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特許7349050サマリウム-鉄系永久磁石材料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-13
(45)【発行日】2023-09-22
(54)【発明の名称】サマリウム-鉄系永久磁石材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 6/00 20060101AFI20230914BHJP
   B22D 11/06 20060101ALI20230914BHJP
   H01F 1/055 20060101ALI20230914BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20230914BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20230914BHJP
   C22C 45/02 20060101ALN20230914BHJP
【FI】
C21D6/00 B
B22D11/06 360B
H01F1/055 110
H01F41/02 G
C22C38/00 303D
C22C45/02 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019025640
(22)【出願日】2019-02-15
(65)【公開番号】P2020132926
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2022-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】598163064
【氏名又は名称】学校法人千葉工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100078950
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 忠
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 哲治
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-155602(JP,A)
【文献】特開昭63-248103(JP,A)
【文献】特開2008-133496(JP,A)
【文献】特開平04-142703(JP,A)
【文献】特開2003-173907(JP,A)
【文献】特開2002-057017(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107564644(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60,45/02
C21D 6/00- 6/04
B22D 11/06
H01F 1/055,41/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サマリウム(Sm)を原子百分率で12~20%含み、残部が鉄(Fe)及び不可避的不純物から成るサマリウム-鉄合金インゴットに急冷凝固法を施してアモルファス合金を作製した後、このアモルファス合金に700℃~800℃の温度範囲で、不活性ガスもしくは真空中で熱処理を施すことにより、主相をSmFe 5 の金属間化合物相とすることを特徴とするサマリウム-鉄系永久磁石材料の製造方法。
【請求項2】
サマリウム(Sm)を原子百分率で12~20%含み、残部が鉄(Fe)及び不可避的不純物から成るサマリウム-鉄合金インゴットに冷却速度を10~20m/sに制御した急冷凝固法を施して、主相をSmFe 5 の金属間化合物相とすることを特徴とするサマリウム-鉄系永久磁石材料の製造方法。
【請求項3】
前記サマリウム(Sm)の一部を他の希土類金属元素(R)で置換することにより、サマリウム(Sm)の成分に対して原子百分率でR:20~80%を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のサマリウム-鉄系永久磁石材料の製造方法。
【請求項4】
鉄(Fe)の一部をチタン(Ti)で置換することにより、鉄(Fe)の成分に対して原子百分率でTi:1~20%を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のサマリウム-鉄系永久磁石材料の製造方法
【請求項5】
鉄(Fe)の一部をコバルト(Co)で置換することにより、鉄(Fe)の成分に対して原子百分率でCo:10~50%を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のサマリウム-鉄系永久磁石材料の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来の希土類永久磁石に代わる新しい永久磁石材料とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
希土類磁石は高性能磁石としてコンピュータ周辺機器、民生用電子機器、計測・通信機器から自動車、医療機器にわたる幅広い分野で使用されており、その需要に応じて生産量は年々増加している。
希土類金属のサマリウム(Sm)と3d遷移金属の鉄(Fe)からなるSm-Fe系合金の新しい準安定相に関する研究の成果として、特許文献1にSm5Fe17金属間化合物相に関する言及が、特許文献2にSmFe12金属間化合物相に関する言及がある。
非特許文献1ではSmFe5金属間化合物相が薄膜で作製できる条件について検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-133496号公報
【文献】特開2017-112300号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】“Formation of SmFe5(0001)ordered alloy thinfilm on Cu(111)single-Crystal under layers”,Oyabuhara,M.Ohtake,Y.Nukaga,F.Kirino,and M.Futamoto,Journal of Physcis C:Conferences Series200(2010)082026.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、希土類磁石は、希土類金属のサマリウム(Sm)と3d遷移金属のコバルト(Co)からなるサマリウムコバルト(Sm-Co)磁石、希土類金属のネオジム(Nd)と3d遷移金属の鉄(Fe)と非金属元素の棚素(B)からなるネオジム鉄ボロン(Nd-Fe-B)磁石、希土類金属のサマリウム(Sm)と3d遷移金属の鉄(Fe)の金属間化合物(Sm2Fe17)を窒化したサマリウム鉄窒素(Sm-Fe-N)磁石などが知られている。このうち、高性能な希土類磁石として広く使用されているのは、希土類金属のネオジム(Nd)を含むネオジム鉄ボロン(Nd-Fe-B)磁石である。このネオジム鉄ボロン(Nd-Fe-B)磁石は、電気自動車やハイブリッド自動車のエンジンの部品に使用され、環境負荷の小さい自動車の普及と共に需要の増加が見込まれている。
【0006】
希土類元素は、周期表でIIIa族の第6周期に原子番号57番のランラン(La)から原子番号71番のルテチウム(Lu)までが入っており、化学的性質が非常に似ていることが知られている。これらの希土類金属は希土類鉱石から精錬されて得られるが、例えばネオジム(Nd)やジスプロシウム(Dy)のような一部の金属だけを精錬することができず、鉱石中に含まれるほぼすべての希土類金属が精錬により抽出される。そのため、どの希土類金属もバランスよく使用されるのが望ましい。特定の希土類金属のみが使用されると、使い途のない不要な希土類金属の需要供給のバランスが崩れて、過剰な供給及び廃棄につながる。
そこで、本発明は、希土類磁石の需要に伴い過剰供給の状態にある希土類金属のうち、特にサマリウム(Sm)を磁石に応用し、希土類磁石の需要に見合う希土類金属の需要供給のバランスに是正するサマリウム-鉄系永久磁石材料を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明においては、サマリウム(Sm)を原子百分率で12~20%含み、残部が実質的に鉄(Fe)から成り、主相がSmFe5金属間化合物相であるサマリウム-鉄系永久磁石材料によって、上記課題を解決する。
また、この発明においては、サマリウム(Sm)を原子百分率で12~20%含み、残部が実質的に鉄(Fe)から成る合金に急冷凝固法を施して、主相がSmFe5金属間化合物相であるアモルファス合金とした後、このアモルファス合金に700℃~800℃の温度範囲で、不活性ガスもしくは真空中で熱処理を施すことにより組織を微細化する方法により、サマリウム-鉄系永久磁石材料を製造する。
また、この発明においては、サマリウム(Sm)を原子百分率で12~20%含み、残部が実質的に鉄(Fe)から成る合金に急冷凝固法を施して、主相がSmFe5金属間化合物相であるアモルファス合金とする。その急冷凝固法における冷却速度を制御して、組織を微細化する方法により、サマリウム-鉄系永久磁石材料を製造する。
【発明の効果】
【0008】
本発明においては、過剰供給になりがちの希土類金属であるサマリウム(Sm)を永久磁石材料に利用することができ、希土類金属の需要を拡大して供給とのバランスを是正することができるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】サマリウム-鉄合金インゴットに急冷凝固法を施して作製したアモルファス合金に熱処理を施した試料のヒステリシス曲線を表グラフである。
図2】サマリウム-鉄合金インゴットに急冷凝固法を施して作製したアモルファス合金に熱処理を施した試料を透過電子顕微鏡で観察した組織写真である。
図3】サマリウム-鉄合金インゴットに急冷凝固法を施して作製したアモルファス合金に熱処理を施した試料を透過電子顕微鏡で観察した電子線回折図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施例1)
サマリウム16.7原子%(Sm16.7at%)および鉄83.3原子%(Fe83.3at%)からなるサマリウム-鉄合金インゴットをアルゴン雰囲気中、高周波溶解により作製した。アルゴン雰囲気は、他の不活性ガスもしくは真空に代えてもよい。このサマリウム-鉄合金インゴットに急冷凝固法を施してアモルファス合金を作製した。急冷凝固法は、本発明の各実施例において合金インゴットをアルゴン雰囲気中で高周波溶解した溶湯を高速で回転している銅ロール上に噴射して急冷凝固させる単ロール法を用いた。得られたアモルファス合金に700℃で1時間熱処理を施して試料を作製した。この試料の磁気特性を測定した結果を図1に示す。図1において、横軸は試料に印加した磁界H(単位kOe)を、縦軸は試料に生じた磁化I(単位emu/g)を表す。なお、保磁力は磁化がゼロになった時の磁界、すなわちヒステリシス曲線の横軸との交点の値である。上記のようにアモルファス合金に700℃で1時間熱処理を施した試料は、2.3kOeの高い保磁力を示すことがわかった。
【0011】
(比較例)
サマリウム16.7原子%(Sm16.7at%)および鉄83.3原子%(Fe83.3at%)からなるサマリウム-鉄合金インゴットをアルゴン雰囲気中、高周波溶解により作製した。このサマリウム-鉄合金インゴットに700℃で1時間熱処理を施して試料を作製した。この試料の磁気特性を測定したところ、1kOe以下の小さな保磁力しか示さないことがわかった。
この結果、上記のように作製したアモルファス合金に熱処理を施すと高い保磁力が得られることがわかった。この保磁力の原因を調べるため透過電子顕微鏡観察を行った。その組織写真を図2に、電子線回折図を図3に示す。これらの写真から、サマリウム-鉄アモルファス合金に700℃で1時間熱処理を施した試料は、非常に微細なSmFe5の金属間化合物相(結晶粒径が約10nm)からなることがわかった。
【0012】
(実施例2)
サマリウム16.7原子%(Sm16.7at%)および鉄83.3原子%(Fe83.3at%)からなるサマリウム-鉄合金インゴットをアルゴン雰囲気中、高周波溶解により作製した。この得られたサマリウム-鉄合金インゴットに、急冷凝固法を施してアモルファス合金を作製した。得られたアモルファス合金にアルゴン雰囲気中600℃から900℃の温度範囲で1時間熱処理を施して試料を作製した。これらの試料の保磁力を調べた結果を表1に示す。
【表1】
上記のようにして得られたアモルファス合金は、700~800℃の熱処理を施すと、より高い保磁力を示すことがわかった。
【0013】
(実施例3)
サマリウム12~20原子%(Sm12~20at%)および鉄80~88原子%(Fe80~88at%)からなる、成分比の異なる複数のサマリウム-鉄合金インゴットをアルゴン雰囲気中、高周波溶解により作製した。これらのサマリウム-鉄合金インゴットに急冷凝固法を施してアモルファス合金を作製した。得られたアモルファス合金に700℃で1時間熱処理を施して試料を作製した。これらの試料の磁気特性を測定した結果を表2に示す。
【表2】
上記のようにして得られたアモルファス合金は、上記の成分比の範囲で1.0kOe以上の保磁力を示すことがわかった。
【0014】
(実施例4)
サマリウム16.7原子%(Sm16.7at%)および鉄83.3原子%(Fe83.3at%)からなるサマリウム-鉄合金インゴットをアルゴン雰囲気中、高周波溶解により作製した。この得られたサマリウム-鉄合金インゴットに急冷凝固法を施してアモルファス合金を作製した。この急冷凝固法では、銅ロールの回転速度が40m/s以上のときにアモルファス合金が得られたが、10~20m/sでは結晶粒径が約10nmの微細な結晶質を有する合金が得られた。この銅ロールの回転速度10~20m/sで作製した微細な結晶質を有する合金は、アモルファス合金に適当な熱処理を施した試料と同様な保磁力を示すことがわかった。このことから、急冷凝固法により作製したアモルファス合金に熱処理を施す工程に代えて、急冷凝固法での冷却速度を制御することにより、微細な結晶質を有する合金を作製できることがわかった。これによると、ガスアトマイズ法やメカニカルアロイング法など他の製造法により組織を微細化することによっても高い保磁力が得られることは当業者にとって自明である。
【0015】
(実施例5)
サマリウム16.7原子%(Sm16.7at%)および鉄83.3原子%(Fe83.3at%)からなるサマリウム-鉄合金インゴットのサマリウムの一部を同じ希土類金属であるイットリウム(Y)で置換したサマリウム-イットリウム-鉄合金インゴットをアルゴン雰囲気中、高周波溶解により作製した。サマリウム-イットリウム-鉄合金インゴットは、イットリウムを20~80%置換した複数の異なる成分比で作成した。これらの合金インゴットに急冷凝固法を施してアモルファス合金を作製した。得られたアモルファス合金に700℃で1時間熱処理を施して試料を作製した。これらの試料の磁気特性を測定した結果を表3に示す。
【表3】
上記のようにサマリウム-鉄合金のサマリウムの一部をイットリウムで置換したアモルファス合金は、サマリウムをイットリウムで置換しても保磁力を示すことがわかった。
【0016】
(実施例6)
サマリウム16.7原子%(Sm16.7at%)および鉄83.3原子%(Fe83.3at%)からなるサマリウム-鉄合金インゴットの鉄の一部をチタン(Ti)で4~16%置換したサマリウム-鉄-チタン合金インゴットをアルゴン雰囲気中、高周波溶解により作製した。これらの合金インゴットに急冷凝固法を施してアモルファス合金を作製した。得られたアモルファス合金に700℃で1時間熱処理を施して試料を作製した。これらの試料の磁気特性を測定した結果を表4に示す。
【表4】
上記のように鉄の一部をチタン(Ti)で4~16%置換したアモルファス合金は鉄をイットリウムで置換しても保磁力を示すことがわかった。
【0017】
(実施例7)
サマリウム16.7原子%(Sm16.7at%)および鉄83.3原子%(Fe83.3at%)からなるサマリウム-鉄合金インゴットの鉄の一部をコバルト(Co)で10~50%置換したサマリウム-鉄-コバルト合金インゴットをアルゴン雰囲気中高周波溶解により作製した。得られた合金インゴットに急冷凝固法を施してアモルファス合金を作製した。得られたアモルファス合金に700℃で1時間熱処理を施して試料を作製した。得られた試料をX線回折法で調べたところ、サマリウム-鉄合金インゴットと同様にSmFe5型の金属間化合物相(正確にはSm(Fe,Co)5金属間化合物相)からなることがわかった。これらの試料の磁気特性を測定した結果を表5に示す。
【表5】
上記のようにの鉄の一部をコバルト(Co)で置換しても保磁力を示すことがわかった。なお、これらの試料は同じ熱処理条件で磁気特性を比べるとわずかに磁化が向上していることがわかった。
【0018】
(実施例8)
サマリウム16.7原子%(Sm16.7at%)および鉄83.3原子%(Fe83.3at%)からなるサマリウム-鉄合金インゴットに少量のボロンおよび炭素を1原子%まで添加した合金インゴットを作製した。この合金インゴットに急冷凝固法を施してアモルファス合金を作製した。得られたアモルファス合金に700℃で1時間熱処理を施して試料を作製した。この試料は、X線回折法で調べたところ、ボロンおよび炭素を添加しないサマリウム-鉄合金インゴットと同様にSmFe5型の金属間化合物相からなることがわかった。添加しないものと同じ条件で熱処理を施して、磁気特性を比べると添加しないものよりわずかに保磁力が向上していることがわかった。しかし、ボロン (B)および炭素 (C)を5原子%以上添加するとSm2Fe17 型の金属間化合物相の炭化物(Sm2Fe17C3)や硼化物(Sm2Fe14B)などが生成し、SmFe5型の金属間化合物相が得られないことがわかった。
【0019】
(実施例9)
サマリウム-鉄合金インゴットは、窒素またはアンモニア雰囲気で熱処理すると窒化されることが知られている。サマリウム-鉄合金インゴットも窒素雰囲気中400~500℃で1~24時間熱処理を施すと窒化されることがわかった。急冷凝固法で作製したアモルファス合金に700℃で1時間熱処理を施してから、さらに400~500℃で20時間熱処理を施して窒化して試料を作製した。これらの試料の磁気特性を測定した結果を表6に示す。
【表6】
SmFe5型の金属間化合物相を窒化すると保磁力が向上することがわかった。サマリウム-鉄合金の鉄を480℃で窒化した試料は最も保磁力が向上し、窒素を約5%含有していることがわかった。
図1
図2
図3