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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-13
(45)【発行日】2023-09-22
(54)【発明の名称】スクロール型流体機械
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/02 20060101AFI20230914BHJP
   F04C 29/02 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
F04C18/02 311Y
F04C29/02 311L
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020032746
(22)【出願日】2020-02-28
(65)【公開番号】P2021134742
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2023-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【氏名又は名称】西山 春之
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(72)【発明者】
【氏名】伊能 聡
(72)【発明者】
【氏名】田中 雄太
(72)【発明者】
【氏名】石井 広大
(72)【発明者】
【氏名】廣澤 佐和子
【審査官】岸 智章
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-080995(JP,A)
【文献】特開2008-038616(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/02
F04C 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
前記ハウジングに固定された固定スクロールと、
前記固定スクロールの軸心周りに公転可能に配置された旋回スクロールと、
前記固定スクロール及び前記旋回スクロールによって圧縮又は膨張された圧縮性流体から潤滑油を分離するオイルセパレータと、
を備え、
前記固定スクロールの上部に、前記旋回スクロールのスラスト力を受ける前記ハウジングの円環形状のスラスト受け面に向かう速度成分を有するように、前記オイルセパレータによって圧縮性流体から分離された潤滑油を先端開口から斜め方向に噴射する油路が形成され、
前記スラスト受け面に、内周端部から外周端部に向かって延びて、前記油路の先端開口から噴射された潤滑油の少なくとも一部を受ける第1の溝部が形成された、
スクロール型流体機械。
【請求項2】
前記油路は、前記固定スクロールの背面から先端面に向けて軸方向に延びる第1の油路と、前記固定スクロールの外周面から背面に向けて斜めに延びて前記第1の油路に連通する第2の油路と、を含んだ、
請求項1に記載のスクロール型流体機械。
【請求項3】
前記第2の油路は、前記固定スクロールの先端面を斜めに切削加工した斜面上に開口する、
請求項2に記載のスクロール型流体機械。
【請求項4】
前記ハウジングの内面に、前記油路の先端開口から噴射された潤滑油を受けて前記第1の溝部へと導く第2の溝部が更に形成された、
請求項1~請求項3のいずれか1つに記載のスクロール型流体機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定スクロール及び旋回スクロールにより区画される圧縮室の容積を変化させることで、圧縮性流体を圧縮又は膨張させるスクロール型流体機械に関する。
【背景技術】
【0002】
スクロール型流体機械の一例として挙げられるスクロール型圧縮機は、旋回スクロールが固定スクロールの軸心周りに公転することで圧縮室の容積を変化させ、圧縮性流体の一例として挙げられる気体冷媒を吸入、圧縮及び吐出するように構成されている。スクロール型圧縮機では、気体冷媒に含まれる潤滑油によって、旋回スクロールを固定スクロールの軸心周りに公転させるクランク機構などが収容されるクランク室が潤滑されている。具体的には、特開2000-80995号公報(特許文献1)に記載されるように、固定スクロールの背面から先端面に貫通して延びる油路の先端開口から、オイルセパレータにより気体冷媒から分離された潤滑油を噴射し、これに対向するハウジングの内面に形成された受け溝を通って潤滑油がクランク室へと供給されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-80995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、固定スクロールに対する旋回スクロールの相対回転位置によっては、固定スクロールの油路の先端開口が旋回スクロールの背面によって塞がれ、油路の先端開口から潤滑油が噴射されない状態が定期的に発生する。油路の先端開口から潤滑油が噴射されないと、その期間においてクランク室に供給される潤滑油の絶対量が減ってしまう。
【0005】
そこで、本発明は、固定スクロールに対する旋回スクロールの相対回転位置にかかわらず、固定スクロールに形成された油路の先端開口から潤滑油が噴射されるようにした、スクロール型流体機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
スクロール型流体機械は、ハウジングと、ハウジングに固定された固定スクロールと、固定スクロールの軸心周りに公転可能に配置された旋回スクロールと、固定スクロール及び旋回スクロールによって圧縮又は膨張された圧縮性流体から潤滑油を分離するオイルセパレータと、を備えている。そして、固定スクロールの上部に、旋回スクロールのスラスト力を受けるハウジングの円環形状のスラスト受け面に向かう速度成分を有するように、オイルセパレータによって圧縮性流体から分離された潤滑油を先端開口から斜め方向に噴射する油路が形成されている。また、スラスト受け面に、内周端部から外周端部に向かって延びて、油路の先端開口から噴射された潤滑油の少なくとも一部を受ける第1の溝部が形成されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、固定スクロールに対する旋回スクロールの相対回転位置にかかわらず、固定スクロールに形成された油路の先端開口から潤滑油を噴射することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】スクロール型圧縮機の一例を示す断面図である。
図2】ハウジングの段部を臨む正面図である。
図3】固定スクロールに形成された油路の一例を示す斜視図である。
図4】固定スクロールに形成された油路の一例を示す要部断面図である。
図5】固定スクロールに形成された油路の他の例を示す斜視図である。
図6】固定スクロールに形成された油路の他の例を示す要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付された図面を参照し、本発明を実施するための実施形態について詳述する。
なお、スクロール型流体機械としては、圧縮機又は膨張機のどちらでも使用することができるが、ここではスクロール型圧縮機を例にとって説明する。
【0010】
図1は、スクロール型圧縮機100の一例を示している。
スクロール型圧縮機100は、例えば、車両用空調機器の冷媒回路に組み込まれ、冷媒回路から低圧の気体冷媒(圧縮性流体)を吸入して圧縮し、冷媒回路に高圧の気体冷媒を吐出する。スクロール型圧縮機100は、ハウジング200と、低圧の気体冷媒を圧縮する圧縮機構300と、圧縮機構300に外部から回転駆動力を伝達する駆動力伝達機構400と、を備えている。ここで、ハウジング200の下部には、圧縮機構300及び駆動力伝達機構400の可動部などを潤滑する、所定量の潤滑油が貯留されている。
【0011】
ハウジング200は、圧縮機構300及び駆動力伝達機構400を収容するフロントハウジング220と、フロントハウジング220の開口端に接合されるリアハウジング240と、を含んで構成されている。
【0012】
フロントハウジング220の外周面は、リアハウジング240との接合面から離れるにつれて、その外径が4段階に縮径する段付円柱形状に形成されている。ここで、円柱形状とは、見た目で円柱形状であると認識できる程度でよく、例えば、その外周面に補強用のリブ、取付用のボスなどがあってもよい(形状については以下同様)。また、フロントハウジング220の内周面は、リアハウジング240との接合面から離れるにつれて、その外径が4段階に縮径する段付円柱形状に形成されている。従って、フロントハウジング220は、その外周面と内周面とが相似形となっており、その全体について略同一の外殻厚さを有する、4段階に縮径する円筒形状に形成されている。さらに、フロントハウジング220の周壁の所定箇所には、冷媒回路から低圧の気体冷媒を吸入する、吸入ポートP1が形成されている。
【0013】
以下の説明においては、説明の便宜上、フロントハウジング220の段付円柱形状の内周面について、その大径部から小径部にかけて、第1内周面220A、第2内周面220B、第3内周面220C、及び第4内周面220Dと称することとする。
【0014】
リアハウジング240は、フロントハウジング220との接合面から離れるにつれて、その中心部が外方へと膨出する半球形状をなしている。従って、リアハウジング240は、圧縮機構300と協働して所定容積を有する吐出室H1を形成する。また、リアハウジング240には、吐出室H1の気体冷媒から潤滑油を分離する、遠心分離式のオイルセパレータOSが組み込まれている。さらに、リアハウジング240の周壁の所定箇所には、オイルセパレータOSによって潤滑油が分離された高圧の気体冷媒を冷媒回路に吐出する、吐出ポートP2が形成されている。
【0015】
フロントハウジング220及びリアハウジング240は、フロントハウジング220の開口端とリアハウジング240の開口端とを接合させた状態で、例えば、締結具の一例として挙げることができる、複数のボルト500によって分離可能に締結されている。
【0016】
圧縮機構300は、フロントハウジング220の第1内周面220Aによって区画される円柱形状の空間に配置されている。圧縮機構300は、フロントハウジング220の大径側の開口を閉塞するように配置された固定スクロール320と、第1内周面220Aから第2内周面220Bへと移行する円環形状の段部220Eと固定スクロール320との間に配置された旋回スクロール340と、を含んで構成されている。ここで、フロントハウジング220の段部220Eが、スラスト受け面の一例として挙げられる。
【0017】
固定スクロール320は、フロントハウジング220の第1内周面220Aの開口端に嵌合される円板形状の底板322と、底板322の一面から旋回スクロール340に向かって延びるインボリュート形状のラップ324と、を有している。また、固定スクロール320は、第1内周面220Aの開口端において底板322の外周面から半径外方へと延び、フロントハウジング220とリアハウジング240との接合面に挟持される、薄板円環形状のフランジ326を更に有している。フランジ326の外周縁は、フロントハウジング220の開口端の外形に倣った形状に形成され、その板面の複数個所に、ボルト500の軸部が貫通可能な貫通孔が夫々形成されている。従って、固定スクロール320は、そのフランジ326を介して、フロントハウジング220とリアハウジング240との接合面に挟持されることで、フロントハウジング220の大径側の開口端を閉塞するとともに、リアハウジング240と協働して吐出室H1を区画する。なお、固定スクロール320のフランジ326とリアハウジング240との間には、図示しないガスケットが配設されている。
【0018】
旋回スクロール340は、フロントハウジング220の段部220Eを臨む位置に配置される円板形状の底板342と、底板342の一面から固定スクロール320に向かって延びるインボリュート形状のラップ344と、を有している。底板342は、固定スクロール320の底板322より小さい外径を有し、その他面の外周部が、フロントハウジング220の段部220Eにスラスト力を伝達するように、薄板円環形状のスラストプレート510を介して段部220Eに当接されている。なお、スラストプレート510は、フロントハウジング220の段部220Eに対して固定されている。
【0019】
そして、固定スクロール320及び旋回スクロール340は、ラップ324及び344の周方向の角度が互いにずれた状態で、ラップ324及び344の側壁が互いに部分的に接触するように噛み合わされている。このとき、固定スクロール320のラップ324の先端部に、旋回スクロール340の底板342の一面との気密性を確保する、図示しないチップシールを取り付けてもよい。一方、旋回スクロール340のラップ344の先端部に、固定スクロール320の底板322の一面との気密性を確保する、図示しないチップシールを取り付けてもよい。従って、圧縮機構300では、固定スクロール320と旋回スクロール340との間に、三日月形状の密閉空間である、気体冷媒を吸入して圧縮する圧縮室H2が区画されている。
【0020】
固定スクロール320の底板322の中心部には、圧縮室H2によって圧縮された気体冷媒を吐出室H1へと吐出する吐出孔322Aが形成されている。吐出室H1を臨む底板322の他面には、圧縮室H2から吐出室H1への気体冷媒の流通を許容するが、吐出室H1から圧縮室H2への気体冷媒の流通を阻止する、例えば、リードバルブからなる逆止弁328が取り付けられている。
【0021】
固定スクロール320の底板322の外周面には、その全周に亘って凹溝322Bが形成され、ここにフロントハウジング220との気密性を確保するOリング322Cが嵌め込まれている。また、リアハウジング240の開口端面には、その全周に亘って凹溝240Aが形成され、ここに図示しないガスケットとの気密性を確保するOリング240Bが嵌め込まれている。
【0022】
駆動力伝達機構400は、駆動軸410と、クランクピン420と、偏心ブッシュ430と、バランサウェイト440と、電磁クラッチ450と、プーリ460と、を含んで構成されている。
【0023】
駆動軸410は、小径部410A及び大径部410Bを有する段付円柱形状をなし、その小径部410Aの先端部がフロントハウジング220の小径側端部から外部に突出した状態で、フロントハウジング220に回転自由に収容されている。具体的には、駆動軸410の小径部410Aは、フロントハウジング220の第4内周面220Dの開口側端部に対して、ボールベアリング520によって回転自由に軸支されている。また、駆動軸410の大径部410Bは、フロントハウジング220の第3内周面220Cに対して、ローラベアリング530によって回転自由に軸支されている。駆動軸410の小径部410Aであって、ボールベアリング520と大径部410Bとの間に位置する部位は、例えば、メカニカルシールやリップシールなどのシール部材540によって、フロントハウジング220の第4内周面220Dとの気密性が確保されている。なお、駆動軸410は、ボールベアリング520やローラベアリング530などのころがり軸受に限らず、円筒形状のすべり軸受によって回転自由に軸支されていてもよい。
【0024】
駆動軸410の大径部410Bの軸方向の端面であって、その軸心から偏心した位置には、ここから圧縮機構300に向かって延びる円柱形状のクランクピン420が立設されている。クランクピン420の外周面には、円柱形状の外形を有する偏心ブッシュ430が相対回転可能かつ偏心状態で固定されている。偏心ブッシュ430の外周面は、旋回スクロール340の底板342の他面(背面)からフロントハウジング220の小径側へと向かって延びる円環形状のボス部342Aに対して、その内周面に圧入されたすべり軸受550を介して回転自由に軸支されている。また、旋回スクロール340のボス部342Aの半径外方には、旋回スクロール340の公転に起因する振動を低減するために、旋回部分の重量などを考慮したバランサウェイト440が取り付けられている。
【0025】
旋回スクロール340の自転を阻止する自転阻止機構として、フロントハウジング220の段部220Eには、ここから旋回スクロール340に向かって延びる、複数の自転阻止ピン560が圧入固定されている。複数の自転阻止ピン560は、駆動軸410の軸心に対して等距離かつ等間隔に配置されている。なお、図1に示すスクロール型圧縮機100では、フロントハウジング220の段部220Eに4本の自転阻止ピン560が圧入固定されているが、その本数は任意とすることができる。また、スラストプレート510の板面には、自転阻止ピン560が貫通する貫通孔が複数形成されている。
【0026】
旋回スクロール340の底板342の他面であって、フロントハウジング220の段部220Eから突出する自転阻止ピン560に対向する複数個所には、底板342の他面から一面へと向かって延びる円形孔342Bが夫々形成されている。そして、複数の自転阻止ピン560の先端部が、旋回スクロール340の円形孔342Bに内接しつつその軸心周りに公転するように嵌合されている。従って、旋回スクロール340は、その自転が阻止された状態で、固定スクロール320の軸心周りを公転する。
【0027】
駆動軸410の先端部は、フロントハウジング220の小径部の外周面に遊転可能に取り付けられた電磁クラッチ450を介して、外部からの動力によって回転するプーリ460に連結されている。従って、電磁クラッチ450を動作させると、プーリ460と駆動軸410とが連結され、プーリ460の回転力によって駆動軸410が回転する。一方、電磁クラッチ450の動作を停止させると、プーリ460と駆動軸410とが切り離され、駆動軸410の回転が停止する。このように、電磁クラッチ450を適宜制御することで、スクロール型圧縮機100の動作を制御することができる。なお、外部からの動力としては、例えば、エンジン出力、電動モータ出力などとすることができる。
【0028】
次に、スクロール型圧縮機100の作用について説明する。
外部からの動力によって駆動軸410が回転すると、その回転力がクランクピン420及び偏心ブッシュ430を介して旋回スクロール340に伝達され、旋回スクロール340が自転を阻止された状態で固定スクロール320の軸心周りを公転する。その結果、圧縮機構300の圧縮室H2の容積が変化し、フロントハウジング220の吸入ポートP1から内部空間へと吸入された低圧の気体冷媒は、圧縮室H2で圧縮されながら中心部へと導かれる。圧縮機構300の中心部へと導かれた気体冷媒は、固定スクロール320の底板322に形成された吐出孔322A及び逆止弁328を介して、吐出室H1へと吐出される。吐出室H1へと吐出された高圧の気体冷媒は、オイルセパレータOSによって気体冷媒と潤滑油とに分離される。
【0029】
そして、潤滑油が分離された気体冷媒は、リアハウジング240に形成された吐出ポートP2を介して、冷媒回路へと吐出される。一方、気体冷媒から分離された潤滑油は、詳細を後述するように、固定スクロール320の上部に形成された油路324Aの先端開口から噴射される。フロントハウジング220の段部220Eの所定箇所には、図2に示すように、油路324Aの先端開口から噴射された潤滑油の少なくとも一部を受けて、フロントハウジング220の第2内周面220Bによって区画される円柱形状の空間、即ち、駆動力伝達機構400のクランクピン420、偏心ブッシュ430などが配置されているクランク室へと潤滑油を供給する、凹溝形状の潤滑油供給路220F(第1の溝部)が形成されている。
【0030】
ここで、潤滑油供給路220Fは、側面視で、駆動軸410の軸心と油路324Aの先端開口とを結んだ位置において、段部220Eの内周端部から外周端部に向けて形成されている。潤滑油供給路220Fは、段部220Eの内周端部から、少なくとも油路324Aの先端開口から噴射された潤滑油の少なくとも一部を受けることができる位置まで延びていればよい。なお、潤滑油供給路220Fの幅、深さ及び形状は、例えば、油路324Aの先端開口から噴射される潤滑油の広がり具合を考慮して適宜決定することができる。
【0031】
従って、固定スクロール320の油路324Aの先端開口から噴射された潤滑油は、吸入ポートP1から吸入された気体冷媒の一部と混合しつつ、フロントハウジング220の段部220Eに形成された潤滑油供給路220Fを通って、クランク室へと供給される。クランク室へと供給された潤滑油のミストを含んだ気体冷媒は、クランクピン420、偏心ブッシュ430、ローラベアリング530、シール部材540、すべり軸受550などの可動部を潤滑する。
【0032】
クランク室の可動部を潤滑した潤滑油は、図2に示すように、フロントハウジング220の段部220Eの所定箇所に形成された潤滑油排出路220Gを通って、フロントハウジング220の第1内周面220Aによって区画される円柱形状の空間の下部に戻される。この空間の下部に戻された潤滑油は、フロントハウジング220の吸入ポートP1から吸入された気体冷媒と混合し、圧縮機構300の潤滑に供される。
【0033】
ところで、スクロール型圧縮機100では、上述したように、旋回スクロール340が固定スクロール320の軸心周りを公転することで圧縮室H2の容積を変化させ、気体冷媒を吸入、圧縮及び吐出するように構成されている。従来技術のように、潤滑油を噴射する油路324Aが固定スクロール320の背面から先端面に貫通して延びていると、固定スクロール320に対する旋回スクロール340の相対回転位置によっては、油路324Aの先端開口が旋回スクロール340の背面によって塞がれ、油路324Aの先端開口から潤滑油が噴射されない状態が定期的に発生する。油路324Aの先端開口から潤滑油が噴射されないと、その期間においてクランク室に供給される潤滑油の絶対量が減ってしまう。
【0034】
そこで、固定スクロール320の油路324Aは、図3及び図4に示すように、オイルセパレータOSによって気体冷媒から分離された潤滑油を、フロントハウジング220の段部220Eに向かう速度成分を有するように、先端開口から斜め方向に噴射する形状に形成されている。具体的には、油路324Aは、固定スクロール320の底板322の背面からラップ324の先端面に向けて軸方向に延びる第1の油路324A1と、固定スクロール320のラップ324の外周面から背面に向けて斜めに延びて第1の油路324A1に連通する第2の油路324A2と、を含んで構成されている。ここで、第1の油路324A1は、固定スクロール320の底板322の背面からその先端面に開口しない位置まで形成されている。
【0035】
このような油路324Aを形成するために、油路324Aが形成されたラップ324の先端面は、その端部から所定距離に亘って、例えば、フライス加工することで、背面側から先端部側に向かうにつれて切削量が徐々に大きくなる斜面に形成されている。従って、第2の油路324A2は、固定スクロール320の先端面を斜めに切削加工した斜面上に開口している。固定スクロール320の油路324Aは、例えば、ドリル加工によって、その背面から第1の油路324A1を形成し、その先端面に形成された斜面から第1の油路324A1と連通する第2の油路324A2を形成することで、短時間かつ低コストで形成することができる。
【0036】
また、フロントハウジング220の第1内周面220Aには、固定スクロール320の油路324Aの先端開口から噴射された潤滑油を受けて、段部220Eに形成された潤滑油供給路220Fへと導く潤滑油導入路220H(第2の溝部)が形成されている。ここで、潤滑油導入路220Hの幅、深さ及び形状は、固定スクロール320の油路324Aの先端開口から噴射される潤滑油の広がり具合を考慮して適宜決定することができる。
【0037】
このようにすれば、固定スクロール320の油路324Aは、フロントハウジング220の段部220Eに向かう速度成分を有するように、その先端開口から斜め方向に潤滑油を噴射するため、固定スクロール320に対する旋回スクロール340の相対回転位置がどこにあろうとも、その先端開口が旋回スクロール340によって塞がれることがない。そして、油路324Aの先端開口から噴射された潤滑油は、フロントハウジング220の第1内周面220Aに形成された潤滑油導入路220Hによって受けられ、段部220Eに形成された潤滑油供給路220Fへと導かれる。このとき、油路324Aの先端開口から噴射された潤滑油は、斜め上方に向かって噴射されるため、上方に向かう速度成分と、段部220Eに向かう速度成分と、を有している。このため、潤滑油導入路220Hによって受けられた潤滑油は、重力に抗して潤滑油導入路220Hの底面に沿って段部220Eの方向へと運ばれ、その大部分が潤滑油供給路220Fへと導かれる。
【0038】
固定スクロール320の油路324Aは、図5及び図6に示すように、固定スクロール320のラップ324の先端面を切り欠くことで形成することもできる。即ち、固定スクロール320のラップ324の先端面において、油路324Aの流路の一部が外部に露出するように、ラップ324の延びる方向に沿った平面を有する切欠部324Bを形成する。この切欠部324Bは、例えば、固定スクロール320の上部をフライス加工することで、短時間かつ低コストで形成することができる。また、フロントハウジング220の第1内周面220Aには、先の実施形態と同様に、潤滑油導入路220Hが形成されている。
【0039】
このようにすれば、固定スクロール320の油路324Aを流れる潤滑油は、ラップ324の先端面を切り欠いた切欠部324Bに開口した先端開口から噴射される。このため、油路324Aの先端開口から噴射された潤滑油は、先の実施形態と同様に、上方に向かう速度成分と、段部220Eに向かう速度成分と、を有するようになる。なお、他の作用及び効果については、先の実施形態と同様であるので、その説明を省略することとする。必要があれば、先の実施形態を参照されたい。
【0040】
上述した実施形態に関し、スクロール型圧縮機100は、ハウジング200の内部に電動モータを内蔵していてもよい。また、オイルセパレータOSは、遠心分離式に限らず、例えば、ラビリンス通路により気体冷媒から潤滑油を分離する方式であってもよい。
【0041】
上記実施形態について、そこで説明された技術的思想を任意に組み合わせ、又はその一部を組み替えることで、新たな変形例を生み出すことができる。従って、本発明は、上記実施形態に記載された内容に限らず、当業者であればこれらから容易に想起し得る技術的思想を含んだものであることを理解すべきである。
【符号の説明】
【0042】
100 スクロール型圧縮機(スクロール型流体機械)
200 ハウジング
220 フロントハウジング
220E 段部(スラスト受け面)
220F 潤滑油供給路(第1の溝部)
220H 潤滑油導入路(第2の溝部)
320 固定スクロール
324A 油路
324A1 第1の油路
324A2 第2の油路
340 旋回スクロール
OS オイルセパレータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6