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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-13
(45)【発行日】2023-09-22
(54)【発明の名称】スクロール圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/02 20060101AFI20230914BHJP
【FI】
F04C18/02 311J
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019130379
(22)【出願日】2019-07-12
(65)【公開番号】P2021014830
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2022-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098361
【弁理士】
【氏名又は名称】雨笠 敬
(72)【発明者】
【氏名】手島 淳夫
【審査官】丹治 和幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-121578(JP,A)
【文献】特開2012-188978(JP,A)
【文献】特開2008-101559(JP,A)
【文献】特開2010-106780(JP,A)
【文献】特開昭58-190591(JP,A)
【文献】特開昭58-122386(JP,A)
【文献】特許第5859480(JP,B2)
【文献】特開平3-134285(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 2/00- 2/077、
18/00-18/077
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各鏡板の各表面にそれぞれ渦巻き状のラップが対向して形成された固定スクロール及び可動スクロールから成る圧縮機構を備え、前記可動スクロールを前記固定スクロールに対して公転旋回運動させることにより、両スクロールの前記各ラップ間に形成された圧縮室で作動流体を圧縮するスクロール圧縮機において、
前記可動スクロールの鏡板の背面に形成された背圧室と、
前記可動スクロールの鏡板に形成され、前記背圧室と前記圧縮室を連通する第1の背圧孔と、第2の背圧孔を備え、
前記可動スクロールの公転旋回運動により、
前記第1の背圧孔は、前記固定スクロールのラップの内側において開放された後、当該固定スクロールのラップにより閉じられ、その後、当該固定スクロールのラップの外側において開放されない位置、及び/又は、寸法で形成されており、
前記第2の背圧孔は、所定の第1クランク角範囲で、前記可動スクロールのラップの内側において開放された後、前記固定スクロールのラップにより一旦閉じられ、その後、所定の第2クランク角範囲で、前記固定スクロールのラップの内側において開放される位置、及び/又は、寸法で形成されていることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項2】
前記第2の背圧孔は、クランク角25°~175°、及び、250°~310°の範囲で開くことを特徴とする請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【請求項3】
前記第1の背圧孔は、クランク角25°~215°の範囲で開放されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスクロール圧縮機。
【請求項4】
前記圧縮機構の吐出側と前記背圧室を連通する背圧通路と、該背圧通路に設けられた減圧部を備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のうちの何れかに記載のスクロール圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定スクロールに対して可動スクロールを公転旋回運動させることにより、両スクロールのラップ間に形成された圧縮室で作動流体を圧縮するスクロール圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来よりこの種スクロール圧縮機は、鏡板の表面に渦巻き状のラップを備えた固定スクロールと、鏡板の表面に渦巻き状のラップを備えた可動スクロールから成る圧縮機構を備え、各スクロールのラップを対向させてラップ間に圧縮室を形成し、モータにより固定スクロールに対して可動スクロールを公転旋回運動させることにより、圧縮室で作動流体(冷媒)を圧縮するように構成されている。
【0003】
この場合、可動スクロールの鏡板の背面には、圧縮室からの圧縮反力に対向して可動スクロールを固定スクロールに押し付けるための背圧室が形成されている。従来では圧縮機構の吐出側(吐出空間)と背圧室を連通する背圧通路を形成し、この背圧通路にはオリフィスを配置することで、オリフィスで減圧された後の吐出圧Pdを背圧室に供給し、圧縮反力に打ち勝つ背圧荷重を可動スクロールに付加するようにしていた(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、特許文献1では可動スクロールの鏡板に圧力制御用の孔(背圧孔)を形成している。この背圧孔を形成することで、背圧通路から背圧室に流入した冷媒とオイルを圧縮室に戻し、例えば吸入圧Psが低い運転状態では、背圧室内の圧力(背圧Pm)が過剰とならないように調整していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5859480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、図9図10に従来のスクロール圧縮機の可動スクロールに形成された背圧孔(H1、H2)の開口特性と、各部の圧力特性の関係を示す。尚、この場合、可動スクロールには二つの背圧孔H1とH2が形成されているものとする。
【0007】
各背圧孔H1、H2は可動スクロールの公転旋回運動に伴って、固定スクロールのラップによって開閉されるものであるが、従来ではクランク角(回転軸の回転角)が例えば25°~230°の範囲で両背圧孔H1、H2が開くように構成されていた。そのため、低速運転条件では、背圧孔H1、H2の開口時間が長くなり、背圧室から圧縮室に冷媒やオイルが流入して、図9に示すように圧縮室圧力が上昇し、その分、背圧Pm(背圧室圧力)も上昇するようになる。そのため、可動スクロールが固定スクロールに過剰に押し付けられて、消費電力が増大する。そこで、従来では背圧を吸入室に逃がす圧力調整弁(PCV)を設ける必要があり、コストが高騰する問題があった。
【0008】
一方、吸入圧Psが低くなる運転条件では、背圧孔H1、H2と連通している区間の圧縮室圧力が低くなるため、図10に示すように背圧Pm(背圧室圧力)も上がらず、可動スクロールを固定スクロールに押し付ける力が不足し、圧縮不良を引き起こす問題があった。
【0009】
本発明は、係る従来の技術的課題を解決するために成されたものであり、背圧孔の位置や寸法を改善することで、低速運転条件及び吸入圧が低い運転条件の双方において適切な背圧に調整することができるスクロール圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のスクロール圧縮機は、各鏡板の各表面にそれぞれ渦巻き状のラップが対向して形成された固定スクロール及び可動スクロールから成る圧縮機構を備え、可動スクロールを固定スクロールに対して公転旋回運動させることにより、両スクロールの各ラップ間に形成された圧縮室で作動流体を圧縮するものであって、可動スクロールの鏡板の背面に形成された背圧室と、可動スクロールの鏡板に形成され、背圧室と圧縮室を連通する第1の背圧孔と、第2の背圧孔を備え、可動スクロールの公転旋回運動により、第1の背圧孔は、固定スクロールのラップの内側において開放された後、当該固定スクロールのラップにより閉じられ、その後、当該固定スクロールのラップの外側において開放されない位置、及び/又は、寸法で形成されており、第2の背圧孔は、所定の第1クランク角範囲で、可動スクロールのラップの内側において開放された後、固定スクロールのラップにより一旦閉じられ、その後、所定の第2クランク角範囲で、固定スクロールのラップの内側において開放される位置、及び/又は、寸法で形成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項2の発明のスクロール圧縮機は、上記発明において第2の背圧孔は、クランク角25°~175°、及び、250°~310°の範囲で開くことを特徴とする。
【0012】
請求項3の発明のスクロール圧縮機は、上記各発明において第1の背圧孔は、クランク角25°~215°の範囲で開放されることを特徴とする。
【0013】
請求項4の発明のスクロール圧縮機は、上記各発明において圧縮機構の吐出側と背圧室を連通する背圧通路と、この背圧通路に設けられた減圧部を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、各鏡板の各表面にそれぞれ渦巻き状のラップが対向して形成された固定スクロール及び可動スクロールから成る圧縮機構を備え、可動スクロールを固定スクロールに対して公転旋回運動させることにより、両スクロールの各ラップ間に形成された圧縮室で作動流体を圧縮するスクロール圧縮機において、可動スクロールの鏡板の背面に形成された背圧室と、可動スクロールの鏡板に形成され、背圧室と圧縮室を連通する第1の背圧孔と、第2の背圧孔を備え、可動スクロールの公転旋回運動により、第1の背圧孔は、固定スクロールのラップの内側において開放された後、当該固定スクロールのラップにより閉じられ、その後、当該固定スクロールのラップの外側において開放されない位置、及び/又は、寸法で形成されており、第2の背圧孔は、所定の第1クランク角範囲で、可動スクロールのラップの内側において開放された後、固定スクロールのラップにより一旦閉じられ、その後、所定の第2クランク角範囲で、固定スクロールのラップの内側において開放される位置、及び/又は、寸法で形成されている構成としたので、第2の背圧孔が開く第1クランク角範囲を従来よりも狭めて、低速運転条件での第2の背圧孔開口時間を短くし、背圧室から圧縮室への冷媒やオイルの流入量を抑制することができるようになる。これにより、圧縮室圧力の上昇に伴う背圧の上昇を抑制することができるようになる。
【0015】
一方、第2の背圧孔は、その後、第2クランク角範囲で再び開くので、圧縮室圧力が十分上昇した後で背圧室と圧縮室が連通されることになる。これにより、より高い圧縮室圧力を背圧室に供給することができるようになり、吸入圧が低くなる運転条件での背圧の低下も抑制することができるようになる。
【0016】
以上のことから本発明によれば、低速運転条件及び吸入圧が低い運転条件の双方において適切な背圧に調整し、低速運転条件で可動スクロールが固定スクロールに過剰に押し付けられ、消費電力が増大する不都合やコストの高騰を解消しながら、吸入圧が低くなる運転条件で背圧が低下し、可動スクロールを固定スクロールに押し付ける力が不足して、圧縮不良を引き起こす不都合も解消することができるようになる。
【0017】
また、第1の背圧孔を、可動スクロールの公転旋回運動により、固定スクロールのラップの内側において開放された後、当該固定スクロールのラップにより閉じられ、その後、当該固定スクロールのラップの外側において開放されない位置、及び/又は、寸法に形成したので、第1の背圧孔が低い圧力の圧縮室と連通されてしまう不都合も生じない。
【0018】
この場合、例えば請求項2の発明の如く第2の背圧孔を、クランク角25°~175°、及び、250°~310°の範囲で開くようにすることが効果的である。
【0019】
更に、請求項3の発明の如く第1の背圧孔が、クランク角25°~215°の範囲で開放されるようにすることが効果的である。
【0020】
そして、以上の発明は請求項4の発明の如く圧縮機構の吐出側と背圧室を連通する背圧通路と、この背圧通路に減圧部を設けたスクロール圧縮機に極めて好適である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明を適用した一実施形態のスクロール圧縮機の断面図である。
図2図1のスクロール圧縮機の可動スクロールの公転旋回運動と背圧孔の開閉を説明する図である(クランク角0°)。
図3】同じく可動スクロールの公転旋回運動と背圧孔の開閉を説明する図である(クランク角90°)。
図4】同じく可動スクロールの公転旋回運動と背圧孔の開閉を説明する図である(クランク角180°)。
図5】同じく可動スクロールの公転旋回運動と背圧孔の開閉を説明する図である(クランク角270°)。
図6図1のスクロール圧縮機の回転軸のクランク角と背圧孔の開口率を説明する図である。
図7図1のスクロール圧縮機の圧縮室の圧力特性と背圧孔の開口特性を説明する図である(低速運転条件)。
図8】同じく圧縮室の圧力特性と背圧孔の開口特性を説明する図である(吸入圧が低い運転条件)。
図9】従来のスクロール圧縮機の圧縮室の圧力特性と背圧孔の開口特性を説明する図である(低速運転条件)。
図10】同じく従来の圧縮室の圧力特性と背圧孔の開口特性を説明する図である(吸入圧が低い運転条件)。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づき詳細に説明する。図1は本発明を適用した一実施例のスクロール圧縮機1の断面図である。実施例のスクロール圧縮機1は、例えば車両用空気調和装置の冷媒回路に使用され、車両用空気調和装置の作動流体としての冷媒を吸入し、圧縮して吐出するものであり、電動モータ2と、この電動モータ2を運転するためのインバータ3と、電動モータ2によって駆動される圧縮機構4とを備えた所謂インバータ一体型のスクロール圧縮機である。
【0023】
実施例のスクロール圧縮機1は、電動モータ2及びインバータ3をその内側に収容するメインハウジング6と、圧縮機構4をその内側に収容する圧縮機構ハウジング7と、インバータカバー8と、圧縮機構カバー9を備えている。そして、これらメインハウジング6と、圧縮機構ハウジング7と、インバータカバー8と、圧縮機構カバー9は何れも金属製(実施例ではアルミニウム製)であり、それらが一体的に接合されてスクロール圧縮機1のハウジング11が構成されている。
【0024】
メインハウジング6は、筒状の周壁部6Aと仕切壁部6Bとから構成されている。この仕切壁部6Bは、メインハウジング6内を、電動モータ2を収容するモータ収容部12とインバータ3を収容するインバータ収容部13とに仕切る隔壁である。このインバータ収容部13は一端面が開口しており、この開口はインバータ3が収容された後、インバータカバー8によって閉塞される。
【0025】
モータ収容部12も他端面が開口しており、この開口は電動モータ2が収容された後、圧縮機構ハウジング7によって閉塞される。仕切壁部6Bには電動モータ2の回転軸14の一端部(圧縮機構4とは反対側の端部)を支持するための支持部16が突設されている。
【0026】
圧縮機構ハウジング7は、メインハウジング6とは反対側が開口しており、この開口は圧縮機構4が収容された後、圧縮機構カバー9によって閉塞される。圧縮機構ハウジング7は、筒状の周壁部7Aと、その一端側(メインハウジング6側)のフレーム部7Bとから構成され、これら周壁部7Aとフレーム部7Bで区画される空間内に圧縮機構4が収容される。フレーム部7Bはメインハウジング6内と圧縮機構ハウジング7内を仕切る隔壁を成す。
【0027】
また、フレーム部7Bには電動モータ2の回転軸14の他端部(圧縮機構4側の端部)を挿通する貫通孔17が開設されており、この貫通孔17の圧縮機構4側には、回転軸14の他端部を支持する軸受部材としてのフロントベアリング18が嵌合されている。また、19は貫通孔17部分にて回転軸14の外周面と圧縮機構ハウジング7内とをシールするシール材である。
【0028】
電動モータ2は、コイル35が巻装されたステータ25と、ロータ30から構成されている。そして、例えば車両のバッテリ(図示せず)からの直流電流がインバータ3により三相交流電流に変換され、電動モータ2のコイル35に給電されることで、ロータ30が回転駆動されるよう構成されている。
【0029】
また、メインハウジング6には、図示しない吸入ポートが形成されており、吸入ポートから吸入された冷媒は、メインハウジング6内を通過した後、圧縮機構ハウジング7内の圧縮機構4の外側の後述する吸入部37に吸入される。これにより、電動モータ2は吸入冷媒により冷却される。また、圧縮機構4にて圧縮された冷媒は、当該圧縮機構4の吐出側としての後述する吐出空間27から圧縮機構カバー9に形成された図示しない吐出ポートより吐出される構成とされている。
【0030】
圧縮機構4は、固定スクロール21と可動スクロール22から構成されている。固定スクロール21は、円盤状の鏡板23と、この鏡板23の表面(一方の面)に立設されたインボリュート状、又は、これに近似した曲線から成る渦巻き状のラップ24を一体に備えており、このラップ24が立設された鏡板23の表面をフレーム部7B側として圧縮機構ハウジング7に固定されている。固定スクロール21の鏡板23の中央には吐出孔26が形成されており、この吐出孔26は圧縮機構カバー9内の吐出空間27に連通している。28は吐出孔26の鏡板23の背面(他方の面)側の開口に設けられた吐出バルブである。
【0031】
可動スクロール22は、固定スクロール21に対して公転旋回運動するスクロールであり、円盤状の鏡板31と、この鏡板31の表面(一方の面)に立設されたインボリュート状、又は、これに近似した曲線から成る渦巻き状のラップ32と、鏡板31の背面(他方の面)の中央に突出形成されたボス部33を一体に備えている。この可動スクロール22は、ラップ32の突出方向を固定スクロール21側としてラップ32が固定スクロール21のラップ24に対向し、相互に向かい合って噛み合うように配置され、各ラップ24、32間に圧縮室34を形成する。
【0032】
即ち、可動スクロール22のラップ32は、固定スクロール21のラップ24と対向し、ラップ32の先端が鏡板23の表面に接し、ラップ24の先端が鏡板31の表面に接するように噛み合う。回転軸14の他端部、即ち、可動スクロール22側の端部には、当該回転軸14の軸心から偏心した位置にて突出する円柱状の駆動突起48が設けられている。そして、この駆動突起48には、これも円柱状の偏心ブッシュ36が取り付けられ、回転軸14の他端部において当該回転軸14の軸心から偏心して設けられている。
【0033】
この場合、偏心ブッシュ36は当該偏心ブッシュ36の軸心から偏心した位置にて駆動突起48に取り付けられ、この偏心ブッシュ36は可動スクロール22のボス部33に嵌合されている。そして、電動モータ2のロータ30と共に回転軸14が回転されると、可動スクロール22は自転すること無く、固定スクロール21に対して公転旋回運動するように構成されている。尚、49はフロントベアリング18より可動スクロール22側の回転軸14の外周面に取り付けられたバランスウエイトである。
【0034】
可動スクロール22は固定スクロール21に対して偏心して公転旋回するため、各ラップ24、32の偏心方向と接触位置は回転しながら移動し、外側の前述した吸入部37から冷媒を吸入した圧縮室34(圧縮室圧力は吸入圧Ps)は、内側に向かって移動しながら次第に縮小していく。これにより冷媒は圧縮されていき、最終的に吐出圧Pd(圧縮室圧力)となって中央の吐出孔26から吐出バルブ28を経て吐出空間27に吐出される。
【0035】
図1において38は円環状のスラストプレートである。このスラストプレート38は、可動スクロール22の鏡板31の背面側に形成された背圧室39と、圧縮機構ハウジング7内の圧縮機構4の外側の吸入圧領域としての吸入部37とを区画するためのものであり、ボス部33の外側に位置してフレーム部7Bと可動スクロール22の間に介設されている。41は可動スクロール22の鏡板31の背面に取り付けられてスラストプレート38に当接するシール材であり、このシール材41とスラストプレート38により背圧室39と吸入部37とが区画される。
【0036】
尚、42はフレーム部7Bのスラストプレート38側の面に取り付けられてスラストプレート38の外周部に当接し、フレーム部7Bとスラストプレート38間をシールするシール材である。
【0037】
また、図1において、43は圧縮機構カバー9から圧縮機構ハウジング7に渡って形成された背圧通路であり、この背圧通路43内には減圧部としてのオリフィス44が取り付けられている。背圧通路43は圧縮機構カバー9内の吐出空間27(圧縮機構4の吐出側)内と背圧室39とを連通しており、これにより、図1中矢印で示す如く背圧室39にオリフィス44で減圧調整された吐出圧の冷媒やオイル(主にオイル)が供給されるように構成されている。
【0038】
この背圧室39内の圧力(背圧Pm)により、可動スクロール22を固定スクロール21に押し付ける背圧荷重が生じる。この背圧荷重により、圧縮機構4の圧縮室34からの圧縮反力に抗して可動スクロール22が固定スクロール21に押し付けられ、ラップ24、32と鏡板31、23との接触が維持され、圧縮室34で冷媒を圧縮可能となる。
【0039】
更に、可動スクロール22の鏡板31には、実施例では二つの背圧孔51、52が削設されている。このうち、第1の背圧孔51は可動スクロール22のラップ32の外側端から略90°程の位置のラップ間に形成されており、第2の背圧孔52(背圧孔)は第1の背圧孔51からラップ32が略90°程進んだ位置のラップ間に形成されている(図2図5)。
【0040】
これら背圧孔51、52は可動スクロール22の鏡板31の背面側の背圧室39と、鏡板31の表面側の圧縮室34とを連通する圧力制御用の孔である。この連通孔51は、基本的には背圧室39内の圧力(背圧Pm)が過剰となったときに、背圧室39から冷媒を圧縮室34に逃がして背圧Pmが過剰とならないように作用する。また、背圧室39内のオイルもこのとき圧縮室34に戻される。これは実施例の如く背圧通路43で吐出空間27の圧力をオリフィス44で減圧して背圧室39に印加する際に極めて有効なものとなる。
【0041】
上記第1の背圧孔51及び第2の背圧孔52は、可動スクロール22の鏡板31の所定の位置に所定の寸法(孔径)で削設されているものであるが、次に、図2図8を参照しながら第1の背圧孔51と、第2の背圧孔52の作用について詳述する。各背圧孔51、52は固定スクロール21に対する可動スクロール22の公転旋回運動に伴い、固定スクロール21のラップ24によって開閉される。
【0042】
実施例の場合、第1の背圧孔51は固定スクロール21のラップ24の内側において、クランク角(回転軸14の回転角)が25°~215°の範囲で開き、それ以外のクランク角では閉じる位置、及び/又は、寸法で形成されている。この第1の背圧孔51が開いているクランク角範囲は前述した従来の範囲(25°~230°)よりも狭められている。
【0043】
一方、第2の背圧孔52は可動スクロール22のラップ32の内側において、クランク角が25°~175°の範囲(第1のクランク角範囲)で開く。その後、クランク角が175°~250°の範囲では固定スクロール21のラップ24により一旦閉じられた後、当該固定スクロール21のラップ24の内側において、クランク角が250°~310°の範囲(第2のクランク角範囲)で再び開き、それ以外のクランク角では閉じる位置、及び/又は、寸法で形成されている。即ち、第2の背圧孔52は固定スクロール21のラップ24を跨いで二回開くことになる。また、第1のクランク角範囲は前述した従来の範囲(25°~230°)よりも狭められている。
【0044】
この様子を図2図5で説明する。図2はクランク角が0°(0deg)の状態を示しており、この状態では両背圧孔51、52は共に閉じている。図3はクランク角が90°の状態を示しており、この状態では第1の背圧孔51は固定スクロール21のラップ24の内側において開き、第2の背圧孔51は可動スクロール22のラップ32の内側において開く。図4はクランク角が180°の状態を示しており、この状態では第1の背圧孔51は依然固定スクロール21のラップ24の内側で開いているが、第2の背圧孔52は固定スクロール21のラップ24により閉じられる。そして、図5はクランク角が270°の状態を示しており、この状態では第1の背圧孔51は固定スクロール21のラップ24により閉じられるが、第2の背圧孔52は固定スクロール21のラップ24を跨いでその内側において開く。
【0045】
図6には回転軸14のクランク角と各背圧孔51、52の開口率を示している。図中破線(25°~175°までは実線と重なっている)は第1の背圧孔51の開口率を示し、実線は第2の背圧孔52の開口率を示している。この図のように、第1の背圧孔51はクランク角25°~215°の範囲で開き、第2の背圧孔52はクランク角25°~175°の範囲(第1クランク角範囲)、及び、250°~310°の範囲(第2クランク角範囲)で開く。
【0046】
次に、図7及び図8を参照して第1の背圧孔51と第2の背圧孔52の作用について説明する。上述した如く第1の背圧孔51が開くクランク角範囲(25°~215°)と第2の背圧孔52が最初に開くクランク角範囲(第1のクランク角範囲:25°~175°)は従来の範囲(25°~230°)よりも狭められているので、両背圧孔51、52が開口する時間が短くなる。これにより、背圧室39から圧縮室34に流入する冷媒やオイルの量を抑制することができるようになり、低速運転条件では図7に示されるように、圧縮室圧力の上昇に伴う背圧Pmの上昇を抑制することができるようになる。
【0047】
一方、第2の背圧孔52は、その後、第2クランク角範囲(250°~310°)で再び開くので、圧縮室圧力が十分上昇した後で背圧室39と圧縮室34が連通されることになる。これにより、より高い圧縮室圧力を背圧室39に供給することができるようになり、吸入圧Psが低くなる運転条件での背圧の低下も、図8に示されるように抑制することができるようになる。
【0048】
以上のことから本発明によれば、低速運転条件及び吸入圧が低い運転条件の双方において適切な背圧Pmに調整し、低速運転条件で可動スクロール22が固定スクロール21に過剰に押し付けられ、消費電力が増大する不都合やコストの高騰を解消しながら、吸入圧Psが低くなる運転条件で背圧Pmが低下し、可動スクロール22を固定スクロール21に押し付ける力が不足して、圧縮不良を引き起こす不都合も解消することができるようになる。
【0049】
この場合、実施例では第1の背圧孔51が、クランク角25°~215°の範囲で開放され、第2の背圧孔52が、クランク角25°~175°、及び、250°~310°の範囲で開くようにしているので、効果的に背圧Pmを適切な値に調整することができるようになる。
【0050】
ここで、第1の背圧孔51をより外側に形成して、当該第1の背圧孔51が開くクランク角範囲を更に狭めるようにすると、今度は例えばクランク角0°の状態で第1の背圧孔51が固定スクロール21のラップ24の外側で開いてしまい、低圧の圧縮室34と連通されてしまうようになるが、実施例では固定スクロール21のラップ24の内側において開放された後、当該固定スクロール21のラップ24により閉じられ、その後、当該固定スクロール21のラップ24の外側において開放されない位置、及び/又は、寸法に第1の背圧孔52は形成されているので、係る不都合も生じない。
【0051】
そして、以上の構成は実施例の如く圧縮機構4の吐出側と背圧室39を連通する背圧通路43と、この背圧通路43にオリフィス44を設けたスクロール圧縮機1に極めて好適である。
【0052】
尚、実施例で示した数値は、請求項1の発明では、それに限られるものでは無く、スクロール圧縮機の用途、機能、容量に応じて適宜設定すべきである。
【0053】
また、実施例では車両用空気調和装置の冷媒回路に使用されるスクロール圧縮機に本発明を適用したが、それに限らず、各種冷凍装置の冷媒回路で使用されるスクロール圧縮機に本発明は有効である。また、実施例では所謂インバータ一体型のスクロール圧縮機に本発明を適用したが、それに限らず、インバータを一体に備えない通常のスクロール圧縮機にも適用可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 スクロール圧縮機
4 圧縮機構
14 回転軸
21 固定スクロール
22 可動スクロール
23、31 鏡板
24、32 ラップ
27 吐出空間(吐出側)
34 圧縮室
39 背圧室
43 背圧通路
44 オリフィス(減圧部)
51 第1の背圧孔
52 第2の背圧孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10