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特許7348963耐腐食性に優れた高強度構造用鋼材及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-12
(45)【発行日】2023-09-21
(54)【発明の名称】耐腐食性に優れた高強度構造用鋼材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20230913BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20230913BHJP
   C21D 8/02 20060101ALI20230913BHJP
【FI】
C22C38/00 301A
C22C38/58
C21D8/02 A
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021571971
(86)(22)【出願日】2020-06-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-18
(86)【国際出願番号】 KR2020007148
(87)【国際公開番号】W WO2020262837
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2021-12-03
(31)【優先権主張番号】10-2019-0075213
(32)【優先日】2019-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジョ,ジェ‐ヨン
(72)【発明者】
【氏名】ガン,サン‐ドク
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-008343(JP,A)
【文献】国際公開第2013/047702(WO,A1)
【文献】特開2019-214751(JP,A)
【文献】特開2020-019995(JP,A)
【文献】国際公開第2015/030210(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/162680(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/147197(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/058424(WO,A1)
【文献】特開2001-020035(JP,A)
【文献】特開2016-050354(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00
C22C 38/58
C21D 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.03~0.12%、Si:0.01~0.8%、Mn:1.6~2.4%、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Al:0.005~0.5%、Nb:0.005~0.1%、B:10ppm以下、Ti:0.005~0.1%、N:15~150ppm、Ca:60ppm以下、残りのFe及び不可避不純物からなり、
重量%で、Cr:1.0%以下(0%を含む)、Mo:1.0%以下(0%を含む)、Ni:2.0%以下(0%を含む)、Cu:1.0%以下(0%を含む)、V:0.3%以下(0%を含む)からなる群から選択された1種または2種以上をさらに含み、
下記式1で表す腐食指数(Corrosion Index:CI)が3.0以下であり、
ISO 14993 CCT(Cyclic Corrosion Test)方法による全面腐食加速試験における単位面積当たりの重量減少量が1.2g/cm以下であることを特徴とする耐腐食性に優れた高強度構造用鋼材。
[式1]
CI=26.01×[Cu]+3.88×[Ni]+1.20×[Cr]+1.49×[Si]+17.28×[P]-7.29×[Cu]×[Ni]-9.1×[Ni]×[P]-33.39×[Cu]
但し、前記式1で[Cu]、[Ni]、[Cr]、[Si]及び[P]は、それぞれCu、Ni、Cr、Si及びPの重量%を意味し、該当合金組成が含まれない場合、0を意味する。
【請求項2】
前記鋼材は、前記鋼材の厚さ方向に沿って微細組織により区分される外側の表層部及び内側の中心部を備え、
前記表層部は、焼戻しベイナイトを基地組織として含み、
前記中心部は、アシキュラフェライト(Acicular ferrite)を基地組織として含むことを特徴とする請求項1に記載の耐腐食性に優れた高強度構造用鋼材。
【請求項3】
前記表層部は、前記鋼材の上部側の上部表層部及び前記鋼材の下部側の下部表層部からなり、
前記上部表層部及び下部表層部は、前記鋼材の厚さに対して3~10%の厚さあることを特徴とする請求項2に記載の耐腐食性に優れた高強度構造用鋼材。
【請求項4】
前記表層部は、第2組織としてフレッシュマルテンサイトをさらに含み、
前記焼戻しベイナイト及び前記フレッシュマルテンサイトは、95面積%以上の合計分率で前記表層部に含まれることを特徴とする請求項2に記載の耐腐食性に優れた高強度構造用鋼材。
【請求項5】
前記表層部は、残留組織としてオーステナイトをさらに含み、
前記オーステナイトは5面積%以下の分率で前記表層部に含まれることを特徴とする請求項2に記載の耐腐食性に優れた高強度構造用鋼材。
【請求項6】
前記アシキュラフェライトは95面積%以上の分率で前記中心部に含まれることを特徴とする請求項2に記載の耐腐食性に優れた高強度構造用鋼材。
【請求項7】
前記表層部の微細組織結晶粒の平均粒径は、3μm以下(0μmを除く)であることを特徴とする請求項2に記載の耐腐食性に優れた高強度構造用鋼材。
【請求項8】
前記中心部の微細組織結晶粒の平均粒径は、5~20μmであることを特徴とする請求項2に記載の耐腐食性に優れた高強度構造用鋼材。
【請求項9】
前記鋼材の引張強度は570MPa以上であることを特徴とする請求項1に記載の耐腐食性に優れた高強度構造用鋼材。
【請求項10】
重量%で、C:0.03~0.12%、Si:0.01~0.8%、Mn:1.6~2.4%、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Al:0.005~0.5%、Nb:0.005~0.1%、B:10ppm以下、Ti:0.005~0.1%、N:15~150ppm、Ca:60ppm以下、残りのFe及び不可避不純物からなり、Cr:1.0%以下(0%を含む)、Mo:1.0%以下(0%を含む)、Ni:2.0%以下(0%を含む)、Cu:1.0%以下(0%を含む)、V:0.3%以下(0%を含む)からなる群から選択された1種または2種以上をさらに含み、下記式1で表す腐食指数(CI、Corrosion Index:CI)が3.0以下であり、
ISO 14993 CCT(Cyclic Corrosion Test)方法による全面腐食加速試験における単位面積当たりの重量減少量が1.2g/cm 以下であるスラブを1050~1250℃で再加熱する再加熱段階、
前記再加熱されたスラブをTnr~1150℃の温度範囲で粗圧延して粗圧延バーを提供する粗圧延段階、
前記粗圧延バーを5℃/s以上の冷却速度でMs~Bs℃の温度範囲まで1次冷却する1次冷却段階、
前記1次冷却された粗圧延バーの表層部が復熱により(Ac1+40℃)~(Ac3-5℃)の温度範囲で再加熱されるように維持する復熱処理段階、
前記復熱処理された粗圧延バーを仕上げ圧延して鋼材を提供する仕上げ圧延段階、及び
前記仕上げ圧延された鋼材を5℃/s以上の冷却速度でMs~Bs℃の温度範囲まで2次冷却する2次冷却段階を含むことを特徴とする耐腐食性に優れた高強度構造用鋼材の製造方法。
[式1]
CI=26.01×[Cu]+3.88×[Ni]+1.20×[Cr]+1.49×[Si]+17.28×[P]-7.29×[Cu]×[Ni]-9.1×[Ni]×[P]-33.39×[Cu]
但し、前記式1で[Cu]、[Ni]、[Cr]、[Si]及び[P]は、それぞれCu、Ni、Cr、Si及びPの重量%を意味し、該当合金組成が含まれない場合、0を意味する。
【請求項11】
前記1次冷却段階において、
前記1次冷却は、前記粗圧延の直後に水冷を適用して実施されることを特徴とする請求項10に記載の耐腐食性に優れた高強度構造用鋼材の製造方法。
【請求項12】
前記第1次冷却段階において、
前記粗圧延バーの表層部の温度がAe3+100℃以下である場合、前記第1次冷却が開始されることを特徴とする請求項10に記載の耐腐食性に優れた高強度構造用鋼材の製造方法。
【請求項13】
前記仕上げ圧延段階において、
前記粗圧延バーはBs~Tnr℃の温度範囲で仕上げ圧延されることを特徴とする請求項10に記載の耐腐食性に優れた高強度構造用鋼材の製造方法。
【請求項14】
前記仕上げ圧延段階において、
前記粗圧延バーは50~90%の累積圧下率で仕上げ圧延されることを特徴とする請求項10に記載の耐腐食性に優れた高強度構造用鋼材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐腐食性に優れた高強度構造用鋼材及びその製造方法に係り、より詳しくは、鋼組成、微細組織及び製造工程を最適化することにより、耐腐食性を効果的に向上させた耐腐食性に優れた高強度構造用鋼材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題やLCC(Life Cycle Cost)の観点から、造船、海洋及び建設産業に用いられる各種構造用材料に対して親環境性及び低原価の特性がさらに要求される。しかし、造船、海洋構造物、ラインパイプ、建築及び橋梁などの構造物に用いられる鋼板は、耐腐食性の確保のためにCu、Cr及びNiなどの高価な合金元素を添加するか、又は、Zn及びAlなどの犠牲陽極を適用することが一般的であるため、これらの鋼板は、一定水準の耐腐食性を有しながら、低原価の特性を備えることは容易でない。
【0003】
特に、ASTM A 709は、炭素鋼の耐腐食性に関連して、下記関係式で定義される腐食指数(Corrosion Index)が6.0以上を満たすことを要求するため、一定水準以上の耐腐食性を確保するためには、一定含有量以上のCu、Cr及びNiの添加が避けられない。
[関係式]
CI=26.01×[Cu]+3.88×[Ni]+1.20×[Cr]+1.49×[Si]+17.28×[P]-7.29×[Cu]×[Ni]-9.1×[Ni]×[P]-33.39×[Cu]
但し、関係式で[Cu]、[Ni]、[Cr]、[Si]及び[P]は、それぞれCu、Ni、Cr、Si及びPの重量%を意味し、該当合金組成が含まれない場合、0を意味する。
【0004】
合金組成の制御を介した鋼材の耐腐食性及び低原価の特性の同時確保には技術的限界が存在するため、微細組織を制御して鋼材の耐腐食性を確保しようとする技術的な試みがなされた。
下記特許文献1は、鋼材の表層組織を改質して鋼材の耐腐食性の特性を確保しようとしたものであるが、伸長フェライトを主要組織に備えるため、引張強度570MPa以上の高強度特性を備えることができないばかりか、復熱処理が圧延工程中に実施されて厳密な復熱到達温度の制御が困難であるという技術的難点が存在する。
したがって、低原価の特性及び耐腐食性を同時に備えながら、高強度特性を有する鋼材についての研究が急務である実情がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-020035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的とするところは、耐腐食性に優れた高強度構造用鋼材、及びその製造方法が提供することにある。
本発明の課題は、上記の内容に限定されない。通常の技術者であれば、本明細書の全体内容から、本発明のさらなる課題を理解するのに何ら困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の耐腐食性に優れた高強度構造用鋼材は、重量%で、C:0.03~0.12%、Si:0.01~0.8%、Mn:1.6~2.4%、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Al:0.005~0.5%、Nb:0.005~0.1%、B:10ppm以下、Ti:0.005~0.1%、N:15~150ppm、Ca:60ppm以下、残りのFe及び不可避不純物からなり、重量%で、Cr:1.0%以下(0%を含む)、Mo:1.0%以下(0%を含む)、Ni:2.0%以下(0%を含む)、Cu:1.0%以下(0%を含む)、V:0.3%以下(0%を含む)からなる群から選択された1種または2種以上をさらに含み、下記式1で表す腐食指数(Corrosion Index:CI)が3.0以下であり、ISO 14993 CCT(Cyclic Corrosion Test)の方法による全面腐食加速試験における単位面積当たりの重量減少量が1.2g/cm以下であることを特徴とする。
[式1]
CI=26.01×[Cu]+3.88×[Ni]+1.20×[Cr]+1.49×[Si]+17.28×[P]-7.29×[Cu]×[Ni]-9.1×[Ni]×[P]-33.39×[Cu]
但し、上記式1で[Cu]、[Ni]、[Cr]、[Si]及び[P]は、それぞれCu、Ni、Cr、Si及びPの重量%を意味し、該当合金組成が含まれない場合、0を意味する。
【0008】
上記鋼材は、上記鋼材の厚さ方向に沿って微細組織により区分される外側の表層部及び内側の中心部を備え、上記表層部は焼戻しベイナイトを基地組織として含み、上記中心部はアシキュラフェライト(acicular ferrite)を基地組織として含むことができる。
上記表層部は、上記鋼材の上部側の上部表層部及び上記鋼材の下部側の下部表層部からなり、上記上部表層部及び下部表層部は、上記鋼材の厚さに対して3~10%の厚さであることが好ましい。
【0009】
上記表層部は、第2組織としてフレッシュマルテンサイトをさらに含み、上記焼戻しベイナイト及び上記フレッシュマルテンサイトは95面積%以上の合計分率で上記表層部に含まれることができる。
上記表層部は、残留組織としてオーステナイトをさらに含み、上記オーステナイトは5面積%以下の分率で上記表層部に含まれることがよい。
【0010】
上記アシキュラフェライトは95面積%以上の分率で上記中心部に含まれることが好ましい。
上記表層部の微細組織の結晶粒の平均粒径は、3μm以下(0μmを除く)であることがよい。
【0011】
上記中心部の微細組織の結晶粒の平均粒径は、5~20μmであることが好ましい。
上記鋼材の引張強度は、570MPa以上であることがよい。
【0012】
本発明の耐腐食性に優れた高強度構造用鋼材の製造方法は、重量%で、C:0.03~0.12%、Si:0.01~0.8%、Mn:1.6~2.4%、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Al:0.005~0.5%、Nb:0.005~0.1%、B:10ppm以下、Ti:0.005~0.1%、N:15~150ppm、Ca:60ppm以下、残りのFe及び不可避不純物からなり、Cr:1.0%以下(0%を含む)、Mo:1.0%以下(0%を含む)、Ni:2.0%以下(0%を含む)、Cu:1.0%以下(0%を含む)、V:0.3%以下(0%を含む)からなる群から選択された1種または2種以上をさらに含み、下記式1で表す腐食指数(Corrosion Index:CI)が3.0以下であるスラブを1050~1250℃で再加熱する再加熱段階、上記再加熱されたスラブをTnr~1150℃の温度範囲で粗圧延して粗圧延バーを提供する粗圧延段階、上記粗圧延バーを5℃/s以上の冷却速度でMs~Bs℃の温度範囲まで1次冷却する1次冷却段階、上記1次冷却された粗圧延バーの表層部が復熱により(Ac1+40℃)~(Ac3-5℃)の温度範囲で再加熱されるように維持する復熱処理段階、上記復熱処理された粗圧延バーを仕上げ圧延して鋼材を提供する仕上げ圧延段階、及び上記仕上げ圧延された鋼材を5℃/s以上の冷却速度でMs~Bs℃の温度範囲まで2次冷却する2次冷却段階を含むことができる。
[式1]
CI=26.01×[Cu]+3.88×[Ni]+1.20×[Cr]+1.49×[Si]+17.28×[P]-7.29×[Cu]×[Ni]-9.1×[Ni]×[P]-33.39×[Cu]
但し、上記式1で[Cu]、[Ni]、[Cr]、[Si]及び[P]は、それぞれCu、Ni、Cr、Si及びPの重量%を意味し、該当合金組成が含まれない場合、0を意味する。
【0013】
上記1次冷却段階において、上記1次冷却は、上記粗圧延の直後に水冷を適用して実施することができる。
上記第1次冷却段階において、上記粗圧延バーの表層部の温度がAe3+100℃以下である場合に、上記第1次冷却が開始されることがよい。
【0014】
上記仕上げ圧延段階において、上記粗圧延バーはBs~Tnr℃の温度範囲で仕上げ圧延することが好ましい。
上記仕上げ圧延段階において、上記粗圧延バーは50~90%の累積圧下率で仕上げ圧延することがよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一側面によると、低原価の特性及び耐腐食性を同時に備えながらも、引張強度570MPa以上の高強度特性を有する鋼材及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施例における鋼材の試験片の断面を撮影した写真である。
図2図1の試験片の上部表層部(A領域)及び中心部(B領域)の微細組織を観察した写真であり、(a)は、上部表層部(A領域)の光学顕微鏡写真、(b)は、上部表層部(A領域)に対してEBSDを用いて撮影した高傾角粒界マップ、(c)は、中心部(B領域)を光学顕微鏡写真、及び(d)は、中心部(B領域)に対してEBSDを用いて撮影した高傾角粒界マップである。
図3】本発明の製造方法を実施するための設備の一例を概略的に示した図面である。
図4】本発明の復熱処理による表層部の微細組織の変化を概略的に示した概念図であり、(a)は、第1冷却直後の表層部のラスベイナイト組織、(b)は、表層部のラスベイナイトが焼戻しベイナイト組織に変形し、一部は、オーステナイトに逆変態した図、(c)は、焼戻しベイナイト及びフレッシュマルテンサイトの2相混合組織を示す。
図5】復熱処理の到達温度と表層部の平均結晶粒径及び全面腐食加速試験における単位面積当たりの重量減少量との間の関係を実際に測定して示したグラフである。
図6図5においてX及びYで示した試験片について全面腐食加速試験を実施した後の断面観察写真(SEM)であり、(a)は、Xで示した試験片のSEM、(b)は、その部分拡大写真、(c)は、Yで示した試験片のSEM写真、(d)は、その部分拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、耐腐食性に優れた高強度構造用鋼材及びその製造方法に関するものであり、以下では、本発明の好ましい実施例について説明する。本発明の実施例は、様々な形に変形することができ、本発明の範囲が以下で説明される実施例に限定されるものと解釈されてはならない。本実施例は、当該発明が属する技術分野における通常の知識を有する者に本発明を詳細に説明するために提供されるものである。
【0018】
以下、本発明の一側面による耐腐食性に優れた高強度構造用鋼材の鋼組成についてより詳細に説明する。以下、特に断りのない限り、各元素の含有量を示す%及びppmは重量を基準とする。
本発明の一側面による耐腐食性に優れた高強度構造用鋼材は、重量%で、C:0.03~0.12%、Si:0.01~0.8%、Mn:1.6~2.4%、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Al:0.005~0.5%、Nb:0.005~0.1%、B:10ppm以下、Ti:0.005~0.1%、N:15~150ppm、Ca:60ppm以下、残りのFe及び不可避不純物を含む。
【0019】
炭素(C):0.03~0.12%
炭素(C)は、本発明において、硬化能を確保する重要な元素であり、アシキュラフェライト組織の形成にかなり影響を及ぼす元素である。したがって、本発明は、このような効果を得るために、炭素(C)含有量の下限を0.03%に制限する。但し、炭素(C)含有量が過度に添加された場合、アシキュラフェライトの形成の代わりにパーライトの形成を招き、低温靭性の低下を招くため、本発明は、炭素(C)含有量の上限を0.12%に制限する。したがって、本発明の炭素(C)含有量は、0.03~0.12%であることがよい。さらに、溶接用構造物として用いられる板材の場合、溶接性を確保するために、炭素(C)含有量の上限を0.09%に制限すること好ましい。
【0020】
シリコン(Si):0.01~0.8%
シリコン(Si)は、脱酸剤として用いられる元素であり、強度向上及び靭性向上に寄与する元素でもある。したがって、本発明は、このような効果を得るために、シリコン(Si)含有量の下限を0.01%に制限する。シリコン(Si)含有量の下限は0.05%であることが好ましく、0.1%であることがより好ましい。但し、シリコン(Si)含有量が過度に添加された場合、低温靭性及び溶接性の低下が懸念されるため、本発明は、シリコン(Si)含有量の上限を0.8%に制限する。シリコン(Si)含有量の上限は0.6%であることが好ましく、0.5%であることがより好ましい。
【0021】
マンガン(Mn):1.6~2.4%
マンガン(Mn)は、固溶強化によって強度向上に有用な元素であり、経済的に硬化能を高めることができる元素でもある。したがって、本発明は、このような効果を得るために、マンガン(Mn)含有量の下限を1.6%に制限する。マンガン(Mn)含有量の下限は1.7%であることが好ましく、1.8%であることがより好ましい。但し、マンガン(Mn)が過度に添加された場合、過度の硬化能の増加により溶接部の靭性が大きく低下する虞があるため、本発明は、マンガン(Mn)含有量の上限を2.4%に制限する。マンガン(Mn)含有量の上限は2.35%であることが好ましい。
【0022】
リン(P):0.02%以下
リン(P)は、強度向上及び耐食性向上に寄与する元素であるが、衝撃靭性を大きく阻害する虞があるため、可能な限りその含有量を低く維持することが好ましい。したがって、本発明のリン(P)含有量は0.02%以下であることがよい。但し、リン(P)は、製鋼工程で不可避に流入される不純物であることから、0.001%未満の水準に制御することは、経済的な側面で好ましくない。本発明のリン(P)含有量は、0.001~0.02%であることが好ましい。
【0023】
硫黄(S):0.01%以下
硫黄(S)は、MnSなどの非金属介在物を形成し、衝撃靭性を大きく阻害する元素であるため、可能な限りその含有量を低く維持することが好ましい。したがって、本発明は、硫黄(S)含有量の上限を0.01%に制限する。但し、硫黄(S)は、製鋼工程で不可避に流入される不純物であることから、0.001%未満の水準に制御することは、経済的な側面で好ましくない。本発明の硫黄(S)含有量は、0.001~0.01%であることが好ましい。
【0024】
アルミニウム(Al):0.005~0.5%
アルミニウム(Al)は、経済的に溶鋼を脱酸することができる代表的な脱酸剤であり、鋼材の強度向上に寄与する元素でもある。したがって、本発明は、このような効果を達成するためにアルミニウム(Al)含有量の下限を0.005%に制限する。アルミニウム(Al)含有量の下限は0.01%であることが好ましく、0.02%であることがより好ましい。但し、アルミニウム(Al)が過度に添加された場合、連続鋳造時の連鋳ノズルの目詰まりを引き起こすことがあるため、本発明は、アルミニウム(Al)含有量の上限を0.5%に制限する。アルミニウム(Al)含有量の上限は0.4%であることが好ましく、0.3%であることがより好ましい。
【0025】
ニオブ(Nb):0.005~0.1%
ニオブ(Nb)は、TMCP鋼の製造において重要な役割を果たす元素の一つであり、炭化物または窒化物の形に析出し、母材及び溶接部の強度向上に大きく寄与する元素でもある。また、スラブの再加熱時に固溶されたニオブ(Nb)は、オーステナイトの再結晶を抑制し、フェライト及びベイナイトの変態を抑制して組織を微細化させるため、本発明のニオブ(Nb)含有量の下限は0.005%であることがよい。ニオブ(Nb)含有量の下限は0.01%であることが好ましく、0.02%であることがより好ましい。但し、ニオブ(Nb)含有量が過多の場合、粗大な析出物が生成されて鋼材の端部に脆性クラックを発生させるため、ニオブ(Nb)含有量の上限は0.1%に制限される。ニオブ(Nb)含有量の上限は0.08%であることが好ましく、0.06%であることがより好ましい。
【0026】
ホウ素(B):10ppm以下(0ppmを除く)
ホウ素(B)は、低価の添加元素であるが、少量の添加でも硬化能を効果的に高めることができる有益な元素である。したがって、本発明は、このような目的を達成するためにホウ素(B)を添加することができる。ホウ素(B)含有量の下限は0ppmを除くことが好ましく、2ppmであることがさらに好ましい。但し、本発明は、鋼材の中心部にアシキュラフェライト組織を基地組織として形成する一方、ホウ素(B)が過度に添加された場合、ベイナイトの形成に大きく寄与して緻密なアシキュラフェライト組織を形成することができなくなるため、本発明は、ホウ素(B)含有量の上限を10ppmに制限する。
【0027】
チタン(Ti):0.005~0.1%
チタン(Ti)は、再加熱時の結晶粒の成長を抑制し、低温靭性を大きく向上させる元素である。したがって、本発明は、このような効果を達成するためにチタン(Ti)含有量の下限を0.005%に制限する。チタン(Ti)含有量の下限は0.007%であることが好ましく、0.01%であることがより好ましい。但し、チタン(Ti)含有量が過度に添加された場合、連鋳ノズルの目詰まりや中心部の晶出による低温靭性の低下などの問題を生じさせる虞があるため、本発明は、チタン(Ti)含有量の上限を0.1%に制限する。チタン(Ti)含有量の上限は0.07%であることが好ましく、0.05%であることがより好ましい。
【0028】
窒素(N):15~150ppm
窒素(N)は、鋼材の強度向上に寄与する元素である。しかし、その添加量が過多の場合、鋼材の靭性が大きく減少するため、本発明は、窒素(N)含有量の上限を150ppmに制限する。但し、窒素(N)は、製鋼工程で不可避に流入される不純物であることから、窒素(N)含有量を15ppm未満の水準に制御することは、経済的な側面で好ましくない。本発明の窒素(N)含有量は15~150ppmであることが好ましい。
【0029】
カルシウム(Ca):60ppm以下
カルシウム(Ca)は、MnSなどの非金属介在物の形状を制御し、低温靭性を向上させる元素として主に用いられる。但し、カルシウム(Ca)の過度の添加は、多量のCaO-CaSの形成及び結合による粗大な介在物の形成を誘発するため、鋼の清浄度の低下及び現場溶接性の低下などの問題が発生することがある。したがって、本発明は、カルシウム(Ca)含有量の上限を60ppmに制限する。
【0030】
また、本発明の一側面による耐腐食性に優れた高強度構造用鋼材は、重量%で、Cr:1.0%以下(0%を含む)、Mo:1.0%以下(0%を含む)、Ni:2.0%以下(0%を含む)、Cu:1.0%以下(0%を含む)、V:0.3%以下(0%を含む)からなる群から選択された1種または2種以上をさらに含むことができる。
【0031】
クロム(Cr):1.0%以下(0%を含む)
クロム(Cr)は、硬化能を増加させて強度の増加に効果的に寄与する元素であるため、本発明は、このような効果を達成するために、クロム(Cr)を一定量含むことができる。クロム(Cr)が添加される場合、クロム(Cr)含有量の下限は0.01%であることが好ましい。但し、クロム(Cr)含有量が過多の場合、原価競争力の側面で好ましくないだけでなく、溶接性が大きく低下する虞があるため、本発明は、クロム(Cr)含有量の上限を1.0%に制限する。
【0032】
モリブデン(Mo):1.0%以下(0%を含む)
モリブデン(Mo)は、少量の添加だけでも硬化能を大きく向上させるため、フェライトの生成を抑制することができ、それによって鋼材の強度を大きく向上させることができる元素である。したがって、本発明は、強度確保の側面で一定含有量のモリブデン(Mo)を添加することができる。モリブデン(Mo)が添加される場合、モリブデン(Mo)含有量の下限は0.01%であることが好ましい。但し、モリブデン(Mo)の添加量が過度の場合、溶接部の硬度が過度に増加し、母材の靭性が阻害される虞があるため、本発明は、モリブデン(Mo)含有量の上限を1.0%に制限する。
【0033】
ニッケル(Ni):2.0%以下(0%を含む)
ニッケル(Ni)は、母材の強度及び靭性を同時に向上させることができるほぼ唯一の元素であって、本発明は、このような効果を達成するために、一定量のニッケル(Ni)を添加することができる。ニッケル(Ni)が添加される場合、ニッケル(Ni)含有量の下限は0.01%であることが好ましい。但し、ニッケル(Ni)は、高価な元素であることから、過度の添加は経済性の側面で好ましくない。ニッケル(Ni)の添加量が過多の場合、溶接性が劣化する虞があるため、本発明は、ニッケル(Ni)含有量の上限を2.0%に制限する。
【0034】
銅(Cu):1.0%以下(0%を含む)
銅(Cu)は、母材の靭性の低下を最小限に抑えながらも強度向上に寄与する元素である。したがって、本発明は、このような効果を達成するために一定量の銅(Cu)を添加することができる。銅(Cu)が添加される場合、銅(Cu)含有量の下限は0.01%であることが好ましい。但し、銅(Cu)の添加量が過多の場合、最終製品の表面の品質が阻害される虞があるため、本発明は、銅(Cu)含有量の上限を1.0%に制限する。
【0035】
バナジウム(V):0.3%以下(0%を含む)
バナジウム(V)は、他の合金組成に比べて固溶される温度が低く、溶接熱影響部で析出され、溶接部の強度低下を防止することができる元素である。したがって、本発明は、このような効果を達成するために、一定量のバナジウム(V)を添加することができる。バナジウム(V)が添加される場合、バナジウム(V)含有量の下限は0.005%であることが好ましい。但し、バナジウム(V)が過度に添加された場合、鋼材の靭性の低下が懸念されるため、本発明は、バナジウム(V)含有量の上限を0.3%に制限する。
【0036】
加えて、本発明の一側面による耐腐食性に優れた高強度構造用鋼材は、下記式1で表す腐食指数(Corrosion Index:CI)が3.0以下であることができる。
[式1]
CI=26.01×[Cu]+3.88×[Ni]+1.20×[Cr]+1.49×[Si]+17.28×[P]-7.29×[Cu]×[Ni]-9.1×[Ni]×[P]-33.39×[Cu]
但し、上記式1で[Cu]、[Ni]、[Cr]、[Si]及び[P]は、それぞれCu、Ni、Cr、Si及びPの重量%を意味し、該当合金組成が含まれない場合、0を代入する。
【0037】
本発明の一側面による耐腐食性に優れた高強度構造用鋼材は、上記のとおり、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、シリコン(Si)及びリン(P)の含有量の範囲を個別に制限するが、これらの元素が一部添加されても、上記式1のように算出される腐食指数(CI)が3.0以下を満たすように、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、シリコン(Si)及びリン(P)の含有量の範囲を相対的に制限することができる。
【0038】
すなわち、炭素鋼の耐腐食性を確保するためには、式1により算出される腐食指数(CI)が6.0以上であることが通常求められるが、本発明は、微細組織の制御を介して式1により算出される腐食指数(CI)が3.0以下の水準でもこれと同等であるか、または優れた耐腐食性を確保することができる。したがって、本発明の一側面による耐腐食性に優れた高強度構造用鋼材は、Cu、Ni、及びCrなどの添加を抑制しながら、微細組織の制御を介して一定水準以上の耐腐食性を確保するため、耐腐食性及び低原価の特性を同時に確保することができる。
【0039】
本発明は、上記の鋼組成以外に、残りはFe及び不可避不純物を含む。不可避不純物は、通常の鉄鋼製造工程で意図せずに混入される虞があるものであり、これを全面排除することはできず、通常の鉄鋼製造分野の技術者であれば、その意味を容易に理解することができる。
【0040】
本発明の一側面による耐腐食性に優れた高強度構造用鋼材は、その厚さが特に制限されるものではないが、10mm以上の厚さを有する構造用厚板であることが好ましく、20~100mmの厚さで備えられる構造用厚板であることがより好ましい。
【0041】
以下、本発明の一側面による耐腐食性に優れた高強度構造用鋼材の微細組織についてより詳細に説明する。
本発明の一側面による耐腐食性に優れた高強度構造用鋼材は、鋼材の厚さ方向に沿って微細組織により区分される鋼材の表面側の表層部及び表層部間に位置する中心部に区分される。表層部は、鋼材の上部側の上部表層部及び鋼材の下部側の下部表層部に区分され、上部表層部及び下部表層部は、鋼材の厚さ(t)に対して3~10%の厚さでそれぞれ備えられる。
【0042】
表層部は、焼戻しベイナイトを基地組織として含み、フレッシュマルテンサイト及びオーステナイトをそれぞれ第2組織及び残部組織として含む。表層部内で焼戻しベイナイト及びフレッシュマルテンサイトが占める合計分率は95面積%以上であることがよく、表層部内でオーステナイト組織が占める分率は5面積%以下であることがよい。表層部内でオーステナイト組織が占める分率は、0面積%であることもできる。
中心部は、アシキュラフェライト(acicular ferrite)を基地組織として含み、中心部内でアシキュラフェライトが占める分率は95面積%以上であることがよい。
【0043】
表層部の微細組織の結晶粒の平均粒径は、3μm以下(0μmを除く)であることが好ましく、中心部の微細組織の結晶粒の平均粒径は、5~20μmであることが好ましい。ここで、表層部の微細組織の結晶粒の平均粒径は、焼戻しベイナイト、フレッシュマルテンサイト及びオーステナイトのそれぞれの結晶粒の平均粒径が3μm以下(0μmを除く)である場合を意味する。中心部の微細組織の結晶粒の平均粒径は、アシキュラフェライトの結晶粒の平均粒径が5~20μmである場合を意味する。より好ましい中心部の微細組織の結晶粒の平均粒径は、10~20μmである。
【0044】
図1は、本発明の一実施例における鋼材の試験片の断面を撮影した写真である。
図1に示したとおり、本発明の一実施例における鋼材試験片は、上部及び下部の表面側の上部表層部(A領域)及び下部表層部(A’領域)と、上部及び下部表層部(A領域、A’領域)間の中心部(B領域)に区分され、上部及び下部表層部(A領域、A’領域)と中心部(B領域)の境界は、目視で確認できる程度に明確に形成されることが確認できる。すなわち、本発明の一実施例に係る鋼材の上部及び下部表層部(A領域、A’領域)と中心部(B領域)は、微細組織により明確に区分されることが確認できる。
【0045】
図2は、図1の試験片の上部表層部(A領域)及び中心部(B領域)の微細組織を観察した写真であり、(a)は、上部表層部(A領域)の光学顕微鏡写真、(b)は、上部表層部(A領域)に対してEBSDを用いて撮影した高傾角粒界マップ、(c)は、中心部(B領域)を光学顕微鏡写真、及び(d)は、中心部(B領域)に対してEBSDを用いて撮影した高傾角粒界マップである。
図2の(a)~(d)に示したとおり、上部表層部(A領域)は、平均結晶粒径が約3μm以下である焼戻しベイナイト及びフレッシュマルテンサイトを含む。これに対し、中心部(B領域)は、平均結晶粒径が約15μmであるアシキュラフェライトを含むことを確認することができる。
【0046】
本発明の一側面による鋼材は、復熱処理により表層部の組織が微細化されるため、表層部の微細組織の平均結晶粒径が3μm以下であり、ISO 14993 CCT(Cyclic Corrosion Test)方法による全面腐食加速試験において単位面積当たりの重量減少量が1.2g/cm以下である。また、本発明の一側面による鋼材は、570MPa以上の引張強度を備え、耐腐食性及び低原価の特性を確保しながらも、高強度の特性を効果的に確保することができる。
【0047】
以下、本発明の一側面による耐腐食性に優れた高強度構造用鋼材の製造方法についてより詳細に説明する。
【0048】
スラブ再加熱
本発明の製造方法に提供されるスラブは、上記の鋼材の鋼組成と対応する鋼組成で備えられるため、スラブの鋼組成に関する説明は、上記の鋼材の鋼組成に関する説明に代える。
上記の鋼組成に製造されたスラブを1050~1250℃の温度範囲で再加熱する。鋳造中に形成されたTi及びNbの炭窒化物を十分に固溶させるためにスラブの再加熱温度の下限は、1050℃に制限する。一方、再加熱温度が過度に高い場合、オーステナイトが粗大化する虞があり、粗圧延後に粗圧延バーの表層部の温度が1次冷却開始温度に到達するまでに過度の時間がかかるため、再加熱温度の上限を1250℃に制限する。
【0049】
粗圧延
スラブの形状を調整し、デンドライト(樹枝状晶)などの鋳造組織を破壊するために再加熱した後、粗圧延を行う。微細組織の制御のためにオーステナイトの再結晶が停止する温度(Tnr、℃)以上で粗圧延を実施することが好ましく、1次冷却の冷却開始温度を考慮して、粗圧延温度の上限は、1150℃に制限する。したがって、本発明の粗圧延温度は、Tnr~1150℃の範囲であることがよい。また、本発明の粗圧延は、累積圧下率20~70%の条件で実施されることが好ましい。
【0050】
1次冷却
粗圧延終了後、粗圧延バーの表層部にラスベイナイトを形成するために1次冷却を行う。1次冷却の冷却速度は、5℃/s以上であることが好ましく、1次冷却の冷却到達温度は、Ms~Bs℃の温度範囲であることが好ましい。1次冷却の冷却速度が一定水準未満の場合、ラスベイナイト組織ではなく、ポリゴナルフェライトまたはグラニュラーベイナイト組織が表層部に形成されるため、本発明は、1次冷却の冷却速度を5℃/s以上に制限する。また、1次冷却の冷却方式は、特に限定されるものではないが、冷却効率の側面で水冷がより好ましい。一方、1次冷却の冷却開始温度が過度に高い場合、1次冷却によって表層部に形成されるラスベイナイト組織が粗大化する虞があるため、第1冷却の開始温度は、Ae3+100℃以下の範囲に制限する。1次冷却における冷却速度、冷却開始温度及び冷却到達温度は、粗圧延バーの中心部の温度を基準とする。
【0051】
復熱処理の効果を最大化するために、本発明の1次冷却は粗圧延の直後に実施されることが好ましい。
図3は、本発明の製造方法を実現するための設備の一例を概略的に示した図面である。図3に示したとおり、スラブ5の移動経路に沿って、粗圧延装置10、冷却装置20、復熱処理台30、及び仕上げ圧延装置40が順に配置され、粗圧延装置10及び仕上げ圧延装置40は、それぞれ粗圧延ローラ12a、12b及び仕上げ圧延ローラ42a、42bを備えてスラブ5及び粗圧延バー5’の圧延を行う。冷却装置20は、冷却水を噴射可能なバークーラー(Bar cooler)25及び粗圧延バー5’の移動を案内する補助ローラ22を備える。バークーラー25は、粗圧延装置10の直後方に配置されることが復熱処理効果の最大化の側面でより好ましい。冷却装置20の後方には、復熱処理台30が配置され、粗圧延バー5’は補助ローラ32に沿って移動しながら復熱処理される。復熱処理が終了した粗圧延バー5’は、仕上げ圧延装置40に移動し、仕上げ圧延される。
以上のとおり、図3をもとに、本発明の一側面による耐腐食性に優れた高強度構造用鋼材を製造するための設備を説明したが、この設備1は、本発明を実施するための設備の一例を開示したものに過ぎず、本発明が必ずしも図3に示した設備1によって製造されたものであると限定解釈されてはならない。
【0052】
復熱処理
1次冷却の実施後、粗圧延バーの中心部側の高熱によって粗圧延バーの表層部側が再加熱されるように維持する復熱処理が実施される。復熱処理は、粗圧延バーの表層部の温度が(Ac1+40℃)~(Ac3-5℃)の温度範囲に到達するまで実施される。復熱処理により表層部のラスベイナイトは、微細な焼戻しベイナイト及びフレッシュマルテンサイト組織に変形することができ、表層部のラスベイナイトのうち一部は、オーステナイトに逆変態することができる。
【0053】
図4は、本発明の復熱処理による表層部の微細組織の変化を概略的に示した概念図であり、(a)は、第1冷却直後の表層部のラスベイナイト組織、(b)は、表層部のラスベイナイトが焼戻しベイナイト組織に変形し、一部は、オーステナイトに逆変態した図、(c)は、焼戻しベイナイト及びフレッシュマルテンサイトの2相混合組織を示す。
図4の(a)に示したとおり、第1冷却直後の表層部の微細組織は、ラスベイナイト組織で備えられる。次いで、図4の(b)に示したとおり、復熱処理が進むことによって表層部のラスベイナイトは焼戻しベイナイト組織に変形し、表層部のラスベイナイトのうち一部は、オーステナイトに逆変態する。復熱処理後の仕上げ圧延及び第2冷却を経ることによって、図4の(c)に示したとおり、焼戻しベイナイト及びフレッシュマルテンサイトの2相混合組織が形成され、一部オーステナイト組織が残留する。
【0054】
図5は、復熱処理の到達温度と表層部の平均結晶粒径及び全面腐食加速試験における単位面積当たりの重量減少量との間の関係を実際に測定して示したグラフである。本発明の合金組成及び製造方法を満たす条件によって試験片を製作し、復熱処理時の復熱処理の到達温度を変えて実験を行った。このとき、表層部の平均粒径は、EBSDをもとに測定し、全面腐食加速試験は、ISO 14993 CCT(Cyclic Corrosion Test)方法をもとに実施した。具体的には、ISO 14993 CCT方法による全面腐食加速試験は、「塩水噴霧(5%NaCl、35℃、2時間)→乾燥(60℃、4時間)→湿潤(60℃、4時間)」からなる一つのサイクル(cycle)を120サイクル(40日)行い、最初の試験片の重量と最終の試験片の重量との差を測定して腐食減量を評価した。
【0055】
図5に示したとおり、表層部の到達温度が(Ac1+40℃)未満の場合、表層部の平均結晶粒径が3μmを超え、全面腐食加速試験における単位面積当たりの重量減少量が1.2g/cmを超過することが確認できる。また、表層部の到達温度が(Ac3-5℃)を超える場合も表層部の平均結晶粒径が3μmを超え、全面腐食加速試験における単位面積当たりの重量減少量が1.2g/cmを超過することが確認できる。
【0056】
図6は、図5においてX及びYで示した試験片について全面腐食加速試験を実施した後の断面観察写真(SEM)であり、(a)は、Xで示した試験片のSEM写真、(b)は、その部分拡大写真、(c)は、Yで示した試験片のSEM写真、(d)は、その部分拡大写真である。
図6の(a)~(d)に示したとおり、表層部の平均結晶粒径が3μmを超える試験片Xの場合、表層部の組織の粒界に多量のスケールが形成されたのに対し、表層部の平均結晶粒径が3μm以下である試験片Yの場合、表層部の組織の粒界に比較的少量のスケールが形成されただけでなく、少量形成されたスケールが鋼材の表面側のみに分布することが確認できる。すなわち、表層部の平均結晶粒径が3μm以下である試験片Yの場合、鋼材の表面側の結晶粒界が緻密に形成されてスケールが鋼材の中心部に向かって拡散形成されることを抑制するのに対し、表層部の平均結晶粒径が3μmを超える試験片Xの場合、鋼材の表面側の結晶粒界が比較的粗く形成され、スケールが鋼材の中心部側に容易に拡散されることが確認できる。
【0057】
仕上げ圧延
粗圧延バーのオーステナイト組織に不均一微細組織を導入するために、仕上げ圧延を実施する。仕上げ圧延は、ベイナイト変態開始温度(Bs)以上、オーステナイト再結晶温度(Tnr)以下の温度区間で実施することができる。
【0058】
第2冷却
仕上げ圧延終了後の鋼材の中心部にアシキュラフェライト組織を形成するために、5℃/s以上の冷却速度で冷却を行う。第2冷却方式は、特に限定されるものではないが、冷却効率の側面で水冷が好ましい。第2冷却の到達温度が鋼材を基準としてBs℃を超える場合、アシキュラフェライトの組織が粗大になってアシキュラフェライトの平均粒径が20μmを超える虞がある。また、第2冷却の到達温度が鋼材を基準としてMs℃未満の場合、鋼材に歪みが発生する虞があるため、第2冷却の到達温度は、Ms~Bs℃に限定することが好ましい。2次冷却での冷却速度及び冷却到達温度は、鋼材の中心部の温度を基準とする。
【実施例
【0059】
以下、具体的な実施例を挙げて本発明の一側面による耐腐食性に優れた高強度構造用鋼材及びその製造方法をより詳細に説明する。
【0060】
(実施例)
下記表1の鋼組成を有するスラブを製造し、表1の鋼組成をもとに変態温度及び式1による腐食指数(CI)を計算して、表2に示した。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
上記表1の組成を有するスラブを下記表3の条件により粗圧延、1次冷却及び復熱処理を実施し、表4の条件により仕上げ圧延及び2次冷却を実施した。表3及び表4の条件により製造された鋼材に対する評価結果は、下記表5に示した。
それぞれの鋼材に対して表層部の平均結晶粒径、機械的物性及び全面腐食加速試験における単位面積当たりの重量減少量を測定した。結晶粒径は、EBSD(Electron Back Scattering Diffraction)法によって500m×500mの領域を0.5mステップサイズで測定し、平均結晶粒径を測定した。降伏強度(YS)及び引張強度(TS)は、3つの試験片を板幅方向に引張試験を行い、平均値を求めて測定し、全面腐食加速試験における単位面積当たりの重量減少量は、上記のISO 14993 CCT(Cyclic Corrosion Test)方法により測定した。
【0064】
【表3】
【0065】
【表4】
【0066】
【表5】
【0067】
鋼種A、B、C、D、及びEは、本発明の合金組成を満たす鋼材である。このうち、本発明の工程条件を満たすA-1、A-2、A-3、B-1、B-2、B-3、C-1、C-2、D-1、D-2、E-1、E-2は、表層部の平均結晶粒径が3μm以下であり、引張強度が570MPa以上であり、単位面積当たりの重量減少量が1.2g/cm以下であることが確認できる。
本発明の合金組成は満たすものの、復熱処理温度が本発明の範囲を超えるA-4、B-4、C-3、D-3の場合、表層部の平均結晶粒径が3μmを超え、単位面積当たりの重量減少量が1.2g/cm超過であることが確認できる。これは、鋼材表層部が二相域熱処理温度区間よりも高い温度で加熱されることで、表層部の組織のすべてがオーステナイトに逆変態した結果、表層部の最終組織がラスベイナイトに形成されたためである。
【0068】
本発明の合金組成は満たすものの、復熱処理温度が本発明の範囲に未達するA-5、B-5、C-4、D-4の場合、表層部の平均結晶粒径が3μmを超え、単位面積当たりの重量減少量が1.2g/cm超過であることが確認できる。これは、1次冷却時の鋼材の表層部が過度に冷却されて表層部内の逆変態オーステナイトが十分に形成されていないためである。
本発明の合金組成は満たすものの、2次冷却の冷却終了温度が本発明の範囲を超えるA-6及びC-5の場合、または2次冷却の冷却速度が本発明の範囲を満たさないE-3の場合、引張強度が570MPa未満の水準で、目的とする高強度特性を確保することができないことが確認できる。
【0069】
本発明の合金組成を満たさないF-1、G-1、H-1及びI-1の場合、本発明の工程条件を満たすにも関わらず、表層部の平均結晶粒径が3μmを超えるのみならず、引張強度が570MPa未満の水準で、本発明が目的とする耐腐食性及び高強度特性が確保できなかったことが確認できる。
本発明の合金組成及び工程条件を満たす実施例の場合、単位面積当たりの重量減少量が1.2g/cm以下であることから、優れた耐腐食性を有し、引張強度が570MPa以上であることから、高強度の特性を確保することが分かる。
【0070】
以上、実施例を挙げて本発明を詳細に説明したが、これと異なる形態の実施例も可能である。よって、以下に記載された請求項の技術的思想及び範囲は実施例に限定されない。
【符号の説明】
【0071】
1 鋼材の製造設備
5 スラブ
5’ 粗圧延バー
10 粗圧延装置
12a、b 粗圧延ローラ
20 冷却装置
22、32 補助ローラ
25 バークーラー
30 復熱処理台
40 仕上げ圧延装置
42a、b 仕上げ圧延ローラ
図1
図2
図3
図4
図5
図6