IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋ゴム工業株式会社の特許一覧

特許7348832空気入りタイヤのサイプ長の算出方法および算出装置
<>
  • 特許-空気入りタイヤのサイプ長の算出方法および算出装置 図1
  • 特許-空気入りタイヤのサイプ長の算出方法および算出装置 図2
  • 特許-空気入りタイヤのサイプ長の算出方法および算出装置 図3
  • 特許-空気入りタイヤのサイプ長の算出方法および算出装置 図4
  • 特許-空気入りタイヤのサイプ長の算出方法および算出装置 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-12
(45)【発行日】2023-09-21
(54)【発明の名称】空気入りタイヤのサイプ長の算出方法および算出装置
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/10 20200101AFI20230913BHJP
   G06F 30/20 20200101ALI20230913BHJP
   B60C 19/00 20060101ALI20230913BHJP
【FI】
G06F30/10
G06F30/20
B60C19/00 Z
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019231748
(22)【出願日】2019-12-23
(65)【公開番号】P2021099712
(43)【公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(72)【発明者】
【氏名】瓜生 智則
【審査官】堀井 啓明
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-201390(JP,A)
【文献】特開2015-059888(JP,A)
【文献】特開2007-153056(JP,A)
【文献】特開2006-78287(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00-30/28
B60C 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータを利用して空気入りタイヤのサイプ長を算出する方法であって、
空気入りタイヤのCADデータを取得し、
取得した前記CADデータを表示させ、
表示された前記CADデータにおいて抽出領域の特定を受け付け、
前記抽出領域内のサイプを抽出してアクティブリストに追加し、
前記アクティブリスト内の全ての前記サイプの長さの合計値を算出する
ことを含む、空気入りタイヤのサイプ長の算出方法。
【請求項2】
前記アクティブリストに追加されている前記サイプを識別可能に表示する、請求項1に記載の空気入りタイヤのサイプ長の算出方法。
【請求項3】
前記抽出領域の特定は、矩形領域を画定することにより行う、請求項1または請求項2に記載の空気入りタイヤのサイプ長の算出方法。
【請求項4】
前記空気入りタイヤは、複数の溝によって画定された陸部を有し、
前記抽出領域の特定は、前記陸部を選択することにより行う、請求項1または請求項2に記載の空気入りタイヤのサイプ長の算出方法。
【請求項5】
前記抽出領域の特定および前記サイプの前記アクティブリストへの追加は、加算的に行われる、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の空気入りタイヤのサイプ長の算出方法。
【請求項6】
算出される前記サイプの長さの合計値は、前記サイプの全長の合計値を含む、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の空気入りタイヤのサイプ長の算出方法。
【請求項7】
算出される前記サイプの長さの合計値は、前記サイプのタイヤ幅方向成分の合計値を含む、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の空気入りタイヤのサイプ長の算出方法。
【請求項8】
算出される前記サイプの長さの合計値は、前記サイプのタイヤ周方向成分の合計値を含む、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の空気入りタイヤのサイプ長の算出方法。
【請求項9】
空気入りタイヤのCADデータを表示する出力部と、
出力部に表示された前記CADデータにおいて抽出領域の特定を受け付ける抽出領域特定部と、
前記抽出領域内のサイプを抽出してアクティブリストに追加するサイプ抽出部と、
前記アクティブリスト内の全ての前記サイプの長さの合計値を算出する算出部と
を備える、空気入りタイヤのサイプ長の算出装置。
【請求項10】
前記サイプ抽出部は、前記アクティブリストに追加されている前記サイプを前記出力部で識別可能に表示する、請求項9に記載の空気入りタイヤのサイプ長の算出装置。
【請求項11】
前記抽出領域特定部は、前記抽出領域の特定を、矩形領域を画定することにより行う、請求項9または請求項10に記載の空気入りタイヤのサイプ長の算出装置。
【請求項12】
前記空気入りタイヤは、複数の溝によって画定された陸部を有し、
前記抽出領域特定部は、前記抽出領域の特定を、前記陸部を選択することにより行う、請求項9または請求項10に記載の空気入りタイヤのサイプ長の算出装置。
【請求項13】
前記アクティブリストを記憶する記憶部をさらに備え、
前記抽出領域特定部での前記抽出領域の特定および前記サイプ抽出部での前記サイプの前記アクティブリストへの追加は、前記記憶部内の前記アクティブリストに対して加算的に行われるように構成されている、請求項9から請求項12のいずれか1項に記載の空気入りタイヤのサイプ長の算出装置。
【請求項14】
前記算出部で算出される前記サイプの長さの合計値は、前記サイプの全長の合計値を含む、請求項9から請求項13のいずれか1項に記載の空気入りタイヤのサイプ長の算出装置。
【請求項15】
前記算出部で算出される前記サイプの長さの合計値は、前記サイプのタイヤ幅方向成分の合計値を含む、請求項9から請求項14のいずれか1項に記載の空気入りタイヤのサイプ長の算出装置。
【請求項16】
前記算出部で算出される前記サイプの長さの合計値は、前記サイプのタイヤ周方向成分の合計値を含む、請求項9から請求項15のいずれか1項に記載の空気入りタイヤのサイプ長の算出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤのサイプ長の算出方法および算出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤのトレッド部には、サイプと称される細かい溝が形成されている。サイプは、一般にトラクション性能および氷上性能などのタイヤ性能を調整するために複数形成されている。タイヤ性能の調整では、複数のサイプの形状および数などを調整し、複数のサイプの合計長を調整する。従って、タイヤ性能を効率的に調整するためには、複数のサイプの合計長を容易に算出できる方法が必要である。
【0003】
しかし、サイプの数は膨大であり、一つ一つを視認して数えるのは非効率である。そこで、コンピュータ計算によって自動的にサイプの長さを算出することが好ましい。このようにコンピュータ計算によって特定要素の寸法を算出する方法は、従来から存在する。例えば、特許文献1には、艤装部品組付位置の採寸方法が開示されている。当該方法では、艤装部品組付位置の所定の寸法が自動的に表示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-252577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の方法は、艤装部品組付位置の所定の寸法を対象としているが、空気入りタイヤのサイプを対象とするときに改善の余地がある。即ち、特許文献1の方法は、膨大な数のサイプの合計長を効率的に算出することに関して改善の余地がある。
【0006】
本発明は、空気入りタイヤのサイプ長の算出方法および算出装置において、複数のサイプの長さの合計値を効率的に算出することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様は、コンピュータを利用して空気入りタイヤのサイプ長を算出する方法であって、空気入りタイヤのCADデータを取得し、取得した前記CADデータを表示させ、表示された前記CADデータにおいて抽出領域の特定を受け付け、前記抽出領域内のサイプを抽出してアクティブリストに追加し、前記アクティブリスト内の全ての前記サイプの長さの合計値を算出することを含む、空気入りタイヤのサイプ長の算出方法を提供する。
【0008】
この方法によれば、任意の抽出領域を特定し、特定された抽出領域における複数のサイプの長さの合計値を効率的に算出できる。特に、アクティブリストを採用しているため、長さの合計値を算出するサイプと、それ以外のサイプとを容易に区別できる。
【0009】
前記アクティブリストに追加されている前記サイプを識別可能に表示してもよい。
【0010】
この方法によれば、いずれのサイプがアクティブリストに追加されているかを容易に認識できる。識別可能な表示の方法は、特に限定されないが、例えば、アクティブリストに追加されているサイプを表示する線色、線種、または線の太さを変更するなどを採用し得る。
【0011】
前記抽出領域の特定は、矩形領域を画定することにより行ってもよい。
【0012】
この方法によれば、抽出領域を簡易かつ視覚的に特定できる。
【0013】
前記空気入りタイヤは、複数の溝によって画定された陸部を有し、前記抽出領域の特定は、前記陸部を選択することにより行ってもよい。
【0014】
この方法によれば、陸部ごとにサイプの長さの合計値を算出できる。サイプはトラクション性能および氷上性能などのタイヤ性能を調整するために使用されるため、空気入りタイヤの表面に形成される。換言すれば、溝部内ではなく陸部表面に形成される。このため、特定の陸部がタイヤ性能にどれだけ寄与するかを容易に算出できる。
【0015】
前記抽出領域の特定および前記サイプの前記アクティブリストへの追加は、加算的に行われてもよい。
【0016】
この方法によれば、抽出領域の特定およびアクティブリストへの追加を一度だけで完結するのではなく、必要に応じて何度も追加して実行できる。これにより、連続的な評価を可能にし、作業効率を向上できる。
【0017】
算出される前記サイプの長さの合計値は、前記サイプの全長の合計値を含んでもよい。
【0018】
この方法によれば、空気入りタイヤの表面に形成されたサイプの総量を容易に算出できる。
【0019】
算出される前記サイプの長さの合計値は、前記サイプのタイヤ幅方向成分の合計値を含んでもよい。
【0020】
この方法によれば、サイプのタイヤ幅方向成分の合計値を容易に算出できる。サイプのタイヤ幅方向成分は、空気入りタイヤの制動性能等に寄与するため、当該評価を容易に行うことができる。
【0021】
算出される前記サイプの長さの合計値は、前記サイプのタイヤ周方向成分の合計値を含んでもよい。
【0022】
この方法によれば、サイプのタイヤ周方向成分の合計値を容易に算出できる。サイプのタイヤ周方向成分は、空気入りタイヤのコーナリング性能等に寄与するため、当該評価を容易に行うことができる。
【0023】
本発明の第2の態様は、空気入りタイヤのCADデータを表示する出力部と、出力部に表示された前記CADデータにおいて抽出領域の特定を受け付ける抽出領域特定部と、前記抽出領域内のサイプを抽出してアクティブリストに追加するサイプ抽出部と、前記アクティブリスト内の全ての前記サイプの長さの合計値を算出する算出部とを備える、空気入りタイヤのサイプ長の算出装置を提供する。
【0024】
前記サイプ抽出部は、前記アクティブリストに追加されている前記サイプを前記出力部で識別可能に表示してもよい。
【0025】
前記抽出領域特定部は、前記抽出領域の特定を、矩形領域を画定することにより行ってもよい。
【0026】
前記空気入りタイヤは、複数の溝によって画定された陸部を有し、前記抽出領域特定部は、前記抽出領域の特定を、前記陸部を選択することにより行ってもよい。
【0027】
前記算出装置は、前記アクティブリストを記憶する記憶部をさらに備え、前記抽出領域特定部での前記抽出領域の特定および前記サイプ抽出部での前記サイプの前記アクティブリストへの追加は、前記記憶部内の前記アクティブリストに対して加算的に行われるように構成されてもよい。
【0028】
前記算出部で算出される前記サイプの長さの合計値は、前記サイプの全長の合計値を含んでもよい。
【0029】
前記算出部で算出される前記サイプの長さの合計値は、前記サイプのタイヤ幅方向成分の合計値を含んでもよい。
【0030】
前記算出部で算出される前記サイプの長さの合計値は、前記サイプのタイヤ周方向成分の合計値を含んでもよい。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、空気入りタイヤのサイプ長の算出方法および算出装置において、サイプの長さの合計値を効率的に算出できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】空気入りタイヤのトレッド部の展開図。
図2図1の抽出領域の拡大図。
図3】本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤのサイプ長の算出装置のブロック図。
図4】サイプ長の算出方法の一例を示す模式図。
図5】本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤのサイプ長の算出方法を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0034】
本実施形態の空気入りタイヤのサイプ長の算出装置(以下、単に算出装置ともいう。)は、図1に示すような空気入りタイヤ1のCAD(Computer Aided Design)データにおいて、任意の抽出領域2を特定し、特定された抽出領域2における複数のサイプ3の長さの合計値を算出するものである。
【0035】
図1は、空気入りタイヤ1のトレッド部4を示す展開図である。この空気入りタイヤは、図示しないが、一対のビードコア間にカーカスを掛け渡し、カーカスの中間部の外周側に巻き付けたベルトによって補強し、そのタイヤ外径側にトレッド部4を設けた構成である。図2は、図1における抽出領域2の拡大図である。
【0036】
以下の説明では、図1,2において、左右方向をタイヤ幅方向TWと称する。また、図1,2において、上下方向をタイヤ周方向TCと称する。また、図1,2では、タイヤ幅方向TWの中心を示すタイヤ赤道線Ceが示されている。
【0037】
空気入りタイヤ1のトレッド部4には、複数の溝部5によってトレッドパターンが形成されている。詳細には、複数の溝部5によって様々な形状の陸部6が画定されている。
【0038】
陸部6には、複数のサイプ3が切込みにより形成されている。ここで言うサイプとは、接地時に溝が閉塞する程度の厚さ(溝の長手方向に直交する方向の寸法)を有するものを意味しており、例えば溝の厚さが1.5mm以下に設定されている。
【0039】
複数のサイプ3のそれぞれは、タイヤ幅方向、タイヤ周方向、または、これらから傾斜する方向などの様々な方向に延びている。複数のサイプ3のそれぞれは、直線状の直線部3aと、波状の波状部3bとを含んでいる。ただし、複数のサイプ3の形状は、特に限定されない。
【0040】
図3は、本発明の一実施形態に係る算出装置10を示している。
【0041】
本実施形態の算出装置10は、記憶部11と、出力部12と、抽出領域特定部13と、制御部14とを備えている。
【0042】
記憶部11は、図1に示すような空気入りタイヤ1のCADデータ、制御部14で稼働するプログラム、および後述するアクティブリスト11aなどの必要なデータを記録している。記憶部11は、ハードディスク装置、光磁気ディスク装置、フラッシュメモリなどの不揮発性のメモリ(CD-ROMなどのような読み出しのみが可能な記憶媒体)、RAM(Random Access Memory)のような揮発性のメモリ、またはこれらの組み合わせにより構成され得る。
【0043】
出力部12は、記憶部11に記憶された空気入りタイヤ1のCADデータおよび制御部14の処理結果等を表示する部位であり、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、またはプラズマディスプレイ等により構成され得る。また、空気入りタイヤ1のCADデータは、記憶部11に記憶されたもの以外にも別途入力されたものが直接出力部12に表示されてもよい。
【0044】
抽出領域特定部13は、出力部12に表示されたCADデータ上で抽出領域2(図1参照)の特定を受け付ける入力デバイスであり、例えば、キーボード、マウス、またはタッチパネル等により構成され得る。また、出力部12および抽出領域特定部13は、タッチパネルディスプレイにより一体的に構成されてもよい。
【0045】
抽出領域2は、図1に示されるように、トレッド部4において複数のサイプ3を抽出する領域を示す。本実施形態では、抽出領域特定部13によって、抽出領域2を矩形領域として特定できるようになっている。これにより、抽出領域2を簡易かつ視覚的に特定できる。代替的には、抽出領域特定部13による抽出領域2の特定では、円形領域または多角形領域などの任意の領域を特定できるようにしてもよい。また、抽出領域2として陸部6を選択できるようにしてもよい。これにより、陸部6ごとに複数のサイプ3の長さの合計値を算出できる。サイプ3はトラクション性能および氷上性能などのタイヤ性能を調整するために使用されるため、空気入りタイヤ1の表面に形成される。換言すれば、溝部5内ではなく陸部6の表面に形成される。このため、特定の陸部6がタイヤ性能にどれだけ寄与するかを容易に算出できる。
【0046】
制御部14は、サイプ抽出部14aと、算出部14bとを備えている。これらは、ハードウェア資源であるプロセッサと、記憶部11などに記録されるソフトウェアであるプログラムとの協働により実現される。
【0047】
サイプ抽出部14aは、抽出領域2内のサイプ3を抽出してアクティブリスト11aに追加する。このとき、記憶部11内のアクティブリスト11aが読みだされて、新たに抽出されたサイプ3が当該アクティブリスト11aに追加される。アクティブリストとは、選択されているサイプ3を格納するリストである。例えば、本実施形態では、複数のサイプ3のそれぞれに番号が付けられており、当該番号がアクティブリスト11aに格納されている。ただし、1つのサイプ3が抽出領域2の内外にまたがって抽出領域2が特定された場合、アクティブリスト11aには1つのサイプ3の一部のみが格納されてもよい。その場合、サイプ3の一部を特定する情報も同時にアクティブリスト11aに格納される。サイプ3の一部を特定する情報とは、例えば後述するように座標情報に基づいていてもよい。なお、アクティブリスト11aの態様は、上記した以外のものであってもよく、特に限定されない。
【0048】
サイプ抽出部14aによるサイプ3の抽出は、CADデータ上でサイプ3に予め付与された属性情報によって行われる。例えば図1のようなCADデータ上で、サイプ3には、特定の線種、線色、または線の太さなどのように予め他の要素と区別できる属性情報が付与されている。サイプ抽出部14aは、当該属性情報に基づいて、サイプ3を他の要素から区別して抽出する。
【0049】
サイプ抽出部14aによってアクティブリスト11aに追加されたサイプ3は、出力部12において識別可能に表示される。本実施形態では、図1において、アクティブリスト11aに追加された複数のサイプ3がその他のサイプ3に比べて線の太さを太く表示されている。代替的には、線色または線種などが変更されることにより、識別可能に表示されてもよい。
【0050】
算出部14bは、上記アクティブリスト11a内の全てのサイプ3の長さの合計値を算出する。本実施形態で算出する複数のサイプ3のそれぞれの長さは、全長の値、タイヤ幅方向成分の値、およびタイヤ周方向成分の値を含んでいる。従って、算出部14bによって、複数のサイプ3の全長の合計値、複数のサイプ3のタイヤ幅方向成分の合計値、および複数のサイプ3のタイヤ周方向成分の合計値が算出され、出力部12に表示される。代替的には、複数のサイプ3の全長の合計値、複数のサイプ3のタイヤ幅方向成分の合計値、および複数のサイプ3のタイヤ周方向成分の合計値のいずれか1つまたは2つを算出して出力部12に表示してもよい。
【0051】
図4を参照して、算出部14bにてサイプ3の長さの各成分を算出する方法を説明する。図示のサイプ3は、両端部の直線部3aと中央部の波状部3bとを有し、点P1から点P6までタイヤ周方向に波打ちながらタイヤ幅方向に延びている。図示のサイプ3では、波状部3bの変曲点P2,P3,P4,P5が各波の頂点となっている。
【0052】
算出部14bは、点P1~P6の座標に基づいて、サイプ3の長さの各成分を算出する。例えば、図4の例では、タイヤ幅方向TWをX方向とし、タイヤ周方向TCをY方向として、点P1の座標(0,0)、点P2の座標(2,1)、点P3の座標(4,-1)、点P4の座標(6,1)、点P5の座標(8,-1)、および、点P6の座標(10,0)であるとする。サイプ3の長さの各成分を算出するときには、点P1から点P6に向かってサイプ3上を移動するときの各成分の総移動距離が算出される。
【0053】
サイプ3のタイヤ幅方向成分の値は、点P1と点P2間のタイヤ幅方向成分(=2)と、点P2と点P3間のタイヤ幅方向成分(=2)と、点P3と点P4間のタイヤ幅方向成分(=2)と、点P4と点P5間のタイヤ幅方向成分(=2)と、点P5と点P6間のタイヤ幅方向成分(=2)とを合計した値として10と算出される。
【0054】
サイプ3のタイヤ周方向成分の値は、点P1と点P2間のタイヤ周方向成分(=1)と、点P2と点P3間のタイヤ周方向成分(=2)と、点P3と点P4間のタイヤ周方向成分(=2)と、点P4と点P5間のタイヤ周方向成分(=2)と、点P5と点P6間のタイヤ周方向成分(=1)とを合計した値として8と算出される。
【0055】
サイプ3の全長の値は、点P1から点P6に向かってサイプ3上を移動するときの総移動距離として算出される。当該総移動距離を算出する方法は、例えば隣接点間の直線距離の総和で近似してもよい。即ち、点P1と点P2間の直線距離(=√5)と、点P2と点P3間の直線距離(=2√2)と、点P3と点P4間の直線距離(=2√2)と、点P4と点P5間の直線距離(=2√2)と、点P5と点P6間の直線距離(=√5)とを合計した値として2√5+6√2と算出されてもよい。この場合、隣接点間が曲線であるか直線であるかは考慮されないが、この程度の誤差は許容される。
【0056】
図4では、一例として、点P1から点P6までタイヤ周方向に波打ちながらタイヤ幅方向に延びるサイプ3を示している。これはあくまで一例であるが、サイプ3の全長の値、サイプ3のタイヤ幅方向成分の値、およびサイプ3のタイヤ周方向成分の値を算出する方法は、上記のように波状部3bの各波の頂点を検出することにより、任意のサイプに適用できる。なお、サイプ3の波状部3bの各波の頂点は、サイプ抽出部14aにて検出されてもよい。また、上記の各波の頂点を用いてサイプ3の長さを算出する方法についても一例として示したものであり、サイプ3の長さは上記以外の既知の方法を用いてより正確に算出されてもよい。
【0057】
算出部14bでは、上記のようにして算出されたサイプ3の長さが合計され、サイプ3の合計長として出力部12に表示される。本実施形態では、サイプ3の全長の合計値、サイプ3のタイヤ幅方向成分の合計値、およびサイプ3のタイヤ周方向成分の合計値が、算出されて出力部12に表示される。
【0058】
また、抽出領域特定部13での抽出領域2の特定およびサイプ抽出部14aでのサイプ3のアクティブリスト11aへの追加は、加算的に行われてもよい。即ち、抽出領域2の特定およびサイプ3の抽出を繰り返し、アクティブリスト11aに追加されるサイプ3を追加的に増やした後、ユーザの所望のタイミングでアクティブリスト11a内の全てのサイプ3の長さの合計値を算出部14bによって算出するようにしてもよい。
【0059】
図5を参照して、以上の構成を有するコンピュータなどの算出装置10を使用してユーザが空気入りタイヤ1のサイプ長(サイプ3の合計長)を算出する方法について以下説明する。
【0060】
当該方法を実行すると、まず、空気入りタイヤ1のCADデータが取得される(ステップS1)。CADデータは、前述のように記憶部11から取得されてもよい。また、CADデータは、2次元データであってもよいし、3次元データであってもよい。取得されたCADデータは、出力部12に表示される(ステップS2)。そして、ユーザは、表示されたCADデータを参照して、抽出領域特定部13によって抽出領域2を矩形領域などで特定する(ステップS3)。抽出領域2が特定されると、サイプ抽出部14aによって抽出領域2内のサイプ3が抽出されてアクティブリスト11aに追加される(ステップS4)。このとき、アクティブリスト11aに追加されたサイプ3は識別可能に出力部12に表示される。このため、ユーザはいずれのサイプ3がアクティブリスト11aに追加されているかを容易に認識できる。そして、抽出領域2の特定が完了していなければ(N:ステップS5)、抽出領域2の特定(ステップS3)とサイプ3の抽出(ステップS4)とを繰り返す。抽出領域2が全て特定されると(Y:ステップS5)、ユーザは算出部14bにサイプ長の合計値の算出を実行させる(ステップS6)。算出されたサイプ長の合計値は、出力部12に表示される(ステップS7)。
【0061】
本実施形態によれば、任意の抽出領域2を特定し、特定された抽出領域2における複数のサイプ3の長さの合計値を効率的に算出できる。特に、アクティブリスト11aを採用しているため、長さの合計値を算出するサイプ3と、それ以外のサイプ3とを容易に区別できる。
【0062】
また、抽出領域2の特定およびアクティブリスト11aへの追加を一度だけで完結するのではなく、必要に応じて何度も追加して実行できるため、連続的な評価を可能にし、作業効率を向上できる。
【0063】
また、本実施形態では、サイプ3の長さとして3種類の値(全長、タイヤ幅方向成分、タイヤ周方向成分)を算出している。複数のサイプ3の全長の合計値を算出するため、空気入りタイヤ1の表面に形成されたサイプ3の総量を容易に算出できる。複数のサイプ3のタイヤ幅方向成分の合計値を算出するため、空気入りタイヤの制動性能等の評価を容易に行うことができる。複数のサイプ3のタイヤ周方向成分の合計値を算出するため、空気入りタイヤ1のコーナリング性能等の評価を容易に行うことができる。
【0064】
以上より、本発明の具体的な実施形態について説明したが、本発明は上記形態に限定されるものではなく、この発明の範囲内で種々変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 空気入りタイヤ
2 抽出領域
3 サイプ
3a 直線部
3b 波状部
4 トレッド部
5 溝部
6 陸部
10 算出装置
11 記憶部
11a アクティブリスト
12 出力部
13 抽出領域特定部
14 制御部
14a サイプ抽出部
14b 算出部
図1
図2
図3
図4
図5