(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-12
(45)【発行日】2023-09-21
(54)【発明の名称】擬似便、およびこれを用いた便潜血検査の精度管理方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/72 20060101AFI20230913BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20230913BHJP
G01N 33/96 20060101ALI20230913BHJP
【FI】
G01N33/72 A
G01N33/50 N
G01N33/96
(21)【出願番号】P 2019163916
(22)【出願日】2019-09-09
【審査請求日】2022-08-26
(31)【優先権主張番号】P 2018175109
(32)【優先日】2018-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000120456
【氏名又は名称】栄研化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【氏名又は名称】村雨 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100201606
【氏名又は名称】田岡 洋
(72)【発明者】
【氏名】山田 未佑
(72)【発明者】
【氏名】安居 良太
(72)【発明者】
【氏名】三池 彰
【審査官】西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-048074(JP,A)
【文献】特開平11-242027(JP,A)
【文献】特開平10-319022(JP,A)
【文献】特開2013-257216(JP,A)
【文献】特開平11-218533(JP,A)
【文献】米国特許第06933152(US,B1)
【文献】特開2014-043407(JP,A)
【文献】YASUI, R. et al.,Novel artificial stool material for external quality assurance (EQA) on a fecal immunochemical test for hemoglobin (FIT): The confirmed utility of stable hemoglobin and an internal standard material,CLINICA CHEMICA ACTA,2018年04月16日,Vol.483,p.76-81,https://doi.org/10.1016/j.cca.2018.04.021
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、ヘモグロビンとを含む擬似便であって、さらに、1種または複数種類の糖類と、ヘモグロビン断片化物とを含む、擬似便。
【請求項2】
前記糖類が
、アルドース、およびアルドースからなる二糖の少なくとも1種を含む、請求項1に記載の擬似便。
【請求項3】
前記糖類が
、グルコース、ガラクトース、トレハロース、ラクトース、およびマルトースからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1または2に記載の擬似便。
【請求項4】
前記糖類が炭素数4以上の糖類を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の擬似便。
【請求項5】
前記炭素数4以上の糖類が
、トレハロース
を含む、請求項4に記載の擬似便。
【請求項6】
前記糖類の含有量が1.5~70質量%である、請求項1~5のいずれか一項に記載の擬似便。
【請求項7】
前記ヘモグロビン断片化物がヘモグロビンの酵素部分分解物である、請求項1~6のいずれか一項に記載の擬似便。
【請求項8】
前記ヘモグロビン断片化物の鉄相当量が2~100μg/gである、請求項1~7のいずれか一項に記載の擬似便。
【請求項9】
内部標準物質を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の擬似便。
【請求項10】
前記内部標準物質がグリセロールである、請求項9に記載の擬似便。
【請求項11】
基材と、ヘモグロビンとを含む擬似便における前記ヘモグロビンを安定化する方法であって、
前記擬似便に、1種または複数種類の糖類と、ヘモグロビン断片化物とを含有させる、
擬似便中におけるヘモグロビンの安定化方法。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか一項に記載の擬似便を採取し、
当該採取した擬似便におけるヘモグロビンの採取量を測定する、方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法で得られたヘモグロビンの採取量と、擬似便の採取量とに基づき、前記擬似便中のヘモグロビンの含有量を算出する、方法。
【請求項14】
請求項9または10に記載の擬似便を採取し、
当該採取した擬似便におけるヘモグロビンの採取量および内部標準物質の採取量を測定する、方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法で得られた内部標準物質の採取量に基づき、擬似便の採取量を算出する、方法。
【請求項16】
請求項14に記載の方法で得られたヘモグロビンの採取量と、請求項15に記載の方法で得られた擬似便の採取量とに基づき、前記擬似便中のヘモグロビンの含有量を算出する、方法。
【請求項17】
請求項9または10に記載の擬似便を採取し、
当該採取した擬似便における内部標準物質の採取量を測定する、方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法で得られた内部標準物質の採取量に基づき、擬似便の採取量を算出する、方法。
【請求項19】
請求項13または16に記載の方法で得られた擬似便中のヘモグロビンの含有量を指標として用いる、便潜血検査の精度管理方法。
【請求項20】
請求項15または18に記載の方法で得られた擬似便の採取量を指標として用いる、便潜血検査の精度管理方法。
【請求項21】
請求項15または18に記載の方法で得られた擬似便の採取量を指標として用いる、採便容器の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘモグロビンが安定化した擬似便に関するものである。また、さらに本発明は、上記擬似便を用いた便潜血検査の精度管理方法および採便容器の評価方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
便潜血検査は、大腸癌の健診に重要なスクリーニング検査となっている。便潜血検査には、糞便表面の数ヶ所から掻き取った試料を一定量用いることが望ましい。このために、採取器具を含む定量的採便機構および糞便懸濁用溶液を含む懸濁機構や、さらにろ過機構を備えた採便容器が各種開発されている。これらの採便容器を利用して得られる糞便懸濁液のろ過液は、自動分析機に適用することができ、このため便潜血測定は自動化による大量処理が一般的となっている。
【0003】
便潜血検査は、その重要性にもかかわらず、まだ標準化が行われていない。全国的な検査値のサーベイランス(以下「サーベイ」ということがある。)は実施されているが、液状試料または各施設で使用時に調製を必要とする擬似便を用いているのが現状である。この原因として、便検体中のヘモグロビン等の安定性が極端に悪く、サーベイ用便検体を配布・保存する事が実質不可能であること、また採便した便量の誤差が大きいことなどが挙げられる。
【0004】
このうち、サーベイ用便検体については、大規模なサーベイを実施し信頼性の高い結果を得るためには、成分含量が安定し、かつ大量生産が可能な検体が必要となるが、天然の糞便を用いてこのような検体を製造することは現実的ではない。この点に関し、天然の糞便に代えて、米粉や小麦粉、ジャガイモデンプン、トウモロコシ粉、大豆蛋白などの基材に、ヘモグロビン等を含む水溶液を添加混合した人工的な擬似便が提案されている(例えば、特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-319022号公報
【文献】特開2003-185654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1や2の擬似便であっても、擬似便中のヘモグロビンが十分に安定化しているとはいえず、ヘモグロビン安定性のさらなる改善が望まれていた。
【0007】
そこで、本発明は、ヘモグロビンが安定化した擬似便を提供することを目的とする。また、本発明は、上記擬似便を用いた便潜血検査の精度管理方法を提供することをさらなる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記問題を解決すべく研究を行った結果、糖類と、ヘモグロビン断片化物とが、それぞれ単独ではヘモグロビン安定化効果が十分でないにも関わらず、これらを組み合わせて用いることにより、ヘモグロビンを顕著に安定化することを見出し、本発明を完成させるに至った。
具体的には、本発明は以下のとおりである。
【0009】
〔1〕 基材と、ヘモグロビンとを含む擬似便であって、さらに、1種または複数種類の糖類と、ヘモグロビン断片化物とを含む、擬似便。
〔2〕 前記糖類が、糖アルコール、アルドース、およびアルドースからなる二糖の少なくとも1種を含む、〔1〕に記載の擬似便。
〔3〕 前記糖類が、グリセロール、ソルビトール、マンニトール、エリスリトール、キシリトール、グルコース、ガラクトース、トレハロース、ラクトース、およびマルトースからなる群より選択される少なくとも1種を含む、〔1〕または〔2〕に記載の擬似便。
〔4〕 前記糖類が炭素数4以上の糖類を含む、〔1〕~〔3〕に記載の擬似便。
〔5〕 前記炭素数4以上の糖類が、ソルビトール、マンニトール、エリスリトール、キシリトール、およびトレハロースからなる群より選択される少なくとも1種を含む、〔4〕に記載の擬似便。
〔6〕 前記糖類の含有量が1.5~70質量%である、〔1〕~〔5〕に記載の擬似便。
〔7〕 前記ヘモグロビン断片化物がヘモグロビンの酵素部分分解物である、〔1〕~〔6〕に記載の擬似便。
〔8〕 前記ヘモグロビン断片化物の鉄相当量が2~100μg/gである、〔1〕~〔7〕に記載の擬似便。
〔9〕 内部標準物質を含む、〔1〕~〔8〕に記載の擬似便。
〔10〕 前記内部標準物質がグリセロールである、〔9〕に記載の擬似便。
〔11〕 基材と、ヘモグロビンとを含む擬似便における前記ヘモグロビンを安定化する方法であって、
前記擬似便に、1種または複数種類の糖類と、ヘモグロビン断片化物とを含有させる、
擬似便中におけるヘモグロビンの安定化方法。
〔12〕 〔1〕~〔10〕に記載の擬似便を採取し、
当該採取した擬似便におけるヘモグロビンの採取量を測定する、方法。
〔13〕 〔12〕に記載の方法で得られたヘモグロビンの採取量と、擬似便の採取量とに基づき、前記擬似便中のヘモグロビンの含有量を算出する、方法。
〔14〕 〔9〕または〔10〕に記載の擬似便を採取し、
当該採取した擬似便におけるヘモグロビンの採取量および内部標準物質の採取量を測定する、方法。
〔15〕 〔14〕に記載の方法で得られた内部標準物質の採取量に基づき、擬似便の採取量を算出する、方法。
〔16〕 〔14〕に記載の方法で得られたヘモグロビンの採取量と、〔15〕に記載の方法で得られた擬似便の採取量とに基づき、前記擬似便中のヘモグロビンの含有量を算出する、方法。
〔17〕 〔9〕または〔10〕に記載の擬似便を採取し、
当該採取した擬似便における内部標準物質の採取量を測定する、方法。
〔18〕 〔17〕に記載の方法で得られた内部標準物質の採取量に基づき、擬似便の採取量を算出する、方法。
〔19〕 〔13〕または〔16〕に記載の方法で得られた擬似便中のヘモグロビンの含有量を指標として用いる、便潜血検査の精度管理方法。
〔20〕 〔15〕または〔18〕に記載の方法で得られた擬似便の採取量を指標として用いる、便潜血検査の精度管理方法。
〔21〕 〔15〕または〔18〕に記載の方法で得られた擬似便の採取量を指標として用いる、採便容器の評価方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の擬似便は、糖類と、ヘモグロビン断片化物とを含有するため、ヘモグロビンが顕著に安定化したものとなる。また、当該擬似便を用いることにより、便潜血検査の精度管理が容易となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。
〔擬似便〕
本発明の一実施形態に係る擬似便は、基材と、ヘモグロビンとを含むものであって、さらに、糖類と、ヘモグロビン断片化物とを含む。
【0012】
1.基材
基材は、糞便に物理的性状を近似させることのできる素材であれば、その種類は特に限定されない。具体的には、米粉、小麦粉、大麦粉、トウモロコシ粉、大豆粉、ジャガイモ粉等の穀物粉;小魚粉末、甲殻類粉末、卵黄粉末等の動物性粉末;などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0013】
擬似便中における基材の含有量は、擬似便に付与することのできる物理的性状などに基づき適宜決定することでき、例えば、25~70質量%とすることができ、また35~65質量%とすることができ、さらには40~60質量%とすることができる。
なお、本明細書において、擬似便に含まれる各成分の「含有量」とは、擬似便の質量に対する各成分の質量の割合をいうものとする。
【0014】
2.ヘモグロビン
本実施形態の擬似便に用いるヘモグロビンは、便潜血検査で検出するヘモグロビンと同様に検出されるものである。より具体的には、ヒトヘモグロビンであることが好ましい。
擬似便中のヘモグロビンの含有量は、糞便中に通常検出される量と同程度の量であればよく、例えば、1~400μg/gとすることができ、また10~200μg/gとすることができる。
擬似便中のヘモグロビンの含有量は、擬似便を採取し、これに含まれるヘモグロビンの質量(採取量)を測定し、擬似便の質量で除することにより、算出することができる。ヘモグロビンの採取量は、便潜血検査と同様の手法により測定することができ、より具体的には、ラテックス凝集反応法、金コロイド凝集反応法、イムノクロマトグラフ法、またはELISA法等の免疫学的測定法;ヘモグロビンのペルオキシダーゼ様活性を利用した化学発色反応法;などにより測定することができる。
【0015】
なお、擬似便において検出されるマーカーは、ヘモグロビンであるが、さらに、ヘモグロビンに加えて、ハプトグロビン、ヘモグロビン-ハプトグロビン複合体、トランスフェリン、α-1アンチトリプシン、α-2マクログロブリン等の血液蛋白質や、カルプロテクチン等の蛋白質など、少なくとも1種の他のマーカーを検出するようにしてもよい。
【0016】
3.糖類
本実施形態における糖類は、後述するヘモグロビン断片化物と相乗的に作用し、ヘモグロビンを安定化することができる。
【0017】
ここで、本明細書においては、糖および糖アルコールを総称して「糖類」という。本実施形態においては、糖および糖アルコールのいずれを用いてもよい。
本実施形態において用いることのできる糖アルコールとしては、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、グリセロール等が含まれ、イノシトール、クエルシトール等のシクリトールを用いてもよい。
本実施形態において用いることのできる糖には、単糖、二糖、オリゴ糖が挙げられる。
単糖には、グルコース、ガラクトース、マンノース、キシロース、アラビノース等のアルドース;フルクトース、ソルボース等のケトースが含まれる。
二糖には、トレハロース、マルトース、ラクトース等が含まれる。
オリゴ糖には、単糖単位が3~10のものが含まれる。
これらの糖類は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また糖アルコールと糖とを適宜併用してもよい。
【0018】
ヘモグロビン断片化物との相乗的なヘモグロビン安定化作用に優れることから、上記糖類は、ケトース以外の糖類であることが好ましく、糖アルコール、アルドース、およびアルドースからなる二糖の少なくとも1種を含むことが特に好ましい。
また、ヘモグロビン断片化物との相乗的なヘモグロビンの安定化をより効果的に実現する観点から、上記糖類は、炭素数4以上の糖類を含むことが好ましく、炭素数5以上の糖類を含むことがさらに好ましい。
【0019】
ただし、グルコースやフルクトース等の、溶液中でアルデヒド基やケトン基を形成する、還元糖であるアルドースおよびケトースは、擬似便中のヘモグロビンと反応して蛋白質を修飾し、ヘモグロビンを修飾して糖化ヘモグロビンを形成したりすることがある。例えば、免疫学的測定法で用いる抗体の種類によっては、ヘモグロビンのエピトープまたはその近傍が還元糖により修飾され構造が変化すると、抗体が擬似便中に含まれるヘモグロビンを認識できなくなり、正確な測定ができなくなる場合がある。そのため、かかる観点が問題となり得る場合には、糖類として非還元糖類を用いることが好ましく、より具体的には、糖アルコール、およびアルドースからなり還元末端を有しない二糖を用いることがさらに好ましい。
非還元糖類としては、グリセロール、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、およびトレハロースからなる群から選ばれる少なくとも一種であってよい。
【0020】
また、本実施形態の擬似便を製造するにあたり、後述するように、基材以外の成分を水に溶解させた水溶液を調製し、基材と混合する場合がある。このような場合には、かかる水溶液を調製しやすいものとする観点から、上記糖類は、25℃における水への溶解度が20質量%以上であることが好ましく、35質量%以上であることが特に好ましい。
【0021】
以上の観点から、具体的な糖類としては、グリセロール、ソルビトール、マンニトール、エリスリトール、キシリトール、グルコース、ガラクトース、トレハロース、ラクトース、およびマルトースが好ましく、中でも、炭素数4以上の非還元糖であるソルビトール、マンニトール、エリスリトール、キシリトール、およびトレハロースが好ましく、さらに、水への溶解度が高いソルビトール、キシリトールおよびトレハロースが特に好ましい。
また、一部の糖類は、後述する内部標準物質として用いることもできる(詳細は後述する)。
【0022】
本実施形態に係る擬似便中の糖類の含有量は、下限値が1.5質量%であることが好ましく、5質量%であることがさらに好ましく、10質量%であることが特に好ましい。糖類の含有量が上記下限値以上であると、擬似便におけるヘモグロビンの安定化効果がより一層顕著なものとなる。
一方、糖類の含有量の上限値は特に限定されないが、70質量%であってよく、また50質量%であってよく、さらには40質量%であってよい。糖類の含有量が上記上限値以下であっても、本実施形態によればヘモグロビンの安定化効果は十分に発揮される。
【0023】
また、糖類として炭素数4以上の糖類を含む場合、擬似便中における炭素数4以上の糖類の含有量は、下限値が1質量%であることが好ましく、3質量%であることがさらに好ましく、8質量%であることが特に好ましい。炭素数4以上の糖類の含有量が上記下限値以上であると、擬似便におけるヘモグロビンの安定化効果がより一層顕著なものとなる。
一方、炭素数4以上の糖類の含有量の上限値は、特に限定されないが、50質量%であってよく、また45質量%であってよく、さらには35質量%であってよい。炭素数4以上の糖類の含有量が上記上限値以下であっても、本実施形態によればヘモグロビンの安定化効果は十分に発揮される。
【0024】
4.ヘモグロビン断片化物
本実施形態で用いるヘモグロビン断片化物は、ヘモグロビンを断片化したものである。
ヘモグロビン断片化物は、前述した糖類と相乗的に作用し、ヘモグロビンを安定化することができる。
【0025】
断片化されるヘモグロビンの由来動物は限定されず、例えば、ヒト又はヘモグロビンを有するヒト以外の脊椎動物であってよく、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ等の哺乳類、鳥類、魚類等であってもよい。
断片化する方法としては、酵素分解法、化学分解法等が挙げられるが、酵素分解法によることが好ましい。酵素分解法において用いる酵素は、タンパク質分解酵素であれば特に制限されず、ペプシン、アルカラーゼ等の汎用のタンパク質分解酵素を用いることができる。
また、酵素分解法においては、ヘモグロビンの安定化効果を優れたものとする観点から、部分分解にとどめることが好ましい。すなわち、上記ヘモグロビン断片化物としては、ヘモグロビンの酵素部分分解物であることが好ましい。
【0026】
本実施形態に係る擬似便中のヘモグロビン断片化物の鉄相当量は、下限値が2μg/gであることが好ましく、10μg/gであることがさらに好ましく、20μg/gであることが特に好ましい。また、上記ヘモグロビン断片化物の鉄相当量は、上限値が100μg/gであることが好ましく、70μg/gであることがさらに好ましく、50μg/gであることが特に好ましい。
ヘモグロビン断片化物の鉄相当量が上記範囲にあると、ヘモグロビン断片化物によるヘモグロビン安定化効果がより一層顕著なものとなる。
【0027】
ここで、本実施形態において、ヘモグロビン断片化物の鉄相当量は、ヘムを介してヘモグロビン断片化物に結合している鉄イオンの量である。
擬似便中におけるヘモグロビン断片化物の鉄相当量は、例えば、オルト-フェナントロリン比色法または原子吸光法等の公知の方法により測定することができる。例えば、分子量を指標に、電気泳動、質量分析、ゲルろ過クロマトグラフィー、限外ろ過等により、ヘモグロビン断片化物を含む画分を擬似便から分画し、得られた画分中の鉄量を上記方法により測定することができる。また、より簡便には、擬似便中の全鉄量を上記方法により測定し、またヘモグロビン含有量を別途測定・算出したうえで、ヘモグロビンにおける鉄量の比(ヘモグロビン1gあたり鉄3.39mg)からヘモグロビン由来の鉄量を算出し、全鉄量から減算した値を、ヘモグロビン断片化物の鉄相当量としてもよい。
【0028】
擬似便中におけるヘモグロビン断片化物の含有量は、ヘモグロビン1質量部に対し、下限値が1質量部であることが好ましく、3質量部であることがさらに好ましく、10質量部であることが特に好ましい。上記ヘモグロビン断片化物の含有量は、ヘモグロビン1質量部に対し、上限値が80質量部であることが好ましく、60質量部であることがさらに好ましく、40質量部であることが特に好ましい。
ここで、上記擬似便中のヘモグロビン断片化物の含有量は、採取した擬似便におけるヘモグロビン断片化物の質量(採取量)を擬似便の採取量で除することにより、算出することができる。ヘモグロビン断片化物の採取量は、例えば、分子量を指標に、電気泳動、質量分析、ゲルろ過クロマトグラフィー、限外ろ過等により、ヘモグロビン断片化物とヘモグロビンとを分離(あるいは分画)し、定量することで測定することができる。また、ヘモグロビンおよびヘモグロビン断片化物は、ヘムの吸光を指標にその他の成分と分離(あるいは分画)することができる。
【0029】
5.内部標準物質
本実施形態に係る擬似便は、内部標準物質を含むことが好ましい。
内部標準物質を含むことで、擬似便を採取して便潜血検査に供する際に、内部標準物質の採取量を測定することにより、擬似便の採取量を算出することができる。
【0030】
便潜血検査において、大規模なサーベイの実施が困難な理由として、信頼性(ヘモグロビン安定性)に優れたサーベイ用便検体が提供されていないこと、また採便した便量の誤差が大きいことなどが挙げられる。採便量の誤差は、採便容器の種類の他、採便者の採便手技の巧拙などにも大きく依存しており、採便量の誤差を解消することは極めて困難であった。この点に関し、本実施形態の好ましい一態様においては、内部標準物質を用いて擬似便の採取量を算出するため、擬似便の採取量に誤差が生じていたとしても、その値を補正することができる。
【0031】
本実施形態において使用し得る内部標準物質としては、採取量の測定が容易であること、安定であること、ヘモグロビンの安定性や測定に悪影響を与えないこと等が望まれる。
より具体的には、便潜血検査と同様に臨床検査の分野で簡易に測定することの可能な、グリセロール、グリセロール-3-リン酸、乳酸、コリン、グルコースやマルトース、トレハロース等の糖、4-アミノアンチピリン、p-ニトロフェノール、p-ニトロアニリン、リン酸塩等が挙げられ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、グリセロール、グリセロール-3-リン酸、乳酸、グルコース、4-アミノアンチピリンが好ましく、安定性に優れ、測定が簡便でかつ感度に優れ、高濃度での添加が可能であり、さらにヘモグロビンの安定化効果をも有することから、グリセロールが特に好ましい。
これらの内部標準物質は、臨床検査施設で測定されている従来公知の方法により、採取量を容易に測定することができる。
【0032】
また、内部標準物質として、前述した糖類に包含される物質を用いることもできる。かかる内部標準物質は、採取量の測定が容易であるとともに、ヘモグロビンを安定化する効果を有しており、本実施形態において特に好適に用いることができる。このような、内部標準物質としても用いることのできる糖類としては、例えば、グリセロール、グルコース、マルトース、トレハロース等が挙げられ、中でもグリセロールが特に好ましい。内部標準物質としてグリセロールを用いる場合には、例えば、炭素数4以上の糖類(ソルビトール等)とグリセロールとを併用することもまた好ましい。
【0033】
擬似便中における内部標準物質の含有量は、下限値が0.5質量%であることが好ましく、1質量%であることがより好ましく、2質量%であることがさらに好ましく、4質量%であることが特に好ましい。内部標準物質の含有量が上記下限値以上であると、擬似便を採取したときに、内部標準物質の採取量の測定がより一層容易なものとなり、擬似便の採取量を精度よく算出することができる。
一方、内部標準物質の含有量の上限値は特に限定されないが、50質量%であってよく、また30質量%であってよく、さらに20質量%であってよく、さらにまた10質量%であってよい。内部標準物質の含有量が上記上限値以下であっても、内部標準物質の採取量の測定は容易であり、また測定にあたり希釈などの操作を省略しやすくなり、擬似便の採取量を精度よく簡便に算出することができる。
【0034】
6.その他の成分
本実施形態に係る擬似便は、粘度調整等の観点から、必要に応じて、水を配合することもできる。擬似便中における水の含有量は、下限値を0質量%とすることができ、また5質量%とすることができ、さらには10質量%とすることができ、さらには、30質量%とすることができる。一方、水の含有量の上限値は、65質量%とすることでき、また60質量%とすることができ、さらには50質量%とすることができる。
【0035】
上記水には、塩類や緩衝剤等を加え、生理食塩水等の塩類水溶液や緩衝剤を含む緩衝液などの水性溶液とすることができる。塩類としては、食塩、リン酸塩等を適宜用いることができ、緩衝液としては、HEPES、PIPES等のグッド緩衝液、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、グリシン緩衝液、グリシルグリシン緩衝液またはこれら緩衝剤の混合液等を適宜用いることができる。水性溶液のpHは、具体的にはpH5~10であることができ、ヘモグロビンの安定性の点からpH6~8が好ましい。
【0036】
さらに、本実施形態に係る擬似便は、本実施形態の効果を損なわない範囲において、前述した成分の他、アジ化ナトリウム等の防腐剤;着色料;安息香酸類、ソルビン酸類等の保存料;オルトフェニルフェノール類、ジフェニル、チアベンタゾール等の防かび剤などを適宜配合することができる。
【0037】
7.擬似便の製造方法
本実施形態の擬似便は、上記成分を含有させることができれば、その製造方法は特に制限されないが、擬似便中の均質性をより高める観点から、基材以外の成分、すなわち、ヘモグロビン、糖類、ヘモグロビン断片化物、さらに所望により内部標準物質やその他の成分を、水等の適当な溶媒にて溶解し、得られた溶液を基材とよく混合し、基材に溶液を含浸させる等の方法が挙げられる。この場合、基材と溶液の質量比は、1:0.5~1:1.7が好ましく、1:0.6~1:1.6がより好ましく、1:0.7~1:1.5が特に好ましい。
別の方法として、基材およびその他の成分を混合した後、得られた混合物と水等の適当な溶媒とを混合する等の方法が挙げられる。
均質かどうかの確認は、得られた擬似便の数か所を適宜サンプリングして、ヘモグロビンや内部標準物質等の濃度を測定することにより確認することができる。
得られた擬似便は、低温条件(例えば、4℃以下、好ましくは-10℃以下)で保存することができ、使用時に室温等に戻して使用することができる。
【0038】
以上述べた実施形態に係る擬似便によれば、糖類と、ヘモグロビン断片化物とを含有するため、ヘモグロビンが顕著に安定化したものとなる(本発明に係る擬似便中におけるヘモグロビンの安定化方法に該当)。また、かかる擬似便は、便潜血検査の精度を管理する目的で用いるのに好適である。
【0039】
さらに、かかる擬似便は、調製済みの擬似便として提供することもでき、使用者により使用直前に水で溶解し基材と混合する用時調製を必要としない。
【0040】
なお、擬似便に含有されるヘモグロビンは、理想的には包装中、輸送中、各施設における保存中、使用中、それぞれにおいて出荷時のヘモグロビン含有量と同じ含有量でなければならない。しかし、その安定性試験においては、時間的な制約、各系の違いを明確にするため、非常に過酷な試験条件で試験を行った。上記包装中、輸送中、各施設における保存中、使用中などを室温(約20~25℃)において行うというやや過酷な条件を想定して見た場合、室温内で一定期間安定である事も確認している。(データは省略)
【0041】
〔便潜血検査の精度管理方法,採便容器の評価方法〕
本実施形態に係る便潜血検査の精度管理方法および採便容器の評価方法は、上記実施形態に係る擬似便を使用するものである。
本実施形態においては、擬似便中のヘモグロビンが高度に安定化されているため、かかる擬似便を検体として用いることにより、便潜血検査の精度を管理することができる。
【0042】
ここで、本明細書において、擬似便の採取量(採便量ともいうことがある)とは、本実施形態に係る精度管理方法において採取した擬似便の質量をいう。
また、本明細書において、擬似便に含まれる各成分(ヘモグロビン、内部標準物質等)の採取量とは、上記採取した擬似便に含まれる各成分の質量をいう。なお、本実施形態において、擬似便中のヘモグロビンまたは内部標準物質の採取量は、例えば、採取した擬似便を、緩衝液等を含む溶液に懸濁し、その懸濁液について公知の方法でヘモグロビンまたは内部標準物質の濃度を測定し、得られた濃度と溶液量とを用いて求めることができる。
【0043】
本実施形態によれば、ヘモグロビンの採取量と擬似便の採取量のデータから誤差の要因を特定する事も可能になり、精度管理がより一層容易となる。即ち、ヘモグロビン採取量を用いた場合には、便の採取段階の誤差とヘモグロビンの測定誤差とを合わせたトータルの検査誤差が明らかになる。一方、ヘモグロビン採取量をそれに相当する各擬似便の採取量で除することで算出されるヘモグロビン含有量を用いた場合には、採便誤差が補正され、誤差が存在する場合には純粋にヘモグロビンを測定する試薬と測定装置における誤差であることが明らかになり、検査のどの段階に問題があるかも理解でき、対応策も具体的になる。
【0044】
本実施形態に係る精度管理方法の好ましい一態様は、例えば、以下のように行うことができる(精度管理方法(1))。
(1a)上記実施形態に係る擬似便を採取し、当該採取した擬似便におけるヘモグロビンの採取量を測定する。
(1b)上記(1a)で得られたヘモグロビンの採取量と、擬似便の採取量とに基づき、擬似便中のヘモグロビンの含有量を算出する。
(1c)便潜血検査の精度管理方法において、上記(1b)で得られた擬似便中のヘモグロビンの含有量を指標として用いる。
【0045】
ここで、上記(1b)における擬似便の採取量について、例えば、採取した擬似便の質量を測定し、得られた測定値を上記(1b)における擬似便の採取量として用いることができる。
また、擬似便の採取に用いる採便容器の機構等により、採便量が一定値とみなせる場合には、かかる値を上記(1b)における擬似便の採取量として用いてもよい。
さらに、擬似便として内部標準物質を含むものを用いる場合には、採取した擬似便における内部標準物質の採取量を測定し、これに基づき擬似便の採取量を算出してもよい(後述する精度管理方法(2))。
【0046】
上記(1a)~(1c)は、同一の実施者(例えば、検査施設)が全工程を一括して行ってもよい。かかる精度管理方法としては、当該検査施設における装置間や日差間の変動の管理などが挙げられる。
また、上記(1a)~(1c)は、2以上の実施者が任意の工程を分担して行ってもよい。例えば、上記(1a)のみ、または上記(1a)および(1b)を、便潜血検査の検査施設が行い、得られた結果を精度管理実施機関が集計し、当該精度管理実施機関が上記(1b)以降(または上記(1c))を行ってもよい。かかる精度管理方法としては、例えば、採便容器間の精度管理、さらにはコントロールサーベイなどが挙げられる。
【0047】
本実施形態に係る精度管理方法の別の好ましい一態様は、例えば、以下のように行うことができる(精度管理方法(2))。
(2a)上記実施形態に係る擬似便(さらに内部標準物質を含むもの)を採取し、当該採取した擬似便におけるヘモグロビンの採取量および内部標準物質の採取量を測定する。
(2b)上記(2a)で得られた内部標準物質の採取量に基づき、擬似便の採取量を算出する。
(2c)上記(2a)で得られたヘモグロビンの採取量と、上記(2b)で得られた擬似便の採取量とに基づき、擬似便中のヘモグロビンの含有量を算出する。
(2d)便潜血検査の精度管理方法において、上記(2c)で得られた擬似便中のヘモグロビンの含有量を指標として用いる。
【0048】
精度管理方法(2)における(2a)~(2d)は、前述した精度管理方法(1)と同様に、同一の実施者が全工程を一括して行ってもよく、2以上の実施者が任意の工程を分担して行ってもよい。
2以上の実施者が分担して行う場合は、例えば、上記(2a)のみ、または(2b)までもしくは(2c)までを便潜血検査の検査施設が行い、得られた結果を精度管理実施機関が集計し、当該精度管理実施機関が(2b)以降(または(2c)以降,(2d)のみ)を行ってもよい。さらに、検査施設および精度管理実施機関以外の実施者が(2b)および/または(2c)を実施してもよい。
【0049】
内部標準物質を含む擬似便を精度管理に用いる場合には、擬似便の採取量を指標として用いてもよい。
例えば、本実施形態に係る精度管理方法のさらに別の好ましい一態様は、以下のように行うこともできる(精度管理方法(3))。
(3a)上記実施形態に係る擬似便(さらに内部標準物質を含むもの)を採取し、当該採取した擬似便における内部標準物質の採取量を測定する。
(3b)上記(3a)で得られた内部標準物質の採取量に基づき、擬似便の採取量を算出する。
(3c)便潜血検査の精度管理方法において、上記(3b)で得られた擬似便の採取量を指標として用いる。
【0050】
精度管理方法(3)における(3a)~(3c)は、前述した精度管理方法(1)および(2)と同様に、同一の実施者が全工程を一括して行ってもよく、2以上の実施者が任意の工程を分担して行ってもよい。
2以上の実施者が分担して行う場合は、例えば、上記(3a)のみ、または(3b)までを便潜血検査の検査施設が行い、得られた結果を精度管理実施機関が集計し、当該精度管理実施機関が(3b)以降(または上記(3c)のみ)を行ってもよい。
【0051】
さらに、便潜血検査の精度管理方法において、擬似便の採取量を指標として用いる場合の変形例として、前述した精度管理方法(2)の(2a)および(2b)に相当する工程を行い擬似便の採取量を算出したうえで、得られた擬似便の採取量を便潜血検査の精度管理方法の指標として用いてもよい。
【0052】
また、擬似便の採取量を指標とする方法は、便潜血検査の精度管理に限られず、例えば、採便容器の評価に用いてもよい。より具体的には、採便容器の設計や、試作、完成した採便容器の性能の検査などの際に、上記擬似便を使用して採便し、測定又は算出することにより得られた擬似便の採取量を指標とすることにより、採便容器の性能等を評価することができる。特に、上記擬似便(内部標準物質を含むもの)を使用して採便し、内部標準物質の採取量を測定する事によって採便容器に採取された擬似便量を算出して得られた擬似便量を指標とすることにより、採便容器の性能等を評価することが好ましい。このような方法の好ましい一例として、例えば、上記精度管理方法(2)や精度管理方法(3)と同様の工程を経て擬似便の採取量を算出したうえで、得られた擬似便の採取量を、採便容器の評価方法の指標とする態様が挙げられる。
なお、採便容器の評価には、採便容器の精度を管理することを含むことができる。
【0053】
以上述べた便潜血検査の精度管理方法によれば、擬似便中のヘモグロビンが高度に安定化されているため、便潜血検査の精度を管理することが容易となる。さらに、擬似便が内部標準物質を含む場合は、精度管理がより一層容易となり、また採便容器の評価を行うこともできる。
【0054】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例】
【0055】
以下、製造例、試験例等を示すことにより本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の製造例、試験例等に何ら限定されるものではない。
【0056】
〔製造例〕擬似便の調製
米粉(五百城ニユートリイ社製)を脱イオン水にて洗浄し、濾過して乾燥した。得られた米粉の洗浄物を基材として用いた。
【0057】
一方、50mMのHEPES緩衝液に、下記成分を含有させ、添加溶液を調製した。
・ヒトヘモグロビンA0(シグマアルドリッチ社製):100μg/mL(添加溶液中)
・糖類:擬似便中の濃度は表中に記載
・タンパク質分解酵素によるブタ由来のヘモグロビン断片化物(ILS社製,ヘムロン2HiWS,鉄含有量2.1質量%):擬似便中の濃度は表中に記載
・アジ化ナトリウム(富士フイルム和光純薬社製):0.09質量%(擬似便中)
ここで、ヘモグロビン断片化物は、SDS-PAGE分析では分子量3kDa~9kDaの位置にブロードなバンドが確認できるものであり、断片化されていないヒトヘモグロビン(α鎖、β鎖いずれも16kDa程度)と区別されるものである。
【0058】
上記基材(米粉の洗浄物)と添加溶液とを、質量比1:1.5で混合し、ペースト状の擬似便を調製した。得られた擬似便は、加速試験に用いるまで-20℃で保管した。
加速試験は、擬似便を解凍後、加速試験前、加速試験(45℃:1日,3日,7日)後にそれぞれサンプルを採取し、次に述べるヘモグロビン測定に供した。
【0059】
〔試験例〕擬似便のヘモグロビンの測定
加速試験前または加速試験後の擬似便の数カ所から、約10~20mgのサンプルを取り、その採取量(mg)を測定したうえで、4mLの緩衝液が入った試験管に入れて撹拌してサンプルを懸濁させた。試験管中の懸濁液を遠心分離し、その上清をヘモグロビン測定のために供した。
ヘモグロビン測定試薬はOC-ヘモディアオートIII‘栄研’(栄研化学社製)を使用し、OCセンサーDIANA(栄研化学社製)を用いて測定した。
得られたヘモグロビン測定値(ng/mL)に基づき、下記式により、予め測定した擬似便の採取量(mg)で除し、緩衝液量(4mL)で補正してヘモグロビン補正濃度(μg/g便)を算出した。
ヘモグロビン補正濃度=(測定値/採取量)×緩衝液量
得られた結果より、加速試験後のヘモグロビン補正濃度を加速試験前の同濃度で除することにより、ヘモグロビン残存率としてヘモグロビンの安定性を評価した。
結果を表1~表6に示す。なお、同じ表に示した試料については、加速試験を同時並行で行った。
【0060】
【0061】
表1に示すように、グリセロールとヘモグロビン断片化物とを併用することにより、グリセロールの濃度依存的にヘモグロビンが安定化した。また、糖類としてグリセロールとソルビトールとを併用することにより、ヘモグロビンの安定性がより顕著なものとなった。
【0062】
【0063】
表2に示すように、ソルビトールについても、濃度依存的にヘモグロビンが安定化する効果が認められた。
【0064】
【0065】
表3に示すように、ヘモグロビン断片化物と糖類との併用によりヘモグロビンは安定化し、さらに、ヘモグロビン断片化物の鉄相当量が、2~70μg/gであると、安定化効果はより顕著なものとなった。また、ヘモグロビン断片化物の含有量が、ヘモグロビン1質量部に対し1~60質量部であると、ヘモグロビン安定化効果はより顕著なものとなった。
【0066】
【0067】
表4に示すように、ソルビトール以外の糖類を用いても、ヘモグロビン断片化物との併用によるヘモグロビン安定化効果が認められ、中でもソルビトール、キシリトール(以上、糖アルコール)、グルコース(アルドース)、トレハロース(アルドースからなる二糖)については、ヘモグロビン安定化効果が顕著であった。
【0068】
【0069】
表5に示すように、ガラクトース(以上、アルドース)、トレハロース、ラクトースおよびマルトース(以上、アルドースからなる二糖)についても、ヘモグロビン断片化物との併用により優れたヘモグロビン安定化効果が認められた。
【0070】
【0071】
表6に示すように、ソルビトールおよびキシリトールに加え、エリスリトール(糖アルコール)についても、ヘモグロビン断片化物との併用により優れたヘモグロビン安定化効果が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明によれば、ヘモグロビンが高度に安定化された擬似便を提供することができ、かかる擬似便は、コントロールサーベイをはじめとする便潜血検査の精度管理に極めて有用である。