(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-12
(45)【発行日】2023-09-21
(54)【発明の名称】センサ素子及びガスセンサ
(51)【国際特許分類】
G01N 5/02 20060101AFI20230913BHJP
【FI】
G01N5/02 A
(21)【出願番号】P 2020064963
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2023-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000237444
【氏名又は名称】リバーエレテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【氏名又は名称】高橋 満
(72)【発明者】
【氏名】兼頭 寛光
(72)【発明者】
【氏名】服部 将志
(72)【発明者】
【氏名】秋野 真志
(72)【発明者】
【氏名】芦沢 英紀
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-098133(JP,A)
【文献】特開2018-040604(JP,A)
【文献】特開2007-147556(JP,A)
【文献】特開2007-205806(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面粗さが0.19μm以上0.36μm以下の第1の面と、第2の面とを有する水晶振動子と、
前記第1の面に設けられた第1の電極と、
前記第2の面に設けられた第2の電極と、
前記第1の電極上に設けられた感応膜
を具備するセンサ素子。
【請求項2】
表面粗さが0.19μm以上0.36μm以下の第1の面と、第2の面とを有する水晶振動子と、
前記第1の面に設けられた第1の電極と、
前記第2の面に設けられた第2の電極と、
前記第1の電極上に設けられた感応膜を備える
センサ素子と、
前記センサ素子を振動させる発振回路と、
前記センサ素子の共振周波数変化を検出する検出回路と
を具備するガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶振動子を用いたセンサ素子及びガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
水晶振動子は、水晶が有する圧電効果を利用し一定の周波数で発振する素子であり、自動車やスマートフォン、パソコン等、様々な電子機器に用いられている。水晶振動子は、水晶ウエハを所定の形状及び寸法を有する水晶素子片に加工した後、その表面に電極膜を形成して構成される。水晶振動子の周波数及び安定性は、水晶素子片の厚さ及び表面状態によって概ね決定される。近年、水晶振動子の高周波数化、高安定性の要求に伴い、水晶素子片をより薄く、より平滑に加工することが必要となってきている。
【0003】
特許文献1には、ケミカル汚染物質を検出するQCMセンサが記載されている。当該QCMセンサには水晶振動子が用いられ、水晶振動子の表面に設けられた電極上には凹凸を有するシリコン層が形成されている。当該センサでは、シリコン層に物質が吸着することによる重量変化に応じた周波数変化が出力されることを利用して、ケミカル汚染物質を検出することが可能となっている。
特許文献2には、ニオイ吸着膜として有機ポリマー膜が成膜されたQCMデバイスが開示されている。特許文献2のQCMデバイスのような有機ポリマー膜からなる吸着膜に凹凸を例えばレーザ等を用いて形成する場合、吸着膜が壊れてしまうため、吸着特性に問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-220395号公報
【文献】特開2010-071716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水晶振動子を用いたセンサ素子では、安定した発振特性を有しつつ、検出感度の向上が求められている。
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、安定した発振特性を有しつつ、感度が向上するセンサ素子及びガスセンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るセンサ素子は、水晶振動子と、第1の電極と、第2の電極と、感応膜とを備える。
上記水晶振動子は、表面粗さが0.19μm以上0.36μm以下の第1の面と、第2の面とを有する。
上記第1の電極は、上記第1の面に設けられる。
上記第2の電極は、上記第2の面に設けられる。
上記感応膜は、上記第1の電極上に設けられる。
【0007】
本発明のこのような構成によれば、安定した発振特性を維持しつつ、においやガス等の成分に対する感度を向上させることのできるセンサ素子とすることができる。
【0008】
本発明の一形態に係るガスセンサは、センサ素子と、発振回路と、検出回路とを具備する。
上記センサ素子は、表面粗さが0.19μm以上0.36μm以下の第1の面と、第2の面とを有する水晶振動子と、前記第1の面に設けられた第1の電極と、前記第2の面に設けられた第2の電極と、前記第1の電極上に設けられた感応膜を備える。
上記発振回路は、上記センサ素子を振動させる。
上記検出回路は、上記センサ素子の共振周波数変化を検出する。
【発明の効果】
【0009】
以上述べたように、本発明によれば、安定した発振特性を有しつつ、におい又はガス等の成分に対する検出感度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係るセンサ素子の正面図である。
【
図2】
図1の線II-IIで切断した概略断面図である。
【
図3】上記センサ素子を備えるガスセンサの概略図である。
【
図4】水晶振動子における表面粗さとクリスタルインピーダンスとの関係を示す図である。
【
図5】表面粗さが互いに異なるセンサ素子のガス検出機能の違いを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
[センサ素子の構成]
図1は、センサ素子1を示す正面図である。
図2は
図1の線II-IIにおける断面図である。
図1及び
図2に示すように、センサ素子1は、水晶振動子13と、第1の励振電極11A(以下、第1の電極11Aという。)及び第2の励振電極11B(以下、第2の電極11Bという。)と、感応膜12と、リードランド16A、16Bと、リード14A、14Bと、ピン端子19A、19Bと、ホルダ18とを有する。
センサ素子1は、においやガス成分の種類や量を特定するものである。センサ素子1では、所定周波数で振動させた状態で、感応膜12にガス等の検出対象物が吸着すると、センサ素子1の水晶振動子13の共振周波数が変化する。この共振周波数の変化から、導入されたガスの種類や量を特定することができる。
センサ素子1は、互いに直交する幅(W)軸方向、長さ(L)軸方向、厚み(t)軸方向を有し、t軸方向は水晶振動子13の厚み方向と一致する。
【0012】
水晶振動子13は、製造しやすさ及び良好な感度の観点から25℃における基本周波数が32MHzの水晶振動子を用いている。なお、水晶振動子13の基本周波数はこれに限定されない。一般に、比較的に低い周波数を基本周波数とする水晶振動子は製造が容易になるが、感度が低下する。比較的に高い周波数を基本周波数とする水晶振動子は製造が難しくなるが、感度が向上する。
【0013】
本実施形態について、
図1を参照して説明する。水晶振動子13は、W軸方向における寸法が1.32mm、L軸方向における寸法が2.00mm、t軸方向における寸法が0.0506mmであり、WL平面形状が矩形の板状を有する。尚、寸法はこれに限定されない。
【0014】
圧電振動板である水晶振動子13には、典型的には比較的温度特性に優れたATカット型の水晶振動子が用いられる。ATカット型水晶振動子は、JIS規格JISC6704の右水晶で定義されるX軸(電気軸)、Y軸(機械軸)、Z軸に対し、X軸のプラス方向から見てY軸に垂直となるY板水晶を反時計周りに角度θx=35°15′±1°回転して切り出される。水晶振動子13の回転後の新軸に垂直な面(上記xy平面に対応する)には、極性の異なる一対の第1の電極11A及び第2の電極11Bが対向して配置される。尚、上記ATカット水晶振動子の回転方向は右水晶における方向であり、左水晶の場合は、X軸のプラス方向からみてY軸に垂直となるY板水晶を時計周りに角度θx=35°15′±1°回転して切り出される。
また、水晶振動子13上に感応膜12を塗布することで周波数温度特性が変化する場合、周波数温度特性を調整するために、切り出される角度をθx=35°15′±2°としてもよい。
また、水晶振動子の振動形態としては、音叉型、屈曲モード型、ねじりモード型、長さ縦モード型、厚み滑りモード型等を用いることができる。
【0015】
水晶から水晶片を切断して水晶振動子13を得るが、切断の角度に対する要求は極めて厳しく、初期位置を正確に設定する必要がある。
結晶のZ軸周りにはいわゆるr面と呼ばれる(01-11)面が自然に形成されている。当該r面はJISC6704の右水晶で定義されるX軸(電気軸)、Y軸(機械軸)、Z軸に対し、X軸のプラス方向からみてY軸に垂直となるY板水晶を反時計周りに角度38°13′回転した面となっている。なお、このr面の回転は右水晶における回転方向であり、左水晶の場合は、X軸のプラス方向から見てY軸に垂直となるY板水晶を時計周りに角度38°13′回転した面となる。
上記r面はATカット水晶振動子の切り出す代表的な角度35°15′との差が2°58′であり、ATカットを切り出す角度に平行に近い値となっている。また、このr面にX線を照射すると、この面で回折するX線はピークの強度が強く、半値幅が狭い。したがってX線回折によりr面の角度を正確に知ることができ、X線回折を利用したX線角度測定器を用いてr面を基準として秒単位で正確に初期位置を決めることができる。
第1の電極11A、第2の電極11Bの成膜には、例えば物理気相蒸着法(スパッタリングなど)が用いられる。
水晶振動子13を電極形状に穴の開いたマスクで覆い、成膜することで電極を形成する。又は、電極膜を全面に成膜後、例えばフォトリグラフィ技術を用いて所定の形状に加工し、電極を形成してもよい。
電極の材料には金属、例えばAuやAgが用いられる。Auを用いる場合は、Auと水晶との密着が弱いため、密着強度向上を目的に、水晶振動子上にCr膜を成膜した後、Au膜を成膜することができる。
【0016】
水晶振動子13は、互いに対向する第1の面13Aと第2の面13Bとを有する。第1の面13Aは0.19μm以上0.36μm以下の表面粗さRaに粗面化処理されている。なお、本実施形態では、感応膜12が成膜される側の面である第1の面13Aを粗面化処理する例をあげるが、これに加えて第2の面13Bも粗面化処理してよい。粗面化処理については後述する。
【0017】
水晶振動子の大きさは、W軸方向における寸法が0.6mm~2.4mm、L軸方向における寸法が0.6mm~2.4mm、t軸方向、すなわち厚み方向における寸法が0.015mm~0.067mmの範囲が良い。この場合、水晶振動子13の第1の面13Aの表面粗さRaは、発振の安定性の観点から0.36μm以下が良い。
水晶振動子13の表面粗さRaが0.36μmよりも大きいと、水晶振動子13の面内で厚みの偏りが生じ、水晶振動子13の共振時の振動モードに影響がでる。よって、共振時の共振周波数が一定の値とならない。このため、発振が不安定となり、共振特性の制御が難しくなる。これに対し、本実施形態では、水晶振動子13の表面粗さRaを0.36μm以下とすることにより、不安定化を抑えることができる。
水晶振動子の安定性は、発振余裕度から判定することができる。発振余裕度とは、発振している状態から発振停止に至るまでのマージンを表したものであり、負性抵抗、水晶振動子の等価直列抵抗規格値を用いて、次式で算出することができる。式中、|-R|は負性抵抗を表し、R1speは水晶振動子の透過直列抵抗規格値を示す。
発振余裕度[倍]=|-R|/R1spe
負性抵抗値は、水晶振動子と直列に純抵抗を加えていき、どこまで発振し続けるかをオシロスコープ等で確認することにより測定される。完全に発振が止まる寸前の純抵抗の値に、測定に使用した水晶振動子の実効抵抗値を加えた値が負性抵抗値となる。
本実施形態のセンサ素子1はガスセンサに好適に使用されるものである。ガスセンサにおいては、使用時の環境によって水晶振動子の発振が不安定になることがあるため、発振余裕度を大きくとるように設定することが好ましい。これにより、幅広い環境条件下で、感度特性の安定したセンサ素子とすることができる。ここでは、発振余裕度が7以上(クリスタルインピーダンス値(以下、CI値という。)が100Ω以下)の場合に、安定であると判定し、7未満(CI値が100Ωより大きい)の場合はやや不安定、又は、不安定であると判定する。
【0018】
水晶振動子13の表面粗さRaは、感度の向上の観点から0.19μm以上、更に好ましくは0.26μm以上である。水晶振動子13上には、第1の電極11A、感応膜12が順に成膜されるが、第1の電極11A及び感応膜12は粗面化された第1の面13Aの凹凸に沿って成膜される。これにより、感応膜12の表面に容易に凹凸を形成することができる。感応膜12の表面に凹凸が設けられることにより、感応膜の表面積を増大させることができ、においやガス成分に対する検出感度を向上させることができる。
【0019】
このように、表面粗さRaが0.19μm以上0.36μm以下となるように水晶振動子13の第1の面13Aを粗面化させることにより、安定した発振特性を有するとともに、容易に感応膜12の表面を粗面化させて、においやガス成分に対する感度を向上させることができるセンサ素子1とすることができる。
【0020】
第1の面13A及び第2の面13Bそれぞれには、金属薄膜が所定の形状にパターニングされてなる第1の電極11A及び第2の電極11Bが形成されている。本実施形態では、電極材料として、CrとAuの積層膜を用いたが、これに限定されない。第1の電極11A及び第2の電極11Bは、スパッタリング等を用いて成膜することができる。
【0021】
第1の電極11A及び第2の電極11Bは矩形状であり、例えば、W軸方向における寸法は0.8mm、L軸方向における寸法は1.0mmであり、t軸方向における寸法、すなわち膜厚は0.1μmである。0.1μm前後、例えば0.1μm±0.02μmの膜厚であれば、表面粗さRa値はほとんど変わらない。第1の電極11A及び第2の電極11Bの形状は、円形やひし形であってもよく、矩形に限定されない。
第1の電極11Aは、粗面化処理された水晶振動子13の第1の面13Aの凹凸に沿って成膜されており、第1の電極11Aの表面は凹凸を有している。第1の電極11Aの表面粗さと水晶振動子の第1の面の表面粗さとはほぼ同等である。第1の電極11Aの表面粗さRaは0.19μm以上0.36μm以下である。
【0022】
感応膜12は、第1の電極11A上に形成され、特定のガスを吸着する。感応膜12は、表面が凹凸の第1の電極11A上に成膜されることにより、感応膜12の表面は凹凸を有している。感応膜12の表面粗さと水晶振動子13の第1の面13Aの表面粗さはほぼ同じである。
感応膜12は、検出対象のガスの種類に応じて種々の材料を用いて形成することができる。
例えば、主にトルエンや2,3-ジメチルペンタンを選択的に吸着する感応膜として、セルロースアセチルブチレートを用いることができる。具体的には、セルロースアセチルブチレートをアセトンに溶解したアセトン溶液を作製し、この溶液をスプレーコートで所定の厚み、ここでは、0.5μmの厚みに第1の電極11A上に塗布した後、乾燥炉で溶剤を揮発させて感応膜12を成膜する。尚、成膜方法はスプレーコートに限定されず、スピンコート、蒸着等であってもよい。当該感応膜12の表面粗さRaは0.19μm以上0.36μm以下である。
【0023】
リードランド16Aは第1の電極11Aと一体形成されてなり、リードランド16Bは第2の電極11Bと一体形成されてなる。
リード14A及びリード14Bは金属バネ材からなり、互いに平行に配置される。
リード14Aは、一端がリードランド16Aを介して第1の電極11Aと電気的に接続し、他端がピン端子19Aに接続するように構成される。リード14Bは、一端がリードランド16Bを介して第2の電極11Bと電気的に接続し、他端がピン端子19Bに接続するように構成される。
【0024】
ホルダ18は絶縁部材からなり、ピン端子19A及び19Bが貫通する貫通孔を有する。ホルダ18の貫通孔にピン端子19A及び19Bが貫通するように水晶振動子13を保持することにより、ホルダ18によって水晶振動子13は振動自在に支持される。
【0025】
センサ素子1のピン端子19A及び19Bは発振回路4に接続され、ガスセンサ素子1に駆動電圧が印加される。ガスセンサ素子1は、駆動電圧が印加されると、水晶振動子13は固有の周波数(32MHz)で振動する。
そして、感応膜12がガスを吸着することにより質量が変化し、その吸着量に応じて水晶振動子13の共振周波数は低下する。
【0026】
[ガスセンサの構成]
図3に示すように、ガスセンサ2は、ガスセンサユニット3と、コントローラ10とを有する。コントローラ10は、CPU(Central Processing Unit)、メモリ等を有するコンピュータで構成され、発振回路4と、検出回路5とを有する。
ガスセンサユニット3は、チャンバ31と、該チャンバ31内に収容されたガスセンサ素子であるセンサ素子1を備える。チャンバ31は、センサ素子1を収容する。チャンバ31は、その内部に検出対象のガスが導入可能となっている。なお、本実施形態においては、1つのセンサ素子を備える例をあげたが、感応膜の種類が同じ、或いは、異なる複数のセンサ素子を備えていてもよい。
発振回路4は、センサ素子1の水晶振動子13を所定周波数(共振周波数:32MHz)で振動させる。
検出回路5は、センサ素子の共振周波数又はその変化を検出する。
【0027】
センサ素子1を発振回路4によって上記所定周波数で振動させた状態で、感応膜12にガス等の検出対象物が吸着すると、センサ素子1の水晶振動子13の共振周波数が変化する。当該共振周波数の変化は検出回路5によって検出される。用いる感応膜の種類及び検出された共振周波数の変化から、導入されたガスの種類や量を特定することができる。
【0028】
[水晶振動子の粗面化処理]
上述のように、水晶振動子の第1の面13Aは粗面化処理されている。粗面化処理の方法には既知の方法を用いることができるが、典型的にはラッピングによる粗面加処理を用いる。ラッピング研磨は、底盤に微細な砥粒をかけ流しながら加工を行う遊離砥粒加工である。
【0029】
本実施形態では、水晶振動子の粗面化処理において、遊離砥粒を用いたラッピング機を用いて、例えば次のような手順に沿って、第1の面13Aの表面粗さRaが0.19μm以上0.36μm以下の範囲となるように粗面化処理することができる。
すなわち、粗研磨、中間研磨、仕上げ研磨の順にラッピング加工を行う。
粗研磨では、所望の基本周波数よりも少し低い周波数となる厚みまで水晶振動子を粗研磨する。
中間研磨では、具体的には、例えば、砥粒の粒子径(番手)が#2000(日本工業規格(JIS)R6001-2:2017))以上、#4000以下程度の砥粒を用いてラッピング加工を行う。成膜面は、水晶振動子の電気的特性の観点から、鏡面に近いことが好ましい。中間研磨後に鏡面加工のためのポリッシング加工を行ってもよい。
仕上げ研磨では、表面を粗くするために、少なくとも一方の面に対し、粒度の粗い砥粒を用いてラッピング加工を行う。具体的には、例えば砥粒の粒子径が#800以上、#1500以下程度の砥粒を用いてラッピング加工を行う。
なお、必要に応じて、化学的エッチングが併用されてもよい。典型的には、少なくともフッ化水素酸又は弗化アンモニウムを用いたウェットエッチングにより水晶板を加工することができる。化学的エッチングは、加工応力がかからないため、上記ラッピング加工、ポリッシング加工後の加工歪みの除去することができ、また、二次割れを防止することができる。また、上記ラッピング加工、ポリッシング加工の精度不足を補うためや、薄い水晶板を作製するために化学的エッチングを行ってもよい。
【0030】
[表面粗さRaの測定方法]
表面粗さRaの測定には、KEYENCE社製のレーザ顕微鏡VK-9700を用いた。金電極中央部70μm×94μmの範囲で、150倍(W.D.O.2)のレンズを用いて測定した。
センサ素子1における水晶振動子13の表面粗さRaは、溶剤、例えば本実施形態ではアセトンを用いて感応膜12を溶解した後、露出した第1の電極11Aの表面粗さRaを測定することができる。或いは、第2の面13B側が粗面化処理されている場合は、感応膜が形成されない第2の電極11Bの表面粗さRaを測定することにより、水晶振動子13の表面粗さRaを測定してもよい。すなわち、上述のように、水晶振動子13の表面粗さRaと、当該水晶振動子13上に形成される第1の電極11A及び第2の電極11Bの表面粗さRaとはほぼ同じであるので、第1の電極11A又は第2の電極11Bの表面粗さRaを測定し、この測定結果を水晶振動子13の表面粗さRaとすることができる。
【0031】
[実施例]
表面粗さRaがそれぞれ異なる水晶振動子を備えるセンサ素子を試料として8つ作製し、安定性と感度を判定し、評価した。その結果を表1に示す。
【0032】
【0033】
試料番号1~8のセンサ素子は、それぞれ、水晶振動子の第1の面の表面粗さが異なる以外は同様の構成を有する。
図1を参照して、水晶振動子13のW軸方向における寸法を1.32mm、L軸方向における寸法を2.00mm、厚み(t軸方向における寸法)を0.0506mmとした。第1の電極11A及び第2の電極11BのW軸方向における寸法を0.8mm、L軸方向における寸法を1.0mm、厚み(t軸方向における寸法)を0.105μmとした。当該電極は、Cr膜5nmとAu膜100nmの積層膜である。感応膜12のW軸方向における寸法を0.8mm、L軸方向における寸法を1.0mm、厚み(t軸方向における寸法)を0.5μmとし、感応膜12の材料としてセルロースアセチルブチレートを用いた。平面視で、第1の電極11A及び第2の電極11Bと、感応膜12とは重なりあう。尚、
図1及び
図2においては、平面視で、第1の電極11A及び第2の電極11B内に感応膜12が位置し、感応膜12は第1の電極11A及び第2の電極11Bよりも小さい面積の平面形状となる形態を図示している。
【0034】
試料番号1~8のセンサ素子それぞれの水晶振動子は、ラッピング加工時に用いる砥粒の番手を異ならせることによって表面粗さRaを異ならせている。試料番号2~5のセンサ素子が本実施形態に係るセンサ素子に相当し、試料番号1、6~8のセンサ素子は比較例に相当する。
【0035】
表1に示す各項目について説明する。
表面粗さRaは、水晶振動子上に第1の電極を成膜した状態を測定した第1の電極表面における表面粗さRaである。
CIは、水晶振動子のクリスタルインピーダンスを示す。
図4は、試料番号1~8のセンサ素子の水晶振動子のクリスタルインピーダンスを示す。
図4において、横軸の数字は表面粗さRa[μm]を示し、縦軸はクリスタルインピーダンス(CI[Ω])を示す。
発振余裕度は、上述した式を用いて求めている。
安定性は、上述したように、発振余裕度が7以上の場合、安定していると判定し、表1上では〇で示している。発振余裕度が5以上7未満の場合、やや不安定であると判定し、表上では△で示している。発振余裕度が5未満の場合、不安定であると判定し、×で示している。
トルエン、2,3-ジメチルペンタンの欄は、それぞれ、試料番号1~8のセンサ素子を上述したガスセンサ2に設置し、検出ガスとしてトルエン、2,3-ジメチルペンタンそれぞれを用いたときに検出された共振周波数変化量(Δf[Hz])の値を示す。
図5は、これらの検出データを棒グラフにしたものである。
図5において、横軸の数字は試料番号を示し、縦軸は共振周波数変化量(Δf[Hz])を示す。
感度は、共振周波数変化量が1000Hz以上のとき、感度が良好と判定し、表1上では〇で示している。共振周波数変化量が800Hz以上1000Hz未満であるとき、感度はやや不良であると判定し、表上では△で示している。共振周波数変化量が800Hz未満であるとき、感度は不良であると判定する。ここでは、感度不良となるデータは取得されていないが、感度不良の場合、表上では×で示すことができる。
評価は、安定性及び感度共に〇の判定がされている場合、ガスセンサに用いるセンサ素子に大変適していると判定し、表では◎で示している。また、安定性及び感度の一方が〇であっても他方が△の判定がされている場合、ガスセンサに用いるセンサ素子に適している、又は、やや適していない、と判定し、表では〇又は△で示している。また、安定性及び感度の少なくとも一方が×の判定がされている場合、ガスセンサに用いるセンサ素子に適していないと判定し、表では×で示している。
【0036】
表1及び
図5に示すように、水晶振動子13の表面粗さを0.19μm以上0.36μm以下となるように第1の面を粗面化させることにより、安定した発振特性を有するとともに、においやガス成分に対する感度を向上させることができるセンサ素子1とすることができる。
【0037】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0038】
1…センサ素子
2…ガスセンサ
4…発振回路
5…検出回路
11A…第1の電極
11B…第2の電極
12…感応膜
13…水晶振動子
13A…第1の面
13B…第2の面