IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本酢ビ・ポバール株式会社の特許一覧

特許7348723ポリビニルアルコール系樹脂の架橋反応の促進方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-12
(45)【発行日】2023-09-21
(54)【発明の名称】ポリビニルアルコール系樹脂の架橋反応の促進方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 16/06 20060101AFI20230913BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20230913BHJP
   B41M 5/52 20060101ALI20230913BHJP
   C08K 5/25 20060101ALI20230913BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20230913BHJP
   C09D 11/30 20140101ALI20230913BHJP
【FI】
C08F16/06
B41J2/01 501
B41M5/52 110
C08K5/25
C08L29/04 A
C09D11/30
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018546344
(86)(22)【出願日】2017-10-17
(86)【国際出願番号】 JP2017037465
(87)【国際公開番号】W WO2018074448
(87)【国際公開日】2018-04-26
【審査請求日】2020-05-15
【審判番号】
【審判請求日】2021-11-15
(31)【優先権主張番号】P 2016205527
(32)【優先日】2016-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】594146788
【氏名又は名称】日本酢ビ・ポバール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】河西 将利
【合議体】
【審判長】藤原 浩子
【審判官】▲吉▼澤 英一
【審判官】藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-201455(JP,A)
【文献】特開2006-272797(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
C08L
C08K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ジアセトンアクリルアミド単位を含有するポリビニルアルコール系樹脂と、(B)ヒドラジノ基を有する架橋剤とを水中で反応させる架橋反応において、(C)アルカリ金属及びアルカリ土類金属を含まない水溶性金属を共存させる、架橋反応速度の促進方法であり、
反応系中のpHが6未満であり、
(C)水溶性金属の割合が、(A)ポリビニルアルコール系樹脂100質量部に対して、金属原子換算で、0.05~20質量部である、方法。
【請求項2】
(A)ジアセトンアクリルアミド単位を含有するポリビニルアルコール系樹脂と、(B)ヒドラジノ基を有する架橋剤とを、(C)アルカリ金属及びアルカリ土類金属を含まない水溶性金属の存在下、水中で反応させる、水性ゲルの製造方法であり、
反応系中のpHが6未満であり、
(C)水溶性金属の割合が、(A)ポリビニルアルコール系樹脂100質量部に対して、金属原子換算で、0.05~20質量部である、方法。
【請求項3】
(C)水溶性金属が、アルミニウム化合物、チタン化合物及びジルコニウム化合物から選ばれる1種以上である請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
(C)水溶性金属が、乳酸チタン、酢酸ジルコニウム及び塩化ジルコニウムから選ばれる1種以上である請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
(C)水溶性金属の割合が、(A)ポリビニルアルコール系樹脂100質量部に対して、金属原子換算で、0.05~20質量部である請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
(C)水溶性金属の割合が、(B)ヒドラジノ基を有する架橋剤100質量部に対して、金属原子換算で、1~100質量部である請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
反応系中のpHが2.5~5である請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
(D)pH調整剤を共存させて、反応系中のpHを調整する請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
反応系中のpHが3~4.5である請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
(A)ジアセトンアクリルアミド単位を含有するポリビニルアルコール系樹脂、(B)ヒドラジノ基を有する架橋剤、及び(C)アルカリ金属及びアルカリ土類金属を含まない水溶性金属を含有する組成物であり、
pHが6未満であり、
(C)水溶性金属の割合が、(A)ポリビニルアルコール系樹脂100質量部に対して、金属原子換算で、0.05~20質量部である、組成物。
【請求項11】
(E)水を含む水性ゲルである請求項10記載の組成物。
【請求項12】
インクジェット用バインダーに用いるための請求項10又は11記載の組成物。
【請求項13】
請求項1012のいずれかに記載の組成物を含むインク受容層を備えたインクジェット記録材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール(以下、PVAと略記する。)系樹脂の架橋反応に関し、更にはジアセトンアクリルアミド単位を含有するPVA系樹脂とヒドラジノ基を有する架橋剤との反応速度を促進する(高くする)方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PVAは代表的な水溶性合成樹脂であり、優れた接着性、造膜性、バリア性、分散性を利用し、接着剤、紙コート剤、フィルムおよびフィルムコート剤等の広い用途で使用されている。また、架橋剤を用いてPVA系樹脂を架橋して得られる水性ゲルを医療材料や玩具として使用したり、また、PVA系樹脂と架橋剤を、接着剤、コーティング剤として使用した際に強度や耐水性を付与することで、これまで水溶性のPVAを使用する上において問題のあった用途への検討が盛んに行われている。
【0003】
PVAの架橋方法としては、PVAにホウ砂等のホウ素化合物を加えて反応させる方法、PVA水溶液に酸性条件下でジアルデヒドを添加して、アセタール化する方法など、種々の架橋反応が提案されているが、ホウ素化合物、アルデヒド化合物などの環境への影響や安全性が懸念される架橋剤が多く、使用できる用途が限定されるという問題があった。
【0004】
これらの問題を解決する手段として、ジアセトンアクリルアミド変性PVA系樹脂と多官能ヒドラジド化合物を反応させるPVA樹脂の架橋方法がある。例えば、特許文献1では、ジアセトンアクリルアミドを共重合したPVAと例えばアジピン酸ジヒドラジドとを含む混合水溶液をポリエチレンテレフタレート上に流延し、室温乾燥することで熱水に浸漬しても溶解しない耐水性の高い皮膜が形成されることが記載されている。また、特許文献2では、ジアセトンアクリルアミド共重合変性PVAとN-アミノポリアクリルアミドを含む混合溶液を球形の金型に流し込み、10℃で2時間放置することにより、強度および耐久性に優れる水性ゲルが得られることが例示されている。
【0005】
すなわち、ジアセトンアクリルアミド共重合変性PVAと多官能ヒドラジド化合物は、水中で架橋反応が進み、混合水溶液の状態で保管すると水溶液としての粘性が失われ、ゲルになる。また、混合水溶液をフィルム上に流延したり、基材に塗工すると、乾燥して水が蒸発する過程で、樹脂および架橋剤の濃度が高くなり、反応速度が上がり、皮膜または塗膜になった時点で耐水化されるという反応系であり、有害な架橋剤を使用せず、広いpH域で反応し、加熱処理をしなくても高度な耐水性皮膜や強度、耐久性に優れる水性ゲルが得られるという点で、広い用途に有用な架橋反応であった。
【0006】
ジアセトンアクリルアミド変性PVA系樹脂と多官能ヒドラジド化合物との反応系を、紙塗工、接着、フィルム等の用途で使用する場合の問題点として、混合水溶液のポットライフの問題があった。すなわち、ジアセトンアクリルアミド変性PVAの水溶液に、多官能ヒドラジド化合物等の架橋剤を添加・混合して得られる混合水溶液を、すぐに塗工、接着、流延して使用できれば問題はないが、混合水溶液の状態で保管したり、調製したすべての混合液を使いきるまでに時間がかかったりする場合、この架橋反応は水中でも進行し、最終的にゲル化し、流動性が失われるため、使用できなかったり、使用中の粘度変化により、得られる塗膜等の品質が変化したり、また、生産に用いるタンクや配管中でゲル化し、トラブルになるという問題があった。
【0007】
このようなポットライフの問題点を解決する方法として、例えば、特許文献3には、水溶性アミン化合物またはアンモニアを添加する方法が開示されている。また、特許文献4には、アミノカルボン酸を添加することを特徴するポットライフの改良方法が開示されており、溶液中での反応速度を低下する方法については、これまで検討が行われてきた。
【0008】
しかしながら、例えば、ジアセトンアクリルアミド変性PVAと多官能ヒドラジド化合物との反応を利用して水性ゲルを作製する場合、特許文献2には、当該PVA系樹脂の水溶液に多官能ヒドラジド化合物を添加した混合水溶液を、型に流し込み、型の中でゲル化させる方法が開示されているが、架橋反応速度が遅い場合、型から取り出せる硬さになるまで時間がかかり、生産性が低くなるという問題がある。また、特許文献2では、当該PVA系樹脂の水溶液に、少なくとも1種類の多価金属イオンとの接触によりゲル化能を有する水溶性高分子多糖類であるアルギン酸ナトリウム等を添加した溶液を、多価金属イオンと多官能ヒドラジド化合物を含む水溶液中に滴下し、滴下した液の表面張力によって球状のゲルが得られることが例示されているが、この方法では球状のゲルしか得られず、また、水溶性高分子多糖類を含有するため、用途によっては、当該PVA系樹脂とヒドラジド化合物との架橋ゲルから水溶性高分子多糖類を洗浄して除去する必要があるという問題もあるなど、水溶性高分子多糖類を含まず、短時間で球状以外の形のゲルが得られる架橋システムが望まれている。
【0009】
また、特許文献5には、ジアセトンアクリルアミド変性PVAとヒドラジド化合物等の架橋剤を反応させるシステムを用いたインクジェット記録材料の製造方法が開示されている。インクジェット記録材料は、基材上にシリカ等の多孔性無機材料が親水性樹脂バインダーで結着されたインク受容層を有する記録材料で、従来、バインダーとしては、比較的高重合度のPVAと架橋剤としてホウ酸を用いる架橋システムが用いられていた(特許文献6)。PVA系樹脂とホウ酸との反応速度は高く、あらかじめ混合した溶液を塗工しようとすると、混合液が増粘してしまうため、PVA水溶液とホウ酸水溶液を別々に用意し、基材に塗工する直前でスタティックミキサー等を用いて両者を混合し、塗工機内における混合してから塗工するまでの流路および塗工後乾燥するまでの間に架橋反応させる方法が用いられている。
【0010】
しかしながら、特許文献5の方法では、最近、ホウ酸等のホウ素化合物の生殖毒性が指摘され、欧州化学物質規制(REACH)の高懸念物質の候補として挙げられる等、その毒性及び環境への悪影響のために使用が難しくなってきている。
【0011】
これらの問題を解決するため、ジアセトンアクリルアミド変性PVA系樹脂/ヒドラジド化合物からなる架橋システムは有用である。この系は、PVA/ホウ酸化合物の系に比べて、反応速度が遅く、塗工してから乾燥するまでの時間で架橋反応が終了しないため、インクジェット記録材料の表面にひび割れ等が発生するという問題があり、特に、近年、インクジェット記録材料の生産速度が高くなっており、塗工から乾燥までの時間が短くなっていることから、更に一層の反応速度の向上が求められている。
【0012】
このように、ジアセトンアクリルアミド変性PVAとヒドラジド化合物等の架橋剤との反応速度を抑制する方法は、これまで検討されていたが、反応速度を向上させる方法は検討されておらず、水性ゲル基材やインクジェット記録材料のバインダーとしてこの反応系を用いる場合、反応速度を向上させる方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開平08-151412号公報
【文献】特開平10-287711号公報
【文献】特開平10-087936号公報
【文献】特開平11-12424号公報
【文献】特開2013-39730号公報
【文献】特開平07-76161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、ジアセトンアクリルアミド変性PVA系樹脂とヒドラジド化合物等の架橋剤との反応速度を向上させる方法を提供することにある。
より具体的には、短時間で架橋反応が終了するため、水性ゲルの製造の際、型の中で反応させる時間を短くすることができ、また、インクジェット記録材料のバインダーとして使用する際、塗工してから乾燥が終わるまでの時間が短い場合でも、表面のひび割れ等が起こらないPVA系樹脂の架橋システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、ジアセトンアクリルアミド変性PVAとヒドラジド系架橋剤とを反応させる際に、水溶性金属類を共存させることにより、架橋反応速度を著しく向上できることを見出し、本発明を完成した。
【0016】
すなわち、本発明の方法は、(A)ジアセトンアクリルアミド単位を含有するポリビニルアルコール系樹脂と、(B)ヒドラジノ基を有する架橋剤とを反応(通常、水中で反応)させる架橋反応において、(C)アルカリ金属及びアルカリ土類金属を含まない(アルカリ金属及びアルカリ土類金属以外の)水溶性金属を共存させる、架橋反応速度の促進方法(向上方法、改善方法)である。
【0017】
また、本発明は、(A)ジアセトンアクリルアミド単位を含有するポリビニルアルコール系樹脂と、(B)ヒドラジノ基を有する架橋剤とを、(C)水溶性金属の存在下、反応(通常、水中で反応)させる(接触させて反応させる)、水性ゲル(水性ゲル組成物)の製造方法である。
【0018】
換言すれば、これらの本発明の方法では、水(又は水性溶媒)中で、(A)ジアセトンアクリルアミド単位を含有するポリビニルアルコール系樹脂と、(B)ヒドラジノ基を有する架橋剤とを反応させる(反応させて(A)と(B)との架橋物(水性ゲル)を得る)際、系(反応系)中に、(C)水溶性金属を存在させる。
【0019】
本発明の方法において、(C)水溶性金属は、アルミニウム化合物、チタン化合物及びジルコニウム化合物から選ばれる1種以上であってもよく、特に、乳酸チタン、酢酸ジルコニウム及び塩化ジルコニウムから選ばれる1種以上であってもよい。
【0020】
本発明の方法において、(C)水溶性金属の割合は、例えば、(A)ポリビニルアルコール系樹脂100質量部に対して、金属原子換算で、0.05~20質量部であってもよい。
【0021】
本発明の方法において、(C)水溶性金属の割合が、(B)ヒドラジノ基を有する架橋剤100質量部に対して、金属原子換算で、1~100質量部であってもよい。
【0022】
本発明の方法において、反応系中のpHは、6未満(特に、3~4.5)であってもよく、代表的には、(D)pH調整剤を共存させて、反応系中のpHを6未満に調整してもよい。
【0023】
本発明では、上記の通り、(C)水溶性金属により、(A)ジアセトンアクリルアミド単位を含有するポリビニルアルコール系樹脂と、(B)ヒドラジノ基を有する架橋剤との反応性を向上(促進)できる。
【0024】
そのため、本発明には、(A)ジアセトンアクリルアミド単位を含有するポリビニルアルコール系樹脂と、(B)ヒドラジノ基を有する架橋剤との水中での反応性(架橋反応性)を促進(向上、改善)するための、反応性促進剤(反応性向上剤、反応性改善剤)であって、(C)水溶性金属で構成された反応性促進剤も含まれる。
【0025】
本発明には、上記方法に対応する組成物、すなわち、(A)ジアセトンアクリルアミド単位を含有するポリビニルアルコール系樹脂、(B)ヒドラジノ基を有する架橋剤、及び(C)水溶性金属を含有する組成物も含まれる。このような組成物は、特に、(E)水を含んでいてもよい。なお、このような組成物において、各成分の種類や割合等は、本発明の方法と同様である。
【0026】
また、このような組成物においては、(A)と(B)との反応(架橋)が進行していてもよい。本発明の組成物は、代表的には、(E)水を含む水性ゲル(水性ゲル組成物)であってもよい。
【0027】
なお、本発明の組成物は、必要に応じて他の成分を含んでいてもよいが、通常、樹脂成分(ゲルの樹脂成分)には、他の樹脂成分(例えば、アルギン酸ナトリウムなどの水溶性高分子多糖類)を実質的に含まない場合が多い。
医療用など生体に用いられる水性ゲルでは、本発明の組成物以外の成分の生体適合性が問題になることがあるが、このような他の樹脂成分を含まないことで、このような生体適合性等の点で有利である。
なお、ゲルの樹脂成分が、他の樹脂成分を含む場合でも、(A)ポリビニルアルコール系樹脂が主成分、例えば、樹脂成分全体に対する(A)ポリビニルアルコール系樹脂が、70質量%以上、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に95質量%以上であってもよい。
【0028】
本発明の組成物は、特に、インクジェット用バインダーに用いるための組成物(インクジェット用バインダー)であってもよい。このような組成物は、インク受容層を形成するための組成物(塗布液又はコーティング液)であってもよく、塗布液(インク受容層形成用コート液など)であってもよい。
【0029】
また、本発明には、前記組成物(水性ゲル)を含むインク受容層(又は前記組成物で形成された)、及び前記組成物(水性ゲル)を含むインク受容層を備えたインクジェット記録材料も含まれる。
【0030】
このような記録材料は、支持体(紙、プラスチックなどの基材)と、この支持体上に設けられたインク受容層とで構成されていてもよい。
【0031】
インク受容層は、バインダーとして前記組成物を含んでいればよく、その他の成分{例えば、多孔性材料[無機酸化物(シリカ、アルミナなど)など]、インク吸収剤またはインク定着剤など}を含んでいてもよい。
【0032】
なお、本発明の方法及び組成物(さらには、インク受容層、記録材料)において、(C)水溶性金属は、前記のように、アルカリ金属及びアルカリ土類金属以外の水溶性金属であってもよい。このような場合、(C)水溶性金属として、アルカリ金属及びアルカリ土類金属以外の水溶性金属を少なくとも使用すればよく、アルカリ金属及びアルカリ土類金属以外の水溶性金属(C1)と、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選択された少なくとも1種の水溶性金属(C2)とを組み合わせて使用してもよい。水溶性金属(C1)及び水溶性金属(C2)を使用する場合、水溶性金属(C2)の割合は、金属原子換算で、水溶性金属(C1)1質量部に対して、例えば、1質量部以下(例えば、0.0001~0.8質量部)、好ましくは0.5質量部以下(例えば、0.01~0.3質量部)、さらに好ましくは0.1質量部以下であってもよい。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、毒性の高い架橋剤(ホウ酸など)を用いなくても、水性ゲル(特に、透明性や強度に優れた水性ゲル)を短時間で得ることができる。しかも、本発明では、着色等が生じにくい、水性ゲルを得ることができる。
また、本発明の組成物は、インクジェット記録材料のバインダーとして適用した場合にも、耐水性や表面強度の高いインクジェット記録材料を得ることができる。さらに、本発明によれば、乾燥速度を上げても、表面のひび割れが起こらない架橋反応システムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の方法(促進方法及び製造方法)では、(A)ジアセトンアクリルアミド単位を含有するポリビニルアルコール系樹脂(PVA系樹脂)と(B)ヒドラジノ基を有する架橋剤との反応(架橋反応)を、(C)水溶性金属の存在下(共存下)で行う。
【0035】
なお、この方法では、通常、(B)架橋剤により架橋した(A)PVA系樹脂が得られるが、水中での反応により、ゲル(水性ゲル)が形成される。
【0036】
また、本発明には、(A)ジアセトンアクリルアミド単位を含有するポリビニルアルコール系樹脂(PVA系樹脂)と、(B)ヒドラジノ基を有する架橋剤と、(C)水溶性金属とを少なくとも含む組成物も含まれる。このような組成物は、水を含んでいてもよく、架橋が進行していてもよい(すなわち、(B)架橋剤により架橋した(A)PVA系樹脂又は水性ゲルが形成されていてもよい)。
【0037】
以下、本発明を詳述する。
【0038】
[(A)PVA系樹脂]
本発明で使用される(A)ジアセトンアクリルアミド単位を含有するPVA系樹脂(ジアセトンアクリルアミド変性PVA系樹脂などということがある)は、例えば、ジアセトンアクリルアミドとビニルエステルとの共重合体をケン化することで得られる。
【0039】
ビニルエステルとしては、例えば、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等の脂肪酸ビニルエステルが挙げられ、中でも酢酸ビニルが工業的に最も好ましい。ビニルエステルは単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0040】
ジアセトンアクリルアミド変性PVA系樹脂の重合方法としては特に制限はなく、バルク重合、溶液重合、エマルジョン重合、懸濁重合等の公知の重合方法を用いることができるが、中でもメタノールを溶媒として用いる溶液重合が工業的に好ましい。
【0041】
また、得られた共重合体のケン化方法については、公知のアルカリケン化、酸ケン化を適用することができ、中でもメタノール中で水酸化アルカリを使用して、加アルコール分解する方法が好ましい。
【0042】
本発明で使用される(A)ジアセトンアクリルアミド変性PVA系樹脂の重合度については、特に制限はないが、JIS K6726の方法で測定される平均重合度が、500以上が好ましく、より好ましくは1000以上、更に好ましくは1500以上である。ゲル化するまでの時間を短くするためには、反応前の水溶液粘度が高い方が有利であることから、重合度は高い方が好ましい。
なお、平均重合度の上限値は特に限定されないが、例えば、8000以下、好ましくは5000以下であってもよい。
【0043】
また、(A)ジアセトンアクリルアミド変性PVA系樹脂の4質量%水溶液粘度(20℃)は、例えば、5mPa・s以上(例えば、5~500mPa・s)、好ましくは10mPa・s以上(例えば、10~300mPa・s)、さらに好ましくは15mPa・s以上(例えば、15~200mPa・s)程度であってもよい。なお、4質量%水溶液粘度は、JIS K6726で規定する方法で測定した値である。
【0044】
本発明で使用される(A)ジアセトンアクリルアミド変性PVA系樹脂のケン化度についても、特に制限はないが、JIS K6726の方法で測定される平均ケン化度としては、例えば、70モル%以上が好ましく、より好ましくは80モル%以上、更に好ましくは90モル%以上である。水性ゲルの原料やインクジェット記録材料のバインダーとして使用する際には、水溶性であることが好ましく、上記のような範囲であれば効率良く水溶性を担保しやすい。
なお、平均ケン化度の上限値は、例えば、100モル%、99.5モル%、99モル%などであってもよい。
【0045】
本発明で使用される(A)ジアセトンアクリルアミド変性PVA系樹脂の変性度(全モノマーに対するジアセトンアクリルアミドの割合)は、例えば、0.1~15モル%であり、より好ましくは0.5~12モル%であり、更に好ましくは1~8モル%である。変性度は、DMSO-dを溶媒として用いるH-NMRのチャートから算出することができる。このような変性度であれば、架橋反応を効率良く生じさせることができ、水性ゲルやインクジェット記録材料の水性バインダーに適用しうる十分な水溶性も効率良く担保しやすい。PVA系樹脂の変性度が0.1モル%より低い場合は、架橋剤との反応が十分に起こらず、水性ゲルにならなかったり、インクジェット記録材料のバインダーとして使用する際、耐水化やひび割れ防止の効果が発揮されない。また、変性度が15モル%より高い場合は、PVA系樹脂の水への溶解性が低下し、水系での使用に問題が生じる場合がある。
【0046】
[(B)架橋剤]
本発明で使用される(B)ヒドラジノ基を有する架橋剤(ヒドラジン系架橋剤)は、通常、分子内にヒドラジノ基を2個以上有する化合物(多官能性化合物)であってもよい。
【0047】
具体的な架橋剤(多官能ヒドラジン系化合物)としては、例えば、カルボヒドラジド、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、スベリン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカンジオヒドラジド、ヘキサデカンジオヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、2,6-ナフトエ酸ジヒドラジド、4,4’-ビスベンゼンジヒドラジド、1,4-シクロヘキサンジヒドラジド、酒石酸ジヒドラジド、リンゴ酸ジヒドラジド、イミノジ酢酸ジヒドラジド、N,N’-ヘキサメチレンビスセミカルバジド、イタコン酸ジヒドラジド、エチレンジアミン四酢酸テトラヒドラジド、クエン酸トリヒドラジド、ブタントリカルボヒドラジド、1,2,3-ベンゼントリヒドラジド、1,4,5,8-ナフトエ酸テトラヒドラジド、ニトリロ酢酸トリヒドラジド、シクロヘキサントリカルボン酸トリヒドラジド、ピロメリット酸テトラヒドラジド、およびポリアクリル酸ヒドラジド(すなわち、N-アミノポリアクリルアミド)などが挙げられ、中でも安全性やジアセトンアクリルアミド変性PVA系樹脂のカルボニル基との反応性等の点で、脂肪酸ジヒドラジド(例えば、アジピン酸ジヒドラジドなどのアルカンジカルボン酸ジヒドラジド)、ポリアクリル酸ヒドラジドが好ましい。
【0048】
ヒドラジン系架橋剤は単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0049】
(B)ヒドラジノ基を有する架橋剤の使用量(割合)は、特に制限はないが、(A)ジアセトンアクリルアミド変性PVA系樹脂100質量部に対して、例えば、0.1~100質量部が好ましく、より好ましくは0.2~50質量部であり、更に好ましくは0.5~20質量部である。このような使用量であれば、十分な架橋反応速度を担保しやすく、水性ゲル、インクジェット記録材料のバインダーとして使用する際に、十分な強度を付与しやすい。また、架橋反応に寄与しない架橋剤の残留を生じさせにくい。
【0050】
[(C)水溶性金属]
本発明で使用される(C)水溶性金属(水溶性金属成分、水溶性金属類)としては、金属を含む水溶性成分であればよく、代表的には、遷移金属化合物[例えば、周期表第4族金属化合物(例えば、チタン化合物、ジルコニウム化合物など)など]、典型金属化合物[例えば、周期表第13族化合物(アルミニウム化合物など)など]などの金属化合物が挙げられる。
なお、(C)水溶性金属は、アルカリ金属(ナトリウムなど)及びアルカリ土類金属(マグネシウム、カルシウムなど)以外の金属を少なくとも含む水溶性金属であってもよく、アルカリ金属(ナトリウムなど)及び/又はアルカリ土類金属(マグネシウム、カルシウムなど)を含まない水溶性金属であってもよい。
【0051】
なかでもアルミニウム化合物、チタン化合物、ジルコニウム化合物(特に、チタン化合物、ジルコニウム化合物)は架橋反応速度の促進効果が高く好適である。
水溶性のチタン化合物としては、例えば、無機塩[例えば、ハロゲン化チタン(四塩化チタンなど)など]、カルボン酸との塩又は錯体[例えば、乳酸との塩又は錯体(チタンラクテートアンモニウム塩、チタンラクテート(乳酸チタン)など)などのジカルボン酸との塩又は錯体]、アセチルアセトナート錯体(チタンアセチルアセトナートなど)、アミンとの塩又は錯体[例えば、チタンジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)ジ-n-ブトキシ・ビス(トリエタノールアミナト)チタン、イソプロピルトリス(N-アミノエチル-アミノエチル)チタネートなど]、その他にチタンアルコキシドなどをアミンで安定化したものなどが挙げられる。
【0052】
水溶性のジルコニウム化合物としては、例えば、有機酸との塩又は錯体[例えば、モノカルボン酸との塩又は錯体(例えば、酢酸ジルコニル(酢酸ジルコニウム)、ステアリン酸ジルコニル、オクチル酸ジルコニルなど)、ジカルボン酸との塩又は錯体(例えば、ジルコニウムラクテートアンモニウムなど)など]、無機酸との塩又は錯体(例えば、硫酸ジルコニル、炭酸ジルコニウムアンモニウム、硝酸ジルコニル)、ハロゲン化物(例えば、塩化ジルコニル(塩化ジルコニウム)、オキシ塩化ジルコニウム、ヒドロキシ塩化ジルコニウムなど)、アセチルアセトナート錯体(例えば、ジルコニウムアセチルアセトネートなど)などが挙げられる。
【0053】
水溶性のアルミニウム化合物としては、例えば、無機酸との塩又は錯体(例えば、硫酸アルミニウム、炭酸アルミニウムなど)、有機酸との塩又は錯体[例えば、モノカルボン酸との塩又は錯体(例えば、酢酸アルミニウムなど)、ジカルボン酸との塩又は錯体(例えば、乳酸アルミニウムなど)など]、ハロゲン化物(例えば、塩化アルミニウム、臭化アルミニウムなど)、水酸化物(例えば、水酸化アルミニウムなど)などが挙げられる。
【0054】
水溶性金属は、単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0055】
(C)水溶性金属の使用量(割合)は、(A)ジアセトンアクリルアミド変性PVA系樹脂100質量部に対して、例えば、金属原子換算で、0.05質量部以上(例えば、0.05~20質量部)、好ましくは0.1質量部以上(例えば、0.1~15質量部)、さらに好ましくは0.5質量部以上(例えば、0.5~10質量部)程度であってもよい。
【0056】
また、(C)水溶性金属の使用量(割合)は、(B)ヒドラジノ基を有する架橋剤100質量部に対して、例えば、金属原子換算で、0.5質量部以上(例えば、0.5~500質量部)、好ましくは1質量部以上(例えば、1~100質量部)、さらに好ましくは5質量部以上(例えば、5~50質量部)程度であってもよい。
【0057】
本発明において、系中(反応系中)又は組成物のpHは、特に限定されないが、例えば、6未満(例えば、2~5.5)、好ましくは2.5~5(例えば、3~4.5)であってもよい。
【0058】
(A)ジアセトンアクリルアミド単位を含有するPVA系樹脂と(B)ヒドラジノ基を有する架橋剤との反応速度は、系のpHに依存し、酸性側で反応速度が高くなるため、このようなpHに調整することが好ましく、安全性、汎用性および反応速度の観点から上記のようなpHに調整することが好ましい。
【0059】
pHは、(D)pH調整剤により調整してもよい。PVA系樹脂、ヒドラジノ基を有する架橋剤の水溶液は、それぞれpH5~7の中性である場合が多く、混合液のpHを低くできる酸性物質が添加されるが、水溶性金属には酸性物質が多いことから、アルカリ性のpH調整剤を添加して、pHが低くなり過ぎないように調整することもできる。
【0060】
ここで使用される(D)pH調整剤としては、酸性のpH調整剤、アルカリ性のpH調整剤が挙げられる。酸性のpH調整剤としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸等の無機酸、酢酸、クエン酸、スルホン酸等の有機酸を使用することができる。アルカリ性のpH調整剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基、アンモニア、エタノールアミン等の有機塩基を使用することができる。
【0061】
pH調整剤は、単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0062】
反応(架橋反応)は、通常、水(又は水性溶媒)中で行われる。そのため、本発明の方法に対する本発明の組成物もまた、水(又は水性溶媒)を含む組成物であってもよい。
【0063】
反応(又は組成物)において、系(混合液又は組成物)における(A)PVA系樹脂の濃度は、特に制限されず、目的とする水性ゲルの硬度や生産速度に応じて選択することができ、ゲル硬度を高くしたい場合、生産速度を速くしたい場合は、水溶液濃度を高くする方が好適であり、一方、柔らかい水性ゲルを得たい場合は、水溶液濃度を低くする方が好適である。通常、(A)PVA系樹脂の水溶液濃度は、1~30質量%が好ましく、2~20質量%がより好ましい。
【0064】
本発明の方法における具体的例としては、(A)ジアセトンアクリルアミド単位を含有するPVA系樹脂を公知の方法で水に溶かした水溶液を用意し、(C)水溶性金属を添加した後、必要に応じて(D)pH調整剤を加えて、混合水溶液のpHを調整した後、(B)ヒドラジノ基を有する架橋剤を添加・混合することにより、達成することができるが、これらの方法に限定されるわけではない。
【0065】
(A)ジアセトンアクリルアミド単位を含有するPVA系樹脂は、(B)ヒドラジノ基を有する架橋剤を添加しなければ架橋反応は起こらないため、(C)水溶性金属の添加(混合)、必要に応じて添加される(D)pH調整剤との混合は特に時間の制約を受けずに行うことができ、(B)ヒドラジノ基を有する架橋剤を添加・混合した後は、通常、急速に架橋反応が進むことから、速やかに目的の用途に使用することが好ましい。
【0066】
本発明を水性ゲル(水性ゲルの製造方法)に適用する場合の具体例としては、(A)ジアセトンアクリルアミド単位を含有するPVA系樹脂の水溶液に、(C)水溶性金属を添加した後、必要に応じてpH調整を行った後、(B)ヒドラジノ基を有する架橋剤を添加・混合した後、混合水溶液を、速やかに金型、樹脂型、袋および容器等に流し込む方法、あらかじめPVA系樹脂の水溶液を型や容器に充てんした後、架橋剤および水溶性金属を型や容器に添加・混合する方法、あらかじめ架橋剤または架橋剤と水溶性金属を型や容器に添加しておき、PVA系樹脂の水溶液と水溶性金属の混合水溶液またはPVA系樹脂の水溶液を型や容器に充てんしながら、混合し、静置することにより型や容器内で架橋反応を行う方法などにより、水性ゲルを得ることができる。
【0067】
(C)水溶性金属を添加しない場合、架橋反応速度が遅くなり、水性ゲルが得られるまでの時間が長くなる。ゲル化していない状態では、型や容器から取り出すことができず、また、十分にゲル硬度がない状態すなわち架橋反応が完全に終わっていない状態で型や容器から取り出そうとすると、ゲルが崩れたり、ゲルの一部が型や容器の中に残ったりすると問題があり、型や容器の占有時間が長くなるため、生産性が著しく悪くなってしまう。
【0068】
次に、本発明の方法又は組成物を、インクジェット用バインダーとして適用する場合について説明する。
【0069】
インクジェット記録方式は、インクの小滴をノズルより噴霧し、記録用媒体の表面に定着させて、文字、画像等の記録を行う方法で、カラー印刷が容易、ランニングコストが安い、印刷時の騒音が少ない等多くの利点から、家庭やオフィスなどのプリンターに広く用いられている。さらに最近では、デジタルカメラの普及も相まって、銀塩写真に代わる記録用方式として定着しつつあり、求められる品質もより高度でかつ多様なものになってきている。
【0070】
インクジェット記録材料の構成としては、紙、プラスチックシート又はプラスチックディスク等の支持体上にインク受容層を設けている。インク受容層は、シリカ、アルミナ等の多孔性無機材料がPVA系樹脂等の親水性樹脂バインダーで結着されており、多孔性無機材料がインクを速やかに吸収し、にじみを抑え、真円状の適正なドットを形成することによって、精細な画像を表現できる。
【0071】
本発明をインクジェット記録材料に適用する際の具体的な方法としては、少なくとも2種類以上の塗工液および多孔性無機材料を混合しながら塗工できる塗工機を使用し、(A)ジアセトンアクリルアミド単位を含有するPVA系樹脂、(B)ヒドラジノ基を有する架橋剤、(C)水溶性金属、必要に応じて(D)pH調整剤を含む混合水溶液がゲル化する前に多孔性無機材料と混合し、支持体に塗工し、乾燥する方法などが挙げられる。
【0072】
本発明の方法では、(A)PVA系樹脂と(B)架橋剤が混合されると、架橋反応が開始され、(C)水溶性金属および/または(D)pH調整剤の存在下で、架橋反応速度が促進されるため、(A)、(B)、(C)または(A)、(B)、(C)、(D)の成分が混合されてから、多孔性無機材料と混合するまでの時間、および全ての成分が混合されてから、塗工されるまでの時間が重要であり、多孔性無機材料と混合するまでの時間が長すぎると、混合水溶液の粘度が高くなりすぎたり、混合水溶液がゲル化するため、多孔性無機材料とうまく混合できないという問題があり、全ての成分が混合されてから塗工までの時間が長すぎると、混合水性液がゲル化してしまい、うまく塗工できないという問題がある。これらの成分の混合は、通常は塗工機の流路内で、スタティックミキサー等の混合機を用いることが一般的であり、流路の長さや流速を調整することで、それぞれの成分の添加のタイミング、混合してからの塗工時間を調整することができる。
【0073】
塗工する方法は、特に限定されず、公知の塗工方法を用いることができる。例えば、エアーナイフコーター、カーテンコーター、スライドリップコーター、ダイコーター、ブレードコーター、ゲートロールコーター、バーコーター、ロッドコーター、ロールコーター、ビルブレードコーター、ショートドエルブレードコーター、サイズプレスなどの各種装置により塗工することができる。
【0074】
本発明をインクジェットバインダーに適用することにより、多孔性無機材料と混合する際のバインダー溶液の粘度が高いため、バインダーが多孔性無機材料の空隙に浸透することが抑えられ、多孔性無機材料粒子間の結着に有効に利用され、さらに架橋が行われるため、バインダー強度が上がり、インク吸収層のひび割れが起こりにくく、また、塗工、乾燥の速度が速くなっても、架橋速度が速いため、インクジェット記録材料の生産速度を上げることができる。
【実施例
【0075】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。なお、例中の「部」および「%」は、特に指定しない限り、重量(質量)基準である。
【0076】
下記の方法によりPVA系樹脂を合成した。鹸化度、4%水溶液粘度はJIS K-6726に準じて測定を行った。また、ジアセトンアクリルアミド含有量(変性度)については、得られた樹脂をメタノールで十分洗浄したサンプルをDMSO-dを溶媒として用いるH-NMR測定を行い、そのチャートから算出した。
【0077】
[合成例1]
撹拌機、温度計、滴下ロート及び還流冷却器を取り付けたフラスコ中に、酢酸ビニル674部、ジアセトンアクリルアミド5部、及びメタノール178部を仕込み、系内の窒素置換を行った後、内温を60℃まで昇温した。この系に2,2-アゾビスイソブチリロニトリル1部をメタノール50部に溶解した溶液を添加し、重合を開始した。重合開始後、5.5時間かけて、ジアセトンアクリルアミド50部をメタノール43部に溶解した溶液を一定速度で滴下し、6時間後に重合禁止剤としてm-ジニトロベンゼンを添加し、重合を停止した。重合収率は78%であった。
得られた反応混合物にメタノール蒸気を加えながら残存する酢酸ビニルを留出し、ジアセトンアクリルアミド共重合成分を含有する酢酸ビニル系重合体の50%メタノール溶液を得た。この混合物500重量部にメタノール50重量部と水酸化ナトリウムの4%メタノール溶液10部とを加えてよく混合し、40℃で鹸化反応を行った。得られたゲル状物を粉砕し、メタノールでよく洗浄した後に乾燥して、酢酸ビニル-ジアセトンアクリルアミド共重合体の鹸化物を得た。この樹脂中のジアセトンアクリルアミド単位の含有率(変性度)は5.0モル%であることが判明した。この樹脂の20℃における4%水溶液粘度は26.8mPa・s、鹸化度は98.4モル%であった。
【0078】
[合成例2、比較合成例1]
表1に示すように仕込み組成を変え、また、鹸化反応時の水酸化ナトリウム量を変えた以外は、合成例1と同様にして合成例2および比較合成例1のPVA系樹脂を作製した。
【0079】
【表1】
【0080】
(実施例1)
合成例1のジアセトンアクリルアミド単位を5.0mol%含有するPVA系樹脂(A)の10%水溶液50部をビーカーに入れ、水溶性金属(C)として、乳酸チタン・2-プロパノール/水溶液(マツモトファインケミカル(株)製 オルガチックスTC-310)を水でさらに10%に希釈した溶液1部(PVA系樹脂100部に対して乳酸チタン2部)を添加・混合し、pHを測定したところpH3.4であった。ビーカーに撹拌子を入れ、マグネチックスターラーで混合液を攪拌しながら、架橋剤(B)として10%アジピン酸ジヒドラジド水溶液2.5部(PVA系樹脂100部に対してアジピン酸ジヒドラヒド5部)を加えてから、PVA系樹脂と架橋剤との架橋反応が進み、混合液が増粘し、ゲル化して攪拌子が回らなくなるまでの時間をストップウォッチで測定したところ、3分40秒であった。
【0081】
(実施例2)
乳酸チタン・2-プロパノール/水溶液に代えて、ジヒドロキシビスアンモニウム乳酸チタンの2-プロパノール/水溶液(マツモトファインケミカル(株)製 オルガチックスTC-335)を水でさらに10%に希釈した溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、架橋剤を添加してからゲル化して攪拌子が回らなくなるまでの時間を測定したところ、6分10秒であった。
【0082】
(実施例3~12、比較例1~5)
表2に示すように、PVA系樹脂(A)の種類、水溶性金属(C)の種類、添加量、pH調整剤(D)の種類、調整したpHおよび架橋剤(B)の種類、添加量を代えた以外は、実施例1と同様にして、架橋剤を添加してからゲル化して攪拌子が回らなくなるまでの時間を測定した。
【0083】
条件および結果を表2に示す。
【0084】
【表2】
【0085】
なお、「wt%/PVA」とは、PVA系樹脂100部あたりの部を示す。また、(C)水溶性金属の添加量は、金属換算の添加量である。
【0086】
<表2の略号>
(C)水溶性金属
TC-310:マツモトファインケミカル(株)製 オルガチックスTC-310 乳酸チタン・2-プロパノール/水溶液
TC-335:マツモトファインケミカル(株)製 オルガチックスTC-335 ジヒドロキシビスアンモニウム乳酸チタンの2-プロパノール/水溶液
ZC-126:マツモトファインケミカル(株)製 オルガチックスZC-126 塩化ジルコニル水溶液
ZA-20:第一機元素(株)製 ジルコゾールZA-20 酢酸ジルコニウム水溶液
Al(SO:硫酸アルミニウム[試薬]
AlCl:塩化アルミニウム[試薬]
(B)架橋剤
ADH:アジピン酸ジヒドラジド
PAH:大塚化学(株)製 N-アミノポリアクリルアミド
【0087】
(実施例13)
合成例1で得られたPVA系樹脂(A)10部に純水90部を加え、撹拌しながら昇温し、90℃で2時間溶解を行った後、20℃まで冷却し10%水溶液を得た。この水溶液100部に、水溶性金属(C)として、マツモトファインケミカル(株)製 オルガチックスTC-310(乳酸チタン・2-プロパノール/水溶液:10%)を0.5部添加し、架橋剤(B)としてアジピン酸ジヒドラジドの10%水溶液5部を添加し、すばやく混合した後、非晶質シリカ[(株)トクヤマ製 ファインシールX-45、平均粒子径:4.5μm]70部、インク定着剤としてポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド[日東紡(株)製 PAS-H-5L 28%水溶液]5部および純水を加え、ホモジナイザーで1分間攪拌し、固形分20%のインク受容層塗布液を作製した。
【0088】
かかる塗布液を、坪量64g/mの上質紙にエアナイフコーターを用いて、固形分塗布量が15g/mになるように塗工し、120℃で5分間乾燥し、インクジェット記録材料を作製した。なお、架橋剤を添加してから、5分以内に塗工を完了させた。
【0089】
(実施例14)
合成例1で得られたPVA系樹脂に代えて、合成例2で得られたPVA系樹脂を使用した以外は、実施例13と同様にしてインクジェット記録材料を作製した。
【0090】
(比較例6)
水溶性金属としてオルガチックスTC-310(乳酸チタン)を添加しない以外は、実施例13と同様にしてインクジェット記録材料を作製した。
【0091】
(比較例7)
合成例1で得られたPVA系樹脂に代えて、比較合成例1で得られたジアセトンアクリルアミド単位を含まないPVAを使用した以外は、実施例13と同様にしてインクジェット記録材料を作製した。
【0092】
実施例13、14および比較例6、7で作製したインクジェット記録材料について、インク受容層表面を倍率100倍の顕微鏡で観察し、表面の亀裂状態を以下の基準で評価した。また、インク受容層表面の強度、インク吸収性についても以下の評価方法、基準で評価を行った。結果を表3に示す。
【0093】
<表面の亀裂観察>
作製したインクジェット記録材料のインク受容層表面を倍率100倍の顕微鏡で観察し、インク受容層表面のひび割れの程度を以下の基準で評価した。
○:表面亀裂が観察されず問題なし。
△:表面の亀裂が複数観察され、実使用が困難なレベル。
×:非常に多数の亀裂が観察され、実使用が不可能なレベル。
【0094】
<表面強度>
作製したインクジェット記録材料のインク受容層表面に、住友スリーエム(株)製のメンディングテープ(幅18mm)を貼り付け、剥離した際のメンディングテープに転写された塗工層の状態を目視観察し、以下の基準によって表面強度の評価とした。
○:ほとんど塗工層が転写せず、実用上問題のないレベル。
△:塗工層の一部が転写され、若干、問題のあるレベル
×:塗工層のかなりの部分が転写され、実用上問題のあるレベル
【0095】
<インク吸収性>
作製したインクジェット記録材料を、セイコーエプソン(株)製プリンター「PX-V630」にセットし、黒インクでベタ印刷を行い、印刷後一定時間ごとに記録シート上の印字部分を指でこすり、印字部分が変化しなくなるまでの時間を測定した。時間が短いほどインク吸収速度が大である。
【0096】
【表3】
【0097】
表2の結果から明らかなように、ジアセトンアクリルアミド単位を含有するPVA系樹脂(A)とヒドラジノ基を有する架橋剤(B)との反応において、水溶性金属(C)が共存することにより、架橋反応速度が高くなり、ゲル化時間が短くなっていることから、水性ゲルを生産する場合の生産速度が上がることがわかる。
【0098】
また、表3の結果から明らかなように、バインダーとして、ジアセトンアクリルアミド単位を含有するPVA系樹脂(A)とヒドラジノ基を有する架橋剤(B)を用いるインクジェット記録材料では、架橋反応速度が促進され、水溶液粘度が短時間で高くなることにより、バインダーが多孔性無機粒子に吸収されにくく、高いバインダー強度を発現し、亀裂が起こりにくく、表面強度が高くなるとともに、インク吸収性も向上することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明の架橋速度の促進方法を水性ゲルの作製に利用することにより、短時間で水性ゲルが得られ、生産速度を向上させることができる。また、本発明の架橋速度の促進方法をインクジェット記録材料の作製に利用することにより、インク受容層の亀裂が起こりにくく、表面強度が高くなるとともに、インク吸収性に優れたインクジェット記録材料を得ることができる。その他、耐水性や強度向上のため、ジアセトンアクリルアミド単位を含有するPVA系樹脂と架橋剤による架橋反応を利用する紙、フィルムの塗工用材料において、水溶性金属を共存させることにより、架橋反応速度が向上するため、短時間で性能を発現させることができ、生産性を向上させることが可能である。