(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-13
(45)【発行日】2023-09-22
(54)【発明の名称】ポリアミック酸溶液の連続製造システムおよび製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 73/10 20060101AFI20230914BHJP
【FI】
C08G73/10
(21)【出願番号】P 2019120285
(22)【出願日】2019-06-27
【審査請求日】2022-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】豊田 倶透
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-214912(JP,A)
【文献】特表2009-532510(JP,A)
【文献】特表2019-506475(JP,A)
【文献】特開昭64-016832(JP,A)
【文献】特開昭60-212428(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重付加性の第1重合性化合物が溶解した第1溶液と、前記第1重合性化合物と重付加する重付加性の第2重合性化合物が溶解した第2溶液とを原料としてポリアミック酸を製造するポリアミック酸製造システムであって、
前記第1溶液を供給する第1供給部と、前記第2溶液を供給する第2供給部と、
前記第1溶液と前記第2溶液とを
密閉した管内において気体に接触しない状態で
合流させることにより混合して第1混合溶液を生成する第1混合部と、
前記第1混合溶液を
密閉した管内において気体に接触しない状態で撹拌し、前記第1重合性化合物と前記第2重合性化合物との重合反応を進行させて、ポリアミック酸が溶解した第1重合溶液を生成する第1反応部と、
前記第1反応部と接続された押し出し機に第1重合溶液を連続的に受け入れて混合を行う第2反応部、を備え
、
前記第1混合部が、前記第1溶液が通液される管状の送液ラインと、前記第2溶液が通液される管状の送液ラインと、前記第1混合溶液が通液される管状の送液ラインとの連結部であり、
前記第1反応部が、静止型混合器を含んで構成されるポリアミック酸製造システム。
【請求項2】
前記第1重合性化合物及び前記第2重合性化合物のうち、一方がテトラカルボン酸二無水物であり、他方がジアミンである請求項1に記載のポリアミック酸製造システム。
【請求項3】
前記第1重合性化合物及び前記第2重合性化合物のうち、一方が酸末端又はアミン末端のポリアミック酸であり、他方がジアミン又はテトラカルボン酸二無水物である請求項1に記載のポリアミック酸製造システム。
【請求項4】
前記第1重合性化合物及び前記第2重合性化合物のうち、一方が酸末端又はアミン末端のポリアミック酸であり、他方がアミン末端又は酸末端のポリアミック酸である請求項1に記載のポリアミック酸製造システム。
【請求項5】
重付加性の第1重合性化合物が溶解した第1溶液と、前記第1重合性化合物と重付加する重付加性の第2重合性化合物が溶解した第2溶液とを原料としてポリアミック酸を製造するポリアミック酸製造方法であって、
前記第1溶液を供給する第1供給工程と、前記第2溶液を供給する第2供給工程と、
前記第1溶液と前記第2溶液とを
密閉した管内において気体に接触しない状態で
合流させることにより混合して第1混合溶液を生成する第1混合工程と、
前記第1混合溶液を
密閉した管内において気体に接触しない状態で撹拌し、前記第1重合性化合物と前記第2重合性化合物との重合反応を進行させて、ポリアミック酸が溶解した第1重合溶液を生成する第1反応工程と、
前記
第1重合溶液を生成する第1反応部と接続された押し出し機に第1重合溶液を連続的に受け入れて混合を行う第2反応工程、を備え
、
前記第1混合工程が、前記第1溶液が通液される管状の送液ラインと、前記第2溶液が通液される管状の送液ラインと、前記第1混合溶液が通液される管状の送液ラインとの連結部で行われ、
前記第1反応部が、静止型混合器を含んで構成されるポリアミック酸製造方法。
【請求項6】
前記第1重合性化合物及び前記第2重合性化合物のうち、一方がテトラカルボン酸二無水物であり、他方がジアミンである請求項
5に記載のポリアミック酸製造方法。
【請求項7】
前記第1重合性化合物及び前記第2重合性化合物のうち、一方が酸末端又はアミン末端のポリアミック酸であり、他方がジアミン又はテトラカルボン酸二無水物である請求項
5に記載のポリアミック酸製造方法。
【請求項8】
前記第1重合性化合物及び前記第2重合性化合物のうち、一方が酸末端又はアミン末端のポリアミック酸であり、他方がアミン末端又は酸末端のポリアミック酸である請求項
5に記載のポリアミック酸製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミドの前駆体であるポリアミック酸を製造するポリアミック酸製造システム及び製造方法、並びにポリイミドを製造するポリイミド製造システム及び製造方法に関する。詳細には、本発明は、ポリアミック酸を連続的に製造可能なポリアミック酸製造システム及び製造方法、並びにポリイミドを連続的に製造可能なポリイミド製造システム及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポリアミック酸の製造方法として、撹拌槽を利用するバッチ方式の製造方法が知られている。バッチ方式の製造方法においては、撹拌槽に注入された原料溶液を撹拌して重合反応を進行させているが、この場合、撹拌によって撹拌槽上部の気相が液相中に巻き込まれてしまい、重合溶液中に気泡が含まれた状態になる。そして、ポリアミック酸を利用したポリイミドフィルム作製のためにキャストした場合、重合溶液中に気泡が残っているとフィルム欠陥となる。重合溶液中に気泡が存在することは、品質面における大きな課題となる。
【0003】
これに対し、例えば、重合溶液の効率的な脱気方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、特許文献1に開示された方法は、減圧設備を必要とするため、実施には高額な設備費用が必要になる場合があった。また、本方法においては、長い脱気時間が必要であり、生産性が低下する場合があった。
【0004】
また、連続的なポリアミック酸の製造方法として、例えば、チューブ状等の管型反応器を用いてポリアミック酸(ポリアミド酸)の微粒子を製造する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第2741208号公報
【文献】特開2006-249380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の通り、撹拌槽を利用したバッチ方式の製造方法においては、気泡の発生という課題がある。これに対し、特許文献2に開示された方法のように、チューブ状等の管型反応器を利用する場合には、積極的な気泡の巻き込みはないが、超音波照射を行うために特殊な形状の反応器を製作する必要があった。そのため、コスト面での負担が大きいという課題があった。また、管型反応器を利用した場合、撹拌槽を用いたバッチ式の製造方法に比べ、重合反応を均一に進行させることが難しい場合があった。そのため、一定品質を達成した連続的な製造が難しい場合があった。
【0007】
本発明は、連続的且つ安定的なポリアミック酸の製造が可能であるとともに、製造時における気泡の発生抑制が可能なポリアミック酸製造システム及び製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、連続的且つ安定的なポリイミドの製造が可能であるとともに、製造時における気泡の発生抑制が可能なポリイミド製造システム及び製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための具体的な手段には、以下の実施態様が含まれる。
【0009】
1).重付加性の第1重合性化合物が溶解した第1溶液と、前記第1重合性化合物と重付加する重付加性の第2重合性化合物が溶解した第2溶液とを原料としてポリアミック酸を製造するポリアミック酸製造システムであって、
前記第1溶液を供給する第1供給部と、前記第2溶液を供給する第2供給部と、
前記第1溶液と前記第2溶液とを気体に接触しない状態で混合して第1混合溶液を生成する第1混合部と、
前記第1混合溶液を気体に接触しない状態で撹拌し、前記第1重合性化合物と前記第2重合性化合物との重合反応を進行させて、ポリアミック酸が溶解した第1重合溶液を生成する第1反応部と、
前記第1反応部と接続された押し出し機に第1重合溶液を連続的に受け入れて混合を行う第2反応部、を備えるポリアミック酸製造システム。
【0010】
2).前記第1重合性化合物及び前記第2重合性化合物のうち、一方がテトラカルボン酸二無水物であり、他方がジアミンである1)に記載のポリアミック酸製造システム。
【0011】
3).前記第1重合性化合物及び前記第2重合性化合物のうち、一方が酸末端又はアミン末端のポリアミック酸であり、他方がジアミン又はテトラカルボン酸二無水物である1)に記載のポリアミック酸製造システム。
【0012】
4).前記第1重合性化合物及び前記第2重合性化合物のうち、一方が酸末端又はアミン末端のポリアミック酸であり、他方がアミン末端又は酸末端のポリアミック酸である1)に記載のポリアミック酸製造システム。
【0013】
5).前記第1反応部が静止型混合器を含んで構成される1)~4)のいずれか1項に記載のポリアミック酸製造システム。
【0014】
6).重付加性の第1重合性化合物が溶解した第1溶液と、前記第1重合性化合物と重付加する重付加性の第2重合性化合物が溶解した第2溶液とを原料としてポリアミック酸を製造するポリアミック酸製造方法であって、
前記第1溶液を供給する第1供給工程と、前記第2溶液を供給する第2供給工程と、
前記第1溶液と前記第2溶液とを気体に接触しない状態で混合して第1混合溶液を生成する第1混合工程と、
前記第1混合溶液を気体に接触しない状態で撹拌し、前記第1重合性化合物と前記第2重合性化合物との重合反応を進行させて、ポリアミック酸が溶解した第1重合溶液を生成する第1反応工程と、
前記第1反応部と接続された押し出し機に第1重合溶液を連続的に受け入れて混合を行う第2反応工程、を備えるポリアミック酸製造方法。
【0015】
7).前記第1重合性化合物及び前記第2重合性化合物のうち、一方がテトラカルボン酸二無水物であり、他方がジアミンである6)に記載のポリアミック酸製造方法。
【0016】
8).前記第1重合性化合物及び前記第2重合性化合物のうち、一方が酸末端又はアミン末端のポリアミック酸であり、他方がジアミン又はテトラカルボン酸二無水物である6)に記載のポリアミック酸製造方法。
【0017】
9).前記第1重合性化合物及び前記第2重合性化合物のうち、一方が酸末端又はアミン末端のポリアミック酸であり、他方がアミン末端又は酸末端のポリアミック酸である6)に記載のポリアミック酸製造方法。
【0018】
10).前記第1反応部が静止型混合器を含んで構成される6)~9)のいずれか1項に記載のポリアミック酸製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、連続的且つ安定的なポリアミック酸の製造が可能であるとともに、製造時における気泡の発生を抑制可能なポリアミック酸製造システム及び製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、連続的且つ安定的なポリイミドの製造が可能であるとともに、製造時における気泡の発生を抑制可能なポリイミド製造システム及び製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】第1実施形態におけるポリアミック酸製造システムを示す図である。
【
図2】第1実施形態におけるポリアミック酸の製造方法を説明するフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0022】
<第1実施形態>
図1及び
図2により、第1実施形態におけるポリアミック酸製造システムについて説明する。第1実施形態は、反応部が1段であるポリアミック酸製造システムの例である。
【0023】
まず、
図1により、第1実施形態におけるポリアミック酸製造システム1の概要について説明する。
ポリアミック酸製造システム1は、重付加性の第1重合性化合物が溶解した第1溶液A1と、第1重合性化合物と重付加する重付加性の第2重合性化合物が溶解した第2溶液A2とを原料としてポリアミック酸を製造するシステムである。
【0024】
以下では一例として、第1重合性化合物及び第2重合性化合物のうち、一方がテトラカルボン酸二無水物であり、他方がジアミンである場合について説明する。より具体的には、第1溶液A1に含まれる第1重合性化合物がテトラカルボン酸二無水物であり、第2溶液A2に含まれる第2重合性化合物がジアミンである場合について説明する。
【0025】
テトラカルボン酸二無水物としては、特に制限されず、従来のポリイミド合成で用いられているものと同様のものを用いることができる。テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3',4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、1,3-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、2,3,3',4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,2,4,5-テトラカルボン酸二無水物、アントラセン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン-1,8,9,10-テトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンジベンゾエート-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸酸二無水物等の芳香族テトラカルボン酸二無水物;ブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物等の脂肪族テトラカルボン酸二無水物;シクロブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物等の脂環族テトラカルボン酸二無水物;チオフェン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、ピリジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物等の複素環族テトラカルボン酸二無水物;などが挙げられる。テトラカルボン酸二無水物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
第1溶液A1の溶媒としては、テトラカルボン酸二無水物及びポリアミック酸が溶解するものが用いられる。溶媒の具体例としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、アセトアニリド等のアミド系溶媒;γ-ブチロラクトン等の環状エステル系溶媒;酢酸エチル等の鎖状エステル系溶媒;2-プロパノン、3-ペンタノン、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキソラン等のエーテル系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;などが挙げられる。これらの中でも、ポリアミック酸の溶解性が高いアミド系溶媒、環状エステル系溶媒、及びエーテル系溶媒が好ましい。溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合してもよい。例えば、アセトン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、トルエン、キシレン等のポリアミック酸の溶解性が比較的低い溶媒に対して極性の高いアルコ―ル系溶媒を混合することで、ポリアミック酸の溶解性を向上させることも可能である。
【0027】
第1溶液A1は、テトラカルボン酸二無水物の溶解性を高め、又はジアミンとの反応性を高めるため、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の第3級アミンを少量含有していてもよい。
【0028】
ジアミンとしては、特に制限されず、従来のポリイミド合成で用いられているものと同様のものを用いることができる。ジアミンの具体例としては、4,4'-ジアミノジフェニルメタン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4'-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、1,4'-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3'-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、o-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル、4,4'-ジアミノジフェニルスルフォン、3,4’-ジアミノジフェニルスルフォン、3,3'-ジアミノジフェニルスルフォン、4,4'-メチレン-ビス(2-クロロアニリン)、3,3'-ジメチル-4,4'-ジアミノビフェニル、4,4'-ジアミノジフェニルスルフィド、2,6-ジアミノトルエン、2,4-ジアミノクロロベンゼン、1,2-ジアミノアントラキノン、1,4-ジアミノアントラキノン、3,3'-ジアミノベンゾフェノン、3,4’-ジアミノベンゾフェノン、4,4'-ジアミノベンゾフェノン、4,4'-ジアミノビベンジル等の芳香族ジアミン;1,2-ジアミノエタン、1,4-ジアミノブタン、テトラメチレンジアミン、1,10-ジアミノドデカン等の脂肪族ジアミン;1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,2-ジアミノシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、4,4'-ジアミノジシクロヘキシルメタン等の脂環族ジアミン;3,4-ジアミノピリジン等の複素環族ジアミン;などが挙げられる。ジアミンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
第2溶液A2の溶媒としては、ジアミン及びポリアミック酸が溶解するものが用いられる。溶媒の具体例としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、アセトアニリド等のアミド系溶媒;γ-ブチロラクトン等の環状エステル系溶媒;酢酸エチル等の鎖状エステル系溶媒;2-プロパノン、3-ペンタノン、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキソラン等のエーテル系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;などが挙げられる。これらの中でも、ポリアミック酸の溶解性が高いアミド系溶媒、環状エステル系溶媒、及びエーテル系溶媒が好ましい。溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合してもよい。例えば、アセトン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、トルエン、キシレン等のポリアミック酸の溶解性が比較的低い溶媒に対して極性の高いアルコ―ル系溶媒を混合することで、ポリアミック酸の溶解性を向上させることも可能である。
【0030】
図1に示すように、ポリアミック酸製造システム1は、原料である第1溶液A1及び第2溶液A2を第1混合部20において気体に接触しない状態で混合して第1混合溶液Bを生成し、第1反応部30において重合反応を進行させて第1重合溶液Cを生成し、第1反応部30に接続された押し出し機を含む第2反応部40でさらに重合反応を進行させてポリアミック酸を製造するよう構成されている。
【0031】
ここで、ポリアミック酸製造システム1は、後述の第1タンク11及び第2タンク12から押し出し機40までを密閉した状態でつなぐ管状の送液ラインLを有する。これにより、ポリアミック酸製造システム1は、第1混合溶液Bや第1重合溶液C、第2重合溶液Dに気泡を発生させない状態で連続的にポリアミック酸を製造することができる。
【0032】
続けて、ポリアミック酸製造システム1の具体的な構成について説明する。
図1に示すように、ポリアミック酸製造システム1は、第1タンク11と、第2タンク12と、第1供給ポンプ15(第1供給部)と、第2供給ポンプ16(第2供給部)と、第1混合部20と、第1反応部30と、押し出し機40と、送液ラインLと、を備える。上述の送液ラインLは、第1送液部L1と、第2送液部L2と、第3送液部L3と、を有する。
【0033】
第1タンク11は、重付加性の第1重合性化合物が溶解した第1溶液A1を収容する。本実施形態においては、第1タンク11は、テトラカルボン酸二無水物が溶解した第1溶液A1を収容する。第1タンク11に収容された第1溶液A1は、第1送液部L1を介して、第1混合部20に供給される。
【0034】
第2タンク12は、第1重合性化合物と重付加する重付加性の第2重合性化合物が溶解した第2溶液A2を収容する。本実施形態においては、第2タンク12は、ジアミンが溶解した第2溶液A2を収容する。第2タンク12に収容された第2溶液A2は、第2送液部L2を介して、第1混合部20に供給される。
【0035】
第1供給ポンプ15(第1供給部)は、第1タンク11に収容されている第1溶液A1を第1混合部20に供給する。第1供給ポンプ15は、第1溶液A1を所定の送液量で供給する。例えば、第1供給ポンプ15は、所望の性状のポリアミック酸が得られる条件で第1溶液A1を供給するよう調整される。
【0036】
第2供給ポンプ16(第2供給部)は、第2タンク12に収容されている第2溶液A2を第1混合部20に供給する。第2供給ポンプ16は、第2溶液A2を所定の送液量で供給する。例えば、第2供給ポンプ16は、所望の性状のポリアミック酸が得られる条件で第2溶液A2を供給するよう調整される。
【0037】
第1混合部20は、第1供給ポンプ15及び第2供給ポンプ16の下流側に配置される。第1混合部20は、第1溶液A1と第2溶液A2とを気体に接触しない状態で混合して第1混合溶液Bを生成する。第1混合部20は、第1供給ポンプ15により供給される第1溶液A1と、第2供給ポンプ16により供給される第2溶液A2とを合流させる合流弁により構成される。
【0038】
第1反応部30は、第1混合溶液Bに含まれる第1重合性化合物と第2重合性化合物との重合反応を進行させる部分である。第1反応部30において、第1混合溶液Bに含まれる第1重合性化合物と第2重合性化合物との重合反応が徐々に進行し、第1重合溶液Cが得られる。
【0039】
第1反応部30は、所定方向に延びる二重管で構成され、径方向の内側に配置される第1反応撹拌部31と、径方向の外側に配置される第1反応温度調整部32と、を有する。第1反応部30は、第1混合溶液Bが所望の滞留時間で流通するように形成されている。
【0040】
第1反応撹拌部31は、第1溶液A1及び第2溶液A2が混合された第1混合溶液Bを気体に接触しない状態で撹拌する。本実施形態において、第1反応撹拌部31は、第1反応温度調整部32により重合反応に適した温度に調整された第1混合溶液Bを気体に接触しない状態で撹拌する。
【0041】
第1反応撹拌部31は、例えば、スタティックミキサー、ノズル、オリフィス等の静止型混合器や、遠心ポンプ、渦巻きポンプ、撹拌羽を有するインラインミキサー等の駆動型混合器を含んで構成され、好ましくは静止型混合器を含んで構成され、より好ましくはスタティックミキサーを含んで構成される。なお、ツイストテープの内挿された管(特開2003-314982号公報の[
図19]等を参照)でもスタティックミキサーと同様に撹拌促進効果が得られるが、スタティックミキサーの方がより撹拌促進効果が得られるため好ましい。
【0042】
スタティックミキサーとしては、特に限定されず、例えば、Kenics mixer型、Sulzer SMV型、Sulzer SMX型、Tray Hi-mixer型、Komax mixer型、Lightnin mixer型、Ross ISG型、Bran&Lube mixer型等のスタティックミキサーが挙げられる。これらの中でも、Kenics mixer型のスタティックミキサーは、構造が単純であるためデッドスペースがなく、より好ましい。
【0043】
第1反応温度調整部32は、第1反応撹拌部31の径方向の外側に配置される配管部である。第1反応温度調整部32は、第1反応撹拌部31を流通する第1混合溶液Bを、所望の温度条件に温調(例えば、冷却)する。第1反応温度調整部32において、第1混合溶液Bは、重合反応に適した温度に調整され、第1反応撹拌部31を流通される。
【0044】
第2反応部の押し出し機40は、第1反応部30からの第1重合溶液Cを受け入れて処理を行い、第2重合溶液Dを得る。押し出し機には単軸押し出し機や2軸押し出し機がある。第2反応部ではさらに重合を進行させるが、粘度ムラを低くするために、第1重合溶液の反応率は50%以上が好ましい。また、流路の断面積は第1反応部より大きくすることでポンプの流量の瞬時の変動による粘度ムラを緩和できる。
【0045】
第1クッションタンク50は、押し出し機40からの第2重合溶液Dを収容する。第1クッションタンク50は、例えば、ポリアミック酸をイミド化してポリイミドを製造する際においては原料溶液を収容するタンクになる。
【0046】
本実施形態におけるポリアミック酸製造システム1がポリイミドを製造するポリイミド製造システムの一部である場合がある。この場合、ポリイミド製造システムは、ポリアミック酸をイミド化するイミド化部を更に備える。イミド化部(不図示)は、例えば、熱的に脱水閉環する熱的イミド化方法、脱水剤及びイミド化促進剤を用いる化学的イミド化方法等により、ポリアミック酸をイミド化する。
【0047】
なお、本実施形態におけるポリアミック酸製造システム1がポリイミドを製造するポリイミド製造システムの一部である場合、第1クッションタンク50を省略し、押し出し機40からイミド化部に送液されるように構成してもよい。ただし、上記のように、ポリアミック酸を一旦、第1クッションタンク50に収容しておく方が好ましい。
【0048】
次に、
図2により、第1実施形態におけるポリアミック酸の製造方法を説明する。
図2に示すように、第1供給工程ST11において、第1供給ポンプ15は、第1タンク11に収容されている第1溶液A1を第1混合部20へ供給する。
また、並行して、第2供給工程ST12において、第2供給ポンプ16は、第2タンク12に収容されている第2溶液A2を第1混合部20へ供給する。
【0049】
次いで、第1混合工程ST13において、第1混合部20は、第1供給ポンプ15により供給された第1溶液A1と、第2供給ポンプ16により供給された第2溶液A2とを合流させて気体に接触しない状態で混合し、第1混合溶液Bを生成する。
【0050】
次いで、第1反応工程ST14において、第1反応部30は、第1混合溶液Bに含まれる第1重合性化合物と第2重合性化合物との重合反応を進行させて、ポリアミック酸が溶解した第1重合溶液Cを生成する。具体的に、第1反応撹拌部31は、第1反応温度調整部32で重合反応に適した温度に調整された第1混合溶液Bを気体に接触しない状態で撹拌して重合反応を進行させ、第1重合溶液Cを生成する。第1反応撹拌部31がスタティックミキサー等の静止型混合器である場合、第1混合溶液Bは通液されるだけで撹拌される。次いで、第1重合溶液Cを第2反応工程ST15において、さらに重合反応を進行させて第2重合溶液を生成する。
【0051】
ここで、例えば、本実施形態におけるポリアミック酸の製造方法がポリイミドの製造方法の一部である場合がある。この場合、ポリイミドの製造方法は、ポリアミック酸をイミド化するイミド化工程を更に含む。
【0052】
本実施形態のポリアミック酸製造システム1によれば、以下の効果を奏する。
ポリアミック酸製造システム1は、第1溶液A1及び第2溶液A2が混合された第1混合溶液Bを気体に接触しない状態で撹拌し、ポリアミック酸が溶解した第1重合溶液Cを生成する第1反応部30を備え、さらに第1反応部30に接続された押し出し機40を備える。このようなポリアミック酸製造システム1によれば、連続的且つ安定的なポリアミック酸の製造が可能であるとともに、製造時における気泡の発生抑制が可能である。
【0053】
また、ポリアミック酸製造システム1において、第1反応部30は、静止型混合器を有して構成されることがある。例えば、ポリアミック酸製造システム1では、第1反応部30を構成する第1反応撹拌部31として静止型混合器を配置できる。これにより、ポリアミック酸製造システム1によれば、第1反応撹拌部31に通液するだけで、第1混合溶液Bを撹拌できる。
【0054】
なお、本実施形態では、第1重合性化合物及び第2重合性化合物のうち、一方がテトラカルボン酸二無水物であり、他方がジアミンである場合について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、第1重合性化合物及び第2重合性化合物のうち、一方が酸無水物基末端又はアミノ基末端のポリアミック酸(プレポリマー)であり、他方がジアミン又はテトラカルボン酸二無水物であってもよい。この場合、第1重合性化合物及び第2重合性化合物のうち、一方が酸無水物基末端のポリアミック酸であると、他方はジアミンである。また、第1重合性化合物及び第2重合性化合物のうち、一方がアミノ基末端のポリアミック酸であると、他方はテトラカルボン酸二無水物である。
【0055】
また、本実施形態では、第1反応部30が第1反応撹拌部31と第1反応温度調整部32との二重管で構成される場合について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、第1反応部30を第1反応撹拌部31のみの一重管で構成し、この第1反応撹拌部31を温調用の液に浸漬するようにしてもよい。
【0056】
また、本実施形態では、第1タンク11及び第2タンク12から押し出し機40までを、管状の送液ラインLにより密閉した状態でつなぐ場合について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、第1重合溶液Cおよび第2重合溶液Dに気泡が発生することを抑制するためには、少なくとも第1反応部30が気体と接触しない状態で溶液を撹拌可能なものであればよい。ただし、上述のように送液ラインLの全体で溶液が気体と接触しないことがより好ましい。
【0057】
また、本実施形態では、第1混合溶液Bを気体に接触しない状態で撹拌する反応部(第1反応部)が1つである場合について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、第1混合溶液Bを気体に接触しない状態で撹拌する反応部は、混合撹拌部と、混合撹拌部の下流側に連続して配置される反応撹拌部と、を有するものであってもよい。混合撹拌部及び反応撹拌部は、第1反応部30と同様に、静止型混合器を有して構成することができる。この場合、混合撹拌部は、第1混合溶液Bを気体に接触しない状態で撹拌し、反応撹拌部は、混合撹拌部で撹拌された溶液を気体に接触しない状態で更に撹拌し、第1重合溶液Cを生成する。このようなポリアミック酸製造システムによれば、製造されるポリアミック酸の品質や歩留まり等をより向上させることができる。
【0058】
<変形例>
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲内での変形、改良等は本発明に含まれる。
【0059】
また、上述の実施形態では、ポリアミック酸製造システムが1つの処理部を有して構成されるものとしたが、これに限定されず、2つ以上の処理部を有して構成されていてもよい。すなわち、ポリアミック酸製造システムは、1段の反応を行うものに限定されず、2段以上の反応を行うものであってもよい。例えば、ポリアミック酸製造システムは、混合部と反応部とのセットを2セット以上有するように構成されていてもよい。ポリアミック酸製造システムは、各処理部を経るごとに目標とする反応率や品質に近づくように多段的に供給量等を調整可能である。
【0060】
また、ポリアミック酸製造システムは、第1溶液A1及び/又は第2溶液A2がフィラーを含有するものであってもよい。第1溶液A1及び/又は第2溶液A2にフィラーを添加することにより、製造されるポリアミック酸に簡便にフィラーを導入することが可能である。
【実施例】
【0061】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0062】
<実施例1>
実施例1では、
図1に示すような構造のポリアミック酸製造システム1を用いてポリアミック酸を製造した。
第1タンク11には、4,4’-ジアミノジフェニルエーテルとピロメリット酸二無水物との反応により得られた酸無水物基末端のポリアミック酸をN,N-ジメチルホルムアミド中に溶解した第1溶液A1を収容した。また、第2タンク12には、p-フェニレンジアミンをN,N-ジメチルホルムアミド中に溶解した第2溶液A2を収容した。
【0063】
まず、第1混合部20において、第1供給ポンプ15により供給された第1溶液A1と、第2供給ポンプ16により供給された第2溶液A2とを気体に接触しない状態で混合して第1混合溶液Bを生成した。次いで、第1反応部30において、第1混合溶液Bを気体に接触しない状態で撹拌することにより、ポリアミック酸が溶解した第1重合溶液Cを生成した。第1重合溶液Cは、第1反応部30に接続された押し出し機を含む第2反応部40でさらに重合反応を進行させてポリアミック酸が溶解した第2重合液Dを生成した。
具体的には、Kenics mixer型のスタティックミキサー(内径8mm、長さ335mm)により、溶液を気体に接触しない状態で撹拌した後、前記のスタティックミキサーに接続された押し出し機(2軸、軸径12mm、L/D=30)により、溶液を気体に接触しない状態で更に撹拌して、重合反応を進行させた。その結果、第1溶液A1よりも粘度の高い第2重合溶液Dが得られた。得られた第2重合溶液D中に気泡は観察されなかった。
【0064】
<比較例1>
4,4’-ジアミノジフェニルエーテルとピロメリット酸二無水物との反応により得られた酸無水物基末端のポリアミック酸を3Lのセパラブルフラスコ内に投入した。そして、フラスコ内の溶液を45度傾斜パドル翼により200rpmで撹拌しながらp-フェニレンジアミンを含む溶液を滴下し、ポリアミック酸の重量分率が18%となるようにポリアミック酸の重合反応を進行させた。E型粘度計を用いて、得られた重合溶液の23℃における粘度を測定したところ、2000ポアズであった。1時間重合した後の溶液は気泡を巻き込んでおり、静置しても容易に脱泡されなかった。
【符号の説明】
【0065】
1 ポリアミック酸製造システム
11 第1タンク
12 第2タンク
15 第1供給ポンプ(第1供給部)
16 第2供給ポンプ(第2供給部)
20 第1混合部
30 第1反応部
40 押し出し機
50 第1クッションタンク
A1 第1溶液
A2 第2溶液
B 第1混合溶液
C 第1重合溶液
D 第2重合溶液
L 送液ライン