(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-13
(45)【発行日】2023-09-22
(54)【発明の名称】ポリアミド酸、ポリアミド酸溶液、ポリイミド、ポリイミド膜、積層体およびフレキシブルデバイス、ならびにポリイミド膜の製造方法。
(51)【国際特許分類】
C08G 73/10 20060101AFI20230914BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
C08G73/10
H05K1/03 610N
(21)【出願番号】P 2019068341
(22)【出願日】2019-03-29
【審査請求日】2022-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100155712
【氏名又は名称】村上 尚
(72)【発明者】
【氏名】宇野 真理
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-135464(JP,A)
【文献】国際公開第2017/051827(WO,A1)
【文献】特開2017-185807(JP,A)
【文献】特表2016-533005(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G73/00-73/26
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアミンとテトラカルボン酸二無水物の重付加反応物であるポリアミド酸であって、前記ジアミンが、2,2’-ビストリフルオロメチルベンジジンまたは1,4-ジアミノシクロヘキサンの少なくてもどちらか一方を含み、
前記2,2’-ビストリフルオロメチルベンジジンまたは1,4-ジアミノシクロヘキサン(両方を含む場合はその合計)は、ジアミン成分の全量100mol%に対して、30mol%以上であり、
さらに一般式(1)~(3)からなる群より少なくとも一つは選択されるエステル基含有ジアミンを含み、前記テトラカルボン酸二無水物が3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を含むことを特徴とするポリアミド酸。(式(1)~(3)中のR
1~R
16は、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基、フェニル基、スルホニル基、トリフルオロメチル基、水素原子から選択される官能基であって、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。)
【化1】
【化2】
【化3】
【請求項2】
ジアミン全量に対する前記式(1)~(3)で表されるエステル基含有ジアミンの量が10mol%以上70mol%以下である、請求項1に記載のポリアミド酸。
【請求項3】
前記式(1)~(3)でジアミンがそれぞれ下記式(4)から(6)で表されるジアミンであることを特徴とする請求項1または2に記載のポリアミド酸。
【化4】
【化5】
【化6】
【請求項4】
前記ジアミンが、2,2’-ビストリフルオロメチルベンジジンと一般式(3)のエステル基含有ジアミンとを含むか、または、1,4-ジアミノシクロヘキサンと一般式(1)~(3)からなる群より少なくとも一つは選択されるエステル基含有ジアミンとを含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のポリアミド酸。
【請求項5】
請求項1から
4のいずれか一項に記載のポリアミド酸と有機溶媒とを含有する、ポリアミド酸溶液。
【請求項6】
ジアミンとテトラカルボン酸二無水物の重付加反応物であるポリアミド酸
を脱水閉環によりイミド化してなるポリイミドであって、前記ジアミンが、2,2’-ビストリフルオロメチルベンジジンまたは1,4-ジアミノシクロヘキサンの少なくてもどちらか一方を含み、
前記2,2’-ビストリフルオロメチルベンジジンまたは1,4-ジアミノシクロヘキサン(両方を含む場合はその合計)は、ジアミン成分の全量100mol%に対して、30mol%以上であり、
さらに一般式(1)~(3)からなる群より少なくとも一つは選択されるエステル基含有ジアミンを含み、前記テトラカルボン酸二無水物が3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を含むことを特徴とするポリイミド。(式(1)~(3)中のR
1~R
16は、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基、フェニル基、スルホニル基、トリフルオロメチル基、水素原子から選択される官能基であって、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。)
【化7】
【化8】
【化9】
【請求項7】
ジアミン全量に対する前記式(1)~(3)で表されるエステル基含有ジアミンの量が10mol%以上70mol%以下である、請求項
6に記載のポリイミド。
【請求項8】
前記式(1)~(3)でジアミンがそれぞれ下記式(4)から(6)で表されるジアミンであることを特徴とする請求項
6または7に記載のポリイミド。
【化10】
【化11】
【化12】
【請求項9】
前記ジアミンが、2,2’-ビストリフルオロメチルベンジジンと一般式(3)のエステル基含有ジアミンとを含むか、または、1,4-ジアミノシクロヘキサンと一般式(1)~(3)からなる群より少なくとも一つは選択されるエステル基含有ジアミンとを含むことを特徴とする請求項6から8のいずれか一項に記載のポリイミド。
【請求項10】
請求項
6から9のいずれか一項に記載のポリイミドを含むポリイミド膜。
【請求項11】
面内方向の屈折率が1.70以上である請求項
10に記載のポリイミド膜。
【請求項12】
波長450nmの光透過率が75%以上であり、かつYIが10以下であることを特徴とする請求項
10または11に記載のポリイミド膜。
【請求項13】
基材上に請求項
10から12のいずれか1項に記載のポリイミド膜が設けられた積層体。
【請求項14】
25℃における内部応力が30MPa以下であることを特徴とする請求項
13に記載の積層体。
【請求項15】
請求項
10から12のいずれか1項に記載のポリイミド膜上に電子素子を備えるフレキシブルデバイス。
【請求項16】
請求項
5に記載のポリアミド酸溶液を基材に塗布して、基材上に膜状のポリアミド酸が設けられた積層体を形成し、前記積層体を加熱してポリアミド酸をイミド化するポリイミド膜の製造方法。
【請求項17】
基材上に膜状のポリアミド酸が設けられた積層体の加熱最高温度が300℃以上450℃以下であって、この最高温度での加熱時間が10分以上60分以下であることを特徴とする請求項
16に記載のポリイミド膜の製造方法。
【請求項18】
請求項
16または17に記載の方法によりポリイミド膜を形成し、前記基材と前記ポリイミド膜を剥離することを特徴とするポリイミド膜の製造方法。
【請求項19】
レーザー照射により、前記基材とポリイミド膜との剥離が行われる、請求項
18に記載のポリイミド膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド酸、ポリアミド酸溶液、ポリイミド、およびポリイミド膜に関する。さらに、本発明はポリイミド膜を備える積層体およびフレキシブルデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイ、太陽電池、タッチパネル、有機EL照明等の電子デバイスにおいて、デバイスの薄型化、軽量化、およびフレキシブル化が要求されており、ガラス基板に代えてプラスチックフィルム基板の利用が検討されている。
【0003】
これらの電子デバイスの製造プロセスでは、基板上に、薄膜トランジスタや透明電極等の電子素子が設けられる。電子素子の形成は高温プロセスを要するため、プラスチックフィルム基板には高温プロセスに適応可能な耐熱性が要求される。主に無機材料からなる電子素子をプラスチックフィルム基板上に形成した場合、無機材料とプラスチックフィルム基板の熱膨張係数の違いに起因して、素子形成界面に応力が生じ、基板の反りや素子の破壊が生じる場合がある。そのため、耐熱性を有しながら、無機材料と同等の熱膨張係数を有する材料が求められている。素子から発せられる光がプラスチックフィルム基板を通って出射する場合(例えば、ボトムエミッション型の有機ELや有機EL照明)は、基板材料に透明性が求められる。さらに、これらの電子デバイスは電子素子として、透明電極や発光層など多くの層からなるため多くの界面を有するため、界面での反射を抑制し、光取出効率を高くすることが望ましく、電子素子よりも屈折率が高いことが基板材料として求められる。
【0004】
透明性が高く、低熱膨張性を示すプラスチック材料として、剛直な構造のモノマーを用いたポリイミドが知られている(特許文献1)。特許文献2には、フレキシブル電子デバイスに好適に用いることができるポリイミドについて記載がされている。また、特許文献3には、高屈折率ポリイミドが有機電子素子基板として好適に用いることができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-046054号公報
【文献】特開2015-136868号公報
【文献】特開2017-103243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば特許文献1に記載されているように、ポリイミドの透明化にはフッ素含有モノマーを用いられることが多く、フッ素を含有しているために、屈折率が低くなる傾向がある。一般に、ポリイミドは透明性と熱膨張係数との間にトレードオフの関係があり、透明性を高めると熱膨張係数が大きくなる傾向がある。そのため基板に反りが生じやすくなるが、それを解消するためにシリコーン成分を導入することも知られている。(特許文献2)しかしながら、シリコーン成分を導入した場合も透明性は高いものの、屈折率は低くなる。また、特許文献3には高屈折率のポリイミドをバインダーとして用いて、無機粒子を複合化することでさらに屈折率を高くした基板材料について記載されている。しかしながら、基板の反りや生じる応力については考慮されていない。上記実情に鑑みて、本発明は、高透明性、高屈折率および低内部応力を有するポリイミド、およびポリイミドの形成に用いるポリアミド酸の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物の重付加反応物であるポリアミド酸であって、前記ジアミンが、2,2’-ビストリフルオロメチルベンジジンを含み、 前記テトラカルボン酸二無水物が、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を含み、さらに9,9’-(3,4’-ジカルボキシフェニル)フルオレン酸二無水物をテトラカルボン酸無水物全量に対して1mol%以上10mol%以下の割合で含んでいることを特徴とするポリアミド酸、およびそのポリアミド酸から得られるポリイミドにより上記課題を解決することができることを見出した。
即ち、本発明は以下の構成をなす。
1).ジアミンとテトラカルボン酸二無水物の重付加反応物であるポリアミド酸であって、前記ジアミンが、2,2’-ビストリフルオロメチルベンジジンまたは1,4-ジアミノシクロヘキサンの少なくてもどちらか一方を含み、さらに一般式(1)~(3)からなる群より少なくとも一つは選択されるエステル基含有ジアミンを含み、前記テトラカルボン酸二無水物が3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を含むことを特徴とするポリアミド酸。(式(1)~(3)中のR1~R16は、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基、フェニル基、スルホニル基、トリフルオロメチル基、水素原子から選択される官能基であって、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。)
【0008】
【0009】
【0010】
【0011】
2).ジアミン全量に対する前記式(1)~(3)で表されるエステル基含有ジアミンの量が10mol%以上70mol%以下である、1).に記載のポリアミド酸。
3).前記式(1)~(3)でジアミンがそれぞれ下記式(4)から(6)で表されるジアミンであることを特徴とする1).または2).に記載のポリアミド酸。
【0012】
【0013】
【0014】
【0015】
4).1.)~3).のいずれかに記載のポリアミド酸と有機溶媒とを含有する、ポリアミド酸溶液。
5).ジアミンとテトラカルボン酸二無水物の重付加反応物であるポリアミド酸であって、前記ジアミンが、2,2’-ビストリフルオロメチルベンジジンまたは1,4-ジアミノシクロヘキサンの少なくてもどちらか一方を含み、さらに一般式(1)~(3)からなる群より少なくとも一つは選択されるエステル基含有ジアミンを含み、前記テトラカルボン酸二無水物が3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を含むことを特徴とするポリイミド。(式(1)~(3)中のR1~R16は、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基、フェニル基、スルホニル基、トリフルオロメチル基、水素原子から選択される官能基であって、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。)
【0016】
【0017】
【0018】
【0019】
6).ジアミン全量に対する前記式(1)~(3)で表されるエステル基含有ジアミンの量が10mol%以上70mol%以下である、請求項1に記載のポリイミド。
7).前記式(1)~(3)でジアミンがそれぞれ下記式(4)から(6)で表されるジアミンであることを特徴とする5).または6).に記載のポリイミド。
【0020】
【0021】
【0022】
【0023】
8).5).~7).のいずれかに記載のポリイミドを含むポリイミド膜。
9).面内方向の屈折率が1.70以上である8).に記載のポリイミド膜。
10). 波長450nmの光透過率が75%以上であり、かつYIが10以下であることを特徴とする8).または9).に記載のポリイミド膜。
11).基材上に請求項8~10のいずれか1項に記載のポリイミド膜が設けられた積層体。
12).25℃における内部応力が30MPa以下であることを特徴とする11).に記載の積層体。
13).8).~10).のいずれか1項に記載のポリイミド膜上に電子素子を備えるフレキシブルデバイス。
14).4).に記載のポリアミド酸溶液を基材に塗布して、基材上に膜状のポリアミド酸が設けられた積層体を形成し、前記積層体を加熱してポリアミド酸をイミド化するポリイミド膜の製造方法。
15).基材上に膜状のポリアミド酸が設けられた積層体の加熱最高温度が300℃以上450℃以下であって、この最高温度での加熱時間が10分以上60分以下であることを特徴とする14).に記載のポリイミド膜の製造方法。
16).14).または15).に記載の方法によりポリイミド膜を形成し、前記基材と前記ポリイミド膜を剥離することを特徴とするポリイミド膜の製造方法。
17).レーザー照射により、前記基材とポリイミド膜との剥離が行われる、16).に記載のポリイミド膜の製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明のポリイミド膜は、熱寸法安定性および光学特性に優れ、フレキシブルデバイス用基板等に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
ジアミンとテトラカルボン酸二無水物の重付加反応によりポリアミド酸が得られ、ポリアミド酸の脱水閉環反応によりポリイミドが得られる。すなわち、ポリイミドはテトラカルボン酸二無水物とジアミンの重縮合反応物である。本発明のポリアミド酸およびポリイミドは、ジアミン成分として2,2-ビストリフルオロメチルベンジジン(以下、TFMBと称することがある)または1,4-シクロヘキサンジアミン(以下、CHDAと称することがある)、およびエステル基含有ジアミンを含み、テトラカルボン酸二無水物成分として3,3,4,4-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、BPDAと称することがある)を含む。
【0026】
(ジアミン成分)
TFMBおよびCHDAは、透明性の向上に寄与する。また一般式(1)~(3)で表されるエステル基含有ジアミンはポリアミド酸およびポリイミドは、屈折率を高めることに有効である。
【0027】
【0028】
【0029】
【0030】
さらにTFMB、CHDAおよび上述したエステル基含有ジアミンは熱膨張の低減と内部応力の低減に寄与する。本発明のポリアミド酸およびポリイミドには、ジアミン成分としてTFMB、CHDAおよび上述したエステル基含有ジアミン以外の成分を含んでいてもよい。上記以外のジアミンとしては、4,4'-ジアミノベンズアニリド、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、4,4'-ジアミノジフェニルスルホン、3,3'-ジアミノジフェニルスルホン、9,9'-(4-アミノフェニル)フルオレン、9,9'-(4-アミノ-3-メチルフェニル)フルオレン、1,4'-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2'-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)プロパン、4,4'-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4'-メチレンビス(シクロへキサンアミン)、3,3-ジアミノー4,4-ジヒドロキシジフェニルスルホン、2,2―ビス(3-アミノ4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、等が挙げられる。また、TFMBとCHDAを両方含んでいてもよく、2種類以上のエステル基含有ジアミンを含んでいてもよい。
【0031】
高い透明性を発現させる観点から、ポリアミド酸およびポリイミドにおけるジアミン成分の全量100mol%に対するTFMBまたはCHDA、およびTFMBとCHDAの両方を含む場合はその合計は、30mol%以上が好ましく、40mol%以上がより好ましく、50mol%以上がさらに好ましい。なお、透明性に寄与するジアミンとしては原料の入手性と耐熱性の観点からTFMBを用いることが最も好ましい。
高い透明性と高屈折率を両立させる観点から、ポリアミド酸およびポリイミドにおけるジアミン成分の全量100mol%に対する上記エステル基含有ジアミンは10mol%以上80mol%以下が好ましく、20mol%以上70mol%以下がより好ましく、30mol%以上60mol%以下がさらに好ましい。一般式(1)~(3)で表されるエステル基含有ジアミンは耐熱性の観点から式(4)~(6)で表されるジアミンを選択することが好ましく、式(4)で表されるジアミンを選択することが最も好ましい。
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
(テトラカルボン酸二無水物成分)
酸二無水物成分としてBPDAを有するポリイミドは、剛直な構造を有するため、低熱膨張性を示す。ポリアミド酸およびポリイミドにおけるテトラカルボン酸二無水物全量100mol%に対するBPDAの割合は、50mol%以上100mol%以下であることが好ましく、60mol%以上100mol%以下であることがより好ましく、70mol%以上100mol%以下であることがさらに好ましい。
【0036】
ポリアミド酸およびポリイミドは、テトラカルボン酸二無水物成分としてBPDA以外の成分を含んでいてもよい。これら以外のテトラカルボン酸二無水物としては、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物、9,9’-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]フルオレン二無水物、3,3’,4,4′-ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、2,3,5,6-ピリジンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-スルホニルジフタル酸二無水物、パラテルフェニル-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物、メタテルフェニル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、(1S,2R,4S,5R)-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(シス、シス、シス-1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物)、(1S,2S,4R,5R)-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、(1R,2S,4S,5R)-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、5-(ジオキソテトラヒドロフリル-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物、4-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-テトラリン-1,2-ジカルボン酸無水物、テトラヒドロフラン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,4-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、等が挙げられる。
【0037】
(ポリアミド酸およびポリアミド酸溶液)
本発明のポリアミド酸は、公知の一般的な方法により合成できる。例えば、有機溶媒中でジアミンとテトラカルボン酸二無水物とを反応させることにより、ポリアミド酸溶液が得られる。ポリアミド酸の重合に使用する有機溶媒は、モノマー成分としてのテトラカルボン酸二無水物およびジアミンを溶解し、かつ重付加により生成するポリアミド酸を溶解するものが好ましい。有機溶媒としては、テトラメチル尿素、N,N-ジメチルエチルウレア等のウレア系溶媒;ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン、テトラメチルスルホン等のスルホン系溶媒;N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N’-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ヘキサメチルリン酸トリアミド等のアミド系溶媒;γ―ブチロラクトン等のエステル系溶媒;クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン化アルキル系溶媒;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素系溶媒;フェノール、クレゾール等のフェノール系溶媒;シクロペンタノン等のケトン系溶媒;テトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキサン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、p-クレゾールメチルエーテル等のエーテル系溶媒が挙げられる。通常これらの溶媒は単独で用いるが、必要に応じて2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。ポリアミド酸の溶解性および反応性を高めるために、有機溶媒は、アミド系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒およびエーテル系溶媒からなる群から選択されることが好ましく、特にN,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N’-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等のアミド系溶媒が好ましい。
【0038】
ジアミン成分全量のモル数と、テトラカルボン酸二無水物成分全量のモル数との比を調整することにより、ポリアミド酸の分子量を調整できる。ポリアミド酸の合成に用いるモノマー成分には、ジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物以外が含まれていてもよい。例えば、分子量の調整等を目的として、一官能のアミンや一官能の酸無水物を用いてもよい。
【0039】
ジアミンとテトラカルボン酸二無水物との重付加によるポリアミド酸の合成は、アルゴン、窒素等の不活性雰囲気中で実施することが好ましい。不活性雰囲気中で、有機溶媒中にジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物を溶解させ、混合することにより、重合が進行する。ジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物の添加順序は特に限定されない。例えば、ジアミンを有機溶媒中に溶解またはスラリー状に分散させて、ジアミン溶液とし、テトラカルボン酸二無水物をジアミン溶液中に添加すればよい。テトラカルボン酸二無水物は、固体の状態で添加してもよく、有機溶媒に溶解、またはスラリー状に分散させた状態で添加してもよい。
【0040】
反応の温度条件は特に限定されない。解重合によるポリアミド酸の分子量低下を抑制する観点から、反応温度は80℃以下が好ましい。重合反応を適度に進行させる観点から、反応温度は0~50℃がより好ましい。反応時間は10分~30時間の範囲で任意に設定すればよい。
【0041】
本発明のポリアミド酸の重量平均分子量は、10,000~200,000の範囲が好ましく、30,000~180,000の範囲がより好ましく、40,000~150,000の範囲がさらに好ましい。重量平均分子量が10,000以上であれば、ポリアミド酸ポリイミドの膜強度を確保できる。ポリアミド酸の重量平均分子量が200,000以下であれば、溶媒に対して十分な溶解性を示すため、表面が平滑で膜厚が均一な塗膜またはフィルムが得られやすい。分子量は、ゲルパーミレーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリエチレングリコール換算の値である。
【0042】
有機溶媒中でジアミンとテトラカルボン酸二無水物とを反応させることにより、ポリアミド酸溶液が得られる。ポリアミド酸溶液に溶媒を添加して、ポリアミド酸の濃度や溶液の固形分濃度を調整してもよい。ポリアミド酸溶液には、ポリアミド酸の脱水閉環によるイミド化の促進や、イミド化の抑制による溶液保管性(ポットライフ)向上等を目的とした添加剤が含まれていてもよい。イミド化の促進にはイミダゾール類が好適に用いられる。イミダゾール類とは、1,3-ジアゾール環構造を含有する化合物であり、1H-イミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル2-フェニルイミダゾール等が挙げられる。1,2-ジメチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル2-フェニルイミダゾール等が挙げられる。中でも、ポリイミド膜の熱寸法安定性向上の観点から、1,2-ジメチルイミダゾール、および1-ベンジル-2-メチルイミダゾールが好ましい。
【0043】
ポリアミド酸溶液中のイミダゾール類の含有量は、ポリアミド酸のアミド基1モルに対して0.005~0.1モルが好ましく、0.01~0.08モルがより好ましく、0.015~0.050モルがさらに好ましい。「ポリアミド酸のアミド基」とは、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物の重付加反応によって生成したアミド基であり、1モルのジアミンと1モルのテトラカルボン酸二無水物の重付加により得られるポリアミド酸は2モルのアミド基を含んでいる。
【0044】
ポリアミド酸およびポリイミドに加工特性や各種機能性を付与するために、様々な有機または無機の低分子または高分子化合物を配合してもよい。例えば、ポリアミド酸溶液は、染料、界面活性剤、レベリング剤、可塑剤、微粒子、増感剤、シランカップリング剤等を含んでいてもよい。微粒子は、有機微粒子および無機微粒子のいずれでもよく、多孔質や中空構造であってもよい。
【0045】
ポリアミド酸溶液にシランカップリング剤を配合することにより、ポリアミド酸の塗膜および脱水閉環により生成するポリイミド膜と基材との密着性が向上する傾向がある。シランカップリング剤の配合量は、ポリアミド酸100重量部に対して1.0重量部以下が好ましく、0.5重量部以下がより好ましく、0.1重量部以下がさらに好ましい。シランカップリング剤は、ポリアミド酸溶液に添加してもよく、ポリアミド酸の重合反応前または重合反応中の溶液に添加してもよい。例えば、アミノ基を有するシランカップリング剤を用いることにより、ポリアミド酸の末端にシランカップリング剤に由来する構造を導入できる。ポリアミド酸の重合系にアミノ基を有するシランカップリング剤を添加する場合は、ポリアミド酸の分子量を高く保つために、ポリアミド酸(テトラカルボン酸二無水物とジアミンの合計)100重量部に対するシランカップリング剤の配合割合を1.0重量部以下とすることが好ましい。
【0046】
(ポリイミドおよびポリイミド膜)
上記のポリアミド酸およびポリアミド酸溶液は、そのまま、製品や部材を作製するための材料として用いてもよく、バインダー樹脂や添加剤等を配合して、樹脂組成物を調製してもよい。耐熱性および機械特性に優れることから、ポリアミド酸を脱水閉環によりイミド化してポリイミドとして実用することが好ましい。脱水閉環は、共沸溶媒を用いた共沸法、熱的手法または化学的手法により行われる。溶液の状態でイミド化を行う場合は、イミド化剤および/または脱水触媒をポリアミド酸溶液に添加して、化学的イミド化を行うことが好ましい。ポリアミド酸溶液から溶媒を除去して膜状のポリアミド酸を形成し、膜状のポリアミド酸をイミド化する場合は、熱イミド化が好ましい。例えば、ガラス、シリコンウエハー、銅板やアルミ板等の金属板、PET(ポリエチレンテレフタレート)等のフィルム基材に、ポリアミド酸溶液を塗布して塗膜を形成した後、熱処理を行えばよい。
【0047】
ポリアミド酸溶液の基材への塗布は、グラビアコート法、スピンコート法、シルクスクリーン法、ディップコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ダイコート法等の公知の方法により行い得る。イミド化の際の加熱温度および加熱時間は、適宜決定すればよい。加熱温度は、例えば80℃~500℃の範囲内である。
【0048】
発明のポリイミドは、透明性および熱寸法安定性に優れるため、ガラス代替用途の透明基板として使用可能であり、TFT基板材料、透明電極基板材料、印刷物、カラーフィルター、フレキシブルディスプレイ部材、反射防止膜、ホログラム、建築材料、構造物等への利用が期待される。特に、本発明のポリイミド膜は、熱寸法安定性に優れるため、TFT基板や電極基板等の電子デバイス透明基板として好適に用いられる。電子デバイスとしては、液晶表示装置、有機ELおよび電子ペーパー等の画像表示装置、タッチパネル、太陽電池等が挙げられる。これらの用途において、ポリイミド膜の厚みは、1~200μm程度であり、5~100μm程度が好ましい。
【0049】
電子デバイスの製造プロセスでは、基板上に、薄膜トランジスタや透明電極等の電子素子が設けられる。フィルム基板上への素子の形成プロセスは、バッチタイプとロール・トゥ・ロールタイプに分けられる。ロール・トゥ・ロールプロセスでは、長尺のフィルム基板を搬送しながら、フィルム基板上に電子素子が順次設けられる。バッチプロセスでは、無アルカリガラス等の剛性基材上にフィルム基板を形成して積層体を形成し、積層体のフィルム基板上に電子素子を設けた後、フィルム基板から基材を剥離する。本発明のポリイミド膜はいずれのプロセスにも適用可能である。バッチプロセスは、現行のガラス基板用の設備を利用することができるため、コスト面で優位である。以下では、ガラス基材上にポリイミド膜が設けられた積層体を経由するポリイミド膜の製造方法の一例について説明する。
【0050】
まず、基材にポリアミド酸溶液を流延してポリアミド酸溶液の塗膜を形成し、基材と塗膜との積層体を40~200℃の温度で3~120分加熱することにより溶媒を乾燥してポリアミド酸膜を得る。例えば、50℃にて30分、続いて100℃にて30分のように、2段階以上の設定温度で乾燥を行ってもよい。この基材とポリアミド酸膜との積層体を加熱することにより、ポリアミド酸の脱水閉環によるイミド化を行う。イミド化のための加熱は、例えば温度200~500℃で行われ、加熱時間は例えば3分~300分である。イミド化のための加熱は、低温から徐々に高温にして、最高温度まで昇温することが好ましい。昇温速度は2~10℃/分が好ましく、4~10℃/分がより好ましい。最高温度は300~450℃が好ましく、320℃~400℃が好ましく、350℃~380℃が最も好ましい。最高温度が300℃以上であれば、十分にイミド化が進行し、さらに高温プロセスに適応可能な特性を発現させることができる。また、最高温度が450℃以下であれば、ポリイミドの熱劣化や着色を抑制できる。最高温度に到達するまでに任意の温度で任意の時間保持してもよい。イミド化は、空気下、減圧下、または窒素等の不活性ガス中のいずれで行ってもよい。透明性の高いポリイミド膜を得るためには、減圧下、または窒素等の不活性ガス中での加熱が好ましい。加熱装置としては、熱風オーブン、赤外オーブン、真空オーブン、イナートオーブン、ホットプレート等の公知の装置が用いられる。加熱時間の短縮や特性発現のために、イミド化剤や脱水触媒を添加したポリアミド酸溶液を上記のような方法で加熱してイミド化してもよい。
【0051】
バッチタイプのデバイス作製プロセスにおいては、基材と基材上に形成したポリイミドとの内部応力が生じると、基材とポリイミドとの積層体に反りが生じ、製造プロセスに適さない。すなわち、基材とポリイミドとの内部応力は小さいことが好まく、具体的には-30MPa以上30MPa以下であることが好ましく、-25MPa以上25MPa以下であることがより好ましく、-20MPa以上20MPa以下であることがさらに好ましい。
【0052】
バッチプロセスにより基板上に電子素子を形成する場合は、ガラス等の基材上にポリイミド膜が設けられた積層体上に素子を形成した後、ポリイミド膜から基材を剥離することが好ましい。基材から剥離後のポリイミド膜上に素子を形成してもよい。
【0053】
基材からポリイミド膜を剥離する方法は特に限定されない。例えば、手で引き剥がしてもよく、駆動ロール、ロボット等の剥離装置を用いてもよい。基材とポリイミド膜との密着性を低下させることにより剥離を行ってもよい。例えば、剥離層を設けた基材上にポリイミド膜を形成してもよい。多数の溝を有する基板上に酸化シリコン膜を形成し、エッチング液を浸潤させることにより剥離を促進してもよい。レーザー光の照射より剥離を行ってもよい。
【0054】
レーザー照射により基材とポリイミドを剥離する場合は、ポリイミド膜にレーザー光を吸収させる必要があるため、ポリイミド膜のカットオフ波長(透過率が0.1%以下となる波長)は、剥離に使用するレーザー光の波長よりも長波長であることが求められる。例えば、波長308nmのXeClエキシマレーザーを用いる場合は、ポリイミド膜のカットオフ波長は310nm以上が好ましく、320nm以上がより好ましい。波長355nmの固体UVレーザーを用いる場合は、ポリイミド膜のカットオフ波長は360nm以上が好ましく、365nm以上がより好ましい。一般的にポリイミドは短波長側の光を吸収しやすく、カットオフ波長が長波長側に移動すると可視光の吸収に起因して膜が黄色に着色する場合がある。ポリイミド膜のカットオフ波長は390nm以下が好ましく、385nm以下がより好ましく、380nm以下がさらに好ましい。
【0055】
本発明のポリイミド膜は、高い屈折率を示すことを特徴とする。本明細書における屈折率は面内方向の屈折率を示すものとする。面内方向の屈折率を高くすることで、電子素子と基板との界面での反射を抑制することができる。具体的には、電子素子の屈折率が1.7~1.9であるため、ポリイミド膜の屈折率は1.7以上であることが好ましく、1.75以上であることがより好ましい。高透明性と高屈折率を両立することは一般には困難であるが、本発明に記載のエステル基含有ジアミンを用いることにより、透明性を犠牲にすることなく屈折率を高くすることが可能である。
【0056】
透明フレキシブル基板用途において、ポリイミド膜は可視光の全波長領域で透過率が高いことが要求される。透明フレキシブル基板用のポリイミド膜は、波長450nmにおける光透過率が75%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。本発明のポリイミドは、膜厚が10μmのフィルムを形成した際の光透過率が上記範囲であることが好ましい。また透明性の指標としてJIS K7373-2006に定められているイエローインデックス(YI)が用いられる。YIは低いほど黄色見味が少なく透明性が高いことを表している。YIの値は10以下であることが好ましく9以下であることがより好ましく、8以下であることがさらに好ましい。YIが10以下であれば、透明基板材料として好適に用いることが可能である。
【0057】
ポリイミド膜の透明性は、例えば、JIS K7105-1981に従った全光線透過率およびヘイズによって評価することもできる。ポリイミド膜の全光線透過率は、80%以上が好ましく、85%以上がより好ましい。ポリイミド膜のヘイズは、1.2%以下が好ましく、1.0%以下がより好ましく、0.8%以下がさらに好ましい。本発明のポリイミドは、膜厚が10μmのフィルムを形成した際の全光線透過率透過率およびヘイズが上記範囲であることが好ましい。
【0058】
本発明のポリイミド膜は、ガラス転移温度が高いことが好ましい。具体的には、300℃以上であることが好ましく、330℃以上であることがより好ましい。300℃以上であることで、高温プロセスにおいて好適に用いることができる。本明細書におけるガラス転移温度は、後述の実施例に記載の方法により測定される値を示すこととする。
【実施例】
【0059】
[評価方法]
材料特性値等は以下の評価法により測定した。
【0060】
<ポリアミド酸の分子量>
表1の条件にて重量平均分子量(Mw)を求めた。
【0061】
【0062】
<内部応力測定>
テンコール社製薄膜応力測定装置FLX-2300にて、あらかじめ反り量を計測していたコーニング社製の無アルカリガラス(厚み0.7mm、100mm×100mm)を用いて、実施例ならびに比較例に記載の方法で、ガラス基板とポリイミドの積層体を得た。積層体作成後、10分間デシケーター内で静置したのち、装置にセットし、窒素雰囲気下25℃の条件下でガラス基板とポリイミドの積層体の反り量を測定した。反り量の値から25℃におけるガラス基板とポリイミド膜の間に生じた内部応力を算出した。
【0063】
<ポリイミド膜の屈折率の測定>
屈折率の測定は、JISK7142に従い、40mm×8mmにカットしたポリイミド膜を偏光板付き接眼鏡をセットしたATAGO社アッベ屈折計NAR-4Tにて面内方向の屈折率を測定した。光源はナトリウムランプを用い、測定波長は589nmとした。屈折率1.80の中間液LJを用いて測定した。
【0064】
<ポリイミド膜の光透過率>
日本分光製紫外可視近赤外分光光度計(V-650)を用いて、ポリイミド膜の200~800nmにおける光透過率を測定し、450nmの波長における光透過率を透明性の指標とした。また、測定結果よりJIS K7373-2004に記載の定義式にてYI値を求めた。
【0065】
<ポリイミド膜のヘイズ>
積分球式ヘイズメーター:村上色彩技術研究所製「HM-150N」)により、JIS K7136記載の方法により測定した。
【0066】
<ポリイミド膜のガラス転移温度(Tg)>
線熱膨張係数の測定は、日立ハイテクサイエンス社製TMA/SS7100を用いて(サンプルサイズ 幅3mm、長さ10mm、膜厚を測定し、フィルムの断面積を算出)、荷重98.0mNとし、10℃/minで10℃から450℃まで昇温させた。昇温過程における試料の歪の変化量の変曲点をガラス転移温度とした。
【0067】
[ポリアミド酸の合成]
以下、本明細書において、化合物および試薬類は下記の略称で記載している。
<溶媒>
NMP:1-メチル-2-ピロリドン
<テトラカルボン酸二無水物>
BPDA:3,3’-4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
a-BPDA:3,3’-4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
TMHQ:1,4-フェニレンビス(トリメリテート酸二無水物)
<ジアミン>
TFMB:2,2-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン
CHDA:trans-1,4-シクロヘキサンジアミン
4-BAAB:4-アミノフェニル―4-アミノベンゾエート
BPTP:ビスー(4-アミノフェニル)テレフタレート
DABA:4,4‘-ジアミノベンズアニリド
DDS:4,4‘-ジアミノジフェニルスルフォン
【0068】
(実施例1)
ステンレス製撹拌棒を備えた撹拌機および窒素導入管を装着した2Lのガラス製セパラブルフラスコにNMP400.0g、およびTFMB38.2gおよび4-BAAB11.7gを仕込み、撹拌して溶解させた後、溶液を撹拌しながら、BPDA45.1g、a-BPDA 5.0gの順に加えて24時間撹拌し、ポリアミド酸溶液を得た。この反応溶液におけるジアミン成分およびテトラカルボン酸二無水物成分の仕込み濃度は、反応溶液全量に対して20.0重量%であった。
【0069】
(実施例2)
ジアミンの仕込み量をTFMB28.2g、4-BAAB20.1gに変更し、酸二無水物の仕込み量をBPDA51.8gに変更し、実施例1と同様にして重合を行い、ポリアミド酸溶液を得た。
【0070】
(実施例3)
ジアミンの仕込み量をTFMB28.2g、4-BAAB20.1gに変更し、酸二無水物の仕込み量をBPDA45.6g、a-BPDA 5.2gに変更し、実施例1と同様にして重合を行い、ポリアミド酸溶液を得た。
【0071】
(実施例4)
ジアミンの仕込み量をTFMB22.9g、4-BAAB24.5gに変更し、酸二無水物の仕込み量をBPDA52.6gに変更し、実施例1と同様にして重合を行い、ポリアミド酸溶液を得た。
【0072】
(実施例5)
ジアミンの仕込み量をCHDA24.5g、4-BAAB5.4gに変更し、酸二無水物の仕込み量をBPDA70.1gに変更し、実施例1と同様にして重合を行い、ポリアミド酸溶液を得た。
【0073】
(実施例6)
ジアミンの仕込み量をCHDA21.2g、4-BAAB10.6gに変更し、酸二無水物の仕込み量をBPDA68.2gに変更し、実施例1と同様にして重合を行い、ポリアミド酸溶液を得た。
【0074】
(実施例7)
ジアミンの仕込み量をTFMB25.5g、BPTP27.7gに変更し、酸二無水物の仕込み量をBPDA46.8gに変更し、実施例1と同様にして重合を行い、ポリアミド酸溶液を得た。
【0075】
(比較例1)
ジアミンの仕込み量をTFMB52.1gに変更し、酸二無水物の仕込み量をBPDA47.9gに変更し、実施例1と同様にして重合を行い、ポリアミド酸溶液を得た。
【0076】
(比較例2)
ジアミンの仕込み量を4-BAAB43.7gに変更し、酸二無水物の仕込み量をBPDA56.3gに変更し、実施例1と同様にして重合を行い、ポリアミド酸溶液を得た。
【0077】
(比較例3)
ジアミンの仕込み量をTFMB41.3gに変更し、酸二無水物の仕込み量をTMHQ58.9gに変更し、実施例1と同様にして重合を行い、ポリアミド酸溶液を得た。
【0078】
(比較例4)
ジアミンの仕込み量をDDS45.8gに変更し、酸二無水物の仕込み量をBPDA54.2gに変更し、実施例1と同様にして重合を行い、ポリアミド酸溶液を得た。
【0079】
(比較例5)
ジアミンの仕込み量をTFMB28.2g、DABA20.0gに変更し、酸二無水物の仕込み量をBPDA51.8gに変更し、実施例1と同様にして重合を行い、ポリアミド酸溶液を得た。
【0080】
(比較例6)
ジアミンの仕込み量をCHDA21.2g、DABA10.5gに変更し、酸二無水物の仕込み量をBPDA68.3gに変更し、実施例1と同様にして重合を行い、ポリアミド酸溶液を得た。
【0081】
[ポリイミド膜の作製]
上記の実施例および比較例で得られたポリアミド酸溶液のそれぞれに、NMPを加えてポリアミド酸濃度が15.0重量%となるように希釈した。スピンコーターを用いて、150mm×150mmの正方形の無アルカリガラス板(コーニング製 イーグルXG、厚さ0.7mm)上に、乾燥後の厚みが10μmになるようにポリアミド酸溶液を塗布し、熱風オーブン内で80℃にて30分乾燥してポリアミド酸膜を形成した。窒素雰囲気下で20℃から360℃まで5℃/分で昇温した後、360℃で60間保持してイミド化を行い、厚みが10μmのポリイミド膜とガラスとの積層体を得た。得られた積層体のガラス基材からポリイミド膜を剥離して、特性の評価を行った。
【0082】
各実施例および比較例のポリアミド酸溶液の組成、ポリアミド酸の分子量、ならびにポリイミド膜の評価結果を表2に示す。表2における組成は、テトラカルボン酸二無水物およびジアミンのそれぞれの合計を100mol%として表している。
【0083】
【0084】
表2に示した結果から、実施例のポリイミド膜は、いずれも波長450nmの光透過率が75%以上であり、かつYIが10以下であり、さらに屈折率が1.70以上を示し、内部応力が25Mpa以下であって、高い透明性と熱寸法安定性とを兼ね備えていた。ジアミン成分にエステル基含有ジアミンを用いていない比較例1と比較して高い屈折率を示した。また、エステル基の代わりにアミド基を含有するジアミンを用いると高い屈折率を示すものの透過率が悪化することが示された。(比較例6、7)また、一般的に高屈折化に有効であるスルホニル基を含有するジアミンを用いると、高い透明性を示すが、内部応力が高く、基板材料としては適していない。