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特許7349302フッ素含有コア基材の製造方法およびフレキシブルプリント配線板用基板の製造方法
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  • 特許-フッ素含有コア基材の製造方法およびフレキシブルプリント配線板用基板の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-13
(45)【発行日】2023-09-22
(54)【発明の名称】フッ素含有コア基材の製造方法およびフレキシブルプリント配線板用基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 3/38 20060101AFI20230914BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20230914BHJP
   H05K 1/02 20060101ALI20230914BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
H05K3/38 A
H05K1/03 630C
H05K1/03 630E
H05K1/03 610H
H05K1/03 610N
H05K1/02 D
B32B27/30 D
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019168619
(22)【出願日】2019-09-17
(65)【公開番号】P2021048180
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-03-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000230249
【氏名又は名称】日本メクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100152205
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 昌司
(72)【発明者】
【氏名】東良 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】波多野 風生
【審査官】ゆずりは 広行
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-051203(JP,A)
【文献】特開2017-024265(JP,A)
【文献】特開平05-183267(JP,A)
【文献】特開2016-225513(JP,A)
【文献】特開2007-098692(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/38
H05K 1/03
H05K 1/02
B32B 27/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着成分が共重合されたフッ素樹脂層、または表面改質されたフッ素樹脂層を用意する工程と、
前記フッ素樹脂層の上面および下面に、線膨張係数が前記フッ素樹脂層よりも小さい熱硬化性の第1の補強樹脂層および第2の補強樹脂層をそれぞれ積層して第1の積層体を形成する工程であって、前記第1の積層体は導体層を含まない、工程と、
前記第1の積層体を前記フッ素樹脂層の融点以上の温度に加熱することにより、前記フッ素樹脂層と前記第1の補強樹脂層、および前記フッ素樹脂層と前記第2の補強樹脂層を溶融接着させて前記第1の積層体を一体化する工程と、
前記一体化された第1の積層体を冷却して歪みを除去する工程と、
を備えることを特徴とするフッ素含有コア基材の製造方法。
【請求項2】
前記第1の積層体を形成する際、前記第1および第2の補強樹脂層として、少なくとも前記フッ素樹脂層と対向する面が表面改質されたものを用いることを特徴とする請求項1に記載のフッ素含有コア基材の製造方法。
【請求項3】
前記第1および第2の補強樹脂層は、線膨張係数が30ppm/℃以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のフッ素含有コア基材の製造方法。
【請求項4】
前記第1および第2の補強樹脂層は、ポリイミドからなることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のフッ素含有コア基材の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の方法により製造されたフッ素含有コア基材を用いるフレキシブルプリント配線板用基板の製造方法であって、
前記フッ素含有コア基材の両面または片面に熱硬化性接着剤を介して導体層を積層して第2の積層体を形成する工程と、
前記第2の積層体を、前記熱硬化性接着剤の硬化温度以上であり且つ前記フッ素樹脂層の融点未満の温度に加熱して一体化する工程と、
を備えることを特徴とするフレキシブルプリント配線板用基板の製造方法。
【請求項6】
前記第2の積層体を250℃以下の温度で加熱することを特徴とする請求項5に記載のフレキシブルプリント配線板用基板の製造方法。
【請求項7】
前記導体層の十点平均粗さは2.0μm以下であることを特徴とする請求項5または6に記載のフレキシブルプリント配線板用基板の製造方法。
【請求項8】
請求項1~4のいずれかに記載の方法により製造されたフッ素含有コア基材を用いるフレキシブルプリント配線板用基板の製造方法であって、
導体層と、前記導体層の片面に積層され、線膨張係数が前記フッ素樹脂層よりも小さい第3の補強樹脂層とを有する片面導体張積層板を用意する工程と、
前記フッ素含有コア基材の両面または片面に、前記第3の補強樹脂層と前記フッ素含有コア基材とが対向するように熱硬化性接着剤を介して前記片面導体張積層板を積層して第2の積層体を形成する工程と、
前記第2の積層体を前記熱硬化性接着剤の硬化温度以上であり且つ前記フッ素樹脂層の融点未満の温度に加熱して一体化する工程と、
を備えることを特徴とするフレキシブルプリント配線板用基板の製造方法。
【請求項9】
前記第2の積層体を250℃以下の温度で加熱することを特徴とする請求項8に記載のフレキシブルプリント配線板用基板の製造方法。
【請求項10】
前記導体層の十点平均粗さは2.0μm以下であることを特徴とする請求項8または9に記載のフレキシブルプリント配線板用基板の製造方法。
【請求項11】
前記第3の補強樹脂層は、線膨張係数が30ppm/℃以下であることを特徴とする請求項8~10のいずれかに記載のフレキシブルプリント配線板用基板の製造方法。
【請求項12】
前記第3の補強樹脂層は、弾性率が3GPa以上であることを特徴とする請求項8~11のいずれかに記載のフレキシブルプリント配線板用基板の製造方法。
【請求項13】
前記第3の補強樹脂層は、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)またはポリイミドからなることを特徴とする請求項8~12のいずれかに記載のフレキシブルプリント配線板用基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素含有コア基材の製造方法、フレキシブルプリント配線板用基板の製造方法、フッ素含有コア基材およびフレキシブルプリント配線板用基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、第5世代移動通信システム(5G)などの開発に合わせて、高周波領域において伝送損失が小さいプリント配線板がますます求められている。プリント配線板の伝送損失を小さくするには、絶縁基材(ベース材)の比誘電率および誘電正接(tanδ)を小さくする必要がある。
【0003】
フレキシブルプリント配線板ではこれまで、ポリイミド(PI)や液晶ポリマー(LCP)からなるフィルムが絶縁基材として用いられている。しかし、これらの材料は、高周波領域で比誘電率および誘電正接が比較的大きいため、高周波信号に対する伝送損失を十分に小さくすることが難しい。そこで、比誘電率および誘電正接が小さいフッ素樹脂をフレキシブルプリント配線板の絶縁層に適用することが検討されている。
【0004】
しかしながら、フッ素樹脂は、他の材料(銅箔等の導体層、ポリイミドフィルム等の絶縁基材など)との接着力を確保しづらい。特に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)といったフッ素樹脂を使用した場合、フレキシブルプリント配線板の誘電特性は向上するものの、他の材料との接着性を確保することが困難である。このため、フレキシブルプリント配線板の製造時や使用時において、フッ素樹脂層と他の絶縁層または導体層とが容易に剥離するという問題がある。
【0005】
特許文献1および2には、フッ素樹脂に接着性を有する成分を共重合させることにより、導体層や他の絶縁層(PI、LCP等)に接着させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開2016/181936号パンフレット
【文献】特許第5286669号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、フッ素樹脂は線膨張係数(CTE:coefficient of thermal expansion)が他の誘電体よりも大きいため、フッ素樹脂層に他の絶縁基材や導体層を積層してフレキシブルプリント配線板用基板を作成した場合、寸法安定性を確保することが難しいという課題がある。この課題についてさらに詳しく説明する。
【0008】
フレキシブルプリント配線板用基板は、フッ素樹脂層に他の絶縁層や導体層を積層し、加圧しながら加熱することで一体化され、その後室温に冷却されることで作成される。一体化工程における加熱温度が高い場合(特にフッ素樹脂の融点以上の場合)、室温冷却後のフッ素樹脂層には大きな残留ひずみが発生することになる。
【0009】
フッ素樹脂層の残留ひずみが大きいと、フレキシブルプリント配線板の配線を形成するために導体層をエッチングする際(あるいは貫通孔を形成する際など)、残留ひずみを解放しようとしてフッ素樹脂層が収縮する。その結果、フレキシブルプリント配線板に設けられた配線間やスルーホール間の寸法が設計値からずれてしまう。
【0010】
本発明は、かかる技術的認識に基づいてなされたものであり、その目的は、高周波信号の伝送に適し層間剥離が抑制されたフレキシブルプリント配線板を高い寸法安定性で作成可能なフレキシブルプリント配線板用基板に適用可能なフッ素含有コア基材、および当該フッ素含有コア基材を適用したフレキシブルプリント配線板用基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るフッ素含有コア基材の製造方法は、
接着成分が共重合されたフッ素樹脂層、または表面改質されたフッ素樹脂層を用意する工程と、
前記フッ素樹脂層の上面および下面に、線膨張係数が前記フッ素樹脂層よりも小さい熱硬化性の第1の補強樹脂層および第2の補強樹脂層をそれぞれ積層して第1の積層体を形成する工程と、
前記第1の積層体を前記フッ素樹脂層の融点以上の温度に加熱することにより、前記フッ素樹脂層と前記第1の補強樹脂層、および前記フッ素樹脂層と前記第2の補強樹脂層を溶融接着させて前記第1の積層体を一体化する工程と、
前記一体化された第1の積層体を冷却して歪みを除去する工程と、
を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明の第1の態様に係るフレキシブルプリント配線板用基板の製造方法は、
前記フッ素含有コア基材を用いるフレキシブルプリント配線板用基板の製造方法であって、
前記フッ素含有コア基材の両面または片面に熱硬化性接着剤を介して導体層を積層して第2の積層体を形成する工程と、
前記第2の積層体を、前記熱硬化性接着剤の硬化温度以上であり且つ前記フッ素樹脂層の融点未満の温度に加熱して一体化する工程と、
を備えることを特徴とする。
【0013】
本発明の第2の態様に係るフレキシブルプリント配線板用基板の製造方法は、
導体層と、前記導体層の片面に積層され、線膨張係数が前記フッ素樹脂層よりも小さい第3の補強樹脂層とを有する片面導体張積層板を用意する工程と、
前記フッ素含有コア基材の両面または片面に、前記第3の補強樹脂層と前記フッ素含有コア基材とが対向するように熱硬化性接着剤を介して前記片面導体張積層板を積層して第2の積層体を形成する工程と、
前記第2の積層体を前記熱硬化性接着剤の硬化温度以上であり且つ前記フッ素樹脂層の融点未満の温度に加熱して一体化する工程と、
を備えることを特徴とする。
【0014】
本発明に係るフッ素含有コア基材は、
表面に接着成分が共重合され、または表面改質されたフッ素樹脂層と、
前記フッ素樹脂層の上面に溶融接着され、線膨張係数が前記フッ素樹脂層よりも小さい熱硬化性の第1の補強樹脂層と、
前記フッ素樹脂層の下面に溶融接着され、線膨張係数が前記フッ素樹脂層よりも小さい熱硬化性の第2の補強樹脂層と、
を備えることを特徴とする。
【0015】
本発明の第1の態様に係るフレキシブルプリント配線板用基板は、
前記フッ素含有コア基材と、
前記フッ素含有コア基材の両面または片面に硬化接着剤層を介して積層された導体層と、
を備えることを特徴とする。
【0016】
本発明の第2の態様に係るフレキシブルプリント配線板用基板は、
前記フッ素含有コア基材と、
前記フッ素含有コア基材の両面または片面に硬化接着剤層を介して積層され、線膨張係数が前記フッ素樹脂層よりも小さい第3の補強樹脂層と、
前記第3の補強樹脂層の上に積層された導体層と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高周波信号の伝送に適し層間剥離が抑制されたフレキシブルプリント配線板を高い寸法安定性で作成可能なフレキシブルプリント配線板用基板に適用可能なフッ素含有コア基材、および当該フッ素含有コア基材を適用したフレキシブルプリント配線板用基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態に係るフッ素含有コア基材の製造方法を示すフローチャートである。
図2a】実施形態に係るフッ素含有コア基材の製造方法を説明するための工程断面図である。
図2b図2aに続く、実施形態に係るフッ素含有コア基材の製造方法を説明するための工程断面図である。
図3】実施形態に係るフッ素含有コア基材の断面図である。
図4】第1の実施形態に係るフレキシブルプリント配線板用基板の製造方法を示すフローチャートである。
図5a】第1の実施形態に係るフレキシブルプリント配線板用基板の製造方法を説明するための工程断面図である。
図5b】第1の実施形態に係るフレキシブルプリント配線板用基板の製造方法を説明するための工程断面図である。
図6】第1の実施形態に係るフレキシブルプリント配線板用基板の断面図である。
図7】第2の実施形態に係るフレキシブルプリント配線板用基板の製造方法を示すフローチャートである。
図8a】第2の実施形態に係るフレキシブルプリント配線板用基板の製造方法を説明するための工程断面図である。
図8b図8aに続く、第2の実施形態に係るフレキシブルプリント配線板用基板の製造方法を説明するための工程断面図である。
図9】第2の実施形態に係るフレキシブルプリント配線板用基板の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0020】
なお、各図においては、同等の機能ないし特性を有する構成要素に同一の符号を付している。また、断面図は模式的なものであって、各層の厚みの比率等は必ずしも現実のものと一致しない。
【0021】
<フッ素含有コア基材>
まず、図1のフローチャートに沿って、実施形態に係るフッ素含有コア基材の製造方法について説明する。
【0022】
まず、フッ素樹脂層11として、接着成分が共重合されたフッ素樹脂層、または表面改質されたフッ素樹脂層を用意する(ステップS1)。
【0023】
フッ素樹脂層11は、例えば、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)またはポリフッ化ビリニデン(PVdF)からなる。これらのフッ素樹脂は、可撓性、耐熱性および難燃性を有する。
【0024】
なお、フッ素樹脂層11は、誘電率や誘電正接が低い無機フィラーを含有してもよい。無機フィラーとしては、シリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、珪藻土、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸バリウム、ドーソナイト、ハイドロタルサイト、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、珪酸カルシウム、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサイト、ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカ系バルーン、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、グラファイト、炭素繊維、ガラス繊維、ケイ素繊維、LCP繊維、ガラスバルーン、炭素バルーン、木粉、ホウ酸亜鉛等が挙げられる。フッ素樹脂層11は、1種類の無機フィラーを含有してもよいし、あるいは2種以上の無機フィラーを含有してもよい。
【0025】
また、無機フィラーの含有量は、含フッ素共重合体に対して0.1~100質量%が好ましく、0.1~60質量%がより好ましい。無機フィラーが多孔質の場合、フッ素樹脂層11の誘電率や誘電正接をさらに低くすることができる。また、無機フィラーは、シランカップリング剤やチタネートカップリング剤等の表面処理剤を用いて表面処理することで、含フッ素共重合体への分散性を向上させてもよい。
【0026】
また、フッ素樹脂の線膨張係数を下げるために、フッ素樹脂層11は、フッ素樹脂中に、アラミド繊維織布、アラミド繊維不織布、アラミドペーパー、アラミドフィルム、ガラス繊維織布、木綿織布、紙等を含有してもよい。
【0027】
フッ素樹脂層11の厚みは、例えば5~200μmであり、好ましくは7.5~100μmである。200μmの上限値よりも厚い場合、取扱い性や寸法安定性を確保することが難しい。一方、5μmの下限値よりも薄い場合、フレキシブルプリント配線板用基板の誘電特性や屈曲性が悪化する。
【0028】
また、フッ素樹脂層11は、1層のフィルムに限らず、複数のフィルムが積層されたものであってもよい。この場合、各フィルムの材料は異なってもよい。例えば、各層の接合面を表面改質等しておき、熱硬化性接着剤を介して積層することで、一体化工程後の接着強度を確保することができる。
【0029】
ここで、ステップS1で用意されるフッ素樹脂層11についてさらに詳しく説明する。
【0030】
接着成分が共重合されたフッ素樹脂層としては、フッ素樹脂に接着成分を共重合したものを使用する。接着性を有するフッ素樹脂層として、例えばAGC(株)製のEA-2000を用いてもよい。なお、接着成分が共重合されたフッ素樹脂層を用いる場合は、フッ素樹脂層の表面処理(後述の表面改質)が不要である。
【0031】
表面改質されたフッ素樹脂層としては、例えば、真空プラズマ処理が施されたフッ素樹脂層を使用する。真空プラズマ処理が施されることにより、フッ素樹脂層の表面には処理ガスに応じてNH基、COOH基、OH基などの親水性の官能基(極性基)が付加される。
【0032】
表面改質は、フッ素樹脂層の表面に活性点を形成し、形成された活性点に親水性の高い官能基、モノマー、オリゴマーおよびポリマーのいずれか一つまたはこれらの混合物(以下、単に「改質材」ともいう。)をフッ素樹脂層11に接触させることにより行う。表面改質によりフッ素樹脂層の表面にいわゆるタック感が得られる。
【0033】
フッ素樹脂層の表面に活性点を形成する方法としては、紫外線(UV)、エキシマレーザー光等の活性光線を照射する方法や、コロナ放電、プラズマ放電等の放電による方法がある。その他、アルカリ金属錯体溶液にフッ素樹脂層を浸漬する方法もある。
【0034】
フッ素樹脂層への改質材の接触方法としては、ガス状または液状の改質材をフッ素樹脂層に直接接触させる方法がある。その他、改質材をキャリアガスに希釈した混合ガス、または改質材を溶解させた水溶液もしくは有機溶剤溶液をフッ素樹脂層に接触させてもよい。
【0035】
なお、フッ素樹脂層に活性点を形成するために活性光線を照射する場合、ガス状または液状の改質材をフッ素樹脂層に直接接触させた状態、あるいは、改質材をキャリアガスに希釈した混合ガス、または改質材を溶解させた水溶液もしくは有機溶剤溶液をフッ素樹脂層に接触させた状態で、活性光線を照射することも有効である。
【0036】
表面改質の有力な方法として、真空プラズマ処理が挙げられる。真空プラズマ処理は、電極間に直流または交流の高電圧を印加することによって開始し持続する真空でのグロー放電等に、処理基材(ここではフッ素樹脂層)を曝すことによって行われる。真空プラズマ処理の場合、処理ガス(改質材)の選択肢が比較的多い。例えば、He、Ne、Ar、N、O、炭酸ガス、空気、水蒸気、アンモニアガス等を処理ガスとして使用可能である。なお、これらのガスの混合ガスを用いてもよい。特に、Nガス、N+Hガス(窒素と水素の混合ガス)、N+Oガス(窒素と酸素の混合ガス)、またはアンモニアガスを用いることで良好な結果を得ることができる。
【0037】
次に、フッ素樹脂層の上面および下面に、線膨張係数がフッ素樹脂層よりも小さい熱硬化性の第1の補強樹脂層および第2の補強樹脂層をそれぞれ積層して第1の積層体を形成する(ステップS2)。本実施形態では、図2aおよび図2bに示すように、ステップS1で用意したフッ素樹脂層11の上面に補強樹脂層12を積層し、フッ素樹脂層11の下面に補強樹脂層13を積層して積層体LB1を形成する。
【0038】
補強樹脂層12,13はいずれも、熱硬化性の樹脂からなり、線膨張係数がフッ素樹脂層11よりも小さい。条件を満たす材料として、例えば、芳香族ポリイミド等のポリイミドが挙げられる。
【0039】
補強樹脂層12,13の線膨張係数は、30ppm/℃以下であることが好ましく、さらに好ましくは25ppm/℃以下である。これにより、寸法安定性が低下することを抑制できる。ここで、線膨張係数の値は常温における値である(以下の数値についても同様である)。
【0040】
補強樹脂層12,13の弾性率は、強度および柔軟性の観点から、3GPa~10GPaの範囲内にあることが好ましく、6GPa~10GPaの範囲内にあることがさらに好ましい。ここで、弾性率の値は常温における値である(以下の数値についても同様である)。
【0041】
なお、ステップS2においては、補強樹脂層12,13として、フッ素樹脂層11と同様に真空プラズマ処理等により、少なくともフッ素樹脂層11と対向する面が表面改質されたものを用いてもよい。補強樹脂層12,13の対向面に官能基が付加されることで、後述の一体化工程(ステップS3)において補強樹脂層12,13の官能基とフッ素樹脂層11の官能基が結合することで、フッ素樹脂層11と補強樹脂層12,13との間の接着強度をさらに高めることができる。
【0042】
また、補強樹脂層12,13の厚みは、例えば5~200μmであり、好ましくは7.5~100μmである。5μmの下限値よりも薄い場合、取扱い性や寸法安定性を確保することが難しい。一方、200μmの上限値よりも厚い場合、フレキシブルプリント配線板用基板の誘電特性や屈曲性が悪化する。
【0043】
また、補強樹脂層12,13は各々、1層に限らず、多層のフィルムで構成されてもよい。例えば、熱可塑性樹脂と非熱可塑性樹脂とを貼り合わせて補強樹脂層を構成してもよい。これにより、柔軟性の高い補強樹脂層が得られる。
【0044】
次に、第1の積層体をフッ素樹脂層の融点以上の温度に加熱することにより、フッ素樹脂層と第1の補強樹脂層、およびフッ素樹脂層と第2の補強樹脂層を溶融接着させて第1の積層体を一体化する(ステップS3)。本実施形態では、図3に示すように、ステップS2で形成した積層体LB1をフッ素樹脂層11の融点以上の温度に加熱することにより、フッ素樹脂層11と補強樹脂層12、およびフッ素樹脂層11と補強樹脂層13を溶融接着させて積層体LB1を一体化する。
【0045】
より詳しくは、ステップS3では、真空プレス等により、積層体LB1を加圧しながらフッ素樹脂層11の融点以上の温度で加熱することで、フッ素樹脂層11を溶融させて補強樹脂層12,13に強固に接着させる。加熱温度は、フッ素樹脂層11の材料によるが、例えば300℃以上である。テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)の場合、積層体LB1を加圧しながら310~320℃で2~3秒程度加熱する。
【0046】
なお、真空プレスの他、ロールツーロール工法により一体化工程を行ってもよい。この場合、金属ロールから巻き出されたシートの所定領域について加圧加熱を行い、完了後、金属ロールを回転させて別の領域について加圧加熱を行う。
【0047】
次に、一体化された第1の積層体を冷却して歪みを除去する(ステップS4)。本実施形態では、ステップS3で一体化された積層体LB1を室温まで冷却することで積層体LB1の歪みを除去する。
【0048】
上記の工程を経て本実施形態に係るフッ素含有コア基材1が得られる。
【0049】
フッ素含有コア基材1は、図3に示すように、表面に接着成分が共重合され、または表面改質されたフッ素樹脂層11と、フッ素樹脂層11の上面に溶融接着され、線膨張係数がフッ素樹脂層11よりも小さい熱硬化性の補強樹脂層12と、フッ素樹脂層11の下面に溶融接着され、線膨張係数がフッ素樹脂層11よりも小さい熱硬化性の補強樹脂層13と、を備えている。
【0050】
上記のように、本実施形態に係るフッ素含有コア基材の製造方法では、表面に接着成分が共重合され、あるいは表面改質されたフッ素樹脂層11と、このフッ素樹脂層11を挟み込む補強樹脂層12,13とを有する積層体LB1を形成し、形成した積層体LB1をフッ素樹脂層11の融点以上の温度で加熱する。補強樹脂層12,13は熱硬化性であり、その線膨張係数はフッ素樹脂層11の線膨張係数よりも小さい。これにより、フッ素樹脂層11の融点以上の高温においても積層体LB1の形状が可及的に維持され、溶融したフッ素樹脂層11と補強樹脂層12,13とが強固に接着される。接着についてより詳しくは、溶融したフッ素樹脂層11が補強樹脂層12,13の凹凸に入り込むことでアンカー効果により接着力が高まる。さらに、フッ素樹脂層11の表面の官能基と補強樹脂層12,13の表面の官能基との間で結合反応が進むことで接着力がさらに高まる。
【0051】
また、本実施形態に係るフッ素含有コア基材の製造方法では、積層体LB1が導体層を含まないため、ステップS4の冷却工程において、ステップS3の加熱工程で発生した積層体LB1(特にフッ素樹脂層11)の歪みを十分に解放し、フッ素含有コア基材1の残留ひずみを小さくすることができる。後述のフレキシブルプリント配線板用基板の製造方法により、寸法安定性の高いフレキシブルプリント配線板用基板を提供することができるようになる。
【0052】
また、本実施形態に係るフッ素含有コア基材の製造方法では、フッ素樹脂層11を上下に挟み込むように、線膨張係数がフッ素樹脂層よりも小さい熱硬化性の補強樹脂層12,13が積層される。このため、ステップS3の加熱時において積層体LB1の形状を可及的に維持することができるとともに、フッ素含有コア基材1がカールすることを防止できる。
【0053】
以上説明したように、本実施形態によれば、高周波信号の伝送に適し層間剥離が抑制されたフレキシブルプリント配線板を高い寸法安定性で作成可能なフレキシブルプリント配線板用基板に適用可能なフッ素含有コア基材を提供することができる。
【0054】
<フレキシブルプリント配線板用基板>
次に、上記のフッ素含有コア基材1を用いたフレキシブルプリント配線板用基板に係る2つの実施形態を説明する。第1の実施形態では、フッ素含有コア基材1の両面に熱硬化性接着剤を介して導体層を積層する。第2の実施形態では、フッ素含有コア基材1の両面に熱硬化性接着剤を介して片面導体張積層板を積層する。
【0055】
(第1の実施形態)
図4のフローチャートに沿って、第1の実施形態に係るフレキシブルプリント配線板用基板の製造方法について説明する。
【0056】
上述の製造方法により製造されたフッ素含有コア基材の両面または片面に熱硬化性接着剤を介して導体層を積層して第2の積層体を形成する(ステップS11)。本実施形態では、図5aおよび図5bに示すように、フッ素含有コア基材1の両面に熱硬化性接着剤14,15を介して導体層16,17をそれぞれ積層して積層体LB2を形成する。
【0057】
具体的手順としては、例えば、フッ素含有コア基材1の上面に熱硬化性接着剤14を塗布した後、導体層16をフッ素含有コア基材1に貼り合わせる。同様に、フッ素含有コア基材1の下面に熱硬化性接着剤15を塗布した後、導体層17をフッ素含有コア基材1に貼り合わせる。これにより、積層体LB2が形成される。もちろん、導体層16,17側に熱硬化性接着剤を塗布しておき、熱硬化性接着剤が塗布された導体層16,17をフッ素含有コア基材1に積層してもよい。
【0058】
なお、フッ素含有コア基材1の片面にのみ熱硬化性接着剤を介して導体層を積層してもよい。
【0059】
ここで、熱硬化性接着剤14,15について説明する。
【0060】
熱硬化性接着剤14,15は、所定の温度で硬化する熱硬化性樹脂を主成分として含む。熱硬化性接着剤14,15の硬化温度の下限としては、例えば120℃が好ましく、150℃がより好ましい。一方、硬化温度の上限としては、例えば250℃が好ましく、230℃がより好ましく、200℃以下がさらに好ましい。硬化温度の上限が低いほど後述の一体化工程(ステップS12)の温度を低くすることができるため、室温冷却した後におけるフッ素樹脂層11の残留ひずみを小さくすることができる。
【0061】
熱硬化性接着剤14,15は、耐熱性に優れたものが好ましい。例えば、変性ポリオレフィン樹脂系、エポキシ樹脂系、ポリイミド樹脂系、ブチラール樹脂系、アクリル樹脂系、ビスマレイミド樹脂系の接着剤が好適である。その他、ポリオレフィン樹脂系、ポリフェニレンエーテル樹脂、スチレン系樹脂の接着剤は耐熱性でやや劣るが、加熱温度等の条件によっては使用可能である。
【0062】
熱硬化性接着剤14,15の厚みは、例えば2~200μmであり、好ましくは、4~100μmである。2μmの下限値よりも薄い場合、寸法安定性を確保することが難しい。一方、200μmの上限値よりも厚い場合、フレキシブルプリント配線板用基板の誘電特性や屈曲性が悪化する。
【0063】
ここで、導体層16,17について説明する。
【0064】
導体層16,17は、銅、銅合金、ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル合金(42合金を含む。)、アルミニウムまたはアルミニウム合金等の導体からなる。本実施形態では、導体層16,17は、圧延銅箔、電解銅箔等の銅箔である。
【0065】
導体層16,17の厚さは、フレキシブルプリント配線板の用途に応じて充分な機能が発揮できる厚さであればよく、特に限定されない。フレキシブルプリント配線板の屈曲性などを考慮すると、導体層16,17の厚さは、6~70μmが好ましく、9~35μmがより好ましい。
【0066】
導体層16,17の主面のうちフッ素含有コア基材1と対向する面には、絶縁層との接着性を向上させるために化学的または機械的な表面処理が施されていてもよい。化学的な表面処理としては、ニッケルメッキ、銅-亜鉛合金メッキ等のメッキ処理、あるいは、アルミニウムアルコラート、アルミニウムキレート、シランカップリング剤等の表面処理剤による処理などが挙げられる。なかでも、シランカップリング剤による表面処理が好ましい。シランカップリング剤としては、アミノ基を有するシランカップリング剤が好適に使用可能である。一方、機械的な表面処理としては、粗面化処理などが挙げられる。
【0067】
導体層16,17の十点平均粗さ(Rz)は、高周波信号の伝送を考慮すると、4.0μm以下が好ましく、2.0μm以下がさらに好ましい。これにより、高周波信号の電流が表皮効果によって導体層の表層部分のみを流れる場合であっても、信号の伝搬距離が長くなることが抑制される。その結果、高周波信号を伝送する際、伝送速度を維持し、伝送損失の増加を抑制することができる。
【0068】
次に、第2の積層体を、熱硬化性接着剤の硬化温度以上であり且つフッ素樹脂層の融点未満の温度に加熱して一体化する(ステップS12)。本実施形態では、図6に示すように、ステップS11で形成した積層体LB2を熱硬化性接着剤14,15の硬化温度以上であり且つフッ素樹脂層11の融点未満の温度に加熱して一体化する。
【0069】
より詳しくは、ステップS12では、熱硬化性接着剤14,15の硬化温度以上で積層体LB2を加圧しながら加熱することで、熱硬化性接着剤14,15を硬化させて積層体LB2を一体化させる。この際、加熱温度がフッ素樹脂層11の融点未満なので、フッ素樹脂層11の膨張が抑制される結果、室温冷却後のフッ素樹脂層11の残留ひずみを小さくすることができる。
【0070】
ステップS12の一体化工程は、より詳しくは、真空プレス工程と、ポストキュア工程とを有する。真空プレス工程では、ポリイミド等からなる保護フィルムで被覆された積層体LB2を一対の金属板(ステンレス板等)で挟んで加圧しつつ加熱する。ポストキュア工程では、真空プレス工程を経た積層体LB2を空気加熱オーブンまたは窒素置換加熱オーブンに入れて加熱して、熱硬化性接着剤14,15の熱硬化を完了させる。例えば、真空プレス工程では200℃前後の温度で3分間程度加熱加圧し、ポストキュア工程では200℃前後の温度で60分間程度加熱する。
【0071】
なお、ステップS12の一体化工程はポストキュア工程を含まなくてもよい。この場合、例えば、真空プレス工程を130~250℃(好ましくは170~200℃)で60分間程度行う。また、真空プレスの他、ロールツーロール工法により一体化工程を行ってもよい。この場合、金属ロールから巻き出されたシートの所定領域について加圧加熱を行い、完了後、金属ロールを回転させて別の領域について加圧加熱を行う。
【0072】
また、熱硬化性接着剤14,15の硬化温度が高いほど、ステップS12における加熱温度を高くする必要がある。加熱温度が高いほど、積層体LB2を室温に冷却したときに、線膨張係数が大きいフッ素樹脂層11の残留ひずみは大きくなってしまう。よって、残留歪みを小さくするために、加熱温度を低く、加熱時間を長くして、熱硬化性接着剤の硬化を進めるようにしてもよい。
【0073】
また、ステップS12の一体化工程はフッ素樹脂層11の融点未満の温度で行われるが、フレキシブルプリント配線板の寸法安定性を十分に確保できるようにするためには、250℃以下の温度で加熱することが好ましい。
【0074】
ステップS12の一体化工程の後、加熱された積層体LB2を室温に冷却する。
【0075】
以上説明した工程を経て、図6に示す第1の実施形態に係るフレキシブルプリント配線板用基板10が製造される。硬化接着剤層14h,15hはそれぞれ熱硬化性接着剤14,15が硬化してなる絶縁層である。
【0076】
上述した第1の実施形態に係るフレキシブルプリント配線板用基板の製造方法によれば、以下の作用効果を奏する。
【0077】
フッ素樹脂層11を含むフッ素含有コア基材1を用いているため、高周波信号の伝送に適したフレキシブルプリント配線板用基板が得られる。また、フッ素含有コア基材1の製造方法で述べたようにフッ素樹脂層11と補強樹脂層12,13との間は強固に接着されているため、層間剥離を抑制することができる。
【0078】
さらに、ステップS12(一体化工程)の加熱温度がフッ素樹脂層11の融点未満であるため、室温冷却後におけるフッ素樹脂層11の残留ひずみを低減することができる。したがって、フレキシブルプリント配線板を高い寸法安定性で作成可能なフレキシブルプリント配線板用基板が得られる。特に250℃以下の温度で積層体LB2を加熱することで、フレキシブルプリント配線板用基板10から作成されるフレキシブルプリント配線板の寸法安定性を十分に確保することができる。
【0079】
<第1の実施形態に係るフレキシブルプリント配線板用基板>
図6を参照して、第1の実施形態に係る製造方法により得られるフレキシブルプリント配線板用基板10について説明する。
【0080】
フレキシブルプリント配線板用基板10は、フッ素含有コア基材1と、補強樹脂層12および補強樹脂層13に硬化接着剤層14h,15hを介して積層された導体層16,17と、を備える。なお、導体層は、フッ素含有コア基材1の片面にのみ設けられてもよい。この場合、導体層17と硬化接着剤層15h(または導体層16と硬化接着剤層14h)は不要である。
【0081】
図6に示すように、補強樹脂層12と導体層16は硬化接着剤層14hにより接合され、補強樹脂層13と導体層17は硬化接着剤層15hにより接合されている。ここで、硬化接着剤層14h,15hは、硬化温度がフッ素樹脂層11の融点よりも低い熱硬化性接着剤14,15がそれぞれ硬化してなる絶縁層である。
【0082】
フレキシブルプリント配線板用基板10の各層の厚みは、例えば以下の通りである。高速伝送特性を考慮すると、硬化接着剤層14h,15hと補強樹脂層12,13の厚さはフッ素樹脂層11の厚さよりもできるだけ薄くすることが好ましい。
導体層16 :12μm
硬化接着剤層14h :12μm
補強樹脂層12 :12.5~25μm
フッ素樹脂層11 :50~75μm
補強樹脂層13 :12.5~25μm
硬化接着剤層15h :12μm
導体層17 :12μm
【0083】
なお、硬化接着剤層14h,15hの周波数5GHzでの比誘電率の上限値は3であり、2.8以下が好ましく、2.6以下がより好ましい。比誘電率を上限値以下とすることで、フレキシブルプリント配線板用基板10を用いて作成されるフレキシブルプリント配線板で高周波信号を伝送する際の誘電損失の増加を抑制することができる。
【0084】
また、硬化接着剤層14h,15hの周波数5GHzでの誘電正接の下限値は、小さいほど好ましい。誘電正接の下限値は、0.005以下が好ましく、0.003以下がより好ましい。誘電正接を下限値以下とすることで、フレキシブルプリント配線板用基板10を用いて作成されるフレキシブルプリント配線板で高周波信号を伝送する際の伝送損失の増加を抑制することができる。
【0085】
第1の実施形態に係るフレキシブルプリント配線板用基板10は、絶縁基材にフッ素樹脂層11を含むため、導体層16と導体層17間の絶縁層の比誘電率および誘電正接が小さく、高周波信号の伝送損失を小さくすることができる。
【0086】
また、フレキシブルプリント配線板用基板10では、フッ素含有コア基材1を用いているため、屈曲させてもフッ素樹脂層11が剥離することを防止できる。
【0087】
また、フレキシブルプリント配線板用基板10では、フッ素含有コア基材1を用いているため、フレキシブルプリント配線板用基板10から作成されたフレキシブルプリント配線板がカールすることを防止できる。
【0088】
さらに、フレキシブルプリント配線板用基板10では、フッ素含有コア基材1を用いているため、フッ素樹脂層11の残留ひずみが小さく、高い寸法安定性を確保することができる。すなわち、導体層16,17をパターニングして配線層を形成する際などにおいてフレキシブルプリント配線板用基板10が収縮することを抑制できる。その結果、フレキシブルプリント配線板用基板10から作成されたフレキシブルプリント配線板のヒートサイクル試験や使用時の温度変化により、導体層やスルーホール等のめっき部分にクラックが発生したり、絶縁基材から剥離するなどの不具合が発生することを抑制できる。
【0089】
以上説明したように、第1の実施形態に係るフレキシブルプリント配線板用基板10によれば、高周波信号の伝送に適し層間剥離が抑制されたフレキシブルプリント配線板を、高い寸法安定性で作成することができる。
【0090】
(第2の実施形態)
次に、図7のフローチャートに沿って、第2の実施形態に係るフレキシブルプリント配線板用基板の製造方法について説明する。第1の実施形態との相違点は、第2の実施形態では、フッ素含有コア基材1に熱硬化性接着剤を介して片面導体張積層板を積層する点である。
【0091】
まず、導体層と、この導体層の片面に積層され、線膨張係数がフッ素樹脂層よりも小さい第3の補強樹脂層とを有する片面導体張積層板を用意する(ステップS21)。本実施形態では、図8aに示すように、片面導体張積層板2A,2Bを用意する。片面導体張積層板2Aは、導体層16と、この導体層16の片面に積層された補強樹脂層18とを有する。片面導体張積層板2Bは、導体層17と、この導体層17の片面に積層された補強樹脂層19とを有する。例えば、片面導体張積層板2A,2Bは導体層16,17が銅箔の片面銅張積層板である。
【0092】
導体層16,17については、第1の実施形態と同様であるので、詳しい説明は省略する。
【0093】
補強樹脂層18,19の線膨張係数は、フッ素含有コア基材1のフッ素樹脂層11よりも小さい。例えば、補強樹脂層18,19の線膨張係数は30ppm/℃以下であることが好ましく、さらに好ましくは25ppm/℃以下である。線膨張係数が30ppm/℃以下の補強樹脂層18,19を用いることにより、本実施形態に係る製造方法により製造されるフレキシブルプリント配線板用基板10Aに反りが発生したり、寸法安定性が低下することを抑制できる。
【0094】
また、導体層16,17の線膨張係数に対して補強樹脂層18,19の線膨張係数は、±5ppm/℃以下の範囲内にあることが好ましく、±2ppm/℃以下の範囲内にあることがより好ましい。
【0095】
なお、補強樹脂層18,19の弾性率は、3GPa以上であることが好ましく、6Gpa以上であることがさらに好ましい。これにより、一体化工程(後述のステップS23)後において積層体を冷却する際や、導体層16,17をパターニングする際などにおけるフレキシブルプリント配線板用基板の収縮率を低減し、寸法安定性を向上させることができる。フレキシブルプリント配線板用基板をフレキシブルプリント配線板に加工する際に必要な強度を確保することもできる。
【0096】
また、補強樹脂層18,19の弾性率は10GPa以下であることが好ましい。補強樹脂層18,19の弾性率が10GPaを超えると、片面導体張積層板2A,2Bの折り曲げに対する剛性が高まる結果、片面導体張積層板2A,2Bを折り曲げた際に導体層16,17に加わる曲げ応力が上昇し、折り曲げ耐性が低下してしまう。
【0097】
よって、強度および柔軟性の観点から、補強樹脂層18,19の弾性率は、3GPa~10GPaの範囲内にあることが好ましく、6GPa~10GPaの範囲内にあることがさらに好ましい。
【0098】
なお、補強樹脂層18,19の弾性率が比較的大きければ、線膨張係数の条件を緩和することが可能である。例えば、弾性率が3GPa以上の場合、補強樹脂層18,19の線膨張係数は50ppm/℃以下であれば、寸法安定性を確保できる。
【0099】
補強樹脂層18,19の材料としては、例えば、芳香族ポリイミド等のポリイミド、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などを用いる。その他、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリアリルスルホン(ポリエーテルスルホン等)、芳香族ポリアミド、芳香族ポリエーテルアミド、ポリフェニレンスルファイド、ポリアリルエーテルケトン、ポリアミドイミド、液晶ポリエステル等を用いてもよい。
【0100】
補強樹脂層18,19は各々、1層に限らず、多層のフィルムで構成されてもよい。例えば、熱可塑性樹脂と非熱可塑性樹脂とを貼り合わせて補強樹脂層を構成してもよい。これにより、柔軟性の高い補強樹脂層が得られる。
【0101】
次に、フッ素含有コア基材の両面または片面に、第3の補強樹脂層とフッ素含有コア基材とが対向するように熱硬化性接着剤を介して片面導体張積層板を積層して第2の積層体を形成する(ステップS22)。本実施形態では、図8aおよび図8bに示すように、フッ素含有コア基材1の両面に、補強樹脂層18,19とフッ素含有コア基材1とが対向するように熱硬化性接着剤14,15を介して片面導体張積層板2A,2Bをそれぞれ積層して積層体LB2aを形成する。
【0102】
具体的手順としては、例えば、補強樹脂層18に熱硬化性接着剤14を塗布した後、片面導体張積層板2Aをフッ素含有コア基材1の上面に貼り合わせる。同様に、補強樹脂層19に熱硬化性接着剤15を塗布した後、片面導体張積層板2Bをフッ素含有コア基材1の下面に貼り合わせる。これにより、積層体LB2aが形成される。もちろん、フッ素含有コア基材1側に熱硬化性接着剤を塗布し、その後、片面導体張積層板2A,2Bをフッ素含有コア基材1に積層してもよい。
【0103】
なお、フッ素含有コア基材1の片面にのみ熱硬化性接着剤14(15)を介して片面導体張積層板2A(2B)を積層してもよい。
【0104】
また、フッ素含有コア基材1と片面導体張積層板2A,2Bとの貼り合わせは、各樹脂層のガラス転移温度より低い温度(例えば60~80℃)で加熱した状態で行うことが好ましい(いわゆる仮ラミネーション)。
【0105】
熱硬化性接着剤14,15については、第1の実施形態と同様であるので、詳しい説明は省略する。
【0106】
次に、第2の積層体を熱硬化性接着剤の硬化温度以上であり且つフッ素樹脂層の融点未満の温度に加熱して一体化する(ステップS23)。本実施形態では、ステップS22で形成された積層体LB2aを熱硬化性接着剤14,15の硬化温度以上であり且つフッ素樹脂層11の融点未満の温度に加熱して一体化する。本工程は、第1の実施形態のステップS12と同様であるので詳しい説明は省略する。
【0107】
ステップS23の一体化工程の後、加熱された積層体LB2を室温に冷却する。
【0108】
一体化工程はフッ素樹脂層11の融点未満の温度で行われるが、寸法安定性を十分に確保するためには、250℃以下の温度で加熱することが好ましい。
【0109】
以上説明した工程を経て、図9に示す第2の実施形態に係るフレキシブルプリント配線板用基板10Aが製造される。
【0110】
上述した第2の実施形態に係るフレキシブルプリント配線板用基板の製造方法によれば、第1の実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0111】
<第2の実施形態に係るフレキシブルプリント配線板用基板>
図9を参照して、第2の実施形態に係る製造方法により得られるフレキシブルプリント配線板用基板10Aについて説明する。
【0112】
フレキシブルプリント配線板用基板10Aは、フッ素含有コア基材1と、補強樹脂層12に硬化接着剤層14hを介して積層された補強樹脂層18と、補強樹脂層18の上に積層された導体層16と、補強樹脂層13に硬化接着剤層15hを介して積層された補強樹脂層19と、補強樹脂層19の上に積層された導体層17と、を備える。なお、片面導体張積層板2A,2Bは、いずれか一方のみがフッ素含有コア基材1に設けられてもよい。
【0113】
図9に示すように、補強樹脂層12と補強樹脂層18は硬化接着剤層14hにより接合され、補強樹脂層13と補強樹脂層19は硬化接着剤層15hにより接合されている。
【0114】
また、前述のように、補強樹脂層18,19の線膨張係数は、フッ素含有コア基材1のフッ素樹脂層11よりも小さい。
【0115】
フレキシブルプリント配線板用基板10Aの各層の厚みは、例えば以下の通りである。高速伝送特性を考慮すると、硬化接着剤層14h,15hと補強樹脂層12,13,18,19の厚さはフッ素樹脂層11の厚さよりもできるだけ薄くすることが好ましい。
導体層16 :12μm
補強樹脂層18 :12μm
硬化接着剤層14h :12μm
補強樹脂層12 :12.5μm
フッ素樹脂層11 :50~75μm
補強樹脂層13 :12.5μm
硬化接着剤層15h :12μm
補強樹脂層19 :12μm
導体層17 :12μm
【0116】
第2の実施形態に係るフレキシブルプリント配線板用基板10Aによれば、第1の実施形態と同様に、高周波信号の伝送に適し層間剥離が抑制されたフレキシブルプリント配線板を、高い寸法安定性で作成することができる。
【0117】
以上、本発明の2つの実施形態に係るフレキシブルプリント配線板用基板について説明した。各実施形態は任意に組み合わせてもよい。例えば、フッ素含有コア基材1の上面側の積層方法として第1の実施形態で説明した積層方法を採用し、フッ素含有コア基材1の下面側は第2の実施形態の積層方法を採用してもよい。
【0118】
本発明の実施形態に係るフレキシブルプリント配線板用基板は、例えば、高周波フラットケーブル、高周波用電線、高周波用アンテナ等の高周波用配線材料に適用可能である。
【0119】
上記の記載に基づいて、当業者であれば、本発明の追加の効果や種々の変形を想到できるかもしれないが、本発明の態様は、上述した実施形態に限定されるものではない。特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0120】
1 フッ素含有コア基材
2A,2B 片面導体張積層板
10,10A フレキシブルプリント配線板用基板
11 フッ素樹脂層
12,13 補強樹脂層
14,15 熱硬化性接着剤
14h,15h 硬化接着剤層
16,17 導体層
18,19 補強樹脂層
図1
図2a
図2b
図3
図4
図5a
図5b
図6
図7
図8a
図8b
図9