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特許7349257船舶用推進システム、ならびにその診断のための装置および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-13
(45)【発行日】2023-09-22
(54)【発明の名称】船舶用推進システム、ならびにその診断のための装置および方法
(51)【国際特許分類】
   B63H 20/00 20060101AFI20230914BHJP
   B63H 25/42 20060101ALI20230914BHJP
   B63H 21/21 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
B63H20/00 803
B63H25/42 B
B63H21/21
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019083162
(22)【出願日】2019-04-24
(65)【公開番号】P2020179748
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2022-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】弁理士法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】馬場 貴秋
【審査官】結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-163864(JP,A)
【文献】特開2014-80083(JP,A)
【文献】特開2008-202517(JP,A)
【文献】特開2014-184845(JP,A)
【文献】特開2002-160694(JP,A)
【文献】特開2005-315219(JP,A)
【文献】“Outboard Motors”,YAMAHA DIAGNOSTIC SYSTEM VERSION 2.00 INSTRUCTION MANUAL,Yamaha Motor Co., Ltd.,2011年08月,1st Edition,p.1-133
【文献】北川一裕,Ruban Denis,江頭崇紀,高川功,“中速EUP式電子制御ディーゼル機関の開発”,日本マリンエンジニアリング学会誌,日本,日本マリンエンジニアリング学会,2010年,第45巻第4号,p.567-571,DOI:10.5988/jime.45.567,ISSN 1884-3778(online),1346-1427(print)
【文献】笹田敬司,太田博光,“並列型自己回帰モデルの性質に着目した船外機の状態監視手法”,第9回 評価・診断に関するシンポジウム講演論文集,日本,社団法人日本機械学会,2010年12月15日,2010.9,p.29-32,DOI: 10.1299/jsmesed.2010.9.29,ISSN 2424-3027
【文献】新熊章浩,“ヤンマー「スマート アシスト リモート」システムについて”,農業食料工学会誌,日本,農業食料工学会,2014年07月01日,第76巻第4号,p.295-299,DOI: 10.11357/jsamfe.76.4_295,ISSN 2018-0765(online),2188-224X(print)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 20/00,21/21,25/42,
B63B 79/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船内ネットワークと、
船体に装備され、前記船内ネットワークに接続される複数の推進機と、
前記複数の推進機に向けて転舵角指令値を生成する転舵角指令値生成ユニットと、
前記船内ネットワークに診断装置を接続する接続ユニットと、
を含む、船舶用推進システムであって
各推進機が、船体に対する推進力の方向を変更するための転舵装置と、前記接続ユニットに接続された前記診断装置に対して、当該推進機の運転状態を表す運転状態情報を送信するようにプログラムされたコントローラと、を含み、
前記船舶用推進システムは、前記転舵角指令値生成ユニットが生成する転舵角指令値を前記複数の推進機の前記コントローラまで伝送する配線をさらに含み、
前記コントローラは、前記配線を介して受信する転舵角指令値に応じて前記転舵装置を制御し、
前記診断装置は、前記接続ユニットを介して、前記複数の推進機の運転状態情報を共通の時間軸上で取得し
前記コントローラによって送信され、前記診断装置によって共通の時間軸上で取得される前記運転状態情報が、前記配線を介して前記コントローラが受信する転舵角指令値を含む、船舶用推進システム。
【請求項2】
前記転舵装置が、船体に対する推進力の方向を表す転舵角を検出する転舵角センサを含み、
前記コントローラによって送信され、前記診断装置によって共通の時間軸上で取得される前記運転状態情報が、前記転舵角センサが検出する転舵角を表す転舵角情報を含む、請求項に記載の船舶用推進システム。
【請求項3】
前記複数の推進機にそれぞれ備えられた複数の前記転舵装置を同期制御するように、前記複数の推進機の前記コントローラがそれぞれプログラムされており、
前記同期制御は、前記複数の転舵装置のうちで最も転舵応答の遅い転舵装置に転舵応答を合わせる制御である、請求項またはに記載の船舶用推進システム。
【請求項4】
各推進機が、原動機と、前記原動機によって駆動されて推進力を発生する推進部材とを含み、
前記コントローラによって送信され、前記診断装置によって共通の時間軸上で取得される前記運転状態情報が、前記原動機の回転速度を表す回転速度情報を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の船舶用推進システム。
【請求項5】
前記複数の推進機にそれぞれ備えられた複数の前記原動機を同期制御するように、各推進機の前記コントローラがそれぞれプログラムされている、請求項に記載の船舶用推進システム。
【請求項6】
前記コントローラが、前記推進機の運転状態情報を記憶する記憶装置を含み、前記コントローラによって送信される運転状態情報が、前記記憶装置に記憶された前記運転状態情報を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の船舶用推進システム。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の船舶用推進システムの前記接続ユニットに接続される通信ユニットと、
前記通信ユニットを介して、前記複数の推進機に対して一斉に運転状態情報の送信を要求し、前記複数の推進機からの応答を前記通信ユニットを介して受信することにより、前記複数の推進機の運転状態情報を共通の時間軸上で取得する処理装置と、
を含む、診断装置。
【請求項8】
前記処理装置が、共通の時間軸上に前記複数の推進機の運転状態情報を配置する処理を実行する、請求項7に記載の診断装置。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか一項に記載の船舶用推進システムの前記接続ユニットに診断装置を接続して前記複数の推進機を診断する方法であって、
前記船内ネットワークを介して、前記複数の推進機に対して一斉に運転状態情報の送信を要求し、前記複数の推進機からの応答を受信することにより、前記複数の推進機の運転状態情報を共通の時間軸上で取得するステップと、
前記複数の推進機からの応答に基づき、共通の時間軸上に前記複数の推進機の運転状態情報を配置するステップと、
を含む、診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、船舶用推進システムに関する。この発明は、さらに、船舶用推進システムを診断するための診断装置および診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、船舶推進機と遠隔操縦装置とを備えた船舶を開示している。船舶推進機は、エンジンとエンジン制御装置とを備えている。遠隔操縦装置は、操作レバーと制御手段とを備えている。エンジン制御装置と遠隔操縦装置の制御手段とは、ネットワークを介して通信可能に接続されており、操作レバーによって、船舶推進機のシフト駆動装置およびスロットル駆動装置が遠隔操作される。
【0003】
エンジン制御装置は、エンジンに備えられたセンサ類およびスイッチ類から入力される運転データを記憶する不揮発性メモリを備えている。エンジン制御装置には、コネクタを介してサービスツール(パソコン)を接続することができる。診断作業者は、サービスツールをエンジン制御装置に接続することにより、不揮発性メモリに記憶された過去の運転データを読み出してモニタ画面に表示し、表示された運転データに基づいてエンジンを診断することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-202517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
船舶には、複数の推進機が備えられる場合がある。特許文献1の先行技術に従って複数の推進機を診断しようとするならば、各推進機の制御装置にサービスツールを個別に接続することによって、各推進機に関する診断を行うことができるであろう。
しかし、このような個別の診断によっては発見が困難な不具合が発生する場合がある。
一つの例は、複数の推進機が同期制御され、それらのうちの一つに不具合が生じる場合である。たとえば、一つの推進機において、ベアリングの部分固着やオイルの部分的な固化が生じて回転軸の回転抵抗が大きくなると、この推進機の加速応答が悪くなる。このような場合、同期制御によって、他の推進機の制御装置は、応答が悪くなった推進機に回転速度を追従させる。そのため、複数の推進機が同様の挙動を示すので、使用者または診断作業者の五感によって、不具合が生じている推進機を特定することは困難である。上記のような不具合は、使用者には、不調と認識できるものの、原因推進機を特定するまでには至らない。しかも、不具合が常時発生するとは限らず、船舶の使用中に、ときおり発生する場合もある。このような場合には、原因推進機の特定がさらに困難になる。
【0006】
サービスツールは、個々の推進機の情報に基づく診断を行うことができるものの、複数の推進機の運転状態情報を比較することによって特定可能となる不具合の発見には適さない。たとえば、複数のサービスツールを複数の推進機の制御装置にそれぞれ接続して、複数の推進機の運転状態情報をロギングすることが考えられるかもしれない。しかし、記録された運転状態ログは、各サービスツールの固有の時間軸に従うので、複数の推進機の運転状態ログを厳密に比較することは難しい。そのため、微少な時間差が手がかりとなる上記のような不具合の原因推進機を特定することが難しい。
【0007】
もちろん全ての推進機を船舶から取り外して分解検査を行えば原因推進機の特定は可能であろうが、不具合のない推進機の取り外しおよび分解検査を要するから、労力および時間を浪費する。
個別の診断によっては発見が困難な不具合の他の例は、複数の推進機の転舵装置が同期制御され、それらのうちの一つに不具合が生じる場合である。たとえば、一つの推進機の転舵装置において転舵動作が鈍くなる異常が生じると、同期制御によって、他の推進機の転舵動作も同様の挙動となる。そのため、使用者または診断作業者の五感によって原因推進機を特定することは困難である。したがって、上記の場合と同様の事情となる。転舵動作が鈍くなる異常は、転舵装置の内部のアクチュエータの異常によって生じる場合や、配線の異常によって生じる場合などがある。
【0008】
これらの例の他にも、複数の推進機の挙動を詳細に比較することによって発見可能な異常については、従来では、その発見手法が確立されていなかった。
そこで、この発明の一実施形態は、複数の推進機の運転状態情報を比較することによって特定可能な事項の診断を可能とする船舶用推進システムを提供する。
この発明の一実施形態は、さらに、上記のような船舶用推進システムを診断するための診断装置および診断方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の一実施形態は、船内ネットワークと、船体に装備され、前記船内ネットワークに接続される複数の推進機と、前記船内ネットワークに診断装置を接続する接続ユニットと、を含む、船舶用推進システムを提供する。各推進機は、前記接続ユニットに接続された前記診断装置に対して、当該推進機の運転状態を表す運転状態情報を送信するようにプログラムされたコントローラを含む。
【0010】
この構成により、接続ユニットを介して診断装置を船内ネットワークに接続することができる。したがって、診断装置は、船内ネットワークを介して複数の推進機と通信することができる。各推進機のコントローラは、診断装置に対して、推進機の運転状態情報を送信する。そのため、診断装置は、複数の推進機の運転状態情報を共通の時間軸上で取得することができる。それにより、複数の推進機の運転状態情報を共通の時間軸上で比較して、複数の推進機の診断を行うことができる。
【0011】
一つの実施形態では、各推進機が、原動機と、前記原動機によって駆動されて推進力を発生する推進部材とを含み、前記コントローラによって送信される運転状態情報が、前記原動機の回転速度を表す回転速度情報を含む。
この構成により、診断装置は、複数の推進機から、原動機の回転速度を表す回転速度情報を共通の時間軸上で取得することができる。それにより、複数の推進機の原動機回転速度を共通の時間軸上で比較して、複数の推進機の診断を行うことができる。
【0012】
一つの実施形態では、前記複数の推進機にそれぞれ備えられた複数の前記原動機を同期制御するように、各推進機の前記コントローラがそれぞれプログラムされている。
この構成では、複数の原動機が同期制御されるために、各推進機の原動機回転速度は、他の推進機の原動機回転速度に追従する。そのため、複数の推進機の原動機回転速度は同様な時間変化を示すので、原動機回転速度が他と異なる挙動を示す推進機が存在していても、その推進機を特定することは従来技術では難しい。そこで、診断装置によって船内ネットワークを介して共通の時間軸上で複数の推進機の原動機回転速度を取得し、それを比較することで、挙動の異なる推進機の特定が容易になる。
【0013】
一つの実施形態では、前記船舶用推進システムが、前記複数の推進機に向けて転舵角指令値を生成する転舵角指令値生成ユニットと、前記転舵角指令値生成ユニットが生成する転舵角指令値を前記複数の推進機の前記コントローラまで伝送する配線と、を含む。各推進機が、船体に対する推進力の方向を変更するための転舵装置を含む。前記コントローラが、前記配線を介して受信する転舵角指令値に応じて前記転舵装置を制御する。前記コントローラによって送信される運転状態情報が、前記配線を介して前記コントローラが受信する転舵角指令値を含む。
【0014】
この構成では、診断装置は、船内ネットワークを介して、複数の推進機のコントローラが受信する転舵角指令値を共通の時間軸上で収集することができる。その収集された転舵角指令値の変化を比較することにより、転舵角指令値の異常を発見することができる。それによって、たとえば、配線の異常箇所の特定に役立てることができる。
一つの実施形態では、各推進機が、船体に対する推進力の方向を変更するための転舵装置を含む。前記転舵装置が、船体に対する推進力の方向を表す転舵角を検出する転舵角センサを含む。前記コントローラによって送信される運転状態情報が、前記転舵角センサが検出する転舵角を表す転舵角情報を含む。
【0015】
この構成によれば、診断装置は、船内ネットワークを介して、複数の推進機のコントローラから、複数の推進機の転舵角情報を共通の時間軸上で収集することができる。そうして収集された転舵角情報を用いることにより、複数の推進機の転舵角情報を共通の時間軸上で比較できるので、たとえば、転舵装置や転舵角センサに関連する異常箇所の特定が容易になる。
【0016】
一つの実施形態では、前記複数の推進機にそれぞれ備えられた複数の前記転舵装置を同期制御するように、前記複数の推進機の前記コントローラがそれぞれプログラムされている。
複数の推進機の転舵装置が同期制御されることにより、複数の推進機の転舵角は近似した挙動を示す。そのため、従来技術では、いずれかの転舵装置に関連する異常が生じても、その異常箇所の特定は容易ではない。そこで、この実施形態を適用することにより、複数の推進機の転舵角情報を共通の時間軸上で収集できるので、その収集された転舵角情報を用いることによって、転舵角変化のわずかな時間差に基づいて、異常箇所を特定することができる。
【0017】
一つの実施形態では、前記コントローラが、前記推進機の運転状態情報を記憶する記憶装置を含む。前記コントローラによって送信される運転状態情報が、前記記憶装置に記憶された前記運転状態情報を含む。
この構成により、診断装置は、船内ネットワークを介して複数の推進機の過去の運転状態情報を一括して収集することができる。したがって、過去の運転状態の取得に際しても、診断装置を個々の推進機に個別に接続する必要がないので、診断に必要な情報を短時間で容易に収集することができる。
【0018】
この発明の一実施形態は、さらに、前述のような特徴を有する船舶用推進システムの前記接続ユニットに接続される通信ユニットと、前記通信ユニットを介して、前記複数の推進機に対して一斉に運転状態情報の送信を要求し、前記複数の推進機からの応答を前記通信ユニットを介して受信する処理装置と、を含む、診断装置を提供する。
この構成により、診断装置は、複数の推進機から一括して運転状態情報を取得できる。したがって、複数の推進機の運転状態情報を共通の時間軸上で収集できる。それにより、複数の推進機の運転状態情報を共通の時間軸上で比較して、船舶用推進システムの診断を行うことができる。
【0019】
一つの実施形態では、前記処理装置が、共通の時間軸上に前記複数の推進機の運転状態情報を配置する処理を実行する。
この構成により、複数の推進機の運転状態情報を共通の時間軸上で比較することができるので、複数の推進機の相対的な挙動を調べることが可能になる。それにより、異常箇所の特定などを容易に行うことができる。
【0020】
この発明の一実施形態は、前述のような特徴を有する船舶用推進システムの前記接続ユニットに診断装置を接続して前記複数の推進機を診断する方法を提供する。この方法は、前記船内ネットワークを介して、前記複数の推進機に対して一斉に運転状態情報の送信を要求し、前記複数の推進機からの応答を受信するステップと、前記複数の推進機からの応答に基づき、共通の時間軸上に前記複数の推進機の運転状態情報を配置するステップと、
を含む。
【0021】
この方法により、複数の推進機から一括して運転状態情報を取得できる。したがって、複数の推進機の運転状態情報を共通の時間軸上で収集できる。それにより、複数の推進機の運転状態情報を共通の時間軸上で比較して、船舶用推進システムの診断を行うことができる。
【発明の効果】
【0022】
この発明によれば、複数の推進機の運転状態情報を比較することによって特定可能な事項の診断が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、この発明の一実施形態に係る船舶用推進システムを備えた船舶の構成例を説明するための斜視図である。
図2図2は、船外機の構成例を説明するための図である。
図3図3は、船舶用推進システムの構成を説明するための図である。
図4図4は、船舶用推進システムの電気的構成を説明するためのブロック図である。
図5図5は、診断装置からの要求に対する船外機ECUの動作を説明するためのフローチャートである。
図6図6は、診断装置の情報取得動作を説明するためのフローチャートである。
図7図7は、診断装置による運転状態情報に対する処理の例を説明するためのフローチャートである。
図8図8は、複数の船外機のエンジン回転速度の変動の例を共通の時間軸上に表した図である。
図9図9は、複数の船外機が受ける転舵角指令値の時間変化の例を共通の時間軸上に表した図である。
図10図10は、複数の船外機の実転舵角の時間変化の例を共通の時間軸上に表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、この発明の一実施形態に係る船舶用推進システムを備えた船舶の構成例を説明するための斜視図である。船舶1は、船体2と、推進機としての船外機3とを備えている。船外機3は、複数個(この実施形態では2基)備えられている。これらの船外機3は、船体2の船尾に沿って(すなわち、船体2の左右方向に沿って)一列に並べて取り付けられている。2基の船外機を区別するときには、右舷に配置されたものを「右舷船外機3R」、左舷に配置されたものを「左舷船外機3L」ということにする。これらの船外機3は、それぞれ原動機としてのエンジン(内燃機関)を備えており、このエンジンの駆動力によって回転されるプロペラ40(図2参照)によって推進力を発生する。
【0025】
船体2の前方部(船首側)には、操船席5が設けられている。操船席5には、ステアリング装置6と、リモコン7と、ゲージ9とが備えられている。
ステアリング装置6は、操船者によって回転操作されるステアリングホイール6aを備えている。ステアリングホイール6aの操作は、後述の操作角センサ(図1では図示略)によって検出されるようになっている。
【0026】
リモコン7は、左右2本のレバー7L,7Rを備えている。これらのレバー7L,7Rは、それぞれ前後に傾倒可能である。レバー7L,7Rの操作位置がそれぞれ後述のポジションセンサ(図1では図示略)によって検出されるようになっている。この検出された操作位置に応じて船外機3の動作が制御される。レバー7L,7Rを所定の中立位置から所定量以上前方に傾倒させることによって、船外機3のシフト位置が前進位置となり、当該船外機3から前進方向の推進力が発生される。レバー7L,7Rを前記中立位置から所定量以上後方に傾倒させることによって、船外機3のシフト位置が後退位置となり、当該船外機3から後退方向の推進力が発生される。レバー7L,7Rが前記中立位置にあれば、船外機3のシフト位置が中立位置となり、船外機3は推進力を発生しない。また、レバー7L,7Rの傾倒量に応じて、船外機3の出力、すなわち、船外機3に備えられたエンジンの目標エンジン回転速度(目標スロットル開度に相当する)を変化させることができる。
【0027】
目標エンジン回転速度は、前記所定量の傾倒位置(前進シフトイン位置)まではアイドル回転速度とされる。前進シフトイン位置を超えて前方にレバー7L,7Rを傾倒させると、レバー傾倒量が大きいほど大きくなるように目標エンジン回転速度が定められる。また、目標エンジン回転速度は、前記所定量の傾倒位置(後退シフトイン位置)まではアイドル回転速度とされる。後退シフトイン位置を超えて後方にレバー7L,7Rを傾倒させると、レバー傾倒量が大きいほど大きくなるように目標エンジン回転速度が定められる。
【0028】
右舷船外機3Rのシフト位置およびエンジン回転速度は、右側のレバー7Rの操作位置に従う。左舷船外機3Lのシフト位置およびエンジン回転速度は、左側のレバー7Lの操作位置に従う。
ゲージ9は、2基の船外機3に対応して2個備えられている。これらを区別するときには、右舷船外機3Rに対応するものを「右舷ゲージ9R」といい、左舷船外機3Lに対応するものを「左舷ゲージ9L」という。これらのゲージ9は、対応する船外機3の状態を表示する。より具体的には、対応する船外機3の電源のオン/オフ、エンジン回転速度その他予め定められた情報を表示する。
【0029】
図2は、2つの船外機3の共通の構成例を説明するための図である。船外機3は、推進ユニット30と、この推進ユニット30を船体2に取り付ける取り付け機構31とを有している。取り付け機構31は、船体2の後尾板に着脱自在に固定されるクランプブラケット32と、このクランプブラケット32に水平回動軸としてのチルト軸33を中心に回動自在に結合されたスイベルブラケット34とを備えている。推進ユニット30は、スイベルブラケット34に対して、転舵軸35まわりに回動自在であるように取り付けられている。これにより、推進ユニット30を転舵軸35まわりに回動させることによって、転舵角(船体2の中心線に対して推進力の方向がなす方位角)を変化させることができる。また、スイベルブラケット34をチルト軸33まわりに回動させることによって、推進ユニット30のトリム角を変化させることができる。トリム角は、船体2に対する船外機3の取り付け角に対応する。
【0030】
推進ユニット30のハウジングは、エンジンカバー(トップカウリング)36とアッパケース37とロアケース38とで構成されている。エンジンカバー36内には、原動機としてのエンジン39がそのクランク軸の軸線が上下方向となるように設置されている。エンジン39のクランク軸下端に連結される動力伝達用のドライブシャフト41は、上下方向にアッパケース37内を通ってロアケース38内にまで延びている。
【0031】
ロアケース38の下部後側には、推進部材としてのプロペラ40が回転自在に装着されている。ロアケース38内には、プロペラ40の回転軸であるプロペラシャフト42が水平方向に通されている。プロペラシャフト42には、ドライブシャフト41の回転が、シフト機構43を介して伝達されるようになっている。
シフト機構43は、前進位置、後進位置および中立位置を含む複数のシフト位置(シフト状態)を有している。中立位置は、ドライブシャフト41の回転をプロペラシャフト42に伝達しない遮断状態のシフト位置である。前進位置は、プロペラシャフト42が前進回転方向に回転するようにドライブシャフト41の回転をプロペラシャフト42に伝達する状態のシフト位置である。後進位置は、プロペラシャフト42が後進回転方向に回転するようにドライブシャフト41の回転をプロペラシャフト42に伝達する状態のシフト位置である。前進回転方向とは、船体2に対して前進方向の推進力を与えるプロペラ40の回転方向である。後進回転方向とは、船体2に対して後進方向の推進力を与えるプロペラ40の回転方向である。シフト機構43のシフト位置は、シフトロッド44によって切り換えられる。シフトロッド44は、ドライブシャフト41と平行に上下方向に延びており、その軸まわりの回動によって、シフト機構43を操作するように構成されている。
【0032】
エンジン39に関連して、このエンジン39を始動させるためのスタータモータ45が配置されている。スタータモータ45は、船外機ECU(電子制御ユニット)20によって制御される。船外機ECU20は、コントローラの一例である。また、エンジン39のスロットルバルブ46を作動させてスロットル開度を変化させ、エンジン39の吸入空気量を変化させるためのスロットルアクチュエータ51が備えられている。スロットルアクチュエータ51は、電動モータからなっていてもよい。スロットルアクチュエータ51の動作は、船外機ECU20によって制御される。エンジン39には、さらに、クランク軸の回転を検出することによってエンジン39の回転速度を検出するためのエンジン回転速度検出部48が備えられている。
【0033】
また、シフトロッド44に関連して、シフト機構43のシフト位置を変化させるためのシフトアクチュエータ52が設けられている。シフトアクチュエータ52は、たとえば、電動モータからなり、船外機ECU20によって動作制御される。シフトアクチュエータ52に関連して、シフト機構43のシフト位置を検出するシフト位置センサ49が設けられている。
【0034】
さらに、推進ユニット30に固定された操舵ロッド47には、ステアリング装置6(図1参照)の操作に応じて駆動される転舵装置53が結合されている。転舵装置53によって、推進ユニット30が転舵軸35まわりに回動され、それによって舵取りを行うことができる。転舵装置53は、転舵アクチュエータ53Aを有している。転舵アクチュエータ53Aは、船外機ECU20によって制御される。転舵アクチュエータ53Aは電動モータで構成されていてもよいし、油圧アクチュエータであってもよい。転舵装置53は、さらに、推進ユニット30の転舵角を検出するための転舵角センサ53Bを備えている。転舵角センサ53Bは、転舵アクチュエータ53Aの駆動部材の位置を検出するように構成されていてもよい。
【0035】
クランプブラケット32とスイベルブラケット34との間には、たとえば液圧シリンダを含み、船外機ECU20によって制御されるチルトトリムアクチュエータ54が設けられている。チルトトリムアクチュエータ54は、チルト軸33まわりにスイベルブラケット34を回動させることにより、推進ユニット30をチルト軸33まわりに回動させる。
図3は、船舶1に備えられた船舶用推進システム80の構成を説明するための図である。船体2内には、船内ネットワークの一例である船内LAN(ローカルエリアネットワーク)10が構築されている。具体的には、リモコンECU60、複数の船外機3の船外機ECU20、およびゲージ9が船内LAN10に接続されて、データおよび制御信号を授受できるようになっている。ステアリング装置6およびリモコン7がリモコンECU60に接続されている。より具体的には、ステアリング装置6は、ステアリングホイール6aの操舵角を検出する操作角センサ63を有している。操作角センサ63の出力信号がリモコンECU60に入力される。また、リモコン7は、レバー7L,7Rの操作位置を検出するレバー位置センサ62L,62Rを備えており、それらの出力信号がリモコンECU60に入力される。
【0036】
船内LAN10は、操船席5の近くに設けられた船首側ハブ11と、船尾側に設けられた船尾側ハブ12とを有している。これらはLANケーブル13によって互いに接続されている。船首側ハブ11には、ゲージ9がLANケーブル14を介して接続されており、リモコンECU60がLANケーブル15を介して接続されている。また、船尾側ハブ12には、LANケーブル16L,16R(総称するときには「LANケーブル16」という。)をそれぞれ介して船外機3L,3Rの船外機ECU20が接続されている。LANケーブル13~16は、電源線と信号線とを結束して構成されていてもよい。これにより、LANケーブル13~16は、電源線を介して電力を送電できるとともに、信号線を介して各機器間の通信信号を伝送できる。
【0037】
船首側ハブ11または船尾側ハブ12の空きポートには、診断装置70を接続することができる。すなわち、ハブ11,12の少なくとも一方は、診断装置70を船内LAN10に接続するための接続ユニットの一例である。診断装置70は、たとえばパーソナルコンピュータの形態を有しており、入力装置71と、表示装置72と、通信ポート73と、処理装置74を備えている。入力装置71は、キーボードおよび/またはポインティングデバイスを含んでいてもよい。表示装置72は、液晶表示装置に代表される二次元ディスプレイであってもよい。通信ポート73は、LANケーブル17を介してハブ11,12に接続可能なLANポートであり、通信ユニットの一例である。通信ポート73は、必要なアダプタを介してハブ11,12に接続可能であってもよい。処理装置74は、通信ポート73を介して外部と通信する処理、および各種の演算処理を実行する。
【0038】
図4は、船舶1に備えられた船舶用推進システム80の電気的構成を説明するためのブロック図である。リモコン7は、左右のリモコンレバー7L,7Rの操作位置を検出するレバー位置センサ62L,62Rを備えている。これらのレバー位置センサ62L,62Rの出力信号が、リモコンECU60に入力されるようになっている。また、リモコンECU60には、ステアリング装置6が接続されている。具体的には、ステアリングホイール6aの操作角を検出する操作角センサ63の出力信号がリモコンECU60に入力されるようになっている。リモコンECU60には、さらに、必要に応じて、ジョイスティック64、パワー・チルト・トリムスイッチ(PTTSW)65等のその他の操作装置が接続されてもよい。リモコンECU60は、マイクロコンピュータを内蔵しており、入力信号に応じて、船外機3R,3Lを制御するための制御指令を生成する。
【0039】
一方、船外機3R,3Lは、それぞれ船外機ECU20を備えている。船外機ECU20には、エンジン39(より具体的には、インジェクタ55および点火コイル56)、シフトアクチュエータ52、スロットルアクチュエータ51、チルトトリムアクチュエータ54、スタータモータ45、および転舵アクチュエータ53Aが制御対象として接続されている。これらの制御対象を、以下では「アクチュエータ類」という場合がある。
【0040】
さらに、船外機ECU20には、エンジン回転速度検出部48、シフト位置センサ49、転舵角センサ53B等のセンサ類からの信号が入力されている。
図4には、右舷船外機3Rに対応する船外機ECU20によって制御されるアクチュエータ類(制御対象)およびセンサ類のみを図示してある。むろん、左舷船外機3Lに備えられた同様のアクチュエータ類は、対応する船外機ECU20によって制御される。また、左舷船外機3Lに備えられた同様のセンサ類は、当該左舷船外機3Lの船外機ECU20に入力される。
【0041】
船外機ECU20は、マイクロコンピュータを内蔵しており、リモコンECU60から与えられる制御指令に従って、前記アクチュエータ類を制御する。より具体的には、船外機ECU20は、プロセッサ20Pおよび記憶装置20Mを含む。プロセッサ20Pは、記憶装置20Mに格納されたプログラムに従って様々な演算処理および制御処理を実行し、アクチュエータ類を制御する。プロセッサ20Pは、さらに、船外機3に備えられたセンサ類が検出した値を記憶装置20Mに記憶したり、船外機3に異常が発生したときには、その異常の内容および発生時期等を表す異常履歴情報を記憶装置20Mに記憶したりする。
【0042】
リモコンECU60と船外機3R,3Lの船外機ECU20とは、船舶1内に構築された前述の船内LAN10を介して通信する。
リモコンECU60は、通信先の船外機ECU20を指定して制御指令を出力する。指定された船外機ECU20は、その制御指令を受け取り、当該制御指令に従ってアクチュエータ類を制御する。ただし、船外機ECU20は、他の船外機の船外機ECU20を宛先として送出された制御指令を取り込んで、アクチュエータ類の制御に用いることもできる。
【0043】
制御指令は、船外機3のエンジン39の出力を指令する出力指令値と、船外機3のシフト位置(前進、後進、中立)を指令するシフト指令値と、船外機3の転舵角を指令する転舵角指令値とを含む。出力指令値は、船外機3のエンジン39の回転速度の目標値であってもよい。この出力指令値に従って、船外機ECU20は、スロットルアクチュエータ51を制御する。シフト指令値は、シフト機構43のシフト位置に関する指令値である。このシフト指令値に従って、船外機ECU20は、シフトアクチュエータ52を制御する。転舵角指令値は、船外機3の船体2に対する方位角の目標値である。通常は、ステアリングホイール6aの操作角に応じた転舵角指令値が生成される。この転舵角指令値に従って、船外機ECU20は、転舵アクチュエータ53Aを制御する。この実施形態では、リモコンECU60は、転舵角指令値生成ユニットの一例である。
【0044】
この実施形態では、各船外機ECU20は、複数の船外機3の出力を同期または同調させるための出力同期制御と、複数の船外機3の転舵を同期または同調させるための転舵同期制御とを実行するようにプログラムされている。出力同期制御とは、具体的には、右舷船外機3Rの船外機ECU20が、左舷船外機3Lの出力(具体的にはエンジン回転速度)に合わせて、右舷船外機3Rの出力を制御することをいう。転舵同期制御とは、具体的には、各船外機ECU20が、複数の船外機3のうちで最も転舵応答の遅い船外機3に合わせて、対応する船外機3の転舵応答を制御することをいう。出力同期制御によって、複数の船外機3が発生する推進力が互いに整合するので、優れた操船性能を実現できる。また、転舵同期制御によって、複数の船外機3が同期して転舵するので、隣り合う船外機3同士が干渉することを回避できる。
【0045】
制御指令は、上記のほか、チルト指令およびトリム指令を含んでいてもよい。チルト指令およびトリム指令は、パワー・チルト・トリムスイッチ65の操作に応答して生成される。チルト指令は、船外機3のプロペラ40を水面上に持ち上げさせたり、水中に浸漬させたりするための指令である。トリム指令は、船体2に対する船外機3の俯角/仰角を変化させるための指令である。船外機ECU20は、チルト指令およびトリム指令に従って、チルトトリムアクチュエータ54を制御する。
【0046】
前述のとおり、船内LAN10には、ゲージ9が接続されている。そして、船内LAN10には、診断装置70を接続することができる。診断装置70の処理装置74は、プロセッサ74P(CPU)および記憶装置74Mを含み、プロセッサ74Pは、記憶装置74Mに記憶されたプログラムに従って、通信ポート73を介して外部と通信する処理、および各種の演算処理を実行する。
【0047】
図5は、診断装置70からの要求に対する船外機ECU20の応答動作を説明するためのフローチャートであり、所定の制御周期で繰り返される処理を示す。船外機ECU20のプロセッサ20Pは、診断装置70からの運転状態情報の送信を要求する送信要求の有無を調べる(ステップS1)。送信要求があれば、プロセッサ20Pは、診断装置70を宛先として、当該送信要求に対応する運転状態情報を船内LAN10へと送出する(ステップS2)。送出される運転状態情報は、記憶装置20Mから読み出された情報であってもよいし、センサ類から取得された情報であってもよい。記憶装置20Mから読み出される情報は、センサ類の過去の検出値を表す情報を含んでいてもよいし、異常履歴情報を含んでいてもよい。
【0048】
図6は、船内LAN10に接続された診断装置70が所定の周期で繰り返し実行する情報取得動作を説明するためのフローチャートである。診断装置70のプロセッサ74Pは、船内LAN10に接続された全ての船外機ECU20に対して運転状態情報の送信を要求する送信要求(一括送信要求)を生成する(ステップS11)。これに応答して、各船外機ECU20が船内LAN10にそれぞれの運転状態情報を送出し、通信ポート73がこれを受信すると(ステップS12)、プロセッサ74Pは、その受信した運転状態情報を記憶装置74Mに格納する(ステップS13)。
【0049】
診断装置70のプロセッサ74Pは、一括送信要求を制御周期ごとに繰り返し送出する。それにより、共通の時間軸上で、複数の船外機3の運転状態情報を時系列に従って複数回取得することができる。
通常の故障診断は、船舶1が停泊しているときなど、船舶1が使用されていないときに、診断作業者によって行われる。診断作業者は、診断装置70を船内LAN10に接続し、船外機ECU20の記憶装置20Mに格納されている運転履歴情報を診断装置70に取り込む。この運転履歴情報に異常が認められれば、診断作業者は必要な対処を実行する。
【0050】
一方、複数の船外機3の運転状態情報を共通の時間軸上で比較して確認される事項の診断のための運転状態情報の収集は、複数の船外機3を運転させた状態で行われる。このような診断は、船舶1が停泊している状態で行われてもよく、また船舶1を航走させている状態で行われてもよい。いずれの場合も、診断装置70を船内LAN10に接続した状態で行われる。場合によっては、診断装置70を船内LAN10に接続した状態で、使用者に船舶1を運用してもらい、通常の使用状況において診断装置70がリアルタイムで運転状態情報を収集してもよい。収集された運転状態情報は、記憶装置74Mに格納される。
【0051】
このようにリアルタイムで収集される運転状態情報の例としては、エンジン回転速度情報、転舵角指令値情報、実転舵角情報を挙げることができる。むろん、その他の情報が含まれていてもよく、とくに各種センサ類の検出値や船外機ECU20が受信する各種指令値が、収集対象の運転状態情報に含まれていてもよい。
図7は、診断装置70による運転状態情報に対する処理の例を説明するためのフローチャートである。診断作業者は、収集済みの運転状態情報が記憶装置74Mに格納されている状態で、運転状態情報を表示装置72に表示させるための指令を入力装置71から入力する(ステップS21)。それにより、処理装置74のプロセッサ74Pは、記憶装置74Mから複数の船外機3に関する運転状態情報を読み出し(ステップS22)、その運転状態情報を共通の時間軸上に展開する(ステップS23)。プロセッサ74Pは、さらに、その展開された情報を表示装置72の画面上にグラフ表示するための表示制御を実行する(ステップS24)。グラフ表示の例は、次に説明する図8図9(a)および図10に示されている。
【0052】
図8は、複数の船外機3のうちの一つに異常が生じている場合の一例を説明するための図であり、複数の船外機3のエンジン回転速度の変動を共通の時間軸上で示してある。より具体的には、左舷船外機3Lのエンジン回転速度の変動が曲線81Lで示され、右舷船外機3Rのエンジン回転速度の変動が曲線81Rで示されている。たとえば、左舷船外機3Lにベアリングの部分固着やオイルの部分固化のような不具合が生じていると、操船者がスロットルを開ける加速操作を行っても、左舷船外機3Lの吹き上がり(エンジン回転速度の加速)が悪くなる。そればかりか、出力同期制御のために、右舷船外機3Rのエンジン回転速度が左舷船外機3Lのエンジン回転速度と同様の変化を示す。そのために、使用者は、加速性能が悪化したと感じ、不調を訴える。
【0053】
一方、出力同期制御が行われたとしても、全ての船外機3の出力が完全に一致するわけではない。たとえば、リモコンECU60から全開出力指令が与えられると、全ての船外機3のエンジン39はフルスロットル状態に制御される。このとき、左舷船外機3Lのエンジン回転速度の上昇が鈍ると、それに微少時間82だけ遅れて、他の船外機3Rのエンジン回転速度が追従する。このような微少時間82の遅れは、複数の船外機3のエンジン回転速度の時間変化を共通の時間軸上で示すことにより明らかになる。このような微少時間82の遅れは、人間の五感によって認識することが困難であるため、不調の原因となる船外機3(上記の例では左舷船外機3L)を特定することは困難である。
【0054】
この実施形態の診断装置70は、船内LAN10を介して複数の船外機ECU20から複数の船外機3の運転状態情報(エンジン回転速度を含む)を一括取得するので、その取得された情報を共通の時間軸上に展開することができる。このように、共通の時間軸上に展開した運転状態情報を診断装置70の表示装置72に表示(たとえば図8に示すようなグラフ表示)することによって、診断作業者は、不具合が生じている船外機3を容易に特定することができる。
【0055】
図9は、複数の船外機ECU20がリモコンECU60からそれぞれ受信する転舵角指令値のいずれかに異常が生じている場合の一例を説明するための図である。図9(a)には、複数の船外機ECU20が受ける転舵角指令値の時間変化を共通の時間軸上で示してある。図9(b)は、各船外機3の実転舵角の変化を示す。
より具体的には、左舷船外機3Lおよび右舷船外機3Rの船外機ECU20が受信する転舵角指令値の時間変化が、図9(a)において、曲線91L,91Rでそれぞれ示されている。また、図9(b)には、左舷船外機3Lおよび右舷船外機3Rの実転舵角の時間変化が曲線92L,92Rでそれぞれ表されている。実転舵角は、転舵角センサ53Bが検出する転舵角であり、船外機3の実際の転舵角である。
【0056】
たとえば、リモコンECU60から船外機ECU20へと転舵角指令値を伝達する信号配線(この実施形態ではLANケーブル16等)の一時的な断線は、転舵角指令値の異常の原因となる。図9の例では、左舷船外機3Lの船外機ECU20が受信する転舵角指令値に異常が生じている。より具体的には、期間93において、右舷の船外機3Rの船外機ECU20が受信する転舵角指令値が変化しているにも拘わらず、左舷船外機3Lの船外機ECU20が受信する転舵角指令値が変化していない。
【0057】
前述のとおり、各船外機3の船外機ECU20は、転舵同期制御を行う。たとえば、各船外機ECU20は、他の船外機3から実転舵角の情報を取得する。各船外機ECU20は、当該船外機ECU20が受ける転舵角指令値に基づいて、対応する転舵装置53をフィードバック制御する。その一方で、当該船外機ECU20は、他の船外機3の実転舵角の変化が転舵角指令値に追従していない場合には、最も転舵応答の遅れている船外機3の実転舵角に整合するように、対応する転舵装置53を制御する。
【0058】
したがって、図9の例では、結果として、左舷船外機3Lの船外機ECU20が受信する転舵角指令値に従うように、全ての船外機3の転舵角が制御される。そのため、期間93においては、全ての船外機3の実転舵角が実質的に変化せず、期間93の経過後に、実転舵角の変化が始まる。転舵角指令値が連続的な変化を示しているにもかかわらず、実転舵角に不変期間が生じるため、操船者は違和感を抱く。しかし、転舵同期制御のために、いずれの船外機3に関連する不具合であるのかを特定するには至らない。
【0059】
この実施形態の診断装置70は、船内LAN10を介して複数の船外機ECU20から運転状態情報を一括取得するので、共通の時間軸上に複数の船外機ECU20が受信する転舵角指令値を展開することができる。これを診断装置70の表示装置72にグラフ表示(たとえば図9(a)のような表示)することによって、診断作業者は、いずれの船外機ECU20が受信する転舵角指令値に異常が生じているのかを容易に特定することができる。
【0060】
図10は、複数の船外機3がそれぞれ備える複数の転舵装置53のいずれかに異常が生じている場合の一例を説明するための図であり、複数の船外機3の実転舵角(転舵角センサ53Bの出力信号)の時間変化を共通の時間軸上に表してある。より具体的には、左舷船外機3Lおよび右舷船外機3Rの実転舵角の時間変化が、曲線101L,101Rでそれぞれ示されている。
【0061】
たとえば、右舷船外機3Rの転舵装置53のアクチュエータ(たとえば電動モータ)の内部に不具合が生じていると、操船者がステアリングホイール6aを回動して舵取り操作を行っても、右舷船外機3Rの転舵応答が悪くなる。そればかりか、転舵同期制御のために、他の船外機3Lの転舵も同様に応答が悪くなる。そのために、使用者は、転舵応答が悪化したと感じ、不調を訴える。また、図10の例に示すように、右舷船外機3Rの転舵角センサ53Bの配線に異常が生じていたりして、実転舵角にノイズが混入する場合がある。このような場合、右舷船外機3Rの転舵制御が影響を受けるだけでなく、他の船外機3Lの転舵制御にも同様の影響が現れ、実転舵角はノイズ成分を含む挙動を示す。
【0062】
一方、転舵同期制御が行われたとしても、全ての船外機3の実転舵角の変化が完全に整合するわけではない。すなわち、右舷船外機3Rの実転舵角が他の船外機3Lの実転舵角と異なる挙動を示すと、それに微少時間102だけ遅れて、他の船外機3Lの実転舵角が追従する。このような微少時間102の遅れは、複数の船外機3の実転舵角を共通の時間軸上に展開して表すことにより明らかになる。この微少時間102の遅れは、人間の五感によって確認することが難しいため、不調の原因となる船外機3を特定することは困難である。
【0063】
この実施形態の診断装置70は、船内LAN10を介して複数の船外機ECU20から複数の船外機3の運転状態情報(実転舵角を含む)を一括取得するので、その取得された情報を共通の時間軸上に展開することができる。このように、共通の時間軸上に展開した運転状態情報を診断装置70の表示装置72に表示(たとえば図10に示すようなグラフ表示)することによって、診断作業者は、不具合が生じている船外機3を容易に特定することができる。
【0064】
以上のように、この実施形態によれば、診断装置70は、ハブ11,12を介して船内LAN10に接続することができる。したがって、診断装置70は、船内LAN10を介して複数の船外機3の船外機ECU20と通信することができる。各船外機3の船外機ECU20は、診断装置70に対して、船外機3の運転状態情報を送信する。そのため、診断装置70は、複数の船外機3の運転状態情報を共通の時間軸上で取得することができる。それにより、複数の船外機3の運転状態情報を共通の時間軸上で比較して、複数の船外機3の診断を行うことができる。
【0065】
より具体的には、診断装置70は、複数の船外機3から、エンジン回転速度(原動機回転速度)を表す回転速度情報を共通の時間軸上で取得することができる。それにより、複数の船外機3のエンジン回転速度を共通の時間軸上で比較して、複数の船外機3の診断を行うことができる。
とくに、この実施形態では、複数の船外機3のエンジン39の出力(回転速度)が同期制御される。そのため、複数の船外機3のエンジン回転速度は同様な時間変化を示すので、他と異なるエンジン回転速度挙動を示す船外機3が存在していても、使用者または診断作業者の五感に頼って原因船外機3を特定することは難しい。そこで、診断装置70によって船内LAN10を介して共通の時間軸上で複数の船外機3のエンジン回転速度を取得し、それを比較することで、エンジン回転速度の挙動の異なる船外機3を容易に特定できる。
【0066】
また、この実施形態によれば、診断装置70は、船内LAN10を介して、複数の船外機3の船外機ECU20がリモコンECU60から受信する転舵角指令値を共通の時間軸上で収集することができる。その収集された転舵角指令値の変化を比較することにより、転舵角指令値の異常を発見することができる。それによって、たとえば、配線(この実施形態ではLANケーブル)の異常箇所の特定に役立てることができる。
【0067】
また、この実施形態によれば、診断装置70は、船内LAN10を介して、複数の船外機3の船外機ECU20から、複数の船外機3の実転舵角(転舵角情報)を共通の時間軸上で収集することができる。そうして収集された実転舵角を用いることにより、複数の船外機3の実転舵角を共通の時間軸上で比較できるので、たとえば、転舵装置53や転舵角センサ53Bに関連する異常箇所の特定が容易になる。
【0068】
とくに、この実施形態では、複数の船外機3の転舵装置53が同期制御されるので、複数の船外機3の実転舵角は近似した挙動を示す。そのため、使用者または診断作業者の五感に頼って異常箇所を特定することは容易ではない。そこで、診断装置70により、複数の船外機3の実転舵角を共通の時間軸上で収集することにより、実転舵角変化のわずかな時間差に基づいて、異常箇所を特定することができる。
【0069】
また、この実施形態では、診断装置70は、船内LAN10を介して複数の船外機3の過去の運転状態情報を一括して収集することができる。したがって、過去の運転状態の取得に際しても、診断装置70を個々の船外機ECU20に個別に接続する必要がないので、診断に必要な情報を短時間で容易に収集することができる。
診断装置70を船内LAN10に接続した状態で船舶1を運用することにより、診断装置70は、長期に渡って、船外機3の運転状態情報を共通の時間軸上で取得することができる。このように取得された運転状態情報は、記憶装置74Mに格納される。診断作業者は、後日、診断装置70の記憶装置74Mに格納された運転状態情報を分析することができる。その際、診断装置70の処理装置74は、複数の船外機3の運転状態情報を共通の時間軸上に展開し、表示装置72に表示(たとえばグラフ表示)する。それにより、複数の船外機3の運転状態情報を共通の時間軸上で容易に比較できるので、複数の船外機3を有する船舶用推進システム80の診断を迅速に行うことができる。すなわち、複数の船外機3の運転状態情報を共通の時間軸上で比較することができるので、複数の船外機3の相対的な挙動を調べることが可能になる。それにより、異常箇所の特定などを容易にかつ速やかに行うことができる。
【0070】
以上、この発明の一実施形態について説明してきたが、この発明は、さらに他の形態でも実施することができる。たとえば、前述の実施形態では、推進機の一例として船外機を挙げている。しかし、他の形態の推進機、たとえば水ジェット推進機などにも、この発明を同様に適用できる。また、前述の実施形態では、原動機の一例としてエンジンを挙げている。しかし、他の形態の原動機、たとえば電動モータを備えた推進機を備える船舶用推進システムに対してもこの発明を適用できる。むろん、推進機の数は2基に限らず、3基以上の推進機が備えられてもよい。
【0071】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0072】
1 船舶、2 船体、3 船外機、6 ステアリング装置、7 リモコン、10 船内LAN、11 船首側ハブ、12 船尾側ハブ、13~17 LANケーブル、20 船外機ECU、20P プロセッサ、20M 記憶装置、39 エンジン、40 プロペラ、48 エンジン回転速度検出部、51 スロットルアクチュエータ、53 転舵装置、53A 転舵アクチュエータ、53B 転舵角センサ、60 リモコンECU、70 診断装置、71 入力装置、72 表示装置、73 通信ポート、74 処理装置、74P プロセッサ、74M 記憶装置、80 船舶用推進システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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