(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-12
(45)【発行日】2023-09-21
(54)【発明の名称】ポンプ制御装置及びポンプ制御方法
(51)【国際特許分類】
F04C 14/28 20060101AFI20230913BHJP
F04C 2/344 20060101ALI20230913BHJP
【FI】
F04C14/28 B
F04C2/344 331M
F04C2/344 331C
(21)【出願番号】P 2020008351
(22)【出願日】2020-01-22
【審査請求日】2022-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松原 良太郎
【審査官】松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-44149(JP,A)
【文献】特開2007-239660(JP,A)
【文献】特開2018-21599(JP,A)
【文献】特開平11-324957(JP,A)
【文献】特開2018-189030(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 14/28
F04C 2/344
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を加圧して吐出するポンプ部と、前記ポンプ部を駆動するモータと、前記モータの回転を制御する制御部と、前記モータを流れる電流を検出する電流検出部と、を備えたポンプ制御装置であって、
前記ポンプ部は、
内燃機関からの動力が伝達されるシャフトと、
前記内燃機関からの動力によって前記シャフトと一体に前記シャフトの回転軸周りを回転する第1回転体と、
前記第1回転体を収容し内部にポンプ室を画成するとともに、前記モータからの動力により回転可能に設けられた第2回転体と、
前記シャフトの回転軸方向における前記第2回転体の両側に配置された一対のサイドプレートと、
前記一対のサイドプレートの一方に設けられ油を吸入する吸入ポートと、
前記一対のサイドプレートの他方に設けられ油を吐出する吐出ポートと、
前記第2回転体と前記一対のサイドプレートとが内部に固定され、前記第2回転体及び前記一対のサイドプレートと一体に回転するシリンダと、
前記シリンダを内部に収容するハウジングと、を備え、
前記制御部は、
前記電流検出部によって検出された電流に基づいて前記ポンプ部の異常の検知を行うことを特徴とするポンプ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたポンプ制御装置であって、
前記内燃機関によって前記第1回転体のみを回転させるMOPモードと、前記モータによって前記第2回転体のみを回転させるEOPモードと、前記内燃機関と前記モータとを相対回転させることによって前記第1回転体及び前記第2回転体とを相対回転させるTDPモードと、とを有し、
前記制御部は、前記EOPモードまたは前記TDPモードを実行しているときに、前記異常の検知を行うことを特徴とするポンプ制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載されたポンプ制御装置であって、
前記制御部は、所定時間前記モータが作動していない場合には、前記モータを作動させ前記異常の検知を行うことを特徴とするポンプ制御装置。
【請求項4】
流体を加圧して吐出するポンプ部と、前記ポンプ部を駆動するモータと、前記モータの回転を制御する制御部と、前記モータを流れる電流を検出する電流検出部と、を備えたポンプ制御装置を制御するポンプ制御方法であって、
前記ポンプ部は、
内燃機関からの動力が伝達されるシャフトと、
前記内燃機関からの動力によって前記シャフトと一体に前記シャフトの回転軸周りを回転する第1回転体と、
前記第1回転体を収容し内部にポンプ室を画成するとともに、前記モータからの動力により回転可能に設けられた第2回転体と、
前記シャフトの回転軸方向における前記第2回転体の両側に配置された一対のサイドプレートと、
前記一対のサイドプレートの一方に設けられ油を吸入する吸入ポートと、
前記一対のサイドプレートの他方に設けられ油を吐出する吐出ポートと、
前記第2回転体と前記一対のサイドプレートとが内部に固定され、前記第2回転体及び前記一対のサイドプレートと一体に回転するシリンダと、
前記シリンダを内部に収容するハウジングと、を備え、
前記電流検出部によって検出された電流に基づいて前記ポンプ部の異常の検知を行うことを特徴とするポンプ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプ制御装置及びポンプ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ベーン式油圧ポンプの特定個所に設けた油圧上昇検出手段と警告発生手段を有し、特定個所の油温が所定値以上になった場合に警告を発生するように構成されたベーン式油圧ポンプの故障検出装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のポンプでは、作動油の劣化や、異物混入に起因する摺動部(例えば、ロータとサイドプレートの間、ベーンとサイドプレートの間、等)の潤滑不良により、油圧、油温の上昇が発生したことを検知し、警告発生手段の作動により運転者に警告を与えることができる。
【0005】
しかしながら、新たにポンプの異常を検出するための油圧センサや油温センサを設けることは、コストの上昇につながってしまう。
【0006】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたもので、コストの上昇を抑制しつつ、ポンプの異常を発見できるポンプ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様のポンプ制御装置は、流体を加圧して吐出するポンプ部と、ポンプ部を駆動するモータと、モータの回転を制御する制御部と、モータを流れる電流を検出する電流検出部と、を備える。ポンプ部は、内燃機関からの動力が伝達されるシャフトと、内燃機関からの動力によってシャフトと一体にシャフトの回転軸周りを回転する第1回転体と、第1回転体を収容し内部にポンプ室を画成するとともに、モータからの動力により回転可能に設けられた第2回転体と、シャフトの回転軸方向における第2回転体の両側に配置された一対のサイドプレートと、一対のサイドプレートの一方に設けられ油を吸入する吸入ポートと、一対のサイドプレートの他方に設けられ油を吐出する吐出ポートと、第2回転体と一対のサイドプレートとが内部に固定され、第2回転体及び一対のサイドプレートと一体に回転するシリンダと、シリンダを内部に収容するハウジングと、を備える。制御部は、電流検出部によって検出された電流に基づいてポンプ部の異常の検知を行う。
【0008】
本発明の別の態様によれば、上記ポンプ制御装置に対応するポンプ制御方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
モータの電流を検出する電流検出部は既存の装置が備えているので、異常を検知するためのセンサを別途設ける必要がない。よって、コストの上昇を抑制できる。さらに、異常を検知するためのセンサを新たに設けるためのスペースを確保する必要がないので、装置の大型化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本実施形態のツインドライブポンプが適用されるポンプシステムの概略構成図である。
【
図2】
図2は、本実施形態のツインドライブポンプを軸方向の断面で示す図である。
【
図3】
図3は、本実施形態のツインドライブポンプの軸方向に直交する方向でのポンプ室近傍の部分断面図である。
【
図4】
図4は、本実施形態のツインドライブポンプの運転モードを説明する図である。
【
図5】
図5は、本実施形態で行われる異常検知制御のフローチャートの一例である。
【
図6】
図6は、本実施形態の変形例で行われる異常検知制御のフローチャートの一例である。
【
図7】
図7は、本実施形態の変形例で行われる異常検知制御のフローチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0012】
図1は、本実施形態に係るポンプ制御装置100の概略構成図である。
図2は、本実施形態に係るポンプ制御装置100のツインドライブポンプ10を軸方向の断面で示す図である。
【0013】
ポンプ制御装置100は、内燃機関としてのエンジン1を備えた車両に搭載される。
【0014】
図1に示すように、ポンプ制御装置100は、流体としての油を加圧して吐出するポンプ部としてのツインドライブポンプ10と、ポンプ10を駆動するモータ20と、モータ20の回転を制御する制御部としてのコントローラ30と、を備える。
【0015】
図2及び
図3に示すように、ツインドライブポンプ10(以下では、単に「ポンプ10」という。)は、エンジン1の出力軸1aに接続され、エンジン1からの動力が伝達されるシャフトとしての駆動軸12と、エンジン1からの動力によって駆動軸12と一体に駆動軸12の回転軸周りを第1方向(
図3の矢印参照)に回転する第1回転体としてのロータ13と、ロータ13を内部に収容する第2回転体としてのカムリング15と、駆動軸12の回転軸方向におけるカムリング15の両側に配置された一対のサイドプレートとしての第1サイドプレート16及び第2サイドプレート17と、内部にカムリング15、第1サイドプレート16及び第2サイドプレート17が固定され、これらと一体に回転するシリンダ18と、シリンダ18を収容するとともにシリンダ18を回転可能に支持するハウジング11と、を備える。
【0016】
図2に示すように、ハウジング11はポンプ10の筐体であり、隔壁11aと、入口ポート11bと、出口ポート11cとを有する。隔壁11aは、駆動軸12の軸方向においてハウジング11内を第1油室H1と第2油室H2とに区分する。入口ポート11bは、第1油室H1に開口し、ハウジング11の内外を連通する。出口ポート11cは、第2油室H2に開口し、ハウジング11の内外を連通する。入口ポート11bには、タンク(図示せず)に貯留された油がストレーナ50を通過して流入し、出口ポート11cからは油圧制御回路40に供給される油が排出される(
図1参照)。
【0017】
駆動軸12は、ロータ13の回転軸と同軸に設けられる。駆動軸12の一端はロータ13に連結され、他端はハウジング11外に突出するようにハウジング11に回転可能に設けられる。駆動軸12には、エンジン1からの動力が図示しない動力伝達機構を介して伝達される。駆動軸12は、ポンプ10の第1入力軸を構成する。
【0018】
ロータ13は、円柱形状に形成され、駆動軸12により駆動されて駆動軸12の回転軸周りに回転する。ロータ13には複数のスリット溝が放射状に設けられ、各スリット溝にはベーン14が設けられる。各ベーン14はロータ13の外周面から出没可能に設けられる。
【0019】
カムリング15は、内部にロータ13を収容する。カムリング15は、駆動軸12の回転軸と同軸に、ロータ13に対して回転可能に設けられる。カムリング15の内周面は、ロータ13の外周との離間距離がロータ13の回転軸周りの周方向で変化するカム面により構成される。カムリング15の内周面は、ベーン14の先端部分が摺動する。
【0020】
第1サイドプレート16及び第2サイドプレート17は、ロータ13の回転軸方向におけるカムリング15の両側に、それぞれロータ13の端面に対向するように配置される。第1サイドプレート16には、2つの吸入ポート16a,16bが設けられ、第2サイドプレート17には、2つの吐出ポート17a,17bが設けられる。第1サイドプレート16及び第2サイドプレート17、カムリング15の内周面、ロータ13の外周面、隣り合うベーン14によってポンプ室Pが区画される。
【0021】
図3に示すように、吸入ポート16a,16bは、ロータ13の回転軸周りの周方向においてポンプ室Pが拡大する領域IN(吸入領域)に開口するように設けられる。吐出ポート17a,17bは、ロータ13の回転軸周りの周方向においてポンプ室Pが縮小する領域OUT(吐出領域)に開口するように設けられる。ロータ13が回転することにより、吸入ポート16a,16bからポンプ室Pに油が吸入され、ポンプ室Pの容積縮小により油が加圧されて吐出ポート17a,17bから吐出される。
【0022】
上述のように、本実施形態では、吸入ポート16a,16bと吐出ポート17a,17bは2つずつ設けられる。これにより、ポンプ10では、ベーン14がカム面を一周する間にポンプ室Pが油の吸入及び吐出を2回繰り返す。
【0023】
図2に示すように、シリンダ18は、略有底円筒状に形成され、ロータ13の回転軸と同軸に回転可能にハウジング11に支持される。シリンダ18は、保持部18aと、接続部18bと、軸部18cと、出口ポート18dと、を有する。
【0024】
保持部18aは、筒状に形成され、その内部にカムリング15、第1サイドプレート16及び第2サイドプレート17を保持する。カムリング15、第1サイドプレート16及び第2サイドプレート17は保持部18a内に固定され、シリンダ18と一体回転する。シリンダ18は、保持部18aで開口し、第1サイドプレート16は、シリンダ18の開口を塞ぐように設けられる。保持部18aは第1油室H1に収容される。
【0025】
接続部18bは、保持部18aと軸部18cとを接続する。本実施形態では、接続部18bは、保持部18aから軸部18cに向かって次第に縮径するように形成される。接続部18bには、吐出ポート17a,17bから吐出された油が流入する。接続部18bは第1油室H1に収容される。
【0026】
軸部18cは保持部18aよりも縮径された中空の軸状部分であり、軸部18c内には接続部18bから油が流入する。軸部18cは、モータ20の出力軸20aとワンウェイクラッチ19を介して接続される。これにより、モータ20の動力が軸部18cに伝達されると、シリンダ18とととに、カムリング15、第1サイドプレート16及び第2サイドプレート17が回転する。軸部18cは、ポンプ10の第2入力軸を構成する。
【0027】
軸部18cは、ハウジング11の隔壁11aを貫通するとともにハウジング11外に突出するように設けられる。駆動軸12と軸部18cとはロータ13の回転軸方向において互いに反対側に向かって突出するように設けられる。
【0028】
軸部18cには、複数の出口ポート18dが設けられる。出口ポート18dは、径方向に軸部18cの内外を連通する。軸部18cにおける出口ポート18dが設けられた部分は第2油室H2に収容される。このため、軸部18c内の油は出口ポート18dを介して第2油室H2に流出する。そして、第2油室H2に流出した油が出口ポート11cを介して油圧制御回路40に供給される。
【0029】
ワンウェイクラッチ19は軸部18cとモータ20の出力軸20aとの間に設けられる。ワンウェイクラッチ19は、ロータ13の逆転方向、従ってモータ20の駆動方向において、出力軸20aの回転速度が軸部18cの回転速度よりも高い場合に締結し、出力軸20aの回転速度が軸部18cの回転速度よりも低い場合に解放される。
【0030】
このため、モータ20の作動時にはワンウェイクラッチ19が締結し、モータ20からの動力が軸部18cに伝達される。結果、カムリング15と第1サイドプレート16及び第2サイドプレート17とがモータ20の動力により駆動されてロータ13の逆転方向に回転する。
【0031】
モータ20は、例えばブラシレスモータによって構成される。モータ20は、車両に搭載されたバッテリを電源として駆動する。コントローラ30には、モータ20を流れる電流(消費電流Ic)を検出する電流検出部としての電流センサ60によって検出された消費電流Icが入力される。
【0032】
コントローラ30は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。コントローラ30は、複数のマイクロコンピュータで構成することも可能である。
【0033】
次に、
図4を参照しながら、ポンプ10の運転モードについて説明する。
【0034】
コントローラ30は、
図4に示すマップを参照しつつ車両の運転状況に応じてポンプ10の運転モードを切り換える。本実施形態のポンプ制御装置100は、
図4に示すように、運転モードとして、エンジン1によってロータ13のみを回転させるMOPモードと、モータ20によってカムリング15のみを回転させるEOPモードと、エンジン1とモータ20によってロータ13及びカムリング15を相対回転させるTDPモードと、を有する。
【0035】
MOPモードは、エンジン1の回転速度Veが高い場合に選択される。具体的には、車両に搭載されている油圧機器が必要とする流量(以下では、「要求流量」という。)を、ロータ13の回転のみ(エンジン1の動力による回転のみ)によって吐出される吐出流量で賄うことができる場合に選択される。ロータ13の回転速度、つまり、ポンプ10の吐出流量は、エンジン1の回転速度Veに比例する。このため、エンジン1の回転速度Veが高い場合には、エンジン1の動力のみに基づく吐出流量で要求流量を賄うことができるため、モータ20は停止した状態に維持される。
【0036】
EOPモードは、エンジン1が停止している場合に選択される。アイドリングストップ、コーストストップ、あるいはセーリングストップなどを実行している場合には、エンジン1が停止しているため、ロータ13の回転も停止している。そこで、エンジン1が停止している時には、コントローラ30は、要求流量を賄うためにモータ20を駆動してカムリング15を回転させる。これにより、ロータ13を実質的に回転させることになるので、ポンプ10によって要求流量を賄うことができる。
【0037】
TDPモードは、要求流量をエンジン1の動力のみに基づく吐出流量で賄うことができない場合、具体的には、エンジン1の回転速度Veが低い場合に選択される。上述のように、エンジン1のみを駆動している場合、ポンプ10の吐出流量は、エンジン1の回転速度Veに比例する。このため、エンジン1の回転速度Veが低い場合には、エンジン1の動力のみに基づく吐出流量で賄うことができないため、コントローラ30は、モータ20を駆動し、カムリング15をロータ13の回転方向(第1方向)とは逆方向(第2方向)に回転させる。これにより、ロータ13の回転速度を実質的に上昇させることができるので、エンジン1の動力のみに基づく吐出流量だけでは不足していた要求流量を賄うことができる。
【0038】
ところで、例えば、ロータ13と第1、第2サイドプレート16,17との間に異物が噛み込んだ場合、あるいは、ロータ13と第1、第2サイドプレート16,17との間に焼き付きなどが起こった場合には、ポンプ10の回転抵抗が増加し、ポンプ10が正常に作動しなくなるおそれがある。このようにポンプ10が正常に作動しなくなると、要求流量を賄うことができなくなったり、負荷が増加してモータ20に異常が生じるおそれがある。
【0039】
そこで、新たにポンプの異常を検出するための油圧センサや油温センサを設けることが考えられるが、新たなセンサを設けることはコストの上昇につながってしまう。そのため、本実施形態では、既存の電流センサ60によって検出された消費電流Icに基づいてポンプ10の異常の発生を検知する。さらに、本実施形態手は、ポンプ10の異常発生時に、要求流量を賄うために必要な制御(フェールセーフ制御)を行う。以下に、
図5から
図7を参照しながら、本実施形態におけるポンプ制御装置100の異常発生を検知する制御(以下では、「異常検知制御」という。)について具体的に説明する。
【0040】
図5は、本実施形態の異常検知制御に係るフローチャートを示す図である。本実施形態の異常検知制御は、コントローラ30にあらかじめ記憶されたプログラムに基づいて実行される。
【0041】
ステップS1では、通常走行状態処理を実行する。具体的には、通常走行状態処理では、コントローラ30は、モータ20を停止し、車両の走行状態を監視する。
【0042】
ステップS2では、ポンプ状態をチェックする。具体的には、コントローラ30は、不揮発性メモリに記憶されたポンプ10が正常又は異常を示すポンプ状態(異常フラグ)を読み出す。なお、初期時は、ポンプ状態が正常(異常フラグなし)になっている。
【0043】
ステップS3では、ポンプ状態が正常か以上かを判定する。具体的には、コントローラ30は、ステップS2で読み出したポンプ状態が正常か異常か(異常フラグの有無)を判定する。ポンプ状態が異常であればステップS4に進み、ポンプ状態が正常であれば、ステップS5に進む。
【0044】
ステップS4では、ポンプ異常状態処理を実行する。具体的には、コントローラ30は、以下の処理を実行する。
(a)変速速度の制限
(b)エンジン1の出力トルクτeの制限
(c)エンジン1の回転速度Veの制限
(d)EOPモードへの移行の禁止
(e)ドライバへ異常発生の報知
これらは、ポンプ10に異常が生じている場合のフェールセーフ制御に相当する。なお、必ずしもこれらの処理を全て実行する必要はなく、必要に応じて、あるいは走行状態などに応じて選択的に行うようにしてもよい。
【0045】
ステップS5では、モータ作動条件が成立したか否かを判定する。具体的には、コントローラ30は、運転モードとして、TDPモードあるいはEOPモードが選択されたか否かを判定する。TDPモードあるいはEOPモードが選択されていれば、ステップS6に進み、TDPモードあるいはEOPモードが選択されていない、つまりMOPモードであれば、RETURNに進む。
【0046】
ステップS6では、モータ20が作動可能か否かを判定する。具体的には、コントローラ30は、モータ20に供給される供給電圧(バッテリの電圧)、モータ20の温度、コントローラ30とモータ20との通信状態に異常がないかを確認する。モータ20に異常がなければ、作動可能と判断してステップS7に進み、モータ20に異常があれば、モータ20が作動不可能と判断してステップS12に進む。
【0047】
ステップS7では、モータ20を作動させる。具体的には、コントローラ30は、要求流量を賄うことができるようにモータ20を作動させる。
【0048】
ステップS8では、消費電流Icを記憶する。具体的には、コントローラ30は、モータ20を作動させているときの消費電流Icを不揮発性メモリに記憶させる。
【0049】
ステップS9では、消費電流Icが許容値(所定値)Ipを超えたか否かを判定する。ロータ13と第1、第2サイドプレート16,17との間に異物が噛み込んだ場合、あるいは、ロータ13と第1、第2サイドプレート16,17との間に焼き付きなどが起こった場合には、ロータ13の回転抵抗が増加するため、モータ20の消費電流Icが増加する。そこで、本実施形態では、モータ20の消費電流Icを監視し、消費電流Icが許容値Ipを超えた場合には、ポンプ10に異常が発生したと判断する。消費電流Icが許容値Ipを超えていれば、ポンプ10に異常が発生したと判断してステップS13に進み、不揮発性メモリにポンプ状態を異常として(異常フラグを立てて)記憶させる。消費電流Icが許容値Ipを超えていなければ、ポンプ10は正常であると判定し、ステップS10に進む。
【0050】
ステップS10では、モータ作動条件が不成立となったか否かを判定する。具体的には、コントローラ30は、MOPモードが選択された場合には、モータ作動条件が不成立となったと判定する。MOPモードが選択された場合には、ステップS11に進み、MOPモードが選択されていない、つまり、TDPモードあるいはEOPモードが継続していれば、ステップS7に戻る。
【0051】
ステップS11では、モータ20を停止する。コントローラ30は、TDPモードあるいはEOPモードを解除して、モータ20を停止する。
【0052】
続いて、ステップS6において、モータ20が作動不可能と判断してステップS12に進んだ場合について説明する。
【0053】
ステップS12では、モータ20を非作動で制御する。この場合には、コントローラ30は、モータ20に異常が発生したと判断して、EOPモード、TDPモードに移行させず、MOPモードを維持する。具体的には、コントローラ30は、アイドルストップ制御、コーストストップ制御、セーリングストップ制御の実行を禁止する。さらに、コントローラ30は、現時点でのエンジン1の動力のみに基づく吐出流量では要求流量を賄うことができないと判断すると、エンジン1の回転速度Veを上昇させる。これにより、モータ20が作動不可能な場合であっても、エンジン1の動力のみによって要求流量を確保できるので、必要な変速制御や潤滑などを行うことができる。なお、このとき、ドライバへ異常発生の報知するようにしてもよい。これらは、モータ20に異常が生じている場合のフェールセーフ制御に相当する。
【0054】
イグニッションスイッチがONになっている状態では、
図5のフローを繰り返し実行する。
【0055】
このように、本実施形態の異常検知制御では、モータ20の消費電流Icを監視することによってポンプ10の異常を検知する。モータ20の電流を検出する電流センサ60は、既存の装置に設けられているので、異常を検知するためのセンサを新たに設ける必要がない。よって、コストの上昇を抑制できる。さらに、異常を検知するためのセンサを設けるためのスペースを確保する必要がないので、装置の大型化を抑制できる。
【0056】
なお、油圧制御回路40内には、油圧を検出する油圧センサが設けられている。既存のセンサを利用するという点では、この油圧センサを用いて異常を検知することも考えられる。しかしながら、異常が発生して、ポンプ10の回転抵抗が上昇してもエンジン1はトルクが大きいため、多少の回転抵抗の上昇では、必要な油圧を供給できてしまう。そのため、油圧センサを用いて異常を検知する場合には、ポンプ10の異常が進行してからしか発見できないおそれがある。これに対し、本実施形態の異常検知制御では、モータ20の消費電流Icを監視する、つまり、モータ20のトルクを監視しているので、早期にポンプ10の異常を発見することができる。
【0057】
また、本実施形態の異常検知制御では、ポンプ10の異常を検知した場合には、モータ20の作動を禁止する。これにより、モータ20に過負荷が作用することを防止できる。また、モータ20の作動を禁止しても、トルクの大きなエンジン1によってポンプ10を作動させることにより、必要な変速制御や潤滑などを行うことができる。なお、この場合にも、ポンプ10に過剰なトルクが作用することを防止するために、エンジン1の出力トルクτeの制限、やエンジン1の回転速度Veの制限を実行する。さらに、必要な油圧を抑制するために変速速度の制限を実行する。このように、本実施形態の異常検知制御では、ポンプ10の異常を検知した場合に、適切なフェールセーフ制御を行い、車両が走行不能状態になることを回避できる。
【0058】
次に、
図6及び
図7を参照して、本実施形態の異常検知制御の変形例について説明する。なお、
図6に示すステップS1-S13は、
図5に示すフローチャートのステップS1-S13と同じであるので、説明を省略する。
【0059】
本変形例では、モータ20の作動条件が成立していない状況が所定時間継続した場合、つまり、モータ20が所定時間作動していない場合に、モータ20を作動させてポンプ10の異常検知を行う。以下に具体的に説明する。
【0060】
本変形例のステップS5では、TDPモードあるいはEOPモードが選択されていなければ、ステップS22へ進む(
図7参照)。
【0061】
ステップS22では、前回のモータ20の作動終了から所定時間T1が経過しているかを判定する。具体的には、ステップS11においてモータ20が停止してから、所定時間T1が経過したか否かを判定する。なお、コントローラ30内では、タイマーが常時作動しており、ステップS11においてモータ20が停止した際には、タイマーがリセットされる(ステップS21)。前回のモータ20の作動終了から所定時間T1が経過していれば、ステップS23に進み、前回のモータ20の作動終了から所定時間T1が経過していなければ、RETURNに進む。
【0062】
ステップS23では、モータ20が作動可能か否かを判定する。具体的な判定方法は、ステップS6と同じであるので、説明を省略する。モータ20に異常がなければ、作動可能と判断してステップS24に進み、モータ20に異常があれば、モータ20が作動不可能と判断してRETURNに進む。
【0063】
ステップS24では、ポンプ診断モードを実行する。具体的は、モータ20を所定の回転速度で所定時間T2モータ20を作動させる。このように、モータ20を作動させる理由は、モータ20の作動によって要求流量を賄うためではなく、ポンプ10の回転抵抗の上昇を検出する、つまり、ポンプの異常検知を行うためである。
【0064】
ステップS25からステップS27は、それぞれステップS9、S11、S13と同じであるので説明を省略する。
【0065】
なお、ステップS27においてモータ20が停止した後は、ステップS28においてタイマーがリセットされる。
【0066】
このように、本変形例では、モータ20が所定時間T1作動していない場合に、モータ20を作動してポンプ10の異常検知を実行する。これにより、上記実施形態の効果に加え、定期的にポンプ10の診断を行うことができるので、ポンプ10の異常を早期に発見できる。
【0067】
以上のように構成された本発明の実施形態の構成、作用、及び効果をまとめて説明する。
【0068】
ポンプ制御装置100は、流体を加圧して吐出するポンプ部(ポンプ10)と、ポンプ部(ポンプ10)を駆動するモータ20と、モータ20の回転を制御する制御部(コントローラ30)と、モータ20を流れる電流(消費電流Ic)を検出する電流検出部(電流センサ60)と、を備える。ポンプ部(ポンプ10)は、内燃機関(エンジン1)からの動力が伝達されるシャフト(駆動軸12)と、内燃機関(エンジン1)からの動力によってシャフト(駆動軸12)と一体にシャフト(駆動軸12)の回転軸周りを回転する第1回転体(ロータ13)と、第1回転体(ロータ13)を収容し内部にポンプ室Pを画成するとともに、モータ20からの動力により回転可能に設けられた第2回転体(カムリング15)と、シャフト(駆動軸12)の回転軸方向における第2回転体(カムリング15)の両側に配置された一対のサイドプレート(第1、第2サイドプレート16,17)と、第1サイドプレート16に設けられ油を吸入する吸入ポート16a,16bと、第2サイドプレート17に設けられ油を吐出する吐出ポート17a、17bと、第2回転体(カムリング15)と一対のサイドプレート(第1、第2サイドプレート16,17)とが内部に固定され、第2回転体(カムリング15)及び一対のサイドプレート(第1、第2サイドプレート16,17)と一体に回転するシリンダ18と、シリンダ18を内部に収容するハウジング11と、を備える。
【0069】
コントローラ30は、電流検出部(電流センサ60)によって検出された電流(消費電流Ic)に基づいてポンプ部(ポンプ10)に異常の診断を行う。
【0070】
モータ20の電流を検出する電流検出部(電流センサ60)は、既存の装置にも設けられているので、新たに異常を検知するためのセンサを設ける必要がなく、コストの上昇を抑制できる。さらに、異常を検知するためのセンサを設けるためのスペースを確保する必要がないので、装置の大型化を抑制できる(請求項1,4に係る発明に対応する効果)。
【0071】
ポンプ制御装置100では、内燃機関(エンジン1)によって第1回転体(ロータ13)のみを回転させるMOPモードと、モータ20によって第2回転体(カムリング15)のみを回転させるEOPモードと、内燃機関(エンジン1)とモータ20とを相対回転させることによって第1回転体(ロータ13)及び第2回転体(カムリング15)とを相対回転させるTDPモードと、とを有し、コントローラ30は、EOPモードまたはTDPモードを実行しているときに、異常の判断を行う。
【0072】
EOPモードまたはTDPモードを実行しているときに、異常の判断を行うことにより、別途特別な制御を行う必要がないので、制御を簡素化できる(請求項2に係る発明に対応する効果)。
【0073】
コントローラ30は、所定時間T1モータ20が作動していない場合には、モータ20を作動させ異常の判断を行う。
【0074】
モータ20が所定時間T1作動していない場合に、モータ20を作動してポンプ10を検知することにより、定期的にポンプ10の検知を行うことができる。よって、ポンプ10の異常を早期に発見できる(請求項3に係る発明に対応する効果)。
【0075】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したものに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。また、上記実施形態と変形例は適宜組み合わせ可能である。
【0076】
上記実施形態では、ポンプ10として、ベーンポンプを例に説明したが、ツインドライブポンプ10は、内接式ギアポンプでもよい。
【0077】
また、上記実施形態では、ポンプ10が2つの吸入ポート16a,16bを備えた場合を例に説明したが、吸入ポート及び吐出ポート(吸入領域IN及び吐出領域OUT)は、それぞれ1つであってもよい。
【符号の説明】
【0078】
100 ポンプ制御装置
1 エンジン(内燃機関)
10 ツインドライブポンプ
11 ハウジング
11b 入口ポート
11c 出口ポート
12 駆動軸(シャフト)
13 ロータ(第1回転体)
14 ベーン
15 カムリング(第2回転体)
16 第1サイドプレート
16a 吸入ポート
16b 吸入ポート
17 第2サイドプレート
18 シリンダ
20 モータ
30 コントローラ(制御部)
60 電流センサ(電流検出器)