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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-13
(45)【発行日】2023-09-22
(54)【発明の名称】応力測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01L 1/12 20060101AFI20230914BHJP
【FI】
G01L1/12
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019172921
(22)【出願日】2019-09-24
(65)【公開番号】P2021050966
(43)【公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】595067442
【氏名又は名称】システム計測株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小原 賢二
(72)【発明者】
【氏名】久保 豊
(72)【発明者】
【氏名】中西 義隆
【審査官】大森 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-028733(JP,A)
【文献】特開2007-298336(JP,A)
【文献】特開2003-177170(JP,A)
【文献】特開2005-345264(JP,A)
【文献】特開平03-084613(JP,A)
【文献】特開2001-050831(JP,A)
【文献】特開2005-207800(JP,A)
【文献】特開平05-196513(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0092358(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 1/12,3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被応力測定物を励磁させた際に検出される検出電圧によって作用している応力を測定する応力測定装置であって、
対角に配置されて導線が巻き付けられた一対の軸部を有する第1コイルと、
前記第1コイルの配列方向に直交して配列される前記第1コイルと同様の構成の第2コイルと、
励磁された前記被応力測定物に流れる磁束を前記第1コイルに検出させるための第1スイッチ機構と、
励磁された前記被応力測定物に流れる磁束を前記第2コイルに検出させるための第2スイッチ機構と、
前記第1コイルに交流電流を流して前記被応力測定物を励磁させるための第3スイッチ機構と、
前記第2コイルに交流電流を流して前記被応力測定物を励磁させるための第4スイッチ機構と、
前記第1スイッチ機構及び前記第2スイッチ機構に接続されるアナログ/デジタル変換器と、
前記第3スイッチ機構に接続される第1デジタル/アナログ変換器と、
前記第4スイッチ機構に接続される第2デジタル/アナログ変換器と、
前記アナログ/デジタル変換器、前記第1デジタル/アナログ変換器及び前記第2デジタル/アナログ変換器を制御する演算処理部とを備え
前記演算処理部は、前記被応力測定物に作用している応力の測定を開始する測定開始信号が入力されたときに動作する測定制御部と、検出電圧と応力との関係を調整するためのキャリブレーション部とを備え、
前記測定制御部では、前記第1スイッチ機構及び前記第3スイッチ機構をオンにして、かつ前記第2スイッチ機構及び前記第4スイッチ機構をオフにした状態で第1測定を行うとともに、
前記第1測定終了後に、前記第1スイッチ機構及び前記第3スイッチ機構をオフにして、かつ前記第2スイッチ機構及び前記第4スイッチ機構をオンに切り替えた状態で第2測定を行うものであって、
前記キャリブレーション部では、基準試験片に対して引張方向で前記第1測定及び前記第2測定を行った測定結果と、前記引張方向から時計回りに90°回した圧縮方向で前記第1測定及び前記第2測定を行った測定結果とに基づいて算出された校正係数を設定することを特徴とする応力測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管杭や橋梁などの被応力測定物を励磁させた際に検出される検出電圧によって作用している応力を測定する応力測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼管杭や橋梁などの鋼構造物が応力を受けている状態を測定する方法として、磁歪法が知られている(特許文献1-3など参照)。磁歪法では、磁歪センサ用のプローブを鋼構造物の表面に当てて、非破壊で残留応力を含む全応力を測定する。
【0003】
磁歪法は、引張応力が作用すると引張方向の透磁率が大きくなり、圧縮応力が作用すると圧縮方向の透磁率が小さくなるという鋼材の磁気異方性が生じる性質を利用した応力測定方法である。磁歪センサ用のプローブは、コイルを励磁して磁場を形成することで鋼構造物の表層部に磁束を流すための励磁用コイルと、磁束の流れを測定する検出用コイルとを備えている。
【0004】
このように磁歪法では鋼構造物の表層部を励磁させることで応力測定を行うため、特許文献2に記載されているように、応力測定前に消磁工程を実施することで測定精度を高める必要がある。
【0005】
また、特許文献3に記載されているように、プローブの方向と鋼構造物に作用している主応力の方向とが一致したときの最大主応力を測定するためには、プローブを回転させることで4つの異なる角度で測定を行う必要がある。すなわち、4つの回転角の状態における測定結果をフーリエ変換することで、回転角と検出電圧とを対応させた式が求められ、検出電圧の最大値を得ることができるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-130738号公報
【文献】特開2003-21563号公報
【文献】特開2003-28733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながらプローブを正確に4つの方向に手動で回転させる作業は、鋼構造物とモニタの両方を見ながらの微妙な角度調整作業となり煩雑である。一方、特許文献3には、手動で回転をさせなくても4つの角度の測定が行える特殊な形状のプローブが開示されている。
【0008】
これに対して本発明は、一般的なプローブが使用できるうえに、簡単な構成で消磁や精度の高い測定が行えるようになる応力測定装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明の応力測定装置は、被応力測定物を励磁させた際に検出される検出電圧によって作用している応力を測定する応力測定装置であって、対角に配置されて導線が巻き付けられた一対の軸部を有する第1コイルと、前記第1コイルの配列方向に直交して配列される前記第1コイルと同様の構成の第2コイルと、励磁された前記被応力測定物に流れる磁束を前記第1コイルに検出させるための第1スイッチ機構と、励磁された前記被応力測定物に流れる磁束を前記第2コイルに検出させるための第2スイッチ機構と、前記第1コイルに交流電流を流して前記被応力測定物を励磁させるための第3スイッチ機構と、前記第2コイルに交流電流を流して前記被応力測定物を励磁させるための第4スイッチ機構と、前記第1スイッチ機構及び前記第2スイッチ機構に接続されるアナログ/デジタル変換器と、前記第3スイッチ機構に接続される第1デジタル/アナログ変換器と、前記第4スイッチ機構に接続される第2デジタル/アナログ変換器と、前記アナログ/デジタル変換器、前記第1デジタル/アナログ変換器及び前記第2デジタル/アナログ変換器を制御する演算処理部とを備えたことを特徴とする。
【0010】
ここで、前記演算処理部は、前記被応力測定物に作用している応力の測定を開始する測定開始信号が入力されたときに動作する測定制御部を備え、前記測定制御部では、前記第1スイッチ機構及び前記第3スイッチ機構をオンにして、かつ前記第2スイッチ機構及び前記第4スイッチ機構をオフにした状態で第1測定を行うとともに、前記第1測定終了後に、前記第1スイッチ機構及び前記第3スイッチ機構をオフにして、かつ前記第2スイッチ機構及び前記第4スイッチ機構をオンに切り替えた状態で第2測定を行う構成とすることができる。
【0011】
また、前記演算処理部は、検出電圧と応力との関係を調整するためのキャリブレーション部を備え、前記キャリブレーション部では、基準試験片に対して引張方向で前記第1測定及び前記第2測定を行った測定結果と、前記引張方向から時計回りに90°回した圧縮方向で前記第1測定及び前記第2測定を行った測定結果とに基づいて算出された校正係数を設定する構成とすることができる。
【発明の効果】
【0012】
このように構成された本発明の応力測定装置は、第1コイルと第2コイルの機能を切り替えるための4つのスイッチ機構を備えている。また、交流電流の流れを制御するための2つのスイッチ機構には、それぞれデジタル/アナログ変換器が接続されている。
【0013】
このように4つのスイッチ機構によって第1コイルと第2コイルとを励磁用コイルと検出用コイルとに切り替えることができれば、一般的なプローブを使用しても、応力測定時にプローブを回転させる回数を2回に減らすことができる。また、2つのデジタル/アナログ変換器を第3スイッチ機構と第4スイッチ機構とにそれぞれ接続させることで、消磁用の回路を設けない簡単な構成であっても、被応力測定物やプローブを測定前に消磁させて、精度の高い測定が行えるようになる。
【0014】
さらに、第1コイルと第2コイルの機能の切り替えは、4つのスイッチ機構のオン、オフの制御で簡単に行うことができる。すなわち、第1コイルを励磁用コイル、第2コイルを検出用コイルとして第1測定を行った後に、第2コイルを励磁用コイル、第1コイルを検出用コイルとして第2測定を行うことで、プローブを90°回転させたときと同じ測定を連続して行うことができるようになる。
【0015】
また、演算処理部がキャリブレーション部を備えていれば、鋼構造物などの被応力測定物の応力測定を行う前に基準試験片を使って校正係数を自動的に設定することができるようになる。さらに、校正係数を設定することによって、第1コイルと第2コイルの機能を切り替えても、同等の測定結果として扱うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施の形態の応力測定装置の全体構成を説明するブロック図である。
図2】プローブの構成を模式的に示して説明するための斜視図である。
図3】鋼構造物に作用している応力とプローブの向きとの関係を説明する図であって、(a)は鋼構造物に作用している引張方向と圧縮方向の応力分布の概念図、(b)は左図の状態のときのプローブの向きと磁束の通り道について説明する図である。
図4】プローブの回転角と検出電圧との関係を応力の作用方向と併せて説明する図である。
図5】本実施の形態の応力測定装置を使った応力測定方法の流れを説明するフローチャートである。
図6】応力測定装置を自動キャリブレーションする際の処理の流れを説明するフローチャートである。
図7】基準試験片を使った測定結果を説明する図であって、(a)はプローブの回転角と検出電圧との関係を示した図、(b)は校正曲線を説明する図である。
図8】校正曲線の弾性領域を使用する際の説明図である。
図9】自動キャリブレーションの測定結果を説明する図であって、(a)はプローブの回転角が0°のときの測定値を示した説明図、(b)はプローブの回転角が90°のときの測定値を示した説明図である。
図10】校正係数の算出方法を説明するための図であって、(a)は状態1の測定値をまとめて示した説明図、(b)は状態2の測定値をまとめて示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施の形態の応力測定装置1の全体構成を示した説明図である。この応力測定装置1の測定対象となる被応力測定物は、鋼管杭や橋梁などの鋼構造物Mなどである。
【0018】
本実施の形態の応力測定装置1は、磁歪法による非破壊試験装置である。鋼構造物Mに生じている残留応力を含む全応力を、鋼構造物Mの表面にプローブ2を当てることで測定することができる。
【0019】
すなわち応力測定装置1は、プローブ2と、プローブ2を接続させる装置本体部11とによって構成される。装置本体部11は、プローブ2に接続されるスイッチ機構3と、各種増幅器(41,511,521)と、各種アナログ/デジタル変換器(4,5)と、マイクロコンピュータなどによって構成される演算処理部6と、ディスプレイ12と、測定結果などを記憶させる記憶部13とによって主に構成される。
【0020】
ここで、ディスプレイ12は、ボックス状の外観を呈する装置本体部11の上面や側面などに設けられる。例えば、タッチパネル式の液晶画面が使用できる。ディスプレイ12には、各種操作用のタッチボタン、プローブ2によって測定された測定結果となる数値やグラフ、各種モードやステータスを示す表示部などが設けられる。
【0021】
また、記憶部13としては、SDメモリーカードやUSBメモリなどのフラッシュメモリや超小型のハードディスなどが使用できる。さらに、装置本体部11には、電源スイッチ、測定モードを選択するための選択スイッチ、測定を開始させるためのスタートスイッチなどのメカニカルスイッチがコントロールスイッチ14として設けられる。
【0022】
そして、このような装置本体部11に組み込まれたマイクロコンピュータやアンプやディスプレイ12や記憶部13などは、同じく装置本体部11に搭載されたバッテリ15によって動作する。バッテリ15には、例えば充電式のニッケル水素バッテリが使用できる。
【0023】
演算処理部6には、測定モードの選択スイッチやスタートスイッチを操作することによって応力の測定を開始するための測定開始信号が入力されると動作する測定制御部や、後述するキャリブレーションを行う際に動作するキャリブレーション部などが設けられる。
【0024】
また、演算処理部6では、プローブ2に電流を印加させるための波形データなどの各種信号の生成や制御が行われる。例えば、プローブ2に交流電流を流すための正弦波データは、演算処理部6で生成されて電流出力側変換器5にデジタルデータとして送られる。
【0025】
電流出力側変換器5は、2つのデジタル/アナログ変換器を備えていて、第1デジタル/アナログ変換器を第1D/A変換器51と呼び、第2デジタル/アナログ変換器を第2D/A変換器52と呼ぶこととする。
【0026】
第1D/A変換器51でデジタルデータからアナログデータに変換された電流信号(正弦波アナログ信号)は、第1電流出力アンプ511で増幅される。また、第2D/A変換器52でデジタルデータからアナログデータに変換された電流信号(正弦波アナログ信号)は、第2電流出力アンプ521で増幅される。
【0027】
一方、プローブ2によって検出された検出値は、信号増幅アンプ41によって電流から電圧に変換されるとともに増幅されて、アナログ/デジタル変換器であるA/D変換器4でアナログデータからデジタルデータに変換される。
【0028】
A/D変換器4を通過した後のデータに対して演算処理部6では、プローブ2によって検出された検出電圧の信号の同期整流処理が行われる。同期整流処理として、フーリエ変換処理を行った後に、振幅値と位相値とを用いた不要な信号のフィルタリングが行われる。例えば位相成分の-150°から+150°を有効成分とし、-180°から-151°と+151°から+180°を不要成分とするフィルタリングを行う。不要成分では振幅成分をゼロにする。この不要成分は、主に装置本体部11とプローブ2とを接続するケーブルの干渉(励磁信号から検出信号への干渉)と、プローブ2自身の干渉(励磁信号から検出信号への干渉)に起因するものである。
【0029】
同期整流処理されたデータは、プローブ2の測定値として各種演算処理が行われることになる。例えば、後述する校正係数で補正された値が測定された検出電圧としてディスプレイ12に表示される。また、測定値や補正された検出電圧は、自動又はボタン操作などによって記憶部13に記録される。
【0030】
このような演算処理部6とプローブ2との間に介在されるスイッチ機構3は、断続器(開閉器)となるスイッチやFETなどによって構成される。このスイッチ機構3には、第1スイッチ機構となる第1スイッチSW1と、第2スイッチ機構となる第2スイッチSW2と、第3スイッチ機構となる第3スイッチSW3と、第4スイッチ機構となる第4スイッチSW4という4つのスイッチが設けられる。
【0031】
一方、プローブ2には、第1コイル21と、第2コイル22とが設けられる。図2は、磁歪法で使用される一般的なプローブ2を、模式的に示した説明図である。第1コイル21は、対角に配置されて基端部2a側で繋がる一対の軸部211,212と、軸部211,212のそれぞれに螺旋状に巻き付けられる導線23とによって構成される。また、第2コイル22も、対角に配置されて基端部2a側で繋がる一対の軸部221,222と、軸部221,222のそれぞれに螺旋状に巻き付けられる導線23とによって構成される。
【0032】
さらに、第1コイル21と第2コイル22とは、図3(b)に示すように、配列方向が直交するように配列される。そして、交流電流が印加される側が励磁用コイルとなり、誘起された電流を検出する側が検出用コイルとなる。
【0033】
ここで図3は、鋼構造物Mに作用している応力とプローブの向きとの関係を説明する図である。図3(a)は、鋼構造物Mの上下方向に引張力を加えた際に発生する引張方向の応力分布と、左右方向に発生する圧縮方向の応力分布の概念図を示している。そして、図3(b)は、このような応力分布状態の鋼構造物Mの表面にプローブ2を配置したときの磁束の通り道を示している。
【0034】
詳細には、第1コイル21を励磁用コイルとする場合に、応力の引張方向に対して反時計回りで45°の配列方向となるように第1コイル21を設置すると、第2コイル22は、引張方向に対して時計回りで45°の配列方向となる。
【0035】
この状態で第1コイル21に交流電流を印加すると、磁性材料である鋼構造物Mが励磁されて正弦波磁束が発生することになる。ここで、鋼材の性質として、引張応力が作用すると引張方向に透磁率が大きくなり、圧縮応力が作用すると圧縮方向に透磁率が小さくなるという磁気異方性があるので、プローブ2が無ければ磁束の通り道は引張方向と一致することになる。
【0036】
しかしながらプローブ2には、第1コイル21と直交する第2コイル22が配列されているので、磁気抵抗の低い(透磁率の高い)第2コイル22の軸部221,222を磁束が通ることになる。
【0037】
第2コイル22の軸部221,222を磁束が通ると、巻き付けられた導線23によって誘起された起電力が第2コイル22によって検出されることになる。図4は、プローブ方向20(図2参照)を表すプローブ2の回転角θと検出電圧との関係を、応力の作用方向と併せて説明する図である。
【0038】
引張方向とプローブ2の回転角θの0°とを一致させた場合、プローブ2で検出される磁束の強さを示す検出電圧は最大となる。また、プローブ方向20を時計回りに90°回転させると、引張方向と直交する圧縮方向(図3参照)と一致することになり、検出電圧は最小となる。そして、回転角θが45°と135°のときには、検出電圧は0となる。このようにプローブ方向20を回転させることで、応力方向に応じた検出電圧が検出されることになる。
【0039】
ところで図4は、応力方向とプローブ方向20(プローブ2の回転角θ)との関係が分かっている場合の図である。鋼構造物Mの応力測定を行う場合は、通常は引張方向や圧縮方向といった応力方向が分かっていないが、4つの回転角θでプローブ2による測定を行うことで、最大及び最小の検出電圧を求めることができる。
【0040】
要するに、0°、45°、90°、135°という4つの回転角θの磁束の強さが測定できれば、その1周期分の正弦波の分布をフーリエ変換で近似することで、応力の方向とピークレベル(最大値・最小値)を算出することができる(特許文献3など参照)。
【0041】
本実施の形態の応力測定装置1では、第1コイル21と第2コイル22の機能を4つのスイッチで切り替えることができる。要するにスイッチ機構3のスイッチのオンとオフの組み合わせにより、第1コイル21又は第2コイル22を励磁用コイルにしたり検出用コイルにしたりすることができる。
【0042】
詳細には、第1コイル21を励磁用コイルにして第2コイル22を検出用コイルとする場合には、第3スイッチSW3と第1スイッチSW1をオン(ON)にし、第4スイッチSW4と第2スイッチSW2をオフ(OFF)にする。この組み合わせとすることで、演算処理部6から送り出された波形データが第1D/A変換器51でアナログデータに変換されて、第1電流出力アンプ511で増幅され、第3スイッチSW3を通って第1コイル21に交流電流が送られることによって励磁用コイルとなる。
【0043】
そして、第1コイル21によって励磁された鋼構造物Mによる磁束の流れが検出用コイルとなる第2コイル22によって検出され、第1スイッチSW1を通って信号増幅アンプ41に送られ、A/D変換器4でデジタルデータに変換されて、演算処理部6を介してディスプレイ12に表示されたり、記憶部13に記録されたりする。このような回路の状態を「状態1」と呼ぶこととする。
【0044】
これに対して、第1コイル21を検出用コイルにして第2コイル22を励磁用コイルとする場合には、第3スイッチSW3と第1スイッチSW1をオフ(OFF)にし、第4スイッチSW4と第2スイッチSW2をオン(ON)にする。この組み合わせとすることで、演算処理部6から送り出された波形データが第2D/A変換器52でアナログデータに変換されて、第2電流出力アンプ521で増幅され、第4スイッチSW4を通って第2コイル22に交流電流が送られることによって励磁用コイルとなる。
【0045】
そして、第2コイル22によって励磁された鋼構造物Mによる磁束の流れが検出用コイルとなる第1コイル21によって検出され、第2スイッチSW2を通って信号増幅アンプ41に送られ、A/D変換器4でデジタルデータに変換されて、演算処理部6を介してディスプレイ12に表示されたり、記憶部13に記録されたりする。このような回路の状態を「状態2」と呼ぶこととする。
【0046】
このようにプローブ方向20を回転させなくても、スイッチ機構3の制御だけで状態1と状態2の切り替えを行うことができる。要するに状態1と状態2との切り替えは、プローブ方向20を90°回転させることと同じ状態を作り出すことになるので、0°と45°の2回の測定を行うだけで、1周期分の正弦波の分布を得るための4つの回転角θの測定を行ったことにできる。
【0047】
磁歪法は、鋼構造物Mの表層部をプローブ2で励磁させることによって応力測定を行うため、応力測定前に消磁工程を実施することで測定精度を高めることができる。本実施の形態の応力測定装置1では、電流出力側変換器5の2つのD/A変換器(51,52)を使って、消磁工程を実施することができる。
【0048】
消磁工程を実施するには、第3スイッチSW3と第4スイッチSW4をオン(ON)にして、第1D/A変換器51と第1コイル21とを導通させるとともに、第2D/A変換器52と第2コイル22とを導通させる。
【0049】
続いて、演算処理部6から消磁用の電流波形データとして、位相が90°異なる2種類の交流電流の波形データを第1D/A変換器51と第2D/A変換器52とにそれぞれ送り、第1コイル21と第2コイル22とに2種類の交流電流を流す。
【0050】
これらの2種類の交流電流によって、プローブ2の中心軸まわりに回転する磁界が第1コイル21と第2コイル22とに発生することになる。これによって鋼構造物Mは磁化の方向を撹拌されながら励磁され、磁化の方向性はほとんどなくなって消磁されることになる。このような消磁工程は、プローブ2自身の消磁を行う際にも実施できる。
【0051】
次に、本実施の形態の応力測定装置1を使った応力測定方法の流れを、図5のフローチャートを参照しながら説明する。
応力測定を行う場合は、まず上述した消磁工程を、プローブ2自身や被応力測定物となる鋼構造物Mに対して行う。
【0052】
応力測定を開始するに際しては、プローブ2を鋼構造物Mの表面に近付けて、任意の方向に対してプローブ方向20を合わせて、この方向を回転角θ=0°として1回目の測定(第1測定)をスタートさせる(ステップS1)。
【0053】
コントロールスイッチ14のスタートスイッチを押すと、応力測定装置1の回路は上述した状態1(SW3:ON、SW1:ON、SW4:OFF、SW2:OFF)の状態になる(ステップS2)。この状態1の回路により、第1コイル21は励磁用コイルとなり、第2コイル22は検出用コイルとなる(ステップS3)。そして、第2コイル22の検出値に基づく検出電圧は、ディスプレイ12に表示されたり、記憶部13に記録されたりする。
【0054】
状態1による電圧の検出が所定の時間、行われると、自動的に状態2(SW3:OFF、SW1:OFF、SW4:ON、SW2:ON)の状態に切り替わる(ステップS4)。この状態2の回路により、第2コイル22が励磁用コイルとなり、第1コイル21が検出用コイルとなる(ステップS5)。すなわち、回転角θを90°にした状態に、プローブ2を回転させることなく切り替えることができる。そして、第1コイル21の検出値に基づく検出電圧は、ディスプレイ12に表示されたり、記憶部13に記録されたりする。
【0055】
応力分布の測定は4つの回転角θで行う必要があるが、ここまでの1回目の測定では2つの回転角θ(0°、90°)の測定結果しか得られていない。そこでステップS6では、1回目の測定か否かを判定して、1回目の測定であればステップS7に移行して、鋼構造物Mの表面上でプローブ方向20を時計回りに45°回転させて、回転角θ=45°の2回目の測定(第2測定)をスタートさせる。
【0056】
2回目の測定でも、ステップS2からステップS5の処理が行われて、残りの2つの回転角θ(45°、135°)の測定結果が得られることになる。2回の測定が終了すると、ステップS8に移行して、検出電圧から応力を算出する演算処理や記憶部13への保存処理などが行われる。なお、後述する校正係数による補正や記憶部13への保存などは、ステップS8で行ってもよいし、測定中に逐次、行ってもよい。
【0057】
次に、本実施の形態の応力測定装置1をキャリブレーションする方法について、図6から図10を参照しながら説明する。図6は、応力測定装置1を自動キャリブレーションする際の処理の流れを説明するフローチャートである。
【0058】
応力測定装置1は、プローブ2の製作上の寸法精度の狂いや、プローブ2と装置本体部11とを接続するケーブルの長さや、種類特性の違いなどによって、励磁用コイルの磁界の強さと検出用コイルの感度とが影響を受けて、感度にばらつきが生じる。そのばらつきを補正するために、キャリブレーションを応力測定の前に行う必要がある。
【0059】
キャリブレーション処理によって、予め基準とする基準試験片と被応力測定物となる鋼管杭や橋梁などの鋼構造物Mとの出力差を求めておくことで、測定結果にその差をかけることで直接応力を算出することができるようになる。
【0060】
キャリブレーションを行うには、強磁性体である基準試験片を引張試験で一方向に引っ張った状態(図3(a)参照)にし、引張方向と圧縮方向に合わせてそれぞれプローブ2による測定を行い、応力との関係が既知の状態の検出電圧に基づく校正曲線を取得する。
【0061】
図7は、一方向に引っ張られた基準試験片を使ったプローブ2による測定結果を説明する図である。図7(a)には、引張方向と回転角θ=0°とを一致させて測定したときに得られた検出電圧と、時計回りに90°回した回転角θ=90°と圧縮方向とを一致させて測定したときに得られた検出電圧とをプロットしている。
【0062】
このような基準試験片の測定結果から、図7(b)に示すような検出電圧と応力との関係を示す校正曲線が得られる。ここで、基準試験片に作用している応力は、引張試験で測定されているので既知である。この図に示すように、校正曲線には弾性領域と塑性領域とが現れるとともに、応力のゼロと検出電圧のゼロとのズレを示すオフセット項が現れる。このオフセット項は、プローブ2の個体差や励磁電流を発生させる電流出力アンプ(511,521)やD/A変換器(51,52)の誤差によるズレを示している。
【0063】
そして図8に示したように、校正曲線の弾性領域の線形部分を使用することとして、任意の応力のときに測定される検出電圧(測定値X)を補正するための関係式を設定する。この関係式は、補正電圧をY、ゲイン項をA、オフセット項をBとすると、Y=AX+Bで表される。
【0064】
本実施の形態の応力測定装置1では、上述した考え方に基づいた処理によって、校正係数となるゲイン値とオフセット値とを自動で求める。この校正係数を求めて設定する処理の制御は、演算処理部6のキャリブレーション部によって行われる。
【0065】
自動キャリブレーションを行う際に使用する基準試験片は、載荷試験装置によって一方向に引張力を与えて、塑性変形させた状態にしておく(ステップS11)。この基準試験片を使ったキャリブレーションは、応力に関係なく安定した検出電圧を得るために行われる。
【0066】
まずステップS12では、載荷試験装置にセットされた引張応力が作用した状態の基準試験片にプローブ2を当てて、基準試験片の引張方向とプローブ2のプローブ方向20(回転角θ=0°)とを合わせて、コントロールスイッチ14のスタートスイッチを押して測定を開始する。
【0067】
自動キャリブレーションの処理が開始されると、応力測定装置1の回路は状態1(SW3:ON、SW1:ON、SW4:OFF、SW2:OFF)の状態になる(ステップS13)。この状態1の回路により、第1コイル21は励磁用コイルとなり、検出用コイルとなった第2コイル22により電圧が検出される(ステップS14)。
【0068】
状態1による電圧の検出後は、自動的に状態2(SW3:OFF、SW1:OFF、SW4:ON、SW2:ON)の状態に切り替わる(ステップS15)。この状態2の回路により、第2コイル22が励磁用コイルとなり、検出用コイルとなった第1コイル21により電圧が検出される(ステップS16)。
【0069】
自動キャリブレーションのための測定は圧縮方向についても行う必要があるので、ここまでの測定が引張方向の測定か否かをステップS17で判定して、引張方向の測定であった場合は、ステップS18に移行して、鋼構造物Mの表面上でプローブ方向20を時計回りに90°回転させて、圧縮方向の測定を開始させる。
【0070】
圧縮方向の測定でも、ステップS13からステップS16の処理が行われ、圧縮方向の測定が終了すると、ステップS19に移行して校正係数の算出処理が行われる。図9は、自動キャリブレーションの測定結果を説明するための図である。図9(a)は、プローブの回転角θが0°の引張方向の測定を行ったときの測定値を示している。また、図9(b)は、プローブの回転角が90°の圧縮方向の測定を行ったときの測定値を示している。
【0071】
図9(a)に示したように、引張方向の状態1のときの測定値MB1と状態2のときの測定値MA2は、それぞれ対応する応力が既知であるため、図に示したような直線を引くことができる。また、図9(b)に示したように、圧縮方向の状態1のときの測定値MB2と状態2のときの測定値MA1は、それぞれ対応する応力が既知であるため、図に示したような直線を引くことができる。
【0072】
続いて、上記した引張方向の測定結果と圧縮方向の測定結果とを整理して、図10に示すように状態1の測定値と状態2の測定値とにまとめたグラフにする。そして、上述した関係式を状態1と状態2のそれぞれで作成すると、以下のようになる。
(状態1の関係式)Y1=A1・X1+B1
(状態2の関係式)Y2=A2・X2+B2
ここで、Y1,Y2は基準とした既知の応力に対応する基準出力電圧で固定値となる。そして、このY1,Y2は、校正係数が設定されたキャリブレーション後には補正電圧となる。また、A1,A2は状態1と状態2のそれぞれのゲイン項、B1,B2は状態1と状態2のそれぞれのオフセット項となる。
【0073】
オフセット項B1は、状態1の測定値MB1,MB2から、B1=(MB1+MB2)/2で求めることができる。また、オフセット項B2は、状態2の測定値MA1,MA2から、B2=(MA1+MA2)/2で求めることができる。そして、ゲイン項A1は、基準出力電圧Y1と測定値X1とからA1=Y1/X1で算出でき、ゲイン項A2は、基準出力電圧Y2と測定値X2とからA2=Y2/X2で算出できる。
【0074】
このようにして算出された校正係数(A1,A2,B1,B2)は、ステップS20で自動入力によって応力測定装置1に設定されて、メモリに記憶される。このようにして校正係数が設定されていれば、プローブ2の個体差などの影響を受けることなく、検出電圧を応力を示す測定結果として扱うことができる。
【0075】
また、基準試験片の基準出力電圧Y1,Y2に対応する鋼構造物Mの応力が判明すれば、ゲイン項A1,A2のみで、測定によって検出された検出電圧から応力を算出することができるようになる。さらに、鋼構造物Mの種類ごとのゲイン項A1,A2を応力測定装置1のメモリに記憶させておくこともできるので、ディスプレイ12で鋼構造物Mの種類を選択することで、被応力測定物の種類に適した応力を直接表示させることもできるようになる。
【0076】
次に、本実施の形態の応力測定装置1の作用について説明する。
このように構成された本実施の形態の応力測定装置1は、第1コイル21と第2コイル22の機能を切り替えるための4つのスイッチを有するスイッチ機構3を備えている。また、交流電流の流れを制御するための2つのスイッチ(SW3,SW4)には、それぞれD/A変換器(51,52)が接続されている。
【0077】
このようにスイッチ機構3の4つのスイッチによって第1コイル21と第2コイル22とを励磁用コイルと検出用コイルとに切り替えることができれば、一般的なプローブ2を使用しても、応力測定時にプローブ2を回転させる回数を2回に減らすことができる。プローブ2を回転させて測定する作業が4回から2回に減れば、測定時間や操作ミスが起きる可能性を低減することができる。
【0078】
また、2つのD/A変換器(51,52)を第3スイッチSW3と第4スイッチSW4とにそれぞれ接続させることで、消磁用の回路を設けない簡単な構成であっても、鋼構造物Mやプローブ2を測定前に消磁させて、精度の高い測定が行えるようになる。
【0079】
さらに、正弦波信号をD/A変換器(51,52)で発生させる構成としたことで、信号発生回路を設ける場合と比べて大幅な小型化が図れるようになる。また、同期整流(検波)回路に代えてA/D変換器4としたことでも、大幅に小型化できる。そして、小型化された応力測定装置1は、バッテリ15を搭載させることで、応力測定の現場に容易に持ち運び可能なコンパクトなハンディタイプにすることができる。
【0080】
また、第1コイル21と第2コイル22の機能の切り替えは、4つのスイッチ(SW1,SW2,SW3,SW4)のオン、オフの制御で簡単に行うことができる。すなわち、第1コイル21を励磁用コイル、第2コイル22を検出用コイルとして第1測定を行った後に、第2コイル22を励磁用コイル、第1コイル21を検出用コイルとして第2測定を行うことで、プローブ2を90°回転させたときと同じ測定を連続して行うことができる。
【0081】
また、演算処理部6がキャリブレーション部を備えているので、鋼構造物Mの応力測定を行う前に基準試験片を使って校正係数を自動的に設定することができる。さらに、校正係数を設定することによって、第1コイル21と第2コイル22の機能を切り替えても、同等の測定結果として扱うことができるようになる。すなわち、第1コイル21と第2コイル22とがいずれの機能のコイルになったとしても、校正係数で補正された値はその影響を受けることがないので、同じように扱うことでプローブ2を回す回数を減らすことができるようになる。
【0082】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
例えば、前記実施の形態では、一般的な構造のプローブ2を例に説明したが、これに限定されるものではなく、第1コイルとそれに直交する第2コイルとが形成されたプローブであれば本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0083】
1 :応力測定装置
21 :第1コイル
211,212:軸部
22 :第2コイル
221,222:軸部
23 :導線
3 :スイッチ機構
SW1 :第1スイッチ
SW2 :第2スイッチ
SW3 :第3スイッチ
SW4 :第4スイッチ
4 :A/D変換器(アナログ/デジタル変換器)
51 :第1D/A変換器(第1デジタル/アナログ変換器)
52 :第2D/A変換器(第2デジタル/アナログ変換器)
6 :演算処理部
M :鋼構造物(被応力測定物)
図1
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図10