(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-13
(45)【発行日】2023-09-22
(54)【発明の名称】フットカバー
(51)【国際特許分類】
A41B 11/00 20060101AFI20230914BHJP
【FI】
A41B11/00 B
A41B11/00 J
(21)【出願番号】P 2018229040
(22)【出願日】2018-12-06
【審査請求日】2021-12-01
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年3月27日に、タビオ奈良株式会社に納品して、タビオ株式会社に販売、平成30年10月23日-平成30年10月25日、平成30年11月1日、平成30年11月2日に、タビオ株式会社主催の「19SS タビオ 内見会及び店長会」にて公開
(73)【特許権者】
【識別番号】396012953
【氏名又は名称】三陽メリヤス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【氏名又は名称】宮地 正浩
(72)【発明者】
【氏名】村島 和徳
(72)【発明者】
【氏名】久津輪 洋昭
【審査官】冨江 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2017-0133587(KR,A)
【文献】登録実用新案第3211514(JP,U)
【文献】特開2001-164405(JP,A)
【文献】韓国特許第10-1571692(KR,B1)
【文献】特開2016-35129(JP,A)
【文献】特開2014-133952(JP,A)
【文献】特開2016-69750(JP,A)
【文献】特開2015-158031(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41B11/00-11/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
履き口が上面に形成され、
前記履き口の前方に位置する前方袋部と、前記履き口の下方に位置する足底部と、前記履き口の後方に位置する踵部と、を備えたフットカバーであって、
前記踵部における前記履き口の後方縁部に沿った上方帯状領域に、前記踵部における当該上方帯状領域より下方側の領域よりも弾性が高い高弾性踵上端帯状部が設けられており、
前記履き口の両側方縁部が、往復編みで編成された前記足底部の両側方端部として構成されており、
前記履き口の両側方縁部における後方部分から後方の踵部に向けて延出する踵部ゴアラインが設けられており、
前記履き口の両側方縁部
における前記踵部ゴアラインよりも前方側の複数個所から
下方の足底に向けて延出する複数の側部ゴアラインが
前後方向に分散して設けられて
いると共に、当該複数の側部ゴアラインの夫々が前記踵部ゴアラインよりも短尺に形成されているフットカバー。
【請求項2】
前記履き口の後方縁部が、前記踵部の上方端部を折り返してなる折り返し部として構成され、
前記高弾性踵上端帯状部が、前記折り返し部の下縁部に隣接して設けられている請求項1に記載のフットカバー。
【請求項3】
前記踵部における少なくとも前記高弾性踵上端帯状部の内面に、高摩擦材料製の滑り止め部が設けられている請求項1
又は2に記載のフットカバー。
【請求項4】
前記履き口の前方縁部を通って全周にわたる帯状領域に、前記足底部における他の領域よりも前後方向での伸縮性が高い高伸縮前方帯状部が設けられている請求項1~
3の何れか1項に記載のフットカバー。
【請求項5】
前記足底部における周方向に延びる前記履き口の両側方縁部間の帯状領域に、前記足底部における他の領域よりも前後方向での伸縮性が高い高伸縮足底帯状部が設けられている請求項1~
4の何れか1項に記載のフットカバー。
【請求項6】
前記前方袋部において少なくとも前記履き口の前方縁部の両端部の前方側の部分に、前記足底部よりも前後方向での伸縮性が低い低伸縮部が設けられている請求項1~
5の何れか1項に記載のフットカバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、履き口が上面に形成され、前記履き口の前方に位置する前方袋部と、前記履き口の下方に位置する足底部と、前記履き口の後方に位置する踵部と、を備えたフットカバーに関する。
【背景技術】
【0002】
靴下の一種として、スニーカやパンプス等の靴を履くときに着用しても、殆どが靴の内側に隠れて見えなくなって、素足で靴を履いているように見えるフットカバーが知られている。
かかるフットカバーは他の普通の靴下に比べて履き口が大きく開口しているため、フットカバーの踵部が歩行中にずれて脱げてしまうという問題がある。
そして、このような問題を解決するフットカバーとして、踵部の略中央の後方膨出部分の内面にシリコン樹脂製の滑り止め部が設けられたもの(例えば特許文献1を参照。)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フットカバーの踵部は、着用者の踵の形状に沿って後方に膨出する部分であり、好適な装着感を確保するべく比較的柔軟な編地として構成されている。よって、このような柔軟な踵部では、略中央部の内面に設けられた滑り止め部を着用者の踵表面に押し付けるための力が生じ難くなり、フットカバーの踵部のずれ防止効果が十分に発揮できない場合があった。
また、フットカバーの踵部における略中央部の内面に厚みを有する滑り止め部を設けた場合には、その滑り止め部に対応する踵部の外面に凸部が形成される。すると、このフットカバーの踵部外面に形成された凸部が、靴の踵部内面に当接して、両者の間に比較的大きな摩擦力が生じる。そして、このような摩擦力が生じることにより、靴の内部でフットカバーの踵部が着用者の踵からずれるという問題が発生する場合がある。
【0005】
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、踵部やつま先部でのずれを好適に防止することが可能なフットカバーを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1特徴構成は、履き口が上面に形成され、
前記履き口の前方に位置する前方袋部と、前記履き口の下方に位置する足底部と、前記履き口の後方に位置する踵部と、を備えたフットカバーであって、
前記踵部における前記履き口の後方縁部に沿った上方帯状領域に、前記踵部における当該上方帯状領域より下方側の領域よりも弾性が高い高弾性踵上端帯状部が設けられている点にある。
【0007】
本構成によれば、着用時に履き口が前後方向に伸張する際に、履き口が着用者の足首周りで広がると、踵部の上方帯状領域に設けられた高弾性踵上端帯状部が履き口の縁部に沿って伸張することで、履き口の両側方縁部の後端部を後方に引き寄せる方向に、高弾性踵上端帯状部に比較的大きな張力が生じる。このように高弾性踵上端帯状部に張力が生じることで、着用者の踵上方の窪み(アキレス腱部の窪み)へ引っ掛かる履き口の後方縁部の両端部に対して、前方へ向かう引き寄せ力が作用することになり、フットカバーの踵部のずれを好適に防止することができる。
更に、このような高弾性踵上端帯状部に生じた張力が履き口の両側縁部を通じて前方に伝達されることで、履き口の前方縁部の両端部に対して、後方に向かう引き寄せ力が作用することになるので、例えば履き口を前方に大きくとった場合であっても、フットカバーのつま先部のずれを好適に防止することができる。
また、高弾性踵上端帯状部が前方にある履き口の両側方縁部に向かって伸縮性が高くなるので、踵部における当該高弾性踵上端帯状部よりも下方側を着用者の踵にフィットする膨らみを持った形状にして、フットカバーの踵部のずれを一層好適に防止することができる。
従って、本発明により、踵部やつま先部でのずれを好適に防止することが可能なフットカバーを提供することができる。
【0008】
本発明の第2特徴構成は、前記履き口の後方縁部が、前記踵部の上方端部を折り返してなる折り返し部として構成され、
前記高弾性踵上端帯状部が、前記折り返し部の下縁部に隣接して設けられている点にある。
【0009】
本構成によれば、履き口の後方縁部を上記折り返し部として構成することで、着用者の踵上方の窪みへの履き口の後方縁部の引っ掛かりを良好なものとして、踵部のずれを一層防止することができる。
更に、このような折り返し部は、踵部の上方端部を折り返して構成されているので、それ以外の踵部の編地よりも伸縮性が低くなる。よって、履き口が着用者の足首周りで広がると、履き口の後方縁部として構成された折り返し部が履き口の縁部に沿って伸張することで、履き口の両側方縁部の後端部を後方に引き寄せる方向に、折り返し部に比較的大きな張力が生じる。
そして、この折り返し部に生じる張力とその下方側に隣接する高弾性踵上端帯状部に生じる張力とが合わさることで、履き口の後方縁部の両端部と履き口の前方縁部の両端部とを内側へ向かう引き寄せ力を増加させて、フットカバーの踵部及びつま先部のずれを一層好適に防止することができる。
【0010】
本発明の第3特徴構成は、前記踵部における少なくとも前記高弾性踵上端帯状部の内面に、高摩擦材料製の滑り止め部が設けられている点にある。
【0011】
本構成によれば、踵部の上方帯状領域に設けられた高弾性踵上端帯状部に生じる張力により、少なくともその内面に設けられた滑り止め部が、比較的大きな引き寄せ力で着用者の踵上方の表面に押し付けられることになる。よって、着用者の踵上部の表面に対する滑り止め部の摩擦力を増加させることができ、フットカバーの踵部のずれを一層良好に防止することができる。
【0012】
本発明の第4特徴構成は、前記履き口の両側方縁部の複数個所から足底に向けて延出する複数の側部ゴアラインが設けられている点にある。
【0013】
本構成によれば、履き口の両側方縁部の複数個所から下方の足底に向けて延出する複数の側部ゴアラインが設けられているので、足底部は十分な膨らみを持ったものとなる。よって、ずれや脱げることを防止するべく履き口の両側方縁部に高弾性踵上端帯状部で生じた張力が伝達される場合であっても、着用者に対して窮屈な装着感を与えることを抑制することができる。
【0014】
本発明の第5特徴構成は、前記履き口の前方縁部を通って全周にわたる帯状領域に、前記足底部における他の領域よりも前後方向での伸縮性が高い高伸縮前方帯状部が設けられている点にある。
【0015】
本構成によれば、履き口の前方縁部には全周にわたる帯状領域に前後方向に伸縮性が高い高伸縮前方帯状部が設けられているので、前方袋部と足底部との境界部に位置する高伸縮前方帯状部の下半周部の幅が柔軟に変化する形態で、前後方向に柔軟に伸縮自在となる。このことで、ずれや脱げることを防止するべく履き口の両側方縁部に対して高弾性踵上端帯状部で生じた張力が伝達される場合であっても、着用者に対して窮屈な装着感を与えることを抑制することができる。更に、高伸縮前方帯状部の下半周部が前後方向に伸長して前方袋部の下面部分が足底部に対して前方側に変位することに伴って、着用者の足甲に沿う前方袋部の上面部分が後方側の履き口に向けて変位することになるので、当該前方袋部が着用者のつま先から脱げることを抑制できる。
【0016】
本発明の第6特徴構成は、前記足底部における周方向に延びる前記履き口の両側方縁部間の帯状領域に、前記足底部における他の領域よりも前後方向での伸縮性が高い高伸縮足底帯状部が設けられている点にある。
【0017】
本構成によれば、足底部にはそれを横断する帯状領域に前後方向に伸縮性が高い高伸縮足底帯状部が設けられているので、その高伸縮足底帯状部の幅が柔軟に変化する形態で、履き口の両側方縁部を除く足底部が前後方向に柔軟に伸縮自在となる。このことで、ずれや脱げることを防止するべく履き口の両側方縁部に高弾性踵上端帯状部で生じた張力が伝達される場合であっても、着用者に対して窮屈な装着感を与えることを抑制することができる。
【0018】
本発明の第7特徴構成は、前記前方袋部において少なくとも前記履き口の前方縁部の両端部の前方側の部分に、前記足底部よりも前後方向での伸縮性が低い低伸縮部が設けられている点にある。
【0019】
本構成によれば、履き口の前方に位置する前方袋部に上記低伸縮部が設けられているので、着用時に全体が前後方向に伸張する際に、上記低伸縮部での前後方向の伸張が足底部よりも抑制されることになる。すると、上記低伸縮部から履き口の前方縁部の両端部に対して前方へ向かう引き寄せ力が生じ、その引き寄せ力が履き口の側方縁部を通じて後方に伝達される。
そして、この前方の低伸縮部によって生じる引張力と後方の高弾性踵上端帯状部によって生じる引き寄せ力とが合わさることで、履き口の後方縁部の両端部と履き口の前方縁部の両端部とを内側へ向かう引き寄せ力を増加させて、フットカバーの踵部及びつま先部のずれを一層好適に防止することができる。
【0020】
本発明の第8特徴構成は、前記履き口の両側方縁部が、往復編みで編成された前記足底部の両側方端部として構成されている点にある。
【0021】
本構成によれば、往復編みの両側方端部についてはウェール方向(編地の縦方向)の伸縮性が低下することを利用して、履き口の両側方縁部を往復編みで編成された足底部の両側方端部として構成することで、踵部の上方帯状領域に設けられた高弾性踵上端帯状部から履き口の両側方縁部の後方端部に伝達された引き寄せ力を、伸縮性が低い履き口の両側方縁部を通じて確実に前方側へ作用させることができる。よって、履き口の後方縁部の両端部及び履き口の前方縁部の両端部に対して、内側の履き口の両側方縁部に向かう引き寄せ力を確実に作用させて、フットカバーの踵部及びつま先部のずれを一層好適に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図2】第1実施形態に係るフットカバーの踵部を内面側から見た部分図
【発明を実施するための形態】
【0023】
〔第1実施形態〕
本発明に係るフットカバーの第1実施形態について、
図1及び
図2に基づいて説明する。
本実施形態のフットカバー50は、
図1に示すように、履き口10が上面に形成され、その履き口10の前方に位置する前方袋部1と、その履き口10の下方に位置する足底部6と、その履き口10の後方に位置する踵部7と、を備えて構成されている。尚、このようなフットカバー50は、公知の全自動丸編み機によって一体的に編成することができる。
【0024】
フットカバー50は、前後方向に伸張させながら履き口10に足を挿入して着用され、着用時において履き口10からは、着用者の足首と足甲の大部分が露出された状態となる。よって、スニーカやパンプス等の靴を履くときにこのようなフットカバー50を着用すると、その殆どが靴の内側に隠れて見えなくなり、素足で靴を履いているように見える。
【0025】
履き口10の前方に位置する前方袋部1は、全周丸編みで編成されたリング部3と当該リング部3の下半周部からつま先を包むように往復編みで編成されてリング部3の上半周部に対してリンキング等による縫合部12で縫合されたつま先部2とで構成されている。尚、このつま先部2の両側面には、当該つま先部2を立体的に膨らむように形成するために、縫合部12の両端部から前方に延出するゴアライン13が設けられている。尚、本実施形態において、前方袋部1は、後述する低伸縮部4を除いて、通常のメリヤス編みにより編成されている。また、ゴアライン13の形状については、先端を二又に分割するなどのように適宜変更可能である。
【0026】
履き口10の下方に位置する足底部6は、リング部3の下半周部から着用者の足底や足側部に沿って往復編みにより編成されている。履き口10の後方に位置する踵部7は、足底部6の後方から着用者の踵を包むように往復編みで編成されている。尚、踵部7の両側面には、当該踵部7を立体的に膨らむように形成するために、履き口10の両側方縁部10sの後方部分から後方に延出するゴアライン14が設けられている。尚、足底部6及び踵部7は、後述する折り返し部8を除いて、通常のメリヤス編みにより編成されている。また、ゴアライン14の形状については、先端を二又に分割するなどのように適宜変更可能である。
【0027】
履き口10は、リング部3の上半周部の後方端部となる前方縁部10fと、足底部6の両側方端部となる両側方縁部10sと、踵部7の上方端部となる後方縁部10rとで囲われた開口として形成されている。
【0028】
以上がフットカバー50の基本構成であるが、本実施形態のフットカバー50は、装着製に優れていながら、踵部7やつま先部2でのずれを好適に防止するための特徴構成を有する。以下に、その特徴構成について説明を加える。
【0029】
図1に示すように、踵部7における履き口10の後方縁部10rに沿った上方帯状領域には、踵部7における当該上方帯状領域より下方側の通常のメリヤス編みで編成された領域よりも弾性が高い高弾性踵上端帯状部20が設けられている。この高弾性踵上端帯状部20は、ゴム糸などの伸縮性が高い糸を用いたメリヤス編みで編成されているが、例えばゴム糸などの伸縮性の高い糸を添えて弾性を高めるように編成しても構わない。
【0030】
更に、履き口10の後方縁部10rが、踵部7の上方端部を2重に折り返してなる折り返し部8として構成されており、上記高弾性踵上端帯状部20は、当該折り返し部8の下縁部に隣接して設けられている。尚、本実施形態では、高弾性踵上端帯状部20と折り返し部8とを隣接させているが、それらの間に通常のメリヤス編み部分を介在させるように構成しても構わない。
また、この折り返し部8には、ゴム糸などの伸縮性が高い糸が緯方向に挿入されている。即ち、折り返し部8は、他の部分よりも厚みがあって左右方向に高弾性の部分として構成されることになる。
これらのことにより、折り返し部8及び高弾性踵上端帯状部20が配置された履き口10の後方縁部10rは、着用者の踵上方の窪みへの引っ掛かりが良好なものとなって、踵部7のずれが抑制されることになる。
【0031】
このような構成により、着用時に履き口10が前後方向に伸張する際に、履き口10が着用者の足首周りで広がると、履き口10の後方縁部10rに設けられた高弾性踵上端帯状部20及び折り返し部8が履き口10の縁部に沿って伸張する。すると、履き口10の両側方縁部10sの後端部に対して、後方に向かう比較的大きな引き寄せ力が生じる。
そして、このような引き寄せ力が生じることで、着用者の踵上方の窪みへ引っ掛かる履き口10の後方縁部10rの両端部に対しては、前方へ引き寄せる反力が作用することになり、フットカバー50の踵部7のずれが好適に防止される。
一方、この引き寄せ力が履き口10の両側縁部を通じて前方に伝達されることで、履き口10の前方縁部10fの両端部に対しても、後方に向かう引き寄せ力が作用することになり、例えば履き口10を前方に大きくとった場合であっても、フットカバー50のつま先部2の特に小指部分などのずれが好適に防止される。
【0032】
図2にも示すように、踵部7の内面には、シリコンゴム、天然ゴム、ポリウレタン等の高摩擦材料製の滑り止め部9が設けられている。この滑り止め部9は、少なくとも高弾性踵上端帯状部20の内面に位置しており、具体的には、上下方向において高弾性踵上端帯状部20を若干はみ出す幅を有する滑り止め部9が、最も後方となる中心部とその左右両側との3箇所に配置されている。
【0033】
このように設けられた滑り止め部9は、高履き口10の側方縁部10sに沿って設けられた高弾性踵上端帯状部20に生じる張力により、着用者の踵上方の表面に好適に押し付けられる。そして、このような押し付け力により、滑り止め部9と着用者の踵上部の表面との間に比較的大きな摩擦力が生じ、その大きな摩擦力により、フットカバー50の踵部7のずれが一層好適に防止されることになる。
尚、滑り止め部9の形状や配置状態については適宜変更することができ、更に、当該滑り止め部9については省略しても構わない。
【0034】
足底部6には、履き口10の両側方縁部10sの例えば3箇所等の複数個所から下方の足底に向けて延出する複数の側部ゴアライン15が設けられており、これら複数の側部ゴアライン15により、足底部6は十分な膨らみを持ったものとなる。よって、ずれや脱げることを防止するべく履き口10の両側方縁部10sに対して高弾性踵上端帯状部20で生じた張力が伝達される場合であっても、着用者に対して窮屈な装着感を与えることが抑制されている。尚、この側部ゴアライン15については、適宜その形状や配置状態を変更したり省略しても構わない。
【0035】
図1に示すように、前方袋部1において少なくとも履き口10の前方縁部10fに沿った帯状領域には、足底部6において通常のメリヤス編みで編成された他の領域よりも前後方向での伸縮性が低い低伸縮部4が設けられている。具体的には、低伸縮部4は、前方袋部1の後方側を構成するリング部3において、上中央部から左右に延びる比較的幅が狭い帯状であって、その両端部を履き口10の前方縁部10fの両端部よりも若干下方側に位置させたものとして編成されている。そして、この低伸縮部4の両端部は、前方袋部1において少なくとも履き口10の前方縁部10fの両端部の前方側の領域に設けられ、足底部6よりも前後方向での伸縮性が低い部分となる。
【0036】
また、低伸縮部4の前後方向の幅が比較的狭いものとされている。すると、着用者の足甲に沿う上面部分において、前後方向での伸縮性の低下が適度に抑制される。このことで、前後方向において突っ張るなどの低伸縮部4に起因する装着感の悪化が抑制されている。
【0037】
編地のウェール方向(縦方向)に相当するフットカバー50の前後方向において足底部6よりも伸縮性が低い低伸縮部4については、様々な方法により構成することができる。
例えば、足底部6が通常のメリヤス編みで編成されているのに対して、ウェール方向に伸び難い性質を有するタック編みにより低伸縮部4を編成することで、当該低伸縮部4の伸縮性を足底部6よりも低くすることができる。
【0038】
また、このような低伸縮性の低伸縮部4は、例えば、給糸に高弾性又は非伸縮性等の添え糸や後の熱処理で硬化する熱融着糸を添えたメリヤス編み等で編成することでも、低伸縮部4の伸縮性を低下させることができる。また、上記以外の編成方法、例えば鹿の子編みやゴム編み等によっても、低伸縮性の低伸縮部4を編成することができる。また、この低伸縮部4は、塩化ビニルやシリコン製のラミネートを高温で定着させてなるプリント部として構成したり、低伸縮部4の編地に別の布地を縫合又は接着して2重構造とすることでも、当該低伸縮部4の伸縮性を低下させることができる。
【0039】
このような低伸縮部4が前方袋部1のリング部3に設けられていることで、着用時に全体が前後方向に伸張する際に、上記低伸縮部4での前後方向の伸張が足底部6よりも抑制されることになる。すると、上記低伸縮部4の特に履き口10の前方縁部10fの両端部の前方側にある低伸縮部4から履き口10の前方縁部10fの両端部に対して前方へ向かう引き寄せ力が生じ、その引き寄せ力が履き口10の側方縁部10sを通じて履き口10の後方縁部10rの両端部に伝達されることになる。
【0040】
このように履き口10の後方縁部10rの両端部に前方へ向かう引き寄せ力が作用すると、当該履き口10の後方縁部10rが着用者の踵上方の窪みに対して良好に引っ掛かり、その状態が維持される。このことで、踵部7が歩行中にずれることを一層好適に防止することができる。
更に、後方縁部10rに伝達される引き寄せ力により、履き口10の後方縁部10rに設けられた高弾性踵上端帯状部20の内面に設けられた滑り止め部9が、比較的大きな力で着用者の踵上方の表面に押し付けられる。このことにより、着用者の踵上部の表面に対する滑り止め部9の摩擦力が増加し、結果、フットカバー50の踵部7のずれが一層良好に防止されることになる。
【0041】
前方袋部1において全周丸編みで編成されたリング部3において、低伸縮部4の両端部が、履き口10の前方縁部10fの両側方縁部10sに対する接続部である両端部の前方側の部分に設けられたものとなる。このことから、着用時において、低伸縮部4の両端部からその直後方側に位置する履き口10の両側方縁部10sの前端部に対して良好に前方へ向かう引き寄せ力が作用し、履き口10の後方縁部10rの両端部に伝達される引き寄せ力が増加する。よって、着用者の踵上方の表面に対する滑り止め部9の押し付け力が増加し、結果、踵部7のずれが一層防止される。
【0042】
更に、低伸縮部4が、履き口10の前方縁部10fに沿った帯状の部分として構成されているので、着用時において、履き口10の前方縁部10f全体を前方へ向かう引き寄せ力が生じることになり、着用者の足甲が履き口10から一層大きく露出することになる。
【0043】
往復編みの両側方端部についてはウェール方向の伸縮性が低下することから、往復編みで編成された足底部6の両側方端部として構成された履き口10の両側方縁部10sは、足底部6の中央部側よりもウェール方向の伸縮性が低下する。このことから、履き口10の前方縁部10fの両端部及び履き口10の後方縁部10rの両端部に対して、それらを前後方向に接続する履き口10の両側方縁部10sから確実に内側へ向かう引き寄せ力を伝達されることになるので、踵部7やつま先部2でのずれが一層防止される。
【0044】
履き口10の前方縁部10fを通って全周にわたる帯状領域には、足底部6において通常のメリヤス編みで編成された他の領域よりも前後方向での伸縮性が高い高伸縮前方帯状部5が編成されている。そして、高伸縮前方帯状部5の略上半周部の前方に低伸縮部4が隣接して設けられており、高伸縮前方帯状部5の略上半周部の後方に履き口10の前方縁部10fが隣接配置されている。尚、本実施形態では、高伸縮前方帯状部5と低伸縮部4とを隣接させているが、それらの間に通常のメリヤス編み部分を介在させるように構成しても構わない。
【0045】
前方袋部1と足底部と6の境界部に位置する高伸縮前方帯状部5の下半周部は、その幅が柔軟に変化することで前後方向に柔軟に伸縮自在となる。よって、ずれや脱げることを防止するべく履き口10の両側方縁部10sに対して高弾性踵上端帯状部20で生じた張力が伝達される場合であっても、着用者に対して窮屈な装着感を与えることが抑制されている。更に、高伸縮前方帯状部5の下半周部が前後方向に伸長して前方袋部1の下面部分が足底部6に対して前方側に変位することに伴って、着用者の足甲に沿う前方袋部1の上面部分が後方側の履き口10に向けて変位することになるので、当該前方袋部1が着用者のつま先の特に小指などから脱げることが抑制されている。このような高伸縮前方帯状部5は、ゴム糸などの伸縮性が高い糸を表糸として用いたゴム編みで編成することで、前後方向(編地の縦方向)及び周方向(編地の緯方向)の伸縮性を向上させたものとして構成できる。尚、この高伸縮前方帯状部5については、適宜その形状や配置状態を変更したり省略しても構わない。
【0046】
〔第2実施形態〕
本発明に係るフットカバーの第2実施形態について、
図3に基づいて説明する。
尚、本実施形態は、前述の第1実施形態に対して、後述する高伸縮足底帯状部25を追加で備える点のみが相違する。よって、以下の説明において、前述の第1実施形態と同様の構成については、図面にて同じ符号を付すと共に、詳細な説明を割愛する場合がある。
【0047】
本実施形態のフットカバー51は、
図3に示すように、足底部6における周方向に延びる前記履き口10の両側方縁部10s間の帯状領域には、足底部6における通常のメリヤス編みで編成された他の領域よりも前後方向での伸縮性が高い高伸縮足底帯状部25が編成されている。
高伸縮足底帯状部25は、その幅が柔軟に変化することで、履き口10の両側方縁部10sを除く足底部6が前後方向に柔軟に伸縮自在となる。よって、ずれや脱げることを防止するべく履き口10の両側方縁部10sに対して高弾性踵上端帯状部20で生じた張力が伝達される場合であっても、着用者に対して窮屈な装着感を与えることが抑制されている。このような高伸縮足底帯状部25は、ゴム糸などの伸縮性が高い糸を用いたメリヤス編みで編成することで、前後方向(編地の縦方向)及び周方向(編地の緯方向)の伸縮性を向上させたものとして構成できる。尚、この高伸縮足底帯状部25については、適宜その形状や配置状態を変更したり省略しても構わない。
【0048】
〔別実施形態〕
本発明の他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用することに限らず、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0049】
(1)上記実施形態では、高弾性踵上端帯状部20とは別に、低伸縮部4や高伸縮前方帯状部5や高伸縮足底帯状部25等を設けたが、これらは適宜改変又は省略しても構わない。
【0050】
(2)上記実施形態では、履き口10の前方に位置する前方袋部1を、全周丸編みで編成したリング部3と往復編みで編成したつま先部2とで構成したが、例えば、リング部3を省略して、往復編みのみでつま先を包むように前方袋部1を編成しても構わない。
【0051】
(3)上記実施形態では、履き口10の後方縁部10rを、踵部7の上方端部を折り返してなる折り返し部8として構成したが、踵部7の上方端部を折り返すことなく例えばゴム編み等を施して履き口10の後方縁部10rを構成しても構わない。
【0052】
(4)上記実施形態では、周方向に沿った帯状領域に前後方向での伸縮性が高い高伸縮前方帯状部5や高伸縮足底帯状部25を設けたが、これらの代わりに、同様の帯状領域に周方向での弾性が高い高弾性帯状部を設けても構わない。即ち、このような高弾性帯状部は、着用時において周方向で収縮して、着用者の足指の付け根付近や土踏まず付近の窪みに密着することで、前後方向でのずれを防止することができる。また、このような高弾性帯状部は、通常のゴム編みで編成できるが、例えばゴム糸などの伸縮性が高い糸を添えて弾性を高めるように編成しても構わない。
【符号の説明】
【0053】
1 前方袋部
2 つま先部
4 低伸縮部
6 足底部
7 踵部
8 折り返し部
9 滑り止め部
10 履き口
10f 前方縁部
10r 後方縁部
10s 側方縁部
15 側部ゴアライン
20 高弾性踵上端帯状部
25 高伸縮足底帯状部
50,51 フットカバー