IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 寧徳時代新能源科技股▲分▼有限公司の特許一覧

特許7349029リチウムイオン二次電池、電池モジュール、電池パックおよび電気装置
<>
  • 特許-リチウムイオン二次電池、電池モジュール、電池パックおよび電気装置 図1
  • 特許-リチウムイオン二次電池、電池モジュール、電池パックおよび電気装置 図2
  • 特許-リチウムイオン二次電池、電池モジュール、電池パックおよび電気装置 図3
  • 特許-リチウムイオン二次電池、電池モジュール、電池パックおよび電気装置 図4
  • 特許-リチウムイオン二次電池、電池モジュール、電池パックおよび電気装置 図5
  • 特許-リチウムイオン二次電池、電池モジュール、電池パックおよび電気装置 図6
  • 特許-リチウムイオン二次電池、電池モジュール、電池パックおよび電気装置 図7
  • 特許-リチウムイオン二次電池、電池モジュール、電池パックおよび電気装置 図8
  • 特許-リチウムイオン二次電池、電池モジュール、電池パックおよび電気装置 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-12
(45)【発行日】2023-09-21
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池、電池モジュール、電池パックおよび電気装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20230913BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20230913BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230913BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20230913BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20230913BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20230913BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M4/525
H01M4/36 E
H01M4/505
H01M4/131
H01M10/058
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022543600
(86)(22)【出願日】2021-05-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-08
(86)【国際出願番号】 CN2021094867
(87)【国際公開番号】W WO2022241712
(87)【国際公開日】2022-11-24
【審査請求日】2022-07-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】513196256
【氏名又は名称】寧徳時代新能源科技股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】Contemporary Amperex Technology Co., Limited
【住所又は居所原語表記】No.2,Xingang Road,Zhangwan Town,Jiaocheng District,Ningde City,Fujian Province,P.R.China 352100
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】徐良帆
(72)【発明者】
【氏名】李星
(72)【発明者】
【氏名】金海族
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第112151794(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052
H01M 4/525
H01M 4/36
H01M 4/505
H01M 4/131
H01M 10/058
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
裸セル収容キャビティを含むリチウムイオン二次電池であって、前記裸セル収容キャビティに裸セル群が設けられており、前記裸セル群は、1つまたは複数の裸セルAおよび1つまたは複数の裸セルBを含み、前記裸セルAは第1の正極シートを含み、前記第1の正極シートは第1の正極活物質を含み、前記第1の正極活物質は、単結晶または擬単結晶低ニッケル3元正極材料A1から選ばれ、前記裸セルBは第2の正極シートを含み、前記第2の正極シートは、第2の正極活物質および/または第3の正極活物質を含み、前記第2の正極活物質は、多結晶高ニッケル3元正極材料B1から選ばれ、前記第3の正極活物質は、多結晶低ニッケル3元正極材料B2から選ばれ
前記単結晶または擬単結晶低ニッケル3元正極材料A1の分子式は、LiNi x1 Co y1 Mn 1-x1-y1 (そのうち、0<x1≦0.65、0<y1<0.35、0<1-x1-y1<0.35)であり、
前記多結晶高ニッケル3元正極材料B1の分子式は、LiNi x2 Co y2 Mn 1-x2-y2 (そのうち、0.7≦x2<1、0<y2<0.3、0<1-x2-y2<0.3)であり、
前記多結晶低ニッケル3元正極材料B2の分子式は、LiNi x3 Co y3 Mn 1-x3-y3 (そのうち、0<x3≦0.65、0<y3<0.35、0<1-x3-y3<0.35)であることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記単結晶または擬単結晶低ニッケル3元正極材料A1の分子式は、LiNix1Coy1Mn1-x1-y1(そのうち、0<x1≦0.55、0<y1<0.45、0<1-x1-y1<0.45)であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記多結晶高ニッケル3元正極材料B1の分子式は、LiNix2Coy2Mn1-x2-y2(そのうち、0.7≦x2≦0.8、0.2<y2<0.3、0.2<1-x2-y2<0.3)であることを特徴とする請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記多結晶低ニッケル3元正極材料B2の分子式は、LiNix3Coy3Mn1-x3-y3(そのうち、0<x3≦0.55、0<y3<0.45、0<1-x3-y3<0.45)であることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記単結晶または擬単結晶低ニッケル3元正極材料A1の100%SOC充電格子体積収縮率≦3%、
および/または、前記多結晶高ニッケル3元正極材料B1の100%SOC充電格子体積収縮率≧4%、
および/または、前記多結晶低ニッケル3元正極材料B2の100%SOC充電格子体積収縮率≦3%であることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
前記裸セルBの分布は、前記裸セルAに比べて、前記裸セル群の外側により近いであることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
前記裸セルAの分布は、前記裸セルBに比べて、前記裸セル群の中央部により近いであることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項8】
前記第2の正極シートは、さらに第4の正極活物質を含み、前記第4の正極活物質は、単結晶または擬単結晶低ニッケル3元正極材料A2から選ばれ、前記単結晶または擬単結晶低ニッケル3元正極材料A2の分子式は、LiNix4Coy4Mn1-x4-y4(0<x4≦0.65、0<y4<0.35、0<1-x4-y4<0.35)であることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項9】
前記第2の正極シートは、さらに第4の正極活物質を含み、前記第4の正極活物質は、単結晶または擬単結晶低ニッケル3元正極材料A2から選ばれ、前記単結晶または擬単結晶低ニッケル3元正極材料A2の分子式は、LiNix4Coy4Mn1-x4-y4(0<x4≦0.55、0<y4<0.45、0<1-x4-y4<0.45)であることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項10】
前記単結晶または擬単結晶低ニッケル3元正極材料A2の100%SOC充電格子体積収縮率≦3%であることを特徴とする請求項またはに記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項11】
前記リチウムイオン二次電池において、単結晶正極活物質の総質量と多結晶正極活物質の総質量との質量比kは、0.5~9であることを特徴とする請求項1~10のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項12】
前記裸セルAにおける負極の塗布量≦0.150g/1540.25mm^2であることを特徴とする請求項1~11のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池を含むことを特徴とする電池モジュール。
【請求項14】
請求項13に記載の電池モジュールを含むことを特徴とする電池パック。
【請求項15】
請求項1~12のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池、請求項13に記載の電池モジュール、または、請求項14に記載の電池パックから選ばれた1種以上を含むことを特徴とする電気装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学分野に関し、特にリチウムイオン二次電池、電池モジュール、電池パックおよび電気装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、主に正極活物質と負極活物質との間のリチウムイオンの往復マイグレーションによって充放電を行う。リチウムイオン二次電池は、使用過程にて安定した電圧と電流を供給でき、かつ環境にやさしいため、携帯電話、タブレット、ノートパソコン、電動自転車、電気自動車などのさまざまな電気設備に広く使用されている。
【0003】
高エネルギー密度、高電圧のリチウムイオン電池に対して、その総合的な性能を改善する要求は、持続的に存在している。従来技術では、複数の異なる正極活性材料のサブ層を用いる構成であって、1つのサブ層の正極活性材料が単結晶または擬単結晶構造の3元正極材料を選択し使用し、もう1つのサブ層が単結晶または擬単結晶構造と多結晶構造とを混合した3元正極材料を使用する構成を採用することがあり、ただし、それと類似する改良は、電極シートレベルのみからの考えであり、電池の総合的な性能の改良は依然として限られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述した先行技術の欠点を鑑みて、本発明は、高エネルギー密度、サイクル性能、貯蔵性能、ガス発生性能および安全性能などのリチウムイオン二次電池の総合的な性能をさらに向上したリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的および他の関連目的を達成するために、本願は、裸セル収容キャビティを含むリチウムイオン二次電池であって、前記裸セル収容キャビティに裸セル群が設けられており、前記裸セル群は1つまたは複数の裸セルAおよび1つまたは複数の裸セルBを含み、前記裸セルAは第1の正極シートを含み、前記第1の正極シートは第1の正極活物質を含み、前記第1の正極活物質は、単結晶または擬単結晶低ニッケル3元正極材料A1から選ばれ、前記裸セルBは第2の正極シートを含み、前記第2の正極シートは、第2の正極活物質および/または第3の正極活物質を含み、前記第2の正極活物質は、多結晶高ニッケル3元正極材料B1から選ばれ、前記第3の正極活物質は、多結晶低ニッケル3元正極材料B2から選ばれるリチウムイオン二次電池を提供する。単結晶または擬単結晶低ニッケル3元正極材料、多結晶高ニッケル3元正極材料をそれぞれ含む裸セルを混合して組み合わせる正極により、多結晶高ニッケル3元正極材料の高SOC(充電状態、state of charge)の脱リチウム状態格子収縮が顕著であるという特性をより良く利用して、サイクルダイビングを改善することができ、リチウムイオン二次電池の高エネルギー密度、サイクル性能、貯蔵性能、ガス発生性能、安全性能などの総合的な性能を効果的に向上させることができる。
【0006】
いずれの実施形態において、前記単結晶または擬単結晶低ニッケル3元正極材料A1の分子式は、LiNix1Coy1Mn1-x1-y1(そのうち、0<x1≦0.65、0<y1<0.35、0<1-x1-y1<0.35)であり、または、前記単結晶または擬単結晶低ニッケル3元正極材料A1の分子式はLiNix1Coy1Mn1-x1-y1(そのうち、0<x1≦0.55、0<y1<0.45、0<1-x1-y1<0.45)である。これにより、裸セルAにおけるニッケル含有量の比率が比較的に低い単結晶または擬単結晶3元正極材料と裸セルBにおけるニッケル含有量が比較的に高い多結晶3元正極材料とを組み合わせて、リチウムイオン二次電池の総合的な性能を向上させる。
【0007】
いずれの実施形態において、前記多結晶高ニッケル3元正極材料B1の分子式は、LiNix2Coy2Mn1-x2-y2(そのうち、0.7≦x2<1、0<y2<0.3、0<1-x2-y2<0.3)であり、または、前記多結晶高ニッケル3元正極材料B1の分子式は、LiNix2Coy2Mn1-x2-y2(そのうち、0.7≦x2≦0.8、0.2<y2<0.3、0.2<1-x2-y2<0.3)である。これにより、裸セルBにおけるニッケル含有量が比較的に高い多結晶3元正極材料と裸セルAにおけるニッケル含有量の比率が比較的に低い単結晶または擬単結晶3元正極材料とを組み合わせて、リチウムイオン二次電池の総合的な性能を向上させる。
【0008】
いずれの実施形態において、前記多結晶低ニッケル3元正極材料B2の分子式はLiNix3Coy3Mn1-x3-y3(そのうち、0<x3≦0.65、0<y3<0.35、0<1-x3-y3<0.35)であり、または、前記多結晶低ニッケル3元正極材料B2の分子式は、LiNix3Coy3Mn1-x3-y3(そのうち、0<x3≦0.55、0<y3<0.45、0<1-x3-y3<0.45)である。これにより、裸セルBにニッケル含有量の比率が比較的に低い多結晶3元正極材料を導入することができ、この材料の導入はガス発生性能を相対的に低下させるおそれがあるが、全体としてリチウムイオン二次電池の総合的な性能を改善することができる。
【0009】
いずれの実施形態において、前記単結晶または擬単結晶低ニッケル3元正極材料A1の100%SOC充電格子体積収縮率≦3%、および/または、多結晶高ニッケル3元正極材料B1の100%SOC充電格子体積収縮率≧4%、および/または、前記多結晶低ニッケル3元正極材料B2の100%SOC充電格子体積収縮率≦3%である。これにより、100%SOC充電格子体積収縮率を選択し、3元正極材料の高SOC時の格子収縮特性をより良く発現させることができる。
【0010】
いずれの実施形態において、前記裸セルBの分布は、前記裸セルAに比べて、前記裸セル群の外側により近い。これにより、裸セルBを裸セル群のより外側に置き、裸セルAを緩衝するための緩衝層を提供することに類似し、充電過程における裸セルの顕著な膨張力増加傾向による膨張問題を効果的に避けることができる。
【0011】
いずれの実施形態において、前記裸セルAの分布は、前記裸セルBに比べて、前記裸セル群の中央部により近い。この理由として、通常、セルの中央領域の裸セルは、温度上昇がより顕著であり、電解質の含浸により寄与するため、裸セルAを裸セル群の中央部に分布させることにより、裸セルAの大きい膨張力や中央領域への不十分な電解液含浸などの原因による大面積のリチウム析出の発生をさらに避けることができる。
【0012】
いずれの実施形態において、前記第2の正極シートは、さらに第4の正極活物質を含み、前記第4の正極活物質は、単結晶または擬単結晶低ニッケル3元正極材料A2から選ばれ、前記単結晶または擬単結晶低ニッケル3元正極材料A2の分子式は、LiNix4Coy4Mn1-x4-y4(そのうち、0<x4≦0.65、0<y4<0.35、0<1-x4-y4<0.35)であり、または、前記第2の正極シートは、さらに第4の正極活物質を含み、前記第4の正極活物質は、単結晶または擬単結晶低ニッケル3元正極材料A2から選ばれ、前記単結晶または擬単結晶低ニッケル3元正極材料A2の分子式は、LiNix4Coy4Mn1-x4-y4(そのうち、0<x4≦0.55、0<y4<0.45、0<1-x4-y4<0.45)である。これにより、前記数値範囲内のニッケル含有量の比率が比較的に低い単結晶または擬単結晶3元正極材料はガス発生性能が良く、裸セルBにおけるニッケル含有量が比較的に高い3元正極材料と組み合わせてリチウムイオン二次電池の総合的な性能を向上させることができる。
【0013】
いずれの実施形態において、前記単結晶または擬単結晶低ニッケル3元正極材料A2の100%SOC充電格子体積収縮率≦3%である。100%SOC充電格子体積収縮率を選択することにより、3元正極材料の高SOC時の格子収縮特性をよりよく発現させることができる。
【0014】
いずれの実施形態において、前記リチウムイオン二次電池において、単結晶正極活物質の総質量と多結晶正極活物質の総質量との質量比kは0.5~9である。これにより、リチウムイオン二次電池を全体としてより優れた総合的な性能を有させることができる。
【0015】
いずれの実施形態において、前記裸セルAにおける負極の塗布量≦0.150g/1540.25mm^2である。これにより、裸セルAおける負極の塗布量を前記範囲にとすることによって、負極ダイナミクスを改善し、膨張増加が顕著な裸セルAの大きすぎる膨張増加や不十分な電解液含浸による大面積のリチウム析出を避けることにより寄与できる。
【0016】
本願の第2の態様は、本願の第1の態様のリチウムイオン二次電池を含む電池モジュールを提供する。
【0017】
本願の第3の態様は、本願の第2の態様の電池モジュールを含む電池パックを提供する。
【0018】
本願の第4の態様は、本願の第2態様のリチウムイオン二次電池、本願の第3態様の電池モジュール、または、本願の第5態様の電池パックから選ばれた1種以上を含む電気装置を提供する。
【0019】
先行技術と比較して、本発明は以下の有益な効果を有する。
【0020】
本発明が提供されるリチウムイオン電池は、それぞれ異なる裸セルに位置する単結晶または擬単結晶低ニッケル3元正極材料と多結晶高ニッケル3元正極材料とを含み、異なる正極系の裸セルの組み合わせにより、電池全体における単結晶低ニッケル正極活物質と多結晶高ニッケル正極活物質との使用比率をより最適化することができ、これにより、高エネルギー密度及び高充電状態でのサイクル性能、貯蔵性能、ガス発生性能及び安全性能のいずれも優れたリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本願の実施例1における裸セル収容キャビティにおける裸セルの位置概略図を示す。
図2】本願の1つの実施形態のリチウムイオン二次電池の概略図である。
図3図2に示す本願の1つの実施形態のリチウムイオン二次電池の分解図である。
図4】本願の1つの実施形態の電池モジュールの概略図である。
図5】本願の1つの実施形態の電池パックの概略図である。
図6図5に示す本願の1つの実施形態の電池パックの分解図である。
図7】本願の1つの実施形態のリチウムイオン二次電池を電源として使用する装置の概略図である。
図8】本願の1つの実施形態に用いられる正極活物質の正極の異なる脱リチウム状態(SOC)の格子体積変化の概略図を示す。
図9】本願の1つの実施形態に用いられるシンクロトロン放射原位置XRD電解セルの設計概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本願の発明目的、構成及び有益な技術的効果をより明確にするために、以下、実施例を合わせて本発明をさらに詳細に説明するが、当業者は、本明細書に開示されている内容から本願発明の他の利点及び効果を容易に理解できる。
【0023】
簡潔にするために、本出願は、いくつかの数値範囲のみを明示的に開示する。ただし、任意の下限を任意の上限と組み合わせて明示的に記載されていない範囲を形成することができ、任意の下限を他の任意の下限と組み合わせて明示的に記載されていない範囲を形成することができ、同様に、任意の上限を他の任意の上限と組み合わせて明示的に記載されていない範囲を形成することができる。また、範囲の両端値の間の各点または個々の数値は、明示的に記載されていないが、その範囲内に含まれる。したがって、各点または個々の数値は、それ自体の下限または上限として、任意の他の点または個々の数値と、または他の下限または上限と組み合わせて明示的に記載されていない範囲を形成することができる。
【0024】
なお、本明細書の説明において、特に明記しない限り、「以上」および「以下」は、本数を含み、「1種または複数種」における「複数種」とは、2種以上を意味する。
【0025】
本発明の前述した発明の内容は、本発明に開示されている各実施形態または各実現方式のすべてを説明することを意図するものではない。以下の説明は、例を挙げて例示的な実施形態をより詳細に説明する。本明細書のさまざまなところで、一連の実施形態を通じてガイドを提供し、これらの実施形態を様々な組み合わせとして使用することができる。各実施形態において、挙げられるものは単に代表的な群であり、網羅的なものと解釈されるべきではない。
【0026】
リチウムイオン二次電池
本願の1つの実施形態において、本発明は、裸セル収容キャビティを含むリチウムイオン二次電池であって、裸セル収容キャビティに裸セル群が設けられており、裸セル群は、1つまたは複数の裸セルAおよび1つまたは複数の裸セルBを含み、裸セルAは第1の正極シートを含み、第1の正極シートは第1の正極活物質を含み、第1の正極活物質は、単結晶または擬単結晶低ニッケル3元正極材料A1から選ばれ、裸セルBは第2の正極シートを含み、第2の正極シートは、第2の正極活物質および/または第3の正極活物質を含み、第2の正極活物質は、多結晶高ニッケル3元正極材料B1から選ばれ、前記第3の正極活物質は、多結晶低ニッケル3元正極材料B2から選ばれるリチウムイオン二次電池を提供する。単結晶または擬単結晶低ニッケル3元正極材料に比べて、多結晶高ニッケル3元正極材料は、高SOC(例えば、≧65%SOC、≧64%SOC、≧63%SOC、≧62%SOC、≧61%SOC、≧60%SOC、≧59%SOC、≧58%SOC、≧57%SOC、≧56%SOC、または、≧55%SOC)ときの格子収縮効果がより顕著であり、充電過程中の負極が受けられる力による影響を効果的に緩和し、負極の大きな膨張力によるリチウム析出およびリチウム析出によるサイクルダイビングのリスクを低減することができるが、高SOC時に、多結晶高ニッケル3元正極材料は、ガス発生の劣化や安全性能の低減のリスクがあり、貯蔵も単結晶低ニッケル材料より顕著に劣化する。本発明者らは、予想外に、単結晶または擬単結晶低ニッケル3元正極材料、多結晶高ニッケル3元正極材料をそれぞれ含む裸セルを混合して組み合わせる正極により、単一の裸セルに単結晶と多結晶を物理的に混合する組合せ、あるいは、単結晶または多結晶の二重層設計の組合せに比べて、多結晶高ニッケル3元正極材料の高SOCの脱リチウム状態格子収縮が顕著であるという特性をより良く利用してサイクルダイビングを改善することができるため、リチウムイオン二次電池の総合的な性能(例えば、サイクル寿命など)を効果的に向上させることができることを発見した。
【0027】
本願において、単結晶構造3元正極材料とは、通常、一次粒子であり、かつ、明らかな凝集がない(ごく少量の凝集によって形成される二次粒子の体積分布の割合は5%未満である)3元正極材料を指し、単結晶構造3元正極材料は、通常、一次粒子の体積平均粒子径(DV50)が1~10μm、1~2μm、2~3μm、3~4μm、4~5μm、5~6μm、6~7μm、7~8μm、8~9μm、または、9~10μmであってもよい。例えば、単結晶構造3元正極材料は、LiNi0.55Co0.15Mn0.30、LiNi0.55Co0.05Mn0.40、LiNi0.65Co0.07Mn0.28であってもよい。擬単結晶構造3元正極材料とは、通常、一次粒子がわずかに凝集している(凝集によって形成される二次粒子の体積分布の割合は10%~35%である)3元正極材料を意味する。例えば、擬単結晶構造3元正極材料は、LiNi0.56Co0.12Mn0.32等であってもよい。多結晶構造3元正極材料とは、一次粒子が凝集して形成した二次球状粒子である。例えば、ニッケル含有量が比較的に高い多結晶構造3元正極材料はLiNi0.70Co0.10Mn0.20やLiNi0.80Co0.10Mn0.10等であってもよい。また、例えば、ニッケル含有量が比較的に低い多結晶構造3元正極材料は、LiNi0.56Co0.12Mn0.32等であってもよい。
【0028】
いくつの実施形態において、裸セルAに含まれる正極活物質は、主に第1の正極活物質を含んでもよく、第1の正極活物質は、通常、単結晶または擬単結晶低ニッケル3元正極材料A1であってもよく、その分子式は、LiNix1Coy1Mn1-x1-y1であってもよい。そのうち、x1は、通常、0<x1≦0.65、0<x1≦0.05、0.05≦x1≦0.1、0.1≦x1≦0.15、0.15≦x1≦0.2、0.2≦x1≦0.25、0.25≦x1≦0.3、0.3≦x1≦0.35、0.35≦x1≦0.4、0.4≦x1≦0.45、0.45≦x1≦0.5、0.5≦x1≦0.0.55、0.55≦x1≦0.6、または、0.6≦x1≦0.65を満たしてもよく、好ましくは0<x1≦0.55を満たしてもよい。y1は、通常、0<y1<0.45、0<y1≦0.05、0.05≦y1≦0.1、0.1≦y1≦0.15、0.15≦y1≦0.2、0.2≦y1≦0.25、0.25≦y1≦0.3、0.3≦y1<0.35、0.35≦y1<0.4、または、0.4≦y1<0.45を満たしてもよく、一般的に、y1の好ましい数値範囲はx1の好ましい数値範囲と対応しており、x1が0<x1≦0.55を満たしてもよい場合、y1は、通常、0<y1<0.45を満たしてもよい。1-x1-y1は、通常、0<1-x1-y1<0.45、0<1-x1-y1≦0.05、0.05≦1-x1-y1≦0.1、0.1≦1-x1-y1≦0.15、0.15≦1-x1-y1≦0.2、0.2≦1-x1-y1≦0.25、0.25≦1-x1-y1≦0.3、0.3≦1-x1-y1<0.35、0.35≦1-x1-y1<0.4、または、0.4≦1-x1-y1<0.45を満たしてもよく、一般的に、1-x1-y1の好ましい数値範囲はx1の好ましい数値範囲と対応しており、x1が0<x1≦0.55を満たしてもよい場合、1-x1-y1は、通常、0<1-x1-y1<0.45を満たしてもよい。3元正極材料の高SOC時の格子収縮の特性は、その材料におけるニッケル含有量により反映されることができ、通常、ニッケル含有量の比率が比較的に低い単結晶または擬単結晶3元正極材料は、格子収縮効果が比較的に顕著ではないが、ガス発生性能が比較的に良いため、裸セルAにおけるニッケル含有量の比率が比較的に低い単結晶または擬単結晶3元正極材料を、裸セルBにおけるニッケル含有量が比較的に高い多結晶3元正極材料と組み合わせてリチウムイオン二次電池の総合的な性能を改善することができる。
【0029】
いくつの実施形態において、通常、単結晶または擬単結晶低ニッケル3元正極材料A1の100%SOC充電格子体積収縮率≦3%であり、100%SOC充電格子体積収縮率の具体的な測定方法は、本発明実施例に示されている測定方法を参照してもよい。100%SOC充電格子の体積収縮率を選択することにより、3元正極材料の高SOC時の格子収縮特性をより正確に発現させることができる。
【0030】
いくつの実施形態において、裸セルBに含まれる正極活物質は、第2の正極活物質を含んでもよく、第2の正極活物質は、通常、多結晶高ニッケル3元正極材料B1であってもよく、その分子式はLiNixCoy2Mn1-x2-y2であってもよい。そのうち、x2は、通常、0.7≦x2<1、0.7≦x2≦0.75、0.75≦x2≦0.8、0.8≦x2≦0.85、0.85≦x2≦0.9、0.9≦x2≦0.95、0.95≦x2<1を満たしてもよく、好ましくは0.7≦x2≦0.8を満たしてもよい。y2は、通常、0<y2<0.3、0<y2≦0.05、0.05≦y2≦0.1、0.1≦y2≦0.15、0.15≦y2≦0.2、0.2≦y2≦0.25、または、0.25≦y2<0.3を満たしてもよく、一般的に、y2の好ましい数値範囲はx2の好ましい数値範囲と対応しており、x2が0.7≦x2≦0.8を満たしてもよい場合、y2は、通常、0.2<y2<0.3を満たしてもよい。1-x2-y2は、通常、0<1-x2-y2<0.3、0<1-x2-y2≦0.05、0.05≦1-x2-y2≦0.1、0.1≦1-x2-y2≦0.15、0.15≦1-x2-y2≦0.2、0.2≦1-x2-y2≦0.25、または、0.25≦1-x2-y2<0.3を満たしてもよく、一般的に、1-x2-y2の好ましい数値範囲はx2の好ましい数値範囲と対応しており、x2が0.7≦x2≦0.8を満たしてもよい場合、1-x2-y2は、通常、0.2<1-x2-y2<0.3を満たしてもよい。3元正極材料の高SOC時の格子収縮特性は、その材料におけるニッケル含有量により反映されることができ、通常、ニッケル含有量の比率が比較的に高い多結晶3元正極材料は、格子収縮効果が比較的により顕著であるが、ガス発生性能が比較的に良くないため、裸セルBにニッケル含有量が比較的に高い多結晶3元正極材料を導入することにより、裸セルAにおけるニッケル含有量の比率が比較的に低い単結晶または擬単結晶3元正極材料と組み合わせてリチウムイオン二次電池の総合的な性能を改善することができる。
【0031】
いくつの実施形態において、通常、多結晶高ニッケル3元正極材料B1の100%SOC充電格子体積収縮率≧4%である。100%SOC充電格子体積収縮率を選択することにより、高SOC時の3元正極材料の格子収縮特性をより正確に発現させることができる。
【0032】
いくつの実施形態において、裸セルBに含まれる正極活物質は、第3の正極活物質を含んでもよく、第3の正極活物質は、通常、多結晶低ニッケル3元正極材料B2であってもよく、その分子式がLiNix3Coy3Mn1-x3-y3であってもよい。そのうち、x3は、通常、0<x3≦0.65、0<x3≦0.05、0.05≦x3≦0.1、0.1≦x3≦0.15、0.15≦x3≦0.2、0.2≦x3≦0.25、0.25≦x3≦0.3、0.3≦x3≦0.35、0.35≦x3≦0.4、0.4≦x3≦0.45、0.45≦x3≦0.5、0.5≦x3≦0.0.55、0.55≦x3≦0.6、または、0.6≦x3≦0.65を満たしてもよく、好ましくは0<x3≦0.55を満たしてもよい。y3は、通常、0<y3<0.45、0<y3≦0.05、0.05≦y3≦0.1、0.1≦y3≦0.15、0.15≦y3≦0.2、0.2≦y3≦0.25、0.25≦y3≦0.3、0.3≦y3<0.35、0.35≦y3<0.4、または、0.4≦y3<0.45を満たしてもよく、一般的にy3の好ましい数値範囲はx3の好ましい数値範囲と対応しており、x3が0<x3≦0.55を満たしてもよい場合、y3は、通常、0<y3<0.45を満たしてもよい。1-x3-y3は、通常、0<1-x3-y3<0.45、0<1-x3-y3≦0.05、0.05≦1-x3-y3≦0.1、0.1≦1-x3-y3≦0.15、0.15≦1-x3-y3≦0.2、0.2≦1-x3-y3≦0.25、0.25≦1-x3-y3≦0.3、0.3≦1-x3-y3<0.35、0.35≦1-x3-y3<0.4、または、0.4≦1-x3-y3<0.45を満たしてもよく、一般的に、1-x3-y3の好ましい数値範囲はx3の好ましい数値範囲と対応しており、x3が0<x3≦0.55を満たしてもよい場合,1-x3-y3は、通常、0<1-x3-y3<0.45を満たしてもよい。裸セルBにニッケル含有量の比率が比較的に低い多結晶3元正極材料を導入してもよく、ニッケル含有量の比率が比較的に低い多結晶3元正極材料は、二次粒子が比較的に破砕しやすいため、サイクル過程の膨張増加を改善することができ、当該材料の導入は、ガス発生性能を相対的に低下させるおそれがあるが、全体としてリチウムイオン二次電池の総合的な性能を向上させることができる。
【0033】
いくつの実施形態において、通常、リチウムイオン二次電池において、多結晶低ニッケル3元正極材料B2の100%SOC充電格子体積収縮率≦3%である。100%SOC充電格子体積収縮率を選択することにより、3元正極材料の高SOC時の格子収縮特性をより正確に発現させることができる。
【0034】
いくつの実施形態において、裸セルBの分布は、裸セルAに比べて裸セル群の外側により近いが、裸セルAの分布は、裸セルBに比べて裸セル群の中央部により近いであってもよい。この分布傾向は、1つまたは複数の裸セルBと比較した1つまたは複数の裸セルAの全体的な分布傾向であってもよく、単一の裸セルAと単一の裸セルBとの間の別個の位置関係であっでもよい。裸セルBに含まれる多結晶高ニッケル3元正極材料B1は、高SOC時の格子収縮がより顕著であるため、充電過程中の裸セルの膨張力増加が緩やかであり、一方、裸セルAに含まれる単結晶または擬単結晶低ニッケル3元正極材料A1は、高SOC時の格子収縮が顕著ではなく、充電過程中の裸セルの膨張力増加傾向が顕著であり、したがって、裸セルBを裸セル群のより外側に置き、裸セルAを緩衝するための緩衝層を提供することに類似する。また、セルの中央領域の裸セルは、通常、温度上昇がより顕著であり、電解質の含浸により寄与するため、裸セルAを裸セル群の中央部に分布させることは、裸セルAの大きい膨張力や中央領域への不十分な電解液含浸などの原因による大面積のリチウム析出の発生をさらに避けることができる。
【0035】
いくつの実施形態において、第2の正極シートは、さらに第4の正極活物質を含み、第4の正極活物質は、単結晶または擬単結晶低ニッケル3元正極材料A2から選ばれ、単結晶または擬単結晶低ニッケル3元正極材料A2の分子式は、LiNix4Coy4Mn1-x4-y4であってもよい。そのうち、x4は、通常、0<x4≦0.65、0<x4≦0.05、0.05≦x4≦0.1、0.1≦x4≦0.15、0.15≦x4≦0.2、0.2≦x4≦0.25、0.25≦x4≦0.3、0.3≦x4≦0.35、0.35≦x4≦0.4、0.4≦x4≦0.45、0.45≦x4≦0.5、0.5≦x4≦0.0.55、0.55≦x4≦0.6、または、0.6≦x4≦0.65を満たしてもよい。y4は、通常、0<y4<0.45、0<y4≦0.05、0.05≦y4≦0.1、0.1≦y4≦0.15、0.15≦y4≦0.2、0.2≦y4≦0.25、0.25≦y4≦0.3、0.3≦y4<0.35、0.35≦y4<0.4、または、0.4≦y4<0.45を満たしてもよく、一般的に、y4の好ましい数値範囲はx4の好ましい数値範囲と対応しており、x4が0<x4≦0.55を満たしてもよい場合、y4は通常0<y4<0.45を満たしてもよい。1-x4-y4は、通常、0<1-x4-y4<0.45、0<1-x4-y4≦0.05、0.05≦1-x4-y4≦0.1、0.1≦1-x4-y4≦0.15、0.15≦1-x4-y4≦0.2、0.2≦1-x4-y4≦0.25、0.25≦1-x4-y4≦0.3、0.3≦1-x4-y4<0.35、0.35≦1-x4-y4<0.4、または0.4≦1-x4-y4<0.45を満たしてもよく、一般的に、1-x4-y4の好ましい数値範囲はx4の好ましい数値範囲と対応しており、x4が0<x4≦0.55を満たしてもよい場合、1-x4-y4は、通常0<1-x4-y4<0.45を満たしてもよい。裸セルBにニッケル含有量の比率が比較的に低い単結晶または擬単結晶3元正極材料をさらに導入してもよく、前述したように、ニッケル含有量の比率が比較的に低い単結晶または擬単結晶3元正極材料は、格子収縮効果が比較的に顕著ではないが、ガス発生性能が比較的に良いため、裸セルBにおけるニッケル含有量が高い3元正極材料を組み合わせて、全体としてリチウムイオン二次電池の総合的な性能を改善できる。裸セルBにおける単結晶または擬単結晶低ニッケル3元正極材料A2の使用量は、セルの実際な性能ニーズに応じて最適化するように調整することができ、裸セルに対するガス発生要求が高い場合、裸セルBにおける単結晶または擬単結晶低ニッケル3元正極材料A2の割合を適当に増加し、多結晶高ニッケル3元正極材料B1の割合を下げることができる。
【0036】
いくつの実施形態において、通常、単結晶または擬単結晶低ニッケル3元正極材料A2の100%SOC充電格子体積収縮率≦3%である。100%SOC充電格子体積収縮率を選択することにより、3元正極材料の高SOC時の格子収縮特性をより正確に発現させることができる。
【0037】
いくつの実施形態において、電池システム全体において、単結晶正極活物質(例えば、単結晶または擬単結晶低ニッケル3元正極材料A1、単結晶または擬単結晶低ニッケル3元正極材料A2等を含む)の総質量と、多結晶正極活物質(例えば、多結晶高ニッケル3元正極材料B1、多結晶低ニッケル3元正極材料B2等を含む)の総質量との質量比kは、0.5~9、0.5~1、1~1.5、1.5~2、2~2.5、2.5~3、3~3.5、3.5~4、4~4.5、4.5~5、5~5.5、5.5~6、6~6.5、6.5~7、7~7.5、7.5~8、8~8.5、または8.5~9であってもよい。質量比kは、通常、裸セルAと裸セルBとの使用比率、あるいは、裸セルAまたは裸セルBに含まれる各3元正極材料の使用比率等で調整する。一般的に、質量比kが前記の範囲を満たす場合、リチウムイオン二次電池を、全体としてより良好な総合的な性能を有させることができ、その理由として、多結晶正極活物質の割合が多すぎると、リチウムイオン電池のガス発生性能が劣化するおそれがあるが、多結晶正極活物質の割合が少なすぎると、サイクル膨張の改善が不十分であるおそれがあるため、電池サイクル後期に大きい膨張力によって裸セル中央部にリチウムを析出し、サイクルダイビングを発生しやすくなると考えられる。
【0038】
いくつの実施形態において、裸セルAと裸セルBにおける正極の塗布量は、実質的に同じであっても異なっていてもよく、裸セルAと裸セルBにおける負極の塗布量も、実質的に同じであっても異なっていてもよい。ただし、裸セルAにおける負極の塗布量は、通常、大きすぎると好ましくなく、例えば、裸セルAにおける負極の塗布量は、0.150g/1540.25mm^2以下であってもよい。裸セルAの負極の塗布量は、相対的に少なくてよく、負極ダイナミクスの改善により寄与し、膨張増加が著しい裸セルAの大きすぎる膨張増加や不十分な電解液含浸による大面積のリチウム析出の発生を避けることができる。これに対し、裸セルBは、多結晶正極材料の格子収縮によって負極が受けられる力が緩和され、大きい膨張力による大面積のリチウム析出をしないため、裸セルBにおける負極の塗布量は相対的に大きくてよい。両方は、セル全体の容量及びエネルギー密度の要求を満たすように合わせて調整することができる。
【0039】
いくつの実施形態において、各3元正極材料(例えば、単結晶または擬単結晶低ニッケル3元正極材料A1、単結晶または擬単結晶低ニッケル3元正極材料A2、多結晶高ニッケル3元正極材料B1、多結晶低ニッケル3元正極材料B2等)は、それぞれ独立して被覆によって改質された3元正極材料であってもよい。一般的に、適切な被覆によって改質された後、3元正極材料の総合的な性能(例えば、ガス発生等の性能)は、通常、改善されるが、3元正極材料の高SOC時の格子収縮特性が依然として3元正極材料におけるニッケル含有量および/または100%SOC充電格子体積収縮率と密接に関連している。3元正極材料の適切な被覆による改質方法は、当業者に知られているべきである。例えば、高ニッケル3元材料の表面をリン酸鉄リチウムナノ粒子で被覆することを参照して、3元材料のガス発生性能を改善することができる。
【0040】
一般的に、本願が提供されるリチウムイオン二次電池は、裸セルAおよび/または裸セルBを含み、裸セルAおよび/または裸セルBは、正極シート、負極シート、電解質およびセパレーター等を含んでもよい。電池の充放電プロセスにおいて、活性イオンは、正極シートと負極シートの間で繰り返し挿入・脱離する。電解質は、正極シートと負極シートの間でイオンを伝導する役割を果たす。セパレーターは、正極シートと負極シートの間に設けられ、主に正極と負極の短絡を防ぐ役割を果たすと共に、イオンを通過させることができる。
【0041】
本願が提供されるリチウムイオン二次電池において、裸セルA、裸セルBは、それぞれ独立して、前述した第1の正極シート、第2の正極シート等を含んでもよく、正極シートは、通常、正極集電体と正極集電体の少なくとも1つの面に設けられる正極膜層とを含み、正極膜層中の正極活物質の構成は上記の通りであってもよい。
【0042】
例として、正極集電体は、それ自体の厚さ方向に対向する2つの面を有し、正極膜層は、正極集電体の2つの対向する面のいずれか一方または両方に配置されている。
【0043】
本願が提供されるリチウムイオン二次電池において、正極集電体は、金属箔シートまたは複合集電体を使用してもよい。例えば、金属箔シートとしてアルミ箔を用いてもよい。複合集電体は、高分子材料ベース層および高分子材料ベース層の少なくとも1つの面に形成されている金属層を含んでもよい。複合集電体は、金属材料(例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン合金、銀および銀合金等)を高分子材料基材(例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレン(PE)などの基材)に形成してなってもよい。
【0044】
正極膜層は、さらに任意に導電剤を含んでもよい。しかしながら、導電剤の種類は具体的に限定されず、当業者は、実際の必要に応じて選択することができる。例として、正極膜層に用いられる導電剤は、超電導カーボン、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンドット、カーボンナノチューブ、グラフェン、および、カーボンナノファイバーから選ばれた1種以上であってもよい。
【0045】
本願において、正極シートは、本分野で知られている方法に従って製造することができる。例として、本願に係る正極活性材料、導電剤およびバインダーを、溶媒(例えば、N-メチルピロリドン(NMP))に分散させて均一な正極スラリーを形成し、正極スラリーを正極集電体上に塗布し、乾燥、冷間圧延などの工程を経って正極シートを得ることができる。
【0046】
負極シートは、負極集電体と負極集電体の少なくとも1つの面に設けられる負極膜層とを含み、負極膜層は、負極活性材料を含む。
【0047】
例として、負極集電体は、それ自体の厚さ方向に対向する2つの面を有し、負極膜層は、負極集電体の2つの対向する面のいずれか一方または両方に設けられている。
【0048】
本願が提供されるリチウムイオン二次電池において、負極集電体は、金属箔シートまたは複合集電体を使用できる。例えば、金属箔シートとして銅箔を用いてもよい。複合集電体は、高分子材料ベース層および高分子材料基材の少なくとも1つの面に形成されている金属層を含んでもよい。複合集電体は、金属材料(例えば、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン合金、銀および銀合金等)を高分子材料基材(例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレン(PE)などの基材)に形成してなってもよい。
【0049】
本願が提供されるリチウムイオン二次電池において、負極膜層は、通常、負極活性材料および任意のバインダー、任意の導電剤および他の任意の補助剤を含み、通常、負極スラリーを塗布し、乾燥することによって形成する。負極スラリーは、通常、負極活性材料および任意の導電剤およびバインダーなどを溶媒中に分散させ、均一に攪拌することによって形成する。溶媒は、N-メチルピロリドン(NMP)または脱イオン水であってもよい。
【0050】
例として、導電剤は、超伝導カーボン、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンドット、カーボンナノチューブ、グラフェン、および、カーボンナノファイバーから選ばれた1種以上であってもよい。
【0051】
例として、バインダーは、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアクリル酸ナトリウム(PAAS)、ポリアクリルアミド(PAM)、ポリビニルアルコール(PVA)、アルギン酸ナトリウム(SA)、ポリメタクリル酸(PMAA)、およびカルボン酸メチルキトサン(CMCS)から選ばれた1種以上であってもよい。
【0052】
他の任意の補助剤は、例えば、増粘剤(例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na))などである。
【0053】
本願が提供されるリチウムイオン二次電池において、負極膜層は、負極活性材料に加えて、任意に他の汎用な負極活性材料を含む。例えば、他の汎用な負極活性材料として、人工黒鉛、天然黒鉛、ソフトカーボン、ハードカーボン、シリコン系材料、スズ系材料、チタン酸リチウムなどが挙げられる。シリコン系材料として、シリコン単体、シリコン酸化物、シリコン-炭素複合体、シリコン-窒素複合体、シリコン合金から選ばれた1種以上であってもよい。スズ系材料は、スズ単体、スズ酸化物およびスズ合金から選ばれた1種以上であってもよい。
【0054】
電解質は、正極シートと負極シートの間でイオンを伝導する役割を果たす。本願において、電解質の種類は、具体的な制限がなく、必要に応じて選択することができる。例えば、電解質は、固体電解質および液体電解質(すなわち、電解液)から選ばれた少なくとも1種であってもよい。
【0055】
いくつの実施形態において、電解質として電解液を採用してもよく、電解液は、電解質塩および溶媒を含んでもよい。
【0056】
いくつの実施形態において、電解質塩は、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF4)、過塩素酸リチウム(LiClO4)、ヘキサフルオロヒ酸リチウム(LiAsF6)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiTFS)、リチウムジフルオロ(オキサレート)ボレート(LiDFOB)、リチウムビス(オキサレート)ボラート(LiBOB)、ジフルオロリン酸リチウム(LiPO)、リチウムジフルオロビス(オキサレート)ホスフェート(LiDFOP)、および、リチウムテトラフルオロ(オキサレート)ホスフェート(LiTFOP)から選ばれた1種以上であってもよい。
【0057】
いくつの実施形態において、溶媒は、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、エチルプロピルカーボネート(EPC)、ブチレンカーボネート(BC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、メチルホルメート(MF)、酢酸メチル(MA)、酢酸エチル(EA)、酢酸プロピル(PA)、プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸エチル(EP)、プロピオン酸プロピル(PP)、酪酸メチル(MB)、酪酸エチル(EB)、1,4-ブチロラクトン(GBL)、スルホラン(SF)、ジメチルスルホン(MSM)、メチルエチルスルホン(EMS)、ジエチルスルホン(ESE)から選ばれた1種以上であってもよい。
【0058】
いくつの実施形態において、電解液は、任意にさらに添加剤を含む。例えば、添加剤は、負極皮膜形成添加剤を含んでもよく、正極皮膜形成添加剤を含んでもよく、さらに電池の過充電性能を改善する添加剤、電池の高温性能を改善する添加剤、および、電池の低温性能を改善する添加剤など、電池の性能を改善する添加剤を含んでもよい。
【0059】
電解液を用いるリチウムイオン二次電池および一部の固体電解質を用いるリチウムイオン二次電池は、さらにセパレーターを含む。セパレーターは、正極シートと負極シートとの間に設けられ、隔離の役割を果たす。本願において、セパレーターの種類は特に限定されず、任意の公知の良好な化学的および機械的安定性を有する多孔質構造のセパレーターを選択して用いることができる。いくつの実施形態において、セパレーターの材質は、ガラス繊維、不織布、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびポリフッ化ビニリデンから選ばれた1種以上であってもよい。セパレーターは、単層フィルムであってもよく、多層複合フィルムであってもよく、特に限定されない。セパレーターが多層複合フィルムである場合、各層の材料は同じであっても異なっていてもよく、特に限定されない。
【0060】
いくつの実施形態において、正極シート、負極シートおよびセパレーターは、巻き取りプロセスまたは積層プロセスによって電極アセンブリに作製することができる。
【0061】
いくつの実施形態において、リチウムイオン二次電池は、外装を含んでもよい。当該外装は、前記電極アセンブリ及び電解質を封止するために用いられる。
【0062】
いくつの実施形態において、リチウムイオン二次電池の外装は、硬質プラスチックケース、アルミニウムケース、スチールケースなどの硬質のケースであってもよい。リチウムイオン二次電池の外装は、パウチ型ソフトバッグなどのソフトバッグであってもよい。ソフトバッグの材質は、プラスチックであってもよく、プラスチックとして、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)およびポリブチレンサクシネート(PBS)等が挙げられる。
【0063】
本願において、リチウムイオン二次電池の形状は、特別な制限がなく、円筒形、方形または他の任意の形であってもよい。例えば、図2は、方形構造のリチウムイオン二次電池5の1つの例である。
【0064】
いくつの実施形態において、図3を参照すると、外装は、ケース51と蓋板53とを含んでもよい。そのうち、ケース51は、底板と、底板に接続されている側板とを備え、底板と側板は、囲まれて収容キャビティを形成してもよい。ケース51は、収容キャビティに連通している開口を有し、蓋板53は、収容キャビティを閉じられるように前記開口を覆設することができる。正極シート、負極シートおよびセパレーターは、巻取りプロセスまたは積層プロセスによって電極アセンブリ52に形成することができる。電極アセンブリ52は、収容キャビティ内に封止されている。電解液は、電極アセンブリ52に含浸されている。リチウムイオン二次電池5に含まれる電極アセンブリ52の数は、1つまたは複数であってもよく、当業者は、具体的な実際のニーズに応じて選択することができる。
【0065】
電池モジュール
いくつの実施形態において、リチウムイオン二次電池は、電池モジュールに組み立てもよく、電池モジュールに含まれる電池モジュール二次電池の数は、1つまたは複数であってもよく、具体的な数は、当業者が電池モジュールの用途および容量に応じて選択することができる。
【0066】
図4は、電池モジュール4の1つの例である。図4を参照すると、電池モジュール4において、複数のリチウムイオン二次電池5は、電池ジュール4の長手方向に沿って順に配列されて設けられてもよい。もちろん、他の任意の方式で配列されてもよい。さらに、当該複数のリチウムイオン二次電池5は、留め具によって固定されてもよい。
【0067】
任意に、電池モジュール4は、複数の二次電池5を収容する収容空間を有するハウジングをさらに備えていてもよい。
【0068】
電池パック
いくつの実施形態において、前記電池モジュールは、電池パックに組み立てもよく、電池パックに含まれる電池モジュールの数は、当業者が電池パックの用途および容量に応じて選択することができる。
【0069】
図5および図6は、電池パック1の1つの例である。図5および図6を参照すると、電池パック1は、電池筐体、および、電池筐体に設けられている複数の電池モジュール4を含んでもよい。電池筐体は、上筐体2と下筐体3を含み、上筐体2は、下筐体3に覆設可能であり、かつ、電池モジュール4を収容するための密閉空間を形成する。複数の電池モジュール4は、電池筐体内に任意の方式で配置されてもよい。
【0070】
電気装置
本願は、さらに、本願が提供されるリチウムイオン二次電池、電池モジュールまたは電池パック中の1種以上を含んでもよい電気装置を提供する。前記リチウムイオン二次電池、電池モジュール、または、電池パックは、前記電気装置の電源として用いられてよく、前記装置のエネルギー貯蔵ユニットとして用いられてもよい。前記電気装置は、モバイル機器(例えば、携帯電話、ノートパソコンなど)、電動車両(例えば、電気自動車、ハイブリッド電気自動車、プラグインハイブリッド電気自動車、電動自転車、電動スクーター、電動ゴルフカート、電動トラックなど)、電車、船舶および衛星、エネルギー貯蔵システムなどであってもよいが、これらに限定されない。
【0071】
前記電気装置として、その使用のニーズに応じてリチウムイオン二次電池、電池モジュールまたは電池パックを選択できる。
【0072】
図7は、電気装置の1つの例である。当該電気装置は、電気自動車、ハイブリッド電気自動車、または、プラグインハイブリッド電気自動車などである。当該電気装置のリチウムイオン二次電池に対する高出力および高エネルギー密度のニーズを満たすために、電池パックまたは電池モジュールを使用することができる。
【0073】
電気装置のもう1つの例として、携帯電話、タブレット、ノートパソコン等であってもよい。当該電気装置は、通常、薄型化が要求され、電源としてリチウムイオン二次電池を使用できる。
【0074】
以下、実施例を通して本願をさらに説明するが、本願の範囲はこれにより限定されない。
【0075】
実施例に用いられた主な材料およびパラメータの情報は、以下の通りである。
【0076】
単結晶NCM523(LiNi0.55Co0.15Mn0.3)、4.35V全電池初期ラップ放電グラム容量~182mAh/g、100%SOC格子体積収縮率~2.27%;
多結晶NCM712(LiNi0.7Co0.10Mn0.2)、4.35V全電池初期ラップ放電グラム容量~197mAh/g、100%SOC格子体積収縮率~4.04%;
多結晶NCM523(LiNi0.56Co0.12Mn0.32)、4.35V全電池初期ラップ放電グラム容量~182mAh/g、100%SOC格子体積収縮率~2.30%。
【0077】
セル全体における活性質量比値k=単結晶正極活物質の質量/多結晶正極活物質の質量、そのうち、単結晶正極活物質は、前記単結晶NCM523等を含み、多結晶正極活物質は、前記の多結晶NCM712、多結晶NCM523等を含む。
【0078】
実施例1
正極シートの製造:3元正極材単結晶NCM523を正極活物質とし、カーボンブラックを導電剤とし、ポリフッ化ビニリデンをバインダーとし、3者を質量比96:2:2で混合した。N-メチルピロリドンを溶媒とし、スラリー固形分は、64%であり、均一に混合して正極スラリーを形成し、正極スラリーを正極集電体であるアルミニウム箔上に均一に塗布(両面塗布)し、乾燥した後、冷間圧延、トリミング、スライス、スリットを経て正極シートを形成し、箔材の片面あたりの塗布量は、0.260g/1540.25mm(基材を含まない混合料の総質量)であった。
【0079】
負極シートの製造:人造黒鉛を負極活物質とし、カーボンブラックを導電剤とし、スチレンブタジエンゴム(SBR)(固形分0.48)をバインダーとし、増粘剤であるカルボキシメチルセルロースナトリウムを加え、混合の質量比96.9:0.5:1.5:1.1の比率で攪拌し、均一に混合して負極スラリーを形成し、負極スラリーを負極集電体である銅箔に均一に塗布(両面塗布)し、乾燥した後、冷間圧延、トリミング、スライス、スリットを経て負極シートを形成し、箔材の片面あたりの塗布量は、0.155g/1540.25mm(基材を含まない混合料の総質量)であった。
【0080】
セパレーターの作製:厚さ7μmのポリエチレンフィルムを取ってセパレーター基材とし、次に無機酸化層スラリーをマイクログラビアコート法でスラリー量を制御して厚さ7μmのセパレーター基材(ポリエチレン)の片面に塗布し、無機酸化層スラリーの組成は、無機アルミナ粉末、ポリビニルピロリドンおよび溶媒であるアセトンであり、混合質量比は、3:1:6であり、オーブンで乾燥して、第1のコート層を有するセパレーターを得た。ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、アセトン溶媒及び酢酸エチルを質量比5:40:55で攪拌し、均一に混合してスラリーを形成し、前記スラリーを、作製された第1のコート層を有するセパレーターにスプレーコーティングし、第2のコート層の片面あたりの厚さを1μmとし、オーブンで乾燥した後、第1のコート層に第2のコート層を形成して最終的なセパレーターを得た。
【0081】
上記正極シート、セパレーター、負極シートを、セパレーターが正極シートと負極シートとの間にあって隔離の役割を果たすように順に積層し、そして巻き取って裸セルAを得た。
【0082】
裸セルBの製造プロセスは、裸セルAの製造と同様であり、但し、正極活物質として3元正極材料である多結晶NCM712を用い、正極シートの片面あたりの塗布量は、0.257g/1540.25mm(基材を含まない)であり、正極シートの片面あたりの塗布量は、0.163g/1540.25mm(基材を含まない)であり、かつ、両シートの長さは少し異なる点において、相違していた。
【0083】
セルの組み立てプロセスは、図1に示すように、図面において、Aは裸セルAを表し、Bは、裸セルBを表し、内腔体積47582mm(直方体空間)の裸セル収容キャビティにおいて、裸セルBを外側領域1および4に置き、裸セルAを中央領域2および3に置いた。電解液の組成は、1mol/L ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、溶媒は、エチレンカーボネート(EC)および炭酸ジメチル(DMC)であり、溶媒であるEC:DMCの体積比は、9:1であった。セルを注液、化成、ガス抜き、封口などのプロセスを経て電池の作製を完了した。
【0084】
セル全体の活性質量比値kは、1.08であった。
【0085】
実施例2
リチウムイオン電池の製造プロセスは、全体的に実施例1を参照し、ただし、裸セルBの数は、1つだけであり、分布の位置は、領域(4)であり、セル全体の活性質量比値kは3.44であった点において、相違している。
【0086】
実施例3
リチウムイオン電池の製造プロセスは、全体的に実施例1を参照し、ただし、裸セルBの正極活物質は、単結晶NCM523+多結晶NCM712の物理的混合投入物であり、混合質量比は5:5であり、セル全体の活性質量比値kは、3.13であった点において、相違している。
【0087】
実施例4
リチウムイオン電池の製造プロセスは、全体的に実施例1を参照し、ただし、裸セルBの正極活物質は、単結晶NCM523+多結晶NCM712の物理的混合投入物であり、混合質量比は7:3であり、セル全体の活性質量比値kは、5.85であった点において、相違している。
【0088】
実施例5
リチウムイオン電池の製造プロセスは、全体的に実施例1を参照し、ただし、裸セルBの正極活物質は、多結晶Ni55であり、セル全体の活性質量比値kは1.00であった点において、相違している。
【0089】
実施例6
リチウムイオン電池の製造プロセスは、全体的に実施例1を参照し、ただし、裸セルAの層数は異なり、セル全体の活性質量比値kは、1.07であった点において、相違している。
【0090】
実施例7
リチウムイオン電池の製造プロセスは、全体的に実施例3を参照し、ただし、裸セルBにおける単結晶NCM523を多結晶NCM523に置き換え、セル全体の活性質量比値kは、1.06であった点において、相違している。
【0091】
実施例8
リチウムイオン電池の製造プロセスは、全体的に実施例1を参照し、ただし、裸セルAを外側領域(1)および(4)に置き、裸セルBを中央領域(2)および(3)に置き、セル全体の活性質量比値kは、1.08であった点において、相違している。
【0092】
実施例9
リチウムイオン電池の製造プロセスは、全体的に実施例1を参照し、ただし、裸セルBの正極活物質は、単結晶NCM523+多結晶NCM712の物理的混合投入物であり、混合質量比は8:2であり、セル全体の活性質量比値kは、9.26であった点において、相違している。
【0093】
実施例10
リチウムイオン電池の製造プロセスは、全体的に実施例1を参照し、ただし、裸セルAを中央領域(2)に置き、裸セルBを外側領域(1)(3)および(4)に置き、セル全体の活性質量比値kは、0.35であった点において、相違している。
【0094】
比較例1
リチウムイオン電池の製造プロセスは、全体的に実施例1を参照し、ただし、裸セルは全て裸セルAであった点において、相違している。
【0095】
比較例2
リチウムイオン電池の製造プロセスは、全体的に実施例1を参照し、ただし、裸セルは全て裸セルBであった点において、相違している。
【0096】
比較例3
リチウムイオン電池の製造プロセスは、全体的に実施例1を参照し、ただし、裸セルは全て裸セルBであり、裸セルBの正極活物質は、単結晶NCM523+多結晶NCM712の物理的混合投入物であり、混合質量比は5:5であった点において、相違している。
【0097】
実施例および比較例で製造されたリチウムイオン電池の性能試験を行い、各性能試験の測定方法を具体的に以下のとおりでした。
【0098】
サイクル性能試験(容量維持率1000ラップ):温度25±2℃の条件で、電池に2000±300Nの初期圧力をかけ、段階的な充電戦略で電池を4.35Vに充電し、次に1Cの電流で電池を2.8Vに放電し、このようにサイクルし、1000サイクル後の電池の容量維持率を記録した。試験結果を表1に示す。
【0099】
ガス発生性能試験(70°C、4.35V、40日間保管してガスを発生させる):電池作製プロセスにおいて、シールネイルを溶接する前に、セルを保持してガス発生セルを作製し、ガス発生セルの作製および試験プロセスは次のとおりであった。すなわち、注液口にガス発生ネイルをレーザー溶接し、ガス発生ネイルの他端をシリコンオイルを充填したプラスチックホースに接続し、プラスチックホースの他端を気圧圧力計に接続した。ガス発生試験条件:電池に2000±300Nの初期圧力をかけ、電池を4.35Vまで完全に充電し、70℃の高温炉で試験し(40日間保管)、気圧圧力計の変化を記録した。試験結果を表1に示す。
【0100】
電池容量試験:温度25±2℃の条件で1/3Cの電流で電池を2.8Vまで放電し、次に1/3Cの電流で電池を4.35Vまで充電し、次に定電圧で電流が0.05Cまで低下するように電池を完全に充電し、最後に1/3Cの電流で電池を2.8Vまで放電した。これによって電池の初期電池容量C0を得った。
【0101】
電池エネルギー密度試験:電池容量試験において、電池を満充電状態(100%SOC)から完全放電(0%SOC)になり、放電電圧-容量曲線を積分して電池総放電エネルギーを求め、電池エネルギー密度=電池総放電エネルギー/電池総重量であった。
【0102】
電池入りケース厚さマージン:ハードケースセルの場合、巻き取った後の裸セル厚み/ケース内部にセルのために保持された最大厚みであり、組付け及び後期の膨張を確保するために予めに保持される。
【0103】
XRD:X線粉末結晶回折技術(X-ray Diffraction、XRD)は、材料の構造を分析するために最も一般的に使用される表現手段の1つである。結晶は、周期的な繰り返し構造を有するため、X線に対して回折効果を生じることができ、そのうち、X線回折線の位置は、格子パラメータ(格子の形状とサイズ)に関連し、すなわち各格子面間隔に決定され、回折線の相対強度は、格子内原子の種類、数および排列方式によって決定される。特定の結晶材料でのX線の回折は、特定の結晶構造の回折パターンを反映するため、回折パターンにより材料の相構造を分析することができる。粉末結晶回折法では、回折ピークは、重なりが深刻であり、分離して正確な回折強度値を得ることが困難であり、構造結晶の情報が損なわれ、正確な結晶構造データを得ることが困難である。Hugo M.Rietveldは、初期結晶構造モデルおよびパラメータを与えられた上で、適切なピーク形状関数を用いて回折パターンを計算し、計算パターンと実験パターンを徐々に一致させるように、最小二乗法を用いて結晶構造パラメータおよびピーク形状パラメータを連続的に調整して、修正された構造パラメータを得る、多結晶回折データを用いて結晶構造を全パターンフィッティングおよび修正するRietveld全パターンフィッティング方法を提出した。本願におけるデータは、精密化修正ソフトウェアとしてGeneral Structure Analytic System(GSAS)ソフトウェアを使用してRietveld構造の精密化修正を行った(Toby B.H.EXPGUI,a graphical user interface for GSAS [J].Journal of Applied Crystallography,2001,34,210-213)。
【0104】
電気化学的な原位置XRDは、試験材料の充放電過程中の構造発展を測定する重要な方法である。原位置XRD試験は、通常、高エネルギーのシンクロトロン放射光源を使用する必要がある。シンクロトロン放射は、速度が光速度に近い高エネルギー荷電粒子が磁場中で曲線状に移動する際に、軌道曲線の接線方向に放出される極めて強い電磁放射である。シンクロトロン放射光源は、広帯域、高コリメート、高偏光、高純度、高輝度等の特性を有する。シンクロトロン放射原位置XRD電解セルの設計は、図9に示したように、Kapton膜をシール窓として使用し、試験モードは透過モードであった。
【0105】
本願に係るシンクロトロン放射X線回折は、米国アルゴンヌ国立研究所の先進的光源のビーム11-ID-Dを用いて行い、X線回折波長は0.799898Åであり、試験範囲は10~80°であり、フラットパネルディテクタを用いてデータ収集を行い、サンプリング間隔時間は、約10minであった。
【0106】
電池の充電過程(完全放電状態0%SOCから完全満充電状態100%SOCまで)において、正極はリチウムを放出し続く。3元材料の場合、材料の回折ピークは、R-3mの空間群を有するα-NaFeO六方晶層状構造に帰属され、リチウムイオン脱離過程において、XRDパターン中の(003)ピークおよび(110)ピークの面間隔の変化は、格子パラメータc、aの変化を表す。原位置電池に対して初期ラップ充放電を行い、正極の異なる脱リチウム状態(SOC)のXRDパターンを得た。異なる脱リチウム状態のXRDパターンに対し、GSASソフトウェアを用いてRietveld精密化修正を行って、異なる脱リチウム状態の格子パラメータaおよび格子パラメータcの変化を得た。格子パラメータを用いて格子体積V=a*c*sin120°を計算すると、正極の異なる脱リチウム状態(SOC)の格子体積変化(図8参照)を得ることができ、初期完全リチウム挿入正極(全電池0%SOCに対応)XRDパターンを用いてRietveldフィッティングして、格子パラメータc、aを得て、初期格子体積Vを算出した。充電が進むにつれて、正極中のリチウムイオンが絶えず脱離し(全電池SOCの増加に対応)、正極の異なる脱リチウム状態(SOC)のXRDパターンを得、Rietveldフィッティングにより正極の異なる脱リチウム状態の格子パラメータc、aを得、格子体積Vを算出して、正極の異なる脱リチウム状態(SOC)の格子体積変化=(V-V)/Vを得、格子体積Vの値が全電池100%SOCの状態に対応する場合、上記式で算出されるのは、100%SOC充電の格子体積収縮率であった。SOC:State of Charge(充電状態)とは、電池の残存電量百分率をいい、100%は満充電状態であり、0%は完全放電状態である。
【0107】
【表1-1】

【表1-2】
【0108】
前記の表1から分かるように、比較例に比べて、本願実施例は、いずれもより良い総合的な性能が得られ、リチウムイオン電池のダイビング傾向や過度のガス発生現象を避けることができる。具体的に、実施例1と比較例1、2との比較、及び実施例3と比較例3との比較から分かるように、セルに異なる正極裸セルを組み合わせて使用する場合、リチウムイオン電池はより良好な総合的な性能が得られ、リチウムイオン電池のダイビング傾向又は過度のガス発生現象を避けることができる。
【0109】
また、前述したように本願の実施例は比較例に比べていずれもより良好な総合的な性能が得られ、リチウムイオン電池のダイビング傾向や過度のガス発生現象を避けることができる。しかし、実施例1と実施例8との比較から分かるように、多結晶高ニッケル材料を含む裸セルBがセルの外側に置いた場合、リチウムイオン電池は、より良好なサイクル性能が得られ、1000サイクル目までサイクルした際に、実施例1の容量維持率は、実施例8よりも顕著に改善された。
【0110】
実施例9,10と他の実施例との比較から分かるように、高ニッケル活性材料の割合が多すぎると、リチウムイオン電池のガス発生性能は劣化するおそれがあり、高ニッケル活性材料の割合が少なすぎると、サイクル膨張の改善が顕著ではなく、電池サイクル後期に膨張力が大きいため、裸セルの中段部にリチウムを析出し、サイクルダイビングを発生しやすくなるなどの場合がある。
【0111】
実施例7から分かるように、裸セルBにさらにニッケル含有量の比率が比較的に低い多結晶3元正極材料を導入することができ、リチウムイオン電池の総合的な性能を改善でき、当該材料の導入は、ガス発生性能を相対的に劣化させるおそれがあるが、裸セルBにおけるニッケル含有量が比較的に高い3元正極材料と組み合わせて、全体としてリチウムイオン二次電池の総合的な性能を向上させることができる。
【0112】
実施例3、4から分かるように、裸セルBにさらにニッケル含有量の比率が比較的に低い単結晶または擬単結晶3元正極材料を導入することができ、リチウムイオン電池の総合的な性能を改善でき、サイクル膨張の改善を確保できると共にガス発生性能も良く、k値が適当な範囲である場合、リチウムイオン電池はより良い総合的な性能を有する。
【0113】
要するに、本発明は、従来技術の様々な欠点を効果的に克服し、高い産業利用価値を有する。
【0114】
上記の実施例は、単に本発明の原理および効果を例示的に説明するものであり、本発明を限定するものではない。当業者の誰でも、本発明の要旨および範囲から逸脱することなく、上記の実施例を修正または変更することができる。したがって、本発明に開示された要旨および技術的発想から逸脱することなく、本分野の通常の知識を有する者によって行われたすべての同等の修正または変更は、依然として本発明の特許請求の範囲によってカバーされるべきである。
【符号の説明】
【0115】
1 電池パック
2 上筐体
3 下筐体
4 電池モジュール
5 リチウムイオン二次電池
51 ケース
52 電極アセンブリ
53 上蓋アセンブリ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9