(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-13
(45)【発行日】2023-09-22
(54)【発明の名称】汚損生物付着抑制剤、汚損生物付着抑制用組成物、防汚塗膜及び防汚塗膜付き基材
(51)【国際特許分類】
C09D 133/14 20060101AFI20230914BHJP
C09D 5/16 20060101ALI20230914BHJP
C08F 20/20 20060101ALN20230914BHJP
C08L 33/14 20060101ALN20230914BHJP
【FI】
C09D133/14
C09D5/16
C08F20/20
C08L33/14
(21)【出願番号】P 2019184522
(22)【出願日】2019-10-07
【審査請求日】2022-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】中田 善知
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-171066(JP,A)
【文献】特開2003-055617(JP,A)
【文献】特開2017-189762(JP,A)
【文献】特開2002-348778(JP,A)
【文献】特表2020-502297(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-10/00
C09D 101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2以上の水酸基を有する重合性二重結合含有単量体由来の構造単位Aを有する重合体(
ただし、二重結合を2~3個有し、且つ金属を含有する重合性単量体由来の構造単位を含む場合を除く。)を含み、
前記重合体における前記構造単位
Aの含有量が、10質量%以上であ
り、
前記2以上の水酸基を有する重合性二重結合含有単量体が、下記式(1)で表される単量体を含む、汚損生物付着抑制剤。
【化1】
(式(1)中、R
1
は水素原子又はメチル基を、Xは酸素原子又は-NH-基を示す。)
【請求項2】
前記重合体が、1つの水酸基を有する重合性二重結合含有単量体由来の構造単位Bを更に有する、請求項1に記載の汚損生物付着抑制剤。
【請求項3】
前記重合体が、アルキル基の炭素数が4~12であるアルキル(メタ)アクリレート由来の構造単位Cを更に有する、請求項1又は2に記載の汚損生物付着抑制剤。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか一項に記載の汚損生物付着抑制剤と、
オキサゾリン基を有する架橋剤、エポキシ基を有する架橋剤、カルボジイミド基を有する架橋剤及びメラミン樹脂系架橋剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の架橋剤と、を含有する、汚損生物付着抑制用組成物。
【請求項5】
前記架橋剤の含有量が、前記重合体100質量部に対して、0.5~10質量部である、請求項
4に記載の汚損生物付着抑制用組成物。
【請求項6】
請求項1~
3のいずれか一項に記載の汚損生物付着抑制剤、若しくは請求項
4又は
5に記載の汚損生物付着抑制用組成物を含んでなる防汚塗膜。
【請求項7】
基材と、該基材上に設けられた請求項
6に記載の防汚塗膜と、を備える防汚塗膜付き基材。
【請求項8】
前記基材が、船舶、水中構造物、漁網、漁具、配管、用水路又は取水施設である、請求項
7に記載の防汚塗膜付き基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚損生物付着抑制剤、汚損生物付着抑制用組成物、防汚塗膜及び防汚塗膜付き基材に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物、ケイ藻、海藻、貝類、フジツボ類等の汚損生物は、物品の美観を損なう、不衛生である、物品の機能や使用効率を阻害する等といった問題を生じる。しかし、物品に一度付着した汚損生物を落とすことは通常容易ではない。そこで、汚損生物が付着することを防止する、又は汚損生物が付着したとしても容易に除去できるようにするための汚損生物付着抑制剤が種々検討されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1では、塩素化イソシアヌル酸化合物等の水溶液状態で塩素を発生する固体状漂白剤を含む汚損生物防除剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、新たな汚損生物付着抑制剤、並びに当該抑制剤を含む汚損生物付着抑制用組成物、防汚塗膜及び防汚塗膜付き基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、2以上の水酸基を有する重合性二重結合含有単量体由来の構造単位Aを有する重合体を含み、当該重合体における上記構造単位の含有量が、10質量%以上である、汚損生物付着抑制剤を提供する。
【0007】
重合体は、1つの水酸基を有する重合性二重結合含有単量体由来の構造単位Bを更に有していてもよい。
【0008】
重合体は、アルキル基の炭素数が4~12であるアルキル(メタ)アクリレート由来の構造単位Cを更に有していてもよい。
【0009】
2以上の水酸基を有する重合性二重結合含有単量体は、下記式(1)で表される単量体を含んでいてもよい。
【0010】
【化1】
(式(1)中、R
1は水素原子又はメチル基を、Xは酸素原子又は-NH-基を示す。)
【0011】
本発明はまた、上述した本発明に係る汚損生物付着抑制剤と、オキサゾリン基を有する架橋剤、エポキシ基を有する架橋剤、カルボジイミド基を有する架橋剤及びメラミン樹脂系架橋剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の架橋剤と、を含有する、汚損生物付着抑制用組成物を提供する。
【0012】
架橋剤の含有量は、重合体100質量部に対して、0.5~10質量部であってよい。
【0013】
本発明はさらに、上述した本発明に係る汚損生物付着抑制剤、又は上述した本発明に係る汚損生物付着抑制用組成物を含んでなる防汚塗膜を提供する。
【0014】
本発明はまた、基材と、上述した本発明に係る防汚塗膜と、を備える防汚塗膜付き基材を提供する。上記基材は、船舶、水中構造物、漁網、漁具、配管、用水路又は取水施設であってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、新たな汚損生物付着抑制剤、並びに当該抑制剤を含む汚損生物付着抑制用組成物、防汚塗膜及び防汚塗膜付き基材が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本明細書中、「(メタ)アクリル酸」なる用語は、アクリル酸又はメタクリル酸を意味する。「(メタ)アクリレート」のような類似の表現についても同様である。
【0017】
<汚損生物付着抑制剤>
本実施形態に係る汚損生物付着抑制剤は、2以上の水酸基を有する重合性二重結合含有単量体(以下、「単量体A」ともいう)由来の構造単位Aを有する重合体を含む。重合体における構造単位Aの含有量は、10質量%以上である。
【0018】
単量体Aとしては、重合性二重結合及び2以上の水酸基を有するものであれば、特に限定されないが、例えば、下記式(2)で表される化合物であると好ましい。単量体Aは、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0019】
【化2】
(式(2)中、R
1は水素原子又はメチル基を、R
2は2以上の水酸基を有する有機基を示す。)
【0020】
式(2)において、R2は、2以上の水酸基を有する有機基である。中でも、-COOR3基、-OCOR3基、-OR3基、-CONHR3基、-CH2OR3基、-CH2OCOR3基、-CONHR3基、-CON(R3)2基または-NHCOR3基(R3は2以上の水酸基を有する有機基を示す)であることが好ましい。
【0021】
R3は、2以上の水酸基を有する有機基であり、好ましくは2以上の水酸基を有する炭素数1~30の有機基であり、より好ましくは2以上の水酸基を有する炭素数1~20の有機基である。この有機基としては、例えば、炭素数1~20のアルキル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数4~20のポリオキシアルキレン基、炭素数7~20のアラルキル基が挙げられる。なお、1分子中にR3が2以上含まれる場合には、各R3はそれぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。また、R3には、例えば、フッ素原子、塩素原子などのハロゲン原子、窒素原子、水酸基以外の官能基等が含まれていてもよい。
【0022】
単量体Aとしては、例えば、3以上の水酸基を有する多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル、糖類と(メタ)アクリル酸とのエステル、アミノ基を有する糖類と(メタ)アクリル酸とのエステルが挙げられる。これらのエステルは、エステル化反応のみならず、エステル交換反応や(メタ)アクリル酸グリシジルエステルの開環反応によって調製されたものであってもよい。
【0023】
3以上の水酸基を有する多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ペンタグリセリン、ヘキサグリセリン、ペンタエリスリトール、1,2,6-ヘキサントリオール、2-ヒドロキシメチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオールが挙げられる。糖類としては、例えば、グルコース、マンノース、ガラクトース、グロース、フルクトース、D-リボース等の単糖類、当該単糖類から誘導されるグルコシド、ガラクトシド、フルクトシド等をはじめ、これらの二量体、三量体が挙げられる。アミノ基を有する糖類としては、例えば、D-グルコサミンが挙げられる。
【0024】
単量体Aは、汚損生物の付着をより効果的に抑制させる観点から、下記式(1)で表される単量体であるとより好ましい。
【0025】
【化3】
(式(1)中、R
1は水素原子又はメチル基を、Xは酸素原子又は-NH-基を示す。)
【0026】
式(1)で表される単量体としては、グリセロールモノアクリレート(R1=水素原子、X=酸素原子)、グリセロールモノメタクリレート(R1=メチル基、X=酸素原子)、グリセロールモノアクリルアミド(R1=水素原子、X=-NH-基)又はグリセロールモノメタクリルアミド(R1=メチル基、X=-NH-基)が挙げられる。
【0027】
なお、式(1)で表される単量体由来の構造単位は、以下の式(1’)で表される構造単位に相当する。
【0028】
【化4】
(式(1’)中、R
1及びXは式(1)と同義である。)
【0029】
単量体Aの分子量は、500以下であると好ましい。
【0030】
単量体Aとしては、1,3-ジオキソラン構造を有する単量体を、原料又は中間体として経由する方法で合成された単量体であることが好ましい。1,3-ジオキソラン構造を有する単量体を原料又は中間体として経由して合成した単量体を用いて重合した重合体は、塗膜の平滑性がよいため、汚損生物付着抑制剤として好ましい。
【0031】
単量体Aに由来する構造単位Aの含有量は、重合体の総量に対して、10質量%以上であり、防汚効果をより向上させる観点から、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上である。構造単位Aの含有量の上限は特に制限されず、重合体の総量に対して、例えば100質量%以下、98質量%以下、90質量%以下、80質量%以下、70質量%以下、又は60質量%以下であってよい。
【0032】
なお、構造単位Aは、重合体中で2以上の水酸基を有する構造単位であればよい。すなわち、単量体Aを用いて重合した構成単位であってもよく、2以上の水酸基が保護基により保護された単量体を重合した後に、保護基を脱保護する等ポリマーを変性することで水酸基を2以上有する構造を導入してもよい。
【0033】
本実施形態に係る重合体は、上記構造単位Aのほかに、1つの水酸基を有する重合性二重結合含有単量体(以下、「単量体B」ともいう)由来の構造単位Bを更に有していてもよい。
【0034】
単量体Bとしては、重合性二重結合及び1つの水酸基を有するものであれば、特に限定されないが、例えば、下記式(3)で表される化合物であると好ましい。単量体Bは、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0035】
【化5】
(式(3)中、R
3は水素原子又はメチル基を、R
4は1つの水酸基を有する有機基を示す。)
【0036】
式(3)において、R4は、1つの水酸基を有する有機基である。中でも、-COOR5基、-OCOR5基、-OR5基、-CONHR5基、-CH2OR5基、-CH2OCOR5基、-CONHR5基、-CONR5R6基または-NHCOR5基(R5は1つの水酸基を有する有機基を示し、R6は水酸基を有しない有機基を示す)であることが好ましい。
【0037】
R5は、1つの水酸基を有する有機基であり、好ましくは1つの水酸基を有する炭素数1~30の有機基であり、より好ましくは1つの水酸基を有する炭素数1~20の有機基である。この有機基としては、例えば、炭素数1~20のアルキル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数4~20のポリオキシアルキレン基、炭素数7~20のアラルキル基が挙げられる。また、R5には、例えば、フッ素原子、塩素原子などのハロゲン原子、窒素原子、水酸基以外の官能基等が含まれていてもよい。
【0038】
R6は、水酸基を有しない有機基であり、好ましくは水酸基を有しない炭素数1~30の有機基であり、より好ましくは水酸基を有しない炭素数1~20の有機基である。この有機基としては、例えば、炭素数1~20のアルキル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数4~20のポリオキシアルキレン基、炭素数7~20のアラルキル基が挙げられる。また、R6には、例えば、フッ素原子、塩素原子などのハロゲン原子、窒素原子、水酸基以外の官能基等が含まれていてもよい。
【0039】
単量体Bとしては、例えば、2つの水酸基を有するアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルが挙げられる。エステルは、エステル化反応のみならず、エステル交換反応や(メタ)アクリル酸グリシジルエステルの開環反応によって調製されたものであってもよい。
【0040】
2つの水酸基を有するアルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、プロパンジオール等が挙げられる。
【0041】
単量体Bとしては、汚損生物の付着をより効果的に抑制させる観点から、下記式(4)で表される単量体であるとより好ましい。
【0042】
【化6】
(式(4)中、R
3は水素原子又はメチル基を、Yは酸素原子又は-NH-基を示す。)
【0043】
式(4)で表される単量体としては、ヒドロキシエチルアクリレート(R3=水素原子、Y=酸素原子)、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(R3=メチル基、Y=酸素原子)等が挙げられる。
【0044】
なお、式(4)で表される単量体由来の構造単位は、以下の式(4’)で表される構造単位に相当する。
【0045】
【化7】
(式(4’)中、R
3及びYは式(4)と同義である。)
【0046】
単量体Bの分子量は、500以下であると好ましい。
【0047】
重合体が構造単位Bを含む場合の構造単位Bの含有量は特に制限されず、重合体の総量に対して、例えば10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、25質量%以上であってよく、90質量%以下、80質量%以下、70質量%以下であってよい。
【0048】
なお、構造単位Bは、重合体中で1つの水酸基を有する構造単位であればよい。すなわち、単量体Bを用いて重合した構成単位であってもよく、1つの水酸基が保護基により保護された単量体を重合した後に、保護基を脱保護する等ポリマーを変性することで水酸基を1つ有する構造を導入してもよい。
【0049】
本実施形態に係る重合体は、上記構造単位A及び場合により構造単位Bのほかに、アルキル基の炭素数が4~12であるアルキル(メタ)アクリレート(以下、「単量体C」ともいう)由来の構造単位Cを更に有していてもよい。
【0050】
単量体Cとしては、例えば、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートが挙げられる。これらの中で、n-ブチル(メタ)アクリレートが好ましい。単量体Cは、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0051】
重合体が構造単位Cを含む場合の構造単位Cの含有量は特に制限されず、重合体の総量に対して、例えば10質量%以上、15質量%以上、30質量%以上、40質量%以上であってよく、90質量%以下、80質量%以下、70質量%以下であってよい。
【0052】
本実施形態に係る重合体は、上記単量体A~Cのいずれでもない単量体(以下、「単量体D」ともいう)由来の構造単位Dを有していてもよい。
【0053】
単量体Dとしては、例えば、(メタ)アクリル酸;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル等のアルキル基の炭素数が1~3の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン等;エチレン、プロピレン、ブテン、イソプレン等のオレフィン類;N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド等のN-ビニル化合物;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル等のビニルエーテル類;メチルマレイミドが挙げられる。単量体Dは、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0054】
重合体が構造単位Dを含む場合の構造単位Dの含有量は特に制限されず、重合体の総量に対して、25質量%以下、20質量%以下、又は10質量%以下であってよい。
【0055】
上記重合体は、上述の単量体を適宜選択して重合反応を行うことにより製造することができる。重合反応の際の単量体の好ましい使用量は、上記重合体におけるこれらの単量体由来の構造単位の好ましい含有量と同様である。
【0056】
上記重合反応は、重合開始剤の存在下で行うことが好ましい。重合開始剤としては、例えば、過酸化水素;過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、2,2’-アゾビス(イソブチルニトリル)等のアゾ系化合物;過酸化ベンゾイル、過酢酸、ジ-t-ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物などが好適である。これらの重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0057】
重合開始剤の使用量としては、重合反応に使用される単量体の使用量1モルに対して、0.01g以上10g以下であると好ましく、0.1g以上5g以下であるとより好ましい。
【0058】
上記重合反応は、溶媒を使用せずに行ってもよいが、溶媒を使用することが好ましい。溶媒としては、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。溶媒の使用量としては、重合反応に使用される単量体100質量部に対して40~250質量部が好ましい。
【0059】
上記重合反応は、通常0℃以上で行われることが好ましく、また、150℃以下で行われることが好ましい。より好ましくは、40℃以上であり、更に好ましくは60℃以上であり、特に好ましくは80℃以上である。また、より好ましくは120℃以下であり、更に好ましくは110℃以下である。上記重合温度は、重合反応において、常にほぼ一定に保持する必要はなく、一度又は二度以上変動(加温又は冷却)してもよい。重合反応は、常圧、加圧、減圧のいずれの条件下で行ってもよい。
【0060】
上記重合反応において、単量体や重合開始剤等は、それぞれ反応器に一括で添加してもよく、逐次的に添加してもよい。
【0061】
重合体の製造方法は、上記重合反応工程以外の他の工程を含んでいてもよい。その他の工程としては、例えば、熟成工程、中和工程、重合開始剤や連鎖移動剤の失活工程、希釈工程、乾燥工程、濃縮工程、精製工程が挙げられる。
【0062】
本実施形態に係る汚損生物付着抑制剤は、上述の重合体のみを含むものであってもよく、上述の重合体以外の他の成分と組み合わせて用いるものであってもよい。
【0063】
また、本実施形態に係る汚損生物付着抑制剤は、取り扱い性を向上させる観点から、上述の重合体を溶媒に溶解させて溶液として用いると好ましい。溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、トルエン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン(THF)、クロロホルム、アセトン、イソプロピルアルコール(IPA)、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等を用いることができる。これらの中でも、安全性等の観点から、エタノールが好ましい。
【0064】
汚損生物付着抑制剤を溶液とした場合のその濃度は、汚損生物付着抑制剤の適用方法や、付着抑制対象となる汚損生物の種類等に併せて適宜調整することができるが、例えば、上述の共重合体の濃度が0.1~60質量%である溶液とすることができる。
【0065】
付着抑制対象となる汚損生物としては、例えば、微生物、ケイ藻、海藻、貝類、フジツボ類、ホヤ類、イガイ類、コケムシ類、クラゲ類、ヒドロ虫類等が挙げられる。
【0066】
<汚損生物付着抑制用組成物>
本実施形態に係る汚損生物付着抑制剤は、架橋剤と組み合わせて汚損生物付着抑制用組成物として用いてもよい。すなわち、本実施形態に係る汚損生物付着抑制用組成物は、上述した汚損生物付着抑制剤と、架橋剤と、を含有する。
【0067】
架橋剤としては、オキサゾリン基を有する架橋剤、エポキシ基を有する架橋剤、カルボジイミド基を有する架橋剤及びメラミン樹脂系架橋剤からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0068】
オキサゾリン基を有する架橋剤としては、例えば、2,2’-ビス(2-オキサゾリン)、2,2’-メチレン-ビス(2-オキサゾリン)、2,2’-エチレン-ビス(2-オキサゾリン)、2,2’-トリメチレン-ビス(2-オキサゾリン)、2,2’-テトラメチレン-ビス(2-オキサゾリン)、2,2’-ヘキサメチレン-ビス(2-オキサゾリン)、2,2’-オクタメチレン-ビス(2-オキサゾリン)、2,2’-エチレン-ビス(4,4’-ジメチル-2-オキサゾリン)、2,2’-p-フェニレン-ビス(2-オキサゾリン)、2,2’-m-フェニレン-ビス(2-オキサゾリン)、2,2’-m-フェニレン-ビス(4,4’-ジメチル-2-オキサゾリン)、ビス(2-オキサゾリニルシクロヘキサン)スルフィド、ビス(2-オキサゾリニルノルボルナン)スルフィド、オキサゾリン環含有重合体が挙げられる。これらは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これらの中で、反応性を向上させる観点から、オキサゾリン環含有重合体が好ましく、水溶性を有するオキサゾリン環含有重合体がより好ましい。
【0069】
オキサゾリン環含有重合体は、例えば、株式会社日本触媒製、商品名:エポクロスWS-500、エポクロスWS-700、エポクロスK-2010、エポクロスK-2020、エポクロスK-2030等として商業的に容易に入手することができる。これらの中では、反応性を向上させる観点から、株式会社日本触媒製、商品名:エポクロスWS-500、エポクロスWS-700等の水溶性を有するオキサゾリン環含有重合体が好ましい。
【0070】
エポキシ基を有する架橋剤としては、例えば、エポキシ基を2以上有するエポキシ基含有化合物が挙げられる。
【0071】
エポキシ基含有化合物としては、例えば、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル等のエポキシ基を2つ有する化合物;3官能以上のポリエチレングリコールのグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ソルビタンポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル等のエポキシ基を3つ以上有する化合物が挙げられる。
【0072】
カルボジイミド基を有する架橋剤としては、例えば、カルボジイミド基を2以上有するカルボジイミド基含有化合物が挙げられる。その具体例としては、カルボジライトV-02、カルボジライトE-01(商品名;日清紡ケミカル株式会社製)が挙げられる。
【0073】
メラミン樹脂系架橋剤としては、例えば、メラミンにホルマリンを作用させた化合物又はそのアルキル変性物が挙げられる。その具体例としては、サイテック・インダストリーズ社製の「サイメル」(登録商標)300、301、303、350、736、738、370、771、325、327、703、701、266、267、285、232、235、238、1141、272、254、202、1156、1158、三和ケミカル社の「ニカラック」(登録商標)E-2151、MW-100LM、MX-750LM、が挙げられる。
【0074】
汚損生物付着抑制用組成物における架橋剤の含有量は、上記重合体100質量部に対して、0.5~10質量部であると好ましく、0.7~7質量部であるとより好ましく、1.0~5質量部であると更に好ましい。
【0075】
架橋前の重合体及び架橋剤は、取り扱い性等の観点から、重合体及び架橋剤を含有する水性溶液とすることが好ましい。水性液体は、基材上に容易に塗布することが可能であり、得られる塗膜を架橋させることにより、基材上に架橋体を形成することができる。
【0076】
水性溶液とは、水又は含水率が50質量%以上である水と親水性有機溶媒との混合溶媒の溶液を意味する。親水性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール、アリルアルコールなどの1価アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、ジプロピレングリコールなどの多価アルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトンなどのケトン、ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、アセト酢酸メチルなどの脂肪族有機酸アルキルエステル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルなどの多価アルコールのアルキルエーテルが挙げられる。これらの親水性有機溶媒は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。水性媒体としては、水が好ましい。
【0077】
水性溶液における重合体及び架橋剤の濃度は特に限定されないが、例えば、0.5~60質量%とすることができる。
【0078】
また、重合体及び架橋剤は、それぞれ別々に溶解させた水性溶液を調製した上で、基材上に架橋剤の溶液、重合体の溶液の順で塗布した後に架橋させてもよい。
【0079】
上述の重合体及び架橋剤を架橋させる際の条件は、用いる架橋剤の種類に合わせて調整することができるが、例えば、50~150℃で5~120分熱処理する条件で架橋させることができる。
【0080】
<防汚塗膜及び防汚塗膜付き基材>
本実施形態に係る防汚塗膜は、上述した汚損生物付着抑制剤又は汚損生物付着抑制用組成物を含んでなる。本実施形態に係る防汚塗膜を基材上に形成して、基材と、該基材上に設けられた防汚塗膜と、を備える防汚塗膜付き基材とすることにより、基材の防汚性を向上させることができる。
【0081】
基材上に防汚塗膜を形成する方法は、特に限定されないが、例えば、汚損生物付着抑制剤又は汚損生物付着抑制用組成物の溶液に基材を浸漬する方法、当該溶液を基材にスプレーする方法等が挙げられる。また、基材上に、上述した架橋剤の溶液を用いてアンダーコートを形成させ、該アンダーコート上に汚損生物付着抑制剤を用いて防汚塗膜を形成してもよい。防汚塗膜の膜厚は、特に限定されないが、例えば、0.01μm~200μm、好ましくは0.1μm~100μm、更に好ましくは0.5μm~10μmとすることができる。
【0082】
本実施形態の防汚塗膜は、海水に接する可能性のある基材、例えば、船舶、水中構造物、漁網、漁具、配管、用水路、取水施設等の物品に好適に使用することができる。
【実施例】
【0083】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0084】
<合成例>
[GLMA(グリセロールモノアクリレート)]
撹拌子を入れた反応容器にガス導入管、温度計、冷却管、及び、留出液受器に繋げたトの字管を付し、アクリル酸メチル230g、2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン-4-メタノール(DOM)70gを仕込み、ガス導入管を通して酸素/窒素混合ガス(酸素濃度7vol%)を吹き込みながら反応溶液を攪拌し、オイルバス(バス温110℃)で加熱を開始した。留出液に水が出てこなくなってから、チタンテトライソプロポキシド4.5gを反応容器に添加し、エステル交換反応を開始させた。生成してくるメタノールをアクリル酸メチルで共沸留去しながら、ガスクロマトグラフィ(GC)分析によりiPGLMA(イソプロピリデングリセリルアクリレート)/DOMの面積比を追跡した。反応開始から7時間後のGC分析で、iPGLMA/DOMの面積比が9/1を超えたのを確認し、反応を終了し、室温まで冷却した。このようにして、GLMA合成の中間体として、1,3―ジオキソラン構造を有する単量体である、iPGLMAを得た。反応液に精製水150gと抽出溶媒として酢酸エチル300gを加え10分撹拌した。チタンテトライソプロポキシドの加水分解により生じた酸化チタンの沈殿を、吸引濾過で除いた濾液を分液漏斗に移し、有機層と水層を分離した。有機層を精製水で2回洗浄したのち、ロータリーエバポレーターに移し、残存アクリル酸メチル及び軽沸成分を留去し、iPGLMA96gを得た。
【0085】
撹拌子を入れたナスフラスコにガス導入管を設け、精製水160mlとiPGLMA80gを加えて溶解させた後に、予め水に浸漬後に風乾した固体酸触媒アンバーリスト15Jwet(オルガノ社製)を35g加えた。ガス導入管を通して酸素/窒素混合ガス(酸素濃度7vol%)を吹き込みながら反応溶液を攪拌し、室温下で脱保護反応を開始させた。GC分析によりGLMA/iPGLMAの面積比を追跡し、面積比が99/1を超えたのを確認し、4時間で反応を終了した。固体酸触媒を濾別して得られた濾液をn-ヘキサンで洗浄し、未反応iPGLMAを除いた。水層を減圧濃縮し、目的とするGLMA53gを得た。
【0086】
[重合体1]
撹拌子を入れた反応容器にガス導入菅、温度計、冷却管を付し、単量体としてGLMA13.3g、アクリル酸(AA)0.7g、溶媒としてイオン交換水125.0gを仕込み、窒素ガスを流しながら98℃まで昇温した。アゾ系ラジカル重合開始剤0.007g(和光純薬株式会社製、商品名:VA086)をイオン交換水1.0gに溶解した溶液を投入し、重合反応を開始した。温度を99℃以上に保ちながら、反応を7時間継続し、その間、反応開始から1時間後、3時間後、5時間後にそれぞれ、0.0035gのVA086をイオン交換水0.5gに溶解した溶液を投入した。
【0087】
得られた重合体1は、GPCにより測定した重量平均分子量(標準ポリスチレン換算)が、369000であった。また、E型粘度計により測定した反応液の溶液粘度は25℃において19.1mPa・sであった。
【0088】
[重合体2]
撹拌子を入れた反応容器にガス導入菅、温度計、冷却管を付し、単量体としてGLMA45.0g、ブチルアクリレート(BA)45.0g、溶媒としてエタノール45g、イオン交換水15gを仕込み、窒素ガスを流しながら80℃まで昇温した。アゾ系ラジカル重合開始剤0.009g(和光純薬株式会社製、商品名:V-601)をエタノール0.5gに溶解した溶液を投入し、重合反応を開始した。温度を80℃以上に保ちながら、反応を10時間継続し、その間、反応開始から1時間後、2時間後、4時間後、6時間後、8時間後にそれぞれ、0.009gのV-601をエタノール0.5gに溶解した溶液を投入した。
【0089】
得られた重合体2は、GPCにより測定した重量平均分子量(標準ポリスチレン換算)が、114000であった。
【0090】
[重合体3]
単量体としてGLMA3.5g、ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)9.8g、AA0.7gを用いた以外は、重合体1と同様にして、重合体3を得た。
【0091】
得られた重合体3は、GPCにより測定した重量平均分子量(標準ポリスチレン換算)が、397000であった。
【0092】
<実施例1>
上記で得られた重合体1を固形分換算で100質量部、及び架橋剤としてのエポクロスWS-700(オキサゾリン系架橋剤:株式会社日本触媒製)を固形分換算で5質量部配合し、エタノールで希釈して濃度5%に調製した。得られた溶液を、基材としての3cm×3cmの硬質塩化ビニル樹脂板上に、バーコーターを用いて塗布し、室温で乾燥後、熱風乾燥機により120℃で30分間、熱処理し試料サンプルとした。
【0093】
<実施例2~5>
重合体及び架橋剤の種類及び配合比を下記表1に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして、試料サンプルを得た。表1中の商品名又は略語の詳細を以下に示す。
(架橋剤)
WS700:エポクロスWS-700(オキサゾリン基含有架橋剤:株式会社日本触媒製)
V-02:カルボジライト V-02(カルボジイミド基含有架橋剤:日清紡ケミカル株式会社製)
【0094】
<実施例6>
上記で得られた重合体1と、エポクロスWS-700(オキサゾリン系架橋剤;株式会社日本触媒製)を、それぞれエタノール/イオン交換水=75/25(wt/wt)の混合溶媒で希釈して濃度10%の溶液を調製した。まず、エポクロスWS-700の溶液を3cm×3cmの硬質塩化ビニル樹脂板上にバーコーターを用いて塗布し、室温で乾燥してアンダーコートを形成した後、その上から重合体1の溶液を、バーコーターを用いて塗布した。室温で乾燥した後、熱風乾燥機により、120℃で30分間、熱処理し試料サンプルとした。
【0095】
<比較例1>
何も塗装しない3cm×3cmの硬質塩化ビニル樹脂板を準備した。
【0096】
<汚損生物付着試験>
実施例1~6及び比較例1の試料サンプルに対し、以下の方法で汚損生物付着試験を実施した。
【0097】
試験生物として、内湾海域の人工構造物に大量付着するタテジマフジツボの付着期幼生(キプリス)を用いた。タテジマフジツボ成体(姫路沿岸産)は、循環式水槽(水温23±1℃)内でアルテミアを給餌することによって、維持・飼育した。成体から孵出したノープリウス幼生を回収し、ろ過海水で満たしたガラスビーカー内に移し、浮遊珪藻Cheatoceros calcitransを与えて飼育することによって、人工的に付着期幼生(キプリス幼生)を得た。得られたキプリス幼生は冷暗処理によって維持した。これらの幼生を試験前に室温に戻し、活発に遊泳する固体を選別し、付着試験に用いた。
【0098】
80mLポリプロピレン容器(68×68×35mm)の底面に試料サンプルを静置し、海水と付着期幼生を投入した。なお、海水は、姫路市沿岸より採取した天然海水をポアサイズ0.45μm(東洋濾紙)の混合セルロースメンブレンにてろ過したものを使用した。海水性状は、塩分濃度2.88%、pH8.19であった。
【0099】
室温25℃前後、昼間は明下(実験室照明)、夜間は暗下として10日間静置後、付着期幼生の付着率を算出した。結果を表1に示す。
【0100】