(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-12
(45)【発行日】2023-09-21
(54)【発明の名称】超音波発信器具
(51)【国際特許分類】
A61B 8/13 20060101AFI20230913BHJP
G01N 29/24 20060101ALI20230913BHJP
【FI】
A61B8/13
G01N29/24
(21)【出願番号】P 2020038588
(22)【出願日】2020-03-06
【審査請求日】2022-11-14
(73)【特許権者】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今井 亮
(72)【発明者】
【氏名】田中 智彦
【審査官】冨永 昌彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/148379(WO,A1)
【文献】特開昭63-054151(JP,A)
【文献】特表2014-523603(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00 - 8/15
G01N 29/00 - 29/52
G02B 6/02 - 6/10
G02B 6/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光音響効果により超音波を発信する超音波発信器具であって、
光を伝搬する光ファイバー、
前記光を吸収することにより超音波を発生
する光吸収性材料、
を備え、
前記光ファイバーの両端に挟まれている区間のうち少なくとも一部の個所には、前記光ファイバーから前記光を放出する光放出部が配置されており、
前記光放出部は、前記光吸収性材料によって被覆さ
れ、前記光ファイバーが切断されている部位に配置され、前記切断されている部位から前記光を放出し、
前記切断されている部位には、光散乱体が混合された材料が充填されており、
光散乱体が混合された前記材料が、前記切断された前記光ファイバーを接続している
ことを特徴とする超音波発信器具。
【請求項2】
光音響効果により超音波を発信する超音波発信器具であって、
光を伝搬する光ファイバー、
前記光を吸収することにより超音波を発生する光吸収性材料、
を備え、
前記光ファイバーの両端に挟まれている区間のうち少なくとも一部の個所には、前記光ファイバーから前記光を放出する光放出部が配置されており、
前記光放出部は、前記光吸収性材料によって被覆され、前記光ファイバーが切断されている部位に配置されており、
前記切断されている部位は、前記光吸収性材料によって充填されており、
前記光吸収性材料が、前記切断された前記光ファイバーを接続している
ことを特徴とする超音波発信器具。
【請求項3】
前記光放出部は、前記光ファイバーの両端に挟まれている区間のうち少なくとも2個所に配置されている
ことを特徴とする請求項1
または2記載の超音波発信器具。
【請求項4】
前記光放出部は、前記光ファイバー
が切断されている部位に配置されており、
前記光ファイバーは、前記光放出部として、第1放出部と第2放出部を有しており、
前記第1放出部には、第1光散乱係数を有する光散乱体が混合された材料が充填されており、
前記第2放出部には、前記第1光散乱係数とは異なる第2光散乱係数を有する光散乱体が混合された材料が充填されている
ことを特徴とする請求項
3記載の超音波発信器具。
【請求項5】
前記光放出部は、前記光ファイバー
が切断されている部位に配置されており、
前記光ファイバーは、前記光放出部として、第1放出部と第2放出部を有しており、
前記第1放出部を形成している前
記切断されている部位の形状は、第1形状を有し、
前記第2放出部を形成している前
記切断されている部位の形状は、前記第1形状とは異なる第2形状を有する
ことを特徴とする請求項
3記載の超音波発信器具。
【請求項6】
前記光放出部は、前記光ファイバー
が切断されている部位に配置されており、
前記光ファイバーは、前記光放出部として、第1放出部と第2放出部を有しており、
前記第1放出部を形成している前
記切断されている部位の両側には、第1距離を隔てて前記光ファイバーがそれぞれ配置されており、
前記第2放出部を形成している前
記切断されている部位の両側には、前記第1距離とは異なる第2距離を隔てて前記光ファイバーがそれぞれ配置されている
ことを特徴とする請求項
3記載の超音波発信器具。
【請求項7】
前記光ファイバーは、前記光放出部として、第1放出部と第2放出部を有しており、
前記第1放出部は、前記光吸収性材料として、第1波長の光を最も吸収する第1材料によって被覆されており、
前記第2放出部は、前記光吸収性材料として、前記第1波長とは異なる第2波長の光を最も吸収する第2材料によって被覆されている
ことを特徴とする請求項
3記載の超音波発信器具。
【請求項8】
光音響効果により超音波を発信する超音波発信器具であって、
光を伝搬する光ファイバー、
前記光を吸収することにより超音波を発生する光吸収性材料、
を備え、
前記光ファイバーの両端に挟まれている区間のうち少なくとも一部の個所には、前記光ファイバーから前記光を放出する光放出部が配置されており、
前記光放出部は、前記光吸収性材料によって被覆され、前記光ファイバー内部のコアのうち前記光放出部以外の部分とは異なる光学的特性を有する改質部によって構成されて
おり、
前記光吸収性材料が、前記改質部がある位置で前記光ファイバーの周囲を被覆している
ことを特徴とす
る超音波発信器具。
【請求項9】
前記光ファイバーは、前記光放出部として、第1放出部と第2放出部を有しており、
前記第1放出部を構成している前記改質部は、第1形状を有し、
前記第2放出部を構成している前記改質部は、前記第1形状とは異なる第2形状を有する
ことを特徴とする請求項
8記載の超音波発信器具。
【請求項10】
前記光ファイバーは、前記光放出部として、第1放出部と第2放出部を有しており、
前記第1放出部の光屈折率は第1屈折率であり、
前記第2放出部の光屈折率は前記第1屈折率とは異なる第2屈折率である
ことを特徴とする請求項
8記載の超音波発信器具。
【請求項11】
前記光放出部に加え、前記光ファイバーの先端部も前記光吸収性材料により被覆されている
ことを特徴とする請求項1から10のいずか1項記載の超音波発信器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を発信する超音波発信器具のうち、光音響効果を利用するものに関する。
【背景技術】
【0002】
カテーテル等の細径治療器具を用い、体内の治療を低侵襲に実施する治療方法が存在する。このような治療においては体表面に針等を刺して治療用の器具を体内に入れるので、開腹・開胸手術と比較して患者負担が小さい反面、治療用器具を直視することができないため体内をイメージングする装置によって治療部位の画像を得ることが必要となる。このような低侵襲治療の一例として、血管の狭窄・閉塞部位をカテーテル等の器具で治療する手法がある。治療に際しては器具の位置を特定するために、広範囲の生体透視像が得られるX線撮像装置が広く用いられている。一方でX線撮像においては骨以外の体組織が映りにくく造影剤を併用する必要がある、造影剤で造影可能であるのは血流が存在する領域のみであり、閉塞部自体は造影できないといった課題があるので、超音波イメージングが補助的に用いられることがある。超音波イメージングはX線撮像と比較して視野が狭いが、血管などを造影剤不要で描出でき、また被曝もない。
【0003】
上記のような超音波イメージングを用いた低侵襲検査・治療においては、患部もしくは細径治療器具付近を描出しておき、その画像を頼りに器具を進めていく。しかし超音波ガイドによる検査・治療においては、超音波画像撮像領域から器具が外に出てしまう場合があること、画像上でカテーテル等の先端部を見分けることが困難な場合があること、などの課題がある。
【0004】
上記の課題を解決しうる手法として、器具から超音波を発生させ、これを位置検出用の信号として利用することにより器具の位置を決定する技術が考案されている(特許文献1)。この技術においては超音波画像の取得と超音波発生源からの信号取得を交互に繰り返し、超音波画像上に器具の位置を描出する。特許文献2については後述する。
【0005】
このような技術においては例えば直径1mm以下の細径器具中に超音波発生源を設置する必要がある。このため直径が数百μm以下(一部のものでは100μm以下)の光ファイバーを用い、光音響効果により超音波を発生させる技術が超音波発生源として有望である。光音響効果とは、光吸収性材料にパルス幅がナノ秒程度の短パルスレーザ光を照射すると局所的に急速な温度上昇が発生し、温度上昇による熱膨張によって超音波が発生する効果である。光ファイバー先端部に光吸収性材料を塗布し、末端部から短パルスレーザ光を導入することにより、光ファイバー先端部からパルス状の超音波を発生させることができる。特許文献1においても超音波を発生させるために光音響効果が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5819387号
【文献】特開2012-203327号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述した細径治療器具から超音波を発生させて器具の位置を決定する技術においては、超音波発信源が複数点存在してもよい。例えばカテーテルの先端に加え中間部に複数点の超音波発信源を設ければ、カテーテル全体の通過位置を示すことができる。また器具先端に2つの超音波源を設ければ、先端部の角度を計測する機能も実現することができる。
【0008】
しかし、一般に体内挿入用の細径治療器具はその外径に強い制約があり、その直径も数mm~サブmm程度である。光ファイバーの直径は数十~数百μmであり、これを用いた超音波発信器具はその直径の小ささが体内挿入用治療器具への搭載において有利となるものの、複数の超音波発信源を搭載するために複数の光ファイバーを内蔵させることは治療器具の外径制約や性能に対して不利な要因となりうる。また複数の光ファイバーへ超音波発生用のレーザ光を導入するためには複数個の光コネクタや光分岐部を設ける必要があるので、器具の構造の複雑化や直径の増大を招きうる。
【0009】
上記課題を解決するためには、光ファイバーの先端だけでなく中間部分からもレーザ光を取り出し超音波に変換することにより、単一の光ファイバー上に複数の超音波発生源を設ければよい。しかし、光ファイバー中間部の任意の位置でレーザ光を取り出す手法は限定的である。例えば特許文献2は、光ファイバーのコアとクラッドの中間に光散乱体を導入することによって光ファイバーの中間部から光を放出させる技術を記載している。しかしこのような光ファイバーを製造するためには文献中に示されているような特殊な製造法によって光ファイバーを製造しなければならずコストの増大を招くほか、光ファイバー製造後に光放出部の位置を変えることもできない。
【0010】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、特殊な製造方法によって製造された光ファイバーを用いず、通常の伝送用光ファイバー1本の中間部分に超音波発信源が設けられた超音波発信器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る超音波発信器具は、光音響効果により超音波を発信する超音波発信器具であって、光を伝搬する光ファイバー、前記光を吸収することにより超音波を発生する光吸収性材料、を備え、前記光ファイバーの両端に挟まれている区間のうち少なくとも一部の個所には、前記光ファイバーから前記光を放出する光放出部が配置されており、前記光放出部は、前記光吸収性材料によって被覆され、前記光ファイバーが切断されている部位に配置され、前記切断されている部位から前記光を放出し、前記切断されている部位には、光散乱体が混合された材料が充填されており、光散乱体が混合された前記材料が、前記切断された前記光ファイバーを接続していることを特徴とする。また、本発明に係る超音波発信器具は、光音響効果により超音波を発信する超音波発信器具であって、光を伝搬する光ファイバー、前記光を吸収することにより超音波を発生する光吸収性材料、を備え、前記光ファイバーの両端に挟まれている区間のうち少なくとも一部の個所には、前記光ファイバーから前記光を放出する光放出部が配置されており、前記光放出部は、前記光吸収性材料によって被覆され、前記光ファイバーが切断されている部位に配置されており、前記切断されている部位は、前記光吸収性材料によって充填されており、前記光吸収性材料が、前記切断された前記光ファイバーを接続していることを特徴とする。また、本発明に係る超音波発信器具は、光音響効果により超音波を発信する超音波発信器具であって、光を伝搬する光ファイバー、前記光を吸収することにより超音波を発生する光吸収性材料、を備え、前記光ファイバーの両端に挟まれている区間のうち少なくとも一部の個所には、前記光ファイバーから前記光を放出する光放出部が配置されており、前記光放出部は、前記光吸収性材料によって被覆され、前記光ファイバー内部のコアのうち前記光放出部以外の部分とは異なる光学的特性を有する改質部によって構成されており、前記光吸収性材料が、前記改質部がある位置で前記光ファイバーの周囲を被覆していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る超音波発信器具によれば、単一の光ファイバー上に複数の超音波発信源を設けることが可能となり、複数の超音波発信源を細径器具上に搭載することができる。超音波発生に際しては単一の光ファイバーへ短パルスレーザ光を導入すればよいので、複数の光コネクタや光分岐部が不要となり、光導入部の構造をより簡易化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態1に係る位置検出システム100の構成図である。
【
図2】実施形態1に係る超音波発信器具200の構成図である。
【
図3】中間超音波発生部202における超音波発生のメカニズムを概念的に示す。
【
図4】位置検出システム100によって
図2記載の超音波発信器具200の超音波画像を取得した場合の画像である。
【
図6】中間超音波発生部202を3点設けた超音波発信器具200の構造を示す。
【
図7】位置検出システム100によって
図6記載の超音波発信器具200の超音波画像を取得した画像を示す。
【
図8】実施形態2に係る超音波発信器具200の構成図である。
【
図9】実施形態3に係る超音波発信器具200の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<実施の形態1>
図1は、本発明の実施形態1に係る位置検出システム100の構成図である。ここでは位置検出システム100の1例として、カテーテル治療において使用されるガイドワイヤ(細径器具)の先端位置を検出する構成例を説明する。
【0015】
位置検出システム100は、パルスレーザを搭載した超音波撮像装置101、画像を表示するディスプレイ102、超音波を送受信する超音波プローブ103、超音波発信器具107を搭載したガイドワイヤ104、を備える。カテーテルを用いた血管の治療においては被検体105の血管106内にガイドワイヤ104が挿入される。超音波撮像装置101と超音波プローブ103によって血管付近の断層像を撮像することにより、操作者は治療対象の構造を把握できる。超音波ビーコンを用いた位置検出システムにおいてはガイドワイヤ104の先端部に超音波発信器具107が取り付けられており、発生した超音波を超音波プローブ103が受信することによって先端位置を推定し、ディスプレイ102に示された超音波画像中に先端位置を重畳する。これにより、超音波画像上にガイドワイヤ104が見えない場合でも先端部の位置を容易に把握することができる。また先端部位置は超音波画像の描出領域範囲外でも超音波発信器具107から発生した信号を解析することで決定することができるので、超音波発信器具107が描出領域外にある場合であっても超音波発信器具107が存在している方向を示すことができる。
【0016】
図2は、本実施形態1に係る超音波発信器具200の構成図である。この超音波発信器具200は、従来例と同様の構造を持つ先端超音波発生部201と本発明による中間超音波発生部202からなる。超音波発信器具200は、
図1において血管106内に挿入するガイドワイヤ104と超音波発信器具107に対応する器具である。
【0017】
超音波発信器具200は、光ファイバー203を有する。光ファイバー203は、中間超音波発生部202を設ける位置で切断され、切断した光ファイバー203の両端を接着剤204によって再接続する。切断された光ファイバーは、数μm~数百μmの間隔をあけて接続される。本実施形態1において、接着剤204は入射されるレーザ光を吸収しないものとする。接着剤204が光吸収性を持つ場合については実施形態2に記載する。
【0018】
接着剤204には光散乱体205が混合されている。接着剤204の表面には光吸収性材料206が塗布される。光吸収性材料206の表面には、光吸収性材料206が吸収したレーザ光により発生した熱を効率よく超音波へ変換するため、コーティング剤207が塗布されてもよい。コーティング剤207としては熱膨張率とコーティング剤外部への超音波放射時の損失の観点からポリジメチルシロキサンが有利であることが知られている。レーザ光を超音波に変化する光吸収性材料206とコーティング剤207の構成は必ずしも
図2に示したものに限定されず、光吸収性材料206とコーティング剤207を混合して塗布するなど異なる形態をとってもよい。
【0019】
先端超音波発生部201には、中間超音波発生部202と同じく光吸収性材料206とコーティング剤207が塗布される。先端超音波発生部201は例えば特許文献1などに記載されている従来の手法により作成することができるが、
図2に示された構成に限定されるものではない。
【0020】
図3は、中間超音波発生部202における超音波発生のメカニズムを概念的に示す。光ファイバー末端(
図3右側)から入射されたレーザ光は光ファイバーの切断点において光ファイバー203から接着剤204中へ侵入する。この時、一部の光は直進せず、光散乱体205によって散乱され、側面方向へその進行方向が変化する。このレーザ光は側面に塗布された光吸収性材料206によって吸収され、熱に変換される。この熱が光吸収性材料206および表面に塗布されたコーティング剤207を熱膨張させる。この熱膨張により超音波が発生する。
【0021】
一方、接着剤204中で散乱されなかったレーザ光、もしくは光散乱体205によって散乱されたものの進行方向が大きく変化しなかったレーザ光は、前方に接続された光ファイバー中に再度入射する。再入射したレーザ光は次の超音波発生部において超音波を発生させるために用いられる。
【0022】
図4は、位置検出システム100によって
図2記載の超音波発信器具200の超音波画像を取得した場合の画像である。
図4の画像は超音波プローブ103からの超音波送受信によって取得される一般的な超音波像は表示しておらず、超音波発信器具200からの超音波信号を超音波プローブ103によって受信し、再構成した画像のみを表示している。
図4では超音波強度が強いほど色が黒くなるよう表示がなされている。
【0023】
図4中には黒点が明瞭に2点認められ、超音波発信器具200によって点状の超音波発信源2点が単一の光ファイバー上に構成できていることを示している。
図4の黒点の周囲に認められるX字状のパターンは、点音源を超音波イメージング装置で観察した場合に現れるアーティファクトである。
【0024】
図5は、中間超音波発生部202の変形例を示す。中間超音波発生部202の構造は
図2に示した構造に限定されない。
図5の例において、光ファイバー203は完全に切断されずその一部に切り込みが形成されている。切り込みには
図2と同様に接着剤204と光散乱体205が充填されており、さらに接着剤204の表面は光吸収性材料206とコーティング剤207によって覆われている。
【0025】
一般的に光ファイバー203は、光が伝搬するコア、コアに光を閉じ込めるクラッド、コアとクラッドを保護し機械的な強度を高めるコーティングの3層で構成されている。この例においてはファイバー中心に存在するコア部に達する切れ込みにより、光がファイバー外に放出される。その後は
図2と同じく接着剤204中の光散乱体205によって散乱された光が光吸収性材料206とコーティング剤207によって超音波に変換される。
【0026】
図6は、中間超音波発生部202を3点設けた超音波発信器具200の構造を示す。本実施形態1の構成を用いることにより、任意の数の超音波発生源を単一の光ファイバー上に設けることができる。光ファイバー末端(
図6右側)から入射されたレーザ光はそれぞれの中間超音波発生部202により一部の光エネルギーが超音波に変換され、残留したレーザ光が先端超音波発生部201において超音波に変換される。このような構造の超音波発信器具200においては、各超音波発生部に対して超音波発生に十分なエネルギーを持つパルスレーザ光が伝達されることが必要である。
【0027】
図7は、位置検出システム100によって
図6記載の超音波発信器具200の超音波画像を取得した画像を示す。画像取得時に超音波発信器具200は水平に設置されている。
図6においても水平方向に4つの点が認められ、
図6の構造により4点の超音波発信源を構成することができることが示されている。
【0028】
図6に示したように複数の中間超音波発生部202を設ける場合、各発生部から発生する超音波の強度を調節することも可能である。中間超音波発生部202において超音波に変換されるレーザ光の割合は、(a)光散乱体205の濃度、(b)中間超音波発生部202における光ファイバー間の間隔、によって調整することができる。光散乱体205の散乱性もしくは濃度が高いほど、すなわち光散乱体205を混合した接着剤204の光散乱係数が大きいほどレーザ光が強く散乱され、前方の光ファイバーに再入射せず超音波発生に使用される光の割合が大きくなる。また光ファイバー間の間隔が長いほどレーザ光が散乱される割合が高くなる。一般に光音響現象において発生する超音波パルスの音圧と発生に使われる短パルスレーザ光の光エネルギーは比例関係にあることが知られており、より大きなエネルギーが超音波発生に使われることによってより音圧の高い超音波パルスが発生する。
【0029】
光放出部が
図5に示した形状をとる場合は、放出する光の強度は欠損部の形状を変化させることによっても制御できる。例えば光ファイバーのコアの面積に占める欠損部の割合が高いほど、光ファイバーから出る光の量が多くなる。
【0030】
上記のような調節は、例えば下記のような例で有用である。ある特定の散乱体濃度と光ファイバー間間隔で作られた中間超音波発生部202において、入射されたパルスレーザ光のパルスエネルギーのうち割合αが超音波発生に使用されるとする。同一構造の中間超音波発生部202を複数形成した場合、n番目の中間超音波発生部ではα(1-α)n-1のエネルギーが超音波発生に使用される。したがって最も末端側(レーザ光の入射端側)の中間超音波発生部において発生する超音波の強度が最も高く、先端側に進むにつれ超音波の強度が下がり、意図しない超音波強度の不均一性が発生することとなる。そこで末端側ほど光散乱体205の濃度を薄く、もしくは光ファイバー間間隔を短くしておくことにより、上記の原因における不均一性を補正することができる。超音波強度を調節する目的は、前述の不均一性の補正にとどまるものではなく、能動的に特定の強度分布を持たせるような制御も可能である。
【0031】
複数点存在する超音波発生部からの超音波発生の有無をコントロールすることも可能である。例えば
図2の構造における光吸収性材料206について、先端超音波発生部201と中間超音波発生部202において、それぞれ異なる波長の光を吸収するものを用いる。1例として先端超音波発生部201には波長λ
1を持つ光を最も吸収する光吸収性材料を塗布し、中間超音波発生部202には波長λ
2を持つ光を最も吸収する光吸収性材料を塗布する。各々の光吸収性材料はほかの波長の光を吸収しないものと想定する。光ファイバーの末端部(
図2右側)からは波長λ
1を持つレーザ光と波長λ
2を持つレーザ光の両方を入射できるようにしておく。波長λ
1を持つレーザ光を入射した場合には先端超音波発生部201からのみ、λ
2を持つレーザ光を入射した場合には中間超音波発生部202からのみ超音波が発生する。この方法によれば、超音波画像上で複数存在する超音波発生源を区別することができる。の方法は発生源が3点以上存在する場合にも拡張することができる。
【0032】
<実施の形態1:まとめ>
本実施形態1に係る超音波発信器具200は、光ファイバー203に改変を加えることによって光ファイバー203の中間部に中間超音波発生部202を構成し、その周囲に光吸収性材料を塗布することによって構成されている。光ファイバー203としては、中間部で光を取り出すための特殊な構造を有しない通常の伝送用光ファイバーを用いる。中間超音波発生部202においては、光ファイバー内を伝搬する一部のレーザ光が光ファイバー外に放射され、光吸収性材料によって超音波へ変換される。中間超音波発生部202において外部へ放射されなかったレーザ光はそのまま光ファイバー中を伝搬し、次の中間超音波発生部202もしくは先端における超音波発生に利用される。以上の構成により、特殊な製法によって製造したものではない一般的な光ファイバー203を用いて、中間部分に超音波発信源が設けられた超音波発信器具200を提供することができる。
【0033】
<実施の形態2>
図8は、本発明の実施形態2に係る超音波発信器具200の構成図である。本実施形態2では、実施形態1とは異なる中間超音波発生部202の構成例について説明する。本実施形態2に係る中間超音波発生部202において、実施形態1の光を吸収しない接着剤204ではなく光吸収性材料801が用いられている。光吸収性材料801は、光ファイバー203を伝達してきた光の一部を吸収して超音波に変換する。吸収されなかった光は前方の光ファイバーへ入り、さらに先へ伝搬する。光吸収性材料801は、例えば透明な接着剤や樹脂等に光を吸収する色素を適切な割合で混合することによって構成すればよい。また接着剤や樹脂等が特定の波長をもつ光を吸収する場合、そのような波長をもつレーザ光を導入してもよい。
【0034】
本実施形態2の構成では、実施形態1で述べた変形例も適用することが可能である。具体的には
図5のように光ファイバー203の一部に欠損部を設けることにより、中間超音波発生部202を構成してもよい。
【0035】
また
図6のように、中間超音波発生部202が複数個存在していてもよい。超音波発生点が複数個存在する場合、中間超音波発生部202で発生する超音波の強さは光吸収性材料801の光吸収係数もしくは光ファイバー間の距離を変えることによって調節することができる。中間超音波発生部202が
図5に示したような形状をとる場合も、前述した通り放出される光の強度は欠損部の形状を変化させることで制御できる。
【0036】
また、実施形態1において述べた方法と同じく、光吸収性材料801が吸収する光の波長と先端超音波発生部201に塗布した光吸収性材料206が吸収する光の波長を変え、各波長のレーザ光が
図8右側の光ファイバー末端部から導入されるようにすれば、光ファイバーへ導入する光の波長を切り替えることによって、超音波画像上で複数存在する各々の超音波発生源を区別することができる。
【0037】
光吸収性材料801の強度と光吸収効率を独立して設計することは、容易ではない場合がある。これらを個別に調整する場合は、実施形態1のように光散乱体205と光吸収性材料206を組み合わせて用いることが望ましい。他方で本実施形態2は、中間超音波発生部202に対して光吸収性材料801を充填すれば足りるので、中間超音波発生部202を簡易な工程で構成できる利点がある。
【0038】
<実施の形態3>
図9は、本発明の実施形態3に係る超音波発信器具200の構成図である。本実施形態3では、実施形態1~2とは異なる中間超音波発生部202の構成例について説明する。本実施形態3に係る中間超音波発生部202において、光ファイバー203に切断部もしくは一部の欠損部を設けることによって一部の光を外部に取り出すのではなく、光ファイバー203のコア内部に変性部901を設けることによって外部に光を取り出す変性部901は、コア内のその他領域とは異なる光学的特性を有する、改質領域である。これ以外の構成については実施形態1~2と同様である。
【0039】
変性部901を光ファイバー203のコア内部に形成する手法としては、例えば短パルスレーザを用いてガラス内部に空洞やナノ~マイクロメートルサイズの構造改変部を形成する技術がある。対物レンズ等により短パルスレーザを光ファイバーのコアへ集光することにより上記のような変性が光ファイバーのコアへ導入される。
【0040】
光ファイバーのコアに変性部901が設けられた場合、ファイバー中を伝達するレーザ光のうち変性部901にあたった部分は散乱され、光ファイバー203外に放出される。外部に放出された光は実施形態1~2と同様、光吸収性材料206とコーティング剤207によって超音波に変換される。
【0041】
本実施形態3の構成では、実施形態1で述べた変形例の一部も適用することが可能である。具体的には
図6のように、中間超音波発生部202が複数個存在していてもよい。また、超音波発生点が複数存在する場合、中間超音波発生部202から発生する超音波の強度を制御することも可能である。実施形態3の構成においては変性部901を形成する際に照射する短パルスレーザ光の強度、照射時間、照射領域の大きさを変化させ、変性部901の大きさ・形状・材料密度などを調節することにより、中間超音波発生部202における光散乱量や光屈折率を制御することができる。例えば中間超音波発生部202ごとに異なる光屈折率を有するように構成することができる。
【0042】
また、実施形態1において述べた方法と同様の方法により、複数点存在する超音波発信源を超音波画像上で区別することもできる。光吸収性材料206について先端超音波発生部201と中間超音波発生部202で吸収する光の波長が異なるものを使用し、各波長のレーザ光が
図9右側の光ファイバー末端部から導入されるようにする。それぞれの波長をもつレーザ光を切り替えることにより、超音波画像上で複数存在する各々の超音波発生源を区別することができる。
【0043】
<本発明の変形例について>
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0044】
例えば中間超音波発生部202のうち一部は光ファイバー203を切断することによって構成し、別の一部は光ファイバー203を欠損させることによって構成し、別の一部は実施形態2の光吸収性材料801によって構成する、などが考えられる。
【符号の説明】
【0045】
100 位置検出システム
101 超音波撮像装置
102 ディスプレイ
103 超音波プローブ
104 ガイドワイヤ
105 被検体
106 血管
107 超音波発信器具
200 超音波発信器具
201 先端超音波発生部
202 中間超音波発生部
203 光ファイバー
204 接着剤
205 光散乱体
206 光吸収性材料
207 コーティング剤
801 光吸収性材料
901 変性部