(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-13
(45)【発行日】2023-09-22
(54)【発明の名称】ガスセンサセット及び被測定ガス中の複数目的成分の濃度測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20230914BHJP
【FI】
G01N27/416 331
G01N27/416 311G
(21)【出願番号】P 2020049883
(22)【出願日】2020-03-19
【審査請求日】2022-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】市川 大智
(72)【発明者】
【氏名】近藤 裕一郎
(72)【発明者】
【氏名】森 伸彦
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/131776(WO,A1)
【文献】特開2001-133447(JP,A)
【文献】特開平06-118075(JP,A)
【文献】特開平10-332668(JP,A)
【文献】特開2016-109693(JP,A)
【文献】特開2011-039041(JP,A)
【文献】特開2016-035410(JP,A)
【文献】特表2008-525823(JP,A)
【文献】特開2002-162393(JP,A)
【文献】特開平11-311613(JP,A)
【文献】国際公開第2017/222002(WO,A1)
【文献】特開平10-197479(JP,A)
【文献】特開平08-247995(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0139877(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0252673(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/409,27/41,
G01N 27/416,27/419,
G01N 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排管に設置された少なくとも2つ以上のガスセンサを含む、複数の目的成分を検知するガスセンサセットであって、
前記複数の目的成分は、1つの目的成分と、前記1つの目的成分が酸化されることで生成される他の目的成分とを含み、
前記少なくとも2つ以上のガスセンサのうち、少なくとも1つの第1ガスセンサは、
少なくとも酸素イオン伝導性の固体電解質からなる第1構造体に形成された第1センサセルを有する第1センサ素子
と、
前記第1センサ素子の少なくともガス導入部分を保護する第1保護カバーと、
前記第1保護カバーの内側に塗布され、前記1つの目的成分の酸化反応を促進する酸化触媒と、
を有し、
前記少なくとも2つ以上のガスセンサのうち、少なくとも1つの第2ガスセンサは、
少なくとも酸素イオン伝導性の固体電解質からなる第2構造体に形成された第2センサセルを有する第2センサ素子
と、
前記第2センサ素子の少なくともガス導入部分を保護する第2保護カバーと、
前記第2保護カバーの内側に塗布され、前記酸化反応について不活性な塗布材と、
を有
する、ガスセンサセット。
【請求項2】
請求項1記載のガスセンサセットにおいて
、
前記第1保護カバーは、
前記第1センサ素子の側部を囲むように配置された第1内側部材と、
前記第1センサ素子の少なくとも前記ガス導入部分を保護する第1内側カバーと、
前記第1内側カバーを保護し、且つ、開口を通じてガスを導入して、
導入した前記ガスを前記第1センサ素子の先端から基端に向かう後方に導く第1外側カバーとを有し、
前記第1内側カバーは、
前記第1外側カバーによって前記第1センサ素子の前記先端から前記基端に向かって導かれた前記ガスを前記第1センサ素子の前記ガス導入部分に導く後部開口を有する、ガスセンサセット。
【請求項3】
請求項
1記載のガスセンサセットにおいて、
前記第1保護カバーは、
前記第1センサ素子の側部を囲むように配置され、後部に複数の貫通孔を有する第1内側部材と、
前記第1センサ素子の少なくとも前記ガス導入部分を保護する第1内側カバーと、
前記第1内側カバーを保護し、且つ、開口を通じてガスを導入して、前記第1内側カバーに導く第1外側カバーとを有し、
前記第1内側カバーは、前記第1外側カバーと前記第1内側部材との隙間に入り込んだ測定ガスを拡散させて、前記第1内側部材
に対して前記第1センサ素子の先端から基端に向かう後方に導く拡散片を有する、ガスセンサセット。
【請求項4】
請求項2
または3に記載のガスセンサセットにおいて、
前記酸化触媒は、前記第1保護カバーのうち、少なくとも前記第1内側部材の内面、あるいは少なくとも前記第1内側カバーの内面、あるいは少なくとも前記第1内側部材の内面及び前記第1内側カバーの内面に塗布さ
れた、ガスセンサセット。
【請求項5】
請求項1
~4のいずれか1項に記載のガスセンサセットにおいて
、
前記第2保護カバーは、
前記第2センサ素子の側部を囲むように配置された第2内側部材と、
前記第2センサ素子の少なくとも前記ガス導入部分を保護する第2内側カバーと、
前記第2内側カバーを保護し、且つ、開口を通じてガスを導入して、
導入した前記ガスを前記第2センサ素子の先端から基端に向かう前記第2センサ素子の後方に導く第2外側カバーとを有し、
前記第2内側カバーは、
前記第2外側カバーによって前記第2センサ素子の前記先端から前記基端に向かって導かれた前記ガスを前記第2センサ素子の前記ガス導入部分に導く後部開口を有する、ガスセンサセット。
【請求項6】
請求項
1~4のいずれか1項に記載のガスセンサセットにおいて
、
前記第2保護カバーは、
前記第2センサ素子の側部を囲むように配置され、後部に複数の貫通孔を有する第2内側部材と、
前記第2センサ素子の少なくとも前記ガス導入部分を保護する第2内側カバーと、
少なくとも前記第2内側カバーを保護する第2外側カバーとを有し、
前記第2内側カバーは、前記第2外側カバーと前記第2内側部材との隙間に入り込んだ測定ガスを拡散させて、前記第2内側部材
に対して前記第1センサ素子の先端から基端に向かう後方に導く拡散片を有する、ガスセンサセット。
【請求項7】
請求項5または6に記載のガスセンサセットにおいて、
前記塗布材は、前記第2保護カバーのうち、少なくとも前記第2内側部材の内面、あるいは少なくとも前記第2内側カバーの内面、あるいは少なくとも前記第2内側部材の内面及び前記第2内側カバーの内面に塗布された、ガスセンサセット。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか1項に記載のガスセンサセットにおいて、
前記第1センサセルの温度を制御する第1温度制御手段と、
前記第2センサセルの温度を制御する第2温度制御手段と、
第1酸素濃度制御手段及び第2酸素濃度制御手段と、
目的成分濃度取得手段と、を有し、
前記第1センサセル及び第2センサセルは、それぞれガスの導入方向に向かって、ガス導入口、第1拡散律速部、第1室、第2拡散律速部、第2室、第3拡散律速部及び測定室を少なくとも具備し、
前記第1センサセルの前記測定室は、第1測定用ポンプセルを具備し、
前記第2センサセルの前記測定室は、第2測定用ポンプセルを具備し、
前記第1酸素濃度制御手段は、前記第1センサセルの前記第2室の酸素濃度を制御し、
前記第2酸素濃度制御手段は、前記第2センサセルの前記第2室の酸素濃度を制御し、
前記目的成分濃度取得手段は、
前記第1測定用ポンプセルに流れる電流値と前記第2測定用ポンプセルに流れる電流値との差に基づいて、第2目的成分の濃度を取得し、
前記第2測定用ポンプセルに流れる電流値により、第1目的成分と第2目的成分の合計濃度を取得し、
前記合計濃度から前記第2目的成分の濃度を差し引いて前記第1目的成分の濃度を取得する、ガスセンサセット。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか1項に記載のガスセンサセットにおいて、
前記複数の目的成分のうち、前記1つの目的成分がNH
3であり、他の目的成分がNOである、ガスセンサセット。
【請求項10】
請求項
8記載のガスセンサセットにおいて、
前記目的成分濃度取得手段は、
予め実験的に測定した、前記第2測定用ポンプセルに流れる電流値Ip6と、前記第1測定用ポンプセルに流れる電流値Ip3と前記第2測定用ポンプセルに流れる電流値Ip6との差ΔIpとでそれぞれNO濃度及びNH
3濃度の関係が特定されたマップを使用し、
実使用中の前記第2測定用ポンプセルに流れる電流値と、前記第1測定用ポンプセルに流れる電流値と前記第2測定用ポンプセルに流れる電流値との差を、前記マップと比較して、NO及びNH
3の各濃度を求める、ガスセンサセット。
【請求項11】
排管に設置されたガスセンサを有し、複数の目的成分を検知するガスセンサセットであって、
前記複数の目的成分は、1つの目的成分と、前記1つの目的成分が酸化されることで生成される他の目的成分とを含み、
前記ガスセンサは、
少なくとも酸素イオン伝導性の固体電解質からなる構造体と、
前記構造体に形成され、且つ、第1ガス導入部分を有する第1センサセルと、
前記構造体に形成され、且つ、第2ガス導入部分を有する第2センサセルと、を有するセンサ素子と、
前記センサ素子の少なくとも前記第1ガス導入部分及び前記第2ガス導入部分を保護する保護カバーと、を有し、
前記保護カバーは、
前記センサ素子の少なくとも前記第1ガス導入部分に対応した範囲に、
前記1つの目的成分の
酸化反応を促進する酸化触媒が塗布され、
前記センサ素子の少なくとも前記第2ガス導入部分に対応した範囲に、前記
酸化反応について不活性な塗布材が塗布されている、ガスセンサセット。
【請求項12】
請求項
11記載のガスセンサセットにおいて、
前記保護カバーは、少なくとも前記第1ガス導入部分と前記第2ガス導入部分を保護する内側カバーと、前記内側カバーを保護する外側カバーとを有し、
前記内側カバーは、前記第1ガス導入部分に対応した範囲と前記第2ガス導入部分に対応した範囲とを区切る仕切部を有し、
前記酸化触媒は、前記内側カバーのうち、前記仕切部で区切られた前記第1ガス導入部分に対応した範囲に塗布され、
前記
塗布材は、前記内側カバーのうち、前記仕切部で区切られた前記第2ガス導入部分に対応した範囲に塗布されている、ガスセンサセット。
【請求項13】
請求項
11記載のガスセンサセットにおいて、
前記保護カバーは、少なくとも
前記第1ガス導入部分と
前記第2ガス導入部分を保護する内側カバーと、
前記内側カバーを保護する外側カバーとを有し、
前記酸化触媒は、前記センサ素子の少なくとも前記第1ガス導入部分に塗布され、前記
塗布材は、前記センサ素子の少なくとも前記第2ガス導入部分に塗布されている、ガスセンサセット。
【請求項14】
請求項
12又は
13記載のガスセンサセットにおいて、
前記内側カバーは、前記第1ガス導入部分に対応した範囲の一部に設けられた第1開口と、前記第2ガス導入部分に対応した範囲の一部に設けられた第2開口とを有し、
前記外側カバーは、
前記センサ素子の基端から先端に向かう長さ方向
における前記外側カバーの中間部分から開口を通じてガスを導入して、前記内側カバーのうち、前記第1ガス導入部分に対応した範囲の
前記先端から前記基端に向かう後方と、前記第2ガス導入部分に対応した範囲の
前記後方とに導き、
前記内側カバーは、
前記外側カバーによって前記後方
に導かれた前記ガスを後部開口を通じて導入して、前記センサ素子の前記第1ガス導入部分及び前記第2ガス導入部分に導き、前記第1開口及び前記第2開口を通じて前記外側カバー側に導く、ガスセンサセット。
【請求項15】
被測定ガスに含まれる複数の目的成分の濃度を、ガスセンサセットを用いて測定する、被測定ガス中の複数目的成分の濃度測定方法であって、
複数の目的成分は、第1目的成分と、前記第1目的成分が酸化されることで生成される第2目的成分とを含み、
前記ガスセンサセットは、第1
ガスセンサと、第2
ガスセンサとを有し、
前記第1ガスセンサは、
第1センサセルを有する第1センサ素子と、
前記第1センサ素子の少なくともガス導入部分を保護する第1保護カバーと、
前記第1保護カバーの内側に塗布され、前記第1目的成分の酸化反応を促進する酸化触媒と、
を備え、
前記第2ガスセンサは、
第2センサセルを有する第2センサ素子と、
前記第2センサ素子の少なくともガス導入部分を保護する第2保護カバーと、
前記第2保護カバーの内側に塗布され、前記酸化反応について不活性な塗布材と、
を備え、
前記第1センサセル及び
前記第2センサセルは、それぞれガスの導入方向に向かって、ガス導入口、第1拡散律速部、第1室、第2拡散律速部、第2室、第3拡散律速部及び測定室を少なくとも具備し、
前記第1センサセルの前記測定室は、第1測定用ポンプセルを具備し、
前記第2センサセルの前記測定室は、第2測定用ポンプセルを具備
し、
前記第1測定用ポンプセルに流れる電流値と前記第2測定用ポンプセルに流れる電流値との差に基づいて、
前記第
2目的成分の濃度を取得し、
前記第2測定用ポンプセルに流れる電流値により、前記第1目的成分と
前記第2目的成分の合計濃度を取得し、
前記合計濃度から前記第
2目的成分の濃度を差し引いて前記第
1目的成分の濃度を取得する、被測定ガス中の複数目的成分の濃度測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素イオン伝導性の固体電解質を用いたガスセンサセット及び被測定ガス中の複数目的成分の濃度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、排気ガスのような酸素の存在下に共存する窒素酸化物(NO)やアンモニア(NH3)等の複数の成分の濃度を測定するガスセンサが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、酸素イオン伝導性の固体電解質に、拡散抵抗部を隔てて、予備空室、主空室、副空室及び測定空室を設けると共に、それぞれの空室にポンピング電極を設けたガスセンサが記載されている。このガスセンサでは、予備空室の予備ポンプセルの駆動(ON)又は停止(OFF)を切り替えることで、予備空室内でNH3からNOへの酸化反応の進行又は停止を切り替える。そして、予備空室から主空室へのNH3及びNOの拡散速度差により生じる測定空室内の測定電極のポンプ電流(以下、測定ポンプ電流Ip3とも呼ぶ。)の変化に基づいて、NH3及びNOのガス濃度を測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されたガスセンサでは、一定時間ごとに予備空室の予備ポンプセルのON又はOFFを切り替えながら測定ポンプ電流Ip3を取得する。そのため、切り替え周期の長いことによる精度低下と、感度が小さいことによる精度低下という問題を有する。
【0006】
<切り替え周期の長いことによる精度低下>
予備ポンプセルのON時とOFF時とでは、予備ポンプ空室のO2濃度をはじめ、各空室の各ガス濃度・ポンプ電流等の状態量が異なる。つまり、測定ポンプ電流Ip3は、予備ポンプセルの切り替え時に、ガス拡散抵抗、電極反応抵抗、ポンプ電圧制御に起因する時間遅れを伴った後、定常値に落ち着く。従って、ON時の測定ポンプ電流Ip3onとOFF時の測定ポンプ電流Ip3offを取得するためには、予備ポンプセルの切り替え後に定常に落ち着くまでの時間を待つ必要があり、切り替え周期をある程度長く設定しなければならない。切り替え周期の間に、NOx/NH3濃度が変動する場合もあり、NOx/NH3濃度の測定精度が低下するおそれがある。すなわち、予備ポンプセルの切り替え周期が長いことから、予備ポンプセルのON時/OFF時の濃度変動が大きく、濃度算出精度が低い、という問題がある。
【0007】
<感度が小さいことによる精度低下>
NH3濃度はON時の測定ポンプ電流Ip3onとOFF時の測定ポンプ電流Ip3offとの差(=ΔIp3)から算出される。あるNH3濃度に対するΔIp3の値(=NH3感度)は、同じNO濃度に対するIp3offの値(=NO感度)の20%程度である。一方で、測定ポンプ電流Ip3on及びIp3offの検出において、両電流値に生じるノイズ成分は同程度であるため、NH3感度のS/N比はNO感度のS/N比の20%程度となる。従って、NH3濃度の算出精度もNO濃度の算出精度の20%程度(誤差が5倍)となり、濃度算出精度が低い、という問題がある。
【0008】
本発明は、切り替え周期が長いことによる濃度算出精度の低下と、感度が小さいことによる濃度算出精度の低下を共に防止することができるガスセンサセット及び被測定ガス中の複数目的成分の濃度測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様は、排管に設置された少なくとも2つ以上のガスセンサを含む、複数の目的成分を検知するガスセンサセットであって、
前記少なくとも2つ以上のガスセンサのうち、少なくとも1つの第1ガスセンサは、
少なくとも酸素イオン伝導性の固体電解質からなる第1構造体に形成された第1センサセルを有する第1センサ素子を有し、
前記少なくとも2つ以上のガスセンサのうち、少なくとも1つの第2ガスセンサは、
少なくとも酸素イオン伝導性の固体電解質からなる第2構造体に形成された第2センサセルを有する第2センサ素子を有し、
前記第1センサ素子の少なくともガス導入部分に対応した範囲に、前記複数の目的成分のうち、1つの目的成分の酸化触媒が塗布され、
前記第2センサ素子の少なくともガス導入部分に対応した範囲に、前記1つの目的成分の不活性触媒が塗布されている。
【0010】
本発明の第2の態様は、排管に設置されたガスセンサを有し、複数の目的成分を検知するガスセンサセットであって、
前記ガスセンサは、
少なくとも酸素イオン伝導性の固体電解質からなる構造体と、
前記構造体に形成され、且つ、第1ガス導入部分を有する第1センサセルと、
前記構造体に形成され、且つ、第2ガス導入部分を有する第2センサセルと、を有するセンサ素子と、
前記センサ素子の少なくとも前記第1ガス導入部分及び前記第2ガス導入部分を保護する保護カバーと、を有し、
前記保護カバーは、
前記センサ素子の少なくとも前記第1ガス導入部分に対応した範囲に、前記複数の目的成分のうち、1つの目的成分の酸化触媒が塗布され、
前記センサ素子の少なくとも前記第2ガス導入部分に対応した範囲に、前記1つの目的成分の不活性触媒が塗布されている。
【0011】
本発明の第3の態様は、第1センサセルと、第2センサセルとを有し、
前記第1センサセル及び第2センサセルは、それぞれガスの導入方向に向かって、ガス導入口、第1拡散律速部、第1室、第2拡散律速部、第2室、第3拡散律速部及び測定室を少なくとも具備し、
前記第1センサセルの前記測定室は、第1測定用ポンプセルを具備し、
前記第2センサセルの前記測定室は、第2測定用ポンプセルを具備したガスセンサセットによる被測定ガス中の複数目的成分の濃度測定方法であって、
前記第1測定用ポンプセルに流れる電流値と前記第2測定用ポンプセルに流れる電流値との差に基づいて、第2目的成分の濃度を取得し、
前記第2測定用ポンプセルに流れる電流値により、前記第1目的成分と第2目的成分の合計濃度を取得し、
前記合計濃度から前記第2目的成分の濃度を差し引いて前記第1目的成分の濃度を取得する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の第1の態様、第2の態様又は第3の態様によれば、切り替え周期が長いことによる濃度算出精度の低下と、感度が小さいことによる濃度算出精度の低下を共に防止することができる。また、排気ガスのような未燃成分、酸素の存在下に共存する複数成分(例えばNO、NH3)の濃度を長期間にわたり精度よく測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1Aは第1ガスセンサセットを示す概略構成図であり、
図1Bは第1ガスセンサセットの一構造例を示す断面図(
図1AにおけるIB-IB線上の断面図:破断線を省略)である。
【
図2】
図2Aは第1ガスセンサの一構造例を示す縦断面図であり(
図2BにおけるIIA-IIA線上の断面図)であり、
図2Bは第1ガスセンサを下から見て示す図である。
【
図3】第1ガスセンサにおける第1保護カバーの作用を示す説明図である。
【
図4】
図4Aは第2ガスセンサの一構造例を示す縦断面図(
図4BにおけるIVA-IVA線上の断面図)であり、
図4Bは第2ガスセンサを下から見て示す図である。
【
図5】
図5Aは他の例に係る第1保護カバーの構成例を示す縦断面図(
図5BにおけるVA-VA線上の断面図)であり、
図5Bは他の例に係る第1保護カバーを下から見て示す図である。
【
図6】他の例に係る第1保護カバーの作用を示す説明図である。
【
図7】
図7Aは第1ガスセンサの一構造例を示す断面図(
図8におけるVIIA-VIIA線上の断面図:破断線を省略)であり、
図7Bは第2ガスセンサの一構造例を示す断面図(
図9におけるVIIB-VIIB線上の断面図:破断線を省略)である。
【
図8】第1ガスセンサにおける第1センサセルの一構造例を示す断面図(
図7AにおけるVIII-VIII線上の断面図)である。
【
図9】第2ガスセンサにおける第2センサセルの一構造例を示す断面図(
図7BにおけるIX-IX線上の断面図)である。
【
図10】第1ガスセンサセットを模式的に示す構成図である。
【
図11】第1ガスセンサにおける第1保護カバー、第1センサセルの第1拡散抵抗調整室内、第1酸素濃度調整室内及び第1測定室内、並びに第2
ガスセンサにおける第2保護カバー、第2センサセルの第2拡散抵抗調整室内、第2酸素濃度調整室内及び第2測定室内の反応を模式的に示す説明図である。
【
図12】ガスセンサセットで使用されるマップをグラフ化して示す図である。
【
図13】ガスセンサセットで使用されるマップを表形式で示す説明図(表1)である。
【
図14】マップの確からしさを確認するための測定結果を表形式で示す説明図(表2)である。
【
図15】ガスセンサセットで使用されるガスセンサの一構造例を示す断面図(破断線を省略)である。
【
図16】ガスセンサに対応した保護カバーの構成例を示す縦断面図である。
【
図17】
図17Aは第2ガスセンサセットを示す概略構成図であり、
図17Bは第2ガスセンサセットの一構造例を示す断面図(
図17AにおけるXVIIB-XVIIB線上の断面図:破断線を省略)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るガスセンサセット及び被測定ガス中の複数目的成分の濃度測定方法の実施の形態例を添付図面を参照しながら説明する。なお、本明細書において、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味として使用される。
【0015】
先ず、第1の実施形態に係るガスセンサセット(以下、第1ガスセンサセット1000Aと記す)の基本的な構成例及び測定原理について、以下に説明する。
【0016】
図1A及び
図1Bに示すように、第1ガスセンサセット1000Aは、例えば図示しない車両のエンジンからの排気経路である排管1002に設置された第1ガスセンサ500Aと第2ガスセンサ500Bとを有し、エンジンから排出された被測定ガスとしての排気ガスに含まれるNOx、NH
3、O
2等のガス成分のうち、少なくともいずれか2つのガス成分の濃度を検出する。
【0017】
第1ガスセンサ500A及び第2ガスセンサ500Bは、
図1Bに示すように、第1ガスセンサ500A及び第2ガスセンサ500Bの中心軸が排管1002内の被測定ガスの流れに垂直な状態で排管1002内に固定されている。なお、第1ガスセンサ500A及び第2ガスセンサ500Bの各中心軸が排管1002内の被測定ガスの流れに垂直、且つ、鉛直方向に対して所定の角度(例えば45°)だけ傾いた状態で排管1002内に固定されていてもよい。
【0018】
第1ガスセンサ500Aは、
図2A及び
図2Bに示すように、被測定ガス中の所定のガス濃度を検出する機能を有する第1センサ素子502Aと、第1センサ素子502Aの周囲を覆う第1保護カバー504Aと、ハウジング124Aと、固定部材126Aと、センサ支持部128Aとを備えている。固定部材126Aは、円筒状に形成されており、排気ガスの排管1002(
図1A参照)に溶接又はねじ止め等により接合される。ハウジング124Aは、円筒状に形成された金属部材であり、固定部材126Aに接合されている。ハウジング124Aの外周部には、第1保護カバー504Aが装着される。センサ支持部128Aは、固定部材126Aの中心部に接合されており、第1センサ素子502Aの基端部を支持する。これにより、第1ガスセンサ500Aが排管1002(
図1A参照)内に固定される。なお、排管1002内の被測定ガスの流れる向きは、
図2Aにおけるどちらでもよい。
【0019】
第1保護カバー504Aは、第1センサ素子502Aの周囲を取り囲むように配置されている。第1保護カバー504Aは、第1センサ素子502Aの先端を覆う有底筒状の第1内側カバー130Aと、第1内側カバー130Aを覆う第1外側カバー132Aとを有している。また、第1内側カバー130Aと第1外側カバー132Aとに囲まれた部分には、第1ガス室134Aと、第2ガス室136Aとが形成されており、第1内側カバー130Aの内側には、センサ素子室138Aが形成されている。第1保護カバー504Aは、例えばステンレス鋼等の金属で形成されている。
【0020】
第1内側カバー130Aは、内側部材140Aと、外側部材142Aと、を備えている。内側部材140Aは、円筒状の大径部140Aaと、円筒状で大径部140Aaよりも径の小さい小径部140Abと、大径部140Aaと小径部140Abとを接続する段差部140Acとを有している。内側部材140Aは、第1センサ素子502Aの外方に離間して第1センサ素子502Aの側部を囲むように配置されている。
【0021】
外側部材142Aは、内側部材140Aの小径部140Abよりも大きな径に形成された円筒状の筒状部142Aaと、筒状部142Aaの先端側に設けられた円錐部142Abと、筒状部142Aaと円錐部142Abとの間に設けられた中間部142Acとを有している。筒状部142Aaは、小径部140Abの外方を覆うように配設され、これにより、小径部140Abと筒状部142Aaとの間に隙間144Aが形成されている。また、筒状部142Aaの一部が径方向内方に突設され、複数の突出部142Adとして、内側部材140Aの小径部140Abに当接している。中間部142Acは、第1外側カバー132Aの段差部132Acの内周面に沿う形状に形成されており、中間部142Acは第1外側カバー132Aと当接している。円錐部142Abは、先端側に向けて径が小さくなる円錐形状に形成されており、第1センサ素子502Aの先端側を覆うように配置されている。すなわち、第1センサ素子502Aのガス導入部分は、センサ素子室138Aに向けて配置される。円錐部142Abの先端側は平坦に形成されており、その円錐部142Abの先端部には、第2ガス室136Aとセンサ素子室138Aとを連通させる円形の素子室出口146Aが形成されている。
【0022】
第1内側カバー130Aの基端部は、内側部材140Aの大径部140Aaにおいてハウジング124Aに固定される。第1内側カバー130Aの内側部材140Aと外側部材142Aとの隙間は、第1センサ素子502Aへの被測定ガスの流路を形成する。
【0023】
第1外側カバー132Aは、円筒状の大径部132Aaと、大径部132Aaの先端側に一体的に形成された円筒状の胴部132Abと、胴部132Abの先端側に形成され、径方向内方に縮径する段差部132Acと、段差部132Acから先端側に延在する円筒状の先端部132Adと、先端部132Adの先端側を塞ぐように形成された先端面132Aeとを備えている。第1外側カバー132Aは、大径部132Aaにおいてハウジング124Aに固定されている。
【0024】
胴部132Abと段差部132Acには、排ガス用の排管1002(
図1A及び
図1B参照)と第1ガス室134Aとを連通させる第1ガス室連通孔150Aが、
図2Bに示すように、周方向に60°程度の間隔を開けてそれぞれに6つ配置されている。また、先端部132Ad及び先端面132Aeには、排ガス用の排管と第2ガス室136Aとを連通させる第2ガス室連通孔152Aが複数設けられている。このうち、先端面132Aeには、3つの第2ガス室連通孔152Aが周方向に120°の間隔を開けて配置されている。また、先端部132Adにも、3つの第2ガス室連通孔152Aが周方向に120°の間隔を開けて配置されている。これらの第1ガス室連通孔150A及び第2ガス室連通孔152Aから流入する被測定ガス(例えば、排ガス)が、第1保護カバー504Aの第1ガス室134A、第2ガス室136A、及びセンサ素子室138Aを介して、第1センサ素子502Aに導かれるように構成されている。
【0025】
さらに、第1ガスセンサ500Aの第1内側カバー130Aの内面には、NH
3酸化触媒が塗布されている。NH
3酸化触媒の塗布としては、NH
3に対して酸化力のある例えばPt(白金)コーティング等が挙げられる。NH
3酸化触媒の塗布範囲は、
図2Aにおいて、少なくとも第1センサ素子502Aのガス導入部分を覆う範囲である。もちろん、第1内側カバー130Aの内面(内面の一部又は内面全体)にNH
3酸化触媒を塗布してもよいし、内側部材140Aの内面、あるいは外面、あるいは内面及び外面等にNH
3酸化触媒を塗布してもよい。
【0026】
そして、
図3に示すように、第1ガス室連通孔150Aから第1ガス室134Aに流入した被測定ガス(例えば排ガス)が隙間144Aを通ってセンサ素子室138Aに導かれ、その後、素子室出口146A、第2ガス室136A及び第2ガス室連通孔152Aを通って外部に流出する。
【0027】
すなわち、第1外側カバー132Aは、長さ方向ほぼ中間部分から第1ガス室連通孔150Aを通じてガスを導入して、第1内側カバー130Aの後方に導く。第1内側カバー130Aは、後方からのガスを後部開口(隙間144A)を通じて導入して、第1センサ素子502Aのガス導入部分に導く。このとき、導入されたガスがセンサ素子室138A内に一時的に滞留すると共に、ガスの一部が第1センサ素子502Aに取り込まれる。なお、センサ素子室138A内に導入されたガスは、開口(素子室出口146A)を通じて第1外側カバー132A側に導かれる。
【0028】
第2ガスセンサ500Bの第2センサ素子502B及び第2保護カバー504Bについても、
図4A及び
図4Bに示すように、上述した第1ガスセンサ500Aの第1センサ素子502A及び第1保護カバー504Aと同様の構成を有する。従って、
図4A及び
図4Bにおいて、各部材の符号に「B」を付して、各部材の重複説明を省略する。
【0029】
第2保護カバー504Bは、第2センサ素子502Bの少なくともガス導入部分を保護する第2内側カバー130Bと、第2内側カバー130Bを保護する第2外側カバー132Bとを有する。
【0030】
そして、第2外側カバー132Bは、長さ方向ほぼ中間部分から第1ガス室連通孔150Bを通じてガスを導入して、第2内側カバー130Bの後方に導く。第2内側カバー130Bは、後方からのガスを後部開口(隙間144B)を通じて導入して、第2センサ素子502Bのガス導入部分に導く。このとき、導入されたガスがセンサ素子室138B内に一時的に滞留すると共に、ガスの一部が第2センサ素子502Bに取り込まれる。なお、センサ素子室138B内に導入されたガスは、開口(素子室出口146B)を通じて第2外側カバー132B側に導かれる。
【0031】
さらに、第2ガスセンサ500Bの第2内側カバー130Bの内面には、NH
3不活性触媒が塗布されている。NH
3不活性触媒の塗布としては、NH
3に対して不活性な例えばCrN(窒化クロム)コーティング等が挙げられる。NH
3不活性触媒の塗布範囲は、
図4Aにおいて、少なくとも第2センサ素子502Bのガス導入部分を覆う範囲である。もちろん、第2内側カバー130Bの内面(内面の一部又は内面全体)にNH
3不活性触媒を塗布してもよいし、内側部材140Bの内面、あるいは外面、あるいは内面及び外面等にNH
3不活性触媒を塗布してもよい。
【0032】
上述した例えば第1外側カバー132Aでは、第1内側カバー130Aと内側部材140Aとの隙間を通じて被測定ガスをセンサ素子室側に送り込むようにしたが、その他、
図5A、
図5B及び
図6に示す他の例の第1保護カバー504Aaに示すように、上述した隙間144A(
図2A参照)を設けずに、代わりに、内側部材140Aのうち、ハウジング124A寄りの位置に複数の貫通孔160Aを設け、これら貫通孔160Aを通じて、被測定ガスを第1センサ素子502Aに導くと共に、第1センサ素子502Aのガス導入部分を介してセンサ素子室138A側に送り込むようにしてもよい。これは、図示しないが、第2保護カバー504Bについても同様である。なお、
図6にも示すように、第1内側カバー130Aの後端部に例えば逆U字状に変形させた拡散片162Aを設けることで、第1外側カバー132Aと内側部材140Aとの隙間に入り込んだ測定ガスを拡散させて、内側部材140Aの後方に導くようにしてもよい。
【0033】
次に、第1ガスセンサ500A及び第2ガスセンサ500Bの構成例について、
図7A~
図11を参照しながら説明する。
【0034】
第1ガスセンサ500Aは、
図7Aに示すように、第1センサ素子502Aを有する。第1センサ素子502Aは、酸素イオン伝導性の固体電解質からなる第1構造体14Aと、第1構造体14Aに形成された第1センサセル15Aとを有する。
【0035】
第1センサセル15Aは、第1構造体14Aに形成され、被測定ガスが導入される第1ガス導入口16Aと、第1構造体14A内に形成され、第1ガス導入口16Aに連通する第1酸素濃度調整室18Aと、第1構造体14A内に形成され、第1酸素濃度調整室18Aに連通する第1測定室20Aとを有する。
【0036】
第1酸素濃度調整室18Aは、第1ガス導入口16Aに連通する第1主調整室18Aaと、第1主調整室18Aaに連通する第1副調整室18Abとを有する。第1測定室20Aは第1副調整室18Abに連通している。
【0037】
さらに、この第1センサセル15Aは、第1構造体14Aのうち、第1ガス導入口16Aと第1主調整室18Aaとの間に設けられ、第1ガス導入口16Aに連通する第1拡散抵抗調整室24A(第1センサセル15Aの第1室)を有する。
【0038】
具体的には、
図8に示すように、第1構造体14Aは、第1基板層26Aaと、第2基板層26Abと、第3基板層26Acと、第1固体電解質層28Aと、
第1スペーサ層30Aと、第2固体電解質層32Aとの6つの層が、図面視で下側からこの順に積層されて構成されている。各層は、それぞれジルコニア(ZrO
2)等の酸素イオン伝導性固体電解質層にて構成されている。
【0039】
第1センサセル15Aは、第1センサ素子502Aの先端部側であって、第2固体電解質層32Aの下面と第1固体電解質層28Aの上面との間には、第1ガス導入口16Aと、第1拡散律速部34Aと、前記第1拡散抵抗調整室24Aと、第2拡散律速部36Aと、第1酸素濃度調整室18Aと、第3拡散律速部38Aと、第1測定室20Aとが備わっている。また、第1酸素濃度調整室18Aを構成する第1主調整室18Aaと第1副調整室18Abとの間に第4拡散律速部40Aが備わっている。
【0040】
これら第1ガス導入口16Aと、第1拡散律速部34Aと、第1拡散抵抗調整室24Aと、第2拡散律速部36Aと、第1主調整室18Aaと、第4拡散律速部40Aと、第1副調整室18Abと、第3拡散律速部38Aと、第1測定室20Aとは、この順に連通する態様にて隣接形成されている。第1ガス導入口16Aから第1測定室20Aに至る部位を、第1ガス流通部とも称する。
【0041】
第1ガス導入口16Aと、第1拡散抵抗調整室24Aと、第1主調整室18Aaと、第1副調整室18Abと、第1測定室20Aは、第1スペーサ層30Aをくり抜いた態様にて設けられた内部空間である。第1拡散抵抗調整室24Aと、第1主調整室18Aaと、第1副調整室18Abと、第1測定室20Aはいずれも、各上部が第2固体電解質層32Aの下面で、各下部が第1固体電解質層28Aの上面で、各側部が第1スペーサ層30Aの側面で区画されている。
【0042】
一方、第2センサセル15Bは、
図7Bに示すように、第2構造体14Bに形成され、被測定ガスが導入される第2ガス導入口16Bと、第2構造体14B内に形成され、第2ガス導入口16Bに連通する第2酸素濃度調整室18Bと、第2構造体14B内に形成され、第2酸素濃度調整室18Bに連通する第2測定室20Bとを有する。
【0043】
第2酸素濃度調整室18Bは、第2ガス導入口16Bに連通する第2主調整室18Baと、第2主調整室18Baに連通する第2副調整室18Bbとを有する。第2測定室20Bは第2副調整室18Bbに連通している。
【0044】
さらに、この第2センサセル15Bは、第2構造体14Bのうち、第2ガス導入口16Bと第2主調整室18Baとの間に設けられ、第2ガス導入口16Bに連通する第2拡散抵抗調整室24B(第2センサセル15Bの第1室)を有する。
【0045】
具体的には、
図9に示すように、第2構造体14Bは、第1基板層26Baと、第2基板層26Bbと、第3基板層26Bcと、第1固体電解質層28Bと、第2スペーサ層30Bと、第2固体電解質層32Bとの6つの層が、図面視で下側からこの順に積層されて構成されている。各層は、それぞれジルコニア(ZrO
2)等の酸素イオン伝導性固体電解質層にて構成されている。
【0046】
第2センサセル15Bは、第2センサ素子502Bの先端部側であって、第2固体電解質層32Bの下面と第1固体電解質層28Bの上面との間には、第2ガス導入口16Bと、第1拡散律速部34Bと、第2拡散抵抗調整室24Bと、第2拡散律速部36Bと、第2酸素濃度調整室18Bと、第3拡散律速部38Bと、第2測定室20Bとが備わっている。また、第2酸素濃度調整室18Bを構成する第2主調整室18Baと第2副調整室18Bbとの間に第4拡散律速部40Bが備わっている。
【0047】
これら第2ガス導入口16Bと、第1拡散律速部34Bと、第2拡散抵抗調整室24Bと、第2拡散律速部36Bと、第2主調整室18Baと、第4拡散律速部40Bと、第2副調整室18Bbと、第3拡散律速部38Bと、第2測定室20Bとは、この順に連通する態様にて隣接形成されている。第2ガス導入口16Bから第2測定室20Bに至る部位を、第2ガス流通部とも称する。
【0048】
第2ガス導入口16Bと、第2拡散抵抗調整室24Bと、第2主調整室18Baと、第2副調整室18Bbと、第2測定室20Bは、第2スペーサ層30Bをくり抜いた態様にて設けられた内部空間である。第2拡散抵抗調整室24Bと、第2主調整室18Baと、第2副調整室18Bbと、第2測定室20Bはいずれも、各上部が第2固体電解質層32Bの下面で、各下部が第1固体電解質層28Bの上面で、各側部が第2スペーサ層30Bの側面で区画されている。
【0049】
図8及び
図9に示すように、第1センサセル15A及び第2センサセル15Bは共に、第1拡散律速部(34A、34B)、第3拡散律速部(38A、38B)及び第4拡散律速部(40A、40B)は、いずれも2本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられている。第2拡散律速部(36A、36B)は、1又は2本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられている。
【0050】
また、
図8に示すように、第1センサセル15Aについては、第3基板層26Acの上面と、第1スペーサ層30Aの下面との間であって、第1ガス流通部よりも先端側から遠い位置には、基準ガス導入空間41Aが設けられている。基準ガス導入空間41Aは、上部が
第1スペーサ層30Aの下面で、下部が第3基板層26Acの上面で、側部が第1固体電解質層28Aの側面で区画された内部空間である。基準ガス導入空間41Aには、基準ガスとして、例えば酸素や大気が導入される。
【0051】
第1ガス導入口16Aは、外部空間に対して開口している部位であり、該第1ガス導入口16Aを通じて外部空間から第1センサセル15A内に被測定ガスが取り込まれる。
【0052】
第1センサセル15Aの第1拡散律速部34Aは、第1ガス導入口16Aから第1拡散抵抗調整室24Aに導入される被測定ガスに、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0053】
第1センサセル15Aの第2拡散律速部36Aは、第1拡散抵抗調整室24Aから第1主調整室18Aaに導入される被測定ガスに、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0054】
第1主調整室18Aaは、第1ガス導入口16Aから導入された被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間として設けられる。酸素分圧は、後述する第1主ポンプセル42Aが作動することによって調整される。
【0055】
第1主ポンプセル42Aは、第1主内側ポンプ電極44Aと、第1外側ポンプ電極46Aと、これらの電極に挟まれた酸素イオン伝導性の固体電解質とを含んで構成される第1電気化学的ポンプセル(主電気化学的ポンピングセル)である。第1主内側ポンプ電極44Aは、第1主調整室18Aaを区画する第1固体電解質層28Aの上面、第2固体電解質層32Aの下面、及び、第1スペーサ層30Aの側面のそれぞれの略全面に設けられている。第1外側ポンプ電極46Aは、第2固体電解質層32Aの上面に外部空間に露出する態様で設けられている。
【0056】
第1主ポンプセル42Aは、第1センサ素子502Aの外部に備わる第1センサセル15A用の第1可変電源48Aにより第1ポンプ電圧Vp1を印加して、第1外側ポンプ電極46Aと第1主内側ポンプ電極44Aとの間に第1ポンプ電流Ip1を流すことにより、第1主調整室18Aa内の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間の酸素を第1主調整室18Aa内に汲み入れることが可能となっている。
【0057】
また、第1センサセル15Aは、電気化学的センサセルである第1酸素分圧検出センサセル50Aを有する。この第1酸素分圧検出センサセル50Aは、第1主内側ポンプ電極44Aと、第3基板層26Acの上面と第1固体電解質層28Aとに挟まれる第1基準電極52Aと、これらの電極に挟まれた酸素イオン伝導性固体電解質とによって構成されている。第1基準電極52Aは、第1外側ポンプ電極46A等と同様の多孔質サーメットからなり、平面視で略矩形状の電極である。また、第1基準電極52Aの周囲には、多孔質アルミナからなり、且つ、第1基準ガス導入空間41Aにつながる第1基準ガス導入層54Aが設けられている。すなわち、第1基準電極52Aの表面に、第1基準ガス導入空間41Aの基準ガスが第1基準ガス導入層54Aを介して導入されるようになっている。第1酸素分圧検出センサセル50Aは、第1主調整室18Aa内の雰囲気と第1基準ガス導入空間41Aの基準ガスとの間の酸素濃度差に起因して第1主内側ポンプ電極44Aと第1基準電極52Aとの間に第1起電力V1が発生する。
【0058】
第1酸素分圧検出センサセル50Aにおいて生じる第1起電力V1は、第1主調整室18Aaに存在する雰囲気の酸素分圧に応じて変化する。第1センサセル15Aは、上記第1起電力V1によって、第1主ポンプセル42Aの第1可変電源48Aをフィードバック制御する。これにより、第1可変電源48Aが第1主ポンプセル42Aに印加する第1ポンプ電圧Vp1を、第1主調整室18Aaの雰囲気の酸素分圧に応じて制御することができる。
【0059】
第4拡散律速部40Aは、第1主調整室18Aaでの第1主ポンプセル42Aの動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第1副調整室18Abに導く部位である。
【0060】
第1副調整室18Abは、予め第1主調整室18Aaにおいて酸素濃度(酸素分圧)が調整された後、第4拡散律速部40Aを通じて導入された被測定ガスに対して、さらに後述する第1補助ポンプセル56Aによる酸素分圧の調整を行うための空間として設けられている。これにより、第1副調整室18Ab内の酸素濃度を高精度に一定に保つことができるため、この第1センサセル15Aは、精度の高いNOx濃度測定が可能となる。
【0061】
第1補助ポンプセル56Aは、電気化学的ポンプセルであり、第1構造体14Aのうち、第1副調整室18Abに面して形成された第1補助ポンプ電極58Aと、上記第1外側ポンプ電極46Aと、第1固体電解質層28Aと、第2固体電解質層32Aとによって構成される。
【0062】
なお、第1補助ポンプ電極58Aについても、第1主内側ポンプ電極44Aと同様に、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0063】
第1補助ポンプセル56Aは、第1補助ポンプ電極58Aと第1外側ポンプ電極46Aとの間に所望の第2ポンプ電圧Vp2を印加することにより、第1副調整室18Ab内の雰囲気中の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間から第1副調整室18Ab内に汲み入れることが可能となっている。
【0064】
また、第1副調整室18Ab内における雰囲気中の酸素分圧を制御するために、第1補助ポンプ電極58Aと、第1基準電極52Aと、第2固体電解質層32Aと、第1スペーサ層30Aと、第1固体電解質層28Aとによって電気化学的なセンサセル、すなわち、第1補助ポンプ制御用の第2酸素分圧検出センサセル50Bが構成されている。
【0065】
なお、この第2酸素分圧検出センサセル50Bにて検出される第2起電力V2に基づいて電圧制御される第2可変電源48Bにて、第1補助ポンプセル56Aがポンピングを行う。これにより、第1副調整室18Ab内の雰囲気中の酸素分圧は、NOxの測定に実質的に影響がない低い分圧にまで制御されるようになっている。
【0066】
また、これと共に、第1補助ポンプセル56Aの第2ポンプ電流値Ip2が、第2酸素分圧検出センサセル50Bの第2起電力V2の制御に用いられるようになっている。具体的には、第2ポンプ電流Ip2は、制御信号として第2酸素分圧検出センサセル50Bに入力され、その第2起電力V2が制御されることにより、第4拡散律速部40Aを通じて第1副調整室18Ab内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となるように制御されている。また、第2ポンプ電流値Ip2が一定になるように、第1主ポンプセル42Aの第1可変電源48Aをフィードバック制御すると、さらに、第1副調整室18Ab内の酸素分圧制御の精度が向上する。第1センサセル15AをNOxセンサとして使用する際は、第1主ポンプセル42Aと第1補助ポンプセル56Aとの働きによって、第1副調整室18Ab内での酸素濃度は各条件の所定の値に精度良く保たれる。
【0067】
第3拡散律速部38Aは、第1副調整室18Abで第1補助ポンプセル56Aの動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第1測定室20Aに導く部位である。
【0068】
第1センサセル15Aにおいて、NOx濃度の測定は、主として、第1測定室20A内に設けられた第1測定用ポンプセル60Aの動作により行われる。第1測定用ポンプセル60Aは、第1測定電極62Aと、第1外側ポンプ電極46Aと、第2固体電解質層32Aと、第1スペーサ層30Aと、第1固体電解質層28Aとによって構成された電気化学的ポンプセルである。第1測定電極62Aは、第1測定室20A内の例えば第1固体電解質層28Aの上面に直に設けられ、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を、第1主内側ポンプ電極44Aよりも高めた材料にて構成された多孔質サーメット電極である。第1測定電極62Aは、第1測定電極62A上の雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する。
【0069】
第1測定用ポンプセル60Aは、第1測定電極62Aの周囲(第1測定室20A内)の雰囲気中における窒素酸化物の分解によって生じた酸素を汲み出して、その発生量を第3ポンプ電流値Ip3、すなわち、第1センサセル15Aのセンサ出力(第1電流値Ip3)として検出することができる。
【0070】
また、第1測定電極62Aの周囲(第1測定室20A内)の酸素分圧を検出するために、第1固体電解質層28Aと、第1測定電極62Aと、第1基準電極52Aとによって電気化学的なセンサセル、すなわち、測定用ポンプ制御用の第3酸素分圧検出センサセル50Cが構成されている。第3酸素分圧検出センサセル50Cにて検出された第3起電力V3に基づいて第3可変電源48Cが制御される。
【0071】
第1副調整室18Ab内に導かれた被測定ガスは、酸素分圧が制御された状況下で第3拡散律速部38Aを通じて第1測定室20A内の第1測定電極62Aに到達する。第1測定電極62Aの周囲の被測定ガス中の窒素酸化物は還元されて酸素を発生する。そして、この発生した酸素は第1測定用ポンプセル60Aによってポンピングされる。その際、第3酸素分圧検出センサセル50Cにて検出された第3起電力V3が一定となるように第3可変電源48Cの第3ポンプ電圧Vp3が制御される。第1測定電極62Aの周囲において発生する酸素の量は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度に比例する。従って、第1測定用ポンプセル60Aの第1電流値Ip3を用いて被測定ガス中の窒素酸化物濃度を算出することができる。すなわち、第1測定用ポンプセル60Aは、第1測定室20A内の特定成分(NO)の濃度を測定する。
【0072】
さらに、第1センサセル15Aは、第2基板層26Abと第3基板層26Acとに上下から挟まれた態様にて、第1ヒータ72Aが形成されている。第1ヒータ72Aは、第1基板層26Aaの下面に設けられた図示しないヒータ電極を通して外部から給電されることにより発熱する。第1ヒータ72Aが発熱することによって、第1センサセル15Aを構成する固体電解質の酸素イオン伝導性が高められる。第1ヒータ72Aは、第1拡散抵抗調整室24Aと第1酸素濃度調整室18A、及び第1測定室20Aの全域に渡って埋設されており、第1センサセル15Aの所定の場所を所定の温度に加熱、保温することができるようになっている。なお、第1ヒータ72Aの上下面には、第2基板層26Ab及び第3基板層26Acとの電気的絶縁性を得る目的で、アルミナ等からなる第1ヒータ絶縁層74Aが形成されている。
【0073】
なお、第1拡散抵抗調整室24Aは、緩衝空間としても機能する。すなわち、外部空間における被測定ガスの圧力変動(被測定ガスが自動車の排気ガスの場合であれば排気圧の脈動)によって生じる被測定ガスの濃度変動を、打ち消すことが可能である。
【0074】
一方、第2センサセル15Bは、
図9に示すように、第2主ポンプセル42B、第2補助ポンプセル56B、第4酸素分圧検出センサセル50D、第5酸素分圧検出センサセル50E、第6酸素分圧検出センサセル50Fを有する。
【0075】
第2主ポンプセル42Bは、第1主ポンプセル42Aと同様に、第2主内側ポンプ電極44Bと、第2外側ポンプ電極46Bと、これらの電極に挟まれた酸素イオン伝導性の固体電解質とを含んで構成される第2電気化学的ポンプセル(主電気化学的ポンピングセル)である。
【0076】
第2センサセル用の第4可変電源48Dにより第4ポンプ電圧Vp4を印加して、第2外側ポンプ電極46Bと第2主内側ポンプ電極44Bとの間に第4ポンプ電流Ip4を流すことにより、第2主調整室18Ba内の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間の酸素を第2主調整室18Ba内に汲み入れることが可能となっている。
【0077】
第2補助ポンプセル56Bは、上述した第1補助ポンプセル56Aと同様に、電気化学的ポンプセルであり、第2構造体14Bのうち、第2副調整室18Bbに面して形成された第2補助ポンプ電極58Bと、第2外側ポンプ電極46Bと、第1固体電解質層28Bと、第2固体電解質層32Bとによって構成される。
【0078】
第2補助ポンプセル56Bは、第2補助ポンプ電極58Bと第2外側ポンプ電極46Bとの間に所望の第5電圧Vp5を印加することにより、第2副調整室18Bb内の雰囲気中の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間から第2副調整室18Bb内に汲み入れることが可能となっている。
【0079】
第4酸素分圧検出センサセル50Dは、第1酸素分圧検出センサセル50Aと同様に、第2主内側ポンプ電極44Bと、第3基板層26Bcの上面と第1固体電解質層28Bとに挟まれる共通の第2基準電極52Bと、これらの電極に挟まれた酸素イオン伝導性固体電解質とによって構成されている。
【0080】
この第4酸素分圧検出センサセル50Dは、第2主調整室18Ba内の雰囲気と基準ガス導入空間41Bの基準ガスとの間の酸素濃度差に起因して第2主内側ポンプ電極44Bと第2基準電極52Bとの間に第4起電力V4が発生する。
【0081】
第4酸素分圧検出センサセル50Dにおいて生じる第4起電力V4は、第2主調整室18Baに存在する雰囲気の酸素分圧に応じて変化する。第2センサセル15Bは、上記第4起電力V4によって、第2主ポンプセル42Bの第4可変電源48Dをフィードバック制御する。これにより、第4可変電源48Dが第2主ポンプセル42Bに印加する第4ポンプ電圧Vp4を、第2主調整室18Baの雰囲気の酸素分圧に応じて制御することができる。
【0082】
また、第2副調整室18Bb内における雰囲気中の酸素分圧を制御するために、第2補助ポンプ電極58Bと、第2基準電極52Bと、第2固体電解質層32Bと、第2スペーサ層30Bと、第1固体電解質層28Bとによって電気化学的なセンサセル、すなわち、第2補助ポンプ制御用の第5酸素分圧検出センサセル50Eが構成されている。
【0083】
この第5酸素分圧検出センサセル50Eにて検出される第5起電力V5に基づいて電圧制御される第5可変電源48Eにて、第2補助ポンプセル56Bがポンピングを行う。これにより、第2副調整室18Bb内の雰囲気中の酸素分圧は、NOxの測定に実質的に影響がない低い分圧にまで制御されるようになっている。
【0084】
また、これと共に、第2補助ポンプセル56Bの第5ポンプ電流値Ip5が、第5酸素分圧検出センサセル50Eの第5起電力V5の制御に用いられるようになっている。具体的には、第5ポンプ電流Ip5は、制御信号として第5酸素分圧検出センサセル50Eに入力され、その第5起電力V5が制御されることにより、第4拡散律速部40Bを通じて第2副調整室18Bb内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となるように制御されている。また、第5ポンプ電流値Ip5が一定になるように、第2主ポンプセル42Bの第4可変電源48Dをフィードバック制御すると、さらに、第2副調整室18Bb内の酸素分圧制御の精度が向上する。第2センサセル15BをNOxセンサとして使用する際は、第2主ポンプセル42Bと第2補助ポンプセル56Bとの働きによって、第2副調整室18Bb内での酸素濃度は各条件の所定の値に精度良く保たれる。
【0085】
第3拡散律速部38Bは、第2副調整室18Bbで第2補助ポンプセル56Bの動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第2測定室20Bに導く部位である。
【0086】
第2センサセル15Bにおいて、NOx濃度の測定は、主として、第2測定室20B内に設けられた第2測定用ポンプセル60Bの動作により行われる。第2測定用ポンプセル60Bは、第2測定電極62Bと、第2外側ポンプ電極46Bと、第2固体電解質層32Bと、第2スペーサ層30Bと、第1固体電解質層28Bとによって構成された電気化学的ポンプセルである。第2測定電極62Bは、第2測定室20B内の例えば第1固体電解質層28Bの上面に直に設けられ、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を、第2主内側ポンプ電極44Bよりも高めた材料にて構成された多孔質サーメット電極である。第2測定電極62Bは、第2測定電極62B上の雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する。
【0087】
第2測定用ポンプセル60Bは、第2測定電極62Bの周囲(第2測定室20B内)の雰囲気中における窒素酸化物の分解によって生じた酸素を汲み出して、その発生量を第6ポンプ電流値Ip6、すなわち、第2センサセル15Bのセンサ出力(第2電流値Ip6)として検出することができる。
【0088】
また、第2測定電極62Bの周囲(第2測定室20B内)の酸素分圧を検出するために、第1固体電解質層28Bと、第2測定電極62Bと、第2基準電極52Bとによって電気化学的なセンサセル、すなわち、測定用ポンプ制御用の第6酸素分圧検出センサセル50Fが構成されている。第6酸素分圧検出センサセル50Fにて検出された第6起電力V6に基づいて第6可変電源48Fが制御される。
【0089】
第2副調整室18Bb内に導かれた被測定ガスは、酸素分圧が制御された状況下で第3拡散律速部38Bを通じて第2測定室20B内の第2測定電極62Bに到達する。第2測定電極62Bの周囲の被測定ガス中の窒素酸化物は還元されて酸素を発生する。そして、この発生した酸素は第2測定用ポンプセル60Bによってポンピングされる。その際、第6酸素分圧検出センサセル50Fにて検出された第6起電力V6が一定となるように第6可変電源48Fの第6電圧Vp6が制御される。第2測定電極62Bの周囲において発生する酸素の量は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度に比例する。従って、第2測定用ポンプセル60Bの第6測定ポンプ電流値Ip6を用いて被測定ガス中の窒素酸化物濃度を算出することができる。すなわち、第2測定用ポンプセル60Bは、第2測定室20B内の特定成分(NO)の濃度を測定する。
【0090】
また、この第2センサセル15Bは、電気化学的な酸素検出セル70を有する。この酸素検出セル70は、第2固体電解質層32Bと、第2スペーサ層30Bと、第1固体電解質層28Bと、第3基板層26Bcと、第2外側ポンプ電極46Bと、第2基準電極52Bとを有する。この酸素検出セル70によって得られる起電力Vrefにより第2センサ素子502Bの外部における被測定ガス中の酸素分圧を検出可能となっている。
【0091】
また、第2センサセル15Bは、第2基板層26Bbと第3基板層26Bcとに上下から挟まれた態様にて、上述した第1ヒータ72Aと同様の第2ヒータ72Bが形成されている。第2ヒータ72Bは、第2拡散抵抗調整室24Bと第2酸素濃度調整室18B及び第2測定室20Bの全域に渡って埋設されており、第2センサセル15Bの所定の場所を所定の温度に加熱、保温することができるようになっている。なお、第2ヒータ72Bの上下面にも、第2基板層26Bb及び第3基板層26Bcとの電気的絶縁性を得る目的で、アルミナ等からなる第2ヒータ絶縁層74Bが形成されている。
【0092】
第2拡散抵抗調整室24Bは、緩衝空間としても機能する。すなわち、外部空間における被測定ガスの圧力変動(被測定ガスが自動車の排気ガスの場合であれば排気圧の脈動)によって生じる被測定ガスの濃度変動を、打ち消すことが可能である。
【0093】
さらに、上述した第1ガスセンサセット1000Aは、
図10に模式的に示すように、第1温度制御手段100A、第2温度制御手段100B、第1酸素濃度制御手段102A、第2酸素濃度制御手段102B、目的成分濃度取得手段104を有する。
【0094】
第1温度制御手段100Aは、第1センサ素子502Aの第1ヒータ72Aへの通電を制御して第1センサセル15Aの温度を制御する。第2温度制御手段100Bは、第2センサ素子502Bの第2ヒータ72Bへの通電を制御して第2センサセル15Bの温度を制御する。
【0095】
第1酸素濃度制御手段102Aは、第1センサセル15Aの第1酸素濃度調整室18A内の酸素濃度を制御する。第2酸素濃度制御手段102Bは、第2センサセル15Bの第2酸素濃度調整室18B内の酸素濃度を制御する。
【0096】
目的成分濃度取得手段104は、第1センサセル15Aの第1測定用ポンプセル60Aに流れる第1電流値Ip3と第2センサセル15Bの第2測定用ポンプセル60Bに流れる第2電流値Ip6との差(変化量ΔIp)と、第2電流値Ip6と、後述するマップ110に基づいて、第1目的成分(NO)の濃度と第2目的成分(NH3)の濃度とを取得する。
【0097】
なお、第1温度制御手段100A、第2温度制御手段100B、第1酸素濃度制御手段102A、第2酸素濃度制御手段102B及び目的成分濃度取得手段104は、例えば1つ又は複数のCPU(中央処理ユニット)と記憶装置等を有する1以上の電子回路にて構成される。電子回路は、例えば記憶装置に記憶されているプログラムをCPUが実行することにより、所定の機能が実現されるソフトウェア機能部でもある。もちろん、複数の電子回路を機能に合わせて接続したFPGA(Field-Programmable Gate Array)等の集積回路で構成してもよい。
【0098】
第1温度制御手段100A及び第2温度制御手段100Bは、予め設定されたセンサ温度の条件と、第1センサ素子502A及び第2センサ素子502Bの各温度を計測する温度センサ(図示せず)からの計測値とに基づいて、第1ヒータ72A及び第2ヒータ72Bをフィードバック制御することにより、第1センサ素子502A及び第2センサ素子502Bの各温度を、上記条件に従った温度にそれぞれ調整する。
【0099】
第1酸素濃度制御手段102Aは、予め設定された第1酸素濃度調整室18A内の酸素濃度の条件と、第2酸素分圧検出センサセル50B(
図8参照)において生じる第2起電力V2とに基づいて、第1可変電源48Aをフィードバック制御することにより、第1酸素濃度調整室18A内の酸素濃度を、上記条件に従った濃度に調整する。
【0100】
第2酸素濃度制御手段102Bは、予め設定された第2酸素濃度調整室18B内の酸素濃度の条件と、第5酸素分圧検出センサセル50E(
図9参照)において生じる第5起電力V5とに基づいて、第4可変電源48Dをフィードバック制御することにより、第2酸素濃度調整室18B内の酸素濃度を、上記条件に従った濃度に調整する。
【0101】
第1ガスセンサセット1000Aは、これら酸素濃度制御手段(102A、102B)又は温度制御手段(100A、100B)、あるいは酸素濃度制御手段(102A、102B)及び温度制御手段(100A、100B)によって、第1センサ素子502Aの第1酸素濃度調整室18A内及び第2センサ素子502Bの第2酸素濃度調整室18B内のNOを分解させることなく、NH3をNH3測定に適した比率でNOに変換するように制御する。
【0102】
第1ガスセンサセット1000Aの処理動作について、
図11も参照しながら説明する。
【0103】
先ず、第1ガスセンサ500Aでは、第1保護カバー504A(
図2A及び
図2B参照)の内面にNH
3酸化触媒が塗布されていることから、第1保護カバー504A内に導入したNH
3は、第1保護カバー504A内においてNH
3→NOの酸化反応が起こり、第1保護カバー504A内に導入されたNH
3のほとんどがNOに変換される。すなわち、NH
3は第1拡散律速部34A以降をNOの拡散係数1.8cm
2/secで第1測定室20Aに移動する。
【0104】
一方、第2ガスセンサ500Bでは、第2保護カバー504B(
図4A及び
図4B参照)の内面にNH
3不活性触媒が塗布されていることから、第2保護カバー504B内に導入したNH
3は、NOに変換されることなく、第2ガス導入口16Bを介して第2センサセル15B内に導入し、第2酸素濃度調整室18Bまで到達する。第2酸素濃度調整室18Bでは、第2酸素濃度制御手段102B(
図10参照)によって、NH
3を全てNOに変換するように制御されていることから、第2酸素濃度調整室18Bに流入したNH
3は第2酸素濃度調整室18B内でNH
3→NOの酸化反応が起こり、第2酸素濃度調整室18B内の全てのNH
3がNOに変換される。従って、第2ガス導入口16Bを通じて導入されたNH
3は、第1拡散律速部34B及び第2拡散律速部36BをNH
3の拡散係数2.2cm
2/secで通過し、第2酸素濃度調整室18B内でNOに変換された後は、第3拡散律速部38BをNOの拡散係数1.8cm
2/secで通過して、隣接する第2測定室20B内に移動する。
【0105】
すなわち、第1センサセル15Aでは、NH3の酸化反応が起こる場所が第1保護カバー504A内であり、第2センサセル15Bでは、NH3の酸化反応が起こる場所が第2酸素濃度調整室18Bである。NO、NH3は各々異なる拡散係数を持つため、第2拡散律速部(36A、36B)をNOで通過するか、NH3で通過するかの違いは、第1測定室20A及び第2測定室20Bに流れ込むNO量の違いに相当する。これは、第1測定用ポンプセル60Aの第1電流値Ip3と、第2測定用ポンプセル60Bの第2電流値Ip6に差異をもたらす。もっとも、第2測定用ポンプセル60Bの第2電流値Ip6は、被測定ガス中のNH3濃度とNO濃度の合計値に相当する。
【0106】
そして、第1電流値Ip3と第2電流値Ip6の変化量ΔIpは、被測定ガス中のNH3の濃度に応じて変化する。そのため、第2測定用ポンプセル60Bに流れる第2電流値Ip6(NOとNH3の合計濃度)と、上述した変化量ΔIp(NH3の濃度)とからNOとNH3の各濃度を取得することができる。
【0107】
従って、目的成分濃度取得手段104(
図10参照)では、第1電流値Ip3と第2電流値Ip6との変化量ΔIpと、第2電流値Ip6と、例えばマップ110(
図10、
図12等参照)とに基づいてNO及びNH
3の各濃度を取得する。
【0108】
マップ110は、グラフ化して示すと、
図12に示すように、横軸に、第2電流値Ip6(μA)が設定され、縦軸に、第1電流値Ip3と第2電流値Ip6との変化量ΔIp(μA)が設定されたグラフとなる。
図12では、代表的に、第1特性線L1及び第2特性線L2と、NO濃度換算値が100ppm系、50ppm系及び25ppm系における変化量ΔIpの第1プロット群P1、第2プロット群P2及び第3プロット群P3を示す。
【0109】
第1特性線L1は、NOの濃度換算値が0ppmの場合、すなわち、被測定ガスにNOが含まれていない場合において、NH3の濃度換算値を0ppm、25ppm、50ppm、75ppm及び100ppmに変化させた場合の特性を示す。
【0110】
第2特性線L2は、NH3の濃度換算値が0ppmの場合、すなわち、被測定ガスにNH3が含まれていない場合において、NOの濃度換算値を0ppm、25ppm、50ppm、75ppm及び100ppmに変化させた場合の特性を示す。
【0111】
図12のグラフを分かり易く表形式で示すと、
図13に示すような内容となる。これらの内容は、例えば後述する実験1~5を実施することで求めることができる。
【0112】
図13の表中、第1欄[1]の内容は、
図12の第1特性線L1に対応し、第2欄[2]の内容は、
図12の第2特性線L2に対応する。[1]及び[2]の比較によりNH
3はNOの1.14倍の感度を持っていることがわかる。これは、NH
3とNOの拡散係数の違いに基づいて発現するものであり、センサ素子の温度や内部空所内の酸素濃度により決まるものである。また、
図13の表中、第3欄[3]の内容は、
図12の第1プロット群P1に対応し、第4欄[4]の内容は、
図12の第2プロット群P2に対応し、第5欄[5]の内容は、
図12の第3プロット群P3に対応する。
【0113】
そして、
図13のうち、第3欄[3]、第4欄[4]及び第5欄[5]の内容を参照して、第2電流値Ip6に基づいて合計濃度(NO換算値)、すなわち、100ppm系、50ppm系、25ppm系のいずれかを割り出し、変化量ΔIpに基づいてNH
3濃度を取得し、合計濃度からNH
3濃度を差し引いて、NO濃度を取得する。
【0114】
例えば第2電流値Ip6が0.537(μA)であった場合、
図13の表1の第5欄[5]から合計濃度が25ppm系であることが割り出される。そして、変化量ΔIpが0.041(μA)であった場合、
図13の表1の第5欄[5]からNH
3濃度は4.4ppmである。従って、NH
3とNOの感度差を考慮してNO濃度は25-4.4×1.14=約20.0ppmとなる。
【0115】
なお、マップ110上に該当する変化量ΔIpが存在しない場合は、マップ上で最も近い変化量ΔIpを特定して合計濃度を割り出すと共に、例えば既知の近似計算にてNH3濃度を求めればよい。そして、割り出した合計濃度から近似計算にて求めたNH3濃度を差し引いて、NO濃度を求めればよい。あるいは、NH3、NO各々の濃度とΔIp、及びIp6との相関式に基づき第2目的成分であるNH3の濃度を算出し、合計濃度より第2目的成分の濃度を差し引くことにより、第1目的成分であるNOの濃度を算出してもよい。
【0116】
ここで、マップ110を得るための実験例について説明する。
(1) 上述した第1センサ素子502Aと第1保護カバー504Aとを有する第1ガスセンサ500Aと、第2センサ素子502Bと第2保護カバー504Bとを有する第2ガスセンサ500Bを作製し、金属部品を組み付けてセンサ形状にし、モデルガス測定装置に取り付けて、第1センサ素子502A及び第2センサ素子502Bに内蔵された第1ヒータ72A及び第2ヒータ72Bにより、第1センサ素子502A及び第2センサ素子502Bを略850℃に加熱する。
【0117】
(2) 第1センサセル15Aの第1補助ポンプ電極58Aと第1基準電極52A間の起電力、並びに第2センサセル15Bの第2補助ポンプ電極58Bと第2基準電極52B間の起電力がそれぞれ385mVとなるように、第1主内側ポンプ電極44Aと第1外側ポンプ電極46A間への印加電圧、並びに第2主内側ポンプ電極44Bと第2外側ポンプ電極46B間への印加電圧をフィードバック制御する。
【0118】
(3) 次に、第1センサセル15Aの第1補助ポンプ電極58Aと第1基準電極52A間の起電力、並びに第2センサセル15Bの第2補助ポンプ電極58Bと第2基準電極52B間の起電力がそれぞれ380mVとなるように、第1補助ポンプ電極58Aと第1外側ポンプ電極46A間への印加電圧、並びに第2補助ポンプ電極58Bと第2外側ポンプ電極46B間への印加電圧をフィードバック制御する。
【0119】
(4) さらに、第1センサセル15Aにおける第1測定用ポンプセル60Aの第1測定電極62Aと第1基準電極52A間の起電力、並びに第2センサセル15Bにおける第2測定用ポンプセル60Bの第2測定電極62Bと第2基準電極52B間の起電力がそれぞれ400mVとなるように、第1測定電極62Aと第1外側ポンプ電極46A間への印加電圧、並びに第2測定電極62Bと第2外側ポンプ電極46B間への印加電圧をフィードバック制御する。
【0120】
(5) 次に、モデルガス測定装置にN2と3%のH2Oをベースガスとして120L/min流し、第1測定用ポンプセル60A及び第2測定用ポンプセル60Bに流れる電流を測定したところ、第1測定用ポンプセル60A及び第2測定用ポンプセル60Bに流れるオフセット電流は0.003μAであった。
【0121】
(6) 次に、モデルガス測定装置にN
2と3%のH
2Oをベースガスとして120L/min流し、総ガス流量の120L/minを維持しながら、NH
3を25、50、75、100ppm添加し、第1測定用ポンプセル60A及び第2測定用ポンプセル60Bに流れる第1測定ポンプ電流(第1電流値Ip3)及び第2測定ポンプ電流(第2電流値Ip6)を測定した(実験1:
図12の第1特性線L1、
図13の表1の第1欄[1]参照)。
【0122】
(7) 次に、モデルガス測定装置にN
2と3%のH
2Oをベースガスとして120L/min流し、総ガス流量の120L/minを維持しながら、NOを25、50、75、100ppmと段階的に添加し、第1測定用ポンプセル60A及び第2測定用ポンプセル60Bに流れる第1電流値Ip3及び第2電流値Ip6を測定した(実験2:
図12の第2特性線L2、
図13の表1の第2欄[2]参照)。
【0123】
(8) 次に、モデルガス測定装置にN
2と3%のH
2Oをベースガスとして120L/min流し、NO濃度をNO=100、80、60、40、20、0ppmと段階的に減らして行き、NO=80、60、40、20、0ppmの各々のNO濃度に対して、NO=100ppm時における第2測定用ポンプセル60Bの第2電流値Ip6が2.137μAを維持するように、NH
3をガス中に添加する。このとき、総ガス流量が120L/minに維持されるようベースガスの流量を調整する。各ガス雰囲気において、第1測定用ポンプセル60Aに流れる第1電流値Ip3を測定した(実験3)。各NOとNH
3の濃度、第1電流値Ip3及び第2電流値Ip6、並びに第1電流値Ip3と第2電流値Ip6との差(変化量ΔIp)の関係を
図12の第1プロット群P1、
図13の表1の第3欄[3]に示す。
【0124】
(9) 次に、モデルガス測定装置にN
2と3%のH
2Oをベースガスとして120L/min流し、NO濃度をNO=50、40、30、20、10、0ppmと段階的に減らして行き、NO=40、30、20、10、0ppmの各々のNO濃度に対して、NO=50ppm時における第2測定用ポンプセル60Bの第2電流値Ip6が1.070μAを維持するように、NH
3をガス中に添加する。このとき、総ガス流量が120L/minに維持されるようベースガスの流量を調整する。各ガス雰囲気において、第1測定用ポンプセル60Aに流れる第1電流値Ip3を測定した(実験4)。各NOとNH
3の濃度、第1電流値Ip3及び第2電流値Ip6、並びに第1電流値Ip3と第2電流値Ip6との差(変化量ΔIp)の関係を
図12の第2プロット群P2、
図13の表1の第4欄[4]に示す。
【0125】
(10) 次に、モデルガス測定装置にN
2と3%のH
2Oをベースガスとして120L/min流し、NO濃度をNO=25、20、15、10、5、0ppmと段階的に減らして行き、NO=20、15、10、5、0ppmの各々のNO濃度に対して、NO=25ppm時における第2測定用ポンプセル60Bの第2電流値Ip6が0.537μAを維持するように、NH
3をガス中に添加する。このとき、総ガス流量が120L/minに維持されるようベースガスの流量を調整する。各ガス雰囲気において、第1測定用ポンプセル60Aに流れる第1電流値Ip3を測定した(実験5)。各NOとNH
3の濃度、第1電流値Ip3及び第2電流値Ip6、並びに第1電流値Ip3と第2電流値Ip6との差(変化量ΔIp)の関係を
図12の第3プロット群P3、
図13の表1の第5欄[5]に示す。
【0126】
(11) 実験1~実験5で得られたデータを用いて、
図12に示すマップ110を作成した。得られたマップ110の確からしさを確認するために、実験1~実験5とは異なる濃度のNOとNH
3の混合ガスにおける第1電流値Ip3及び第2電流値Ip6、並びに第1電流値Ip3と第2電流値Ip6との差(変化量ΔIp)を測定したところ、
図14の表2に示す結果を得た。表2の結果を
図12のグラフにプロット(△で示す)したところ、マップ110から推定される濃度と良好な一致を見た。
【0127】
次に、第2の実施形態に係るガスセンサセット(以下、第2ガスセンサセット1000Bと記す)について、
図15~
図17Bを参照しながら説明する。
【0128】
この第2ガスセンサセット1000B(
図17A及び
図17B参照)は、上述した第1ガスセンサセット1000Aとほぼ同様の構成を有するが、第1センサセル15Aと第2センサセル15Bとが一体化された1つのガスセンサ500を用いる点で異なる。なお、上述した第1ガスセンサセット1000Aと対応する部材については同じ符号を付して、重複説明を省略する。
【0129】
ガスセンサ500は、
図15に示すように、1つのセンサ素子502を有する。センサ素子502は、酸素イオン伝導性の固体電解質からなる構造体14と、構造体14に形成された第1センサセル15A及び第2センサセル15Bとを有する。
【0130】
ここで、構造体14の厚み方向を縦方向、構造体14の幅方向を横方向と定義すると、第1センサセル15Aと第2センサセル15Bは、1つの構造体14中に、横方向に並んだ状態で一体に設けられている。
【0131】
第1センサセル15Aは、
図15に示すように、構造体14に形成され、被測定ガスが導入される第1ガス導入口16Aと、構造体14内に形成され、第1ガス導入口16Aに連通する第1酸素濃度調整室18Aと、構造体14内に形成され、第1酸素濃度調整室18Aに連通する第1測定室20Aとを有する。これらの構成は、
図7A及び
図8にて示した第1センサセル15Aとほぼ同様であるため、重複説明を省略する。
【0132】
第2センサセル15Bは、
図15に示すように、同じく構造体14に形成され、被測定ガスが導入される第2ガス導入口16Bと、構造体14内に形成され、第2ガス導入口16Bに連通する第2酸素濃度調整室18Bと、構造体14内に形成され、第2酸素濃度調整室18Bに連通する第2測定室20Bとを有する。これらの構成も、
図7B及び
図9にて示した第2センサセル15Bとほぼ同様であるため、重複説明を省略する。
【0133】
そして、
図15に示すように、第1センサセル15Aの少なくとも第1酸素濃度調整室18Aの外側に配された第1外側ポンプ電極と、第2センサセル15Bの少なくとも第2酸素濃度調整室18Bの外側に配された第2外側ポンプ電極とが共通化されて、1つの外側ポンプ電極46が構成されている。また、第1センサセル15Aの基準電極と第2センサセル15Bの基準電極とが共通化されて、1つの基準電極52が構成されている。
【0134】
この上記ガスセンサ500に対応した保護カバー504は、
図16に示すように、センサ素子502を保持する筒状の保持部材200と、該保持部材200の先端部の幅方向中央部分、すなわち、第1センサセル15Aと第2センサセル15Bとの境界部分に対応する部分と内側カバー130との間に仕切部202が設けられる。例えば保持部材200の底板204が設けられると共に、底板204のうち、例えば第1センサセル15Aの第1ガス導入口16Aに対向する部分に第1貫通孔206aが設けられ、第2センサセル15Bの第2ガス導入口16Bに対向する部分に第2貫通孔206bが設けられる。さらに、底板204と内側カバー130の外側部材142との間に上記仕切部202が設けられる。また、外側部材142には、第1センサセル15Aに対応した第1貫通孔208aと、第2センサセル15Bに対応した第2貫通孔208bが設けられる。そして、外側部材142の内面のうち、第1センサセル15A側の内面にNH
3酸化触媒が塗布され、第2センサセル15B側の内面にNH
3不活性触媒が塗布される。
【0135】
上述の構成によって、第2ガスセンサセット1000Bは、上述した第1ガスセンサセット1000Aと同様の作用効果を奏することとなる。しかも、第2ガスセンサセット1000Bのガスセンサ500は、第1センサセル15Aと、第2センサセル15Bとが1つの構造体14に一体化されているため、
図17A及び
図17Bに示すように、排管1002に1つのガスセンサ500を固定すればよく、排管1002への取り付け構造を簡単化することができ、しかも、外側ポンプ電極46が第1センサセル15Aと第2センサセル15Bとで共通化され、同じく基準電極52が第1センサセル15Aと第2センサセル15Bとで共通化されているため、配線数の削減化も図ることができる。
【0136】
[実施の形態から得られる発明]
上記実施の形態から把握しうる発明について、以下に記載する。
[1] 第1ガスセンサセット1000Aは、排管1002に設置された少なくとも2つ以上のガスセンサを含む、複数の目的成分を検知するガスセンサセットであって、
前記少なくとも2つ以上の前記ガスセンサのうち、少なくとも1つの第1ガスセンサ500Aは、
少なくとも酸素イオン伝導性の固体電解質からなる第1構造体14Aに形成された第1センサセル15Aを有する第1センサ素子502Aを有し、
前記少なくとも2つ以上のガスセンサのうち、少なくとも1つの第2ガスセンサ500Bは、
少なくとも酸素イオン伝導性の固体電解質からなる第2構造体14Bに形成された第2センサセル15Bを有する第2センサ素子502Bを有し、
前記第1センサ素子502Aの少なくともガス導入部分に対応した範囲に、複数の目的成分のうち、1つの目的成分の酸化触媒が塗布され、
前記第2センサ素子502Bの少なくともガス導入部分に対応した範囲に、前記1つの目的成分の不活性触媒が塗布されている。
【0137】
これにより、切り替え周期が長いことによる濃度算出精度の低下と、感度が小さいことによる濃度算出精度の低下を共に防止することができる。また、排気ガスのような未燃成分、酸素の存在下に共存する複数目的成分(例えばNO、NH3)の雰囲気下においても、複数目的成分の各濃度を長期間にわたり精度よく測定することができる。
【0138】
しかも、第1センサ素子502Aの少なくともガス導入部分に対応した範囲に、複数の目的成分のうち、1つの目的成分の酸化触媒を塗布し、第2センサ素子502Bの少なくともガス導入部分に対応した範囲に、1つの目的成分の不活性触媒を塗布している。そのため、第1ガスセンサセット1000Aは、従来では実現できなかったNOとNH3の各濃度を測定する処理を、ハードウェアとしての各種測定装置等を別途付加することなく、第1ガスセンサ500A及び第2ガスセンサ500Bの制御系のソフトウェアを変更するだけで、容易に実現することができる。その結果、NOx浄化システムの制御並びに故障検知に対する精度を高めることができる。特に、SCRシステム下流の排気ガス中のNO及びNH3とを区別することが可能となり、SCRシステムの尿素注入量の精密制御、及び劣化検知に寄与する。
【0139】
[2] 第1ガスセンサセット1000Aにおいて、
第1センサ素子502Aの少なくともガス導入部分を保護する第1保護カバー504Aを有し、
第1保護カバー504Aは、第1センサ素子502Aの側部を囲むように配置された第1内側部材140Aと、第1センサ素子502Aの少なくともガス導入部分を保護する第1内側カバー130Aと、
第1内側カバー130Aを保護し、且つ、開口150Aを通じてガスを導入して、第1内側カバー130Aの後方に導く第1外側カバー132Aとを有し、
第1内側カバー130Aは、後方からのガスを第1センサ素子502Aのガス導入部分に導く後部開口144Aを有する。
【0140】
第1ガスセンサ500Aにおける第1保護カバー504Aの第1外側カバー132Aでは、開口150Aを通じてガスが導入される。第1外側カバー132A内に導入されたガスは、第1内側カバー130Aの後方に導かれ、第1内側カバー130Aの後部開口144Aを通じて第1センサ素子502Aのガス導入部分に導かれる。特に、第1センサ素子502Aの少なくともガス導入部分に対応した範囲に、1つの目的成分の酸化触媒が塗布されているため、ガス導入部分に導かれたガスに含まれる1つの目的成分を効率よく酸化することができる。これにより、第2ガスセンサ500Bの第2保護カバー504Bでの1つの目的成分に対する不活性作用とも相俟って、例えばNOとNH3の各濃度の測定に寄与する。
【0141】
[3] 第1ガスセンサセット1000Aにおいて、第2センサ素子502Bの少なくともガス導入部分を保護する第2保護カバー504Bを有し、第2保護カバー504Bは、第2センサ素子502Bの側部を囲むように配置された第2内側部材140Bと、第2センサ素子502Bの少なくともガス導入部分を保護する第2内側カバー130Bと、
第2内側カバー130Bを保護し、且つ、開口150Bを通じてガスを導入して、第2内側カバー130Bの後方に導く第2外側カバー132Bとを有し、
第2内側カバー130Bは、後方からのガスを第2センサ素子502Bのガス導入部分に導く後部開口144Bを有する。
【0142】
第2保護カバー504Bの第2外側カバー132Bでは、開口150Bを通じてガスが導入される。第2外側カバー132B内に導入されたガスは、第2内側カバー130Bの後方に導かれ、第2内側カバー130Bの後部開口144Bを通じて第2センサ素子502Bのガス導入部分に導かれる。特に、第2センサ素子502Bの少なくともガス導入部分に対応した範囲に、1つの目的成分の不活性触媒が塗布されているため、ガス導入部分に導かれたガスに含まれる1つの目的成分は、酸化されることなく、そのまま維持される。これにより、第1ガスセンサ500Aの第1保護カバー504Aでの1つの目的成分に対する酸化作用とも相俟って、例えばNOとNH3の各濃度の測定に寄与する。
【0143】
[4] 第1ガスセンサセット1000Aにおいて、第1保護カバー504Aは、第1センサ素子502Aの側部を囲むように配置され、後部に複数の貫通孔160Aを有する第1内側部材140Aと、
第1センサ素子502Aの少なくともガス導入部分を保護する第1内側カバー130Aと、
第1内側カバー130Aを保護し、且つ、開口150Aを通じてガスを導入して、第1内側カバー130Aに導く第1外側カバー132Aとを有し、
第1内側カバー130Aは、第1外側カバー132Aと第1内側部材140Aとの隙間に入り込んだ測定ガスを拡散させて、第1内側部材140Aの後方に導く拡散片162Aを有する。
【0144】
これにより、第1ガスセンサ500Aにおける第1保護カバー504Aの第1外側カバー132Aでは、開口150Aを通じてガスが導入される。第1外側カバー132A内に導入されたガスは、拡散片162Aによって、第1内側部材140Aの後方に導かれ、さらに、第1内側部材140Aの複数の貫通孔160Aを通じて第1センサ素子502Aのガス導入部分に導かれる。特に、第1保護カバー504Aは、第1センサ素子502Aの少なくともガス導入部分に対応した範囲に、1つの目的成分の酸化触媒が塗布されているため、ガス導入部分に導かれたガスに含まれる1つの目的成分を効率よく酸化することができる。これにより、第2ガスセンサ500Bの第2保護カバー504Bでの1つの目的成分に対する不活性作用とも相俟って、例えばNOとNH3の各濃度の測定に寄与する。
【0145】
[5] 第1ガスセンサセット1000Aにおいて、第2保護カバー504Bは、第2センサ素子502Bの側部を囲むように配置され、後部に複数の貫通孔160Bを有する第2内側部材140Bと、
第2センサ素子502Bの少なくともガス導入部分を保護する第2内側カバー130Bと、
少なくとも第2内側カバー130Bを保護する第2外側カバー132Bとを有し、
第2内側カバー130Bは、第2外側カバー132Bと第2内側部材140Bとの隙間に入り込んだ測定ガスを拡散させて、第2内側部材140Bの後方に導く拡散片162Bを有する。
【0146】
これにより、第2ガスセンサ500Bにおける第2保護カバー504Bの第2外側カバー132Bでは、開口150Bを通じてガスが導入される。第2外側カバー132B内に導入されたガスは、拡散片162Bによって、第2内側部材140Bの後方に導かれ、さらに、第2内側部材140Bの複数の貫通孔160Bを通じて第2センサ素子502Bのガス導入部分に導かれる。特に、第2保護カバー504Bは、第2センサ素子502Bの少なくともガス導入部分に対応した範囲に、1つの目的成分の不活性触媒が塗布されているため、ガス導入部分に導かれたガスに含まれる1つの目的成分は、酸化されることなく、そのまま維持される。これにより、第1ガスセンサ500Aの第1保護カバー504Aでの1つの目的成分に対する酸化作用とも相俟って、例えばNOとNH3の各濃度の測定に寄与する。
【0147】
[6] 第1ガスセンサセット1000Aにおいて、酸化触媒は、第1保護カバー504Aのうち、少なくとも第1内側部材140Aの内面、あるいは少なくとも前記第1内側カバー130Aの内面、あるいは少なくとも第1内側部材140Aの内面及び第1内側カバー130Aの内面に塗布され、
不活性触媒は、第2保護カバー504Bのうち、少なくとも第2内側部材140Bの内面、あるいは少なくとも第2内側カバー130Bの内面、あるいは少なくとも第2内側部材140Bの内面及び第2内側カバー130Bの内面に塗布されている。
【0148】
第1センサ素子502Aの少なくともガス導入部分は、第1内側部材140Aの内面や第1内側カバー130Aの内面に露出している。また、第1保護カバー504Aのうち、少なくとも第1内側部材140Aの内面、あるいは少なくとも第1内側カバー130Aの内面、あるいは少なくとも第1内側部材140Aの内面及び第1内側カバー130Aの内面に、1つの目的成分の酸化触媒が塗布されている。そのため、ガス導入部分に導かれたガスに含まれる1つの目的成分を効率よく酸化することができる。
【0149】
第2センサ素子502Bの少なくともガス導入部分は、第2内側部材140Bの内面や第2内側カバー130Bの内面に露出している。また、第2保護カバー504Bのうち、少なくとも第2内側部材140Bの内面、あるいは少なくとも第2内側カバー130Bの内面、あるいは少なくとも第2内側部材140Bの内面及び第2内側カバー130Bの内面に、1つの目的成分の不活性触媒が塗布されている。そのため、ガス導入部分に導かれたガスに含まれる1つの目的成分は、酸化されることなく、そのまま維持される。
【0150】
[7] 第1ガスセンサセット1000Aにおいて、第1センサセル15Aの温度を制御する第1温度制御手段100Aと、
第2センサセル15Bの温度を制御する第2温度制御手段100Bと、
第1酸素濃度制御手段102A及び第2酸素濃度制御手段102Bと、
目的成分濃度取得手段104と、を有し、
前記第1センサセル15A及び第2センサセル15Bは、それぞれガスの導入方向に向かって、ガス導入口16A(16B)、第1拡散律速部34A(34B)、第1室(第1拡散抵抗調整室24A(第2拡散抵抗調整室24B))、第2拡散律速部36A(36B)、第2室(第1酸素濃度調整室18A(第2酸素濃度調整室18B))、第3拡散律速部38A(38B)及び測定室20A(20B)を少なくとも具備し、
第1センサセル15Aの測定室20Aは、第1測定用ポンプセル60Aを具備し、
第2センサセル15Bの測定室20Bは、第2測定用ポンプセル60Bを具備し、
第1酸素濃度制御手段102Aは、第1センサセル15Aの第2室18Aの酸素濃度を制御し、
第2酸素濃度制御手段102Bは、第2センサセル15Bの第2室18Bの酸素濃度を制御し、
目的成分濃度取得手段104は、
第1測定用ポンプセル60Aに流れる電流値と第2測定用ポンプセル60Bに流れる電流値との差に基づいて、第2目的成分の濃度を取得し、
第2測定用ポンプセル60Bに流れる電流値により、第1目的成分と第2目的成分の合計濃度を取得し、
合計濃度から第2目的成分の濃度を差し引いて第1目的成分の濃度を取得する。
【0151】
これにより、排気ガスのような未燃成分、酸素の存在下に共存する複数目的成分(例えばNO、NH3)の雰囲気下においても、複数目的成分の各濃度を長期間にわたり精度よく測定することができる。
【0152】
しかも、第1ガスセンサセット1000Aは、従来では実現できなかったNOとNH3の各濃度を測定する処理を、第1保護カバー504A等に1つの目的成分の酸化触媒を塗布し、第2保護カバー504B等に1つの目的成分の不活性触媒を塗布することで、ハードウェアとしての各種測定装置等を別途付加することなく、第1ガスセンサ500A及び第2ガスセンサ500Bの制御系のソフトウェアを変更するだけで、容易に実現することができる。その結果、NOx浄化システムの制御並びに故障検知に対する精度を高めることができる。特に、SCRシステム下流の排気ガス中のNO及びNH3とを区別することが可能となり、SCRシステムの尿素注入量の精密制御、及び劣化検知に寄与する。
【0153】
[8] 第1ガスセンサセット1000Aにおいて、複数の目的成分のうち、1つの目的成分がNH3であり、他の目的成分がNOである。これにより、SCRシステム下流の排気ガス中のNO及びNH3とを区別することが可能となり、SCRシステムの尿素注入量の精密制御、及び劣化検知に寄与する。
【0154】
[9] 第1ガスセンサセット1000Aにおいて、目的成分濃度取得手段104は、予め実験的に測定した、第2測定用ポンプセル60Bに流れる電流値Ip6と、第1測定用ポンプセル60Aに流れる電流値Ip3と第2測定用ポンプセル60Bに流れる電流値Ip6との差ΔIpとでそれぞれNO濃度及びNH3濃度の関係が特定されたマップ110を使用し、
実使用中の第2測定用ポンプセル60Bに流れる電流値Ip6と、第1測定用ポンプセル60Aに流れる電流値Ip3と第2測定用ポンプセル60Bに流れる電流値Ip6との差ΔIpを、マップ110と比較して、NO及びNH3の各濃度を求める。
【0155】
第1ガスセンサセット1000Aは、従来では実現できなかったNOとNH3の各濃度を測定する処理を、ハードウェアとしての各種測定装置等を別途付加することなく、第1ガスセンサ500A及び第2ガスセンサ500Bの制御系のソフトウェアを変更するだけで、容易に実現することができる。
【0156】
[10] 第2ガスセンサセット1000Bは、排管1002に設置されたガスセンサ500を有し、複数の目的成分を検知するガスセンサセットであって、
ガスセンサ500は、
少なくとも酸素イオン伝導性の固体電解質からなる構造体14と、
構造体14に形成され、且つ、第1ガス導入部分を有する第1センサセル15Aと、
構造体14に形成され、且つ、第2ガス導入部分を有する第2センサセル15Bと、を有するセンサ素子502と、
センサ素子502の少なくとも第1ガス導入部分及び第2ガス導入部分を保護する保護カバー504と、を有し、
保護カバー504は、
センサ素子502の少なくとも第1ガス導入部分に対応した範囲に、複数の目的成分のうち、1つの目的成分の酸化触媒が塗布され、
センサ素子502の少なくとも第2ガス導入部分に対応した範囲に、1つの目的成分の不活性触媒が塗布されている。
【0157】
この第2ガスセンサセット1000Bは、上述した第1ガスセンサセット1000Aと同様の効果を奏するほか、第1センサセル15Aと、第2センサセル15Bとが1つの構造体14に一体化されているため、排管1002に1つのガスセンサ500を固定すればよく、排管1002への取り付け構造を簡単化することができる。しかも、外側ポンプ電極46を第1センサセル15Aと第2センサセル15Bとで共通化し、同じく基準電極52を第1センサセル15Aと第2センサセル15Bとで共通化することができるため、第2ガスセンサセット1000Bの小型化を図ることができると共に、配線数の削減化も図ることができる。
【0158】
上述した第2ガスセンサセット1000Bにおいて、センサ素子502の第1ガス導入口16Aの内側にNH3酸化触媒が塗布され、第2ガス導入口16Bの内側にNH3不活性触媒が塗布されてもよい。
【0159】
[11] 第2ガスセンサセット1000Bにおいて、保護カバー504は、少なくとも第1ガス導入部分と第2ガス導入部分を保護する内側カバー130と、内側カバー130を保護する外側カバー132とを有し、
内側カバー130は、第1ガス導入部分に対応した範囲と第2ガス導入部分に対応した範囲とを区切る仕切部202を有し、
酸化触媒は、内側カバー130のうち、仕切部202で区切られた第1ガス導入部分に対応した範囲に塗布され、
不活性触媒は、内側カバー130のうち、仕切部202で区切られた第2ガス導入部分に対応した範囲に塗布されている。
【0160】
これにより、内側カバー130に導入されたガスのうち、仕切部202で区切られた第1ガス導入部分に対応した範囲に導入されたガスの1つの目的成分は、酸化触媒によって酸化される。同様に、内側カバー130に導入されたガスのうち、仕切部202で区切られた第2ガス導入部分に対応した範囲に導入されたガスの1つの目的成分は、酸化されることなく、そのまま維持される。
【0161】
つまり、内側カバー130に、第1ガス導入部分に対応した範囲と第2ガス導入部分に対応した範囲とを区切る仕切部202を設けることで、1つの構造体14に第1センサセル15Aと第2センサセル15Bとが一体化されたガスセンサ500を、1つの目的成分と他の目的成分とを検出することができる機能を持たせることが可能となる。
【0162】
[12] 第2ガスセンサセット1000Bにおいて、保護カバー504は、少なくとも第1ガス導入部分と第2ガス導入部分を保護する内側カバー130と、内側カバー130を保護する外側カバー132とを有し、
前記酸化触媒は、センサ素子502の少なくとも第1ガス導入部分(例えば第1ガス導入口16A)に塗布され、前記不活性触媒は、センサ素子502の少なくとも第2ガス導入部分(例えば第2ガス導入口16B)に塗布されている。
【0163】
これにより、第1センサセル15Aと第2センサセル15Bとの境界部分に対応する部分と内側カバー130との間に、仕切部202を設ける必要がなくなり、構成の簡略化を図ることができる。
【0164】
[13] 第2ガスセンサセット1000Bにおいて、内側カバー130は、第1ガス導入部分に対応した範囲の一部に設けられた第1開口206aと、第2ガス導入部分に対応した範囲の一部に設けられた第2開口206bとを有し、
外側カバー132は、長さ方向ほぼ中間部分から開口150を通じてガスを導入して、内側カバー130のうち、第1ガス導入部分に対応した範囲の後方と、第2ガス導入部分に対応した範囲の後方とに導き、
内側カバー130は、後方からのガスを後部開口144を通じて導入して、センサ素子502の第1ガス導入部分及び第2ガス導入部分に導き、第1開口206a及び第2開口206bを通じて外側カバー132側に導く。
【0165】
これにより、外側カバー132の開口150を通じて内側カバー130に向けて導入されたガスは、第1ガス導入部分に対応した範囲の後方と、第2ガス導入部分に対応した範囲の後方とに導かれる。
【0166】
内側カバー130は、それぞれ後方からのガスを後部開口144を通じて内側カバー130の内部に導入し、センサ素子502の第1ガス導入部分及び第2ガス導入部分に導く。このとき、内側カバー130のうち、仕切部202によって区分けされた第1ガス導入部分に対応した範囲では、導入されたガスの1つの目的成分が酸化し、第2ガス導入部分に対応した範囲では、導入されたガスの1つの目的成分は酸化されることなく、そのまま維持される。これにより、例えばNOとNH3の各濃度の測定が可能となる。なお、内側カバー130の内部に導入されたガスは、内側カバー130に設けられた第1開口208a及び第2開口208bを通じて外側カバー132側に導かれる。
【0167】
[14] 第1センサセル15Aと、第2センサセル15Bとを有し、
前記第1センサセル15A及び第2センサセル15Bは、それぞれガスの導入方向に向かって、ガス導入口16A(16B)、第1拡散律速部34A(34B)、第1室24A(24B)、第2拡散律速部36A(36B)、第2室18A(18B)、第3拡散律速部38A(38B)及び測定室20A(20B)を少なくとも具備し、
第1センサセル15Aの測定室20Aは、第1測定用ポンプセル60Aを具備し、第2センサセル15Bの測定室20Bは、第2測定用ポンプセル60Bを具備したガスセンサセットによる複数の目的成分を測定する方法であって、
第1測定用ポンプセル60Aに流れる電流値と第2測定用ポンプセル60Bに流れる電流値との差に基づいて、第2目的成分の濃度を取得し、
第2測定用ポンプセル60Bに流れる電流値により、第1目的成分と第2目的成分の合計濃度を取得し、
合計濃度から第2目的成分の濃度を差し引いて第1目的成分の濃度を取得する。
【0168】
これにより、排気ガスのような未燃成分、酸素の存在下に共存する複数目的成分(例えばNO、NH3)の雰囲気下においても、複数目的成分の各濃度を長期間にわたり精度よく測定することができる。
【0169】
しかも、従来では実現できなかったNOとNH3の各濃度を測定する処理を、第1保護カバー504A等に1つの目的成分の酸化触媒を塗布し、第2保護カバー504B等に1つの目的成分の不活性触媒を塗布することで、ハードウェアとしての各種測定装置等を別途付加することなく、第1ガスセンサ500A及び第2ガスセンサ500Bの制御系のソフトウェアを変更するだけで、容易に実現することができる。その結果、NOx浄化システムの制御並びに故障検知に対する精度を高めることができる。特に、SCRシステム下流の排気ガス中のNO及びNH3とを区別することが可能となり、SCRシステムの尿素注入量の精密制御、及び劣化検知に寄与する。
【0170】
なお、本発明の実施に当たっては、本発明の思想を損なわない範囲で自動車用部品としての信頼性向上のための諸手段が付加されてもよい。
【符号の説明】
【0171】
14…構造体
14A…第1構造体
14B…第2構造体
15A…第1センサセル
15B…第2センサセル
16A…第1ガス導入口
16B…第2ガス導入口
100A…第1温度制御手段
100B…第2温度制御手段
102A…第1酸素濃度制御手段
102B…第2酸素濃度制御手段
104…目的成分濃度取得手段
110…マップ
124A、124B…ハウジング
126A、126B…固定部材
128A、128B…センサ支持部
130A、130B…第1内側カバー、第2内側カバー
132A、132B…第1外側カバー、第2外側カバー
134A、134B…第1ガス室
136A、136B…第2ガス室
138A、138B…センサ素子室
140A、140B…内側部材
146A、146B…素子室出口
150A、150B…第1ガス室連通孔
152A、152B…第2ガス室連通孔
500…ガスセンサ
500A…第1ガスセンサ
500B…第2ガスセンサ
502…センサ素子
502A…第1センサ素子
502B…第2センサ素子
504…保護カバー
504A…第1保護カバー
504B…第2保護カバー
1000A…第1ガスセンサセット
1000B…第2ガスセンサセット
1002…排管