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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-13
(45)【発行日】2023-09-22
(54)【発明の名称】電力利用設備の制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/38 20060101AFI20230914BHJP
   H02J 3/32 20060101ALI20230914BHJP
   H02J 3/46 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
H02J3/38 110
H02J3/32
H02J3/46
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019230095
(22)【出願日】2019-12-20
(65)【公開番号】P2021100304
(43)【公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】崎元 謙一
(72)【発明者】
【氏名】梅津 佑介
(72)【発明者】
【氏名】杉本 和繁
(72)【発明者】
【氏名】江崎 秀明
【審査官】辻丸 詔
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-069634(JP,A)
【文献】特開平01-311818(JP,A)
【文献】特開2004-266940(JP,A)
【文献】特開2016-187285(JP,A)
【文献】特開2018-160949(JP,A)
【文献】特開2016-010292(JP,A)
【文献】特開2018-007435(JP,A)
【文献】特開2004-159466(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/38
H02J 3/32
H02J 3/46
H02J 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの電力出力装置を備え、前記少なくとも1つの電力出力装置が接続点を介して、外部電力系統と電力の授受が可能となるように接続される電力利用設備の制御装置であって、
前記接続点において計測された授受電力を取得し、所定の授受電力目標値から、取得した前記授受電力を差し引いた電力偏差を算出する電力偏差算出部と、
前記電力偏差に基づいて前記少なくとも1つの電力出力装置の出力電力を増減する指令を生成する指令生成部と、
前記電力偏差に電力補正値を加算して前記電力偏差を補正する電力偏差補正部と、を備え、
前記指令生成部は、前記電力偏差が所定の第1しきい値以上である場合、前記出力電力を減少させる減少指令を生成し、前記電力偏差が前記第1しきい値以下の第2しきい値未満である場合、前記出力電力を増加させる増加指令を生成し、
前記電力偏差補正部は、
前記授受電力を積算して得られる授受電力量および前記授受電力目標値を積算して得られる授受電力量目標値を算出し、前記授受電力量の前記授受電力量目標値に対する電力量偏差を算出する電力量偏差算出部と、
前記電力量偏差から前記電力補正値を生成する補正値生成部と、を備え、
前記電力量偏差算出部は、前記授受電力量を得るための前記授受電力の積算および前記授受電力量目標値を得るための前記授受電力目標値の積算を、予め定められた第2単位時間ごとにリセットする、電力利用設備の制御装置。
【請求項2】
前記補正値生成部は、前記電力量偏差が所定の第3しきい値以上である場合、前記電力偏差が増加するような前記電力補正値を生成し、前記電力量偏差が前記第3しきい値以下の第4しきい値未満である場合、前記電力偏差が減少するような前記電力補正値を生成する、請求項に記載の電力利用設備の制御装置。
【請求項3】
前記第3しきい値と前記第4しきい値とは異なる値であり、
前記補正値生成部は、前記電力量偏差が前記第4しきい値以上かつ前記第3しきい値未満である場合、前記電力補正値を0とする、請求項に記載の電力利用設備の制御装置。
【請求項4】
前記第1しきい値と前記第2しきい値とは異なる値であり、
前記指令生成部は、前記電力偏差が前記第2しきい値以上かつ前記第1しきい値未満である場合、前記出力電力を維持させる維持指令を生成する、請求項1からの何れかに記載の電力利用設備の制御装置。
【請求項5】
少なくとも1つの電力出力装置を備え、前記少なくとも1つの電力出力装置が接続点を介して、外部電力系統と電力の授受が可能となるように接続される電力利用設備の制御装置であって、
前記接続点において計測された授受電力を取得し、所定の授受電力目標値から、取得した前記授受電力を差し引いた電力偏差を算出する電力偏差算出部と、
前記電力偏差に基づいて前記少なくとも1つの電力出力装置の出力電力を増減する指令を生成する指令生成部と、を備え、
前記指令生成部は、前記電力偏差が所定の第1しきい値以上である場合、前記出力電力を減少させる減少指令を生成し、前記電力偏差が前記第1しきい値以下の第2しきい値未満である場合、前記出力電力を増加させる増加指令を生成し、
前記電力偏差算出部は、予め定められた第1単位時間ごとの授受電力計画値から授受電力調整要求量を差し引いて前記授受電力目標値を算出する電力利用設備の制御装置。
【請求項6】
前記授受電力目標値は、予め定められた第1単位時間ごとの売電電力目標値である、請求項1からの何れかに記載の電力利用設備の制御装置。
【請求項7】
前記電力利用設備は、複数の電力出力装置を備え、
前記複数の電力出力装置は、共通の前記接続点を介して、前記外部電力系統に接続されている、請求項1からの何れかに記載の電力利用設備の制御装置。
【請求項8】
前記少なくとも1つの電力出力装置は、発電機を含む、請求項1からの何れかに記載の電力利用設備の制御装置。
【請求項9】
前記少なくとも1つの電力出力装置は、蓄電池を含む、請求項1からの何れかに記載の電力利用設備の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電機等の電力出力装置を備え、外部電力系統に電力の授受が可能となるように接続される電力利用設備の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、商用電力系統等の外部電力系統を管轄する電気事業者が、外部電力系統からの電力を利用する工場等の電力利用設備に対して、外部電力系統から電力利用設備に供給される電力(受電電力)を抑制する等の要請を行うことがある。これに対して、受電電力を抑制した電力利用設備は、電気事業者から対価の支払い(例えば電力料金の割引等)を受ける。このような取引は、ディマンドリスポンス(Demand Response)によるネガワット取引と称される。
【0003】
また、電力利用設備として、原動機発電機や蓄電池等の電力出力装置を備えた電力利用設備が知られている。このような電力利用設備において、ネガワット取引を行う場合、電力利用設備は、電力出力装置が出力する電力を増やすことで、外部電力系統から電力利用設備に供給される電力の抑制量(ディマンドリスポンスの要求量。以下、DR要求量)を賄うことが可能となる。
【0004】
しかし、負荷へ供給される電力は負荷の状況に応じて変化する。このため、外部電力系統に対する授受電力を適切に制御する(抑制量がDR要求量を下回らないようにする)には、負荷の状況に応じて電力出力装置の出力電力を制御する必要が生じる。
【0005】
このような観点から、下記特許文献1では、蓄電池を備えたシステムにおいてディマンドリスポンスの要求(DR要求)が行われた場合に、実受電電力に受電電力バイアス値を加算してネガワット取引時の仮想受電電力を算出し、実受電電力に代えてその仮想受電電力に基づいて蓄電池から出力されるシステム出力の指令値を生成している。
【0006】
しかし、特許文献1では、DR要求の有無で制御態様を切り替える必要が生じる。また、特許文献1では、蓄電池から出力されるシステム出力の指令値(電力値)を算出している。このため、システム出力の現在値を計測する必要が生じる。このため、複数の電力出力装置を備えた電力利用設備においては、個々の出力値を計測し、個々の指令値を算出する必要が生じる。
【0007】
また、特許文献1の態様を、蓄電池の代わりに原動機発電機等の発電機を用いた電力利用設備に適用しようとした場合、システム出力の指令値を算出する際に、応答の遅い原動機発電機の応答性を考慮した指令値にする必要が生じる。応答性を考慮しないと、指令値に発電機の出力が追従できなくなり、制御が発散してしまう恐れがある。また、特性の異なる複数の電力出力装置を備えた電力利用設備においては、それぞれの応答性を考慮する必要が生じ、特許文献1の態様をそのようなシステムに適用することは容易ではない。
【0008】
これに関し、下記特許文献2には、複数の発電機のそれぞれの特性を考慮した制御態様が開示されているが、複数の発電機に対して個別に制御が必要であることは変わらず、発電機ごとに制御パラメータの設計を行う必要が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2018-160949号公報
【文献】国際公開第2015/098083号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上のように、特許文献1および2の制御態様では、様々な種類の電力出力装置を備えた電力利用設備の制御に容易に適用ができない。また、上記のような課題は、DR要求に伴う電力出力装置の制御だけでなく、売電等の電力出力装置の様々な制御状況においても生じ得る。
【0011】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決するためになされたものであり、電力出力装置を備えた電力利用設備において、簡単な構成で、電力出力装置の応答性を考慮することなく、電力利用設備の外部電力系統に対する授受電力が目標値となるように適切に制御することができる電力利用設備の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様における電力利用設備の制御装置は、少なくとも1つの電力出力装置を備え、前記少なくとも1つの電力出力装置が接続点を介して、外部電力系統と電力の授受が可能となるように接続される電力利用設備の制御装置であって、前記接続点において計測された授受電力を取得し、所定の授受電力目標値から、取得した前記授受電力を差し引いた電力偏差を算出する電力偏差算出部と、前記電力偏差に基づいて前記少なくとも1つの電力出力装置の出力電力を増減する指令を生成する指令生成部と、を備え、前記指令生成部は、前記電力偏差が所定の第1しきい値以上である場合、前記出力電力を減少させる減少指令を生成し、前記電力偏差が前記第1しきい値以下の第2しきい値未満である場合、前記出力電力を増加させる増加指令を生成するように構成される。
【0013】
上記構成によれば、電力出力装置と外部電力系統との接続点における授受電力を計測し、授受電力目標値との電力偏差が第1しきい値以上である場合に電力出力装置の出力電力が減少し、電力偏差が第1しきい値以下の第2しきい値未満である場合に電力出力装置の出力電力が増加する。これにより、電力出力装置が自己の応答性に基づいて可能な範囲で電力を増減する。このように、授受電力の授受電力目標値との電力偏差に応じて電力出力装置が出力する電力を増減させることにより、電力利用設備における負荷の状況(変動)にかかわらず、授受電力を授受電力目標値に維持することができる。また、複数の電力出力装置が接続点に接続されている場合でも、各電力出力装置の出力電力を個別に計測する必要がないため、電力利用設備におけるシステム構成を簡単にすることができる。したがって、電力出力装置を備えた電力利用設備において、簡単な構成で、電力出力装置の応答性を考慮することなく、電力利用設備の外部電力系統に対する授受電力が目標値となるように適切に制御することができる。
【0014】
前記制御装置は、前記電力偏差に電力補正値を加算して前記電力偏差を補正する電力偏差補正部を備え、前記電力偏差補正部は、前記授受電力を積算して得られる授受電力量および前記授受電力目標値を積算して得られる授受電力量目標値を算出し、前記授受電力量の前記授受電力量目標値に対する電力量偏差を算出する電力量偏差算出部と、前記電力量偏差から前記電力補正値を生成する補正値生成部と、を備え、前記授受電力量を得るための前記授受電力の積算および前記授受電力量目標値を得るための前記授受電力目標値の積算を、予め定められた第2単位時間ごとにリセットしてもよい。このような構成によれば、計測された授受電力に基づく電力偏差に、授受電力量に基づく電力補正値を加えることにより、授受電力の瞬時値だけを制御した場合に生じ得る微小な偏差の蓄積を補正することができる。したがって、第2単位時間ごとの授受電力量が授受電力量目標値となるように適切に制御することができる。
【0015】
前記補正値生成部は、前記電力量偏差が所定の第3しきい値以上である場合、前記電力偏差が増加するような前記電力補正値を生成し、前記電力量偏差が前記第3しきい値以下の第4しきい値未満である場合、前記電力偏差が減少するような前記電力補正値を生成してもよい。これによれば、電力量偏差に基づく補正値の生成においても、電力出力装置の出力電力を計測する必要がないため、電力利用設備におけるシステム構成を簡単にすることができる。
【0016】
前記第3しきい値と前記第4しきい値とは異なる値であり、前記補正値生成部は、前記電力量偏差が前記第4しきい値以上かつ前記第3しきい値未満である場合、前記電力補正値を0としてもよい。
【0017】
前記第1しきい値と前記第2しきい値とは異なる値であり、前記指令生成部は、前記電力偏差が前記第2しきい値以上かつ前記第1しきい値未満である場合、前記出力電力を維持させる維持指令を生成してもよい。これにより、出力電力に対する指令として、減少指令および増加指令に、維持指令を加えることにより、電力出力装置からの出力電力をより安定化させることができる。
【0018】
前記電力偏差算出部は、予め定められた第1単位時間ごとの授受電力計画値から授受電力調整要求量を差し引いて前記授受電力目標値を算出してもよい。あるいは、前記授受電力目標値は、前記第1単位時間ごとの売電電力目標値であってもよい。
【0019】
前記電力利用設備は、複数の電力出力装置を備え、前記複数の電力出力装置は、共通の前記接続点を介して、前記外部電力系統に接続されていてもよい。
【0020】
前記少なくとも1つの電力出力装置は、発電機を含んでもよい。また、前記少なくとも1つの電力出力装置は、蓄電池を含んでもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、上記構成を有することにより、電力出力装置を備えた電力利用設備において、電力出力装置の応答性を考慮することなく、電力利用設備の外部電力系統に対する授受電力が目標値となるように適切に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明の一実施の形態に係る電力利用設備を含む電力システムの概略構成を示すブロック図である。
図2図2は、ネガワット取引におけるディマンドリスポンスを例示する模式的なグラフである。
図3図3は、図2に示すディマンドリスポンスにおいてベースラインと実需要とに差が生じた場合の例を示す模式的なグラフである。
図4図4は、図1に示す制御装置の制御ブロックの構成を示すブロック図である。
図5図5は、図3に示すディマンドリスポンスにおいて本実施の形態における授受電力制御を行った場合の模式的なグラフである。
図6図6は、図4に示す電力偏差補正部のより具体的な構成を示すブロック図である。
図7図7は、本実施の形態における制御を行った場合のシミュレーション結果を示すグラフである。
図8図8は、図7のシミュレーション結果に基づいて実抑制電力量をDR要求電力量と比較したグラフである。
図9図9は、比較例におけるシミュレーション結果を示す図である。
図10図10は、図9のシミュレーション結果に基づいて実抑制電力量をDR要求電力量と比較したグラフである。
図11図11は、本実施の形態において電力出力装置の出力電力を売電する場合を示すグラフである。
図12図12は、図1に示す制御装置の制御ブロックを、売電電力を正の値として構成したときのブロック図である。
図13図13は、図6に示す補正値生成部の入出力関係の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一または相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0024】
図1は、本発明の一実施の形態に係る電力利用設備を含む電力システムの概略構成を示すブロック図である。図1に示すように、電力利用設備1は、複数の電力出力装置2i(i=1,2,…n。図1の例ではn=3)を備えている。複数の電力出力装置2iは、接続点3を介して、外部電力系統4に接続されている。接続点3には、電力利用設備1に設けられる負荷5も接続されている。また、電力利用設備1は、接続点3における授受電力RPを計測する電力計測器8を備えている。
【0025】
これにより、電力利用設備1は、共通の接続点3を介して外部電力系統4と電力の授受が可能となる。すなわち、外部電力系統4からの電力を受電して負荷5に電力を供給することができる。また、複数の電力出力装置2iから出力された電力を負荷5に供給する、または、外部電力系統4に送電(売電)することも可能である。
【0026】
電力利用設備1は、複数の電力出力装置2iを制御する制御装置6を備えている。なお、これに代えて、制御装置6は、電力利用設備1とは独立して設けられてもよい。制御装置6は、例えばマイクロコントローラ、パーソナルコンピュータ等のコンピュータを備えている。さらに、制御装置6は、制御プログラムや各種データを記憶する図示しない記憶部を備えている。
【0027】
外部電力系統4は、例えば商用電力系統である。電力利用設備1は、例えば工場である。電力出力装置2iは、例えば発電機である。発電機には、例えば、蒸気タービン、ガスタービン、ガスエンジン、ディーゼルエンジン等の原動機発電機が含まれる。電力出力装置2iは、蓄電装置(2次電池、キャパシタ等)でもよい。複数の電力出力装置2iは、発電効率、発電コスト、および応答性能等が異なる複数種類の発電機を含んでいてもよい。さらに、複数の電力出力装置2iは、発電機と蓄電装置とを両方備えていてもよい。
【0028】
なお、接続点3には、制御装置6とは独立した発電設備(図示せず)が接続されていてもよい。このような発電設備は、例えば太陽光発電設備等の再生可能エネルギーを利用した発電設備である。このような発電設備は発電電力を調整することができないため、制御装置6の制御対象とはしない。なお、再生可能エネルギーとは、太陽光、水力、風力、地熱等の自然エネルギーを意味する。また、原動機発電機等、制御装置6により発電電力が調整可能な電力出力装置であっても、制御装置6の制御対象ではない電力出力装置が存在してもよい。
【0029】
以下では、ネガワット取引時における制御装置6の制御態様を例示する。図2は、ネガワット取引におけるディマンドリスポンスを例示する模式的なグラフである。図2のグラフにおける横軸は、時刻を示し、縦軸は、需要電力を示す。
【0030】
制御装置6の記憶部には、ベースラインBLのデータが記憶されている。ベースラインBLは、予め定められた第1単位時間ごとの授受電力計画値を示している。ベースラインBLは、例えば、直近の数日間の第1単位時間(時間帯)ごとの需要量(実績値)を、第1単位時間帯ごとに平均したものを基準に作成されてもよい。ただし、ベースラインBLの決定方法は特に限定されず、種々の方法が想定される。第1単位時間は、例えば30分であるが、特に限定されない。
【0031】
ベースラインBLのデータは、予めディマンドリスポンス(DR)の要求者であるアグリゲータ7に送られる。アグリゲータ7は、電力利用設備1から送られるベースラインBLに基づいて授受電力調整要求量(DR要求量)RQを対応する電力利用設備1の制御装置6に送信する。制御装置6に送信されるDR要求量RQのデータは、対象の時間帯(DR要求期間)TDRの情報を含む。図2の例では、12時から17時の間にRQ分の需要抑制が要請されている。なお、ベースラインBLのデータは、過去の需要量を基に、アグリゲータ7が計算し、電力利用設備1に通知する場合もある。
【0032】
アグリゲータ7は、DR要求期間TDRにおける電力利用設備1の外部電力系統4との接続点3における授受電力RPを監視する。なお、本実施の形態において、授受電力は、電力利用設備1が外部電力系統4から電力供給を受ける場合を正の値とする。アグリゲータ7は、電力利用設備1における実需要(授受電力)RPがベースラインBLからDR要求量RQを差し引いた電力(DR要求期間TDRにおいてRP=BL-RQ)となっているか(ディマンドリスポンスを達成しているか)否かを判定する。アグリゲータ7は、ディマンドリスポンスを達成していると判定した場合(DR要求量RQ分抑制されている場合)、電力利用設備1に対して所定の対価を付与し、ディマンドリスポンスを達成していない場合、電力利用設備1に対して所定のペナルティを要求する。
【0033】
上記のように、ベースラインBLは、例えば過去の授受電力RPの実績値等に基づいて設定される。しかし、実際の負荷5の需要は日々変化するため、ディマンドリスポンス実施時における負荷5の需要がベースラインBLに一致するとは限らない。したがって、DR要求量RQ分の電力を単に電力出力装置2iで追加出力するだけではディマンドリスポンスを達成できない場合が生じ得る。
【0034】
図3は、図2に示すディマンドリスポンスにおいてベースラインと実需要とに差が生じた場合の例を示す模式的なグラフである。図3の例では、DR要求期間TDRにおいて電力利用設備1で必要とされる電力は、ベースラインBLより増加している(実需要RLとして示される)。この場合、DR要求期間TDRにおいて、ベースラインBLに対してDR要求量RQ分の電力を電力出力装置2iから追加出力しただけでは、授受電力RPを、ベースラインBLに対してあらかじめ想定していた仮想需要(授受電力目標値)RPoまで抑制することができない。すなわち、ベースラインBLに対する実際の需要の増加分(RL―BL)だけDR要求量RQを抑制できていない結果となる。図3における斜線領域がDR要求に対して未達成の電力量を表している。
【0035】
このように、DR要求に対する電力出力装置2iの出力調整は、実需要に応じて行う必要が生じる。このため、本実施の形態における制御装置6は、後述する図4に示す電力偏差算出部61、指令生成部62、および電力偏差補正部63を制御ブロックとして備えている。
【0036】
図4は、図1に示す制御装置の制御ブロックの構成を示すブロック図である。上述したように、制御装置6の記憶部には、予めベースラインBLの情報が記憶されている。制御装置6は、電力計測器8により計測された接続点3における授受電力RPの情報を取得する。さらに、アグリゲータ7は、DR要求量RQを制御装置6に送信する。制御装置6は、送られたDR要求量RQの情報を取得する。
【0037】
電力偏差算出部61は、ベースラインBLからDR要求量RQを差し引いて授受電力目標値RPoを算出する。電力偏差算出部61は、所定の授受電力目標値RPoから、取得した授受電力RPを差し引いた電力偏差ΔRPを算出する。なお、後述するように、電力偏差ΔRPは、RPo-RPに、電力偏差補正部63において算出される電力補正値RPcが加算された値となるが、ひとまず電力補正値RPcは考慮しない。
【0038】
指令生成部62は、電力偏差算出部61で算出された電力偏差ΔRPに基づいて電力出力装置2iの出力電力を増減する指令SCを生成する。指令生成部62で生成される指令SCは、増加指令SCu、減少指令SCdおよび維持指令SCmを含む状態指令である。本明細書において、状態指令とは、電力出力装置2iを出力増加状態、出力減少状態または出力維持状態の何れかの電力出力状態にするための指令であり、具体的な電力出力目標値を含まない概念として定義される。
【0039】
増加指令SCuは、電力出力装置2iに対して、出力電力(瞬時値)を増加させる(出力増加状態にする)指令である。例えば、電力出力装置2iが原動機発電機である場合、増加指令SCuは、原動機のガバナに発電電力を増加させる指令である。また、減少指令SCdは、電力出力装置2iに対して、出力電力(瞬時値)を減少させる(出力減少状態にする)指令である。例えば、電力出力装置2iが原動機発電機である場合、減少指令SCdは、原動機のガバナに発電電力を低減させる指令である。また、維持指令SCmは、電力出力装置2iに対して、出力電力(瞬時値)を維持させる(出力維持状態にする)指令である。例えば、電力出力装置2iが原動機発電機である場合、維持指令SCmは、原動機のガバナに発電電力を維持させる指令である。
【0040】
図4には、指令生成部62における指令生成態様がグラフとして模式的に示されている。図4に示すように、指令生成部62は、電力偏差ΔRPが所定の第1しきい値T1以上である場合、減少指令SCdを生成し、電力偏差ΔRPが第1しきい値T1より小さい第2しきい値T2未満である場合、増加指令SCuを生成する。さらに、指令生成部62は、電力偏差ΔRPが第2しきい値T2以上かつ第1しきい値T1未満である場合、維持指令SCmを生成する。
【0041】
例えば、第1しきい値T1が所定の正の値に設定され、第2しきい値T2が第1しきい値T1と同じ大きさの負の値に設定される。これに代えて、第1しきい値T1が所定の正の値に設定され、第2しきい値T2が第1しきい値T1と異なる大きさの負の値に設定あれてもよい。また、電力偏差ΔRPに所定のオフセット値が与えられる場合、第1しきい値T1および第2しきい値T2は、いずれも正の値またはいずれも負の値としてもよい。
【0042】
指令生成部62で生成された指令SCは、複数の電力出力装置2iのそれぞれに送られる。このとき、複数の電力出力装置2iのそれぞれに送られる指令SCは、共通の指令である。すなわち、電力出力装置2iの出力特性等に応じて指令SCを個別にカスタマイズする必要はない。
【0043】
指令生成部62から出力される指令SCは、例えば、連続して出力されるパルスによって構成されてもよい。この場合、増加指令SCuは、出力増加パルス(例えば正のパルス)を連続して出力する状態として構成される。また、減少指令SCdは、出力減少パルス(例えば負のパルス)を連続して出力する状態として構成される。また、維持指令SCmは、パルスを出力しない状態として構成される。これに代えて、パルスの振幅または幅が異なる3つのパルスをこれらの指令SCu,SCd,SCmに割り当ててもよい。
【0044】
このような指令SCを受信した各電力出力装置2iは、その指令SCの内容に応じた出力制御を行う。増加指令SCuを受信している間、電力出力装置2iは、出力を上げ続ける。減少指令SCdを受信している間、電力出力装置2iは、出力を下げ続ける。維持指令SCmを受信している間、電力出力装置2iは、出力を維持し続ける。例えば、電力出力装置2iが発電機である場合、指令SCに応じてガバナの出力を調整する。
【0045】
このとき、各電力出力装置2iは、各自の応答性に合わせて出力制御を行う。例えば、応答が速い電力出力装置2iは、増加指令SCuに対して高いレートで出力を増加させる。応答が遅い電力出力装置2iは、増加指令SCuに対して低いレートで出力を増加させる。このため、複数の電力出力装置2iにおいて原動機の種類が異なったり、応答性が異なったりしていても、制御装置6は、各電力出力装置2iの応答性を考慮することなく、一の(共通する)指令SCを出力すればよい。
【0046】
図5は、図3に示すディマンドリスポンスにおいて本実施の形態における授受電力制御を行った場合の模式的なグラフである。図5において、ベースラインBL、およびアグリゲータ7が要求するDR要求量RQは、図3と同じである。また、図5においても、図3と同様に、DR要求期間TDRにおいて電力利用設備1で必要とされる電力(実需要)RLが、ベースラインBLより増加している。
【0047】
本実施の形態によれば、計測される授受電力RPが授受電力目標値RPo(=BL-RQ)に一致するように制御される。すなわち、電力利用設備1における実需要RLがベースラインBLより増えると、その増加分の電力を補うように、電力出力装置2iの出力電力が増加する。この結果、ベースラインBLに対してDR要求期間TDRにおいて電力出力装置2iが負担した電力は、DR要求量RQに、ベースラインBLに対する実需要RLの偏差分を加えた電力RQcとなる。このときの電力量は、図5における斜線領域で示される。
【0048】
図5からも明らかなように、上記構成によれば、授受電力RPの授受電力目標値RPoとの電力偏差ΔRPに応じて電力出力装置2iが出力する電力を増減させることにより、電力利用設備1における負荷の状況(変動)にかかわらず、授受電力RPを授受電力目標値RPoに維持することができる。
【0049】
また、複数の電力出力装置2iが接続点3に接続されているにもかかわらず、電力出力装置2iの出力電力を個別に計測する必要がないため、電力利用設備1におけるシステム構成を簡単にすることができる。さらに、上述したように、電力出力装置2iに対する指令SCは、単純な増加指令SCu、減少指令SCdまたは維持指令SCmだけであり、制御装置6において電力出力装置2iの応答性等を考慮して制御調整を行う必要がない。
【0050】
このような指令SCに対して電力出力装置2iにおいて、応答速度の速い電力出力装置2iは速く応答し、応答速度の遅い電力出力装置2iは遅く応答するため、複数の電力出力装置2iとして応答性の異なる電力出力装置2iが設けられていても、複数の電力出力装置2i間で自動的に応答性に応じた出力電力の分担を行うことができる。言い換えると、応答性の異なる複数の電力出力装置2iを共通の接続点3に接続して、電力の分担調整を簡単に行うことができる。応答性の異なる複数の電力出力装置2iとして、異なる種類の発電機が接続されてもよいし、発電機と蓄電池とが接続されてもよい。
【0051】
さらに、複数の電力出力装置2iとして、余力の少ない(例えば定格近くで出力している)電力出力装置と、余力の多い電力出力装置とが存在する場合、増加指令SCuに対して、余力の少ない電力出力装置は定格以上の電力は出力しないため、自動的に余力の多い電力出力装置に負担する出力電力を増やすような分担を行うことができる。
【0052】
以上より、本実施の形態によれば、電力出力装置2iを備えた電力利用設備1において、簡単な構成で、電力出力装置2iの応答性を考慮することなく、電力利用設備1の外部電力系統4に対する授受電力RPが授受電力目標値RPoとなるように適切に制御することができる。
【0053】
また、指令生成部62は、指令SCを生成するために、各電力出力装置2iの出力電力または負荷の消費電力を取得する必要がない。すなわち、本実施の形態における電力利用設備1は、電力出力装置2iの出力電力を個別に計測する、または、負荷の消費電力を計測する構成は不要である。したがって、電力利用設備1におけるシステム構成を簡単にすることができる。さらに、電力利用設備1における機器構成の変更が必要となった場合であっても、制御を変更することなく対応することができる。
【0054】
ここで、本実施の形態において、指令生成部62は、電力偏差ΔRPが第2しきい値T2以上かつ第1しきい値T1未満である場合、維持指令SCmを生成する。すなわち、電力偏差ΔRPが0ではない場合であっても、電力出力装置2iから出力される出力電力が維持される。このような不感帯(増加指令も減少指令も出ない領域)を作ることにより、電力出力装置2iからの出力電力を頻繁に変化することを抑制できる。
【0055】
その一方で、電力偏差ΔRPが第1しきい値T1と第2しきい値T2との間で維持された場合に、電力偏差ΔRPが残り続けることになる。そこで、制御装置6は、授受電力RPだけでなく、授受電力量に基づいた制御も行う。より具体的には、制御装置6の電力偏差補正部63は、授受電力量に基づく電力補正値を生成し、その電力補正値RPcを用いて電力偏差ΔRPを補正する(ΔRP=RPo-RP+RPcとする)。
【0056】
図6は、図4に示す電力偏差補正部のより具体的な構成を示すブロック図である。図6に示されるように、電力偏差補正部63は、電力量偏差算出部64および補正値生成部67を備えている。電力量偏差算出部64は、授受電力RPを積算して得られる授受電力量REおよび授受電力目標値RPoを積算して得られる授受電力量目標値REoを算出し、授受電力量REの授受電力量目標値REoに対する電力量偏差ΔREを算出する。電力量偏差算出部64は、授受電力量REを得るための授受電力RPの積算および授受電力量目標値REoを得るための授受電力目標値RPoの積算を、予め定められた第2単位時間ごとにリセットする。
【0057】
本実施の形態において、電力量偏差算出部64は、授受電力量算出部65および授受電力量目標値算出部66を備えている。授受電力量算出部65は、計測された授受電力RPを積算して授受電力量REを算出する。授受電力量目標値算出部66は、授受電力量目標値REoを積算して授受電力量目標値REoを算出する。
【0058】
授受電力量算出部65および授受電力量目標値算出部66は、いずれも積分器で構成される。すなわち、授受電力量算出部65は、入力される授受電力RP(瞬時値)を積分する。授受電力量算出部65には、第2単位時間ごとにリセット信号Srが入力される。電力偏差補正部63は、タイマ68を備え、第2単位時間ごとにリセット信号Srを出力する。授受電力量算出部65は、リセット信号Srを受信するごとに積分結果をリセットする。この結果出力された積分値は、授受電力RPが第2単位時間分積算された授受電力量REとなる。
【0059】
同様に、授受電力量目標値算出部66は、入力される授受電力目標値RPo(瞬時値)を積分する。授受電力量目標値算出部66にも、タイマ68から第2単位時間ごとに出力されるリセット信号Srが入力される。授受電力量目標値算出部66は、リセット信号Srを受信するごとに積分結果をリセットする。この結果出力された積分値は、授受電力目標値RPoが第2単位時間分積算された授受電力量目標値REoとなる。
【0060】
第2単位時間は、特に限定されないが、例えばアグリゲータ7によるDR要求量RQの単位時間(例えば30分)に一致させる。本実施の形態においては、第1単位時間と第2単位時間とは同じ時間である。アグリゲータ7は、ディマンドリスポンスの達成に関する評価をその単位時間ごとに行う。
【0061】
電力量偏差算出部64は、授受電力量目標値REoから授受電力量REを差し引いて電力量偏差ΔREを算出する。補正値生成部67は、電力量偏差ΔREから電力補正値RPcを生成する。より詳しくは、補正値生成部67は、電力量偏差ΔREが所定の第3しきい値T3以上である場合、電力偏差ΔRPが増加するような電力補正値RPcを生成し、電力量偏差ΔREが第3しきい値T3より小さい第4しきい値T4未満である場合、電力偏差ΔRPが減少するような電力補正値RPcを生成する。本実施の形態において、第3しきい値T3は、所定の正の値に設定され、第4しきい値T4は、第3しきい値T3と同じ大きさの負の値に設定される。
【0062】
例えば、電力偏差ΔRPが0より大きく第1しきい値T1より小さい値が維持された場合、電力量偏差ΔREは、第2単位時間内において単調増加する。電力量偏差ΔREが第3しきい値T3を超えると、補正値生成部67は、電力偏差ΔRPが増加するような電力補正値RPcを生成する。例えば、補正値RPcとして所定の正のオフセット値Pchが与えられる。オフセット値Pchの大きさは、特に限定されないが、例えば第1しきい値T1以上としてもよい。
【0063】
この結果、指令生成部62に入力される補正後の電力偏差ΔRPは、第1しきい値T1を超える(オフセット値Pchの大きさが第1しきい値T1の大きさより大きい場合)、または、超え易くなる。したがって、指令生成部62は、減少指令SCdを出力する、または、出力し易くなる。この結果、電力偏差ΔRPが減少する。
【0064】
電力偏差ΔRPが0より小さく第2しきい値T2より小さい値が維持された場合も同様である。電力量偏差ΔREが第4しきい値T4を下回ると、補正値生成部67は、電力偏差ΔRPが減少するような電力補正値RPcを生成する。例えば、補正値RPcとして所定の負のオフセット値Pclが与えられる。
【0065】
この結果、指令生成部62に入力される補正後の電力偏差ΔRPは、第2しきい値T2を下回る(オフセット値Pclの大きさが第2しきい値T2の大きさより大きい場合)、または、下回り易くなる。したがって、指令生成部62は、増加指令SCuを出力する、または、出力し易くなる。この結果、電力偏差ΔRPが増加する。
【0066】
このような構成によれば、計測された授受電力RPに基づく電力偏差ΔRPに、授受電力量REに基づく電力補正値RPcを加えることにより、授受電力RPの瞬時値だけを制御した場合に生じ得る微小な偏差の蓄積を補正することができる。したがって、ディマンドリスポンスの達成率の評価、判定に用いられる第2単位時間ごとの授受電力量REが授受電力量目標値REoとなるように適切に制御することができる。これにより、ディマンドリスポンスの達成率を高くすることができる。
【0067】
なお、本実施の形態において、補正値生成部67は、電力量偏差ΔREが第4しきい値T4以上かつ第3しきい値T3未満である場合、電力補正値RPcを0とする。すなわち、この場合は補正を行わない。さらに、補正値生成部67は、電力補正値RPcとして0を出力している状態から所定のオフセット値Pch,Pclを出力するように切り替えるしきい値(第3しきい値T3および第4しきい値T4)と、電力補正値RPcとして所定のオフセット値Pch,Pclを出力している状態から0に切り替えるしきい値(第5しきい値T5および第6しきい値T6)との間に、ヒステリシス特性を持たせている。
【0068】
すなわち、正のオフセット値Pchを出力している状態から電力補正値RPcを0に切り替える第5しきい値T5は、電力量偏差ΔREが0より大きく第3しきい値T3より小さい値に設定される。同様に、負のオフセット値Pclを出力している状態から電力補正値RPcを0に切り替える第6しきい値T6は、電力量偏差ΔREが0より小さく第4しきい値T4より大きい値に設定される。
【0069】
これにより、頻繁に電力補正値RPcの値が切り替わるのを防止し、安定した制御を行うことができる。
【0070】
[シミュレーション結果]
上記実施の形態の制御装置6が適用された電力利用設備1におけるシミュレーション結果を以下に示す。図7は、本実施の形態における制御を行った場合のシミュレーション結果を示すグラフである。また、図8は、図7のシミュレーション結果に基づいて実抑制電力量をDR要求電力量と比較したグラフである。
【0071】
本シミュレーションでは、授受電力RPの計画値であるベースラインBLは、15MWに設定され、このときの電力出力装置2iの出力電力の計画値は、10MWに設定され、負荷電力は、これらを加算した25MWに設定した。本シミュレーションにおいては、負荷電力を、25MWを基準にランダムに変化させて、負荷5の一部が運転停止した場合等を模擬している。DR要求量RQは、5MWとし、負荷電力の変動に応じて授受電力RPおよび実抑制量(図5におけるRQc)の変動をシミュレーションした。
【0072】
なお、シミュレーション結果において、実抑制電力RQcは、授受電力RPからベースラインBLおよびDR要求量RQを差し引く計算(RQc=RP-(BL+RQ))により求めている。また、DR要求電力量は、DR要求量(5MW)を積分して求め、実抑制電力量は、実抑制電力を積分して求めた。
【0073】
図9は、比較例におけるシミュレーション結果を示す図である。また、図10は、図9のシミュレーション結果に基づいて実抑制電力量をDR要求電力量と比較したグラフである。図9に示す比較例においては、電力出力装置の出力電力を負荷電力の変動によらず15MW(DR要求量RQ分の5MWの出力増)で一定とした以外は、図7のシミュレーションと同じ条件でシミュレーションを行った。
【0074】
図9および図10に示す比較例のシミュレーション結果によれば、負荷変動に応じて授受電力が変化するため、実抑制電力がDR要求量から乖離してしまう。このため、比較例においては、図10に示すように、DR要求電力量に対して実抑制電力量が不足する結果となった。図10の例では、開始から30分の時点で0.44MWhのずれが生じている。第2単位時間を30分とすると、DR要求電力量は、2.5MWh(5MW×0.5h)となるため、ディマンドリスポンスの達成率は、(2.5-0.44)/2.5=82.4(%)となる。
【0075】
以上より、比較例のように負荷変動に対して電力出力装置2iの出力電力を調整しないと、負荷変動によりディマンドリスポンスが達成できない場合が生じる。これにより、アグリゲータ7の評価が低下し、ペナルティが発生することになる。
【0076】
これに対し、図7および図8に示す本実施の形態におけるシミュレーション結果によれば、負荷変動に対して電力出力装置2iの出力電力が追従するため、実抑制電力がDR要求量から乖離することが防止される。すなわち、実抑制電力がDR要求量に追従する。このため、図9に示すように、DR要求電力量と実抑制電力量とが一致し、ディマンドリスポンスの達成率100%を実現することができた。
【0077】
このように、本シミュレーションによれば、本実施の形態における制御を行うことにより、ディマンドリスポンスの達成率を高くする(100%にする)ことができることが示された。
【0078】
[他の実施の形態]
上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行するための態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を逸脱することなく、その構造および/または機能の詳細を実質的に変更できる。
【0079】
例えば、上記実施の形態においては、DR要求量QRがベースラインBLに対して外部電力系統4から電力利用設備1に供給される電力(受電電力)を抑制する(減らす)量である場合を例示したが、DR要求量QRがベースラインBLに対して受電電力を増大する量である場合であっても、上記実施の形態における構成によって同様に制御可能である。
【0080】
また、上記実施の形態においては、外部電力系統4から電力利用設備1に電力が供給される場合の制御態様(受電電力の制御態様)を例示したが、電力利用設備1の電力出力装置2iの出力電力が外部電力系統4に供給される場合の制御態様(売電電力の制御態様)についても、上記実施の形態を適用可能である。
【0081】
電力出力装置2iが電力利用設備1の需要電力以上の発電を行い、余剰電力を系統へ逆潮流させることにより、電気事業者へ売電する取引が存在する。この場合、事前に電気事業者と計画した電力(売電計画値)を系統へ逆潮流させる必要がある。
【0082】
このような場合にも、負荷5へ供給される電力の変化に対して、外部電力系統4に対する授受電力RPを適切に制御する(売電計画値とずれないようにする)には、負荷5の状況に応じて電力出力装置2iの出力電力を制御する必要が生じる。すなわち、電力利用設備1における売電電力の制御についても、DR要求に伴う受電電力の制御と同様の課題が生じる。
【0083】
例えば、上記構成をそのまま利用し、授受電力が売電電力となる場合には、授受電力RPを負の値として扱うことで同様の制御を行うことができる。図11は、本実施の形態において電力出力装置の出力電力を売電する場合を示すグラフである。図2のグラフと同様に、需要電力(受電電力)が正の値となり、売電電力は負の値となっている。
【0084】
図11のグラフにおいて、授受電力RPは、売電電力(外部電力系統4に供給される電力)となるため負の値で推移する。図11のグラフは、期間TSにおいて小売電気事業者等から売電要求量RQ分の売電要求があった場合を示している。この場合、期間TSにおける授受電力目標値RPoは、第1単位時間ごとの売電要求量(売電電力目標値)RQである(RPo=RQ(<0))。したがって、電力偏差算出部61から出力される電力偏差ΔRPは、ΔRP=RQ-RP(RQ,RP<0)となる。指令生成部62は、この電力偏差ΔRPに応じて指令SCを生成する。
【0085】
上記構成によって、授受電力RPが売電電力目標値RQに等しい授受電力目標値RPoに一致するように制御される。また、この場合においても、電力偏差補正部63により、電力量に基づいて電力偏差ΔRPに補正を行うことにより、より適切な制御を実現することができる。
【0086】
このように、上記実施の形態においては、接続点3における授受電力が外部電力系統4から電力を供給する場合(正の値をとる場合)および外部電力系統4に電力を供給する場合(負の値をとる場合)の何れについても同じ制御態様で制御可能である。したがって、例えば夜間は売電を行い、昼間は受電を行う等受電電力が正の値にも負の値にもなる電力利用設備1にも適用可能である。
【0087】
なお、接続点3における授受電力が外部電力系統4に電力を供給する場合を正の値とし、外部電力系統4から電力を供給する場合を負の値としても同様の制御を行うことができる。図12は、図1に示す制御装置の制御ブロックを、売電電力を正の値として構成したときのブロック図である。図4に示す構成と同様の構成には同じ符号を付し、説明を省略する。
【0088】
図12に示す制御装置6Bにおいて、電力偏差算出部61Bには、授受電力目標値RPoとして売電電力目標値RQが入力される。指令生成部62Bは、電力偏差ΔRPが第1のしきい値T1以上である場合、増加指令SCuを生成し、電力偏差ΔRPが第2のしきい値T2未満である場合、減少指令SCdを生成する。それ以外の制御は、図4に示す制御態様と同様である。
【0089】
また、上記実施の形態では、第1のしきい値T1と第2のしきい値T2とが異なる値に設定される態様を例示したが、第1のしきい値T1と第2のしきい値T2とは同じ値(例えば0)に設定されてもよい。この場合、指令値生成部62は、指令SCとして共通のしきい値以上の場合に減少指令SCdを生成し、共通のしきい値未満の場合に増加指令SCuを生成する。すなわち、維持指令SCmは生成されない。
【0090】
同様に、上記実施の形態では、補正値生成部67は、電力量偏差ΔREが第4しきい値T4以上かつ第3しきい値T3未満である場合に補正を行わない(電力補正値RPcを0とする)態様を例示したが、これに限られない。例えば、第3しきい値T3と第4しきい値T4とが同じ値に設定されてもよい。この場合、電力偏差補正部63は、常に有意の電力補正値RPc(≠0)を出力する。
【0091】
あるいは、第3しきい値T3および第4しきい値T4が互いに異なる値に設定され、その間にヒステリシス特性を持たせてもよい。図13は、図6に示す補正値生成部の入出力関係の他の例を示す図である。図13においては、図6のうち、補正値生成部67Bのみを図示しているが、電力偏差補正部63のその他の構成は、図6に示す構成と同様である。
【0092】
図13に示す補正値生成部67Bは、入力される電力量偏差ΔREの値に応じて、正のオフセット値Pchまたは負のオフセット値Pclの何れかを出力するように構成される。補正値生成部67Bは、正のオフセット値Pchを出力している状態から電力量偏差ΔREが0より小さい第4しきい値T4以下になった場合に、出力する電力補正値RPcを負のオフセット値Pclに切り替える。さらに、補正値生成部67Bは、負のオフセット値Pclを出力している状態から電力量偏差ΔREが0より大きい第3しきい値T3以上になった場合に、出力する電力補正値RPcを正のオフセット値Pchに切り替える。
【0093】
このような構成によっても、頻繁に電力補正値RPcの値が切り替わるのを防止し、安定した制御を行うことができる。
【0094】
また、上記実施の形態では、DR要求量または売電要求量RQの単位時間である第1単位時間と電力量偏差算出部64で算出される電力量偏差ΔREの単位時間である第2単位時間とが同じ場合を例示したが、第1単位時間と第2単位時間とが異なっていてもよい。例えば、第2単位時間は第1単位時間の整数倍の値等としてもよい。
【0095】
また、上記実施の形態において、電力量偏差算出部64が、授受電力RPから授受電力量REを算出し、授受電力目標値RPoから授受電力量目標値REoを算出し、授受電力量目標値REoから授受電力量REを差し引くことで電力量偏差ΔREを生成する構成を例示した。これに代えて、電力量偏差算出部64は、授受電力目標値RPoから授受電力RPを差し引いた値(補正前の電力偏差ΔRP)を積分することにより電力量偏差ΔREを算出してもよい。
【0096】
また、上記実施の形態では、電力出力装置2iが、電力偏差ΔRPに応じた指令SCに基づいて電力を出力する態様を説明したが、電力出力装置2iは、電力偏差ΔRPに応じた指令SCに加えて、それ以外の制御信号に基づいて制御されてもよい。例えば、制御装置6またはその他の制御装置において燃料費が最も安くなるような負荷配分を算出および設定し、そのような負荷配分となるような制御指令を電力出力装置2iに入力してもよい。そのような制御指令に基づいて電力出力装置2iが制御されている状態で、さらに制御装置6から増加指令SCuを受信した場合、電力出力装置2iは、現在の出力電力をさらに増加させるようにしてもよい。
【0097】
また、上記実施の形態における制御態様は、DR要求が行われた場合にのみ(DR要求期間TDRの間だけ)適用され、それ以外の場合には、指令SCを用いた電力出力装置2iの制御を行わなくてもよい。すなわち、電力利用設備1は、上記実施の形態における制御態様とそれ以外の制御態様とを適宜切り替え可能に構成されてもよい。この場合、DR要求期間TDR以外の期間は、例えば、燃料費等が最適となる運用パターンで電力出力装置2iの出力電力を設定してもよい。これに代えて、DR要求期間TDRか否かにかかわらず、指令SCを用いた電力出力装置2iの制御を行ってもよい。
【0098】
また、接続点3に接続される電力出力装置2iの数は、1つでも2以上でもよい。また、上述したように接続点3に接続される電力出力装置2iは、発電機または蓄電池等、種々の電力出力装置が適用され得る。電力出力装置2iとして蓄電池が適用される場合には、単に発電するだけでなく蓄電池に充電することも可能である。複数の電力出力装置2iが接続点3に接続される場合には、同様の応答性を有する電力出力装置2iが接続されてもよいし、応答性の異なる電力出力装置2iが接続されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明は、電力出力装置を備えた電力利用設備において、電力出力装置の応答性を考慮することなく、電力利用設備の外部電力系統に対する授受電力が目標値となるように適切に制御するために有用である。
【符号の説明】
【0100】
1 電力利用設備
2i(i=1,2,3,…) 電力出力装置
3 接続点
4 外部電力系統
6 制御装置
61 電力偏差算出部
62 指令生成部
63 電力偏差補正部
64 電力量偏差算出部
65 補正値生成部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13