(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-12
(45)【発行日】2023-09-21
(54)【発明の名称】水素を含有する金属系構造体又はナノ粒子、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20230913BHJP
B22F 1/06 20220101ALI20230913BHJP
B22F 1/08 20220101ALI20230913BHJP
B22F 1/148 20220101ALI20230913BHJP
B22F 9/24 20060101ALI20230913BHJP
B22F 10/00 20210101ALI20230913BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20230913BHJP
C22C 1/04 20230101ALI20230913BHJP
C22C 33/02 20060101ALI20230913BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20230913BHJP
B22F 1/142 20220101ALN20230913BHJP
B22F 9/26 20060101ALN20230913BHJP
【FI】
B22F1/00 U
B22F1/00 R
B22F1/06
B22F1/08
B22F1/148
B22F9/24 Z
B22F10/00
B33Y70/00
C22C1/04 E
C22C33/02 A
C22C38/00 304
B22F1/142
B22F9/26 Z
(21)【出願番号】P 2022087221
(22)【出願日】2022-05-27
(62)【分割の表示】P 2020017529の分割
【原出願日】2014-12-12
【審査請求日】2022-06-24
(31)【優先権主張番号】P 2013261676
(32)【優先日】2013-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】513320932
【氏名又は名称】田口 功平
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】田口 功平
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 一英
(72)【発明者】
【氏名】高安 敏
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-204067(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00,1/06,1/08,1/142,1/148,
3/16,9/00,9/24,9/26,10/00
B33Y 70/00
C22C 1/04,33/02,38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属系構造体の製造方法であって、
金属元素及び/又は半金属元素の少なくとも1種を含む金属系可還元性成分を含有する物質である可還元性物質を液中で還元する還元工程を含み、
前記金属系構造体は、金属系原子と水素原子とを含む水素化合物、クラスター又はそれらの集合体を含むことを特徴とする、金属系構造体の製造方法。
【請求項2】
金属系構造体の製造方法であって、
金属元素及び/又は半金属元素の少なくとも1種を含む金属系可還元性成分を含有する物質である可還元性物質を液中で還元する還元工程を含み、
前記金属系構造体は、一般式M
mHで示される水素化合物、クラスター又はそれらの集合体を含む金属系構造体であり、
前記Mは金属系原子であり、
前記mは3以上300以下の整数であり、
前記Hは水素原子である
ことを特徴とする、金属系構造体の製造方法。
【請求項3】
金属系構造体の製造方法であって、
金属元素及び/又は半金属元素の少なくとも1種を含む金属系可還元性成分を含有する物質である可還元性物質を液中で還元する還元工程を含み、
前記金属系構造体の全質量を基準として、該金属系構造体の水素含有量を制御することによって、次の(i)から(iii)の少なくとも1つを制御する工程を含むことを特徴とする、金属系構造体の製造方法。
(i)前記金属系構造体に含まれる非晶質相の形成を制御する
(ii)前記金属系構造体の粒子形状を制御する
(iii)前記金属系構造体の組成を制御する
【請求項4】
前記金属系構造体が、少なくとも一部に非晶質相を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の金属系構造体の製造方法。
【請求項5】
前記金属系構造体が、水素を含有することによって非晶質化した金属系非晶質相を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の金属系構造体の製造方法。
【請求項6】
前記金属系構造体が、常温及び/又は常圧下で形成可能である、請求項1~5のいずれか一項に記載の金属系構造体の製造方法。
【請求項7】
前記金属系構造体の含有する水素の少なくとも一部が、前記金属系構造体を200℃で2分間加熱した後に該金属系構造体に含有されている非拡散性水素である、請求項1~6のいずれか一項に記載の金属系構造体の製造方法。
【請求項8】
前記還元工程が、水素及び水素含有物質の少なくとも一方を含む液体中で、前記可還元性物質を還元する工程であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の金属系構造体の製造方法。
【請求項9】
前記還元工程が、金属元素及び/又は半金属元素の少なくとも一種を含む可還元性物質を含有するA溶液と、水素及び水素含有物質の少なくとも一方を含みかつ還元作用を有するB溶液とを混合して混合液とする工程を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の金属系構造体の製造方法。
【請求項10】
前記混合液に磁場を作用させ、前記金属系構造体の形状的異方性を制御する工程を有する、請求項9に記載の金属系構造体の製造方法。
【請求項11】
前記金属系構造体を加熱及び/又は加圧し、該金属系構造体の空隙の体積を減少させる、該金属系構造体同士を固着させる、該金属系構造体内部の部分構造同士を固着させる、及び/又は、該金属系構造体に付加物質を固着させる工程を有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の金属系構造体の製造方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の金属系構造体の製造方法を含み、前記金属系構造体を加熱する、及び/又は、前記金属系構造体中の水素含有量を減量させることで、前記金属系構造体の少なくとも一部に結晶相を形成する工程を有する、
結晶化金属系構造体の製造方法。
【請求項13】
請求項1~
11のいずれか一項に記載の金属系構造体の製造方法
、又は、請求項12に記載の結晶化金属系構造体の製造方法を含み、少なくとも1種の付加物質を付与する工程を更に有することを特徴とする、複合構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素を含有する金属系構造体又はナノ粒子、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
径が1μm未満、好ましくは500nm以下、さらに好ましくは300nmである金属系の粒状体(本明細書において「ナノ粒子」ともいう。)の複数が、互いに近接することによって固着して所定の形状的特徴を有するに至った構造体である金属系構造体は、機械的特性や化学的特性に優れるため、有望な材料である。
【0003】
金属系構造体は、非特許文献1などに記載されるように、通常、ナノ粒子を加圧環境で焼結することにより得られる。一般に、粉体を焼結するために必要とされる温度は粉体の粒径が小さいほど低下するため、焼結用粉体としてナノ粒子を用いることは、焼結により構造体を製造する際の生産性を向上させる観点からも好ましい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】「粉体および粉末冶金」第38巻第7号第854から857頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ナノ粒子は、ミクロンサイズ以上の粒径を有する粒子(以下、「非ナノ粒子」ともいう。)に比べて単位質量あたりの表面積が大きいため、大気中の酸素と反応しやすく、ナノ粒子と酸素との反応が爆発的に進行することもある。このため、その取り扱いは困難であり、焼結作業の安全性を確保するための設備上の負担も大きい。
【0006】
また、酸素との反応が爆発的に進行しないように注意を払いつつ焼結を行っても、焼結に使用されるナノ粒子に吸着する物質の量は、非ナノ粒子に比べて格段に多い。このため、ナノ粒子を用いて焼結を行うと、焼結温度自体は低いものの、得られた金属系構造体は吸着物質に由来する不純物の含有量が多く、その不純物の揮発や分解に基づく空隙部が金属系構造体内部に存在する場合もある。こうした不純物の含有や空隙部の存在は、金属系構造体の均質性を低下させ、その機械的特性や化学的特性を低下させる。このため、従来技術に基づき製造される金属系構造体は、理論的に予測される金属系構造体よりも特性が劣る場合がほとんどであった。
【0007】
さらに、従来の金属ナノ粒子は、酸化層を有しているため、粒子同士を固着させるためには、還元操作や加圧操作などが必要であり、ナノ構造の形成が極めて困難であった。
【0008】
以上説明したように、従来の金属ナノ粒子を用いて焼結を行うと、安全性を確保することが容易でなく、得られた金属系構造体は均質性が低下しやすく、かつ、固着形成が困難であるため、このような問題点のない金属系構造体を工業的レベルで製造する方法が望まれていた。
【0009】
本発明は、かかる現状を鑑み、均質性が低下せず、固着形成が容易である金属系構造体又はナノ粒子、及びその安全性の高い製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく提供される本発明は次のとおりである。
本発明1は、
一般式MmHで示される水素化合物、クラスター又はそれらの集合体からなる金属系構造体であって、
前記Mは金属系原子であり、
前記mは3以上300以下の整数であり、
前記Hは水素原子であることを特徴とする水素化合物、クラスター又はそれらの集合体からなる金属系構造体。
本発明2は、
前記Mが金属原子であり、
前記mが4、6、8、12、20、30のいずれかであることを特徴とする、本発明1に記載の金属系構造体。
本発明3は、
水素を含有することによって非晶質化した金属系非晶質相を含むことを特徴とする金属系構造体。
本発明4は、
水素を含有する金属系構造体であって、
前記水素の含有量A原子%が、前記金属系構造体の全量を基準として、下記式(1)及び(2)を満たすいずれかの値であることを特徴とする金属系構造体。
Y=100×1/(X+1)、X=4,6,8,12,20,30 (1)
0.85Y≦A≦1.15Y (2)
本発明5は、
前記水素の少なくとも一部が、前記金属系構造体を200℃で2分間加熱した後に該金属系構造体に含有されている非拡散性水素であることを特徴とする、本発明1~4のいずれかに記載の金属系構造体。
本発明6は、
水素を含有する金属系構造体であって、
前記水素の少なくとも一部が、前記金属系構造体を200℃で2分間加熱した後に該金属系構造体に含有されている非拡散性水素であり、
前記非拡散性水素の含有量が、前記金属系構造体の全量を基準として0.01質量%以上又は0.41原子%以上であることを特徴とする金属系構造体。
本発明7は、
水素を含有する金属系構造体であって、
前記水素の含有量が、前記構造体の全量を基準として0.095質量%以上又は5.04原子%以上であることを特徴とする金属系構造体。
本発明8は、
前記金属系構造体が、少なくとも一部に非晶質相を有することを特徴とする、本発明1~7のいずれかに記載の金属系構造体。
本発明9は、
前記非晶質相が、水素を含有することを特徴とする、本発明8に記載の金属系構造体。
本発明10は、
水素を含有する金属系非晶質相を含む金属系構造体であって、
200℃で2分間、前記金属系構造体を加熱した後の前記水素の含有量が、前記金属系構造体の全量を基準として0.01質量%以上又は0.41原子%以上であることを特徴とする金属系構造体。
本発明11は、
前記水素の含有量が、前記金属系構造体の全量を基準として、0.037質量%以上、0.59質量%以下、又は、2.0原子%以上、25原子%以下であることを特徴とする、本発明3、6、10のいずれかに記載の金属系構造体。
本発明12は、
前記金属系構造体が、金属を主成分とする金属系構造体であり、
前記金属が、強磁性体であることを特徴とする、本発明1~11のいずれかに記載の金属系構造体。
本発明13は、
前記金属系構造体が、金属元素を主成分とすることを特徴とする、本発明1~12のいずれかに記載の金属系構造体。
本発明14は、
前記金属元素が、単元素からなることを特徴とする、本発明13に記載の金属系構造体。
本発明15は、
前記金属系構造体が、鉄を含有することを特徴とする、本発明1~14のいずれかに記載の金属系構造体。
本発明16は、
前記金属系構造体の少なくとも一部が、粒子構造を有することを特徴とする、本発明1~15のいずれかに記載の金属系構造体。
本発明17は、
前記金属系構造体の少なくとも一部が、ワイヤ状の構造を有することを特徴とする、本発明1~16のいずれかに記載の金属系構造体。
本発明18は、
前記金属系構造体において、該金属系構造体の空隙を充填する無定形の非晶質相を有する又は無定形の非晶質相からなることを特徴とする、本発明1~17のいずれかに記載の金属系構造体。
本発明19は、
前記粒子構造、又は、前記ワイヤ状の構造が、自己造粒反応により形成されることを特徴とする、本発明16又は17のいずれかに記載の金属系構造体。
本発明20は、
前記金属系構造体が、正多面体構造又は略正多面体構造を有する水素化合物、クラスター又はそれらの集合体であって、
前記正多面体構造が、水素原子を中心とし、該正多面体構造の各頂点、各面の中央又は各辺の中央に金属原子が配されていることを特徴とする、本発明1~19のいずれかに記載の金属系構造体。
本発明21は、
本発明1~20のいずれかに記載の前記金属系構造体が結合した金属系構造体結合体であって、
前記金属系構造体結合体が、形状的異方性を有することを特徴とする金属系構造体結合体である金属系構造体。
本発明22は、
前記金属系構造体又は前記金属系構造体結合体が、3Dプリンタ用であることを特徴とする、本発明1~21のいずれかに記載の金属系構造体又は金属系構造体結合体。
本発明23は、
金属元素及び/又は半金属元素の少なくとも1種を含む金属系可還元性成分を含有する物質である可還元性物質が還元してなる構造体である金属系構造体の製造方法であって、
前記金属系構造体の全量を基準として、該金属系構造体の含有する水素の水素含有量を制御することによって、次の(i)から(iii)の少なくとも1つを制御する金属系構造体の製造方法:
(i)前記金属系構造体に含まれる非晶質相の形成を制御する;
(ii)前記金属系構造体の粒子形状を制御する;
(iii)前記金属系構造体の組成を制御する。
本発明24は、
金属元素及び/又は半金属元素の少なくとも1種を含む金属系可還元性成分を含有する物質である可還元性物質が液体中で還元してなる構造体である金属系構造体の製造方法であって、
前記金属系構造体の全量を基準として、該金属系構造体の含有する水素の水素含有量を制御することによって、次の(i)から(iii)の少なくとも1つを制御する金属系構造体の製造方法であって、本発明1~22のいずれか一項に記載の金属系構造体の製造方法:
(i)前記金属系構造体に含まれる非晶質相の形成を制御する;
(ii)前記金属系構造体の粒子形状を制御する;
(iii)前記金属系構造体の組成を制御する。
本発明25は、
前記水素含有量を0.41原子%以上に制御することによって、金属系非晶質相を含む前記金属系構造体を形成し、及び/又は、
前記水素含有量を2.0原子%以上に制御することによって、金属系非晶質相を含む前記金属系構造体を形成し、かつ、前記金属系非晶質相が金属元素を主成分とするものであり、及び/又は、
前記水素含有量を3.3原子%以上に制御することによって、実質的に金属系非晶質相のみからなる前記金属系構造体を形成し、かつ、前記金属系非晶質相が金属元素を主成分とするものであり、及び/又は、
前記水素含有量を5.5原子%以上に制御することによって、実質的に金属系非晶質相のみからなる前記金属系構造体を形成し、前記金属系非晶質相が金属元素を主成分とするものであり、及び、前記金属系非晶質相の少なくとも一部が無定形であることを特徴とする、本発明23又は24のいずれかに記載の金属系構造体の製造方法。
本発明26は、
前記水素含有量を0.41原子%以上、13原子%以下に制御することによって、前記金属系構造体の粒子構造の平均長、又は、ワイヤ状の構造の平均短軸長を500nm以下に制御することを特徴とする、本発明23~25のいずれかに記載の金属系構造体の製造方法。
本発明27は、
前記水素含有量であるA原子%を、前記金属系構造体の全量を基準として、下記式(1)及び(2)を満たすいずれかの値であるように制御することを特徴とする、本発明23~26のいずれかに記載の金属系構造体の製造方法。
Y=100×1/(X+1)、X=4,6,8,12,20,30 (1)
0.85Y≦A≦1.15Y (2)
本発明28は、
一般式MmHで示される水素化合物、クラスター又はそれらの集合体からなる金属系構造体の製造方法であって、
前記Mは金属系原子であり、
前記mは3以上300以下の整数であり、
前記Hは水素原子であり、
前記mを30以下に制御することによって、前記金属系構造体が金属元素を主成分とし、及び/又は、
前記mを31以上に制御することによって、前記金属系構造体が金属を主成分とすることを特徴とする、水素化合物、クラスター又はそれらの集合体からなる金属系構造体の製造方法。
本発明29は、
一般式MmHで示される水素化合物、クラスター又はそれらの集合体からなる金属系構造体の製造方法であって、
前記Mは金属系原子であり、
前記mは3以上300以下の整数であり、
前記Hは水素原子であり、
前記mを31以上に制御することによって、金属系非晶質相を含む前記金属系構造体を形成し、及び/又は、
前記mを30以下に制御することによって、金属系非晶質相を含む前記金属系構造体を形成し、かつ、前記金属系非晶質相が金属元素を主成分とするものであり、及び/又は、
前記mを20以下に制御することによって、実質的に金属系非晶質相のみからなる前記金属系構造体を形成し、かつ、前記金属系非晶質相が金属元素を主成分とするものであり、及び/又は、
前記mを12以下に制御することによって、実質的に金属系非晶質相のみからなる前記金属系構造体を形成し、前記金属系非晶質相が金属元素を主成分とするものであり、及び、前記金属系非晶質相の少なくとも一部が無定形であることを特徴とする、水素化合物、クラスター又はそれらの集合体からなる金属系構造体の製造方法。
本発明30は、
前記mを8以上に制御することによって、前記金属系構造体の粒子構造の平均長、又は、ワイヤ状の構造の平均短軸長を500nm以下に制御することを特徴とする、本発明28又は29に記載の金属系構造体の製造方法。
本発明31は、
前記金属系構造体の含有する水素の少なくとも一部が、前記金属系構造体を200℃で2分間加熱した後に該金属系構造体に含有されている非拡散性水素であることを特徴とする、本発明23~30のいずれかに記載の金属系構造体の製造方法。
本発明32は、
水素及び水素含有物質の少なくとも一方を含む液体中で、金属元素及び/又は半金属元素の少なくとも一種を含む可還元性物質を還元する還元工程を有する、水素を含有する金属系構造体の製造方法であって、
前記水素の少なくとも一部が、前記金属系構造体を200℃で2分間加熱した後に該金属系構造体に含有されている非拡散性水素であることを特徴とする金属系構造体の製造方法。
本発明33は、
前記還元工程が、金属元素及び/又は半金属元素の少なくとも一種を含む可還元性物質を含有するA溶液と、水素及び水素含有物質の少なくとも一方を含みかつ還元作用を有するB溶液とを混合して混合液とする工程を有することを特徴とする、本発明32に記載の金属系構造体の製造方法。
本発明34は、
前記金属系構造体が、一般式MmHで示される水素化合物、クラスター又はそれらの集合体からなる金属系構造体であって、
前記Mは金属系原子であり、
前記mは3以上300以下の整数であり、
前記Hは水素原子であり、
前記A溶液中の前記可還元性物質の濃度をしきい値Tmmol/kg以上にすることによって、前記mが30以下となることを特徴とする、本発明33に記載の金属系構造体の製造方法。
本発明35は、
前記A溶液中の前記可還元性物質の濃度をしきい値Tmmol/kg未満、前記B溶液中の前記水素又は水素含有物質の濃度を6mmol/kg以上にすることによって、前記金属系構造体の全量を基準として前記水素の含有量が2.0原子%未満となり、及び/又は、
前記可還元性物質の濃度を前記しきい値Tmmol/kg以上、前記水素又は水素含有物質の濃度を6mmol/kg以上にすることによって、前記水素の含有量が2.0原子%以上となり、
前記しきい値Tが3であることを特徴とする、本発明33に記載の金属系構造体の製造方法。
本発明36は、
前記A及び/又はB溶液中の溶媒に、アルコールを添加される該溶媒の全量を基準として1質量%以上添加することによって、前記しきい値Tmmol/kgがアルコールを添加しない場合よりも低い値となることを特徴とする、本発明34又は35に記載の金属系構造体の製造方法。
本発明37は、
前記A溶液中の前記可還元性物質の濃度を0.3mmol/kg以上、前記B溶液中の水素及び水素含有物質の濃度を6mmol/kg以上にすることによって、前記金属系構造体が、一般式MmHで示される水素化合物、クラスター又はそれらの集合体からなる金属系構造体となり、
前記Mが金属原子であり、前記mが4、6、8、12、20、30のいずれかであり、前記Hが水素原子であることを特徴とする、本発明33に記載の金属系構造体の製造方法。
本発明38は、
前記混合液に磁場を作用させる工程を有し、前記金属系構造体の形状的異方性を制御することを特徴とする本発明33~37に記載の金属系構造体の製造方法。
本発明39は、
前記本発明1~22に記載の金属系構造体に磁場を作用させる工程を有し、前記金属系構造体の形状的異方性を制御することを特徴とする、金属系構造体の製造方法。
本発明40は、
前記本発明1~22に記載の金属系構造体の空隙に付加物質を付与することを特徴とする、金属系構造体の製造方法。
本発明41は、
前記本発明1~22に記載の金属系構造体を加熱及び/又は加圧する工程を有することによって、該金属系構造体の空隙の体積を減少させる、該金属系構造体同士を固着させる、該金属系構造体内部の部分構造同士を固着させる、及び/又は、該金属系構造体に付加物質を固着させることを特徴とする、金属系構造体の製造方法。
本発明42は、
前記本発明1~22に記載の金属系構造体を加熱して得られることを特徴とする、少なくとも一部に結晶相を有する金属系構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、均質性が低下せず、固着形成が容易である金属系構造体又はナノ粒子、及びその安全性の高い製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る製造方法により製造された金属系構造体の形状の原料濃度及び固化磁場強度に対する依存性を概念的に示す図である。
【
図2】実施例1-1に係る金属系構造体の一例を示す画像である。
【
図3】実施例1-1に係る金属系構造体の他の一例を示す画像である。
【
図4】実施例1-1に係る金属系構造体の別の一例を示す画像である。
【
図5】実施例1-1に係る金属系構造体のさらに別の一例を示す画像である。
【
図6】実施例1-2に係る金属系構造体の一例を示す画像である。
【
図7】実施例1-3に係る金属系構造体の一例を示す画像である。
【
図8】実施例1-4に係る金属系構造体の一例を示す画像である。
【
図9】実施例1-4に係る金属系構造体の他の一例を示す画像である。
【
図10】実施例1-4-2に係る金属系構造体の一例を示す画像である。
【
図11】実施例1-4-2に係る金属系構造体の他の一例を示す画像である。
【
図12】実施例1-4-3に係る金属系構造体の一例を示す画像である。
【
図13】実施例1-4-3に係る金属系構造体の他の一例を示す画像である。
【
図14】実施例1-4-3に係る金属系構造体の別の一例を示す画像である。
【
図15】実施例1-4-3に係る金属系構造体のさらに別の一例を示す画像である。
【
図16】実施例1-5に係る金属系構造体の一例を示す画像である。
【
図17】実施例1-6に係る金属系構造体の一例を示す画像である。
【
図18】実施例1-7に係る金属系構造体の一例を示す画像である。
【
図19】実施例1-7に係る金属系構造体の他の一例を示す画像である。
【
図20】実施例1-7に係る金属系構造体の別の一例を示す画像である。
【
図21】実施例1-7に係る金属系構造体のさらに別の一例を示す画像である。
【
図22】実施例1-7-1に係る金属系構造体の一例を示す画像である。
【
図23】実施例1-7-3に係る金属系構造体の一例を示す画像である。
【
図24】実施例1-7-4に係る金属系構造体の一例を示す画像である。
【
図25】実施例1-7-4に係る金属系構造体の他の一例を示す画像である。
【
図26】実施例1-8に係る金属系構造体の一例を示す画像である。
【
図27】実施例1-9に係る金属系構造体の一例を示す画像である。
【
図28】実施例1-9-1に係る金属系構造体の一例を示す画像である。
【
図29】実施例1-9-2に係る金属系構造体の一例を示す画像である。
【
図30】実施例1-10に係る金属系構造体の一例を示す画像である。
【
図31】実施例1-11に係る金属系構造体の一例を示す画像である。
【
図32】実施例1-11に係る金属系構造体の他の一例を示す画像である。
【
図33】実施例1-12に係る金属系構造体の一例を示す画像である。
【
図34】実施例1-12-1に係る金属系構造体の一例を示す画像である。
【
図35】実施例1-12-2に係る金属系構造体の一例を示す画像である。
【
図36】実施例1-13に係る金属系構造体の一例を示す画像である。
【
図37】実施例1-13に係る金属系構造体の他の一例を示す画像である。
【
図38】実施例1-13に係る金属系構造体の別の一例を示す画像である。
【
図39】本発明の実施例における実施例1-1に係る金属系構造体のX線回折スペクトルを示す図である。
【
図40】本発明の実施例における実施例1-4に係る金属系構造体のX線回折スペクトルを示す図である。
【
図41】本発明の実施例における実施例1-4-4に係る金属系構造体のX線回折スペクトルを示す図である。
【
図42】本発明の実施例における実施例1-7に係る金属系構造体のX線回折スペクトルを示す図である。
【
図43】本発明の実施例における実施例1-7-5に係る金属系構造体のX線回折スペクトルを示す図である。
【
図44】本発明の実施例における実施例1-9に係る金属系構造体のX線回折スペクトルを示す図である。
【
図45】本発明の実施例における実施例1-10に係る金属系構造体のX線回折スペクトルを示す図である。
【
図46】本発明の実施例における実施例1-10-1に係る金属系構造体のX線回折スペクトルを示す図である。
【
図47】本発明の実施例における実施例1-11に係る金属系構造体のX線回折スペクトルを示す図である。
【
図48】本発明の実施例における実施例1-11-1に係る金属系構造体のX線回折スペクトルを示す図である。
【
図49】本発明の実施例における実施例1-12に係る金属系構造体のX線回折スペクトルを示す図である。
【
図50】本発明の実施例における実施例1-12-2に係る金属系構造体のX線回折スペクトルを示す図である。
【
図51】本発明の実施例における実施例1-13に係る金属系構造体のX線回折スペクトルを示す図である。
【
図52】本発明の実施例における実施例1-13-1に係る金属系構造体のX線回折スペクトルを示す図である。
【
図53】本発明の実施例における実施例1-4-1に係る金属系構造体のDSCプロファイルを示す図である。
【
図54】本発明の実施例における実施例1-7に係る金属系構造体のDSCプロファイルを示す図である。
【
図55】本発明の実施例における実施例1-10に係る金属系構造体のDSCプロファイルを示す図である。
【
図56】本発明の実施例における実施例1-11に係る金属系構造体のDSCプロファイルを示す図である。
【
図57】本発明の実施例における実施例1-12-1に係る金属系構造体のDSCプロファイルを示す図である。
【
図58】本発明の実施例における実施例1-13に係る金属系構造体のDSCプロファイルを示す図である。
【
図59】本発明の実施例における実施例2-3に係る金属系構造体のX線回折スペクトルを示す図である。
【
図60】本発明の実施例における実施例2-7に係る金属系構造体のX線回折スペクトルを示す図である。
【
図61】実施例2の結果に基づく、金属系構造体の組成の硫酸鉄水溶液濃度及び還元剤水溶液濃度に対する依存性を概念的に示す図である。
【
図62】実施例2の結果に基づく、金属系構造体の組成の容量比及び還元剤水溶液濃度に対する依存性を概念的に示す図である。
【
図63】本発明の実施例における実施例1-9-3に係る金属系構造体のX線回折スペクトルを示す図である。
【
図64】本発明の実施例における実施例1-11-4に係る金属系構造体のX線回折スペクトルを示す図である。
【
図65】本発明の実施例における実施例1-11-5に係る金属系構造体のX線回折スペクトルを示す図である。
【
図66】本発明の実施例における実施例1-14に係る金属系構造体のX線回折スペクトルを示す図である。
【
図67】本発明の実施例における実施例1-14-2に係る金属系構造体のX線回折スペクトルを示す図である。
【
図68】本発明の実施例における実施例1-11-3に係る金属系構造体のSEMの画像である。
【
図69】本発明の実施例における実施例1-11-5に係る金属系構造体のSEMの画像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態について説明する。
1.金属系構造体
(1-1)構造的特徴
(1-1-1)金属系構造体又はナノ粒子
本明細書において、「金属」は典型元素、遷移元素の一部からなり、単体で金属の性質を持つ物質を意味する。次に示す性質により金属とみなすことが出来る。常温・常圧で個体となり(水銀を除く)、展延性を有する、金属光沢がある、電気及び熱の良導体である、水溶液中でカチオン(陽イオン)となる性質である。また、「半金属」の具体例として、B,Si,Ge,As,Sb,Te,Se,Po,At,C,Pが挙げられる。一般的に半金属は金属と非金属の間の性質を持ち、Ge,Sb,Poは金属に分類される場合もある。「金属間化合物」は、金属と金属もしくは半金属の組み合わせによる化合物を意味する。「金属化合物」とは、金属を含み、金属と金属、金属と半金属以外の組み合わせによる化合物を意味する。具体例としては、金属酸化物、金属窒化物等が挙げられる。複数の金属元素や半金属元素の混合体からなる合金や金属間化合物は金属の一形態と見なされる。また、「金属系」は、「金属」を主成分とする材料を指すが、非金属成分を含んでもよい。「金属系構造体又はナノ粒子」は、金属を主成分とする構造体又はナノ粒子を指す。以下、「構造体」は「ナノ粒子」も含む。
【0014】
(1-1-2)水素(本明細書では「H」と記載する場合がある)含有と非晶質相
(1-1-2-1)本発明に係る金属系構造体の特徴
本発明の一実施形態に係る金属系構造体は、次の(i)から(iv)の少なくとも1つの特徴を備える:
(i)金属系構造体の全量を基準として、水素を0.01質量%以上含有する;
(ii)金属系構造体の全量を基準として、水素を0.41原子%以上含有する;
(iii)非晶質相を含む;及び
(iv)金属系構造体は非晶質相を含み、金属系構造体を加熱して結晶化させた状態において金属相の存在を示すX線回折スペクトルが得られる。
【0015】
(1-1-2-2)水素含有
本明細書において、金属系構造体における水素の含有量の測定原理はJIS Z2614による。装置は、JIS H1619「チタン及びチタン合金-水素定量方法」に記載の装置を使用して測定を行うことができる。具体的には、JIS H1619「チタン及びチタン合金-水素定量方法 5不活性ガス融解-熱伝導度法」に記載される装置で、水素のままで測定する場合が例示される。具体的な測定装置の一例として、HORIBA社製「EMGA 621A型」が挙げられる。
【0016】
測定方法の概要は次のとおりとすることができる。すなわち、不活性ガス気流中で、黒鉛るつぼを用いて試料をスズとともにインパルス炉で加熱融解し、水素を他のガスとともに抽出する。抽出したガスをそのまま分離カラムに通して、水素を他のガスと分離し、これを熱伝導度検出器に導き、水素による熱伝導度の変化を測定する。
【0017】
水素の含有量の単位について、Feを含有する場合や、強磁性材料であるNi,Coを含有する場合には、質量%(本明細書では、「wt%」と記載する場合がある。)が簡便な判断方法であって有効である。さらに他の全ての場合においても適用可能である。
【0018】
一方、原子%(本明細書では、「at%」と記載する場合がある。)は、より原理的に本質的に制御する場合には有効であり、上記の方法に限らず別の方法(原子の個数を直接的にカウントする等)により管理することも可能であり、相対的に優れている。ただし、測定対象となる金属系構造体が単相であれば、質量%から厳密に原子%へと換算することが可能であるが、金属系構造体が複相の場合にはその組成比を求めなければ換算できない。金属系構造体が複相の場合には、その組成比を別の方法(ICP等)によって求めた後換算することになる。
【0019】
すなわち、本来、原子%で管理することが好ましいが、管理を簡便にするために質量%を採用してもよい。本明細書では、両者を含めた水素含有量を「H%」と記載する場合がある。
【0020】
金属系構造体全体に対して、水素を0.001質量%以上含有することにより、金属系構造体が酸化の影響を受けにくくなるなどして、固着性や焼結性に優れる。固着性や焼結性により優れる観点から、水素の含有量は0.010質量%以上であることがより好ましく、0.20質量%以上であることがさらに好ましい。
【0021】
金属系構造体全体に対して、水素を0.41原子%以上含有することにより、金属系構造体が酸化の影響を受けにくくなるなどして、固着性や焼結性に優れる。固着性や焼結性により優れる観点から、水素の含有量は5.04原子%以上であることがより好ましく、5.5原子%以上であることがさらに好ましい。
【0022】
詳細は後述するが、一般的に、金属の非晶質相を形成させることは、溶融状態からの急速冷却が必要になるなどの理由から容易ではない。特に高純度の金属成分からなる、さらには高純度の金属元素からなる非晶質体の形成は極めて困難である。
【0023】
本発明においては、金属系構造体が水素を含有すること、さらには、金属系構造体の全量を基準として、水素の含有量が0.41原子%(0.01質量%)以上、好ましくは3.03原子%(0.056質量%)以上、より好ましくは5.3原子%(0.10質量%)以上、さらに好ましくは10.1原子%(0.20質量%)以上とすることで安定的に非晶質部分もしくは水素含有非晶質部分を形成もしくは保持することが出来る。さらには、水素含有金属系構造体もしくは水素含有非晶質体が、非晶質部分を安定的に存在せしむと共に、金属系構造体の金属元素の純度を安定的に形成もしくは保持することで、熱処理後の結晶化金属相や高純度金属系構造体の製造に効果的である。
【0024】
また、金属系構造体が水素を含有すること、さらには規定値以上の水素を含有すること及び/又は非晶質部分を有することにより、核形成剤を含有すること無しに金属系構造体の製造が可能であり、これによって多様な形状を精密に形成させることが可能であり、高純度化の観点からも好ましい。この水素含有非晶質は後述するように、金属系構造体の形状制御に優れた効果を発揮する。また無定形相の形成にも効果がある。
【0025】
金属系構造体の水素の含有量の上限は特に限定されない。金属系構造体の水素の含有量は、50原子%以下とすることが好ましく、25原子%以下もしくは25原子%未満、さらには23原子%以下もしくは23原子%未満、さらには20原子%以下もしくは20原子%未満、さらには16.4原子%以下もしくは16.4原子%未満、さらには13原子%以下もしくは13原子%未満とすることがより好ましい場合がある。
【0026】
ここで、金属系構造体が含有する水素について、詳細に述べる。当該水素には、拡散性水素と非拡散性水素がある。一般に、拡散性水素とは、材料中に存在する水素で、室温で時間と共に材料から外に出る(拡散する)水素をいう。非拡散性水素とは、材料中に存在する水素で、室温から200℃程度までの温度でも時間と共に材料から外に出ていけない(拡散しない)水素をいう。拡散性水素は水素脆化に寄与していると考えられている。
【0027】
このことから、本発明の金属系構造体に対し、200℃で2分間加熱した際に、金属系構造体から外に出ていない水素は、非拡散性水素であるといえる。また、昇温脱離分析装置(TDS)によっても、それぞれの状態での水素量の測定が可能である。このことは、金属系構造体が、非晶質相でも、結晶化した場合でも同様である。
【0028】
200℃で2分間加熱した際の水素の含有量は、当該構造体の全量を基準として0.01質量%以上又は0.41原子%以上であることが好ましく、0.056質量%以上又は3.03原子%以上であることがより好ましく、0.10質量%又は5.3原子%以上であることがより一層好ましく、0.20質量%以上又は10.1原子%以上であることがさらに好ましい。
【0029】
(1-1-2-3)非晶質相
本明細書において「非晶質」あるいは「非晶質相」とは、その部分において、長距離秩序が存在せず、X線回折スペクトルにおいて結晶構造に由来する目立ったピークが存在しない相である。金属系構造体が非晶質の部分を含むもしくは水素を含有する非晶質の部分を含むことにより、塑性変形などが生じやすくなるなどして、焼結性や固着性に優れる。焼結性や固着性などに優れる観点から、金属系構造体は非晶質単相であることが好ましい。また、非晶質であることは、金属系構造体に磁気的、力学的等方性をもたらすことなどにより、磁気的、力学的に優れた材料となる。
【0030】
本発明者らは、水素を含有する、さらには規定値以上の水素を含有する非晶質構造体が、金属系構造体の形状制御性に優れる(磁場整列性、固着性、形状的異方性の形成、無定形相の形成)ことを見出した。すなわち、金属系構造体が水素を含有すること、及び/又は、金属系構造体が非晶質部分を含む場合には、金属系構造体やナノ構造体やナノ粒子の変形性や固着性が向上する等の効果により、全体構造として、多様な形状を形成させることが容易となる。この傾向は、液体中において、さらには水素系物質を含有する液体中において顕著となる。
【0031】
金属系構造体が非晶質部分を含む場合において、金属系構造体を加熱して結晶化させた状態において金属相の存在を示すX線回折スペクトルが得られることが好ましい。この場合には、金属相を与える材料が非晶質部分を構成していたことになるため、加熱前の金属系構造体が非晶質部分を含むことがより明確になる。ここで、金属系構造体を加熱して結晶化させた状態において得られた金属系構造体のX線回折スペクトルは、金属系構造体が金属単相であることを示すスペクトルであってもよい。ここで金属単相とは金属のみからなる相で、例えば酸化物等の金属相以外の相を含まない相を意味する。金属元素及び/又は半金属元素から選択された元素によって構成され、金属元素単相、合金、半金属、金属間化合物やこれらの固溶体、及びこれらが混在してなる混合体、複合体が例示される。
【0032】
本発明の一実施形態に係る金属系構造体が非晶質部分を備える理由は次のように考えられる。金属系構造体内の水素が非晶質部分の形成に影響を与えている、すなわち、金属系構造体内に水素が含有されることにより、金属系還元体が成長する際に結晶化することが阻害され、その結果、金属系構造体内に、非晶質又はこれに近い状態の領域が生成しているといえる。
【0033】
製造条件を適切に制御すれば、金属系構造体のX線回折スペクトルには、実質的にピークが認められず、その全体が非晶質であると考えることができる状態、すなわち、非晶質単相の金属系構造体を得ることが可能である。後述するように、本発明に係る実施例において、非晶質単相でかつ水素を含有する金属系構造体が得られ、この結果から、非晶質部分が水素含有非晶質であることが解る。このような非晶質、さらに水素含有非晶質相は塑性変形性や結合性が高いなどの理由によって、金属系構造体同士の、又は金属系構造体を構成するナノ部分構造同士の固着を容易にしているといえる。
【0034】
具体例を示せば、
図42に示されるX線回折スペクトルを与える金属系構造体は還元体がFeであるものであり、結晶構造に由来するピークが認められない。当該金属系構造体を加熱すると、
図43に示されるように、X線回折スペクトルにおいて、実質的に体心立方格子構造のαFeと帰属されるピークのみが得られる結晶化金属系構造体を得ることができる。このことから、加熱前の状態では、金属系構造体はFe単元素金属を主成分とする非晶質部分が主体的であったことが理解される。
【0035】
また、
図32に示されるフィラメントウェブ状の形状を有する金属系構造体と同様の方法で製造した金属系構造体を、500℃まで加熱した(昇温速度3℃/分)際のDSC(示差走査熱量計)の結果は、
図56に示されるとおりである。460℃付近にピークを有する発熱が結晶化に基づくものであるといえる。320℃付近にピークを有する発熱を与える化学変化又は状態変化については、結晶学的及び/又は化学的な変化を伴う構造変化に起因しているといえる。
【0036】
(1-1-3)単元素金属
本発明に係る金属系構造体は、単元素金属からなるものとすることができる。単元素金属(純金属)の非晶質相は、極低温での真空蒸着法によって作ることができることが知られている。真空蒸着法では、Biについて成功したのが初めてであり、その後、Ga、Fe、Ni、Cr、Auなどでも作られた。しかし、いずれも不安定で室温以下で結晶化してしまう。そのため、一般に非晶質金属(アモルファス金属)と呼ばれているものは、全て合金である。
【0037】
特に、Feについて、前例をみると、室温で安定なFe単元素の非晶質相は確認されていない。Fe2B組成の付近では、非晶質の形成例があり、実用化もされている。公知のFe2Bの非晶質は、急冷凝固法によるもので、溶かしたFeBを室温まで急速冷却することでリボン状の非晶質体が得られる。
【0038】
本発明によれば、単元素金属からなる非晶質相を作成することができる。実施例においては、水素を含有するFeの非晶質相が安定的に得られた。このことから、水素を含有することで非晶質相が形成されたと考えられる。この非晶質形成のメカニズムは、前述のように、従来、反応性が極めて低い組み合わせであるFeと水素の間で、これまで知られていなかった結合反応状態を形成することで、Feの結晶化を阻害して非晶質相が形成されたものと考えられる。
【0039】
(1-1-4)自己造粒反応と磁性体
(1-1-4-1)自己造粒反応
本発明において、自己造粒反応とは、反応条件を設定し、放置しておくだけで粒子形状の形成が進行し、特定の形状、構造(非晶質構造)、組成、水素含有量の決まった粒子が形成されることをいう。例えば、後述の2液混合法による還元析出反応の場合に、撹拌操作等によって析出粒子に機械的な外力を与えることを極力抑える(自己造粒反応の進行を阻害せずに制御する)ことにより進行する場合である(実施例参照)。
【0040】
特定の非晶質構造を形成し維持する駆動力は、粒子全体の磁気的特性であると推察される。おそらくは、単磁区構造を形成するためのサイズの影響が大きいものと推測する。析出初期において磁気的な特定構造の非晶質が形成され、表面エネルギー駆動力により粒子成長し粒径を増大させ、磁気的に安定な粒子径、例えば単磁区構造に基づく磁気的なエネルギーが極小となる粒子径で粒子の成長が抑制される。これにより、粒径が揃った特定の粒子径を有する非晶質粒子が形成されるものと考える。析出初期に特定の非晶質構造が造り分けられるメカニズムは、自然淘汰によるメカニズムであろう。特定構造を持った非晶質構造を持つ粒子のみが成長し、そうでないものは成長により相対的に不安定な状態となり成長を止めるか、消滅するものと推測する。
【0041】
粒子のサイズと非晶質の構造が粒子の磁性を決定する要因であることから、粒子の状態を決める要因は、粒子の磁性に基づくエネルギーと表面エネルギーであり、さらには非晶質構造とサイズ(例えば、球状を仮定した時の粒径)である。まとめると、実施例の場合は、2種類の安定した非晶質磁性粒子状態(非晶質構造とサイズ)が存在し、金属系イオン濃度によって分かれる。この安定状態への変化を駆動力とした、自己造粒反応が起こるものと推察する。
【0042】
(1-1-4-2)磁場整列
自己造粒反応によって形成されるこれらの定形粒子は、磁場中にて集合整列するさいに、その特性が揃っていることから極めて効果的に2次構造を形成することができる。さらにその際には、H%が規定値以上であること、非晶質相を含有することが固着性を向上する等の効果によって、極めて効果的に2次構造を形成することができる。
【0043】
(1-1-4-3)磁性体
上記のことから、本発明に係る金属系構造体は磁性体から構成されていてもよい。本明細書において、「磁性体」とは、磁場中で磁化される物質を言う。磁性体を構成する材料として、金属、半金属、金属間化合物、金属化合物、硼化物、燐化物、硫化物、酸化物などが挙げられる。特に、金属、金属間化合物、金属化合物が好適で、さらには、遷移(金属)元素を含むものが好適である。さらには、強磁性体元素(Fe,Ni,Co,Gdなど)を含むものが好ましい。また、ナノ粒子を扱う場合は、大きな塊であるバルク体と磁気特性が異なる場合がある。
【0044】
(1-1-5)核形成剤
上記の金属系構造体は、後述のように液体中で還元してなる構造体であってもよい。本明細書において「液体」とは、溶液であってもよいし、分散液であってもよい。金属系構造体の形態の制御性を高める観点からは、液体は、溶液であることが好ましい。すなわち、可還元性物質は少なくとも一部が液体中に溶解していることが好ましい。この液体は可還元性物質よりも優先的に還元される物質を含む核形成剤を含有しないものとすることができる。
【0045】
ここで、一般に、核形成剤は、例えば可還元性物質より優先的に還元される事で微細な粒子を形成するなどして、可還元性物質の析出を促す等の作用により、可還元性物質からなる微細粒子や微細構造体を形成させるための核として作用するために加えられるものである。
【0046】
従来技術によれば、可還元性物質など、還元反応により還元物質(金属など)を形成しうる物質を液体中に存在させ、この液体に、還元剤に加えて、結晶核となる物質(例えば白金粒子が挙げられる。)を含有する核形成剤も存在させ、核形成剤に基づく成分を核として、可還元性物質から還元物質を析出・成長させてナノ粒子を形成することが、ナノ粒子の形成を安定的に進行させる観点から一般的に行われている。ところが、このような核形成剤を含有する場合には、核形成剤に基づく成分がナノ粒子に必然的に含有されることになり、ナノ粒子から形成される金属系構造体は、組成上の自由度が低下する。また、このような成分によって金属系構造体は磁気特性や機械特性も制約を受ける場合がある。したがって、可還元性物質を還元する際に液体は核形成剤を含有しないことにより、金属系構造体の組成上の自由度を高めたり、磁気特性や機械特性の取りうる範囲を広げたりすることができる。さらにこれらの効果や高純度な金属系構造体により、形態制御の精密性を高めることが出来る。
【0047】
上記の液体は、可還元性物質よりイオン化傾向が小さい物質を含有する核形成剤を使用しなくてもよい。また、上記の液体は、可還元性物質以外の金属もしくは半金属元素を含む核形成剤を使用しなくてもよい。あるいは、上記の液体は、核形成剤を使用しなくてもよい。
【0048】
以上のことから、本発明に係る金属系構造体は、核形成剤を含有しないものとすることができる。
【0049】
(1-1-6)一般式MmHで示される水素化合物、クラスター又はそれらの集合体からなる金属系構造体
(1-1-6-1)一般式MmHで示される水素化合物、クラスター又はそれらの集合体(水素含有率の配合比(m数))
本願の金属系構造体の水素含有量は実施例の測定結果から、特別なルールに従った配合比「特定配合比」であることが確認された。金属系構造体が「特定配合比」となるためには、それより小さい集合体が同じ配合比によって形成されていることで、その構造と配合比が安定的に形成される。すなわち、析出粒子の集合体もしくはクラスター、それらが集合してなるナノ粒子が特定配合比となることで安定的に形成される。特定配合比になる理由は、「殻構造」さらには「正多面体構造」の析出集合体や「Hクラスター」が形成されることで理解される。特に金属元素からなるさらには金属単元素(Fe)である場合に、正多面体ルールに適合した。このことから、正多面体構造もしくはそれと同一配合比(原子比率)の構造からなる集合体もしくはクラスターの存在が特定された。
【0050】
本願のクラスターである、金属系原子と水素からなる「Hクラスター」は、金属系原子と水素の集合体で、m:1の配合比(mは整数で、m≧3)からなる。これがさらに集合してナノ粒子、金属系構造体を形成する。さらに、ナノワイヤなどのナノ構造成形体を形成する。3≦mで、(上限はm≦300の範囲が好ましい。)水素含有量が、(下限は、m数の上限300から0.33at%が好ましい)~25at%(3≦mに対応)の範囲によって構成される。
【0051】
m数が、とびとびの値になるのは、Hと金属系原子の結合状態の種類に限りが有ることに起因すると考えられる。このようなとびとびの数は「魔法数」と呼ばれ、原子核構造や金属クラスター構造において、特別な個数からなる構造が安定に存在する現象として知られている。例えば、Na金属クラスターは、8、20、40、58、92、138、198、264、344、442、554、さらに大きなとびとびの数の原子数において安定に存在することが知られている。
【0052】
Hクラスターは、金属系原子と水素の配合比によってm数が変化する。特に、金属系原子が金属元素である場合に、さらには金属単元素(Fe)である場合に、正多面体ルールに適合することが解った。この結果から、中央に水素が配置し、その回りに金属系原子が殻のように配置する「正多面体構造」を形成し、水素との距離が等距離でかつ隣接する金属系原子同士が等距離となる「正多面体Hクラスター構造」が適合する。さらには、実施例のように単元素金属からなる、さらにはFe元素からなる正多面体Hクラスターが安定的に得られる。「正多面体Hクラスター構造」は、同一配合比の構造からなるクラスター構造を含む。すなわち歪んだ構造(略正多面体構造)も含む。m数は、原子の種類や反応条件によって選択的に形成制御が可能である。
【0053】
Hクラスターは、金属系元素が遷移金属である場合に、その金属結合によってより安定的に形成可能である。特に、強磁性元素である、Fe、Ni、Coが含まれる場合には、自己造粒反応によって定形ナノ粒子を形成することが容易になる場合が有る。
【0054】
(1-1-6-2)特定配合比
「整数ルール」:
中心に水素原子1個を配置し、特定個数の原子がその周りに平面もしくは立体的に配置する「殻構造」によって形成される配合比である。この配合比である整数ルールは、M:H=m:1、m≧3、mは整数、H%:~25.0at%(m=3のとき)である。Mは金属系原子からなり、実施例のようにmが金属単元素(Fe)原子や複数の金属元素からなる場合、さらには金属と半金属の複数の元素からなる場合が有る。mは、H原子1個に対する金属系原子の個数、複数元素の場合は総数に相当する。実施例1-12-1の場合は、金属系元素がFeとBで、Fe:B=2:1であることから、m数は、FeとBに対してm=120、Fe2B金属間化合物組成に対してm=40、Fe単元素に対してm=80となる。
【0055】
「正多面体ルール」:
中央からの距離が等しくかつ隣接する原子同士が等距離となることが可能な配置で、正多面体の頂点、面の中央、辺の中央に、それぞれ原子が配置(混在した位置には配置しない―例えば、頂点と中央。)することで形成される「正多面体構造」によって形成される配合比である。この「正多面体構造」に配置される原子の個数は、4、6、8、12、20、30から選ばれた個数となる。「正多面体ルール」は、M:H=m:1、mが、4、6、8、12、20、30より選ばれる値をとる。H%:3.2~20.0at%。この構造は、Mが金属元素である、さらには単元素金属である場合に形成し易い。
【0056】
(1-1-6-3)水素含有率の配合比と遷移金属元素
金属系構造体は、規定値以上のH%を有する、さらには金属元素を含有する金属系構造体、ナノ粒子、クラスターからなることが好ましい。さらに安定的に製造を行うために、金属系元素が以下の元素を含有している、さらには以下の元素群から選択されることが好ましい。
(1)アルカリ金属(Li、Na、K、Rb、Cs、Fr)とアルカリ土類金属(Ca、Sr、Ba、Ra)を「除く金属元素」であることが、より金属結合性の高い元素として好ましい。
(2)さらには、より金属結合性の高い「遷移金属元素」であることが望ましい。遷移金属元素は、周期表で第3族元素から第12族元素の間に存在する元素である。さらには、周期表で第3族元素から第13族元素の間に存在する元素で好ましい場合が有る。また、遷移金属元素のうち、周期表で第3族元素から第11族元素の間に存在する元素でより好ましい場合が有る。
(3)(2)の中でも特に、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cuの中から選ばれる元素が好ましい場合が有る。
(4)さらには、強磁性を示す、Fe、Co、Niの中から選ばれる元素が、特に自己造粒反応粒子を形成する上で好ましい場合が有る。
(5)さらに、実施例に示されるように安定的な製造においてFeが好ましい。一般的にFeは溶液中で酸化され易い傾向が有り、従来法では極めて形成困難であることから、本願の製造方法が製造の安定性、性能の信頼性の観点から特に好ましい。
【0057】
(1-2)形状的特徴
ここで、本発明の一実施形態に係る金属系構造体が備える形状的な特徴について説明する。本発明に係る形状的特徴は以下であるが、非晶質相であるにもかかわらず、以下の形状を有することが特異的である。
【0058】
本発明の一実施形態に係る金属系構造体は、少なくとも1nmを超える大きさを有する粒状体を部分構造及び全体構造のいずれかとしてもよい。本明細書において、金属系構造体の部分構造が少なくともある長さ(上記の場合には1nm)を超える大きさを有する、とは、その長さを直径とする球体の内部に金属系構造体の部分構造全体を入れることができないことをいう。具体的には、二次電子顕微鏡にて観察したときに、その部分構造が、ある長さを直径とする円に入りきらない部分を必ず有することを意味する。なお、本発明の一実施形態に係る金属系構造体が上記の粒状体を全体構造とする場合には、金属系構造体は、その粒状体からなる。そのような場合の具体例として、後述するビーズ状の形状を有する粒状体を全体構造とする金属系構造体が挙げられる。
【0059】
本発明の一実施形態に係る金属系構造体は、電子顕微鏡にて観察したときに二次電子像で識別可能な、最大でも1μm未満の大きさの部分を有する部分構造であるナノ部分構造を備えるとともに、全体として少なくとも10μmを超える大きさを有してもよい。本明細書において「最大でも1μm未満の大きさの部分を有する部分構造」とは、金属系構造体に対して直径1μmの大きさの仮想的な球を重ねたときに、その球の内部に部分構造の特徴を見出すことができる構造を意味する。
【0060】
本発明の一実施形態に係るナノ部分構造を備える金属系構造体は、具体的に、次のような形状を有していてもよい。本発明に係る水素を含有する非晶質相が、非晶質相であるにもかかわらず、次のような形状を有するのは、前述の自己造粒反応によるものであると推察される。
【0061】
(1-2-1)ワイヤ状(フィラメント及びフィラメントヤーン)
本発明の一実施形態に係るナノ部分構造を備える金属系構造体は、ワイヤ状(フィラメント状又はフィラメントヤーン状)の形状を有していてもよい。ここで、「フィラメント」とは繊維の分野における長繊維に相当する用語であり、「フィラメントヤーン」とは、その長繊維が紡績されてなる糸状体を意味する。
【0062】
本明細書では、観察された金属系構造体が、糸状の形状を有し、最長軸の軸長の最短軸の軸長に対する比率であるアスペクト比として5以上であって、その金属系構造体が1本の糸状の形状を有するナノ部分構造から形成されている場合には、その金属系構造体をフィラメントという。なお、フィラメントはナノ部分構造であるから、最短軸の軸長は1μm未満である。
【0063】
一方、観察された金属系構造体が、そのアスペクト比が5以上であって、複数の糸状の形状を有するナノ部分構造から構成されているときには、その金属系構造体をフィラメントヤーンという。
【0064】
かかるフィラメント又はフィラメントヤーン状の形状を有する金属系構造体の観察画像の一例を
図8及び9に示す。10μm又はそれ以上の長さを有し、短軸の軸長が1μm未満の糸状の形状を有し、アスペクト比が5以上であるフィラメントヤーン状の形状を有する金属系構造体が観察されている。アスペクト比が5以上であるから、フィラメント及びフィラメントヤーンはいずれも形状的に異方性を有する部分構造を有する金属系構造体である。
【0065】
本発明において、異方性とは、物質の物理的性質が方向によって異なることを意味し、形状的異方性とは、何れかの方向に偏っている形状を意味する。
【0066】
ワイヤ状の構造の平均短軸長は、50~250nmであることが好ましい。
【0067】
(1-2-2)フィラメントウェブ
本発明の一実施形態に係る金属系構造体は、上記のフィラメントヤーン状の形状を有する金属系構造体から形成されたウェブ状の形状を有していてもよい。本明細書においてこのウェブ状の形状を有する金属系構造体をフィラメントウェブという。ここで、「ウェブ」とは、繊維の分野における定義通りであり、繊維の集合体であって、繊維が複数点で交絡したり結束したりすることにより得られる3次元部材を意味する。フィラメントウェブ状の形状を有する金属系構造体を構成するナノ部分構造はフィラメントである。したがってフィラメントウェブは形状的に異方性を有する部分構造を有する金属系構造体である。
【0068】
かかるフィラメントウェブ状の形状を有する金属系構造体の観察画像の一例を
図12に示す。複数のフィラメントが結束したり交絡したりして、3次元状の部材を構成していることが
図12から理解される。フィラメントウェブには、これを構成する複数のフィラメントが離間して配置されることにより、空隙部が存在する。したがって、かかるフィラメントウェブは3次元メッシュとして機能し得る形状を有している。すなわち、この場合には、本発明の一実施形態に係る金属系構造体は、メッシュ状の形状を有する部分構造を備える(
図13から15)。
【0069】
(1-2-3)ステープル及びステープルウェブ
本発明の一実施形態に係る金属系構造体は、フィラメントウェブのようにアスペクト比が特に高い金属系構造体から構成されているとは言えないが、3次元状の網目状の構造を有しているウェブ状の形状を有していてもよい。かかる形状を有する金属系構造体の観察画像の一例を
図3に示す。
【0070】
図3に示されるように、上記のウェブ状の形状を有する金属系構造体は、複数の短繊維(ステープル)が交絡して得られる形状に近いため、本明細書において、かかるウェブ状の形状を、ステープルウェブという。ステープルウェブの形状を有する金属系構造体を構成するナノ部分構造はステープルである。このステープルはナノ部分構造であるから、最短軸の軸長は1μm未満である。したがって、ステープルウェブは異方性を有する部分構造(ステープル)を有する金属系構造体である。
【0071】
(1-2-4)ビーズ(球状)及びビーズワイヤ
本発明の一実施形態に係る金属系構造体は、ビーズ状(球状)のナノ部分構造の複数からなるビーズワイヤ状の形状を有していてもよい。本明細書において、「ビーズ」とは、アスペクト比が2未満である形状を有するナノ部分構造を意味する。したがって、本明細書において、「ステープル」とは、異方性が「ビーズ」より高く「フィラメント」未満である、そして、本明細書において、「ビーズワイヤ」とは、ビーズ状の形状を有するナノ部分構造の複数が整列しながら連結してなる金属系構造体であって、アスペクト比が5以上のものをいう。したがって、ビーズワイヤは異方性を有する部分構造を有する金属系構造体である。
【0072】
かかるビーズワイヤ状の形状を有する金属系構造体の観察画像の一例を
図36に示す。10μm又はそれ以上の長さを有したビーズワイヤ状の形状を有する金属系構造体が多数観察されている。
【0073】
図37は、
図36の一部分を拡大した観察画像であり、複数のビーズからなるナノ部分構造、具体的には、そのアスペクト比は1に近く、球状と表現できる程度であり、かかるビーズの複数が整列して線状体を構成していることが
図37から理解される。具体的には、1個のビーズに対して1個のビーズが長手方向に連結している。ビーズが1個ずつ一方向に並んで固着したものと思われる。
図36及び37によれば、ビーズワイヤのアスペクト比は5をはるかに超えている。
【0074】
ビーズ状(球状)の粒子構造の平均長は、150~500nmであることが好ましい。
【0075】
(1-2-5)ビーズウェブ
本発明の一実施形態に係る金属系構造体は、上記のビーズワイヤの複数が、結束したり、交絡したりして得られる3次元的な形状を有していてもよい。そのような形状を、本明細書において、「ビーズウェブ」という。ビーズウェブ状の形状を有する金属系構造体は、ビーズワイヤ状の形状を有するナノ部分構造から構成されている。したがって、ビーズウェブは異方性を有する部分構造(ビーズワイヤ)を有する金属系構造体である。
図36から38は、かかるビーズウェブ状の形状を有する金属系構造体の観察画像の一例でもある。
図36は
図38の一部を拡大したものである。
図36に示されるビーズウェブ状の形状を有する金属系構造体では、これを構成するビーズワイヤ状の形状を有する金属系構造体の複数が、配向しつつ結束している。
【0076】
一方、かかるビーズウェブ状の形状を有する金属系構造体の観察画像の他の一例である
図16に係る金属系構造体は、
図36に示される金属系構造体に比べると、ビーズウェブを構成する個々のビーズワイヤの長さが短く、結果的にビーズワイヤの交絡の程度が大きい。
【0077】
図16や
図38に示されるように、ビーズウェブ形状の形状を有する金属系構造体は、3次元メッシュとして機能しうる形状を有している。すなわち、この場合には、本発明の一実施形態に係る金属系構造体は、メッシュ状の形状を有する部分構造を備える。
【0078】
(1-2-6)ビーズバルク
本発明の一実施形態に係る金属系構造体は、ビーズ状の形状を有する複数のナノ部分構造が、互いに整列しながら連結する程度が特に低くなり、複数のナノ部分構造がほぼ等方的に結合してなる形状を有してもよい。本明細書において、かかるビーズ形状のナノ部分構造の複数からなる塊状の形状を「ビーズバルク」ともいう。
図20は、ビーズバルク状の形状を有する金属系構造体の観察画像の一例でもある。
【0079】
(1-2-6)粒子構造の平均長もしくは粒子が球状の場合の粒子構造の平均径(粒子サイズ)
粒子構造の平均長もしくは粒子が球状の場合の粒子構造の平均径(粒子サイズ)は、
フィラメント、ステープル、ビーズワイヤ、ビーズバルクの短軸長dの平均値から求めることが出来る。金属系構造体がステープルもしくはフィラメント状の形状に基づく場合には、110から150nmのサイズが揃った粒子(100Fと呼ぶ)が観察された。100Fは、粒子サイズが50から250nm、さらには50から175nm未満、さらには100から175nm未満であることが好ましい。金属系構造体がビーズ状の形状に基づく場合には、200から330nmのサイズが揃った粒子(300Bと呼ぶ)が観察された。300Bは、粒子サイズが150から500nm、さらには175から400nm以下、さらには175から350nm以下であることが好ましい。
(1-3)無定形相
本発明に係る無定形相について説明する。
【0080】
(1-3-1)無定形相の特長
無定形相は非晶質相であり、(a)高い固着性(b)高い充填能力を有し、充填相を形成する。水素含有量の高い状態が特に効果が高い。
【0081】
図20は、白く見えるおおむね300nmの粒子と無定形相からなっている。
図20において、白く見える細いひげのようなものが観察される。これは例えば、2枚のガラスの間にグリスを挟んでくっつけた後、はがした時に観られる波打ったような破面の先端部が白くひげのように観察されるもので、SEMの特性で凸部が白く観察されることによる。これが無定形相の特徴的な破面で、水飴に似た形態特性を有し、300nm粒子の空隙を埋めるように存在して、全体的に空隙の無い緻密な構造を形成している。また、
図21に示されるように延性が高い様子が観察される。また
図21では、無定形相のみからなる構造が観察される。このことから、
図20、21に示されるように、無定形相は非晶質相であることと、特に高いH含有量であることに起因して、無定形相相互の固着性が高く、また空隙を埋める充填能力が高くこれにより、実質的に空隙の無い緻密な固化体を形成することが解る。また、熱処理による結晶化後においても、
図25に示されるようにナノ粒子の集合体で実質的に空隙の無い緻密な固化体(焼結体)が得られている。これは、熱処理前の固化体において
図20、21に示されるように実質的に空隙の無い固化体が形成されていることの効果が大きい。このことから、無定形相は焼結体の緻密化に対しても効果が高いことが解る。
【0082】
(1-3-2)本発明の一実施形態に係る無定形相の具体例
ここで、本発明の一実施形態に係る金属系構造体がビーズ状のナノ部分構造を有する場合を具体例として、無定形相について説明する。
【0083】
図22、20及び23は、液体から取り出した金属系構造体であって、ビーズバルク状の形状を有するものについて、乾燥条件1(詳細は後述する。)に引き続き熱処理条件1(詳細は後述する。)の熱処理を行った場合の無定形相の生成の程度を示す画像である。
【0084】
図22は、50℃で2分間保持の熱処理条件1で熱処理を行った後、室温まで冷却した金属系構造体を観察した画像である。ビーズバルクを構成するビーズ状のナノ部分構造の形状は個々に確認することが容易であり、ビーズ間に空隙部が多数存在することも確認できる。
【0085】
これに対し、200℃で2分間保持の熱処理条件1で熱処理を行った後、室温まで冷却した金属系構造体を観察すると、
図20に示されるように、二次電子顕微鏡による観察画像では透明から半透明として観察される無定形相が、ビーズバルクを構成するビーズ状のナノ部分構造全体を取り囲むように発生し、その結果、金属系構造体の空隙部は無定形相により充填され、空隙部が実質的に存在しないか極めて少ない緻密な固化体を形成している。
【0086】
300℃で2分間保持の熱処理条件1で熱処理を行った後、室温まで冷却した金属系構造体を観察すると、
図23に示されるように、加熱温度が200℃の場合よりも無定形相は減少し、金属系構造体が有する空隙部の一部が無定形相により充填された状態となる。
【0087】
本発明の一実施形態に係る金属系構造体は、
図23に示されるように、複数のビーズ状のナノ部分構造により画成される空隙部の少なくとも一部を充填するように存在する無定形相をさらに有してもよい。
【0088】
本発明の一実施形態に係る金属系構造体は、
図20に示されるように、複数のビーズ状のナノ部分構造をその内部に分散させるように存在する無定形相を有してもよい。
【0089】
本発明の一実施形態に係る金属系構造体は、これらの無定形相に関する二つの形態の双方を備えていてもよい。すなわち、
図20に示されるように、無定形相の内部にビーズ状のナノ部分構造が分散するとともに、そのビーズ状のナノ部分構造は複数が連結したものもあって、それらのビーズ状のナノ部分構造により画成される空隙部を埋めるように無定形相が存在していてもよい。さらには、
図21に示されるように、無定形相が実質的に単相となるように存在しても良い。
【0090】
無定形相は、ビーズ状のナノ部分構造を有する金属系構造体においてのみ観察されるものではなく、また、金属系構造体を加熱したときに初めて観察されるものでもない。例えば、
図5に示されるように、ステープルウェブ状の形状を有する金属系構造体においても無定形相を観察することができる。この
図5に係るステープルウェブ状の形状を有する金属系構造体は、液体から取り出した後、特段の加熱処理を受けておらず、室温にて乾燥させた後、観察したものである。したがって、加熱処理を特に施さなくとも、無定形相を観察することができる場合もある。
【0091】
無定形相の組成は必ずしも明確になっていない。しかしながら、金属系構造体内の水素の含有量が高い場合に無定形相が多量に存在することが観察される。この場合には、無定形相に水素が含有されていると考えられる。そして、この水素が金属系構造体に含有される金属系物質が酸化されることを抑制していると考えられる。
【0092】
前述のとおり、本発明の一実施形態に係る金属系構造体は、非晶質部分を含んでもよい。
図8に示されるフィラメントヤーン状の形状を有する金属系構造体の複数からなるフィラメントウェブの形状を有する金属系構造体(
図9)についてX線回折測定を行うと、
図40に示されるように、非結晶質性の高い構造体であることを示す結果が得られる。
【0093】
無定形相のしきい値は次のようにまとめることができる。
(1)金属系構造体に含有される水素の含有量を0.41原子%(0.01質量%)以上とすることにより、無定形相が形成される。
(2)金属系構造体に含有される水素の含有量を2.7原子%(0.05質量%)以上、好ましくは5.3原子%(0.10質量%)以上、さらに好ましくは10.1原子%(0.20質量%)以上とすることにより、無定形相が形成されやすくなる。
(3)可還元性物質の含有量を飽和濃度を上限として、0.3mmol/kg以上とすることにより無定形相が形成される。さらには下限値が0.3mmol/kgで、150mmol/kg未満、好ましくは60mmol/kg未満、さらに好ましくは15mmol/kg未満とすることにより、無定形相は形成されやすくなる。さらには、下限値を1mmol/kgとすることにより、より安定的に無定形相が形成される。
(4)溶媒にアルコールを含有させることにより、無定形相は形成されやすくなる。
【0094】
特に、金属系構造体が強磁性体、特にFeを含有する場合には、上記の(3)及び(4)の条件を満たす場合に、無定形相は形成されやすい。
【0095】
(1-4)クラスター構造とクラスター構造の集合体であるナノ粒子
(1-4-1)クラスター構造
本研究で得られた、非晶質単相からなるワイヤ形状/無定形相含有の構造体の水素含有量の測定結果は、Fe:H=20:1.12又は8:0.98であり、この配合比から20の頂点にFe原子、中心にH原子を配する、Fe20Hの正12面体のクラスター構造又は同様にFe8Hの正6面体(立方晶型)が近似的に最小単位として推量される。
【0096】
このクラスター構造は、化合物分子のような最小構成単位であり、組成と構造が決まっており、結晶成長することは無く、クラスターの集合体を形成することで非晶質ナノ粒子が形成されると考えることで、実験結果との整合性が得られる。すなわち、組成、構造、物性の揃った非晶質ナノ粒子は、クラスター型化合物の集合によって形成されるものと合理的に理解される。
【0097】
非晶質ナノ粒子の形状とサイズが揃うことは、ナノ粒子の持つ磁気的性質と表面効果により、クラスターが集合する過程で、自己制御による造粒反応(自己造粒反応)が起こることで、安定的な形状とサイズが形成されたものと推測する。
【0098】
(1-4-2)通常の還元析出非晶質粒子(水素含有無し)
非晶質粒子は、基本は無定形である。水素を含有しない非晶質の場合は、酸化し易いために、撹拌により千切れて表面が酸化して粒子状となるか、最初から或る大きさ以上に凝集できない―凝集途中で酸化が進行してお互いが固着できなくなる等のメカニズム(つまりは酸化)により粒子が形成されている。言い換えれば、通常の水素を含有しない非晶質の場合は、粒子が形成されるのではなく、酸化するので、大きな凝集体である無定形相が形成できないことによる。撹拌するばあいは、機械的に粉砕するようなもので、粉砕条件を一定にすることで粉砕粒子のサイズが揃うことになる。
【0099】
本願は、水素含有のため酸化され難いため、無定形相成分が凝集体を形成したり、粒子の隙間に入ることで、無定形相(数100nm以上の凝集体)を形成する。
【0100】
(1-4-3)クラスター構造の集合体と粒子形状
実施例においては、正12面体クラスターも、正6面体クラスターも、共に短距離秩序を持ったクラスターでかつ集合体は非晶質となる(長距離秩序は形成しない)という性質を有する。これは、金属組成が単元素に制御されながら、水素を高含有することで全体的に非晶質を形成するという実験事実から導かれる。
【0101】
本願のように、定形ナノ粒子が形成されることが特異的である。正12面体の場合は、このクラスターは、100nm程度のナノ粒子(以下、「100F」という。)を形成して、成長が自己完結する。すなわち、自らの磁性によって集合体の形状とサイズが自己制御される―磁性的に安定な形状になることで成長が止まる―ことにより、100Fに揃った粒子が形成されるものと考えられる。この100Fが磁場中で整列したものがワイヤ構造である(
図31)。
【0102】
正6面体の場合は、このクラスターは、300nm程度のナノ粒子(以下、「300B」という。)を形成して、成長が自己完結する。100Fと同様のメカニズムが働くが、磁性が弱いために大きな粒子が形成されるものと考えられる。同様に磁場中で整列し、ビーズワイヤを形成する(
図27)。
【0103】
(1-4-4)無定形相の形成
無定形相は、300Bがくずれた(崩壊要因)か、もしくは300Bを形成することなく無定形相を形成したか(集合阻害要因)によって形成されるもので、要するに無定形相と300Bは同じもの(正6面体クラスター)から構成され、実施例の条件が遷移的な条件であることで、非晶質ナノ粒子の形状が遷移的に変化した(定形/無定形)ものと考えられる。
【0104】
図20では、300Bと無定形相が混在した相が形成されている。
図21では、ほぼ無定形相である。
図27では、磁場を掛けてビーズを整列固着させビーズワイヤとしたもので、無定形相が確認できず、ほぼビーズ(300B)のみである。このビーズのみの形態も、乾燥後は非晶質単相で(
図44)、熱処理後はXRDの結果(実施例1-9-3)からαFe単相であり、無定形相を含有した
図20と同じ構造変化、組成であることから、300Bと無定形相は共に非晶質で、同じ組成(Fe単相)であることが解る。磁場を掛けてビーズのみになった理由は、磁場により粒子が選択的に集合されビーズワイヤ状に結合したことによると思われる。無定形相は、磁場が少し弱く集まりにくいか、溶媒の抵抗を受け易く集まりにくいかして、洗浄工程で捨てられた可能性がある。もしくは、磁場の作用でビーズの形状が安定になった、すなわち磁場の作用で形状が崩れにくくなったことも考えられる。また、
図20、22、23の比較では、乾燥温度(熱処理温度)によって無定形相の量が変化している。
【0105】
図5では、溶媒にエタノールを添加した条件におけるステープルで無定形相が形成されている。溶媒にエタノールを添加したことでクラスターの集合を妨げて、定形粒子の形成を阻害し無定形相を形成した(集合阻害要因)、もしくは、溶媒にエタノールを添加したことで、クラスター構造が変化して水素の含有量が増加したことが考えられる。
【0106】
2.金属系構造体に基づく構造体
(2-1)結晶化金属系構造体
本発明の一実施形態に係る少なくとも一部に結晶相を有する結晶化金属系構造体は、上記の金属系構造体を加熱することなどにより結晶化させることによって得られる。結晶化のための条件(加熱により結晶化する場合にはその温度や雰囲気などが具体例として挙げられる。)は、金属系構造体の構造や組成に基づき適宜設定される。一例を挙げれば、
図32に示される、Feを金属系還元体としフィラメントウェブ状の形状を有する金属系構造体では、
図56に示されるように、500℃以下に結晶化に基づくと考えられる発熱ピークを有する。
【0107】
本発明の一実施形態に係る金属系構造体を、結晶化温度を超えて加熱すると、ナノ部分構造により画成される空隙部の体積が減少した構造や、空隙部が実質的に消滅した構造を有する結晶化金属系構造体が得られる場合がある。
【0108】
図24及び
図25は、ビーズバルク状の金属系構造体を400℃に加熱したものの観察画像の一例であり、
図43は600℃に加熱して得られる金属系構造体のX線回折スペクトルの一例である。ビーズバルク状の金属系構造体は、200℃の熱処理後においては
図18から21に示すように無定形相を有する構造体である。
図25は、
図24の一部を拡大したものであり、400℃に加熱されることで結晶化や焼結が進行するなどして、空隙部が実質的に存在しないか極めて少ない、ナノ粒子からなる緻密な固化体を形成していることがわかる。また、
図43の結果からは、高純度金属相(αFe)からなる構造体を形成していることが観察される。
【0109】
図35は、ビーズバルク状の金属系構造体を600℃に加熱したものの観察画像の一例であり、
図50は600℃に加熱して得られる金属系構造体のX線回折スペクトルの一例である。
図33、
図34はビーズバルク状の金属系構造体を150℃から200℃に加熱したものの観察画像の一例であり、ビーズ状のナノ部分構造がほぼ等方的に連結し、無定形相が極めて少ない金属系構造体であることが観察される。
図35に示すように、600℃に加熱されることで結晶化や焼結が進行するなどして、空隙が減少する様子が観察されるが、ナノ粒子からなる構造体には空隙が多く存在している。また、
図50の結果からFe
2Bの金属間化合物単相を形成していることが観察される。
【0110】
以上の結果から、無定形相の存在及び/又は、金属系構造体が水素を含有する、さらには水素の含有量が0.4原子%(0.01質量%)以上であること、さらには2.7原子%(0.05質量%)以上であること、及び/又は金属系構造体が非晶質部分を含む場合に、ナノ粒子からなる固化体を形成することが、さらには高純度金属系構造体で、ナノ粒子からなる緻密な固化体を形成することが容易になる。
【0111】
図27は、ビーズウェブ状の形状を有する金属系構造体を250℃に加熱したもの観察画像の一例であり、この
図27に示される金属系構造体を600℃に加熱して得られる金属系構造体の観察画像を
図28に示す。結晶化や焼結が進行することでビーズ状の形状を有するナノ部分構造の直径が大きくなり、ナノ部分構造により画成される空隙部の体積が減少していることがわかる。
【0112】
図27に示される金属系構造体をさらに800℃まで加熱すると、
図29に示されるように、ビーズ状の形状を有するナノ部分構造の直径はさらに大きくなり、空隙部が実質的に消滅した構造を有する金属系構造体で、ナノ粒子からなる緻密な固化体を形成している。600℃の熱処理後のXRDの測定結果(
図63)から、この緻密な固化体はαFe単相からなるナノ構造体もしくはナノ粒子焼結体であることが解る。
【0113】
本発明の一実施形態に係る金属系構造体から得られた結晶化金属系構造体は、金属の単相からなるものと解されるX線回折スペクトルを有する場合もある。例えば、可還元性物質から還元された金属系還元体がFeである場合には、金属系構造体が事実上非晶質からなるものであるときに、これを加熱して得られる結晶化金属系構造体は、αFe単相のピークを有するX線回折スペクトルが得られる(
図65)。このように単相の材料が得られる理由は、本発明の一実施形態に係る金属系構造体が水素を含有し、金属系構造体を結晶化するために加熱したときに、この水素が金属系構造体に含有される金属系還元体の酸化を抑制しているからであると考えられる。
【0114】
(2-2)複合構造体
本発明の一実施形態に係る複合構造体は、上記の金属系構造体をその一部として備えるものである。複合構造体における金属系構造体の含有比率は特に限定されない。
【0115】
複合構造体において金属系構造体の方が主体的であってもよい。そのような場合の具体例として、ナノ部分構造により画成された空隙部を有する金属系構造体の空隙部内に他の材料(本明細書において「付加物質」ともいう。)が存在しているものや、金属系構造体にめっき処理を施したものが挙げられる。前者の例において、付加物質は、金属系構造体に対して固着していてもよい。固着させるための具体的な手段として加熱や加圧が例示される。付加物質は金属系構造体と組成及び構造の少なくとも一方が異なっていれば、具体的な組成や構造は特に限定されない。金属系構造体が還元体をFeとする場合を例とすれば、白金などの触媒、タングステンの粉体、セラミック粉体からなる付加物質が例示される。
【0116】
複合構造体における金属系構造体の含有比率が付加物質の含有比率よりも少なくてもよい。そのような場合の具体例として、金属系構造体を焼結助剤とする焼結材料や、金属系構造体をその内部に分散させてなる樹脂系材料が挙げられる。
【0117】
複合構造体は、上記の結晶化金属系構造体をその一部として備えていてもよい。かかる複合構造体は、結晶化金属系構造体に対して付加物質を存在させることにより得てもよいし、金属系構造体をその一部として備える複合構造体の金属系構造体を結晶化させることにより得てもよい。また、金属系構造体同士を固着させることにより得てもよい。さらに、加熱及び/又は加圧することによって、金属系構造体の空隙の体積を減少させる、金属系構造体内部の部分構造同士を固着させることができる。
【0118】
3.金属系構造体の製造方法
(総論)
既に述べたように、本願は、規定値以上の水素を含有する金属系構造体を提供することで、金属系構造体の固着性や成形性を安定的に付与するものであり、特にナノサイズの粒子においてはその物性の安定性や安全性に対して効果が大きい。さらにナノ粒子の集合体によって構成される2次構造を形成制御する上で特に効果が大きい。水素を含有することに加えて、非晶質相を含有するもしくは、水素を含有する非晶質相を含有すること、さらには水素を含有することによって形成された非晶質相を含有することによって、さらに成形性が向上することを見いだした。
【0119】
従来は、金属系構造体が水素を含有する、さらには通常の含有範囲を超えて水素を含有する、すなわち特定の状態(温度、圧力)における水素固溶の飽和濃度を超えて水素を含有すること、さらには水素を含有することに依って非晶質を形成することが不可能であった、もしくは極めて困難であった。その理由は、本願のような高い水素含有量制御が通常の方法ではできなかったためである。通常の方法とは、材料のおかれた環境において水素ガスの圧力を上げる、温度を上昇させることで飽和濃度を上げるなどして水素含有量を増大させたり、還元反応において、例えば、水素を含有する還元剤の濃度を上げて溶液中の水素含有量を増大させるなどすることで、構造体の水素含有量を増大させる方法が可能性として挙げられるが、これらの方法では本願の前述のような水素含有量の増加変化は起こらないか極めて困難で、本願のような水素含有量の制御ができず、本願のような水素含有体の作製ができなかった。
【0120】
本願は、上記のように、水素含有量の直接制御が出来ないかもしくは極めて微量である点を鑑み、従来に無い制御方法を試みた。一例として、本願で用いた液中2液混合による還元析出反応における制御要因は、大きく「溶液制御」と「反応環境制御」があり、前者の因子として、(1)還元剤、(2)可還元性物質、(3)溶媒があり、(4)「反応環境制御」と合わせて4点が主要なものである。(1)は前述の直接制御法であるが、この要因を制御しても本願のような特別な水素含有量制御が実質的にできない。(2)から(4)については、混合溶液中の水素濃度が直接変化することは無く、通常の反応状態を想定する場合には一見あり得ない制御条件である。本願ではこのように従来の制御方法では実現不可能と思われる制御因子を操作することで、水素含有量の制御を以下の方法で実現した。
【0121】
(4)「反応環境制御」
2液混合時の、2液の界面領域において物理的な撹拌を極力排除する、すなわち「静かに反応させる」ことで、水素含有量が増大する結果、非晶質相が全体にわたって形成できる(非晶質単相の形成)ことを見いだした。このことにより、反応時もしくは反応直後の反応環境(一例として撹拌等の物理的な動的環境もしくは温度や圧力)を制御するもしくは反応環境変化を制御(極力小さく)することで、析出体の水素含有量を制御し(増加させ)、非晶質相の形成を制御できる(結晶相の形成を阻止する)ことを明らかにした。一見、析出反応の反応環境制御という間接的な制御要因では有るが、従来に無いFeとHとの或る種の結合反応状態を、反応環境を整えることで発現させたものであり、ナノサイズの構造体を作製する上では極めて効果的な制御方法であると言える。
【0122】
(2)主として可還元性物質の濃度制御に依る水素含有量の制御
一見、水素含有量に関しては無意味なパラメータ制御であるかのように見えるが、特に可還元性物質濃度を大きく変化させることで特定の粒子が形成されるもしくは選択される自己造粒反応による定形粒子の形成現象を見いだしたことに基づく。主として可還元性物質の濃度を変化させる操作により、特定の結合反応状態が選択され、水素含有量が制御されることで非晶質構造を形成し、結果特定の組成、形状、サイズ、構造を有するナノ粒子(自己造粒反応粒子)を形成するに至ることを見いだした。このような極めて精細な結合反応状態の選択的制御が主として可還元性物質の濃度変化によってなされることは、ナノ構造体を作製する上で極めて効果的な制御方法であると言える。この反応制御においては、先の(4)の反応環境制御の効果が極めて大きい。
【0123】
(3)溶媒
以上のような、通常の反応系とは全く違う精緻な反応制御を行い、ナノ粒子やナノ構造体を作製する上で溶媒の効果が極めて大きいことを見いだした。本願の一例では、水の溶媒にエタノールを添加することで、HとFeのある種の結合反応状態を制御することができる。エタノール添加によって、析出構造体の水素含有量が増大し、これに依って組成を制御する(金属元素の含有量を増加させる)ことが可能であり、また、無定形相の形成を顕著に可能とした。この場合も、(2)と同じく結合反応状態の選択的制御がなされたことによるものである。この例も一見、無関係なパラメータ制御であるかのように思われたが、FeとHとの或る種の結合反応状態を溶媒によって制御することで水素含有量を制御することを可能としたもので、ナノ構造体を作製する上では極めて効果的な制御方法であると言える。この反応制御においても、先の(4)の反応環境制御の効果が極めて大きい。
【0124】
以上の特殊な制御方法は、金属と水素とのある種の結合反応状態を選択することに依る制御方法で、特に(2)(3)の制御要因は、結合状態を選択することによって、粒子の形態、組成、結晶構造が選択的に決定される制御方法であり、どの結合状態を選択するもしくは発現させるかによって出来上がった物の特性(物性)が決まるため、従来反応のように段階的に性質が変化することはみられない場合が有る。また、結合状態を選択するもしくは発現させるための制御要因についても、段階的に変化せず、ある範囲において、もしくはあるしきい値以上において、特定の状態が選択され、特定のナノ粒子やナノ構造が形成される場合が有る。
【0125】
本願では、この金属系元素と水素とのある種の結合状態が、MmHの配合比率(mは整数で、m≧3)からなる化合物もしくはクラスターである場合(「水素クラスター」又は「Hクラスター」と呼ぶ)に、金属系構造体、ナノ粒子、又はクラスターの物性が、特に安定的に形成できることを明らかにした。また、結合状態の選択はHクラスターのm数制御によって可能であり、例えばナノ粒子の形態として定形粒子サイズと無定形相の形成、金属系元素組成、結晶構造の制御を極めて精緻に行えることを明らかにした。
【0126】
(3-1)可還元性物質を還元する工程
本発明の一実施形態に係る金属系構造体は、可還元性物質が還元してなる構造体である。すなわち、還元されることが可能な特定の物質である可還元性物質を還元して得られる構造体である。「可還元性物質が還元してなる構造体」は、「被還元性物質を還元してなる構造体」と同義である。本明細書において「可還元性物質」とは、還元されることが可能な物質で、被還元性を有する物質であり、「被還元性物質」と表記することも可能であって、金属元素及び/又は半金属元素の少なくとも1種を含む金属系可還元性成分を含有する物質である。「金属系可還元性成分」とは、「金属系被還元性成分」と表記可能であり、電子を受け取って価数が0となった金属系還元体(半金属を含む。)を形成可能な、相対的に酸化された物質である可還元性成分(被還元性成分)を含有する金属系物質を意味する。具体的には、金属系還元体として金属及び/又は半金属が例示され、この場合には、金属系可還元性成分は金属及び/又は半金属の陽イオンが例示される。金属系可還元性成分は、上記の例で説明すれば、金属及び/又は半金属の陽イオン、かかる陽イオンの水和イオン、かかる陽イオンを含むオキソ酸イオン(モリブデン酸イオンなど)を含む物質、かかる陽イオンを含む配位化合物(フェロセンなど)が例示される。
【0127】
可還元性物質を与える物質として、金属塩化物、金属硫酸塩、金属酢酸塩、金属硝酸塩、金属過塩素酸塩などの金属塩が例示される。これらの塩は、無水和物でも水和物でもよい。金属は強磁性金属でも非強磁性金属でもよい。金属塩に含まれる金属イオンは、錯イオンとなっていてもよい。金属塩の例として、酢酸コバルト(II)、硝酸コバルト(II)、塩化コバルト(II)、硫酸コバルト(II)、過塩素酸コバルト(II)、酢酸ニッケル(II)、硝酸ニッケル(II)、塩化ニッケル(II)、硫酸ニッケル(II)、過塩素酸ニッケル、テトラアンミンニッケル(II)塩化物、酢酸鉄(II)、硝酸鉄(II)、硫酸鉄(II)、塩化鉄(II)、過塩素酸鉄(II)、ヘキサアンミン鉄(II)塩化物、酢酸銅(II)、硝酸銅((II)、硫酸銅(II)、塩化銅(II)、過塩素酸銅(II)、テトラアンミン銅(II)塩化物、硝酸銀(I)、ビスアンミン銀(I)塩化物、酢酸鉛(II)、テトラクロロ白金(II)酸カリウム、テトラクロロ白金(II)酸ナトリウム、テトラクロロ金(III)酸カリウム、テトラクロロ金(III)酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0128】
本発明に係る水素を含有する金属系構造体の製造方法の一例は、水素及び水素含有物質の少なくとも一方を含む液体中で、金属元素及び/又は半金属元素の少なくとも一種を含む可還元性物質を還元する還元工程を有することを特徴とする。本発明の一実施形態に係る水素系物質を構成する水素含有物質として、水素ラジカル及び水素アニオンもしくはヒドリドならびにこれらを含む物質が例示される。さらには、水素系物質が存在する液体として、例えば水素含有物質を含む溶液において、溶媒など他の物質と水素結合などの相互作用を生じた結果としてラジカルやアニオンやヒドリドが存在している場合が例示される。可還元性物質の還元を安定的に行う観点から、水素系物質は還元性を有していることが好ましい。
【0129】
本発明の一実施形態に係る金属系構造体がナノ部分構造を有する場合には、水素系物質が存在する液体中で可還元性物質を還元してナノ部分構造を形成する工程、及びナノ部分構造の複数を備える金属系構造体が形成する工程を含む製造方法により、金属系構造体は製造されてもよい。この場合において、ナノ部分構造を形成する工程と金属系構造体が形成する工程とは、完全に独立した工程として定義できるものであってもよいし、連続的に生じるものであってもよい。
【0130】
上記の製造方法において、可還元性物質を還元させる具体的な方法は限定されない。還元性物質により還元させてもよいし、電解により還元を行ってもよい。電解による還元の具体例として電気めっきや液体の電気分解が例示される。加熱により分解還元してもよい。具体例として、アルコール中で金属塩(塩化白金(II)酸カリウムなど)を加熱還流することにより、コロイド状の金属を生成させることができる。光還元を行ってもよい。具体例として、水の光分解が挙げられる。電子供与(水素の供与)により還元を行ってもよい。この方法の具体例として、ガス溶解が挙げられ、さらに具体的には、水素ガスを水中にバブリングすること、NaBH4等の還元剤(還元性物質の具体例として位置づけられる。)から水素分子(H2)を発生させることが例示される。電子供与物質を液中に供給してもよい。そのような物質として、下記に示されるZnのような金属、金属イオン等が例示される。
Cu2+ + Zn → Cu + Zn2+
なお、「還元性物質」とは可還元性物質を還元させることが可能な物質であり、「還元性を有する」とは、可還元性物質を還元させる作用を有することである。
【0131】
水素含有還元剤として、NaBH4等の水素化ホウ素塩;NaH2PO2、H3PO2等の次亜りん酸塩;ヒドラジン(H2NNH2);シュウ酸(C2H2O4)、ギ酸(HCOOH)等のカルボン酸;NH2OH、N(CH3)3、N(C2H5)3等のアミン類;CH3OH、C2H5OH、C3H7OH等アルコール類などが例示される。水素を含有しない還元剤として、亜硫酸ナトリウム(Na2SO3)等の亜硫酸塩;次亜硫酸ナトリウム(Na2S2O4)等の次亜硫酸塩:などが例示される。水素ガスを発生させる物質として、NaBH4等の水素化ホウ素塩が例示される。可還元性物質と水素系物質との反応促進のためには、水素含有還元剤が好ましい。さらには、水素ガス発生させるものが良い。水素ガスを別に液中にバブリングする方法と併用しても良い。可還元性物質が強磁性体を形成可能な元素を含む場合、特にFe元素を含む場合には、水素含有還元剤として、水素化ホウ素塩、特にNaBH4を用いることが好ましい場合がある。特に、金属系構造体の形状的異方性を制御するもしくは形態を制御する場合に好適である場合がある。
【0132】
金属系構造体を製造する際に、水素系物質が存在する液体中で可還元性物質を還元させる方法を実施することにより、還元により生じた金属系還元体が他の元素と反応する、具体例を挙げれば酸化することが抑制されていると考えられる。すなわち、液体中の水素系物質が金属系還元体に先んじて他の元素と反応することにより、金属系還元体と他の元素との反応が阻害されていると考えられる。
【0133】
金属系構造体内の水素は、前述のとおり、金属系還元体との結合反応や固溶体を形成することなどにより、金属系構造体の組成、無定形相の発生、結晶構造などに影響を与えていると考えられる。
【0134】
以上のことから、本発明に係る金属は、水素よりもイオン化傾向が大きいことが好ましい。
【0135】
(3-2)金属系構造体の組成、水素含有量、無定形相の制御
上記の製造方法において、液体の溶媒組成、水素系物質の液体中の量及び水素系物質の液体中の濃度、可還元性物質の液体中の量及び可還元性物質の液体中の濃度、ならびに液体中での可還元性物質の還元時間からなる群(本明細書において「第一の群」ともいう。)から選ばれた1つ以上を制御することにより、得られる水素を含有する金属系構造体の組成を制御してもよい。
【0136】
上記の製造方法において、第一の群から選ばれた1つ以上を制御することにより、金属系構造体内の水素の含有量を制御してもよい。金属系構造体内の水素の含有量の測定方法は前述のとおりである。
【0137】
上記の製造方法において、第一の群から選ばれた1つ以上を制御することにより、金属系構造体内の金属元素及び/又は半金属元素の少なくとも1種ならびに水素以外の元素(本明細書において「他の元素」ともいう。)の含有量を低減させてもよい。他の元素の具体例として酸素が例示される。
【0138】
上記の製造方法において、第一の群から選ばれた1つ以上を制御することにより、金属系構造体の粒子形状、あるいは非晶質相の粒子形状を制御してもよい。
【0139】
上記の製造方法において、第一の群から選ばれた1つ以上を制御することにより、金属系構造体が無定形相を有するか否かを制御してもよい。
【0140】
水素系物質を含有する液体は還元剤を含有していてもよい。この場合には、第一の群に、水素系物質を含有する液体中の還元剤の量及び濃度を含めることができる。上記還元剤は水素含有還元剤を含み、水素系物質は水素含有還元剤から生成可能とされてもよい。水素含有還元剤の具体例として、前述のように、NaBH4、LiAlH4などが挙げられる。水素含有還元剤以外の還元剤の具体例として、2価のFeイオン、2価のSnイオンなどが挙げられる。
【0141】
本明細書において「溶媒組成」とは、可還元性物質の還元が行われる液体の溶媒の組成を意味する。液体中での可還元性物質の還元の生じやすさの程度を溶媒組成により制御することなどによって、金属系構造体の組成、特に、金属系構造体内の水素の含有量や金属系構造体内の他の元素の含有量を、溶媒組成によって制御することが可能となる。溶媒組成によって金属系構造体が無定形相を有するか否かを制御することができる理由は定かでないが、金属系構造体内の水素が無定形相の発生に影響を与えていると考えられる。
【0142】
また、溶媒組成によって、非晶質相の粒子形状を制御することができる。
【0143】
溶媒組成による上記の制御性を高める観点から、水素系物質が存在する溶媒は、水素結合を形成可能な水素原子を有する物質を少なくとも1種含むことが好ましい。上記の水素原子を有する物質として、O-H結合、N-H結合、P-H結合及びS-H結合からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む官能基を有する物質が例示される。さらに具体的には、水、アルコール、アミンやチオールが例示される。水を溶媒とする場合には得られた金属系構造体の水素含有量が低く、アルコールを溶媒とする場合には得られた金属系構造体の水素含有量が高くなる傾向が見られることもある。この得られた金属系構造体の水素含有量が高くなる傾向は、水を主溶媒としてアルコールを添加しても見られることがある。なお、上記の水素原子を有する物質は溶媒の一種以外の形態で液体に含有されていてもよい。
【0144】
水素系物質の液体中の量及び水素系物質の液体中の濃度も、可還元性物質の還元の生じやすさなどに影響を及ぼし、結果的に、金属系構造体の組成、特に、金属系構造体内の水素の含有量や金属系構造体内の他の元素の含有量を制御することが可能となる。水素系物質の液体中の量及び水素系物質の液体中の濃度によって金属系構造体が無定形相を有するか否かを制御することができる理由は定かでないが、金属系構造体内の水素が無定形相の発生に影響を与えていると考えられる。
【0145】
可還元性物質の液体中の量及び可還元性物質の液体中の濃度も、可還元性物質の還元の生じやすさなどに影響を及ぼし、結果的に、金属系構造体の組成、特に、金属系構造体内の水素の含有量や金属系構造体内の他の元素の含有量を制御することが可能となる。可還元性物質の液体中の量及び可還元性物質の液体中の濃度によって金属系構造体が無定形相を有するか否かを制御することができる理由は定かでないが、金属系構造体内の水素が無定形相の発生に影響を与えていると考えられる。
【0146】
可還元性物質の濃度(FS)(mmol/kg)を以下のように制御することで、H%、m数、定形粒子、組成、結晶構造が造り分けられる(制御される)。
FS(Low範囲):0.3≦FS<15、(好ましくは0.3≦FS<3)mmol/kgとすることで、0.4at%≦H%<2.0at%、m数≧31、300B、Fe2B組成の非晶質単相が得られる。
FS(High範囲):3≦FS(好ましくは150以下)、(好ましくは15≦FS≦150)mmol/kgとすることで、2.0at%≦H%、m数≦30、100F、Fe非晶質相含有金属系構造体、さらにはFe非晶質単相が得られる。
【0147】
さらには、以下の条件とすることが好適である。
最低限:水素含有物質濃度(H/+)>12mmol/kg、FS>0.3mmol/kg
【0148】
さらには、自己造粒反応を安定的に進行させるためには、H/+が2000mmol/kg未満and/orFS150mmol/kg未満とすることが好ましい。さらには、上記FS(Low範囲)において、FS:0.3mmol/kg以上14mmol/kg未満、かつH/+:6(NB:3)mmol/kg以上120(NB:60)mmol/kg未満とすること、さらにはFS:1.0mmol/kg以上で3.0mmol/kg未満、かつH/+:20(NB:10)mmol/kg以上120(NB:60)mmol/kg未満とすることが安定的な操業の観点から好ましい。
【0149】
さらには、上記FS(High範囲)において、(S16)FS:15mmol/kg以上150mmol/kg未満で、かつH/+:30(NB:15)mmol/kg以上2000(NB:1000)mmol/kg未満で、H:0.05質量%(2.7原子%)以上とすることで、さらにはH:0.1質量%(5.3原子%)以上とすることが安定的な操業の観点から好ましい。
【0150】
液体中での可還元性物質の還元時間は、可還元性物質が還元してなる金属系還元体の生成量に影響を及ぼすなどして、金属系構造体の組成、特に、金属系構造体内の水素の含有量や金属系構造体内の他の元素の含有量を上記の還元時間によって制御することが可能となる場合がある。
【0151】
(3-3)2液混合
液体中での可還元性物質の還元を2液混合により行ってもよい。すなわち、可還元性物質を含有する第1の液体(A溶液)と、水素系物質及び当該水素系物質を生成可能な物質の少なくとも一方を含有する第2の液体(B溶液)との混合により、可還元性物質の還元を行ってもよい。この際に、第1の液体に対して第2の液体を徐々に混合することにより、可還元性物質の濃度変化を極力小さくすることが出来るので良い場合がある。第1の液体の容量に対する第2の液体の混合速度は、50体積%/秒以下とするのが良い。さらには0.01体積%/秒以上で10体積%/秒以下とすることが好ましく、より安定的に反応を行うためには、0.05体積%/秒以上で1体積%/秒以下とするのが良い場合がある。
【0152】
この場合には、第1の液体中の可還元性物質の量及び濃度、第2の液体中の水素系物質の量及び濃度ならびに水素系物質を生成可能な物質の量及び濃度、ならびに第1の液体の容量に対する前記第2の液体の容量の比率である容量比からなる群(本明細書において「第二の群」ともいう。)から選ばれた1つ以上を制御することにより、金属系構造体の組成を制御することができる。第二の群から選ばれた1つ以上を制御することにより、金属系構造体内の水素の含有量やその他の元素の含有量を制御することができる。第二の群から選ばれた1つ以上を制御することにより、金属系構造体が無定形相を有するか否かを制御することができる。
【0153】
第2の液体は還元剤を含有してもよい。還元剤は水素含有還元剤を含み、水素系物質は水素含有還元剤から生成可能とされてもよい。この場合には、還元剤は上記の水素系物質を生成可能な物質の一種に該当する。第2の液体は還元剤を含有する場合には、第二の群に第2の液体中の還元剤の量及び濃度を含めることができる。
【0154】
金属系構造体の組成、金属系構造体内の水素の含有量、その他の元素の含有量、金属系構造体が無定形相を有するか否かについて、容量比が高い方が、金属系構造体内の金属系成分の含有量及び水素の含有量が高くなり、酸素など他の元素の含有量が低くなる傾向がある。
【0155】
また、A及び/又はB溶液中の溶媒の種類及び濃度を調節することによって、水素の含有量、非晶質相の粒子形状、非晶質相の組成を制御することができる。
【0156】
ここで、A溶液中の前記可還元性物質の濃度は、金属及び/又は半金属元素の換算値でもよい。さらには、前記可還元性物質の濃度は金属及び/又は半金属の陽イオン濃度が例示される。金属元素を主成分とする金属系構造体の場合には、金属の陽イオン濃度が例示される。
【0157】
(3-4)滴下及び攪拌(反応環境制御)
第1の液体及び第2の液体の混合は、第1の液体及び第2の液体の一方の、第1の液体及び第2の液体の他方への滴下によって行われてもよい。この場合には、容量比は可還元性物質の還元時間との相関を有する。この際に、第1の液体に対して第2の液体を滴下混合することにより、可還元性物質の濃度変化を極力小さくすることが出来るので良い場合がある。この際の第2の液体の滴下速度は、0.001mL/秒以上で50mL/秒以下とするのが良い。さらに安定的に反応を行うために、0.01mL/秒以上で5mL/秒以下とするのが良い場合がある。また、前記滴下速度で、複数のノズルを用いて別の場所に滴下操作を行うなどして、滴下操作時間を実質的に短縮するようにしても良い場合がある。
【0158】
可還元性物質の溶液に還元成分の溶液を滴下することで、滴下時の可還元性物質の濃度の変動を少なくすることができ、安定的に金属系構造体の形成が可能となる。
【0159】
また、撹拌操作等によって、析出粒子に機械的な外力を与えることを極力抑える(自己造粒反応の進行を阻害せずに制御する)ことにより反応を進行することが好ましい。
【0160】
このように、「静かに反応させる」ことで、非晶質相の形成を促進させることが出来る。すなわち、「反応環境制御」によって、H%の含有量を制御し非晶質相の形成を制御できる。さらには、クラスターのm数制御が可能となりこれによって、金属系構造体、ナノ粒子の物性が安定的に形成される。反応環境制御は、自己造粒反応に関しても重要な要因で、非晶質相の形成と同様に、「静かに反応させる」ことで、定形粒子の物性を安定的に形成することが出来る。
【0161】
反応環境制御は、反応前の静置状態との比較において反応中の変化(静置状態との差分)を制御することであって、本願の所定の結果を得るために極めて重要な制御要因である。反応時の溶液の圧力[Pa]、温度[K]、磁場作用[T]の変化が十分に小さい値(<1E(-4))に制御されている場合、例えば、実施例のように常温、常圧で、磁場作用の変化がない(永久磁石が固定されている)場合においては、「反応環境制御」は、「体積要因」と「撹拌要因」の変化量を特定の値以下に制御することによってなされる。「体積要因」とは、混合による体積増加率:V2/V1/time[1/s]、又は、混合による体積増加量:V2/time[mL/s]である。「撹拌要因」とは、回転子の回転速度(S)[1/s]、又は、回転子の最大速度(Sv)[mm/s]であり、溶液の振動による場合は、振動数[1/s]、溶液の移動による場合は、最大の移動速度[mm/s]である(移動速度は、容器に対する速度)。定常流がある場合はその定常流に対する相対速度[mm/s]である。SとSvは、適宜換算される。Sv=2πrS(r:回転子の半径)。
【0162】
(3-5)水素含有量とm数のしきい値T
「反応環境制御」に加えて、「溶液制御」特に、可還元性物質の濃度(FS濃度)を変化させることで、金属元素もしくは半金属元素とHのさらには、金属元素とHのさらには、実施例に例示されるようにFeとHの結合反応状態を選択的に制御し、この結果金属系構造体、ナノ粒子又はクラスターの水素含有量が制御され、特定配合比(m数)が制御される。さらに粒子形態の制御、すなわち粒子の水素含有量、組成、結晶構造、形状もしくはサイズが制御できる。
【0163】
本願では、水素含有量を制御する、さらにはm数を制御するための「可還元性物質濃度のしきい値T」が存在することを見いだした。(実施例1-11)しきい値T以上で、H%が2.0at%以上、m≦30以下に制御され、金属元素からなる、さらには金属単元素(Fe)からなる構造体、ナノ粒子又はクラスター(金属Hクラスター)が形成できる。(実施例1-12)しきい値T未満でH%が2.0at%未満、m≧31以上に制御され、Fe2B組成からなる金属系構造体が形成される。また溶媒制御によって、「しきい値Tが制御できる」。すなわち、(実施例1-7)溶媒にアルコール(さらにエタノール)添加することでしきい値が下がり、しきい値T以上で、H%が2.0at%以上、m≦30に制御され、さらにH%が9.0at%以上、m≦8、定形粒子300Bと混在する無定形相が形成され、金属元素、さらには単元素金属(Fe)からなる構造体が得られた。なお、本願実施例のしきい値は、溶媒が水の場合に、飽和濃度の0.21%もしくは3mmol/kgであり、アルコールを添加した場合は、しきい値が1/10に低下し、0.3mmol/kgであった。アルコールの添加量は、1wt%以上とすることで効果がある。エタノールとすることでさらに効果がある場合が有る。
【0164】
可還元性物質の濃度(金属イオン濃度)をしきい値以上とすることで、半金属を含まない金属元素からなる、さらには単元素金属(Fe)からなる構造体、ナノ粒子又はクラスター(「金属Hクラスター」)が製造できる場合が有る。しきい値は、クラスター組成(金属元素)に関するものであって、粒子形状とは必ずしも一致しない。
【0165】
定形粒子のサイズは、溶媒の種類によって変化しない場合が有る。すなわち、本願実施例の場合は、溶媒にアルコールを添加することで、H%、m数のしきい値は低下したが、定形粒子サイズは変化しなかった。
【0166】
しきい値以上で形成される、金属元素からなる、さらには単元素金属(Fe)からなる構造体、ナノ粒子又は(金属)クラスターにおいて、可還元性物質濃度が高い程、H%含有量が小さく、m数が大きいものが形成され、H%含有量、m数はそれぞれ可還元性物質濃度と負、正の相関が見られた。すなわち、可還元性物質濃度が高い程、構造体の金属成分が増加し、水素含有量が減少する傾向が見られた。
【0167】
(3-6)水素含有量の制御による非晶質相の形成、粒子形状、無定形相の形成、金属系構造体の組成の制御
以上のことを水素含有量の制御という点から見ると、金属系構造体の全体に対する水素含有量を制御することによって、次の(i)から(iii)の少なくとも1つを制御することができるといえる:
(i)非晶質部分の形成を制御する;
(ii)粒子形状を制御する;
(iii)金属系構造体の組成を制御する。
【0168】
(3-6-1)水素含有量の制御による非晶質相の形成
既に述べたように、本願は、通常の平衡反応のみならず溶融金属の急冷凝固法等の非平衡プロセスにおいても困難である、金属系元素、金属元素、さらには単元素金属の非晶質相の形成制御法を提供するものである。特にFeにおいては、Hとの化合物の形成が見いだせておらず、Hを固溶することは知られているが、Fe-Hの化合形態は従来極めて困難であることが知られていた。本願において水素を含有したFe非晶質相が形成されたことは、従来考えられなかった、FeとHの特異な結合反応状態が発現することで、Feが結晶化することを阻害して、水素を含有したFe非晶質相が形成されたものと見なされる。このHとの結合反応性が極めて低い元素であるFeにおいて、特異な結合反応状態を形成できたことから、Hとの反応性がFeと同等もしくはより強い他の金属元素に対して、本願の水素含有制御法さらには非晶質相の形成制御法が有効である。
【0169】
(3-6-2)水素含有量の制御による粒子形状の制御
既に述べたように、水素含有量の制御によって、粒子形状を制御することができる。粒子形状には、無定形相も含まれる。
【0170】
(3-6-2-1)粒子形状の制御と自己造粒反応、磁場数列
定形粒子は、「溶液制御」のうち特に可還元性物質の濃度制御に加えて、「反応環境制御」によってH%を制御することで、自己造粒反応が進行することにより形成される。すなわち、自己造粒反応によって、特定の形質が形成されるまで自発的に集合体が成長することで自己造粒反応粒子が形成される。これにより、形質が揃った粒子が形成されることが特徴である。特に本願のように非晶質相からなる定形粒子(自己造粒反応粒子)が形成されることは極めて特異的な現象であり、本願はその現象の発見と制御方法の考案に基づくものである。特に、金属元素さらには金属元素単相(Fe)からなる場合に本願の自己造粒反応の効果が極めて高い。
【0171】
(3-6-2-2)粒子形状の制御と自己造粒反応、反応環境制御、クラスター
自己造粒反応の詳細なメカニズムは不明であるが、特定のサイズに揃うことから表面積の効果が自己制御の要因の一つであると推測する。さらに、本願実施例の場合は、磁場中で集合、整列する性質から特定の磁性を有する粒子であり、その磁性が自己制御の要因の一つである。すなわち、磁気的に安定な形状が形成されている可能性がある。磁気作用の有無によって粒子サイズに変化が見られなかったことから、粒子そのものの磁気的特性による自己制御が作用しているものと考えられる。
【0172】
また、自ら定形粒子を形成する、すなわち自己造粒反応を安定的に進行させるためには「反応環境制御」が重要であり、本願実施例のように「静かに反応させる」ように制御されることが好適である。
【0173】
さらに、安定的に定形粒子を形成させる、さらには自己造粒反応を進行させるためには、特定配合比率からなる構造体、ナノ粒子又はクラスターを形成することが極めて効果的である。MmHの配合比率(mは整数で、m≧3)からなる化合物もしくはクラスター、さらには特定のm数を有する(m≦30、正多面体ルールに適合)クラスターが形成される場合は、それらのクラスターによって、短距離的な規則構造もしくは化合物が形成され、クラスターもしくはその集合体が特定の結晶構造、組成、磁気特性を有することで、自己造粒反応が安定的に進行し、実施例に示されるように、特性が揃った定形粒子が安定的かつ効果的に形成される。
【0174】
(3-6-3)水素含有量の制御による組成の制御
「溶質制御」すなわち主として可還元性物質の濃度を変化させ、金属系構造体のH%を増量させたところ、半金属元素を含まない金属元素からなる、さらには単元素金属(Fe)からなる金属系構造体が得られた。「溶媒制御」すなわち、溶媒の水にエタノールを添加し、金属系構造体のH%を増量させたところ、同様の半金属元素を含まない金属元素からなる、さらには単元素金属(Fe)からなる金属系構造体が得られた。
【0175】
「溶質制御」、「溶媒制御」と別の操作によって、H%制御、組成制御ができた。すなわち、「H%増加によって、半金属元素を含まない金属元素からなる高純度金属組成、さらには金属単元素組成(Fe)に制御する」ことができた。別の操作で、同じ因果関係が得られたことで、「H%制御によって組成制御する。」さらには、「H%増加によって金属元素からなる高純度金属組成、さらには金属単元素組成(Fe)に制御する」は普遍的な結論であると判断された。
【0176】
(3-7)m数の制御
m数を制御することはH%を制御することになるので、H%を制御する場合と同様に、m数は反応時のH濃度、例えば反応液中のH含有量で直接制御することができない。本願では、この状況からH%制御と同様に間接制御を試み、「反応環境制御」「溶液制御」によってm数制御が可能であることを見いだした。
【0177】
すなわち、m数を制御する方法(操作項目と条件)は以下である。
(1)「溶液制御」可還元性物質濃度のしきい値 m≦30 金属組成
(2)「反応環境制御」滴下/注入撹拌 m20/30 非晶質相形成
(3)「溶液制御」溶媒にアルコール含有 m8 しきい値低下
【0178】
前述のように、金属系構造体の水素含有量制御の観点からは間接制御と見なされた方法が、m数制御の観点から見ると直接制御であると理解された。すなわち、m数制御の観点から見ると極めて合理的な制御方法であることが理解され、Hクラスターの存在を裏付ける現象ともいえる。
【0179】
(3-7-1)FS濃度(可還元性物質濃度)しきい値
FS濃度のしきい値以上で、m≦30以下が得られることを見いだした。これによって、H%が2.0at%以上に制御され、金属Hクラスターが形成される。実施例のFeイオンの場合を考察すると、H%の観点からすれば、Feイオン濃度によってH%が制御される、さらにはFeイオン濃度が増大することによってH%が増大することは間接的な制御と解釈されるが、Feイオンの観点からすれば、Feイオン濃度をしきい値以上すなわちFeイオンを特定の濃度以上とすることで、FeとH以外の元素を排除してFe-Hクラスターが形成されたと理解され、直接的な制御と解釈される。さらに、m≦30以下の金属Hクラスターに限定する場合に、FS濃度とm数は正の相関が有る。すなわち(実施例1-7)FS_Lowでm=8、(実施例1-11)FS_Highでm=20が得られた。
【0180】
これらの結果から、可還元性物質濃度によるm数制御は、可還元性物質濃度しきい値以上で、m≦30以下の金属Hクラスターが形成され、この金属Hクラスターが形成される場合において、可還元性物質濃度を高めることでm数の大きな金属Hクラスターの製造が出来る。これによって、可還元性物質濃度によるm数制御は、直接的な制御であると解釈される。従って、FS濃度制御によるm数の制御方法は、特に可還元性物質が金属を含有する場合、さらには金属Hクラスターが形成される場合に効果が大きい。
【0181】
(3-7-2)「反応環境制御」
後述のように、反応環境を制御するすなわち、2液混合時に(実施例1-11-2)「滴下」、(実施例1-14)「注入混合と撹拌」と混合操作の制御によって、m数が、m=20、m=30にそれぞれ制御された。また、「反応環境制御」とは違う熱処理によって、m数が制御された。すなわち、(実施例1-11-2)熱処理前、(実施例1-11-3)450℃の熱処理後において、m数が、m=20、m=30にそれぞれ制御された。(実施例1-11、
図56)m=20のDSC分析の結果から、2つの発熱ピークが観察され、低温度側の約320℃の発熱ピークが、m数20のHクラスターからm数30のHクラスターへの構造変化を裏付ける測定結果と解釈される。これによって、m数20のHクラスターに比較して、m数30のHクラスターの方がエネルギー的に安定であり、析出反応を「静かに反応させる」ことによってエネルギー順位の高いm数20のHクラスターが形成され、その集合体が非晶質単相を形成したものと解釈される。
【0182】
これに対して「注入混合と撹拌」操作や、450℃の熱処理を行うことで、よりエネルギー順位が低く安定なm数30のHクラスターが形成されたものと解釈される。m数30のHクラスターもしくはその集合体である金属系構造体が一部に結晶相を含んだ非晶質相含有体を形成する機構は明確ではないが、m数が増大することで、金属原子の配合比率が増大し金属原子からなる結晶構造の形成が発現したものと推測される。一部に結晶相を含むことからも、m30のHクラスターはエネルギー順位の低くより安定的なクラスターであるか、もしくはより安定的な集合構造を形成したものと解釈される。
【0183】
(3-7-3)溶媒
実施例においては、溶媒にエタノールを含有させることで先の可還元性物質濃度のしきい値を下げる効果が有ることが解った。しきい値は、それ以上の濃度において金属Hクラスターの形成を可能にする値であり、実施例においては、エタノールの存在によってFe-Hの結合反応性が高まることで、その他の元素との反応に優先して金属Hクラスターが形成し易くなり、その結果より低い可還元性物質濃度において金属Hクラスターが形成できる、すなわちしきい値を下げる効果が発現したものと考えられる。エタノールが存在することで、低い可還元性物質濃度で金属Hクラスターが形成されるようになり、その結果金属原子の含有比率が低い(m数が小さい)、すなわちH%の多い金属Hクラスターが形成されたものと理解される。
【0184】
(3-7-4)m数によって制御される現象(物性)
m数を制御することによって以下を制御する。(クラスターの選択による物性制御)
(i)H%制御 :m数
(ii)組成制御 :金属Hクラスター(m≧30)
(iii)非晶質相制御:金属Hクラスターで非晶質単相(m≧20)
(iv)粒子形状制御:自己造粒反応粒子(m≧8)、無定形相(m≦12)
【0185】
(i)H%制御
m数すなわち配合比によってH%(at%)が決定される。
【0186】
(ii)組成制御
m数が3を超える値において、金属系元素を含有するさらには金属元素を含有するHクラスターが形成される。m≦30で金属元素からなるさらには、金属単元素からなる「金属Hクラスター」が形成される。すなわち金属系元素に関して組成の制御がなされる。実施例においては、m≧31においてFe2B組成の金属と半金属からなり、金属元素を含有する構造体、ナノ粒子又はクラスターが形成された。m≦30において金属元素からなるさらには単元素金属(Fe)からなる構造体、ナノ粒子又はクラスターが形成された。
【0187】
(iii)非晶質相制御
m≦30の「金属Hクラスター」において、m数によって結晶構造もしくは非晶質構造が制御される。実施例の場合は、m≦30で非晶質相が形成される。m=30では、一部が結晶化した非晶質相含有構造体が得られる。m≦20で非晶質単相が形成される。同じ非晶質単相構造であってもm数に応じて非晶質構造が違う場合が有る。実施例の場合(実施例1-11-2と1-7の比較において)は、m=20とm=8の場合では、DSC分析結果(
図56/
図54)に違いが有り、共に非晶質単相を形成するが、非晶質構造の違いが確認されている。この非晶質構造の違いは、m数の違いすなわちクラスター構造の違いに起因するものであると推測される。
【0188】
(iv)粒子形状制御(定形/無定形)
m数によって、定形粒子の形成制御がなされる場合が有る。特に自己造粒反応によって定形粒子が形成されることが好ましい。実施例の場合は、m≧8で自己造粒反応による定形粒子、m≦12さらにはm≦8で非晶質相からなる無定形相が形成された。m=8では、定形粒子と無定形相が混在する遷移的な状態が得られた。さらに、m数によって定形粒子の制御が出来る場合が有る。実施例の場合は、(実施例1-7)m≧8で粒子サイズが500nm以下の非晶質単相からなる自己造粒反応粒子が得られた。さらに、(実施例1-11-2)m≧12、さらにはm≧20で粒子長さが175nm未満の非晶質単相からなる自己造粒反応粒子が得られた。これらの自己造粒反応粒子は、共に非晶質単相構造でありながらDSC分析結果(
図54/
図56)に違いが有り、非晶質相構造の違いが確認された。この非晶質構造の違いは、m数の違いすなわちクラスター構造の違いに起因するものであると推測される。
【0189】
(3-8)後工程
液中に金属系構造体を形成させた後の工程は特に限定されない。液中の析出物に対して、集合、洗浄、乾燥の順番で工程を行って抽出してもよいし、洗浄、集合、乾燥の順番で工程を行ってもよい。
【0190】
集合工程として、液体中に磁場を作用させることによって、析出物を集合させて回収する方法が例示される。この方法は、ナノ構造を有する対象物の集合の際に磁場を作用させることにより集合作業とすることが効果的である。特に液体中で磁場作用により集合させることは、金属系構造体の微細構造を維持する観点から極めて有用である。磁場に対する感受性の違いを利用して選別回収する事も効果的である。対象物が強磁性体である場合には、強磁性体を選択回収して、不要な酸化物成分等を除去する事が容易になるため特に効果的である。さらに、磁場集合の後下記の洗浄を行う事がナノ構造を維持する上でまた不用成分を除去して高純度化を達成する上で効果的である。
【0191】
洗浄作業は、不純物成分を除去する上で極めて重要なプロセスである。不用成分を溶かす事が出来る溶媒を用いて洗浄する事が好ましい。特に、還元反応の溶媒に含まれる成分を含有する洗浄液を用いるのが良い。例えば、後述する実施例の場合には、SO4
2-等のイオン成分や酸化物を除去するために、水で3回、エタノールで3回の洗浄工程を行っている。なお、実施例における還元反応の溶媒は、水とエタノールである。
【0192】
さらに、磁場作用で集合させた対象物を、集合させた状態で洗浄するのが良い場合がある。これにより、ワイヤ状の形状を有する金属系構造体の微細構造体を破壊する事無く洗浄する事が可能である。また、磁場に対する感受性の違いを利用して選別する事ができるので、対象が強磁性体であるとさらに効果が高い。例えば、Feからなる金属系構造体を集合させた状態で、磁場感受性が弱く不要な酸化物成分(例えば鉄酸化物やホウ素酸化物など)等を分離して洗浄除去する事が可能であり、高純度化に有効である。
【0193】
また、上記の磁場を用いた集合工程に引き続いて洗浄を行う事で、より効果的に分離除去洗浄が可能となる場合がある。洗浄を複数回にわけ、異なった溶媒で洗浄する事がより効果的である場合がある。混合溶媒を用いてもよい。最後の洗浄工程では、より蒸気圧の低い溶媒を用いる事が後の乾燥工程での効率化の観点から有利である。なお、後述する実施例に示すように、水で洗浄した後、アルコールで洗浄し、乾燥工程を実施するのが良い。特にエタノールが効果的である。
【0194】
4.磁性体を含む金属系構造体の製造方法
(4-1)核形成剤を用いない製造方法
ナノ粒子の取り扱いやすさを高める観点から、液体中でナノ粒子を形成し、液中で金属系構造体とすることが好ましいため、液相還元法を用いてナノ粒子を形成することが有利である。その際、従来技術によれば、可還元性物質を液体中に存在させ、この液体に、還元剤に加えて核形成剤も存在させ、核形成剤から形成された成分を核として、可還元性物質から金属系還元体を析出・成長させてナノ粒子を形成することが、ナノ粒子の形成を安定的に進行させる観点から一般的に行われている。
【0195】
しかしながら、そのような方法では、上記の核形成剤由来の成分がナノ粒子に本質的に取り込まれるため、組成的観点及び結晶学的観点から均一性に優れる材料を製造することは本質的に不可能であり、本来の物性の発現を妨げる場合があった。
【0196】
そこで、本発明者らは、液相還元法において、従来技術では事実上必須とされていた核形成剤を使用することなく、液体中でナノ粒子及び金属系構造体を製造する方法を検討することとした。
【0197】
核形成剤がない場合には、液相還元法により生成した金属系還元体からナノ粒子を成長させる過程は不安定となり、所定の形状的特徴を有する金属系構造体を再現性高く製造することは極めて困難である。このナノ粒子の成長過程の制御性が低いがゆえに、従来技術では核形成剤を用いることがなかば当然とされていた。
【0198】
ところが、本発明者らが鋭意検討した結果、核形成剤を用いない場合であっても、可還元性物質が磁性体、好ましくは強磁性体を形成可能な元素を含む場合には、液体中の可還元性物質を還元するにあたり、次の因子を制御することにより、異なった形状的特徴を有する金属系構造体を再現性よく製造できることが明らかになった。
【0199】
(4-2)因子
(4-2-1)(因子1)溶媒組成
前述のとおり、本明細書において「溶媒組成」とは、還元工程における前記液体の溶媒の組成を意味する。溶媒は極性溶媒であっても非極性溶媒であってもよい。可還元性物質がイオンのような極性物質である場合には、可還元性物質は少なくとも一部が液体中に溶解していることが好ましいことから、可還元性物質を溶解可能な極性溶媒であることが好ましい。極性溶媒はプロトン性であっても非プロトン性であってもよい。プロトン性の極性溶媒として、水、アルコール、チオール、酸などが例示される。非プロトン性の極性溶媒として、ケトン、エーテル、スルホキシドなどが例示される。
【0200】
溶媒の組成を変化させることにより、製造される金属系構造体の形状を変化させることができる場合がある。例えば、溶媒を水からなるものとした場合には、他の条件を同一にしたときに、相対的にアスペクト比の高いナノ部分構造を備える金属系構造体が得られやすく、逆に、水系の溶媒において、アルコールの含有量を増加させることによって、金属系構造体を構成するナノ部分構造のアスペクト比を低下させることができる場合がある。
【0201】
溶媒組成を変化させることにより、可還元性物質が還元して得られた金属系還元体からナノ部分構造が生成される過程における金属系還元体の液中での振る舞い、及び金属系構造体の一部となったときにナノ部分構造に相当する構造体(本明細書において「ナノ構造体」ともいう。)の複数が結合して金属系構造体が形成される過程におけるナノ構造体の液中での振る舞いが変動するものと考えられる。特に、ナノ部分構造に形状的異方性を与えるように還元物質が液中で移動すること、還元物質同士が結合したり集合したりすること、ナノ構造体が金属系構造体に形状的異方性を与えるように液中で移動することなどに対して、溶媒が物理的、化学的に影響を及ぼし、結果的に、金属系構造体の形態的特徴に溶媒組成が大きく影響を及ぼす。
【0202】
(4-2-2)(因子2)原料濃度
本明細書において「原料濃度」とは、液体中の可還元性物質を還元して、可還元性物質に含有される可還元性成分の還元体を含む金属系還元体を液体中に生成させる工程である還元工程における、液体中の可還元性物質の濃度を意味する。原料濃度は、金属系構造体及びこれを構成するナノ構造体の基本的な形状に影響を与える因子の一つである。実施例に例示されるように、原料濃度をあるしきい値以上とすると、繊維状のナノ構造体が得られやすくなる。逆に、原料濃度があるしきい値以下の場合にはビーズ状のナノ構造体が得られやすくなる。このしきい値は次に説明する固化磁場強度によって変動し、固化磁場強度が高い場合には、しきい値が低下する傾向がみられる。
【0203】
原料濃度を変化させることにより、可還元性物質を還元して得られる金属系還元体の液体中の分散濃度(本明細書において「還元物質分散濃度」ともいう。)を制御することが実現されていると考えられる。原料濃度を所定のしきい値以上とすることにより、この還元物質分散濃度を所定のしきい値以上に高めることが実現されていると考えられ、この場合には、実施例に例示されるように、繊維の集合体であるヤーンやウェブと外観が類似した形状を有する金属系構造体が得られる。一方、原料濃度が所定のしきい値未満の場合には、ビーズ状のナノ構造体が複数連結してなる形状を有する金属系構造体が得られる。
【0204】
この原料濃度のしきい値は固化磁場強度により変動し、固化磁場強度が高い場合には、原料濃度のしきい値は低くなる傾向を示す。このことから、金属系構造体が繊維に類似した形状を有するナノ構造体に基づくナノ部分構造を有するか、ビーズ状のナノ構造体に基づくナノ部分構造を有するかに対して、金属系還元体の磁気的特性が影響していると考えられる。
【0205】
この繊維のような構造を有するナノ構造体は、金属系還元体が成長異方性を有するためにかかる形状に至ったと考えることができる。すなわち、金属系還元体が微細な粒子として分散している状態において、ブラウン運動などの等方的な運動に基づいて金属系還元体同士が衝突した場合には、金属系還元体が成長して得られるナノ構造体は等方的な形状となることが予想されるが、金属系還元体が成長する際にある方向に偏って成長したことによって、繊維のような形状的に異方性を有する構造を有するに至ったと考えられる。
【0206】
(4-2-3)(因子3)固化磁場強度
本明細書において「固化磁場強度」とは、還元工程及び/又はこの還元工程により生成した金属系還元体を成長させて金属系構造体を得る工程である固化工程において、液体中に存在する物質に印加される磁場の強さを意味する。この固化磁場強度は、時間的に変動する場合もある。すなわち、還元工程では固化磁場強度が低く、固化工程において固化磁場強度が高い場合や、固化工程内においてもある程度の時間までは固化磁場強度が低く、その後当該強度が高まる場合が例示される。固化磁場強度は、上記の原料濃度とともに、金属系構造体及びこれを構成するナノ部分構造やナノ構造体の基本的な形状に影響を与える因子の一つである。固化磁場強度が高い場合には、ナノ部分構造やナノ構造体が結合して形成される金属系構造体は、ある範囲の大きさの観察視野(例えば10μm×10μm)においてアスペクト比が高い部分構造を備える金属系構造体と観察される形状になりやすい。
【0207】
原料濃度を高めることにより金属系還元体の成長に異方性が生じる理由は定かでないが、金属系還元体の磁気的性質が影響していると考えられる。すなわち、金属系還元体は、生成当初は常磁性や超常磁性であって漏れ磁界をほとんど発生させず外部磁場に対する感受性も低い状態であったのに対し、適切に成長することによって漏れ磁界を発生させる単磁区構造を有するナノ構造体となっていると考えられる。以下、かかるナノ構造体を「磁化ナノ構造体」ともいう。ひとたびナノ粒子が単磁区構造を有する磁化ナノ構造体となると、外部磁場に対する感受性も高まるため、磁化ナノ構造体に近接する磁化ナノ構造体と磁気的な相互作用が生じやすくなる。また、磁化ナノ構造体に近接する金属系還元体との相互作用も、磁化ナノ構造体の漏れ磁界の影響を受けて異方性を有するようになる。その結果、磁化ナノ構造体は、単磁区に沿った方向に他の磁化ナノ構造体が結合されたり、単磁区に沿った方向に金属系還元体が結合する割合が高まったりすることによって、ナノ構造体の成長の方向に偏りが生じ、成長異方性を有するナノ構造体が形成されていると考えられる。
【0208】
以上のように考えると、固化磁場強度を高めると、金属系構造体の形状を決定する原料濃度のしきい値が低下して、原料濃度が相対的に低い場合でもフィラメント状の形状を有するようになることについて、一定の説明が可能となる。すなわち、単磁区の状態に成長する途中の大きさで、ある程度の磁気異方性を有するに至ったナノ構造体は、固化磁場強度が高ければ高いほど外部磁場に沿って整列しやすくなる。したがって、固化磁場強度が高い場合には、原料濃度が低いために相対的に小径の状態にあるナノ構造体でも成長異方性が生じ、繊維状の形状へと成長しやすくなると考えられる。
【0209】
繊維の集合体であるウェブを構成する繊維は、その長さの違いに基づき、ステープル(短繊維)及びフィラメント(長繊維)に分類されるように、ウェブ状の形状を有する金属系構造体も、前述のとおり、短繊維に基づくステープルウェブ状の形状を有するものと、長繊維に基づくフィラメントウェブ状の形状を有するものとに分類することができる。
【0210】
ウェブ状の形状を有する金属系構造体がこれらの形状のいずれとなるかを決定している因子の1つとして、固化磁場強度が挙げられる。固化磁場強度がしきい値未満の場合には、ステープルウェブ状の形状を有する金属系構造体が得られ、固化磁場強度がしきい値以上の場合には、フィラメントウェブ状の形状を有する金属系構造体が得られる。このフィラメントウェブ状の形状を有する金属系構造体は、液体中で浮遊していたフィラメント(長繊維)状の金属系構造体の複数が、交絡したり結束したりすることなどにより得られたものである。
【0211】
このウェブ状の形状の種類(ステープルウェブ状/フィラメントウェブ状)を決定する固化磁場強度のしきい値の存在も、繊維のような構造を有するナノ構造体を仮定すると、理解が容易になる。すなわち、固化磁場強度が強い場合には、繊維状のナノ構造体は外部磁場に沿って液体中に存在するものの割合が多くなるため、ナノ構造体同士の連結は外部磁場に沿った方向に生じやすく、結果的に繊維長が長いフィラメント状の金属系構造体が得られやすくなる。
【0212】
一方、固化磁場強度が弱い場合には、液体中に存在するナノ構造体のうち外部磁場に沿って液体中に存在するものの割合は、固化磁場強度が強い場合に比べて少なくなるため、ナノ構造体同士が連結する際に、長軸方向を揃えて長軸方向長さを増やすような連結が生じる可能性が低下し、結果的に短繊維が交絡してなるステープルウェブ状の形状を有する金属系構造体が得られやすくなる。
【0213】
フィラメント状の形状を有する金属系構造体を使用する際には、直線性が重要となる場合が有る。そのような場合には、フィラメントの直線性を向上させるための因子として、固化磁場強度及び磁場作用時間が挙げられる。これらの因子については、得られた金属系構造体の形態をみて製造条件を調整すればよい。例えば、実施例において例示されるように、可還元性物質が強磁性体さらにはFeを含む場合には、還元剤の滴下終了後5分以内にフェライト磁石、さらにはそれを超える磁場作用、好ましくはネオジム磁石を作用させればよい。磁場作用が与えられるまでの時間を長くしたり、磁場強度を相対的に低くしたりすれば、ステープルに基づく直線性の低い形状を有する金属系構造体が得られやすい。
【0214】
ナノ構造体又は磁化ナノ構造体ならびにナノ部分構造又は金属系構造体が所定の粒子サイズ及び所定の磁気特性の少なくとも一方を備えるように成長させた後、固化磁場強度を高めるようにしてもよい。ここで、所定の磁気特性とは、磁場に対する反応性をもたらすもので、磁場中で移動する及び/又は整列することにより構造体を形成するための特性を意味する。例えば、磁化率、単磁区構造を有する、強磁性を有する、常磁性を有する、超常磁性を有するなどが挙げられる。
【0215】
金属系構造体が強磁性体、特にFeを含有する場合には、粒子サイズを50nmから500nmさらには、90nmから400nmとすることが好ましい。さらに、粒子サイズを以下にすることが好ましい。
【0216】
金属系構造体がステープルもしくはフィラメント状の形状に基づく形状を有する場合には、粒子サイズを50から250nmとすることが好ましく、さらには、100から175nm未満とすることが好ましい。
【0217】
金属系構造体がビーズ状の形状に基づく形状を有する場合には、粒子サイズを150から500nmとすることが好ましく、さらには、175から350nmとすることが好ましい。
【0218】
なお、固化磁場強度については、金属系構造体が成長途中であっても、成長前、析出前に固化磁場強度を高めることを含む。具体的には、成長する過程で、サイズや磁気特性が徐々に変化して、所望のものが磁場作用に反応して選択的に金属系構造体を形成する様にしても良い。
【0219】
ステープルウェブ状、フィラメントウェブ状のいずれかの形状を有する金属系構造体は、交絡や結束の存在密度を適切に設定することにより、3次元メッシュとして機能し得る形状を有することができる。
【0220】
原料濃度が低い場合に得られるビーズ状のナノ粒子が複数連結してなる形状を有する金属系構造体は、固化磁場強度がしきい値以上の場合には、ビーズ状の形状を有するナノ粒子の複数が整列しながら連結してなるビーズワイヤ状の形状を有する。液体中に浮遊するこのビーズワイヤ状の形状を有する金属系構造体の複数が結束したり交絡したりすることなどにより、ウェブ状の形状を有する金属系構造体が得られる。このウェブ状の形状を有する金属系構造体も、3次元メッシュとして機能しうる形状を有することができる。
【0221】
一方、固化磁場強度がしきい値未満の場合には、ビーズ状の形状を有する金属系構造体の複数が等方的に連結してなる塊状の形状を有する金属系構造体が得られる。この固化磁場強度のしきい値は、原料濃度が高いほど低磁場側にシフトする。すなわち、原料濃度が高い場合には、固化磁場強度が低くてもビーズワイヤ状の形状を有する金属系構造体が得られやすい。
【0222】
なお、固化磁場強度は、時間的にその強度が変動するように制御されてもよい。例えば、還元工程を開始する際から固化磁場強度を高める場合と、固化工程がある程度進行してから固化磁場強度を高める場合とでは、得られた金属系構造体の形状が異なることもある。具体的には、ナノ粒子がビーズ状である場合には、還元工程を開始する際から固化磁場強度を高めるとビーズワイヤ状の形状を有する金属系構造体が得られやすく、還元工程が終了してある程度の時間が経過してから固化磁場強度を高めるとビーズワイヤ状の形状を有する金属系構造体は得られにくくなり、塊状の形状を有する金属系構造体が得られやすくなる。
【0223】
具体的に説明すれば、実施例に例示されるように、可還元性物質がFeを含み、ビーズワイヤを形成する場合には、還元剤の滴下終了後15分以内にフェライト磁石さらにはそれ以上、好ましくはネオジム磁石による磁場作用を与えることが好ましい。さらに、滴下後磁場作用が強くなる方向に移動しながら成長させることが好ましい。実施例以外の場合において、得られた形態を観て製造条件を調整してもよい。
【0224】
可還元性物質から得られる還元体が磁性体である場合には、その磁性体の磁場に対する反応の度合いによってしきい値を変化させてもよい。
【0225】
弱い磁場反応を示す磁性体の場合はより強い磁場強度を使用することで所望の構造が得られやすくなる。反対の場合は比較的弱い磁場強度を使用することで、消費電力や装置強度を安価な方向で操業できるので適している。
【0226】
強磁性体を含む構造体を作製する場合、特に可還元性物質がFeを含む場合には、磁場強度を50mT以上とすることが好ましい。さらには、100mT以上とすることが好ましい。磁場強度が、1000mT未満、さらには、300~1000mTの範囲、さらには、300~800mT、300~600mT(より安価)であれば、永久磁石を使用する事ができ、安価かつ安定的な操業に対して好適である。材料を問わず、永久磁石を使用することは安価な操業に適している。
【0227】
また、磁場に分布があることが好ましい場合がある。具体的には、実施例において行ったような、ビーカーの底部の一部に磁石を設置することが例示される。このように、ビーカーの底部の一部に磁石を設置する方法によれば、磁場強度が液体中で均一ではなく、磁石から離れるに従って弱くなる分布を持つ。このことは、滴下後の粒子が磁場の強い方向に移動しながら成長し、さらには、それらが集合した後、固着することが出来る事で好都合である。固着に必要な磁場強度に到達する以前に、必要な成長や集合の準備段階をあらかじめ進行させる事ができる。また、均一磁場を作用させるには大掛かりな電磁石装置等が必要になる場合があり、これに比べて安価な装置を利用する事ができる。
【0228】
なお、実施例では、次の3種類の磁石を使用した。
(1)ネオジム磁石その1(直径15mm高さ6mm、表面磁束密度375mT)
(2)ネオジム磁石その2(直径30mm高さ30mm、表面磁束密度550mT)
(3)フェライト磁石その1(直径17mm高さ5mm、表面磁束密度85mT)
【0229】
上記の2種類のネオジム磁石により、実験結果に相違は生じなかった。
【0230】
滴下後の粒子の移動や成長のために、溶液と磁場の相対的な流れを制御しても良い。この場合には、流速が100mm/秒以上さらには500mm/秒以上になる撹拌や振動などを用いること無く、緩やかな流れを制御することが好ましい。また、自然対流や自然沈降を利用することが好ましい場合がある。
【0231】
(4-2-4)(その他の因子)
上記の3因子以外にも、金属系構造体の形状に影響を与える因子は存在する。そのような他の因子として、可還元性物質を還元するための還元剤の量が例示される。この還元剤が、これを含有する液体として、可還元性物質を含有する液体に添加されることによって可還元性物質の還元が進行する場合には、還元剤を含有する液体における還元剤の濃度が、金属系構造体の形状に影響を及ぼしやすい。なお、この還元剤の濃度は、金属系構造体の形状のみならず、その組成(例えば、水素の含有量)や結晶学的特徴(例えば、還元物質がFeであって結晶化のための加熱処理が施された場合には、得られた金属系構造体におけるαFeの含有比率)にも影響を及ぼす場合がある。また、その影響の程度は、上記の3因子とも関連し、特に原料濃度との関連性が高く、還元剤の濃度と原料濃度との組み合わせにより、製造される金属系構造体の特徴を効率的に制御できる場合もある。
【0232】
(4-3)金属系構造体の形状
以上の金属系構造体の形状の分類を、原料濃度と固化磁場強度との関係で概念的に示した図が
図1である。
【0233】
実施例1において例示される場合においては、金属系構造体がワイヤ状の形状をなす場合において、フィラメントを基本とするワイヤ形状とビーズを基本としたビーズワイヤ形状の2形態が生じる。すなわち金属系構造体に成長する成長粒子にはこのワイヤ状の2形態に対応した少なくとも2種類の成長粒子がある。これらの特定の成長粒子に磁場を印加させた場合に、成長粒子の磁気的性質、形状、サイズ(全体の大きさ)等の影響により2種類のワイヤ状及びビーズワイヤ状の形態が得られる。これらの成長粒子の性質を2つに分ける要因は、被還元イオン濃度が支配的である。ただし、2つに別れる遷移的な濃度領域が存在し、この領域においては析出時か成長時の磁場強度によって同じ濃度でありながら成長粒子の性質が先の2種類に分かれる。これにより、可還元性物質の含有量が10以上20未満mmol/kgにおいては磁場強度により、上記の形態の違いが生じやすい。すなわち、磁場強度が強い方が、フィラメント状の形状を形成しやすい。上記の形態変化のしきい値は、可還元性物質の含有量として、可還元性物質が強磁性体さらにはFeの場合には、3mmol/kg以上であるときにフィラメント状の形状が得られやすく、この観点から、20mmol/kg以上であることがより好ましく、60mmol/kg以上であることが特に好ましい。可還元性物質が強磁性体さらにはFeの場合には、60mmol/kg未満であるときにビーズワイヤ状の形状が得られやすく、この観点から、10mmol/kg以下であることがより好ましく、3mmol/kg以下であることが特に好ましい。さらに、磁場強度が強い、すなわちネオジム磁石を使用した場合のほうが、フィラメント状の形状が形成されるためのしきい値が下がる傾向がある。
【0234】
上記の方法により得られた金属系構造体は、
図1に示す4形態において、いずれも非晶質部分を含有するものが得られた。磁場や熱振動といった比較的弱い外力でもナノ構造体は互いに結合し金属系構造体へと成長することに、金属系構造体が非晶質の部分を含有することが関連している、さらには水素含有非晶質であることが、水素を介在して金属系構造体同士の結合を促すことや酸化層の形成を抑えるなどして、その効果を高めていると考えられる。すなわち、ナノ構造体も非晶質の部分を有し、これらはその非晶質の部分であれば結晶質の場合に比べて弱い外力でも結合しやすく、これらが結合してなる金属系構造体においてこれを構成するナノ粒子やナノ構造体の非晶質部分が残留することによって、金属系構造体の非晶質部分がもたらされていると考えられる。
【0235】
5.無定形相を備える金属系構造体の製造方法
上記の本発明の一実施形態に係る金属系構造体は、前述の無定形相を有する。無定形相を有する金属系構造体は、液体中で可還元性物質を還元させることを含む工程により形成した金属系構造体をその液体から取り出したときに得られる場合もある。したがって、無定形相は、金属系構造体が液体中にある状態で別の構造体としてすでに存在していると考えられる。また、無定形相を有する又は形成可能な成長粒子として存在していて、液体から取り出したことによって無定形相が形成された、あるいは、液体中にある金属系構造体を液体から取り出したことによって、又は乾燥や熱処理工程の影響により、金属系構造体の一部もしくは全部が融解するなどしてその構造を変化させることによって無定形相が形成されている可能性もある。この場合には、ナノ部分構造に接するように存在していた液体、特にその溶媒が存在しなくなったことにより、ナノ部分構造を取り囲むように、又は取り込むように無定形相が生じた可能性もある。
【0236】
前述のとおり、無定形相は、液体から取り出した金属系構造体を加熱することによってその量を変化させることができる場合がある(
図20,22,23)。具体的には、液体から取り出した状態ではほとんど無定形相が観察されない場合であっても、金属系構造体を50℃程度に加熱することによって無定形相が観察できる場合がある。さらに加熱温度を高めて200℃程度に加熱すると観察される無定形相量は極大となり、加熱温度をさらに高めると、無定形相量はむしろ低下し、例えば300℃程度では、200℃程度の場合に比べて、明らかに観察される無定形相量が少なくなる場合もある。
【0237】
6.結晶化金属系構造体の製造方法
上記の本発明の一実施形態に係る金属系構造体を、その結晶化温度以上に加熱することにより、結晶化した金属系構造体、すなわち結晶化金属系構造体を得ることができる。その温度は還元物質の種類や組成に依存する。
【0238】
結晶化温度は、DSCプロファイルにより確認することができる。金属系還元体がFeである金属系構造体では、概ね、460℃程度に結晶化に起因すると考えられる発熱ピークを認めることができる。
【0239】
なお、DSCプロファイルでは、460℃程度の結晶化に起因すると考えられるピークよりも低い温度、具体的には300℃近傍に、発熱ピークを有する場合もある。別の場合には、380℃近傍に吸熱ピークを有する場合もある。このピークがどのような現象に基づき発生しているかは不明である。この低温側の吸熱ピークが認められる場合には、金属系構造体が無定形相を有することもあるため、これらの間には何らかの関係が存在していると考えられる。非晶質部分を有しかつ水素を含有する金属系構造体の結晶化過程においては、水素が金属系構造体から離脱することにより結晶化が進行していると考えられる。380℃近傍の吸熱は、この水素の離脱に伴う現象に起因すると考えられる。また300℃近傍の発熱は、フィラメントの形態を有する金属系構造体においてみられる場合が有り、結晶化後にαFe単相が得られる場合には、FeもしくはFeと水素からなる準安定的な相もしくは準結晶相が形成されることに起因すると考えられる。
【0240】
また、金属系構造体はナノ部分構造を有し、このナノ部分構造によって空隙部が画成されている場合には、前述のとおり、結晶化温度を超えて金属系構造体を加熱することにより、この空隙部の体積を減じたり実質的に消滅させたりすることが可能である(
図27から
図29)。空隙部が結晶化金属系構造体のマクロ的な物性、特に機械特性に対して悪影響を及ぼすおそれがある場合には、加熱温度を適切に調整して、その影響を低下させることが可能である。
【0241】
この場合における加熱手段は特に限定されない。また、加熱に代えて、又は加熱に加えて、加圧を行ってもよい。その際の加圧の具体的な手段は限定されない。また、加熱及び/又は加圧の際の雰囲気は特に限定されないが、酸化などの影響を少なくする観点から、真空中、不活性ガス中で行うことが好ましい場合がある。あるいは水素や窒素や酸素などの反応性ガス中で行うことが好ましい場合がある。
【0242】
7.複合構造体の製造方法
本発明の一実施形態に係る金属系構造体はナノ部分構造を有し、このナノ部分構造によって空隙部が画成されている場合がある。このような空隙部を有する金属系構造体から、次に説明するように、他の材料(付加物質)を用いることにより、複合構造体を製造することができる。
【0243】
本発明の一実施形態に係る複合構造体の製造方法の一例は、ナノ部分構造を有する金属系構造体のナノ部分構造により画成された空隙部内に、付加物質を存在させて、金属系構造体-付加物質混合体を形成する。付加物質を存在させる方法は特に限定されない。付加物質が粉体状であって、その粉体と金属系構造体とを混在させることで、金属系構造体-付加物質混合体を形成してもよい。金属系構造体に対して液体中で電気めっき処理を行うことによって付加物質を金属系構造体の表面に析出させて、金属系構造体-付加物質混合体を形成してもよい。あるいは、可還元性物質及びこれを還元させる機能を有する物質とともに金属系構造体を液体中に存在させ、金属系構造体の表面に可還元性物質が還元してなる物質又はこの物質に基づく物質(酸化物など)を析出させることによって金属系構造体-付加物質混合体を形成してもよい。蒸着、スパッタリングなどのドライプロセスによって金属系構造体の表面に付加物質を存在させて金属系構造体-付加物質混合体を形成してもよい。付加物質の融点が低い場合には、付加物質からなる液状体(例えば溶融状態にあるスズ)内に金属系構造体を浸漬させることによって金属系構造体-付加物質混合体を形成してもよい。
【0244】
こうして得られた金属系構造体-付加物質混合体を必要に応じて加熱して、付加物質を金属系構造体に固着させる。この加熱温度は、金属系構造体の組成及び形状ならびに付加物質の組成及び形状に依存する。金属系構造体と付加物質とが合金化する場合には、加熱温度が比較的低温であっても固着が行われる場合がある。また、金属系構造体のナノ部分構造が十分に小さく、付加物質も小さい場合も、加熱温度が比較的低温であっても固着が行われることがある。
【0245】
さらに必要に応じ加熱条件を調整して、具体的には加熱温度を高めて、金属系構造体の空隙部の体積を減じたり、実質的消滅させたりしてもよい。この加熱温度は、基本的には金属系構造体に依存するが、付加物質がその温度で溶融するために、金属系構造体を構成する材料と相互作用(合金化など)を生じ、結果的に空隙が実質的に消滅する温度が、金属系構造体単独の場合に空隙物が実質的に消滅する温度と異なる場合もある。
【0246】
金属系構造体-付加物質混合体から複合構造体を得るための加熱に代えて、又は加熱に加えて、加圧を行ってもよい。その際の加圧の具体的な手段は限定されない。また、加熱及び/又は加圧の際の雰囲気は特に限定されないが、酸化などの影響を少なくする観点から、真空中、不活性ガス中で行うことが好ましい場合がある。あるいは水素や窒素や酸素などの反応性ガス中で行うことが好ましい場合がある。
【0247】
上記の方法を用いれば、金属系構造体を構成する材料よりも電気化学的に卑な材料であっても、容易に複合化させることができる。液体中に付加物質を分散させた状態で可還元性物質を還元することにより金属系構造体-付加物質混合体又は複合構造体を得ようとする場合には、付加物質の材質や形状によっては、金属系構造体が形成されなかったり、金属系構造体に付加物質を付着させることが困難となったりするおそれがある。これに対し、上記の方法では、金属系構造体をまず先に形成し、その後、金属系構造体の空隙部に付加物質を存在させることによって複合構造体を得るため、金属系構造体-付加物質混合体を得る際に化学的な因子(還元反応に関する因子)を除外することができる。また、前述のとおり、本発明の一実施形態に係る金属系構造体は、その形状的な特徴を再現性良く制御することが可能であるため、金属系構造体に対する付加物質を混在させて金属系構造体-付加物質混合体を得る段階の再現性に優れることが期待される。
【0248】
上記の方法により製造される複合構造体において、複合構造体全体に対する金属系構造体に由来する部分の体積比率は、特に限定されない。金属系構造体に由来する部分が主となっていてもよいし、付加物質に由来する部分が主となっていてもよい。付加物質に由来する成分が主となる場合の具体例として、歯車などの焼結部品を製造するにあたり、金属系構造体を焼結助剤として用いることが挙げられる。本発明の一実施形態に係る金属系構造体は水素を含有するため、この水素が焼結材料の酸化層を除去して、焼結材料同士の拡散を助ける機能を有すると考えられる。
【0249】
複合構造体を得る他の方法として、結晶化金属系構造体の空隙部に付加物質を存在させる方法が例示される。具体的には、空隙部を残した状態で結晶化させた金属系構造体を、融点の低い金属(例えばスズ)の液状体内に浸漬させ、空隙部内にその金属を存在させ、その後、結晶化金属系構造体を引き上げて室温まで冷却すれば、低融点金属が空隙部内に存在する結晶化金属系構造体からなる複合構造体を得ることができる。
【0250】
8.その他の製造方法
以上説明した金属系構造体、結晶化金属系構造体、複合構造体に対して、加圧及び加熱の少なくとも一方の処理を施すことにより、構造体を構成する部分構造同士、及び構造体同士を固着させることができる。この固着によって、構造体の内部の空隙部の体積が減少したり、実質的に消滅したりして、機械的特性などに優れる構造体を得ることができる。
【0251】
この加圧の具体的な手段やその強さは特に限定されない。機械的に加圧する場合もあれば、印加される磁場強度を高めることによって加圧される場合もある。また、加熱の温度も限定されない。金属系構造体の場合には結晶化温度以上とすることが好ましい場合がある。結晶化金属系構造体の場合には空隙部が実質的に消滅する程度まで加熱することが好ましい場合もある。複合構造体の場合には付加物質が溶融して空隙部を充填する程度まで加熱することが好ましい場合もある。
【0252】
以上説明した金属系構造体の具体的な一例は、上記の水素以外の成分として、主成分としてのFe及び不可避的不純物を含有するものが挙げられる。この金属系構造体を液体中のFeイオンから還元させることにより製造した場合には、不可避的不純物の一例として還元剤に含まれる成分が挙げられる。この不可避的不純物の含有量は、還元反応に係るパラメータ(Feイオン濃度、還元剤濃度、温度など)に依存する。Feイオン濃度、還元剤濃度、溶媒組成などを適切な範囲内に設定することなどによって、不純物の含有量を低減させ、主成分の単相(αFe単相)からなる高純度金属系構造体を製造することができる。金属系構造体が水素を含有し、かつ非晶質部分を有するもしくは非晶質単相である場合において、結晶化後に主成分の単相(αFe単相)からなる高純度金属系構造体が得られる場合がある。この場合には、前記水素を含有し、かつ非晶質部分を有するもしくは非晶質単相である金属系構造体は、主成分のFeと水素からなる組成を有していたものと考えられる。なお、上記の方法によりFeを主成分とする金属系構造体を製造する場合には、還元剤の濃度が過度に少ないと、Feイオンの還元が不十分となることなどにより、金属系構造体内にFe元素が酸化物の状態で存在することもある。
【0253】
以上の製造方法により、所定の組成に調整した金属系構造体や高純度金属系構造体が製造可能となり、さらに付加物質を添加するなどして所望の合金成分からなる金属材料や複合化金属材料の製造が可能となる。特に、ナノサイズの粒子からなる又はナノ部分構造を有する上記材料を製造することに好適である。
【0254】
9.用途(産業上の利用可能性)
本発明に係る金属系構造体、結晶化金属系構造体及び複合構造体は、ナノ構造を利用した磁性材料や電極材料や触媒材料や構造材料、ナノ構造からなる固化体を利用した金属材料、構造部材、強度部材、ナノサイズのメッシュ構造を利用したフィルターや触媒の保持体や電極部材、さらにこれらを利用した合金や複合材料に利用可能であり、この他、ねじや歯車などの形状を有する焼結体又はその材料として好適に利用できる。その他として、水素吸蔵体などにも利用可能である。
【0255】
本発明の金属系構造体は、酸化物層の形成が抑制されることで、固着成型性が高く、造形用金属粒子材料、塗料や3Dプリンタの材料として極めて有用である。
【実施例】
【0256】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0257】
本発明に関連して、次の知見が得られている。
(A)水素含有非晶質金属系構造体が、ナノ構造形成に好適である(磁場整列性、固着性、無定形相形成)。
(B)溶液の組み合わせ及び溶媒組成などにより水素含有量の制御ができる。
(C)水素含有量が多い場合、高純度金属系構造体が得られる。
(D)水素含有量が多い場合、無定形相が形成される。
(E)(A)に磁場作用することにより形態の作り分けが出来る。
【0258】
以下、(A)~(E)について、実施例の実験結果に基づいて説明する。
1.実施例1
1-1.各実施例
(実施例1-1)
(1)硫酸鉄溶液の準備
表1に示される組成の硫酸鉄水溶液を、可還元性物質を含有する液体の一部として用意した。溶液の濃度(硫酸鉄含有量)は、溶媒1kgあたりの溶質のモル数とする(溶液の濃度について、以下同様)。硫酸鉄(II)七水和物の七水和物に相当する結合水は、溶媒に加味して濃度を算出した。
【0259】
【0260】
(2)還元剤水溶液の準備
可還元性成分であるFeイオン(Fe2+)を還元するための還元剤としてNaBH4を含有する、表2に示される組成の還元剤水溶液を用意した。
【0261】
【0262】
(3)金属系構造体の製造
和光純薬工業社製硫酸鉄(II)七水和物(FeSO4・7H2O)を用いて調製した表1においてFS1として示される硫酸鉄水溶液16mLをシャーレ(外径71mm×高さ16mm、肉厚2mm、ガラス製、以下の実施例においても、同じ形状のシャーレを用いた。)に入れた。シャーレ内の液体に、和光純薬工業社製テトラヒドロホウ酸ナトリウム(NaBH4)を用いて調製した表2においてNB1として示される還元剤水溶液15mLを3mL/分で滴下した。なお滴下操作は1つのノズルから行い、容器(シャーレ)内の溶液の液面に対して、位置を移動させながら行った(以下同じ)。また、滴下操作は室温(23℃)において行った(以下同じ)。またその他の操作についても、特に記載のない限り室温において行った(以下同じ)。還元剤水溶液が滴下された部分の近傍では、気泡が発生するとともに、黒濁をなす析出物の生成が認められた。
【0263】
なお、上記の硫酸鉄水溶液及び還元剤水溶液に用いた水は、ADVANTEC社製「GS-200 DIW」を用いて得た、JIS種別A3(JIS K0577:1998)に分類される蒸留水であった。また、エタノールは関東化学社製であり、GC純度が99.5%以上のものであった。これらの水及びエタノールは、下記の洗浄作業においても使用した。
【0264】
還元剤水溶液の滴下終了後、液体を15分静置した。静置後の液体をろ過して、ろ取した析出物を、次の条件で洗浄した。
i)蒸留水50mLを注ぎ捨てる作業を3回、及びこの作業に引き続いて
ii)エタノール50mLを注ぎ捨てる作業を3回
以下、この洗浄条件を「洗浄条件1」という。
【0265】
洗浄後、ビーカーに入れデシケータ内で乾燥し、金属系構造体として得た。
【0266】
(実施例1-2)
表1においてFS2として示される硫酸鉄水溶液16mLをシャーレに入れた。シャーレ内の液体に、表2においてNB2として示される還元剤水溶液25mLを5mL/分で滴下した。液体における還元剤水溶液が滴下された部分の近傍では、気泡が発生するとともに、黒濁をなす析出物の生成が認められた。
【0267】
還元剤水溶液の滴下終了後、液体を5分静置した。続いて、シャーレの底面外側にネオジム磁石その1(外径15mm×厚さ6mm、表面磁束密度375mT)を当接した。すると、磁石に近接する向きに液中の析出物が移動することが観察された。シャーレの底面に磁石を当接した状態でシャーレ内の液体を5分間静置した。シャーレの底面に磁石を当接した状態でシャーレを傾けて液体を捨てたところ、シャーレの底面の内側に析出物が残留した。
【0268】
シャーレの底面に磁石を当接した状態で、洗浄条件1で析出物の洗浄を行った。
【0269】
洗浄後、シャーレの底面から磁石を離間させ、その状態でシャーレの底面に残留した析出物を、薬さじにより回収した。
【0270】
片側が封止されたガラス管(外径12mm、内径10mm、長さ120mm、パイレックス(登録商標)製、以下同じ)に回収した析出物を入れ、室温において加熱することなしにガラス管内部をロータリーポンプで15分間真空乾燥した。到達真空度は、1.5Paであった。以下、この真空乾燥条件を「乾燥条件1」という。
【0271】
ガラス管内の排気を継続しながら、ガラス管の外側からヒーターで加熱して、室温(23℃)から400℃まで昇温させた(以下、この加熱による到達最高温度を「加熱温度」ともいう。)。具体的には、100℃までは5℃/分、100℃以上は15℃/分で昇温させた。加熱温度にて2分間保持した。温度測定はガラス管先端部に接触させた熱電対で行った。その後、ロータリーポンプによるガラス管内の排気を継続しながら、測定温度が室温に到達するまで放冷した。以下、この熱処理条件を「熱処理条件1」という。ロータリーポンプによるガラス管内の排気を終了して、ガラス管内の物質を金属系構造体として得た。
【0272】
(実施例1-3)
表1においてFS2として示される硫酸鉄水溶液16mLをシャーレに入れた。続いて、シャーレの底面外側にフェライト磁石その1(外径17mm×厚さ5mm、表面磁束密度85mT)を当接した。シャーレ内の液体に、表2においてNB2として示される還元剤水溶液25mLを5mL/分で滴下した。液体における還元剤水溶液が滴下された部分の近傍では、気泡が発生するとともに、黒濁をなす析出物の生成が認められた。また、生成した析出物が磁石に近接する向きに液中を移動することが観察された。
【0273】
還元剤水溶液の滴下終了後、シャーレの底面に磁石を当接した状態で液体を5分静置し、その状態でシャーレを傾けて液体を捨てた。その結果、シャーレの底面の内側に析出物が残留した。
【0274】
シャーレの底面に磁石を当接した状態で、洗浄条件1で析出物の洗浄を行った。
【0275】
洗浄後、シャーレの底面から磁石を離間させ、その状態でシャーレの底面に残留した析出物を、薬さじにより回収した。
【0276】
片側が封止されたガラス管に回収した析出物を入れ、乾燥条件1による乾燥を行った。ロータリーポンプによるガラス管内の排気を継続しながら、400℃で2分間保持の熱処理条件1で熱処理を行った。ロータリーポンプによるガラス管内の排気を終了して、ガラス管内の物質を金属系構造体として得た。
【0277】
(実施例1-4)
表1においてFS1として示される硫酸鉄水溶液16mLをシャーレに入れた。続いて、シャーレの底面外側にネオジム磁石その1(外径15mm)を当接した。シャーレ内の液体に、表2においてNB1として示される還元剤水溶液15mLを3mL/分で滴下した。還元剤水溶液が滴下された部分の近傍では、気泡が発生するとともに、黒濁をなす析出物の生成が認められた。また、生成した析出物が磁石に近接する向きに液中を移動することが観察された。
【0278】
還元剤水溶液の滴下終了後、シャーレの底面に磁石を当接した状態で液体を5分静置し、その状態でシャーレを傾けて液体を捨てた。その結果、シャーレの底面の内側に析出物が残留した。
【0279】
シャーレの底面に磁石を当接した状態で、洗浄条件1で析出物の洗浄を行った。
【0280】
洗浄後、シャーレの底面から磁石を離間させ、その状態でシャーレの底面に残留した析出物をビーカーに移し、デシケータ内で乾燥し、金属系構造体として得た。
【0281】
(実施例1-4-1)
表1においてFS2として示される硫酸鉄水溶液48mLを200mLビーカー(パイレックス(登録商標)製、底部の内径は63mm、底部の肉厚は1から2mm、以下同じ)に入れた。続いて、ビーカーの底面外側にネオジム磁石その2(外径30mm×厚さ30mm、表面磁束密度550mT)を当接した。ビーカー内の液体に、表2においてNB2として示される還元剤水溶液75mLを10mL/分で滴下した。還元剤水溶液が滴下された部分の近傍では、気泡が発生するとともに、黒濁をなす析出物の生成が認められた。また、析出物が磁石に近接する向きに液中を移動することが観察された。その後、実施例1-4と同様に洗浄条件1で析出物の洗浄までを行った。洗浄後、ビーカー底面から磁石を離間させ、その状態でビーカーの底面に残留した析出物を、薬さじにより回収した。片側が封止されたガラス管に回収した析出物を入れ、乾燥条件1による乾燥を行った。ロータリーポンプによるガラス管内の排気を継続しながら、150℃で2分間保持の熱処理条件1で熱処理を行った。ロータリーポンプによるガラス管内の排気を終了して、ガラス管内の物質を金属系構造体として得た。
【0282】
(実施例1-4-2)
表1においてFS2として示される硫酸鉄水溶液16mLを100mLビーカー(パイレックス(登録商標)製、底部の内径は51mm、底部の肉厚は1から2mm、以下同じ)に入れた。続いて、ビーカーの底面内側にネオジム磁石その1(外径15mm)を設置した。ビーカー内の液体に、表2においてNB2として示される還元剤水溶液25mLを5mL/分で滴下した。還元剤水溶液が滴下された部分の近傍では、気泡が発生するとともに、黒濁をなす析出物の生成が認められた。また、析出物が磁石に近接する向きに液中を移動することが観察された。その後、実施例1-4-1と同様に洗浄条件1で析出物の洗浄を行い、乾燥条件1による乾燥を行い、連続して150℃で2分間保持の熱処理条件1で熱処理を行い金属系構造体として得た。
【0283】
(実施例1-4-3)
実施例1-4と同様に洗浄条件1までの操作を行った。その後片側が封止されたガラス管に回収した析出物を入れ、乾燥条件1による乾燥を行い、連続して400℃で2分間保持の熱処理条件1で熱処理を行い金属系構造体として得た。
【0284】
(実施例1-4-4)
実施例1-4-1と同様の操作により得られた金属系構造体を、熱処理条件1の熱処理に引き続いて、ロータリーポンプによるガラス管内の排気を継続しながら、ガラス管内に物質が存在する状態でガラス管を真空封入した。この真空封入操作は、ガラス管内の排気を継続しながら、ガラス管内の物質が熱影響を受けない程度に、充分に離れた位置で、ガラス管の外側からガスバーナーで加熱し、ガラス管を縮径することで当該物質を真空封入すると共にガラス管を切断する操作で、真空封入後のガラス管長さは、約70mmであった。以下同様の操作により真空封入した。このガラス管を、昇温速度が20℃/分の大気炉を用いて500℃で60分間保持し、炉内で室温まで冷却した。この熱処理後のガラス管内の物質を金属系構造体として得た。
【0285】
(実施例1-5)
表1においてFS3として示される硫酸鉄水溶液16mLをシャーレに入れた。続いて、シャーレの底面外側にフェライト磁石その1(外径17mm)を当接した。シャーレ内の液体に、表2においてNB3として示される還元剤水溶液15mLを3mL/分で滴下した。液体における還元剤水溶液が滴下された部分の近傍では、気泡が発生するとともに、黒濁をなす析出物の生成が認められた。また、生成した析出物が磁石に近接する向きに液中を移動することが観察された。
【0286】
還元剤水溶液の滴下終了後、シャーレの底面に磁石を当接した状態で液体を5分静置し、その状態でシャーレを傾けて液体を捨てた。その結果、シャーレの底面の内側に析出物が残留した。
【0287】
シャーレの底面に磁石を当接した状態で、洗浄条件1で析出物の洗浄を行った。
【0288】
洗浄後、シャーレの底面から磁石を離間させ、その状態でシャーレの底面に残留した析出物を、薬さじにより回収した。
【0289】
片側が封止されたガラス管に回収した析出物を入れ、乾燥条件1による乾燥を行った。ロータリーポンプによるガラス管内の排気を継続しながら、200℃で2分間保持の熱処理条件1で熱処理を行った。ロータリーポンプによるガラス管内の排気を終了して、ガラス管内の物質を金属系構造体として得た。
【0290】
(実施例1-6)
表1においてFS3として示される硫酸鉄水溶液16mLをシャーレに入れた。続いて、シャーレの底面外側にネオジム磁石その1(外径15mm)を当接した。シャーレ内の液体に、表2においてNB3として示される還元剤水溶液15mLを3mL/分で滴下した。液体における還元剤水溶液が滴下された部分の近傍では、気泡が発生するとともに、黒濁をなす析出物の生成が認められた。また、生成した析出物が磁石に近接する向きに液中を移動することが観察された。
【0291】
還元剤水溶液の滴下終了後、シャーレの底面に磁石を当接した状態で液体を5分静置し、その状態でシャーレを傾けて液体を捨てた。その結果、シャーレの底面の内側に析出物が残留した。
【0292】
シャーレの底面に磁石を当接した状態で、洗浄条件1で析出物の洗浄を行った。
【0293】
洗浄後、シャーレの底面から磁石を離間させ、その状態でシャーレの底面に残留した析出物を、薬さじにより回収した。
【0294】
片側が封止されたガラス管に回収した析出物を入れ、乾燥条件1による乾燥を行った。ロータリーポンプによるガラス管内の排気を継続しながら、400℃で15分間保持の熱処理条件1で熱処理を行った。ロータリーポンプによるガラス管内の排気を終了して、ガラス管内の物質を金属系構造体として得た。
【0295】
(実施例1-7)
表1においてFS4として示される硫酸鉄水溶液120mLを200mLビーカーに入れた。ビーカー内の液体に、表2においてNB4として示される還元剤水溶液60mLを10mL/分で滴下した。液体における還元剤水溶液が滴下された部分の近傍では、気泡が発生するとともに、黒濁をなす析出物の生成が認められた。
【0296】
還元剤水溶液の滴下終了後、液体を15分静置した。続いて、ビーカーの底面外側にネオジム磁石その1(外径15mm)を当接した。すると、磁石に近接する向きに液中の析出物が移動することが観察された。ビーカーの底面に磁石を当接した状態でシャーレ内の液体を5分間静置した。ビーカーの底面に磁石を当接した状態でビーカーを傾けて液体を捨てたところ、ビーカーの底面の内側に析出物が残留した。
【0297】
ビーカーの底面に磁石を当接した状態で、洗浄条件1で析出物の洗浄を行った。
【0298】
洗浄後、ビーカーの底面から磁石を離間させ、その状態でビーカーの底面に残留した析出物を、薬さじにより回収した。
【0299】
以上の作業を都合2回行い、片側が封止されたガラス管に回収した析出物を入れ、乾燥条件1による乾燥を行った。ロータリーポンプによるガラス管内の排気を継続しながら、200℃で2分間保持の熱処理条件1で熱処理を行った。ロータリーポンプによるガラス管内の排気を終了して、ガラス管内の物質を金属系構造体として得た。
【0300】
(実施例1-7-1)
実施例1-7と同様の操作を行って、乾燥条件1による乾燥までを行った。ロータリーポンプによるガラス管内の排気を継続しながら、50℃で2分間保持の熱処理条件1で熱処理を行った。ロータリーポンプによるガラス管内の排気を終了して、ガラス管内の物質を金属系構造体として得た。
【0301】
(実施例1-7-2)
表1においてFS4として示される硫酸鉄水溶液480mLを1Lビーカーに入れた。ビーカー内の液体に、表2においてNB4として示される還元剤水溶液240mLを25mL/分で滴下した。液体における還元剤水溶液が滴下された部分の近傍では、気泡が発生するとともに、黒濁をなす析出物の生成が認められた。
【0302】
還元剤水溶液の滴下終了後、液体を15分静置した。続いて、1Lビーカー内の液体の一部を、底面外側にネオジム磁石その2(外径30mm)を当接した200mLビーカーに移した。磁石に近接する向きに液中の析出物が移動することが観察された。ビーカーの底面に磁石を当接した状態でビーカー内の液体を5分間静置した。ビーカーの底面に磁石を当接した状態でビーカーを傾けて液体を捨てたところ、ビーカーの底面の内側に析出物が残留した。磁石を当接したまま、これらの作業を都合5回行い、洗浄条件1による洗浄を行った後、ビーカー底面から磁石を離間させて、1Lビーカー内の析出物を回収した。
【0303】
以上の作業を都合2回行って、得られた析出物を片側が封止されたガラス管に入れ、乾燥条件1による乾燥を行った。ロータリーポンプによるガラス管内の排気を継続しながら、200℃で2分間保持の熱処理条件1で熱処理を行った。ロータリーポンプによるガラス管内の排気を終了して、ガラス管内の物質を金属系構造体として得た。
【0304】
(実施例1-7-3)
実施例1-7と同様の操作を行って、乾燥条件1による乾燥までを行った。ロータリーポンプによるガラス管内の排気を継続しながら、300℃で2分間保持の熱処理条件1で熱処理を行った。ロータリーポンプによるガラス管内の排気を終了して、ガラス管内の物質を金属系構造体として得た。
【0305】
(実施例1-7-4)
実施例1-7と同様の操作を行って、乾燥条件1による乾燥までを行った。ロータリーポンプによるガラス管内の排気を継続しながら、400℃で30分間保持の熱処理条件1で熱処理を行った。この熱処理後のガラス管内の物質を金属系構造体として得た。
【0306】
(実施例1-7-5)
実施例1-7-2と同様であるが、硫酸鉄水溶液の使用量を240mL、還元剤水溶液の使用量を120mL、滴下速度20mL/分として、洗浄条件1までの操作を行った。得られた析出物を片側が封止されたガラス管に入れ、乾燥条件1による乾燥を行った。ロータリーポンプによるガラス管内の排気を継続しながら、150℃で2分間保持の熱処理条件1で熱処理を行った。その後、排気を継続しながら、ガラス管内に物質が存在する状態でガラス管を真空封入した。このガラス管を、昇温速度が20℃/分の大気炉を用いて600℃で60分間保持し、炉内で室温まで冷却した。この熱処理後のガラス管内の物質を金属系構造体として得た。
【0307】
(実施例1-8)
100mLビーカーの底面外側にフェライト磁石その1(外径17mm)を当接した。表1においてFS4として示される硫酸鉄水溶液20mLをビーカーに入れた。続いて、ビーカー内の液体に、表2においてNB4として示される還元剤水溶液10mLを3mL/分で滴下した。液体における還元剤水溶液が滴下された部分の近傍では、気泡が発生するとともに、黒濁をなす析出物の生成が認められた。また、生成した析出物が磁石に近接する向きに液中を移動することが観察された。
【0308】
還元剤水溶液の滴下終了後、ビーカーの底面に磁石を当接した状態で液体を5分静置し、その状態でビーカーを傾けて液体を捨てた。その結果、ビーカーの底面の内側に析出物が残留した。ビーカーの底面に磁石を当接した状態で、硫酸鉄水溶液20mLをビーカーに入れ、再度上記の滴下操作を繰り返し、洗浄条件1で析出物の洗浄を行った。
【0309】
洗浄後、ビーカーの底面から磁石を離間させ、その状態でビーカーの底面に残留した析出物を、薬さじにより回収した。
【0310】
以上の作業を2回繰り返し、都合4回の作業で得られた析出物を、片側が封止されたガラス管に入れ、乾燥条件1による乾燥を行った。ロータリーポンプによるガラス管内の排気を継続しながら、150℃で2分間保持の熱処理条件1で熱処理を行った。ロータリーポンプによるガラス管内の排気を終了して、ガラス管内の物質を金属系構造体として得た。
【0311】
(実施例1-9)
当接する磁石がネオジム磁石その1(外径15mm)である以外は実施例1-8と同様の滴下操作を行い、還元剤水溶液の滴下終了後、ビーカーの底面に磁石を当接した状態で液体を5分静置し、その状態でビーカーを傾けて液体を捨てた。その結果、ビーカーの底面の内側に析出物が残留した。
【0312】
ビーカーの底面に磁石を当接した状態で、上記の滴下操作を5回繰り返し、洗浄条件1で析出物の洗浄を行った。
【0313】
洗浄後、ビーカーの底面から磁石を離間させ、その状態でビーカーの底面に残留した析出物を、薬さじにより回収した。
【0314】
以上の作業で得られた析出物を、片側が封止されたガラス管に入れ、乾燥条件1による乾燥を行った。ロータリーポンプによるガラス管内の排気を継続しながら、250℃で2分間保持の熱処理条件1で熱処理を行った。ロータリーポンプによるガラス管内の排気を終了して、ガラス管内の物質を金属系構造体として得た。
【0315】
(実施例1-9-1)
実施例1-9で得られた金属系構造体の一部を、片側が封止されたガラス管に入れ、乾燥条件1による乾燥を行った。ロータリーポンプによるガラス管内の排気を継続しながら、ガラス管内に物質が存在する状態でガラス管を真空封入した。このガラス管を、昇温速度が20℃/分の大気炉を用いて600℃で60分間保持し、炉内で室温まで冷却した。この熱処理後のガラス管内の物質を金属系構造体として得た。
【0316】
(実施例1-9-2)
実施例1-9で得られた金属系構造体の一部を、片側が封止されたガラス管に入れ、乾燥条件1による乾燥を行った。ロータリーポンプによるガラス管内の排気を継続しながら、ガラス管内に物質が存在する状態でガラス管を真空封入した。このガラス管を、昇温速度が20℃/分の大気炉を用いて800℃で60分間保持し、炉内で室温まで冷却した。この熱処理後のガラス管内の物質を金属系構造体として得た。
【0317】
(実施例1-9-3) XRD測定
500mLビーカーの底面外側にネオジム磁石その2(外径30mm)を当接した。表1においてFS4として示される硫酸鉄水溶液240mLをビーカーに入れた。続いて、ビーカー内の液体に、表2においてNB4として示される還元剤水溶液120mLを20mL/分で滴下した。液体における還元剤水溶液が滴下された部分の近傍では、気泡が発生するとともに、黒濁をなす析出物の生成が認められた。また、生成した析出物が磁石に近接する向きに液中を移動することが観察された。
【0318】
還元剤水溶液の滴下終了後、ビーカーの底面に磁石を当接した状態で液体を5分静置し、その状態でビーカーを傾けて液体を捨てた。その結果、ビーカーの底面の内側に析出物が残留した。ビーカーの底面に磁石を当接した状態で、洗浄条件1で析出物の洗浄を行った。
【0319】
洗浄後、ビーカーの底面から磁石を離間させ、その状態でビーカーの底面に残留した析出物を、薬さじにより回収した。
【0320】
以上の作業で得られた析出物を、片側が封止されたガラス管に入れ、乾燥条件1による乾燥を行った。ロータリーポンプによるガラス管内の排気を継続しながら、150℃で2分間保持の熱処理条件1で熱処理を行った。その後、ガラス管内の排気を継続しながらガラス管内に物質が存在する状態でガラス管を真空封入した。このガラス管を、昇温速度が20℃/分の大気炉を用いて600℃で60分間保持した後、加熱を終了し炉内で室温まで冷却した。この熱処理後のガラス管内の物質を金属系構造体として得て、XRD測定に供した(
図63)。
【0321】
(実施例1-10)
表1においてFS5として示される硫酸鉄水溶液48mLを200mLビーカーに入れた。ビーカー内の液体に、表2においてNB5として示される還元剤水溶液75Lmを10mL/分で滴下した。液体における還元剤水溶液が滴下された部分の近傍では、気泡が発生するとともに、黒濁をなす析出物の生成が認められた。
【0322】
還元剤水溶液の滴下終了後、液体を15分間静置した。静置後の液体をろ過して、ろ取した析出物を、洗浄条件1で析出物の洗浄を行った。
【0323】
洗浄後、ビーカーの底面に残留した析出物を、薬さじにより回収した。
【0324】
片側が封止されたガラス管に洗浄後の析出物を入れ、乾燥条件1による乾燥を行った。ロータリーポンプによるガラス管内の排気を継続しながら、150℃で2分間保持の熱処理条件1で熱処理を行った。ロータリーポンプによるガラス管内の排気を終了して、ガラス管内の物質を金属系構造体として得た。
【0325】
(実施例1-10-1)
実施例1-10で得られた金属系構造体の一部を、片側が封止されたガラス管に入れ、乾燥条件1による乾燥を行った。ロータリーポンプによるガラス管内の排気を継続しながら、ガラス管内に物質が存在する状態でガラス管を真空封入した。このガラス管を、昇温速度が20℃/分の大気炉を用いて600℃で60分間保持し、炉内で室温まで冷却した。この熱処理後のガラス管内の物質を金属系構造体として得た。
【0326】
(実施例1-11) XRD測定(この相をX1相と呼ぶ)
表1においてFS5として示される硫酸鉄水溶液16mLを100mLビーカーに入れた。続いて、ビーカーの底面外側にネオジム磁石その2(外径30mm)を当接した。ビーカー内の液体に、表2においてNB5として示される還元剤水溶液25mLを5mL/分で滴下した。液体における還元剤水溶液が滴下された部分の近傍では、気泡が発生するとともに、黒濁をなす析出物の生成が認められた。また、生成した析出物が磁石に近接する向きに液中を移動することが観察された。
【0327】
還元剤水溶液の滴下終了後、ビーカーの底面に磁石を当接した状態で液体を5分静置し、その状態でビーカーを傾けて液体を捨てた。その結果、ビーカーの底面の内側に析出物が残留した。
【0328】
ビーカーの底面に磁石を当接した状態で、洗浄条件1で析出物の洗浄を行った。
【0329】
片側が封止されたガラス管に洗浄後の析出物を入れ、乾燥条件1による乾燥を行った。ロータリーポンプによるガラス管内の排気を継続しながら、150℃で2分間保持の熱処理条件1で熱処理を行った。ロータリーポンプによるガラス管内の排気を終了して、ガラス管内の物質を金属系構造体として得た。この金属系構造体をXRD測定に供した(
図47)。
【0330】
(実施例1-11-1)
実施例1-11と同様の操作を行って、乾燥条件1による乾燥までを行った。ロータリーポンプによるガラス管内の排気を継続しながら、150℃で2分間保持の熱処理条件1で熱処理を行った。その後、ガラス管内に物質が存在する状態でガラス管を真空封入した。このガラス管を、昇温速度が20℃/分の大気炉を用いて400℃で60分間保持し、炉内で室温まで冷却した。この熱処理後のガラス管内の物質を金属系構造体として得た。
【0331】
(実施例1-11-2)
硫酸鉄水溶液の使用量を48mL、還元剤水溶液の使用量を75mL、滴下速度10mL/分として、200mLビーカーを用いる以外は実施例1-11と同様の作業により乾燥条件1による乾燥までを行った。ロータリーポンプによるガラス管内の排気を継続しながら、200℃で2分間保持の熱処理条件1で熱処理を行った。ロータリーポンプによるガラス管内の排気を終了して、ガラス管内の物質を金属系構造体として得た。
【0332】
(実施例1-11-3) 水素含有量の測定とSEM測定
硫酸鉄水溶液の使用量を48mL、還元剤水溶液の使用量を75mL、滴下速度10mL/分として、200mLビーカーを用いる以外は実施例1-11と同様の作業により乾燥条件1による乾燥までを行った。ロータリーポンプによるガラス管内の排気を継続しながら、450℃で2分間保持の熱処理条件1で熱処理を行った。ロータリーポンプによるガラス管内の排気を終了して、ガラス管内の物質を金属系構造体として得た。
【0333】
(実施例1-11-4) XRD測定(この相をX2相と呼ぶ)
実施例1-11-3の一部である30mgの金属系構造体をXRD測定に供した(
図64)。
【0334】
(実施例1-11-5) XRD測定(この相をX3相と呼ぶ)
実施例1-11-4において金属系構造体のXRD測定を行った後、ほぼ全量を片側が封止されたガラス管に入れ、乾燥条件1による乾燥を行った。ロータリーポンプによるガラス管内の排気を継続しながら、150℃で2分間保持の熱処理条件1で熱処理を行った。さらに排気を継続しながら、ガラス管内に物質が存在する状態でガラス管を真空封入した。このガラス管を、昇温速度が20℃/分の大気炉を用いて600℃で60分間保持し、炉内で室温まで冷却した。この熱処理後のガラス管内の物質を金属系構造体として得て、ほぼ全量をXRD測定に供した(
図65)。
【0335】
(実施例1-12)
表1においてFS6として示される硫酸鉄水溶液120mLを200mLビーカーに入れた。ビーカー内の液体に、表2においてNB6として示される還元剤水溶液60mLを10mL/分で滴下した。液体における還元剤水溶液が滴下された部分の近傍では、気泡が発生するとともに、黒濁をなす析出物の生成が認められた。
【0336】
還元剤水溶液の滴下終了後、液体を15分静置した。続いて、ビーカーの底面外側にネオジム磁石その2(外径30mm)を当接した。すると、磁石に近接する向きに液中の析出物が移動することが観察された。ビーカーの底面に磁石を当接した状態でビーカー内の液体を5分間静置した。ビーカーの底面に磁石を当接した状態でビーカーを傾けて液体を捨てたところ、ビーカーの底面の内側に析出物が残留した。
【0337】
ビーカーの底面に磁石を当接した状態で、洗浄条件1で析出物の洗浄を行った後、析出物を回収した。
【0338】
以上の作業を都合2回行い、得られた析出物を片側が封止されたガラス管に入れ、乾燥条件1による乾燥を行った。ロータリーポンプによるガラス管内の排気を継続しながら、150℃で2分間保持の熱処理条件1で熱処理を行った。ロータリーポンプによるガラス管内の排気を終了して、ガラス管内の物質を金属系構造体として得た。
【0339】
(実施例1-12-1)
表1においてFS6として示される硫酸鉄水溶液480mLを1Lビーカーに入れた。ビーカー内の液体に、表2においてNB6として示される還元剤水溶液240mLを25mL/分で滴下した。液体における還元剤水溶液が滴下された部分の近傍では、気泡が発生するとともに、黒濁をなす析出物の生成が認められた。
【0340】
還元剤水溶液の滴下終了後、液体を15分静置した。続いて、1Lビーカー内の液体の一部を、底面外側にネオジム磁石その2(外径30mm)を当接した200mLビーカーに移した。磁石に近接する向きに液中の析出物が移動することが観察された。ビーカーの底面に磁石を当接した状態でビーカー内の液体を5分間静置した。ビーカーの底面に磁石を当接した状態でビーカーを傾けて液体を捨てたところ、ビーカーの底面の内側に析出物が残留した。磁石を当接したまま、これらの作業を都合5回行い、洗浄条件1による洗浄を行った後、ビーカー底面から磁石を離間させて、1Lビーカー内の析出物を回収した。
【0341】
以上の作業を都合2回行い、これらの作業により得られた析出物を、片側が封止されたガラス管内に入れて、乾燥条件1による乾燥を行った。ロータリーポンプによるガラス管内の排気を継続しながら、200℃で2分間保持の熱処理条件1で熱処理を行った。ロータリーポンプによるガラス管内の排気を終了して、ガラス管内の物質を金属系構造体として得た。
【0342】
(実施例1-12-2)
実施例1-12により得られた金属系構造体の一部を片側が封止されたガラス管内に入れて、乾燥条件1による乾燥を行った。ロータリーポンプによるガラス管内の排気を継続しながら、ガラス管内に物質が存在する状態でガラス管を真空封入した。このガラス管を、昇温速度が20℃/分の大気炉を用いて600℃で60分間保持し、炉内で室温まで冷却した。この熱処理後のガラス管内の物質を金属系構造体として得た。
【0343】
(実施例1-13)
ビーカーの底面外側にネオジム磁石その2(外径30mm)を当接した200mLビーカーに、表1においてFS6として示される硫酸鉄水溶液60mLを入れた。ビーカー内の液体に、表2においてNB6として示される還元剤水溶液30mLを10mL/分で滴下した。液体における還元剤水溶液が滴下された部分の近傍では、気泡が発生するとともに、黒濁をなす析出物の生成が認められた。また、生成した析出物が磁石に近接する向きに液中を移動することが観察された。
【0344】
還元剤水溶液の滴下終了後、ビーカーの底面に磁石を当接した状態で液体を5分静置し、その状態でビーカーを傾けて液体を捨てた。その結果、ビーカーの底面の内側に析出物が残留した。
【0345】
ビーカーの底面に磁石を当接した状態で、以上の滴下作業を都合4回行った後、洗浄条件1で析出物の洗浄を行った。
【0346】
得られた析出物を、片側が封止されたガラス管に入れ、乾燥条件1による乾燥を行った。ロータリーポンプによるガラス管内の排気を継続しながら、150℃で2分間保持の熱処理条件1で熱処理を行った。ロータリーポンプによるガラス管内の排気を終了して、ガラス管内の物質を金属系構造体として得た。
【0347】
(実施例1-13-1)
実施例1-13と同様の操作により得られた金属系構造体を、片側が封止されたガラス管に入れ、乾燥条件1による乾燥を行った。ロータリーポンプによるガラス管内の排気を継続しながら、ガラス管内に物質が存在する状態でガラス管を真空封入した。真空封入されたガラス管を、昇温速度が20℃/分の大気炉を用いて600℃で60分間保持し、炉内で室温まで冷却した。この熱処理後のガラス管内の物質を金属系構造体として得た。
【0348】
(実施例1-14) XRD測定(この相をY1相と呼ぶ)
表1においてFS5として示される硫酸鉄水溶液48mLを200mLビーカーに入れ
た。続いて、ビーカー内の液体に、表2においてNB5として示される還元剤水溶液75mLを20秒(約4mL/秒)で注ぎ入れた。気泡がやや激しく発生した液体中には、黒濁をなす析出物の生成が認められ、還元剤水溶液の注入中に、気泡の発生により十分に撹拌される様子が観察された。注入終了後に引き続き、ガラス棒にて10分間撹拌を行った。得られた析出物をろ紙により抽出し、洗浄条件1により洗浄を行った後、半量を室温のデシケータ中で乾燥させ金属系構造体を得て、XRD測定に供した(
図66)。
【0349】
(実施例1-14-1) 水素含有量測定
実施例1-14と同様の操作により、析出物を洗浄条件1による洗浄までを行った後、片側が封止されたガラス管に入れ、乾燥条件1による乾燥を行った。ロータリーポンプによるガラス管内の排気を継続しながら、200℃で2分間保持の熱処理条件1で熱処理を行った。ロータリーポンプによるガラス管内の排気を終了して、ガラス管内の物質を金属系構造体として得た。
【0350】
(実施例1-14-2) XRD測定(この相をY3相と呼ぶ)
実施例1-14において、洗浄条件1により洗浄を行った後、残りの半量を片側が封止されたガラス管に入れ、乾燥条件1による乾燥を行った。ロータリーポンプによるガラス管内の排気を継続しながら、150℃で2分間保持の熱処理条件1で熱処理を行った。さらに排気を継続しながら、ガラス管内に物質が存在する状態でガラス管を真空封入した。このガラス管を、昇温速度が20℃/分の大気炉を用いて600℃で60分間保持し、炉内で室温まで冷却した。この熱処理後のガラス管内の物質を金属系構造体として得て、XRD測定に供した(
図67)。
【0351】
1-2.測定
(測定1)X線回折
X線回折装置(BRUKER AXS社製「NEW D8 ADVANCE」)を用いて、実施例により得られた金属系構造体のX線(CuのKα線)による回折スペクトルの測定を行った。
【0352】
測定結果を
図39から
図52に示す。
各実施例、図及び測定結果の関係は次のとおりである。
実施例1-1
図39 非晶質単相
実施例1-4
図40 非晶質単相
実施例1-4-4
図41 αFe単相
実施例1-7
図42 非晶質単相
実施例1-7-5
図43 αFe単相
実施例1-9
図44 非晶質単相
実施例1-9-3
図63 αFe単相
実施例1-10
図45 非晶質を主体とする相
実施例1-10-1
図46 αFe単相
実施例1-11
図47 非晶質単相
実施例1-11-1
図48 αFe相
実施例1-11-4
図64 αFe相
実施例1-11-5
図65 αFe単相
実施例1-12
図49 非晶質単相
実施例1-12-2
図50 Fe
2B単相
実施例1-13
図51 非晶質単相
実施例1-13-1
図52 Fe
2BとαFeが混在
実施例1-14
図66 αFe相
実施例1-14-2
図67 αFe単相
【0353】
得られた回折スペクトルにおいて、実質的にαFeに基づくピークのみが観察された場合に、その回折スペクトルを与えた金属系構造体はαFe単相であると判断した。
【0354】
この結果から以下のことが解る。
(A)本発明に係る製造方法において、非晶質単相もしくは非晶質部分を主体とする金属系構造体が得られることが確認された。
(B)非晶質単相もしくは非晶質部分を主体とする金属系構造体に、加熱操作を行うことにより金属αFe単相もしくは金属間化合物Fe2B単相もしくはこれらの混在する相からなる、金属単相の結晶化金属系構造体が得られることが確認された。
【0355】
結晶相が形成可能かどうかの判定は、実施例のX1相/X2相/X3相で示され、以下のように判定される。
(a)XRD測定結果(
図47_X1)において結晶相を含まない非晶質単相と判定される非晶質(X1相と呼ぶ)に、例えば、450℃の熱処理を加えることで、XRDの測定結果(
図64_X2)において結晶相(X2相と呼ぶ)とみなされるピークが現れる。
(b)XRD測定結果(
図65_X3)において、
図64_X2に示される結晶相(X2相)を含む金属系構造体に例えば600℃の熱処理を加えることで、
図65_X3に示されるように、より結晶性の高い結晶相(X3相と呼ぶ)が得られる。
【0356】
(a)の例すなわち、X1相からX2相に、(b)の例すなわち、X2相からX3相に相変化が有る場合に、XRDの測定結果において(a)(b)それぞれが相対的に結晶性が増す、すなわち規則構造の領域が増えたと判定される場合に、非晶質部分において非晶質相から結晶相が形成されたと判断される。このように同様の条件で測定を行い、相対的に判断することが好ましい。
【0357】
この判定方法に基づき、実験結果から以下のように判定される。
・X1相は、X2相の結果から、結晶相の形成が可能な非晶質部分を有する(XRDのピークの数が増えている)。
・X2相は、X3相の結果から、結晶相の形成が可能な非晶質部分を有する(XRDのピークがブロードからシャープになり、ピークの強度比が増大した)。結晶性が増した、規則構造の領域が増えたと判断するのは相対比較によって行うことが望ましい。一例として、同様の条件で測定されたXRDの測定結果を相対的に比較して、原子配列の規則性が高まることから判定される。さらに一例として、以下の少なくとも1の特徴を有することによって判定される場合がある。
(α)ピークの数が増える。
(β)ピークの強度の半分の値における角度幅である半値幅(HW[°])が狭くなる。ピークがブロードからシャープになる。
(γ)ピークの無い基底部のノイズの強度幅に対するピークの強度比が増大する。
*ピークの強度;ピーク強度の最大値とピークの無い基底部(ノイズを考慮した平均値)の外挿値の強度差をいう。
【0358】
実施例1-11-4(
図64)、実施例1-11-5(
図65)、実施例1-14(
図66)、実施例1-14-2(
図67)のXRD測定結果から、最大ピークで求めた半値幅(HW[°])はそれぞれ、0.78、0.18、0.85、0.19であり、同じくピークの強度比(Ip/N)はそれぞれ、20、102、23、153であった。半値幅、強度比が2倍以上の隔たりを有する場合に、半値幅が減少し、及び/又は、強度比が増加したことによって相対的に、非晶質部分の規則性が増大し結晶化が進行したと判断される。
【0359】
(測定2)水素含有量の測定
金属系構造体に含まれる水素の含有量について測定した。水素の含有量は、以下に述べる測定によって求められた水素の質量を試料はかりとり量で除し100をかけることにより、試料中の水素含有率[%(質量分率)]として算出した。以下、質量%と表記する。
【0360】
測定方法は、JIS Z 2614「金属材料の水素定量方法通則」に基づいた。装置は、JIS H1619「チタン及びチタン合金-水素定量方法」に記載の装置を使用して測定を行った。具体的には、JIS H1619 チタン及びチタン合金-水素定量方法 5不活性ガス融解-熱伝導度法、水素のままで測定した。
【0361】
不活性ガス気流中で、黒鉛るつぼを用いて試料をスズとともにインパルス炉で加熱融解し、水素を他のガスとともに抽出した。抽出したガスをそのまま分離カラムに通して、水素を他のガスと分離し、これを熱伝導度検出器に導き、水素による熱伝導度の変化を測定した。
【0362】
その他の条件は次のとおりであった。
試料の状態:粉末
試料調整方法:105℃-2Hr大気中にて加熱乾燥後、デシケータ内で室温まで冷却し、混合して均一化した。
試料採取方法:粉末試料をg(グラム)単位で小数点以下第4位まで秤量し、分析に供した。
定量方法(ガス抽出法):不活性ガス融解法
(ガス分析法):熱伝導度法
ガス抽出温度(分析試料を融解させガスを放出させる温度):2000℃
ガス捕集時間:75sec
空試験値:0.000003%(0.03ppm)
測定装置:HORIBA社製 EMGA 621A型
試料はかり取り量及び調整方法
それぞれの条件について、約100mgの粉末試料を分析に供した。
脱ガス温度(=るつぼの空焼き温度):A,B,Cの順で実施した。
A:3200℃-30sec
B:2100℃-15sec
C:2000℃-5sec
抽出に用いる不活性ガスの種類と純度:Ar 99.999%
不活性ガスの脱窒素脱酸素剤、脱水剤:
脱窒素脱酸素剤は無し。
脱水剤は、過塩素酸マグネシウム。
【0363】
以上の測定の結果、水素の含有量は、実施例1-7-2により得られた金属系構造体について0.22質量%、実施例1-11-2により得られた金属系構造体について0.10質量%及び実施例1-12-1により得られた金属系構造体について0.02質量%であった。実施例1-7-5及び1-11-5の結果から母相はFeであると考えることができ、このとき、実施例1-7-2により得られた金属系構造体及び実施例1-11-2により得られた金属系構造体の水素の原子分率としての含有量(試料中の水素含有率[%(原子分率)]、以下原子%と表記する。)は、それぞれ、11.0原子%、5.3原子%と換算された。実施例1-12-1については、実施例1-12-2の結果から母相はFe2Bもしくは同一組成比からなる相であると考えることができ、このとき、水素の含有量は0.81原子%と換算された。
【0364】
また、水素含有量の測定の結果、実施例1-11-3により得られた金属系構造体について0.06質量%であった。実施例1-11-5の結果から母相はFeであると考えることができ、この金属系構造体の水素の原子分率としての含有量は、3.2原子%と換算された。
【0365】
さらに、水素含有量の測定の結果、実施例1-14-1により得られた金属系構造体について0.06質量%であった。実施例1-14-2の結果から母相はFeであると考えることができ、この金属系構造体の水素の原子分率としての含有量は、3.2原子%と換算された。以下に結果をまとめた表を示す。
【0366】
【0367】
この結果から、本発明に係る金属系構造体は、水素含有金属系構造体さらには水素含有非晶質構造体であることが確認された。
【0368】
前述のように、本発明の金属系構造体に対し、200℃で2分間加熱した際に、金属系構造体から外に出ていない水素は、非拡散性水素である。従って、上記の水素含有量は、200℃で2分間加熱した後の水素の含有量であるから、非拡散性水素の含有量であるといえる。
【0369】
前述のように、金属系構造体内に水素が含有されることにより、金属系還元体が成長する際に結晶化することが阻害され、その結果、金属系構造体内に、非晶質又はこれに近い状態の領域が生成しているといえる。すなわち、水素を含有することで、非晶質相を形成したものと推察される。
【0370】
これを水素含有量の面からみると、金属系構造体の水素含有量を制御することによって、非晶質相の形成を制御することができたといえる。
【0371】
(滴下による混合工程と攪拌による混合工程)
滴下による混合工程と攪拌による混合工程は、次のような差異がある。滴下による混合を行った場合は、析出後の金属系構造体は、非晶質単相(実施例1-11、
図47、X1相)であり、水素含有量は、0.1wt%であった(実施例1-11-2)。600℃の熱処理後は、αFe単相であって、Fe元素の存在のみが観察された(実施例1-11-5、X3相)。これに対し、撹拌混合を行った場合は、析出後の金属系構造体は、αFe相(実施例1-14、
図66、Y1相)であり、水素含有量は、0.06wt%であった(実施例1-14-1)。600℃の熱処理後は、αFe単相であって、Fe元素の存在のみが観察された(実施例1-14-2、
図67、Y3相)。Y1相は、Y3相の結果から、結晶相の形成が可能な非晶質部分を有する。
【0372】
この測定結果から次のように判断される。析出反応時の撹拌条件を変化させることで、同じ原料から出発して別の相(X1相とY1相)が形成され、かつ600℃の熱処理後は、同じ相(X3相とY3相)が形成された。最初の原料と最後のαFe相が同じで、析出乾燥後の相(X1相とY1相)のみに違いが生じたことから、析出反応時の液中の状態を制御することで、金属系構造体の水素含有量、非晶質相の形成を制御することができた。これは、前述のように、析出粒子に機械的な外力を与えることを極力抑えることの影響であると推察される。
【0373】
(水素含有量制御による非晶質相の形成についての考察)
詳細は後述するが、析出反応時の混合方法を変化させたところ、滴下したものは水素含有量が多く非晶質単相を形成し、撹拌したものは水素含有量が少なく一部結晶化した。析出反応時に撹拌することによって、Feと水素の間の結合反応状態が変化することで、水素含有量が低下し一部が結晶化したものと考えられる。
【0374】
一方、非晶質単相を加熱することによって、水素含有量が低下し一部が結晶化した。水素含有量を減量することで結晶相が形成されたものと考えられる。この場合も水素含有量が多いものは非晶質単相、少ないものは一部が結晶化した。
【0375】
2つの別の操作、すなわち析出反応時の混合操作と加熱処理の操作により、水素含有量を変化させたところ、どちらも、水素含有量が多いものは非晶質単相を形成し、水素含有量の少ないものは一部が結晶化した。すなわち、別の操作方法で同じ結果が得られた。
【0376】
以上をまとめて解釈すると、従来得られなかったFe非晶質相について、水素含有することでFe非晶質相の形成が実現されたこと、さらには2つの別の操作によって、水素含有量と非晶質相の形成に関して同じ因果関係が得られたことで、水素含有量の制御によって非晶質相の形成が制御できることは普遍的な結論であると帰結された。
【0377】
(測定3)SEM観察
走査型電子顕微鏡(キーエンス社製「VE-9800」)を用いて、各実施例により得られた金属系構造体の観察(二次電子線像)を行った。測定対象試料には蒸着等の前処理を行わず、試料台に貼付した導電性粘着テープ上に載置された試料をそのまま観察した。資料が配置された測定チャンバの圧力は10-3Pa以下に保った。測定時の加速電圧及びワーキングディスタンスは測定結果を示す図中に示した。また、測定倍率とスケールバーも図中に示した。
【0378】
金属系構造体の短軸長dは次のようにして測定した。
【0379】
測定されたSEM画像において、無作為に10点を測定点として選び、二値化等の処理を行わず、それぞれの測定点における短軸長を測定し平均値を求めた。金属系構造体がフィラメント状である又はフィラメント状の要素を有する場合には、金属系構造体の長軸に対して垂直な方向の幅を短軸長dとして測定した。金属系構造体がステープル状の要素からなる場合及びビーズ状の要素からなる場合には、測定点から最も近傍に位置する短軸長が極大となる部分における短軸長を測定点の短軸長dとした。
【0380】
金属系構造体の長軸長Lは、測定されたSEM画像において、金属系構造体の両末端間の長さを測定し、その長さを長軸長の最小値とした。したがって、測定された金属系構造体の長軸長Lは、測定された長さ以上として定義した。
【0381】
アスペクト比L/dは、長軸長Lを測定した金属系構造体における任意の場所で短軸長を求め、短軸長dで長軸長Lを除した値として定義した。
【0382】
【0383】
各実施例と図との関係及び得られた金属系構造体の形態上の分類は次のとおりである。
実施例1-1
図2から5 ステープルウェブ
図4は、
図2の中央部の拡大図
実施例1-2
図6 フィラメントウェブ
実施例1-3
図7 フィラメントウェブ
実施例1-4
図8及び9 フィラメントウェブ
実施例1-4-2
図10及び11 フィラメントウェブ
図10は、
図11の中央部の拡大図
実施例1-4-3
図12から15 フィラメントウェブ
図14は、
図13の中央部の拡大図
実施例1-5
図16 ビーズウェブ
実施例1-6
図17 フィラメントウェブ
実施例1-7
図18から21 ビーズバルク
図19は、
図18の中央部の拡大図
図20は、
図19の中央部の拡大図
図21は、
図19の上部中央の拡大図
実施例1-7-1
図22 ビーズバルク
実施例1-7-3
図23 ビーズバルク
実施例1-7-4
図24及び25 ビーズバルクの焼結固化体
図25は、
図24の中央部の拡大図
実施例1-8
図26 ビーズバルク
実施例1-9
図27 ビーズウェブ
実施例1-9-1
図28 ビーズウェブの焼結体
実施例1-9-2
図29 ビーズウェブの焼結体
実施例1-10
図30 ステープルウェブ
実施例1-11
図31及び32 フィラメントウェブ
図31は、
図32の中央部の拡大図
実施例1-12
図33 ビーズバルク
実施例1-12-1
図34 ビーズバルク
実施例1-12-2
図35 ビーズバルクの焼結体
実施例1-13
図36から38 ビーズウェブ
図36は、
図38の中央部の拡大図
図37は、
図36の中央部の拡大図
実施例1-11-3
図68 フィラメントウェブ
実施例1-11-5
図69 フィラメントウェブの焼結体
【0384】
SEMの観察結果から求めた短軸長d(平均値)、長軸長L及びアスペクト比L/dを以下に示す。
実施例1-1
図3
短軸長d:130nm
長軸長L:3.9μm
アスペクト比L/d:27
実施例1-2
図6
短軸長d:140nm
長軸長L:4.0μm
アスペクト比L/d:24
実施例1-3
図7
短軸長d:150nm
長軸長L:3.8μm
アスペクト比L/d:21
実施例1-4
図8
短軸長d:110nm
長軸長L:2.7μm
アスペクト比L/d:17
実施例1-4-2
図10
短軸長d:130nm
長軸長L:2.1μm
アスペクト比L/d:17
実施例1-4-3
図15
短軸長d:130nm
長軸長L:6.9μm
アスペクト比L/d:40
実施例1-7
図20
短軸長d:250nm
実施例1-9
図27
短軸長d:200nm
長軸長L:2.8μm
アスペクト比L/d:10
実施例1-10
図30
短軸長d:120nm
長軸長L:3.8μm
アスペクト比L/d:21
実施例1-11
図31
短軸長d:110nm
長軸長L:5.6μm
アスペクト比L/d:52
実施例1-12
図33
短軸長d:300nm
実施例1-13
図37
短軸長d:330nm
長軸長L:3.7μm
アスペクト比L/d:8.1
【0385】
以上の結果から、次のことが理解される。本発明に係る非晶質相のワイヤ状の形態において、フィラメントを基本とするワイヤ形状とビーズを基本としたビーズワイヤ形状の2形態が生じる。すなわち金属系構造体に成長する成長粒子にはこのワイヤ状とビーズワイヤ状の2形態に対応した少なくとも2種類の成長粒子がある。これらの特定の成長粒子に磁場を印加させた場合に、成長粒子の磁気的性質、形状、サイズ(全体の大きさ)等の影響によりワイヤ状及びビーズワイヤ状の2種類の形態が得られる。成長粒子の性質を2つに分ける要因は、可還元性物質の含有量が支配的である。ただし、遷移的な含有量領域が存在し、そこでは磁場強度に依存してフィラメントを基本とするワイヤ形状となるかビーズを基本とするビーズワイヤ状の形状となるかが決定される。
【0386】
溶媒が水の場合及び溶媒がアルコールを含有する場合の双方について、可還元性物質の含有量が3mmol/kg以上であれば、フィラメント状のワイヤ形状を有する金属系構造体が得られやすくなり、可還元性物質の含有量が60mmol/kg未満であれば、ビーズワイヤ状の形状を有する金属系構造体が得られやすくなる。これらのしきい値は、磁場強度が強い、すなわち、ネオジム磁石を用いたときの方が低くなる傾向がみられる。
【0387】
この成長粒子に、磁場を作用させるタイミングと磁場強度とを変化させることによりさらに形態に違いが生まれる。すなわち、次の様な論理式となる。
【0388】
成長粒子2種×磁場作用(磁石の有無)2種
= 4形態(フィラメント/ステープル、ビーズワイヤ/ビーズバルク)
【0389】
さらに、中間的な磁場強度を作用させることや、磁場作用のタイミングを変化させることにより、中間的な形態のバリエーションが生まれる。
【0390】
さらに、金属系構造体の水素含有量を増加させたり、溶媒にアルコールを添加したりすることにより、無定形相が生じビーズバルクが形成される。無定形相は、実施例1で示した可還元性物質の含有量の範囲内において形成可能である。特に、可還元性物質の含有量が0.3mmol/kg以上60mmol/kg未満の場合には無定形相が形成されやすい。溶媒がアルコールを含有する場合には無定形相が形成されやすい。
【0391】
無定形相が存在することが、緻密な金属系構造体もしくは結晶化金属系構造体を得る上で効果的である。
【0392】
フィラメントやステープルの短軸長は100~150nm程度で、熱処理による顕著な増加は観られなかった(実施例1-4-3)。ビーズを基本形状とする形態(ビーズワイヤ、ビーズバルク、さらにビーズの紛体)の短軸長は、200nmから300nm程度であった。
【0393】
長軸長については、フィラメントにおいて10μm以上、30μm以上、さらには40μm以上のものが得られた。フィラメントにおいて、アスペクト比は、10以上、20以上、50以上さらには150以上のものが観られた。ビーズワイヤにおいて、長軸長が10μm以上で、アスペクト比は、8以上さらには、25以上のものが得られた。
【0394】
計測したフィラメント/ステープルの4種類の線状の形態を有する金属系構造体は、短軸長dが110から130nmで、ほぼ同一であった。特に、磁場作用を与えたフィラメントが、磁場作用を与えなかったステープルに比べて短軸長が増加するという傾向は見られない。このことから、磁場作用が短軸方向の成長を促すことが無かったと考えられる(実施例1-1、実施例1-4、実施例1-10、実施例1-11)。
【0395】
この結果から、形成された粒子はある所定の大きさまで成長した後、相互に結合し長軸方向を有する形態が形成されるものと推測される。特にビーズワイヤでは、球状体が長軸方向にほぼ一列に並んだ形態をしており、短軸方向に複数固着する様子はほとんど見られないことから、この形成過程が裏付けられる。この結合の際に磁場が作用することで、長軸方向の直線性が高まり、結果、長軸方向の長さの長い、さらには、長軸長/短軸長で表されるアスペクト比が高いワイヤ状の形態が形成されたものと推測する。また、磁場作用の有る場合において短軸方向の長さが増加しないことから、形成された粒子は長軸方向に優先的に結合し、短軸方向に粒子同士の結合が進行することが無かったもしくは極めて少なかったと見なされる。
【0396】
さらに磁場を作用する際に、析出からの時間経過が長い(実施例1-2)、磁場強度が十分でない(実施例1-3)等の理由からワイヤ状でありながら、実質的な磁場効果が減少されたことの影響で、ステープルの様に曲り(うねり)が大きいワイヤが形成されたものと考えられる。
【0397】
磁場作用を、ガラスを介して液体に作用させる場合と、直接作用させる場合において、得られたフィラメントの形態に違いは見られなかった(実施例1-4、1-4-2)。
【0398】
以上の結果から次のことが解る。フィラメントを基本とするワイヤ形状を構成要素とする形態、ビーズワイヤ形状を構成要素とする形態、さらには無定形相を多量に有する形態について前述のように水素含有量を測定したところ、水素含有金属系構造体さらには水素含有非晶質構造体であることが確認された。
【0399】
そして、金属単相からなるもしくは金属元素単相(例えばαFe単相)からなる金属系構造体を得ることが可能となった。特に、非晶質含有体及び/又は水素含有体であることが、金属単相からなる、さらには金属元素単相からなる高純度金属系構造体を得る上で効果的であることが解った。
【0400】
(濃度(可還元性物質の含有量)と水素含有量との関係)
(S1)溶媒に限定されることなく、可還元性物質の含有量(単位:mmol/kg、以下「FS」と略記):0.3mmol/kg以上で、金属系構造体の水素含有量(単位:質量%、以下、「H」と略記):0.01質量%(0.4原子%)以上が得られる(実施例1-12)。「FS」は、特に断りのない場合は、飽和濃度を上限とする。
【0401】
(S2)溶媒に限定されることなく、FS:3mmol/kg以上で、H:0.05質量%(2.7原子%)以上が得られる(実施例1-11)。
【0402】
(S3)特に、溶媒を水+アルコールとした場合、FS:0.3mmol/kg以上で、H:0.05質量%(2.7原子%)以上、0.1質量%(5.3原子%)以上、さらにはH:0.2質量%(10.1原子%)以上が得られる。すなわち溶媒にアルコールを添加することで、水素含有量が増加する。
【0403】
(S4)水素含有還元剤に含まれる水素のモル濃度を可還元性物質に係る金属系イオンの価数で除した値で、可還元性物質に係る金属系イオン1価あたりの水素濃度を意味し、単位:mmol/kg、以下「H/+」という。還元剤の含有量(実施例の場合はNaBH4の含有量)、単位:mmol/kg、以下「NB」と略記。溶媒に限定されることなく、H/+:6(NB:3)mmol/kg以上で、さらには、H/+:20(NB:10)mmol/kg以上で、この傾向(S1,S2,S3)は顕著となる(参考例2-21、実施例2-14)。「H/+」、「NB」はいずれも、特に断りのない場合は、飽和濃度を上限とする。
【0404】
以上のことから、可還元性物質の濃度を調節することによって、本発明に係る金属系構造体の水素含有量を制御することができるといえる。また、溶媒の種類及び濃度を調節することによって、水素含有量を制御することができるといえる。
【0405】
(濃度(可還元性物質の含有量)、水素含有量及び金属相の関係)
(S5)溶媒に限定されることなく、FS:0.3mmol/kg以上で、かつH/+:20(NB:10)mmol/kg以上で、H:0.01質量%(0.4原子%)以上とすることで、酸化物の形成を抑えて、金属単相や金属元素単相からなる金属系構造体が得られる(実施例1-12、実施例2-14、参考例2-21)。
【0406】
(S6)溶媒に限定されることなく、FS:3mmol/kg以上で、かつH/+:20(NB:10)mmol/kg以上で、H:0.05質量%(2.7原子%)以上とすることで、金属元素単相からなる金属系構造体が得られる(実施例1-11)。
【0407】
(S7)特に、溶媒を水+アルコールとした場合、FS:0.3mmol/kg以上で、かつH/+:20(NB:10)mmol/kg以上で、H:0.05質量%(2.7原子%)以上さらにはH:0.1質量%(5.3原子%)以上、さらにはH:0.2質量%(10.1原子%)以上とすることで、金属元素単相からなる金属系構造体が得られる。溶媒に水+アルコールとすることが、水素含有量を高める上で効果が大きい(実施例1-7)。
【0408】
(S8)溶媒に水を用いる場合、FS:0.3mmol/kg以上14mmol/kg未満、かつH/+:6(NB:3)mmol/kg以上120(NB:60)mmol/kg未満とすること、さらにはFS:1.0mmol/kg以上で3.0mmol/kg未満、かつH/+:20(NB:10)mmol/kg以上120(NB:60)mmol/kg未満とすることで、金属と半金属とからなる金属間化合物(Fe2B)を含有する、さらには金属間化合物(Fe2B)単相からなる金属系構造体が得られる(実施例1-12、実施例2-20)。
【0409】
以上のことから、可還元性物質の濃度を調節することによって、本発明に係る金属系構造体の非晶質相の組成を制御することができるといえる。
【0410】
(水素含有量と金属相の関係)
<S1からS8により水素含有量に関して>
(S9)H:0.01質量%(0.4原子%)以上とすることで、金属単相や金属元素単相からなる金属系構造体が得られる。
【0411】
(S10)H:0.05質量%(2.7原子%)以上、さらにはH:0.1質量%(5.3原子%)以上、さらにはH:0.2質量%(10.1原子%)以上とすることで、金属元素単相からなる高純度金属系構造体が得られる。
【0412】
これらの結果から、金属系構造体の水素含有量を変化させることにより、金属系構造体中のもしくは結晶化金属系構造体中の結晶相や結晶相中の金属成分(金属元素及び/又は半金属元素)の純度に違いが生じる。例えば、酸化物相と金属相が混在する金属系構造体と金属単相からなる金属系構造体では、後者の方が金属成分の純度が高い。ここで金属相とは、金属元素及び/又は半金属元素によって構成される相で、金属元素単相、合金、半金属、金属間化合物やこれらの固溶体、及びこれらが混在してなる混合体、複合体が例示される。金属単相とは、前述の通り、金属のみからなる相で、例えば酸化物等の金属相以外の相を含まない相。金属元素単相とは、半金属元素を含まない金属元素のみから構成される相で、単一の金属元素からなる場合(単一金属元素単相)と複数の金属元素からなる場合がある。後者の場合は、複数の単一金属元素単相や金属元素からなる合金相や金属間化合物相(この場合は金属元素のみから構成される)が混在してなる相が得られる場合がある。
【0413】
例えば、金属間化合物単相であるFe2B単相と金属元素単相であるαFe単相からなる場合では、後者が半金属元素を含まないことから、前者に比べて後者が金属元素の純度が高く、より高純度な金属系構造体である。同じように、非晶質部分を有するもしくは非晶質部分を有しかつ水素を含有する金属系構造体で、結晶化後の結晶相が金属単相もしくは金属元素単相からなる場合は、水素元素を除いて、前者が金属成分の純度が高く、後者が金属元素の純度が高いと見なされる。このことから金属元素単相からなる金属系構造体と、非晶質部分を有するもしくは非晶質部分を有しかつ水素を含有する、さらにはこれらの非晶質単相からなる金属系構造体であるが結晶化させた場合に金属元素単相からなる金属系構造体を「高純度金属系構造体」と称する。また、金属単相からなる金属系構造体と、非晶質部分を有するもしくは非晶質部分を有しかつ水素を含有する、さらにはこれらの非晶質単相からなる金属系構造体であるが結晶化させた場合に金属単相からなる金属系構造体を「高純度の金属成分からなる金属系構造体」と称する。
【0414】
これらの相は、前述のX線回折の測定結果により判断される。例えば、金属系構造体より得られたX線回折スペクトルにおいて、実質的に金属元素単相、例えばαFe単相に基づくピークのみが観察された場合に、金属元素単相(αFe単相)からなる金属系構造体であると判断した。
【0415】
金属系構造体、特に非晶質部分を含有する金属系構造体の金属成分の純度もしくは金属元素の純度は、金属系構造体又は非晶質部分を含有する金属系構造体の水素の含有量によって規定される。すなわち、H:0.01質量%(0.4原子%)以上とすることで、高純度の金属成分からなる金属系構造体が得られる。さらに、H:0.05質量%(2.7原子%)以上さらには、H:0.10質量%(5.3原子%)以上、さらにはH:0.20質量%(10.1原子%)以上とすることで、高純度金属系構造体が得られる。このことから、金属系構造体の水素含有量を高くすることで、金属元素についてより高純度である高純度金属系構造体が得られる。さらに金属系構造体が非晶質部分を含有することが、さらには非晶質単相であることが高純度金属系構造体を形成する上でより効果が大きい。この水素含有量は、一例として可還元性物質の濃度と還元剤もしくはH/+の濃度さらには溶媒組成により制御することが出来る(実施例1-7、実施例1-11、実施例1-12)。
【0416】
実施例に例示した様に、強磁性体の特にFeを用いる場合には、H:0.01質量%(0.4原子%)以上で、結晶化相として金属元素単相(αFe)や金属間化合物相(Fe2B)からなる金属系構造体が得られる(実施例1-12)。さらには、H:0.05質量%(2.7原子%)以上さらにはH:0.10質量%以上(5.3原子%)、さらにはH:0.20質量%(10.1原子%)以上で、結晶化相として金属相(αFe)を主体とするもしくは金属相(αFe)の単相からなる高純度金属系構造体が得られる(実施例1-11、実施例1-7)。また、H:0.05質量%(2.7原子%)以上、H:0.10質量%(5.3原子%)以上さらにはH:0.20質量%(10.1原子%)以上で無定形相の形成が促進される(実施例1-7)。この場合も、結晶化相として金属相(αFe)の単相からなる高純度金属系構造体が得られる。溶媒に水+アルコールとした場合においてこの効果がより顕著になる(実施例1-7)。
【0417】
次に、水素含有量は、FS:0.3mmol/kg以上で、H:0.01質量%(0.4原子%)以上が得られる(実施例1-12)。FS:3mmol/kg以上で、H:0.05質量%(2.7原子%)以上が得られる(実施例1-11)。すなわち可還元性物質の濃度(FS)を高くすることで水素含有量が高くなる。溶媒に水+アルコールとした場合は、FS:0.3 mmol/kg以上で、H:0.05質量%(2.7原子%)以上、0.10質量%(5.3原子%)以上さらには0.20質量%(10.1原子%)以上が得られる(実施例1-7)。このように溶媒にアルコールを添加することで、水素含有量が増加する。H/+:6(NB:3)mmol/kg以上で、この傾向は顕著となり、さらにはH/+:20(NB:10)mmol/kg以上で、酸化物の形成を避けて金属相(αFe)や金属間化合物相(Fe2B)からなる金属系構造体が得られる(参考例2-21、実施例2-14)。
【0418】
この結果から、金属系構造体における所望の結晶相もしくは金属元素の純度は、水素含有量によって規定することができる。可還元性物質の濃度と還元剤もしくはH/+の濃度さらには溶媒組成により、水素含有量を制御することが可能である。
【0419】
実施例以外の操作を行う場合などにおいては、水素含有量とその制御因子の関係、所望の結晶化相を得るための水素含有量規定値などを実施例に示した方法などにより実験的に求めて用いても良い。ただし、金属系構造体が水素を含むこと、H:0.01質量%(0.4原子%)以上、H:0.05質量%(2.7原子%)以上、H:0.10質量%(5.3原子%)以上、H:0.20質量%(10.1原子%)以上を含有すること、さらには規定値以上の水素を含有すること、及び/又は非晶質部分を含むことにより、金属系構造体の金属元素の高純度化に対して効果があり、あわせて金属系構造体の形態制御においても効果がある。
【0420】
また、金属系構造体が水素を含むこと、H:0.01質量%(0.4原子%)以上、H:0.05質量%(2.7原子%)以上、H:0.10質量%(5.3原子%)以上、H:0.20質量%(10.1原子%)以上を含有すること、さらには規定値以上の水素を含有すること、及び/又は非晶質部分を含むことにより無定形相の形成に効果がある。
【0421】
溶媒の組成を調整することで、特に溶媒にアルコールを用いるもしくは含有させた場合、もしくは溶媒に水を用いてアルコールを含有させることで、実施例1の結果から、溶媒に水を用いた場合に比較して、金属系構造体の水素含有量を増加させ、この結果として高純度の金属系構造体の製造を容易にする。さらには、無定形相の形成を促進して焼結後もしくは結晶化後の固化体の空隙率を減少させる等の効果を増進させることが出来る。この効果は、特に強磁性体からなる金属系構造体の製造において効果的で、さらにFeにおいて特に効果的である。
【0422】
アルコールは、炭化水素の水素原子をヒドロキシ基(-OH)で置き換えた物質で、一例としては、メタノール、エタノール、プロパノールなどが挙げられる。アルコールは単一種類であっても混合して用いても良い場合がある。アルコールの含有量は、溶媒質量に対して90質量%未満にすること、好ましくは60質量%未満にすること、さらに好ましくは50質量%未満にすることが効果的である。可還元性物質が水溶性である場合には、水に対してアルコールを含有させることが効果的で、90質量%未満にすること、好ましくは60質量%未満にすること、さらに好ましくは50質量%未満とすることで、可還元性物質の溶媒に対する飽和濃度を制御できる場合があるので有用である。この場合には、アルコールの含有量を、1質量%以上50質量%未満の範囲で調整することが好ましい場合があり、5質量%以上50質量%未満の範囲で調整することがより好ましい場合があり、10質量%以上40質量%未満の範囲で調整することが特に好ましい場合がある。特に強磁性体からなる、特にFeからなる金属系構造体の製造においては、アルコールとしてエタノールを用いることが効果的であり、水素含有金属系構造体を製造する際には特に効果的である。また、エタノールを主体としてプロパノールなどの別のアルコールを混合して用いても良い場合がある。
【0423】
(測定4)DSC
示差走査熱分析装置(島津製作所社製「DSC-60」、Al製パン)を用いて、3℃/分で500℃まで昇温させることにより、実施例により得られた金属系構造体の熱特性について測定した。
【0424】
【0425】
前述のように、結晶化温度は、DSCプロファイルにより確認することができる。
【0426】
(熱処理工程の意義)
実施例1-11(
図31、47)非晶質単相(X1相)からなる金属系構造体は、実施例1-11-3、1-11-4で、450℃の熱処理により結晶相を形成した(X2相)。同時に水素含有量が減少した。X1相に対して40%減少である。さらに、追加例1-11-5で、600℃の熱処理を加えることにより結晶相がより支配的になった。結晶性の高いαFe単相と見なされ、Fe以外の元素の存在が認められなかった(X3相)。
【0427】
以上の実験結果から、次のように理解される。析出乾燥ままの金属系構造体は、水素を含有するFeの非晶質体(X1相)であり、熱処理により、水素含有量が減少すると共にαFe結晶相が形成された(X2相)。さらに高温度で熱処理を加えることにより、より結晶性の高いαFe単相(X3相)の金属系構造体が得られた。つまり、熱処理によって金属系構造体の水素含有量の制御(水素含有量の減量)ができた。また、これを水素含有量の面から見ると、水素含有量の制御(減量)により、非晶質相の制御(結晶相の形成)が可能であったといえる。
【0428】
SEM観察の結果から、ナノワイヤ構造は析出乾燥ままの構造(
図31)に比較して、水素含有量が減少すると共に結晶相が形成された450℃の熱処理後(
図68)に、形態の大きな変化は見られなかった。さらに、600℃の熱処理後(
図69)にワイヤ同士の固着が観られ、同時に空隙の減少が観察された。
【0429】
熱処理は、DSC分析において発熱が観察される温度に保持することが結晶相を形成させる上で効果的である。さらには、この際に減圧もしくは真空雰囲気にすることが、水素含有量を減少させる及び/又は結晶化を促進させる上で、より効果的である場合がある。また、熱処理温度と雰囲気制御によって金属系構造体の水素含有量及び/又は結晶化を制御できる。
【0430】
2.実施例2
表4に示されるように、実施例1と同様に濃度の異なる硫酸鉄水溶液及び濃度の異なる還元剤(NaBH4)水溶液を用意し、室温において、硫酸鉄水溶液に還元剤水溶液を滴下することによって析出物を得た。このように、可還元性物質の溶液に還元成分の溶液を滴下することで、滴下時の可還元性物質の濃度の変動を少なくすることができ、安定的に金属系構造体の形成が可能となる。
【0431】
なお水溶液の溶媒には水を用いた。
【0432】
還元剤水溶液の滴下終了後、液体を15分静置し、ビーカーの底面外側にネオジム磁石その2を当接し析出物を得、磁石を当接した状態で、洗浄条件1の洗浄を1回以上行った。洗浄後、磁石を離間し、ビーカーの底面に残留した析出物を、片側が封止されたガラス管に入れ、乾燥条件1による乾燥を行った。ロータリーポンプによるガラス管内の排気を継続しながら、熱処理条件1と同様であるが、加熱温度を150℃、保持時間を2分とした熱処理条件で熱処理を行った。
【0433】
その後、排気を継続しながらガラス管内に物質が存在する状態でガラス管を真空封入した。このガラス管を、昇温速度が20℃/分の大気炉を用いて600℃で60分間保持し、炉内で室温まで冷却した。この熱処理後のガラス管内の物質を結晶化金属系構造体として得た(実施例2-1から実施例2-20)。参考例2-21は、還元剤水溶液の滴下終了後、液体を15分静置し、静置後の液体をろ過して、ろ取した析出物を洗浄条件1で洗浄した。洗浄後、ビーカーに入れデシケータ内で乾燥し、金属系構造体として得た。
【0434】
以上のようにして得られた金属系構造体について、実施例1と同様にX線回折スペクトルの測定を行うことにより結晶相を調べた。その結果を表4に示す。
【0435】
なお、実施例2-12、実施例2-19はそれぞれ、実施例1-11-1、実施例1-12-2を引用したものであり、操作条件は前述の通りである。
【0436】
表4中、容積比は、硫酸鉄を含む溶液1kgを1Lと仮定し、NaBH4を含む溶液1kgを1Lと仮定して、硫酸鉄溶液の容積を基準として算出した。
【0437】
表4中の結晶相を示す記号の意味は次のとおりである。
F:αFe単相
F/(B):αFeが主でわずかにFe2Bが混在
F-O:αFeとFe酸化物が混在
F/B:αFeとFe2Bとが混在
FB:Fe2B単相
FO:Fe酸化物
【0438】
【0439】
表4に示されるように、還元剤水溶液濃度が過度に低い場合には、硫酸鉄水溶液中のFeイオンの還元が適切に行われず、金属系構造体のX線回折スペクトルはFeの酸化物と帰属されるピークを有していた。硫酸鉄水溶液濃度が過度に低くない場合には、還元剤水溶液濃度を高めることによってαFeが認められ、硫酸鉄水溶液濃度が15mmol/kg以上の場合には、金属系構造体のX線回折スペクトルはαFeと帰属されるピークのみを有するものが得られた(
図65(実施例2-12)、
図59(実施例2-3))。還元剤水溶液濃度が過度に高い場合には、金属系構造体のX線回折スペクトルはαFeのピークのみならず、Fe
2Bと帰属されるピークも有していた(
図60(実施例2-7))。硫酸鉄水溶液濃度が過度に低い場合には、金属系構造体のX線回折スペクトルはFe
2Bと帰属されるピークのみを有するものが得られた(
図50(実施例2-19))。
【0440】
以上の結果をまとめると、硫酸鉄水溶液濃度と還元剤水溶液濃度が金属系構造体の結晶相もしくは組成に与える影響は、
図61のように示すことができる。なお、各領域の境界近傍では、近接する領域の影響を受けて、組成が変化すると想定される。具体的にいえば、αFeが得られる領域とFe酸化物が得られる領域の境界の近傍では、実施例2-14のように、αFe及びFe酸化物の双方が存在する混在領域をなす。
【0441】
実施例2-12は、実施例1-11-1を引用したものである。
【0442】
実施例2-19は、実施例1-12-2を引用したものである。
【0443】
以下の結果記述について、「FS」、「NB」(還元剤水溶液濃度)はいずれも、特に断りのない場合には、飽和濃度を上限とする。ともに指定ない場合は飽和濃度が上限である。室温における飽和濃度は、FS及びNBについて、それぞれ、1.4mol/kg、14mol/kg(H/+:28mol/kg)であった。
【0444】
(S11)FS:3mmol/kg以上で、H/+:20(NB:10)mmol/kg以上で、αFeを主体とする金属相が得られる。
【0445】
(S12)FS:3mmol/kg以上で、H/+:20(NB:10)mmol/kg以上で、H:0.05質量%(2.7原子%)以上とすることで、αFeを主体とする金属相が得られる(実施例2-12、実施例1-11-2)。
【0446】
(S13)FS:15mmol/kg以上で、かつH/+:30(NB:15)mmol/kg以上2000(1000)mmol/kg未満で、結晶化相として高純度金属相のαFe単相が得られる。
【0447】
(S14)FS:15mmol/kg以上で、かつH/+:30(NB:15)mmol/kg以上2000(1000)mmol/kg未満で、H:0.05質量%(2.7原子%)以上とすることで、結晶化相として高純度金属相のαFe単相が得られる(実施例2-12、実施例1-11-2)。
【0448】
(S15)FS:15mmol/kg以上150mmol/kg未満で、かつH/+:30(NB:15)mmol/kg以上2000(NB:1000)mmol/kg未満で、より安定的に結晶化相として高純度金属相のαFe単相が得られる。
【0449】
(S16)FS:15mmol/kg以上150mmol/kg未満で、かつH/+:30(NB:15)mmol/kg以上2000(NB:1000)mmol/kg未満で、H:0.05質量%(2.7原子%)以上とすることで、さらにはH:0.1質量%(5.3原子%)以上とすることで、より安定的に結晶化相として高純度金属相のαFe単相が得られる(実施例2-12、実施例1-11-2)。
【0450】
FSが飽和濃度近傍の状態もしくは過飽和状態で析出を行うことは、FSを一定範囲に調整することが容易になるので操業上の観点から好ましい。溶媒の組成により飽和濃度を調整することが可能である。
【0451】
表4に示されるように、基本的な傾向として、還元剤水溶液の濃度がある程度以上であって、容量比が大きい場合には、αFe単相の結晶化金属系構造体が得られる。容量比の上限は特に設定されないが、5.0以下であることが好ましく、2.0以下であることがより好ましい。
【0452】
具体的に説明すれば、
図62に示されるように、還元剤水溶液濃度に関し、次の2つのしきい値N-1,N-2を設定することができた。
【0453】
N-1が、H/+:14(NB:7)mmol/kg
N-2が、H/+:60(NB:30)mmol/kg
【0454】
容量比に関し、次の5つのしきい値L-1~L-5を設定することができた。
L-1:0.02
L-2:0.2
L-3:0.6
L-4:0.8
L-5:1.0
N-1以上かつL-1以上の場合には、酸化物のない金属単相が得られた。
N-2以上かつL-2以上の場合には、金属相(αFe)が得られた。
N-2以上かつL-3以上の場合には、金属相(αFe)がより得られやすかった。
N-2以上かつL-4以上の場合には、金属相(αFe)がさらに得られやすかった。
N-2以上かつL-5以上の場合には、金属相(αFe)が特に得られやすかった。
【0455】
3.考察
3-1.H%制御による(i)-(iii)の制御
(i)非晶質相形成(滴下/攪拌、熱処理) <考察1><考察4>
析出反応時の混合方法を変化させたところ、(実施例1-11)滴下したものは水素含有量が多く、0.1wt%(5.3at%)で、Fe非晶質単相を形成し、(実施例1-14)注入混合し、撹拌したものはH含有量が少なく、0.06wt%(3.2at%)で、Fe非晶質の一部が結晶化した。析出反応時に撹拌することで、FeとHの間で結合反応状態が変化するなどして、H含有量が低下し一部が結晶化したものと考えられる。<考察1>
【0456】
一方、(実施例1-11-3)非晶質単相を加熱することによって、H含有量が低下し、0.06wt%(3.2at%)で、Fe非晶質の一部が結晶化した。加熱によってH含有量が減量することで、FeとHの間で結合反応状態が変化するなどして結晶相が形成されたものと考えられる。この場合もH含有量が多いものは非晶質単相、少ないものは一部が結晶化した。<考察4>
【0457】
2つの別の操作、すなわち析出反応時の混合操作と加熱処理の操作により、H含有量を変化させたところ、どちらも、H含有量が多いものは非晶質単相を形成し、H含有量の少ないものは一部が結晶化した。すなわち、別の操作方法で同じ結果が得られた。
【0458】
以上をまとめて解釈すると、従来形成が困難であったFe非晶質相について、H含有することでFe非晶質相の形成が実現された。さらには2つの別の操作によって、水素含有量を低減させることで、一部に結晶相を含む非晶質相が形成された。別の操作によって同じ因果関係が得られたことで、水素含有量の制御によって非晶質相の形成が制御できることは普遍的な結論であると帰結された。
【0459】
金属系構造体が、H%が2.0at%以上(参考:m≦30)、さらには金属元素さらには単元素金属(Fe)からなる場合に効果が大きい。また、H含有量が0.061wt%(3.3at%)以上で、0.075wt%(4.0at%)以上で、さらには0.095wt%(5.04at%)以上で、金属元素からなる、さらには単元素金属(Fe)からなる、水素を含有する非晶質単相が得られる。
【0460】
本願は、通常の平衡反応のみならず溶融金属の急冷凝固法等の非平衡プロセスにおいても困難である、金属系元素、金属元素、さらには単元素金属の非晶質相の形成制御法を提供するものである。特にFeにおいては、Hとの化合物の形成が見いだせておらず、Hを固溶することは知られているが、Fe-Hの化合形態は従来極めて困難であることが知られていた。本願において水素を含有したFe非晶質相が形成されたことは、従来考えられなかった、FeとHの特異な結合反応状態が発現することで、Feの結晶化が阻害され、結果、水素を含有することによってFe非晶質相が形成された(非晶質化した)ものと見なされる。このHとの結合反応性が極めて低い元素であるFeにおいて、特異な結合反応状態を形成できたことから、Hとの反応性がFeと同等もしくはより強い他の金属元素に対して、本願のH含有制御法さらには非晶質相の形成制御法が有効である。
【0461】
(ii)粒子形状制御(定形/無定形の制御) <考察3>
実施例1-12、1-11、1-7の比較において、H含有量がそれぞれ0.02wt%(0.81at%)、0.10wt%(5.3at%)、0.22wt%(11.0at%)であり、粒子形状が、定形(300B)、定形(100F)、300B+無定形相であった。このことからH含有量が増大することで無定形相を形成できることが解った。具体的には、H含有量が0.10wt%(5.5at%)を超える、さらには0.12wt%(6.5at%)以上、さらには0.19wt%(9.4at%)以上で無定形相の形成効率が高まる。逆に言えば、0.27wt%(13at%)以下、さらには0.19wt%(9.4at%)以下、さらには0.10wt%(5.5at%)以下で定形相(定形粒子)の形成効率が高まる。溶媒制御によって、H含有量制御し粒子形状(定形/無定形)を制御できる。特に溶媒にアルコールさらにはエタノールを含有することで制御効率が高まる場合が有る。後述する考察5の結果を合わせると、0.037wt%(2.0at%)以上、0.27wt%(13at%)以下で、金属元素を主成分とするさらには単元素金属(Fe)からなる、粒子サイズが500nm以下の自己造粒反応粒子が形成される。さらに、0.037wt%(2.0at%)以上、0.19wt%(9.4at%)以下、さらには0.10wt%(5.5at%)以下で、金属元素を主成分とするさらには単元素金属(Fe)からなる、粒子サイズが175nm未満の自己造粒反応粒子が形成される。
【0462】
(iii)組成制御 <考察5>
(実施例1-12)可還元性物質濃度(FS)が、FS_Low:2.7mmol/kgで、H%:0.02wt%(0.81at%)で、金属系(Fe2B組成)の非晶質単相が得られた。
(実施例1-11)FS_High:67mmol/kgで、H%:0.10wt%(5.3at%)で、
金属(Fe)の非晶質単相が得られた。
(実施例1-7)溶媒にエタノールを添加した条件では、FS_Low:2.7mmol/kgで、H%:0.22wt%(11.0at%)で、金属(Fe)の非晶質単相が得られた。
【0463】
「溶質制御」すなわち主として可還元性物質の濃度を変化させ、金属系構造体のH%を増量させたところ、半金属元素を含まない金属元素からなる、さらには単元素金属(Fe)からなる金属系構造体が得られた。「溶媒制御」すなわち、溶媒の水にエタノールを添加し、金属系構造体のH%を増量させたところ、同様の半金属元素を含まない金属元素からなる、さらには単元素金属(Fe)からなる金属系構造体が得られた。
【0464】
「溶質制御」、「溶媒制御」と別の操作によって、H%制御、組成制御ができた。すなわち、「H%増加によって、半金属元素を含まない金属元素からなる高純度金属組成、さらには金属単元素組成(Fe)に制御する」ことができた。別の操作で、同じ因果関係が得られたことで、「H%制御によって組成制御する。」さらには、「H%増加によって金属元素からなる高純度金属組成、さらには金属単元素組成(Fe)に制御する」は普遍的な結論であると判断された。
【0465】
考察1、考察4を合わせて考えると、実施例1-14、実施例1-11-3において、H%が0.06wt%(3.2at%)で、非晶質相を含有するFeの金属系構造体が得られたことから、H%が0.018wt%(1.0at%)以上、さらには0.037wt%(2.0at%)以上、さらには0.056wt%(3.03at%)以上で、金属元素からなる、さらに金属単元素組成(Fe)からなる金属系構造体、さらには、金属元素からなる、さらに金属単元素組成(Fe)からなり、少なくとも一部に非晶質相を有する金属系構造体が得られる。
【0466】
3-2.Hクラスター
実施例1-11(FS_High、溶媒水)について以下に考察する。 <考察2>
(a)Fe原子は安定な非晶質相の形成が困難であるが、本願ではH含有した安定な非晶質相が形成された。
(b)Fe非晶質相中にHが、多量(5.29at%)に、かつ非拡散状態で安定的に含有されている。
(c)Feは水素化合物の形成が確認されていない。
(d)本願非晶質相(実施例1-11)は熱処理により結晶化し、αFe単相を形成する。
【0467】
(1)(c)より、FeはHとの間で従来知られている平衡状態においては強い結合反応状態を形成することがない。(a)(b)(c)により、高い水素含有量と非晶質相の安定性から、FeはHとの間で、通常の平衡状態では説明できない特定の反応結合状態を形成している。
(2)(d)の結果により、溶液中のB等の不純物成分の混入を排除して、FeとHを含有する特定の原子構成(組成)を有している。
(3)実施例1-11-2の、非晶質単相の水素含有量は、5.29at%であり、Fe:H=20:1.12の比率であった。
【0468】
実施例のH配合比を検討した結果、M(金属系原子)とH(水素原子)の原子配合比で、M:H=m:1で表される。ただし、mは整数で、m≧3である。この配合比は、還元析出体の集合体もしくはクラスターさらにはナノ粒子、金属系構造体の配合比で、実施例のH含有率を測定したもの6点の金属系構造体は、全てこの「m:1、mが整数、m≧3」の条件に適合している。実施例1-12以外は、熱処理後のXRDの結果より、αFe単相が形成されていることから金属系原子はFe原子で、母相をFeとしてwt%からat%に換算し、FeとHのat%からm数(配合比)を求めた。実施例1-12は、Fe2B単相が形成されていることから、母相をFe2Bとしてm数を求めた。測定結果として、下表5の実施例の上から順に、M:Hが、8:0.98、20:1.12、30:1.01、30:1.01、120:0.98であった。この結果から、M:H=m :1のm数は、上から順に、8、20、30、30、120として求められた。なお、実施例1-12-1(表の最下段)は、母相がFe2Bであることから、金属間化合物(Fe2B)、金属原子(Fe)、金属系原子(Fe+B)の原子に対して、それぞれ、m:40、80、120となる。
【0469】
【0470】
この結果から、全てが、「整数ルール」に適合した。すなわち、H(水素)1原子が中心に有り、外側に金属原子が配置する平面もしくは立体構造が示唆された。さらに、金属元素からなるさらには金属単元素(Fe)である場合は、「正多面体ルール(後述)」に適合することが分かった。(正多面体ルール:m=4、6、8、12、20、30)この結論から、正多面体構造もしくはそれと同等の短距離規則性を有する化合物もしくはクラスターの存在が結論付けられた。
【0471】
クラスターの定義:「原子あるいは分子が相互作用によって数個~数十個、もしくはそれ以上の数が結合した物体。」
「Hクラスター」:金属系原子と水素からなる本願のクラスターで、MmH(Mは金属系原子、m整数、m≧3)の配合比からなる金属系構造体、ナノ粒子もしくはクラスターを意味する。定形ナノ粒子も、特定配合であり集合体であることから、Hクラスターと言える。
「金属Hクラスター」:金属元素からなる、さらには金属単元素(Fe)からなる構造体、ナノ粒子又はクラスターを意味する。
【0472】
3-3.「反応環境制御」
H%制御による(i)非晶質相形成、で述べたのと同じ実施例(実施例1-11/1-14比較)<考察1>について、H%を制御し非晶質相の形成を制御するための製造条件について述べる。「滴下/撹拌」についての詳細説明となる。
【0473】
「静かに反応させる」ことで、非晶質相の形成を促進させることが出来る。すなわち、「反応環境制御」によって、H%の含有量を制御し非晶質相の形成を制御できる。さらには、クラスターのm数制御が可能となりこれによって、金属系構造体、ナノ粒子の物性が安定的に形成される。反応環境制御は、自己造粒反応に関しても重要な要因で、非晶質相の形成と同様に、「静かに反応させる」ことで、定形粒子の物性を安定的に形成することが出来る。
【0474】
「溶液」は同じで、反応環境変化率C(後述)を変化させた。乾燥後の非晶質相に違いがあった。600℃の熱処理後はともにαFeであった。反応環境率Cを変化させ、非晶質相形成だけの制御(非晶質単相又は一部結晶化)ができた。(1)C=0.4252にすることで、水素含有量H%=0.10で、m=20からなる単元素金属(Fe)非晶質単相が得られた。(2)C=2.5781にすることで、H%=0.06、m=30で、単元素金属(Fe)非晶質相+αFeで、一部が結晶化した非晶質相含有単元素金属構造体が得られた。
【0475】
反応環境制御は、反応前の静置状態との比較において反応中の変化(静置状態との差分)を制御することであって、本願の所定の結果を得るために極めて重要な制御要因である。反応時の溶液の圧力[Pa]、温度[K]、磁場作用[T]の変化が十分に小さい値(<1E(-4))に制御されている場合、例えば、実施例のように常温、常圧で、磁場作用の変化がない(永久磁石が固定されている)場合においては、「反応環境制御」は、「体積要因」と「撹拌要因」の変化量を特定の値以下に制御することによってなされる。
【0476】
「体積要因」
体積因子V[1/s]:混合による体積増加率 V=V2/V1/time
混合による体積増加率:V2/V1/time [1/s]
混合による体積増加量:V2/time [mL/s]
【0477】
「撹拌要因」
撹拌因子S[1/s]:撹拌速度、回転子の回転速度(回転数)、溶液の振動数、溶液の移動速度等によって規定される。S[1/s]:回転子の回転数[1/s]、溶液の振動による場合は、振動数[1/s]。Sv[mm/s]:回転子の最大速度[mm/s]、溶液の移動による場合は、最大の移動速度[mm/s](移動速度は、容器に対する速度。)定常流がある場合はその定常流に対する相対速度[mm/s]、SvはSと、適宜換算される。S=Sv/(2πr)、Sv=2πrS(r:回転子の半径)
【0478】
【0479】
V:体積因子、溶液の混合状態を評価する。
V=V2/V1/time, V1:被還元溶液体積、V2/time:還元剤滴下速度
S:撹拌因子、溶液の撹拌状態を評価する。
S:撹拌速度、回転数[1/s]、Sv:回転子の最大速度[mm/s]
Sv=2πrS(r:回転子の半径)
撹拌の実施例(実施例1-14)では内径約60mmのビーカーの中央部分を、ガラス棒を用いてφ30mmの回転操作で撹拌した。r=15mm、S=2.5[1/s](1秒間に2.5回転)滴下の実施例(実施例1-11)では、滴下終了直後に還元剤の滴下によって導入された気泡の移動速度は、観察の結果40[mm/s]であった。気泡の移動によって微小な撹拌がなされる。気泡の移動速度より撹拌因子を求めた。Sv=40[mm/s](実測)より、撹拌因子:S=Sv/(2πr)=0.42[1/s]、r=15より求めた。結果を表6に示す。
C:反応環境変化率(析出反応に変化を与える要因の変化率の合計)[1/s]
C=Σ(V+S+P+T+m+…)
【0480】
析出反応時の混合方法を変化させたところ、(実施例1-11)滴下したものは水素含有量が多く非晶質単相を形成し、(実施例1-14)注入混合し、撹拌したものはH含有量が少なく一部結晶化した。反応環境変化率Cが3.1[/sec]以下、すなわち、反応環境変化因子の合計C=V+Sが3.1以下において、H%が2.0at%以上さらには、2.7at%以上で、m数が41以下さらには、30以下で、金属元素からなる、さらには金属単元素からなる非晶質相含有体が得られた。
【0481】
さらに、Cが2.47以下もしくは、Vが0.07以下で、かつSが2.4以下に制御すること、もしくは、Vが0.07以下で、かつSvが200以下に制御することで、H%が3.3at%以上さらには、4.1at%以上で、m数が29以下、さらには20以下で、金属元素からなる、さらには金属単元素からなる非晶質単相が得られた。
【0482】
さらに、Cが2.47以下もしくは、Vが0.07以下で、かつSが2.4以下に制御すること、もしくは、Vが0.07以下で、かつSvが200以下に制御することで、定形粒子が自己造粒反応によって安定的に形成された。例えば、実施例1-11(定形粒子100F)、実施例1-12(定形粒子300B)。自己造粒反応を安定的に進行させるためには、非晶質単相の形成条件と同じ上記の条件が好ましい。
【0483】
3-4.「しきい値」とH%、m数(m30以上/以下の造り分け)
「反応環境制御」に加えて、「溶液制御」特に、可還元性物質の濃度(FS濃度)を変化させることで、金属元素もしくは半金属元素とHのさらには、金属元素とHのさらには、実施例に例示されるようにFeとHの結合反応状態を選択的に制御し、この結果金属系構造体、ナノ粒子又はクラスターのH含有量が制御され、特定配合比(m数)が制御される。さらに粒子形態の制御、すなわち粒子のH含有量、組成、結晶構造、形状もしくはサイズが制御できる。
【0484】
本願では、H含有量を制御する、さらにはm数を制御するための「可還元性物質濃度のしきい値」が存在することを見いだした。(実施例1-11)しきい値以上で、H%>2.0at%以上、m≦30以下に制御され、金属元素からなる、さらには金属単元素(Fe)からなる構造体、ナノ粒子又はクラスター(金属Hクラスター)が形成できる。(実施例1-12)しきい値未満でH%<2.0at%未満、m≧31以上に制御され、Fe2B組成からなる金属系構造体が形成される。また溶媒制御によって、「しきい値が制御できる」。すなわち、(実施例1-7)溶媒にアルコール(さらにエタノール)添加することでしきい値が下がり、しきい値以上で、H%>2.0at%、m≦30に制御され、さらにH%>9.0at%、m≦8、定形粒子300Bと混在する無定形相が形成され、金属元素、さらには単元素金属(Fe)からなる構造体が得られた。なお、本願実施例のしきい値は、溶媒が水の場合に、飽和濃度の0.21%もしくは3mmol/kgであり、アルコールを添加した場合は、しきい値が1/10に低下し、0.3mmol/kgであった。アルコールの添加量は、1wt%以上とすることで効果がある。エタノールとすることでさらに効果がある場合が有る。
【0485】
可還元性物質の濃度(金属系イオン濃度)をしきい値以上とすることで、半金属を含まない金属元素からなる、さらには単元素金属(Fe)からなる構造体、ナノ粒子又はクラスター(「金属Hクラスター」)が製造できる。しきい値は、クラスター組成(金属元素)に関するものであって、粒子形状とは必ずしも一致しない。
【0486】
FS濃度と粒子形状は強い相関が有る。定形粒子のサイズは、溶媒の種類によって変化しない場合が有る。すなわち、本願実施例の場合は、溶媒にアルコールを添加することで、H%、m数のしきい値は低下したが、定形粒子サイズは変化しなかった。すなわち、(実施例1-12)添加前(溶媒が水)の可還元性物質濃度2.7mmol/kgにおいて定形粒子300B、(実施例1-7)溶媒にアルコール添加した場合に、可還元性物質濃度2.7mmol/kgにおいて定形粒子300Bであり、溶媒の変化によって定形粒子サイズは変化することがなかった。
【0487】
しきい値以上で、FS濃度とm数は強い相関が有る。しきい値以上で形成される、金属元素からなる、さらには単元素金属(Fe)からなる構造体、ナノ粒子又は(金属)クラスターにおいて、可還元性物質濃度が高い程、H%含有量が小さく、m数が大きいものが形成され、H%含有量、m数はそれぞれ可還元性物質濃度と負、正の相関が見られた。すなわち、可還元性物質濃度が高い程、構造体の金属成分が増加し、水素含有量が減少する傾向が見られた。
【0488】
5.定形粒子形状制御と自己造粒反応と磁場整列 <考察2>
本願実施例において、可還元性物質の濃度(FS)と粒子形状に相関が有ることが解った。すなわち、以下の実施例に示すように、FS_High、FS_Lowにおいて、それぞれ100F、300Bの形状とサイズなどの形質が揃った「定形粒子」が形成される。この形質の特徴は、(1)形状とサイズが揃っている。(2)特定組成を有する。(3)非晶質相である。(4)特定の非晶質相構造を有している(DSCの結果が違う)。
【0489】
以下に結果を比較する。
(実施例1-11)可還元性物質濃度(FS)が、FS_High:67mmol/kg、溶媒水の条件で、水素含有量H%=0.10wt%で、配合比m=20からなる、100F定形粒子、XRDの結果から単元素金属(Fe)組成の非晶質単相が得られた。DSCの結果:2つの発熱ピーク。
(実施例1-12)可還元性物質濃度(FS)が、FS_Low:2.7mmol/kg、溶媒水の条件で、H%=0.02wt%、m=40、80、120で、300B定形粒子、XRDの結果からFe2B組成の非晶質単相が得られた。DSCの結果:1つの吸熱、1つの発熱ピーク。
(実施例1-7)可還元性物質濃度(FS)が、FS_Low:2.7mmol/kg、溶媒水+エタノールで、H%=0.22wt%、m=8、300B+無定形相、XRDの結果から単元素金属(Fe)組成の非晶質単相が得られた。DSCの結果:1つの吸熱、1つの発熱ピーク。
【0490】
(1)形状とサイズが揃っている。
金属系構造体がステープルもしくはフィラメント状の形状に基づく場合には、110から150nmのサイズが揃った粒子(100Fと呼ぶ)が観察された。金属系構造体がビーズ状の形状に基づく場合には、200から330nmのサイズが揃った粒子(300Bと呼ぶ)が観察された。
(2)特定組成を有する。<考察2>
(実施例1-11)100F定形粒子、熱処理後のXRDの結果から単元素金属(Fe)組成、(実施例1-12)300B定形粒子、熱処理後のXRDの結果から金属間化合物Fe2B組成、(実施例1-7)300B(+無定形相)、熱処理後のXRDの結果から単元素金属(Fe)組成。
【0491】
熱処理後のXRDの測定結果から、H以外の金属系元素の組成を見ると、金属元素単元素(Fe)、もしくは金属間化合物(Fe2B)の特定組成に制御されている。すなわち、単元素金属か金属間化合物組成に制御され、混在がない。実施例1-7は、無定形相を含有しているが、全体がαFe単相を形成することから、実施例1-7の300Bも金属系元素に関しては単元素金属(Fe)組成である。
【0492】
(3)非晶質相である。(4)特定の非晶質相構造を有している(DSCの結果が違う)。(実施例1-11)100F定形粒子、非晶質単相、DSCの結果:2つの発熱ピーク、(実施例1-12)300B定形粒子、非晶質単相、DSCの結果:1つの吸熱、1つの発熱ピークである。2種類の定形粒子について、共に非晶質単相でありながら、DSCの結果から非晶質相構造に違いが有ることが解る。
【0493】
これらの定形粒子は、上記実施例に示すように、「溶液制御」のうち特に可還元性物質の濃度制御に加えて、「反応環境制御」によってH%を制御することで、自己造粒反応が進行することにより形成される。すなわち、自己造粒反応によって、上記特定の形質が形成されるまで自発的に集合体が成長することで自己造粒反応粒子が形成される。これにより、形質が揃った粒子が形成されることが特徴である。特に、(1)(2)が、自己造粒反応を制御する上で重要な形質である。また、本願実施例のように非晶質相からなる定形粒子(自己造粒反応粒子)が形成されることは極めて特異的な現象であり、本願の一部はその現象の発見と制御方法の考案に基づくものである。特に、金属系構造体が金属を主成分とする強磁性体であること、さらには金属元素を主成分とし、さらには金属元素単相(Fe)からなる場合に本願の自己造粒反応の効果が極めて高い。
【0494】
また、2種類の自己造粒反応粒子である100F、300Bにおいて、それぞれのDSC分析の結果から、共に非晶質単相構造でありながら、その非晶質相構造に違いが有ることが解る。この結果は、それぞれの粒子を構成するより小さな集合体がそれぞれ別々の構造をなすことに起因することが示唆される。特に、実施例1-11の2つの発熱ピークのうち低温側の発熱ピークは、(実施例1-11-2)m数20の化合物もしくはクラスターからなる構造から、(実施例1-11-3)m数30への構造変化を裏付けるものであると見なされる。
【0495】
自己造粒反応の詳細なメカニズムは不明であるが、特定のサイズに揃うことから表面積の効果が自己制御の要因の一つであると推測する。さらに、本願実施例の場合は、磁場中で集合、整列する性質から特定の磁性を有する粒子であり、その磁性が自己制御の要因の一つである。すなわち、磁気的に安定な形状が形成されている可能性がある。磁気作用の有無によって粒子サイズに変化が見られなかったことから、粒子そのものの磁気的特性による自己制御が作用しているものと考えられる。
【0496】
また、自ら定形粒子を形成する、すなわち自己造粒反応を安定的に進行させるためには「反応環境制御」が重要であり、本願実施例のように「静かに反応させる」ように制御されることが好適である。さらに、安定的に定形粒子を形成させる、さらには自己造粒反応を進行させるためには、特定配合比率からなる構造体、ナノ粒子又はクラスターを形成することが極めて効果的である。MmHの配合比率(mは整数で、m≧3)からなる化合物もしくはクラスター、さらには特定のm数を有する(m≦30、正多面体ルールに適合)クラスターが形成される場合は、それらのクラスターによって、短距離的な規則構造もしくは化合物が形成され、クラスターもしくはその集合体が特定の結晶構造、組成、磁気特性を有することで、自己造粒反応が安定的に進行し、実施例に示されるように、特性が揃った定形粒子が安定的かつ効果的に形成される。
【0497】
製造(制御)方法
可還元性物質の濃度(FS)を以下のように制御することで、H%、m数、定形粒子、組成、結晶構造が造り分けられる(制御される)。FS(Low範囲):0.3≦FS<15、(0.3≦FS<3)mmol/kgとすることで、0.4at%≦H%<2.0at%、m数≧31、300B、Fe2B組成の非晶質単相が得られる。FS(High範囲):3≦FS、(好ましくは150以下)、(好ましくは15≦FS≦150)mmol/kgとすることで、2.0at% ≦H%、m数≦30、100F、Fe非晶質相含有金属系構造体、さらにはFe非晶質単相が得られる。
【0498】
さらには、以下の条件とすることが好適である。
最低限:水素含有物質濃度:H/+>12mmol/kg、FS>0.3mmol/kg。さらには、自己造粒反応を安定的に進行させるためには、H/+が2000mmol/kg未満、FS150mmol/kg未満とすることが好ましい。さらには、上記FS(Low範囲)において、FS:0.3mmol/kg以上14mmol/kg未満、かつH/+:6(NB:3)mmol/kg以上120(NB:60)mmol/kg未満とすること、さらにはFS:1.0mmol/kg以上で3.0mmol/kg未満、かつH/+:20(NB:10)mmol/kg以上120(NB:60)mmol/kg未満とすることが安定的な操業の観点から好ましい。
【0499】
さらには、上記FS(High範囲)において、(S16)FS:15mmol/kg以上150mmol/kg未満で、かつH/+:30(NB:15)mmol/kg以上2000(NB:1000)mmol/kg未満で、H:0.05質量%(2.7原子%)以上とすることで、さらにはH:0.1質量%(5.3原子%)以上とすることが安定的な操業の観点から好ましい。
【0500】
磁場整列
自己造粒反応によって形成されるこれらの定形粒子は、磁場中にて集合整列するさいに、その特性が揃っていることから極めて効果的に2次構造を形成することができる。さらにその際には、H%が規定値以上であること、非晶質相を含有することが固着性を向上する等の効果によって、さらに効果的に2次構造を形成することができる。
【0501】
3-6.m数制御まとめ
A.m数を制御する方法
m数を制御することはH%を制御することになるので、H%を制御する場合と同様に、m数は反応時のH濃度、例えば、反応液中のH含有量で直接制御することができない。本願では、この状況からH%制御と同様に間接制御を試み、「反応環境制御」「溶液制御」によってm数制御が可能であることを見いだした。
【0502】
すなわち、m数を制御する方法(操作項目と条件)は以下である。
(1)「溶液制御」可還元性物質濃度のしきい値 m≦30 金属組成 <考察2、5>
(2)「反応環境制御」滴下/注入撹拌 m20/30 非晶質相形成 <考察1>
(3)「溶液制御」溶媒にアルコール含有 m8 しきい値低下 <考察3、5>
【0503】
操作方法と結果の論述はH%制御に関して、既に個別になされているので、ここではm数制御に関する記述のみを行う。前述のように、金属系構造体の水素含有量制御の観点からは間接制御と見なされた方法が、m数制御の観点から見ると直接制御であると理解された。すなわち、m数制御の観点から見ると極めて合理的な制御方法であることが理解され、Hクラスターの存在を裏付ける現象ともいえる。
【0504】
(1)FS濃度(可還元性物質濃度)しきい値
FS濃度のしきい値以上で、m≦30以下が得られることを見いだした。これによって、H%が2.0at%以上に制御され、金属Hクラスターが形成される。実施例のFeイオンの場合を考察すると、H%の観点からすれば、Feイオン濃度によってH%が制御される、さらにはFeイオン濃度が増大することによってH%が増大することは間接的な制御と解釈されるが、Feイオンの観点からすれば、Feイオン濃度をしきい値以上すなわちFeイオンを特定の濃度以上とすることで、FeとH以外の元素を排除してFe-Hクラスターが形成されたと理解され、直接的な制御と解釈される。さらに、m≦30以下の金属Hクラスターに限定する場合に、FS濃度とm数は正の相関が有る。すなわち(実施例1-7)FS_Lowでm=8、(実施例1-11)FS_ Highでm=20が得られた。
【0505】
これらの結果から、可還元性物質濃度によるm数制御は、可還元性物質濃度しきい値以上で、m≦30以下の金属Hクラスターが形成され、この金属Hクラスターが形成される場合において、可還元性物質濃度を高めることでm数の大きな金属Hクラスターの製造が出来る。これによって、可還元性物質濃度によるm数制御は、直接的な制御であると解釈される。従って、FS濃度制御によるm数の制御方法は、特に可還元性物質が金属を含有する場合、さらには金属Hクラスターが形成される場合に効果が大きい。
【0506】
(2)「反応環境制御」
反応環境を制御するすなわち、2液混合時に(実施例1-11-2)「滴下」、(実施例1-14)「注入混合と撹拌」と混合操作の制御によって、m数が、m=20、m=30にそれぞれ制御された。また、「反応環境制御」とは違う熱処理によって、m数が制御された。すなわち、(実施例1-11-2)熱処理前、(実施例1-11-3)450℃の熱処理後において、m数が、m=20、m=30にそれぞれ制御された。(実施例1-11、
図56)m=20のDSC分析の結果から、2つの発熱ピークが観察され、低温度側の約320℃の発熱ピークが、m数20のHクラスターからm数30のHクラスターへの構造変化を裏付ける測定結果と解釈される。これによって、m数20のHクラスターに比較して、m数30のHクラスターの方がエネルギー的に安定であり、析出反応を「静かに反応させる」ことによってエネルギー順位の高いm数20のHクラスターが形成され、その集合体が非晶質単相を形成したものと解釈される。これに対して「注入混合と撹拌」操作や、450℃の熱処理を行うことで、よりエネルギー順位が低く安定なm数30のHクラスターが形成されたものと解釈される。m数30のHクラスターもしくはその集合体である金属系構造体が一部に結晶相を含んだ非晶質相含有体を形成する機構は明確ではないが、m数が増大することで、金属原子の配合比率が増大し金属原子からなる結晶構造の形成が発現したものと推測される。一部に結晶相を含むことからも、m30のHクラスターはエネルギー順位の低くより安定的なクラスターであるか、もしくはより安定的な集合構造を形成したものと解釈される。
【0507】
(3)溶媒
実施例においては、溶媒にエタノールを含有させることで先の可還元性物質濃度のしきい値を下げる効果が有ることが解った。しきい値は、それ以上の濃度において金属Hクラスターの形成を可能にする値であり、実施例においては、エタノールの存在によってFe-Hの結合反応性が高まることで、その他の元素との反応に優先して金属Hクラスターが形成し易くなり、その結果より低い可還元性物質濃度において金属Hクラスターが形成できる、すなわちしきい値を下げる効果が発現したものと考えられる。エタノールが存在することで、低い可還元性物質濃度で金属Hクラスターが形成されるようになり、その結果金属原子の含有比率が低い(m数が小さい)、すなわちH%の多い金属Hクラスターが形成されたものと理解される。
【0508】
B.m数によって制御される現象(物性)
m数を制御することによって以下を制御する。(クラスターの選択による物性制御)
(i)H%制御 :m数 <H%測定実施例全て>
(ii)組成制御 :金属Hクラスター(m≧30) <考察5>
(iii)非晶質相制御:金属Hクラスターで非晶質単相(m≧20) <考察1>
(iv)粒子形状制御:自己造粒反応粒子(m≧8)、無定形相(m≦12) <考察2、3>
【0509】
(i)H%制御
m数すなわち配合比によってH%(at%)が決定される。
(ii)組成制御
m数が3を超える値において、金属系元素を含有するさらには金属元素を含有するHクラスターが形成される。m≦30で金属元素からなるさらには、金属単元素からなる「金属Hクラスター」が形成される。すなわち金属系元素に関して組成の制御がなされる。実施例においては、m≧31においてFe2B組成の金属と半金属からなり、金属元素を含有する構造体、ナノ粒子又はクラスターが形成された。m≦30において金属元素からなるさらには単元素金属(Fe)からなる構造体、ナノ粒子又はクラスターが形成された。
【0510】
(iii)非晶質相制御
m≦30の「金属Hクラスター」において、m数によって結晶構造もしくは非晶質構造が制御される。実施例の場合は、m≦30で非晶質相が形成される。m=30では、一部が結晶化した非晶質相含有構造体が得られる。m≦20で非晶質単相が形成される。同じ非晶質単相構造であってもm数に応じて非晶質構造が違う場合が有る。実施例の場合(実施例1-11-2と1-7の比較において)は、m=20とm=8の場合では、DSC分析結果(
図56/
図54)に違いが有り、共に非晶質単相を形成するが、非晶質構造の違いが確認されている。この非晶質構造の違いは、m数の違いすなわちクラスター構造の違いに起因するものであると推測される。
【0511】
(iv)粒子形状制御(定形/無定形)
m数によって、定形粒子の形成制御がなされる場合が有る。特に自己造粒反応によって定形粒子が形成されることが好ましい。実施例の場合は、m≧8で自己造粒反応による定形粒子、m≦12さらにはm≦8で非晶質相からなる無定形相が形成された。m=8では、定形粒子と無定形相が混在する遷移的な状態が得られた。さらに、m数によって定形粒子の制御が出来る場合が有る。実施例の場合は、(実施例1-7)m≧8で粒子サイズが500nm以下の非晶質単相からなる自己造粒反応粒子が得られた。さらに、(実施例1-11-2)m≧12、さらにはm≧20で粒子長さが175nm未満の非晶質単相からなる自己造粒反応粒子が得られた。これらの自己造粒反応粒子は、共に非晶質単相構造でありながらDSC分析結果(
図54/
図56)に違いが有り、非晶質相構造の違いが確認された。この非晶質構造の違いは、m数の違い、すなわちクラスター構造の違いに起因するものであると推測される。