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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-13
(45)【発行日】2023-09-22
(54)【発明の名称】磁性フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 7/025 20190101AFI20230914BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
B32B7/025
B32B27/00 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021145202
(22)【出願日】2021-09-07
(62)【分割の表示】P 2020556203の分割
【原出願日】2019-11-15
(65)【公開番号】P2021185043
(43)【公開日】2021-12-09
【審査請求日】2021-12-24
(31)【優先権主張番号】P 2018214377
(32)【優先日】2018-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000110893
【氏名又は名称】ニチレイマグネット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100157428
【弁理士】
【氏名又は名称】大池 聞平
(72)【発明者】
【氏名】前橋 清
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-137320(JP,A)
【文献】特開2010-245407(JP,A)
【文献】特開2011-198813(JP,A)
【文献】特開2001-076920(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0282825(US,A1)
【文献】特開2017-097044(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
H01F 1/00- 1/117,
1/40- 1/42
B41M 5/00- 5/03,
5/04- 5/10
B42D 15/00-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性層と、
プラスチックフィルムにより構成され、前記磁性層の片面に積層された基材と、
前記基材における前記磁性層側とは反対面に積層された第1インキ受容層と、
塗膜層であり、前記磁性層における前記第1インキ受容層側とは反対面に対し、直接的に積層された着色層と、
インキ受容層用塗料の塗膜層であり、前記着色層に対し直接的に積層された第2インキ受容層とを備えた磁性フィルムであって、
前記第1インキ受容層及び前記第2インキ受容層の各々に対し印刷が可能に構成され、
前記第1インキ受容層と前記第2インキ受容層との間に、前記磁性層と前記基材が1層ずつ設けられ
前記磁性層は、当該磁性フィルムの長さ方向及び幅方向に亘って形成されている、磁性フィルム。
【請求項2】
前記第1インキ受容層は、前記基材に直接的に積層されている、請求項1に記載の磁性フィルム。
【請求項3】
前記基材は、前記磁性層の片面に直接的に積層されている、請求項1又は2に記載の磁性フィルム。
【請求項4】
前記第2インキ受容層及び前記着色層の合計厚は、前記第1インキ受容層の厚さに比べて大きい、請求項1乃至3の何れか1つに記載の磁性フィルム。
【請求項5】
前記第2インキ受容層及び前記着色層の合計厚は、少なくとも2μm以上である、請求項1乃至3の何れか1つに記載の磁性フィルム。
【請求項6】
磁性層と、
プラスチックフィルムにより構成され、前記磁性層の片面に積層された基材と、
前記基材における前記磁性層側とは反対面に積層された第1インキ受容層と、
インキ受容層用塗料の塗膜層であり、前記磁性層における前記第1インキ受容層側とは反対面に対し、直接的に積層された第2インキ受容層とを備えた磁性フィルムであって、
前記第1インキ受容層及び前記第2インキ受容層の各々に対し印刷が可能に構成され、
前記第1インキ受容層と前記第2インキ受容層との間に、前記磁性層と前記基材が1層ずつ設けられ
前記磁性層は、当該磁性フィルムの長さ方向及び幅方向に亘って形成されている、磁性フィルム。
【請求項7】
前記磁性層と前記第2インキ受容層との間に、複数の着色層が設けられている、請求項1に記載の磁性フィルム。
【請求項8】
前記第2インキ受容層の厚さは、前記第1インキ受容層の厚さに比べて大きい、請求項6に記載の磁性フィルム。
【請求項9】
前記磁性層は、金属箔により構成されている、請求項1乃至8の何れか1つに記載の磁性フィルム。
【請求項10】
前記磁性層は、バインダー内において磁性材料粉が分散した層である、請求項1乃至8の何れか1つに記載の磁性フィルム。
【請求項11】
前記磁性層の厚みは、30μm以上350μm以下である、請求項1乃至8の何れか1つに記載の磁性フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁力を利用して貼り付けられる磁性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、表裏の両面とも印刷可能な磁性フィルムが知られている。この種の磁性フィルムが、特許文献1に記載されている。
【0003】
特許文献1には、表面に印刷可能層を有する耐水性の薄層基材の裏面に磁性層が形成された2枚の先駆体を有する磁性複合フィルムが記載されている。この磁性複合フィルムでは、2枚の先駆体の磁性層同士が、接着剤又は熱圧着によって貼り合わされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-168926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載の磁性フィルムは、片面だけに印刷できる磁性フィルムをそのまま利用して製造できるものの、薄層基材と磁性層をそれぞれ2層ずつ備えており、層数が比較的多くなる。そのため、製造工程全体として見た場合に多くの工程が必要となる。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、表裏の両面とも印刷が可能な磁性フィルムにおいて、製造工程を簡素化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するべく、第1の発明は、磁性層と、磁性層の片面に積層された第1インキ受容層と、磁性層における第1インキ受容層側とは反対面に対し、又は、反対面に着色層が積層される場合は着色層に対し、直接的に積層された第2インキ受容層とを備え、第1インキ受容層及び第2インキ受容層の各々に対し印刷が可能に構成されている、磁性フィルムである。
【0008】
第2の発明は、第1の発明において、第1インキ受容層と磁性層との間に配置されて、フィルム状に形成された基材をさらに備えている。
【0009】
第3の発明は、第2の発明において、第1インキ受容層は、基材に直接的に積層され、第2インキ受容層は、磁性層における基材側とは反対面に積層された着色層に対し直接的に積層されている。
【0010】
第4の発明は、第3の発明において、第2インキ受容層及び着色層の合計厚は、第1インキ受容層の厚さに比べて大きい。
【0011】
第5の発明は、第3又は第4の発明において、第2インキ受容層及び着色層の合計厚は、少なくとも2μm以上である。
【0012】
第6の発明は、フィルム状の第1基材と、第1基材の片面に積層された第1インキ受容層と、第1基材のもう片面に直接的に積層された磁性層と、磁性層における第1基材側とは反対面に直接的に積層された第2基材と、第2基材における磁性層側とは反対面、又は、反対面に着色層が積層される場合は着色層に対し、直接的に積層された第2インキ受容層とを備え、第1インキ受容層及び第2インキ受容層の各々に対し印刷が可能に構成されている、磁性フィルムである。
【発明の効果】
【0013】
第1発明では、磁性層における第1インキ受容層側とは反対面、又は、その反対面に着色層が積層される場合はその着色層に対し、第2インキ受容層が直接的に積層されている。そのため、特許文献1に記載の磁性フィルムとは異なり、磁性層と第2インキ受容層との間に、基材層が介在していない。第1発明によれば、表裏の両面とも印刷が可能な磁性フィルムにおいて、特許文献1に記載の磁性フィルムよりも層数を少なくすることが可能で、製造工程を簡素化することが可能である。
【0014】
第6の発明では、磁性層に対し表側も裏側も基材が直接的に積層されている。そのため、特許文献1に記載の磁性フィルムとは異なり、第1基材と第2基材との間に磁性層が1層しか介在していない。第6発明によれば、表裏の両面とも印刷が可能な磁性フィルムにおいて、特許文献1に記載の磁性フィルムよりも層数を少なくすることが可能で、製造工程を簡素化することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、実施形態に係る磁性フィルムの断面図である。
図2図2は、実施形態に係る磁性フィルムについて、磁性層の裏側に着色層を設けない場合の断面図である。
図3図3は、実施形態において磁性フィルムの製造方法を説明するための断面図である。
図4図4は、その他実施形態において磁性フィルムの製造方法を説明するための断面図である。
図5図5は、その他の実施形態に係る磁性フィルムの断面図である。
図6図6は、その他の実施形態に係る磁性フィルムについて、図4とは別形態の断面図である。
図7図7は、その他実施形態に係る磁性フィルムの断面図である。
図8図8(a)は、剛軟度試験に用いた試験機の斜視図であり、図8(b)は、剛軟度試験の状況を試験機の側方から見た図である。
図9図9は、円筒に長時間巻いた試験片の反り具合の測定方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図1図9を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明の一例であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0017】
[磁性フィルムの構成]
磁性フィルム10は、複数の機能層を複合させた磁性複合フィルムである。磁性フィルム10は、柔軟性を有し、表裏の両面とも印刷が可能である。具体的に、磁性フィルム10は、図1に示すように、フィルム状の基材(薄層基材)12と、基材12の片面に積層された第1インキ受容層21と、基材12のもう片面に積層された磁性層14と、磁性層14における基材12側とは反対面に積層された着色層13と、着色層13に対し直接的に積層された第2インキ受容層22とを備え、第1インキ受容層21及び第2インキ受容層22の各々に対し、インクジェット方式の印刷、オフセット方式の印刷、凸版印刷又は熱転写印刷などの種々の方式の印刷が可能に構成されている。なお、以下では、第1インキ受容層21側を「表側」と言い、第2インキ受容層22側を「裏側」と言う。
【0018】
磁性フィルム10では、表側から、第1インキ受容層21、基材12、磁性層14、着色層13及び第2インキ受容層22がこの順番に積層されている。第1インキ受容層21、基材12、磁性層14、着色層13及び第2インキ受容層22の各々は、磁性フィルム10の長さ方向及び幅方向に亘って、概ね一様の厚みで形成されている。
【0019】
なお、図2に示すように、磁性層14の裏側に着色層13を設けずに、磁性層14における基材12側とは反対面(裏面)に対し第2インキ受容層22を直接的に積層してもよい。また、図1及び図2では、基材12の表面に第1インキ受容層21を直接的に積層しているが、基材12の表面に着色層(表側着色層)を積層し、その表側着色層に第1インキ受容層21を直接的に積層することもできる。
【0020】
基材12は、柔軟性を有する一定の厚みの部材である。基材12は、例えば白色などの有色のものを用いているが、無色のものを用いることもできる。基材12の厚みは20μm以上300μm以下とすることが可能であるが、特に50μm以上220μm以下であることが好ましい。基材12の厚みが50μm以下の場合、磁性層14の色(例えば黒色系)に対する隠蔽力が不足する虞がある。一方、基材12の厚みが220μmを超える場合、磁性フィルム10を被着体に貼り付ける磁気貼着時の磁気エアーギャップ(被着体の表面から磁性層14までの距離)が大きくなり、磁気吸着力が不足する虞がある。基材12には、合成紙、無機粉末を含有したプラスチックフィルム、耐水紙などを用いることができる。
【0021】
基材12に用いる合成紙としては、例えば、ユポ合成紙FEB,FGS,FPG,VJFP,VJFD(ユポ・コーポレーション社製)、トヨジェットGP,MW,MT,MP(東洋紡績社製)、ピーチコートSPUY(日清紡社製)などが挙げられる。
【0022】
基材12に用いる、無機粉末等を含有したプラスチックフィルムとしては、ポリエステルフィルムクリスパー(東洋紡績社製)、半硬質塩化ビニルフィルム10P(リケンテクノス社製)などが挙げられる。また、基材12に用いる耐水紙としては、エコクリスタル(新巴川製紙社製)、カレカ(三菱化学メデイア社製)などが挙げられる。
【0023】
磁性層14は、有機バインダーなどのバインダー内において磁性材料粉が分散した層である。バインダーには、例えば有機高分子エラストマーが用いられている。磁性層14の主たる組成は、磁性材料粉と有機高分子エラストマーである。磁性層14に用いる有機高分子エラストマーとしては、磁性材料粉として硬質磁性材料粉又は軟質磁性材料粉の何れを用いる場合も、塩素化ポリエチレンエラストマー、クロロスルホン化ポリエチレンエラストマー、エチレン酢酸ビニル共重合体エラストマー、エチレンエチルアクリレートエラストマー、エチレンプロピレンエラストマー、又は、ウレタン系エラストマーなどを用いることができる。また、希望する物性に応じて、適宜、これらの混合物、又は、これらとプラストマー(プラスチック)との混合物などを用いることもできる。
【0024】
磁性層14は、硬質磁性材料粉を用いた硬質磁性層、又は、軟質磁性材料粉を用いた軟質磁性層である。磁性層14が硬質磁性層である場合、磁性層14の成形後に磁化(着磁)を施すことで磁性フィルム10は磁石として用いることができる。この場合、両面着磁(例えば両面多極着磁)を行う。但し、片面着磁(例えば片面多極着磁)を行ってもよい。また、磁性層14が磁気異方性を持つように着磁を行うが、磁気等方性を持つように着磁を行ってもよい。一方、磁性層14が軟質磁性層である場合、磁性フィルム10は磁石の被着体として用いることができる。
【0025】
磁性層14が硬質磁性層である場合、硬質磁性材料粉としては、例えば、ハードフェライト粉(ストロンチウムフェライト粉、バリウムフェライト粉などのM型フェライト、亜鉛・ストロンチウムフェライト粉、亜鉛・バリウムフェライト粉などのW型フェライト)を用いることができる。ハードフェライト粉は、高保磁力で強磁性体の磁石材料粉である。硬質磁性材料粉としては、ハードフェライト粉以外のものを用いてもよい。
【0026】
また、磁性層14が硬質磁性層である場合、磁性層14の全量に対する硬質磁性材料粉の含有量は30容量%以上70容量%以下を選択することができる。
【0027】
磁性層14が軟質磁性層である場合、軟質磁性材料粉としては、フェロ磁性体のうち低保磁力で高透磁力の強磁性体(以下、「フェロ磁性体粉」という。)、フェリ磁性体のうち低保磁力で高透磁力の強磁性体(「フェリ磁性体粉」という。)、又は、フェロ磁性体粉とフェリ磁性体粉の混合物を用いることができる。フェロ磁性体粉としては、鉄粉、磁性ステンレス粉、センダスト粉などを用いることができる。フェリ磁性体粉としては、ソフトフェライトであるマンガン亜鉛フェライト粉、ニッケル亜鉛フェライト粉、マグネタイト粉=四三酸化鉄粉など用いることができる。
【0028】
軟質磁性材料粉としてフェロ磁性体粉を用いる場合、磁性層14の全量に対する軟質磁性材料粉の含有量は40容量%以上60容量%以下が好ましい。この含有量が40容量%未満の場合は磁気吸着力が不足する虞があり、60容量%を超える場合は塗布加工性が低下する虞がある。
【0029】
軟質磁性材料粉としてフェリ磁性体粉を用いる場合、磁性層14の全量に対する軟質磁性材料粉の含有量は50容量%以上65容量%以下が好ましい。この含有量が50容量%未満の場合は磁気吸着力が不足する虞があり、65容量%を超える場合は塗布加工性が低下する虞がある。
【0030】
軟質磁性材料粉としてフェロ磁性体粉とフェリ磁性体粉の混合物を用いる場合、フェロ磁性体粉25容量%以上35重量%以下、フェリ磁性体粉65容量%以上75重量%以下の混合物を用いることができる。この場合、磁性層14の全量に対する軟質磁性材料粉の含有量は50容量%以上65容量%以下が好ましい。この含有量が50容量%未満の場合は磁気吸着力が不足する虞があり、65容量%を超える場合は塗布加工性が低下する虞がある。
【0031】
磁性層14の厚みについて、硬質磁性層の場合は30μm以上350μm以下とすることが可能であり、特に50μm以上150μm以下が好ましい。磁性層14の厚みが30μm未満では性能(吸着力)が不足する虞があり、350μmを超えると性能過多になる他に厚みが厚くなる。また、軟質磁性層でフェロ磁性体粉を用いる場合、磁性層14の厚みは、15μm以上75μm以下が好ましい。磁性層14の厚みが15μm未満では性能が不足する虞があり、75μmを超えると性能過多になる他に厚みが厚くなる。また、軟質磁性層でフェリ磁性体粉を用いる場合は、磁性層14の厚みは、15μm以上90μm以下が好ましい。磁性層14の厚みが15μm未満では性能が不足する虞があり、90μmを超えると性能過多になる他に厚みが厚くなる。
【0032】
各インキ受容層21,22は、インクジェット印刷時に着弾するインキを吸収して定着させるコーティング層である。各インキ受容層21,22は、インク溶媒を吸いやすい樹脂で構成された水溶性樹脂系であってもよいし、インクが染み込む多数の空隙がインキ受容層に形成された無機顔料系であってもよい。
【0033】
水溶性樹脂系のインキ受容層21,22の形成に用いるインキ受容層用塗料(処理材)としては、NS-63P(ポリエステル樹脂系、高松油脂(株)製)、NS-310X(ポリウレタン樹脂系、高松油脂(株)製)などを用いることができる。また、無機顔料系のインキ受容層21,22の形成に用いるインキ受容層用塗料としては、例えば、パテラコールIJ-150R(無機質充填剤含有ウレタン樹脂系ディスパージョン、DIC(株)製)、RSI-100(無機質充填剤含有ハイブリット樹脂系ディスパージョン、DIC(株)製)、MZ-477又はMZ-480、(無機質充填剤含有アクリル樹脂系ディスパージョン、高松油脂(株)製)などを用いることができる。
【0034】
第1インキ受容層21は、基材12の種類などに応じて、インキ受容層用塗料が選択されている。第1インキ受容層21の厚みは1μm以上30μm以下が好ましい。第1インキ受容層21の厚みが1μm未満の場合はインキの受理能力が不足し、30μmを超える場合はインキの受理能力が過大となり不経済である。
【0035】
第2インキ受容層22は、磁性層14の組成などに応じて、インキ受容層用塗料が選択されている。第2インキ受容層22の厚みは1μm以上30μm以下が好ましい。第2インキ受容層22の厚みが1μm未満の場合はインキの受理能力が不足し、30μmを超える場合はインキの受理能力が過大となり不経済である。
【0036】
また、第2インキ受容層22と着色層13を含めて「裏側塗料層」と言う場合、裏側塗料層の厚さ(第2インキ受容層22と着色層13の合計厚)は、磁性層14に対する隠蔽力を考慮して、2μm以上(好ましくは4μm以上)とすることができる。なお、裏側塗料層は、図2の場合は第2インキ受容層22のみで構成される。また、磁性層14の色がグレーの場合、磁性層14が黒色系の場合に比べて裏側塗料層を薄くすることができる。
【0037】
また、第1インキ受容層21と表側着色層を含めて「表側塗料層」と言う場合、裏側塗料層は、表側塗料層に比べて厚い。図1の場合、第2インキ受容層22及び着色層13の合計厚は、第1インキ受容層21の厚さに比べて大きい。これにより、磁性層14に対する隠蔽力を確保しつつ、磁性フィルム10を薄くすることができる。
【0038】
着色層13は、無機顔料などを含む塗料皮膜(塗膜)により構成された層である。着色層13に用いる塗料としては、艶なしの塗料を用いるが、艶ありの塗料を用いることもできる。着色層13の色は、白、グレー、淡い黄色、又は淡い青色などの白色系又は淡色系を選択することができる。なお、着色層13の色としては透明色を選択してもよい。塗料としては、ポリエステル系SS16-611(東洋インキ(株)製)、ポリエステル系PALマット8,ポリエステル系RAM,ウレタンアクリル系ULA等(セイコーアドバンス(株)製)などを用いることができる。また、着色層13の模様は、無地であってもよいし、縦線、横線、格子、又はこれら以外の模様を施してもよい。
【0039】
[磁性フィルムの製造方法]
磁性フィルム10の製造方法は、塗布によって磁性層14を形成する磁性層形成工程と、基材12の表面と磁性層14の裏面とにそれぞれ塗布によって塗料層を形成する塗料層形成工程とをこの順番で行う。なお、基材12の表面又は磁性層14の裏面には、親水処理などの表面処理を施してもよい。以下に、製造方法の各工程について詳細に説明する。
【0040】
磁性層形成工程では、塗工液の製造と、塗工液の塗布とをこの順番で行う。塗工液の製造では、例えば、撹拌機において、有機溶剤に溶解したワニス又はエマルジョンに対し有機高分子エラストマー(バインダー)と磁性材料粉とを順次投入して攪拌混合を行う。次に、サンドミル(ビーズミル)を用いて分散処理を行う。そして、塗布に用いるコーターに適した粘度となるように粘度調整を行い、さらに異物除去のための濾過処理を行う。これにより、塗工液ができあがる。なお、粘度調整は、有機高分子エラストマーを有機溶剤に溶解させる場合は有機溶剤で希釈することにより行い、エマルジョンの場合は水で希釈することにより行う。
【0041】
続いて、塗工液の塗布では、ブレードコーター、バーコーター、コンマコーター、グラビヤコーター、ロールコーター、又はリバースロールコーターなどのコーターを用いた公知の方法により、基材12に対し、所定の塗布厚になるように塗工液の塗布が行われる。塗工液が塗布された基材12は、温風乾燥炉(例えば、50~100℃×10分)で塗工液を乾燥させる。軟質磁性層の場合は、以上により磁性層14が形成される(図3(a)参照)。
【0042】
一方、硬質磁性層の場合は、温風乾燥炉により塗工液を乾燥させた後の基材12に対し着磁(例えば、両面多極着磁)が行われる。なお、温風乾燥炉で塗工液を乾燥させる前の基材12に対して、NSの配向方向を揃えるための着磁を行ってもよい。この場合、磁性層14は異方性磁石になる。
【0043】
両面多極着磁を行う場合、例えば、公知の直流着磁電源(高圧コンデンサー式)とワンターン多極着磁ヨークから成る方式、又は、永久磁石型多極着磁ロール方式によって、隣り合う極間が0.5以上3mm以下になるように着磁を行うことが好ましい。極間が0.5mm未満の場合は着磁ヨーク又は着磁ロールの製作が困難であり、3mmを超える場合は磁石に適する極間の範囲(効率の良い着磁)を逸脱してしまう。
【0044】
塗料層形成工程では、基材12の表側に対し、インキ受容層用塗料の塗布を行った後に、乾燥炉(例えば、60~90℃×12分)でインキ受容層用塗料を乾燥させる。また、磁性層14の裏側に対し、塗料の塗布を行った後に、乾燥炉で塗料を乾燥させる。そして、次にインキ受容層用塗料の塗布を行った後に、乾燥炉でインキ受容層用塗料を乾燥させる。塗料又はインキ受容層用塗料の塗布に用いる塗布装置として、例えば、エアナイフコーター、ブレードコーター、バーコーター、コンマコーター、グラビヤコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、又はカーテンコーターなどのコーターを用いることができる。
【0045】
例えば、塗料層形成工程では、図3(b)に示すように、磁性層形成工程後の基材12の表側において、インキ受容層用塗料の塗布及び乾燥を行うことにより第1インキ受容層21を形成する。そして、図3(c)に示すように、磁性層14の裏側において塗料の塗布及び乾燥を行うことにより着色層13を形成する。さらに、図3(d)に示すように、着色層13の裏側においてインキ受容層用塗料の塗布及び乾燥を行うことにより第2インキ受容層22を形成する。
【0046】
なお、塗料の塗布及び乾燥を行う順番が、基材12の表側と裏側で逆にしてもよいし、第1インキ受容層21と第2インキ受容層22とを同時に形成してもよい。また、塗料の塗布及び乾燥を繰り返し行い、複数の着色層13を形成してもよい。また、第2インキ受容層22について、磁性層14の色がグレーの場合、磁性層14が黒色系の場合に比べて着色層13を1層にするなど着色層13の層数を減らすことができる。
【0047】
[実施形態の効果等]
本実施形態では、基材12及び磁性層14が1層ずつしか設けられていないため、表裏の両面ともインクジェット方式等の印刷が可能な磁性フィルム10において、層数を少なくすることが可能で、製造工程を簡素化することが可能である。さらに、厚みを薄くすることも可能で、磁性フィルム10の柔軟性を向上させることも可能である。なお、磁性フィルム10に柔軟性が必要ない場合は、基材12又は磁性層14の材料選定によって柔軟性が低いものとすることもできる。
【0048】
本実施形態に係る磁性フィルム10は、任意の規格寸法のフィルムとして製造することができ、製造後は両面にインクジェット方式等で印刷を行うことができる。そして、使用者は、片方の印刷面を表側に選択して磁性フィルム10を被着体に貼り付け、必要なタイミングで、もう片方の印刷面を表側にして貼り付けることができる。そのため、別々のタイミングで用いる2つの印刷面を1枚の磁性フィルム10で実現することができる。
【0049】
[その他の実施形態]
上述の実施形態では、第1インキ受容層21の形成前に磁性層14の形成を行ったが、図4(a)~(c)に示すように、第1インキ受容層21の形成、磁性層14の形成、着色層13と第2インキ受容層22の形成という順番で、磁性フィルム10を製造してもよい。
【0050】
上述の実施形態では、磁性層14の表側に基材12が積層されているが、基材12を省略してもよい。この場合、磁性フィルム10は、図5に示すように、磁性層14と、磁性層14の片面に直接的に積層された第1インキ受容層21と、磁性層14における第1インキ受容層21側とは反対面に対し直接的に積層された第2インキ受容層22とを備え、第1インキ受容層21及び第2インキ受容層22の各々に対し、インクジェット方式の印刷、オフセット方式の印刷、凸版印刷又は熱転写印刷などの種々の方式の印刷が可能に構成されている。磁性層14は、各インキ受容層21,22を支持する基材の役割を担う。なお、図5では、磁性層14の表側と裏側に着色層13を設けてはいないが、図6に示すように、磁性層14の表側と裏側の両方に着色層13を設けてもよい。また、磁性層14の表側だけに着色層13を設けてもよいし、磁性層14の裏側だけに着色層13を設けてもよい。これにより表と裏で色合い(白色度など)が異なる磁性フィルム10とすることができる。図5又は図6の磁性フィルム10によれば、上述の実施形態に比べて厚みをさらに薄くすることが可能であり、柔軟性をさらに向上させることも可能である。
【0051】
上述の実施形態(図1図2の磁性フィルム10)では、基材12を1層設けたが、基材12,18を2層設けてもよい。この場合、磁性フィルム10は、図7に示すように、フィルム状の第1基材12と、第1基材12の片面に積層された第1インキ受容層21と、第1基材12のもう片面に直接的に積層された磁性層14と、磁性層14における第1基材12側とは反対面に直接的に積層された第2基材18と、第2基材18における磁性層14側とは反対面に直接的に積層された第2インキ受容層22とを備え、第1インキ受容層21及び第2インキ受容層22の各々に対し、インクジェット方式の印刷、オフセット方式の印刷、凸版印刷又は熱転写印刷などの種々の方式の印刷が可能に構成されている。なお、第1基材12と第1インキ受容層21と間に表側着色層を設けてもよいし、第2基材18と第2インキ受容層22との間に着色層13(裏側着色層)を設けてもよい。
【0052】
上述の実施形態(図1図2図5図7の磁性フィルム10)では、磁性層14が、有機バインダーなどのバインダー内において磁性材料粉が分散した層(以下、「磁性材料粉の分散層」)であるが、その代わりに、スチール箔又はステンレス箔などの金属箔を用いてもよい。金属箔を用いることで、磁性材料粉の分散層に比べて磁気吸着力を高めやすくなる。なお、磁性層14にスチール箔を用いる場合、防食用のメッキ(亜鉛メッキ、錫メッキなど)により、スチール箔の表面を被覆してもよい。
【0053】
上記実施形態では、磁性層形成工程において塗工液を乾燥させた直後に多極着磁を行ったが、各インキ受容層21,22の形成後に多極着磁を行ってもよい。
【0054】
上記実施形態において、磁性層形成工程後にニップ方式のプレスロールで磁性層14を加圧してもよい。これにより、磁性層14の密度向上(磁性の向上)を図ることができる。また、厚みバラツキ及びニップロールの加圧過多による皺入り不良を生じることを抑制することができる。なお、加圧処理条件は、温度:60~80℃、ニップゴムロールの硬度:ショアA55~65°、線圧:200~400N/cm程度が好ましい。
【実施例
【0055】
以下では、実施例及び比較例の各試験片について、JIS-L-1096:2010におけるA法(45°カンチレバー法)の剛軟度試験と、円筒に長時間巻いた後の反り具合の測定とを行った結果について説明を行う。なお、本発明は実施例に限定されない。
【0056】
<実施例1>
実施例1の試験片は、第1インキ受容層、基材、磁性層、着色層、及び第2インキ受容層がこの順番で積層された磁性フィルムである。実施例1の試験片は、片面だけに印刷可能な磁性フィルム(第1インキ受容層、基材及び磁性層がこの順番で積層されたフィルム。以下、「片面印刷用の磁性フィルム」という。)を準備し、片面印刷用の磁性フィルムの磁性層上に、着色層及び第2インキ受容層を順次形成することにより作製した。着色層は2層設けられている。実施例1の試験片は、基材及び磁性層が1層ずつ設けられている。
【0057】
<実施例2>
実施例2の試験片は、第1インキ受容層、第1基材、磁性層、第2基材、及び第2インキ受容層がこの順番で積層された磁性フィルムである。実施例2の試験片は、片面印刷用の磁性フィルムを準備し、片面印刷用の磁性フィルムの磁性層側にインクジェットフィルム(基材にインキ受容層が積層されたフィルム)を積層して接着することにより作製した。実施例2の試験片は、磁性層は1層であるが、基材が2層設けられている。
【0058】
<比較例>
比較例の試験片は、第1インキ受容層、第1基材、磁性層、磁性層、第2基材及び第2インキ受容層がこの順番で積層された磁性フィルムである。比較例の試験片は、2枚の片面印刷用の磁性フィルムを準備し、2枚の片面印刷用の磁性フィルムの磁性層同士を互いに接着することにより作製した。比較例の試験片は、基材及び磁性層が2層ずつ設けられている。
【0059】
[剛軟度試験]
剛軟度試験は、図8(a)に示す試験機30を用いて行った。試験機30は、片側に45°の傾斜面を有する水平台であり、水平台にはスケール31が設けられている。剛軟度試験では、水平台に置いた試験片35(20mm×約150mm)を傾斜面側に滑らせていき、垂れた状態の試験片35の一端の中央点が傾斜面に接したときの位置をスケールで読み取った。これにより、試験片35のうち水平台から傾斜面側に延び出た部分の長さL(図8(b))を取得する。実施例及び比較例の各試験片について取得した長さLを表1に示す。
【0060】
[円筒に長時間巻いた試験片の反り具合の測定]
当該反り具合の測定は、図9に示すように、円筒40の周長に略等しい長さの試験片45を円筒40に巻いた状態で72時間に亘って維持した後に、水平面上に試験片45を置き、試験片45において長さ方向の一端が水平面から浮いた距離Xを測定するものである。円筒40は、Φ75mmとΦ50mmの2種類を使用した。実施例及び比較例の各試験片について測定された距離Xを表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
なお、剛軟度試験について、実施例2と比較例はともに、試験片35が水平台から傾斜面側に150mm延び出た状態でも、試験片35の一端が傾斜面から浮いていた。そのため、表1の長さLは「150mm以上」と記載している。なお、試験片35の一端が試験機30の傾斜面から浮く距離は、実施例2の方が小さかった。
【0063】
剛軟度試験の結果によれば、実施例1が最も柔軟性に優れていることを確認できた。また、実施例2と比較例とでは、実施例2の方が柔軟性に優れていることを確認できた。
【0064】
また、円筒に長時間巻いた試験片の反り具合の測定を行った結果によっても、実施例1が最も柔軟性に優れていることを確認できた。また、実施例2と比較例とでは、実施例2の方が柔軟性に優れていることを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、磁力を利用して貼り付けられる磁性フィルム等に適用可能である。
【符号の説明】
【0066】
10 磁性フィルム
12 基材
13 着色層
14 磁性層
18 基材
21 第1インキ受容層
22 第2インキ受容層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9