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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-13
(45)【発行日】2023-09-22
(54)【発明の名称】回し車及び時計
(51)【国際特許分類】
   G04B 19/253 20060101AFI20230914BHJP
【FI】
G04B19/253 L
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020019988
(22)【出願日】2020-02-07
(65)【公開番号】P2021124466
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2022-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣田 悠介
【審査官】吉田 久
(56)【参考文献】
【文献】実開昭48-69071(JP,U)
【文献】特開2005-241374(JP,A)
【文献】特開2019-219391(JP,A)
【文献】特開2013-50449(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転により表示車の歯を押圧して回転させる回し車であって、
回転の中心から最も遠い外側部分に前記歯を前記表示車の回転方向に押圧する押圧部が形成され、前記押圧部よりも前記中心からの距離が近い内側部分に被係合部が形成された、可撓性の弾性片部と、前記被係合部から離れて形成され、前記弾性片部の撓みにより前記被係合部と係合する係合部と、を備え、
前記弾性片部は、前記回し車の回転により前記押圧部が前記歯を押圧しても、前記表示車が回転しないときは、前記回し車の回転にしたがって撓み、
前記係合部は、撓んだ前記弾性片部の前記被係合部に係合し、前記回し車の回転にしたがって前記弾性片部を半径方向の内側に撓ませて、前記押圧部を前記歯から離す回し車。
【請求項2】
前記押圧部から、前記回し車の回転方向の後方に離れて形成され、前記回し車の回転により、撓んだ前記弾性片部の前記押圧部に、前記回転方向の後方から接して、前記押圧部とともに前記表示車を押圧する補助押圧部を備えた請求項1に記載の回し車。
【請求項3】
前記弾性片部は、半径方向内側に撓む第1弾性片と、前記第1弾性片から半径方向外側に延びて、前記回し車の回転方向に撓む第2弾性片とが一体に形成され、
前記押圧部は前記第2弾性片の先端に形成され、
前記被係合部は前記第1弾性片の先端に形成されている請求項1又は2に記載の回し車。
【請求項4】
前記弾性片部は、半径方向内側に撓む第1弾性片と、前記第1弾性片から半径方向外側に延びて、前記回し車の回転方向に撓む第2弾性片とが一体に形成され、
前記押圧部は前記第2弾性片の先端に形成され、
前記被係合部は前記第1弾性片の固定端と先端との間に形成されている請求項1に記載の回し車。
【請求項5】
表示車と、前記表示車を回転させる請求項1から4のうちいずれか1項に記載の回し車と、を備えた時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回し車及び時計に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、カレンダ付の時計は、文字板に形成された表示窓から、日付の数字が露出される構成となっている。ここで、文字板の背面側には、リング状に形成され、日付の数字が周方向に並んで表示された日車が配置されている。日車に噛み合っている日回し車が回転することで日車が所定角度だけ回転し、表示窓から露出される数字(日付の表示)が順次変わっていく。日回し車は、時針を回転させる筒車によって駆動される。
【0003】
ところで、手動操作で日付や時刻の修正を行うときは、時計の外部操作部材を操作することにより行われる。このとき、日回し車とは別の駆動経路である外部操作部材が日車に噛み合う。ここで、手動修正中に、日回し車が日車に噛み合っていると、外部操作部材により日車が日回し車を回転方向の後ろ側から押圧するため、日回し車が破損する恐れがある。
【0004】
そこで、日車に噛み合う日回し車の歯を弾性片の先端に形成し、日回し車が日車から押圧された場合は、その押圧力を受けた弾性片が撓んで日回し車の歯が日車の歯から離れ、日車から受ける押圧力を逃がす構造が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
一方、外部操作部材が日車に噛み合った状態で放置されると、日車は動かない状態であるにも拘わらず、日回し車は回転し続ける。ここで、外部操作部材によって日車を回転させるトルクは、日回し車によって日車を回転させるトルクよりも大きく設定されている。したがって、外部操作部材が日車に噛み合って日車が停止した状態で、日回し車が回転すると、日回し車に過度のトルクが作用して破損する恐れがある。
【0006】
そこで、日回し車の歯が日車の歯を押圧して日車を回転させるのではなく、日回し車の歯が日車の歯を引いて日車を回転させるように、歯の形成されている弾性片を、日車の歯よりも、回転方向の前方に形成した技術が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】実開平1-141487号公報
【文献】特開2000-304878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献2に開示された技術は、日回し車の回転による弾性片自体の弾性変形のみによって、日回し車の歯を日車の歯から離脱させるものであるため、弾性変形の個体差などによって、日回し車の歯を狙い通りに日車の歯から離脱させることができないものもある。
【0009】
なお、日車が停止状態で日回し車が回転する原因は、上述した外部操作部材を用いた日付修正の場合だけではない。すなわち、日車を含む時計のムーブメントは、例えば、日車がスポンジ等の緩衝材で覆われた状態で保管、搬送されることがある。このとき、日車は緩衝材によって押さえられて回転しないが、日回し車は日車を回転させるように動いて、日回し車に過度のトルクが作用して破損する恐れがある。
【0010】
日回し車が破損する恐れは、これらの他に、日車の精度や組み付けの精度等の要因により、日車が動き難い場合も同様に起こり得る。
【0011】
また、上述した問題は、日付を表示する日車とその日車を回転させる日回し車の組み合わせだけに起こるものではなく、日付以外の他の情報(例えば、曜日や世界の都市名)を表示する表示車とその表示車を回転させる回し車の組み合わせにおいても、同様に起こり得る。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、回転させる表示車が動き難い場合にも、破損するのを防止することができる回し車及びその回し車と表示車とを備えた時計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1は、回転により表示車の歯を押圧して回転させる回し車であって、回転の中心から最も遠い外側部分に前記歯を前記表示車の回転方向に押圧する押圧部が形成され、前記押圧部よりも前記中心からの距離が近い内側部分に被係合部が形成された、可撓性の弾性片部と、前記被係合部から離れて形成され、前記弾性片部の撓みにより前記被係合部と係合する係合部と、を備え、前記弾性片部は、前記回し車の回転により前記押圧部が前記歯を押圧しても、前記表示車が回転しないときは、前記回し車の回転にしたがって撓み、前記係合部は、撓んだ前記弾性片部の前記被係合部に係合し、前記回し車の回転にしたがって前記弾性片部を半径方向の内側に撓ませて、前記押圧部を前記歯から離す回し車である。
【0014】
本発明の第2は、表示車と、その表示車を回転させる本発明に係る回し車とを備えた時計である。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る回し車及び時計によれば、回転させる表示車が動き難い場合にも、破損するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る回し車の一実施形態である日回し車及びこの日回し車により回転される日車を含むムーブメントを示す斜視図である。
図2図1に示したムーブメントを内蔵した時計を示す平面図である。
図3】日車及び日車の歯と噛み合う押圧歯を有する日回し車を示す斜視図である。
図4】日回し車を示す平面図である。
図5】日車が動かないときの日回し車の動作を示す模式図であり、押圧歯が歯を回転方向Rに押圧し始めた状態を示す。
図6図5に示した状態から日回し車が回転した状態を示す、図5相当の図である。
図7図6に示した状態から日回し車が回転した状態を示す、図5相当の図である。
図8図7に示した状態から日回し車が回転した状態を示す、図5相当の図である。
図9】日車が動かないときの日回し車の動作を示す模式図であり、押圧歯が歯から外れた状態を示す。
図10】変形例の日回し車を示す、図4相当の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る回し車及び回し車を用いた時計の実施形態について、図面を用いて説明する。
【0018】
<時計>
図1は本発明に係る回し車の一実施形態である日回し車20及びこの日回し車20により回転される日車10を含むムーブメント80を示す斜視図、図2図1に示したムーブメント80を内蔵した時計100を示す平面図である。時計100は、本発明に係る時計の一実施形態である。
【0019】
時計100は、図2に示すように、ケース1の内部に、ムーブメント80、文字板2及び指針3(時針3a、分針3b及び秒針3c)を備えている。また、時計100は、指針3及び文字板2の上方を、ケース1に固定された風防ガラス6で覆っている。
【0020】
ムーブメント80は文字板2の背面側に配置されている。ムーブメント80は、後述する日車10(表示車の一例)及び日回し車20を含む。
【0021】
文字板2には、中心C1回りの角度30[度]ごとに、インデックスバー2bが設けられている。隣り合う2つのインデックスバー2bの間にはそれぞれ、等角度間隔に4つの目盛り2cが表示されている。
【0022】
なお、文字板2の3時の位置には、インデックスバー2bは備えられず、矩形の開口2aが形成されている。開口2aは、ムーブメント80に備えられている日車10に表示されている日付の数字12に対応した数字の一つを、文字板2のおもて面側に露出させる。
【0023】
また、文字板2の中心には、ムーブメント80の、各指針が取り付けられる指針軸4が、おもて面側に貫通している。各指針3は、指針軸4の対応するいずれかの軸4a,4b,4cに固定されて指針軸4回りに回転する。各指針3が、インデックスバー2bや目盛り2cを指し示すことにより、時刻を表示する。
【0024】
<ムーブメント>
ムーブメント80は、図示を略したゼンマイやモータ等の駆動源と、駆動源の回転駆動力を伝達する輪列と、輪列により伝達された回転駆動力により、図2に示す中心C1回りに回転する指針軸4と、駆動源、輪列及び指針軸4等を保持する地板5や輪列受け等と、外部操作部材の一例であるりゅうず71(図2参照)に連結された巻真72と、日車10と、日回し車20と、を備えている。
【0025】
<日車>
日車10は、本発明における表示車の一例であり、円環帯状に形成されていて、ムーブメント80において、円環の中心が中心C1に一致するように配置されている。日車10のおもて面11(文字板2に近い側の面)には、円周方向に沿って、図2に示すように、日付を表す31個の数字12が、中心C1回りの等角度間隔に表示されている。なお、図1においては、数字12の表示を省略している。
【0026】
日車10の円環の内周部には、表示されている数字12の数(31個)と同じ数の歯13が、表示されている数字12と位置を対応させて形成されている。したがって、文字板2の開口2aから日車10の一つの数字12が露出している状態から、歯13の一つ分だけ日車10が回転すると、その一つの数字12に隣り合った次の数字12が、開口2aから露出する。
【0027】
日車10の歯13には、早修正機構が噛み合っている。早修正機構は、巻真72を引いた状態で、巻真72の動きと連動し、巻真72を回転させることで、日車10を回転させる。一方、巻真72を元の位置まで押し込んだ状態では、早修正機構は、巻真72とは連動しないため、巻真72を回転させても日車10は回転しない。
【0028】
<日回し車>
図3は日車10及び日車10の歯13と噛み合う押圧歯24を有する日回し車20を示す斜視図、図4は日回し車20を示す平面図である。日回し車20は、本発明に係る回し車の一例であり、表示車の一例である日車10を回転させる。
【0029】
日回し車20は、図3,4に示すように、略円板状に形成されている。日回し車20の外周部には、中心回りの等角度間隔で、例えば14個の歯21が形成されている。これらの歯21は、日回し中間車61(図1参照)の歯62と噛み合っている。
【0030】
日回し中間車61は、中心C1回りに等角度間隔で形成された7個の歯62を有している。日回し中間車61は、指針軸4のうち時針3aが固定された軸4aである筒車(図1参照)と一体に回転する。軸(筒車)4aは12時間で1回転するため、日回し中間車61も12時間で1回転する。
【0031】
日回し車20の歯21は14個であるため、日回し中間車61が2回転すると日回し車20が1回転する。したがって、日回し車20は24時間で1回転する。
【0032】
日回し車20は、図4に示すように、弾性片部27を有している。弾性片部27は、固定端と自由端とを有し、自由端が、日回し車20の半径方向の内側及び周方向に変位可能の可撓性を有する。そして、日回し車20に形成された14個の歯21のうち1つの歯21は、弾性片部27の自由端に形成されている。
【0033】
以下、この弾性片部27に形成された歯21を、他の13個の歯21と区別するために押圧歯24(押圧部)という。また、日回し車20に形成された14個の歯21のうち、押圧歯24の、日回し車20の回転方向Rの直後に形成された歯21を、補助押圧歯23(補助押圧部)ということがある。
【0034】
日回し車20の14個の歯21のうち押圧歯24を除いた13個の歯21は、図4に示すように、日回し車20の中心から同一半径(半径r1)の位置に形成されているが、押圧歯24だけは、他の13個の歯21よりも大きい半径(半径r2(>r1))の位置に形成されている。
【0035】
日回し車20は、その中心が中心C2に一致する位置に配置されている。ここで、中心C2は、中心C2から日車10の歯13までの距離が半径r1よりも長く、かつ半径r2よりも短くなるように設定された位置である。
【0036】
弾性片部27は、日回し車20の主に半径方向に撓み可能の第1弾性片26と、第1弾性片26の先端側から日回し車20の半径方向の外側に延びて、日回し車20の主に周方向に撓み可能の第2弾性片25とが一体に形成されている。
【0037】
第1弾性片26は、固定端から日回し車20の回転方向Rの前方に延びて形成されている。したがって、第1弾性片26の自由端(先端)は固定端よりも、日回し車20の回転方向Rの前方に形成されている。
【0038】
第2弾性片25は、第1弾性片の先端付近を固定端として日回し車20の半径方向の外側に延びて形成されている。したがって、第2弾性片25の自由端(先端)は固定端よりも、日回し車20の半径方向の外側に形成されている。
【0039】
なお、第1弾性片26と第2弾性片25とは、鋭角に交差して一体化されていて、第1弾性片26の先端は、第2弾性片25の先端よりも、回転方向Rの前方に位置している。
【0040】
第1弾性片26の先端には、日回し車20の半径方向の外側に突出した被係合部28が形成されている。第2弾性片25の先端には、前述した押圧歯24が形成されている。したがって、被係合部28は押圧歯24よりも回転方向Rの前方に位置している。
【0041】
また、押圧歯24は、日回し車20の半径方向の最外側に位置している。したがって、被係合部28は押圧歯24よりも、日回し車20の半径方向の内側に形成されている。
【0042】
弾性片部27が撓むことで、押圧歯24は、弾性片部27に負荷が掛からない自然状態(撓む以前の状態)よりも、半径方向の内側に変位した状態となり、このとき、押圧歯24も他の13個の歯21と同一の半径r1の位置で、他の歯21と略等角度間隔の位置に変位する。
【0043】
これにより、日回し車20の、押圧歯24を含む全ての歯21は、日回し中間車61の歯62と支障なく噛み合い、日回し車20は、日回し中間車61の回転に従って回転する。
【0044】
ここで、日車10が回転方向Rへ回転しても日回し車20が回転しないとき、又は日車10の回転方向Rへの回転速度が、日回し車20の回転速度よりも早い場合、日車10の歯13が日回し車20の押圧歯24に、回転方向Rの後ろ側から接し、押圧歯24が歯13により、回転方向Rの前方に押圧されて前方に変位する。
【0045】
押圧歯24が形成された日回し車20は回転しない又は回転速度が相対的に遅いため、押圧歯24が先端に形成された弾性片部27が撓む。弾性片部27の撓みが大きくなるにしたがって、押圧歯24は半径方向の内側に変位し、歯13に対する押圧歯24の掛かり代が小さくなり、やがて、この掛かり代が無くなって、押圧歯24は歯13から外れる。
【0046】
また、日回し車20の、押圧歯24よりも回転方向Rの前方に位置する歯21の、半径方向の内側には、弾性片部27の自然状態において被係合部28から、回転方向の後方の位置に離れた係合部29が形成されている。弾性片部27の撓みにより、係合部29に対する被係合部28の位置が変化する。
【0047】
そして、日回し車20の回転方向Rへ回転しても弾性片部27が回転しないとき、弾性片部27は相対的に回転方向Rの後方に撓む。すなわち、弾性片部27の先端に形成された押圧歯24が、回転しない日車10の歯13に、回転方向Rの後ろ側から接して、変位が止められているとき、日回し車20の回転が進むと、弾性片部27は日回し車20の全体に対して相対的に回転方向Rの後方に撓む。
【0048】
ここで、日回し車20が回転方向Rへ回転しても日車10が回転しないとき、第2弾性片25の先端(押圧歯24)が相対的に回転方向Rの後方に変位するように撓む。この撓みによって第2弾性片25に生じた弾性力により、第2弾性片25の固定端(第1弾性片26の先端付近)が半径方向の外側で、回転方向Rの後方に変位するように、第1弾性片26が撓む。この撓みによって、被係合部28が、半径方向の外側で、回転方向Rの後方に離れていた係合部29に近づく。
【0049】
日回し車20の回転が進み、弾性片部27の撓みが大きくなることにより、被係合部28が係合部29に接して、被係合部28と係合部29とが係合する。その後、被係合部28と係合部29とが接して係合し、日回し車20の回転により係合部29が弾性片部27を回転方向Rに引っ張る。
【0050】
これにより、弾性片部27は、主に第1弾性片26が半径方向の内側に撓み、第2弾性片25の全体が半径方向の内側に変位する。そして、第2弾性片25の先端に形成されている押圧歯24が半径方向の内側に変位し、歯13に対する押圧歯24の掛かり代が小さくなり、やがて、この掛かり代が無くなって、押圧歯24は歯13から外れる。
【0051】
<作用>
以上のように構成された本実施形態の時計100によれば、日回し車20が中心C2回りに回転したとき、中心C2からの半径がr2である押圧歯24は、日車10の歯13と噛み合って日車10を回転方向Rに回転させる。一方、中心C2からの半径がr1である他の歯21(押圧歯24を除く)は、日車10の歯13と噛み合わず、日車10を回転させることはない。
【0052】
なお、押圧歯24が日車10の歯13と噛み合って日車10を回転させる、中心C1回りの回転角度は、日付を表す31個の数字12が表示された角度間隔と一致する。これにより、24時間のうちの所定の1時間以内の間だけ、押圧歯24が歯13に噛み合って、日車10を1つの日付に対応した角度だけ回転させる。
【0053】
このように、時計100が通常の運針動作中、つまり、時計100が時刻を表示するための運針動作中は、上述したように、日回し車20が日車10を回転させる。
【0054】
ここで、時計100の通常の運針動作中であって、日回し車20の押圧歯24が日車10の歯13に噛み合っている状態で、使用者によるりゅうず71への操作により、早修正機構が日車10に噛み合い、巻真72を回転させることで、日車10を回転させた場合、図1に示した状態で、日車10が回転方向Rに回転される。
【0055】
すると、押圧歯24よりも、回転方向Rの後方に位置する日車10の歯13が、押圧歯24の後方から押圧歯24に接する。日車10の回転がさらに進むと、押圧歯24の後方から押圧歯24に接した日車10の歯13は、押圧歯24を回転方向Rの前方に押圧する。
【0056】
押圧歯24は弾性片部27の自由端に形成されているため、歯13から回転方向Rの前方への押圧によって、弾性片部27は、主に第2弾性片25の作用により回転方向Rの前方に撓むとともに、主に第1弾性片26の作用により日回し車20の半径方向の内側に撓む。
【0057】
歯13による押圧歯24への押圧がさらに進展すると、弾性片部27の撓みがさらに大きくなって、中心C2から押圧歯24までの半径r2が、中心C2から歯13までの距離以下となる。これにより、押圧歯24は、押圧歯24を前方に押圧していた歯13よりも半径方向の内側に逃げて、歯13が押圧歯24を追い越し、回転方向Rの前方に出る。
【0058】
押圧歯24は、前方に押圧されていた荷重がなくなるため、撓みによって生じた弾性力により、撓む以前の自然状態に復元する。
【0059】
このように、時計100の通常の運針動作中であって、日回し車20の押圧歯24が日車10の歯13に噛み合っている状態で、早修正機構による操作が行われた場合にも、日回し車20及び日車10が破損することはない。
【0060】
また、上述した状態とは反対に、時計100の通常の運針動作中であって、日回し車20の押圧歯24が日車10の歯13に噛み合っている状態で、早修正機構が日車10に噛み合った状態で放置されると、日車10は動かない状態であるにも拘わらず、日回し車20は回転し続ける。この場合、本実施形態の時計100は、以下に説明するように動作する。
【0061】
図5~9は日車10が動かないときの日回し車20の動作を示す模式図であり、図5は押圧歯24が歯13を回転方向Rに押圧し始めた状態を示し、図6,7,8に示す順に日回し車20の回転が進み、図9は押圧歯24が歯13から外れた状態を示す。
【0062】
図5に示すように、時計100の通常の運針動作中に、押圧歯24が日車10の歯13の回転方向Rの後側から接して、日車10を回転方向Rに回転させようとしているとき、早修正機構が日車10に噛み合った状態で放置され、日車10は動かない状態であると、日回し車20のトルクでは日車10が回転し難いことがある。
【0063】
このため、図6,7に示すように日回し車20の回転が進むにしたがって、歯13に接している押圧歯24は動かないが、日回し車20の、押圧歯24が形成されている弾性片部27以外の部分は回転方向Rに回転を継続する。
【0064】
押圧歯24は弾性片部27の自由端に形成されているため、弾性片部27は、日回し車20の弾性片部27以外の本体部分に対して、主に第2弾性片25の作用により、相対的に回転方向Rの後方に撓むとともに、主に第1弾性片26の作用により日回し車20の半径方向の外側に撓む。
【0065】
日回し車20の回転が進むにしたがって、弾性片部27の相対的な回転方向Rの後方への撓みと、日回し車20の半径方向の外側への撓みが大きくなる。これにより、第1弾性片26の先端に形成されている被係合部28が、自然状態では被係合部28に対して回転方向Rの後方及び半径方向の外側に離れて形成されている係合部29に対して、相対的に回転方向Rの前方及び半径方向の内側から近づく。
【0066】
その後、図6に示すように、被係合部28と係合部29とが接して係合し、日回し車20の回転方向Rへのさらなる回転により、図7及び図8に示すように、係合部29が被係合部28に係合した状態で弾性片部27を回転方向Rの前方に引っ張る。
【0067】
そして、主に第1弾性片26の、半径方向の内側への撓みにより、第2弾性片25の全体が半径方向の内側に変位し、第2弾性片25の先端に形成されている押圧歯24が半径方向の内側に変位して、中心C2から押圧歯24までの半径r2が、中心C2から歯13までの距離以下となる。
【0068】
この結果、図9に示すように、押圧歯24は、押圧歯24を前方に押圧していた歯13よりも半径方向の内側に逃げて、歯13を追い越し、回転方向Rの前方に出る。
【0069】
押圧歯24は、前方の歯13を押圧した反力がなくなるため、撓みによって生じた弾性力により、撓む以前の自然状態に復元する。
【0070】
このように、本実施形態の時計100は、時計100の通常の運針動作中であって、日回し車20の押圧歯24が日車10の歯13に噛み合っている状態で早修正機構が日車10に噛み合った状態に放置された場合にも、日車10の歯13からの日回し車20の押圧歯24の離脱を、日回し車20の回転による弾性片部27自体の撓み(弾性変形)のみによって行うのではなく、弾性片部27自体の撓みに加えて、日回し車20の係合部29と被係合部28との係合による弾性片部27の変位も行う。
【0071】
したがって、本実施形態の時計100は、弾性片部27の弾性変形の個体差の有無に拘わらず、日回し車20の押圧歯24を日車10の歯13から安定して離脱させることができる。これにより、本実施形態の時計100は、時計100の通常の運針動作中であって、日回し車20の押圧歯24が日車10の歯13に噛み合っている状態で早修正機構が日車10に噛み合った状態に放置された場合にも、日回し車20及び日車10の破損を確実に防ぐことができる。
【0072】
なお、本実施形態の日回し車20は、図8に示すように、押圧歯24が歯13から離脱する以前に、押圧歯24が、自然状態に比べて回転方向Rの後方に大きく撓んで、押圧歯24の、回転方向Rの直後に形成された歯21(補助押圧歯23)に接する。
【0073】
このため、日回し車20が、図9に示す、押圧歯24が歯13から離脱するまでの所定の回転期間は、押圧歯24と補助押圧歯23とが一体化した状態で、歯13を回転方向Rの後ろ側から押圧する。
【0074】
補助押圧歯23は、日回し車20の、撓みがほとんど生じない本体部分に形成されているため、押圧歯24と補助押圧歯23とで一体に歯13を押圧する構造は、回転方向Rに撓みが生じる弾性片部27に形成された押圧歯24のみで歯13を押圧する構造に比べて、日回し車20から日車10にトルクを伝達する効率を向上させることができる。
【0075】
したがって、押圧歯24のみによっては日車10を回転させることができない場合であっても、押圧歯24と補助押圧歯23とが一体になって歯13を押圧したときは、押圧歯24が歯13から離脱する前に、日車10を回転させる可能性を増大させることができる。
【0076】
本実施形態の時計100は、日車10を回転させる日回し車20に本発明に係る回し車を適用したものであるが、本発明に係る回し車は、日回し車20に限定されるものではない。
【0077】
すなわち、本発明に係る回し車は、日車を回転させる日回し車だけでなく、日車以外の曜車(曜日を示す文字が周方向に並んで表示された車)や月車(月(1~12月)を示す文字が周方向に並んで表示された車)やムーンフェイズや都市表示車(都市名を示す文字が周方向に並んで表示された車)など、種々の情報を表示する表示車を回転させる回し車に適用することもできる。
【0078】
また、本発明に係る時計は、そのような表示車と、その表示車を回転させる本発明に係る回し車とを備えた時計に適用することもできる。
【0079】
また、本実施形態の時計100及び日回し車20は、日車10が回転し難い原因として、外部操作部材を用いた早修正機構による日付の修正状態で放置された場合を例示したが、本発明に係る時計及び回し車は、上述した原因で表示車が回転し難い場合の課題に限定されるものではない。
【0080】
すなわち、表示車を含む時計のムーブメントは、例えば、表示車がスポンジ等の緩衝材で覆われた状態で保管、搬送されることがある。このとき、表示車は緩衝材によって押さえられて回転しないが、回し車は表示車を回転させるように動いて、回し車に過度のトルクが作用して破損する恐れがある。
【0081】
本発明に係る時計及び回し車は、上述した原因により、表示車が回転し難い場合や、表示車の精度や組み付けの精度等の要因により、表示車が動き難い場合も、本発明の課題として対応する。
【0082】
上述した実施形態の時計100及び日回し車20は、被係合部28が、第1弾性片26の先端に形成され、係合部29が、押圧歯24よりも回転方向Rの前方の歯21に対応して形成されていて、日回し車20の回転により、係合部29が被係合部28に係合した状態で、弾性片部27を、回転方向Rの前方に引く構造である。
【0083】
しかし、本発明に係る時計及び回し車は、係合部29が被係合部28に係合した状態で、弾性片部27を、回転方向Rの前方に押す構造であってもよい。
【0084】
図10は、変形例の日回し車20を示す平面図である。図示の日回し車20は、図4に示した日回し車20の変形例であり、本発明に係る回し車の一実施形態である。
【0085】
図示の日回し車20は、基本的な構成(押圧歯24が弾性片部27の先端に形成された構造)は、図4に示した日回し車20と同じであるが、被係合部28が、第1弾性片26の先端ではなく、第1弾性片26の固定端26bと先端26aとの間に形成されている。
【0086】
なお、日回し車20の係合部29と被係合部28との係合時に、第1弾性片26が撓みやすいよう、被係合部28は第1弾性片26の長手方向の中間部26cよりも先端26a側に形成されていることが好ましい。
【0087】
そして、この被係合部28に係合する係合部29は、押圧歯24に対して回転方向Rの前方ではなく後方の歯21に対応して、被係合部28の回転方向Rの後方で、半径方向の外側に離れて形成されている。
【0088】
このように、被係合部28及び係合部29が形成されている変形例は、日回し車20の回転が進むにしたがって、弾性片部27の相対的な回転方向Rの後方への撓みと、日回し車20の半径方向の外側への撓みが大きくなる。これにより、第1弾性片26の中間部に形成されている被係合部28が、自然状態では被係合部28に対して回転方向Rの後方及び半径方向の外側に離れて形成されている係合部29に対して、相対的に回転方向Rの前方及び半径方向の内側から近づく。
【0089】
その後、被係合部28と係合部29とが接して係合し、日回し車20の回転方向Rへのさらなる回転により、係合部29が被係合部28に係合した状態で弾性片部27を回転方向Rの前方に押す。
【0090】
そして、主に第1弾性片26の、半径方向の内側への撓みにより、第2弾性片25の全体が半径方向の内側に変位し、第2弾性片25の先端に形成されている押圧歯24が半径方向の内側に変位して、中心C2から押圧歯24までの半径r2が、中心C2から歯13までの距離以下となる。
【0091】
この結果、押圧歯24は、押圧歯24を前方に押圧していた歯13よりも半径方向の内側に逃げて、歯13を追い越し、回転方向Rの前方に出る。
【0092】
押圧歯24は、前方の歯13を押圧した反力がなくなるため、撓みによって生じた弾性力により、撓む以前の自然状態に復元する。
【0093】
このように、変形例の日回し車20を有する時計100は、時計100の通常の運針動作中であって、日回し車20の押圧歯24が日車10の歯13に噛み合っている状態で早修正機構が日車10に噛み合った状態に放置された場合にも、日車10の歯13からの日回し車20の押圧歯24の離脱を、日回し車20の回転による弾性片部27自体の撓み(弾性変形)のみによって行うのではなく、弾性片部27自体の撓みに加えて、日回し車20の係合部29と被係合部28との係合による弾性片部27の変位も行う。
【0094】
したがって、変形例の日回し車20を有する時計100は、弾性片部27の弾性変形の個体差の有無に拘わらず、日回し車20の押圧歯24を日車10の歯13から安定して離脱させることができる。これにより、変形例の日回し車20を有する時計100は、時計100の通常の運針動作中であって、日回し車20の押圧歯24が日車10の歯13に噛み合っている状態で早修正機構が日車10に噛み合った状態に放置された場合にも、日回し車20及び日車10の破損を確実に防ぐことができる。
【符号の説明】
【0095】
10 日車
13 歯
20 日回し車
21 歯
24 押圧歯
27 弾性片部
28 被係合部
29 係合部
100 時計
C1,C2 中心
R 回転方向
r1,r2 半径
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10