(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-12
(45)【発行日】2023-09-21
(54)【発明の名称】トンネル掘削機
(51)【国際特許分類】
E21D 9/093 20060101AFI20230913BHJP
E21D 9/06 20060101ALI20230913BHJP
【FI】
E21D9/093 G
E21D9/06 302G
(21)【出願番号】P 2020023445
(22)【出願日】2020-02-14
【審査請求日】2022-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】521478094
【氏名又は名称】地中空間開発株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】花岡 泰治
(72)【発明者】
【氏名】石黒 剣二
【審査官】高橋 雅明
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-057602(JP,A)
【文献】特開2019-086045(JP,A)
【文献】特開2002-327590(JP,A)
【文献】特開2017-172162(JP,A)
【文献】特開2000-264034(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 9/093
E21D 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘削機本体と、
移動方向の一方側および他方側にそれぞれ受圧部およびロッドを有するピストンと、ヘッド側油圧室と、ロッド側油圧室とを含み、前記掘削機本体に設けられた複数の推進用油圧ジャッキと、
前記掘削機本体を前進させるために、前記ヘッド側油圧室に油を供給し、前記ピストンに力を加えて
、前記ロッドの後方に設置されたセグメントを押圧して掘進方向への反力が得られるように前記推進用油圧ジャッキを伸長する際に縮小する前記ロッド側油圧室の油圧を制御して、前記ピストンの移動に対する抵抗を発生または変化させて、前記推進用油圧ジャッキの振動を抑制する振動抑制手段とを備える、トンネル掘削機。
【請求項2】
前記振動抑制手段は、
前記ロッド側油圧室から流出する油の流量を制御して、前記ピストンの移動に対する抵抗を発生または変化させる絞り弁と、
前記ロッド側油圧室から流出する油の油圧自体を制御して、前記ピストンの移動に対する抵抗を発生または変化させる油圧制御弁との少なくとも一方を含む、請求項1に記載のトンネル掘削機。
【請求項3】
前記振動抑制手段により前記推進用油圧ジャッキの振動を抑制する際に、前記ロッド側油圧室に油を強制的に供給して、前記ロッド側油圧室の油圧を上昇させることが可能な油圧源をさらに備える、請求項1または2に記載のトンネル掘削機。
【請求項4】
前記ピストンの移動が加減速するタイミングに合わせて、前記振動抑制手段により、前記ピストンの移動に対する抵抗を発生または変化させることによって、前記推進用油圧ジャッキの振動を抑制するように構成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載のトンネル掘削機。
【請求項5】
前記推進用油圧ジャッキの近傍に設けられ、前記推進用油圧ジャッキの振動を検知する振動センサをさらに備え、
前記振動センサの検知結果に基づいて、前記ピストンの移動が加減速する際に、前記振動抑制手段により、前記ピストンの移動に対する抵抗を発生または変化させることによって、前記推進用油圧ジャッキの振動を抑制するように構成されている、請求項1~4のいずれか1項に記載のトンネル掘削機。
【請求項6】
前記複数の推進用油圧ジャッキは、2個以上の前記推進用油圧ジャッキにより各々が構成される複数の制御グループに分けられており、
前記振動センサは、前記複数の制御グループの各々に対して1個ずつ設けられ、
前記振動センサの各々の検知結果に基づいて、前記ピストンの移動が加減速する際に、前記複数の制御グループごとに独立して前記振動抑制手段により、前記ピストンの移動に対する抵抗を発生または変化させることによって、前記推進用油圧ジャッキの振動を抑制するように構成されている、請求項5に記載のトンネル掘削機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推進用油圧ジャッキを備えるトンネル掘削機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、推進用油圧ジャッキを備えるトンネル掘削機が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、掘進機本体と、掘進機本体を推進させる複数の推進ジャッキとを備えるシールド掘進機が開示されている。このシールド掘進機は、推進ジャッキを伸長している途中において、掘進機本体の振動が大きくなった場合に、推進ジャッキの伸長を中断して振動を抑制するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1のシールド掘進機では、推進ジャッキの伸長に伴う振動を抑制するために、推進ジャッキの伸長を中断しなければならないという問題点がある。すなわち、カッタヘッドによる掘削を中断しなければならない。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、推進ジャッキの伸長を中断することなく推進ジャッキの振動を抑制することが可能なトンネル掘削機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明のトンネル掘削機は、掘削機本体と、移動方向の一方側および他方側にそれぞれ受圧部およびロッドを有するピストンと、ヘッド側油圧室(受圧部側油圧室)と、ロッド側油圧室とを含み、掘削機本体に設けられた複数の推進用油圧ジャッキと、掘削機本体を前進させるために、ヘッド側油圧室に油を供給し、ピストンに力を加えて、ロッドの後方に設置されたセグメントを押圧して掘進方向への反力が得られるように推進用油圧ジャッキを伸長する際に縮小するロッド側油圧室の油圧を制御して、ピストンの移動に対する抵抗を発生または変化させて、推進用油圧ジャッキの振動を抑制する振動抑制手段とを備える。
【0008】
この発明のトンネル掘削機では、上記のように、掘削機本体を前進させるために、ヘッド側油圧室に油を供給し、ピストンに力を加えて推進用油圧ジャッキを伸長する際に縮小するロッド側油圧室の油圧を制御して、ピストンの移動に対する抵抗を発生または変化させることにより、推進用油圧ジャッキの振動を抑制する振動抑制手段を設ける。これによって、振動抑制手段により、推進用油圧ジャッキを伸長させながら、ピストンの移動に対する抵抗(ブレーキ抵抗)を発生または変化させて、ピストンの移動の加減速を緩やかにして、ピストンの急激な移動を抑制することができる。その結果、推進用油圧ジャッキの伸長を中断することなく推進用油圧ジャッキの振動(脈動)を抑制することができる。また、ロッド側油圧室の断面積は、ヘッド側油圧室の断面積よりも小さいため、ヘッド側油圧室の流量(油圧)を制御する場合と比較して、ロッド側油圧室の流量(油圧)を制御する方が、少ない油の流量で、推進用油圧ジャッキの振動(脈動)を抑制する制御を行うことができる。このため、装置の小型化を図ることができる。
【0009】
上記トンネル掘削機において、好ましくは、振動抑制手段は、ロッド側油圧室から流出する油の流量を制御して、ピストンの移動に対する抵抗を発生または変化させる絞り弁と、ロッド側油圧室から流出する油の油圧自体を制御して、ピストンの移動に対する抵抗を発生または変化させる油圧制御弁との少なくとも一方を含む。このように構成すれば、絞り弁および油圧制御弁の少なくとも一方により、ピストンの移動に対する抵抗を発生または変化させることができるので、推進用油圧ジャッキの振動を抑制することを実現することができる。
【0010】
上記トンネル掘削機において、好ましくは、振動抑制手段により推進用油圧ジャッキの振動を抑制する際に、ロッド側油圧室に油を強制的に供給して、ロッド側油圧室の油圧を上昇させることが可能な油圧源をさらに備える。このように構成すれば、油圧源により、ロッド側油圧室の圧力をより高くしたり、適切な値に安定して維持または変化させることができるので、より大きな抵抗(ブレーキ抵抗)を得ることや、安定した抵抗および抵抗の変化を与えることができる。このため、より効果的に、推進用油圧ジャッキの振動(脈動)を抑制することができる。
【0011】
上記トンネル掘削機において、好ましくは、ピストンの移動が加減速するタイミングに合わせて、振動抑制手段により、ピストンの移動に対する抵抗を発生または変化させることによって、推進用油圧ジャッキの振動を抑制するように構成されている。このように構成すれば、振動抑制手段により、ピストンが加減速(振動)するタイミングに合わせてピストンの移動に対する抵抗を発生または変化させることができるので、効率的に推進用油圧ジャッキの振動を抑制することができる。
【0012】
上記トンネル掘削機において、好ましくは、推進用油圧ジャッキの近傍に設けられ、推進用油圧ジャッキの振動を検知する振動センサをさらに備え、振動センサの検知結果に基づいて、ピストンの移動が加減速する際に、振動抑制手段により、ピストンの移動に対する抵抗を発生または変化させることによって、推進用油圧ジャッキの振動を抑制するように構成されている。このように構成すれば、振動センサにより、推進用油圧ジャッキが振動するタイミングを精度よく検知することができるので、振動抑制手段により、推進用油圧ジャッキが振動するタイミングに合わせて、ピストンの移動に対する抵抗(ブレーキ抵抗)を発生または変化させることができる。その結果、より効果的に、推進用油圧ジャッキの振動(脈動)を抑制することができる。
【0013】
この場合において、好ましくは、複数の推進用油圧ジャッキは、2個以上の推進用油圧ジャッキにより各々が構成される複数の制御グループに分けられており、振動センサは、複数の制御グループの各々に対して1個ずつ設けられ、振動センサの各々の検知結果に基づいて、ピストンの移動が加減速する際に、複数の制御グループごとに独立して振動抑制手段により、ピストンの移動に対する抵抗を発生または変化させることによって、推進用油圧ジャッキの振動を抑制するように構成されている。このように構成すれば、トンネル掘削機が1個の振動センサのみを備える場合と比較して、より精度よく推進用油圧ジャッキの振動を検知することができる。また、1個の推進用油圧ジャッキに対して1個の振動センサを設ける場合と比較して、装置構成を簡素化することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、上記のように、推進用油圧ジャッキの伸長を中断することなく推進用油圧ジャッキの振動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態によるトンネル掘削機を側方から示した模式的な断面図である。
【
図2】実施形態によるトンネル掘削機の掘削機本体、推進用油圧ジャッキおよび振動センサを後方から示した模式的な図である。
【
図3】実施形態によるトンネル掘削機の推進用油圧ジャッキに設けられた油圧機構(油圧回路)の図である。
【
図4】(A)は実施例による推進用油圧ジャッキのピストン推力、ピストン速度およびピストン変位の各々と時間との関係を示したグラフであり、(B)は比較例による推進用油圧ジャッキのピストン推力、ピストン速度およびピストン変位の各々と時間との関係を示したグラフである。
【
図5】実施形態の第1変形例によるトンネル掘削機の推進用油圧ジャッキに設けられた油圧機構(油圧回路)の図である。
【
図6】実施形態の第2変形例によるトンネル掘削機の推進用油圧ジャッキに設けられた油圧機構(油圧回路)の図である。
【
図7】実施形態の第3変形例によるトンネル掘削機の推進用油圧ジャッキに設けられた油圧機構(油圧回路)の図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
[実施形態]
図1~
図4を参照して、実施形態によるトンネル掘削機100について説明する。
【0018】
各図では、トンネルの掘削方向に沿って延びるトンネル掘削機100の中心軸線αに平行な方向(前後方向)をX方向により示す。X方向のうち、掘削方向(前方)をX1方向とし、掘削方向の反対方向である後方をX2方向により示す。なお、X1方向は、特許請求の範囲の「(ピストンの)移動方向の一方」の一例であり、X2方向は、特許請求の範囲の「(ピストンの)移動方向の他方」の一例である。
【0019】
また、各図では、X方向に直交する左右方向をY方向により示し、X方向に直交する上下方向をZ方向により示す。
【0020】
図1に示すように、トンネル掘削機100は、掘削機本体1と、複数(36個)の推進用油圧ジャッキ2と、複数(6個)の振動センサ3と、推進用油圧ジャッキ2を駆動させる油圧機構4(油圧回路)とを備えている。
【0021】
本実施形態のトンネル掘削機100は、掘削機本体1を前進させるために、ヘッド側油圧室22aに油を供給し、ピストン21に力を加えて推進用油圧ジャッキ2を伸長する際に縮小するロッド側油圧室23aの油圧を油圧機構4により制御して、ピストン21の移動に対する抵抗を発生または変化させることによって、推進用油圧ジャッキ2の振動(脈動)を抑制するように構成されている。トンネル掘削機100は、推進用油圧ジャッキ2(掘削機本体1)の振動(脈動)を振動センサ3により検知して、油圧機構4により推進用油圧ジャッキ2の振動を抑制するように構成されている。詳細については後述する。
【0022】
本実施形態では、トンネル掘削機100が泥土圧式のトンネル掘削機である例を示している。泥土圧式のトンネル掘削機100では、カッタヘッド11により掘削された土砂と土砂に注入された作泥材とがチャンバC内で混合され、掘削土砂が不透水性と塑性流動性とを持つ泥土に変換される。掘削土砂(泥土)は、チャンバC内およびスクリュコンベアS内に充満する。トンネル掘削機100は、推進用油圧ジャッキ2によって推進することによって、掘削した土砂をチャンバC内に充満させ加圧し、地山側の圧力(土圧および地下水圧)に対抗させる。トンネル掘削機100は、掘削量と排土量とのバランスによって圧力の平衡を図りながら掘削方向に前進する。
【0023】
(掘削機本体の構成)
掘削機本体1は、円筒状の胴体10と、カッタヘッド11と、カッタヘッド11を支持する旋回支持部12と、複数のカッタヘッド駆動装置13とを備えている。
【0024】
胴体10の内側には、隔壁10aが設けられている。隔壁10aは、掘削方向(X1方向)と直交する方向に延びており、前方側の空間であるチャンバCと、後方側の空間である作業空間とに、胴体10の内部空間を区画している。
【0025】
カッタヘッド11は、土砂を掘削する複数のカッタビットを有している。カッタヘッド11は、掘削機本体1の掘削方向の前端に設けられている。カッタヘッド11は、後方側(X2方向側)から旋回支持部12により回転可能に支持されている。旋回支持部12は、トンネル掘削機100の中心軸線αを中心として、隔壁10aに対して回転可能なように構成されている。カッタヘッド11は、旋回支持部12を介してカッタヘッド駆動装置13によって回転力(トルク)が付与されることにより、トンネル掘削機100の中心軸線α回りに回転するように構成されている。一例ではあるが、カッタヘッド駆動装置13は、電気モータにより構成されている。
【0026】
(推進用油圧ジャッキの構成)
複数(36個)の推進用油圧ジャッキ2は、掘削機本体1に設けられている。複数の推進用油圧ジャッキ2は、胴体10の内部に外周に沿って円環状に配置され、掘削機本体1を押し進めるように胴体10に固定されている(
図2参照)。
【0027】
推進用油圧ジャッキ2は、シリンダ20と、受圧部22およびロッド23を有するピストン21と、ヘッド側油圧室22a(受圧部側油圧室)と、ロッド側油圧室23aとを含んでいる。
【0028】
シリンダ20は、X方向に延びる筒形状を有しており、後方にロッド23を通す貫通穴を有している。
【0029】
受圧部22は、X1方向側のヘッド側油圧室22aとX2方向側のロッド側油圧室23aとに、シリンダ20内を区画している。ロッド23は、受圧部22のX2方向側に設けられており、シリンダ20のX2方向端部(貫通穴)から後方に進退移動可能に構成されている。
【0030】
ロッド23は、ロッド23の後方に設置されたセグメントSGを後方に押圧して掘進方向(X1方向)への反力を得るように構成されている。その結果、掘削機本体1は、前進する。
【0031】
ヘッド側油圧室22aは、油圧機構4の後述する第1ポンプ40から油が供給されることにより、ピストン21をシリンダ20に対して後方(X2方向)に移動させて、容積を拡大するように構成されている。一方、ロッド側油圧室23aは、ヘッド側油圧室22aの拡大(ピストン21のシリンダ20に対する後方への移動)に伴い、容積を縮小するように構成されている。
【0032】
なお、X方向に直交する方向において、ロッド側油圧室23aの断面形状は、ロッド23を囲む環状に形成されている。一方、X方向に直交する方向において、ヘッド側油圧室22aの断面形状は、ロッド側油圧室23aの断面におけるロッド23の部分も含む形状である。すなわち、X方向に直交する方向において、ロッド側油圧室23aの断面積は、ヘッド側油圧室22aの断面積よりも小さくなる。したがって、シリンダ20に対してピストン21を移動させてロッド側油圧室23aを縮小させる際に、ロッド側油圧室23aから流出する油の量は、ヘッド側油圧室22aに供給される油の量よりも小さくなる。
【0033】
図2に示すように、複数(36個)の推進用油圧ジャッキ2は、複数(6組)の制御グループGに分けられている。詳細には、複数(36個)の推進用油圧ジャッキ2は、隣接する6個の推進用油圧ジャッキ2を1つの制御グループGとして、6組の制御グループGに分けられている。カッタヘッド11の回転方向において、各制御グループGの6個の推進用油圧ジャッキ2は、約60度の角度範囲内に配置されている。
【0034】
推進用油圧ジャッキ2は、制御グループGごとに、駆動(伸縮)が制御されるように構成されている。詳細には、推進用油圧ジャッキ2は、グループごとに、専用の振動センサ3が1個ずつ設けられている。また、推進用油圧ジャッキ2は、制御グループGごとに、専用の油圧機構4がそれぞれ設けられている。
【0035】
(振動センサの構成)
振動センサ3は、推進用油圧ジャッキ2の振動(脈動)を検知するように構成されている。一例ではあるが、振動センサ3は、加速度センサにより構成されている。振動センサ3は、推進用油圧ジャッキ2の近傍に設けられている。
【0036】
詳細には、振動センサ3の各々は、各振動センサ3が設けられる制御グループGの6個の推進用油圧ジャッキ2の近傍に設けられている。より詳細には、カッタヘッド11の回転方向において、振動センサ3は、制御グループGの6個の推進用油圧ジャッキ2が配置される約60度の角度範囲内の略中間位置に配置されている。また、振動センサ3は、カッタヘッド11の半径方向において、外周側で、かつ、推進用油圧ジャッキ2の近傍に配置されている。より詳細な一例として、振動センサ3は、推進用油圧ジャッキ2が設置されている胴体10を構成する構造体に設置されている。すなわち、振動センサ3は、制御対象の推進用油圧ジャッキ2の振動を検知可能な所定の位置に設置されている。
【0037】
振動センサ3の検知信号は、油圧機構4の後述する制御装置48により取得される。制御装置48は、振動センサ3の検知結果に基づいて、振動を抑制する手段(後述する高速応答圧力制御弁45および流量制御弁46)を適切に駆動するように構成されている。
【0038】
(油圧機構の構成)
図3に示すように、油圧機構4(油圧回路)は、第1ポンプ40と、第1方向制御弁41と、逆止弁42と、タンク43とを備えている。第1方向制御弁41および逆止弁42は、推進用油圧ジャッキ2に対して1個ずつ設けられている。第1方向制御弁41および逆止弁42は、第1ポンプ40からの油を推進用油圧ジャッキ2に供給する供給経路R1上に設けられている。供給経路R1は、ヘッド側油圧室22aに接続される供給経路R10と、ロッド側油圧室23aに接続される供給経路R11とを含んでいる。また、第1方向制御弁41は、ヘッド側油圧室22aの油をタンク43に流出させる流出経路R2上に設けられている。
【0039】
さらに、油圧機構4は、第2ポンプ44と、高速応答圧力制御弁45と、流量制御弁46と、第2方向制御弁46aと、安全弁47とを備えている。高速応答圧力制御弁45、流量制御弁46、第2方向制御弁46aおよび安全弁47は、ロッド側油圧室23aの油をタンク43に流出させる流出経路R3上に配置されている。流出経路R3は、上流側から順に高速応答圧力制御弁45、第2方向制御弁46aおよび流量制御弁46が設けられる流出経路R30と、安全弁47が設けられる流出経路R31とを含んでいる。流出経路R30と流出経路R31とは、並列に配置されている。なお、第2ポンプ44は、特許請求の範囲の「油圧源」の一例である。また、高速応答圧力制御弁45および流量制御弁46は、特許請求の範囲の「振動抑制手段」の一例である。
【0040】
さらに、油圧機構4は、制御装置48を備えている。制御装置48は、振動センサ3の検知結果に基づいて、第2ポンプ44、高速応答圧力制御弁45、第2方向制御弁46aおよび流量制御弁46の駆動を制御するように構成されている。
【0041】
第1ポンプ40は、ピストン21をシリンダ20に対してX1方向(前方)およびX2方向(後方)に移動させるために、推進用油圧ジャッキ2に油を供給するように構成されている。
【0042】
第1方向制御弁41は、第1ポンプ40からの油をヘッド側油圧室22aに供給する供給経路R10と、第1ポンプ40からの油をロッド側油圧室23aに供給する供給経路R11とを切り換えるように構成されている。第1方向制御弁41により油の供給先がヘッド側油圧室22aに切り換えられた場合、ピストン21は、シリンダ20に対してX2方向に移動する。すなわち、ヘッド側油圧室22aが拡大するとともに、ロッド側油圧室23aが縮小して、掘削機本体1が前進する。一方、第1方向制御弁41により油の供給先がロッド側油圧室23aに切り換えられた場合、ピストン21は、シリンダ20に対してX1方向に移動する。すなわち、ヘッド側油圧室22aが縮小するとともに、ロッド側油圧室23aが拡大して、ピストン21の後方にセグメントSGを設置するスペースが確保される。
【0043】
なお、第1ポンプ40から油が第1方向制御弁41を介してロッド側油圧室23aに供給される場合には、ヘッド側油圧室22aの油は、第1方向制御弁41を介してタンク43に流出する。また、第1ポンプ40から油が第1方向制御弁41を介してヘッド側油圧室22aに供給される場合には、ロッド側油圧室23aの油は、第2方向制御弁46aまたは高速応答圧力制御弁45を介してタンク43に流出する。
【0044】
高速応答圧力制御弁45は、ロッド側油圧室23aの圧力を、第2ポンプ44の圧力とタンクラインを高速で切り替えることにより、任意の圧力に制御することが可能なように構成されている。すなわち、ロッド側油圧室23aの圧力を自由に高速に変化させることができるように構成されている。
【0045】
流量制御弁46は、通過する油の流量を比例制御することが可能な絞り弁により構成されている。流量制御弁46は、ロッド側油圧室23aから流出する油の流量を制御して、ピストン21の移動に対する抵抗を発生または変化させる絞り弁である。したがって、流量制御弁46は、掘削機本体1を前進させるためにピストン21を移動させてロッド側油圧室23aを縮小させる際に、ピストン21の移動に対する抵抗(ブレーキ抵抗)を発生させることにより、推進用油圧ジャッキ2の振動を抑制するように構成されている。要するに、流量制御弁46は、ピストン21の移動に伴い、即座にロッド側油圧室23aの油がタンク43に流出するのを防止する機能を有している。なお、制御装置48は、流量制御弁46による制御と、第2ポンプ44による制御とを、選択的に切り換えることができるように構成されている。この際、第2方向制御弁46aが用いられる。
【0046】
制御装置48は、振動センサ3の検知結果に基づいて、ピストン21の移動が加減速するタイミングに合わせて、「高速応答圧力制御弁45および流量制御弁46の少なくとも一方」により、ピストン21の移動に対する抵抗を発生または変化させることによって、推進用油圧ジャッキ2の振動を抑制するように構成されている。
【0047】
また、制御装置48は、複数の振動センサ3の各々の検知結果に基づいて、ピストン21の移動が加減速する際に、複数の制御グループGごとに独立して「高速応答圧力制御弁45および流量制御弁46の少なくとも一方」により、ピストン21の移動に対する抵抗を発生または変化させることによって、推進用油圧ジャッキ2の振動を抑制するように構成されている。
【0048】
安全弁47は、流出経路R3の「高速応答圧力制御弁45および流量制御弁46」の上流側(推進用油圧ジャッキ2側)の部分の油圧が所定の限界油圧を超えた場合に、油を流通させて限界油圧を超えないように構成されている。
【0049】
(推進用油圧ジャッキのピストン推力、ピストン速度およびピストン変位の各々と時間との関係)
図4を参照して、推進用油圧ジャッキ2のピストン推力、ピストン速度およびピストン変位の各々と時間との関係について説明する。本発明の実施例(
図4(A)参照)と、比較例(
図4(B)参照)とを比較して説明する。なお、推進用油圧ジャッキ2は、伸長時において、周囲の土砂からの摩擦力を受けるため、滑らかに一定速度でピストンが移動するのではなく、ピストン推力が最大静止摩擦力を超えるたびに移動を開始するとともに、所定の摩擦力になったら再び停止するという動作を繰り返しながら僅かずつ伸長する。なお、トンネル掘削機100は、この他の種々の振動についても、ピストン21の移動の抵抗を発生または変化させることで抑制することが可能である。
【0050】
比較例は、ピストンの移動の抵抗を発生または変化させて振動を抑制する「高速応答圧力制御弁45および流量制御弁46」に相当する構成を備えていないトンネル掘削機について説明する。
【0051】
まず、
図4(B)に示されるように、比較例のトンネル掘削機のピストン推力は、ピストンの静止状態では蓄積されて上昇し、ピストンが静止状態から解放されることによって低下する。また、
図4(B)に示されるように、トンネル掘削機のピストン速度は、ピストンの静止状態から解放された直後から急激に上昇し、ピストン推力(F)が所定の値まで低下した時点でゼロになる。
【0052】
図4(A)に示されるように、実施例のトンネル掘削機100のピストン推力(F)(実線で示す)は、ヘッド側油圧室22aの油圧(p1)と受圧部面積(a1)(
図3参照)との積で求まる力(F1=p1×a1)(
図3参照)からロッド側油圧室23aの油圧(p2)とロッド側油圧室断面積(a2) (
図3参照)との積で求まる力(F2=p2×a2)(
図3参照)を差し引くことにより得られる(F=F1-F2)。
【0053】
実施例のトンネル掘削機100のピストン推力は、ピストン21が移動している間において、「高速応答圧力制御弁45および流量制御弁46の少なくとも一方」によりピストン21に対してブレーキ抵抗が作用することによって、比較例よりも時間変化に対して滑らかに変化している。すなわち、実施例のトンネル掘削機100のピストン速度の最大値は、比較例のピストン速度の最大値よりも小さくなっている。また、実施例のトンネル掘削機100のピストン推力の作用する時間幅は、比較例のトンネル掘削機のピストン推力の作用する時間幅よりも大きくなっている。すなわち、実施例のトンネル掘削機100のピストン21は、「高速応答圧力制御弁45および流量制御弁46の少なくとも一方」によってピストン21がブレーキ抵抗を受けることにより、比較例のトンネル掘削機のピストンよりも滑らかに移動(変位)することが可能なように構成されている。なお、ピストン変位について、実施例では、1度のピストン動作(1度の動き始めから停止までの間)における移動量が比較例よりも大きい。
【0054】
[実施形態の効果]
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0055】
本実施形態では、上記のように、掘削機本体1を前進させるために、ヘッド側油圧室22a(受圧部側油圧室)に油を供給し、ピストン21に力を加えて推進用油圧ジャッキ2を伸長する際に縮小するロッド側油圧室23aの油圧を制御して、ピストン21の移動に対する抵抗を発生または変化させることにより、推進用油圧ジャッキ2の振動を抑制する振動抑制手段(高速応答圧力制御弁45、流量制御弁46)を設ける。これによって、振動抑制手段(高速応答圧力制御弁45、流量制御弁46)により、推進用油圧ジャッキ2を伸長させながら、ピストン21の移動に対する抵抗(ブレーキ抵抗)を発生または変化させて、ピストン21の移動の加減速を緩やかにして、ピストン21の急激(急速)な移動を抑制することができる。推進用油圧ジャッキ2の伸長を中断することなく推進用油圧ジャッキ2の振動(脈動)を抑制することができる。また、ロッド側油圧室23aの断面積は、ヘッド側油圧室22aの断面積よりも小さいため、ヘッド側油圧室22aの流量(油圧)を制御する場合と比較して、ロッド側油圧室23aの流量(油圧)を制御する方が、少ない油の流量で、推進用油圧ジャッキ2の振動(脈動)を抑制する制御を行うことができる。このため、装置の小型化を図ることができる。
【0056】
本実施形態では、上記のように、流量制御弁46は、ロッド側油圧室23aから流出する油の流量を制御して、ピストン21の移動に対する抵抗を発生または変化させる絞り弁を含む。これによって、絞り弁により、ピストン21の移動に対する抵抗を発生または変化させることができるので、推進用油圧ジャッキ2の振動を抑制することを実現することができる。
【0057】
本実施形態では、上記のように、ロッド側油圧室23aに油を強制的に供給して、ロッド側油圧室23aの油圧を上昇させる第2ポンプ44をさらに備える。さらに、この第2ポンプ44の圧力ラインに高速応答圧力制御弁45を備える。これによって、第2ポンプ44により、ロッド側油圧室23aの圧力をより高くしたり、適切な値に安定して維持または変化させることができるので、より大きな抵抗(ブレーキ抵抗)を得ることや、安定した抵抗および抵抗の変化を与えることができる。このため、より効果的に、推進用油圧ジャッキ2の振動(脈動)を抑制することができる。
【0058】
本実施形態では、上記のように、ピストンの移動が加減速するタイミングに合わせて、振動抑制手段(高速応答圧力制御弁45、流量制御弁46)により、ロッド側油圧室23aの圧力を発生または変化させるように構成されている。これによって、振動抑制手段(高速応答圧力制御弁45、流量制御弁46)により、ピストン21が加減速(振動)するタイミングに合わせてピストン21の移動に対する抵抗を発生または変化させることができるので、効率的に推進用油圧ジャッキ2の振動を抑制することができる。
【0059】
本実施形態では、上記のように、推進用油圧ジャッキ2の近傍に設けられ、推進用油圧ジャッキ2の振動を検知する振動センサ3をさらに備え、振動センサ3の検知結果に基づいて、ピストン21が加減速する際に、流量制御弁46により、ピストン21の移動に対する抵抗を発生または変化させることによって、推進用油圧ジャッキ2の振動を抑制するように構成されている。これによって、振動センサ3により、推進用油圧ジャッキ2が振動するタイミングを精度よく検知することができるので、振動抑制手段(高速応答圧力制御弁45および流量制御弁46の少なくとも一方)により、推進用油圧ジャッキ2が振動するタイミングに合わせて、ピストン21の移動に対する抵抗(ブレーキ抵抗)を発生または変化させることができる。その結果、より効果的に、推進用油圧ジャッキ2の振動(脈動)を抑制することができる。
【0060】
本実施形態では、上記のように複数の推進用油圧ジャッキ2は、2個以上の推進用油圧ジャッキ2により各々が構成される複数の制御グループGに分けられており、振動センサ3は、複数の制御グループGの各々に対して1個ずつ設けられ、複数の振動センサ3の各々の検知結果に基づいて、ピストン21の移動が加減速する際に、複数の制御グループGごとに独立して振動抑制手段(高速応答圧力制御弁45および流量制御弁46の少なくとも一方)により、ピストン21の移動に対する抵抗を発生または変化させることによって、推進用油圧ジャッキ2の振動を抑制するように構成されている。これによって、トンネル掘削機100が1個の振動センサ3のみを備える場合と比較してより精度よく、推進用油圧ジャッキ2の振動を検知することができる。また、1個の推進用油圧ジャッキ2に対して1個の振動センサ3を設ける場合と比較して装置構成を簡素化することができる。
【0061】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態および変形例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0062】
たとえば、上記実施形態では、泥土圧式のトンネル掘削機に本発明を適用した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明を、泥水式のトンネル掘削機に適用してもよい。
【0063】
また、上記実施形態では、カッタヘッドを備える密閉型のトンネル掘削機に本発明を適用した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明を、カッタヘッドを備えない開放型のトンネル掘削機に適用してもよい。
【0064】
また、上記実施形態では、本発明の振動抑制手段を、加圧用ポンプを用い、高速応答の圧力制御弁を用いるとともに、通過する油の流量を比例制御することが可能な絞り弁により構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、
図5に示す第1変形例のように、通過する油の流量を所定の割合で絞る単一の絞り弁204により構成してもよい。なお、絞り弁204の上流側には、絞り弁204を通過してタンク43に油を流す経路と、絞り弁204を通過することなくタンク43に油を直接流す経路とを切り換える方向制御弁240が設けられている。なお、絞り弁204は、特許請求の範囲の「振動抑制手段」の一例である。
【0065】
また、上記
図5に示す第1変形例とは異なる変形例として、
図6に示す第2変形例のように、通過する油の流量を第1の割合で絞る1つの絞り弁304aと、通過する油の流量を第1の割合とは異なる第2の割合で絞る1つの絞り弁304bとにより構成してもよい。なお、絞り弁304aの上流側には、絞り弁304aを通過してタンク43に油を直接流す経路と、絞り弁304aを通過することなく絞り弁304bに油を流す経路とを切り換える方向制御弁340aが設けられている。絞り弁304bの上流側には、絞り弁304bを通過してタンク43に油を流す経路と、絞り弁304bを通過することなくタンク43に油を直接流す経路とを切り換える方向制御弁340bが設けられている。なお、絞り弁304aおよび304bは、特許請求の範囲の「振動抑制手段」の一例である。
【0066】
また、上記
図5に示す第1変形例および
図6に示す第2変形例とは異なる変形例として、
図7に示す第3変形例のように、通過する油の油圧自体を制御する油圧制御弁404により構成してもよい。なお、油圧制御弁404は、特許請求の範囲の「振動抑制手段」の一例である。
【0067】
本発明では、上記実施形態の振動抑制手段や、
図5~
図7の変形例に示す各種の振動抑制手段をそれぞれで構成するのではなく、組み合わせにより、本発明の振動抑制手段を構成してもよい。
【0068】
また、上記実施形態では、環状に配置される複数の推進用油圧ジャッキを、36個備える例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、推進用油圧ジャッキを、36個とは異なる数(複数個)備えていてもよい。
【0069】
また、上記実施形態では、ロッド側油圧室の油圧のみを制御して、推進用油圧ジャッキの振動を抑制した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、ロッド側油圧室の油圧に加えて、ヘッド側油圧室の油圧も制御して、推進用油圧ジャッキの振動を抑制してもよい。
【0070】
また、上記実施形態では、本発明の振動抑制手段により推進用油圧ジャッキの振動を抑制した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、本発明の振動抑制手段により推進用油圧ジャッキの振動を抑制することによって、さらには、推進用油圧ジャッキとは異なる掘削機本体の各部の振動を抑制するように構成されていてもよい。
【0071】
また、上記実施形態では、複数の推進用油圧ジャッキ(制御グループ)に対して1つの振動センサを設けた例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、1つの推進用油圧ジャッキに対して1つの振動センサを設けてもよい。
【0072】
また、上記実施形態では、本発明の振動抑制手段として、高速応答圧力制御弁および流量制御弁の両方を備えるように、トンネル掘削機を構成した例を示したが、本発明では、高速応答圧力制御弁および流量制御弁の一方のみを備えるように、トンネル掘削機を構成してもよい。
【符号の説明】
【0073】
1 掘削機本体
2 推進用油圧ジャッキ
3 振動センサ
21 ピストン
22 受圧部
22a ヘッド側油圧室
23 ロッド
23a ロッド側油圧室
44 第2ポンプ(油圧源)
45 高速応答圧力制御弁(振動抑制手段)
46、204、304a、304b 流量制御弁(振動抑制手段)
100 トンネル掘削機
404 油圧制御弁(振動抑制手段)
G 制御グループ