(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-12
(45)【発行日】2023-09-21
(54)【発明の名称】ロボット
(51)【国際特許分類】
B25J 17/00 20060101AFI20230913BHJP
【FI】
B25J17/00 E
(21)【出願番号】P 2019151531
(22)【出願日】2019-08-21
【審査請求日】2022-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】田村 光拡
(72)【発明者】
【氏名】山本 章
【審査官】杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-217468(JP,A)
【文献】特開2004-299000(JP,A)
【文献】特開2010-007785(JP,A)
【文献】特開2005-168099(JP,A)
【文献】特開2011-231802(JP,A)
【文献】特許第6034895(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 ~ 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータおよび減速機が組み込まれた関節を有するロボットであって、
前記モータの回転に関する情報を取得する取得手段と、
前記取得手段が取得した情報に基づいて、外力が作用したことを検知し、退避動作を行う制御手段と、を有し、
前記減速機は、平行軸歯車機構と、平行軸歯車機構の出力回転が入力される偏心揺動型歯車機構と、を有し、
前記偏心揺動型歯車機構は、偏心体軸が内歯歯車の軸心に配置されるセンタークランクタイプであり、かつ減速比が35以下であり、
前記平行軸歯車機構は、駆動歯車と、駆動歯車の中心軸線からオフセットした中心軸線を有する従動歯車と、を有
し、
前記従動歯車は、前記偏心体軸に固定され、前記偏心体軸と一体的に回転することを特徴とするロボット。
【請求項2】
前記平行軸歯車機構の減速比は5以下であることを特徴とする請求項
1に記載のロボット。
【請求項3】
モータおよび減速機が組み込まれた関節を有するロボットであって、
前記モータの回転に関する情報を取得する取得手段と、
前記取得手段が取得した情報に基づいて、外力が作用したことを検知し、退避動作を行う制御手段と、を有し、
前記減速機は、平行軸歯車機構と、平行軸歯車機構の出力回転が入力される偏心揺動型歯車機構と、を有し、
前記偏心揺動型歯車機構は、偏心体軸が内歯歯車の軸心に配置されるセンタークランクタイプであり、かつ減速比が35以下であり、
前記平行軸歯車機構は、駆動歯車と、駆動歯車の中心軸線からオフセットした中心軸線を有する従動歯車と、を有し、
前記偏心体軸は、当該偏心体軸の内周に配置される偏心体軸軸受に支持されることを特徴とす
るロボット。
【請求項4】
前記従動歯車と前記偏心体軸軸受は、径方向から見て重なることを特徴とする請求項
3に記載のロボット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
複数の関節を有するロボットが知られている。特許文献1には外力に応じて退避動作するロボットが記載されている。特許文献1に記載のロボットは、ロボットに作用する外力を検出し、その検出外力が第一閾値より大きい場合にロボットに退避動作をさせ、退避動作後の検出外力の変動が第二閾値より小さい場合に退避動作を停止させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のように、減速機の出力側に外力センサを設ける場合、外力センサは高価であり、コスト的に不利である。
【0005】
本発明の目的は、このような課題に鑑みてなされたもので、減速機の出力側の外力センサによらず外力に対応可能なロボットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のロボットは、モータおよび減速機が組み込まれた関節を有するロボットであって、モータの回転に関する情報を取得する取得手段と、取得手段が取得した情報に基づいて、外力が作用したことを検知し、退避動作を行う制御手段と、を有する。減速機は、平行軸歯車機構と、平行軸歯車機構の出力回転が入力される偏心揺動型歯車機構と、を有する。偏心揺動型歯車機構は、偏心体軸が内歯歯車の軸心に配置されるセンタークランクタイプであり、かつ減速比が35以下である。
【0007】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、減速機の出力側の外力センサによらず外力に対応可能なロボットを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態に係るロボットを概略的に示す側面図である。
【
図2】
図1のロボットの減速機を示す側断面図である。
【
図3】
図1のロボットを概略的に示すブロック図である。
【
図4】偏心揺動型歯車機構の減速比と効率の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らは、モータと減速機が組み込まれた関節を有するロボットについて研究し、以下の知見を得た。
ロボットの関節では、減速機の入力軸にモータの回転駆動力が入力されると、減速機の出力部材が所定の減速比で減速回転し、出力部材に連結されたアームが関節の軸心を中心として回転する。ダイレクトティーチングなどによりアームから関節に外力が加わった場合、関節の減速機は逆駆動される。逆駆動されると、減速機の出力側から入力側へ逆駆動トルクが伝達される。この逆駆動トルクは減速機の内部機構に過大な応力(負荷)を与え、その内部機構に損傷を与えることがある。研究の結果、減速機の伝達効率が高い場合に、減速機の内部機構にかかる応力(負荷)が小さく、逆駆動に対して損傷を与えにくいことが分かった。
【0011】
伝達効率を高くする観点から様々な構成の減速機を検討した結果、平行軸歯車機構とセンタークランク型偏心揺動型歯車機構(以下、「揺動型歯車機構」ということがある)とをこの順で配置し、かつ偏心揺動型歯車機構の減速比を適切に選択することにより、特に伝達効率を高くできることが判明した。
図4は、揺動型歯車機構の減速比Rg(入力回転速度を出力回転速度で除して得られる速度の比)と伝達効率Egとの関係をプロットしたグラフg1を示す。このデータから、減速比Rgが35以下である場合に伝達効率が高く、減速比Rgが35を超える場合に伝達効率が顕著に低下することが分かった。また、減速比Rgが17以下の場合に伝達効率が一層高くなることもわかった。なお、この減速機では、平行軸歯車機構の減速比が伝達効率に与える影響は小さかった。ここで、伝達効率とは、入力トルクに対する出力トルクの割合であり、(出力トルク)÷(入力トルク×減速比)×100%で得られる。
【0012】
さらに、当該ロボットにおいて、逆駆動による損傷を防ぐ観点から、外力に応じてモータに退避動作させる構成を検討した。例えば、減速機の出力側にトルクセンサを設け、その検知結果に応じてモータに退避動作させることが考えられる。しかし、この構成では、トルクセンサが外力によって破損する可能性があり、トルクセンサやその配線を設けるためのスペースが余計にかかり、コスト面でも不利である。このため、トルクセンサを用いずに、モータ電流などのモータの回転に関する情報に基づいて外力の状態を識別する構成を検討した。この結果、上述のトルクセンサを用いることなく、退避動作できることが分かった。
【0013】
以上のことから、平行軸歯車機構とセンタークランクタイプの偏心揺動型歯車機構の組合せで、かつ偏心揺動型歯車機構の減速比Rgが35以下の減速機を用いて、モータの回転に関する情報に基づいてモータを退避動作させることで、低コストで外力(逆駆動)に対応可能なロボットを提供できるといえる。以下、これらの知見に基づくロボットを実施の形態を例に説明する。
【0014】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに各図面を参照しながら説明する。実施の形態および変形例では、同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0015】
また、第1、第2などの序数を含む用語は多様な構成要素を説明するために用いられるが、この用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的でのみ用いられ、この用語によって構成要素が限定されるものではない。
【0016】
[実施の形態]
以下、図面を参照して、実施の形態に係るロボット100の構成について説明する。
図1は、本実施形態に係るロボット100を概略的に示す側面図である。ロボット100は、先端側から基端側の間に複数の関節を介して接続された複数のアームを有する多関節ロボットである。本実施形態のロボット100は、関節40と、アーム42とを有する。また、ロボット100は、外力に応じて退避動作を行うために、モータの回転に関する情報を取得する取得部52と、当該情報に基づいて、外力が作用したことを検知し、退避動作を行う制御部54とを有する。先に関節40とアーム42とを説明し、取得部52および制御部54については後述する。
【0017】
関節40は、先端側から順に第1関節40aと、第2関節40bと、第3関節40cと、第4関節40dと、第5関節40eと、第6関節40fとを含む。アーム42は、第1アーム42aと、第2アーム42bと、第3アーム42cと、第4アーム42dと、第5アーム42eと、第6アーム42fとを含む。第1アーム42aは、第1関節40aの先端側(出力側)に接続される。第2~第6アーム42b~42fは、第1~第6関節40a~40fの間に接続される。第6関節40fの基端側は基台42gに接続され、基台42gは設置面Gfに固定的に接続されている。
【0018】
関節40には、モータ38と減速機6とが組み込まれる。モータ38から減速機6に回転駆動力が入力されると、減速機6の出力部材が減速回転して、アーム42が関節40の軸心を中心として回転する。ロボット100では、第1アーム42aの出力側に取付けられたツール42hが所定の軌跡に沿って移動するように、各モータ38の回転が制御される。本実施形態のロボット100のように複数の関節40を有する場合、全ての関節に本発明の対象となる減速機が組み込まれている必要はなく、少なくとも一つの関節に本発明の対象となる減速機が組み込まれていればよい。特に先端側の関節に本発明の対象となる減速機が組み込まれているのが好ましい。
【0019】
モータ38は、減速機6に回転駆動力を入力可能なものであればよく、種々の原理に基づくモータを採用できる。本実施形態のモータ38は、サーボモータである。この場合、小型で出力が大きく、比較的長寿命でメンテナンスが殆ど不要である点で好ましい。
【0020】
減速機6を説明する。
図2は、減速機6を示す側断面図である。減速機6は、平行軸歯車機構8と、平行軸歯車機構8の出力回転が入力される偏心揺動型歯車機構10とを有する。偏心揺動型歯車機構10は、後述する偏心体軸12が内歯歯車の軸心に配置されるセンタークランクタイプである。本実施形態では、平行軸歯車機構8と、偏心揺動型歯車機構10とは、後述するケーシング20に収納されている。
【0021】
以下、偏心揺動型歯車機構10の内歯歯車16(後述する)の中心軸線Laに沿った方向を「軸方向」といい、その中心軸線Laを中心とする円の円周方向、半径方向をそれぞれ「周方向」、「径方向」とする。また、以下、便宜的に、軸方向の一方側(図中右側)を入力側といい、他方側(図中左側)を反入力側という。
【0022】
平行軸歯車機構8は、駆動軸8aと、駆動歯車8bと、従動歯車8cとを有する。この例では、駆動軸8aは、モータ38の出力軸である。駆動軸8aは、中心軸線Laからオフセットした位置に、中心軸線Laに平行に延びている。駆動軸8aは、モータ38と共にケーシング20の入力側側面部20cに設けられたモータ取付孔20hからケーシング20の反入力側に進入している。駆動歯車8bは、駆動軸8aの外周に固定されている。従動歯車8cは、駆動軸8aと平行に延びる偏心体軸12の外周に固定されており、駆動歯車8bと噛合う。駆動歯車8bおよび従動歯車8cは、平歯車であってもよいし、斜歯歯車など他の種類の歯車であってもよい。
【0023】
偏心揺動型歯車機構10は、内歯歯車と噛み合う外歯歯車を揺動させることで、内歯歯車および外歯歯車の一方に自転を生じさせ、その生じた運動成分を出力部材から被駆動部材に出力する偏心揺動型歯車装置である。この例の偏心揺動型歯車機構10は、外歯歯車の自転を拘束して内歯歯車に自転を生じさせ、内歯歯車から回転を出力する。
【0024】
本実施形態の偏心揺動型歯車機構10は、偏心体軸12と、外歯歯車14と、内歯歯車16と、伝達部材18と、ケーシング20と、軸受支持部22と、偏心体軸軸受24と、中央軸受26と、偏心軸受28と、内ピン30と、つば部材32と、出力部材34と、主軸受36とを備える。
【0025】
(ケーシング)
ケーシング20は、内歯歯車16を環囲する筒部20bと、内歯歯車16の入力側の側部に設けられる入力側側面部20cとを有する。軸受支持部22は、入力側側面部20cの中央部から反入力側に伸びる部分であり、この例では単一の素材により入力側側面部20cと一体的に形成されている。軸受支持部22は、中心軸線Laを囲む中空筒形状を有する。つば部材32は、中空円形の部材で、ケーシング20の筒部20bの反入力側の端部にボルトB4によって固定される。つば部材32の内周側は、筒部20bより半径方向内側に延出し、主軸受36の反入力側の一部を覆う。つば部材32は、筒部20bより半径方向外側に張出している。つば部材32は、関節40の筐体(不図示)などに固定される。
【0026】
内歯歯車16と外歯歯車14とは、互いに噛合う。出力部材34は、内歯歯車16の自転と同期する。ケーシング20は、外歯歯車14の自転と同期する。主軸受36は、出力部材34と筒部20bとの間に配置される。軸受支持部22の外周には、偏心体軸12を支持する偏心体軸軸受24が配置される。
【0027】
(偏心体軸)
偏心体軸12は、平行軸歯車機構8の従動歯車8cから入力される回転動力によって回転中心線周りに回転させられる。偏心体軸12は、偏心体軸軸受24を介してケーシング20の軸受支持部22に支持されており、ケーシング20に対して回転自在に支持されている。
【0028】
図2に示すように、偏心体軸12の入力側の端部は、駆動軸8aの反入力側の端部より入力側に位置している。つまり、径方向から見て、偏心体軸12と駆動軸8aとは一部において重なっている。平行軸歯車機構8は、偏心揺動型歯車機構10の軸方向範囲に含まれている。また、軸方向から見て、駆動軸8aは外歯歯車14と重なっている。また、駆動軸8aの反入力側の端部は外歯歯車14と軸方向に対向している。
【0029】
偏心揺動型歯車機構10は、偏心体軸12が内歯歯車16の中心軸心Laに配置されるセンタークランクタイプの偏心揺動型歯車装置である。偏心体軸12は、外歯歯車14を揺動させるための複数の偏心部12aを有する。偏心部12aの軸芯は、偏心体軸12の回転中心線に対して偏心している。本実施形態では2個の偏心部12aが設けられ、隣り合う偏心部12aの偏心位相は180°ずれている。
【0030】
(外歯歯車)
外歯歯車14は、複数の偏心部12aのそれぞれに対応して個別に設けられ、偏心体軸12の回転に基づき揺動回転する。外歯歯車14は、偏心軸受28を介して対応する偏心部12aに回転自在に支持される。外歯歯車14の外周には、外歯14aが形成される。外歯歯車14は、内歯歯車16の内歯と噛合いつつ移動することで揺動する。
【0031】
外歯歯車14には、その軸心からオフセットされた位置に複数の内ピン孔14hが設けられる。内ピン孔14hそれぞれには内ピン30が貫通する。内ピン30と内ピン孔14hの間には外歯歯車14の揺動成分を吸収するための遊びとなる隙間が設けられる。内ピン30と内ピン孔14hの内壁面とは一部で接触する。
【0032】
(内歯歯車)
内歯歯車16は、その内周部に外歯歯車14と噛み合う内歯16aを有する中空円筒形の部材である。内歯歯車16の内歯16aの数は、本実施形態において、外歯歯車14の外歯数より一つ多い。内歯歯車16は、外歯歯車14の揺動回転に基づいて外歯歯車14に対して相対回転する。
【0033】
(伝達部材)
伝達部材18は、内歯歯車16と出力部材34との間に設けられる中空円形の部材である。この例の伝達部材18は、外歯歯車14の反入力側の側部に配置される。伝達部材18は、内歯歯車16からの動力を出力部材34に伝達する。伝達部材18は、ボルトB1によって内歯歯車16の反入力側の側部に固定される。伝達部材18の内周面と軸受支持部22の外周面との間に中央軸受26が設けられる。伝達部材18は、中央軸受26を介して軸受支持部22に回転自在に支持される。
【0034】
偏心体軸軸受24は、偏心体軸12と軸受支持部22との間に配置され、偏心体軸12を支持する。偏心軸受28は、偏心部12aと外歯歯車14との間に配置され、偏心運動を外歯歯車14に伝達する。中央軸受26は、伝達部材18と軸受支持部22との間に配置され、伝達部材18を支持する。中央軸受26は、偏心体軸軸受24の反入力側の側部に隣接配置される。
【0035】
主軸受36は、出力部材34とケーシング20の筒部20bとの間に配置され、出力部材34を支持する。本実施形態では、偏心体軸軸受24、中央軸受26および偏心軸受28は球状の転動体を有する玉軸受けであり、主軸受36は円筒状のころを転動体とするクロスローラベアリングである。これらの軸受は、別形式の軸受であってもよい。
【0036】
(内ピン)
内ピン30は、外歯歯車14と出力部材34との間で動力を伝達する棒状の部材であり、周方向に離隔して複数設けられる。この例の内ピン30は、入力側側面部20cに圧入固定され、入力側側面部20cから外歯歯車14の内ピン孔14hを貫通して反入力側に延びている。内ピン30は、内ピン孔14hの一部と当接しており、外歯歯車14の自転を拘束しその揺動のみを許容している。
【0037】
(出力部材)
出力部材34は、伝達部材18を介して内歯歯車16からの動力が伝達される円形の部材である。出力部材34は、内歯歯車16および伝達部材18と一体的に回転する。出力部材34は、外歯歯車14の軸方向で反入力側の側部に配置され、主軸受36の径方向内側に設けられる。出力部材34は、ボルトB2によって伝達部材18の反入力側の側部に固定される。出力部材34は、主軸受36を介してケーシング20の筒部20bに回転自在に支持されている。出力部材34の反入力側の側部に、被駆動部材46がボルトB5によって固定される。出力部材34は、被駆動部材46に回転駆動力を出力する。被駆動部材46は、関節40によって支持されるアーム42に連結される。
【0038】
以上のように構成された減速機6の動作を説明する。モータ38が回転すると駆動歯車8bと、これに噛合う従動歯車8cと偏心体軸12とが一体的に回転する。偏心体軸12が回転すると、偏心体軸12の偏心部12aが偏心回転する。偏心部12aが偏心回転すると、偏心軸受28を介して外歯歯車14が揺動する。このとき、外歯歯車14は、自らの軸芯が偏心体軸12の回転中心線周りを回転するように揺動する。
【0039】
外歯歯車14が揺動すると、外歯歯車14と内歯歯車16の噛合位置が順次ずれる。この結果、偏心体軸12が一回転する毎に、外歯歯車14と内歯歯車16との歯数差に相当する分、外歯歯車14および内歯歯車16の一方の自転が発生する。本実施形態においては、内歯歯車16が自転し、伝達部材18を介して出力部材34から減速回転が出力される。出力部材34が回転すると、出力部材34に固定された被駆動部材46が回転する。被駆動部材46が回転すると、被駆動部材46に連結されたアーム42が回転する。
【0040】
次に、取得部52および制御部54を説明する。
図3は、ロボット100を概略的に示すブロック図である。
図3に示す各機能ブロックは、ハードウエア的には、コンピュータのCPU(Central Processing Unit)をはじめとする素子や機械装置で実現でき、ソフトウエア的にはコンピュータプログラム等によって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウエア、ソフトウエアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、本明細書に触れた当業者には理解されるところである。
【0041】
取得部52および制御部54は、逆駆動による減速機6の損傷を防ぐために、外力に応じて退避動作を行うようにモータ38を制御する(以下、「退避制御」という)。上述したように、取得部52は、モータ38の回転に関する情報を取得する取得手段として機能する。制御部54は、取得部52の取得結果に基づき外力を検知し、退避動作を行う制御手段として機能する。
【0042】
モータ38の回転に関する情報としては、モータの出力軸のねじれ、モータの回転速度、モータの駆動電圧(PWM駆動信号のデューティ比)、モータの電流などが挙げられる。本実施形態では、モータ38の回転に関する情報は、モータ38の駆動電流Imであり、取得部52は、駆動電流Imを検知する電流センサ52sを含む。本実施形態の電流センサ52sは、モータ38に直列接続された小抵抗値のシリーズ抵抗である。取得部52は、シリーズ抵抗の電圧降下として駆動電流Imを検知できる。
【0043】
本実施形態の制御部54は、第1受付部54aと、第2受付部54bと、外力検知部54cと、モータ駆動部54dと、退避制御部54eとを主に含む。第1受付部54aは、上位制御システム4からの位置指令情報と、位置センサ4sからの各アーム42の位置情報との差に関する情報を受付ける。上位制御システム4は、例えば、ロボット100の各関節40の動作を制御するマスタシステムであってもよい。第1受付部54aは、受付け結果に基づいて位置指令信号Psを生成する。
【0044】
第2受付部54bは、取得部52の電流センサ52sから駆動電流Imを受付ける。例えば、第2受付部54bは、駆動電流Imをデジタル信号に変換するDAコンバータを含んで構成できる。
【0045】
外力検知部54cは、取得部52の取得結果に基づいて関節40に作用する外力を検知する。例えば、外力検知部54cは、モータ38を駆動する駆動電圧Vdと、駆動電流Imとに基づいて外力を検知できる。一例として、外力検知部54cは、外力がない場合の駆動電圧Vdと駆動電流Imとの関係に関する情報を予め記憶しておき、新たに検知された駆動電圧Vdおよび駆動電流Imと、この記憶情報とに応じて外力を推定できる。例えば、記憶情報から回帰線(線形回帰、多項式回帰を含む)を求め、この回帰線からの乖離の大きさから外力を推定できる。
【0046】
退避制御部54eは、外力検知部54cで推定した外力に基づき退避動作を決定する。一例として、退避制御部54eは、この外力の大きさの区分に応じて、退避せず、減速、停止、逆転させるなどの退避情報Pcを生成できる。
【0047】
モータ駆動部54dは、位置指令信号Psと退避情報Pcとに基づいて決定した大きさの駆動電圧Vdをモータ38に供給する。モータ駆動部54dは、PWMインバータを含んで構成できる。駆動電圧Vdの大きさはPWM駆動信号のデューティ比によって定まる。退避情報Pcが「退避せず」の場合、モータ駆動部54dは、位置指令信号Psに応じた駆動電圧Vdを供給する。退避情報Pcが「減速」の場合、モータ駆動部54dは、デューティ比を小さくした駆動電圧Vdを供給する。退避情報Pcが「停止」の場合、モータ駆動部54dは、駆動電圧Vdのデューティ比をゼロ%にする。退避情報Pcが「逆転」の場合、モータ駆動部54dは、逆転用の駆動電圧Vdを供給する。
【0048】
このように構成された取得部52および制御部54によれば、外力に応じてモータ38を退避制御することができるので、逆駆動による減速機6の損傷の防止を図れるとともに、人がロボットに接触したときの衝撃を緩和することもできる。また、トルクセンサを減速機の出力側に設けた構成と比較して、トルクセンサが外力によって破損する可能性を少なくでき、トルクセンサを設けるためのスペースやコストの面で有利である。
【0049】
次に、減速機6の減速比Rsを説明する。減速比Rsは、偏心揺動型歯車機構10の減速比Rgと平行軸歯車機構8との減速比Rpとの積である。
図4のグラフg1は、偏心揺動型歯車機構10の減速比Rgと伝達効率Egとの関係を示している。グラフg1に示すように、減速比Rgが35以下の場合に伝達効率Egは高く、減速比Rgが35を超える場合に伝達効率Egは一気に低下する。また、減速比Rgが17以下の場合に伝達効率Egはより一層高くなる。伝達効率Egを高める観点からは、減速比Rgは35以下に設定されてもよい。
【0050】
偏心揺動型歯車機構10を製造する際、内歯16aおよび外歯14aの歯形状には製造誤差が不可避的に含まれる。この製造誤差は、歯同士の隙間変動や当接タイミングの変動を招き、偏心揺動型歯車機構10の伝達効率に悪影響を及ぼす可能性がある。この製造誤差に対するマージンを確保するためには、減速比Rgは17以下であることが望ましい。この範囲内であれば、製造誤差が伝送効率に与える影響は実用上問題ないレベルを確保できることが示唆されている。本実施形態の減速比Rgは15に設定されており、偏心揺動型歯車機構10の伝達効率は95%である。
【0051】
平行軸歯車機構8の減速比Rpは、減速機6の所望の減速比Rsを偏心揺動型歯車機構10の減速比Rgで除した結果に設定されてもよい。減速比Rpが大きすぎると、駆動歯車8bと従動歯車8cとの径比が大きくなり、バックラッシュの増加などにより伝達精度が低下する。伝達精度を確保するためには、減速比Rpは5以下であることが望ましい。この範囲内であれば、伝達精度は実用上問題ないレベルを確保できることが示唆されている。本実施形態の減速比Rpは5に設定されている。
【0052】
適切な退避制御を可能とするためには、減速機6の減速比Rsは175以下であることが望ましく、85以下であることがより望ましい。また、減速機6の減速比Rsが小さすぎると、アーム42の駆動力が小さくなる。アーム42の駆動力を確保するためには、減速機6の減速比Rsは50以上であることが望ましい。減速機6の減速比Rsが50~175の範囲内、より望ましくは50~85の範囲内であれば、退避制御の精度およびアーム42の駆動力は実用上問題ないレベルを確保できることが示唆されている。本実施形態の減速比Rsは75に設定されている。
【0053】
減速機6の効率が低すぎると、減速機の出力側からモータ側に外力が伝達されるまでのタイムラグが大きくなり、外力を検知して退避制御を行うまでの間に減速機6に損傷が発生するおそれがある。減速機6が損傷する前にモータ側で外力を検知し退避制御を行うためには、減速機6の効率は80%以上であることが望ましい。この範囲内であれば、退避制御を実用上問題ないレベルで実施できることが示唆されている。本実施形態の減速機6の伝達効率は90%である。
【0054】
以上のように構成されたロボット100によれば、減速機6の出力側にトルクセンサを設けることなく外力に対応可能なロボットを提供できる。
【0055】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明した。前述した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態の」「実施形態では」等との表記を付して説明しているが、そのような表記のない内容に設計変更が許容されないわけではない。また、図面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【0056】
[変形例]
以下、変形例について説明する。変形例の図面および説明では、実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。実施形態と重複する説明を適宜省略し、実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0057】
実施の形態の説明では、退避動作は、モータについて減速、停止、逆転を行う例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、退避動作は、モータの減速、停止、逆転の何れかを行うものであってもよいし、他の動作を行うものであってもよい。
【0058】
実施の形態の説明では、駆動電圧Vdと駆動電流Imとから、回帰分析により外力を推定する例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、駆動電圧Vdと駆動電流Imなどのモータの回転に関する情報と外力とのデータをもとに公知の機械学習(教師有り学習を含む)により生成された外力推定モデルを用いて、外力を推定してもよい。この場合、制御部54は、この外力推定モデルを記憶する記憶部を備えてもよい。また、制御部54は、機械学習により外力推定モデルを生成するモデル生成部を備えてもよい。
【0059】
実施の形態の説明では、偏心揺動型歯車機構10は、内歯歯車16から回転が出力される例を示したが、本発明はこれに限定されない。偏心揺動型歯車機構は、内歯歯車が固定され、外歯歯車から回転が出力される構成であってもよい。
【0060】
実施の形態の説明では、ロボットが6つの関節を有する多関節ロボットである例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、ロボットは水平多軸型ロボット(スカラ型ロボット)であってもよい。また、関節の数に限定はない。本発明のロボットは、人と隔離されることなく、人の近くで稼動する協働ロボット、サービスロボット、ロボット台車などに好適に使用されるが、これに限定されるものではない。
【0061】
実施の形態の説明では、筒部20bと、入力側側面部20cと、軸受支持部22とが単一の素材で一体的に構成される例を示したが、これらは別々に形成されて結合されてもよい。
【0062】
実施の形態の説明では、外歯歯車14を2枚備える例を示したが、本発明はこれに限定されない。外歯歯車14は1枚または3枚以上設けられてもよい。
【0063】
実施の形態の説明では、内ピン30が入力側のみが支持される例を示したが、本発明はこれに限定されない。外歯歯車の反入力側にキャリヤを設け、内ピンの反入力側をこのキャリヤに固定してもよい。
【0064】
上述の各変形例は実施の形態と同様の作用・効果を奏する。
【0065】
上述した各実施形態と変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる各実施形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0066】
6・・・減速機、8・・・平行軸歯車機構、10・・・偏心揺動型歯車機構、12・・・偏心体軸、14・・・外歯歯車、14a・・・外歯、16・・・内歯歯車、16a・・・内歯、38・・・モータ、40・・・関節、42・・・アーム、52・・・取得部、54・・・制御部、54c・・・外力検知部、100・・・ロボット。