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特許7349087可燃性ガス噴出予測装置、及び可燃性ガス噴出危険度判定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-13
(45)【発行日】2023-09-22
(54)【発明の名称】可燃性ガス噴出予測装置、及び可燃性ガス噴出危険度判定装置
(51)【国際特許分類】
   E21B 47/10 20120101AFI20230914BHJP
   G08B 21/16 20060101ALI20230914BHJP
   G01M 3/20 20060101ALN20230914BHJP
【FI】
E21B47/10
G08B21/16
G01M3/20 M
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020174251
(22)【出願日】2020-09-30
(65)【公開番号】P2022058052
(43)【公開日】2022-04-11
【審査請求日】2022-10-07
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、権利譲渡・実施許諾の用意がある。
(73)【特許権者】
【識別番号】516045698
【氏名又は名称】堀江 博
(72)【発明者】
【氏名】堀江 博
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-141636(JP,A)
【文献】特許第6737938(JP,B1)
【文献】特開2006-265850(JP,A)
【文献】特開平08-263772(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21B 47/10
G08B 21/16
G01M 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地表への可燃性ガス噴出を予測する可燃性ガス噴出予測装置であって、
地盤の少なくとも地下水層にまで達する観測井戸管を備え、地下水から遊離する可燃性ガスを収集する観測井戸と、
観測井戸管内に存する前記可燃性ガスのガス濃度を測定するガス濃度計と、
前記ガス濃度の測定結果が所定のしきい値を超えた場合に、前記観測井戸管内への前記可燃性ガスの噴出を判定するとともに、地表への前記可燃性ガスの噴出を予測する予測手段と、
を備えることを特徴とする可燃性ガス噴出予測装置。
【請求項2】
前記観測井戸管内を上昇する前記可燃性ガスを捕捉する凹部を有するガス捕捉機構を備え、
前記ガス濃度計は前記ガス捕捉機構で捕捉された前記可燃性ガスの前記ガス濃度を測定することを特徴とする、
請求項1に記載の可燃性ガス噴出予測装置。
【請求項3】
前記観測井戸管内の気圧を測定する圧力計と、
前記予測手段で地表への前記可燃性ガスの噴出が予測されたときに、前記圧力計で測定された気圧から前記ガス濃度の増加の原因を判定するとともに、地表への前記可燃性ガスの噴出の継続を予測する予測継続手段と、
を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の可燃性ガス噴出予測装置
【請求項4】
地表への可燃性ガス噴出の危険度を判定する可燃性ガス噴出危険度判定装置であって、
地盤の少なくとも地下水層にまで達する観測井戸管を備え、地下水から遊離する可燃性ガスを収集する観測井戸と、
観測井戸管内に存する前記可燃性ガスのガス濃度を測定するガス濃度計と、
前記観測井戸管内の気圧を測定する圧力計と、
前記ガス濃度計と前記圧力計を収容する密閉空間を画定する密閉蓋と、
前記ガス濃度の測定結果が所定のしきい値を超えた場合に、前記観測井戸管内への前記可燃性ガスの噴出を判定する判定手段と、
前記密閉空間の圧力を変化させる圧力ポンプと、
前記密閉空間を前記圧力ポンプで一定時間減圧し、前記判定手段で前記観測井戸管内へ前記可燃性ガスが噴出されたと判定されたときの減圧値に基づき、地表への前記可燃性ガスの噴出の危険度を判定する危険度判定手段と、
を備えることを特徴とする可燃性ガス噴出危険度判定装置。
【請求項5】
前記密閉蓋は、開閉機能を有することを特徴とする、
請求項4に記載の可燃性ガス噴出危険度判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可燃性ガスが地下水から遊離し、地表へ噴出することを事前に予測する装置、及び地表への可燃性ガスの噴出の危険度を判定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溶存ガスを含む溶媒が減圧されると、溶存ガスと溶媒との遊離性が増加する現象が生じる。一例を挙げると、ペットボトルに入れた炭酸水が大気圧以上の状態にあって、そのペットボトルの蓋を開けると、そのペットボトルの中が大気圧に減圧され、その減圧によって炭酸水の状態が過飽和になり、炭酸水中の炭酸ガスがその炭酸水の水面に噴出する。
【0003】
一方、メタンガス等の可燃性ガスが溶存する地下水層は、特定の地域に限られて分布しているのでなく、日本全国各地に分布していて、気圧低下等、その噴出の条件がそろえば、地下水から遊離する可燃性ガスが、高い濃度で、地表へ噴出することがあり、その噴出が原因となって、ガス爆発事故等が発生した事例は少なからずある。一例を挙げると、1973年10、11月に、東京都台東区で地下水からの可燃性ガスの噴出によって、その可燃性ガスに引火する事故が発生しており、この可燃性ガスの噴出は気圧低下の影響を受けている。
【0004】
上述した事実から、気圧低下によって高い濃度の可燃性ガスが地下水から遊離し、地下水層中を浮上し、地表へ噴出すること、さらに、その噴出が地上の狭い空間で発生し、高い濃度の可燃性ガスが十分に希釈されないとき、可燃性ガスが電気機器等を着火源として爆発し、その爆発が甚大な事故を引き起こす等の潜在的危険性が、日本全国各地に潜んでいることが予見される。そして、メタンガス等の可燃性ガスが地表へ噴出する危険性の高さは、地域によって異なり、地下水に溶存する可燃性ガスの状態によっていると予見される。
【0005】
このような危険性が予見されるにもかかわらず、地域によって異なる危険性を明らかにする手段も、その噴出を予測する手段も、そして、危険に対して対策を講じる手段も、未だ確立されていない。
【0006】
発明者は以前、特許文献1において、地震時に地下水層が振動する事に起因して、可燃性ガスが地下水から遊離し、地表へ地下水とともに噴出することを予測する装置を発明している。今回の発明に係る装置は、地震時の振動に加えて、気圧低下に起因して、可燃性ガスが地下水から遊離し、地表へ噴出することを事前に予測する可燃性ガス噴出予測装置、及びその噴出の危険度を判定する可燃性ガス噴出危険度判定装置に関するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-141636
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、未だ危険性が明らかになっていない「気圧低下時に可燃性ガスが地下水から遊離し地表へ噴出する現象」を、可燃性ガスが地表へ噴出する前に、予測することができる可燃性ガス噴出予測装置を提供することである。また、人為的に一定の範囲の地下水層を気圧低下の状態にして、その範囲の地下水に溶存する可燃性ガスを遊離・噴出させることにより、地域によって異なる可燃性ガスの噴出の危険度を判定することができる可燃性ガス噴出危険度判定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題の一つ、可燃性ガス噴出予測のために、請求項1に係る発明は、地表への可燃性ガス噴出予測装置であって、地下水から遊離する可燃性ガスを収集する観測井戸と、観測井戸管内に存する可燃性ガスのガス濃度を測定するガス濃度計と、そのガス濃度の測定結果に基づき、その観測井戸管内への可燃性ガスの噴出を判定するとともに、地表への可燃性ガスの噴出を予測する予測手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明は、本発明者の「気圧低下時に可燃性ガスが地下水から遊離し地表へ噴出するメカニズム」についての知見に基づいている。以下、その概略について説明する。
【0011】
地下水に溶存する可燃性ガスは、気圧が低下するとき、地下水が減圧されることにより、遊離し、気泡として発生することがある。その気泡は、地下水層中では浮力を受け、地表へ向かって浮上する。その気泡は、地下水層中の浮上の途中に、水及び気体を通しにくい、ほぼ水平な、難透水性の地層があると、その地層の下に滞留する。
難透水性の地層の中には、水及び気体を比較的通しやすい地質的弱部が散在し、また、その弱部が地表付近まで達するようなほぼ鉛直な地質的弱部も散在している。
気泡発生が継続すると、難透水性の地層の下に滞留する気泡は、その難透水性の地層の下に沿ってほぼ水平に広がる。その広がりが、ほぼ鉛直な地質的弱部に達すると、その弱部に達した気泡は、その弱部を通って、地表へ向かってほぼ鉛直に浮上し、その気泡は、遊離ガスとして地表へ噴出する。そして、そのようなガス噴出時、換気が十分でない場所では、あまり拡散されず、通常のガス濃度に比べ、顕著にガス濃度が増加する。
遊離ガスによりガス濃度が増加する現象は、鉛直な地質的弱部の地表に生じやすいが、真っ先にこの現象が現れるのは、気圧の影響を直接受ける井戸管内の水面上である。
【0012】
なお、気圧が低下するときに、地下水に溶存する可燃性ガスが、遊離し、地表へ噴出する過程は、地下水が存在する地層及び地質的弱部等の条件によって異なるが、概ね上述の通りである。
【0013】
以上の知見に基づき、この構成によれば、気圧低下時に地下水から遊離し、観測井戸管内に噴出する可燃性ガスの濃度を、観測井戸管内のガス濃度計で測定し、その測定されたガス濃度が所定のしきい値を超えて増加するときに、その濃度の増加から、その観測井戸管内への可燃性ガスの噴出があると判定することができるとともに、地表への可燃性ガスの噴出を予測することができる。
【0014】
なお、地震発生時にも、地下水に溶存する可燃性ガスは、地下水層が地震で振動することにより、遊離・噴出し、その噴出箇所のガス濃度が増加することがある。さらに、気圧低下時に、地震があり、気圧低下による減圧と地震による振動の二つの原因により、同様に遊離・噴出し、その噴出箇所のガス濃度が増加することがある。それらガス濃度の増加の原因は異なっても、その根本となる原因は、ガスの遊離・噴出である。したがって、請求項1に記載の地表への可燃性ガス噴出予測装置の構成により、気圧低下だけでなく、地震の振動等による地表への可燃性ガスの噴出も、事前に予測することができる。
【0015】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の可燃性ガス噴出予測装置において、観測井戸管内を上昇する可燃性ガスを捕捉する凹部を有するガス捕捉機構を備え、ガス濃度計はガス捕捉機構で捕捉された可燃性ガスのガス濃度を測定することを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、観測井戸管内へ可燃性ガスが噴出したのち、その管内を拡散しながら上昇するときに、その上昇の妨げになる部分があると、上昇する可燃性ガスが滞留し、特に、その妨げとなる部分が凹部の場合、その凹部に滞留する、つまり、その凹部で可燃性ガスは捕捉され、その捕捉された可燃性ガスの濃度をガス濃度計で確実に測定することができる。
【0017】
請求項3に係る発明は、請求項1から2に記載の地表への可燃性ガス噴出予測装置において、観測井戸管内の気圧を測定する圧力計と、上述の予測手段で、地表への可燃性ガスの噴出が予測されたときに、その圧力計で測定された気圧から、そのときのガス濃度の増加の原因を判定するとともに、地表への可燃性ガスの噴出の継続を予測する予測継続手段と、を備えることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、その気圧を測定する圧力計で、気圧を経時的に捉えておき、ガス濃度が所定のしきい値を超えて増加すると判定するとき、圧力計で、大きく低下する気圧が測定されれば、そのガス濃度の増加の原因は、気圧低下であると判定できる。つまり、ガス濃度の増加は、そのガス噴出が原因で発生するが、そのガス噴出の原因は、地震の振動等の場合もあり、大きく低下する気圧を測定することにより、ガス濃度の増加の原因は、地震の振動でなく、気圧低下であると判定できる。
【0019】
したがって、そのガス噴出の原因が、気圧低下であると判定することにより、ガス濃度の増加後も、その低下した気圧を継続して測定している間は、ガス濃度の変化の有無にかかわらず、地表への可燃性ガスの噴出が継続すると、予測することができる。さらに、ガス濃度の増加後、一段と低下する気圧を測定するときに、地下水に溶存する可燃性ガスの遊離性が、さらに大きくなると予測でき、地表へ可燃性ガスが噴出する可能性が、一層高まると予測することができる。
【0020】
次に、上記課題のもう一つ、可燃性ガス噴出危険度判定のために、請求項4に係る発明は、地表への可燃性ガス噴出危険度判定装置であって、地下水から遊離する可燃性ガスを収集する観測井戸と、観測井戸管内に存する可燃性ガスのガス濃度を測定するガス濃度計と、その観測井戸管内の気圧を測定する圧力計と、そのガス濃度計とその圧力計を収容する密閉空間を画定する密閉蓋と、そのガス濃度の測定結果に基づき、その観測井戸管内への可燃性ガスの噴出を判定する判定手段と、その密閉空間の圧力を変化させる圧力ポンプと、その密閉空間をその圧力ポンプで一定時間減圧し、その判定手段でその観測井戸管内へ可燃性ガスが噴出されたと判定されたときの減圧値に基づき、地表への可燃性ガスの噴出の危険度を判定する危険度判定手段と、を備えることを特徴とする。
【0021】
この発明は、人為的に、地下水の圧力を低下させることにより、地下水に溶存する可燃性ガスが噴出する現象が生じることがあり、その現象に基づいている。
請求項1~3の可燃性ガス噴出予測装置では、自然に気圧が低下する変化の中で、地下水から遊離する可燃性ガスのガス濃度の測定結果に基づき、可燃性ガスの噴出を予測するのに対し、可燃性ガス噴出危険度判定装置では、人為的に、その観測井戸管内及びその周辺の地下水を気圧低下の状態にし、そのときの地下水から遊離・噴出する可燃性ガスのガス濃度の測定結果に基づき、地表への可燃性ガスの噴出の危険度を判定する。以下、可燃性ガス危険度判定装置を用いた試験とその判定方法を説明する。
【0022】
観測井戸管内に、密閉空間を画定する密閉蓋と、密閉空間の圧力を変化させる圧力ポンプが設けられており、圧力ポンプを用いて、密閉空間の気圧を低下させる、つまり、減圧させることにより、観測井戸管内及びその周辺の地下水を気圧が低下するのと同じ状態にできる。その状態でのガス濃度の変化を確認する試験を行う。
気圧が低下する大きさを、減圧値とし、あらかじめ数段階の減圧値を設定しておき、段階的にその減圧値を大きくし、つまり、気圧が低下する大きさを段階的に大きくし、各々の段階の試験において、ガス濃度が所定のしきい値を超えて増加するかを確認する。その試験で得られる「ガス濃度が所定のしきい値を超えて増加するときの減圧値」は、「観測井戸管内へ可燃性ガスが噴出するときの減圧値」と判定でき、その判定されたときの減圧値より、地表への可燃性ガスの噴出の危険度が判定できる。
【0023】
請求項5に係る発明は、請求項4に記載の可燃性ガス噴出危険度判定装置において、密閉蓋は、開閉機能を有することを特徴とする。
【0024】
この構成によれば、各段階の試験終了時、減圧等によって、初期の自然状態から変化している密閉空間の気体及び地下水の状態を、開閉機能で密閉蓋を開けた状態にすることで、初期の自然状態に戻すことができる。その後、密閉蓋を閉じた状態にし、1段階大きな減圧値での試験を引き続き行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】 実施形態1における地表への可燃性ガス噴出予測装置1を、これを適用した防災システムとともに概略的に示す図である。
図2】 実施形態2における地表への可燃性ガス噴出危険度判定装置3を概略的に示す図である。
図3】 実施形態1におけるガス捕捉機構の断面を概略的に示す図である。
図4】 ガス捕捉機構の可燃性ガス捕捉のメカニズムを概略的に示す図である
図5】 実施形態2において3つに大別されるパターンのガス濃度変化と可燃性ガス噴出判定を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について説明する。
【実施形態1】
【0027】
本実施形態1による地表への可燃性ガス噴出予測装置1と、これを適用した防災システムについて、図1を参照しながら説明する。
【0028】
地表への可燃性ガス噴出予測装置1は、観測井戸2と、ガス濃度計21と、圧力計22と、データ処理装置201とを備えている。ガス濃度計21、及び圧力計22の測定値は、データ処理装置201に取り込まれ記憶され、データ処理装置201は、地表への可燃性ガスの噴出を予測する予測手段、及びその継続を予測する予測継続手段に用いられる。観測井戸2は、地下にほぼ垂直に埋設されており、地層構造は、表層側から順に土砂層101、難透水層102、帯水層103で構成されている。帯水層103中の地下水には、メタンガス等の可燃性ガスが溶存している。
【0029】
観測井戸2は、建物205の近傍に配置されており、ストレーナ管11と、ストレーナ管11の上端部に接続された円管12と、さらに円管12の上端部に接続された接続部13と、接続部13の上端部に接続され、可燃性ガスを上空に排出する排出ダクト14と、で構成されている。
【0030】
ストレーナ管11の周壁には、その全体にわたり、地下水及び遊離ガスを管内に流入させるための複数の円形又は楕円形の開口がほぼ均等に形成されている。また、ストレーナ管11と円管12との接続位置は帯水層103の上端より高い位置にし、ストレーナ管11の下端は、可能な限り深くし、ストレーナ管11の全体の開口表面積を大きくする。これにより、観測井戸2周辺の帯水層103で遊離する可燃性ガスは、ストレーナ管11の開口を通って、観測井戸管内5へ速やかに流入する。
つまり、帯水層103で遊離する可燃性ガスは、その周辺の条件に従い、多様な経路を通って、時間をかけて流れたのち、地表へ噴出するのに対し、観測井戸2周辺の帯水層103で遊離する可燃性ガスは、この観測井戸管内5へ速やかに流入し、観測井戸管内5の水面へ真っ先に噴出する。
【0031】
観測井戸管内5の水面への噴出後の可燃性ガスの動きを、図3、及び図4を参照しながら説明する。なお、地下水に溶存する可燃性ガスは主にメタンガスであり、そのメタンガスは空気よりも軽く、ここでは、空気よりも軽いメタンガスを説明の対象とする。
メタンガスは、空気中では、拡散しながら上昇する。拡散を抑えるために、接続部13に、ガス捕捉機構30を設ける。図3に示すように、ガス捕捉機構30は、下向きの凹部の円筒状のガス捕捉堰31と、下に向かって末広がりの円錐筒状の接続管32とで構成されている。ガス捕捉堰31の下端は、接続管32の上端に接続し、さらに、接続管32の下端は、円管12と接続している。ガス捕捉堰31の下方の周壁には、複数の縦長のスリット33が、円周方向に沿って等間隔に形成されている。
【0032】
メタンガスが観測井戸管内5の水面へ噴出すると、先ず、観測井戸管内5にある空気が、発生したメタンガスに押されて、その管内を上に向かって移動し、図4(b)に示す通り、スリット33を通って、排出ダクト14から排出されるのに対し、観測井戸管内5の水面へ噴出したメタンガスは、上述の空気の移動に少し遅れて、観測井戸管内5を上昇し、その途中で、図4(c)に示すように、空気より軽いため、下向きの凹部のガス捕捉堰31で確実に捕捉できる。
【0033】
さらに、メタンガスが継続して発生すると、図4(b)に示すように、そのガスは、スリット33を通って、排出ダクト14から排出される。排出ダクト14は、速やかにガス等が排出できるよう、十分な大きさの断面積を有している。
つまり、測定に必要なメタンガスは、ガス捕捉堰31で捕捉されるが、測定に必要なメタンガス以外は、スリット33を通って、排出ダクト14上端から、速やかに排出される。
これらメタンガス等の速やかな観測井戸管内5への流入と速やかな排出ダクト14からの排出により、測定に必要なメタンガスは、その流れの途中で滞ることなく、ガス捕捉機構30で速やかに捕捉できる。
【0034】
また、排出ダクト14は建物205の高さよりも高く立ち上がっていて、排出ダクト14上端から排出される空気よりも軽いメタンガスは、上空に向かって浮上し、拡散・希釈される。そのため、建物205及びその周辺で、メタンガスに引火する事故等が発生する危険性を、低減することができる。
【0035】
データ処理装置201はマイクロコンピュータ等により構成されており、入力側にガス濃度計21及び圧力計22の出力端子が接続され、捕捉ガスAの濃度及び気圧を表わす検出信号が入力される。データ処理装置201は、所定の制御プログラムに従い、入力されたガス濃度計21及び圧力計22の検出値に応じて、地表への可燃性ガスの噴出及びその継続の予測処理を実行する。
【0036】
また、データ処理装置201の出力側には、予測する可燃性ガスの噴出等を警告するための警報装置202が接続され、また、建物205等への電力供給を遮断するための電力遮断装置203へも併せて接続されている。
【0037】
次に、上述した構成の可燃性ガス噴出予測装置1を用いた、観測井戸管内5への可燃性ガスの噴出の判定と、地表への可燃性ガスの噴出の予測方法と、その原因を気圧低下と判定すること、及び地表への可燃性ガスの噴出の継続の予測方法と、その結果に応じた防災システムの動作について、説明する。
【0038】
観測井戸管内5の可燃性ガスのガス濃度は、地下水に溶存する可燃性ガスが遊離・噴出しない限り、濃度変化はないか、または、わずかであり、そのガス濃度は、ガス濃度計21で常時、測定され、その測定値の変化は緩やかである。また、気圧は圧力計22で測定され、通常はその測定値に大きな変化はない。ガス濃度計21及び圧力計22の測定値は、データ処理装置201に取り込まれ記憶される。
【0039】
そのような状態から気圧が大きく低下し、帯水層103中の地下水に溶存する可燃性ガスが過飽和になると、可燃性ガスが遊離して気泡が発生する。発生した気泡は地下水の浮力を受けて、帯水層103中を地表へ向かって浮上する。その気泡は難透水層102に達し、そこで浮上が遮断され、難透水層102と帯水層103との境界付近に滞留する。滞留した気泡の増加に伴い、帯水層103の圧力が増加する。その結果、帯水層103中と観測井戸管内5との間に圧力差が生じ、気泡が観測井戸管内5へ流入する。また、ストレーナ管11周辺の地下水からも気泡が発生し、その気泡は、難透水層に達することなく、直接ストレーナ管11の開口を通って、観測井戸管内5へ流入し、さらに、観測井戸管内5の地下水からも、同じように気泡が発生する。それら気泡は、観測井戸管内5の地下水中を浮上し、その水面へ噴出する。その後、可燃性ガスとして、円管12の内部を上昇し、カス捕捉機構30によって捕捉される。捕捉された可燃性ガスは、ガス濃度計21によって、その濃度が測定される。
【0040】
データ処理装置201は、ガス濃度計21で測定されたガス濃度の検出値が、大きく増加し、所定のしきい値を超えるときに、その増加は、観測井戸管内5へのガス噴出によると判定する。この判定により、地表への可燃性ガスの噴出を予測することができる。
【0041】
また、圧力計22で気圧が測定されており、データ処理装置201は、ガス濃度計21で測定されたガス濃度の検出値の増加と、圧力計22で測定された気圧の検出値の大きな低下の双方を考慮することにより、観測井戸管内5へのガス噴出の原因は、気圧低下によっていると判定する。また、データ処理装置201は、その地表への可燃性ガスの噴出を予測した後、圧力計22で、その低下した気圧が継続して測定され、その低下した気圧の検出値が継続している間は、地表への可燃性ガスの噴出の継続を予測することができる。
【0042】
地下水に溶存する可燃性ガスは主にメタンガスで、そのメタンガスの大気中での通常の濃度は、0.00018から0.0002%であり、その値がデータ処理装置201に取り込まれている。取り込まれた濃度は、ゼロないし、ほとんどないと処理される。一方、メタンガスの爆発下限の濃度は約5%であるのに対し、地下工事などでは、地下からの可燃性ガス噴出による爆発事故を防止するために、坑内で作業するとき、その坑内のメタンガス濃度が0.25%になると、火気使用を制限しなければならないなどの、安全上の対策が講じられるようになっている。その値を、一つのしきい値とし、観測井戸管内5のガス濃度が、そのしきい値を超えて増加するときに、そのガス濃度の増加は、その観測井戸管内5への噴出があると判定することができる。
【0043】
つまり、本実施形態では、「観測井戸管内5へ可燃性ガス噴出があると判定するしきい値」は、0.25%が例示される。この濃度は、大気中の通常のメタンガス濃度に対して、1,000倍以上であり、この濃度増加は、変化として明らかであり、この判定により、気圧低下時に生じる地表への可燃性ガスの噴出を高い確率で予測することができる。
【0044】
また、大きく低下する気圧とは、数日前までの気圧の平均値に対して、一定の気圧低下値(例えば、20hPa(ペクトパスカル)程度の気圧低下)以上になることとし、その気圧低下が発生したとき、観測井戸管内5への可燃性ガスの噴出の原因を気圧低下と判定することができる。一定の気圧低下値は、その時の気圧変化の実態に合わせて、適宜設定する。
【0045】
データ処理装置201は、上述の地表への可燃性ガスの噴出を予測する予測手段、及びその継続を予測する予測継続手段に従い、警報装置202を作動させ、周囲の人々に注意を喚起するとともに、電力遮断装置203を作動させ、建物205及びその周辺の電気機器等への電力の供給を遮断する等の防災上の対策をとることができる。
【0046】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。本実施形態1では、観測井戸2は、表層側から順に土砂層101、難透水層102、帯水層103、で構成された地盤を対象に、帯水層103の深さにまで、ほぼ鉛直に埋設されている。これに限らず、例えば、帯水層の下側に難透水層及び第2帯水層(地下水層)が存在している場合には、観測井戸2を、第2帯水層まで埋設してもよい。
【実施形態2】
【0047】
本実施形態2による可燃性ガス噴出危険度判定装置3について、図2、及び図5を参照しながら説明する。
【0048】
可燃性ガス噴出危険度判定装置3の構成は、可燃性ガス噴出予測装置1と共通する部分が多いことから、この共通する部分についての説明は省略し、主に相違点について説明する。
【0049】
可燃性ガス噴出危険度判定装置3は、観測井戸2と、ガス濃度計21と、圧力計22と、データ処理装置206に加えて、密閉空間210を画定する密閉蓋15と、密閉空間210の圧力を変化させる圧力ポンプ34とを備えている。密閉蓋15は開閉機能を有している。ガス濃度計21、及び圧力計22の測定値は、データ処理装置206に取り込まれ記憶される。データ処理装置206は、観測井戸管内5への可燃性ガスの噴出を判定する判定手段、及び地表への可燃性ガスの噴出の危険度を判定する危険度判定手段に用いられる。
【0050】
観測井戸管内5に設置する密閉蓋15を閉じた状態にすることにより、圧力ポンプ34を用いて、密閉空間210を減圧することができ、一定時間の減圧によって、観測井戸管内5への可燃性ガスの噴出を判定する試験を行う。
試験は、段階的に減圧値を大きくし、複数回行う。
各段階での可燃性ガスの噴出を判定する試験の終了時、減圧によって、密閉空間210の地下水面が上昇する等、その密閉空間210の初期の自然状態が変化する。その状態では継続して試験を行うことができないため、密閉蓋15を開いた状態にすることにより、密閉空間210の気圧・ガス濃度を初期の自然状態に戻すことができ、その後、再度、密閉蓋15を閉じた状態にすることにより、1段階大きな減圧値で同様の試験を行うことができる。なお、密閉蓋15の開閉機能を有する方法として、密閉蓋に開閉バルブを設けてもよい。
【0051】
可燃性ガス噴出危険度判定装置3を用いた、地表への可燃性ガスの噴出の危険度判定について説明する。
【0052】
先ず、可燃性ガス噴出予測装置1と同じように、データ処理装置206は、ガス濃度計21で測定されたガス濃度の検出値が、大きく増加し、所定のしきい値を超えるときに、その増加は、観測井戸管内5へのガス噴出によると判定する。次に、地表への可燃性ガス噴出の危険度は、「ガス濃度が所定のしきい値を超えて増加するときの減圧値」から、以下のように判定する。
【0053】
その試験結果は、図5の模式図に示すように、地下水に溶存する可燃性ガスの状態によって、3つのパターンに大別できる。なお、この図においては、減圧値を6段階で設定している。
【0054】
パターン1は、小さい減圧値で、ガス濃度が所定のしきい値を超えるときで、パターン2は、比較的大きい減圧値で、ガス濃度が所定のしきい値を超えるときで、また、パターン3は、大きい減圧値でも、ガス濃度が所定のしきい値を超えないときである。各パターンでの地表への可燃性ガス噴出危険度判定は、次の通りとなる。
【0055】
パターン1の場合、減圧値2程度の小さい気圧低下で、地下水に溶存する可燃性ガスが遊離し、地表へ噴出したと判定できる。つまり、地下水に溶存する可燃性ガスは、小さい圧力低下でも過飽和になり、気圧低下等の自然条件の変化による地表への可燃性ガスの噴出の危険度は高いと判定できる。
【0056】
パターン2の場合、減圧値5程度の比較的大きい気圧低下で、地下水に溶存する可燃性ガスが遊離し、地表へ噴出したと判定できる。つまり、地下水に溶存する可燃性ガスは、比較的大きい圧力低下で過飽和になり、気圧低下等の自然の条件の変化による地表への可燃性ガスの噴出の危険度はあまり高くないと判定できる。
【0057】
パターン3の場合、減圧値6程度の大きい気圧低下でも、地下水に溶存する可燃性ガスが遊離せず、地表への噴出はないと判定できる。つまり、地下水層に溶存する可燃性ガスは、大きい圧力低下でも過飽和にならず、気圧低下等の自然条件の変化による地表への可燃性ガスの噴出の危険度は低いと判定できる。
【0058】
なお、この試験は、自然状態を維持し、気圧のみを変化させ、減圧値の小さい順に、図5に示すように複数回行うが、減圧によって一度可燃性ガスが遊離・噴出すると、その後は、その初期の自然状態の一つである地下水に溶存する可燃性ガスの状態が変化してしまう。そのため、「ガス濃度が所定のしきい値を超えて増加するときの減圧値」が得られた時点で、この可燃性ガスの噴出を判定する試験は終了となる。例えば、図5に示すパターン1では、減圧値2で、また、パターン2では、減圧値5で、各々のガス濃度がしきい値を超えたと判定され、各々の試験は、その減圧値2及び5で終了としている。
【0059】
図5の模式図において、メタンガス濃度の所定のしきい値を、0.25%とし、パターン1及び2で、そのガス濃度が0.25%であるとし、観測井戸管内5へ可燃性ガスの噴出があると判定していることを示しているが、メタンガス濃度のしきい値は、実態に合わせて、適宜、定める。
【0060】
パターン3に示すように、地表への可燃性ガスの噴出の危険度は低いと判定される地域では、気圧が低下しても、地表へ可燃性ガスが噴出する可能性は低く、可燃性ガス噴出予測装置1で、その噴出予測を行う必要性は高くない。逆に、パターン1のように、地表への可燃性ガスの噴出の危険度が高いと判定される地域では、気圧低下時、可燃性ガス噴出予測装置1で、その噴出予測を確実に行う必要があり、さらに、減災のために、その警報等の受発信体制を整えておく必要がある。
【符号の説明】
【0061】
符号の説明
1 可燃性ガス噴出予測装置
2 観測井戸
3 可燃性ガス噴出危険度判定装置
5 観測井戸管内
15 密閉蓋
21 ガス濃度計
22 圧力計
30 ガス捕捉機構
34 圧力ポンプ
201 データ処理装置
206 データ処理装置
210 密閉空間
捕捉ガス
図1
図2
図3
図4
図5