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特許7348903溶融塩化物塩を含むソーラータワーシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-12
(45)【発行日】2023-09-21
(54)【発明の名称】溶融塩化物塩を含むソーラータワーシステム
(51)【国際特許分類】
   F24S 20/20 20180101AFI20230913BHJP
   C22C 30/00 20060101ALI20230913BHJP
   C22C 19/05 20060101ALI20230913BHJP
   C23F 11/18 20060101ALI20230913BHJP
   F24S 80/10 20180101ALI20230913BHJP
【FI】
F24S20/20
C22C30/00
C22C19/05 F
C23F11/18
F24S80/10
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020541646
(86)(22)【出願日】2018-10-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-12-17
(86)【国際出願番号】 US2018055368
(87)【国際公開番号】W WO2019075177
(87)【国際公開日】2019-04-18
【審査請求日】2021-10-11
(31)【優先権主張番号】62/572,059
(32)【優先日】2017-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501145376
【氏名又は名称】ヘインズ・インターナショナル・インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】520128705
【氏名又は名称】アイシーエル - アイピー アメリカ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デオデシュムク、ビネイ
(72)【発明者】
【氏名】エッフェンバーガー、ラインハルト
【審査官】岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-050328(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0152917(US,A1)
【文献】特表2016-536752(JP,A)
【文献】特表2015-537181(JP,A)
【文献】特開2016-196877(JP,A)
【文献】特開2016-196880(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0038096(US,A1)
【文献】国際公開第2012/037532(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24S 20/20
C22C 30/00
C22C 19/05
C23F 11/18
F24S 80/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸収管、貯蔵タンクおよび熱交換器を有し、これらのすべてに650℃を超える温度の溶融塩熱伝達媒体が含まれ、該溶融塩が前記吸収管、前記貯蔵タンクおよび前記熱交換器の内面に接触しているタイプの改良型ソーラータワーシステムであって、
前記溶融塩が650℃を超え800℃以下の温度の塩化物塩であり、
前記吸収管、前記貯蔵タンク、および前記熱交換器のうちの少なくとも1つが、重量パーセントで、25%~45%のニッケル、12%~32%のクロム、0.1%~2.0%のニオブ、最大4.0%のタンタル、最大1.0%のバナジウム、最大2.0%のマンガン、最大1.0%のアルミニウム、最大5%のモリブデン、最大5%のタングステン、最大0.2%のチタン、最大2%のジルコニウム、最大5%のコバルト、最大0.1%のイットリウム、最大0.1%のランタン、最大0.1%のセシウム、最大0.1%の他の希土類金属、最大約0.20%の炭素、最大3%のケイ素、約0.05%~0.50%の窒素、最大0.02%のホウ素を含み、残部が鉄および不純物である合金でできている、改良型ソーラータワーシステム。
【請求項2】
前記吸収管、前記貯蔵タンク、および前記熱交換器のうちの少なくとも1つが、重量パーセントで、30%~42%のニッケル、20%~32%のクロム、0.2%~1.0%のニオブと0.2%~4.0%のタンタルと0.05%~1.0%のバナジウムのうちの少なくとも1つ、最大0.2%の炭素、約0.05%~0.50%の窒素、0.001%~0.02%のホウ素、および最大0.2%のチタンを含み、残部が鉄および不純物である合金でできている、請求項1に記載の改良型ソーラータワーシステム。
【請求項3】
前記吸収管、前記貯蔵タンク、および前記熱交換器のうちの少なくとも1つが、重量パーセントで、約37%のニッケル、約25%のクロム、約3%のコバルト、約1%のモリブデン、約0.5%のタングステン、約0.7%のニオブ、約0.7%のマンガン、約0.6%のケイ素、約0.2%の窒素、約0.1%のアルミニウム、約0.05%の炭素、約0.004%のホウ素を含み、残部が鉄および不純物である合金でできている、請求項1に記載の改良型ソーラータワーシステム。
【請求項4】
吸収管、貯蔵タンク、および熱交換器が、650℃を超える温度を有する溶融塩熱伝達媒体を含み、前記吸収管、前記貯蔵タンク、および前記熱交換器のうちの少なくとも1つが、抑制剤なしの溶融塩化物塩中で、850℃で、60μm未満の腐食速度を有する、請求項1に記載の改良型ソーラータワーシステム。
【請求項5】
前記合金は、抑制剤としてMgを有する溶融塩化物塩中で、850℃で、60μm未満の腐食速度を有する、請求項4に記載の改良型ソーラータワーシステム。
【請求項6】
前記合金は、抑制剤としてZrを有する溶融塩化物塩中で、850℃で、60μm未満の腐食速度を有する、請求項4に記載の改良型ソーラータワーシステム。
【請求項7】
吸収管、貯蔵タンク、および熱交換器を有し、これらのすべてに650℃を超える温度の溶融塩熱伝達媒体が含まれ、該溶融塩が前記吸収管、前記貯蔵タンクおよび前記熱交換器の内面に接触しているタイプの改良型ソーラータワーシステムであって、
前記溶融塩が塩化物塩であり、少なくとも1つの腐食抑制剤が、前記溶融塩中、または前記吸収管、前記貯蔵タンクおよび前記熱交換器の内面の少なくとも1つ上に存在し、
前記吸収管、前記貯蔵タンク、および前記熱交換器のうちの少なくとも1つが、重量パーセントで、20%~24%のクロム、13%未満~15%未満のタングステン、1%未満~3%のモリブデン、最大3%の鉄、最大5%のコバルト、0.3%~1.0%のマンガン、0.25~0.75%のケイ素、0.2~0.5%のアルミニウム、0.5%~0.15%の炭素、0.005%~0.05%のランタン、最大0.1%のチタン、最大0.5%のニオブ、最大0.015%のホウ素、最大0.03%のリン、および最大0.015%の硫黄を含み、残部がニッケルおよび不純物である合金でできている、改良型ソーラータワーシステム。
【請求項8】
前記吸収管、前記貯蔵タンク、および前記熱交換器のうちの少なくとも1つが、重量パーセントで、約22%のクロム、約14%のタングステン、約2%のモリブデン、最大3%の鉄、最大5%のコバルト、約0.5%のマンガン、約0.4%のケイ素、最大0.5%のニオブ、約0.3%のアルミニウム、最大0.1%のチタン、約0.1%の炭素、約0.02%のランタン、および最大約0.015%のホウ素を含み、残部がニッケルおよび不純物である合金でできている、請求項7に記載の改良型ソーラータワーシステム。
【請求項9】
前記溶融塩熱伝達媒体は800℃よりも高い温度を有する、請求項8に記載の改良型ソーラータワーシステム。
【請求項10】
吸収管、貯蔵タンク、および熱交換器を有し、これらのすべてに650℃を超える温度の溶融塩熱伝達媒体が含まれ、該溶融塩が前記吸収管、前記貯蔵タンクおよび前記熱交換器の内面に接触しているタイプの改良型ソーラータワーシステムであって、
前記溶融塩が塩化物塩であり、少なくとも1つの腐食抑制剤が、前記溶融塩中、または前記吸収管、前記貯蔵タンクおよび前記熱交換器の内面の少なくとも1つ上に存在し、
前記吸収管、前記貯蔵タンク、および前記熱交換器のうちの少なくとも1つが、重量パーセントで、18%~20%のクロム、18%~20%のコバルト、3.0%~3.5%のアルミニウム、7%~8%のモリブデン、0.4%~0.8%のタンタル、0.4%~0.6%のチタン、0.1%~0.4%のマンガン、最大0.3%のタングステン、最大1.5%の鉄、0.04~0.2%のケイ素、0.08%~0.12%の炭素、最大0.015%のリン、最大0.015%の硫黄、0.002%~0.006%のホウ素、0.001%~0.025%のイットリウム、0.01%~0.05%のジルコニウムを含み、残部がニッケルおよび不純物である合金でできている、改良型ソーラータワーシステム
【請求項11】
前記合金は、重量パーセントで、約19%のクロム、約19%のコバルト、約3.25%のアルミニウム、約7.5%のモリブデン、約0.5%のタンタル、約0.56%のチタン、約0.2%のマンガン、約0.05%のタングステン、約1.0%の鉄、約0.14%のケイ素、約0.10%の炭素、0.002%未満のリン、0.002%未満の硫黄、約0.002%のホウ素、約0.007%のイットリウム、約0.02%のジルコニウムを含み、残部がニッケルおよび不純物である、請求項10に記載の改良型ソーラータワーシステム
【請求項12】
前記溶融塩熱伝達媒体は800℃よりも高い温度を有する、請求項10に記載の改良型ソーラータワーシステム。
【請求項13】
吸収管、貯蔵タンク、および熱交換器を有し、これらのすべてに650℃を超える温度の溶融塩熱伝達媒体が含まれるタイプの改良型タワーシステムであって、
前記溶融塩が、抑制剤としてMgまたはZrを添加した650℃を超え800℃以下の温度の塩化物塩である、改良型ソーラータワーシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光から熱を吸収し、その熱を伝達して、溶融塩を熱輸送流体として使用して発電するのに使用する太陽電池タワーに関する。
【背景技術】
【0002】
多くの材料の表面は、ある期間にわたって太陽光に曝されると加熱される。当該技術は、発電に使用するため、または建物および他の環境を加熱するためにこの熱を捕捉するシステムを開発してきた。ソーラータワーシステムとして知られている1つのタイプのシステムには、太陽光に曝され、その太陽光によって加熱される一連の熱吸収管またはレシーバがある。熱吸収管には、熱吸収管から熱交換器に向けられる熱伝達媒体が含まれている。システムには、熱伝達媒体を含む貯蔵タンクがある。そのようなソーラータワーシステムでは、溶融ナトリウムカリウム硝酸塩が熱伝達媒体として使用されてきた。それらのシステムでは、硝酸ナトリウムカリウム塩は約565℃に加熱される。
【0003】
特許文献1は、約565℃の温度で硝酸ナトリウムカリウム塩を含むソーラータワーシステムを開示している。この特許は、625合金をこのシステムで使用する必要があることを教示している。なぜなら、この合金は、605℃の温度で、溶融硝酸ナトリウムカリウム塩からの耐腐食性に優れ、溶融塩または大気または断熱材からの外部由来の塩化物中の不純物による塩化物応力腐食割れに対する耐性が高く、低い熱膨張係数、優れた熱伝導率、優れたクリープおよび降伏強度、および卓越した機械的および熱的疲労耐性を有するからである。
【0004】
304および316オーステナイト系ステンレス鋼およびインコロイ(登録商標)800ニッケル-鉄-クロム合金もまた、硝酸ナトリウム-カリウム塩ソーラータワーシステムにおけるレシーバに使用されてきた。これらの合金は、熱膨張係数が高く、降伏強度とクリープ強度が低く、熱伝導率が低く、熱疲労特性が低いが、塩化物応力腐食割れの影響を受けやすい。
【0005】
ソーラータワーシステムで使用される合金は、溶融塩の強い腐食特性に耐性があり、塩化物応力腐食割れに耐性があり、経済的に製造され、溶接可能で、ASMEボイラーおよび圧力容器コードに受け入れられ、貫通壁に起因するおよび直径温度勾配にわたる厳しい熱ひずみに耐え得ることが必要とされる。材料の熱膨張係数に正比例するこれらのひずみは、レシーバの寿命にわたって課される毎日の太陽と雲のカバーサイクルの数に対する材料の許容疲労ひずみレベルによって決定される値に吸収される太陽熱流束を制限することにより、レシーバのサイズを設定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第5,862,800号明細書
【文献】欧州特許第2971205号明細書
【文献】米国特許第4,981,647号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現在、650℃から最高1000℃までのより高い温度で作動することができるソーラータワーシステムが必要とされている。このようなシステムには、これらの高温で溶融状態の塩媒体が必要である。そのようなシステムにおける吸収管、熱交換器、および貯蔵タンクは、650℃~1000℃の間の温度で溶融塩に対して耐食性のある材料、好ましくは金属合金から作られる必要がある。合金はまた、これらの高温で、熱膨張係数が高く、降伏強度とクリープ強度が低く、熱伝導率が低く、熱疲労が低い必要がある。
【0008】
ナトリウム-カリウム硝酸塩は、約565℃の温度で動作するソーラータワーシステムで使用されてきたが、これらの塩は、より高い温度、特に800℃~1000℃程度の高温での使用には適していない。これらの用途では、硝酸カリウムカリウム塩よりもはるかに高い凍結温度を持つ塩が必要である。
【0009】
高温用途での使用のために販売されている既知の合金は数多くあるが、これらの合金の650℃から最高1000℃程度の高温で溶融塩に曝されたときの耐食性についてはほとんど知られていない。当業者は、約565℃の他の高温用途で使用されている任意の合金が、650℃から最高1000℃程度の温度までの温度で動作する溶融塩ソーラータワーシステムで使用できると予想するかもしれないが、我々はこれが真実ではないことを見出した。それらの多くは、650℃から最高1000℃程度の高温で動作する溶融塩ソーラータワーシステムに必要な耐食性と機械的特性の両方を備えていない。ここに開示されている特定の合金組成物のみがそのようなシステムに適している。
【0010】
我々は、熱伝達媒体が650℃を超える温度の溶融塩であり、溶融塩を運ぶまたは保持するコンポーネントが、ヘインズインターナショナル(Haynes International)によって製造され、HR-120(登録商標)合金、230(登録商標)合金、233(商標名)合金の名称で販売されている市販の合金から作られるソーラータワーシステムを提供する。これらのヘインズ合金の技術仕様内の名目上の組成と合金の組成を以下に提供する。これらの合金は、所望の耐食性と機械的特性を備えており、これらの吸収管、熱交換、および貯蔵の一部またはすべてに使用できる。好ましくは、溶融塩はMgCl-KCl溶融塩である。
【0011】
溶融塩が800℃を超える温度に加熱される代替の実施形態では、HR-120(登録商標)合金は、貯蔵タンクにのみ使用され、230(登録商標)合金または233(商標名)合金は、レシーバおよび溶融塩を運ぶ他のコンポーネントに使用される。
【0012】
230(登録商標)合金または233(商標名)合金から作られるコンポーネントは、耐食性を改善するためにジルコニウムまたはマグネシウムでコーティングされ得る。
【0013】
マグネシウムは腐食抑制剤として作用するので、溶融塩にマグネシウムを加えることができる。好ましくは、1.15モル%のマグネシウムが使用される。
【0014】
この太陽電池システムの他の目的および利点は、図面に示されている特定の現在の好ましい実施形態の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】650℃から800℃~1000℃程度の高温で溶融塩を熱伝達媒体として使用するように本発明に従って変更することができる、従来技術で既知のソーラータワーシステムの斜視図である。
図2】典型的な溶融塩太陽光吸収パネルの等角図である。
図3】ソーラータワーシステムを使用できる加熱システムのブロック図である。
図4】850℃で100時間NaCl-KCl-MgCl塩組成で試験した230(登録商標)合金と233(商標名)合金の腐食速度のグラフである。
図5】850℃で100時間NaCl-KCl-MgCl塩組成で試験した230(登録商標)合金、HR-120(登録商標)合金、244(登録商標)合金、および282(登録商標)合金の腐食速度の図4と同様のグラフである。
図6】850℃で100時間NaCl-KCl-MgCl塩組成で試験した230(登録商標)合金、233(商標名)合金、およびHR-120(登録商標)合金の腐食速度の図4と同様のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1および図3を参照すると、特許文献1に開示されているタイプの太陽電池システムは、ヘリオスタット2のフィールドによって囲まれたソーラーセントラル円筒形レシーバ1を有する。レシーバ1は、タワー3に取り付けられ、最も効率的な焦点の高さを提供する。レシーバ1は、溶融塩太陽光吸収パネル10で構成される。太陽50は、ヘリオスタット2に当たる太陽光線51を提供する。太陽光線51は、ヘリオスタット2によってソーラーセントラル円筒形レシーバ1に反射される。溶融塩太陽光吸収パネル10は、太陽光線によって加熱される。パネル管4の内部の高温の溶融塩は、熱を熱交換器に輸送し、熱交換器は、プロセス熱用の熱エネルギーまたは電気を生成するために熱エネルギーを使用することができる。
【0017】
図2に示される典型的な溶融塩太陽光吸収パネル10は、継ぎ目がなく、溶接構造または溶接・引き抜き構造であり得る吸収管4およびヘッダー5を有する。溶融塩流は、そのヘッダーを介して導管9から太陽光吸収パネル10に入るか、または導管9へと太陽光吸収パネル10を出る。図1に示される実施形態では、レシーバ1は、2つの回路に配置された複数のパネル10から構成され、それぞれ8つのパネルを有し、蛇行流路を有し、多面体の円筒面を形成する。
【0018】
本発明のソーラータワーシステムでは、溶融塩熱伝達媒体は、650℃よりも高く、最高1000℃程度の温度に加熱される。図3を参照すると、加熱された溶融塩は、レシーバ10の吸収管4から熱交換器12に運ばれ、その後、導管9を介してレシーバ19に戻される。溶融塩用の貯蔵タンク14がシステムに提供される。
【0019】
溶融塩化物塩は、650℃から最高1000℃程度までの温度を操作する溶融塩ソーラータワーシステムで使用するためのより良い候補であることを見出した。特に、MgCl-KCl溶融塩を提供することを好む。他の適切な塩は、LiCl、NaCl、KCl、MgCl、またはCaClで構成されるハロゲン化物を、300℃~1000℃の温度範囲で少なくとも部分的に溶融する、個別のエンティティとして、または2成分、3成分、4成分、5成分の混合物として含み得る。LiBr、NaBr、KBr、MgBr、またはCaBr12で構成される溶融ハロゲン化物を、温度範囲300℃~1000℃で少なくとも部分的に溶融する、個別のエンティティとして、または2成分、3成分、4成分、または5成分の混合物として使用することもできる。別の適切な塩は、温度範囲300℃~1000℃で少なくとも部分的に溶融する、個別のエンティティまたは混合物として、LiX、NaX、KX、MgX、またはCaX(ただし、XはClまたはBrとすることができる)で構成される溶融ハロゲン化物とすることができる。温度範囲300℃~1000℃で少なくとも部分的に溶解する、個別のエンティティとして、または2成分、3成分、または4成分の混合物として、LiF、NaF、KF、またはBeFから構成される溶融ハロゲン化物もまた使用できる。
【0020】
600℃未満の温度で作動する太陽電池で使用されてきた合金は、650℃から最高1000℃程度までの温度で溶融塩化物塩を含む吸収管、熱交換器、および貯蔵タンクに必要な耐食性および機械的特性を有さない。しかしながら、ヘインズのHR-120(登録商標)合金、230(登録商標)合金、および233(商標名)合金には、所望の耐食性および機械的特性があることを見出した。これらは、これらの吸収管、熱交換器、導管、および貯蔵タンクの一部またはすべてに使用できる。
【0021】
ヘインズのHR-120(登録商標)合金、230(登録商標)合金、233(登録商標)合金、244(登録商標)合金、および282(登録商標)合金に対して腐食試験を行って、本発明のソーラータワーシステムでの使用に対するそれらの適合性を決定した。各合金の3つのクーポンを、溶融NaCl-KCl-MgClまたは腐食抑制剤として機能する1.5モル%のマグネシウムと組み合わせたNaCl-KCl-MgCl内で耐食性についてテストした。230(登録商標)合金、233(商標名)合金、244(登録商標)合金、および282(登録商標)合金は、850℃でテストされた。HR-120(登録商標)合金は、750℃でテストされた。230(登録商標)合金の6つのクーポンはジルコニウムでコーティングされ、230(登録商標)合金の別の6つのクーポンはマグネシウムでコーティングされた。コーティングされた各クーポンの3つを溶融NaCl-KCl-MgCl内でテストし、3つを1.5モル%のマグネシウムと組み合わせたNaCl-KCl-MgCl内でテストした。表1に、各テストを示す。テストは、HR-120(登録商標)合金と230(登録商標)合金で繰り返された。

【表1】

【0022】
腐食テストの結果は、図4図5、および図6に報告されている。第1のテスト中にテストされた3つのクーポンの各セットの平均は、四角形で示されている。第2のテスト中にテストされた3つのクーポンの各セットの平均は、ひし形で示されている。各テストの標準偏差は、各点から伸びるひげによって示される。データは、マグネシウム抑制剤と併用した場合またはジルコニウムおよび/またはマグネシウムでコーティングした場合の233(商標名)合金および230(登録商標)合金と、HR-120(登録商標)は、850℃で低い腐食速度(50~100ミクロン/年)を示すことを示している。233(商標名)合金の耐食性およびHR-120(登録商標)合金の耐食性は、マグネシウムの存在下で15ミクロン/年未満に減少した。マグネシウムの代わりに他の還元金属を使用することができる。
【0023】
ヘインズ230(登録商標)合金は、マグネシウムでコーティングされている場合、または溶融塩がマグネシウムを含む場合に使用することができる。マグネシウムのような活性還元金属が存在する場合にのみ、腐食速度を15ミクロン/年以下に下げることができる。
【0024】
溶融塩化物ソーラータワーシステムは、溶融硝酸塩ソーラータワーシステムよりも高い作動温度で作動するので、合金の酸化特性は、レシーバ管およびタンクの腐食特性および機械的特性と共に同様に重要である。レシーバ管とタンクは、管の外側とタンクの外側で空気に曝されるため、酸化特性が要求される。以下に示すように、これらの合金の酸化特性は、現在使用されているステンレス鋼のタンク材料よりもはるかに優れている。
【0025】
HR-120(登録商標)合金、230(登録商標)合金、233(商標名)合金、インコネル800HT(登録商標)、304ステンレス鋼、および316ステンレス鋼について、流れる空気中982℃(1800°F)で1008時間(週1回のサイクル)の酸化データを以下の表2に示す。メーカーによると、合金800、800H、および800HTは、ニッケル、クロム、鉄の含有量が同じで、概して同様の耐食性を示す。

【表2】

金属損失=(A-B)/2
平均内部浸透=C
最大内部浸透=D
影響を受ける平均金属=金属損失+平均内部浸透
影響を受ける最大金属=金属損失+最大内部浸透
230(登録商標)合金、233(商標名)合金、HR-120(登録商標)合金はまた、650℃から最高1000℃程度の温度で溶融塩化物塩を含む吸収管、熱交換器、および貯蔵タンクで使用するための所望の機械的特性を有する。これらの特性は次の通りである。
クリープ破断強度(927℃(1700°F)/68.9MPa(10ksi))-横
233(商標名)合金=523時間
230(登録商標)合金=121時間
HR-120(登録商標)合金=25時間
クリープ破断強度@760℃(1400°F)/103.35MPa(15ksi)(プレート/バー)
230(登録商標)合金=8200時間
HR-120(登録商標)合金=200時間
304ステンレス鋼=10時間
316ステンレス鋼=100時間
(RT%)合金の熱安定性 1000時間/760℃(1400°F)
230(登録商標)合金=33%
HR-120(登録商標)合金=24%
233(商標名)合金=16.5%
合金のLCF特性(破損までのサイクル数)
760℃/ひずみ範囲=1%;R=-1.0
HR-120(登録商標)合金=2220
230(登録商標)合金=1097
870℃/ひずみ範囲=1%;R=-1.0
HR-120(登録商標)合金=1284
230(登録商標)合金=228
【0026】
230(登録商標)合金と233(商標名)合金は、溶融塩化物と接触しても350~1000℃の作動範囲にわたって機械的特性を保持し、一方、HR-120(登録商標)合金は、350~800℃の作動温度範囲にわたって機械的特性を保持する。3つの合金はすべて貯蔵タンクの材料として使用できる。貯蔵タンクはレシーバ管よりも低温で動作するため、適切な強度を備えたタンクの構成材料として低コストのHR-120(登録商標)合金の使用は、設備の資本コストを最適化できる。最高800℃で稼働する集光型太陽光発電設備を集中させるために、HR-120(登録商標)、230(登録商標)、および233(商標名)合金はまた、溶融塩を運ぶまたは保持するすべてのコンポーネントに使用できる。HR-120(登録商標)合金は、800℃を超えて作動する集光型太陽光発電設備の蓄熱タンクの構成材料としてのみ使用されるべきである。自生溶接およびビード加工の管を利用することでレシーバのコストが最小限に抑えられ、低コストのステンレス鋼材料上にHR-120(登録商標)合金爆発クラッド層を使用することで、貯蔵タンクのコストが最小限に抑えられる。
【0027】
したがって、上記の市販の合金の組成とあまり変わらない233(商標名)合金およびHR-120(登録商標)合金が、溶融KCl-NaCl-MgCl中で腐食速度をコーティングとしてマグネシウムなしで使用されたヘインズの腐食速度よりも約10倍低くし、あるいは溶融塩中でヘインズのNS-163(登録商標)合金およびIncoloy(登録商標)800H合金で観察された腐食速度よりも約30~40倍低くしたことは驚くべきことである。具体的には、230合金の場合は500~700ミクロン/年、NS-163(登録商標)合金とIncoloy(登録商標)800H合金の場合は2000~3000ミクロン/年である代わりに、233(商標名)合金とHR-120(登録商標)合金は50~60ミクロン/年の腐食を示した(すべて、850℃、静的条件で100時間テストされた)。Mgの存在下では、233(商標名)合金とHR-120(登録商標)合金のどちらもまた非常に低い腐食性(NMT 10ミクロン/年)を示した。
【0028】
ヘインズ230(登録商標)合金の公称組成は、22%のクロム、14%のタングステン、2%未満のモリブデン、5%以下のコバルト、3%以下の鉄、0.5%のマンガン、0.4%のケイ素、0.5%以下のニオブ、0.3%のアルミニウム、0.1%のチタン、0.1%の炭素、0.015%以下のホウ素、0.02%のランタンであり、残部の57%がニッケルおよび不純物である。テストした230(登録商標)合金クーポンはこの組成であった。重量パーセントで次の範囲内(20%~24%のクロム、13%~15%のタングステン、1%~3%のモリブデン、最大3%の鉄、最大5%のコバルト、0.3%~1.0%のマンガン、0.25~0.75%のケイ素、0.2~0.5%のアルミニウム、0.5%~0.15%の炭素、0.005%~0.05%のランタン、最大0.1%のチタン、最大0.5%のニオブ、最大0.015%のホウ素、最大0.03%のリン、最大0.015%の硫黄、残部がニッケルおよび不純物)の元素を含む合金組成物は、230(登録商標)合金について本明細書に記載されているのと同じ特性を有すると予想される。
【0029】
特許文献2は、ヘインズ 233(商標名)合金に関する技術情報を網羅し含む。この合金の公称組成は、19%のクロム、19%のコバルト、7.5%のモリブデン、0.5%のチタン、3.3%のアルミニウム、1.5%以下の鉄、0.4%以下のマンガン、0.20%以下のケイ素、0.10%の炭素、0.004%のホウ素、0.5%のランタン、0.3%以下のタングステン、0.025%以下のバナジウム、0.3%のジルコニウム、残部の48%がニッケルおよび不純物である。テストされた233(商標名)合金クーポンはこの組成であった。この特許は、233(商標名)合金の特性を有することが発見された合金の組成は、15~20重量%のクロム(Cr)、9.5~20重量%のコバルト(Co)、7.25~10重量%のモリブデン(Mo)、2.72~3.89重量%のアルミニウム(Al)、最大0.6重量%存在するケイ素(Si)、および最大0.15重量%存在する炭素(C)を含み得る。チタンは最小レベル0.02重量%で存在するが、0.2%を超えるレベルが好ましい。ニオブ(Nb)もまた、強化を提供するために存在し得るが、所望の特性を達成するためには必要ではない。Tiおよび/またはNbが多すぎると、合金のひずみ経年割れの傾向が高まる可能性がある。チタンは0.75重量%以下、ニオブは1重量%以下に制限する必要がある。233(商標名)合金の特性を有する合金の主要元素の最も広い範囲、中間の範囲、および狭い範囲を表3に示す。

【表3】

【0030】
ヘインズHR-120合金は、特許文献3に開示されている合金組成物の商用版である。これは、33%の鉄、37%のニッケル、25%のクロム、3%以下のコバルト、1%以下のモリブデン、0.5以下のタングステン、0.7%のマンガン、0.6%のケイ素、0.7%のニオブ、0.1%のアルミニウム、0.05%の炭素、0.02%の窒素、0.004%のホウ素、0.5%以下の銅、0.2%以下のチタンの重量パーセントの公称組成を有する鉄-ニッケル-クロム合金である。この合金の特許は、重量パーセントでこれらの範囲内(25%~45%のニッケル、12%~32%のクロム、0.1%~2.0%のニオブ、最大4.0%のタンタル、最大1.0%のバナジウム、最大2.0%のマンガン、最大1.0%のアルミニウム、最大5%のモリブデン、最大5%のタングステン、最大0.2%のチタン、最大2%のジルコニウム、最大5%のコバルト、最大0.1%のイットリウム、最大0.1%のランタン、最大0.1%のセシウム、最大0、1%のその他の希土類金属、最大約0.20%の炭素、最大3%のケイ素、約0.05%~0.50%の窒素、最大0.02%のホウ素と、残部が鉄および不純物)にある組成物が望ましい特性を有することを教示している。
【0031】
ソーラータワーシステムの現在の好ましい実施形態を示し、説明してきたが、本発明はそれらに限定されず、以下の特許請求の範囲内で様々に具体化され得ることが明確に理解されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6