(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-12
(45)【発行日】2023-09-21
(54)【発明の名称】車両の車線逸脱抑制制御装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20230913BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20230913BHJP
B62D 137/00 20060101ALN20230913BHJP
【FI】
B62D6/00
G08G1/16 C
B62D137:00
(21)【出願番号】P 2019155894
(22)【出願日】2019-08-28
【審査請求日】2022-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大見川 享士
(72)【発明者】
【氏名】羽鹿 亮
【審査官】菅 和幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-078733(JP,A)
【文献】特開2017-013559(JP,A)
【文献】特開平11-091606(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0164852(US,A1)
【文献】特開2017-146794(JP,A)
【文献】特開2005-343184(JP,A)
【文献】特開2013-028326(JP,A)
【文献】特開2008-044531(JP,A)
【文献】特開2018-022365(JP,A)
【文献】特開2018-020682(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
G08G 1/16
B62D 137/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両前方の走行環境を認識し、認識した前記走行環境に基づいて前記自車両が走行する車線の左右を区画する区画線を検出する走行環境認識部と、
前記自車両の挙動を検出する車両挙動検出部と、
前記走行環境認識部で検出した左右の前記区画線と前記車両挙動検出部で検出した前記自車両の挙動とに基づいて該自車両が前記区画線から逸脱する
か否かを予測する予測逸脱判定部と、
前記走行環境認識部で検出した左右の前記区画線を基準として、車線逸脱抑制制御を許可する制御許可範囲を前記区画線から車線中央方向に設定する制御許可範囲設定部と、
前記予測逸脱判定部で前記自車両が前記区画線から逸脱すると判定し、且つ、前記自車両が前記制御許可範囲設定部で設定した前記制御許可範囲にあると判定した場合、前記自車両の前記区画線からの逸脱を抑制する操舵トルクに対応する駆動信号をステアリング制御部へ送信する操舵トルク演算部と
を備える車両の車線逸脱抑制制御装置において、
前記自車両が走行している車線の形状の変化を検出する車線形状検出部を更に有し、
前記制御許可範囲設定部は前記車線形状検出部で検出した前記車線の形状の変化に基づいて前記制御許可範囲を可変設定する
ことを特徴とする車両の車線逸脱抑制制御装置。
【請求項2】
前記車線形状検出部で検出する前記車線の形状の変化は車線曲率の変化である
ことを特徴とする請求項1記載の車両の車線逸脱抑制制御装置。
【請求項3】
前記制御許可範囲設定部は、前記車線形状検出部が小さい方向への前記車線曲率の変化を検出した場合は前記制御許可範囲を狭く設定し、大きい方向への前記車線曲率の変化を検出した場合は前記制御許可範囲を広く設定する
ことを特徴とする請求項2記載の車両の車線逸脱抑制制御装置。
【請求項4】
前記車線形状検出部は、前記車線曲率の変化を、前記走行環境認識部で検出した左右の前記区画線間の曲率と前記車両挙動検出部で検出した前記自車両に作用する横方向の挙動との一方に基づいて検出する
ことを特徴とする請求項2或いは3に記載の車両の車線逸脱抑制制御装置。
【請求項5】
複数の前記車両挙動検出部を有し、
前記車線形状検出部は、前記車線曲率の変化を、前記走行環境認識部で検出した左右の前記区画線間の曲率と前記各車両挙動検出部で検出した前記自車両に作用する横方向の挙動の中から2以上を選択して評価する
ことを特徴とする請求項2或いは3に記載の車両の車線逸脱抑制制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自車両が走行車線から逸脱傾向にあり、且つ自車両が制御許可範囲内にある場合は、逸脱抑制制御を開始するようにした車両の車線逸脱抑制制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の車線逸脱抑制制御装置は、先ず、自車両の走行車線を、自車両に搭載されているカメラ等のセンシングデバイスで認識する。そして、車線逸脱抑制制御装置は、自車両の進行方向が走行車線から逸脱する傾向にあると判定した場合、操舵トルクを制御し、区画線と平行になるように操舵制御を行うことで、当該自車両の走行車線からの逸脱を回避するようにしている。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2013-91494号公報)には、自車両が走行車線から逸脱する傾向にあると判定した場合、先ず、自車両の横速度を検出し、又、走行車線からの逸脱を防止する方向へ目標横位置と自車両の横位置との偏差に応じて、この偏差が大きくなる程大きい変化量で増加する操舵力を設定する。そして、横速度の増加に応じて走行車線からの逸脱を防止する方向への操舵トルクを増加補正し、補正された操舵トルクを操舵機構に付与して、車線逸脱を回避する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、車線逸脱抑制制御装置は、自車両が走行車線から逸脱する傾向にあることを検出した場合、強制的な操舵介入により車線逸脱を回避しようとするものであり、操舵制御を開始する横位置には、自車両が走行する車線の左右を区画する区画線を基準とした制御許可範囲が設定されている。
【0006】
すなわち、
図11に示すように、制御許可範囲Wpは、左右の区画線から車幅Wmの1/2(車体が区画線からはみ出さない横位置)を基準として左右に設定されており、各制御許可範囲Wpは車線中央を超えて比較的広い範囲に設定されている。
【0007】
これは、例えば、直線路からカーブ路に車線形状が変化するカーブ路の入口にて車線逸脱の傾向を検出した場合、車線逸脱抑制制御装置は、自車両を区画線と平行にしようとするため、カーブ進入に従い横加速度(ステアリングの切り増し)を徐々に大きくする、逸脱抑制制御が必要になるからである。
【0008】
この場合、
図14(a)に示すように、左右の許可範囲Wpが狭く設定されていると、自車両Mがカーブに進入した直後に逸脱抑制制御による操舵介入が許可されることとなり、車線逸脱を回避することが困難となる。或いは、無理なステアリングの切り増しにより、過大なジャーク(加加速度)が発生して、車両走行の安定性が阻害されてしまう。従って、車両の走行安定性を保証するためには、
図14(b)に示すように、左右の許可範囲Wpに、車線中央を超えて広く設定し、カーブ進入に際しては早期に操舵介入を許可する必要がある。
【0009】
しかし、左右の許可範囲Wpが車線中央を超えて広く設定されていると、自車両が直進路の車線中央付近を走行している際に、例えば、
図13(a)に示すように、急な操舵で横加速度の予測値が一時的に高くなり、車線逸脱の傾向が検出された場合、直ちに操舵介入が許可されてしまう。その結果、直進走行において車両の走行安定性が損なわれてしまう不都合がある。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑み、車線形状に応じた最適なタイミングで車線逸脱抑制制御を開始することのできる車両の車線逸脱抑制制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、自車両前方の走行環境を認識し、認識した前記走行環境に基づいて前記自車両が走行する車線の左右を区画する区画線を検出する走行環境認識部と、前記自車両の挙動を検出する車両挙動検出部と、前記走行環境認識部で検出した左右の前記区画線と前記車両挙動検出部で検出した前記自車両の挙動とに基づいて該自車両が前記区画線から逸脱
するか否かを予測する予測逸脱判定部と、前記走行環境認識部で検出した左右の前記区画線を基準として、車線逸脱抑制制御を許可する制御許可範囲を前記区画線から車線中央方向に設定する制御許可範囲設定部と、前記予測逸脱判定部で前記自車両が前記区画線から逸脱すると判定し、且つ、前記自車両が前記制御許可範囲設定部で設定した前記制御許可範囲にあると判定した場合、前記自車両の前記区画線からの逸脱を抑制する操舵トルクに対応する駆動信号をステアリング制御部へ送信する操舵トルク演算部とを備える車両の車線逸脱抑制制御装置において、前記自車両が走行している車線の形状の変化を検出する車線形状検出部を更に有し、前記制御許可範囲設定部は前記車線形状検出部で検出した前記車線の形状の変化に基づいて前記制御許可範囲を可変設定する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、車線形状検出部で検出した車線の形状の変化に基づいて、走行環境認識部で検出した左右の区画線を基準とする車線逸脱抑制制御を許可する制御許可範囲を可変設定するようにしたので、車線形状に応じた最適なタイミングで車線逸脱抑制制御を開始することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】車線逸脱抑制制御装置を搭載する車両の要部概略構成図
【
図5】車線逸脱抑制制御ルーチンを示すフローチャート
【
図6】制御許可範囲設定サブルーチンを示すフローチャート
【
図7】(a)は車線曲率に基づく車線形状評価フラグ設定サブルーチンを示すフローチャート、(b)は舵角に基づく車線形状評価フラグ設定サブルーチンを示すフローチャート
【
図8】(a)はヨーレートに基づく車線形状評価フラグ設定サブルーチンを示すフローチャート、(b)は横加速度に基づく車線形状評価フラグ設定サブルーチンを示すフローチャート
【
図9】車線逸脱抑制制御による予測進行路を示す説明図
【
図10】横加速度に基づく車線逸脱抑制制御パターンを示すタイムチャート
【
図11】走行車線上に設定する車線逸脱抑制制御の制御許可範囲を示す説明図
【
図13】(a)は直進路に広い制御許可範囲を設定した場合の車両の挙動を示す説明図、(b)は直進路に狭い制御許可範囲を設定した場合の車両の挙動を示す説明図
【
図14】(a)はカーブ入口に狭い制御許可範囲を設定した場合の車両の挙動を示す説明図、(b)はカーブ入口に広い制御許可範囲を設定した場合の車両の挙動を示す説明図
【
図15】カーフ入口からカーブ出口までの制御許可範囲の遷移を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づいて本発明の一実施形態を説明する。
図1において、車両(自車両)Mには、左右前輪FL,FRと左右後輪RL,RRとが配設されており、この左右前輪FL,FRが、ラック&ピニオン機構等のステアリング機構2にタイロッド3を介して連設されている。又、このステアリング機構2に、先端にハンドル4を固設するステアリング軸5が連設されている。運転者がハンドル4を操作すると、ステアリング機構2を介して前輪FL,FRが転舵される。
【0015】
又、ステアリング軸5に電動パワーステアリング(EPS:Electric Power Steering)装置6のEPSモータ7が、図示しない伝達機構を介して連設されている。EPS装置6はEPSモータ7と、ステアリング制御部としてのEPS制御ユニット(EPS_ECU)8とを有しており、EPS_ECU8にてEPSモータ7がステアリング軸5に付与する操舵トルクを制御する。
【0016】
すなわち、EPS_ECU8には、ステアリング軸5に取り付けられてハンドル4に付与される操舵トルクを検出する操舵トルクセンサ12が接続されており、検出した操舵トルク、及び後述する車速センサ13で検出する車速等に応じ、運転者がハンドル4に加える操舵トルクをアシストするトルク(アシストトルク)を設定する。ステアリング軸5にアシストトルクを付与することで運転者のハンドル操作の負担が軽減される。
【0017】
又、EPS_ECU8は、CAN(Controller Area Network)通信等を用いた車内ネットワークを介して車線逸脱抑制制御ユニット(LDP(Lane Departure Prevention)_ECU)11と接続されている。
【0018】
車線逸脱抑制制御においては、LDP_ECU11にて設定した操舵トルクに対応する指令信号がEPS_ECU8に送信され、EPS_ECU8にてEPSモータ7に所定のアシストトルクを発生させて、自車両Mが車線の中央方向へ戻るように制御し、区画線からの逸脱を抑制する。尚、以下においては、便宜的に、自車両Mが区画線から逸脱することを「車線逸脱」として説明する。
【0019】
又、図示しないが、車内ネットワークには、EPS_ECU8、LDP_ECU11以外に、エンジン制御ユニット、変速機制御ユニット、ブレーキ制御ユニット等、車両の走行状態を制御するユニット類が相互通信自在に接続されている。
【0020】
又、このLDP_ECU11には、車速を検出する車速センサ13、車体に発生するヨーレート及び横加速度を検出するヨーレート検出部としてのヨーレートセンサ14、ステアリング軸5の回転角から操舵角を検出する舵角検出部としての舵角センサ15等、自車両Mの挙動を検出する車両挙動検出部としてのセンサ類が接続されている。尚、操舵トルクセンサ12で検出した操舵トルク、及び車速センサ13で検出した車速は、後述する車線認識部24へも送信される。
【0021】
一方、符号21は走行環境認識部としてのカメラユニットであり、
図2に示すように、メインカメラ22aとサブカメラ22bとからなるステレオカメラで構成された車載カメラ22と、画像処理部23、及び車線認識部24が内蔵されている。両カメラ22a,22bは、例えば車内前部のルームミラー上方であって、フロントガラスに近接する位置の車幅方向中央から左右に等間隔を開けて水平な状態で設置されている。又、この各カメラ22a,22bはカラーCCDやカラーCMOSを搭載したカラーカメラ等のカラー撮像素子が設けられており、この両カラー撮像素子によって自車両Mが走行している車線(走行車線)、及びそれを区画する左右の区画線等、進行方向前方の走行環境の三次元カラー画像が撮影される。
【0022】
画像処理部23は、各カメラ22a,22bで撮影した一対のアナログ画像を所定輝度階調のデジタル画像に変換し、メインカメラ22aの出力信号から基準画像データを生成し、又、サブカメラ22bの出力信号から比較画像データを生成する。そして、この基準画像データ及び比較画像データとの視差に基づいて両画像中の同一対象物の距離データ(自車両から対象物までの距離)を算出する。
【0023】
又、車線認識部24はマイクロコンピュータで構成されており、画像処理部23から送信される基準画像データと比較画像データとに基づいて生成した仮想道路平面上に、パターンマッチング等の手法で認識した、走行車線の左右を区画する区画線を設定し、距離データに基づいて左右区画線の内側エッジ間の距離(車線幅)を検出する。そして、これらのデータを車線認識情報として、LDP_ECU11へ送信する。
【0024】
図3に示すように、LDP_ECU11は、車線逸脱抑制を制御する機能として、横位置演算部11a、逸脱判定演算部11b、逸脱抑制制御演算部11c、操舵トルク演算部11dを備えている。
【0025】
横位置演算部11aは、車線認識部24から送信された車線認識情報に基づき、左右の区画線の内側エッジから、自車両Mの車幅Wm方向の中心までの横位置を求める。或いは、この横位置を、両区画線の内側エッジ間の中央を基準として求めるようにしても良い。
【0026】
又、逸脱判定演算部11bは、車線逸脱抑制制御時に選択する基本的な制御パターンに基づいて、走行車線上の自車両の横位置からの予測横移動量を求め、この予測横移動量が区画線の内側に設定した逸脱判定横位置を横切るか否かを調べる。尚、
図11に示すように、本実施形態では、逸脱判定横位置を、区画線の内側エッジから車幅Wmの1/2だけ内側の位置に設定している。又、逸脱判定横位置に対する自車両Mの横位置は、車幅Mm方向の中央を基準としている。従って、自車進行路が逸脱判定横位置を横切った場合には、自車両Mの車体が区画線から逸脱することになる。
【0027】
そして、逸脱判定演算部11bで自車両Mは車線(区画線間)を逸脱しないと判定した場合、操舵トルク演算部11dに現在の自車進行路を維持する操舵角信号を送信する。一方、逸脱判定演算部11bが、自車両Mは車線逸脱の可能性があると予測した場合は、逸脱抑制制御演算部11cにおいて、予測横移動量を補正して、自車両Mの車線逸脱を回避する新たな予測横移動量を所定演算周期毎に求める。そして、この予測横移動量に対応する操舵角信号を操舵トルク演算部11dに送信する。
【0028】
操舵トルク演算部11dは、逸脱判定演算部11b、或いは逸脱抑制制御演算部11cからの操舵角信号に基づき、当該操舵角に対応する操舵トルク(制御量)を設定し、EPS_ECU8に送信する。EPS_ECU8は、LDP_ECU11から送信された操舵トルクに基づきEPSモータ7を駆動させて、アシストトルクを所定に発生させる。その際、操舵トルク演算部11dが逸脱抑制制御演算部11cから操舵角信号を受信した場合は、この操舵角信号と車速とに基づき設定される予測進行路(
図9参照)に沿って自車両Mを走行させて、区画線からの逸脱を回避させる。
【0029】
上述した逸脱判定演算部11bでの車線逸脱判定は、具体的には、
図4に示す車線逸脱判定ルーチンに従って処理される。尚、このルーチンでの処理が、本発明の予測逸脱判定部に対応している。
【0030】
このルーチンでは、先ず、ステップS1で、車線逸脱を抑制するための基線的な制御パターンを選択する。LDP_ECU11は、車線逸脱抑制のための走行軌跡を設定する制御パターンを複数有している。この制御パターンの一例として、
図10に、横加速度に基づいて設定される基本的な制御パターンを実線で示す。ここで、aoは上述した逸脱判定演算部11bで車線逸脱の可能性ありと予測した際の初期横加速度、astdは横加速度を一定(横加速度≠0)にした状態で旋回させる制御標準横加速度、aeは車線逸脱抑制制御終了時の横加速度である。
【0031】
この制御パターンによる横加速度の制御を、
図9に示す予測進行路に適用して簡単に説明する。尚、自車両Mの制御開始横位置Coは、後述する制御許可範囲内にあるものとする。
【0032】
先ず、逸脱判定演算部11bで車線逸脱の可能性ありと予測した際に車線逸脱抑制制御が開始され(経過時間T0)、初期横加速度を、予め設定されている制御開始時ジャーク(加加速度)で、制御標準横加速度astdまで、ステアリングを切り増しさせる。そして、制御標準横加速度astdに達したとき(経過時間T1)、操舵角を一定とした状態で旋回させる(経過時間T1~T2)。その後、区画線手前で予め設定されている切り戻しジャークで、ステアリングを切り戻して、自車両Mを区画線と平行にする(経過時間T3)。これにより、自車両Mの車線逸脱を回避させる。
【0033】
上述した車線逸脱を抑制する制御パターンは基本パターンであり、ステップS2において、選択した制御パターンを実際の車線逸脱抑制制御に適用するための初期値を設定する。この初期値は、カメラユニット21で検出した前方の走行環境に基づき求めた、左右区画線の内側に設定した逸脱判定横位置から自車両Mの車幅Wm方向中心までの制御開始横位置Co(
図14参照)、車線曲率、逸脱予測位置Cdep(
図9参照)、更に、車速センサ13やヨーレートセンサ14等で検出した自車両Mの挙動を検出する各種パラメータに基づいて、切り増し時のジャーク(切り増しジャーク)ja、切り戻し時のジャーク(切り戻しジャーク)jd、初期横加速度ao、終了時横加速度ae等を設定する。
【0034】
尚、初期横加速度aoは、ヨーレートセンサ14で検出したヨーレートと車速センサ13で検出した車速とを乗算することで求める。或いは、ある舵角一定で定常円旋回したときの横加速度を計測した車両モデルに基づき、現在の舵角に対する横加速度を予測して設定するようにしても良い。
【0035】
そして、ステップS3へ進み、ステップS1で選択した制御パターンとステップS2で設定した初期値とに基づき、自車両Mの横移動に伴う演算周期毎の予測横移動量を算出する。尚、最終的な予測横移動量は、以下の(1)式に示すように、
予測横移動量=切り増し時横移動量+制御標準横加速度制御時横移動量
+切り戻し時横移動量 …(1)
となる。
【0036】
ここで、切り増し時横移動量はステアリングを車線復帰方向へ切り増して行く際の横移動量、制御標準横加速度制御時横移動量はステアリングを一定に保った状態での横移動量、切り戻し時横移動量は区画線に対して車両Mが平行となるまでのステアリングを切り戻すための横移動量である。従って、切り戻し時横移動量によって自車両Mは区画線に最も近づく横位置となる。
【0037】
次いで、ステップS4へ進み、この予測横移動量の軌跡(予測進行路)と上述した逸脱判定横位置とを比較し、予測横移動量の軌跡が逸脱判定横位置を横切るか否かを調べる。そして、
図9に実線で示すように、予測横移動量の軌跡が逸脱判定横位置を横切ると予測した場合は、ステップS5へ進み、逸脱抑制制御フラグFcをセットして(Fc←1)、ルーチンを抜ける。又、予測横移動量の軌跡が逸脱判定横位置を横切ることなく、内側を通過すると予測した場合は、ステップS6へ分岐し、逸脱抑制制御フラグFcをクリアして(Fc←0)、ルーチンを抜ける。
【0038】
この逸脱抑制制御フラグFcの値は、逸脱抑制制御演算部11cで読込まれる。この逸脱抑制制御演算部11cでの車線逸脱抑制制御は、具体的には、
図5に示すフローチャートに従って実行される。
【0039】
図5に示す車線逸脱抑制制御ルーチンでは、先ず、ステップS11で、逸脱抑制制御フラグFcの値を調べる。そして、Fc=1の場合、制御パターンに沿って設定した予測横移動量の軌跡は、逸脱判定横位置を横切ると判定し、ステップS12へ進む。又、Fc=0の場合、予測横移動量の軌跡は逸脱判定横位置内にあると判定し、ルーチンを抜ける。
【0040】
ステップS12へ進むと、制御許可範囲Wpを設定する。このステップS12では、
図6に示す制御許可範囲設定サブルーチンを実行して、制御許可範囲Wpを設定する。このサブルーチンでの処理が、本発明の制御許可範囲設定部に対応している。
【0041】
このサブルーチンでは、先ず、ステップS21で車線形状評価フラグFφを設定する。このステップS21は、
図7(a),(b)、
図8(a),(b)の何れかに示す車線形状評価フラグ設定サブルーチンを実行し、自車両M
が走行している車線の形状(車線曲率)の変化を検出して車線形状評価フラグFφを設定する。
【0042】
すなわち、車線曲率が次第に大きく変化している場合は車線形状評価フラグFφをセットし(Fφ←1)、車線曲率が次第に小さく変化している場合は車線形状評価フラグFφをクリアする(Fφ←0)。尚、以下において、(n)は今回の演算時に求めた値、(n-1)は前回の演算時に求めた値を示す。又、この
図7(a),(b)、
図8(a),(b)の処理が、本発明の車線形状検出部に対応している。
【0043】
(a)カーブ曲率に基づく車線形状評価フラグFφの設定
図7(a)に示すサブルーチンでは、先ず、ステップS31で、カメラユニット21で検出した前方の走行環境に基づき、演算周期毎に求めた左右を区画する区画線間の中央のカーブ曲率R(n),R(n-1)を読込む。そして、ステップS32において、このカーブ曲率R(n),R(n-1)から車線曲率の変化を検出する。
【0044】
すなわち、R(n)>R(n-1)の場合、車線曲率が大きい方向に変化していると判定し、ステップS33へ進み、車線形状評価フラグFφをセットして(Fφ←1)、
図6のステップS22へ進む。
【0045】
一方、R(n)≦R(n-1)の場合、車線曲率が小さい方向に変化している、或いは車線曲率が一定(変化なし)と判定し、ステップS34へ分岐し、車線形状評価フラグFφをクリアし(Fφ←0)、
図6のステップS22へ進む。
【0046】
尚、この場合、カメラユニット21で認識したカーブ曲率が三次元近似されている場合は、現在のカーブ曲率R(n)とそれよりも前方のカーブ曲率R(n+1)とを比較して、車線曲率の変化を検出するようにしても良い。
【0047】
(b)舵角に基づく車線形状評価フラグFφの設定
図7(b)に示すサブルーチンでは、先ず、ステップS41で、舵角センサ15で検出した、自車両Mに作用する横方向の挙動を検出する操舵角θst(n),θst(n-1)を読込む。そして、ステップS42において、この操舵角θst(n),θst(n-1)による自車両Mの旋回状況から道路形状の変化を検出する。
【0048】
すなわち、θst(n)>θst(n-1)の場合、車線曲率が大きい方向に変化していると判定し、ステップS43へ進み、車線形状評価フラグFφをセットして(Fφ←1)、
図6のステップS22へ進む。
【0049】
一方、θst(n)≦θst(n-1)の場合、車線曲率が小さい方向に変化している、或いは車線曲率が一定(変化なし)と判定し、ステップS44へ分岐し、車線形状評価フラグFφをクリアし(Fφ←0)、
図6のステップS22へ進む。
【0050】
(c)ヨーレートに基づく車線形状評価フラグFφの設定
図8(a)に示すサブルーチンでは、先ず、ステップS51で、ヨーレートセンサ14で検出した、自車両Mに作用する横方向の挙動を検出するヨーレートyaw(n),yaw(n-1)を読込む。そして、ステップS52において、このヨーレートyaw(n),yaw(n-1)による自車両Mの旋回状況から道路形状の変化を検出する。
【0051】
すなわち、yaw(n)>yaw(n-1)の場合、車線曲率が大きい方向に変化していると判定し、ステップS53へ進み、車線形状評価フラグFφをセットして(Fφ←1)、
図6のステップS22へ進む。
【0052】
一方、yaw(n)≦yaw(n-1)の場合、車線曲率が小さい方向に変化している、或いは車線曲率が一定(変化なし)と判定し、ステップS54へ分岐し、車線形状評価フラグFφをクリアし(Fφ←0)、
図6のステップS22へ進む。
【0053】
(d)横加速度に基づく車線形状評価フラグFφの設定
図8(b)に示すサブルーチンでは、先ず、ステップS61で、ヨーレートセンサ14で検出した、自車両Mに作用する横方向の挙動を検出するヨーレートyaw(n),yaw(n-1)に基づいて求めた横加速度a(n),a(n-1)を読込む。そして、ステップS62において、この横加速度a(n),a(n-1)による自車両Mの旋回状況から道路形状の変化を検出する。従って、ヨーレートセンサは横加速度検出部としての機能も備えている。尚、横加速度a(n),a(n-1)は、横加速度検出部である横加速度センサによって直接検出するようにしても良い。
【0054】
すなわち、a(n)>a(n-1)の場合、車線曲率が大きい方向に変化していると判定し、ステップS63へ進み、車線形状評価フラグFφをセットして(Fφ←1)、
図6のステップS22へ進む。
【0055】
一方、a(n)≦a(n-1)の場合、車線曲率が小さい方向に変化している、或いは車線曲率が一定(変化なし)と判定し、ステップS64へ分岐し、車線形状評価フラグFφをクリアし(Fφ←0)、
図6のステップS22へ進む。
【0056】
上述した(a)~(d)は道路形状の変化を検出する一例に過ぎないが、道路形状は瞬間の絶対値で判断する必要はなく、例えば、各パラメータをフィルタ処理して形状判定を安定化させるようにしても良い。更に、上述した(a)~(d)の全て、或いは2つ以上を選択して実行させて各値を評価し、車線形状評価フラグFφの値の一致度が高い方を、最終的な車線形状評価フラグFφの値として設定するようにしても良い。
【0057】
そして、
図6のステップS22へ進むと、このステップS22以降で、走行している道路形状に応じた制御許可範囲Wpを設定する。この制御許可範囲Wpは、車線逸脱抑制制御の介入を許可する横位置を決めるものであり、自車両Mが制御許可範囲Wp内を走行していれば車線逸脱抑制制御が許可される。一方、自車両Mが制御許可範囲Wpから外れていれば車線逸脱抑制制御は許可されない。
【0058】
図11に示すように、この制御許可範囲Wpは逸脱判定横位置を基準として左右に設定されている。更に、
図12に示すように、この制御許可範囲Wpは、自車両Mが走行している道路形状に応じて第1~第4許可範囲Wa1~Wa4の何れかで設定される。尚、
図12には、便宜的に右側の第1~第4許可範囲Wa1~Wa4のみを示すが、左側にも第1~第4許可範囲Wa1~Wa4が設定されている。
【0059】
図11には、制御許可範囲Wpが、最も横位置の幅が広く確保されている第1許可範囲Wa1で設定されている状態が示されている。又、
図13(a)に示すように、制御許可範囲Wpが第1許可範囲Wa1で設定されている場合、左右の制御許可範囲Wpが車線中央でオーバラップされ、オーバラップ内に自車両Mの車幅Mmが収まるように設定されている。尚、従来は、この第1許可範囲Wa1が制御許可範囲Wpとして一律に設定されていた。
【0060】
又、本実施形態では、第2許可範囲Wa2が逸脱判定横位置から車線中央までの範囲に設定されており、第3許可範囲Wa3が、自車両Mが車線中央を走行している際に、その車幅Wmとオーバラップしない範囲(横幅)に設定されている。更に、第4許可範囲Wa4は、第3許可範囲Wa3よりも更に逸脱判定横位置側に片寄った狭い範囲(横幅)に設定されている。従って、
図13(b)に示すように、車線の左右内側に設定される第3許可範囲Wa3、及び第4許可範囲Wa4の間には、逸脱抑止制御が許可されない不感帯範囲が設定される。
【0061】
ステップS22では、ステップS21で設定した車線形状評価フラグFφの値を参照し、Fφ=1の場合はステップS23へ進む。又、Fφ=0の場合はステップS24へジャンプする。
【0062】
Fφ=1、すなわち、車線曲率が大きい方に変化していると判定されて、ステップS23へ進むと、カメラユニット21で認識した車線中央のカーブ曲率R、舵角センサ15で検出した操舵角θst、ヨーレートセンサ14で検出したヨーレートyaw、或いは横加速度a等の道路形状の変化を検出するパラメータの何れかの過去の履歴から、過去(本実施形態では、前回演算時)の道路形状を調べる。
【0063】
そして、過去の道路形状が直線路の場合、自車両Mはカーブ入口に進入していると判定し、ステップS25へ進み、制御許可範囲Wpを第1許可範囲Wa1で設定して(Wp←Wa1)、
図5のステップS13へ進む。又、過去の道路形状がカーブ路の場合、自車両Mは緩カーブ路から急カーブ路に進んでいると判定し、ステップS26へ分岐し、制御許可範囲Wpを第2許可範囲Wa2で設定して(Wp←Wa2)、
図5のステップS13へ進む。
【0064】
一方、ステップS22で、Fφ=0、すなわち、車線曲率が小さい方に変化している、或いは変化がないと判定されて、ステップS24へ分岐すると、上述した道路形状の変化を示す各パラメータの何れかに基づいて現在の道路形状を調べる。
【0065】
そして、現在の道路形状がカーブ路の場合、自車両Mは急カーブ路から緩カーブ路に進行している、或いは車線曲率が一定のカーブ路を走行していると判定し、ステップS27ヘ進む。ステップS27では、制御許可範囲Wpを第3許可範囲Wa3で設定して(Wp←Wa3)、
図5のステップS13へ進む。又、現在の道路形状が直進路の場合、自車両Mはカーブ路の出口を走行していると判定し、或いは直進路を継続的に走行していると判定して、ステップS28へ分岐し、制御許可範囲Wpを第4許可範囲Wa4で設定して(Wp←Wa4)、
図5のステップS13へ進む。
【0066】
そして、
図5のステップS13へ進むと、制御開始横位置Coを検出する。
図14に示すように、この制御開始横位置Coは、自車両Mの車幅Mm中央から真横に設定されている逸脱判定横位置までの距離である。この横位置をカメラユニット21で検出した前方の走行環境に基づいて求める場合は、過去の走行環境の履歴を照合し、自車両Mが実際に通過する位置の走行環境から横位置を検出する。
【0067】
次いで、ステップS14へ進み、自車両Mの制御開始横位置Coが制御許可範囲Wp内にあるか否かを調べる。そして、自車両Mの制御開始横位置Coが制御許可範囲Wp内にある場合、ステップS15へ進む。又、自車両Mの制御開始横位置Coが上述した不感帯範囲にある場合は、そのままルーチンを抜ける。
【0068】
ところで、自車両Mを、運転者のハンドル操作によって走行させ、或いは車線維持(ALK:Active Lane Keep)制御によって走行させている状態であっても、路面凹凸等の影響を受けてハンドルが取られ、自車両Mにヨーモーメントが発生してしまう場合がある。上述した予測横移動量は、所定演算周期毎に常時求められており、このようなヨーモーメントが発生すると、そのときの自車両Mの挙動によっては、予測横移動量の軌跡が逸脱判定横位置を横切り、車線逸脱と誤判定してしまう場合がある。
【0069】
このような状況で、従来は、
図13(a)に示すように、第1制御範囲Wa1が制御許可範囲Wpとして一律に設定されていたので、車線逸脱抑制制御の介入が許可され、ステアリングの切り戻しや切り増しが交互に繰り返されてしまい、走行安定性が損なわれ易くなる。
【0070】
これに対し、本実施形態では、直線路走行の際には、ステップS28において制御許可範囲Wpが許可範囲の狭い第4制御範囲Wa4で設定されるため、
図13(b)に示すように、自車両Mは不感帯範囲を走行しているため、車線逸脱と判定されても、車線逸脱抑制制御の介入が許可されず、安定した走行性能を得ることができる。
【0071】
一方、直線路からカーブ路に繋がるカーブ入口では、上述したように、直進路において制御許可範囲Wpが第4制御範囲Wa4に設定されているため、この制御許可範囲Wp(=Wa4)がカーブ入口まで連続されてしまうと、
図14(a)に示すように、制御許可範囲Wpに設定されている許可範囲が狭いため、車線逸脱抑制制御が許可された時点では、既にカーブ入口を通過しており、逸脱を回避するための操舵制御を行っても車線逸脱を回避することは困難となる。この車線逸脱を無理に回避しようとすれば、急ブレーキ、急ハンドルによる切り増しジャークが高くなり、走行安定性が損なわれてしまうことになる。
【0072】
これに対し、本実施形態では、
図14(b)に示すように、自車両Mが直線路からカーブ入口に進入する場合、このカーブ入口では車線曲率が一定となるカーブ路に向かって、徐々に車線曲率が大きくなる。そのため、ステップS25において、制御許可範囲Wpは最も広い第1許可範囲Wa1で設定される。その結果、カーブ入口を通過するに際し、横加速度や横速度が次第に高くなる前から車線逸脱抑制制御による操舵介入がなされるため、安定した走行性能を得ることができる。
【0073】
次いで、ステップS15へ進み、目標横位置に基づいて切り増しジャークを設定する。この目標横位置は、本実施形態では逸脱判定横位置としているが、それよりもより内側に設定するようにしても良い。
図9に実線で示すように、制御パターンの切り増しジャークja(
図10参照)に基づく予測進行路では、逸脱判定横位置を逸脱してしまうため、制御パターンの切り増しジャークja’のように増加させる補正を行い、
図9に破線で示すように、予測進行路を逸脱判定横位置の手前で、自車両Mが区画線と平行になるように制御して逸脱を回避させる必要がある。
【0074】
この切り増しジャークja’の設定については種々の求め方があるが、例えば、制御バターンに予め設定されている基本となる切り増しジャークjaを基準として、予測進行路が逸脱判定横位置を横切らない最適な切り増しジャークja'を、2分探索法を用いて探索して設定するようにしても良い(
図10参照)。
【0075】
次いで、ステップS16へ進み、この切り増しジャークja'で、上述した(1)式の切り増し時横移動量の項を補正して、新たな予測横移動量を求める。その結果、
図9に破線で示すように、切り増し時横移動量の補正により経過時間T0~T1’においてステアリングが切り増しされるため、自車両Mが区画線と平行になったとき(経過時間T3)に逸脱判定横位置からの逸脱が回避される。
【0076】
そして、ステップS17へ進み、補正後予測横移動量に基づいて、自車両Mを補正後予測進行路に沿って走行させる操舵角を求め、ステップS18へ進んで、対応する操舵角信号を、操舵トルク演算部11dに送信して、ルーチンを抜ける。
【0077】
操舵トルク演算部11dでは、逸脱抑制制御演算部11cで求めた操舵角に対応する操舵トルクを求め、その駆動信号をEPS_ECU8へ送信する。EPS_ECU8は、LDP_ECU11から送信された操舵トルクに基づきEPSモータ7に対し、自車両Mの区画線からの逸脱を抑制するためのアシストトルクを発生させる。
【0078】
ここで、
図15に、自車両Mが直線路から、曲率が次第に大きい方向へ変化するカーブ路の入口に進入し、曲率が一定のカーブ路を通過して、曲率が次第に小さい方向へ変化するカーブ路の出口から直線路へ抜ける際の、LDP_ECU11で設定される制御許可範囲Wpの遷移を例示する。
【0079】
直進路走行時、車線曲率が変化しないため、車線形状評価フラグFφはクリアされており(Fφ=0)、しかも、直線路が継続されるため、
図6のステップS28で、制御許可範囲Wpは、最も許可範囲の狭い第4許可範囲Wa4に設定される(Wp←Wa4)。
【0080】
次いで、自車両Mがカーブ路の入口に進入すると、車線曲率が次第に大きくなるため、車線形状評価フラグFφはセットされ(Fφ=1)、走行路が直線から曲線に切り替わった直後であるためステップS25で、制御許可範囲Wpは、最も許可範囲の広い第1許可範囲Wa1に設定される(Wp←Wa1)。
【0081】
直線路と曲率一定のカーブ路との間は、クロソイド曲線等の緩和曲線によって接続されている。従って、曲率一定のカーブ路に達するまでは、曲線路の曲率が次第に大きくなるため、ステップS26において制御許可範囲Wpは、第2許可範囲Wa2に設定される(Wp←Wa2)。
【0082】
そして、曲率一定のカーブ路に到達すると、車線曲率が一定となるため車線形状評価フラグFφはクリアされており(Fφ=0)、しかも、カーブ路が継続されるため、
図6のステップS27で、制御許可範囲Wpは、第3許可範囲Wa3に設定される(Wp←Wa3)。
【0083】
その後、自車両Mがカーブ路の出口を通過するに際し、カーブ路の出口は緩和曲線により直線路に到達するまで、道路曲率が次第に小さくなるように設計されている。そのため、車線形状評価フラグFφはクリアされており(Fφ=0)、車線曲率は次第に小さくなり、従って、制御許可範囲Wpは第3許可範Wa3が継続される(Wp←Wa3)。
【0084】
そして、カーブ路の出口から直線路に抜けた直後は、
図6のステップS28で、制御許可範囲Wpが第4許可範囲Wa4に設定される(Wp←Wa4)。
【0085】
このように、本実施形態では、車線逸脱抑制制御の介入を許可する制御許可範囲Wpを、自車両Mが走行する道路形状に応じ、直線路では狭く、直線路からカーブ路の入口に進入する際には広く設定するようにしたので、直線路では不要な車線逸脱抑制制御の介入を防止することができ、又、直進路からカーブ路の入口への進入に際しては、早期に逸脱抑制制御の介入が可能となり、安定した走行制御を得ることができる。その結果、車線形状に応じた最適なタイミングで車線逸脱抑制制御を開始することができる。
【0086】
尚、本発明は、上述した実施形態に限るものではなく、例えば、左右の制御許可範囲Wpを設定する第2許可範囲Wa2の横幅は、車線中央でオーバラップするように設定されていても良い。
【符号の説明】
【0087】
2…ステアリング機構、
3…タイロッド、
4…ハンドル、
5…ステアリング軸、
6…EPS装置、
7…EPSモータ、
8…EPS_ECU、
11…LDP_ECU、
11a…横位置演算部、
11b…逸脱判定演算部、
11c…逸脱抑制制御演算部、
11d…操舵トルク演算部、
12…操舵トルクセンサ、
13…車速センサ、
14…ヨーレートセンサ、
15…舵角センサ、
21…カメラユニット、
22…車載カメラ、
22a…メインカメラ、
22b…サブカメラ、
23…画像処理部、
24…車線認識部、
Cdep…逸脱予測位置、
Co…制御開始横位置、
FL,FR…左右前輪、
Fc…逸脱抑制制御フラグ、
Fφ…車線形状評価フラグ、
M…自車両、
Mm…車幅、
R…カーブ曲率、
RL,RR…左右後輪、
Wa1~Wa4…第1~第4許可範囲、
Wm…車幅、
Wp…制御許可範囲、
a…横加速度、
ao…初期横加速度、
ae…終了時横加速度、
astd…制御標準横加速度、
ja,ja'…切り増しジャーク、
jd…切り戻しジャーク)、
yaw…ヨーレート、
θst…操舵角