(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-13
(45)【発行日】2023-09-22
(54)【発明の名称】水膨潤性の皮膜形成型外用剤基剤
(51)【国際特許分類】
A61K 47/32 20060101AFI20230914BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20230914BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20230914BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20230914BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20230914BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20230914BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20230914BHJP
A61K 47/06 20060101ALI20230914BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20230914BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20230914BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230914BHJP
A61L 26/00 20060101ALI20230914BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20230914BHJP
A61P 17/16 20060101ALI20230914BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
A61K47/32
A61K47/10
A61K47/26
A61K47/44
A61K47/38
A61K9/107
A61K47/14
A61K47/06
A61K47/12
A61K47/34
A61K45/00
A61L26/00
A61P17/00 101
A61P17/16
A61P29/00
(21)【出願番号】P 2022578647
(86)(22)【出願日】2022-08-30
(86)【国際出願番号】 JP2022032520
【審査請求日】2022-12-21
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2022/015989
(32)【優先日】2022-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】594176958
【氏名又は名称】福地製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104802
【氏名又は名称】清水 尚人
(74)【代理人】
【識別番号】100186772
【氏名又は名称】入佐 大心
(72)【発明者】
【氏名】金箱 眞
【審査官】福山 則明
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-006522(JP,A)
【文献】特開2011-126796(JP,A)
【文献】特開2011-126797(JP,A)
【文献】特開2018-095559(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61L 26/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分A~成分Cを含む、水膨潤性の皮膜形成型外用剤基剤:
A)アクリル酸アルキル・酢酸ビニル共重合体からなるポリマー粒子が水媒体中に分散している、水系ポリマーエマルションからなる皮膜形成剤であって、前記ポリマーのガラス転移温度、および前記エマルションの最低造膜温度が共に30℃以下であり、かつ形成された皮膜を水に24時間浸漬し膨潤させた場合の、下記式から算出される膨潤率が30%以上である皮膜形成剤、
膨潤率(%)=(
W2-
W1)/W1×100
(式中、W1は浸漬前重量(g)を、W2は浸漬後重量(g)を、それぞれ表す。);
B)ポリエチレングリコール400、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビット、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ポリソルベート80、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、疎水化ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、およびポリビニルピロリドンから選択される1種以上の可塑剤;および
C)担体溶媒として、水および基剤全量中0~10質量%の範囲内の有機溶媒。
【請求項2】
さらに、水不溶性の油分を含む、請求項1に記載の皮膜形成型外用剤基剤。
【請求項3】
動的光散乱法で測定した場合の上記ポリマー粒子の平均粒子径が、50~1000nmの範囲内である、請求項1に記載の皮膜形成型外用剤基剤。
【請求項4】
上記水系ポリマーエマルション中におけるポリマー固形分量が、20~70質量%の範囲内である、請求項1に記載の皮膜形成型外用剤基剤。
【請求項5】
上記水不溶性の油分が、エステル類、炭化水素類、脂肪酸、動植物油、およびシリコーンからなる群から選択される1種以上である、請求項
2に記載の皮膜形成型外用剤基剤。
【請求項6】
エステル類が、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、酢酸トコフェロール、トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリル、もしくはセバシン酸ジエチルであり;炭化水素類が、流動パラフィン、スクワラン、もしくはワセリンであり;脂肪酸が、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、もしくはオレイン酸であり;動植物油が、ヒマシ油、ホホバ油、もしくはマカデミアナッツ油であり;またはシリコーンがポリジメチルシロキサンである、請求項5に記載の皮膜形成型外用剤基剤。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の皮膜形成型外用剤基剤を含む、非医薬用外用剤。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載の皮膜形成型外用剤基剤と薬効成分とを含む、医薬用外用剤。
【請求項9】
液体絆創膏である、請求項8に記載の医薬用外用剤。
【請求項10】
上記薬効成分が、殺菌消毒剤、水虫薬、鎮痒剤、保湿剤、または鎮痛消炎剤である、請求項8に記載の医薬用外用剤。
【請求項11】
外用剤が、ピンプッシュ型容器、ロールオン容器もしくはミニロールオン容器、噴霧容器、またはハケ付き容器に封入された、請求項7に記載の非医薬用外用剤。
【請求項12】
外用剤が、ピンプッシュ型容器、ロールオン容器もしくはミニロールオン容器、噴霧容器、またはハケ付き容器に封入された、請求項8に記載の医薬用外用剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外用剤の技術分野に属する。本発明は、使用前においては液状ないしゲル状であるが、皮膚に塗布すると担体成分の溶媒が揮発して皮膚上に皮膜が形成される皮膜形成型外用剤(例えば、液状絆創膏)のための基剤に関するものである。本発明に係る皮膜形成型外用剤基剤は、皮膚上に形成された皮膜を水ないし温水に曝すと膨潤または溶解する特性を有するから、水膨潤性である。
【背景技術】
【0002】
皮膚に適用する外用剤の一つとして、使用前においては液状ないしゲル状であるが、皮膚に塗布すると担体成分の溶媒が蒸発して皮膚上に皮膜が形成される皮膜形成型外用剤(例えば、液体絆創膏)が知られている。かかる皮膜形成型外用剤は、剥離時の物理的刺激が少なく、損傷部位の大きさや形状に応じて皮膜を形成させることができるので、便利である。また、容器で直接塗布することもできる。
皮膜形成型外用剤の皮膜形成剤としては、従来から、例えば、(メタ)アクリル酸系ポリマー(特許文献1)、ピロキシリン(特許文献2)が知られている。
【0003】
水系ポリマーエマルションは、水等の水系溶媒中にポリマー粒子が分散しているものであって、当該水系溶媒が揮発すると、ポリマー粒子同士が一緒になって融着および変形することにより、皮膜を形成するものである。当該水系ポリマーエマルションは、例えば、化粧品分野で用いられており、特許文献3には、水系ポリマーエマルションを用いた人工爪被覆用組成物に関する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平09-2943号公報
【文献】特開平05-58914号公報
【文献】特開2015-199702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の皮膜形成型外用剤においては、速やかな皮膜の形成を図るため、アルコールや有機溶媒が担体成分として用いられるが、そのアルコールや有機溶媒による皮膚刺激が問題として存在する。(メタ)アクリル酸系ポリマーやピロキシリンについては、耐水性のある皮膜を形成するが、逆に皮膚から容易に剥離ができなかったり、アルコールや有機溶媒を配合することによる皮膚刺激が強い。皮膚への刺激性は、ゲルやクリーム、軟膏等の形態で適用することによりある程度回避しうるが、そうすると塗布部のべたつきや衣服への付着といった問題を新たに惹起するおそれがある。また、ゲル等を洗い流すため、塗布後に手指の洗浄が必要となる。また、これまでの皮膜形成型外用剤においては、皮膚刺激性が低く、速乾性があり、皮膚に密着して吸収性に優れ、更に柔軟性、伸縮性および強度があり、皮膚から容易に剥離しうるといった条件を十分に満足するものが見当たらない。
【0006】
一方、水を担体溶媒とする水系外用剤については、皮膚への刺激性は回避することができるものの、水系であるため乾燥が遅く、皮膜の形成に時間を要する。また、医薬品においては、薬効成分に多い疎水性薬物は水に難溶であるから水系の外用剤には配合しがたく、水系外用剤に薬物を配合する場合、親水性薬物に限られるおそれがある。
本発明は、皮膚刺激性が低く、速乾性があり、皮膚からの剥離が容易であり、また柔軟性、伸縮性および強度といった条件を満足する新たな水膨潤性の皮膜形成型外用剤のための基剤を提供することを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者は鋭意検討した結果、一定の水系ポリマーエマルションからなる皮膜形成剤にいくつかの添加物を加えることにより、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0008】
本発明として、例えば、下記の態様を挙げることができる。
[1]次の成分A~成分Cを含む、水膨潤性の皮膜形成型外用剤基剤:
A)(メタ)アクリル酸系重合体および(メタ)アクリル酸系モノマーを分子内に含む共重合体から選択されるポリマー粒子が水媒体中に分散している水系ポリマーエマルションからなる皮膜形成剤であって、前記ポリマーのガラス転移温度、および前記エマルションの最低造膜温度が共に30℃以下であり、かつ形成された皮膜を水に24時間浸漬し膨潤させた場合の、下記式から算出される膨潤率が30%以上である皮膜形成剤、
膨潤率(%)=(W2-W1)/W1×100
(式中、W1は浸漬前重量(g)を、W2は浸漬後重量(g)を、それぞれ表す。);
B)多価アルコール、界面活性剤、および水溶性高分子から選択される1種以上の可塑剤;および
C)担体溶媒として、水または水および基剤全量中20質量%未満の有機溶媒。
[2]さらに、水不溶性の油分を含む、上記[1]に記載の皮膜形成型外用剤基剤。
[3]上記ポリマーが、(メタ)アクリル酸アルキルエステル重合体、または(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーを含む共重合体である、上記[1]に記載の皮膜形成型外用剤基剤。
[4]動的光散乱法で測定した場合の上記ポリマー粒子の平均粒子径が、50~1000nmの範囲内である、上記[1]に記載の皮膜形成型外用剤基剤。
[5]上記水系エマルション中におけるポリマー固形分量が、20~70質量%の範囲内である、上記[1]に記載の皮膜形成型外用剤基剤。
[6]多価アルコールが、ポリエチレングリコール400であり;界面活性剤が、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビット、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、またはポリソルベート80であり;水溶性高分子が、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、疎水化ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、またはポリビニルピロリドンである、上記[1]に記載の皮膜形成型外用剤基剤。
[7]上記水不溶性の油分が、エステル類、炭化水素類、脂肪酸、動植物油、およびシリコーンからなる群から選択される1種以上である、上記[2]に記載の皮膜形成型外用剤基剤。
[8]エステル類が、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、酢酸トコフェロール、トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリル、もしくはセバシン酸ジエチルであり;炭化水素類が、流動パラフィン、スクワラン、もしくはワセリンであり;脂肪酸が、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、もしくはオレイン酸であり;動植物油が、ヒマシ油、ホホバ油、もしくはマカデミアナッツ油であり;またはシリコーンがポリジメチルシロキサンである、上記[7]に記載の皮膜形成型外用剤基剤。
【0009】
[9]上記[1]~[8]のいずれか一項に記載の皮膜形成型外用剤基剤を含む、非医薬用外用剤。
[10]上記[1]~[8]のいずれか一項に記載の皮膜形成型外用剤基剤と薬効成分とを含む、医薬用外用剤。
[11]液体絆創膏である、上記[10]に記載の医薬用外用剤。
[12]上記薬効成分が、殺菌消毒剤、水虫薬、鎮痒剤、保湿剤、または鎮痛消炎剤である、上記[10]に記載の医薬用外用剤。
[13]外用剤が、ピンプッシュ型容器、ロールオン容器もしくはミニロールオン容器、噴霧容器、またはハケ付き容器に封入された、上記[9]に記載の非医薬用外用剤。
[14]外用剤が、ピンプッシュ型容器、ロールオン容器もしくはミニロールオン容器、噴霧容器、またはハケ付き容器に封入された、上記[10]に記載の医薬用外用剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る水膨潤性の皮膜形成型外用剤基剤(以下、「本発明基剤」という。)は、担体溶媒が基本的には水であることから皮膚へ塗布しても刺激性が少ないばかりでなく、遅滞なく乾燥し皮膚上に皮膜を形成することができる。また、例えば、柔軟性、伸縮性、および強度に優れる。そして、皮膚上に形成された皮膜を温水等で比較的容易に剥離することができる。加えて、医薬用外用剤の基剤として本発明基剤を用いた場合、親水性薬物から疎水性薬物まで幅広く配合することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1 本発明基剤
本発明基剤は、次の成分A~成分Cを含むことを特徴とする。
A)(メタ)アクリル酸系重合体および(メタ)アクリル酸系モノマーを分子内に含む共重合体から選択されるポリマー粒子が水媒体中に分散している水系ポリマーエマルションからなる皮膜形成剤であって、前記ポリマーのガラス転移温度、および前記エマルションの最低造膜温度が共に30℃以下であり、かつ形成された皮膜を水に24時間浸漬し膨潤させた場合の、下記式から算出される膨潤率が30%以上である皮膜形成剤。
膨潤率(%)=(W2-W1)/W1×100
(式中、W1およびW2は前記と同義。)
B)多価アルコール、界面活性剤、および水溶性高分子から選択される1種以上の可塑剤。
C)担体溶媒として、水または水および基剤全量中20質量%未満の有機溶媒。
【0012】
1.1 成分Aについて
本発明基剤は、成分Aを含む。成分Aは、(メタ)アクリル酸系重合体および(メタ)アクリル酸系モノマーを分子内に含む共重合体から選択されるポリマー粒子が水媒体中に分散している水系ポリマーエマルションからなる皮膜形成剤であって、前記ポリマーのガラス転移温度(Tg)、および前記エマルションの最低造膜温度(MFT:Minimum Film-forming Temperature)が共に30℃以下であり、かつ形成された皮膜を水に24時間浸漬し膨潤させた場合の、下記式から算出される膨潤率が30%以上である皮膜形成剤である。かかる皮膜形成剤の成分Aは、水溶液である。
膨潤率(%)=(W2-W1)/W1×100
(式中、W1およびW2は前記と同義。)
【0013】
水系ポリマーエマルションは、前記の通り、水等の水系溶媒中にポリマー粒子が分散しているものであって、当該水系溶媒が揮発すると、ポリマー粒子同士が一緒になって融着および変形することにより、皮膜が形成されるものである。よって、基本的に成分Aにより、皮膚上にポリマー等からなる皮膜が形成される。また、ポリマー粒子が分散している水が基本的に本発明基剤の担体溶媒となる。従って、本発明基剤は、水を含む。
【0014】
成分Aに係る水系ポリマーエマルションないしそれに含まれるポリマーは、TgおよびMFTが共に30℃以下であるが、好ましくは、TgおよびMFTが共に28℃ないし26℃~-15℃の範囲内である。後述の試験結果から明らかな通り、TgおよびMFTのいずれかが30℃より高いポリマーからなる水系エマルションは、皮膚上に皮膜を形成することが困難である。
【0015】
ガラス転移温度(Tg)は、当業者に周知の物性であって、常法により求めることができる。具体的には、例えば、ポリマー試料の温度を徐々に上昇または下降させながら力学的物性の変化や吸熱・発熱を測定する方法(例、示差走査熱量測定(DSC)、示差熱分析(DTA))、メカニカルスペクトロスコピー(動的粘弾性測定)法を挙げることができる。また、いわゆるFoxの式によりTgを計算することができる。
【0016】
最低造膜温度(MFT)は、均質で透明な皮膜の形で凝集する最低温度であって、常法により、最低造膜温度測定装置により求めることができる。
また、本発明に係る水系ポリマーエマルションが形成する皮膜は、上記式から算出される膨潤率が30%以上であるが、当該膨潤率が30%未満であると、皮膚上に形成された皮膜を剥離することが困難になるおそれがある。
【0017】
成分Aに係る水系ポリマーエマルションのポリマーは、(メタ)アクリル酸系重合体および(メタ)アクリル酸系モノマーを分子内に含む共重合体から選択される。ここで、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸とメタクリル酸とを合わせた用語を意味する。
本発明においては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主構成モノマーとする重合体または共重合体((メタ)アクリル酸アルキルエステル重合体)が好ましい。これに、例えば、(メタ)アクリル酸や、疎水性モノマー、親水性モノマーの1種以上を構成モノマーとして分子内に含んでいてもよい。
【0018】
上記重合性モノマーである(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n-アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレートを挙げることができる。この中、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレートが好ましい。これらは1種であっても、任意の2種以上であってもよい。
【0019】
上記疎水性モノマーとしては、例えば、スチレン、2-メチルスチレン、t-ブチルスチレン、クロルスチレン等のスチレン系モノマー、アクリル酸アリル等のアリル系モノマー、塩化ビニル等の塩化ビニル系モノマー、ブチルグリシジルエーテル、グリシジル(メタ)アクリレート、ジグリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ系モノマー、ジメチルシロキサン等のシリコーン系モノマー、ウレタン等のウレタン系モノマーを挙げることができる。
【0020】
上記親水性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル等の側鎖に水酸基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル、アクリルアミド、マレイン酸アミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド等のアミド系モノマー、無水マレイン酸等のマレイン酸系モノマー、酢酸ビニル等のビニル系モノマーを挙げることができる。
【0021】
成分Aに係る水系ポリマーエマルションの製造方法は、特に制限されないが、例えば、アクリル系モノマー、乳化剤などの原料を水中に均一に分散させ、当該モノマーを乳化剤でミセル化し、これに重合開始剤(例、過酸化水素、過酢酸、t-ブチルヒドロペロキシド、過安息香酸)を加えて加熱することより、当該水系ポリマーエマルションを製造することができる。また、反応性乳化剤を使用したソープフリー重合法や、乳化剤を含まない水媒体不均一重合法等の手法により製造することもできる。
【0022】
上記乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル等のノニオン系乳化剤;ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステルアンモニウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸エステルナトリウム、2-エチルへキシル硫酸エステルナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等のアニオン系乳化剤を挙げることができる。
【0023】
成分Aに係る水系ポリマーエマルション中におけるポリマー粒子の平均粒子径は、特に制限されないが、動的光散乱法(DLS)で測定した場合、重量平均粒子径として、例えば、50~1000nmの範囲内が適当であり、100~800nmの範囲内が好ましく、300nm以上ないし300~600nmの範囲内がより好ましい。かかる平均粒子径は、例えば、ナノ粒子径測定装置Nanotrac WaveII(MICROTRAC社製)、ゼータサイザーPRO(スペクトリス社製)を用いて測定することができる。
【0024】
成分Aに係る水系ポリマーエマルション中におけるポリマー固形分量は、特に制限されないが、20~70質量%の範囲内が適当であり、35~55質量%の範囲内が好ましい。
【0025】
成分Aに係る水系ポリマーエマルションの1%水溶液における粘度は、室温下で、1~10,000mPa・sであり、5~5,000mPa・sであることが好ましく、20~3,000mPaであることがより好ましい。
【0026】
成分Aに係る水系ポリマーエマルションは市販されており、本発明においては市販品を用いることができる。その具体例としては、アクリル酸アルキル・酢酸ビニル共重合体(ビニゾール2140L、ビニゾール2140LH(大同化成工業社製)等)を挙げることができる。
【0027】
本発明基剤中における成分Aの含有量は、所望に応じて適宜設定することができ、特に制限されない。
【0028】
1.2 成分Bについて
成分Bは、多価アルコール、界面活性剤、および水溶性高分子から選択される1種以上の可塑剤であって、本発明基剤は当該成分Bを含む。成分Bは、皮膚上に形成された皮膜(成膜)に柔軟性と伸縮性を与えるものである。
【0029】
ここで「多価アルコール」は、分子内に水酸基が2個以上あるアルコールであれば特に制限はなく、具体的には、例えば、グリコール類(プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール等)、ポリエチレングリコール(マクロゴールともいう)(300、400、600)、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、ポリプロピレングリコール、またソルビトール(D-ソルビトール等)、キシリトールなどの糖アルコール類を挙げることができる。この中、グリコール、ポリエチレングリコール、糖アルコールが好ましく、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ポリエチレングリコール400、D-ソルビトールがより好ましい。
【0030】
成分Bに係る界面活性剤としては、医薬上許容されるものであれば特に制限されず、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤のいずれであってもよい。
【0031】
非イオン性界面活性剤として、具体的には、ポリオキシエチレン(以下、POEともいう。)-ポリオキシプロピレン(以下、POPともいう。)グリコール(例えば、ポロクサマー407、ポロクサマー235、ポロクサマー188等のポロクサマー類);ポロキサミンなどのエチレンジアミンのPOE-POPブロックコポリマー付加物;モノラウリル酸POEソルビット、テトラオレイン酸POEソルビット等のPOEソルビット脂肪酸エステル類;モノオレイン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート80)、POEソルビタンモノステアレート(ポリソルベート60)、POEソルビタントリステアレート(ポリソルベート65)等のPOEソルビタン脂肪酸エステル類;POE(5)硬化ヒマシ油、POE(10)硬化ヒマシ油、POE(20)硬化ヒマシ油、POE(40)硬化ヒマシ油、POE(50)硬化ヒマシ油、POE(60)硬化ヒマシ油、POE(100)硬化ヒマシ油などのPOE硬化ヒマシ油;POE(3)ヒマシ油、POE(10)ヒマシ油、POE(35)ヒマシ油などのPOEヒマシ油;POEオレイルエーテルなどのPOEアルケニルエーテル類、POEラウリルエーテルなどのPOEアルキルエーテル類;POE(20)POP(4)セチルエーテルなどのPOE・POPアルキルエーテル類;POE(10)ノニルフェニルエーテルなどのPOEアルキルフェニルエーテル類;ステアリン酸ポリオキシル40などのモノステアリン酸ポリエチレングリコール類などが挙げられる。なお、括弧内の数字はPOPまたはPOEの平均付加モル数を示す。
【0032】
両性界面活性剤としては、具体的には、アルキルジアミノエチルグリシン等のグリシン型、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン等の酢酸ベタイン型、イミダゾリン型等の界面活性剤が例示される。
【0033】
陽イオン界面活性剤としては、具体的には、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等が例示される。また、陰イオン界面活性剤としては、具体的には、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、脂肪族a-スルホメチルエステル、a-オレフィンスルホン酸等が例示される。
【0034】
本発明においては、上記界面活性剤の中、非イオン性界面活性剤が好ましい。当該非イオン性界面活性剤の中でも、POEアルケニルエーテル類、POEソルビット脂肪酸エステル類、POEソルビタン脂肪酸エステル類、POE硬化ヒマシ油が好ましい。
【0035】
成分Bに係る「水溶性高分子」とは、水に可溶な高分子をいう。かかる「水溶性高分子」は、医薬上許容されるものであれば特に制限されないが、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー(架橋ポリアクリル酸ポリマー等)等のポリビニル系高分子化合物;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロース)等のセルロース系高分子化合物;ポリエチレングリコール(300、400、600)を挙げることができる。この中、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールが好ましい。
【0036】
成分Bは、上記いずれか1種であっても任意の2種以上の併用であってもよい。
なお、成分Bに係る「多価アルコール」、「界面活性剤」、および「水溶性高分子」は、お互い同じ化合物を含みうる。例えば、ポリエチレングリコールは、多価アルコールでも水溶性高分子でもある。
【0037】
本発明基剤中における成分Bの含有量は、所望に応じて適宜設定され特に制限されないが、0.01~50質量%の範囲内が適当であり、0.1~30質量%の範囲内が好ましく、0.5~20質量%の範囲内がより好ましい。0.01質量%より少ないと、十分な柔軟性や伸縮性が得られないおそれがあり、50質量%より多いと、皮膚上に形成された皮膜の柔軟性、伸縮性、または耐水性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0038】
1.3 成分Cについて
本発明基剤は、担体溶媒として、水または水および本発明基剤全量中20質量%未満の有機溶媒を含む。ここで「担体溶媒」とは、本発明基剤を用いた製剤を皮膚に適用するまで、皮膜形成剤の成分Aや可塑剤の成分Bなどを基剤中に保持するための媒体であり、皮膚適用後、最終的には蒸発して消失するものである。かかる担体溶媒を以下、「成分C」という。
成分Cは、基本的には水のみであり、有機溶媒は本発明基剤中含まないこと(0質量%)が好ましい。有機溶媒を含む場合には、成分Cは、本発明基剤全量中、20質量%未満であるが、好ましくは15質量%未満、より好ましくは10質量%未満、更に好ましくは5質量%未満ないし1質量%未満であり、可能な限り少量とすべきである。成分Cは、基本的には水か、水と僅かな有機溶媒を含むものであるため、本発明基剤は、低刺激性である。また、耐水性についても良好である。
【0039】
成分Cは、最終的には蒸発して消失するものであるから、本発明基剤に含まれる有機溶媒は、通常、揮発性有機溶媒ないし低沸点有機溶媒であり、具体的には、例えば、低級(炭素数1~4程度)一価アルコール(例、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール)、アセトン、酢酸エチル、メチルエーテル、エチルエーテルを挙げることができる。一般的には、低級一価アルコールであり、エチルアルコールである。
成分Cは、上記の通り、基本的には水であるから、エチルアルコール等の低級一価アルコールを含む有機溶媒は、本発明基剤に含まれていなくてもよいし、刺激性の観点からは、含まれていないことが好ましい。
【0040】
1.4 成分Dについて
本発明基剤は、水不溶性の油分を含むことができる。かかる油分を以下、「成分D」ともいう。
成分Dは、疎水性薬物の本発明基剤への溶解を助けることができ、当該薬物を本発明基剤に配合することを容易にすることができる。そのため、成分Dは、薬物(薬効成分)のための可溶化剤、溶解促進剤などと称することもできる。よって、本発明基剤は、非医薬用外用剤の調製に用いることができる他、本発明基剤に成分Dを含めることによって、医薬用外用剤への用途をより広げることができる。
【0041】
ここで「水不溶性の油分」とは、20℃における中性水への溶解度が100μg/mL以下の油性の化合物をいう。成分Dに係る水不溶性の油分としては、上記目的に適うものであれば特に制限されず、適宜選択されるが、例えば、エステル類、炭化水素類、脂肪酸、動植物油、シリコーンを挙げることができる。
【0042】
エステル類としては、具体的には、例えば、セチルイソオクタネート、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、トリオクタン酸グリセリル、ジイソステアリン酸ポリグリセリル、トリイソステアリン酸ジグリセリル、トリベヘン酸グリセリル、トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリル、リンゴ酸ジイソステアリル、ジオクタン酸ネオペンチルグリコール、セバシン酸ジエチル、コレステロール脂肪酸エステル、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジ(コレステリル・ベヘニル・オクチルドデシル)、酢酸トコフェロールを挙げることができる。
【0043】
炭化水素類としては、具体的には、例えば、流動パラフィン、軽質流動パラフィン、スクワラン、ワセリンを挙げることができる。
脂肪酸としては、具体的には、例えば、ベヘニン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸を挙げることができる。
【0044】
動植物油としては、具体的には、例えば、アボガド油、アマニ油、アーモンド油、オリーブ油、カカオ油、牛脂、キリ油、小麦胚芽油、ゴマ油、米胚芽油、米糠油、サフラワー油、大豆油、月見草油、ツバキ油、トウモロコシ油、ナタネ油、馬脂、パーシック油、パーム油、パーム核油、ヒマシ油、ヒマワリ油、豚脂、ブドウ油、ホホバ油、マカデミアナッツ油、ミンク油、綿実油、モクロウ、ミツロウ、サラシミツロウ、ヤシ油、硬化ヤシ油、落花生油、ラノリン、卵黄油、ローズヒップ油、スクワランを挙げることができる。
【0045】
シリコーンとしては、具体的には、例えば、ジメチルポリシロキサン(ポリジメチルシロキサン)、高重合メチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、オクタメチルシクロペンタシロキサン、デカメチルシクロヘキサシロキサン、ステアロキシシリコーン等の高級アルコキシ変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、高級脂肪酸エステル変性シリコーンを挙げることができる。
上記水不溶性の油分は、上記いずれか1種であっても任意の2種以上の併用であってもよい。
【0046】
本発明基剤中における成分Dの含有量は、所望に応じて適宜設定され特に制限されないが、0.01~50質量%の範囲内が適当であり、0.5~25質量%の範囲内が好ましく、1~10質量%の範囲内がより好ましい。0.01質量%より少ないと、疎水性薬物の基剤への溶解が十分でない場合があり、50質量%より多いと、皮膚上に形成された皮膜の柔軟性、伸縮性、または耐水性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0047】
1.5 その他
本発明基剤は、基本的にエタノール等の低級アルコールを含まない。それ故、ノンアルコール性水系基剤ということができる。
【0048】
本発明基剤には、本発明の効果を損なわない範囲で、所望により他の添加剤を配合することができる。かかる添加剤としては、例えば、安定(化)剤、可溶化剤、抗酸化剤、湿潤剤、清涼化剤、着色剤、着香剤(香料)、乳化剤、粘着剤、粘着増強剤、粘稠(化)剤、pH調整剤、防腐剤、溶剤、収斂剤、キレート剤、増粘剤、刺激低減剤を挙げることができる。
【0049】
上記安定(化)剤としては、例えば、アスコルビン酸、エデト酸ナトリウム水和物、塩化ナトリウム、塩化マグネシウムが挙げられる。
【0050】
上記可溶化剤としては、例えば、トリアセチン、D-マンニトール、D-ソルビトール、安息香酸ベンジル、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムが挙げられる。
【0051】
上記抗酸化剤としては、例えば、ブチルヒドロキシアニソール、亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸およびその塩、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、ベンゾトリアゾール、塩酸システイン、クエン酸が挙げられる。
【0052】
湿潤剤としては、例えば、1,3-ブチレングリコール、メチルセルロース、ラウリル硫酸ナトリウムが挙げられる。
【0053】
清涼化剤としては、例えば、メントール(l-メントール、dl-メントールなど)、カンフル(d-カンフル、dl-カンフルなど)、クロロブタノール、ゲラニオール、シネオール、アネトール、リモネン、ボルネオールなどのテルペノイド、テルペノイドを含有する精油(ハッカ油)が挙げられる。
【0054】
上記着色剤としては、例えば、タール色素(褐色201号、青色201号、黄色4号、黄色403号等)、カラメル、銅クロロフィンナトリウム、メチレンブルー、クチナシ色素、マリーゴールド色素、カロテン色素、アントシアニン色素、果汁色素、野菜色素、三二酸化鉄などの合成または天然由来の色素が挙げられる。
【0055】
上記着香剤(香料)としては、例えば、チョウジ油、ヒペロナール、d-ボルネオールを挙げることができる。
【0056】
上記乳化剤としては、例えば、ショ糖脂肪酸エステル、水素添加大豆リン脂質を挙げることができる。
【0057】
上記粘着剤としては、例えば、カルボキシビニルポリマー、カルメロースナトリウムを挙げることができる。
上記粘着増強剤としては、例えば、キサンタンガム、ポリエチレングリコール(マクロゴール)6000を挙げることができる。
上記粘稠(化)剤としては、例えば、ケイ酸マグネシウムアルミニウム、ポリビニルアルコールを挙げることができる。
【0058】
上記pH調整剤としては、例えば、クエン酸、クエン酸ナトリウム、無水クエン酸、リンゴ酸、マレイン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、酒石酸ナトリウム、乳酸、乳酸カルシウム、乳酸ナトリウム、酢酸、酢酸ナトリウム、氷酢酸等の有機酸又はその塩;塩酸、硫酸、リン酸、ホウ酸、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の無機酸又はその塩;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、ホウ砂等の水酸化アルカリ;モノエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等のアミン類が挙げられる。
【0059】
上記防腐剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸イソプロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸イソブチル、パラオキシ安息香酸ベンジル、安息香酸、安息香酸ナトリウム、安息香酸、安息香酸ベンジル、デヒドロ酢酸ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム、アミノエチルスルホン酸、フェノキシエタノール、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、チモール、ソルビン酸およびその塩が挙げられる。
上記溶剤としては、例えば、濃グリセリン、プロピレングリコール、ベンジルアルコールを挙げることができる。
【0060】
上記収斂剤としては、例えば、ミョウバン、硫酸亜鉛、硫酸アルミニウムカリウム、塩基性乳酸アルミニウム亜鉛等の金属塩、タンニン酸、クエン酸、乳酸、コハク酸などの有機酸、植物(例えば海藻、タイム、紅茶、ウーロン茶、緑茶、オトギリソウ、ハマメリス、ビワ、ボタンピ、ユキノシタ、ルイボス、レンゲソウ、アーティチョーク、カミツレ、ユーカリ、レモン、ローズマリー、ワレモコウ、サルビアなど)に由来する成分が挙げられる。
【0061】
上記キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸(エデト酸)、エチレンジアミン四酢酸塩(ナトリウム塩(エデト酸ナトリウム:日本薬局方、EDTA-2Naなど)、カリウム塩など)、フィチン酸、グルコン酸、ポリリン酸、メタリン酸が挙げられる。
【0062】
上記増粘剤としては、例えば、グアーガム、ペクチン、プルラン、ゼラチン、ローカストビーンガム、カラギーナン、寒天、グルコマンナン、カードラン、ジェランガム、キサンタンガム、ポリエチレングリコール、ベントナイト、アルギン酸、アルギン酸プロピレングリコール、マクロゴール、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸ナトリウムが挙げられる。
【0063】
上記刺激低減剤としては、例えば、ゼラチン、アラビアゴム、プルラン、アルファー化デンプン、カンテン、トラガント、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、甘草エキス、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンが挙げられる
上記添加剤は、所望に応じて、いずれか1種であっても任意の2種以上の併用であってもよい。
【0064】
本発明基剤は、通常、pH2~9の液性を有するが、皮膚に対する刺激性および皮膚使用感という観点から、pH3~8であることが好ましく、pH4~8であることがより好ましく、pH5~8であることが特に好ましい。なお、このpHは上記pH調整剤の使用により適宜調整することができる。
【0065】
本発明基剤は、5~10000mPa・sの範囲内の粘度を備えていればよいが、指取り性や塗布しやすさなどの観点から、10~10000mPa・sの範囲内であることが好ましく、20~8000mPa・sの範囲内であることがより好ましく、50~5000mPa・sの範囲内であることが特に好ましい。
【0066】
本発明基剤が形成する皮膜は、上記式から算出される膨潤率が30%以上であることが好ましい。当該膨潤率が30%未満であると、皮膚上に形成された皮膜を剥離することが困難になるおそれがある。
本発明基剤の製造方法は、特に制限されず、本発明基剤の調製に必要な各種成分を適宜選択、配合して、適当な撹拌機を用いて常法により撹拌など行うことにより本発明基剤を製造することができる。
【0067】
2 本発明基剤の用途など
本発明基剤は、非医薬品としての皮膜形成型外用剤、または医薬品に係る薬効成分を配合した皮膜形成型外用剤のための基剤として用いることができる。本発明には、本発明基剤を含み薬効成分を含まない雑貨、化粧品等といった非医薬用外用剤、および本発明基剤と薬効成分とを含む医薬用外用剤を含めることができる。
本発明に係る非医薬用外用剤の一態様として、液体手袋等の雑貨、マスカラ等の化粧品を挙げることができる。
本発明に係る医薬用外用剤の一態様として、液体絆創膏、うおのめ・たこ用剤を挙げることができる。以下、本発明に係る非医薬用外用剤と本発明に係る医薬用外用剤とを合わせて、「本発明外用剤」という。
【0068】
医薬用の本発明外用剤においては、親水性薬物から疎水性薬物まで広い範囲の薬効成分を配合することができる。親水性薬物は、そのまま本発明基剤に配合することができ、疎水性薬物はそのまままたは水不溶性の油分に溶解させて配合することができる。当該薬物(薬効成分)としては、例えば、殺菌消毒剤、水虫薬、鎮痒剤、保湿剤、鎮痛消炎剤、抗ヒスタミン剤、抗炎症剤、局所麻酔剤、角質軟化剤、組織修復剤、皮膚保護剤、ビタミン剤を挙げることができる。
【0069】
医薬用の本発明外用剤の製造方法は、特に制限されないが、例えば、本発明基剤および所望の薬効成分、ならびに必要に応じて添加物を常法により撹拌機などで撹拌混合するなどの操作を施すことによって製造することができる。より詳しくは、例えば、下記の工程を含む方法により、医薬用の本発明外用剤を製造することができる。非医薬用の本発明外用剤の場合は、下記の工程1を除いて同様にして製造することができる。
【0070】
工程1:薬物(薬効成分)を溶解する(薬物相)。
工程2:本発明に係る水系エマルションに各種添加物を配合し、撹拌機で撹拌して本発明基剤を調製する(基剤相)。
工程3:基剤相に薬物相を添加し、撹拌機で撹拌する(製剤バルク)。
工程4:製剤バルクを、充填機を用いて任意の容器に充填する。
【0071】
本発明外用剤は、密封状の任意の容器、例えば、発泡ラバー中栓塗布容器、(ミニ)ロールオン容器、噴霧(スプレー)容器、滴下容器、乳液容器、アルミチューブ、ピンプッシュ型容器、ハケ付き容器に封入することができる。当該容器から皮膚に直接塗布することができる。塗布部の乾燥を抑制する観点などから、ピンプッシュ型容器、ロールオン容器、ミニロールオン容器、噴霧容器、ハケ付き容器に封入するのが好ましい。
当該容器の材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等プラスチック全般を挙げることができる。
【0072】
医薬用の本発明外用剤の適用方法は、疾患、薬効成分、患部、性別、年齢などにより異なり、特に制限されないが、通常、1日あたり1回~数回、適量を皮膚等の外皮上の、患部を含む領域に塗布して用いることができる。塗布後、本発明外用剤は速やかに乾燥し、本発明外用剤が塗布された皮膚上に皮膜が形成される。かかる皮膜は水に曝されても膨潤しがたく、何ら力を加えなければ比較的長期間、皮膚上に留まることができる。
【実施例】
【0073】
以下、実施例ないし試験例を示して本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例等に何ら限定されるものではない。
【0074】
[試験例1]水系ポリマーエマルションの検討
市販されている下記の水系ポリマーエマルション(WPE)について、膜の形成状態を評価した。
当該膜は、WPE液0.5gを5.0cm2の円形のポリプロピレン製容器に入れ、室温で一夜乾燥させて調製した(塗布量:0.1g/cm2、n=3)。その結果を表1および表2に示す。
なお、膨潤率(%)は、次の方法で算出した(以下の試験例でも同じ)。
得られた膜の重量(W1)を測定後、当該膜を精製水の入ったガラス容器に入れ、室温下で24時間浸漬した。浸漬後ガラス容器から当該膜を取り出し、表面の水分を拭いた後の当該膜の重量(W2)を測定し、下記式から膨潤率(%)を算出した。
【0075】
膨潤率(%)=(W2-W1)/W1×100
(式中、W1およびW2は前記と同義。)
また、ポリマー粒子の重量平均粒子径は、Nanotrac WaveII(MICROTRAC社製)を用い、動的光散乱法(DLS)により測定した。
【0076】
<検討に用いた市販の水系ポリマーエマルション(WPE)の例>
1:アクリル酸アルキル共重合体エマルション(DERMACRYL、マツモト交商社製)
2:アクリル酸アルキル共重合体エマルション(COVACRYL E14 WP、センシエント テクノロジーズ ジャパン社製)
3:アクリル酸アルキル共重合体エマルション(COVACRYL MS11 WP、センシエント テクノロジーズ ジャパン社製)
4:アクリル酸アルキル共重合体エマルション(YODOSOL GH800F、マツモト交商社製)
5:アクリル酸アルキル共重合体エマルション(YODOSOL GH810F、マツモト交商社製)
6:アクリル酸アルキル共重合体エマルション(ビニゾール1086WP、大同化成工業社製)
7:アクリル酸アルキル共重合体エマルション(ビニゾール1089HT、大同化成工業社製)
8:アクリル酸アルキル・スチレン共重合体エマルション(YODOSOL GH41H、マツモト交商社製)
9:アクリル酸アルキル・スチレン共重合体エマルション(ビニゾール1012JC、大同化成工業社製)
10:アクリル酸アルキル・スチレン共重合体エマルション(ビニゾール1013JH、大同化成工業社製)
11:アクリル酸アルキル・スチレン共重合体エマルション(ビニゾール1019CT、大同化成工業社製)
12:アクリル酸アルキル・酢酸ビニル共重合体エマルション(ビニゾール2140L、大同化成工業社製)
13:アクリル酸アルキル・酢酸ビニル共重合体エマルション(ビニゾール2140LH、大同化成工業社製)
【0077】
【0078】
【0079】
表1および表2に示す通り、ガラス転移温度(Tg)と最低造膜温度(MFT)が共に30℃より高い水系ポリマーエマルション7と10では、膜形成しなかった。水系ポリマーエマルション12および13については、精製水に浸漬すると白濁し、膨潤率が全て30%を超えており、精製水中で著しく膨潤した。一方、水系ポリマーエマルション3、5、6、8、9については、精製水に浸漬しても透明から半透明を維持し、膨潤率が30%未満で、耐水性が良好であった。
【0080】
[試験例2]添加物:可塑剤の検討1
一定の添加物10質量%を秤量後、これに上記水系ポリマーエマルション13を添加して100質量%とした。この液を撹拌機(IKA T18basic(ULTRA-TURRAX社製))で1分間撹拌した。得られた液0.5gを用いて、試験例1と同様にして膜調製を行い、得られた膜の気泡状態、透明性、柔軟性、伸縮性、強度、および耐水性(色調と柔軟性)を評価した(n=3)。また、各々得られた膜の膨潤率を算出した。
【0081】
各試験において、気泡と透明性の評価は、得られた膜を目視で行った。柔軟性の評価は、得られた膜を指で折り曲げて行い、伸縮性の評価は、得られた膜を指で引っ張って行い、強度の評価は、得られた膜を指で複数回折り曲げて行った。耐水性の評価は、得られた膜を、精製水を入れたガラス容器に、室温下で24時間浸漬し、浸漬後ガラス容器から膜を取り出し、表面の水分を拭いた後、色は目視で、柔軟性は折り曲げた時の硬さの観点から行った。それぞれ評価点方式で評価した(以下の試験でも同じ。)。その結果を表3および表4に示す。
【0082】
【0083】
【0084】
表3および表4に示す通り、水系ポリマーエマルション13のみで皮膜を形成させた場合、透明性が高く、精製水に浸漬させると膨潤率が91.1%で膨潤性に優れているが、柔軟性、伸縮性および強度が低かった。水系ポリマーエマルション13に多価アルコールのポリエチレングリコール400を添加した場合は、膨潤率を30%以上に維持しつつ、柔軟性、伸縮性および強度を大幅に改善した。水系ポリマーエマルション13に界面活性剤のポリオキシエチレンオレイルエーテル、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビット、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、またはポリソルベート80を添加した場合は、膨潤率を30%以上に維持しつつ、柔軟性、伸縮性および強度を改善した。水系ポリマーエマルション13に水溶性高分子のヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、疎水化ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、またはポリビニルピロリドンを添加した場合は、膨潤率を30%以上に維持しつつ、柔軟性、伸縮性および強度が改善傾向を示した。特に水系ポリマーエマルション13にポリエチレングリコール400を添加した場合、柔軟性、伸縮性および強度を大幅に改善した。
【0085】
[試験例3]添加物:可塑剤の濃度の検討
試験例2において、可塑剤であるポリエチレングリコール400の結果が良かったことから、ポリエチレングリコール400の添加量について検討した。実験は、試験例2と同様に膜調製を行い、調製した膜について試験例2と同様の評価を行った(n=3)。その結果を表5と表6に示す。
【0086】
【0087】
【0088】
表5および表6に示す通り、ポリエチレングリコール400を1.25質量%添加するまでは、柔軟性および伸縮性の改善傾向が見られたが、強度の改善は十分ではなかった。2.5質量%以上の添加で、膨潤率を30%以上に維持しつつ、柔軟性、伸縮性および強度が改善傾向を示した。
【0089】
[試験例4]添加物:油分の検討3
上記水系ポリマーエマルション13、およびポリエチレングリコール400(添加量:2.50質量%)またはポリエチレングリコール400(添加量:2.50質量%)とポリビニルアルコール(添加量:5質量%)に、一定の水不溶性油分を添加し(添加量:2.50質量%)、試験例2と同様に膜調製を行い、調製した膜について試験例2と同様の評価を行った(n=3)。また、その結果を表7および表8に示す。
【0090】
【0091】
【0092】
表7および表8に示す通り、ポリエチレングリコール400を2.50質量%配合下、またはポリエチレングリコール400を2.50質量%とポリビニルアルコールを5.00質量%配合下において、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、酢酸トコフェロール、トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリル、セバシン酸ジエチルのようなエステル類;オレイン酸のような脂肪酸、ポリジメチルシロキサンのようなシリコーン、流動パラフィン、スクワランのような炭化水素類;またはヒマシ油、ホホバ油のような植物油を配合した場合も、柔軟性、伸縮性、強度および膨潤性の優れた皮膜が形成されることがわかった。
【0093】
以上の結果より、本発明基剤は、水不溶性の油分が配合されているから、疎水性薬物を配合してもその凝集または沈殿を抑制できることが明らかである。特に、当該油分としてのエステル類は一般に皮膚吸収促進効果も奏するため、薬物の吸収促進効果が期待される。
本発明基剤は、可塑剤として配合される水溶性高分子によって、粘度の調整も容易である。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明基剤は、例えば、雑貨などの非医薬用外用剤および液体絆創膏などの医薬用外用剤の基剤として有用である。かかる非医薬用外用剤は日常の生活分野、医薬用外用剤は、医薬品分野において有用である。
【要約】
本発明の課題は、皮膚刺激性が低く、速乾性があり、皮膚から容易に剥離し、また耐水性、柔軟性などに優れた水膨潤性の皮膜形成型外用剤のための基剤を提供すること。
本発明として、例えば、次の成分A~成分Cを含む、水膨潤性の皮膜形成型外用剤基剤が挙げられる:
A)(メタ)アクリル酸系重合体などのポリマー粒子が水媒体中に分散している水系ポリマーエマルションからなる皮膜形成剤であって、前記ポリマーのガラス転移温度、および前記エマルションの最低造膜温度が共に30℃以下であり、かつ形成された皮膜を水に24時間浸漬し膨潤させた場合の、下記式から算出される膨潤率が30%以上である皮膜形成剤、
膨潤率(%)=(W2-W1)/W1×100
(式中、W1は浸漬前重量(g)、W2は浸漬後重量(g));
B)多価アルコールなどの可塑剤;および
C)担体溶媒として、水または水および基剤全量中20質量%未満の有機溶媒。