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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-12
(45)【発行日】2023-09-21
(54)【発明の名称】ポリエチレンパウダー及びその成形体
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/12 20060101AFI20230913BHJP
   H01M 50/417 20210101ALI20230913BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20230913BHJP
   C08L 23/06 20060101ALI20230913BHJP
【FI】
C08J3/12 Z CES
H01M50/417
H01M50/489
C08L23/06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022526964
(86)(22)【出願日】2021-05-20
(86)【国際出願番号】 JP2021019247
(87)【国際公開番号】W WO2021241411
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2022-10-14
(31)【優先権主張番号】P 2020094628
(32)【優先日】2020-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】四方 和也
(72)【発明者】
【氏名】魚海 圭秀
【審査官】宮内 弘剛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/079840(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/189443(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/143191(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/207991(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/187727(WO,A1)
【文献】特開昭63-117019(JP,A)
【文献】特開昭61-287908(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
C08L
C08J 3/12
H01M 50/417
H01M 50/489
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(要件1)、及び(要件2)を満たすポリエチレンパウダー。
(要件1):下記の<ゲル調製条件>により得られるゲルの、下記の<粘度変化率測定条件>による粘度変化率が、-0.8Pas/℃以上0.0Pas/℃以下である。
<ゲル調製条件>
:ラボプラストミル(東洋精機株式会社製、型式4C150、ミキサー形式R-60)を用いて、450g/mol以上550g/mol未満の平均分子量を有する流動パラフィン28g、ポリエチレンパウダー12g、及びテトラキス[メチレン(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナマート)]メタン0.4gを、設定温度200℃、回転数50rpmで10分間混練することによりゲルを得る。
<粘度変化率測定条件>
:JIS K7199で規定されるキャピラリーダイを用いた流れ特性試験に準拠し、キャピラリー径0.77mm、長さ50.80mm、流入角90°のキャピラリーダイを用い、ピストン速度10mm/分(せん断速度266s-1)で、設定温度200℃と230℃において粘度(Pas)を測定し、下記式(1)により粘度変化率(Pas/℃)を求める。
【数1】

(式(1)中、η(A,B)は、せん断速度As-1,温度B℃の条件で測定した粘度を表す。)
(要件2):極限粘度(IV)が、1.5dL/g以上18.0dL/g未満である。
【請求項2】
せん断速度266s-1、設定温度200℃による前記ゲルの粘度η(266,200)が、100Pas以上300Pas以下である、請求項1に記載のポリエチレンパウダー。
【請求項3】
前記<ゲル調製条件>により得たゲルの、前記<粘度変化率測定条件>に従った、せん断速度11s-1、設定温度200℃でのゲルの粘度と、せん断速度533s-1、設定温度200℃で測定したゲルの粘度は、
log(η(11,200)/η(533,200))が、1.00以上1.80以下である、請求項1又は2に記載のポリエチレンパウダー。
【請求項4】
エチレン単独重合体である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のポリエチレンパウダー。
【請求項5】
下記<等温結晶化時間測定条件>よって得られる125℃における等温結晶化時間が7.0分未満である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のポリエチレンパウダー。
<等温結晶化時間測定条件>
ステップA1:50℃で1分間保持後、10℃/minの昇温速度で180℃まで昇温する。
ステップA2:180℃で5分間保持後、80℃/minの降温速度で125℃まで降温する。
ステップA3:125℃にて保持する。125℃に達した時間を起点(0分)として、結晶化に起因する発熱ピークトップが得られた時間を等温結晶化時間とする。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のポリエチレンパウダーの成形体。
【請求項7】
電池用セパレータである、請求項6に記載の成形体。
【請求項8】
リチウムイオン二次電池用セパレータである、請求項6に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレンパウダー及びその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンは、溶融加工が容易で、ポリエチレンの成形体は、機械強度が高く、耐薬品性、剛性等にも優れているため、従来から、フィルム、シート、微多孔膜、繊維、発泡体、及びパイプ等、多種多様な用途の材料として用いられている。
特に、超高分子量ポリエチレンは、より機械強度が高く、摺動性や耐摩耗性に優れており、さらには、化学的安定性や長期信頼性にも優れているため、実用上の利用可能性が高い。
【0003】
超高分子量ポリエチレンを成形する一般的な方法としては、湿式押出法が挙げられる。湿式押出法とは、超高分子量ポリエチレンパウダーを溶媒に溶解させることにより粘度を低く調整したゲルを得、このゲルを用いて押出加工を行い、その後、溶媒を除去することで成形体を得る方法であり、繊維や微多孔膜の成形方法として活用されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平2-21559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記湿式押出法においては、成形体の生産性を高めるため、ゲルの粘度を適切に制御することが必要である。湿式押出法の押出加工においては超高分子量ポリエチレンが溶媒に溶解したもの(ゲル)の粘度を適切に制御することでスムーズな成形を行うことが可能であるが、その際のゲルの粘度の制御は、主に押出温度を調整したり、ゲル中の超高分子量ポリエチレンの割合を調整したりすることにより行われる。
ゲル中の超高分子量ポリエチレンの割合については、これを下げることは、すなわち成形体の収率を下げることにつながるため、可能な限り高い方が好ましい。一方において、ゲル中の超高分子量ポリエチレンの割合を上げるとゲルの粘度が上がる。押出温度は、一般的に温度が高い程、ゲルの粘度は下がる傾向にあるので、成形性の観点から、可能な限り押出温度は高めに設定されることになる。しかしながら、押出温度を高くすると、押出機内で微架橋物やコゲが発生する傾向にあり、繊維の糸切れや微多孔膜の膜欠点が発生したり、押出機スクリーンの目詰まりによる押出機昇圧が起こったりするという問題が生じる。そのため、ゲル中の超高分子量ポリエチレンの割合を高くしつつ、かつゲルの粘度を低くすることができる超高分子量ポリエチレンが求められている。しかしながら、現状これを満足できる超高分子量ポリエチレンは得られていない、という問題点がある。
【0006】
また、他の課題として、成形体の寸法安定性が挙げられる。
繊維や微多孔膜の成形においては強度を付与する目的で成形体を延伸する工程が実施されるが、その際に成形体の中に応力が残留し、成形体が経時的に収縮してしまい、実用上十分な寸法安定性が得られていない、という問題がある。
かかる寸法安定性の問題について、繊維に関しては、例えば特開2019-90136公報には、所定の一次構造・熱的性質を持つ超高分子量ポリエチレンにより耐クリープ性を向上させた繊維が開示されている。
また、微多孔膜に関しては、寸法安定性を熱収縮率という物性で評価することができるが、当該熱収縮率について、例えば特開2011-233542公報に、金属含有量を調整することで熱収縮率を低減させた微多孔膜が開示されている。
しかしながら、これらの従来公知の文献に開示されている技術は、上述したような成形体の生産性や、ゲルの粘度の低減化の課題を同時に解決することができない、という問題点を有している。
また、微多孔膜の場合、常温における経時的な収縮に起因する膜の弛みが小さいことも、寸法安定性が高いもの、と言えるが、従来技術においては、このような寸法安定性の向上に関して原料面での十分な検討はなされておらず、未だ十分な寸法安定性を有する微多孔膜が得られていない、という問題点を有している。
【0007】
そこで本発明は、上述した問題点に鑑みて、成形体の膜欠点が少なく、押出機昇圧が少なく、成形体の熱収縮率が小さく、成形体の経時的な弛みの発生が少ないポリエチレンパウダーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意研究を進めた結果、溶融粘弾測定により定義される所定の物性を満足するポリエチレンパウダーが、上記の課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0009】
〔1〕
下記の(要件1)、及び(要件2)を満たすポリエチレンパウダー。
(要件1):下記の<ゲル調製条件>により得られるゲルの、下記の<粘度変化率測定条件>による粘度変化率が、-0.8Pas/℃以上0.0Pas/℃以下である。
<ゲル調製条件>
:ラボプラストミル(東洋精機株式会社製、型式4C150、ミキサー形式R-60)を用いて、450g/mol以上550g/mol未満の平均分子量を有する流動パラフィン28g、ポリエチレンパウダー12g、及びテトラキス[メチレン(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナマート)]メタン0.4gを、設定温度200℃、回転数50rpmで10分間混練することによりゲルを得る。
<粘度変化率測定条件>
:JIS K7199で規定されるキャピラリーダイを用いた流れ特性試験に準拠し、キャピラリー径0.77mm、長さ50.80mm、流入角90°のキャピラリーダイを用い、ピストン速度10mm/分(せん断速度266s-1)で、設定温度200℃と230℃において粘度(Pas)を測定し、下記式(1)により粘度変化率(Pas/℃)を求める。
【0010】
【数1】
【0011】
(式(1)中、η(A,B)は、せん断速度As-1,温度B℃の条件で測定した粘度を表す。)
【0012】
(要件2):極限粘度(IV)が、1.5dL/g以上18.0dL/g未満である。
【0013】
〔2〕
せん断速度266s-1、設定温度200℃による前記ゲルの粘度η(266,200)が、100Pas以上300Pas以下である、前記〔1〕に記載のポリエチレンパウダー。
〔3〕
前記<ゲル調製条件>により得たゲルの、前記<粘度変化率測定条件>に従った、せん断速度11s-1、設定温度200℃でのゲルの粘度と、せん断速度533s-1、設定温度200℃で測定したゲルの粘度は、
log(η(11,200)/η(533,200))が、1.00以上1.80以下である、前記〔1〕又は〔2〕に記載のポリエチレンパウダー。
〔4〕
エチレン単独重合体である、前記〔1〕乃至〔3〕のいずれか一に記載のポリエチレンパウダー。
〔5〕
下記<等温結晶化時間測定条件>よって得られる125℃における等温結晶化時間が7.0分未満である、前記〔1〕乃至〔4〕のいずれか一に記載のポリエチレンパウダー。
<等温結晶化時間測定条件>
ステップA1:50℃で1分間保持後、10℃/minの昇温速度で180℃まで昇温する。
ステップA2:180℃で5分間保持後、80℃/minの降温速度で125℃まで降温する。
ステップA3:125℃にて保持する。125℃に達した時間を起点(0分)として、結晶化に起因する発熱ピークトップが得られた時間を等温結晶化時間とする。
〔6〕
前記〔1〕乃至〔5〕のいずれか一に記載のポリエチレンパウダーの成形体。
〔7〕
電池用セパレータである、前記〔6〕に記載の成形体。
〔8〕
リチウムイオン二次電池用セパレータである、前記〔6〕に記載の成形体。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、成形体の膜欠点が少なく、押出機昇圧が少なく、成形体の熱収縮率が小さく、成形体の経時的な弛みの発生が少ないポリエチレンパウダーを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」ともいう。)について詳細に説明する。
なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0016】
〔ポリエチレンパウダー〕
本実施形態のポリエチレンパウダーは、下記の(要件1)及び(要件2)を満たす。
(要件1):下記の<ゲル調製条件>により得られるゲルの、下記の<粘度変化率測定条件>による粘度変化率が、-0.8Pas/℃以上0.0Pas/℃以下である。
<ゲル調製条件>
:ラボプラストミル(東洋精機株式会社製、型式4C150、ミキサー形式R-60)を用いて、450g/mol以上550g/mol未満の平均分子量を有する流動パラフィン28g、ポリエチレンパウダー12g、及びテトラキス[メチレン(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナマート)]メタン0.4gを、設定温度200℃、回転数50rpmで10分間混練することによりゲルを得る。
<粘度変化率測定条件>
:JIS K7199で規定されるキャピラリーダイを用いた流れ特性試験に準拠し、キャピラリー径0.77mm、長さ50.80mm、流入角90°のキャピラリーダイを用い、ピストン速度は10mm/分(せん断速度266s-1)で、設定温度200℃と230℃における粘度(Pas)を測定し、下記式(1)により粘度変化率(Pas/℃)を求める。
【0017】
【数2】
【0018】
式(1)中、η(A,B)は、せん断速度As-1,温度B℃の条件で測定したゲルの粘度(Pas)を表す。
すなわち、η(266,230)は、せん断速度266s-1、温度230℃の条件で測定したゲルの粘度(Pas)を表し、η(266,200)は、せん断速度266s-1、温度200℃の条件で測定したゲルの粘度(Pas)を表す。
【0019】
(要件2):極限粘度(IV)が、1.5(dL/g)以上18.0(dL/g)未満である。
【0020】
本実施形態のポリエチレンパウダーが、上記構成を有していることにより、以下の(i)~(iv)の効果が得られる。
(i)本実施形態のポリエチレンパウダーは、押出成形加工時における押出機の昇圧が少ない。
(ii)本実施形態のポリエチレンパウダーを用いて成形された成形体、例えば微多孔膜は、微架橋物やコゲ、汚れやピンホール等の欠点が少なく、電池用セパレータとして好適である。
(iii)本実施形態のポリエチレンパウダーを用いて成形された成形体、例えば微多孔膜は、弛みが少なく、外観に優れ、電池用セパレータとして好適である。
(iv)本実施形態のポリエチレンパウダーを用いて成形された成形体、例えば微多孔膜は、熱収縮率が小さく、電池用セパレータとして好適である。
【0021】
以下、本実施形態のポリエチレンパウダーの構成について説明する。
(ポリエチレン)
本実施形態のポリエチレンパウダーは、エチレン重合体により構成されている。
当該エチレン重合体は、構成単位の99.5mol%以上がエチレンユニットであることが好ましく、より好ましくは99.8mol%以上がエチレンユニットであり、さらに好ましくは100mol%がエチレンユニット、すなわちエチレン単独重合体(エチレンホモポリマー)である。
本実施形態のポリエチレンパウダーがエチレン単独重合体であることにより、成形体の強度が向上する傾向にある。
【0022】
なお、本実施形態のポリエチレンパウダーを構成するエチレン重合体は、重合速度を向上させたり、製膜時の加工性を改善したりする目的で、ごく少量のα-オレフィン等の共重合成分を加えて分岐を導入した共重合体であってもよい。
前記エチレン重合体が共重合体であるときの、前記共重合成分としては、以下に限定されないが、例えば、α-オレフィンや、ビニル化合物等が挙げられる。
α-オレフィンとしては、以下に限定されないが、例えば、炭素数3~20のα-オレフィンが挙げられ、具体的には、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、
1-トリデセン、1-テトラデセン等が挙げられる。
ビニル化合物としては、以下に限定されないが、例えば、ビニルシクロヘキサン、スチレン及びその誘導体等が挙げられる。
また、必要に応じて、他のコモノマーとして、1,5-ヘキサジエン、1,7-オクタジエン等の非共役ポリエンを使用することもできる。
共重合成分は1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本実施形態のポリエチレンパウダーを構成するエチレン重合体が共重合体である場合の共重合体中の他のコモノマー量はNMR法等で確認することができる。
【0023】
(ポリエチレンパウダー)
本実施形態のポリエチレンパウダーは粉体状であり、その平均粒子径は、特に限定されないが、好ましくは500μm以下であり、より好ましくは300μm以下であり、さらに好ましくは150μm以下である。また、ポリエチレンパウダーの平均粒子径は、好ましくは5μm以上であり、より好ましくは10μm以上である。
本実施形態のポリエチレンパウダーの平均粒子径が500μm以下であることにより、ポリエチレンパウダーの溶媒への溶解性がより向上し、成形体の性能や外観を損なう溶け残りを低減させることができる。また、ポリエチレンパウダーの平均粒子径が5μm以上であることにより、パウダーの飛散が抑制されるためハンドリング性がより向上し、かつ、溶媒へ添加した際に、だまになることが抑制されるため均一なスラリーの形成がより容易となる傾向にある。
なお、ここでいう平均粒子径とは、累積質量が50%となる粒子径、すなわちメディアン径である。
【0024】
(ポリエチレンパウダーの密度)
本実施形態のポリエチレンパウダーの密度は、特に限定されないが、好ましくは910kg/m以上980kg/m以下であり、より好ましくは915kg/m以上970kg/m以下であり、さらに好ましくは920kg/m以上965kg/m以下である。
なお、前記ポリエチレンパウダーの密度は、重合体の真密度であるものとする。
ポリエチレンパウダーの密度が910kg/m以上980kg/m以下であることにより、本実施形態のポリエチレンパウダーを含む成形体は、優れた強度を有するものとなる傾向にある。
【0025】
(粘度変化率)
本実施形態のポリエチレンパウダーは、前記<ゲル調製条件>により得られるゲルの、前記<粘度変化率測定条件>による粘度変化率は、-0.8Pas/℃以上0.0Pas/℃以下であり、好ましくは-0.5Pas/℃以上0.0Pas/℃以下であり、より好ましくは-0.2Pas/℃以上0.0Pas/℃以下である。
【0026】
本実施形態のポリエチレンパウダーは、フィルム成形やブロー成形などに用いられる汎用ポリエチレンに比べて分子量が高いため、ポリエチレン単独の状態だけでなく、前記<ゲル調製条件>により得られるゲルの状態においても分子の絡み合いを有する。このような分子の絡み合いを有するポリエチレンは、特定の温度(もしくはせん断速度)領域において粘度の温度依存性が極端に小さくなることが知られている(ゴム状平坦領域)。前記<粘度変化率測定条件>による粘度変化率は、このゴム状平坦領域における粘度の温度依存性を測定するものであり、これにより得られる粘度変化率は分子の絡み合いの程度を表している。
本実施形態のポリエチレンパウダーにおいては、前記<ゲル調製条件>により得たゲルが、粘度変化率が特定の範囲にあることを特徴としているが、これは本実施形態のポリエチレンパウダーが特定の範囲の分子絡み合い、すなわち適切な範囲の分子の絡み合いを持っていることに起因する。
【0027】
本実施形態のポリエチレンパウダーを用いて前記<ゲル調製条件>により得たゲルの粘度変化率が-0.8Pas/℃以上0.0Pas/℃以下であることにより、次のような効果が得られる。
すなわち、一般的に、ポリエチレンを用いて湿式押出法で電池用セパレータを製造する場合、良好な加工性(製膜性)を確保するためにゲルの粘度を調整する目的、及び高い生産性(収率)を得る目的のためには、ゲル中のポリエチレンの含有割合を高くし、かつ温度を高めに設定して押出加工を実施する場合が多い。しかしながら、高温条件下で押出加工を行うと、成形体に微架橋物やコゲによる欠点が発生したり、押出機の昇圧が過大になったりするなどの問題が生じる傾向にある。
一方において、本実施形態のポリエチレンパウダーを用いたゲルは、粘度変化率が低いため、比較的低めの温度においても高いポリエチレン割合を維持することができ、高い生産性(収率)を確保しながら、成形体の欠点の発生や、押出機の昇圧を低減できる。
【0028】
また、本実施形態のポリエチレンパウダーを用いたゲルは、上述したように、特定の範囲の分子絡み合いを持つ。電池用セパレータの製造には膜の延伸と熱固定という二つの特徴的な工程があるが、これらの工程においてポリエチレン分子は延伸配向された後、配向が緩和される。この配向と緩和を適切に制御することにより、膜の強度や熱収縮といった物性のバランスが調整される。分子の絡み合いの程度はこの配向と緩和に大きく影響するものであり、本実施形態のポリエチレンパウダーを用いたゲルは絡み合いの程度が適切な範囲であるため、熱収縮を低減することができ、経時的な緩みの発生も抑えることができる。
【0029】
本実施形態のポリエチレンパウダーを用いたゲルの、前記式(1)により算出される粘度変化率は、ポリエチレンに適切な分岐構造を与えることで制御することができる。すなわち、ポリエチレンの側鎖の長さや側鎖の間隔等のポリエチレンの一次構造を制御してポリエチレンに適切な分岐構造を与えると、ポリエチレン分子の分岐・絡み合いによる分子の拘束が生じるため、粘度変化率が小さくなる傾向にある。
ポリエチレンに適切な分岐構造を与える方法としては、マクロモノマーの生成や配位が起きやすい環境で重合する方法が挙げられる。具体的には、活性点密度が飽和状態にある触媒を用いて重合を行うこと、重合温度を80℃以上にすること、スラリー濃度を35質量%以上にすること、触媒活性を30,000g-PE/g-触媒(触媒1gあたりポリエチレン30,000g)以下にすること、及び触媒を重合温度より50℃以上低い温度で連続的にフィードすること等が挙げられる。
本実施形態のポリエチレンパウダーを用いたゲルの粘度変化率は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0030】
(ポリエチレンパウダーの極限粘度(IV))
本実施形態のポリエチレンパウダーの極限粘度(IV)は、1.5(dL/g)以上18.0(dL/g)未満であり、好ましくは2.0(dL/g)以上15.0(dL/g)未満であり、より好ましくは2.4(dL/g)以上7.1(dL/g)未満である。ポリエチレンパウダーの極限粘度(IV)が上記範囲にあることで、成形体の機械強度と加工性を優れたバランスで両立させることができる。
極限粘度(IV)は後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
本実施形態のポリエチレンパウダーの極限粘度(IV)は、後述する触媒を用い、重合条件等を適宜調整することにより、上記数値範囲に制御することができる。具体的な重合条件としては、重合系に水素を存在させること、及び/又は重合温度を変化させること等が挙げられ、これにより、極限粘度(IV)を制御することができる。
【0031】
(ゲルの粘度η(266,200))
本実施形態のポリエチレンパウダーを用い、前記<ゲル調製条件>によりゲルを得、前記<粘度変化率測定条件>に従い、せん断速度266s-1、設定温度200℃で測定したゲルの粘度η(266,200)は、好ましくは100Pas以上300Pas以下であり、より好ましくは120Pas以上250Pas以下であり、さらに好ましくは140Pas以上230Pas以下である。
粘度η(266,200)が上記の範囲にあるとき、湿式押出による微多孔膜の成形性が良好となるため好ましい。
【0032】
前記ゲルの粘度η(266,200)は、ポリエチレンの分子量、コポリマー量、分岐構造を調整することや、ポリエチレンに添加剤として滑剤を添加すること等により制御することができる。
ポリエチレンの分子量としては、コポリマー量、分岐構造、滑剤の量にもよるが、分子量が大きければ、ゲルの粘度η(266,200)が増加する傾向にある。また、コポリマー量としては、コポリマー量を増加させることにより、ゲルの粘度η(266,200)は低下する傾向にある。
また、滑剤の量としては、滑剤の種類にもよるが、一般的に2000ppm程度までは添加量を増加させることにより、ゲルの粘度η(266,200)は低下する傾向にある。それ以上は添加量を増やしてもゲルの粘度η(266,200)の低下量は少なくなる。
ゲルの粘度η(266,200)は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0033】
(log(η(11,200)/η(533,200)))
本実施形態のポリエチレンパウダーを用い、前記<ゲル調製条件>によりゲルを得、前記<粘度変化率測定条件>に従い、せん断速度11s-1、設定温度200℃で測定したゲルの粘度と、せん断速度533s-1、設定温度200℃で測定したゲルの粘度とは、log(η(11,200)/η(533,200))が、好ましくは1.00以上1.80以下であり、より好ましくは1.10以上1.60以下であり、さらに好ましくは1.20以上1.50以下である。
log(η(11,200)/η(533,200))は、ゲルの粘度のせん断速度依存性を表している。
ポリエチレンパウダーにより調製したゲルを用いて電池用セパレータを製造する工程においては、ゲルは押出機での溶融混練、シート成形、延伸等の工程において比較的高いひずみ速度での変形を受ける。前記の各工程においては、一般に成形加工ができる範囲において低い粘度であった方が、生産性が高く、好ましい。一方で、シートの冷却や搬送等を実施する工程においてはシートが変形しない方が好ましいので、それらの際には一般に成形加工ができる範囲において粘度は高い方が好ましい。
上述した事情に鑑み、前記log(η(11,200)/η(533,200))を、上述した数値範囲に特定することにより、本実施形態のポリエチレンパウダーを用いて電池用セパレータの製造を行う際、ひずみ速度の高い工程においても低い工程においても加工性・生産性が良好となり、好ましい。
【0034】
前記log(η(11,200)/η(533,200))は、本実施形態のポリエチレンパウダーを構成するポリエチレンの重量平均分子量、数平均分子量、分子量分布、絡み合い量の影響を受ける。
重量平均分子量及び数平均分子量については、これらが高くなるとη(11,200)が顕著に大きくなるため、log(η(11,200)/η(533,200))は大きくなる傾向にある。
また分子量分布に対しては、分布が広くなると低分子量成分の効果によりη(11,200)が小さくなる傾向にあるため、log(η(11,200)/η(533,200))も小さくなる傾向にある。
また、分子の絡み合い量に対しては、絡み合い量が大きくなるとη(11,200)が大きくなる傾向にあるため、log(η(11,200)/η(533,200))も大きくなる傾向にある。
すなわち、log(η(11,200)/η(533,200))を制御する具体的な方法としては、例えば、重合条件(温度、圧力、水素濃度等)の制御により分子量を制御すること、触媒調製条件(触媒種、調製温度、調製時間)の制御により分子量分布を制御すること、分子の分岐の制御により絡み合い量を制御すること等が挙げられる。
前記log(η(11,200)/η(533,200))は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0035】
(125℃における等温結晶化時間(分))
本実施形態のポリエチレンパウダーにおいて、下記の<等温結晶化時間測定>によって得られる等温結晶化時間は、125℃において結晶化に起因する発熱ピークトップが得られた時間であり、7.0分未満であることが好ましい。
<等温結晶化時間測定>
ステップA1:50℃で1分間保持後、10℃/minの昇温速度で180℃まで昇温する。
ステップA2:180℃で5分間保持後、80℃/minの降温速度で125℃まで降温する。
ステップA3:125℃にて保持する。125℃に達した時間を起点(0分)として、結晶化に起因する発熱ピークトップが得られた時間を等温結晶化時間(分)とする。
【0036】
本実施形態のポリエチレンパウダーは、125℃における等温結晶化時間が7.0分未満であることが好ましく、4.0分未満であることがより好ましく、3.0分未満であることがさらに好ましい。125℃における等温結晶化時間が7.0分未満であることにより、製膜加工をする際の原反(押出機により成形された状態のシート)の結晶サイズが小さくなり、より緻密な細孔構造が得られる。また、125℃における等温結晶化時間の下限値は、特に限定されないが、1.0分以上であることが好ましい。
【0037】
前記等温結晶化時間を制御する方法としては、ポリエチレンの結晶サイズを小さくすること等が挙げられる。ポリエチレンの結晶サイズを小さくするための方法としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレンの重合触媒の調製を低温・長時間で実施する方法等が挙げられる。
等温結晶化時間は、具体的に、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0038】
〔ポリエチレンパウダーの製造方法〕
本実施形態のポリエチレンパウダー製造方法における重合法としては、以下に限定されないが、例えば、スラリー重合法、気相重合法、溶液重合法等により、エチレン、又はエチレンを含む単量体を(共)重合させる方法が挙げられる。
これらの中でも、重合熱を効率的に除熱できるスラリー重合法が好ましい。
スラリー重合法においては、媒体として不活性炭化水素媒体を用いることができ、さらにオレフィン自身を媒体として用いることもできる。
【0039】
前記不活性炭化水素媒体としては、以下に限定されないが、例えば、プロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、イソペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、灯油等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;エチルクロライド、クロルベンゼン、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素;及び、これらの混合物等を挙げることができる。
【0040】
本実施形態のポリエチレンパウダーの製造方法における重合温度は、80℃以上100℃以下が好ましい。
一般的に重合温度が40℃以上であれば工業的に効率的な製造を行うことができる傾向にあるが、重合温度を80℃以上にすることでマクロモノマーの配位が起こりやすくなる傾向にある。一方、重合温度が100℃以下であれば、連続的に安定的な運転を行うことができる傾向にある。
【0041】
本実施形態のポリエチレンパウダーの製造方法における重合圧力は、0.10MPa以上2.0MPa以下が好ましく、より好ましくは0.10MPa以上1.5MPa以下、さらに好ましくは0.10MPa以上1.0MPa以下である。
【0042】
本実施形態のポリエチレンパウダーの製造方法における重合器内のスラリー濃度(液相中の固体成分割合)は、35質量%以上45質量%以下が好ましい。スラリー濃度を35質量%以上にすることで、マクロモノマーの配位が起こりやすくなる傾向にある。一方、スラリー濃度を45質量%以下にすることで、連続的に安定的な運転を行うことができる傾向にある。
【0043】
また、本実施形態のポリエチレンパウダーの製造方法における重合時の触媒の活性は、8,000g-PE/g-触媒(触媒1gあたりポリエチレン8,000g)以上、30,000g-PE/g-触媒(触媒1gあたりポリエチレン30,000g)以下であることが好ましい。触媒の活性は8,000g-PE/g-触媒以上であることで、ポリエチレンパウダーに残留する触媒の残渣が十分に低濃度になるため好ましい。また、触媒の活性が30,000g-PE/g-触媒以下であることで、マクロモノマーの配位が起こりやすくなる傾向にあるため好ましい。
【0044】
重合反応は、回分式、半連続式、連続式のいずれの方法でも行うことができ、特に、連続式で重合することが好ましい。
エチレンガス、溶媒(例えば、ヘキサン)、触媒等を連続的に重合系内に供給し、生成したポリエチレンパウダーと共にエチレンガス、溶媒、触媒等を連続的に排出することで、急激なエチレンの反応による部分的な高温状態を抑制することが可能となり、重合系内がより安定化する傾向にある。
【0045】
本実施形態のポリエチレンパウダーの製造に使用される触媒成分としては、例えば、チーグラー・ナッタ触媒、メタロセン触媒、フィリップス触媒等を好適に挙げることができる。
チーグラー・ナッタ触媒としては、例えば、特許第5767202号公報に記載のものを好適に使用することができ、メタロセン触媒としては、以下に限定されないが、例えば、特開2006-273977号公報、及び、特許第4868853号公報に記載のものを好適に使用することができる。
また、本実施形態のポリエチレンパウダーの製造に使用される触媒成分には、トリイソブチルアルミニウム、Tebbe試薬等の助触媒が含まれていてもよい。
【0046】
また、本実施形態のポリエチレンパウダーの製造に使用される触媒としては、活性点密度をできるだけ高くすることが好ましい。活性点密度が高いことにより、マクロモノマーが生成されやすくなる傾向にある。
【0047】
また、本実施形態のポリエチレンパウダーの製造に使用される触媒の使用方法としては、重合温度との温度差が50℃以上70℃以下となるように触媒を冷却した状態で連続的に重合器に導入する方法を実施することが好ましい。重合温度との温度差が50℃以上となるように触媒を冷却した状態で連続的に重合器に導入することで、マクロモノマーの配位が起こりやすくなる傾向にある。また、重合温度との温度差を70℃以下とすることで安定して重合反応を継続させることができる。
【0048】
本実施形態のポリエチレンパウダーの製造方法に使用する触媒の平均粒子径は、好ましくは0.1μm以上20μm以下、より好ましくは0.2μm以上16μm以下、さらに好ましくは0.5μm以上12μm以下である。
触媒の平均粒子径が0.1μm以上であれば、得られるポリエチレンパウダーの飛散や重合器、乾燥器、製品ホッパーへの付着といった問題を防止できる傾向にある。
また、触媒の平均粒子径が10μm以下であると、ポリエチレンパウダーが大きくなりすぎて重合系内で沈降することを防止できる傾向にあり、かつポリエチレンパウダーの後処理工程でのラインの閉塞等の問題を防止できる傾向にある。
触媒の粒径分布は可能な限り狭い方が好ましく、篩や遠心分離、サイクロンによって、微粉粒子と粗粉粒子を除去することができる。
【0049】
ポリエチレンパウダーの製造に使用した触媒の失活方法は、特に限定されないが、ポリエチレンパウダーと溶媒とを分離した後に実施することが好ましい。
溶媒と分離した後に触媒を失活させるための薬剤を投入することで、溶媒中に溶解している触媒成分等の析出を抑制することができ、触媒成分由来のTi、Al、Cl等を低減することができる。
触媒系を失活させる薬剤としては、以下に限定されないが、例えば、酸素、水、アルコール類、グリコール類、フェノール類、一酸化炭素、二酸化炭素、エーテル類、カルボニル化合物、アルキン類等を挙げることができる。
【0050】
本実施形態のポリエチレンパウダーの重量平均分子量及び数平均分子量は、例えば、西独国特許出願公開第3127133号明細書に記載されているように、重合系に水素を存在させることや、重合温度を変化させること等によって制御することができる。
重合系内に連鎖移動剤として水素を添加することにより、ポリエチレンパウダーの重量平均分子量及び数平均分子量を適切な範囲に制御しやすくなる。
重合系内に水素を添加する場合、水素のモル分率は、好ましくは0mol%以上30mol%以下、より好ましくは0mol%以上25mol%以下、さらに好ましくは0mol%以上20mol%以下である。
【0051】
本実施形態のポリエチレンパウダーの製造方法における溶媒分離方法は、例えば、デカンテーション法、遠心分離法、フィルター濾過法等が挙げられ、ポリエチレンパウダーと溶媒との分離効率が高い観点から、遠心分離法が好ましい。
【0052】
本実施形態のポリエチレンパウダーの製造方法においては、ポリエチレンパウダーを溶媒と分離した後、乾燥工程を実施することが好ましい。
当該乾燥工程における乾燥温度は、好ましくは50℃以上150℃以下、より好ましくは50℃以上140℃以下、さらに好ましくは50℃以上130℃以下である。乾燥温度が50℃以上であれば、効率的な乾燥が可能である。一方、乾燥温度が150℃以下であれば、ポリエチレンパウダーの凝集や熱劣化を抑制した状態で乾燥することが可能である。
【0053】
(添加剤)
本実施形態のポリエチレンパウダーは、上記のような各成分以外にもポリエチレンパウダーの製造に有用な他の公知の成分を含むことができる。本実施形態のポリエチレンパウダーは、例えば、さらに、中和剤、酸化防止剤、及び耐光安定剤等の添加剤を含有してもよい。
中和剤は、ポリエチレン中に含まれる塩素のキャッチャー、又は成形加工助剤等として使用される。中和剤としては、以下に限定されないが、例えば、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属のステアリン酸塩が挙げられる。
中和剤の含有量は、特に限定されないが、ポリエチレン全量に対し、好ましくは5,000ppm以下、より好ましくは4,000ppm以下、さらに好ましくは3,000ppm以下である。
本実施形態のポリエチレンパウダーがメタロセン触媒を用いてスラリー重合法により得られるエチレン重合体である場合、触媒構成成分中からハロゲン成分を除外することも可能であり、かかる場合には、中和剤は使用しなくてもよい。
酸化防止剤としては、以下に限定されないが、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、ペンタエリスチル-テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のフェノール系酸化防止剤が挙げられる。
酸化防止剤の含有量は、特に限定されないが、好ましくは5,000ppm以下、より好ましくは4,000ppm以下、さらに好ましくは3,000ppm以下である。
耐光安定剤としては、以下に限定されないが、例えば、2-(5-メチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3-t-ブチル-5-メチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系耐光安定剤;ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジン)セバケート、ポリ[{6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル}{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}]等のヒンダードアミン系耐光安定剤;等が挙げられる。
耐光安定剤の含有量は、特に限定されないが、好ましくは5,000ppm以下、より好ましくは4,000ppm以下、さらに好ましくは3,000ppm以下である。
本実施形態のポリエチレンパウダー中に含まれる添加剤の含有量は、ポリエチレンパウダー中の添加剤を、テトラヒドロフラン(THF)を用いてソックスレー抽出により6時間抽出し、抽出液を液体クロマトグラフィーにより分離、定量することにより求めることができる。
【0054】
〔成形体〕
本実施形態の成形体は、上述した本実施形態のポリエチレンパウダーの成形体である。
本実施形態のポリエチレンパウダーは、ゲル状態における溶融粘度の温度依存性が小さい点に特徴を有しており、かかる点より、特に湿式押出による成形に好適である。
本実施形態のポリエチレンパウダーのゲルは、湿式押出時に低温条件下でも高ポリマー濃度、すなわちゲル中のポリエチレンの割合が高い状態で押し出すことができるため、微架橋物やコゲによる欠点や押出機の昇圧を低減できる。湿式押出をすることで成形される成形体としては、例えば、微多孔膜、繊維等が挙げられる。
【0055】
(用途)
また、本実施形態のポリエチレンパウダーの成形体は、熱固定時の寸法安定性に優れ、また熱固定後の熱収縮も少ないため、電池用セパレータ、具体的には二次電池用セパレータ、特にリチウムイオン二次電池用セパレータ、鉛蓄電池用セパレータに好適に用いられる。
さらに、押出し成形やプレス成形や切削加工等の、ソリッドでの成形により、ギアやロール、カーテンレール、パチンコ球のレール、穀物等の貯蔵サイロの内張りシート、ゴム製品等の摺動付与コーティング、スキー板材及びスキーソール、トラックやシャベルカー等の重機のライニング材に使用できる。
さらにまた、本実施形態のポリエチレンパウダーは、ポリエチレンパウダーを焼結して得られる成形体、フィルターや粉塵トラップ材等に使用できる。
【実施例
【0056】
以下、具体的な実施例及び比較例を用いて本実施形態についてさらに詳しく説明するが、本実施形態は、以下の実施例及び比較例により何ら限定されるものではない。
各種特性及び物性の測定方法を下記に示す。
【0057】
〔各種特性及び物性の測定方法〕
(1)極限粘度(IV)
後述の実施例及び比較例で得られた各ポリエチレンパウダーの極限粘度(IV)を、ISO1628-3(2010)に準拠して測定した。
まず、測定用の溶液を調製した。
測定用の溶液は、ポリエチレンパウダーを4.0~4.5mgの範囲内で秤量し、真空ポンプで脱気し窒素で置換した20mLのデカヒドロナフタレン(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノールを1g/L加えたもの、以下、デカリンと表記)を溶媒とし、内部の空気を真空ポンプで脱気し窒素で置換した溶解管中で、150℃で90分間攪拌し溶解させ、調製した。
粘度管としては、キャノン-フェンスケ型粘度計(柴田科学器械工業社製:製品番号-100)を用いた。
【0058】
(2)ゲルの溶融粘度(η)及び粘度変化率(Pas/℃)
後述の実施例及び比較例で得られた各ポリエチレンパウダーのゲルの溶融粘度(η)を、JIS K7199で規定されるキャピラリーダイを用いた流れ特性試験に準拠し、以下の手順で測定した。
まず、ポリエチレンパウダー12g、流動パラフィン(松村石油(株)製P-350)28g、及びテトラキス[メチレン(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナマート)]メタン0.4gを、十分に混合した。続いてラボプラストミル(東洋精機株式会社製、型式4C150、ミキサー形式R-60)を用いて、設定温度200℃、回転数50rpmで10分間混練し、ゲルを調製した。
前記ゲルを、厚み1mmの金型を用いて、ASTM D 1928 Procedure Cに準じて圧縮成形し、ゲルシートを作製した。作製したゲルシートを長さ5cm、幅5mm程度の短冊状に切り分けた。キャピログラフ(東洋精機株式会社製、型式1D)にキャピラリー径0.77mm、長さ50.80mm、流入角90°のキャピラリーダイをセットし、切り分けたゲルシートを投入し、粘度を測定した。
その際、せん断速度をAs-1、温度をB℃として測定した時の粘度をη(A,B)とした。
粘度変化率(Pas/℃)を下記式(1)により算出した。
【0059】
【数3】
【0060】
(3)等温結晶化時間(分)
示差走査熱量計(DSC)を用いて、下記の<等温結晶化時間測定条件>よって得られる、125℃における等温結晶化時間を測定した。
下記に従い、ステップA3の125℃に達した時間を起点(0分)として、結晶化に起因する発熱ピークトップが得られた時間を、等温結晶化時間として測定した。
<等温結晶化時間測定条件>
ステップA1:50℃で1分間保持後、10℃/minの昇温速度で180℃まで昇温した。
ステップA2:180℃で30分間保持後、80℃/minの降温速度で125℃まで降温した。
ステップA3:125℃にて保持した。
【0061】
(4)微多孔膜の作製
二軸押出機は事前に分掃を実施した。
ポリエチレンパウダーと流動パラフィンを、二軸押出機にて均一に溶融混練し、ポリエチレン溶融混練物(ゲル)を得た。
ゲル中のポリエチレンパウダーの割合は、以下のように調整した。
ポリエチレンパウダーの極限粘度(IV)が3.9dL/g未満の場合、40質量%とした。
ポリエチレンパウダーの極限粘度(IV)が3.9dL/g以上6.1dL/g未満の場合、30質量%とした。
ポリエチレンパウダーの極限粘度(IV)が6.1dL/g以上7.1dL/g未満の場合、27質量%とした。
ポリエチレンパウダーの極限粘度(IV)が7.1dL/g以上の場合、24質量%とした。
押出温度は、170℃から220℃の範囲で、せん断速度266s-1で、設定温度T(℃)における粘度η(266,T)=200Pasに最も近くなる温度T(℃)に設定し、スクリュー回転数は170rpm、吐出量は15kg/hrで押出を実施した。スクリーンメッシュは100meshのものを用いた。
続いて、220℃に保持されたT-ダイ(幅250mm)を用い、溶融混練物をシート状に押し出した。表面温度60℃に制御された金属ロールで溶融混練物を圧着、冷却することにより、厚み1000μmの厚み安定性に優れたゲルシートを得た。下記押出機昇圧評価のため、押出は8時間連続で実施した。
次に、同時2軸延伸機を用いて、延伸温度125℃で7×7倍に延伸し、続いて、メチルエチルケトン槽に導き、メチルエチルケトン中に充分に浸漬して流動パラフィンを抽出除去し、その後メチルエチルケトンを乾燥除去した。
続いてテンター延伸機で、横方向に120℃で1.5倍延伸を行い、125℃で熱固定を行った。
さらに、巻き取り機で微多孔膜を紙製管に巻き取った。
【0062】
(5)膜欠点評価
得られた微多孔膜25cm×25cmの面積に存在する直径0.2mm以上の欠点の数を目視で測定した。評価の基準は以下の様にした。
0個/625cm以上、4個/625cm未満:○
4個/625cm以上、7個/625cm未満::△
7個/625cm以上:×
【0063】
(6)押出機昇圧評価
前記(4)の微多孔膜の作製において、ブレーカープレートの上流に取り付けた樹脂圧力計で圧力を測定した。押出開始後10分間の樹脂圧力の平均値と、押出終了前10分間の樹脂圧力の平均値の差を、昇圧量として評価した。評価の基準は以下の様にした。
0MPa以上、0.5MPa未満:○
0.5MPa以上、1.0MPa未満::△
1.0MPa以上:×
【0064】
(7)弛み評価
前記(4)で作製した微多孔膜を3m程度引き出し、四隅を保持して空中で水平に広げた時に目視で確認できる部分的な弛みが、製膜直後と比べてロールのまま常温で1週間静置させた後でどの程度悪化しているかを評価した。評価の基準は以下の様にした。
弛みの量に変化が無いもの:○
弛みの量が僅かに増えたもの:△
弛みの量が明らかに増えたもの:×
【0065】
(8)熱収縮評価
前記(4)で作製した微多孔膜を、MD、TD方向に沿って10cm×10cmの正方形に切り出し、金属や熱風との接触を避けるために紙製の封筒の中に入れ、105℃のオーブン内に1時間静置した。その後、室温で微多孔膜を冷却し、TD方向の長さL(cm)を測定し、以下の式で熱収縮率を算出した。
TD方向熱収縮率(%)=(10-L)/10×100
評価の基準は以下の様にした。
0%以上、4%未満:○
4%以上、6%未満::△
6%以上:×
【0066】
〔製造例〕触媒の合成
(固体触媒成分[A-1]の合成)
<(1)原料(a-1)の調製>
充分に窒素置換された8Lステンレス製オートクレーブに、1mol/LのMg(C12AL(Cのヘキサン溶液2,000mL(マグネシウムとアルミニウムで2000mmol相当)を仕込み、50℃で攪拌しながら、5.47mol/Lのn-ブタノールヘキサン溶液146mLを3時間かけて滴下し、終了後、製造ラインを300mLのヘキサンで洗浄した。
さらに、50℃で2時間かけて攪拌を継続した。反応終了後、常温まで冷却したものを原料(a-1)とした。原料(a-1)はマグネシウムの濃度で0.715mol/Lであった。
【0067】
<(2)原料(a-2)の調製>
充分に窒素置換された8Lステンレス製オートクレーブに、1mol/LのMg(C12AL(Cのヘキサン溶液2,000mL(マグネシウムとアルミニウムで2000mmol相当)を仕込み、80℃で攪拌しながら、8.41mol/Lのメチルハイドロジエンポリシロキサン(信越化学工業社製)のヘキサン溶液240mLを圧送し、さらに80℃で2時間かけて攪拌を継続し、反応を行った。反応終了後、常温まで冷却したものを原料(a-2)とした。原料(a-2)はマグネシウムとアルミニウムの合計濃度で0.791mol/Lであった。
【0068】
<(3)(A-1)担体の調製>
充分に窒素置換された8Lステンレス製オートクレーブに、1mol/Lのヒドロキシトリクロロシランのヘキサン溶液1,000mLを仕込み、65℃で、前記原料(a-1)の有機マグネシウム化合物のヘキサン溶液1340mL(マグネシウム943mmol相当)を3時間かけて滴下し、さらに65℃で1時間撹拌しながら反応を継続させた。反応終了後、上澄み液を除去し、1,800mLのヘキサンで4回洗浄し、(A-1)担体を得た。この(A-1)担体を分析した結果、固体1g当たりに含まれるマグネシウムは7.5ミリモルであった。
【0069】
<(4)固体触媒成分[A-1]の合成>
前記(A-1)担体110gを含有するヘキサンスラリー1,970mLに、10℃で撹拌しながら1mol/Lの四塩化チタンのヘキサン溶液825mLと、前記原料(a-2)1050mLを、同時に3時間かけて添加した。添加後、10℃で1時間反応を継続させた。反応終了後、上澄み液を除去し、ヘキサンで4回洗浄することにより、未反応原料成分を除去し、固体触媒成分[A-1]を合成した。
【0070】
(固体触媒成分[A-2]の合成)
前記固体触媒成分[A-1]の合成において、(A-1)担体を含有するヘキサンスラリーに添加する四塩化チタンのヘキサン溶液と、原料(a-2)の量を、それぞれ103mL、131mLとした以外は、前記固体触媒成分[A-1]の合成と同様にして固体触媒成分[A-2]を合成した。
【0071】
(固体触媒成分[B]の合成)
(1)原料(b-1)の合成
充分に窒素置換された8Lステンレス製オートクレーブに、1mol/LのMg(C12AL(Cのヘキサン溶液2,000mL(マグネシウムとアルミニウムで2000mmol相当)を仕込み、80℃で攪拌しながら、8.33mol/Lのメチルハイドロジエンポリシロキサン(信越化学工業社製)のヘキサン溶液240mLを圧送し、さらに80℃で2時間かけて攪拌を継続し、反応を行った。反応終了後、常温まで冷却したものを原料(b-1)とした。原料(b-1)はマグネシウムとアルミニウムの合計濃度で0.786mol/Lであった。
【0072】
(2)固体触媒成分[B]の調製
窒素置換された8Lステンレス製オートクレーブに、ヘキサン1,600mL添加した。10℃で攪拌しながら、1mol/Lの四塩化チタンのヘキサン溶液800mLと、前記原料(b-1)800mLを、同時に5時間かけて添加した。10℃で1時間反応を継続させた。反応終了後、上澄み液を除去し、ヘキサンで4回洗浄することにより、未反応原料成分を除去し、固体触媒成分[B]を調製した。
【0073】
〔実施例1〕
(エチレン重合体の製造方法)
ヘキサン、エチレン、水素、及び触媒を、攪拌装置が付いたベッセル型300L重合反応器に、平均滞留時間2時間の条件で連続的に供給した。重合圧力は0.5MPaであった。重合温度はジャケット冷却により83℃に保った。触媒は4℃に冷却した状態で連続的に供給した。
前記触媒としては、固体触媒成分[A-1]と、助触媒としてトリイソブチルアルミニウムとを使用した。トリイソブチルアルミニウムを10mmol/hrの速度で重合器に添加した。固体触媒成分[A-1]は、エチレン重合体の重合速度(製造速度)が10kg/hrとなり、重合反応器内のスラリー濃度が38質量%になるように供給した。
水素を、気相濃度が1.8mol%になるようにポンプで連続的に供給した。
得られた重合体スラリーを遠心分離機に送り、ポリマー(ポリエチレン)とそれ以外の溶媒等を分離し、エチレン重合体を得た。分離されたエチレン重合体は、70℃で窒素ブローしながら乾燥した。これにより得られたエチレン重合体を目開き425μmの篩を用いて、篩を通過しなかったものを除去することでポリエチレンパウダーを得た。触媒活性は13970g-PE/g-触媒(触媒1gあたりポリエチレンパウダー13970g)であった。
得られたポリエチレンパウダーの特性を、上述した方法により測定した。測定結果を下記表1に示す。
【0074】
〔実施例2〕
重合工程において、気相の水素濃度を9.1mol%とし、スラリー濃度が20%となるように触媒を導入したこと以外は、前記〔実施例1〕と同様の操作によりポリエチレンパウダーを得た。触媒活性は18372g-PE/g-触媒であった。得られたポリエチレンパウダーの特性を下記表1に示す。
【0075】
〔実施例3〕
重合工程において、重合温度を70℃とし、気相の水素濃度を9.4mol%とし、共重合成分として1-ブテンを気相濃度が0.15mol%となるように連続的に導入したこと以外は、前記〔実施例1〕と同様の操作によりポリエチレンパウダーを得た。触媒活性は11989g-PE/g-触媒であった。得られたポリエチレンパウダーの特性を下記表1に示す。
【0076】
〔実施例4〕
重合工程において、固体触媒成分として[A-2]を用い、スラリー濃度が35質量%となるように触媒を導入したこと以外は、前記〔実施例1〕と同様の操作によりポリエチレンパウダーを得た。触媒活性は19598g-PE/g-触媒であった。得られたポリエチレンパウダーの特性を下記表1に示す。
【0077】
〔実施例5〕
重合工程において、気相の水素濃度を0.4mol%としたこと以外は、前記〔実施例1〕と同様の操作によりポリエチレンパウダーを得た。触媒活性は35184g-PE/g-触媒であった。得られたポリエチレンパウダーの特性を下記表1に示す。
【0078】
〔実施例6〕
重合工程において、気相の水素濃度を15.1mol%とし、スラリー濃度が40質量%となるように触媒を導入し、触媒を60℃に保温した状態で間欠的に供給したこと以外は、前記〔実施例1〕と同様の操作によりポリエチレンパウダーを得た。触媒活性は10201g-PE/g-触媒であった。得られたポリエチレンパウダーの特性を下記表1に示す。
【0079】
〔実施例7〕
重合工程において、重合温度を70℃とし、気相の水素濃度を0.03mol%とし、スラリー濃度が36質量%となるように触媒を導入したこと以外は、前記〔実施例1〕と同様の操作によりポリエチレンパウダーを得た。触媒活性は45839g-PE/g-触媒であった。得られたポリエチレンパウダーの特性を下記表1に示す。
【0080】
〔比較例1〕
重合工程において、気相の水素濃度を7.8mol%とし、共重合成分として1-ブテンを気相濃度が0.15mol%となるように連続的に導入し、固体触媒成分として[B]を用い、触媒の導入時の温度を60℃とし、触媒の導入量はスラリー濃度が31質量%となるようにしたこと以外は、前記〔実施例1〕と同様の操作によりポリエチレンパウダーを得た。触媒活性は20411g-PE/g-触媒であった。得られたポリエチレンパウダーの特性を下記表1に示す。
【0081】
〔比較例2〕
重合工程において、重合温度を70℃とし、気相の水素濃度を0.01mol%とし、スラリー濃度が25質量%となるように触媒を導入し、触媒の導入時の温度を60℃としたこと以外は、前記〔実施例1〕と同様の操作によりポリエチレンパウダーを得た。触媒活性は45022g-PE/g-触媒であった。このポリエチレンパウダーは、極限粘度(IV)が高く、適切に製膜することができず、評価が不可能であった。得られたポリエチレンパウダーの特性を下記表1に示す。
【0082】
〔比較例3〕
重合工程において、重合温度を70℃とし、気相の水素濃度を18.5mol%とし、共重合成分として1-ブテンを気相濃度が0.8mol%となるように連続的に導入し、固体触媒成分として[A-2]を用い、スラリー濃度が25質量%となるように触媒を導入したこと以外は、前記〔実施例1〕と同様の操作によりポリエチレンパウダーを得た。触媒活性は8423g-PE/g-触媒であった。得られたポリエチレンパウダーの特性を下記表1に示す。
【0083】
【表1】
【0084】
実施例においては、膜欠点、押出機昇圧が少なく、熱収縮が小さく、経時的な弛みの発生が少ないポリエチレンパウダーが得られた。
【0085】
本出願は、2020年5月29日に日本国特許庁に出願された日本特許出願(特願2020-094628)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明のポリエチレンパウダーは、各種成形体、微多孔膜、電池用セパレータ、繊維の材料として、産業上の利用可能性を有する。