(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-12
(45)【発行日】2023-09-21
(54)【発明の名称】グリース組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 169/06 20060101AFI20230913BHJP
C10M 135/10 20060101ALN20230913BHJP
C10M 129/74 20060101ALN20230913BHJP
C10M 117/00 20060101ALN20230913BHJP
C10M 117/10 20060101ALN20230913BHJP
C10M 115/08 20060101ALN20230913BHJP
C10M 113/12 20060101ALN20230913BHJP
C10M 113/10 20060101ALN20230913BHJP
C10M 143/06 20060101ALN20230913BHJP
C10M 143/00 20060101ALN20230913BHJP
C10N 10/04 20060101ALN20230913BHJP
C10N 30/12 20060101ALN20230913BHJP
C10N 40/32 20060101ALN20230913BHJP
C10N 50/10 20060101ALN20230913BHJP
C10N 10/02 20060101ALN20230913BHJP
C10N 10/06 20060101ALN20230913BHJP
【FI】
C10M169/06
C10M135/10
C10M129/74
C10M117/00
C10M117/10
C10M115/08
C10M113/12
C10M113/10
C10M143/06
C10M143/00
C10N10:04
C10N30:12
C10N40:32
C10N50:10
C10N10:02
C10N10:06
(21)【出願番号】P 2020505060
(86)(22)【出願日】2019-03-05
(86)【国際出願番号】 JP2019008693
(87)【国際公開番号】W WO2019172275
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2022-03-02
(31)【優先権主張番号】P 2018039904
(32)【優先日】2018-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000228486
【氏名又は名称】日本グリース株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土井 理史
(72)【発明者】
【氏名】山本 明宏
(72)【発明者】
【氏名】前田 十世
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-084620(JP,A)
【文献】特表2006-528996(JP,A)
【文献】特開2016-089040(JP,A)
【文献】特開2006-182856(JP,A)
【文献】特開2004-099847(JP,A)
【文献】特開2007-070461(JP,A)
【文献】特開2008-001864(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
C10N 10/00- 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性を有する基油と、増ちょう剤と、カルシウムスルホネートコンプレックスおよびソルビタン脂肪酸エステルを含む防錆剤とを含有するグリース組成物であって、
組成物中の生分解性を有する有機物質の合計含有量が75質量%以上であり、
増ちょう剤が、リチウム石けん、ウレア系化合物、リチウム複合石けん、カルシウム石けん、ナトリウム石けん、アルミニウム石けん、ナトリウムテレフタラメート、有機化ベントナイト、およびシリカゲルからなる群から選ばれる1または2以上の増ちょう剤であり、
防錆剤の含有量が2.5~30質量%であ
るグリース組成物。
【請求項2】
増ちょう剤の含有量が2.0~20質量%である、請求項
1記載のグリース組成物。
【請求項3】
増ちょう剤が、リチウム石けん、リチウム複合石けん、およびウレア系化合物からなる群から選ばれる1または2以上の増ちょう剤である、請求項
1または2記載のグリース組成物。
【請求項4】
混和ちょう度が265~295である、請求項
1~3のいずれか一項に記載のグリース組成物。
【請求項5】
生分解性を有する基油と、生分解性を有するワックスと、増粘剤と、カルシウムスルホネートコンプレックスおよびソルビタン脂肪酸エステルを含む防錆剤とを含有するグリース組成物であって、
組成物中の生分解性を有する有機物質の合計含有量が75質量%以上であり、
防錆剤の含有量が2.5~30質量%であり、
融点が50℃~100℃であ
るグリース組成物。
【請求項6】
増粘剤の含有量が1.0~25質量%である、請求項
5記載のグリース組成物。
【請求項7】
増粘剤が、ポリブテン、
ポリイソブテン、ポリイソブチレン、およびαオレフィンコポリマーからなる群から選ばれる1または2以上の増粘剤である、請求項
5または
6記載のグリース組成物。
【請求項8】
生分解性を有する基油および生分解性を有するワックスの合計量中の生分解性を有するワックスの含有量が6.0~40質量%である、請求項
5~7のいずれか一項に記載のグリース組成物。
【請求項9】
ソルビタン脂肪酸エステルに対するカルシウムスルホネートコンプレックスの含有量(カルシウムスルホネートコンプレックスの含有量/ソルビタン脂肪酸エステルの含有量)が、0.5~5.0である、請求項1
~8のいずれか一項に記載のグリース組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境への影響が少なく、かつ塩水に対する防錆性および耐水性を有するグリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水資源や海洋環境の保護に対する関心が高まっており、例えば米国では、入港するすべての船舶において、オイルを使用する機器に関して、オイルが漏れる可能性がある接水部に、生分解性、非毒性および非生物濃縮性が認められた環境配慮型潤滑油(Environmentally Acceptable Lubricants:EAL)の使用を義務付ける船舶入港規制(Vessel General Permit:VGP)が施行された。このような事情から、海洋、湖沼、河川等の汚染防止を目的とした生分解性グリースの開発が急務となっている。
【0003】
特許文献1には、水に接触するワイヤーロープに適し、人体に安全な潤滑剤組成物が開示されている。しかしながら、海水等の塩水に対する高い防錆性や耐水性に関しては改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、環境への影響が少なく、かつ海水等の塩水に対する優れた防錆性および耐水性を有するグリース組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、生分解性を有する基油と、増ちょう剤と、カルシウムスルホネートコンプレックスおよびソルビタン脂肪酸エステルを含む防錆剤とを含有するグリース組成物が、塩水に対する防錆性および耐水性に優れることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は
〔1〕生分解性を有する基油と、カルシウムスルホネートコンプレックスおよびソルビタン脂肪酸エステルを含む防錆剤とを含有するグリース組成物であって、組成物中の生分解性を有する有機物質の合計含有量が75質量%以上であり、防錆剤の含有量が2.5~30質量%であるグリース組成物、
〔2〕ソルビタン脂肪酸エステルに対するカルシウムスルホネートコンプレックスの含有量(カルシウムスルホネートコンプレックスの含有量/ソルビタン脂肪酸エステルの含有量)が、0.5~5.0である、〔1〕記載のグリース組成物、
〔3〕生分解性を有する基油と、増ちょう剤と、カルシウムスルホネートコンプレックスおよびソルビタン脂肪酸エステルを含む防錆剤とを含有するグリース組成物であって、組成物中の生分解性を有する有機物質(特に、生分解性を有する基油およびソルビタン脂肪酸エステル)の合計含有量が75質量%以上であり、防錆剤の含有量が2.5~30質量%である、〔1〕または〔2〕記載のグリース組成物、
〔4〕増ちょう剤の含有量が2.0~20質量%である、〔3〕記載のグリース組成物、
〔5〕増ちょう剤が、リチウム石けん、リチウム複合石けん、およびウレア系化合物からなる群から選ばれる1または2以上の増ちょう剤である、〔3〕または〔4〕記載のグリース組成物、
〔6〕混和ちょう度が265~295である、〔3〕~〔5〕のいずれかに記載のグリース組成物、
〔7〕生分解性を有する基油と、生分解性を有するワックスと、増粘剤と、カルシウムスルホネートコンプレックスおよびソルビタン脂肪酸エステルを含む防錆剤とを含有するグリース組成物であって、組成物中の生分解性を有する有機物質(特に、生分解性を有する基油、生分解性を有するワックスおよびソルビタン脂肪酸エステル)の合計含有量が75質量%以上であり、防錆剤の含有量が2.5~30質量%であり、融点が50℃~100℃である、〔1〕または〔2〕記載のグリース組成物、
〔8〕増粘剤の含有量が1.0~25質量%である、〔7〕記載のグリース組成物、
〔9〕生分解性を有する基油および生分解性を有するワックスの合計量中の生分解性を有するワックスの含有量が6.0~40質量%である、〔7〕または〔8〕記載のグリース組成物、に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のグリース組成物は、環境への影響が少なく、かつ海水等の塩水に対して優れた防錆性および耐水性を有する。また、一般的なグリースで使用される亜鉛やモリブデン等の金属系の添加物を使用しないため、生物に対する毒性や蓄積性のリスクが低い。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<グリース組成物>
本実施形態に係るグリース組成物は、生分解性を有する基油と、カルシウムスルホネートコンプレックスおよびソルビタン脂肪酸エステルを含む防錆剤とを含有することを特徴とする。なお、前記のVGPにおいては、有機物質の易生分解性を測定する標準的試験法である、OECDテストガイドライン301シリーズに準拠し、所定の生分解度(例えば、OECDテストガイドライン301Bに準拠し、微生物による生分解度が60%以上)を有する有機物質を、グリース組成物中75質量%以上含有するよう規定されており、本実施形態に係るグリース組成物も、VGPに対応すべくそのように設計される。
【0010】
(基油)
基油としては、OECDテストガイドライン301シリーズに準拠し、所定の生分解度を有する、生分解性を有すると判定される基油が好適に用いられる(以下、本明細書において、かかる基油を単に「生分解性を有する基油」と記載することがある)。
【0011】
生分解性を有する基油は、特に限定されないが、植物油、動物油、合成エステル油、ポリアルキレングリコール、合成炭化水素油等が挙げられ、防錆性および耐水性の観点から、合成エステル油および植物油が好ましい。さらに、酸化安定性や高温下での保存安定性の観点からは合成エステル油がより好ましく、コスト、高い生分解率、および毒性、蓄積性等の安全性の観点からは植物油が好ましい。
【0012】
本明細書において「植物油」とは、植物由来の油であり、油脂を含む概念である。本実施形態において使用できる植物油は、特に限定されないが、例えば、ココアバター脂、トウモロコシ油、ラッカセイ油、ひまわり油、大豆油、ヤシ油、オリーブ油、椿油、サフラワー油、アブラギ油、アマニ油、ココナッツ油、カシ油、アーモンド油、アンズの仁油、ヒマシ油、ナタネ油、大風子油、シナ脂、綿実油、ゴマ油、パーム油、パーム核油、米糠油、桐油、テレビン油、カポック油等が挙げられ、トウモロコシ油、ひまわり油、サフラワー油、ヒマシ油、アマニ油、大豆油、ナタネ油、綿実油、オリーブ油、椿油、桐油、テレビン油、ヤシ油およびパーム油からなる群から選ばれる1種以上が好ましい。また、これらの油を複数混合したもの、ジグリセリドやモノグリセリドを含む油脂、一部、酸化、還元等の変性を起こした油であってもよい。
【0013】
市販の植物油としては、例えば、大豆油KT等の丸正社製植物油;大豆白絞油、アマニ油等の日清オイリオ(株)製の植物油;コメサラダ油等のボーソー油脂(株)製の植物油;TEXAPRINTSDCE等のコグニスジャパン(株)製の植物油;リモネン油、ユーカリオイル、桐油等の安土産業(株)製の植物油;ハートールSR-20、ハートールSR-30、ハートールR-30等のハリマ化成(株)製の植物油;α-ピネン、東洋松印、ヂペンテン等の荒川化学社製のテレビン油;豊国製油(株)製の工業用一号ヒマシ油等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0014】
本明細書において「動物油」とは、動物由来の油であり、油脂を含む概念である。本実施形態において使用できる動物油としては、イワシ油、サバ油、ニシン油、サンマ油、マグロ油、タラ肝油など魚類の体から得られる魚油;ラード脂、ニワトリ脂、バター脂、牛脂、牛骨脂、鹿脂、イルカ脂、馬脂、豚脂、骨油、羊脂、牛脚油、ネズミイルカ油、サメ油、マッコウクジラ油、鯨油などがあり、魚油、牛脂および豚脂からなる群から選択される1以上の油であることが好ましく、これらの油を複数混合したもの、ジグリセリドやモノグリセリドを含む油脂、一部、酸化、還元等の変性を起こした油であってもよい。
【0015】
合成エステル油としては、脂肪酸ジエステルや脂肪酸ポリオールエステルが好適に用いられ、脂肪酸ポリオールエステルがより好ましい。脂肪酸ジエステルの具体例としては、例えば、アジピン酸ジイソデシル、アゼライン酸ジイソデシル、セバシン酸ジオクチル等が挙げられる。脂肪酸ポリオールエステルの具体例としては、例えば、ネオペンチルグリコールジエステル、トリメチロールプロパントリエステル、トリメチロールプロパンコンプレックスエステル、ペンタエリスリトールテトラエステル、ジペンタエリスリトールヘキサエステル等が挙げられる。なかでも、BASFジャパン(株)製のSynative ES TMP 05/140および05/320(トリメチロールプロパンコンプレックスエステル)、クローダジャパン(株)製のPriolube2089(トリメチロールプロパンオレエート)、伊藤製油(株)製のMINERASOL LB-601(特殊ヒマシ油系縮合脂肪酸エステル)等の高生分解性エステル油が好適に用いられる。
【0016】
ポリアルキレングリコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキサイド-プロピレンオキサイド(エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとの共重合体)、ポリ(メチル-エチレン)グリコール、ポリブチレングリコール等が挙げられる。また、ポリアルキレングリコールは、2種以上の異なるアルキレンオキサイドを用いて得られるポリアルキレングリコールのランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体およびそれらの混合物のいずれも使用できる。
【0017】
合成炭化水素油としては、例えば、FT合成油等が挙げられる。本明細書において「FT合成油」とは、水素および一酸化炭素を主成分とする混合ガス(合成ガスと称する場合もある)に対してフィッシャー・トロプシュ(FT)反応を適用させて得られる、ナフサ、灯油、軽油相当の液体留分、およびこれらを水素化精製、水素化分解することによって得られる炭化水素混合物、並びにFT反応により液体留分およびFTワックスを生成し、これを水素化精製、水素化分解することにより得られる炭化水素混合物からなる合成油を意味する。なお、FT合成油は、原料に応じた呼び名が使用されることが多く、例えば、天然ガスを原料とするものはGTL、石炭を原料とするものはCTL、バイオマスを原料とするものはBTLと呼ばれる。
【0018】
前記の生分解性を有する基油は、前記例示のものからいずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。好ましくは、1種以上の合成エステル油またはこれらと1種以上の植物油を混合した基油が挙げられる。生分解性を有する基油を2種以上併用することにより、潤滑性の向上が期待できる。
【0019】
生分解性を有する基油の含有量は、グリース組成物中、60質量%以上が好ましく、65質量%以上がより好ましく、70質量%以上がより好ましく、75質量%以上がさらに好ましく、80質量%以上が特に好ましい。
【0020】
また、基油として、潤滑性の向上等のため、グリース組成物に使用される通常の基油であって、OECDテストガイドライン301シリーズに準拠し、所定の生分解性を有しないと判定される基油を併用してもよい。ただし、グリース組成物中、OECDテストガイドライン301シリーズに準拠し、所定の生分解性を有する有機物質全体で25質量%未満とする必要がある。
【0021】
基油の引火点は、230℃以上が好ましく、260℃以上がより好ましい。基油の引火点が230℃以上であることにより、グリース組成物への引火が生じにくい。なお、本実施形態において、基油の引火点は、JIS K 2265 4のクリーブランド開放式(COC)により算出し得る。
【0022】
基油の動粘度(40℃)は、70mm2/s以上が好ましく、90mm2/s以上がより好ましい。また、基油の動粘度(40℃)は、1000mm2/s以下が好ましく、600mm2/s以下がより好ましい。基油の動粘度が上記範囲内であることにより、基油の引火点が高温に維持されやすく、かつ、グリース組成物は、流動性(圧送性)がよい。なお、本実施形態において、基油の動粘度は、JIS K 2283によって算出し得る。
【0023】
(防錆剤)
本実施形態における防錆剤としては、カルシウムスルホネートコンプレックス、およびソルビタン脂肪酸エステルが好適に用いられる。カルシウムスルホネートコンプレックスおよびソルビタン脂肪酸エステルを併用することにより、相乗的な防錆効果が得られる。
【0024】
カルシウムスルホネートコンプレックスは、カルシウムスルホネートと、(i)炭酸カルシウム、(ii)カルシウムジベヘネート、カルシウムジステアレート、カルシウムジヒドロキシステアレート等の高級脂肪酸カルシウム塩、(iii)酢酸カルシウム等の低級脂肪酸カルシウム塩、(iv)ホウ酸カルシウム等から選択されるカルシウム塩(カルシウム石けん)とを組み合わせたものである。中でも、カルシウムスルホネートと炭酸カルシウムとを必須成分とし、これにカルシウムジベヘネート、カルシウムジステアレート、カルシウムジヒドロキシステアレート、ホウ酸カルシウムおよび酢酸カルシウムからなる群から選ばれる少なくとも2種を配合したものが好ましい。カルシウムスルホネートコンプレックスの具体例としては、例えば、出光興産(株)製のダフニーマルチレックスWR、フックスジャパン(株)製のRENOLIT CXI 1、(株)ニッペコ製のカルフォレックスEP等の商品名で市販されているものが挙げられる。
【0025】
また、カルシウムスルホネートは、増ちょう効果の観点から、塩基価が50mgKOH/g以上500mgKOH/g以下のものが好ましく、300mgKOH/g以上500mgKOH/g以下のものがより好ましい。具体的には、ジアルキルベンゼンスルホン酸カルシウム塩が特に好ましい。
【0026】
ソルビタン脂肪酸エステルとしては、例えば、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート等が挙げられる。ソルビタン脂肪酸エステルとしては、例えば、花王(株)より、エマゾールの商品名で市販されているソルビタン脂肪酸エステル等を使用することができる。なお、ソルビタン脂肪酸エステルは、OECDテストガイドライン301シリーズに準拠し、生分解性を有する有機物質である。特に、ソルビタンモノオレエートは、規則「FDA21CFR178.3570」で規定される物質であるため、定められた規定値を守る限り人体に対する安全性が高い。ソルビタン脂肪酸エステルは、けん化価が145~160、ヒドロキシル価が193~210であることが好ましい。けん化価およびヒドロキシル価が193~210の範囲を外れると、食品用成分として安全性が確保され難くなる。なお、ソルビタン脂肪酸エステルは、OECDテストガイドライン301シリーズに準拠し、生分解性を有する有機物質である。特に、ソルビタンモノオレエートは、規則「FDA21CFR178.3570」で規定される物質であるため、定められた規定値を守る限り人体に対する安全性が高い。ソルビタン脂肪酸エステルは、けん化価が145~160、ヒドロキシル価が193~210であることが好ましい。けん化価およびヒドロキシル価が193~210の範囲を外れると、食品用成分として安全性が確保され難くなる。
【0027】
ソルビタン脂肪酸エステルに対するカルシウムスルホネートコンプレックスの含有量(カルシウムスルホネートコンプレックスの含有量/ソルビタン脂肪酸エステルの含有量)は、0.5~5.0の範囲が好ましく、0.7~3.0の範囲がより好ましく、1.0~2.0の範囲がさらに好ましい。0.5未満または、5.0超える場合、防錆性の相乗効果が弱くなる傾向がある。
【0028】
防錆剤は、前記のカルシウムスルホネートコンプレックス、およびソルビタン脂肪酸エステル以外の他の防錆剤を適宜含んでいてもよい。他の防錆剤としては、例えば、スルホン酸塩、カルボン酸、カルボン酸塩、エステル系防錆剤、アミン系防錆剤等である。他の防錆剤は、前記例示のものからいずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
スルホン酸塩は、スルホン酸アルカリ金属塩、スルホン酸アルカリ土類金属塩等のスルホン酸金属塩、スルホン酸アミン塩等である。スルホン酸塩は、アルカリ金属、アルカリ土類金属またはアミンとスルホン酸とを反応させることにより調製し得る。
【0030】
スルホン酸塩を構成するスルホン酸としては、石油スルホン酸、およびジノニルナフタレンスルホン酸が好ましい。スルホン酸塩を構成するアルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム等が例示される。アルカリ土類金属としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム等が例示される。これら中でも、金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、またはバリウム塩が好ましく、カルシウム塩がより好ましい。また、スルホン酸塩がアミン塩である場合、アミンは、モノアミン、ポリアミン、アルカノールアミン等が例示される。
【0031】
スルホン酸塩の中でも、アミンスルホネート、カルシウムスルホネート、または、バリウムスルホネートを含むことが好ましく、カルシウムスルホネートを含むことがより好ましく、石油スルホン酸カルシウム塩を含むことがさらに好ましい。なお、スルホン酸塩は、前記例示のものからいずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
カルボン酸としては、例えば、ステアリン酸等のモノカルボン酸や、アルキルコハク酸およびその誘導体、アルケニルコハク酸およびその誘導体、ナフテン酸、アビエチン酸、ラノリン脂肪酸等が挙げられる。カルボン酸塩としては、上記したカルボン酸の金属塩(カルシウム、バリウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、鉛等)が挙げられる。
【0033】
エステル系防錆剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウレート、ポリオキシエチレンオレエート、ポリオキシエチレンステアレート、ペンタエリスリットモノオレエート、コハク酸ハーフエステル等のカルボン酸部分エステル等が挙げられる。エステル系防錆剤は、良好な生分解性を有するため、好適に用いられる。
【0034】
アミン系防錆剤としては、例えば、アルコキシフェニルアミン等のアミン誘導体や、二塩基性カルボン酸部分アミド等が挙げられる。
【0035】
防錆剤の含有量は、グリース組成物中、2.5質量%以上であり、3.0質量%以上が好ましく、4.0質量%以上がより好ましい。防錆剤の含有量が2.5質量%未満の場合、塩水に対する防錆性が低下する傾向がある。一方、非生分解性の有機物質を低減する観点から、防錆剤の含有量は30質量%以下であり、25質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、15質量%以下がさらに好ましい。
【0036】
本発明の一実施形態に係るグリース組成物は、生分解性を有する基油と、増ちょう剤と、カルシウムスルホネートコンプレックスおよびソルビタン脂肪酸エステルを含む防錆剤とを含有する。かかる配合としたグリース組成物は、良好なハンドリング性および貯蔵安定性を有し、ワイヤーロープ等のメンテナンス用に好適に用いられる。
【0037】
(増ちょう剤)
本実施形態における増ちょう剤としては、大きな欠点もなく性能バランス(例えば、耐水性、せん断安定性等)が良い観点から、リチウム石けんが好適に用いられる。リチウム石けんとしては、例えば、炭素数10~28の脂肪酸、および炭素数10~28のヒドロキシ酸から合成されたリチウム石けん等が挙げられる。
【0038】
炭素数10~28の脂肪酸としては、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、アラキジン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、ヘプタデカン酸、オレイン酸、アラキドン酸、ベヘン酸等が例示されるが、ちょう度収率(グリースが硬くなる度合い)が良い点から、ステアリン酸が好ましい。炭素数10~28のヒドロキシ酸としては、12-ヒドロキシステアリン酸、12-ヒドロキシラウリン酸、16-ヒドロキシパルミチン酸等が例示されるが、入手しやすく、安価である点から、12-ヒドロキシステアリン酸が好ましい。
【0039】
リチウム石けんとしてより具体的には、例えば、ラウリン酸リチウム、ステアリン酸リチウム、12-ヒドロキシステアリン酸リチウム、およびそれらの混合物等が例示される。リチウム石けんは、前記のうちいずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
リチウム石けん以外の他の増ちょう剤としては、例えば、ウレア系化合物、リチウム複合石けん、カルシウム石けん、ナトリウム石けん、アルミニウム石けん等の金属石けん、ナトリウムテレフタラメート、フッ素、有機化ベントナイト、シリカゲル等が挙げられ、ウレア系化合物およびリチウム複合石けんが好ましい。より好ましくは、リチウム石けんを含む増ちょう剤であり、より好ましくは、リチウム石けんのみからなる増ちょう剤である。
【0041】
リチウム複合石けんは特に限定されない。一例を挙げると、リチウム複合石けんは、リチウムを金属源とし、少なくとも1個のヒドロキシ基を有する炭素数12~24の脂肪族モノカルボン酸と、炭素数2~12の脂肪族ジカルボン酸と、水酸化リチウムとの反応によって形成されたものが挙げられ、12-ヒドロキシステアリン酸およびアゼライン酸の混合物と水酸化リチウムとの反応によって形成されたものが好ましい。
【0042】
ウレア系化合物は特に限定されない。一例を挙げると、ウレア系化合物は、下記一般式(I)で示されるジウレア化合物である。式中、R
2は、炭素数6~15の芳香族系炭化水素基、R
1およびR
3は炭素数6~18の芳香族系炭化水素基、シクロヘキシル基、炭素数7~12のアルキルシクロヘキシル基、または炭素数8~22のアルキル基を表す。
【化1】
【0043】
前記ジウレア化合物は、公知の方法によりアミンとジイソシアネート化合物とを反応させることにより得ることができる。アミンとしては、例えば、炭素数6~18の芳香族アミン、シクロヘキシルアミン、炭素数7~12のアルキルシクロヘキシルアミン、炭素数8~22のアルキルアミン、およびそれらの混合物等が挙げられる。ジイソシアネート化合物としては、例えば、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート等が挙げられる。なかでも4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネートが入手性において優れるという点から好ましく、さらに耐熱性に優れる点から4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましい。
【0044】
増ちょう剤の含有量は特に限定されないが、グリース組成物中、2.0質量%以上が好ましく、5.0質量%以上がより好ましく、8.0質量%以上がさらに好ましい。増ちょう剤の含有量が2.0質量%未満である場合、得られるグリース組成物が軟質過ぎるため、飛散、漏洩したり、過剰な油分離を引き起こす傾向がある。一方、非生分解性の有機物質を低減する観点から、増ちょう剤の含有量は、20質量%以下が好ましく、18質量%以下がより好ましく、15質量%以下がさらに好ましく、12質量%以下が特に好ましい。
【0045】
なお、増ちょう剤を使用する態様においては、増粘剤(特にポリイソブチレン)の使用量を1.0質量%未満とすることが好ましく、0.5質量%未満とすることがより好ましく、0.1質量%未満とすることがさらに好ましく、増粘剤を使用しないことが特に好ましい。増粘剤の使用量が1.0質量%以上の場合は、グリースの粘性が高くなり、糸曳き等によりハンドリング性が低下するおそれがある。
【0046】
本実施形態に係るグリース組成物の混和ちょう度は、ハンドリングの観点から、220~340の範囲が好ましく、265~295(2号)の範囲がより好ましい。なお、本実施形態において、混和ちょう度の値は、JIS K 2220 7により、25℃の環境下で、ちょう度計に取り付けた円錐をグリース組成物に落下させ、5秒間かけて進入した深さ(mm)を10倍した値である。
【0047】
本発明の他の実施形態に係るグリース組成物は、生分解性を有する基油と、生分解性を有するワックスと、増粘剤と、カルシウムスルホネートコンプレックスおよびソルビタン脂肪酸エステルを含む防錆剤とを含有し、かつ50℃~100℃の融点を有する。かかるグリース組成物は、特にワイヤーロープの製造に適している。融点が50℃未満であると、高温下の使用において、グリースがワイヤーロープから垂れ落ちるという問題がある。一方、融点が100℃を超えると、油剤の劣化が促進される傾向があること、また、ワイヤーロープ製造ラインでの塗布が困難となる等の問題がある。融点は、55℃~95℃が好ましく、60℃~90℃がより好ましく、65℃~85℃がさらに好ましい。なお、増ちょう剤を配合した上記のグリース組成物では、加熱溶融と冷却を繰り返すと、グリースの軟化や油分離など、グリースとしての状態を維持できなくなることに加え、添加剤が劣化し防錆性が低下するおそれがあるが、生分解性を有するワックスおよび増粘剤を配合した本実施形態のグリース組成物では、加熱溶融後冷却しても、グリースの状態および防錆性を維持することができる。
【0048】
(ワックス)
ワックスとしては、OECDテストガイドライン301シリーズに準拠し、所定の生分解度を有する、生分解性を有すると判定されるワックスが好適に用いられる(以下、本明細書において、かかるワックスを単に「生分解性を有するワックス」と記載することがある)。生分解性を有するワックスは、生分解性を有する基油を代替するものとして使用でき、かつグリース組成物の融点を上記の範囲に調整するために適量を含有することができる。
【0049】
生分解性を有するワックスとしては、公知の植物系ワックス、動物系ワックス、石油系ワックス等を使用することができる。植物系ワックスとしては、例えば、ライスワックス、カルナバワックス、キャンデリラワックス等が挙げられる。動物系ワックスとしては、例えば、みつろう、ラノリン、鯨ろう等が挙げられる。石油系ワックスとしては、例えば、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス等が挙げられる。また、合成ワックスであっても、生分解性を有するものは用いることができる。
【0050】
生分解性を有する基油および生分解性を有するワックスの合計含有量は、グリース組成物中、60質量%以上が好ましく、65質量%以上がより好ましく、70質量%以上がより好ましく、75質量%以上がさらに好ましく、80質量%以上が特に好ましい。
【0051】
生分解性を有する基油および生分解性を有するワックスの合計量中の生分解性を有するワックスの含有量は、6.0質量%以上が好ましく、6.5質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましく、12質量%以上が特に好ましい。また、該含有量は、40質量%以下が好ましく、35質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましく、25質量%以下が特に好ましい。
【0052】
(増粘剤)
本実施形態において使用可能な増粘剤としては、特に制限はなく、ポリブテン、ポリイソブテン、ポリイソブチレン、αオレフィンコポリマー等の、潤滑グリースにおいて一般的に使用されているものを適宜選択することができる。増粘剤は、OECDテストガイドライン301シリーズに準拠し、所定の生分解度を有する、生分解性を有すると判定される増粘剤(例えば、ポリイソブチレン等)であってもよい。
【0053】
増粘剤は、グリース組成物中、1.0質量%以上が好ましく、3.0質量%以上がより好ましく、5.0質量%以上がさらに好ましく、7.0質量%以上が特に好ましい。また、増粘剤の含有量は、25質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、15質量%以下がさらに好ましく、12質量%以下が特に好ましい。増粘剤の含有量が上記範囲内である場合、圧送性に影響を及ぼすことなく付着性を向上させるという利点がある。
【0054】
なお、生分解性を有するワックスおよび増粘剤を使用する態様においては、増ちょう剤(特にアルミニウム複合石けん)の使用量を1.0質量%未満とすることが好ましく、0.5質量%未満とすることがより好ましく、0.1質量%未満とすることがさらに好ましく、増ちょう剤を使用しないことが特に好ましい。増ちょう剤の使用量が1.0質量%以上の場合は、加熱溶融と冷却を繰り返すと、グリースの軟化や油分離など、グリースとしての状態を維持できなくなることに加え、添加剤が劣化し防錆性が低下するおそれがある。
【0055】
(任意成分)
本実施形態のグリース組成物は、本実施形態の効果が損なわれない範囲において、任意成分をさらに含有し得る。任意成分としては、耐摩耗剤、酸化防止剤、極圧添加剤、染料、色相安定剤、構造安定剤、金属不活性剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤等が挙げられる。
【0056】
耐摩耗剤が含有される場合、耐摩耗剤としては、メチレンビスジチオカーバメート、硫黄系耐摩耗剤、リン系耐摩耗剤等が例示される。耐摩耗剤は、前記例示のものからいずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、本実施形態のグリース組成物は、耐摩耗剤が配合されない場合であっても、優れた耐摩耗性を発揮し得る。
【0057】
リン系耐摩耗剤は、トリブチルフォスファイトおよびトリオレイルフォスファイト等を代表とするフォスファイト類;トリクレシジルフォスフェートおよびジラウリルアシッドフォスフェート等を代表とするフォスフェート類;リン酸ジブチルオクチルアミン塩およびリン酸ジラウリルオクチルアミン塩等を代表とするアミンフォスフェート類;トリフェニルフォスフォロチオネートおよびアルキレイテッドフォスフォロチオネート等を代表とするフォスフォロチオネート類;リン酸カルシウムを代表とする固体潤滑剤;およびジフェニルハイドロゲンフォスファイト等が例示される。
【0058】
耐摩耗剤が含有される場合、耐摩耗剤の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、耐摩耗剤は、グリース組成物中、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましい。また、耐摩耗剤は、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましい。耐摩耗剤の含有量が上記範囲内であることにより、得られるグリース組成物は、優れた耐摩耗性が付与され得る。
【0059】
酸化防止剤が含有される場合、酸化防止剤としては、アミン系酸化防止剤等が例示される。アミン系酸化防止剤は、芳香族アミン化合物であることが好ましい。芳香族アミン化合物は、ジフェニルアミン、アルキル化ジフェニルアミン、フェノチアジン、N-フェニル-α-ナフチルアミン、p,p’-ジアミノジフェニルメタン、アルドール-α-ナフチルアミン、p-ドデシルフェニル-1-ナフチルアミン等が例示される。
【0060】
酸化防止剤が含有される場合、酸化防止剤の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、酸化防止剤は、グリース組成物中、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましい。また、酸化防止剤は、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましい。酸化防止剤の含有量が上記範囲内であることにより、得られるグリース組成物は、優れた酸化安定性が付与され得る。
【0061】
極圧添加剤が含有される場合、極圧添加剤としては、モリブデンジチオカルバメート、モリブデンジチオフォスフェート、チオリン酸エステル、硫化油脂、ジベンジルスルフイド、ジブチルジスルフイド等が例示される。なかでも、硫化油脂が好ましい。極圧添加剤は、前記例示のものからいずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0062】
極圧添加剤が含有される場合、極圧添加剤の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、極圧添加剤は、グリース組成物中、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましい。また、極圧添加剤は、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましい。極圧添加剤の含有量が上記範囲内であることにより、得られるグリース組成物は、優れた耐荷重性が付与され得る。
【0063】
本実施形態に係るグリース組成物は、偶発的に海洋や河川に漏出した場合でも生物濃縮性が低く、人体に対して安全である。また、工業用潤滑剤と同程度かそれ以上の防錆性、耐水性、撥水性、付着性を有し、屋外等でも使用することができる。特に、海水等の塩水に対する優れた防錆性および耐水性を有するため、水門の門戸の上げ下げに用いるワイヤーロープや、船舶用ワイヤーロープ等の水と接触するワイヤーロープに好適に用いられる。なお、増ちょう剤を配合したグリース組成物は、メンテナンス用に、生分解性を有するワックスおよび増粘剤を配合したグリース組成物は、ワイヤーロープ製造ラインの初期充填用に、特に好適に用いられる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。本発明は、これら実施例に何ら限定されない。
【0065】
以下、実施例および比較例において用いた各種材料をまとめて示す。
合成エステル油:BASFジャパン(株)製のSynative ES TMP 05/320(トリメチロールプロパンコンプレックスエステル、動粘度(40℃):326mm2/s)
植物油:豊国製油(株)製の工業用一号ヒマシ油(動粘度(40℃):240mm2/s)
ワックス:日本精蝋(株)製のParaffin Wax 155F
リチウム石けん:ヒドロキシステアリン酸および12-ヒドロキシステアリン酸と水酸化リチウムとの反応によって形成されたリチウム石けん
リチウム複合石けん:12-ヒドロキシステアリン酸およびアゼライン酸の混合物と水酸化リチウムとの反応によって形成されたリチウム複合石けん
ジウレア化合物:シクロヘキシルアミンおよびステアリルアミンの混合物と4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートとの反応によって形成されたジウレア化合物
増粘剤:出光興産(株)製の出光ポリブテン2000H
カルシウムスルホネートコンプレックス:出光興産(株)製のダフニーマルチレックスWR
ソルビタン脂肪酸エステル1:花王(株)製のエマゾール O-10V(ソルビタンモノオレエート)
ソルビタン脂肪酸エステル2:花王(株)製のエマゾール O-30V(ソルビタントリオレエート)
【0066】
(実施例1~10および比較例1~5)
表1に記載の処方に従い、グリース組成物を調製した。得られたグリース組成物について以下の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0067】
<混和ちょう度の測定>
JIS K 2220 7に準拠し、25℃の環境下で、ちょう度計に取り付けた円錐を試験用グリース組成物に落下させ、5秒間かけて進入した深さ(mm)を測定し、測定された値を10倍したものを混和ちょう度とする。
【0068】
<中性塩水噴霧試験>
JIS K 2246 6.35に準拠し、試験用グリース組成物で被覆した試験片(被膜作成方法はJIS K 2220 21準拠)を、35℃の環境下で、中性塩水を噴霧した装置内に規定時間保持した後のさび発生度を調べた。さび発生度が0%であった、塩水の噴霧時間を表1に示す。120時間以上を性能目標値とする。
【0069】
<水洗耐水度試験>
JIS K 2220 16に準拠し、38℃および79℃の環境下で、試験前のグリースの量100質量%に対する、水に洗い流されたグリースの質量を測定した。当該質量が小さい程、耐水性に優れる。
【0070】
<離油度>
JIS K 2220 11に準拠し、100℃で24時間静置したときの離油度を測定した。当該質量が小さい程、貯蔵安定性に優れる。
【0071】
【0072】
表1の結果より、本発明のグリース組成物は、塩水に対する優れた防錆性、耐水性、および貯蔵安定性を有していることがわかる。
【0073】
(実施例11~17および比較例6~10)
表2に記載の処方に従い、グリース組成物を調製した。得られたグリース組成物について以下の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0074】
<融点の測定>
JIS K 2235に準拠し、グリース組成物の融点を測定した。
【0075】
<中性塩水噴霧試験>
JIS K 2246 6.35に準拠し、試験用グリース組成物で被覆した試験片(被膜作成方法はJIS K 2220 21準拠)を、35℃の環境下で、中性塩水を噴霧した装置内に規定時間保持した後のさび発生度を調べた。さび発生度が0%であった、塩水の噴霧時間を表2に示す。240時間以上を性能目標値とする。
【0076】
【0077】
表2の結果より、本発明のグリース組成物は、塩水に対する優れた防錆性を有していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明のグリース組成物は、環境への影響が少なく、かつ海水等の塩水に対する優れた防錆性および耐水性を有することから、特に水と接触するワイヤーロープ用の潤滑剤として有用である。