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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-13
(45)【発行日】2023-09-22
(54)【発明の名称】抗菌性撚糸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D02G 3/08 20060101AFI20230914BHJP
   D21H 21/36 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
D02G3/08
D21H21/36
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021109367
(22)【出願日】2021-06-30
(65)【公開番号】P2023006655
(43)【公開日】2023-01-18
【審査請求日】2022-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000204985
【氏名又は名称】大建工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮田 晴香
(72)【発明者】
【氏名】竹田 康浩
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-053396(JP,A)
【文献】特開2004-316048(JP,A)
【文献】特開2003-342900(JP,A)
【文献】特開平11-222794(JP,A)
【文献】特開2010-168709(JP,A)
【文献】特開平10-001166(JP,A)
【文献】特開2002-037789(JP,A)
【文献】特開2010-222746(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G 1/00 - 3/48
D02J 1/00 - 13/00
D21B 1/00 - 1/38
D21C 1/00 - 11/14
D21D 1/00 - 99/00
D21F 1/00 - 13/12
D21G 1/00 - 9/00
D21H 11/00 - 27/42
D21J 1/00 - 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙テープに撚りをかけて筒状にする撚糸工程を備える抗菌性撚糸の製造方法であって、
木質繊維を主として含むパルプスラリーに金属イオンを含有する第1の抗菌剤を添加した抄造スラリーを抄造して長尺の抗菌性紙を得る抄造工程と、
上記抄造工程で抄造された上記抗菌性紙を所定の幅に裁断して上記紙テープを得る裁断工程と
上記抄造工程後であって上記撚糸工程の前に、上記抗菌性紙又は上記紙テープに金属イオンを含有する第2の抗菌剤を含浸させる薬剤含浸工程とを備え、
上記薬剤含浸工程では、上記第2の抗菌剤の溶液が貯留された薬剤含浸層に上記抗菌性紙又は上記紙テープを浸漬することにより、上記抗菌性紙又は上記紙テープに上記第2の抗菌剤を含浸させ、
上記紙テープの厚さは、0.15mm以上0.5mm以下である
ことを特徴とする抗菌性撚糸の製造方法。
【請求項2】
請求項に記載の抗菌性撚糸の製造方法において、
上記撚糸工程の後に、該撚糸工程で形成された筒状撚糸の外周面を覆う撥水撥油層を形成する被覆工程を備えている
ことを特徴とする抗菌性撚糸の製造方法。
【請求項3】
請求項に記載の抗菌性撚糸の製造方法において、
上記撥水撥油層は、撥水撥油剤、エマルジョン樹脂及び有機系シランカップリング剤を含む樹脂組成物からなる
ことを特徴とする抗菌性撚糸の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性撚糸の製造方法関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、紙テープに撚りをかけて筒状に形成した撚糸が、壁紙や畳表等となる織物の材料として用いられている(例えば、下記の特許文献1を参照)。
【0003】
特許文献1には、外面に抗菌剤からなる機能性塗料が塗布された抗菌性撚糸及びその製造方法が開示されている。特許文献1に開示された撚糸は、紙テープの一部分に機能性塗料を塗布し、撚糸の露出面全体が機能性塗料の塗布部分となるように紙テープに撚りをかけることにより、露出面全体に機能性塗料が塗布された撚糸を製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-62596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、外表面にしか抗菌剤が塗布されていない抗菌性撚糸を用いた織物では、使用時に擦れたり捻れたりすることにより、抗菌剤の塗布部分が剥がれたり、撚糸が解れたりして、抗菌剤が存在しない部分が露出し、部分的に抗菌性能が低下する虞があった。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、長期に亘り、抗菌性能を発揮し得る抗菌性撚糸の製造方法、そのような抗菌性撚糸、それを用いた抗菌性織物及び抗菌性畳を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、この発明では、金属イオンを含有する抗菌剤を内部まで含む抗菌性紙を抗菌性撚糸の製造に用いることとした。
【0008】
具体的には、第1の発明は、紙テープに撚りをかけて筒状にする撚糸工程を備える抗菌性撚糸の製造方法であって、木質繊維を主として含むパルプスラリーに金属イオンを含有する第1の抗菌剤を添加した抄造スラリーを抄造して長尺の抗菌性紙を得る抄造工程と、上記抄造工程で抄造された上記抗菌性紙を所定の幅に裁断して上記紙テープを得る裁断工程とを備えていることを特徴とするものである。
【0009】
第1の発明では、金属イオンを含有する第1の抗菌剤が内添された抗菌性紙を抄造し、所定の幅に裁断してできた紙テープに撚りをかけて筒状にすることにより、抗菌性撚糸を製造することとしている。このように第1の抗菌剤が内添された抗菌性紙を用いて抗菌性撚糸を形成することにより、表層部だけでなく全体に第1の抗菌剤が含まれた抗菌性撚糸を形成することができる。また、このような抗菌性撚糸によれば、使用によって一部分が剥がれたり解れたりしても、第1の抗菌剤が存在しない部分が露出することがないため、抗菌性能が低下する虞がない。従って、第1の発明によれば、長期に亘り、抗菌性能を発揮し得る抗菌性撚糸を提供することができる。
【0010】
また、第1の発明では、金属イオンを含有する第1の抗菌剤を用いることにより、有機系の抗菌剤を用いる場合と比較して抗菌性能が外部環境によって左右され難くなる。第1の抗菌剤のような無機系の抗菌剤は、有機系の抗菌剤に見られる水や熱等による蒸発・分解を生じ難い。よって、第1の発明によれば、外部環境の変化や生産工程による抗菌性能が低下し難い抗菌性撚糸を提供することができる。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、上記抄造工程後であって上記撚糸工程の前に、上記抗菌性紙又は上記紙テープに金属イオンを含有する第2の抗菌剤を含浸させる薬剤含浸工程を備えていることを特徴とするものである。
【0012】
第2の発明では、紙テープに撚りをかけて筒状にする撚糸工程の前に、撚糸の材料となる紙テープに金属イオンを含有する第2の抗菌剤を含浸させる薬剤含浸工程を行うこととしている。このように、金属イオンを含有する第1の抗菌剤が内添された紙テープにさらに金属イオンを含有する第2の抗菌剤を含浸させた上で撚りをかけて筒状撚糸を形成することにより、内部に多量に金属イオンを含有する抗菌剤が含まれた抗菌性撚糸を形成することができる。よって、第2の発明によれば、抗菌剤を多量に含む抗菌性能に優れた抗菌性撚糸を提供することができる。
【0013】
また、第2の発明では、紙テープに含浸させる抗菌剤として、金属イオンを含有する第2の抗菌剤を用いることによっても、外部環境の変化や生産工程による抗菌性能が低下し難い抗菌性撚糸を提供することができる。
【0014】
第3の発明は、第2の発明において、上記薬剤含浸工程では、上記第2の抗菌剤の溶液が貯留された薬剤含浸層に上記抗菌性紙又は上記紙テープを浸漬することにより、上記抗菌性紙又は上記紙テープに上記第2の抗菌剤を含浸させることを特徴とするものである。
【0015】
また、第3の発明では、薬剤含浸層内の第2の抗菌剤の溶液中に抗菌性紙又は紙テープを浸漬するため、第2の抗菌剤が抗菌性紙又は紙テープの内部深くまで確実に含浸される。つまり、第2の抗菌剤を抗菌性紙又は紙テープ全体に行き渡らせることができる。
【0016】
第4の発明は、第1乃至第3のいずれか1つの発明において、上記撚糸工程の後に、該撚糸工程で形成された筒状撚糸の外周面を覆う撥水撥油層を形成する被覆工程を備えていることを特徴とするものである。
【0017】
第4の発明では、外周面が撥水撥油層で覆われた耐久性及び耐汚染性に優れた抗菌性撚糸を提供することができる。
【0018】
第5の発明は、第4の発明において、上記撥水撥油層は、撥水撥油剤、エマルジョン樹脂及び有機系シランカップリング剤を含む樹脂組成物からなることを特徴とするものである。
【0019】
第5の発明では、筒状撚糸に金属イオンが含まれているため、被覆工程において形成される筒状撚糸の外周面を覆う撥水撥油層に含まれる負に帯電しているエマルジョン樹脂の定着度が高まる。これにより、エマルジョン樹脂を含む樹脂組成物からなる撥水撥油層の筒状撚糸に対する定着度が高まる。また、撥水撥油層を形成する樹脂組成物に有機系シランカップリング剤を含ませることにより、金属イオン(無機)とエマルジョン樹脂(有機)の架橋効率が向上し、このことによってもエマルジョン樹脂の定着度が高まり、撥水撥油層の筒状撚糸に対する定着度が高まる。従って、第5の発明によれば、耐久性及び耐汚染性に優れた抗菌性撚糸を提供することができる。
【0020】
第6の発明は、紙テープに撚りをかけることによって形成された筒状撚糸を備える抗菌性撚糸であって、上記筒状撚糸の外周面を覆う撥水撥油層をさらに備え、上記筒状撚糸を形成する上記紙テープ全体に金属イオンを含有する抗菌剤が含まれていることを特徴とするものである。
【0021】
第6の発明では、抗菌性撚糸は、表層部だけでなく内部深くにまで金属イオンを含有する抗菌剤が含まれた筒状撚糸と、該筒状撚糸の外周面を覆う撥水撥油層とを備えるように構成されている。このような抗菌性撚糸によれば、使用によって一部分が剥がれたり解れたりし難くなり、また、剥がれたり解れたりしても抗菌剤が存在しない部分が露出することがないため、抗菌性能が低下する虞がない。従って、第6の発明によれば、長期に亘り、抗菌性能を発揮し得る抗菌性撚糸を提供することができる。
【0022】
また、第6の発明では、筒状撚糸に金属イオンを含有する抗菌剤が含浸されているため、有機系の抗菌剤が含浸されている場合と比較して抗菌性撚糸の抗菌性能が外部環境によって左右され難くなる。無機系の抗菌剤は、有機系の抗菌剤に見られる水や熱等による蒸発・分解を生じ難い。よって、第6の発明によれば、外部環境の変化や生産工程による抗菌性能が低下し難い抗菌性撚糸を提供することができる。
【0023】
第7の発明は、第6の発明において、上記撥水撥油層は、撥水撥油剤、エマルジョン樹脂及び有機系シランカップリング剤を含む樹脂組成物からなることを特徴とするものである。
【0024】
また、第7の発明では、筒状撚糸に金属イオンが含まれているため、筒状撚糸の外周面を覆う撥水撥油層に含まれる負に帯電しているエマルジョン樹脂の定着度が高まり、エマルジョン樹脂を含む樹脂組成物からなる撥水撥油層の筒状撚糸に対する定着度が高まる。また、撥水撥油層を形成する樹脂組成物に有機系シランカップリング剤が含まれているため、筒状撚糸に含浸された金属イオン(無機)と樹脂組成物中のエマルジョン樹脂(有機)の架橋効率が向上し、このことによってもエマルジョン樹脂の定着度が高まり、撥水撥油層の筒状撚糸に対する定着度が高まる。従って、第7の発明によれば、耐久性及び耐汚染性に優れた抗菌性撚糸を提供することができる。
【0025】
第8の発明は、経糸と緯糸とによって構成される抗菌性織物であって、上記緯糸は、第6又は第7の発明に係る抗菌性撚糸によって構成されていることを特徴とするものである。
【0026】
第8の発明では、長期に亘り、抗菌性能を発揮し得る抗菌性撚糸を、経糸に比べて使用によって摩耗し易い織物の緯糸として用いることとしている。このような抗菌性織物によれば、使用によって抗菌性撚糸の一部分が剥がれたり解れたりしても抗菌剤が存在しない部分が露出することがないため、部分的に抗菌性能が低下する虞がない。従って、第8の発明によれば、長期に亘り、抗菌性能を発揮し得る抗菌性織物を提供することができる。
【0027】
第9の発明は、畳床と、該畳床に縫着された畳表とを備える抗菌性畳であって、上記畳表は、第8の発明に係る抗菌性織物によって構成されていることを特徴とするものである。
【0028】
第9の発明では、長期に亘り、抗菌性能を発揮し得る上記抗菌性織物を、畳の畳表として用いることとしている。このような抗菌性畳によれば、使用によって抗菌性撚糸の一部分が剥がれたり解れたりしても抗菌剤が存在しない部分が露出することがないため、部分的に抗菌性能が低下する虞がない。従って、第9の発明によれば、長期に亘り、抗菌性能を発揮し得る抗菌性畳を提供することができる。
【発明の効果】
【0029】
以上説明したように、本発明によると、内部まで抗菌剤を含む抗菌性紙を抗菌性撚糸の製造に用いることとしたため、長期に亘り、抗菌性能を発揮し得る抗菌性撚糸の製造方法、そのような抗菌性撚糸、それを用いた抗菌性織物及び抗菌性畳を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、実施形態1の抗菌性撚糸の側面図である。
図2図2は、図1の抗菌性撚糸の横断面図である。
図3図3は、実施形態1の抗菌性撚糸の製造方法の各工程を示す図である。
図4図4は、図3の撚糸工程を詳細に示す図である。
図5図5は、実施形態1の抗菌性織物の拡大平面図である。
図6図6は、実施形態1の抗菌性織物の側面図である。
図7図7は、実施形態1の抗菌性畳の斜視図である。
図8図8は、図7におけるVIII-VIII線における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の実施形態は、本質的に好ましい例示に過ぎず、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0032】
《発明の実施形態1》
まず、本発明に係る抗菌性撚糸1の構成について図1,2を参照しながら説明する。
【0033】
[抗菌性撚糸]
本発明に係る抗菌性撚糸1は、例えば、壁紙や畳表等の織物製品の材料(経糸、緯糸)として用いられる。図1,2に示すように、抗菌性撚糸1は、筒状撚糸2と撥水撥油層3とを備えている。
【0034】
筒状撚糸2は、抄造紙からなる紙テープ4に撚りをかけて筒状にした筒状抄繊糸である。筒状撚糸2のサイズ及び巻数は、用途や加工によって異なり、特に限定されないが、直径0.7~5.0mm程度、巻き数3~15巻程度に設定するのが好ましい。また、筒状撚糸2には、全体に抗菌剤5が含まれた紙テープ4を用いている。そのため、筒状撚糸2は、表層部だけでなく内部深くまで抗菌剤5(図2においてドット模様で示す)を含んでいる。
【0035】
紙テープ4は、後述する撚糸工程に耐え得る適度な引張強度と適度な可撓性を有するものであれば、いかなる材料を用いてもよい。紙テープ4の材料としては、例えば、針葉樹や広葉樹等の木質繊維を主体とする機械パルプを秤量15~35g/m程度で抄造して得られる機械抄和紙を用いるのが好ましい。また、必要に応じて、コウゾ、ミツマタ、ガンピ、マニラアサ、アマ等を一部又は全部に用いてもよい。紙テープ4の厚みは、特に限定されないが、0.15~0.5mm程度が好ましい。また、紙テープ4の幅も特に限定されないが、撚糸処理を行う前(後述する撚糸工程S5を行うまでの間)に、15~40mm程度に形成されているのが好ましい。
【0036】
抗菌剤5には、金属イオンが抗菌性能を発揮する成分として含まれている。金属イオンは、紙テープ4に含ませることにより、紙テープ4及び紙テープ4に撚りをかけた筒状撚糸2に抗菌機能を付与するものである。抗菌剤5には、アルミニウム、銅、鉄、銀、亜鉛、チタン、白金、パラジウム、マンガン、及びニッケルのいずれか1種又は複数の金属イオンが含まれている。
【0037】
撥水撥油層3は、筒状撚糸2の外周面に樹脂組成物6をコーティングすることによって形成される。樹脂組成物6は、撥水撥油剤と、エマルジョン樹脂と、有機系シランカップリング剤とを含んでいる。
【0038】
撥水撥油剤は、撥水撥油層3に撥水・撥油機能を付与するものである。撥水撥油剤としては、フッ素系樹脂、具体的には、分子内にパーフルオロアルキル基を有するノニオン性のフッ素系界面活性剤を用いるのが、水性樹脂エマルジョンとの親和性が高く好ましい。ノニオン性のフッ素系界面活性剤以外ではカチオン(弱カチオン)のフッ素界面活性剤も使用可能である。
【0039】
エマルジョン樹脂は、筒状撚糸2の外周面に撥水撥油剤を固定化させるためのものである。エマルジョン樹脂としては、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、アクリルスチレン共重合樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂等が利用可能である。
【0040】
有機系シランカップリング剤は、撥水撥油層3の強度を増大させて筒状撚糸2の表面を強化するためのものである。有機系シランカップリング剤としては、エポキシシランのような分子内にグリシジル基を有する有機ケイ素化合物を用いることが耐汚染性向上の観点から好ましい。
【0041】
撥水撥油剤の添加量は、エマルジョン樹脂の固形分100質量部に対して0.6~30質量部が好ましい。撥水撥油剤の添加量が0.6質量部よりも少ない場合には、満足のいく撥水撥油効果を得ることができないという問題が生じる。逆に、撥水撥油剤の添加量が30質量部よりも多い場合には、エマルジョン樹脂の割合が相対的に低下するため、成膜性能が低下し、撥水撥油層3の耐汚染性が低下するという問題が生じる。
【0042】
有機系シランカップリング剤の添加量は、エマルジョン樹脂の固形分100質量部に対して0.5~50質量部が好ましい。有機系シランカップリング剤の添加量が0.5質量部よりも少ない場合には、筒状撚糸2の表面を十分に強化することができないため、抗菌性撚糸1の耐汚染性が低下するという問題が生じる。逆に、有機系シランカップリング剤の添加量が50質量部よりも多い場合には、エマルジョン樹脂の割合が相対的に低下するため、成膜性能が低下し、撥水撥油層3の耐汚染性が低下するという問題が生じる。
【0043】
次に、本発明に係る抗菌性撚糸1の製造方法について図3,4を参照しながら説明する。
【0044】
[抗菌性撚糸の製造方法]
抗菌性撚糸1の製造方法は、抄造工程S1と、裁断工程S2と、薬剤含浸工程S3と、第1乾燥工程S4と、撚糸工程S5と、樹脂塗布工程S6と、第2乾燥工程S7とを備えている。本実施形態1では、薬剤含浸工程S3~第2乾燥工程S7は、図3に示す製造装置10において実行され、抄造工程S1及び裁断工程S2は、製造装置10とは別の図示しない湿式抄紙機と裁断機とにおいて実行される。
【0045】
抄造工程S1は、紙テープ4の元となる長尺の抗菌性紙を湿式抄造により得る工程である。具体的には、抄造工程S1では、湿式抄紙機において、抄紙機抄造スラリーを坪量15~35g/m2程度に抄造して抗菌性紙(機械抄和紙)を得る。抄造スラリーとしては、針葉樹や広葉樹等の木質繊維を主体とする機械パルプを含むパルプスラリーに、抗菌剤5(第1の抗菌剤)、紙力増強剤、填料、染料、顔料、pH調整剤、歩留り向上剤、耐水化剤、消泡剤等を添加したものを用いる。また、必要に応じて、コウゾ、ミツマタ、ガンピ、マニラアサ、アマ等を一部又は全部に使用してもよい。抗菌剤5には、アルミニウム、銅、鉄、銀、亜鉛、チタン、白金、パラジウム、マンガン、及びニッケルのいずれか1種又は複数の金属イオンが含まれている。このように、本実施形態1では、抄造工程S1において、抗菌剤5が添加された抄造スラリーを抄造することにより、抗菌剤5が内添された抗菌性を有する紙(抗菌性紙)を得ることができる。
【0046】
湿式抄紙機において湿式抄造によって得られた抗菌性紙は、裁断機に送られる。裁断機では、裁断工程S2が行われる。裁断機は、引き出し部と裁断部と巻き取り部とを有している。裁断機では、湿式抄紙機において得られた抗菌性紙の長尺ロールから抗菌性紙を引き出し部において引き出し、裁断部において所定の幅(15~40mm)に切断した後、巻き取り部において巻き取ってロール状にすることにより、所定の幅の抗菌性紙からなる紙テープ4が巻き取られた原反ロール11が得られる。
【0047】
上述したように、薬剤含浸工程S3~第2乾燥工程S7は、図3に示す製造装置10において実行される。製造装置10は、本実施形態1では、所定の幅(15~40mm)に切断された紙テープ4が巻き取られた原反ロール11と、原反ロール11から引き出された紙テープ4を搬送する搬送路12とを備えている。搬送路12は、複数のガイドローラ13,…,13によって構成され、原反ロール11から引き出された紙テープ4を先に送り出すように構成されている。搬送路12には、原反ロール11側から創出先に向かって、薬剤含浸層14、第1乾燥機15、撚糸機16、樹脂塗布層17、第2乾燥機18がこの順に設けられている。薬剤含浸工程S3は薬剤含浸層14で行われ、第1乾燥工程S4は第1乾燥機15で行われ、撚糸工程S5は撚糸機16で行われ、樹脂塗布工程S6は樹脂塗布層17で行われ、第2乾燥工程S7は第2乾燥機18で行われる。以下、各工程について詳述する。
【0048】
薬剤含浸工程S3は、筒状撚糸2の材料となる紙テープ4に抗菌剤5(第2の抗菌剤)を含浸させる工程である。薬剤含浸工程S3は、薬剤含浸層14で行われる。薬剤含浸層14には、抗菌剤5の溶液(例えば、水溶液)が貯留されている。薬剤含浸工程S3では、原反ロール11から搬送路12に引き出された紙テープ4が、薬剤含浸層14に貯留された抗菌剤5の溶液中に浸漬される。これにより、紙テープ4に抗菌剤5が含浸される。なお、本実施形態1では、搬送路12が薬剤含浸層14の抗菌剤5の溶液中を通過するように形成されており、この薬剤含浸層14内における搬送路12の長さが、抗菌剤5の溶液中を通過する紙テープ4の内部深くにまで抗菌剤5が含浸されるのに十分な長さに設定されている。
【0049】
薬剤含浸層14を経た紙テープ4は、第1乾燥機15に送られる。第1乾燥機15では、第1乾燥工程S4が行われる。第1乾燥工程S4は、紙テープ4に含浸された抗菌剤5の溶液中の溶媒を蒸発させて抗菌性能を発揮する金属イオンを紙テープ4の内部に固定する工程である。第1乾燥機15としては、熱風乾燥機や遠赤外線乾燥機等を用いることができる。なお、本実施形態1では、搬送路12が第1乾燥機15内を通過するように形成されており、この第1乾燥機15内における搬送路12の長さが、紙テープ4に含まれた水分が蒸発するのに十分な長さに設定されている。
【0050】
第1乾燥機15を経た紙テープ4は、撚糸機16に送られる。撚糸機16では、撚糸工程S5が行われる。撚糸工程S5は、抗菌剤5が含浸された紙テープ4に撚りをかけて筒状にする(筒状撚糸2を形成する)工程である。図4に示すように、撚糸工程S5では、撚糸機16において、連続的に搬送される紙テープ4を、その搬送方向に沿う仮想軸線回りにおいて所定の方向に回転させることにより、紙テープ4に撚りをかけ、筒状撚糸2とする。
【0051】
撚糸機16で成形された筒状撚糸2は、樹脂塗布層17に送られる。樹脂塗布層17では、樹脂塗布工程S6が行われる。樹脂塗布工程S6は、筒状撚糸2の外周面を樹脂組成物6でコーティングする工程である。樹脂塗布層17には、樹脂組成物6の溶液が貯留されている。樹脂塗布工程S6では、撚糸機16から繰り出された筒状撚糸2が、樹脂塗布層17に貯留された樹脂組成物6の溶液中に浸漬される。これにより、筒状撚糸2の外周面が樹脂組成物6でコーティングされる。なお、本実施形態1では、搬送路12が樹脂塗布層17の樹脂組成物6の溶液中を通過するように形成されており、この樹脂塗布層17内における搬送路12の長さが、樹脂組成物6の溶液中を通過する筒状撚糸2の外周面が樹脂組成物6でコーティングされるのに十分な長さに設定されている。
【0052】
樹脂塗布層17を経た筒状撚糸2は、第2乾燥機18に送られる。第2乾燥機18では、第2乾燥工程S7が行われる。第2乾燥工程S7は、筒状撚糸2の外周面に塗布された樹脂組成物6の溶液中の溶媒を蒸発させて樹脂を乾燥・固化する工程である。第2乾燥機18としては、熱風乾燥機や遠赤外線乾燥機等を用いることができる。なお、本実施形態1では、搬送路12が第2乾燥機18内を通過するように形成されており、この第2乾燥機18内における搬送路12の長さが、樹脂組成物6が固化するのに十分な長さに設定されている。
【0053】
樹脂塗布工程S6において筒状撚糸2の外周面に塗布された樹脂組成物6が、第2乾燥工程S7において固化することにより、筒状撚糸2の外周面に撥水撥油層3が形成される。つまり、樹脂塗布工程S6及び第2乾燥工程S7は、筒状撚糸2の外周面を覆う撥水撥油層3を形成する被膜工程を構成する。
【0054】
以上の薬剤含浸工程S3~第2乾燥工程S7を行うことにより、内部深くまで抗菌剤5を含む筒状撚糸2とその外周面を覆う撥水撥油層3とを備えた抗菌性撚糸1が得られる。
【0055】
次に、本発明に係る抗菌性撚糸1を用いた抗菌性織物20について図5,6を参照しながら説明する。なお、本実施形態1では、畳表に用いられる抗菌性織物20について説明する。
【0056】
[抗菌性織物]
抗菌性織物20は、経糸21と緯糸22とで構成されている。本実施形態1では、経糸21の上下に配されて抗菌性織物20の表裏面に表れる緯糸22に、抗菌性撚糸1を用いている。抗菌性織物20は、市販の織機、例えば、電子ジャガード式織込端中村式畳表自動織機(有限会社中村機械製作所製、「NS-L」式)を用いて製織することができる。
【0057】
なお、抗菌性織物20を畳表に用いる場合、図6に示すように、抗菌性織物20の裏面に裏打ち材33を接着剤34で接着して用いてもよい。
【0058】
次に、本発明に係る抗菌性織物20を用いた抗菌性畳30について図7,8を参照しながら説明する。
【0059】
[抗菌性畳]
抗菌性畳30は、畳表31と、畳表31の裏面に配置された畳床32とを備えている。抗菌性畳30は、敷き込みタイプの畳であり、畳表31は、畳床32の表面及び側面に配置され、畳床32の裏面には配置されていない。
【0060】
畳表31は、図6,8に示すように、抗菌性織物20と、抗菌性織物20の裏面に接着剤34で接着された裏打ち材33とで構成されている。裏打ち材33としては、例えば、不織布、織布、フェルト、塩化ビニルシート、ゴムシート、ウレタン材、合成樹脂材、樹脂発泡シート、樹脂シート等のシート材のうちの1種を単独で用いる若しくは複数重ねて用いる、又は、複数種を重ねて用いることができる。
【0061】
畳床32は、例えば、矩形状のインシュレーションボード、合板、繊維板、樹脂板等の畳ボード32aで構成される。本実施形態1では、抗菌性畳30のクッション性を向上させるため、畳ボード32aの上に発泡ポリスチレンシートのようなクッション材32bが一体的に設けられている。畳床32は、クッション材32bを設けないものであってもよい。
【0062】
畳床32の表面及び側面に、接着剤(図示省略)で畳表31の裏面(裏打ち材33)を貼り付けることにより、抗菌性畳30が構成されている。
【0063】
-実施形態1の効果-
上記実施形態1の抗菌性撚糸の製造方法では、金属イオンを含有する抗菌剤5(第1の抗菌剤)が内添された抗菌性紙を抄造し、所定の幅に裁断してできた紙テープ4に撚りをかけて筒状にすることにより、抗菌性撚糸1を製造することとしている。このように抗菌剤5(第1の抗菌剤)が内添された抗菌性紙を用いて抗菌性撚糸1を形成することにより、表層部だけでなく全体に抗菌剤5(第1の抗菌剤)が含まれた抗菌性撚糸1を形成することができる。また、このような抗菌性撚糸1によれば、使用によって一部分が剥がれたり解れたりしても、抗菌剤5が存在しない部分が露出することがないため、抗菌性能が低下する虞がない。従って、本実施形態1の抗菌性撚糸の製造方法によれば、長期に亘り、抗菌性能を発揮し得る抗菌性撚糸1を提供することができる。
【0064】
また、本実施形態1の抗菌性撚糸の製造方法では、金属イオンを含有する抗菌剤5を用いることとしている。そのため、有機系の抗菌剤を用いる場合と比較して抗菌性能が外部環境によって左右され難くなる。抗菌剤5のような無機系の抗菌剤は、有機系の抗菌剤に見られる水や熱等による蒸発・分解を生じ難い。よって、本実施形態1の抗菌性撚糸の製造方法によれば、外部環境の変化や生産工程による抗菌性能が低下し難い抗菌性撚糸1を提供することができる。
【0065】
また、本実施形態1の抗菌性撚糸の製造方法では、抗菌性撚糸1の製造に際し、紙テープ4に撚りをかけて筒状にする撚糸工程S5の前に、筒状撚糸2の材料となる紙テープ4に金属イオンを含有する抗菌剤5(第2の抗菌剤)を含浸させる薬剤含浸工程S3を行うこととしている。このように、金属イオンを含有する抗菌剤5(第1の抗菌剤)が内添された紙テープ4にさらに金属イオンを含有する抗菌剤5(第2の抗菌剤)を含浸させた上で撚りをかけて筒状撚糸2を形成することにより、内部に多量に金属イオンを含有する抗菌剤5が含まれた抗菌性撚糸1を形成することができる。よって、本実施形態1の抗菌性撚糸の製造方法によれば、抗菌剤5を多量に含む抗菌性能に優れた抗菌性撚糸1を提供することができる。
【0066】
また、本実施形態1の抗菌性撚糸の製造方法では、紙テープ4に含浸させる抗菌剤として、金属イオンを含有する抗菌剤5(第2の抗菌剤)を用いることによっても、外部環境の変化や生産工程による抗菌性能が低下し難い抗菌性撚糸を提供することができる。
【0067】
また、本実施形態1の抗菌性撚糸の製造方法では、薬剤含浸工程S3において、薬剤含浸層14内の抗菌剤5(第2の抗菌剤)の溶液中に紙テープ4を浸漬することとしている。そのため、薬剤含浸工程S3では、抗菌剤5が紙テープ4の内部深くまで確実に含浸される。つまり、抗菌剤5を紙テープ4全体に行き渡らせることができる。ただし、抗菌剤5の特性、形状によっては、紙テープ4の表面への噴霧又は塗布による抗菌処理も可能である。
【0068】
また、本実施形態1の抗菌性撚糸の製造方法では、撚糸工程S5の後に、撚糸工程S5で形成された筒状撚糸の外周面を覆う撥水撥油層3を形成する被覆工程(樹脂塗布工程S6及び第2乾燥工程S7)を行うこととしている。このような製造方法によれば、外周面が撥水撥油層3で覆われた耐久性及び耐汚染性に優れた抗菌性撚糸1を提供することができる。
【0069】
また、本実施形態1の抗菌性撚糸の製造方法では、撥水撥油層3を、撥水撥油剤、エマルジョン樹脂及び有機系シランカップリング剤を含む樹脂組成物6によって形成するようにしている。本実施形態1の抗菌性撚糸の製造方法では、筒状撚糸2に金属イオンが含まれているため、被覆工程(樹脂塗布工程S6及び第2乾燥工程S7)において形成される筒状撚糸2の外周面を覆う撥水撥油層3に含まれる負に帯電しているエマルジョン樹脂の定着度が高まる。これにより、エマルジョン樹脂を含む樹脂組成物6からなる撥水撥油層3の筒状撚糸2に対する定着度が高まる。また、撥水撥油層3を形成する樹脂組成物6に有機系シランカップリング剤を含ませることにより、金属イオン(無機)とエマルジョン樹脂(有機)の架橋効率が向上し、このことによってもエマルジョン樹脂の定着度が高まり、撥水撥油層3の筒状撚糸2に対する定着度が高まる。従って、本実施形態1の抗菌性撚糸の製造方法によれば、耐久性及び耐汚染性に優れた抗菌性撚糸1を提供することができる。
【0070】
また、本実施形態1の抗菌性撚糸1は、表層部だけでなく内部深くにまで金属イオンを含有する抗菌剤5が含まれた筒状撚糸2と、該筒状撚糸2の外周面を覆う撥水撥油層3とを備えるように構成されている。このような抗菌性撚糸1によれば、使用によって一部分が剥がれたり解れたりし難くなり、また、剥がれたり解れたりしても抗菌剤5が存在しない部分が露出することがないため、抗菌性能が低下する虞がない。従って、本実施形態1によれば、長期に亘り、抗菌性能を発揮し得る抗菌性撚糸1を提供することができる。
【0071】
また、本実施形態1の抗菌性撚糸1では、筒状撚糸2に金属イオンを含有する抗菌剤5が含浸されているため、有機系の抗菌剤が含浸されている場合と比較して、抗菌性能が外部環境によって左右され難くなる。無機系の抗菌剤は、有機系の抗菌剤に見られる水や熱等による蒸発・分解を生じ難い。よって、本実施形態1によれば、外部環境の変化や生産工程による抗菌性能が低下し難い抗菌性撚糸1を提供することができる。
【0072】
また、本実施形態1の抗菌性撚糸1では、撥水撥油層3が、撥水撥油剤、エマルジョン樹脂及び有機系シランカップリング剤を含む樹脂組成物6で形成されている。本実施形態1の抗菌性撚糸1では、筒状撚糸2に金属イオンが含まれているため、筒状撚糸2の外周面を覆う撥水撥油層3に含まれる負に帯電しているエマルジョン樹脂の定着度が高まり、エマルジョン樹脂を含む樹脂組成物6からなる撥水撥油層3の筒状撚糸2に対する定着度が高まる。また、撥水撥油層3を形成する樹脂組成物6に有機系シランカップリング剤が含まれているため、筒状撚糸2に含浸された金属イオン(無機)と樹脂組成物6中のエマルジョン樹脂(有機)の架橋効率が向上し、このことによってもエマルジョン樹脂の定着度が高まり、撥水撥油層3の筒状撚糸2に対する定着度が高まる。従って、本実施形態1によれば、耐久性及び耐汚染性に優れた抗菌性撚糸1を提供することができる。
【0073】
また、本実施形態1では、長期に亘り、抗菌性能を発揮し得る抗菌性撚糸1を、抗菌性織物20の緯糸22として用いることとしている。図5及び図6に示すように、表側及び裏側において露出する緯糸22は、緯糸22によって覆われる経糸21に比べ、使用によって摩耗し易い。そのため、上記抗菌性織物20によれば、使用によって抗菌性撚糸1の一部分が剥がれたり解れたりしても抗菌剤5が存在しない部分が露出することがないため、部分的に抗菌性能が低下する虞がない。従って、本実施形態1によれば、長期に亘り、抗菌性能を発揮し得る抗菌性織物20を提供することができる。
【0074】
また、本実施形態1では、長期に亘り、抗菌性能を発揮し得る上記抗菌性織物20を、抗菌性畳30の畳表31として用いることとしている。このような抗菌性畳30によれば、使用によって抗菌性撚糸1の一部分が剥がれたり解れたりしても抗菌剤が存在しない部分が露出することがないため、部分的に抗菌性能が低下する虞がない。従って、本実施形態1によれば、長期に亘り、抗菌性能を発揮し得る抗菌性畳30を提供することができる。
【0075】
《その他の実施形態》
上記実施形態1では、薬剤含浸工程S3を行うことによって抗菌性撚糸1を製造していたが、本発明に係る抗菌性撚糸の製造方法は、薬剤含浸工程S3を備えないものであってもよい。
【0076】
上記実施形態1では、被覆工程(樹脂塗布工程S6及び第2乾燥工程S7)を行うことによって抗菌性撚糸1を製造していたが、本発明に係る抗菌性撚糸の製造方法は、被覆工程を備えないものであってもよい。つまり、抗菌性撚糸1は、筒状撚糸2のみによって構成されるものであってもよい。
【0077】
また、上記実施形態1では、裁断工程S2で所定の幅(15~40mm)に切断された紙テープ4に対し、抗菌剤5(第2の抗菌剤)の含浸処理(薬剤含浸工程S3)及び乾燥処理(第1乾燥工程S4)を行った後、撚糸処理(撚糸工程S5)を行うこととしていた。しかしながら、本発明に係る抗菌性撚糸の製造方法は、所定の幅(15~40mm)に裁断された紙テープ4に抗菌剤5の含浸処理等を行うものに限られない。抄造工程S1の後、裁断工程S2の前に、幅広(例えば、1000~1200mm)の抗菌性紙に対して抗菌剤5(第2の抗菌剤)の含浸処理等を行うものであってもよい。この場合、幅広の抗菌性紙に対し、抗菌剤5(第2の抗菌剤)の含浸処理(薬剤含浸工程S3)及び乾燥処理(第1乾燥工程S4)を行った後、撚糸処理(撚糸工程S5)を行う前に、所定の幅(15~40mm)に裁断すればよい。
【0078】
また、上記実施形態1では、薬剤含浸工程S3~第2乾燥工程S7を行い得る製造装置10を用いて抗菌性撚糸1を製造していたが、本発明に係る抗菌性撚糸の製造方法は、薬剤含浸工程S3~第2乾燥工程S7が搬送路12で繋がっていない2つ以上の装置によって実行されるものであってもよく、また、薬剤含浸工程S3~第2乾燥工程S7が、複数の場所で行われるものであってもよい。例えば、幅広の抗菌性紙に対し、抗菌剤5(第2の抗菌剤)の含浸処理(薬剤含浸工程S3)及び乾燥処理(第1乾燥工程S4)を行った後、幅広の抗菌性紙を別場所(異なる工場等)に輸送し、別場所で、抗菌性紙の裁断処理、撚糸処理(撚糸工程S5)及び被覆処理(樹脂塗布工程S6及び乾燥工程S5)を行うこととしてもよい。
【0079】
また、抄造工程S1においてパルプスラリーに添加する第1の抗菌剤と、薬剤含浸工程S3において抗菌性紙又は紙テープ4に含浸させる第2の抗菌剤は、同じものであってもよく、異なるものであってもよい。
【0080】
また、上記実施形態1では、抗菌性撚糸1を緯糸22として用いた抗菌性織物20について説明したが、経糸21も抗菌性撚糸1で構成されていてもよい。
【0081】
また、上記実施形態1では、抗菌性畳30の畳表31に抗菌性織物20を用いる例について説明したが、抗菌性織物20の用途はこれに限定されない。抗菌性織物20は、例えば、カーペットや茣蓙等の敷物や壁紙として用いることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、抗菌性撚糸の製造方法、抗菌性撚糸、抗菌性織物及び抗菌性畳に有用である。
【符号の説明】
【0083】
1 抗菌性撚糸
2 筒状撚糸
3 撥水撥油層
4 紙テープ
5 抗菌剤
6 樹脂組成物
14 薬剤含浸層
20 抗菌性織物
22 緯糸
30 抗菌性畳
31 畳表
32 畳床
S1 薬剤含浸工程
S2 第1乾燥工程
S3 撚糸工程
S4 樹脂塗布工程(被覆工程)
S5 第2乾燥工程(被覆工程)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8