128784
【氏名又は名称】株式会社オハラ
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】傅 杰
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】増山 淳子
【審判官】後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-117162(JP,A)
【文献】特開2014-94879(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B1/00-14/00
B01J27/19
B01J35/02
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物基準のモル%表示でP25成分を15%超-40%未満、Nb25成分を25%超-60%未満、ZnO成分を25%超-60%未満、MgO成分を5%以下含有し、モル比(Nb25/ZnO)が1以上であり、
リンとニオブの酸化物結晶を含有し、
Nb9PO25、Nb92.550、NbPO5、及びZn2Nb4217からなる群より選択される1種以上の結晶相を含有し
本工業規格JIS R 1701-2:2016に基づいてアセトアルデヒドの除去量を測定したときに、前記アセトアルデヒドの除去量が6.0μmol/h以上であることを特徴とする多孔質ガラスセラミックス。
【請求項2】
酸化物基準のモル%表示で、ZnO成分とMgO成分の合計を30%以上-60%未満含有することを特徴とする請求項1に記載の多孔質ガラスセラミックス。
【請求項3】
Pt、Au、Cu及びAgからなる群から選ばれる1種または1種以上を0-3%含有することを特徴とする請求項1または2に記載の多孔質ガラスセラミックス。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の多孔質ガラスセラミックスを含有することを特徴とする光触媒。
【請求項5】
請求項4に記載の光触媒を含むことを特徴とする空気浄化用フィルター。
以上
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質ガラスセラミックス、その製造方法及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒は、光を吸収してエネルギーの高い状態になり、このエネルギーを用いて反応物質に化学反応を起こす材料である。光触媒としては、金属イオンや金属錯体等も用いられているが、特に二酸化チタン(TiO)をはじめとする半導体の無機化合物が光触媒として高い触媒活性を有することが知られており、特によく使用されている。半導体は、通常電気を通さないが、バンドギャップエネルギー以上のエネルギーの光が照射されると、電子が伝導帯に移動することで電子の抜けた正孔が生成され、これら電子と正孔によって強い酸化還元力を持つようになる。光触媒の持つこの酸化還元力は、汚れや汚染物質、悪臭成分等を分解・除去し、浄化する働きを有する。これらの光触媒は、太陽光等を利用して酸化還元力を得られることから、エネルギーフリーな環境浄化技術として注目を浴びている。
【0003】
酸化チタン(TiO)等の光触媒活性を有する無機化合物は、非常に微細な粉末であり、そのままでは取り扱いが困難である。そのため、実際に使用されるときには、塗料にして基材の表面にコーティングしたり、真空蒸着、スパッタリング、プラズマ等の手法で膜状に形成したりして利用する場合が殆どである。例えば、特開2008-81712号公報には、基材の表面に無機チタン化合物層を形成するために用いられる塗布剤として、合成樹脂を分散相とする水性エマルジョンに高濃度の無機チタン化合物が含まれた光触媒性塗布剤が開示されている。また、特開2007-230812号公報には、ガスフロースパッタリングにより、TiOのターゲットを用いて成膜された光触媒酸化チタン薄膜が開示されている。その他、コーティングや膜の形をとらずに、無機チタン化合物を基材中に含ませる技術としては、例えば、特開平9-315837号公報に、SiO、Al、CaO、MgO、B、ZrO、及びTiOの各成分を所定量含有する光触媒用ガラスが開示されている。
【0004】
しかしながら、基材の表面に無機チタン化合物を塗布し又はコーティングする場合には、塗布膜やコーティング層の耐久性が十分ではなく、塗布膜やコーティング層が基材から剥離するおそれがあった。
【0005】
また、特開平9-315837で開示される光触媒用ガラスは、酸化チタンが結晶構造を有しておらず、アモルファスの形でガラス中に存在するため、その光触媒活性が不充分であった。
【0006】
一方、これらの課題、すなわち光触媒活性を有する結晶の生成とその固定化を一括で解決する技術として、ガラスの中から光触媒結晶を析出させる技術がある。ガラス全体に光触媒結晶を分散させたガラスセラミックスは、表面の亀裂や剥離等の経時変化が殆どなく、半永久的に結晶の特性を利用できる利点がある。
【0007】
例えば、特開2008-120655号公報及び特開2009-57266号公報は、光触媒材料として、TiO-Bi-B-Al-RO(R:アルカリ土類金属)系ガラスを熱処理してルチル型若しくはアナターゼ型のチタン酸化物に由来する結晶を含むガラスセラミックスを開示している。また、特開2010-163318号公報には、ZnOの結晶を析出させた、ZnOを30~50モル%、Bを9~35モル%、Alを5~15モル%、SiOを5~27%、LiO、NaO、KO、RbO及びCsOからなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ金属の酸化物を5~12モル%、並びに、MgO、CaO、SrO及びBaOからなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ土類金属の酸化物を4~12モル%含有し、各金属酸化物の総量に対するBとSiOとの合計量が30モル%以上である光触媒活性を有するガラスセラミックスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2008-81712号公報
【文献】特開2007-230812号公報
【文献】特開平9-315837号公報
【文献】特開2008-120655号公報
【文献】特開2009-57266号公報
【文献】特開2010-163318号公報
【0009】
しかし、近年、より優れた光触媒活性をもつ材料が求められており、これらのガラスセラミックスは、従来から知られているチタン酸化物に由来する結晶やZnOの結晶を析出しているため、優れた光触媒活性を期待することが難しかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、優れた光触媒活性を有するとともに、多孔質化することによってより優れた光触媒機能性素材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、酸化物基準のモル%表示でP成分を15%超-40%未満、Nb成分を15%超-60%含有し、リンとニオブの酸化物結晶を含有することによって、これまでのガラスセラミックスよりも優れた光触媒機能を有する素材及び製品を提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の(1)~(6)に存する。
【0012】
(1) 酸化物基準のモル%表示でP成分を15%超-40%未満、Nb成分を15%超-60%含有し、リンとニオブの酸化物結晶を含有することを特徴とする多孔質ガラスセラミックス。
(2)酸化物基準のモル%表示で、P成分を15%超-40%未満、Nb成分を15%超-60%、ZnO成分とMgO成分の合計を15%超-60%未満含有することを特徴とする請求項(1)に記載の多孔質ガラスセラミックス。
(3)Pt、Au、Cu及びAgからなる群から選ばれる1種または1種以上を0-3%含有することを特徴とする(1)又は(2)に記載の多孔質ガラスセラミックス。
(4)日本工業規格JIS R 1701-2に基づくアセトアルデヒドの除去量が6.0μmol/h以上であることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の多孔質ガラスセラミックス。
(5)(4)に記載の多孔質ガラスセラミックスを含有することを特徴とする光触媒。
(6)(5)に記載の光触媒を含むことを特徴とする空気浄化用フィルター。
【発明の効果】
【0013】
本発明の多孔質ガラスセラミックスは、リンとニオブの酸化物結晶を含有するため高い光触媒活性を持ち、その内部及び表面に光触媒活性を持つ結晶が均一に存在しているため、優れた光触媒活性を有する。また、仮に表面が剥がれても性能の低下がなく、極めて耐久性に優れたものである。更に、多孔質化することで表面積を増加させ光触媒活性能力を向上することができる。従って、本発明の多孔質ガラスセラミックスは、光触媒機能性素材として有用である。
【0014】
また、本発明によれば、ガラス組成と焼成温度の制御によってガラス中に光触媒活性を備えた結晶を生成させることができるため、特殊な設備を用いることなく、優れた光触媒活性を備え、光触媒機能性素材として有用なガラスセラミックスを工業的規模で容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1のXRDパターンを示す図である。
図2】実施例1のUV照射有無におけるアセトアルデヒドの濃度変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
[ガラスセラミックス]
本発明のガラスセラミックスは、光触媒活性を有する結晶を含有する。ガラスセラミックスは、ガラスをガラスの結晶化温度より高い温度で加熱することによりガラス相中に結晶相を析出させて得られる材料である。ガラスセラミックスは、ガラス相及び結晶相からなる材料のみならず、ガラス相が全て結晶相に変化した材料、すなわち、材料中の結晶量(結晶化度)が100質量%のものも含んでよい。
【0017】
本発明のガラスセラミックスの形状としては多孔質体であることを特徴とする。多孔質体となることで表面積が増加し、アセトアルデヒドなどをより吸着することができるため、光触媒活性を向上させることができる。
【0018】
本発明のガラスセラミックスに含まれる光触媒活性を有する結晶相としては、リンとニオブとの酸化物結晶が好ましい。
特に、NbPO25、Nb2.550、NbPO、及びZnNb17からなる群より選択される1種以上の結晶相を含有することが好ましい。
これらの結晶相を含有することで、より優れた光触媒活性を得ることができる。
【0019】
また、これら結晶の固溶体を用いることにより、バンドギャップエネルギーを調整することができるので、光に対する応答性を向上させることが可能である。固溶体とは、2種類以上の金属固体又は非金属固体が互いの中に原子レベルで溶け込んで全体が均一の固相になっている状態のことをいい、混晶という場合もある。溶質原子の溶け込み方によって、結晶格子の隙間より小さい元素が入り込む侵入型固溶体や、母相原子と入れ代わって入る置換型固溶体等がある。
以下、本明細書では、前述した光触媒活性を有する結晶及びその固溶体結晶を総称して「光触媒結晶」と表現する。
また、「光触媒活性」とは、光照射によって酸化、還元反応を起こすことをいう。本発明では、日本工業規格JIS R 1701-2:2016に基づくアセトアルデヒドの除去量が0.17μmol/h以上であれば、「光触媒活性がある」とする。光触媒活性によって有機物質の分解作用や表面の親水化作用を示すことが知られている。
【0020】
次に、本発明のガラスセラミックスの成分及び物性について説明する。
本明細書中において、ガラスセラミックスを構成する各成分の含有量は特に断りがない場合、全て「酸化物換算組成の全物質量に対するモル%」で表示されるものとする。ここで、「酸化物換算組成」とは、本発明のガラスセラミックスとなるガラスの構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩、金属弗化物等が溶融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の総物質量を100モル%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0021】
成分は、ガラスの網目構造を構成する成分であり、さらに光触媒特性を示す結晶の構成成分でもあるため、必須成分である。Pの含有量は15%以下であると、ガラスセラミックスの前駆体であるガラスの溶融性と安定性が著しく低下する。従って、P成分の含有量は、好ましくは15%超、より好ましくは18%さらに好ましくは20%超を下限とする。
他方で、Pの含有量が40%以上になると、所望の光触媒を有する結晶が析出し難くなる。従って、P成分を含有する場合、P成分の含有量は、好ましくは40%未満、より好ましくは38%、さらに好ましくは35%未満を上限とする。
なお、P成分は、原料として例えばAl(PO、Ca(PO、Ba(PO、Zn(PO、NaPO、BPO、NHPO、HPO等を用いることができる。
【0022】
Nb成分は、ガラスの溶融性と安定性を高める効果があり、さらに光触媒特性を示す結晶の構成成分であるため、必須成分である。Nbの含有量は15%以下であると、所望の結晶相が析出しにくくなる。従って、Nb成分の含有量は、好ましくは15%超、より好ましくは20%超、さらに好ましくは25%超を下限とする。
しかし、Nb成分の含有量が60%以上になると、ガラスセラミックスの前駆体であるガラスの安定性が著しく悪くなる。従って、Nb成分の含有量は、好ましくは60%未満、より好ましくは50%未満、さらに好ましくは40%未満を上限とする。
なお、Nb成分は、原料として例えばNb等を用いることができる。
【0023】
ZnO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上する成分であるとともに、光触媒結晶の形成に効果があるので、任意成分である。ZnOの含有量は15%以下であると、ガラスの溶融性と安定性が低下する。構成成分として光触媒活性をもたらす任意成分である。従って、ZnO成分の含有量は、好ましくは15%超、より好ましくは20%超、さらに好ましくは25%超を下限とする。
しかし、ZnO成分の含有量が60%以上になると、ガラスの安定性が損なわれ、ガラス化し難くなり、所望とされる光触媒結晶の析出も困難になる。従って、ZnO成分を含有する場合、ZnO成分の含有量は、好ましくは60%未満、より好ましくは50%未満、さらに好ましくは45%未満を上限とする。
ZnO成分は、原料として例えばZnO、Zn(PO、ZnF等を用いることができる。
【0024】
MgO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上する成分であるとともに、光触媒結晶の形成に効果があるので、任意成分である。MgO成分の含有量がZnO成分と同じ範囲にしても所望な効果が得られるが、高価のため、その含有量を低く抑えるべきである。従って、MgO成分の含有量は、好ましくは25%、より好ましくは20%、さらに好ましくは15%を上限とする。MgO成分は、原料として例えばMgO、Mg(PO、MgCO、MgF等を用いることができる。
【0025】
本発明のガラスセラミックスでは、ZnO成分及びMgO成分の合計量を15%超にすると、ガラスを安定的に得られやすくなると同時に光触媒活性が向上する。従って、ZnO成分及びMgO成分を含有する場合、合計量(ZnO+MgO)は、好ましくは20%、より好ましくは23%、さらに好ましくは25%を下限とする。
他方で、本発明のガラスセラミックスでは、この合計量が60%以上になると、かえってガラスが得られにくくなる。従って、ZnO成分及びMgO成分を含有する場合、合計量(ZnO+MgO)は、好ましくは60%未満、より好ましくは55%未満、さらに好ましくは50%未満、さらに好ましくは45%未満を上限とする。
【0026】
また、RO(式中、RはCa、Sr及びBaからなる群より選択される1種以上)成分の合計量を20%以下にすることで、ガラスの安定性が向上し、ガラスセラミックスの光触媒活性が低下し難くなるので、添加できる。従って、RO成分を含有する場合、RO成分の合計量は、好ましくは20%、より好ましくは10%未満、さらに好ましくは5%未満を上限とする。
【0027】
CaO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させることができる任意成分である。しかし、CaO成分の含有量が10%以上になると、かえってガラスの安定性が悪くなり、所望の結晶の析出も困難になる。従って、CaO成分を含有する場合、CaO成分の含有量は、好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満、さらに好ましくは1%未満を上限とする。CaO成分は、原料として例えばCaCO、Ca(PO、CaF等を用いることができる。
【0028】
SrO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させることができる任意成分である。しかし、SrO成分の含有量が10%以上になると、かえってガラスの安定性が悪くなり、所望の結晶の析出も困難になる。従って、SrO成分を含有する場合、SrO成分の含有量は、好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満、さらに好ましくは1%未満を上限とする。SrO成分は、原料として例えばSr(NO、SrF等を用いることができる。
【0029】
BaO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させることができる任意成分である。しかし、BaO成分の含有量が10%以上になると、かえってガラスの安定性が悪くなり、所望の結晶の析出も困難になる。従って、BaO成分を含有する場合、BaO成分の含有量は、好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満、さらに好ましくは1%未満を上限とする。BaO成分は、原料として例えばBaCO、Ba(PO、Ba(NO、BaF等を用いることができる。
【0030】
本発明のガラスセラミックスは、RnO成分(式中、RnはLi、Na、K、Rb及びCsからなる群より選択される1種以上)は、ガラスの溶融性と安定性を向上させることができる任意成分である。本発明のガラスセラミックスは、RnO成分を含有する場合、RnO成分の合計量が10%未満であることが好ましい。これにより、ガラスの安定性が向上し、所望の光触媒活性が低下し難くなる。RnO成分を含有する場合、RnO成分の合計量は、好ましくは10%未満、より好ましくは8%、さらに好ましくは5%未満を上限とする。
【0031】
また、本発明のガラスセラミックスは、RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr及びBaからなる群より選択される1種以上)及びRnO成分(式中、RnはLi、Na、K、Rb、Csからなる群より選択される1種以上)を任意で含有でき、RO成分及びRnO成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分の合計量が25%以下であることが好ましい。これにより、ガラスの安定性が向上し、且つ、所望の結晶相を容易に析出させることができる。従って、合計量(RO+RnO)は、好ましくは25%、より好ましくは20%未満、さらに好ましくは15%未満、さらに好ましくは10%未満、さらに好ましくは5%未満を上限とする。
【0032】
LiO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させることができる任意成分である。LiO成分の含有量が10%以上になると、かえってガラスの安定性が悪くなり、さらに所望の光触媒活性が低下する。従って、LiO成分を含有する場合、LiO成分の含有量は、好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満、さらに好ましくは1%未満を上限とする。LiO成分は、原料として例えばLiCO、LiPO、LiNO、LiF等を用いることができる。
【0033】
NaO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させることができる任意成分である。
しかし、NaO成分の含有量が10%以上になると、かえってガラスの安定性が悪くなり、さらに所望の光触媒活性が低下する。従って、NaO成分を含有する場合、NaO成分の含有量は、好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満、さらに好ましくは1%未満を上限とする。NaO成分は、原料として例えばNaO、NaCO、NaHPO、NaNO、NaF、NaS、NaSiF等を用いることができる。
【0034】
O成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させることができる任意成分である。しかし、KO成分の含有量が10%以上になると、かえってガラスの安定性が悪くなり、さらに所望の光触媒活性が低下する。従って、KO成分を含有する場合、KO成分の含有量は、好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満、さらに好ましくは1%未満を上限とする。KO成分は、原料として例えばKCO、NaHPO、KNO、KF、KHF、KSiF等を用いることができる。
【0035】
本発明のガラスセラミックスでは、Nb成分、ZnO成分、RnO成分及びRO成分の合計量(Nb+ZnO+RnO+RO)が40%超であることが好ましい。これにより、ガラスが安定的に溶融することができ、ガラス化しやすくなる。従って、合計量(Nb+ZnO+RnO+RO)は、好ましくは40%超、より好ましくは50%超、さらに好ましくは55%超、さらに好ましくは60%超を下限とする。
他方、合計量(Nb+ZnO+RnO+RO)が90%以上になると、ガラス化し難くなる。従って、合計量(Nb+ZnO+RnO+RO)は、好ましくは90%未満、より好ましくは85%未満、さらに好ましくは80%未満、さらに好ましくは75%未満を上限とする。
【0036】
本発明のガラスセラミックスでは、Nb成分、ZnO成分、RnO成分及びRO成分の合計量に対するZnO成分の質量比(ZnO/(Nb+ZnO+RnO+RO))を0.01以上にすることで、所望の結晶を析出することができ、より高い光触媒活性を得ることができます。従って、質量比(ZnO/(Nb+ZnO+RnO+RO))は、好ましくは0.01、より好ましくは0.10、さらに好ましくは0.20、さらに好ましくは0.30、らに好ましくは0.39を下限とする。
【0037】
TiO成分は、ガラスの溶融性及び安定性を向上し、さらに所望の結晶相の形成に効果があるため添加できる任意成分である。
他方で、TiO成分の含有量が20%以上になると、ガラス化が非常に難しくなり、所望のリンとニオブの酸化物結晶を得にくくなる。従って、TiO成分を含有する場合、TiO成分の含有量は、好ましくは20%未満、より好ましくは10%未満、さらに好ましくは5%未満を上限とする。
TiO成分は、原料として例えばTiO等を用いることができる。
【0038】
SiO成分は、ガラスの網目構造を構成し、ガラスの安定性と溶融性を高め、且つSi4+イオンが光触媒結晶に固溶することで光触媒活性をもたらす効果がある任意成分である。しかし、SiO成分の含有量が15%以上になると、ガラスの溶融性が悪くなる。従って、SiO成分を含有する場合、SiO成分の含有量は、好ましくは15%未満、より好ましくは10%未満、さらに好ましくは8%を上限とする。
SiO成分は、原料として例えばSiO、KSiF、NaSiF等を用いることができる。
【0039】
成分は、ガラスの網目構造を構成し、ガラスの安定性と溶融性を高める成分であり、任意に含有できる成分である。しかし、その含有量が10%以上になると、所望の結晶が析出し難い傾向が強くなる。従って、B成分を含有する場合、B成分の含有量は、好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満、さらに好ましくは3%を上限とする。B成分は、原料として例えばHBO、Na、Na・10HO、BPO等を用いることができる。
【0040】
Al成分は、ガラスの安定性及び溶融性を高め、且つAl3+イオンが光触媒結晶に固溶することで光触媒活性をもたらす効果がある任意成分である。しかし、その含有量が10%以上になると、ガラス化し難くなり、所望の結晶相を析出し難くなる。従って、Al成分を含有する場合、Al成分の含有量は、好ましくは10%未満、より好ましくは6%、さらに好ましくは4%を上限とする。
Al成分は、原料として例えばAl、Al(OH)、AlF等を用いることができる。
【0041】
本発明のガラスセラミックスは、P成分に対するRO成分及びRnO成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分の合計量の質量比((RO+RnO)/P)が1.00以下であることが好ましい。これにより、ガラスの安定性が向上し、且つ、所望の結晶相を容易に析出しやすくでき、高い光触媒活性をもたらす。従って、質量比((RO+RnO)/P)は、好ましくは1.00、より好ましくは0.75、さらに好ましくは0.32、さらに好ましくは0.32を上限とする。
【0042】
本発明のガラスセラミックスは、Nb成分に対するWO成分の質量比(WO/Nb)が1.0以下であることが好ましい。これにより、所望の結晶相を容易に析出しやすくでき、光触媒活性をもたらし、アセトアルデヒドの除去性能を向上させることができる。従って、質量比(WO/Nb)は、好ましくは1.0、より好ましくは0.5、さらに好ましくは0.2未満、さらに好ましくは0.1未満を上限とする。
【0043】
本発明のガラスセラミックスは、ZnO成分に対するNb成分の質量比(Nb/ZnO)が3.00以下であることが好ましい。これにより、ガラス化しやすくなる。従って、質量比(Nb/ZnO)は、好ましくは3.00、より好ましくは2.00、さらに好ましくは1.50未満を上限とする。
他方で、ガラスの安定性が向上し、且つ、所望の結晶を容易に析出させ、光触媒活性を向上させる。従って、質量比(Nb/ZnO)は、好ましくは0.10%、より好ましくは0.50%、さらに好ましくは0.86%を下限とする。
【0044】
なお、本発明のガラスセラミックは、更に以下の成分を含有することもできる。
【0045】
GeO成分は、上述したSiOと相似な働きを有し、任意に含有できる成分である。本発明の光触媒ガラスセラミックスにおいて、SiOと同じ程度の量を含有させることができるが、非常に高価であるため、多量に用いるのはコスト上好ましくない。従って、高価なGeO成分の使用を抑え、コストを低減するためには、その含有量を5%以下にすることが好ましい。より好ましくは1%未満、さらに好ましくは0.5%未満とする。GeO成分は、原料として例えばGeO等を用いることができる。
【0046】
Ga成分は、ガラスの安定性を高め、ガラスから光触媒結晶が析出するのを促進し、且つGa3+イオンが光触媒結晶に固溶することで光触媒活性の向上に寄与する成分であり、任意に含有できる成分である。しかし、その含有量が5%を超えると、溶解温度が著しく上昇し、ガラス化し難くなる。従って、Ga成分の含有量は、好ましくは5%、より好ましくは1%未満、さらに好ましくは0.5%未満を上限とする。Ga成分は、原料として例えばGa、GaF等を用いることができる。
【0047】
In成分は、上述したGaと相似な効果がある成分であり、任意に含有できる成分である。しかし、In成分は高価なため、その含有量の上限は5%にすることが好ましく、1%未満にすることがより好ましく、0.5%未満にすることがさらに好ましい。In成分は、原料として例えばIn、InF等を用いてガラスセラミックスに導入することができる。
【0048】
ZrO成分は、ガラスセラミックスの化学的耐久性を高め、光触媒結晶の析出を促進し、且つ、自らも光触媒結晶の構成成分として光触媒活性の向上に寄与する成分であり、任意に含有できる成分である。しかし、ZrO成分の含有量が15%を超えると、ガラス化し難くなる。従って、ZrO成分の含有量は、好ましくは15%、より好ましくは10%、さらに好ましくは5%未満、最も好ましくは、1%未満を上限とする。ZrO成分は、原料として例えばZrO、ZrF等を用いることができる。
【0049】
SnO成分は、光触媒結晶の析出を促進し、且つ光触媒結晶に固溶することで光触媒活性を向上させる効果がある成分であり、また、光触媒活性を高める作用のある後述のAgやAuやPtイオンと一緒に含有する場合は還元剤の役割を果たし、間接的に光触媒の活性の向上に寄与する成分であり、任意に含有できる成分である。しかし、これらの成分の含有量が15%を超えると、ガラスの安定性が悪くなり、光触媒活性も低下し易くなる。従って、SnO成分の含有量は、好ましくは15%、より好ましくは8%、さらに好ましくは3%を上限とする。SnO成分は、原料として例えばSnO、SnO、SnO等を用いることができる。
【0050】
Ta成分は、ガラスの安定性を高める成分であり、任意に含有できる成分である。また、自ら光触媒結晶の構成成分として光触媒活性をもたらす効果がある。しかし、Ta成分の含有量が10%を超えるとガラスの安定性が著しく悪くなる。従って、Ta成分の含有量は、好ましくは10%、より好ましくは5%、さらに好ましくは1%未満を上限とする。Ta成分は、原料として例えばTa等を用いることができる。
【0051】
WO成分は、ガラスの溶融性と安定性を高め、光触媒活性を向上させる成分であり、任意に含有できる成分である。また、自ら光触媒結晶の構成成分として光触媒活性をもたらす効果がある。しかし、WO成分の含有量が20%を超えると、ガラスの安定性が著しく悪くなる。従って、WO成分の含有量は、好ましくは20%、より好ましくは15%、さらに好ましくは10%、最も好ましくは5%未満を上限とする。WO成分は、原料として例えばWO等を用いることができる。
【0052】
Bi成分は、ガラスの溶融性と安定性を高める成分であり、任意に含有できる成分である。また、ガラス転移温度を下げて光触媒結晶を生成させ易くするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。しかし、Bi成分の含有量が10%を超えると、ガラスの安定性が悪くなり、光触媒結晶の析出が難しくなる。従って、Bi成分の含有量は、好ましくは10%、より好ましくは5%、さらに好ましくは3%、さらに好ましくは1%未満、さらに好ましくは0.5%未満を上限とする。Bi成分は、原料として例えばBi等を用いることができる。
【0053】
TeO成分は、ガラスの溶融性と安定性を高める成分であり、任意に含有できる成分である。また、ガラス転移温度を下げて光触媒結晶を生成させ易くするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。しかし、TeO成分の含有量が10%を超えると、ガラスの安定性が悪くなり、光触媒結晶の析出が難しくなる。従って、TeO成分の含有量は、好ましくは5%、より好ましくは3%、さらに好ましくは1%未満、さらに好ましくは0.5%未満を上限とする。TeO成分は、原料として例えばTeO等を用いることができる。
【0054】
Ln成分(式中、LnはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuからなる群より選択される1種以上とする)は、ガラスセラミックスの化学的耐久性を高める成分であり、且つ光触媒結晶に固溶し、又はその近傍に存在することで、光触媒活性を向上させる成分であり、任意に含有できる成分である。しかし、Ln成分の含有量の合計が5%を超えると、ガラスの安定性が著しく悪くなる。従って、Ln成分の合計量は、好ましくは5%、より好ましくは3%、さらに好ましくは1%を上限とする。Ln成分は、原料として例えばLa、La(NO・XHO(Xは任意の整数)、Gd、GdF、Y、YF、CeO、CeF、Nd、Dy、Yb、Lu等を用いることができる。
【0055】
成分(式中、MはV、Cr、Mn、Fe、Co、Niからなる群より選択される1種以上とし、x及びyは、それぞれx:y=2:Mの価数、を満たす最小の自然数とする。ここで、Vの価数は5、Crの価数は3、Mnの価数は2、Feの価数は3、Coの価数は2、Niの価数は2とする)は、光触媒結晶に固溶するか、又はその近傍に存在することで、光触媒活性の向上に寄与し、且つ一部の波長の可視光を吸収してガラスセラミックスに外観色を付与する成分であり、本発明のガラスセラミックス中の任意成分である。特に、M成分の合計量を5%以下にすることで、ガラスセラミックスの安定性を高め、ガラスセラミックスの外観の色を容易に調節することができる。従って、M成分の合計量は、好ましくは5%、より好ましくは3%、さらに好ましくは1%を上限とする。
【0056】
As成分やSb成分は、ガラスを清澄させ、脱泡させる成分であり、また、光触媒活性を高める作用のある後述のAgやAuやPtイオンと一緒に含有する場合に、還元剤の役割を果たすことで、間接的に光触媒活性の向上に寄与する成分であり、任意に含有できる成分である。しかし、これらの成分の含有量が合計で1%を超えると、ガラスの安定性が悪くなり、光触媒活性も低下し易くなる。従って、As成分及びSb成分の含有量の合計は、好ましくは1%、より好ましくは0.5%、さらに好ましくは0.3%を上限とする。As成分やSb成分は、原料として例えばAs、As、Sb、Sb、NaSb・5HO等を用いてガラスセラミックスに導入することができる。
【0057】
なお、ガラスを清澄させ脱泡させる成分は、上記のAs成分やSb成分に限定されるものではなく、例えばCeO成分やTeO成分等のような、ガラス製造の分野における公知の清澄剤や脱泡剤、或いはそれらの組み合わせを用いることができる。
【0058】
本発明のガラスセラミックスは、Cu成分、Ag成分、Au成分、Pd成分、Re成分、及びPt成分から選ばれる少なくとも1種の金属イオン又は粒子を含むことが好ましい。これらの金属イオン又は粒子は、所望の結晶の近傍に存在することで、光触媒活性を向上させることができる任意成分である。しかし、これらの金属イオン又は粒子の含有量の合計が、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対する外割り物質量比で、3%を超えるとガラスの安定性が著しく悪くなり、光触媒活性がかえって低下し易くなる。従って、上記金属イオン又は粒子の含有量の、酸化物換算組成のガラスセラミックス全質量に対する外割り質量比の合計は、好ましくは3%、より好ましくは2%、さらに好ましくは1%、さらに好ましくは0.5%、さらに好ましくは0.15%を上限とする。
これらの金属イオン又は粒子は、原料として例えばCuO、CuO、Cu(NO)、AgO、AuCl、PtCl、PtCl、HPtCl、PdCl等を用いてガラスセラミックスに導入することができる。
なお、これらの成分を含有する場合に、上記金属イオン又は粒子の含有量の、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対する外割り物質量比の合計は、好ましくは2.5×10-3%、より好ましくは5.0×10-3%、さらに好ましくは1.0×10-2%を下限とする。
【0059】
本発明のガラスセラミックスには、上記成分以外の成分を光触媒の特性を損なわない範囲で必要に応じ、含有することができる。但し、PbO等の鉛化合物、Th、Cd、Tl、Os、Se、Hgの各成分は、近年有害な化学物質として使用を控える傾向にあり、ガラスセラミックスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。従って、環境上の影響を重視する場合、不可避な混入を除き、これらを実質的に含有しないことが好ましい。これにより、ガラスセラミックスに環境を汚染する物質が実質的に含まれなくなる。そのため、特別な環境対策上の措置を講じなくとも、このガラスセラミックスを製造し、加工し、及び廃棄することができる。
【0060】
また、本発明のガラスセラミックスは、光触媒結晶相を、ガラス全体積に対する体積比で1%以上99%以下の範囲内で含んでいることが好ましい。このような結晶相の含有率が1%以上であることにより、ガラスセラミックスが良好な光触媒活性を有することができる。一方で、上記結晶相の含有率が99%以下であることにより、酸等を用いたエッチングにより、残りのガラスが取り除かれることで、表面における結晶の露出度が高くなり、且つ比表面積が増えるため、光触媒活性がより高くなる。ガラスセラミックスの結晶化率は、体積比で好ましくは1%、より好ましくは5%、さらに好ましくは10%を下限とし、好ましくは99%、より好ましくは97%、さらに好ましくは95%を上限とする。
【0061】
本発明のガラスセラミックスは、紫外領域から可視領域までの波長の光によって触媒活性が発現されることが好ましい。ここで、本発明でいう「紫外領域の波長の光」は、波長が可視光線より短く軟X線よりも長い不可視光線の電磁波のことであり、その波長はおよそ10~400nmの範囲にある。また、本発明でいう「可視領域の波長の光」は、電磁波のうち、ヒトの目で見える波長の電磁波のことであり、その波長はおよそ400nm~700nmの範囲にある。これら紫外領域から可視領域までのいずれかの波長の光、又はそれらが複合した波長の光がガラスセラミックスの表面に照射されたときに触媒活性が発現されることにより、ガラスセラミックスの表面に付着した汚れ物質や細菌等が酸化反応又は還元反応によって分解されるため、ガラスセラミックスを防汚用途や抗菌用途等に用いることができる。
【0062】
本発明のガラスセラミックスは、紫外領域から可視領域までのいずれかの波長の光、又はそれらが複合した波長の光によって触媒活性が発現される。より具体的には、紫外領域から可視領域までのいずれかの波長の光を照射したときに、アセトアルデヒド等の空気中の有害物質である有機物を分解する特性を有する。これにより、光触媒ガラスセラミックスの表面に付着した汚れ物質や細菌等が酸化又は還元反応によって分解されるため、光触媒を防汚用途や抗菌用途等に用いることができる。
ここで、光触媒ガラスセラミックスのアセトアルデヒドの除去性能は、日本工業規格JIS R 1701-2に基づく値で50.0%以上が好ましく、55.0%以上がより好ましく、60.0%以上がさらに好ましい。
【0063】
本発明のガラスセラミックスは、アセトアルデヒド等の空気中の有害物質である有機物を分解し、種々の物質の浄化に用いることができる。有機物からなる不純物等が分解されるため、浄化対象となる物質を清浄に保つことができる。特に、気体の浄化に用いる場合、本発明のガラスセラミックスを用いた浄化フィルターを構成することも好ましい。これにより、より高い光触媒活性が得られるため、こうした汚れに強く自己再生し易い浄化フィルターを得ることができる。
【0064】
[ガラスの製造方法]
次に、本発明のガラスの製造方法について、具体的工程を例示して説明する。ただし、本発明のガラスの製造方法は、以下に示す方法に限定されるものではない。
【0065】
ガラスの製造方法は、原料を混合してその融液を得る溶融工程と、前記融液を冷却してガラスを得る冷却工程を有することができる。
【0066】
(溶融工程)
溶融工程は、上述の組成を有する原料を混合し、その融液を得る工程である。より具体的には、ガラスセラミックスの各成分が所定の含有量の範囲内になるように原料を調合し、均一に混合して作製した混合物を白金坩堝、石英坩堝又はアルミナ坩堝に投入して電気炉で1200~1600℃の温度範囲で1~24時間溶融し、攪拌均質化して融液を作製する。なお、原料の溶融の条件は上記温度範囲に限定されず、原料組成物の組成及び配合量等に応じて、適宜設定することができる。
【0067】
(冷却工程)
冷却工程は、溶融工程で得られた融液を冷却してガラス化することで、ガラスを作製する工程である。具体的には、融液を流出させて適宜冷却することで、ガラス化されたガラス体を形成する。ここで、ガラス化の条件は特に限定されるものではなく、原料の組成及び量等に応じて適宜設定されてよい。また、本工程で得られるガラス体の形状は特に限定されず、板状、粒状、フレーク等であってよいが、本発明においては顆粒状やフレーク状のガラスを作製することが好ましい。
【0068】
[多孔質ガラスセラミックスの製造方法]
本実施の形態に係る多孔質ガラスセラミックスの製造方法は、特に制限はなく、一般に多孔質体を製造するための種々の方法を利用して製造することができる。以下、骨格材料がガラスセラミックスである場合を例に挙げて説明する。
【0069】
<製法例1>
製法例1は、多孔質のテンプレートを使用する方法である。この方法は、原料ガラス粉末のスラリーを調製する工程(スラリー調製工程)、このスラリーをテンプレートに含浸させる工程(含浸工程)、及び、スラリーを含浸させたテンプレートを焼成する工程(焼成工程)を有する。
【0070】
スラリー調製工程:
上述の方法で顆粒状またはフレーク状のガラスを作製し、使用するテンプレートの細孔径に応じて所定の粒径になるまで粉砕、分級等を行い、ガラス粉末を準備する。ガラス粉末の粒径は、例えば、0.1μm~100μmの範囲内から選択することが好ましい。次に、原料ガラス粉末を分散媒中に分散させてスラリーを調製する。分散媒としては、例えば水、有機溶媒などを使用することができる。有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール系溶媒が好ましい。
【0071】
スラリーには、バインダー、消泡剤等を添加することができる。バインダーとしては、例えば、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコール等の合成樹脂や、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース等のセルロース誘導体などを用いることができる。消泡剤としては、例えば、シリコーン系消泡剤、界面活性剤等を用いることができる。
【0072】
含浸工程:
含浸工程では、スラリーをテンプレートに含浸させる。含浸の方法は、特に制限はなく、例えばスラリーにテンプレートを浸漬する方法や、スプレーコーティング等の方法でテンプレートにスラリーを塗布する方法などを挙げることができる。これらの方法において、テンプレートへの原料ガラス粉末の含浸量を多くするために、浸漬又は塗布を複数回繰り返すことができる。含浸工程で用いるテンプレートとしては、多孔質体、例えば、発泡ウレタン樹脂(スポンジ)、不織布、紙などを用いることができる。テンプレートの細孔径は、例えば、0.1μm~20mm内から選択することが好ましい。
【0073】
焼成工程:
焼成工程では、スラリーを含浸させたテンプレートを、ガラスの結晶化温度以上の温度で焼成する。この焼成によって、ガラスからガラスセラミックスへの転換を行うとともに、テンプレートの細孔を鋳型として3次元網目状のネットワークを形成することができる。焼成により、有機物からなるテンプレートは、焼成によって分解、ガス化して除去
される。
【0074】
焼成温度は、例えば800~1200℃の範囲内が好ましく、850~1050℃の範
囲内がより好ましい。焼成温度が高くなり過ぎると、目的以外の未知相が析出する傾向が強くなり、光触媒活性が消失し易くなるので、成温度の上限は1200℃が好ましく、1050℃がより好ましい。焼成温度が低すぎると、結晶化が不十分となって所望の光触媒活性が得られないため、焼成温度の下限は800℃が好ましく、850℃がより好ましく、880℃が最も好ましい。また、焼成時間は、ガラスの組成や焼成温度などに応じて結晶をある程度まで成長させ、かつ十分な量の結晶を析出させ得る条件に設定することが好ましい。焼成時間は、焼成温度によって様々な範囲に設定できる。焼結後は、自然冷却することによって、所望の気孔率及び気孔サイズを有する多孔質ガラスセラミックスを得ることができる。
【0075】
<製法例2>
製法例2は、起泡剤を使用する方法である。この方法は、原料ガラス粉末のスラリーを調製する工程(スラリー調製工程)、このスラリーに起泡剤を添加して発泡させる工程(発泡工程)、発泡させたスラリーを所定形状に成形して成形体とする工程(成形工程)、この成形体を焼成する工程(焼成工程)を有する。
【0076】
スラリー調製工程:
上述の方法で顆粒状またはフレーク状のガラスを作製し、所定の粒径になるまで粉砕、分級等を行い、ガラス粉末を準備する。ガラス粉末の粒径は、例えば、0.1μm~100μmの範囲内
から選択することが好ましい。次に、ガラス粉末を分散媒中に分散させてスラリーを調製する。分散媒としては、例えば水、有機溶媒などを使用することができる。なお、原料ガラス粉末に替えて、繊維状のガラスファイバーを用いてもよい。
【0077】
スラリーの粘度は、例えば10cP~3000cPの範囲内が好ましく、100cP~1000cpの範囲内がより好ましい。スラリーの粘度が10cPを下回ると、発泡後の成形性が十分に得られない場合がある。一方、スラリーの粘度が3000cpを超えると、発泡及び成形が困難になる場合がある。スラリーには、例えば、バインダー、架橋性ポリマー、増粘剤などを添加してもよい。バインダーとしては、例えば、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコール等のポリマーを用いることができる。架橋性ポリマーとしては、例えばポリビニルアルコール、イソブチレン系ポリマー等の多官能性ポリマーを用いることができる。増粘剤としては、例えば、増粘多糖類、セルロース等を用いることができる。また、上記以外の成分として、例えば、分散剤、整泡剤などを配合することもでき
る。
【0078】
発泡工程:
発泡工程では、スラリーに起泡剤を添加して発泡させる。発泡の程度によって、光触媒多孔質体の気孔率を調節できる。起泡剤としては、例えば、ラウリル硫酸トリエタノールアミン等の界面活性剤(カチオン系、アニオン系又はノニオン系)等を用いることができる。発泡操作は、起泡剤を添加したスラリーを例えば機械的に撹拌することによって行うことができる。なお、スラリーに架橋性ポリマーを配合した場合は、起泡剤として、例えばグルタルアルデヒド等の架橋形成作用を有する成分を添加し、撹拌することによって発泡させることができる。
【0079】
成形工程:
成形工程では、発泡させたスラリーを所定形状に成形・固化させて成形体を得る。ここで、成形・固化は、泡組織を固定するためのものであり、発泡スラリーを放置することによりその流動性を消失させる。本工程では、任意の形状の型を用いてもよい。型は、その
まま次の焼成工程に移行できるものが好ましく、焼成工程で熱分解により容易に焼失するものがより好ましい。そのような型としては、例えば、紙、合成樹脂等を挙げることができる。
【0080】
焼成工程:
焼成工程では、成形体を、ガラスの結晶化温度以上の温度で焼成する。この焼成によって、ガラスからガラスセラミックスへの転換を行うとともに、発泡させた成形体から3次元網目状のネットワークを形成することができる。本工程における焼成温度及び焼成時間は、製法例1と同様である。焼成後は、自然冷却することによって、所望の気孔率及び気孔サイズを有する多孔質ガラスセラミックスを得ることができる。
【0081】
<エッチング処理>
上述の製法1または製法2で作製した多孔質ガラスセラミックスは、そのままの状態で高い光触媒活性を奏することが可能であるが、エッチングを行うことにより、結晶相の周りのガラス相が取り除かれ、表面に露出する結晶相の比表面積が大きくなるため、ガラスセラミックスの光触媒活性をより高めることが可能であるので、エッチング処理を行うことが好ましい。ここで、エッチングの方法としては、例えば、ドライエッチング、溶液への浸漬によるウェットエッチング、及びこれらの組み合わせ等の方法が挙げられる。浸漬に使用される酸性もしくはアルカリ性の溶液は、ガラスセラミックスの表面を腐食できれば特に限定されず、例えばフッ素又は塩素を含む酸(フッ化水素酸、塩酸)であってよい。なお、このエッチング工程は、フッ化水素ガス、塩化水素ガス、フッ化水素酸、塩酸等を、ガラスセラミックスの表面に吹き付けることで行ってよい。
【0082】
以上のようにして得られる本実施の形態の多孔質ガラスセラミックスは、骨格材料自体が光触媒活性を有する多孔質構造であるため、該多孔質構造の細孔内部に処理対象となるガスや液体などの流体を通過させることによって、該流体中に含まれる有機物と光触媒との接触機会を増加させ、有機物を効率良く分解することができる。また、本実施の形態の光触媒多孔質体は、膜やコーティング層などを有さず、多孔質体を形成する骨格材料自体が光触媒活性を呈するので、光触媒層の剥離・離脱による触媒活性の劣化がなく、交換やメンテナンスの手間が省ける。従って、本実施の形態の光触媒多孔質体は、例えばガス又は液体をろ過するためのフィルター材や、該フィルター材を備えた浄化装置等として利用できる。また、光触媒機能を利用したフィルター材や浄化装置は装置内で光源となる部材に隣接した構成である場合が多いが、光触媒多孔質体は、任意の形状に成型加工できるため、装置内の容器などに簡単に収容することが可能であり、利便性にも優れている。
【実施例
【0083】
次に、実施例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に制約されるものではない。
【0084】
[実施例1]
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、3%SiO-1%B-1%Al-25%P-35%Nb-35ZnOの組成を有するガラスを作製した。すなわち、各成分の原料として、SiO2、B、Al(PO、Nb及びZn(POに相当する酸化物を秤量して均一に混合した後、白金坩堝に投入し、電気炉で1350℃で3時間溶解した。その後、ガラスの溶融液を水に投入し、顆粒状のガラスを作製した。得られたガラスを平均粒子7μのサイズに粉砕し、以下の多孔質ガラスセラミックスの作製に用いた。
【0085】
テンプレートとして格子状の穴(穴サイズ7×10mm)を有するポリエステルとナイロンからなる不織布(厚み7mm)を用いた。スラリーは、上述のガラス粉末に対してバインダー(積水化学工業株式会社、エスレックK KW-10)を10wt%、蒸留水を40wt%加えて調合した。このスラリーを上述の不織布に含浸させ、ドライヤーで余分なスラリーを除去、乾燥後、同様な操作をもう一回行った。このように作製したスラリー含浸シートを2枚用意し、重ねてから、950℃で3時間焼成することにより、多孔質ガラスセラミックスを得た。得られた多孔質ガラスについて4.6wt%のHFで1分間処理を行ってから、諸物性の測定に供した。
粉末法のXRD測定により、主結晶相としてリンとニオブの酸化物結晶であるNbPO25が生成していることが確認された。光触媒性能については日本工業規格JIS R 1701-2に基づいてアセトアルデヒドの除去量を測定することにより評価した。図1にその測定結果を示す。この結果により、求められたアセトアルデヒドの除去量は10.2μmol/hであり、この値は光触媒として認められる基準値の0.17μmol/hを60倍上回っている。
【0086】
実施例と類似な方法で実施例2~8及び比較例1を作製した。これらのサンプルの作製条件及びアセトアルデヒドの除去量は表1~表2に示した。各実施例について粉末XRDにより結晶相を確認した結果、NbPO25以外にNb2.550、NbPO、及びZnNb17等のリンとニオブの酸化物結晶も確認される組成があった。光触媒性能についてはいずれの組成において8μmol/h以上のアセトアルデヒドの除去率を有することが確認された。また、CuまたはPtの添加により、アセトアルデヒドの除去率が増大することが認められた。一方、比較例1の多孔質ガラスセラミックスはNb成分を含まない、TiOを主成分としたもので、本実施例に比べてアセトアルデヒドの除去量が明確に劣っている。
【0087】
【表1】
【0088】
【表2】

【0089】
以上の実験結果が示すように、本発明の多孔質ガラスセラミックスは、優れた光触媒活性を有しており、且つ光触媒結晶が均一にガラスに分散しているため、剥離による光触媒機能の損失がなく、耐久性に優れた光触媒機能性素材として利用できることが確認された。
【0090】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはない。当業者は本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を成し得、それらも本発明の範囲内に含まれる。
図1
図2