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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-13
(45)【発行日】2023-09-22
(54)【発明の名称】癌ワクチン
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/00 20060101AFI20230914BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230914BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20230914BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20230914BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230914BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20230914BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20230914BHJP
   C12N 15/85 20060101ALN20230914BHJP
【FI】
A61K39/00 Z
A61P35/00
A61P37/04
A61K35/76
A61K48/00
A61K31/7088
C12N15/12 ZNA
C12N15/85 Z
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020563998
(86)(22)【出願日】2019-05-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-09
(86)【国際出願番号】 GB2019051309
(87)【国際公開番号】W WO2019220090
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2022-03-17
(31)【優先権主張番号】1807831.1
(32)【優先日】2018-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】501125275
【氏名又は名称】ユニバーシティ カレッジ カーディフ コンサルタンツ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100203035
【弁理士】
【氏名又は名称】五味渕 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【弁理士】
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】ゴドキン,アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】ガリモア,アウェン
(72)【発明者】
【氏名】スカー,マーティン
【審査官】長部 喜幸
(56)【参考文献】
【文献】Thermal Med,2011年,Vol. 27, No. 1,pp. 9-23
【文献】Jpn. J. Cancer Res.,2001年,Vol. 92,pp. 316-320
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00
A61P 35/00
A61P 37/04
A61K 35/76
A61K 48/00
A61K 31/7088
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
DnaJ熱ショックタンパク質ファミリー(Hsp40)メンバーB7(DNAJB7)もしくはその少なくとも1つの免疫原性断片を含む又はそれからなる、癌の治療のための癌ワクチンとしての使用のための医薬組成物
【請求項2】
DNAJB7がヒトDNAJB7である、請求項1記載の医薬組成物
【請求項3】
DNAJB7が、配列番号31に記載されているアミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有する配列により表される、請求項2記載の医薬組成物
【請求項4】
前記少なくとも1つの断片が5~30アミノ酸長である、請求項1~3のいずれか1項記載の医薬組成物
【請求項5】
前記少なくとも1つのDNAJB7免疫原性断片が、以下の群:
a)MVDYYEVLGLQRYASPEDIK(配列番号1);
QRYASPEDIKKAYHKVALKW(配列番号2);
KAYHKVALKWHPDKNPENKE(配列番号3);
HPDKNPENKEEAERKFKEVA(配列番号4);
EAERKFKEVAEAYEVLSNDE(配列番号5);
EAYEVLSNDEKRDIYDKYGT(配列番号6);
KRDIYDKYGTEGLNGGGSHF(配列番号7);
EGLNGGGSHFDDECEYGFTF(配列番号8);
DDECEYGFTFHKPDDVFKEI(配列番号9);
HKPDDVFKEIFHERDPFSFH(配列番号10);
FHERDPFSFHFFEDSLEDLL(配列番号11);
FFEDSLEDLLNRPGSSYGNR(配列番号12);
NRPGSSYGNRNRDAGYFFST(配列番号13);
NRDAGYFFSTASEYPIFEKF(配列番号14);
ASEYPIFEKFSSYDTGYTSQ(配列番号15);
SSYDTGYTSQGSLGHEGLTS(配列番号16);
GSLGHEGLTSFSSLAFDNSG(配列番号17);
FSSLAFDNSGMDNYISVTTS(配列番号18);
MDNYISVTTSDKIVNGRNIN(配列番号19);
DKIVNGRNINTKKIIESDQE(配列番号20);
TKKIIESDQEREAEDNGELT(配列番号21);
REAEDNGELTFFLVNSVANE(配列番号22);
FFLVNSVANEEGFAKECSWR(配列番号23);
EGFAKECSWRTQSFNNYSPN(配列番号24);
TQSFNNYSPNSHSSKHVSQY(配列番号25);
SHSSKHVSQYTFVDNDEGGI(配列番号26);
TFVDNDEGGISWVTSNRDPP(配列番号27);
SWVTSNRDPPIFSAGVKEGG(配列番号28);
IFSAGVKEGGKRKKKKRKEV(配列番号29);および
KRKKKKRKEVQKKSTKRNC(配列番号30);または
b)群a)における配列の任意の1以上に対して少なくとも85%の配列同一性を、そして群a)における配列の任意の1以上に対して少なくとも86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしく
は99%(好ましさの昇順)の配列同一性を有する断片;または
c)群a)および/または群b)における配列の任意の1以上の変異体である断片であって、該変異体が前記配列の任意の1以上における1以上のアミノ酸残基の付加、欠失または置換により修飾されており、そして常にというわけではないが理想的には該変異体断片が、群a)および/または群b)における変異体の任意の1以上の免疫原性と比較して増強した又は同等の免疫原性を保持または有する、断片
の少なくとも1つから選択されるアミノ酸配列を含む、またはそれからなる、請求項1~4のいずれか1項記載の医薬組成物
【請求項6】
前記少なくとも1つのDNAJB7断片が、
a)FFLVNSVANEEGFAKECSWR(配列番号23);
FHERDPFSFHFFEDSLEDLL(配列番号11);
KRKKKKRKEVQKKSTKRNC(配列番号30);
SHSSKHVSQYTFVDNDEGGI(配列番号26);
EGLNGGGSHFDDECEYGFTF((配列番号8);
NRPGSSYGNRNRDAGYFFST(配列番号13);
NRDAGYFFSTASEYPIFEKF(配列番号14);
MDNYISVTTSDKIVNGRNIN(配列番号19);および
TFVDNDEGGISWVTSNRDPP(配列番号27);または
b)群a)における配列の任意の1以上に対して少なくとも85%の配列同一性を、そして群a)における配列の任意の1以上に対して少なくとも86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%(好ましさの昇順)の配列同一性を有する断片;または
c)群a)および/または群b)における配列の任意の1以上の変異体である断片であって、該変異体が前記配列の任意の1以上における1以上のアミノ酸残基の付加、欠失または置換により修飾されており、そして常にというわけではないが理想的には該変異体断片が、群a)および/または群b)における変異体の任意の1以上の免疫原性と比較して増強した又は同等の免疫原性を保持または有する、断片
を含む又はそれらからなる群から選択されるアミノ酸配列により表される、請求項5記載の医薬組成物
【請求項7】
naJ熱ショックタンパク質ファミリー(Hsp40)メンバーB7(DNAJB7)またはその少なくとも1つの免疫原性断片をコードする核酸分子を含む、癌の治療のためのDNAワクチンとしての使用のための医薬組成物
【請求項8】
DNAJB7がヒトDNAJB7である、請求項7記載の医薬組成物。
【請求項9】
DNAJB7が、配列番号31に記載されているアミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有する配列により表される、請求項8記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記少なくとも1つの断片が5~30アミノ酸長である、請求項7~9のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記少なくとも1つのDNAJB7免疫原性断片が、以下の群:
a)MVDYYEVLGLQRYASPEDIK(配列番号1);
QRYASPEDIKKAYHKVALKW(配列番号2);
KAYHKVALKWHPDKNPENKE(配列番号3);
HPDKNPENKEEAERKFKEVA(配列番号4);
EAERKFKEVAEAYEVLSNDE(配列番号5);
EAYEVLSNDEKRDIYDKYGT(配列番号6);
KRDIYDKYGTEGLNGGGSHF(配列番号7);
EGLNGGGSHFDDECEYGFTF(配列番号8);
DDECEYGFTFHKPDDVFKEI(配列番号9);
HKPDDVFKEIFHERDPFSFH(配列番号10);
FHERDPFSFHFFEDSLEDLL(配列番号11);
FFEDSLEDLLNRPGSSYGNR(配列番号12);
NRPGSSYGNRNRDAGYFFST(配列番号13);
NRDAGYFFSTASEYPIFEKF(配列番号14);
ASEYPIFEKFSSYDTGYTSQ(配列番号15);
SSYDTGYTSQGSLGHEGLTS(配列番号16);
GSLGHEGLTSFSSLAFDNSG(配列番号17);
FSSLAFDNSGMDNYISVTTS(配列番号18);
MDNYISVTTSDKIVNGRNIN(配列番号19);
DKIVNGRNINTKKIIESDQE(配列番号20);
TKKIIESDQEREAEDNGELT(配列番号21);
REAEDNGELTFFLVNSVANE(配列番号22);
FFLVNSVANEEGFAKECSWR(配列番号23);
EGFAKECSWRTQSFNNYSPN(配列番号24);
TQSFNNYSPNSHSSKHVSQY(配列番号25);
SHSSKHVSQYTFVDNDEGGI(配列番号26);
TFVDNDEGGISWVTSNRDPP(配列番号27);
SWVTSNRDPPIFSAGVKEGG(配列番号28);
IFSAGVKEGGKRKKKKRKEV(配列番号29);および
KRKKKKRKEVQKKSTKRNC(配列番号30);または
b)群a)における配列の任意の1以上に対して少なくとも85%の配列同一性を、そして群a)における配列の任意の1以上に対して少なくとも86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしく
は99%(好ましさの昇順)の配列同一性を有する断片;または
c)群a)および/または群b)における配列の任意の1以上の変異体である断片であって、該変異体が前記配列の任意の1以上における1以上のアミノ酸残基の付加、欠失または置換により修飾されており、そして常にというわけではないが理想的には該変異体断片が、群a)および/または群b)における変異体の任意の1以上の免疫原性と比較して増強した又は同等の免疫原性を保持または有する、断片
の少なくとも1つから選択されるアミノ酸配列を含む、またはそれからなる、請求項7~10のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記少なくとも1つのDNAJB7断片が、
a)FFLVNSVANEEGFAKECSWR(配列番号23);
FHERDPFSFHFFEDSLEDLL(配列番号11);
KRKKKKRKEVQKKSTKRNC(配列番号30);
SHSSKHVSQYTFVDNDEGGI(配列番号26);
EGLNGGGSHFDDECEYGFTF((配列番号8);
NRPGSSYGNRNRDAGYFFST(配列番号13);
NRDAGYFFSTASEYPIFEKF(配列番号14);
MDNYISVTTSDKIVNGRNIN(配列番号19);および
TFVDNDEGGISWVTSNRDPP(配列番号27);または
b)群a)における配列の任意の1以上に対して少なくとも85%の配列同一性を、そして群a)における配列の任意の1以上に対して少なくとも86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%(好ましさの昇順)の配列同一性を有する断片;または
c)群a)および/または群b)における配列の任意の1以上の変異体である断片であって、該変異体が前記配列の任意の1以上における1以上のアミノ酸残基の付加、欠失または置換により修飾されており、そして常にというわけではないが理想的には該変異体断片が、群a)および/または群b)における変異体の任意の1以上の免疫原性と比較して増強した又は同等の免疫原性を保持または有する、断片
を含む又はそれらからなる群から選択されるアミノ酸配列により表される、請求項11記載の医薬組成物。
【請求項13】
該核酸分子が、該DNAJB7またはその該断片の少なくとも1つを発現するように適合化された発現ベクターの一部である、または該発現ベクターにおいて提供される、請求項7~12のいずれか1項記載の医薬組成物
【請求項14】
該適合化が、該発現をもたらす少なくとも1つの転写制御配列の提供を含む、請求項13記載の医薬組成物
【請求項15】
前記少なくとも1つの転写制御配列が細胞/組織特異的であり、該DNAJB7またはその少なくとも1つの断片の誘導性または構成的発現に適合化されている、請求項14記載の医薬組成物
【請求項16】
該核酸分子が該DNAJB7の全体および/またはその幾つかの断片をコードする、請求項7~15のいずれか1項記載の医薬組成物
【請求項17】
該癌が鼻咽頭癌、滑膜癌、肝細胞癌、腎癌、結合組織癌、黒色腫、肺癌、腸癌、結腸癌、直腸癌、結腸直腸癌、脳癌、喉頭癌、口腔癌、肝癌、骨癌、膵臓癌、絨毛癌、ガストリン産生腫瘍、褐色細胞腫、プロラクチン産生腫瘍、T細胞白血病/リンパ腫、扁桃腺癌、脾臓癌、神経腫、フォンヒッペル・リンダウ病、ゾリンガー・エリソン症候群、副腎癌、肛門癌、胆管癌、膀胱癌、尿管癌、神経膠腫、乏突起膠腫、神経芽細胞腫、髄膜腫、脊髄腫瘍、骨癌、骨軟骨腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、原発部位不明癌、カルシノイド、胃腸管カルシノイド、線維肉腫、乳癌、筋肉癌、パジェット病、子宮頸癌、直腸癌、食道癌、胆嚢癌、胆管癌、頭部癌、眼癌、鼻咽頭癌、頸部癌、腎臓癌、ウィルムス腫瘍、肝臓癌、カポシ肉腫、前立腺癌、精巣癌、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、皮膚癌、中皮腫、骨髄腫、多発性骨髄腫、卵巣癌、内分泌膵臓癌、グルカゴン産生腫瘍、副甲状腺癌、陰茎癌、下垂体癌、軟部組織肉腫、網膜芽細胞腫、小腸癌、胃癌、胸腺癌、甲状腺癌、栄養膜癌、胞状奇胎、子宮癌、子宮内膜癌、膣癌、外陰癌、聴神経腫、真菌性真菌症、インスリノーマ、カルシノイド症候群、ソマトスタチン産生腫瘍、歯肉癌、心臓癌、唇癌、髄膜癌、口癌、神経癌、口蓋癌、耳下腺癌、腹膜癌、咽頭癌、胸膜癌、唾液腺癌、舌癌および扁桃腺癌の任意の1以上から選択される、請求項1~16のいずれか1項記載の医薬組成物
【請求項18】
該癌が結腸直腸癌、甲状腺癌、リンパ腫、肺癌、肝臓癌、膵臓癌、カルチノイド、頭頸部癌、胃癌、尿路上皮癌、前立腺癌、精巣癌、子宮内膜癌、神経膠腫、乳癌、子宮頸癌、卵巣癌、黒色腫、肝臓癌および腎癌を含む群から選択される、請求項17記載の医薬組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、DnaJ熱ショックタンパク質ファミリー(Hsp40)メンバーB7またはその免疫原性断片を含む免疫原性物質;該タンパク質またはその少なくとも1つの免疫原性断片をコードする核酸を含むDNAワクチン;がん(以下、癌と表記される)の治療における使用のための医薬組成物またはベクターもしくはDNAワクチン;および該免疫原性物質または医薬組成物またはベクターもしくはDNAワクチンの使用を含む癌の治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌の免疫療法の臨床研究からの結果を取り巻く興奮ぶりは理解できるものの、実際の結果は期待外れである。免疫療法に対する多数のアップレギュレートされた腫瘍関連抗原(TAA)標的は、しばしば、健常組織の内部または表面上で或る程度発現され[例えば、自己抗原癌胎児性抗原(CEA)]、したがって、そのような抗原に対する免疫応答の誘導は、望ましくない副作用につながりうる。実際、本発明者らは、CEAに対するT細胞応答が、結腸直腸癌(CRC)の治療を受けた患者における早期疾患再発に関連していることを見出している。したがって、免疫療法により標的化されうる有用なTAAの特定は、i)腫瘍発現、ii)健常組織における同一抗原の発現レベル、およびiii)同一抗原により誘導される抗原特異的免疫抑制応答の抑制の間の比較考量である。その難題は、潜在的に致命的な結果を伴う遠隔組織内のオフターゲット効果をもたらしうるT細胞交差反応性によって更に困難となる。
【0003】
ネオエピトープを標的化する免疫療法は、交差反応性が生じないことが保証されるのに十分な程度にネオエピトープが自己抗原とは異なっている可能性が高いため、有望であるが、それは個体レベルに非常に集中したものであり、開発に法外な費用を要する。癌ワクチン、癌に対する免疫動員モノクローナルT細胞受容体(ImmTAC)およびキメラ抗原受容体T(CAR-T)細胞のような、より広範な集団に対する療法においては、抗原は複数個体の同一腫瘍型において広範に発現される必要があり、健常組織においては最小限のレベルで存在する必要がある。理想的には、発見パイプラインはTAA候補の大規模分析、ならびにそれに続く、免疫原性および組織特異的発現に基づく選択を含むであろう。これらの基準を満たした候補は、適切な癌ワクチン接種物として更に研究されうるであろう。
【0004】
CRCとの関連においては、公知TAAには、新規抗原の特定をもたらした癌-精巣抗原発現パネルに関する幾つかの大規模な調査によるCEA、GUCY2C、5T4、MAGE抗原およびHer-2が含まれるが、これらの抗原の問題は、それらが、しばしば、限られた割合の腫瘍でしか発現されないことである。これらの抗原のうち、CEA、GUCY2Cおよび5T4は前臨床研究および臨床研究に進められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、広範な集団、理想的にはHLAが異なる集団に投与されうる新規癌ワクチンが必要とされている。理想的なワクチンは、正常細胞においてではなく形質転換癌細胞においてのみ発現される標的抗原に対するT細胞応答を誘導または増強するであろう。これは、オフターゲット毒性を回避するために重要である。腫瘍と健常組織とのペアのゲノム解析は理論的にはTAAの特定を促進させるが、実際には各配列決定サンプルにおける細胞投入物の多様性によって制限されるようである。
【0006】
差次的発現解析におけるRNA配列決定(RNA-seq)の益々増加しつつある利用は、TAA発見パイプラインを開始するための有用な方法論を提供する。しかし、結腸の場合には、免疫細胞、上皮および間質の混合物が、調べる発現プロファイルを複雑にして、特に腫瘍免疫浸潤が個体および腫瘍位置によって異なることも考慮すると、有意に及び異なって発現される遺伝子の特定を妨げる傾向にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
RNA配列決定分析の前の上皮細胞および腫瘍細胞の精製は、組織不均一性を克服するための新規方法である。本研究において、本発明者らは、上皮細胞接着分子(EpCAM)、すなわち、上皮におけるCa2+非依存性同型細胞間接着を媒介する膜貫通糖タンパク質を、精製を助けるために使用した。腫瘍および健常結腸上皮(2つの部位におけるもの)のEpCAM精製は腫瘍および健常細胞発現プロファイル間の分離を改善して、差次的発現遺伝子(DEG)の特定を助けた。全組織間の発現プロファイルに基づいて遺伝子リストを作成し、DESEQ2比較分析において、有意な発現レベルを確定した。これらのリストを分析し、幾つかの遺伝子を、ワクチン候補としての更なる研究のために選択した。将来のCRC免疫療法のための最良の候補を選択するために、健常組織におけるこれらの遺伝子のタンパク質産物の免疫原性分析および組織発現を行った。幾つかの標的が、対照抗原と比較して有意な免疫原性を示したが、これらのうち、1つのマーカー、すなわち、DnaJ熱ショックタンパク質ファミリー(Hsp40)メンバーB7(DNAJB7)が、健常組織および癌組織の免疫組織化学データに基づいて最も好ましい発現プロファイルを示した。更に、本発明者らは、全てのドナーがDNAJB7に対するT細胞応答を誘発する能力を有することを確認した。したがって、このタンパク質抗原は将来の癌治療および予防治療戦略におけるワクチン標的として使用される可能性を有する。
【0008】
発明の開示
本発明の第1の態様においては、DnaJ熱ショックタンパク質ファミリー(Hsp40)メンバーB7(DNAJB7と称される)またはその少なくとも1つの免疫原性断片を含む又はそれからなる、癌ワクチンとしての使用のための免疫原性物質を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1A】腫瘍部位からの2つの距離で行われた腫瘍および健常組織切除の概要図である
図1B】サンプル処理および精製フローチャートである。
図1C】細胞選別の前および後のEpCAMおよびCD3精製に関するフローサイトメトリーゲーティングである。
図1D】未精製腫瘍組織および精製腫瘍組織と比較した場合の健常組織「近」および「遠」の4つのRNA-seqデータセットにわたるリードの例を示すものである
図2A】2つの比較に基づいて差次的発現遺伝子の遺伝子リストを得るためのワークフロー(それぞれ左側および右側の、精製腫瘍対精製健常結腸「遠」、および精製腫瘍対精製健常結腸「近」)である。
図2B】更なる分析のために選択された7つの遺伝子のそれぞれに関する正規化カウントを示すものである。
図3A】健常組織における候補腫瘍抗原の発現プロファイルを示すものである。
図3B】癌における候補腫瘍抗原の発現プロファイルを示すものである。
図3C】胃腸腫瘍における染色の例を示すものである。
図4A】予め定められた癌精巣抗原と比較した場合のDNAJB7の発現プロファイル(健常組織)を示すものである。
図4B】予め定められた癌精巣抗原と比較した場合のDNAJB7の発現プロファイル(腫瘍型)を示すものである。
図5A】各候補TAAのタンパク質配列全体にわたるペプチドプールに対するT細胞応答を培養IFN-γフルオロスポット(FluoroSpot)により評価した結果を示すものである。各陽性ペプチドプールに対する10個の培養PBMC当たりのIFN-γスポット形成細胞の総数(A)。
図5B】各候補TAAのタンパク質配列全体にわたるペプチドプールに対するT細胞応答を培養IFN-γフルオロスポット(FluoroSpot)により評価した結果を示すものである。タンパク質におけるペプチド数に対する全体的な大きさ(B)。
図5C】各候補TAAのタンパク質配列全体にわたるペプチドプールに対するT細胞応答を培養IFN-γフルオロスポット(FluoroSpot)により評価した結果を示すものである。DNAJB7タンパク質を、10個ずつ重複する30個の20マーに分割し(詳細は表2を参照されたい)、ついでそれらを、示されている11個のペプチドプールのうちの2個に配置した。
図5D】各候補TAAのタンパク質配列全体にわたるペプチドプールに対するT細胞応答を培養IFN-γフルオロスポット(FluoroSpot)により評価した結果を示すものである。IFN-γ/グランザイムBフルオロスポットによるCRC患者における免疫原性DNAJB7ペプチドの特定の代表例。
図5E】各候補TAAのタンパク質配列全体にわたるペプチドプールに対するT細胞応答を培養IFN-γフルオロスポット(FluoroSpot)により評価した結果を示すものである。この患者は、ペプチド3および23に対する応答を示すペプチドプール3、6および10に対するIFN-γおよびグランザイムB(「Grz-B」)の両方の応答を誘発した(例示ウェルイメージが示されている)。
図5F】各候補TAAのタンパク質配列全体にわたるペプチドプールに対するT細胞応答を培養IFN-γフルオロスポット(FluoroSpot)により評価した結果を示すものである。10%を超えるペプチド配列の応答率は、ペプチド23が、試験された全てのドナーの中で最も免疫原性であることを示している。
図5G】各候補TAAのタンパク質配列全体にわたるペプチドプールに対するT細胞応答を培養IFN-γフルオロスポット(FluoroSpot)により評価した結果を示すものである。試験された全ての癌を有する患者が、これまでのところ、抗DNAJB7 T細胞応答を誘発しているようである(CRC-結腸直腸癌;CC-胆管癌;HCC-肝細胞癌;HNC-頭頸部扁平上皮癌)。
図6A】各候補TAAのタンパク質配列全体にわたるペプチドプールに対するT細胞応答を培養IFN-γ ELISpotにより評価した結果を示すものである。該タンパク質におけるペプチド数に対する10個の培養PBMC当たりのIFN-γスポット形成細胞(SFC)の総数を評価し、試験された全てのドナーにおいて応答中央値によりランク付けした。
図6B】各候補TAAのタンパク質配列全体にわたるペプチドプールに対するT細胞応答を培養IFN-γ ELISpotにより評価した結果を示すものである。CRC患者(青丸TNMステージ1/2;n=6、黒丸TNMステージ3;n=8)および健常ドナー(‘HD’,白丸;n=10)により細分した。
図6C】各候補TAAのタンパク質配列全体にわたるペプチドプールに対するT細胞応答を培養IFN-γ ELISpotにより評価した結果を示すものである。他の胃腸癌を有する患者を、抗DNAJB7 T細胞応答を誘発する彼らの能力に関して試験した。(CC-胆管癌;HCC-肝細胞癌;HNC-頭頸部扁平上皮癌)。
図7A】結腸切除後のCRC患者に治療第1日~8日および第15日~22日に低用量メトロノミックシクロホスファミドを投与し、治療中を通じて血液サンプルを毎週採取し、各候補TAAのタンパク質配列全体にわたるペプチドプールに対するT細胞応答を各時点で培養IFN-γ ELISpotにより評価した結果を示すものである。
図7B】IFN-γ ELISpotウェルの例示イメージである。
図7C】10個の培養PBMC当たりのIFN-γスポット形成細胞(SFC)の総数(重複実験ウェルの平均)を各TAAに関して計算した結果を示すものである。
図7D】CD3CD4CD25hiFoxp3調節性T細胞数およびKi67 Treg(%)をシクロホスファミド処理中にフローサイトメトリーにより測定した結果を示すものである。
図8A】HCC患者に治療第1日~8日および第15日~22日に低用量メトロノミックシクロホスファミドを投与し、治療中を通じて血液サンプルを毎週採取し、各候補TAAのタンパク質配列全体にわたるペプチドプールに対するT細胞応答を各時点で培養IFN-γ ELISpotにより評価した結果における、IFN-γ ELISpotウェルの例示イメージである。
図8B】10個の培養PBMC当たりのIFN-γスポット形成細胞(SFC)の総数(重複実験ウェルの平均)を各TAAに関して計算した結果を示すものである。
図8C】CD3CD4CD25hiFoxp3調節性T細胞数およびKi67 Treg(%)をシクロホスファミド処理中にフローサイトメトリーにより測定した結果を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書におけるDNAJB7に対する言及は、ATPアーゼ活性を刺激することにより分子シャペロン活性を調節する、進化的に保存されたDNAJ/HSP40ファミリーのタンパク質に属するタンパク質に対するものである。当業者に公知のとおり、DNAJタンパク質は3つまでの異なるドメイン、すなわち、通常はN末端に存在する保存された70アミノ酸のJドメイン、グリシン/フェニルアラニン(G/F)に富む領域、およびジンクフィンガードメインに類似した4つのモチーフを含有する、システインに富むドメインを有しうる。
【0011】
本発明の好ましい実施形態においては、前記DNAJB7はヒトDNAJB7である。
【0012】
好ましくは、前記DNAJB7は、配列番号31に記載されているアミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有する配列により表される。
【0013】
本明細書における免疫原性断片に対する言及は、インビボで使用された場合に免疫応答を誘発しうるDNAJB7の一部分に対するものであり、この応答は、本明細書に記載されているような公知試験を用いて測定または決定されうる。用いられうる1つの試験は、限定的なものではないが、免疫系の成分により腫瘍が認識され作用されることを該断片が引き起こしうるかどうかの試験である。好都合なことに、C末端付近からN末端へと伸長する全長DNAJB7ペプチドの部分(すなわち、ペプチドの全長)からのこれらの免疫原性断片は応答を誘発しうることが判明している。
【0014】
本発明の好ましい実施形態においては、前記の少なくとも1つの断片は5~30アミノ酸長であり、好ましくは、前記の少なくとも1つの断片は8~25アミノ酸長である。最も好ましくは、前記の少なくとも1つの断片は19アミノ酸長である。
【0015】
本発明の好ましい実施形態においては、前記の少なくとも1つのDNAJB7断片は、以下の群の少なくとも1つから選択されるアミノ酸配列を含む、またはそれからなる:
a)MVDYYEVLGLQRYASPEDIK(配列番号1);
QRYASPEDIKKAYHKVALKW(配列番号2);
KAYHKVALKWHPDKNPENKE(配列番号3);
HPDKNPENKEEAERKFKEVA(配列番号4);
EAERKFKEVAEAYEVLSNDE(配列番号5);
EAYEVLSNDEKRDIYDKYGT(配列番号6);
KRDIYDKYGTEGLNGGGSHF(配列番号7);
EGLNGGGSHFDDECEYGFTF(配列番号8);
DDECEYGFTFHKPDDVFKEI(配列番号9);
HKPDDVFKEIFHERDPFSFH(配列番号10);
FHERDPFSFHFFEDSLEDLL(配列番号11);
FFEDSLEDLLNRPGSSYGNR(配列番号12);
NRPGSSYGNRNRDAGYFFST(配列番号13);
NRDAGYFFSTASEYPIFEKF(配列番号14);
ASEYPIFEKFSSYDTGYTSQ(配列番号15);
SSYDTGYTSQGSLGHEGLTS(配列番号16);
GSLGHEGLTSFSSLAFDNSG(配列番号17);
FSSLAFDNSGMDNYISVTTS(配列番号18);
MDNYISVTTSDKIVNGRNIN(配列番号19);
DKIVNGRNINTKKIIESDQE(配列番号20);
TKKIIESDQEREAEDNGELT(配列番号21);
REAEDNGELTFFLVNSVANE(配列番号22);
FFLVNSVANEEGFAKECSWR(配列番号23);
EGFAKECSWRTQSFNNYSPN(配列番号24);
TQSFNNYSPNSHSSKHVSQY(配列番号25);
SHSSKHVSQYTFVDNDEGGI(配列番号26);
TFVDNDEGGISWVTSNRDPP(配列番号27);
SWVTSNRDPPIFSAGVKEGG(配列番号28);
IFSAGVKEGGKRKKKKRKEV(配列番号29);および
KRKKKKRKEVQKKSTKRNC(配列番号30);あるいは
b)群a)における配列の任意の1以上に対して少なくとも85%の配列同一性を、そして群a)における配列の任意の1以上に対して少なくとも86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%(好ましさの昇順)の配列同一性を有する断片;あるいは
c)群a)および/または群b)における配列の任意の1以上の変異体である断片であって、該変異体が前記配列の任意の1以上における1以上のアミノ酸残基の付加、欠失または置換により修飾されており、そして常にというわけではないが理想的には該変異体断片が、群a)および/または群b)における変異体の任意の1以上の免疫原性と比較して増強した又は同等の免疫原性を保持または有する、断片。
【0016】
当業者に理解されるとおり、免疫原性の測定および/または比較は、当業者に公知の任意の手段、例えばインビトロ・フルオロスポット(FluoroSpot)アッセイ(これに限定されるものではない)により実施可能であり、インビトロ・フルオロスポット・アッセイにおいては、DNAJB7タンパク質またはそれに由来するペプチドの存在下で末梢血単核細胞を培養し、これらのペプチドに応答したT細胞サイトカイン産生を測定する。
【0017】
当技術分野で公知のとおり、変異体ポリペプチドは、任意の組合せで存在しうる1以上の置換、付加、欠失またはトランケーションによりアミノ酸配列において異なりうる。好ましい変異体としては、保存的アミノ酸置換により参照ポリペプチドと異なる変異体が挙げられる。そのような置換は、所与アミノ酸を類似特性の別のアミノ酸により置換するものである。例えば、荷電アミノ酸残基には、リジン(+)、アルギニン(+)、ヒスチジン(+)、アスパルタート(-)およびグルタマート(-)が含まれ、極性アミノ酸には、セリン、スレオニン、アスパラギン、グルタミンおよびチロシンが含まれ、一方、疎水性アミノ酸には、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、システインおよびメチオニンが含まれる。一般に、グリシンは、しばしば、タンパク質の表面、ループまたはコイル領域内で見出され、これらの位置でポリペプチド鎖に高い柔軟性を付与する。これは、それが幾分か親水性であることを示唆している。一方、プロリンは一般に無極性であり、ほとんどがタンパク質内部に埋もれて存在するが、グリシンと同様に、それはループ領域内で見出されることが多い。グリシンとは対照的に、プロリンは、構造のセグメントに或るねじれ角を強いることにより、ポリペプチド鎖に剛性を付与する。グリシンおよびプロリンは、特定のタンパク質フォールドの保存に不可欠であるため、しばしば、タンパク質ファミリー内で高度に保存されている。
【0018】
また、以下の非限定的なアミノ酸群においては、各群内の各アミノ酸は互いに保存的な置換と見なされる:a)アラニン、セリンおよびスレオニン;b)グルタミン酸およびアスパラギン酸;c)アスパラギンおよびグルタミン;d)アルギニン、ヒスチジンおよびリジン;e)イソロイシン、ロイシン、メチオニンおよびバリン;ならびにf)フェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファン。最も好ましいのは、変異の元となった参照ポリペプチドと比較して増強した生物学的機能または免疫原性を保持または有する変異体である。
【0019】
本発明の好ましい実施形態においては、前記の少なくとも1つのDNAJB7断片は、
a)FFLVNSVANEEGFAKECSWR(配列番号23);
FHERDPFSFHFFEDSLEDLL(配列番号11);
KRKKKKRKEVQKKSTKRNC(配列番号30);
SHSSKHVSQYTFVDNDEGGI(配列番号26);
EGLNGGGSHFDDECEYGFTF(配列番号8);
NRPGSSYGNRNRDAGYFFST(配列番号13);
NRDAGYFFSTASEYPIFEKF(配列番号14);
MDNYISVTTSDKIVNGRNIN(配列番号19);および
TFVDNDEGGISWVTSNRDPP(配列番号27);あるいは
b)群a)における配列の任意の1以上に対して少なくとも85%の配列同一性を、そして群a)における配列の任意の1以上に対して少なくとも86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%(好ましさの昇順)の配列同一性を有する断片;あるいは
c)群a)および/または群b)における配列の任意の1以上の変異体である断片であって、該変異体が前記配列の任意の1以上における1以上のアミノ酸残基の付加、欠失または置換により修飾されており、そして常にというわけではないが理想的には該変異体断片が、群a)および/または群b)における変異体の任意の1以上の免疫原性と比較して増強した又は同等の免疫原性を保持または有する、断片
を含む又はそれらからなる群から選択されるアミノ酸配列により表される。
【0020】
本発明のもう1つの態様においては、本明細書に開示されている該DnaJ熱ショックタンパク質ファミリー(Hsp40)メンバーB7(DNAJB7と称される)またはその少なくとも1つの断片をコードする核酸分子を含むベクターまたはDNAワクチンを提供する。
【0021】
本発明の好ましい実施形態においては、該核酸分子は、該DNAJB7またはその該断片の少なくとも1つを発現するように適合化された発現ベクターの一部である、または該発現ベクターにおいて提供される。
【0022】
典型的には、該適合化は、該発現をもたらす少なくとも1つの転写制御配列(例えば、少なくとも1つのプロモーター配列)の提供を含む。好ましくは、該プロモーターは細胞/組織特異的であり、より理想的には、該DNAJB7またはその少なくとも1つの断片の誘導性または構成的発現に尚も適合している。
【0023】
ある実施形態においては、該核酸分子は該DNAJB7の全体および/またはその幾つかの断片をコードする。
【0024】
プロモーターなる語は以下の特徴(それらは限定的なものではなく、単なる例示として示されているに過ぎない)を含むと当業者は理解するであろう:エンハンサーが連結されている遺伝子の転写の速度を増加させるように機能する、遺伝子の転写開始部位の5’側でしばしば見出されるシス作用性核酸配列である少なくとも1つのエンハンサーエレメント(エンハンサーは遺伝子配列の3’側でも見出され、または更にはイントロン配列内にも位置することがあり、したがって、位置非依存的である)。更に、エンハンサー活性は、エンハンサーエレメントに特異的に結合することが示されているトランス作用性転写因子(例えば、ポリペプチド)に対して応答性である。転写因子の結合/活性(David S LatchmanによるEukaryotic Transcription Factors,Academic Press Ltd,San Diegoを参照されたい)は、例えば中間代謝物(例えば、グルコース、脂質)、環境エフェクター(例えば、光、熱)(これらに限定されるものではない)を含む多数の環境因子に対して応答性である。
【0025】
プロモーターエレメントには、転写開始部位を提供するように機能するTATAボックスおよびRNAポリメラーゼ開始選択(RIS)配列も含まれる。これらの配列はまた、とりわけ、RNAポリメラーゼによる転写開始選択を促進させるように機能するポリペプチドに結合する。
【0026】
ベクターに対する適合化は、真核細胞または原核生物宿主のいずれかにおける該ベクターの維持を容易にする自律複製配列および選択可能マーカーの提供をも含む。自律的に維持されるベクターはエピソームベクターと称され、本発明の範囲内に含まれる。
【0027】
ベクターコード化遺伝子の発現を促進させる、本発明の範囲内に含まれるベクターに対する更なる適合化は、転写終結/ポリアデニル化配列を含む。この又はこれらの特徴は、バイシストロン性またはマルチシストロン性発現カセット内に配置されたベクターコード化遺伝子の発現を最大化するように機能する内部リボソーム侵入部位(IRES)の提供をも含む。
【0028】
本発明の範囲内に含まれるベクターに対する更なる適合化は発現制御配列、例えば遺伝子座制御領域(LCR)である。これらは、マウスにおいてトランスジェニック構築物としてアッセイされた場合に位置非依存的コピー数依存的発現を連結遺伝子にもたらす調節エレメントである。LCRは、隣接ヘテロクロマチンのサイレンシング効果から導入遺伝子を保護する調節エレメントを含む(Grosveldら,Cell(1987),51:975-985)。
【0029】
前記の適合化は当技術分野でよく知られている。実際、発現ベクター構築および組換えDNA発現技術の全般に関する相当な量の公開文献が存在する。Sambrookら(1989)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbour Laboratory,Cold Spring Harbour,NYおよびそれにおける参考文献;Marston,F(1987)DNA Cloning Techniques:A Practical Approach Vol III IRL Press,Oxford UK;DNA Cloning:F M Ausubelら,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,Inc.(1994)を参照されたい。最終的なベクターまたは構築物が、培養または宿主環境において該ベクターにより発現されうるDNAJB7またはその少なくとも1つの断片をコードする核酸分子を含有する限り、本発明を実施する場合に、これらの公知技術のいずれか1以上が用いられうる。
【0030】
本発明のもう1つの態様においては、本発明の前記免疫原性物質またはベクターまたはDNAワクチンを含む医薬組成物を提供する。
【0031】
本発明のもう1つの態様においては、癌の治療における使用のための、DNAJB7またはその少なくとも1つの断片を含有またはコードする少なくとも1つの免疫原性物質またはベクターまたはDNAワクチンまたは医薬組成物を提供する。
【0032】
本発明のもう1つの態様においては、癌を治療するための医薬の製造における使用のための、DNAJB7またはその少なくとも1つの断片を含有またはコードする少なくとも1つの免疫原性物質またはベクターまたはDNAワクチンまたは医薬組成物を提供する。
【0033】
本明細書中で用いる「癌」なる語は、自律的増殖能、すなわち、無制御細胞増殖により特徴づけられる異常な状態または状況を有する細胞を意味する。この語は、組織病理学的タイプまたは浸潤段階には無関係に、全てのタイプの癌性増殖または発癌過程、転移性組織または悪性形質転換した細胞、組織もしくは器官を含むと意図される。
【0034】
最も好ましくは、本明細書中で言及されている癌は以下の癌の任意の1以上を含む:鼻咽頭癌、滑膜癌、肝細胞癌、腎癌、結合組織癌、黒色腫、肺癌、腸癌、結腸癌、直腸癌、結腸直腸癌、脳癌、喉頭癌、口腔癌、肝癌、骨癌、膵臓癌、絨毛癌、ガストリン産生腫瘍、褐色細胞腫、プロラクチン産生腫瘍、T細胞白血病/リンパ腫、扁桃腺癌、脾臓癌、神経腫、フォンヒッペル・リンダウ病、ゾリンガー・エリソン症候群、副腎癌、肛門癌、胆管癌、膀胱癌、尿管癌、神経膠腫、乏突起膠腫、神経芽細胞腫、髄膜腫、脊髄腫瘍、骨癌、骨軟骨腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、原発部位不明癌、カルシノイド、胃腸管カルシノイド、線維肉腫、乳癌、筋肉癌、パジェット病、子宮頸癌、直腸癌、食道癌、胆嚢癌、胆管癌、頭部癌、眼癌、鼻咽頭癌、頸部癌、腎臓癌、ウィルムス腫瘍、肝臓癌、カポシ肉腫、前立腺癌、精巣癌、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、皮膚癌、中皮腫、骨髄腫、多発性骨髄腫、卵巣癌、内分泌膵臓癌、グルカゴン産生腫瘍、副甲状腺癌、陰茎癌、下垂体癌、軟部組織肉腫、網膜芽細胞腫、小腸癌、胃癌、胸腺癌、甲状腺癌、栄養膜癌、胞状奇胎、子宮癌、子宮内膜癌、膣癌、外陰癌、聴神経腫、真菌性真菌症、インスリノーマ、カルシノイド症候群、ソマトスタチン産生腫瘍、歯肉癌、心臓癌、唇癌、髄膜癌、口癌、神経癌、口蓋癌、耳下腺癌、腹膜癌、咽頭癌、胸膜癌、唾液腺癌、舌癌および扁桃腺癌。
【0035】
より好ましくは更に、該癌は、以下の癌を含む群から選択される:結腸直腸癌、甲状腺癌、リンパ腫、肺癌、肝臓癌、膵臓癌、カルチノイド、頭頸部癌、胃癌、尿路上皮癌、前立腺癌、精巣癌、子宮内膜癌、神経膠腫、乳癌、子宮頸癌、卵巣癌、黒色腫、膵臓癌、肝臓癌および腎癌。
【0036】
更により好ましくは、該癌は結腸直腸癌、頭頸部扁平上皮癌または肝臓癌である。
【0037】
本発明のもう1つの態様においては、本発明の免疫原性物質、ベクター、DNAワクチンまたは医薬組成物の有効量を対象に投与することを含む、癌に罹患している又は癌の素因を有する対象にワクチン接種する方法を提供する。
【0038】
最も好ましくは、本明細書中で言及されている癌は以下の癌の任意の1以上を含む:鼻咽頭癌、滑膜癌、肝細胞癌、腎癌、結合組織癌、黒色腫、肺癌、腸癌、結腸癌、直腸癌、結腸直腸癌、脳癌、喉頭癌、口腔癌、肝癌、骨癌、膵臓癌、絨毛癌、ガストリン産生腫瘍、褐色細胞腫、プロラクチン産生腫瘍、T細胞白血病/リンパ腫、扁桃腺癌、脾臓癌、神経腫、フォンヒッペル・リンダウ病、ゾリンガー・エリソン症候群、副腎癌、肛門癌、胆管癌、膀胱癌、尿管癌、神経膠腫、乏突起膠腫、神経芽細胞腫、髄膜腫、脊髄腫瘍、骨癌、骨軟骨腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、原発部位不明癌、カルシノイド、胃腸管カルシノイド、線維肉腫、乳癌、筋肉癌、パジェット病、子宮頸癌、直腸癌、食道癌、胆嚢癌、胆管癌、頭部癌、眼癌、鼻咽頭癌、頸部癌、腎臓癌、ウィルムス腫瘍、肝臓癌、カポシ肉腫、前立腺癌、精巣癌、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、皮膚癌、中皮腫、骨髄腫、多発性骨髄腫、卵巣癌、内分泌膵臓癌、グルカゴン産生腫瘍、副甲状腺癌、陰茎癌、下垂体癌、軟部組織肉腫、網膜芽細胞腫、小腸癌、胃癌、胸腺癌、甲状腺癌、栄養膜癌、胞状奇胎、子宮癌、子宮内膜癌、膣癌、外陰癌、聴神経腫、真菌性真菌症、インスリノーマ、カルシノイド症候群、ソマトスタチン産生腫瘍、歯肉癌、心臓癌、唇癌、髄膜癌、口癌、神経癌、口蓋癌、耳下腺癌、腹膜癌、咽頭癌、胸膜癌、唾液腺癌、舌癌および扁桃腺癌。
【0039】
より好ましくは更に、該癌は、以下の癌を含む群から選択される:結腸直腸癌、甲状腺癌、リンパ腫、肺癌、肝臓癌、膵臓癌、カルチノイド、頭頸部癌、胃癌、尿路上皮癌、前立腺癌、精巣癌、子宮内膜癌、神経膠腫、乳癌、子宮頸癌、卵巣癌、黒色腫、膵臓癌、肝臓癌および腎癌。
【0040】
更により好ましくは、該癌は結腸直腸癌、頭頸部扁平上皮癌または肝臓癌である。
【0041】
後記の特許請求の範囲および本発明の前記説明においては、明示的な文言または必要な含意ゆえに文脈が別の解釈を要求する場合を除き、「含む」なる語または「含み」もしくは「含んで」のような派生語は包括的な意味で用いられ、すなわち、示されている特徴の存在を示すために用いられるが、本発明の種々の実施形態における他の特徴の存在または追加を除外するものではない。
【0042】
本明細書中で引用されている任意の特許または特許出願を含む全ての参考文献を参照により本明細書に組み入れることとする。いずれの参考文献も先行技術を構成するとは認められない。更に、先行技術はいずれも、当技術分野における一般的な知識の一部を構成するとは認められない。
【0043】
本発明の各態様の好ましい特徴は、その他の態様のいずれかに関して記載されているとおりでありうる。
【0044】
本発明の他の特徴は以下の具体例(実施例)から明らかになるであろう。一般的に言えば、本発明は、本明細書(添付の特許請求の範囲および図面を含む)に開示されている特徴の任意の新規のもの、または任意の新規の組合せに及ぶ。したがって、本発明の個々の態様、実施形態または具体例に関して記載されている特徴、整数、特性、化合物または化学部分は、本明細書に記載されている任意の他の態様、実施形態または具体例に、それらに不適合でない限り、適用可能であると理解されるべきである。
【0045】
更に、特に示されていない限り、本明細書に開示されている任意の特徴は、同じまたは類似の目的を果たす代替的特徴により置換されうる。
【0046】
本明細書の説明および特許請求の範囲の全体を通して、文脈に矛盾しない限り、単数形は複数形を包含する。特に、単数形が用いられている場合、文脈に矛盾しない限り、その特定は単数形だけでなく複数形をも想定していると理解されるべきである。
【0047】
次に、本発明の1つの実施形態を、以下を参照して、単なる例示として説明する。
【実施例
【0048】
図1:RNA-seqの前のEpCAM選別による上皮細胞および腫瘍細胞の単離。(A)腫瘍部位からの2つの距離で行われた腫瘍および健常組織切除の概要図。サンプルを3名の患者の直腸腫瘍から採取した。(B)サンプル処理および精製フローチャート。(C)細胞選別の前および後のEpCAMおよびCD3精製に関するフローサイトメトリーゲーティング。(D)未精製腫瘍組織および精製腫瘍組織と比較した場合の健常組織「近」および「遠」の4つのRNA-seqデータセットにわたるリード(読取り;read)の例。イメージは統合ゲノミクスビューア(Broad institute)から取得された。4つの矢印はカバレッジバーを示し、下のボックスは患者サンプルの1セットにおける整列リードを示す。
【0049】
図2:差次的発現分析に基づく更なる研究のための候補の特定。(A)2つの比較に基づいて差次的発現遺伝子の遺伝子リストを得るためのワークフロー(それぞれ左側および右側の、精製腫瘍対精製健常結腸「遠」、および精製腫瘍対精製健常結腸「近」)。遺伝子リストは、全3名の患者にわたって、そして3名の患者のうちの2名において別々に、有意に差次的に発現された遺伝子から得た。これらを整列させ、「遠」および「近」比較の間で相互参照して、より小さな遺伝子リストを得、これを更に、健常組織における発現に基づいて、そして最終的には更なる研究に対する適合性に基づいて縮小させた。(B)更なる分析のために選択された7つの遺伝子のそれぞれに関する正規化カウント。4つの条件のそれぞれに関して、全3名の患者を表す箱ひげ図として、カウントが示されている。
【0050】
図3:健常組織および癌における候補腫瘍抗原の発現プロファイル。Protein Atlasを使用して、7つの特定されたTAAのタンパク質発現を、ある範囲の健常組織(A)および腫瘍型(B)において、位置ごとに評価した。免疫組織化学は、DNAJB7発現が腫瘍サンプルに限局していることを示した。胃腸腫瘍における染色の例が示されている(C)。
【0051】
図4:予め定められた癌精巣抗原と比較した場合のDNAJB7の発現プロファイル。Protein Atlasを使用して、DNAJB7のタンパク質発現を、ある範囲の健常組織(A)および腫瘍型(B)において、他の十分に特徴づけられた癌精巣抗原と共に、位置ごとに評価した。
【0052】
図5:候補TAAの免疫原性。各候補TAAのタンパク質配列全体にわたるペプチドプールに対するT細胞応答を培養IFN-γフルオロスポット(FluoroSpot)により評価した(ペプチド配列に関しては表4を参照されたい)。各陽性ペプチドプールに対する10個の培養PBMC当たりのIFN-γスポット形成細胞の総数(A)およびタンパク質におけるペプチド数に対する全体的な大きさ(B)をCRC患者において評価した。(C)DNAJB7タンパク質を、10個ずつ重複する30個の20マーに分割し(詳細は表2を参照されたい)、ついでそれらを、示されている11個のペプチドプールのうちの2個に配置した。(D)IFN-γ/グランザイムBフルオロスポットによるCRC患者における免疫原性DNAJB7ペプチドの特定の代表例。(E)この患者は、ペプチド3および23に対する応答を示すペプチドプール3、6および10に対するIFN-γおよびグランザイムB(「Grz-B」)の両方の応答を誘発した(例示ウェルイメージが示されている)。(F)10%を超えるペプチド配列の応答率は、ペプチド23が、試験された全てのドナーの中で最も免疫原性であることを示している。(G)試験された全ての癌を有する患者が、これまでのところ、抗DNAJB7 T細胞応答を誘発しているようである(CRC-結腸直腸癌;CC-胆管癌;HCC-肝細胞癌;HNC-頭頸部扁平上皮癌)。
【0053】
図6:候補TAAの免疫原性。各候補TAAのタンパク質配列全体にわたるペプチドプールに対するT細胞応答を培養IFN-γ ELISpotにより評価した。該タンパク質におけるペプチド数に対する10個の培養PBMC当たりのIFN-γスポット形成細胞(SFC)の総数を評価し、試験された全てのドナーにおいて応答中央値によりランク付けし(A)、ついでCRC患者(青丸TNMステージ1/2;n=6、黒丸TNMステージ3;n=8)および健常ドナー(‘HD’,白丸;n=10)により細分した(B)。(C)他の胃腸癌を有する患者を、抗DNAJB7 T細胞応答を誘発する彼らの能力に関して試験した。(CC-胆管癌;HCC-肝細胞癌;HNC-頭頸部扁平上皮癌)。
【0054】
図7:ある新規TAAに対するT1応答は結腸直腸癌(CRC)における調節性T細胞枯渇により明らかとなった。(A)結腸切除後のCRC患者に治療第1日~8日および第15日~22日に低用量メトロノミックシクロホスファミドを投与し、治療中を通じて血液サンプルを毎週採取した。各候補TAAのタンパク質配列全体にわたるペプチドプールに対するT細胞応答を各時点で培養IFN-γ ELISpotにより評価した。IFN-γ ELISpotウェルの例示イメージが示されている(B)。(C)10個の培養PBMC当たりのIFN-γスポット形成細胞(SFC)の総数(重複実験ウェルの平均)を各TAAに関して計算した。(D)CD3CD4CD25hiFoxp3調節性T細胞数およびKi67 Treg(%)をシクロホスファミド処理中にフローサイトメトリーにより測定した。
【0055】
図8:ある新規TAAに対するT1応答は肝細胞癌(HCC)における調節性T細胞枯渇により明らかとなった。(A)HCC患者に治療第1日~8日および第15日~22日に低用量メトロノミックシクロホスファミドを投与し、治療中を通じて血液サンプルを毎週採取した。各候補TAAのタンパク質配列全体にわたるペプチドプールに対するT細胞応答を各時点で培養IFN-γ ELISpotにより評価した。IFN-γ ELISpotウェルの例示イメージが示されている(A)。(B)10個の培養PBMC当たりのIFN-γスポット形成細胞(SFC)の総数(重複実験ウェルの平均)を各TAAに関して計算した。(C)CD3CD4CD25hiFoxp3調節性T細胞数およびKi67 Treg(%)をシクロホスファミド処理中にフローサイトメトリーにより測定した。
【0056】
表1.最終分析により特定された全23個の遺伝子の詳細。「」は、前に進められたものを強調表示しており、「**」は、タンパク質をコードしていなかったものを示す。
【0057】
表2.DNAJB7のアミノ酸配列(配列番号31;アクセッション番号NP_660157.1)
表3.DNAJB7の核酸配列(配列番号32;アクセッション番号NM_145174.1)
表4.DNAJB7のペプチド配列。
【0058】
詳細な説明
方法および材料
患者の治療スケジュール
経口投与される50mgのシクロホスファミドを治療第1日~7日および第15日~21日に1日2回投与した。治療第8日~14日および第22日~106日ならびに患者に再発が生じるまでは、シクロホスファミドを投与しなかった。末梢血サンプル(40mL)を治療中に定期的に採取した。
【0059】
結腸組織および腫瘍組織の切除
カーディフのウェールズ大学病院(University Hospital of Wales,Cardiff)において結腸直腸腺癌の原発腫瘍切除を受けた3名の患者から結腸直腸腫瘍およびペアになったバックグラウンド(未罹患)結腸検体を得た。腫瘍部位からの「近」(2cm以内)および「遠」(少なくとも10cm)の両方の、切除組織の巨視的正常切片から、自己結腸サンプルを切り出した(図1A)。全ての新鮮腫瘍サンプルを、組織病理学的病期分類に必要な腫瘍の深部を損なわないように、検体の管腔側面から得た。全ての参加者からインフォームドコンセントを得た。ウェールズ研究倫理委員会(Wales Research Ethics Committee)はこの研究に倫理的承認を与えた。
【0060】
組織サンプルの精製
バックグラウンド結腸および腫瘍検体を輸送し、ペニシリン、ストレプトマイシンおよびL-グルタミン(Gibco)、2% ヒトAB血清(Welsh Blood Service)、20μg/ml ゲンタマイシン(ThermoFisher)および2μg/ml ファンギゾン(ThermoFisher)で補足されたRPMIを含む抽出培地中で洗浄した。患者からの切除から30分以内に、サンプルをペトリ皿において刃で細かく切り刻み、70μmの細胞濾過機に通して単細胞懸濁液を集めた。いずれの場合においても、コラゲナーゼまたはDNアーゼ処理を行わなかった。腫瘍、近および遠健常結腸組織の解離細胞調製物を、まず、アミン反応性生存性色素生/死(Live/Dead)固定可能Aqua(ThermoFisher)で染色し、ついでCD3-APC(BioLegend)およびEpCAM-PE(Miltenyi Biotec)抗体で表面マーカー染色を行った。EpCAMを選択したのは、それが間質組織上の上皮集団および免疫集団の単離を可能にするからであり(Martowiczら,2016;Schnellら,2013)、T細胞集団が下流分析に含まれないことを保証するためにCD3を使用した。FACS Aria III(BD)で生/死EpCAMCD3集団へと選別する前に、サンプルをFACSバッファー(PBS、2% BSA)に再懸濁させた。ゲーティング法が示されている(図1C)。同様にCD3およびEpCAM抗体で染色された腫瘍組織を更に、ゲーティング無しで細胞選別機に通過させ、RNA-seqのための未選別対照として使用した。全てのサンプルを、ベータメルカプトエタノール(Sigma Aldrich)を含有するRLTバッファー(Qiagen)中に直接選別し、-80℃で凍結させた。凍結サンプルを解凍し、RNA簡便微量単離(easy micro isolation)キット(Qiagen)を使用してRNAを単離した。
【0061】
RNA配列決定
ライブラリー調製およびRNA配列決定はVGTI-FL(Florida,USA)により実施された。精製されたRNAを使用し、TruSeqキット(Illumina)を使用してライブラリーを作製した。ライブラリーをIllumina Hi Seqプラットフォームで37~63Mリード(read)ペアの深度まで配列決定した。ペア・エンド・リード(paired end read)をカーディフ大学パイプライン(Cardiff University pipeline)で処理し、トリミングし、マッピングし、品質管理分析を行った。リードをTrimmomatic(Bolgerら,2014)でトリミングし、デフォルトパラメーターを用いるFastQC(https://www.bioinformatics.babraham.ac.uk/projects/fastqc/)を使用して品質に関して評価した。STAR(Dobinら,2013)を使用してEnsembl FTPサイト(http://www.ensembl.org/info/data/ftp/index.html/)からダウンロードされたEnsemblヒトゲノムビルドGRCh38.89に対してマッピングした。
【0062】
差次的発現分析
整列リードを、RにおけるDESEQ2(DESEQ2 in R)(Loveら,2014)を使用して正規化した。精製腫瘍サンプル、精製近上皮および精製遠上皮において差次的発現遺伝子を特定した。ペア分析において全ドナーに関してサンプル型間でDESEQ2を使用して差次的発現分析を行った。腫瘍および近または遠組織の比較を行い、マッピングされた100万個のリード当たりのキロベースの転写産物当たりの断片(fragments per kilobase of transcript per million mapped reads)(FPKM値)を使用して、比較のためにリードを標準化した。3ドナー発現分析の場合、3個のドナーのうちのいずれか2個において、3.5を超えるlog2倍変化、3.5未満の健常組織におけるFPKM値、および4.0を超える腫瘍におけるFPKM値を有する、ならびに3個のドナーにおいて0.05未満の補正P値を有する遺伝子を、更なる分析のために前に進めた。
【0063】
それらの3個のドナーのうちの2個のデータに関して別々の比較において有意に差次的に発現された遺伝子に、該分析を拡張させた(これは、1個のドナーにおいては発現されなかったが残りの2個のドナーにおいては高発現された遺伝子を特定するのに役立った)。両方のドナーの腫瘍組織における5.0より大きな及び健常組織における1.0未満のFPKM、6より大きなlog2倍変化、ならびに0.05未満の補正p値では、より高い発現カットオフ値を用いた。これらの比較から得られた遺伝子リストを更なる分析のために前に進めた。マッピングプされたリード(read)の精査を、統合ゲノムビューアーソフトウェア(Broad institute)を使用して行った。
【0064】
PBMC培養
血液サンプルを手術の最大7日前に10mlのリチウムヘパリンチューブ(BD Biosciences)内に集めた。Lymphoprep(Axis-Shield)でのヘパリン処理血液の遠心分離により末梢血単核細胞(PBMC)を単離した。ついで細胞を洗浄し、CTL Test Plus培地(CTL Europe)、L-グルタミンおよびペニシリン/ストレプトマイシンに再懸濁させた。PBMCを96ウェルプレート(Nunc)内でプレーティングし、第3日、第7日および第10日に20IU/mlのIL-2を含有する新鮮培地で補足された特異的抗原を含有する3重重複(triplicate)ウェル内で14日間培養した。
【0065】
ELISpotアッセイ
既に記載されているとおりに(Scurrら,2017)、新規腫瘍抗原特異的T細胞応答を評価するために、IFN-γ ELISpotアッセイを行った。簡潔に説明すると、PVDF 96ウェル濾過プレートを50μlのIFN-γ抗体(Mabtech)でコーティングした。細胞を洗浄し、プレーティングし、5μg/ml 抗原で刺激した[これを2重重複(duplicate)ウェルにおいて行った]。プレートを37℃、5% COで24時間インキュベートした後、細胞を除去し、スポットを現像した。スポット形成細胞(SFC)、すなわち、IFN-γ産生T細胞を、自動ELISpotプレートリーダー(ImmunoSpot S6 Ultra;CTL Europe GmbH)のSmartCount設定を用いて計数した。陽性応答は、陰性(抗原無し)対照の少なくとも2倍および少なくとも20個のSFC(10個の培養PBMC当たり)を有するものとして特定された。スポット数が1000を超えるウェルは、数が多すぎて数えられないとみなされ、このレベルが上限とされた。
【0066】
フルオロスポットアッセイ
既に記載されているとおりに(Scurrら,2017)、新規腫瘍抗原特異的T細胞応答を評価するために、IFN-γ/グランザイムBフルオロスポット(FluoroSpot)アッセイを行った。簡潔に説明すると、低い自己蛍光用に設計されたPVDF 96ウェル濾過プレート(IPFL;Millipore)を全てのフルオロスポットアッセイに使用した。IFN-γおよびグランザイムBに対する抗体ならびに蛍光増強キットをMabtechから入手した。全ての抗体のインキュベーションは50μl/ウェルで行った。ついで細胞を洗浄し、プレーティングし、5μg/ml 抗原で刺激した[これを2重重複(duplicate)ウェルにおいて行った]。プレートを37℃、5% COで24時間インキュベートした。サイトカイン産生T細胞を、自動フルオロスポットプレートリーダー(ImmunoSpot S6 Ultra;CTL Europe GmbH)のスマートカウント(Smart Count)設定を用いて計数して、一重および二重サイトカイン産生細胞の評価を可能にした。陽性応答は、陰性(抗原無し)対照の少なくとも2倍および少なくとも5個のSFC(10個の培養PBMC当たり)を有するものとして特定された。
【0067】
抗原
特定された各TAAのタンパク質配列全体をカバーする、10アミノ酸が重複した20マーペプチドを、Fmoc化学法により、95%を超える純度で合成し(GL Biochem,Shanghai,China)、示されているとおりのプールに分割した(表4)。リコール抗原であるツベルクリン精製タンパク質誘導体(PPD;Statens Serum Institut)および血球凝集素[HA;英国ロンドンの国立医学研究所(National Institute of Medical Research,London,United Kingdom)のJohn Skehel博士からの寄贈]ならびにT細胞マイトジェンPHA(Sigma)を陽性対照として使用した。全ての抗原を5μg/mlの最終濃度で使用した。
【0068】
免疫組織化学
この研究で特定したTAAを、ヒトタンパク質アトラスリソース(Human Protein Atlas resource)(Uhlen Mら,2015)を使用することにより健常組織および或る範囲の腫瘍サンプルにおけるタンパク質発現特性に関して評価した。
【0069】
結果
RNA-seq分析前のサンプルの精製は差次的発現遺伝子の分離能の増強をもたらした
RNA-seqデータセットは、幾つかの正規化手順に従うことによって比較可能であった。全3名の患者における精製腫瘍組織に対する健常組織(「近」および「遠」)のDESEQ2を用いて差次的発現比較を行い、ついで2名の患者の各組合せごとに別々の分析を行った。健常組織に対する未精製腫瘍組織の追加的な比較を行って、EpCAM選別の影響を調べた。免疫療法により標的化されうる関連遺伝子を見つけるために、腫瘍組織における高発現と組合された健常組織における低レベル発現を定めた基準(FPKMおよびlog2倍変化に基づく)を適用した。0.05未満の補正P値が割り当てられた遺伝子のみを更なる分析のために前に進めた。
【0070】
初期遺伝子リストは、腫瘍と遠結腸組織との間で差次的発現を示す83個の有意な遺伝子を示し、一方、腫瘍と近結腸組織との間では92個の遺伝子を示した。これらの遺伝子リストの相互参照は、両方の比較において有意な基準を満たす5個の遺伝子を与えた(前に進めたもののうちの以下の4つを含む:ARSJ、CENPQ、ZC3H12BおよびCEACAM3)。本発明者らの分析を拡張するために、本発明者らは、3名中2名の患者の腫瘍組織において有意に発現されたDEGを、より高いレベル(発現カットオフを増加させ、健常組織発現の閾値を低下させた)まで調べた。これらの遺伝子リストを3つのドナーリストと組合せ、ついで近および遠組織と相互参照した(図2A)。これは54個の遺伝子の初期セットを与え、それを、全3個のドナーの健常組織での発現レベルに基づいて23個に絞った。これらの23個の遺伝子のうち、18個がタンパク質でコードされていた。これらの18個の遺伝子を精査し、更なる分析に最も適したものを選択して、中枢神経系に関与するものを排除し、あるいは、IGVにおけるマッピングされたリード(read)の視覚的キュレーションにより測定された3個のドナーにおける一貫性のない発現またはリード(read)マッピングプロファイルを示す遺伝子を排除した。
【0071】
選択された最終的な遺伝子は、治療的利用のためのそれらの理想的発現プロファイルに基づいて、DNAJB7、CENPQ、ZC3H12B、ZSWIM1、CEACAM3、ARSJおよびCYP2B6であった(図2B)。未精製腫瘍組織からのRNA-seqデータにおける関連発現プロファイルの精査は、これらの遺伝子のいずれもが、精製組織より遥かに低い発現レベルを示して、全ドナーの未精製組織においては検出されなかったことを例証している。2個のドナーの未精製組織において検出されたものはDESEQ2による差次的発現分析においては有意とはならず、この場合もまた、RNA-seq分析前の精製の効力を強く示している。
【0072】
複数の健常組織にわたるタンパク質発現の分析は、癌精巣抗原としての、および免疫療法の適切な標的としてのDNAJB7を強く示している
各候補TAAのタンパク質発現レベルを、Human Protein Atlasにおいて公的に利用可能な免疫組織化学データを使用して評価した。各候補は、ARSJではより限定的であったものの、健常組織よりも腫瘍組織において有意なアップレギュレーションを示したが、免疫特権部位である精巣を除く任意の健常組織においてDNAJB7が発現を完全に欠いていることを考慮すると、DNAJB7が新規癌精巣抗原として特定されたのは予想外であった(図3A~C)。更に、進化的に保存されたDNAJ熱ショックファミリーに属するタンパク質であるDNAJB7は、非常に広範な固形腫瘍、特に消化管および消化副器官の腫瘍(結腸直腸癌および膵管腺癌を含む)において発現された(図3B;例示的免疫組織化学データは図3Cをも含んでいた)。
【0073】
DNAJB7の発現プロファイルを、NY-ESO-1、MAGE-A1およびSSX2を含む明確に定められた他の6つの癌精巣抗原と比較した。SPAG9を除く全てのこれらの抗原の高タンパク質発現は精巣に限局していることが確認された(図4A)。その他の癌精巣抗原と比較して、DNAJB7は最も広い腫瘍型範囲で発現され、試験された全患者の67%以上が、リンパ腫を除く彼らの腫瘍において陽性(低、中、高)タンパク質発現を示した(図4B)。この注目すべきタンパク質発現プロファイルは、広範に適用可能な癌免疫療法の優れた標的として、DNAJB7を確保させるものである。
【0074】
候補TAA T1応答の分析は、DNAJB7が免疫原性であることを示している
関連遺伝子の特定およびタンパク質発現の確認の後、重複ペプチドプールとCRC患者および健常ドナーのPBMCの存在下の培養とを用いて、それらの免疫原性を評価した。IFN-γ/グランザイムBフルオロスポット(FluoroSpot)による培養PBMCの分析は、7個中5個のタンパク質が大多数のドナーにおいて免疫原性を示すことを確認した(図5A~Bおよび6A~B)。ペプチドライブラリーのサイズは各タンパク質によって大きな違いがあるため、各プールにおけるペプチドの数に関して免疫原性を標準化した(図5Bおよび6B)。この分析は、CYP2B6、DNAJB7およびCEACAM3が、HLA型による層別化の非存在下、複数の個人の間で同等に免疫原性であることを示した。逆に、CENPQおよびARSJは、試験したほとんどのドナーにおいて免疫原性が低かった。DNAJB7は、肝細胞癌、胆管癌および非消化管頭頸部扁平上皮癌を含む他の腫瘍型を有する患者においても免疫原性があることが判明した(図5Gおよび6C)。
【0075】
更に、前記のとおり、本発明者らのペプチドプール設計は、マトリックス形式に基づいて免疫原性を調べて、陽性T細胞応答をもたらすペプチドを決定することを可能にした(DNAJB7の例;図5C~Fおよび6)。このタイプの分析はTAAのT1刺激領域の単離に重要である。それは、CRCにおいて重要な複数の抗原の免疫原性成分に基づいてワクチンに配合されることが可能であり、また、免疫応答の増強のための、エピトープに基づく修飾および戦略の対象となりうる領域でもある。1名のCRC患者の代表例は、DNAJB7ペプチドプール3、6および10に対する陽性IFN-γおよびグランザイムB応答を示し、これは、ペプチド3および23(特にペプチド11、30、26、8、13、14、19および27;図5DおよびE)内に含有されるエピトープに対するT細胞応答を示している。注目すべきことに、これらの免疫原性断片は、C末端付近からN末端にわたる全長DNAJB7ペプチドの相当な部分を含み、このことは、該タンパク質の全長にわたる断片が応答を誘発しうることを有利にも示している。ペプチド23はDNAJB7タンパク質の最も高い免疫原性領域であり、試験された健常対照ドナーおよびCRC患者の39%において応答が見いだされた(図5F)。DNAJB7は肝細胞癌、胆管癌および頭頸部癌において試験され、これらの患者においても免疫原性があることが判明した(図5Gおよび6C)。
【0076】
抗DNAJB7 T1応答はシクロホスファミド治療中に誘導される
本発明者らは、抗腫瘍T1エフェクター応答が調節性T細胞(Treg)により調節されること、およびインビトロでの枯渇または低用量シクロホスファミドによるインビボでの抑制/枯渇によるこれらのTregの標的化が抗腫瘍(5T4)免疫応答を増強することを既に示している(Scurrら,2017)。本発明者らは、短期間のメトロノミックシクロホスファミドの投与を受けた結腸直腸癌(CRC)患者(図7)および肝細胞(HCC)患者(図8)において、新規腫瘍抗原に対してT細胞応答が誘導されるかどうかを評価することに努めた。抗5T4 T1応答は、両方の患者において、4倍以上増強した。これは、生存転帰の改善に関連することが既に確認されている効果である(Scurrら,2017)。興味深いことに、抗DNAJB7 T1応答も、両方の場合において、この治療応答プロファイルを反映していたが、ARSJ、CENPQ、ZSWIM1およびCYP2B6に対しては応答が誘導されなかった(図7BおよびC、ならびに図8AおよびB)。これは、効率的な調節性T細胞の枯渇によっては応答が明らかに示されなかったことを考慮すると、CRCおよびHCCにおいてはDNAJB7およびCEACAM3に対する応答が抑制されることを示唆している可能性がある(図7Dおよび図8C)。
【0077】
小括
本発明において、患者に適合したEpCAM+ 結腸上皮細胞と比較して、高度に精製されたEpCAM+ 結腸直腸腫瘍細胞のRNA配列決定を行って、最も差次的に発現される遺伝子を分析することにより、広範に発現される新規TAAのパネル(CENPQ、CEACAM3、CYP2B6、DNAJB7、ZC3H12B、ZSWIM1、ARSJ)を特定した。それらの遺伝子を明らかにするためには、腫瘍細胞の精製が必要であった。このことは、抗原特定のために腫瘍画分全体(すなわち、死細胞、間質細胞、免疫細胞および他の腫瘍浸潤細胞を含む)を配列決定する従来の方法が欠陥方法であることを示している。候補TAAのタンパク質発現を免疫組織化学法により確認し、これらの抗原に対する既存T細胞免疫原性をIFN-γ/グランザイムBフルオロスポット(FluoroSpot)により試験した。これらのうち、DNAJB7(DnaJ熱ショックタンパク質ファミリーメンバーB7)は、その発現が精巣の細胞に著しく限局していたことから、新規癌精巣抗原として本発明において特定され、また、神経膠腫、乳癌、黒色腫、膵臓癌、肝臓癌、結腸直腸癌および腎癌を含む多種多様な腫瘍においてエフェクターおよびメモリーT細胞によって高度に免疫原性に認識されたため、種々の癌の治療におけるワクチン候補として有用である。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【0078】
参考文献
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図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図5G
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C
図7D
図8A
図8B
図8C
【配列表】
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