(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-13
(45)【発行日】2023-09-22
(54)【発明の名称】電極用触媒、電極用触媒層、膜電極接合体及び水電解装置
(51)【国際特許分類】
C25B 11/081 20210101AFI20230914BHJP
B01J 27/135 20060101ALI20230914BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20230914BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20230914BHJP
C25B 11/057 20210101ALI20230914BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20230914BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20230914BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20230914BHJP
【FI】
C25B11/081
B01J27/135 M
C25B9/00 A
C25B9/23
C25B11/057
H01M4/86 B
H01M4/90 X
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2019228820
(22)【出願日】2019-12-19
【審査請求日】2022-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷口 浩司
【審査官】今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/077857(WO,A1)
【文献】特開2017-179408(JP,A)
【文献】特表2007-514520(JP,A)
【文献】特開2017-183273(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 11/04
B01J 27/135
H01M 4/90
H01M 4/86
H01M 8/10
C25B 9/23
C25B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体に触媒が担持された触媒担持担体を含んでなる電極用触媒であって、
前記担体は酸化スズを含んでなり、
前記触媒は貴金属元素の酸化物及びハロゲン元素を含んでなり、
前記貴金属元素に対する前記ハロゲン元素の割合が0.04at.%以上7at.%以下であり、
前記触媒中において貴金属元素の酸化物とハロゲン元素とが結合して
おり、
水蒸気を含む酸素雰囲気中での熱加水分解法に基づく、400℃におけるハロゲン元素の脱離量をA(質量%)とし、400℃から1000℃へ加熱した際の1000℃におけるハロゲン元素の脱離量をB(質量%)としたとき、下記式の関係を満たす、電極用触媒。
B/(A+B)≧0.65
【請求項2】
酸化スズが、タンタル、アンチモン、ニオブ、バナジウム、タングステン及びモリブデンからなる群より選択される少なくとも一種の元素を含む、請求項
1に記載の電極用触媒。
【請求項3】
貴金属元素がイリジウム及びルテニウムの少なくとも一種の元素を含む、請求項1
又は2に記載の電極用触媒。
【請求項4】
電極用触媒に占める貴金属元素の割合が10質量%以上75質量%以下である、請求項1ないし
3のいずれか一項に記載の電極用触媒。
【請求項5】
請求項1ないし
4のいずれか一項に記載の電極用触媒とアイオノマとを含んでなる電極用触媒層。
【請求項6】
電極用触媒層の単位面積あたりの貴金属元素の量が0.07mg/cm
2以上0.75mg/cm
2以下である、請求項
5に記載の電極用触媒層。
【請求項7】
担体に対するアイオノマの割合が3質量%以上である、請求項
5又は
6に記載の電極用触媒層。
【請求項8】
請求項
5ないし
7のいずれか一項に記載の電極用触媒層が固体高分子電解質膜の少なくとも一面に形成されてなる膜電極接合体。
【請求項9】
請求項
8に記載の膜電極接合体を酸素発生極に備えた水電解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電極用触媒に関する。また本発明は、該電極用触媒を含む電極用触媒層、該電極用触媒層を備えた膜電極接合体、及び該膜電極接合体を備えた水電解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池や水電解装置等における電気化学セルでは、それらの運転条件の変動に起因して電位が大きく変動することがあり、そのことがセル特性の劣化の一因となる。この対策として、電極に用いられる貴金属触媒の酸化還元耐性を高める取り組みが求められている。
【0003】
近年、貴金属触媒の担体として金属酸化物を使用することが提案されている(特許文献1参照)。特に、五価の金属元素がドープされたSnO2は高い電子伝導性を示すことから良好な電気化学特性が期待できる(特許文献2及び非特許文献1参照)。しかしスズは、比較的貴な金属、すなわち還元されやすい金属であることから、単純にスズの酸化物を担体として用い、これに貴金属元素を担持させた設計とすると、還元雰囲気下では、触媒として使用する貴金属元素と反応しやすい。このことに起因して、セルの電位変動が繰り返し起こると貴金属触媒の劣化が一層起こりやすくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-37816号公報
【文献】特開2016-47524号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Electrochimica Acta,2010年,Vol.55,pp1978-1984
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、セルの電位変動に起因する貴金属触媒の劣化を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、担体に触媒が担持された触媒担持担体を含んでなる電極用触媒であって、
前記担体は酸化スズを含んでなり、
前記触媒は貴金属元素の酸化物及びハロゲン元素を含んでなり、
前記貴金属元素に対する前記ハロゲン元素の割合が0.04at.%以上7at.%以下であり、
前記触媒中において貴金属元素の酸化物とハロゲン元素とが結合している電極用触媒を提供するものである。
【0008】
また本発明は、前記の電極用触媒とアイオノマとを含んでなる電極用触媒層を提供するものである。
【0009】
更に本発明は、前記の電極用触媒層が固体高分子電解質膜の少なくとも一面に形成されてなる膜電極接合体、及び該膜電極接合体を酸素発生極に備えた水電解装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、酸化スズに担持された貴金属触媒の劣化の抑制が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の電極用触媒は、電極に配されて各種の電気化学反応の触媒として用いられるものである。本発明の電極用触媒が用いられる電気化学反応は一般的には水系のものである。水系での電気化学反応としては、例えば燃料電池の負極における水素ガスの酸化や正極における酸素ガスの還元、水電解装置の正極における酸素ガスの発生や負極における水素ガスの発生などが典型的なものとして挙げられるが、これらに限られない。
本発明の電極用触媒は触媒担持担体を含んでいる。触媒担持担体は、担体と、該担体に担持された触媒とを有している。以下、担体及び触媒について説明する。
【0012】
担体は、対象とする電気化学反応に影響を及ぼさない不活性な材料であることが好ましい。また担体は、対象とする電気化学反応によって劣化しないものであることも好ましい。更に担体は導電性を有していることも好ましい。これらの観点から、担体は導電性を有する金属酸化物であることが好ましく、特にスズの酸化物であることが好ましい。スズの酸化物には、例えば四価のスズの酸化物であるSnO2や、二価のスズの酸化物であるSnOなどがある。本明細書では、これらの酸化物を総称して「酸化スズ」という。酸化スズはSnO2を主体とすることが、電極用触媒の耐酸性を高める観点から好ましい。「SnO2を主体とする」とは、酸化スズのうちの50モル%以上がSnO2からなることをいう。
【0013】
担体は粒子の形態で好ましく用いられる。粒子の形態に特に制限はない。好ましくは、担体は、一次粒子が凝集した二次粒子の形態をしている。本明細書において一次粒子とは、外見上の幾何学的形態から判断して、粒子としての最小単位と認められる物体のことである。二次粒子は、一次粒子が2個以上凝集したものから構成されている。一次粒子の凝集は、例えば分子間力、化学結合、又はバインダによる結合等に起因して生じるものである。
担体の一次粒子の粒径は、担体の比表面積を確保して貴金属が凝集することを抑制する観点から5nm以上200nm以下であることが好ましく、5nm以上50nm以下であることが更に好ましい。担体の一次粒子径は、電子顕微鏡像や小角X線散乱から測定される担体の一次粒子径の平均値により得ることができる。例えば、電子顕微鏡像で観察し、500個以上の粒子を対象として最大横断長を測定し、その平均値を算出することで求められる。
また、担体の二次粒子の粒径は、電極用触媒の製造時のハンドリング性の観点から0.1μm以上10μm以下であることが好ましく、0.5μm以上5μm以下であることが更に好ましい。この粒径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50のことである。
【0014】
担体が上述した酸化スズからなる場合、該酸化スズの導電性を高めることを目的として、スズ及び酸素以外の元素が該酸化スズに含まれていることが好ましい。例えば金属元素及び/又は半金属元素が含まれていることが好ましい。そのような元素としては、例えばタンタル、アンチモン、ニオブ、バナジウム、タングステン及びモリブデンからなる群より選択される少なくとも一種が挙げられる。特に、酸化スズの導電性が高まる点から、タンタル及びアンチモンのうちの少なくとも一種を酸化スズに含有させることが好ましい。これらの元素のうちアンチモンは、導電性が特に好適であるものの溶出しやすい一面を備えているので、電子伝導性を維持しつつアンチモンの溶出を防止し得る観点から、アンチモンに加えてタンタルを酸化スズに含有させることが特に好ましい。以下、酸化スズに含まれるこれらの元素のことを「添加元素」ともいう。なお、本発明の効果を阻害しない範囲において、担体は、酸化チタン等の酸化スズ以外の物質を含んでいてもよい。
【0015】
添加元素は、酸化スズ中に固溶しているか、又は酸化スズ中に添加元素の化合物(例えば添加元素の酸化物)の状態で混在している。添加元素が酸化スズ中に固溶しているとは、酸化スズにおけるスズのサイトが添加元素で置換されていることを意味する。添加元素が酸化スズ中に固溶していると、酸化スズの導電性が一層高くなるので好ましい。なお、添加元素が酸化スズ中に固溶しているかどうかは、本発明の電極用触媒をX線回折(XRD)分析して得られる回折ピークにおいて、酸化スズのピークがシフトするか否かによって判断できる。
【0016】
酸化スズに含まれる添加元素の含有率は、添加元素をMとすると、M(mol)/(Sn(mol)+M(mol))×100で表して、好ましくは0.1mol%以上10mol%以下である。以下、この値を「添加元素含有率」という。添加元素含有率を0.1mol%以上に設定することで、比表面積を確保しつつ添加元素を含有する酸化スズの導電性を十分に高くすることができる。添加元素含有率は好ましくは0.5mol%以上とする。一方で、担体の結晶性を維持する観点から、添加元素含有率を10mol%以下とすることが好ましく、5mol%以下とすることがより好ましい。
【0017】
酸化スズにおける添加元素含有率は、例えば次の方法で測定することができる。電極用触媒を適当な方法で溶解して溶液となし、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析によりこの溶液を分析し、スズの濃度及び添加元素の濃度を測定することにより算出する。ICP発光分析に代えて、蛍光X線(XRF)分析を用いることもできる。
【0018】
担体の表面には触媒が担持されている。触媒は貴金属元素を含んでいることが好ましく、金、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム及びオスミウムなどが挙げられる。これらの貴金属元素は、一種を単独で用いることができ、あるいは二種以上を組み合わせて用いることもできる。これらの貴金属元素のうち、触媒能が劣化しづらい点から、イリジウム及びルテニウムのうちの少なくとも一種の元素を含むことが好ましく、少なくともイリジウムを含むことが特に好ましい。
【0019】
本発明においては、触媒能の劣化を抑制し得る観点から貴金属元素は酸化物の形態で存在することが好ましい。酸化物の形態として例えば少なくとも一部が酸化物で存在していればよく、金属単体の状態の貴金属元素や、酸化物以外の化合物を形成している貴金属元素が共存していることを妨げるものではない。尤も、触媒能の劣化を一層抑制し得る点からは、貴金属元素のうち、酸化物の状態で存在しているものの割合が75at.%以上であることが好ましい。
【0020】
貴金属元素が酸化物の形態で存在するか否かは、電極用触媒をXPSによって測定し、該電極用触媒中の該貴金属元素のピークを波形分離し、酸化物に帰属される結合エネルギー位置にピークが存在するか否かをもって判断する。また、酸化物の状態で存在する割合は、波形分離を行ったピークのうち、酸化物に帰属されるピーク面積と金属に帰属されるピーク面積の比率で算出することができる。酸化物のピークは、Surface and Interface Analysis 49 (8), pp. 794-799に記載の結合エネルギーに基づき帰属を決定する。
【0021】
触媒は、貴金属元素に加えてハロゲン元素を含んでいることが、触媒能の劣化を抑制し得る観点から好ましい。ハロゲン元素としては、例えばフッ素、塩素、ヨウ素及び臭素などが挙げられる。これらのハロゲン元素は、一種を単独で用いることができ、あるいは二種以上を組み合わせて用いることもできる。これらのハロゲン元素のうち、貴金属元素との強固な結合を形成しやすく触媒能が劣化し難くなる点から、少なくとも塩素、ヨウ素及び臭素のいずれかを用いることが好ましい。
【0022】
触媒を構成する貴金属元素とハロゲン元素とは、化学的に結合した状態で存在することが好ましい。貴金属元素が上述のとおり酸化物を形成し、該酸化物とハロゲン元素とが化学的に結合すると、貴金属元素の酸化還元電位が卑な方向へシフトする。そのことによって、貴金属元素の酸化物の還元が生じ難くなる。貴金属元素の酸化物の還元が生じ難くなると電気化学反応が生じている間に貴金属相変化が生じ難くなり、それによって電極用触媒の劣化が抑制されるものと考えられる。
貴金属元素の酸化物とハロゲン元素との結合の具体的な態様としては、Z-O-Xや、-O-Z-Xなどが挙げられるが、これらに限られない。式中、Zは貴金属元素を表し、Xはハロゲン元素を表す。
なお、特許文献2に記載の技術では貴金属元素とハロゲン元素とが結合していないため、後述する比較例1に示すとおり電極用触媒の劣化が観察されることとなる。非特許文献1に記載の技術については、塩素含有貴金属原料塩と担体成分との固相反応が生じるため担体表面に塩素が残存しているに過ぎず、本発明の構造の電極用触媒は得られない。よって、非特許文献1に記載の技術についても電極用触媒の劣化が観察されることとなる。
【0023】
本発明においてハロゲン元素が貴金属元素の酸化物と結合しているか否かは、以下に述べる方法によって確認することができる。
すなわち、本発明の電極用触媒を、水蒸気を含む酸素雰囲気中での熱加水分解法に付す。熱加水分解法による評価は、例えば三菱ケミカルアナリテック社製 自動試料燃焼装置(AQF-2100H)を用いて行うことができる。当該装置に基づき熱加水分解を行い、400℃におけるハロゲン元素の脱離量をA(質量%)とし、400℃から1000℃へ加熱した際の1000℃におけるハロゲン元素の脱離量をB(質量%)とする。当該A及びBの値が以下の式(1)で示される関係を満たす場合、ハロゲン元素が貴金属元素の酸化物と十分に結合していると判断できる。
B/(A+B)≧0.65 (1)
【0024】
前記の式(1)を満たす電極用触媒は、電気化学反応が生じている間における劣化が一層抑制されたものになるので好ましい。特に、B/(A+B)が0.75以上であることがより好ましく、0.85以上であることが更に好ましい。上述したハロゲン元素の脱離量A,Bの測定方法は、後述する実施例において詳述する。なお、上述したハロゲン元素の脱離量A,Bが、上述の装置で測定したときに検出下限値未満の場合には、ゼロとみなして式(1)を算出する。また、以下、B/(A+B)で表される値を「ハロゲン脱離率」ともいう。
【0025】
本発明の電極用触媒においては、電極用触媒の劣化を抑制し得る程度に貴金属元素の酸化物とハロゲン元素との結合を十分に形成させる観点から、貴金属元素に対するハロゲン元素の割合が0.04at.%以上であることが好ましく、0.06at.%以上であることが更に好ましい。
上限としては、貴金属元素が溶出することを防止する観点から7.0at.%であることが好ましく、5.8at.%であることが更に好ましく、4.0at.%であることが一層好ましい。
貴金属元素に対するハロゲン元素の割合の測定方法は、後述する実施例において詳述する。
【0026】
電極用触媒に占める貴金属元素の割合は、10質量%以上とすることが好ましく、12質量%以上とすることがより好ましい。
電極用触媒の担体として本発明のように酸化スズを用いると、触媒層の単位面積あたりの貴金属使用量を増加させても電気化学反応の特性の大幅な向上は見られない。つまり、酸化スズを担体として用いると、電気化学反応に寄与している貴金属触媒は、触媒層中の一部分に限られていることが示唆されている。
そこで、本発明においては、電極用触媒に占める貴金属元素の割合を10質量%以上とすることによって、電気化学反応に寄与している触媒層中の貴金属面積を確保し、貴金属粒子上への過度な電流の集中を緩和することによって、触媒能の劣化をより効果的に防止するようにしている。
【0027】
一方で、上限には特に拘りはなく、触媒性能を発揮させる観点から75質量%含んでいれば十分である。また、貴金属が高分散担持する状態を維持する観点からは、上限を53質量%とすることがより好ましく、39質量%とすることが特に好ましい。この割合の測定方法は、後述する実施例において詳述する。
【0028】
次に、本発明の電極用触媒の好適な製造方法について説明する。まず、触媒を担持するための担体の好適な製造方法について説明する。担体は、例えば湿式合成法や、プラズマ合成法によって好適に製造することができる。
湿式合成法においては、スズ源及び必要に応じて添加元素源を含む溶液から、スズの沈殿物を生成させ、次いで該沈殿物を焼成することで、酸化スズを含む担体を得ることができる。添加元素源も併用する場合には、スズ及び添加元素を含む共沈物を生成させ、次いで該共沈物を焼成することで、酸化スズ及び添加元素を含む担体を得ることができる。得られた担体を、必要に応じてスプレードライ法に付して造粒してもよい。焼成は、例えば大気雰囲気下に行うことができる。
【0029】
担体が得られたら、触媒の担持工程を行う。触媒を担体の表面に担持させる方法に特に制限はなく、当該技術分野においてこれまで知られている方法と同様の方法を採用することができる。例えば、貴金属元素としてイリジウムを用いる場合には、イリジウム源として塩化イリジウム(IV)酸等を用い、これらをコロイド法、中和法、液相化学還元法等の公知の手法を用いることで、担体にイリジウムを担持させることができる。イリジウム源としてハロゲン元素を含むイリジウム化合物、例えば上述した塩化イリジウム(IV)酸を用いれば、イリジウムとハロゲン元素とを同時に供給できる。イリジウム源がハロゲン元素を含まない場合には、イリジウム源に加えて、ハロゲン源となる化合物を添加することが好ましい。ハロゲン源としては例えば塩化カリウム等のアルカリ金属のハロゲン化物などが挙げられる。
【0030】
コロイド法においては、例えばイリジウムを含有するコロイドの前駆体を含む液に還元剤を添加して該前駆体を還元し、イリジウムを含有するコロイドを生成させる。そして、生成したイリジウムを含有するコロイドを含む液に担体を分散し、該担体に、イリジウムを微粒子として担持させる。コロイド法の詳細は、例えばWO2009/060582や特開2006-79904号に記載されている。
【0031】
中和法においては、まず貴金属元素源及びハロゲン源を水に溶解して水溶液を調製する。この水溶液のpHを調整して弱塩基性とする。次いでこの水溶液に担体を添加して懸濁液を調製し、この懸濁液を60℃ないし100℃に加熱して、担体の表面に、貴金属元素及びハロゲン元素を含む触媒を生成させる。その後、懸濁液を室温まで冷却して触媒を熟成させる。
【0032】
このようにして、貴金属元素及びハロゲン元素を含む触媒を担体の表面に付着させたら、次に熱処理を行う。この熱処理は、貴金属元素を酸化させて酸化物を生成させるとともに、該酸化物とハロゲン元素との間に結合を生じさせる目的で行われる。この目的のために、熱処理は酸素含有雰囲気下で行うことが好適である。酸素含有雰囲気としては、例えば大気を用いることが簡便である。大気以外にも、不活性ガスで希釈した酸素ガスを用いることができる。なお、還元雰囲気で熱処理を行っても、貴金属元素の酸化物とハロゲン元素との間に結合を生じさせることはできないので、目的とする電極用触媒は得られない。
【0033】
熱処理の温度は、貴金属元素の酸化物とハロゲン元素との間に結合を確実に生じさせる観点から、180℃以上450℃以下に設定することが好ましく、200℃以上350℃以下に設定することが更に好ましい。熱処理の時間は、熱処理の温度がこの範囲内であることを条件として、0.5時間以上8時間以下であることが好ましく、1時間以上4時間以下であることが更に好ましい。
【0034】
以上のようにして、目的とする本発明の電極用触媒が得られる。この電極用触媒を用い、固体高分子電解質膜の少なくとも一面に電極用触媒層を形成することで膜電極接合体が得られる。具体的には、電極用触媒を、固体高分子電解質膜の一方の面に配置されたカソード及び他方の面に配置されたアノードを有する膜電極接合体におけるアノード及び/又はカソードに含有させて用いることができる。特に本発明の電極用触媒を、少なくともアノードに含有させて用いると、劣化が顕著に抑制されるので有利である。例えば本発明の電極用触媒を含む膜電極接合体を、水電解装置のアノードである酸素発生極に用いたり、燃料電池のアノードである燃料極(水素ガスの酸化極)に用いたりすることができる。
【0035】
電極における電気化学反応を円滑に進行させるために、電極用触媒は固体高分子電解質膜に接していることが好ましい。具体的には、固体高分子電解質膜の少なくとも一方の面に、本発明の電極用触媒を含む触媒層を直接形成することが好ましい。これによって、CCM(Catalyst Coated Membrane)が得られる。この触媒層は、アノードの電極用触媒層であることが好ましい。
【0036】
電極用触媒層は、電極用触媒に加えて他の成分を含んでいてもよい。電極用触媒層は例えばアイオノマを含むことができる。アイオノマはプロトン伝導性を有することが好ましい。電極用触媒層にアイオノマが含まれることで、該触媒層の性能が一層向上する。アイオノマとしては、例えば、末端にスルホン酸基を有するパーフルオロエーテルペンダント側鎖が、ポリテトラフルオロエチレン主鎖結合した構造を有する高分子材料を用いることができる。そのようなアイオノマとしては、例えばナフィオン(登録商標)、フレミオン(登録商標)、アシプレックス(登録商標)、フミオンF(登録商標)などが挙げられる。
【0037】
アイオノマとしては、例えば固体高分子電解質膜と同種の化合物を用いることが好ましい。具体的には、固体高分子電解質膜が含フッ素高分子化合物である場合には、電極用触媒層に含有されるアイオノマとして該含フッ素高分子化合物と同種の化合物を用いることができる。
【0038】
電極用触媒層にアイオノマが含まれる場合、該アイオノマ及び担体の量を調整することが、電極用触媒層の性能の向上の点から有利である。例えば電極用触媒層において、担体を十分にアイオノマで被覆することができ、触媒層中のプロトン伝導性を十分に確保する観点から、担体の質量Sに対するアイオノマの質量Iの比率であるI/S×100の値を、3質量%以上とすることが好ましく、5質量以上とすることが更に好ましく、7質量%以上であることが一層好ましい。一方、アイオノマの存在割合が高くなることにより電気抵抗が増加するのを低く抑える観点から、I/S×100の値は、50質量%以下とすることが好ましく、30質量%以下とすることがより好ましく、15質量%以下とすることが更に好ましい。なおアイオノマは分散液の状態で提供されることが多いところ、前記のアイオノマの質量Iとは、分散液における固形分の質量のことである。
【0039】
前記の電極用触媒層においては、該電極用触媒層の単位面積あたりの貴金属元素の量を調整することが、十分な触媒能を発現させる観点から有利である。詳細には、貴金属の反応面積を十分確保する観点から、電極用触媒層の単位面積あたりの貴金属元素の量を0.07mg/cm2以上とすることが好ましく、0.09mg/cm2以上とすることが更に好ましく、0.12mg/cm2以上とすることが一層好ましい。一方、触媒層の抵抗増加を抑制する観点から、電極用触媒層の単位面積あたりの貴金属元素の量を0.75mg/cm2以下とすることが好ましく、0.54mg/cm2以下とすることがより好ましく、0.45mg/cm2以下とすることが一層好ましい。
【0040】
固体高分子電解質としては、この種の技術分野において従来用いられてきたものと同様のものを用いることができる。例えばパーフルオロスルホン酸ポリマー系のプロトン伝導体膜、リン酸などの無機酸を炭化水素系高分子化合物にドープさせたもの、一部がプロトン伝導体の官能基で置換された有機/無機ハイブリッドポリマー、高分子マトリックスにリン酸溶液や硫酸溶液を含浸させたプロトン伝導体などが挙げられる。
【0041】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば前記実施形態においては、本発明の電極用触媒を、水電解装置や、固体高分子電解質形燃料電池の電極用触媒として用いた例を中心に説明したが、本発明の電極用触媒を、他の用途、例えばアルカリ形燃料電池、リン酸形燃料電池、直接メタノール形燃料電池などの各種燃料電池における電極用触媒として用いることもできる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0043】
〔実施例1〕
(1)担体の製造
(1-1)タンタル含有溶液の調製
5gのTaCl5を115mLのエタノールに溶解し、引き続き115mLの水を添加して、タンタル含有溶液を得た。この溶液に25%アンモニア水をpHが10になるまで滴下した。それによって液中に沈殿が生じた。この沈殿を濾別回収し、洗浄した後、30%過酸化水素水22.5gと、シュウ酸2水和物10.5gと、純水117gとを添加した。これによってタンタル含有溶液を再び得た。
【0044】
(1-2)ゾルゲル法による酸化スズの生成
2.2%のアンチモンを含むスズ箔10gと、33.3gのクエン酸との混合物に、40%硝酸水溶液250mLを添加した。これによって溶液を得た。この溶液に、(1-1)で得られたタンタル含有溶液10.6gを添加、混合した。得られた混合液に、25%アンモニア水を液のpHが8になるまで滴下した。この液を100℃で2時間にわたり還流した。液が冷却した後、遠心分離して固形分を回収し、それを水洗した。得られた固形物を大気下に120℃で1晩にわたり乾燥した後、乳鉢で粉砕した。粉砕後の固形物を大気下に730℃で2時間にわたり焼成した。これによって、タンタル及びアンチモン含有酸化スズ粒子(Ta,Sb:SnO2)を得た。
添加元素含有率((Sb(mol)+Ta(mol))/(Sn(mol)+Sb(mol)+Ta(mol))×100)は3.3mol%であった。
【0045】
タンタル及びアンチモン含有酸化スズ粒子を、メノウ乳鉢で粗砕して平均粒径を100μm以下になるようにし、次いでイットリウム安定化ジルコニア製のボールを使用してボールミルで粉砕した。ボールミルによる粉砕においては、タンタル及びアンチモン含有酸化スズ粒子40gを、純水700mL及びエタノール40gと混合してスラリーとなし、このスラリーを粉砕に用いた。粉砕後、スラリーとボールとを分離し、分離されたスラリーを用いて噴霧乾燥法による造粒を行い、造粒物を得た。造粒条件は、入口温度:220℃、出口温度60℃、噴霧圧力:0.15~0.20MPa、送液速度:8.3mL/分、スラリー濃度:10g/250mLとした。
【0046】
得られた造粒物を大気雰囲気下に、700℃、5時間の条件で焼成を行った。得られたタンタル及びアンチモン含有スズ酸化物造粒物は、二次粒子の粒径D50が2.6μmの略球状であった。このようにして担体を得た。
【0047】
(2)触媒の担持
得られた担体にコロイド法によって触媒を担持させた。まず純水2L中に、イリジウムとして1gとなるように塩化イリジウム(IV)酸溶液を添加してイリジウム溶液を調製した。これに還元剤として亜硫酸水素ナトリウムを加え、5%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを5にした。更に、過剰に存在する亜硫酸イオンを酸化除去するため過酸化水素水を滴下した。液性は5%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH5を維持した。これにより得たコロイド溶液に担体2.3gを分散し、90℃で18時間加熱撹拌することにより、イリジウムコロイドを担持した。このイリジウムコロイドは塩素を含むものである。次いで、濾過により固形物を分離し、該固形物を濾液の導電率が5μS/cm以下になるまで純水を用いて洗浄を繰り返した後、乾燥器を用いて該固形物を60℃で一晩乾燥した。その後、該固形物を空気中で焼成した。焼成は250℃で2時間にわたり行った。このようにして、目的とする電極用触媒を得た。
得られた電極用触媒に含まれるイリジウムをXPSによって測定したところ、その95at.%以上が酸化物の状態で存在していた。
【0048】
(3)アノード触媒層の製造
電極用触媒0.5gを容器に入れ、更に純水、エタノール及び2-プロパノールを35:45:20の質量比(混合液として1.2g)で順に加えた。このようにして得られたインクを、超音波で3分間にわたり分散した。次いで、直径3mmのイットリウム安定化ジルコニア製ボールを容器内に入れ、遊星ボールミル(シンキーARE310)にて800rpmで20分間撹拌した。更にインクにアイオノマである5%ナフィオン(登録商標)(274704-100ML、Sigma-Aldrich社製)を加え、超音波分散と遊星ボールミルにより前記と同様の撹拌を行った。アイオノマの添加量は、担体に対するアイオノマの質量比が、以下の表1に示す値となるような量とした。このようにして得られたインクを、ポリ四フッ化エチレンのシート上にバーコーターを用いて、電極用触媒層の単位面積あたりの貴金属元素の量が表1に示す値になるように塗工し、塗膜を60℃で乾燥させ、アノード触媒層を形成した。
【0049】
(4)カソード触媒層の製造
田中貴金属工業社製の白金担持カーボンブラック(TEC10E50E)0.5gを容器に入れ、更に純水、エタノール及び2-プロパノールを45:35:20の質量比(混合液として6.4g)で順に加えた。このようにして得られたインクを、超音波で3分間にわたり分散した。次いで、直径10mmのイットリウム安定化ジルコニア製ボールを容器内に入れ、遊星ボールミル(シンキーARE310)にて800rpmで20分間撹拌した。更にインクにアイオノマである5%ナフィオン(登録商標)(274704-100ML、Sigma-Aldrich社製)を加え、超音波分散と遊星ボールミルにより前記と同様な撹拌を引き続き行った。アイオノマの添加量は、カーボンブラック担体に対するアイオノマの質量比が0.70となるような量とした。このようにして得られたインクを、ポリ四フッ化エチレンのシート上にバーコーターを用いて、白金塗布量が0.1mg/cm2となるように塗工し、塗膜を60℃で乾燥させた。
【0050】
(5)CCMの製造
得られたカソード触媒層付ポリ四フッ化エチレンのシート及びアノード触媒層付ポリ四フッ化エチレンのシートを50mm四方の正方形状に切り出し、ナフィオン(登録商標)(NRE-115、DuPonT社製)の電解質膜と重ね合わせ、140℃、25kgf/cm2の条件下にて2分間大気中で熱プレスし、転写を行った。このようにして、ナフィオンからなる固体高分子電解質膜の各面にカソード及びアノード触媒層を形成した。
【0051】
(6)水電解槽の組み立て
前記(5)で得たCCMと、JARI標準セルを用いて水電解槽を組み立てた。カソードガス拡散層としてSIGRACET(登録商標)29BC(SGL社製)を、アノードガス拡散層としてPtメッキTiメッシュ(多孔度67%、厚み0.2mm)を用いた。また、ガスケットとして、Si/PEN/Si(180μm)を用いた。
【0052】
〔実施例2〕
実施例1の「(2)触媒の担持」において、過酸化水素水を滴下しているときの液性をpH9に維持し、更に90℃で18時間加熱撹拌中もpHを9に維持するようにした以外は実施例1と同様にして、電極用触媒、アノード触媒層、CCM及び水電解槽を製造した。得られた電極用触媒に含まれるイリジウムをXPSによって測定したところ、その95at.%以上が酸化物の状態で存在していた。
【0053】
〔実施例3〕
実施例1の「(2)触媒の担持」において、過酸化水素水を滴下しているときの液性をpH9に維持した以外は実施例1と同様にして、電極用触媒、アノード触媒層、CCM及び水電解槽を製造した。得られた電極用触媒に含まれるイリジウムをXPSによって測定したところ、その95at.%以上が酸化物の状態で存在していた。
【0054】
〔実施例4〕
実施例3の触媒の担持において、純水8L中にイリジウムとして1gとなるように塩化イリジウム(IV)酸溶液を添加してイリジウム溶液を調製した。これ以外は実施例3と同様にして、電極用触媒、アノード触媒層、CCM及び水電解槽を製造した。得られた電極用触媒に含まれるイリジウムをXPSによって測定したところ、その95at.%以上が酸化物の状態で存在していた。
【0055】
〔実施例5〕
実施例3の触媒の担持において、塩化イリジウム(IV)酸溶液に代えて、塩化イリジウム(III)酸溶液を用いた以外は実施例3と同様にして、電極用触媒、アノード触媒層、CCM及び水電解槽を製造した。得られた電極用触媒に含まれるイリジウムをXPSによって測定したところ、その95at.%以上が酸化物の状態で存在していた。
【0056】
〔実施例6〕
実施例3の触媒の担持において、純水4L中にイリジウムとして1gとなるように塩化イリジウム(IV)酸溶液を添加してイリジウム溶液を調製した。これ以外は実施例3と同様にして、電極用触媒、アノード触媒層、CCM及び水電解槽を製造した。得られた電極用触媒に含まれるイリジウムをXPSによって測定したところ、その95at.%以上が酸化物の状態で存在していた。
【0057】
〔実施例7〕
実施例3の担体の製造において、タンタル及びアンチモン含有酸化スズ粒子に代えて、アンチモン含有酸化スズ粒子(Sb:SnO2)を製造した。具体的には、2.2%のアンチモンを含むスズ箔10gと、33.3gのクエン酸との混合物に、40%硝酸水溶液250mLを添加した。これによって溶液を得た。この溶液に、25%アンモニア水を液のpHが8になるまで滴下した。この液を100℃で2時間にわたり還流した。液が冷却した後、遠心分離して固形分を回収し、それを水洗した。得られた固形物を大気下に120℃で1晩にわたり乾燥した後、乳鉢で粉砕した。粉砕後の固形物を大気下に730℃で2時間にわたり焼成した。これによって、アンチモン含有酸化スズ粒子(Sb:SnO2)を得た。
このアンチモン含有酸化スズ粒子の添加元素含有率(Sb(mol)/〔Sn(mol)+Sb(mol)〕×100)は、2mol%であった。これ以外は実施例3と同様にして、電極用触媒、アノード触媒層、CCM及び水電解槽を製造した。得られた電極用触媒に含まれるイリジウムをXPSによって測定したところ、その95at.%以上が酸化物の状態で存在していた。
【0058】
〔実施例8〕
実施例3の触媒の担持において、純水1L中にイリジウムとして1gとなるように塩化イリジウム(IV)酸溶液を添加してイリジウム溶液を調製した。これ以外は実施例3と同様にして、電極用触媒、アノード触媒層、CCM及び水電解槽を製造した。得られた電極用触媒に含まれるイリジウムをXPSによって測定したところ、その95at.%以上が酸化物の状態で存在していた。
【0059】
〔実施例9〕
実施例3の担体を酸化スズ粒子(6010、三井金属鉱業社製)に代え、触媒の担持を、コロイド溶液に分散する担体の量を1gにして行った。これ以外は実施例3と同様にして、電極用触媒、アノード触媒層、CCM及び水電解槽を製造した。得られた電極用触媒に含まれるイリジウムをXPSによって測定したところ、その95at.%以上が酸化物の状態で存在していた。
なお、実施例2ないし9における、電極用触媒層の単位面積あたりの貴金属元素の量及び担体に対するアイオノマの割合は表2及び3に示すとおりである。
【0060】
〔実施例10ないし13〕
実施例3の触媒の担持において、表3に記載の電極用触媒の組成比となるようコロイド溶液に分散する担体の量を調整した。これ以外は実施例3と同様にして、電極用触媒、アノード触媒層、CCM及び水電解槽を製造した。得られた電極用触媒に含まれるイリジウムをXPSによって測定したところ、その95at.%以上が酸化物の状態で存在していた。
実施例10ないし13における、電極用触媒層の単位面積あたりの貴金属元素の量及び担体に対するアイオノマの割合は表3に示すとおりである。
【0061】
〔実施例14、15及び17ないし21〕
実施例3において、表4に記載の電極用触媒の組成比となるよう塗工バーの厚み、担体に対するアイオノマの割合を調整した。これら以外は実施例3と同様にして、電極用触媒、アノード触媒層、CCM及び水電解槽を製造した。得られた電極用触媒に含まれるイリジウムをXPSによって測定したところ、その95at.%以上が酸化物の状態で存在していた。
実施例14、15及び17ないし21における、電極用触媒層の単位面積あたりの貴金属元素の量及び担体に対するアイオノマの割合は表4に示すとおりである。
【0062】
〔実施例16〕
実施例12において、4に記載の電極用触媒の組成比となるよう塗工バーの厚みを調整した以外は実施例12と同様にして電極用触媒、アノード触媒層、CCM及び水電解槽を製造した。得られた電極用触媒に含まれるイリジウムをXPSによって測定したところ、その95at.%以上が酸化物の状態で存在していた。
実施例16における、電極用触媒層の単位面積あたりの貴金属元素の量及び担体に対するアイオノマの割合は表4に示すとおりである。
【0063】
〔比較例1〕
実施例1の「(2)触媒の担持」において、焼成を4体積%水素含有の窒素雰囲気中150℃で行い、貴金属元素を還元した以外は実施例1と同様にして、電極用触媒、アノード触媒層、CCM及び水電解槽を製造した。
【0064】
〔比較例2〕
実施例1の「(2)触媒の担持」において、イリジウム源として硝酸イリジウム溶液を用いた以外は実施例1と同様にして、電極用触媒、アノード触媒層、CCM及び水電解槽を製造した。
【0065】
〔比較例3〕
実施例1において、「(2)触媒の担持」を以下のように行った。
イリジウム源として硝酸イリジウム溶液を用いた。ハロゲン源として塩化カリウムを用いた。純水2Lにイリジウムとして1gとなるように硝酸イリジウム溶液を添加し、イリジウムに対して1モル当量の塩素となるように塩化カリウムを混合し、イリジウム溶液を調製した。この溶液に直ちに還元剤として亜硫酸水素ナトリウムを加えた以外は実施例1と同様にして、電極用触媒、アノード触媒層、CCM及び水電解槽を製造した。
比較例1ないし3における、電極用触媒層の単位面積あたりの貴金属元素の量及び担体に対するアイオノマの割合は表1及び2に示すとおりである。
なお、実施例2ないし21及び比較例1ないし3で用いるカソード触媒層は、実施例1で製造したものと同様のものとした。
【0066】
〔評価1〕
実施例及び比較例で得られた電極用触媒について、上述した熱加水分解法によってハロゲン(塩素)の脱離率を測定した。その結果を以下の表1ないし表4に示す。具体的な手順は以下のとおりである。
アルミナボートに試料5mgを採取後、助燃剤として酸化タングステン50mgを混合し、400℃に設定した電気炉中に試料を投入して試料中の塩素を90秒で気化させた後、電気炉から試料を取り出した。気化した塩素を、ガス吸収ユニット(GA210)を用いて回収し、イオンクロマトグラフを用いて塩素含有量の定量を行った。400℃焼成後の試料に更に酸化タングステンを50mg追加し、1000℃に設定した電気炉中で焼成を行い、400℃の場合と同様に塩素含有量を定量した。なお、電極用触媒中にはハロゲンとして塩素のみが含まれているので、「塩素含有量」は「ハロゲン含有量」と同義である。
塩素の脱離量は、上述した式(1)を用いて算出した。実施例2においては、400℃における塩素の脱離量Aが検出下限値未満であったので、Aをゼロとみなして式(1)を算出した。
【0067】
〔評価2〕
実施例及び比較例で得られた電極用触媒について、貴金属元素に対するハロゲン元素の割合を測定した。その結果を以下の表1ないし表4に示す。具体的な手順は以下のとおりである。
アルミナボートに試料5mgを採取後、助燃剤として酸化タングステン50mgを混合し、1000℃に設定した電気炉中に試料を投入して試料中のハロゲンを気化させた後、電気炉から試料を取り出した。気化したハロゲンを、ガス吸収ユニット(GA210)を用いて回収し、イオンクロマトグラフを用いてハロゲン含有量の定量を行った。
【0068】
〔評価3〕
実施例及び比較例で得られた電極用触媒について、電極用触媒に占める貴金属元素の割合を誘導結合プラズマ(ICP)発光分析により測定した。その結果を以下の表1ないし表4に示す。
【0069】
〔評価4〕
実施例及び比較例で得られたCCMを用いて水の電気分解を行い、そのときのアノード触媒層の劣化試験を行った。
セル温度を80℃に保ち、80℃に加温した純水を10mL/minでアノードに供給し、カソードに窒素ガスを100cm3/minで供給した。
外部電源を用いて、アノードとカソードとの間に電圧を加えて、電流密度を0A/cm2から2A/cm2まで0.1A/cm2刻みで6分間保持し、引き続き0A/cm2まで低下させた。この操作を5回行い、5回目のサイクルにおいて電流密度を増加させて0.1A/cm2に達したときの電圧V1を測定した。
この状態からカソードの窒素ガス供給を止めた状態で0.4A/(cm2・min)の掃引速度で電流密度を増加させて2A/cm2に達した時点で電源を遮断した。そして電源の遮断状態を180秒間保持し、この操作を1000回行った。
次に、カソードの窒素ガス供給を再開した状態で、電流密度を0A/cm2から2A/cm2まで増加させて0.1A/cm2に達したときの電圧V2を測定した。
測定されたV2からV1を差し引いた値dVを求め、このdVを触媒層の劣化の程度の指標とした。dVの値は、それが0以下であれば触媒層に劣化が生じていないと判断され、0超であれば劣化が生じていると判断される。結果を表1ないし表4に示す。
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
表1ないし表4に示す結果から明らかなとおり、各実施例のアノード触媒層は劣化が観察されなかった。これに対して、貴金属元素が酸化物でない比較例1や、触媒がハロゲン元素を含んでいるものの貴金属元素の酸化物とハロゲン元素が結合していない比較例3、触媒がハロゲン元素を含んでいない比較例2では、アノード触媒層の劣化が観察された。