(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-13
(45)【発行日】2023-09-22
(54)【発明の名称】熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物及び成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 75/04 20060101AFI20230914BHJP
C08L 53/02 20060101ALI20230914BHJP
C08G 18/48 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
C08L75/04
C08L53/02
C08G18/48
(21)【出願番号】P 2019073412
(22)【出願日】2019-04-08
【審査請求日】2022-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】515266223
【氏名又は名称】コベストロ、ドイチュラント、アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】COVESTRO DEUTSCHLAND AG
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100151448
【氏名又は名称】青木 孝博
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100203035
【氏名又は名称】五味渕 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【氏名又は名称】今藤 敏和
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】林 伸治
(72)【発明者】
【氏名】西野 裕一
【審査官】前田 直樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/139199(WO,A1)
【文献】特開2008-023071(JP,A)
【文献】特開2010-001479(JP,A)
【文献】特開2013-198761(JP,A)
【文献】特開2005-213398(JP,A)
【文献】特開2003-160727(JP,A)
【文献】特開平06-145502(JP,A)
【文献】国際公開第2018/234377(WO,A1)
【文献】米国特許第08580884(US,B2)
【文献】米国特許出願公開第2018/0215910(US,A1)
【文献】国際公開第2018/022478(WO,A1)
【文献】特開2009-126965(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 75/04
C08L 53/02
C08G 18/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリウレタン樹脂と、ショアA硬度が90以下、反発弾性が1~20%、且つショアA硬度と反発弾性との積が1300%以下である水添芳香族ビニル系エラストマーとを含有する
、ショアA硬度が90以下、反発弾性が55%以下、テーバー摩耗量が400mg以下である熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物
であって、前記水添芳香族ビニル系エラストマーが、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックおよび芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのランダム共重合体ブロックからなる重合体を水添して得られるエラストマーである熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性ポリウレタン樹脂、前記水添芳香族ビニル系エラストマーの質量比率(前記熱可塑性ポリウレタン樹脂/前記水添芳香族ビニル系エラストマー)が、99/1~55/45である請求項
1に記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性ポリウレタン樹脂のショアA硬度が90以下である請求項1
又は2に記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項4】
前記熱可塑性ポリウレタン樹脂が、ポリエーテル系熱可塑性ポリウレタン樹脂である請求項1~
3のいずれかに記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれかに記載の樹脂組成物を成形してなる成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリウレタン樹脂(Thermoplastic Polyurethane resin;以後、TPUという場合がある)は、急速に成長している熱可塑性エラストマー分野における重要な材料の1つである。熱可塑性ポリウレタン樹脂は、ポリオールと、ポリイソシアネートとを鎖伸長剤の存在下、重合することにより得られる樹脂である。そして、上記3つの原料の組成及び配合比率を調整することにより、熱可塑性ポリウレタン樹脂は、幅広い硬度域をカバーすることができる。
【0003】
このことから、熱可塑性ポリウレタン樹脂は多くの用途に用いられているが、更にソフトな触感や伸縮性の更なる向上、ゴム製品の代替を見据え、更なる低硬度化の要望が存在する。しかし、熱可塑性ポリウレタン樹脂は、低硬度化するにつれて、溶融状態から冷却する際の硬化速度が低下し、また表面の粘着性も増大するため、これらを成形に供すると、成形品の変形、冷却時間の著しい延長、成形品同士の固着、また射出成形の際には金型からの離型性が悪化する等、成形性が悪化するという欠点が有る。このように、低硬度化するにつれて、成形性が悪化する傾向がある。
【0004】
更に、用途によって低硬度と低反発弾性を両立させるという要望も存在する。しかしながら、熱可塑性ポリウレタン樹脂は低硬度化するほど反発弾性は上昇する傾向がある。
【0005】
このように、低反発弾性、成形性は、それぞれ、低硬度と背反関係にあるため、低硬度かつ低反発弾性を示し、更に、良好な成形性を有する熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物を提供することは困難である。例えば、特許文献1では、特定の熱可塑性ポリウレタン樹脂と、特定のランダム共重合体の水素添加物とを併用することにより、低硬度と成形性が両立できることが開示されているが、低硬度かつ低反発弾性を示し、更に、良好な成形性を有する熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物を提供するという点では改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記課題を解決し、低硬度かつ低反発弾性を示し、更に、良好な成形性を有する熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物及び成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、熱可塑性ポリウレタン樹脂と、特定の水添芳香族ビニル系エラストマーとを併用することにより、低硬度かつ低反発弾性を示し、更に、良好な成形性を有する熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物を提供できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、熱可塑性ポリウレタン樹脂と、ショアA硬度が90以下、反発弾性が1~20%、且つショアA硬度と反発弾性との積が1300%以下である水添芳香族ビニル系エラストマーとを含有する熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物に関する。
【0009】
上記水添芳香族ビニル系エラストマーが、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックおよび芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのランダム共重合体ブロックからなる重合体を水添して得られるエラストマーであることが好ましい。
【0010】
上記熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物は、ショアA硬度が90以下、反発弾性が55%以下、テーバー摩耗量が400mg以下であることが好ましい。
【0011】
上記熱可塑性ポリウレタン樹脂、上記水添芳香族ビニル系エラストマーの質量比率(上記熱可塑性ポリウレタン樹脂/上記水添芳香族ビニル系エラストマー)が、99/1~55/45であることが好ましい。
【0012】
上記熱可塑性ポリウレタン樹脂のショアA硬度が90以下であることが好ましい。
【0013】
上記熱可塑性ポリウレタン樹脂が、ポリエーテル系熱可塑性ポリウレタン樹脂であることが好ましい。
【0014】
本発明はまた、上記樹脂組成物を成形してなる成形体に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物は、熱可塑性ポリウレタン樹脂と、ショアA硬度が90以下、反発弾性が1~20%、且つショアA硬度と反発弾性との積が1300%以下である水添芳香族ビニル系エラストマーとを含有するため、低硬度かつ低反発弾性を示し、更に、良好な成形性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物は、熱可塑性ポリウレタン樹脂と、ショアA硬度が90以下、反発弾性が1~20%、且つショアA硬度と反発弾性との積が1300%以下である水添芳香族ビニル系エラストマーとを含有する。これにより、低硬度かつ低反発弾性を示し、更に、良好な成形性(特に、射出成形性)を有する。
【0017】
上記樹脂組成物は前述の効果が得られるが、このような作用効果が得られる理由は必ずしも明らかではないが、以下のように推察される。
芳香族ビニル系エラストマーは一般的に、SEBS等に代表されるように、ハードセグメントとして芳香族ビニル化合物の成分からなるブロックを両末端に、ソフトセグメントとして共役ジエン化合物の成分からなるブロックを中間に有している。芳香族ビニル系エラストマーの硬度は一般的に、ハードセグメントとなる芳香族ビニル含有量が減少するほど硬度が低下するが、ソフトセグメント成分が増大するため反発弾性が上昇する(反比例となる傾向)。また、近年では中間ブロックに、共役ジエン化合物の成分に加えて、芳香族ビニル系の成分をランダムに組み込んだポリマーも検討されている。中間ブロックのソフト成分に対し芳香族ビニル成分をランダムに組み込んだ場合、硬度はあまり上昇せずに反発弾性が低下する。
よって、芳香族ビニル系の高Tg成分をハードセグメントとソフトセグメントにそれぞれ組み込む量を調整することで、低硬度且つ低反発の芳香族ビニル系エラストマーを調製することができると推測される。すなわち、一般のSEBSでは反比例の関係となる硬度と反発弾性の値に関し、上記調整を行うことで、両値の積を1300以下に抑え且つショアA硬度を90以下、反発弾性を20%以下とすることができる。その結果、通常達成が困難である、当該芳香族ビニル系エラストマー自体の低硬度化と低反発化を両立できる。よって、最終的に得られる熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物としても、低反発且つ低硬度化が達成される上、更に成形性が良好となる。その上、上記の調整を行うことで、当該芳香族ビニル系エラストマーの熱可塑性ポリウレタン樹脂との相溶性も改善される結果となり、上記の3性能を満たしながら、摩耗性に関しても良好となる。
【0018】
(熱可塑性ポリウレタン樹脂)
次に、熱可塑性ポリウレタン樹脂について、説明する。
使用可能な熱可塑性ポリウレタン樹脂としては特に限定されない。
【0019】
本明細書において、熱可塑性ポリウレタン樹脂は、ポリオールと、ポリイソシアネートとを鎖伸長剤の存在下、重合することにより得られる樹脂(エラストマー)である。
【0020】
ポリオールとしては、特に限定されず、従来公知のものを使用できる。
ポリオールとしては、例えば、ポリエステル系ポリオール、ポリエーテル系ポリオール、ポリカーボネート系ポリオール、ポリラクトン系ポリオールなどの高分子ポリオールが挙げられる。これらのポリオールは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
ポリオールの平均分子量(数平均分子量)は、好ましくは500以上、より好ましくは700以上、更に好ましくは900以上である。ポリオールの平均分子量は、好ましくは5000以下、より好ましくは4000以下、更に好ましくは3000以下、特に好ましくは2500以下、最も好ましくは2300以下、より最も好ましくは2100以下である。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる。
本明細書において、ポリオールの平均分子量は、JIS K1557-1(2007)に準拠して測定して得られる水酸基価及びJIS K1557-5(2007)に準拠して測定して得られる酸価より算出した値である。
【0022】
ポリエステル系ポリオールとしては、多価カルボン酸もしくはその反応性誘導体と多価アルコールとの縮合物であれば特に限定されず、例えばジカルボン酸と、グリコール類とを縮合重合させて得られるものである。
【0023】
ジカルボン酸としては、例えばコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、等の脂肪族ジカルボン酸;オルトフタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、等の芳香族ジカルボン酸;及びこれらの反応性誘導体;1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、等の脂環族ジカルボン酸等が挙げられる。これらのジカルボン酸は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、アジピン酸が好ましい。
【0024】
グリコール類としては、例えばジメチレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、ブチルエチルプロパンジオール、1,2-ブタンジオール、ブチレングリコール、1,4-ブタンジオール、ジメチルブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2,4-ジエチルペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル1,5-ペンタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、ポリエチレンブチレングリコール等の脂肪族グリコール;1,3-シクロペンタンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、等の脂環族グリコール;m-キシリレングリコール、p-キシリレングリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS等の芳香族グリコール;が挙げられる。これらのグリコール類は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、脂肪族グリコールが好ましく、ポリエチレンブチレングリコールがより好ましい。
【0025】
ポリエステル系ポリオールとしては、例えば、ポリエチレンアジペートグリコール、ポリブチレンアジペートグリコール、ポリヘキサメチレンアジペートグリコール、ポリエチレンブチレンアジペートグリコールなどの縮合系ポリエステルポリオールなどが挙げられる。
【0026】
ポリエーテル系ポリオールとしては、例えばポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどの脂肪族ポリエーテルポリオールなどが挙げられる。
【0027】
ポリカーボネート系ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノールなどの低分子ポリオールと、ジエチレンカーボネート、ジプロピレンカーボネート、ジフェニルカーボネートなどのカーボネート化合物との脱アルコール反応により得られるポリオール等が挙げられる。
【0028】
ポリラクトン系ポリオールとしては、例えば、上記低分子ポリオールなどを開始剤としてラクトンを開環重合させて得られるポリラクトンジオール、ポリカプロラクトンジオール、ポリメチルバレロラクトンジオールなどのラクトン系ポリエステルジオールなどが挙げられる。
【0029】
ポリオールとしては、ポリエステル系ポリオール、ポリエーテル系ポリオールが好ましく、ポリエーテル系ポリオールがより好ましく、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールが更に好ましく、ポリテトラメチレングリコールが特に好ましい。熱可塑性ポリウレタン樹脂が、ポリオールとしてポリエーテル系ポリオールを使用したポリエーテル系熱可塑性ポリウレタン樹脂である場合、特に好適に本発明の効果が得られる。
【0030】
ポリイソシアネートとしては、イソシアネート基を2個以上有するものであれば特に限定されず、従来公知のものを使用できる。
イソシアネート基を2個有するジイソシアネートとしては、例えば、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、イソプロピレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、リジンジイソシアネートメチルエステル、1,5-オクチレンジイソシアネート、等の脂肪族イソシアネート;4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ノルボルネンジイソシアネート、水添トリレンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソプロピリデンビス(4-シクロヘキシルイソシアネート)、ダイマー酸ジイソシアネートなどの脂環族イソシアネート;2,4-もしくは2,6-トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5-ナフチレンジイソシアネート、p-もしくはm-キシリレンジイソシアネート(XDI)、トリジンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、ジフェニルエーテルジイソシアネート、ジフェニルスルホンジイソシアネート、ジアニシジンジイソシアネート、テトラメチル-m-キシリレンジイソシアネート、等の芳香族イソシアネートなどが挙げられる。
イソシアネート基を3個以上有するポリイソシアネートとしては、例えば、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリイソシアネートフェニルチオフォスフェート、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート(ポリメリックMDI)、HDIやTDIのトリマーであるイソシアヌレート変性体、ビウレット変性体、等が挙げられる。
これらのポリイソシアネートは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、ポリイソシアネートとしては、イソシアネート基を2個有するジイソシアネートが好ましく、芳香族ジイソシアネートがより好ましく、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)が更に好ましい。また、耐変色性などの機能を付与する場合は、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、等を使用することもできる。
【0031】
鎖伸長剤としては、特に限定されず、従来公知のものを使用できる。
鎖伸長剤としては、例えば、従来公知の多価アルコール類やアミン類がいずれも使用できるが、炭素原子数が2~10の低分子ポリオールが好ましい。
【0032】
低分子ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチルペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、トリメチールプロパン、グリセリンなどの脂肪族ポリオール;シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノールなどの脂環族ポリオール;ビスヒドロキシエトキシベンゼン、キシレングリコールなどの芳香族ポリオール;などが挙げられる。これらの鎖伸長剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、鎖伸長剤としては、脂肪族ポリオールが好ましく、1,4-ブタンジオールがより好ましい。
【0033】
本発明に使用する熱可塑性ポリウレタン樹脂は、通常のポリウレタン樹脂と同様に、上記に記載したポリオール、ポリイソシアネート、鎖伸長剤を、例えば、ポリオールとポリイソシアネートとを予め反応させたイソシアネート基末端プレポリマーと、鎖伸長剤とを反応させる、いわゆるプレポリマー法や、ポリオールと鎖伸長剤とを予め混合し、次いでこの混合物とポリイソシアネートとを反応させる、いわゆるワンショット法を用いて製造することができる。そのとき、全原料の総活性水素基モル数に対する総イソシアネート基モル数の当量比([NCO]/[OH])は、熱可塑性ポリウレタン樹脂の特性(硬度、反発弾性等)を好適な範囲に調整するため、0.8~1.2に調整することが好ましく、0.9~1.1がさらに好ましい。
【0034】
熱可塑性ポリウレタン樹脂のショアA硬度は、好ましくは90以下、より好ましくは88以下、更に好ましくは86以下であり、下限は特に限定されないが、好ましくは60以上、より好ましくは70以上である。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる。
なお、本明細書において、熱可塑性ポリウレタン樹脂、水添芳香族ビニル系エラストマー、熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物の硬度はJIS K7311(1995)に準拠して25℃で測定した値である。
【0035】
熱可塑性ポリウレタン樹脂の反発弾性は、硬度と成形性のバランスがとれるならば、低ければ低いほど好ましい。該反発弾性は、好ましくは70%以下、より好ましくは66%以下、更に好ましくは60%以下、特に好ましくは55%以下、最も好ましくは45%以下であり、下限は特に限定されないが、好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上、更に好ましくは30%以上である。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる。
なお、本明細書において、熱可塑性ポリウレタン樹脂、水添芳香族ビニル系エラストマー、熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物の反発弾性はJIS K 7311(1995)に準拠して25℃で測定した値である。
【0036】
熱可塑性ポリウレタン樹脂の特性(硬度、反発弾性等)を上記好適な範囲に調整することは、当業者にとって容易なことであり、例えば、上述した好適な態様を採用すればよい。また、市販品を使用してもよい。
【0037】
熱可塑性ポリウレタン樹脂の特性(硬度、反発弾性等)を上記好適な範囲に調整する方法としては、例えば、ポリオールとして、平均分子量が上記好ましい数値範囲のポリオールを使用する方法、ポリオールとして、ポリエーテル系ポリオール(好ましくはポリテトラメチレングリコール)を使用する方法、ポリイソシアネートとして、芳香族ジイソシアネート(好ましくは4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI))を使用する方法、鎖伸長剤として、脂肪族ポリオール(好ましくは1,4-ブタンジオール)を使用する方法、ポリウレタンを製造するための全原料の総活性水素基モル数に対する総イソシアネート基モル数の当量比を0.8~1.2に調整する方法等が挙げられる。
【0038】
(ショアA硬度が90以下、反発弾性が1~20%、且つショアA硬度と反発弾性との積が1300%以下である水添芳香族ビニル系エラストマー)
次に、上記水添芳香族ビニル系エラストマーについて、説明する。
使用可能な上記水添芳香族ビニル系エラストマーとしては、ショアA硬度が90以下、反発弾性が1~20%、且つショアA硬度と反発弾性との積が1300%以下の水添芳香族ビニル系エラストマーであれば特に限定されない。
本明細書において、水添芳香族ビニル系エラストマーは、芳香族ビニル化合物に由来する単位を構成単位として有するエラストマー(好ましくは芳香族ビニル化合物、共役ジエン化合物に由来する単位を構成単位として有するエラストマー)に対して、水素添加処理が施されたエラストマー(樹脂)である。より好ましくは、水添芳香族ビニル系エラストマーは、芳香族ビニル化合物に由来する単位を構成単位とするブロックを有するエラストマー(好ましくは芳香族ビニル化合物に由来する単位を構成単位とするブロック、共役ジエン化合物に由来する単位を構成単位とするブロックを有するエラストマー)に対して、水素添加処理が施されたエラストマー(樹脂)である。
【0039】
水添芳香族ビニル系エラストマーとしては、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロック、および、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのランダム共重合体ブロックからなる重合体を水添して得られるエラストマーが好ましく、スチレンを主体とする重合体ブロックおよびスチレンとブタジエンとのランダム共重合体ブロックからなる重合体を水添して得られるエラストマーがより好ましく、スチレンを主体とする重合体ブロックおよびスチレンとブタジエンとのランダム共重合体ブロックからなり、両末端にスチレンを主体とする重合体ブロック、中間にランダム共重合体ブロックを有する重合体を水添して得られるエラストマーが更に好ましく、スチレンからなる重合体ブロックおよびスチレンとブタジエンとのランダム共重合体ブロックからなり、両末端にスチレンからなる重合体ブロック、中間にランダム共重合体ブロックを有する重合体を水添して得られるエラストマーが特に好ましい。
この構造を有する共重合体を使用することで、低硬度化と低反発化を共に具備し、且つ成形後の固化速度が早いためタックが少なく、熱可塑性ポリウレタン樹脂との相溶性に優れるためブレンドによる物性低下を最小限に抑制することができると考えられる。
【0040】
ここで、共役ジエン化合物に由来する単位、例えば、ブタジエンに由来する単位は、水素添加処理が施されることにより、エチレン単位又はブチレン単位となる。例えば、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)に対して、水素添加処理が施されることにより、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)となる。
【0041】
本明細書において、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックとは、重合体ブロック中の芳香族ビニル化合物含有量(芳香族ビニル化合物に由来する単位の含有量)が、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、特に好ましくは80質量%以上、最も好ましくは90質量%以上、より最も好ましくは95質量%以上、更に最も好ましくは98質量%以上であり、100質量%であってもよい。
同様に、本明細書において、スチレンを主体とする重合体ブロックとは、重合体ブロック中のスチレン含有量が、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、特に好ましくは80質量%以上、最も好ましくは90質量%以上、より最も好ましくは95質量%以上、更に最も好ましくは98質量%以上であり、100質量%であってもよい。
【0042】
芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1-ジフェニルエチレン、N,N-ジメチル-p-アミノエチルスチレン、N,N-ジエチル-p-アミノエチルスチレン等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、スチレンが好ましい。すなわち、水添芳香族ビニル系エラストマーが水添スチレン系エラストマーであることが好ましい。
【0043】
共役ジエン化合物としては、ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、ブタジエン、イソプレンが好ましく、ブタジエンがより好ましい。
【0044】
上記水添芳香族ビニル系エラストマーの具体例としては、例えば、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(SIBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン-イソブチレンブロック共重合体(SIB)、スチレン-エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン・エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)、スチレン-ブタジエン・ブチレン-スチレンブロック共重合体(SBBS)、スチレン-エチレン-プロピレンブロック共重合体(SEP)等が挙げられる。
また、上記共重合体において、スチレンが、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1-ジフェニルエチレン、N,N-ジメチル-p-アミノエチルスチレン、N,N-ジエチル-p-アミノエチルスチレンに置換した共重合体も挙げられる。
更には、上記共重合体において、ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン化合物が、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエンに置換した共重合体も挙げられる。
これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、SEBS、SIBSが好ましく、SEBSがより好ましい。
【0045】
上記水添芳香族ビニル系エラストマーのショアA硬度は、90以下、好ましくは87以下、より好ましくは84以下であり、下限は特に限定されないが、好ましくは30以上、より好ましくは40以上、更に好ましくは45以上、特に好ましくは50以上、最も好ましくは55以上である。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる。
【0046】
上記水添芳香族ビニル系エラストマーの反発弾性は、20%以下、好ましくは17%以下、より好ましくは14%以下であり、下限は特に限定されないが、1%以上、好ましくは2%以上、より好ましくは3%以上、更に好ましくは5%以上、特に好ましくは8%以上、最も好ましくは10%以上である。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる。
【0047】
上記水添芳香族ビニル系エラストマーは、ショアA硬度と反発弾性との積(ショアA硬度×反発弾性)が、1300%以下、好ましくは1250%以下、より好ましくは1200%以下、更に好ましくは1150%以下、特に好ましくは1100%以下であり、下限は特に限定されないが、好ましくは100%以上、より好ましくは200%以上、更に好ましくは300%以上、特に好ましくは400%以上、最も好ましくは500%以上、より最も好ましくは600%以上、更に最も好ましくは700%以上である。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる。
【0048】
上記水添芳香族ビニル系エラストマーにおいて、芳香族ビニル化合物に由来する単位の含有量(芳香族ビニル化合物含有量、好ましくはスチレン含有量)は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは65質量%以下である。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる。
本明細書において、芳香族ビニル化合物に由来する単位の含有量(好ましくはスチレン含有量)はH1-NMR測定により算出される値である。
【0049】
水添芳香族ビニル系エラストマーの特性(硬度、反発弾性等)を上記好適な範囲に調整する方法としては、例えば、上述した好適な態様を採用すればよい。また、市販品を使用してもよい。
【0050】
水添芳香族ビニル系エラストマーとして従来から慣用されているエラストマーとして、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)が挙げられる。SEBSとしては、両端にスチレンブロック、中央(中間)にエチレンブチレンブロックの構造を有するものが挙げられる。しかしながら、このようなSEBSでは、上記特定の特性を有さないことが多い。一方、両端にスチレンブロック、中央に、スチレンとエチレンブチレンのランダムブロックの構造を有するSEBSの場合、上記特定の特性を有すると共に、本発明の効果がより好適に得られる。
このように、上記水添芳香族ビニル系エラストマーが、両端にスチレンブロック、中央に、ランダムブロックの構造(好ましくはスチレンを含有するランダムブロックの構造)を有する場合、上記特定の特性を有すると共に、本発明の効果がより好適に得られるが、なかでも、両端にスチレンブロック、中央に、スチレンとエチレンブチレンのランダムブロックの構造を有するSEBSの場合に特に好適に本発明の効果が得られる。
この点について、鋭意検討した結果、芳香族ビニル系エラストマーは一般的に、SEBS等に代表されるように、ハードセグメントとして芳香族ビニル化合物の成分からなるブロックを両末端に、ソフトセグメントとして共役ジエン化合物の成分からなるブロックを中間に有している。また、近年では中間ブロックに、共役ジエン化合物の成分に加えて、芳香族ビニル系の成分をランダムに組み込んだポリマーが研究されている。芳香族ビニル系エラストマーの硬度は一般的に、ハードセグメントとなる芳香族ビニル含有量が減少するほど硬度が低下するが、ソフトセグメント成分が増大するため反発弾性が上昇する。一方で、中間ブロックのソフト成分に対し芳香族ビニル成分をランダムに組み込んだ場合、硬度はあまり上昇せずに反発弾性が低下する。また、中間ブロックにランダムに組み込む芳香族ビニル化合物の代わりに、高Tgを示す共役ジエン化合物を用いることによっても同様な効果が得られる。よって、芳香族ビニル系の高Tg成分をハードセグメントとソフトセグメントにそれぞれ組み込む量を調整することで、低硬度且つ低反発の芳香族ビニル系エラストマーを調製することができると推測される。
更に、鋭意検討した結果、水添芳香族ビニル系エラストマーが、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックおよび芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのランダム共重合体ブロックからなる重合体を水添して得られるエラストマーである場合、より好ましくはスチレンを主体とする重合体ブロックおよびスチレンとブタジエンとのランダム共重合体ブロックからなる重合体を水添して得られるエラストマーである場合、更に好ましくはスチレンを主体とする重合体ブロックおよびスチレンとブタジエンとのランダム共重合体ブロックからなり、両末端にスチレンを主体とする重合体ブロック、中間にランダム共重合体ブロックを有する重合体を水添して得られるエラストマーである場合、特に好ましくはスチレンからなる重合体ブロックおよびスチレンとブタジエンとのランダム共重合体ブロックからなり、両末端にスチレンからなる重合体ブロック、中間にランダム共重合体ブロックを有する重合体を水添して得られるエラストマーである場合、上記特定の特性を有すると共に、本発明の効果がより好適に得られることが判明した。
ソフトセグメントであるランダム共重合体ブロックにおいて、芳香族ビニル化合物に由来する単位が存在することにより、熱可塑性ポリウレタン樹脂との相溶性が改善され、熱可塑性ポリウレタン樹脂の特性を損なうことなく低硬度化と低反発弾性化、更には成形性まで改善されると推測される。
【0051】
(熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物)
熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物は、熱可塑性ポリウレタン樹脂と、上記水添芳香族ビニル系エラストマーとを含有する。
熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物において、熱可塑性ポリウレタン樹脂、上記水添芳香族ビニル系エラストマーの質量比率(熱可塑性ポリウレタン樹脂の含有量/上記水添芳香族ビニル系エラストマーの含有量)は、好ましくは99/1以上、より好ましくは95/5以上、更に好ましくは90/10以上、特に好ましくは85/15以上、最も好ましくは80/20以上、より最も好ましくは75/25以上、最も好ましくは70/30以上であり、好ましくは55/45以下、より好ましくは60/40以下、更に好ましくは65/35以下である。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる。また、良好な耐摩耗性、耐傷つき性も得られる。
【0052】
熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物100質量%中の熱可塑性ポリウレタン樹脂の含有量は、好ましくは99質量%以下、より好ましくは95質量%以下、更に好ましくは90質量%以下、特に好ましくは85質量%以下、最も好ましくは80質量%以下、より最も好ましくは75質量%以下、更に最も好ましくは70質量%以下であり、好ましくは55質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは65質量%以上である。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる。また、良好な耐摩耗性、耐傷つき性も得られる。
【0053】
熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物100質量%中の上記水添芳香族ビニル系エラストマーの含有量は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは10質量%以上、特に好ましくは15質量%以上、最も好ましくは20質量%以上、より最も好ましくは25質量%以上、更に最も好ましくは30質量%以上であり、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下である。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる。また、良好な耐摩耗性、耐傷つき性も得られる。
【0054】
熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物100質量%中の熱可塑性ポリウレタン樹脂及び上記水添芳香族ビニル系エラストマーの合計含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上、最も好ましくは98質量%以上であり、100質量%であってもよい。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる。また、良好な耐摩耗性、耐傷つき性も得られる。
【0055】
熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物は、必要に応じて、シランカップリング剤、充填剤、チキソ付与剤、粘着付与剤、ワックス、可塑剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐光安定剤、充填剤、繊維系補強材、顔料、蛍光増白剤、発泡剤、上記水添芳香族ビニル系エラストマー以外の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、染料、導電性付与剤、帯電防止剤、透湿性向上剤、撥水剤、撥油剤、中空発泡体、結晶水含有化合物、難燃剤、吸水剤、吸湿剤、消臭剤、抗菌剤、防黴剤、ブロッキング防止剤、加水分解防止剤、有機水溶性化合物、無機水溶性化合物等の公知の添加剤を配合してもよい。
【0056】
熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物のショアA硬度は、好ましくは90以下、より好ましくは85以下、更に好ましくは83以下であり、下限は特に限定されないが、好ましくは60以上、より好ましくは65以上、更に好ましくは70以上、特に好ましくは75以上である。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる。
【0057】
熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物の反発弾性は、好ましくは55%以下、より好ましくは50%以下、更に好ましくは45%以下、特に好ましくは40%以下、最も好ましくは35%以下であり、下限は特に限定されないが、好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上である。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる。
【0058】
熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物のテーバー摩耗量は、好ましくは400mg以下、より好ましくは350mg以下、更に好ましくは300mg以下であり、下限は特に限定されない。テーバー摩耗量が小さいほど、耐摩耗性に優れることを意味する。
なお、本明細書において、熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物のテーバー摩耗量はJIS K7311(1995)に準拠して25℃で測定した値である。
【0059】
熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物の特性(硬度、反発弾性、テーバー摩耗量等)を上記好適な範囲に調整する方法としては、例えば、上述した好適な態様を採用すればよい。具体的には、熱可塑性ポリウレタン樹脂と、ショアA硬度が90以下、反発弾性が1~20%、且つショアA硬度と反発弾性との積が1300%以下である水添芳香族ビニル系エラストマーとを併用すればよい。
【0060】
熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物の製造方法は、特に限定されず、例えば、熱可塑性ポリウレタン樹脂、上記水添芳香族ビニル系エラストマーを、ニーダやヘンシェルミキサー等で混合した後、押出機に供給して、通常のTPUを押し出す温度(約150~250℃)で溶融混練後、ストランドカット又は水中カットでペレット形状にして調製することができる。
【0061】
熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物の成形方法は、一般に用いられているTPUの成形方法が適用でき、例えば、押出成形、射出成形、インフレーション成形、ブロー成形、真空成形、遠心成形、回転成形、カレンダー加工、ロール加工、プレス加工等の成形方法を用いることができ、樹脂板、フィルム、シート、異形品等の種々の形状の成形体を製造できる。
【0062】
(成形体)
上述した熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物は、各種成形体(上記樹脂組成物を成形してなる成形体)として好適に用いることができる。
【0063】
成形体としては、例えば、ベルト、チューブ、ホース、電線被覆材、ケーブル被覆材、消防ホース、ギアー、キャスター、パッキング類、風力発電用風車等の機械工業部品;バンパー、サイドモール、テールランプシール、スノーチェーン、ボールジョイントシール、等速ジョイントブーツ、ベローズ、バネカバー材、ABSケーブル、ABSケーブルプラグ、インパネ表皮、ギヤノブ、コンソールボックス、ドアシールカバー、シート材、ノブ類等の自動車部品;各種シート類、エアーマット、合成皮革、保護フィルム等のフィルム・シート;靴底、時計バンド、カメラグリップ、アニマルイヤータッグ、スマホケース、タブレットケース、キーボード保護カバー、装飾品等の日用品;心臓バルブ、バイバス装置、人工心室、透析用チューブ、薄膜、コネクター、カテーテル、医療用チューブ、ペースメーカーの絶縁体等の医療用途品;内外装材等の建築用資材;スキー板、ラケット等のスポーツ用品;等を挙げることができる。これらは屋内外の幅広い分野に用いることができる。
【実施例】
【0064】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0065】
以下、使用した各種薬品について、まとめて説明する。
ポリテトラメチレングリコール1:三菱化学株式会社製のPTMG2000(平均分子量1900~2100)
ポリテトラメチレングリコール2:三菱化学株式会社製のPTMG1000(平均分子量900~1100)
ポリエチレンブチレンアジペートグリコール(以下EG/BG-AA):DIC社製のポリライト OD-X-2330(平均分子量1900~2100)
1,4-ブタンジオール:三菱化学株式会社製の1.4BG
4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、MDI):住化コベストロウレタン株式会社製のスミジュール44S
【0066】
(製造例1)
(熱可塑性ポリウレタン樹脂の調製)
表1に示す配合内容に従い、ポリエーテル系ポリオール、1,4-ブタンジオールを混合し、MDIを加えて、十分に高速攪拌混合した後、160℃で10分間反応させた。この反応物を粉砕した後、40mm径の短軸押出機(設定温度150~250℃)で溶融混練後、ペレット化し、熱可塑性ポリウレタン樹脂(TPU1)を得た。
【0067】
(製造例2)
表1に示す配合内容に従い、製造例1と同様の工程を経て、熱可塑性ポリウレタン樹脂(TPU2)を得た。
【0068】
(製造例3)
表1に示す配合内容に従い、製造例1と同様の工程を経て、熱可塑性ポリウレタン樹脂(TPU3)を得た。
【0069】
得られた熱可塑性ポリウレタン樹脂(TPU1~3)を使用して、射出成形により厚みが2mmのシートを作製し、下記の評価を行った。それぞれの試験結果を表1に示す。
【0070】
(硬度)
得られた熱可塑性ポリウレタン樹脂の硬度はJIS K7311(1995)に準拠して、タイプA型デュロメータを用いて25℃で測定した。
【0071】
(反発弾性)
得られた熱可塑性ポリウレタン樹脂の反発弾性はJIS K 7311(1995)に準拠して25℃で測定した。
【0072】
【0073】
以下のスチレン系エラストマーについて、下記の評価を行った。それぞれの試験結果を表2に示す。
スチレン系エラストマー1:旭化成(株)製のS.O.E. S1611(スチレンからなる重合体ブロックおよびスチレンとブタジエンとのランダム共重合体ブロックからなり、両末端にスチレンからなる重合体ブロック、中間にランダム共重合体ブロックを有する重合体を水添して得られる水添芳香族ビニル系エラストマー、本願特定の水添芳香族ビニル系エラストマーに該当、スチレン含有量:60質量%)
スチレン系エラストマー2:(株)カネカ製のシブスター 102T(SIBS、本願特定の水添芳香族ビニル系エラストマーに該当、スチレン含有量:15質量%)
スチレン系エラストマー3:(株)カネカ製のシブスター 103T(SIBS、本願特定の水添芳香族ビニル系エラストマーに該当、スチレン含有量:30質量%)
スチレン系エラストマー4:旭化成(株)製のタフテックM1943(変性SEBS、スチレン含有量:20質量%)
スチレン系エラストマー5:旭化成(株)製のタフテック H1517(SEBS、スチレン含有量:43質量%)
スチレン系エラストマー6:JSR(株)製のダイナロン 1321P(HSBR、スチレン含有量:10質量%)
スチレン系エラストマー7:クレイトンポリマー社製のクレイトン D1161(SIS、スチレン含有量:15質量%)
【0074】
(硬度、反発弾性)
熱可塑性ポリウレタン樹脂と同様に測定した。
【0075】
【0076】
(熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物の調製)
(実施例、比較例)
表3に示す配合内容に従いヘンシェルミキサーにて混合後、40mm径の短軸押出機(設定温度150~250℃)で溶融混練後、ペレット化し、熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物を得た。
【0077】
得られた熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物を使用して、射出成形(設定温度150~250℃)により厚みが2mmのシートを作製し、下記の評価を行った。それぞれの試験結果を表3に示す。
【0078】
(硬度、反発弾性)
熱可塑性ポリウレタン樹脂と同様に測定した。
【0079】
(100%モジュラス、抗張力、伸度、引裂強度、テーバー摩耗量)
得られた熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物の100%モジュラス、抗張力、伸度、引裂強度、テーバー摩耗量はJIS K7311(1995)に準拠して25℃で測定した。
【0080】
(射出成形性)
射出成形時の金型脱型後の樹脂硬化状況に関し、以下の基準で評価した。
射出時間:20秒、冷却時間:20秒後において、
○: 脱型性良好、硬化が早く、粘着も少なく、脱型後に変形しない。
△: 脱型性は中程度、硬化が少し遅く、粘着も有り、脱型後に少し変形する。
×: 脱型困難、硬化遅く、粘着が強い、脱型後の変形が顕著である。
【0081】
【0082】
表3より、熱可塑性ポリウレタン樹脂と、ショアA硬度が90以下、反発弾性が1~20%、且つショアA硬度と反発弾性との積が1300%以下である水添芳香族ビニル系エラストマーとを含有する実施例の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物は、低硬度かつ低反発弾性を示し、更に、良好な成形性を有することが分かった。実施例の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物は、ショアA硬度が85以下、反発弾性が55%以下を達成しつつ、射出成型時の成形性が良好となった。また、実施例の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物は、耐摩耗性にも優れることが分かり、テーバー摩耗量が400mg以下となることを確認した。
【0083】
上記の通り、低硬度、低反発弾性および溶融状態からの固化速度は背反関係にあるため、通常、熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物において、成形性を確保しつつ、低硬度化と低反発化を両立することは困難であるが、本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物は、成形性を確保しつつ、ショアA硬度を90以下、反発弾性を55%以下とすること、更には、驚くべきことに、ショアA硬度を85以下、反発弾性を55%以下とすることが可能となった。特に、ポリエーテル系熱可塑性ポリウレタン樹脂を使用した場合にショアA硬度を85以下、反発弾性を55%以下にしつつ、成形性を確保できることは、非常に驚くべきことである。