(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-13
(45)【発行日】2023-09-22
(54)【発明の名称】培養液処理装置及び液体処理装置
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20230914BHJP
B04B 5/00 20060101ALI20230914BHJP
B04B 15/00 20060101ALI20230914BHJP
B04B 11/00 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
C12M1/00 C
B04B5/00 Z
B04B15/00
B04B11/00 Z
(21)【出願番号】P 2019045236
(22)【出願日】2019-02-25
【審査請求日】2022-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】591101490
【氏名又は名称】エイブル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 光明
【審査官】松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】特開昭51-120470(JP,A)
【文献】特開昭56-021656(JP,A)
【文献】実開昭63-058656(JP,U)
【文献】特開昭55-114362(JP,A)
【文献】特開2012-055853(JP,A)
【文献】特表2013-506556(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B04B 1/00- 15/12
C12M 1/00- 3/10
A61M 1/00- 1/38
A61M 60/00- 60/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の回転軸線を中心に公転することによって、内部に収納された培養液を遠心分離する遠心分離槽と、
前記培養液を送液する送液管と、
前記送液管を前記遠心分離槽にガイドする、
前記遠心分離槽の内外を連通する、一端が前記遠心分離槽に固定されたパイプ状のガイド部材と、
前記ガイド部材を、前記回転軸線を中心に回転可能に保持するガイド部材保持具と、
を有し、
前記遠心分離槽は、公転中に自転しないように構成され、
前記送液管は、前記遠心分離槽の公転に伴って、前記ガイド部材
及び前記遠心分離槽内で、前記ガイド部材
及び前記遠心分離槽と相対的に回転するように構成されている培養液処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の培養液処理装置において、
前記送液管が前記培養液と接触しない状態で前記遠心分離槽を公転させて、前記培養液を遠心分離させる培養液処理装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の培養液処理装置において、
前記送液管が前記培養液と接触した状態で前記遠心分離槽を公転させて、前記遠心分離槽内で前記培養液を撹拌する培養液処理装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の培養液処理装置において、
前記送液管の前記遠心分離槽側の端部が、前記遠心分離槽の基端部近傍と、前記遠心分離槽の先端部近傍との間を移動可能に構成されている培養液処理装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の培養液処理装置において、
前記送液管は培養槽に接続されており、前記培養液を、前記培養槽から前記遠心分離槽に送液可能に構成されている培養液処理装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の培養液処理装置において、
前記送液管は回収ポットに接続されており、前記培養液を、前記遠心分離槽から前記回収ポットに送液可能に構成されている培養液処理装置。
【請求項7】
請求項5を引用する請求項6に記載の培養液処理装置において、
前記送液管は、
前記遠心分離槽に至る第一端部と、
前記培養槽に至る第二端部と、
前記回収ポットに至る第三端部と、
を有し、
前記第一端部と前記第二端部とが連通した第一の状態と、
前記第一端部と前記第三端部とが連通した第二の状態と、
を切替え可能に構成されている培養液処理装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の培養液処理装置において、
前記ガイド部材、前記ガイド部材保持
具、及び、前記遠心分離槽は、それぞれの内部空間が気密に連通するように接続されており、
前記ガイド部材保持
具には、前記内部空間の内圧を調整する内圧調整機構が設けられている培養液処理装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれかに記載の培養液処理装置において、
前記遠心分離槽は、水平方向に延びる回転軸線を中心に公転するように構成されている培養液処理装置。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれかに記載の培養液処理装置において、
前記遠心分離槽を収納するチャンバをさらに有し、
前記ガイド部材保持
具、ガイド部材、及び、前記遠心分離槽は一つのユニットとして構成され、前記チャンバに着脱可能に構成されている培養液処理装置。
【請求項11】
所定の回転軸線を中心に公転することによって、内部に収納された処理液を遠心分離する遠心分離槽と、
前記処理液を送液する送液管と、
前記送液管を前記遠心分離槽にガイドする、
前記遠心分離槽の内外を連通する、一端が前記遠心分離槽に固定されたパイプ状のガイド部材と、
前記ガイド部材を、前記回転軸線を中心に回転可能に保持するガイド部材保持具と、
を有し、
前記遠心分離槽は、公転中に自転しないように構成され、
前記送液管は、前記遠心分離槽の公転に伴って、前記ガイド部材
及び前記遠心分離槽内で、前記ガイド部材
及び前記遠心分離槽と相対的に回転するように構成されている液体処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養液処理装置、特に、遠心分離を利用した培養液の処理装置、及び、液体処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
創薬や食品などの分野では、目的物の生産に細胞の培養技術が利用されることがある。細胞は培養液に浸された状態で取扱われることが多く、培養工程では、濾過膜や遠心力を利用して細胞と培養液とを分離する処理が行われることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭52-114085号公報
【文献】特開昭63-252558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、細胞の分離に濾過膜を利用する場合、濾過膜の目詰まりを起こす可能性があるため、長期間連続的に利用するにあたってはこれを防止する工夫が必要になる。また、細胞の分離に遠心力を利用する場合、装置を簡素化することが難しかった。
【0005】
本発明の目的の一つは、長期間連続的に利用することが可能で灌流培養装置などに適用可能な培養液処理装置、及び、液体処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明に係る培養液処理装置は、
所定の回転軸線を中心に公転することによって、内部に収納された培養液を遠心分離する遠心分離槽と、
前記培養液を送液する送液管と、
前記送液管を前記遠心分離槽にガイドする、一端が前記遠心分離槽に固定されたパイプ状のガイド部材と、
前記ガイド部材を、前記回転軸線を中心に回転可能に保持するガイド部材保持具と、
を有し、
前記遠心分離槽は、公転中に自転しないように構成され、
前記送液管は、前記遠心分離槽の公転に伴って、前記ガイド部材及び前記遠心分離槽内で、前記ガイド部材及び前記遠心分離槽と相対的に回転するように構成されている。
【0007】
この発明によると、送液管がガイド部材と相対的に回転するため、送液管がガイド部材内でねじれないように遠心分離槽を公転させることができ、送液管を利用した培養液の送液が可能になる。すなわち、この発明によると、構造が単純で、かつ、連続的に利用することが可能な、遠心力を利用した培養液の処理装置を提供することができる。
【0008】
(2)この培養液処理装置において、
前記送液管が前記培養液と接触しない状態で前記遠心分離槽を公転させて、前記培養液を遠心分離させてもよい。
【0009】
これによると、効率よく遠心分離処理を行うことが可能な培養液処理装置を提供することができる。
【0010】
(3)この培養液処理装置において、
前記送液管が前記培養液と接触した状態で前記遠心分離槽を公転させて、前記遠心分離槽内で前記培養液を撹拌してもよい。
【0011】
これによると、目的に応じた種々の運用が可能な培養液処理装置を提供することができる。
【0012】
(4)この培養液処理装置において、
前記送液管の前記遠心分離槽側の端部が、前記遠心分離槽の基端部近傍と、前記遠心分離槽の先端部近傍との間を移動可能に構成されていてもよい。
【0013】
(5)この培養液処理装置において、
前記送液管は培養槽に接続されており、前記培養液を、前記培養槽から前記遠心分離槽に送液可能に構成されていてもよい。
【0014】
(6)この培養液処理装置において、
前記送液管は回収ポットに接続されており、前記培養液を、前記遠心分離槽から前記回収ポットに送液可能に構成されていてもよい。
【0015】
(7)この培養液処理装置において、
前記送液管は、
前記遠心分離槽に至る第一端部と、
前記培養槽に至る第二端部と、
前記回収ポットに至る第三端部と、
を有し、
前記第一端部と前記第二端部とが連通した第一の状態と、
前記第一端部と前記第三端部とが連通した第二の状態と、
を切替え可能に構成されていてもよい。
【0016】
(8)この培養液処理装置において、
前記ガイド部材、前記ガイド部材保持具、及び、前記遠心分離槽は、それぞれの内部空間が気密に連通するように接続されており、
前記ガイド部材保持具には、前記内部空間の内圧を調整する内圧調整機構が設けられていてもよい。
【0017】
(9)この培養液処理装置において、
前記遠心分離槽は、水平方向に延びる回転軸線を中心に公転するように構成されていてもよい。
【0018】
(10)この培養液処理装置において、
前記遠心分離槽を収納するチャンバをさらに有し、
前記ガイド部材保持具、ガイド部材、及び、前記遠心分離槽は一つのユニットとして構成され、前記チャンバに着脱可能に構成されていてもよい。
【0019】
(11)本発明に係る液体処理装置は、
所定の回転軸線を中心に公転することによって、内部に収納された処理液を遠心分離する遠心分離槽と、
前記処理液を送液する送液管と、
前記送液管を前記遠心分離槽にガイドする、一端が前記遠心分離槽に固定されたパイプ状のガイド部材と、
前記ガイド部材を、前記回転軸線を中心に回転可能に保持するガイド部材保持具と、
を有し、
前記遠心分離槽は、公転中に自転しないように構成され、
前記送液管は、前記遠心分離槽の公転に伴って、前記ガイド部材及び前記遠心分離槽内で、前記ガイド部材及び前記遠心分離槽と相対的に回転するように構成されている。
【0020】
この発明によると、送液管がガイド部材と相対的に回転するため、送液管がガイド部材内でねじれないように遠心分離槽を公転させることができ、送液管を利用した液体の送液が可能になる。すなわち、この発明によると、構造が単純で、かつ、連続的に利用することが可能な、遠心力を利用した液体の処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明を適用した実施の形態に係る灌流培養装置について説明するための図
【
図2】本発明を適用した実施の形態に係る灌流培養装置について説明するための図
【
図3】本発明を適用した実施の形態に係る灌流培養装置について説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を適用した実施の形態について説明する。なお、以下の実施形態では、本発明に係る培養液処理装置及び液体処理装置を適用した灌流培養装置について説明するが、本発明は灌流培養装置以外の各種装置に適用することが可能である。また、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。すなわち、以下の実施の形態で説明するすべての構成が本発明にとって必須であるとは限らない。また、本発明は、以下の内容を自由に組み合わせたものを含む。
【0023】
(1)灌流培養装置1の構成
はじめに、
図1から
図3を参照して、本発明を適用した培養液処理装置(液体処理装置)を有する灌流培養装置1の構成について説明する。灌流培養装置1は、培養液中で、種々の細胞(例えば、動物、昆虫、植物等の細胞、微生物、細菌等)を培養する装置であり、種々の培養生成物(細胞や細胞からの代謝物など)の製造に利用することができる。
【0024】
灌流培養装置1は、培養槽10を有する。培養槽10は、細胞が分散された培養液Wを保持する部材で、培養液Wを所望の状態に維持するための種々の機構を備える。培養槽10で培養液Wの状態を調整することにより、培養液W中で細胞が適切に培養される。
培養槽10は、特に図示しないが、培養工程を適切に制御するための種々の機構(付帯設備)を備えた構成とすることが可能である。例えば、培養液Wの状態(溶存酸素やpH、温度など)を計測する計測装置や、培養液Wの状態を調整する調整機構(気体や液体を供給する供給機構や温調機構など)、培養の進捗度を計測する計測装置(細胞密度やグルコース濃度などの計測装置)、培養液W(新鮮な液体培地)や栄養素などを供給する供給機構、培養液Wを抜き出すサンプリング機構などの設備を備えた構成とすることができる。また、培養槽10は、無菌エアを導入するためのフィルタ12を有する構成となっている。
【0025】
灌流培養装置1は、遠心分離槽30を有する。遠心分離槽30は、回転軸線Lを中心に公転することにより、内部に収納された培養液Wを遠心分離処理して、遠心分離上清と沈殿物に分離する役割を果たす。なお、細胞培養の分野では、一般的に、細胞の比重が大きく、培養液や細胞の代謝物などは比重が小さいため、培養液Wが遠心分離されると、細胞は沈殿して遠心分離槽30の先端側(回転軸線Lから離れた領域)に移動し、培養液や細胞の代謝物などの遠心分離上清は遠心分離槽30の基端部側(回転軸線Lに近い領域)に移動する。
【0026】
灌流培養装置1では、遠心分離槽30は、チャンバ32内に配置された回転体34に取り付けられている。回転体34は、ベアリングを介してチャンバ32に取り付けられ、回転軸線Lを中心に回転可能となっている。そして、回転駆動機構35(モータ)で回転体34を回転させることにより、チャンバ32内で、遠心分離槽30が回転軸線Lを中心に公転することになる。
なお、
図1に示す例では、回転駆動機構35の回転軸に取り付けられた歯車を、回転体34の基端部外周に設けられた歯車にかみ合わせることにより、回転体34の回転が実現されている。ただし、回転体34を回転駆動させる機構はこれに限られるものではなく、既に公知となっている種々の機構を適用することが可能である。また、本実施の形態では、遠心分離槽30は、公転中に自転しないように(回転体34に対して姿勢を変えないように)、回転体34に保持される。これにより、培養液Wの遠心分離効率を高めることができる。
なお、本実施の形態では、灌流培養装置1は、遠心分離槽30が水平方向に延びる回転軸線Lを中心に回転するように構成される。そして、チャンバ32は、後述するガイド部材保持具60が取り付けられる第一の面と、第一の面と対向する第二の面とを含み、第二の面が開閉可能に構成することができる。これによると、遠心分離槽30の回転体34への着脱などが容易になる。
灌流培養装置1は、遠心分離槽30を所望の位置に停止させることが可能に構成することができる。例えば、灌流培養装置1は、遠心分離槽30の位置を計測するためのセンサを備え、当該センサからの情報に基づいて回転駆動機構35の動作を制御することにより、遠心分離槽30の停止位置を制御することができる。このとき、灌流培養装置1は、
図1に示すように、遠心分離槽30の先端部が下を向いた姿勢(基端部が上を向いた姿勢)となる位置で遠心分離槽30が停止するように、回転駆動機構35の動作を制御することができる。
本実施の形態に適用可能な遠心分離槽30の材質や形状は特に限定されるものではなく、目的に合わせて適宜選定することができる。例えば遠心分離槽30として、先端部が閉じた筒状の容器(いわゆる遠沈管)を利用することができる。また、遠心分離槽30の材質については、細胞に与える影響が小さい何れかの材料を適用することができる。
【0027】
灌流培養装置1は、送液管40を有する。送液管40は、培養液Wを送液する役割を果たす。送液管40は、少なくともガイド部材50によってガイドされる領域が、可撓性のチューブで実現されていることが好ましい。これによると、ガイド部材50内で、送液管40を容易に移動させることが可能になる。送液管40は、既に公知となっているいずれかのチューブによって実現することが可能であるが、培養液Wへの影響や、ガイド部材50との摩擦係数を考慮して選定することができる。送液管40は、例えばテフロンチューブを利用することができる。
本実施の形態では、送液管40は、遠心分離槽30に至る第一端部42と、培養槽10に至る第二端部44と、回収ポット16に至る第三端部46とを有する。そして、送液管40は、第一端部42と第二端部44とが連通した(培養槽10と遠心分離槽30とが接続された)第一の状態と、第一端部42と第三端部46とが連通した(回収ポット16と遠心分離槽30とが接続された)第二の状態とを切替えることが可能に構成されている。具体的には、送液管40は、三本のチューブと、該チューブが接続された切替機構48(例えば三方弁)によって実現することができ、切替機構48を切替えることにより、第一の状態と第二の状態とを切替える構成とすることができる。ただし、本発明はこれに限られるものではなく、送液管40は三つ以上の複数本に分岐させることが可能である。
【0028】
灌流培養装置1は、ガイド部材50を有する。ガイド部材50は、送液管40(第一端部42)を遠心分離槽30にガイドする役割を果たす。ガイド部材50は、中空のパイプ状の部材で構成され、一方の端部52が遠心分離槽30に固定され、他の端部54がガイド部材保持具60(詳細は後述)に保持される。なお、ガイド部材50は、その内部空間が、遠心分離槽30及びガイド部材保持具60の内部空間と気密になるように、遠心分離槽30及びガイド部材保持具60に取り付けられる。
灌流培養装置1では、ガイド部材50は、回転軸線Lに沿って延びる基端部と、基端部から延設される屈曲部とを有する構成となっている。ガイド部材50の材料は特に限られるものではなく、例えば、剛性を備えた材料(ステンレスパイプ等)で構成することができる。これにより、回転体34の回転に伴って、ガイド部材50(端部54)を、回転軸線Lを中心に回転させることができる。なお、ガイド部材50は、ゴム栓56を介して、遠心分離槽30に取り付けられる。そして、送液管40は、ガイド部材50の内部を通り、遠心分離槽30内にガイドされる。
【0029】
灌流培養装置1は、ガイド部材保持具60を有する。ガイド部材保持具60は、ガイド部材50(端部54)を、回転軸線Lを中心に回転可能に保持する役割を果たす。本実施の形態では、ガイド部材保持具60には貫通穴が形成されており、この貫通穴にガイド部材50(端部54)を嵌合させることにより、ガイド部材50を、回転軸線Lを中心に回転可能に保持することができる。なお、送液管40は、ガイド部材保持具60の貫通穴を通って(貫通穴内で)、ガイド部材50に挿入される。以下、ガイド部材保持具60について詳述する。
【0030】
ガイド部材保持具60は、本体部62を有する。本体部62は、貫通穴が開いた円柱状の部材によって実現されており、その側面には、貫通穴に連通する横穴が設けられている。本体部62の先端にはキャップ66が取り付けられ、本体部62とキャップ66との間にはOリング68が設けられている。これによると、Oリング68がガイド部材50に外嵌されるため、ガイド部材保持具60の貫通穴とガイド部材50との隙間がふさがれ、ガイド部材保持具60の貫通穴とガイド部材50の内部空間とを気密に保持することが可能になる。なお、本体部62及びキャップ66でOリング68を押圧して変形させれば、ガイド部材保持具60の貫通穴とガイド部材50の内部空間との気密を、より精度よく保持することが可能になる。
また、ガイド部材保持具60には、後端からパイプ72が挿入される。パイプ72は、送液管40に外嵌され、送液管40を保持する部材である。本実施の形態では、本体部62の後端にはキャップ74が取り付けられており、本体部62とキャップ74との間にはOリング76が設けられている。そして、パイプ72は、キャップ74及びOリング76を通って、本体部62に挿入される。Oリング76がパイプ72に外嵌されることにより、ガイド部保持部材60の貫通穴とパイプ72との隙間がOリング76でふさがれるため、ガイド部材保持具60の内部空間を気密に保持することが可能になる。
なお、パイプ72は、内径が送液管40の外径と同じか、又は、内径が送液管40の外径よりも小さくなっているものを選定することができる。これにより、パイプ72と送液管40とを密着させることができるため、ガイド部材保持具60の内部空間を気密に保持することができるとともに、パイプ72を利用して送液管40(第一端部42)の位置を調整することが可能になる。
【0031】
そして、送液管40は、パイプ72内を通ってガイド部材保持具60(その内部空間)に挿入され、ガイド部材保持具60の貫通穴内でガイド部材50に挿入される。なお、本実施の形態では、送液管40はパイプ72に保持され、パイプ72よりも先は、ガイド部材50及びガイド部材保持具60に固定されず、これらの内部で自由に動くことが可能に構成されている。これにより、送液管40は、ガイド部材50と相対的に回転することが可能なるとともに、ガイド部材50内を送液管40の長さ方向に移動することが可能になる。
ただし変形例として、送液管40を、パイプ72と、パイプ72の先端(少なくともガイド部材50側の端部)に取り付けられたフレキシブルチューブとを有する構成とすることも可能である。
【0032】
灌流培養装置1は、アクチュエータを有する。アクチュエータは、パイプ72を保持する保持部82と、保持部82をパイプ72の長手方向に移動させる駆動機構(図示せず)とを有する。パイプ72を長手方向に移動させることによって送液管40を移動させ、送液管40の先端(第一端部42)の位置を変えることが可能になる。なお、アクチュエータは、送液管40を、第一端部42が、遠心分離槽30の基端部近傍と先端部近傍との間を移動するように構成することができる(
図1及び
図2参照)。
【0033】
灌流培養装置1は、パイプ72を覆う被覆部84を有する。被覆部84は、パイプ72の、少なくともガイド部材保持具60に出入りする領域を覆うように設けられる。被覆部84により、ガイド部材保持具60内部の汚損を防止することが可能になる。本実施の形態では、被覆部84は、一端がガイド部材保持具60に取り付けられ、他端が保持部82に取り付けられている。被覆部84は、例えばシリコン製のチューブや蛇腹管によって実現することが可能である。
【0034】
灌流培養装置1は、ポンプ90を有する。ポンプ90は、横穴を介してガイド部材保持具60に接続され、ガイド部材保持具60の内圧を調整する。本実施の形態では、ガイド部材保持具60とガイド部材50及び遠心分離槽30は、それぞれの内部空間が気密になるように接続されているため、ポンプ90を利用して、培養液Wを送液することが可能になる。すなわち、ポンプ90でガイド部材保持具60内を減圧することで、遠心分離槽30に培養液Wが送液され、ガイド部材保持具60内を加圧することで、遠心分離槽30から培養液Wが排出される。また、灌流培養装置1では、ポンプ90が培養液Wの流路を避けて設けられるため、ポンプ90で細胞にダメージを与えることなく、培養液Wの送液が可能になる。
【0035】
灌流培養装置1では、ガイド部材保持具60とガイド部材50及び遠心分離槽30、並びに、送液管40は、一つのユニットとして構成され、チャンバ32(チャンバ32及び回転体34)に対して着脱可能な構成とすることができる。これによれば、培養液Wに接触する部分だけを簡単に着脱することが可能になり、単回使用を前提とした装置に適用することができる。
【0036】
灌流培養装置1は、特に図示しないが、灌流培養装置1の動作を統括制御する制御部や、他の機器との通信をするための通信制御機構など、種々の機構を備えた構成とすることができる。
【0037】
(2)灌流培養装置1の動作
灌流培養装置1(培養液の処理装置)を利用することで、種々の培養生成物の製造方法を実現することが可能になる。以下、灌流培養装置1の動作について説明する。
はじめに、培養槽10で細胞の培養を開始する。例えば、培養槽10に培養液Wを供給し、温度、溶存酸素、pHなどを調整するとともに、培養対象である細胞を播種し、適時に、栄養素や新しい培養液を供給する。培養液Wの状態を適切に調整することにより、細胞の増殖や、細胞からの物質生産が促され、培養の目的が達成される。
なお、培養槽10で培養液Wの状態を調整する処理は、灌流培養の工程がすべて終了するまで継続することができる。
【0038】
次に、培養液Wを、培養槽10から遠心分離槽30に送液する。灌流培養装置1では、送液管40を第一の状態に設定して、第一端部42と第二端部44とを連通させ、ポンプ90でガイド部材保持具60(内部空間)を減圧することによって、培養液Wを、培養槽10から遠心分離槽30に送液することができる。
【0039】
次に、遠心分離槽30を公転させて、遠心分離槽30内で培養液Wを遠心分離させる。なお、この工程は、
図1に示すように、送液管40を、第一端部42が遠心分離槽30の基端部側に配置された状態(送液管40が培養液Wに接しない状態)で行うことができる。これにより、送液管40によって培養液Wの分離状態が乱されることが防止され、効率よく遠心分離処理を行うことができる。なお、このときの遠心分離槽30の公転数は、遠心分離槽30の大きさや回転半径、細胞や培養液の種類に応じて適宜設定することが可能であり、一例として、500~2000rpm程度とすることができる。
【0040】
次に、培養液Wを、遠心分離槽30から排出させる。送液管40の第一端部42を培養液Wに接触させ、ポンプ90でガイド部材保持具60の内部空間を加圧することによって、培養液Wを、遠心分離槽30から排出させることができる。なお、この工程は、遠心分離槽30の公転を停止させ、遠心分離槽30の基端部が鉛直上方を向いた状態で行うことが好ましい。これにより、培養液Wの遠心分離状態を維持したまま、送液管40によって培養液Wを排出することができる。
灌流培養装置1では、培養液Wを、培養槽10及び回収ポット16のいずれにも送液することができる。すなわち、送液管40を第一の状態に設定すれば、培養液Wは培養槽10に送液され、第二の状態に設定すれば、培養液Wは回収ポット16に送液される。例えば灌流培養装置1は、培養液Wの遠心分離上清を回収ポット16に送液し、沈殿物を培養槽Wに送液する構成とすることができる。すなわち、遠心分離処理の終了後、ガイド部材保持具60の内部空間を加圧しながら、第一端部42を遠心分離槽30の基端部から先端部に向かって移動させれば、培養液Wの遠心分離上清は回収ポット16に送液される。その後、送液管40を、第一端部42と第二端部44とが連通した第一の状態に設定し、
図2に示すように、第一端部42をさらに先端部に向かって移動させることにより、先端部に沈殿した沈殿物を培養槽10に送液することができる。なお、回収ポット16に送液された培養液(遠心分離上清)は、そのまま廃棄することも可能であるが、これを分析する処理や、保存する処理を実施することも可能である。
【0041】
そして、培養槽10から遠心分離槽30に培養液を送液する工程と、遠心分離槽30内で培養液Wを遠心分離する工程、及び、培養液Wを培養槽10又は回収ポット16に送液する工程を、所定の条件を満たすまで複数回繰り返し、灌流培養装置1の動作を停止し、灌流培養工程を終了する。これらの工程により、目的に応じた培養生成物を製造することができる。
【0042】
なお、灌流培養装置1の動作はこれに限られず、種々の変形が可能である。
例えば、培養液Wの遠心分離上清を排出させた後に、沈殿物を排出させずに遠心分離槽30に新たな培養液を加え、その後、遠心分離処理を行うことも可能である。このとき、遠心分離処理を行う前に、沈殿物を培養液に再分散させる処理を行ってもよい。この処理は、
図3に示すように、送液管40を培養液に接触させた状態で、遠心分離槽30を回転させることにより実現することができる。すなわち、灌流培養装置1では、遠心分離槽30の公転に伴って遠心分離槽30内(ガイド部材50内)で送液管40が回転するため、送液管40によって培養液が撹拌され、沈殿物を新たな培養液中に分散させることが可能になる。そのため、沈殿物が遠心分離槽30内で固化することを防止することができるとともに、沈殿物に含まれる細胞と新鮮な培地を接触させることが可能になることから、細胞へのダメージが過大にならないように培養液の処理を実施することができる。
なお、培養液を撹拌する処理における遠心分離槽30の公転数は、細胞の種類や撹拌目的、遠心分離槽30の大きさや回転半径に応じて適宜設定することが可能であり、遠心分離処理の回転数よりも小さい値(一例として、50~1000rpm程度)とすることができる。
あるいは、培養液Wを遠心分離槽30から排出させる処理では、遠心分離上清よりも先に沈殿物を排出させることも可能である。すなわち、送液管40を培養液W(遠心分離された培養液W)に沈降させることにより、培養液Wが流動することから、遠心分離処理が進んで沈殿物が固化した場合でも、これを回収することが容易になる。
【0043】
(3)作用効果
本実施の形態によると、送液管40とガイド部材50とが、相対的に回転可能に構成されている。そのため、遠心分離処理のために遠心分離槽30を回転させた場合でも、送液管40がガイド部材50内でねじれることを防止することができるため、送液管40を利用した培養液の送液が可能になる。また、本実施の形態では、送液管40の先端(第一端部42)が、遠心分離槽30内で移動可能に構成されている。そのため、培養液Wに接触しない状態で遠心分離処理を行うこと、及び、遠心分離槽30内の培養液Wをすべて排出させることが可能な、処理効率の高い灌流培養装置を提供することができる。また、送液管40を培養液に接触させて遠心分離槽30を公転させることにより、遠心分離槽30内で培養液を撹拌することが可能になることから、目的に応じた種々の処理が可能になる。
また、本実施の形態では、遠心分離槽30は水平方向に延びる回転軸線を中心に公転し、遠心分離槽30を収納するチャンバ32は、第二の面が開閉可能な構成となっている。そのため、遠心分離槽30(遠心分離槽30、ガイド部材50、ガイド部材保持具60がユニット化されたデバイス)の着脱や取り扱いが容易な灌流培養装置を提供することが可能になる。
【符号の説明】
【0044】
1…灌流培養装置、 10…培養槽、 12…フィルタ、 16…回収ポット、 30…遠心分離槽、 32…チャンバ、 34…回転体、 35…回転駆動機構、 40…送液管、 42…第一端部、 44…第二端部、 46…第三端部、 48…切替機構、 50…ガイド部材、 52…端部、 54…端部、 56…ゴム栓、 60…ガイド部材保持具、 62…本体部、 66…キャップ、 68…Oリング、 72…パイプ、 74…キャップ、 76…Oリング、 82…保持部、 84…被覆部、 90…ポンプ、 L…回転軸線、 W…培養液