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特許73494273価クロムメッキ液およびこれを用いたクロムメッキ方法
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  • 特許-3価クロムメッキ液およびこれを用いたクロムメッキ方法 図1
  • 特許-3価クロムメッキ液およびこれを用いたクロムメッキ方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-13
(45)【発行日】2023-09-22
(54)【発明の名称】3価クロムメッキ液およびこれを用いたクロムメッキ方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 3/06 20060101AFI20230914BHJP
   C25D 3/10 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
C25D3/06
C25D3/10
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020529002
(86)(22)【出願日】2019-07-02
(86)【国際出願番号】 JP2019026246
(87)【国際公開番号】W WO2020009096
(87)【国際公開日】2020-01-09
【審査請求日】2022-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2018126508
(32)【優先日】2018-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000120386
【氏名又は名称】株式会社JCU
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】弁理士法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中上 まどか
(72)【発明者】
【氏名】堀 真雄
(72)【発明者】
【氏名】森川 雄斗
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2003/0178314(US,A1)
【文献】特表2012-521495(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107254693(CN,A)
【文献】米国特許第04092226(US,A)
【文献】中国特許出願公開第101967662(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0354085(US,A1)
【文献】特開2009-074170(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 3/00~3/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3価クロム化合物、錯化剤、伝導性塩、pH緩衝剤を含有する3価クロムメッキ液に、
更に、炭素数が2~4で、クロロ基を3つ以上有する有機化合物を含有させた3価クロムメッキ液であって、
炭素数が2~4で、クロロ基を3つ以上有する有機化合物が、抱水クロラールおよび/またはトリクロロエチレンであり、
pHが2.5~4.5である、
ことを特徴とする3価クロムメッキ液。
【請求項2】
伝導性塩が、硫酸塩である請求項記載の3価クロムメッキ液。
【請求項3】
更に、硫黄含有有機化合物を含有する請求項記載の3価クロムメッキ液。
【請求項4】
伝導性塩が、硫酸塩であり、
錯化剤が、ヒドロキシ基を2つ以上、カルボキシ基を2つ以上有するカルボン酸またはその塩であり、
硫黄含有有機化合物が、サッカリンまたはその塩と、
アリル基を有する硫黄含有有機化合物、カルバミミドイルチオ基を有するカルボン酸および/またはその脱水反応物からなる群から選ばれる1種以上の組合せである請求項記載の3価クロムメッキ液。
【請求項5】
ヒドロキシ基を2つ以上、カルボキシ基を2つ以上有するカルボン酸またはその塩が、酒石酸または酒石酸ジアンモニウムである請求項記載の3価クロムメッキ液。
【請求項6】
アリル基を有する硫黄含有有機化合物がアリルスルホン酸ナトリウムおよび/またはアリルチオ尿素である請求項または記載の3価クロムメッキ液。
【請求項7】
錯化剤として、更に、カルボキシ基を2つ以上有し、炭素数が4以上であるカルボン酸またはその塩を用いる請求項の何れかに記載の3価クロムメッキ液。
【請求項8】
カルボキシ基を2つ以上有し、炭素数が4以上であるカルボン酸またはその塩が、フタル酸および/またはアジピン酸である請求項記載の3価クロムメッキ液。
【請求項9】
伝導性塩が、塩化物である請求項記載の3価クロムメッキ液。
【請求項10】
炭素数が2~4で、クロロ基を3つ以上有する有機化合物の含有量が、10~5000mg/Lである請求項1~9の何れかに記載の3価クロムメッキ液。
【請求項11】
炭素数が2~4で、クロロ基を3つ以上有する有機化合物を有効成分とする3価クロムメッキ液用添加剤であって、
炭素数が2~4で、クロロ基を3つ以上有する有機化合物が、抱水クロラールおよび/またはトリクロロエチレンである、
ことを特徴とする3価クロムメッキ液用添加剤
【請求項12】
被メッキ物を、請求項1~10の何れかに記載の3価クロムメッキ液で電気メッキすることを特徴とする被メッキ物へのクロムメッキ方法。
【請求項13】
被メッキ物に電気メッキした後、クロメート処理を行う請求項12記載の被メッキ物へのクロムメッキ方法。
【請求項14】
被メッキ物を、請求項1~10の何れかに記載の3価クロムメッキ液で電気メッキすることを特徴とする被メッキ物の耐食性向上方法。
【請求項15】
被メッキ物に電気メッキした後、クロメート処理を行う請求項14記載の被メッキ物の耐食性向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3価クロムメッキ液およびこれを用いたクロムメッキ方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
クロムメッキは、銀白色の外観を有するため装飾用のコーティング膜として用いられている。このクロムメッキには6価のクロムが用いられていたが、近年ではこの6価のクロムが環境に影響を及ぼすため、その使用が制限されてきていて、3価のクロムを用いる技術へシフトしてきている。
【0003】
しかしながら、3価クロムメッキは6価クロムメッキと比べて耐食性が劣る。そのため、3価クロムメッキの耐食性を向上させる技術が報告されている。例えば、特許文献1には塩化カルシウム環境における耐食性強化の技術が報告されている。
【0004】
しかしながら、この3価のクロムメッキは、CASS耐食性に関してはまだ耐食性が6価クロムメッキよりも劣り、実用的なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2012-521495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、耐食性が従来の3価クロムメッキよりも向上し、実用的な3価のクロムメッキを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、炭素数が2~4で、クロロ基を3つ以上有する有機化合物を添加した3価クロムメッキ液により得られる3価クロムメッキは、耐食性が高く、実用的であることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、3価クロム化合物、錯化剤、伝導性塩、pH緩衝剤を含有する3価クロムメッキ液に、
更に、炭素数が2~4で、クロロ基を3つ以上有する有機化合物を含有させたことを特徴とする3価クロムメッキ液である。
【0009】
また、本発明は、炭素数が2~4で、クロロ基を3つ以上有する有機化合物を有効成分とする3価クロムメッキ液用添加剤である。
【0010】
更に、本発明は、被メッキ物を、上記3価クロムメッキ液で電気メッキすることを特徴とする被メッキ物へのクロムメッキ方法である。
【0011】
また更に、本発明は、被メッキ物を、上記3価クロムメッキ液で電気メッキすることを特徴とする被メッキ物の耐食性向上方法である。
【0012】
更にまた、本発明は、被メッキ物を、上記3価クロムメッキ液で電気メッキすることにより得られるクロムメッキ製品である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の3価のクロムメッキ液は、3価のクロムを用いたメッキであるものの6価のクロムを用いたメッキと同程度の外観が得られ、しかも、耐食性が向上し、実用的なものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】耐食性試験(CASS試験)を行った結果を示す図である(実施例1~5)。
図2】耐食性試験(CASS試験)を行った結果を示す図である(比較例1~2、参考例)。
図3】耐食性試験(CASS試験)を行った結果を示す図である(実施例6~8)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の3価クロムメッキ液(以下、「本発明メッキ液」という)は、3価クロム化合物、錯化剤、伝導性塩、pH緩衝剤を含有する3価クロムメッキ液に、更に、炭素数が2~4で、クロロ基を3つ以上有する有機化合物を含有させたものである。
【0016】
本発明メッキ液に用いられる炭素数が2~4で、クロロ基を3つ以上有する有機化合物(以下、単に「有機化合物」ということがある)は、特に限定されないが、例えば、抱水クロラール、トリクロロエチレン、トリクロロ酢酸、トリクロロアセトニトリル、トリクロロエタノール等が挙げられる。これら有機化合物は1種または2種以上を用いることができる。なお、これら有機化合物の中でも抱水クロラールおよび/またはトリクロロエチレンが好ましく、抱水クロラールがより好ましい。本発明メッキ液における、有機化合物の含有量は特に限定されないが、例えば、10~5000mg/L、好ましくは20~2000mg/L、さらに好ましくは50~1000mg/Lである。
【0017】
なお、上記有機化合物は、これを有効成分とすることにより、3価クロムメッキ液用添加剤とすることができる。この3価クロムメッキ液用添加剤は従来の3価クロムメッキ液に添加することができる。
【0018】
本発明メッキ液に用いられる3価クロム化合物は、特に限定されないが、例えば、塩基性硫酸クロム、硫酸クロム、塩化クロム、スルファミン酸クロム、酢酸クロム等であり、好ましくは塩基性硫酸クロム、硫酸クロムである。これら3価クロム化合物は1種または2種以上を組み合わせてもよい。本発明メッキ液における3価クロム化合物の含有量は特に限定されないが、例えば金属クロムとして1~25g/Lであり、好ましくは1~15g/Lである。
【0019】
本発明メッキ液に用いられる錯化剤は、特に限定されないが、例えば、ギ酸、ギ酸アンモニウム、ギ酸カリウム等の脂肪族モノカルボン酸またはその塩、コハク酸、マレイン酸、リンゴ酸、クエン酸、クエン酸三アンモニウム等の脂肪族ジカルボン酸またはその塩、酒石酸、酒石酸ジアンモニウム、酒石酸ナトリウム等のヒドロキシ基を2つ以上、カルボキシ基を2つ以上有するカルボン酸またはその塩等が挙げられる。これら錯化剤は1種または2種以上を組み合わせてもよい。本発明メッキ液における錯化剤の含有量は特に限定されないが、例えば、0.1~50g/Lであり、好ましくは1~30g/Lである。
【0020】
本発明メッキ液に用いられる伝導性塩は、特に限定されないが、例えば、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム等の硫酸塩、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化ナトリウム等の塩化物、スルファミン酸カリウム、スルファミン酸アンモニウム、スルファミン酸ナトリウム等のスルファミン酸塩等が挙げられる。なお、これら伝導性塩はそれぞれのグループごと、例えば、硫酸塩、塩化物等のグループごとに用いられる。これら伝導性塩の中でも硫酸塩または塩化物が好ましい。これら伝導性塩は1種または2種以上を組み合わせてもよい。本発明メッキ液における伝導性塩の含有量は特に限定されないが、例えば、100~500g/Lであり、好ましくは150~300g/Lである。
【0021】
本発明メッキ液に用いられるpH緩衝剤は、特に限定されないが、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム、リン酸、リン酸水素2カリウム等である。これらの中でもホウ酸、ホウ酸ナトリウムが好ましい。これらpH緩衝剤は1種または2種以上を組み合わせてもよい。本発明メッキ液におけるpH緩衝剤の含有量は特に限定されないが、例えば、25~200g/Lであり、好ましくは50~100g/Lである。
【0022】
本発明メッキ液には、更に、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、過酸化水素、ポリエチレングリコール、硫酸スズ、塩化スズ等のスズ塩等を含有させてもよい。
【0023】
本発明メッキ液のpHは酸性であれば特に限定されず、例えば、2~4.5が好ましく、2.5~4.0がより好ましい。
【0024】
本発明メッキ液の伝導性塩が硫酸塩の場合、錯化剤としては、ヒドロキシ基を2つ以上、カルボキシ基を2つ以上有するカルボン酸またはその塩を用いることが好ましい。この錯化剤としては、例えば、酒石酸等のカルボン酸、酒石酸ジアンモニウム、ロッシェル塩、酒石酸ナトリウム等の前記カルボン酸の塩が挙げられる。これらの錯化剤の中でも酒石酸または酒石酸ジアンモニウムが好ましく、酒石酸ジアンモニウムがより好ましい。これら錯化剤は1種または2種以上を組み合わせてもよい。本発明メッキ液におけるカルボン酸またはその塩の含有量は特に限定されないが、例えば、0.1~90g/Lであり、好ましくは1~60g/Lである。なお、本発明においては、カルボキシ基中のヒドロキシ基は、ヒドロキシ基として数えない。
【0025】
更に、本発明メッキ液の伝導性塩が硫酸塩の場合、上記錯化剤に、更に、カルボキシ基を2つ以上有し、炭素数が4以上であるカルボン酸またはその塩を組み合わせて用いることが好ましい。カルボキシ基を2つ以上有し、炭素数が4以上であるカルボン酸またはその塩としては、例えば、アジピン酸、フタル酸、ピメリン酸、セバシン酸等のカルボン酸、前記カルボン酸の塩等が挙げられる。これら錯化剤は1種または2種以上を組み合わせてもよく、好ましくはフタル酸および/またはアジピン酸である。本発明メッキ液におけるカルボキシ基を2つ以上有し、炭素数が4以上であるカルボン酸またはその塩の含有量は特に限定されないが、上記ヒドロキシ基を2つ以上、カルボキシ基を2つ以上有するカルボン酸またはその塩の含有量の範囲内でその一部をカルボキシ基を2つ以上有し、炭素数が4以上であるカルボン酸またはその塩にすればよい。上記カルボキシ基を2つ以上有し、炭素数が4以上であるカルボン酸またはその塩を用いることにより、後記するクロメート処理を行わなくても耐食性が向上する。
【0026】
本発明メッキ液の伝導性塩が硫酸塩の場合、更に、硫黄含有有機化合物を含有させることが好ましい。本発明メッキ液に用いられる硫黄含有有機化合物は、特に限定されないが、例えば、サッカリンまたはその塩、アリル基を有する硫黄含有有機化合物、カルバミミドイルチオ基を有するカルボン酸とその脱水反応物、チオ尿素、チオシアン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0027】
サッカリンまたはその塩としては、例えば、サッカリン、サッカリン酸ナトリウム等が挙げられる。これらの中でもサッカリン酸ナトリウムが好ましい。
【0028】
アリル基を有する硫黄含有有機化合物としては、例えば、アリルスルホン酸ナトリウム、アリルチオ尿素、2-メチルアリルスルホン酸アンモニウム、アリルイソチアシアネート等が挙げられる。これらの中でもアリルスルホン酸ナトリウムおよび/またはアリルチオ尿素が好ましい。
【0029】
カルバミミドイルチオ基を有するカルボン酸とその脱水反応物としては、例えば、一般式(1)で表されるカルバミミドイルチオ基を有するカルボン酸、一般式(2)で表されるカルバミミドイルチオ基を有するカルボン酸の脱水反応物が挙げられる。
【0030】
【化1】
式(1)中、nは1~5、好ましくは1~2の整数を示す。
【0031】
【化2】
式(2)中、mは1~2の整数を示す。
【0032】
具体的なカルバミミドイルチオ基を有するカルボン酸とその脱水反応物としては、例えば、[[アミノ(イミノ)メチル]チオ]酢酸、3-[[アミノ(イミノ)メチル]チオ]プロパン酸、2-イミノチアゾリジン-4-オン、2-アミノ-5,6-ジハイドロ-4H-1,3-チアジン-4-オン等が挙げられる。
【0033】
これら硫黄含有有機化合物は1種または2種以上を組み合わせてもよい。上記硫黄含有有機化合物の中でも、サッカリンまたはその塩と、アリル基を有する硫黄含有有機化合物、カルバミミドイルチオ基を有するカルボン酸および/またはその脱水反応物からなる群から選ばれる1種以上の組合せが好ましく、特にサッカリン酸ナトリウムとアリルスルホン酸ナトリウムの組合せが好ましい。本発明メッキ液における硫黄含有有機化合物の含有量は特に限定されないが、例えば、0.5~10g/Lであり、好ましくは2~8g/Lである。
【0034】
本発明メッキ液に、伝導性塩として硫酸塩を用いる場合、錯化剤としてヒドロキシ基を2つ以上、カルボキシ基を2つ以上有するカルボン酸またはその塩を用い、硫黄含有有機化合物として、サッカリンまたはその塩と、アリル基を有する硫黄含有有機化合物、カルバミミドイルチオ基を有するカルボン酸および/またはその脱水反応物からなる群から選ばれる1種以上の組合せて用いることが特に好ましい。
【0035】
以上説明した本発明メッキ液の調製法は特に限定されず、例えば、40~60℃の水に3価クロム化合物、錯化剤、伝導性塩、pH緩衝剤を添加、混合し、溶解した後に、炭素数が2~4で、クロロ基を3つ以上有する有機化合物、必要により硫黄含有有機化合物等を添加、混合し、最後に硫酸、アンモニア水等でpHを調整することにより、調製することができる。
【0036】
本発明メッキ液は、従来のクロムメッキ液と同様に、被メッキ物を本発明メッキ液で電気メッキすることにより被メッキ物へクロムメッキをすることができる。そしてこの電気メッキにより耐食性が向上する。
【0037】
電気メッキの条件は特に限定されないが、例えば、浴温が30~60℃、アノードがカーボンあるいは酸化イリジウム、陰極電流密度が2~20A/dm、で1~15分間電気メッキを行えばよい。
【0038】
電気メッキすることのできる被メッキ物としては、例えば、鉄、ステンレス、真鍮等の金属、ABS、PC/ABS等の樹脂が挙げられる。なお、この被メッキ物は本発明のメッキ液で処理する前に予め銅メッキ、ニッケルメッキ等の処理をしておいてもよい。
【0039】
被メッキ物にニッケルメッキ処理をする場合には、常法に従って3層または4層のニッケルメッキ層を設けることが好ましい。3層の場合、半光沢ニッケルメッキ、光沢ニッケルメッキ、マイクロポーラスニッケルメッキの順に層を設ければよい。この際、各層の電位差は特に限定されないが、例えば、半光沢ニッケルメッキに対して、光沢ニッケルメッキの電位差を-200~-60mV、光沢ニッケルメッキに対して、マイクロポーラスニッケルメッキの電位差を20~100mVにすることが好ましい。4層の場合、半光沢ニッケルメッキ、高硫黄含有ニッケルメッキ、光沢ニッケルメッキ、マイクロポーラスニッケルメッキの順に層を設ければよい。この際、各層の電位差は特に限定されないが、例えば、半光沢ニッケルメッキに対して、光沢ニッケルメッキの電位差を-200~-60mV、光沢ニッケルメッキに対して、高硫黄含有ニッケルメッキの電位差を-50~-5mV、光沢ニッケルメッキに対して、マイクロポーラスニッケルメッキの電位差を20~100mVの範囲にすることが好ましい。
【0040】
斯くして得られるクロムメッキ製品は、耐食性が向上したものである。ここで耐食性が向上したとはJIS H 8502に準じて評価を行い、レイティングナンバー(R.N.)が向上したことをいう。
【0041】
更に、このクロムメッキには、クロメート処理を行ってもよい。これにより更に耐食性が向上する。
【0042】
クロメート処理の条件は特に限定されないが、例えば、浴温が25~70℃、アノードが鉛すず合金等の不溶性陽極、陰極電流密度が0.1~1A/dmで1分間電気メッキを行えばよい。
【実施例
【0043】
以下、本発明を実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0044】
実 施 例 1~5
3価クロムメッキ:
表1に記載の3価クロム化合物、錯化剤、伝導性塩、pH緩衝剤を60℃の水に添加、混合し、溶解した後に、炭素数が2~4で、クロロ基を3つ以上有する有機化合物、硫黄含有有機化合物を添加、混合し、最後に硫酸、アンモニア水等でpHを調整し、3価クロムメッキ液を調製した。ABS樹脂に対し、銅メッキ(株式会社JCU製「CU-BRITE EP-30」、半光沢ニッケルメッキ(株式会社JCU製「CF-24T」)、光沢ニッケルメッキ(株式会社JCU製「HI-BRITE #88」)、マイクロポーラスニッケルメッキ(株式会社JCU製「MP-NI 308」)を施したものに、表1に記載の浴温、電流密度10A/dmで3分という条件でクロムメッキを行い、試験片を得た。この試験片についてCASS試験(JIS H 8502)を行った。CASS試験80時間後の試験片の顕微鏡写真を図1および2に示した。図中に記載のレイティングナンバー(R.N.)は、全腐食率で評価した。なお、クロメート処理は株式会社JCU製「EBACHRO-500」を使用し、浴温40℃、陰極電流密度が0.2A/dmで1分の条件で行った。
【0045】
【表1】
【0046】
CASS試験の結果、3価クロムメッキ液に、炭素数が2~4で、クロロ基を3つ以上有する有機化合物を含有させることにより、耐食性が向上することがわかった。また、本発明のメッキ液には、クロメート処理を行わなくても、6価クロムメッキと同等の高耐食性皮膜が得られるものがあった。
【0047】
実 施 例 6~8
3価クロムメッキ:
表2に記載の3価クロム化合物、錯化剤、伝導性塩、pH緩衝剤を60℃の水に添加、混合し、溶解した後に、炭素数が2~4で、クロロ基を3つ以上有する有機化合物、硫黄含有有機化合物を添加、混合し、最後に硫酸、アンモニア水等でpHを調整し、3価クロムメッキ液を調製した。ABS樹脂に対し、銅メッキ(株式会社JCU製「CU-BRITE EP-30」、半光沢ニッケルメッキ(株式会社JCU製「CF-24T」)、光沢ニッケルメッキ(株式会社JCU製「HI-BRITE #88」)、マイクロポーラスニッケルメッキ(株式会社JCU製「MP-NI 308」)を施したものに、表2に記載の浴温、電流密度10A/dmで3分という条件でクロムメッキを行い、試験片を得た。この試験片についてCASS試験(JIS H 8502)を行った。CASS試験80時間後の試験片の顕微鏡写真を図3に示した。レイティングナンバー(R.N.)は、全腐食率で評価した。その結果も表2に示した。
【0048】
【表2】
【0049】
CASS試験の結果、実施例6のほうが比較例3よりも腐食孔が小さいことが明らかとなった。同様の結果が実施例7、実施例8でも得られた。以上より、3価クロムメッキ液に、炭素数が2~4で、クロロ基を3つ以上有する有機化合物を含有させることにより、耐食性が向上することがわかった。
【0050】
実 施 例 9
3価クロムメッキ浴:
以下の組成1~3に記載の3価クロム化合物、錯化剤、伝導性塩、pH緩衝剤を50℃の水に添加、混合し、溶解した後に、炭素数が2~4で、クロロ基を3つ以上有する有機化合物を添加、混合し、最後に塩酸、アンモニア水等でpHを調整し、3価クロムメッキ液を調製した。
【0051】
<組成1>
塩基性硫酸クロム 64g/L
ギ酸アンモニウム 16g/L
塩化カリウム 165g/L
塩化アンモニウム 100g/L
臭化アンモニウム 6g/L
ほう酸 67g/L
抱水クロラール(810 g/L) 0.1mL/L
【0052】
<組成2>
塩基性硫酸クロム 64g/L
ギ酸アンモニウム 16g/L
塩化ナトリウム 75g/L
塩化カリウム 165g/L
塩化アンモニウム 100g/L
臭化アンモニウム 6g/L
ほう酸 67g/L
抱水クロラール(810 g/L) 0.1mL/L
【0053】
<組成3>
塩基性硫酸クロム 64g/L
酒石酸アンモニウム 30g/L
硫酸カリウム 150g/L
硫酸アンモニウム 20g/L
ほう酸 80g/L
抱水クロラール(810 g/L) 0.1mL/L
【0054】
実 施 例 10~11
3価クロムメッキ:
表3に記載の3価クロム化合物、錯化剤、伝導性塩、pH緩衝剤を60℃の水に添加、混合し、溶解した後に、炭素数が2~4で、クロロ基を3つ以上有する有機化合物を添加、混合し、最後に塩酸、アンモニア水でpHを調整し、3価クロムメッキ液を調製した。ABS樹脂に対し、銅メッキ(株式会社JCU製「CU-BRITE EP-30」、半光沢ニッケルメッキ(株式会社JCU製「CF-24T」)、光沢ニッケルメッキ(株式会社JCU製「HI-BRITE #88」)、マイクロポーラスニッケルメッキ(株式会社JCU製「MP-NI 308」)を施したものに、表3に記載の浴温、電流密度10A/dmで3分という条件でクロムメッキを行い、試験片を得た。この試験片についてCASS試験(JIS H 8502)を行った。CASS試験80時間後のレイティングナンバー(R.N.)は、全腐食率で評価した。その結果も表3に示した。なお、クロメート処理は株式会社JCU製「EBACHRO-500」を使用し、浴温40℃、陰極電流密度が0.2A/dmで1分の条件で行った。
【0055】
【表3】
【0056】
CASS試験の結果、3価クロムメッキ液に、炭素数が2~4で、クロロ基を3つ以上有する有機化合物を含有させることにより、耐食性が向上することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の3価クロムメッキ液は、6価のクロムを用いたメッキと同様に各種用途に用いることができる。
以 上
図1
図2
図3