(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-13
(45)【発行日】2023-09-22
(54)【発明の名称】ナノ粒子及び調製方法
(51)【国際特許分類】
B01J 35/02 20060101AFI20230914BHJP
B01J 23/89 20060101ALI20230914BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20230914BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20230914BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20230914BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20230914BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20230914BHJP
【FI】
B01J35/02 H
B01J23/89 M
B01J37/04 102
B01J37/08
H01M4/90 M
H01M4/86 M
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2021500257
(86)(22)【出願日】2019-07-19
(86)【国際出願番号】 GB2019052018
(87)【国際公開番号】W WO2020016591
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2022-06-30
(32)【優先日】2018-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】512269535
【氏名又は名称】ジョンソン マッセイ ハイドロジェン テクノロジーズ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Johnson Matthey Hydrogen Technologies Limited
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】ムレサン、ニコレタ
(72)【発明者】
【氏名】スパイクス、ジェフェリー
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-237644(JP,A)
【文献】特開2016-148078(JP,A)
【文献】特開2008-266755(JP,A)
【文献】特開2016-198736(JP,A)
【文献】FENG Yue et al.,Porous bimetallic PdNi catalyst with high electrocatalytic activity for ethanol electrooxidation,Journal of Colloid and Interface Science,2017年05月,Vol. 493,p.190-197,DOI: http://dx.doi.org/10.1016/j.jcis.2017.01.035
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
H01M 4/90
H01M 4/86
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属合金ナノ粒子を形成する方法であって、
a-1.少なくとも2種類の金属イオン含有化合物を提供することによって、少なくとも2種類の異なる種類の遷移金属イオンを提供する工程と、
a-2.前記金属イオン含有化合物を、溶媒に溶解する工程と、
a‐3.前記金属合金ナノ粒子が担体上に形成されるように、担体を提供する工程と、
b.前記少なくとも2種類の金属イオン含有化合物が少なくとも300℃の温度に供されて前記金属合金ナノ粒子を形成する、加熱工程と、
c.工程bの生成物を冷却することを含む、冷却工程と、任意選択で、
d.工程cの生成物が不動態化される、不動態化工程と、及び/又は
e.工程c又は工程dの生成物を酸浸出する工程と、
を含み、
各金属イオン含有化合物は、遷移金属イオンを配位した配位子を有する遷移金属錯体であり、前記配位子は、グリオキシム、グリオキシム誘導体、サリチルアルジミン、及びサリチルアルジミン誘導体からなる群から選択される、
方法。
【請求項2】
金属含有ナノ粒子又はその酸化物を形成する方法であって、
a-1.1つ以上の金属イオン含有化合物を提供することによって、1つ以上の遷移金属イオンを準備することと、
a-2.前記金属含有ナノ粒子又はその酸化物が担体上に形成されるように、担体を提供する工程と、
b.前記1つ以上の金属イオン含有化合物を溶媒中に溶解することと、
c.前記1つ以上の金属イオン含有化合物が、少なくとも300℃の温度に供されて、金属含有ナノ粒子又はその酸化物を形成する、加熱工程と、
d.工程cの生成物を冷却することを含む、冷却工程と、任意選択で、
e.工程dの生成物が不動態化される、不動態化工程と、及び/又は
f.工程d又は工程eの生成物を酸浸出する工程と、
を含み、前記1種類以上の金属イオン含有化合物は、遷移金属イオンを配位した配位子を有する遷移金属錯体であり、前記配位子は、グリオキシム、グリオキシム誘導体、サリチルアルジミン、及びサリチルアルジミン誘導体からなる群から選択される、
方法。
【請求項3】
少なくとも2種類の遷移金属イオンが、少なくとも2種類の金属イオン含有化合物によって提供される、請求項
2に記載の方法。
【請求項4】
前記配位子が、グリオキシム又はその誘導体であり、好ましくは、式(HO)N=C(R1)-C(R2)=N(OH)[式中、R1及びR2は、それぞれ独立して、H、ヒドロキシ、アルコキシ、カルボキシ、又は任意選択で置換されたアルキル、アリール若しくはヘテロアリール基である、又はR1及びR2は、一緒に結合して環状アルキルを形成する]を有する、請求項1~
3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記担体は炭素担体である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記金属イオン含有化合物が、Pt、Pd、Fe、Ni、Co、Ir、Ru、Rh、Cu、Ag及びAuからなる群から選択される1つ以上の遷移金属イオンを含む、請求項1~
5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記金属イオン含有化合物のうちの少なくとも1つが、Pt又はNiである遷移金属イオンを含む、請求項1~
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記加熱工程の温度が、600℃~1000℃である、請求項1~
7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記加熱工程が、不活性若しくは還元雰囲気中、又は真空中で行われる、請求項1~
8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記配位子が、サリチルアルジミン又はその誘導体であり、好ましくは、式(R3)N=CH-Ph-OH[式中、Phはフェニルを表し、OH基は(R3)N=CH基に対してオルトに位置し、R3は、H、ヒドロキシ、アルコキシ、カルボキシ、又は任意選択で置換されたアルキル、アリール若しくはヘテロアリール基を表す]を有する、請求項1~
3又は
5~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
金属合金ナノ粒子又はその酸化物を形成する方法における、金属グリオキシム、金属グリオキシム誘導体、金属サリチルアルジミン、及び金属サリチルアルジミン誘導体からなる群から選択される少なくとも2種類の金属イオン含有化合物の使用。
【請求項12】
金属含有ナノ粒子又はその酸化物を形成する方法における、金属グリオキシム、金属グリオキシム誘導体、金属サリチルアルジミン、又は金属サリチルアルジミン誘導体である金属イオン含有化合物の使用であって、前記方法が前記金属イオン含有化合物を溶媒中に溶解することを含む、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ナノ粒子の調製方法に関する。特に、限定するものではないが、本発明は、燃料電池、特にプロトン交換膜燃料電池における触媒材料としての使用に好適な、金属合金ナノ粒子などの金属ナノ粒子を調製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質によって分離された2つの電極を含む電気化学セルである。燃料、例えば水素又はアルコール(例えばメタノール又はエタノール)がアノードに供給される。酸化剤、例えば酸素又は空気がカソードに供給される。電気化学反応は電極で発生し、燃料及び酸化剤の化学エネルギーは、電気エネルギー及び熱に変換される。電極触媒は、アノードにおける燃料の電気化学的酸化、及びカソードにおける酸素の電気化学的還元を促進するために使用される。
【0003】
プロトン交換膜(PEM)燃料電池では、電解質は固体のポリマー膜である。膜は、電気絶縁性であるがプロトン伝導性である。アノードで生成されたプロトンは、膜を通ってカソードまで輸送される。カソードにおいて、プロトンは酸素と結合して水を形成する。
【0004】
PEM燃料電池の原理を構成する要素は、膜電極接合体(MEA)として知られており、本質的に5つの層から構成される。中心層は、イオン伝導性ポリマーの膜である。イオン伝導性膜の両側には、特定の電気化学反応用に設計された電極触媒を含有する電極触媒層が存在する。最後に、各電極触媒層に隣接して、ガス拡散層が存在する。ガス拡散層は、反応物質が電極触媒層に到達できるようにする必要があり、電気化学反応によって生成される電流を伝導する必要がある。したがって、ガス拡散層は多孔質であり、電気伝導性である必要がある。
【0005】
燃料酸化及び酸素還元のための電極触媒は、一般に、白金、又は1つ以上の他の金属と合金化された白金をベースとする。白金又は白金合金触媒は、担持されていないナノメートルサイズの粒子の形態(メタルブラック又は他の担持されていない金属粉末など)であってもよく、又は、更に表面積の大きい粒子として導電性カーボン基材上又はその他の導電性材料(担持触媒)上に析出させることができる。
【0006】
MEAは、いくつかの方法によって構築できる。ガス拡散層に電極触媒層を適用して、ガス拡散電極を形成してもよい。イオン伝導性膜の各側に2つのガス拡散電極を配置し、互いに積層して、5層MEAを形成できる。あるいは、イオン伝導性膜の両面に電極触媒層を適用して、触媒コーティングされたイオン伝導性膜を形成してもよい。つまり、片面上(on one side)の電極触媒層でコーティングされたイオン伝導性膜、その電極触媒層に隣接するガス拡散層、及びイオン伝導性膜の反対側のガス拡散電極から、MEAを形成することができる。
【0007】
典型的には、大部分の用途に十分な電力を提供するには、数十又は数百のMEAが必要とされるので、複数のMEAが組み立てられて燃料電池スタックが作製される。フローフィールドプレートを使用してMEAを分離する。プレートは、反応物質をMEAに供給すること、生成物を除去すること、電気的接続を提供すること、及び物理的担体を提供することなどのいくつかの機能を果たす。
【0008】
燃料電池で使用するための電極触媒は、多くの場合、金属又は金属酸化物の合金をベースとする。適切な反応を触媒させるべく利用可能な表面積を最大化するために、合金の小さな粒子を有することが望ましい。当該技術分野における問題の1つは、金属合金の形成には、異なる種類の金属原子を十分に混合するため900℃以上などの高温での加熱が必要とされることである。間隔が広くなければ、個々のナノ粒子は、多くの場合、そのような加熱工程中に凝集し得る。したがって、金属合金粒子は、金属の使用効率の低下につながるサイズまで成長する可能性がある。したがって、特に小さな合金粒子を提供することは、容易ではない。
【0009】
Ahn et al.(Int.J.Hydrogen Energy,2018)は、ドーパミンコーティングを介して触媒表面上に窒素ドープ炭素シートを形成することによる耐久性の向上した白金-及び白金-ニッケル合金触媒の調製を開示している。該著者は、保護シェルが、分解及び/又は熱処理プロセス中に、隣接する金属ナノ粒子の凝集を防止することを報告している。
【0010】
本発明の好ましい実施形態は、従来技術における上記の欠点のうちの1つ以上を克服することを目指す。特に、本発明の好ましい実施形態は、金属合金ナノ粒子を製造するための改良された方法、並びに特に燃料電池において触媒として使用するための改良された金属合金ナノ粒子を提供することを目的とする。
【発明の概要】
【0011】
本発明の第1の態様によれば、金属合金ナノ粒子を形成する方法が提供され、該方法は、
a.少なくとも2種類の金属イオン含有化合物を提供することによって、少なくとも2種類の異なる種類の遷移金属イオンを提供する工程と、
b.上記少なくとも2種類の金属イオン含有化合物が少なくとも300℃の温度に供されて金属合金ナノ粒子を形成する、加熱工程と、
c.工程bの生成物を冷却することを含む、冷却工程と、任意選択で、
d.工程cの生成物が不動態化される、不動態化工程と、及び/又は
e.工程c又は工程dの生成物を酸浸出する工程と、
を含み、
各金属イオン含有化合物は、遷移金属イオンを配位した配位子を有する遷移金属錯体であり、配位子は、グリオキシム、グリオキシム誘導体、サリチルアルジミン、及びサリチルアルジミン誘導体からなる群から選択される。
【0012】
本発明の第2の態様によれば、金属含有ナノ粒子又はその酸化物を形成する方法が提供され、該方法は、
a.1種類以上の金属イオン含有化合物を提供することによって、1種類以上の遷移金属イオンを提供する工程と、
b.1種類以上の金属イオン含有化合物を溶媒中に溶解する工程と、
c.1種類以上の金属イオン含有化合物が、少なくとも300℃の温度に供されて、金属含有ナノ粒子又はその酸化物を形成する、加熱工程と、
d.工程cの生成物を冷却することを含む、冷却工程と、任意選択で、
e.工程dの生成物が不動態化される、不動態化工程と、及び/又は
f.工程d又は工程eの生成物を酸浸出する工程と、
を含み、
1種類以上の金属イオン含有化合物は、遷移金属イオンを配位した配位子を有する遷移金属錯体であり、配位子は、グリオキシム、グリオキシム誘導体、サリチルアルジミン、及びサリチルアルジミン誘導体からなる群から選択される。
【0013】
好ましくは、第1及び第2の態様の各方法は、金属合金ナノ粒子、金属含有ナノ粒子、又はその酸化物が担体上に形成されるように、担体を提供することを含む。そのような担持ナノ粒子は、加工及び下流での応用の面で有利である。更に好ましくは、これらの態様の加熱工程は、不活性若しくは還元雰囲気又は真空下で行われる。このような工程は、ナノ粒子形成中にナノ粒子表面上にコーティングを形成させると考えられ、有利には、特に(例えば、混合を促進するために)必要とされる、より高温において、多金属含有ナノ粒子、特に合金ナノ粒子又はその酸化物の凝集の制限又は防止に寄与すると考えられる。
【0014】
本発明の第3の態様によれば、第1又は第2の態様の方法によって製造された金属合金ナノ粒子、金属含有ナノ粒子若しくはその酸化物、又は炭素、窒素、及び酸素を含むコーティングを有する金属含有ナノ粒子が提供される。
【0015】
本発明の更なる態様によれば、金属合金ナノ粒子若しくは金属含有ナノ粒子又はその酸化物を含む電極触媒と、金属合金ナノ粒子若しくは金属含有ナノ粒子又はその酸化物、又は上記電極触媒を含む電極と、金属合金ナノ粒子若しくは金属含有ナノ粒子又はその酸化物、電極触媒又は電極を含むMEAと、金属合金ナノ粒子若しくは金属含有ナノ粒子又はその酸化物、電極触媒、電極、又はMEAを含む燃料電池と、が提供される。
【0016】
本発明のなお更なる態様は、金属合金ナノ粒子又はその酸化物を形成する方法における、金属グリオキシム、金属グリオキシム誘導体、金属サリチルアルジミン、及び金属サリチルアルジミン誘導体からなる群から選択される少なくとも2種類の金属イオン含有化合物の使用、金属含有ナノ粒子又はその酸化物を形成する方法における、金属グリオキシム、金属グリオキシム誘導体、金属サリチルアルジミン、又は金属サリチルアルジミン誘導体である金属イオン含有化合物の使用であって、上記方法が金属イオン含有化合物を溶媒中に溶解することを含む、使用、並びに金属合金ナノ粒子若しくは金属含有ナノ粒子、又はその酸化物の電極触媒としての使用、に関する。
【0017】
本発明の一態様に関連して説明される特徴は、本発明の別の態様において等しく適用可能であり得ることが理解されるであろう。例えば、本発明の第1の態様に関連して説明される特徴は、本発明の第2、第3、及び/又は更なる態様に等しく適用可能であり、逆もまた同様である。いくつかの特徴は、本発明の特定の態様に適用できない場合があり、除外される場合があるが、これは文脈から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
ここで、添付の図を参照して、限定的な意味ではなく例として、本発明の実施形態を説明する。
【
図1】本発明の方法に従って調製された担持金属合金ナノ粒子の概略図である。
【
図2A】塩基加水分解化学及び900℃のアニーリング工程を用いて調製された金属合金ナノ粒子の透過電子顕微鏡(TEM)画像を示す。
【
図2B】900℃でアニールした、本発明の方法に従って調製された担持金属合金ナノ粒子を示す。
図2a及び2bの各々のスケールバーは、10nmを表す。
【
図3A】本発明の方法に従って調製された担持金属合金ナノ粒子のTEM画像を示す。スケールバーは、100nmを表す。
【
図3B】
図3aに使用された試料と同じ試料の金属合金ナノ粒子の粒径分布を示す。
【
図3C】
図3aに示された試料の一部のエネルギー分散型X線(EDX)分析を示す。薄灰色は、Niを表す。スケールバーは、25nmである。
【
図3D】
図3cに示した試料と同じ試料のEDX分析を示す。薄灰色はPtを表す。スケールベース(scale base)は、25nmである。
【
図3E】
図3aに使用した試料と同じ試料のX線回折(XRD)パターンである。観察された散乱は、示されたPt
0.5Ni
0.5の参照パターンにより、低結晶性Ni及びPt立方晶合金相と炭素担体との混合物に帰属できる。合金化されていないPt又はNiの証拠はない。
【
図4A】2種類の金属グリオキシムを組み合わせた場合に理論上得られる結果を示す概略図であり、異なる第1及び第2の金属中心はそれぞれM
1及びM
2で表されている。Rは、本明細書に記載されるように、H又は誘導基を表す。
【
図4B】3種類の金属グリオキシムを組み合わせた場合に理論上得られる結果を示す概略図であり、相互に異なる第1、第2、及び第3の金属中心がそれぞれM
1、M
2、及びM
3で表されている。Rは、本明細書に記載されるように、H又は誘導基を表す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、いくつかの利点を有し、その例としては、限定するものではないが、
様々な触媒及び関連する用途に有用なサイズの単一金属ナノ粒子、金属合金ナノ粒子、金属又はその酸化物の均質混合物(intimate mixture)を含むナノ粒子、特に電極触媒としての使用に好適な合金を調製するためのワンポット法が提供されること;
制御可能なサイズ及び組成の金属含有ナノ粒子を有し、担体全体にわたって比較的高い均一性及び分布を有し、ひいては改良された特性をもたらす材料が提供されること;
ナノ粒子、特に金属合金ナノ粒子の有意な成長が回避されること;並びに、
存在する場合、金属と担体との間の相互作用が増加する(本発明者らは、これにより、電極触媒としての使用に好適な、より安定した担持金属含有ナノ粒子、特に合金、がもたらされると考えている)こと、が挙げられる。
【0020】
本発明者らは、驚くべきことに、出発物質として特定の種類の金属イオン含有化合物を使用した金属含有又は合金ナノ粒子の形成は、生成物ナノ粒子の成長又は移動を抑制することを見出した。したがって、驚くべきことに、特に小さな金属合金ナノ粒子を達成することが可能であり、この金属合金ナノ粒子は従来技術の方法よりも改良された均質性を有することが見出されている。
【0021】
理論に束縛されるものではないが、本発明者らは、調製中に、窒素ドープ炭素の薄いコーティングが金属合金ナノ粒子の周囲に形成されると考えている。本発明者らは、このコーティングは、特に加熱工程中に、金属合金ナノ粒子の著しい凝集を最少化する、防止する、又は防止若しくは最少化に寄与する可能性があると考えている。
【0022】
更に、本発明者らは、驚くべきことに、本発明の方法を使用して、約900℃のアニーリング温度で、3nmの平均粒径を有し担持されている金属合金ナノ粒子を形成することが可能であることを見出した。本発明者の知る限りでは、このようなものが例えば20重量%を超える高担持量で報告されたのはこれが初めてである。
【0023】
全体的な水準(general level)で、本発明は、金属ナノ粒子、特に担持された金属ナノ粒子、及び特に担持された遷移金属ナノ粒子を提供する。本発明により提供できる広範な種類のナノ粒子が存在すると考えられ、本発明の適応性は、本開示が様々な種類の担体、並びに様々な種類の触媒及び関連材料に適用される可能性をもたらすと考えられる。
【0024】
例えば、本発明は、単一金属ナノ粒子若しくは多金属ナノ粒子、又は単一金属ナノ粒子及び多金属ナノ粒子のそれぞれの酸化物の合成経路を提供する。全般用語「金属ナノ粒子」又は「金属含有ナノ粒子」は、本明細書で使用され、これらの選択肢のそれぞれを包含する。用語「多金属ナノ粒子」は、金属の均質混合物(intimate mixture)を含むナノ粒子並びに金属合金ナノ粒子を包含し、金属種の数によって特に限定されない(ただし、概ね2が最も多い)。「その酸化物」に対する言及は、言及された金属の酸化物を意味し、列挙された各種類の単一又は多金属含有成分を指す。
【0025】
一般に、本出願は、担持された金属含有ナノ粒子及びそれらを含む下流生成物又は使用の提供を好む。
【0026】
定義及び説明
本明細書で使用するとき、x及びyが整数である式「Cx~y」は、標準的な意味をとる。すなわち、これは、鎖中にx~y個の炭素原子を有することを意味する。
【0027】
用語「正方形平面」は、当該技術分野において周知である。概ね、遷移金属イオン中心の周りにおける正方形のほぼ角に位置決めされた、配位する配位子原子を有する、配位化合物又は錯体を指す。当業者は、正確な平面性及び正確な正方形の形状からの多少のずれが、当該技術分野及び本明細書で使用される正方形平面の意味に包含されることを認識している。
【0028】
接頭辞「ナノ」は、ナノメートルの尺度で測定される寸法を説明するために、当該技術分野において一般的に使用されている。本明細書の文脈において、「ナノ」は0.5~100nmの寸法を意味する。これには、従来技術又は比較寸法に対する参照を含めることができ、具体的な定義、例えば本発明の製品に適用可能なサイズ範囲については、他の場所に記載されている。
【0029】
本明細書で使用するとき、用語「不動態化」は、当業者によって理解される意味、すなわち、金属表面を不活性(非反応性)にする処理を施すことを意味する。既知のように、これは通常、金属表面上に金属酸化物の膜又はコーティングを形成することによって生じる。
【0030】
本明細書における用語「酸浸出」は、当業者によって理解される意味、すなわち、酸で金属を処理して酸可溶性成分を抽出することを意味する。
【0031】
用語「ナノクラスター」は、本明細書の他の箇所に定義されるナノサイズを有する分子の凝集又は蓄積を説明するために使用される。この用語は、積層体又は鎖などの、分子のランダムに整列された、又は秩序化された配列を包含するが、必ずしもこれらに限定されない。形状の制限は意図されていない。
【0032】
本明細書にて、「1つの」(「a」又は「an」)に言及する場合、これは、単数形及び複数形を包含する。例えば、当業者には理解されるように、本方法は、便宜上「1つの」ナノ粒子の調製又は形成に言及するが、実際には複数のナノ粒子が生じることが理解される。
【0033】
方法
概ね、本発明の方法の第1の段階は、好適な数の特定のクラスの金属イオン含有化合物を提供することを伴い、これらの化合物の金属イオンが組み合わさり、金属含有ナノ粒子を形成する。金属は、典型的には遷移金属である。
【0034】
金属イオン含有化合物-全般
特に粒径が小さく分布が均一な金属含有ナノ粒子は、金属イオンが整列している積層体又は鎖を形成することができる金属イオン含有化合物から製造できると考えられる。これらの積層体又は鎖は、長さが様々なものであり得る。かかる金属イオン含有化合物は、概して、限定するものではないが、d
8配置を有する錯体である。好適な化合物は、概ね、正方形平面配置をとる。これは、非限定的な例としてグリオキシム誘導体を使用して、例えば
図4に概略的に表される。この図は、金属イオンMが互いに比較的接近し、鎖状の配列を形成するように、分子が自身で位置決めできることを理論的に示している。したがって、本発明で使用されるようにいくつかの種類の金属イオンが存在する場合、これらの種類の分子は、均質なブレンド(intimate blend)を形成できると考えられる。
【0035】
このような「鎖様」配列を形成することができる錯体については、文献に記載されており、例えば、Day(Chimica Acta Reviews,1969,81),Thomas and Underhill(Chem.Soc.Rev.1,99 1972);Kamata et al.(Mol.Cryst.Liq.Cryst.,1995,267,117)を参照されたい。
【0036】
これらの参考文献では、2つの主要な種類の化合物がそのような配列を形成できることを記載している。これらは、金属グリオキシム、金属サリチルアルジミン(salicyaldimines)、及びこれらのそれぞれの誘導体である。これらの種類の化合物は、本発明での使用に特に好適であると予想される。これらの種類の化合物のそれぞれは、二座配位子として機能し得る。グリオキシム系配位子は、2つのN原子によって中心金属原子に配位し、サリチルアルジミン系配位子は、1つのN原子及び1つのO原子を介して配位することができる。
【0037】
理論に束縛されるものではないが、本発明では、これらの種類の化合物が、近接して位置決めされた金属イオンと鎖様の配列を形成できることが重要であると考えられる。特に、2種類の金属イオンが存在する場合、これらの種類の化合物は、異なる種類の金属イオンが均質(intimately)に混合されるように積み重ねられ得ると考えられる。例えば、
図4を参照されたい。ここでは、M
1は第1の種類の金属原子を表し、M
2は第2の種類の金属原子を表し、M
3は第3の種類の金属原子を表す。[Rは、以下で更に説明するように、H又は代替的に誘導基を表す。]
図4aは、2種類の金属イオンが存在する、すなわち、二元合金(bimetallic alloy)又は2種類の金属の混合物が生じることが予想される状況を表している。
図4bは、3種類の相互に異なる種類の金属イオンが存在する、すなわち、三元合金(trimetallic alloy)又は3種類の金属の混合物が生じることが予想される状況を表している。当然ながら、
図4で表されるように、金属イオンの種類の一つおきの配列が、正確で均一なものではない場合であっても、合金又は混合物を生じさせる必要がある。したがって、
図4は代表的なものであり、本明細書を限定するものではなく、実際には、金属イオンの配列におけるある程度のランダム化は、予想外のことではない。更に、特定の場合において、分子のグリオキシム部分は、固相結晶中の隣接する分子と比較して、金属イオン鎖の軸の周りを回転できることが記載されている(例えば、上記で参照されたDay及びThomas)。
図4は、そのような回転を除外することを意図するものではない。
【0038】
次に、金属グリオキシム、金属サリチルアルジミン、及びこれらのそれぞれの誘導体のより詳細な説明が、以下に続く。
【0039】
金属グリオキシム及びその誘導体
金属グリオキシム系化合物は、金属原子と、金属原子を囲む適切な数のグリオキシム又はグリオキシム誘導体とを含む。本発明では、金属は遷移金属であり、遷移金属イオンを囲むグリオキシム又はグリオキシム誘導体が(通常は2つ)存在する。このような化合物は、概して、実質的に正方形の平面配列を形成する。
【0040】
本方法は、好ましくは、金属イオン含有化合物として金属グリオキシム又は金属グリオキシム誘導体を用い、最も好ましくは金属グリオキシム誘導体を用いる。
【0041】
グリオキシムは、式C
2H
4N
2O
2を有する。これは、以下の構造を有する(1つのコンフォメーションのみが示されている):
【化1】
【0042】
各グリオキシム分子の2個のN原子は、典型的には、得られる錯体中の中心金属イオンに配位する。
【0043】
本明細書で使用するとき、グリオキシム誘導体は、2つのC-H基の少なくとも1つの水素が、任意選択で置換されたR基に置換されているグリオキシムである。したがって、グリオキシム誘導体は、式(HO)N=C(R1)-C(R2)=N(OH)で説明することができる。
【0044】
本発明において、R1及びR2のそれぞれは、独立して、H、ヒドロキシ、アルコキシ、カルボキシ、又は任意選択で置換されたアルキル、アリール若しくはヘテロアリール基である。したがって、R1及びR2のそれぞれがHである場合、グリオキシムとなる。R1及びR2のうちの1つがHではない場合、グリオキシム誘導体となる。
【0045】
好ましくは、R1=R2、すなわち、好ましくは、グリオキシム又はその誘導体は対称的である。いくつかの好ましい実施形態では、R1及びR2は両方ともHではない。
【0046】
したがって、グリオキシム誘導体は、グリオキシム分子の炭素骨格に結合した水素のうちの少なくとも1つ、好ましくは両方の代わりに、-R’OH、-R’COOH、又は任意選択で置換されたアルキル、任意選択で置換されたアリール、若しくは任意選択で置換されたヘテロアリール置換基を有することができる。本明細書において、「任意選択で置換されたアルキル、アリール、又はヘテロアリール」という表現は、アルキルアリール又はヘテロアリール基のそれぞれが任意選択で置換され得ることを意味する。R’基は、本明細書に定義されるような単結合又はアルキル基を表す。
【0047】
好ましくは、グリオキシム誘導体は、任意選択で置換されたアルキル、アリール、又はヘテロアリール基を有する。
【0048】
R1及び/又はR2がアルキル基である場合、アルキルは直鎖、分枝鎖、又は環状であり得る。環状アルキルは、R1及び/又はR2が独立して環状アルキル基である状況、並びにR1及びR2が互いに結合して、環状アルキルを形成する状況を包含する。
【0049】
直鎖又は分枝鎖アルキルは、C1~10アルキル、好ましくはC1~7アルキル、より好ましくはC1~3アルキルであり得る。特定の好ましい実施形態では、R1及び/又はR2は、C1アルキル(すなわちメチル)である。
【0050】
環状アルキル(シクロアルキルとも呼ばれる)は、C3~10シクロアルキル、好ましくはC5~7シクロアルキル、より好ましくはC6シクロアルキルであり得る。
【0051】
最も好ましい実施形態では、R1=R2=C1アルキルである。
【0052】
R1及び/又はR2がアリールである場合、これは芳香族炭化水素を意味する。好適には、アリールは、C6~9芳香族基、例えば、フェニル基又はナフチル基を意味する。特に好ましいのは、フェニル(C6)系アリール基である。
【0053】
R1及び/又はR2がヘテロアリールである場合、これは、環原子の1つ以上、好ましくは1つが、窒素、酸素、又は硫黄基である、芳香族炭化水素を意味する。好ましくは、環原子のうちの1つは、窒素又は酸素であり、特に好ましくは酸素である。ヘテロアリール基は、通常、ヘテロ原子を含む5~7個の環原子を含有する。好適なヘテロアリール基の例としては、ピリジン、ピラジン、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、チオフェン及びフランが挙げられる。好ましい実施形態では、ヘテロアリール基はフランである。ヘテロ原子は、任意の配向で配置することができるが、アルファ位に配置することが好ましい。
【0054】
R1/R2基の任意選択の置換基は、独立して、典型的には-R’OH、-R’COOH、又は非置換の直鎖若しくは分枝鎖のC1~10アルキル、C5~7アリール、若しくはC5~7ヘテロアリールである。R’は、上記で定義されたとおりである。好ましくは、任意選択の置換基は、C1~10アルキルであり、最も好ましくはC1~5アルキルである。好ましくは、存在する場合、任意選択の置換基のうちの1つのみが存在する。
【0055】
上記による好適なグリオキシム誘導体の例は、イソプロピルニオキシム、4-t-アミルニオキシム、ニオキシム、4-メチルニオキシム、ジメチルグリオキシム、エチルメチルグリオキシム、フリル-α-ジオキシム、3-メチルニオキシム、ベンジル-α-ジオキシム、ヘプトキシムである。
【0056】
本明細書に記載される方法において特に好ましいのは、金属ジメチルグリオキシム(金属-DMG)である。ジメチルグリオキシムは、以下の構造を有する:
【化2】
【0057】
典型的には、上記によれば、正方形平面配置で各金属中心を取り囲む2つのDMG分子が存在する。例えば、Ptが中心イオンであり、グリオキシム誘導体がDMGである場合、白金ビス(ジメチルグリオキシム)は、金属グリオキシム誘導体の前駆体である:
【化3】
【0058】
異なる種類のグリオキシム又は誘導体を使用して、同じ金属を提供することができる。例えば、Pt源は、Pt-DMG2及びPt-ニオキシム2であってもよい。典型的には、1種類のグリオキシム又はその誘導体のみを使用して、単一の種類の金属が提供される。異なる種類のグリオキシム又はその誘導体は、同じ錯体、例えばPt-DMG-ニオキシム(nixoime)中に存在し得るが、これは典型的なものではない。
【0059】
2種類以上の金属イオン含有化合物が存在し、2種類以上の金属イオン含有化合物がグリオキシム又はその誘導体である実施形態では、グリオキシム又はその誘導体は、それぞれの異なる種類の金属中心に関して同じである必要はない。例えば、Pt含有化合物は、Pt-DMG2であり得るが、Ni含有化合物は、Ni-ニオキシム2であり得る。しかしながら、典型的には、1種類の金属グリオキシム又はその前駆体のみが、各種類の金属イオン、例えばPt-DMG2及びNi-DMG2に対して提供される。
【0060】
サリチルアルジミン及びその誘導体
サリチルアルジミン系化合物は、金属原子と、金属原子を囲む適切な数のサリチルアルジミン又はサリチルアルジミン誘導体とを含む。本発明において、金属は遷移金属であり、遷移金属イオンを囲む2つのサリチルアルジミン又はサリチルアルジミン誘導体が存在する。好適な化合物は、実質的に正方形の平面配列を有する。サリチルアルジミン含有錯体は、サリチルアルジミネート又はサリチルアルジミナト錯体として知られる場合があることに留意されたい。
【0061】
サリチルアルジミンは、式C
7H
5NOを有する。これは、以下の構造を有する(1つのコンフォメーションのみが示されている):
【化4】
【0062】
各サリチルアルジミン分子のN原子及びO原子のそれぞれは、得られる錯体中の中心金属イオンに配位する。N原子は、通常、金属中心に配位したときに正電荷のものとして示される。
【0063】
本明細書で使用するとき、金属サリチルアルジミン誘導体は、これらのN原子及びO原子を介して中心金属イオンを配位した2つのサリチルアルジミン誘導体を有する錯体を意味する。本明細書で使用するとき、サリチルアルジミン誘導体は、N-H基の水素が任意選択で置換されたR3基に置換されているサリチルアルジミンであり、すなわち、それらはN-メチル誘導体である。したがって、サリチルアルジミン誘導体は、式(R3)N=CH-Ph-OH[式中、Phはフェニルを表し、OH基は、(R3)N=CH基に対してオルト位に位置する]によって説明することができる。
【0064】
本発明において、R3は、H、ヒドロキシ、アルコキシ、カルボキシ、又は任意選択で置換されたアルキル、アリール、又はヘテロアリール基である。したがって、R3がHの場合、サリチルアルジミンとなる。R3がHでない場合、サリチルアルジミン誘導体となる。
【0065】
したがって、サリチルアルジミン誘導体は、N原子に結合したHの代わりに、-R’OH、-R’COOH、又は任意選択で置換されたアルキル、アリール若しくはヘテロアリール基を有することができる。R’基は、以下に定義されるような単結合又はアルキル基を表す。
【0066】
R3がアルキル基である場合、アルキルは、直鎖、分枝鎖、又は環状であり得る。
【0067】
直鎖又は分枝鎖アルキルは、C1~10アルキル、好ましくはC1~7アルキル、より好ましくはC1~3アルキルであり得る。特定の実施形態では、R3は、C1アルキル(すなわちメチル)である。
【0068】
環状アルキル(シクロアルキルとも呼ばれる)は、C3~10シクロアルキル、好ましくはC5~7シクロアルキル、より好ましくはC6シクロアルキルであり得る。
【0069】
R3がアリールの場合、これは芳香族炭化水素を意味する。好適には、アリールは、C6~9芳香族基、例えば、フェニル基又はナフチル基、好ましくはフェニル(C6)系アリール基を意味する。
【0070】
R3がヘテロアリールである場合、これは、環原子の1つ以上、好ましくは1つが、窒素、酸素、又は硫黄基である、芳香族炭化水素を意味する。好ましくは、環原子のうちの1つは、窒素又は酸素であり、特に好ましくは酸素である。ヘテロアリール基は、通常、ヘテロ原子を含む5~7個の環原子を含有する。好適なヘテロアリール基の例としては、ピリジン、ピラジン、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、チオフェン及びフランが挙げられる。好ましい実施形態では、ヘテロアリール基はフランである。ヘテロ原子は、任意の配向で配置することができるが、アルファ位に配置することが好ましい。
【0071】
R3基の任意選択の置換基は、典型的には-R’OH、-R’COOH、又は非置換の直鎖若しくは分枝鎖のC1~10アルキル、C5~7アリール、若しくはC5~7ヘテロアリールである。R’は、上記で定義されたとおりである。好ましくは、任意選択の置換基は、C1~10アルキルであり、最も好ましくはC1~5アルキルである。好ましくは、存在する場合、任意選択の置換基のうちの1つのみが存在する。
【0072】
最も好ましくは、サリチルアルジミン誘導体において、R3は非置換アルキル又はアリールであり、最も好ましくは非置換アルキルである。最も好ましい実施形態では、R3はC1アルキルである。
【0073】
上記による特に好適なサリチルアルジミン誘導体は、N-メチルサリチルアルジミンである。
【0074】
グリオキシム系金属イオン含有化合物と同様に、異なる種類のサリチルアルジミン又は誘導体を使用して、同じ金属を提供することができる。典型的には、1種類のサリチルアルジミン又はその誘導体のみを使用して、単一の種類の金属が提供される。
【0075】
グリオキシム系金属イオン含有化合物のように、2種類以上の金属イオン含有化合物が、サリチルアルジミン又はその誘導体である場合、サリチルアルジミン又はその誘導体は、それぞれの異なる種類の金属中心に対して同じである必要も、単一の錯体中で同じである必要もない。しかしながら、典型的には、1種類の金属サリチルアルジミン又はその前駆体のみが、各種類の金属イオンに対して、単一の錯体で提供される。
【0076】
また、少なくとも1種類の金属が金属サリチルアルジミン系化合物によって提供され、少なくとも1種類の金属が金属グリオキシム系化合物によって提供される実施形態も想定される。
【0077】
金属中心
好適な金属中心は、概して、本明細書で説明される錯体を形成することができるものであるという条件で、遷移金属元素である。「遷移金属元素」とは、周期表の第3族~第12族の元素を意味し、白金族金属(PGM)を含む。典型的には、金属イオン含有化合物は、Pt、Pd、Fe、Ni、Ir、Ru、Rh、Co、Cu、Ag及びAuからなる群から選択される1つ以上の金属を含む。好ましくは、金属中心は、Pt、Ni、Ir、Rh、Fe、Cu及びCo、特に好ましくはPt、Ni、Ir、Rh及びCuからなる群から選択されるものを含む。本出願に最も好ましいのは、Pt及びNiである。例えば、NiリッチPt立方晶合金相は、本発明の方法によって調製され得る。好適には、本明細書に記載の触媒用途では、少なくとも2種類の金属イオン提供錯体の金属中心のうちの1つはPtである。
【0078】
理論に束縛されるものではないが、本発明者らは、Ni、Fe、及びCoなどの特定の元素が、他の箇所に記載されるコーティング(被覆層)の形成を補助し得ると考えている。
【0079】
金属グリオキシム若しくはサリチルアルジミン又はこれらの誘導体の金属イオンは、本明細書に記載の金属含有ナノ粒子中の金属を構成する。したがって、二元合金が望まれる場合、2種類の金属イオンを有する金属イオン含有化合物を提供する必要があること、三元合金が望まれる場合、3種類の金属イオンを有する金属イオン含有化合物を提供する必要があることなどがある。単一金属ナノ粒子が望まれる場合、1種類の金属イオンを有する金属イオン含有化合物を提供する必要がある。
【0080】
金属イオン含有化合物の提供
金属イオン含有化合物は、直接購入することができる。あるいは、それらは、当業者に知られている方法を用いて前駆体から合成されてもよい。
【0081】
グリオキシム又はその誘導体の例として、前駆体からの合成は、概ね、ジメチルグリオキシム(DMG)などのグリオキシム系配位子を金属塩と組み合わせること、及び溶液、典型的には水溶液を形成することを伴う。金属グリオキシム又はその誘導体の沈殿物が結果として得られる。
【0082】
典型的には、約1:2の金属:配位子比が使用される。範囲は、1:10~1:2、例えば1:5~1:2であってもよい。金属の割合が高くなることは、コストがかかるため、あまり好ましくない。
【0083】
例として、白金ビス(ジメチルグリオキシム)を調製するための例示的なアプローチは以下のとおりである:
【化5】
【0084】
沈殿する金属グリオキシム又はその誘導体は、適切な方法、例えば濾過及び/又は洗浄及び/又は乾燥によって、精製することができる(すなわち、溶液の他の成分から分離することができる)。当業者は、好適な精製工程を認識しているであろう。
【0085】
いくつかの好ましい実施形態では、グリオキシム含有溶液は、沈殿物の形成前及び/又は形成中に撹拌及び/又は加熱され得る。いくつかの好ましい実施形態では、加熱は撹拌に続く。
【0086】
好適な撹拌及び/又は加熱時間は、グリオキシム含有溶液の量及び種類によって異なるが、例えば、最大4時間、最大3時間、最大1時間、又は最大30分であり得る。
【0087】
好適な加熱温度は、当業者には既知であり、例えば、最大80℃、最大60℃、又は最大40℃を挙げることができる。
【0088】
好適な金属塩は、当業者には既知であるが、非限定的な例としては、金属ハロゲン化物、金属硝酸塩、及び金属酢酸塩から選択される1つ以上のものを挙げることができる。
【0089】
いくつかの実施形態では、グリオキシム含有溶液は、撹拌及び/又は加熱される前に酸性化される。当業者は、好みに応じて弱くても強くてもよい好適な酸の中から選択することができる。典型的には、酸は有機物である。非限定的な例としては、ギ酸又は酢酸などのカルボン酸を挙げることができる。
【0090】
好ましい実施形態では、本発明の複合体は、析出沈殿法を使用することによって調製される。概して、好適な数の金属イオン含有化合物が、担体の存在下、通常は塩基性である溶液中に溶解される。これらは、好適な量の酸で担体上に沈殿する。理論に束縛されるものではないが、本明細書に記載の化合物の剛直な配位子骨格は、広範なpH値全体にわたって錯体が安定であること(例えば、低い反応活性度)に寄与すると考えられる。沈殿はほぼ定量的なものであることが判明している。すなわち、錯体として添加される金属の大部分が沈殿することが判明している。この方法は、担体(存在する場合)全体にわたるナノ粒子の良好な分布、良好な触媒活性及び安定性をもたらし、広範囲の担体で使用することができる。
【0091】
したがって、好ましくは、本明細書に記載の方法では、1種類以上の金属イオン含有化合物の粉末を溶媒に添加して、溶解した金属イオン含有化合物を含有する溶液を形成することができる。2種類以上の金属イオン含有化合物が使用される場合、それらは別個の溶液として(そして所望であれば異なる溶媒を使用して)提供することができ、別個の溶液が後に組み合わされるか、又はそれらが単一の溶液中に一緒に溶解できるようにする。好適な溶媒としては、水(及び水溶液)、極性有機溶媒が挙げられる。好適な極性有機溶媒の例としては、DMF及びDMSOが挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。好適な溶媒の混合物を使用してもよい。好ましくは、溶媒は水性である。水溶液の形成は、安全性及び製造の観点から有利な場合がある。
【0092】
いくつかの好ましい実施形態では、金属イオン含有化合物(特に金属グリオキシム又はその誘導体)は、塩基を添加することによって水溶液を形成するように溶解されてもよい。好適には、金属イオン含有化合物を含有する溶液は、アルカリ性である。pHは、好ましくは8超、例えば9である。好適な塩基は、当業者には知られているが、例えば、アンモニウムヒドロキシド及びテトラエチルアンモニウムヒドロキシドなどのアンモニウム誘導体、又はナトリウムヒドロキシド及びカリウムヒドロキシドが挙げられる。
【0093】
全般的に、上記のように調製された金属イオン含有化合物の溶液は、所望であれば別の適合性のある液体と組み合わせることができる。これは、好ましくは担体を含む。したがって、担体はかかる液体による懸濁液又は分散液であることが好適となり得る。したがって、この更なる液体は、好ましくは極性であり、最も好ましくは水性である。
【0094】
典型的には、適切な量の金属イオン含有化合物の液体への添加は、滴下により行われるが、特定の例では、単一の添加として、又は複数の添加として行われてもよい。金属イオン含有化合物の組み合わせは、こうして、好適な時間にわたって実施することができる。典型的には、金属イオン含有化合物を添加するのに好適な時間は、当業者によって決定されるが、好都合には、最大1時間、例えば45分又は30分である。
【0095】
金属イオン含有化合物-及び、好ましくは担体-は、加熱工程の前に、液体と好適に混合される。好適な方法は当業者には既知であるが、例えば、適切な量の各所望の金属イオン含有化合物を任意選択の担体と一緒に組み合わせて、金属イオン含有化合物の混合物、好ましくは金属グリオキシム又はその誘導体の混合物を形成することが可能である。
【0096】
金属イオン含有化合物を液体に添加した後、典型的には撹拌を行い、成分を完全に溶解して組み合わせ、及び/又は分散液を均質化する。撹拌は、4時間又は8時間以上など、1時間を超えて行われる場合がある。好都合には、混合物を一晩、例えば約12時間撹拌することができる。理論に束縛されるものではないが、この工程により、金属イオンの均質(intimately)な混合及び接近を可能にすると考えられる。
【0097】
好ましくは、かつ典型的には、本発明において、担体は、溶解した1種類以上の金属イオン含有化合物と組み合わされる。担体を混合物に組み込む様々な代替経路が想定され、例えば、混合物を調製し、次いで担体を添加する(通常は、その後担体と混合物とを組み合わせるために更に撹拌する)、又は混合物を担体に添加する(同じく通常は、その後更に撹拌する)。好ましい選択肢は、担体を液体に供給し、その後金属イオン含有化合物を添加することである。撹拌は、担体全体にわたる金属含有ナノクラスター/ナノ粒子の良好な分布も補佐し得る。
【0098】
担体と1つ以上の金属イオン含有化合物との組み合わせは、撹拌しながら実施することができる。金属イオン含有化合物と担体との両方が組み合わされると、混合物は、典型的には、十分に撹拌され、上記のように組み合わされる。本明細書に記載の調製方法において担体を使用することが好ましい。理由としては、このようにすることで、取り扱い及び処理の容易さなど、本出願の改良された特性を有し、更に良好な分布という上記の望ましい特徴を有する担持ナノ粒子をもたらされるためである。触媒層が望まれる場合、担体の存在は、層構造を改良する。
【0099】
好適には、担体は、液体による分散液又は懸濁液として提供されてもよい。好適には、担体含有分散液又は懸濁液の液体は、水系、すなわち水性である。これはまた、金属イオン含有化合物の溶解を助ける。
【0100】
電極触媒用途に好適な担体としては、好ましくは炭素系担体を含む、導電性担体が挙げられる。好適な炭素系担体の例としては、カーボンブラック、特に導電性カーボンブラック、黒鉛粉末、及びナノチューブ又はグラフェン小板などのグラフェン系材料が挙げられる。好適には、担体は、溶液、分散液、又は懸濁液として提供され得る。好適には、溶液、分散液、又は懸濁液は、水系すなわち水性である。これはまた、金属グリオキシム又はその誘導体の溶解を助ける。
【0101】
他のあまり好ましくない実施形態は、酸化物などの非炭素系担体を企図している。燃料電池又は他の電極触媒の場合、上述のように導電性担体が必要である。したがって、これらの用途で使用することができる酸化物の例としては、ドープされたニオブ-、スズ-、及びチタン-含有酸化物が挙げられる。
【0102】
十分に撹拌して組み合わせた後、混合物は、好ましくは、任意の好適な酸を使用して中和(すなわち、pH7に)することができる。好適な酸としては、有機酸及び無機酸、並びにこれらの混合物が挙げられる。硝酸、硫酸、及び酢酸を挙げることができるが、これらは限定的なものではない。中和の後に、任意選択で更に撹拌する。ここでも、好都合には、撹拌は、一晩、例えば約12時間行うことができる。
【0103】
得られた混合物は、典型的には、高温で乾燥させる(例えば、約80℃~約110℃で、水などのバルク溶媒を除去するが、最終生成物中に存在することを意図した成分のいずれも消散させない)。乾燥は、好適にはゆっくりと行われ、好都合には一晩、例えば約12時間行われる。好適には、乾燥は空気中で行われる。
【0104】
結果として、乾燥した前駆体混合物がもたらされる。
【0105】
加熱工程
加熱工程は、1つ以上の組み合わされた金属イオン含有化合物を含有する乾燥した前駆体混合物、及び好ましくは担体を加熱することを含む。この工程は、本明細書の他の箇所に記載される複合体から触媒材料を提供するアニーリング工程に対応する。
【0106】
好適には、加熱は炉内で行うことができる。好ましくは、加熱は、不活性若しくは還元雰囲気中、又は真空中で行われてもよい。当業者は、好適な雰囲気から選択することができ、例えば、水素、アルゴン、及び窒素のうちの1つ以上を含んでもよい。
【0107】
したがって、加熱は、最大1200℃、最大1000℃、又は最大900℃の温度で好適に実施される。いくつかの実施形態では、加熱は、300℃の最低温度、好ましくは少なくとも450℃又は500℃で実施される。最低600℃又は800℃などの高温が、不活性若しくは還元雰囲気中、又は真空中での好ましい合金の調製に特に好ましい。好ましくは、加熱温度は、700℃~1000℃、好適には800℃~900℃の範囲である。有用な温度範囲は使用される金属の性質に関連し得ることから、当業者は、特に合金について、好適な加熱温度を決定することができる。
【0108】
特に、Pt含有ナノ粒子、例えばNiリッチPt立方晶合金相を形成するためには、加熱温度は、好適には少なくとも600℃である。
【0109】
好適には、温度をゆっくりと上昇させることによって加熱温度に到達する。例えば、加熱速度は、最大10℃/分、最大5℃/分、好ましくは最大2℃/分、例えば約1.5℃/分であり得る。このようにして、温度を室温から数時間かけてゆっくりと上昇させる。加熱工程の持続時間は特に限定されない。
【0110】
例えば、加熱工程の持続時間(本明細書において最終温度とも呼ばれる、所望の加熱温度に達するまでの時間を含む)は、約0.5~15時間、好ましくは約5~12時間であり得る。例えば、加熱工程は、最大15時間、最大14時間、又は最大13時間実施され得る。加熱工程は、好ましくは、少なくとも約5時間、例えば6時間又は7時間実施される。
【0111】
他の実施形態では、いわゆる「フラッシュ」加熱は、所望の温度を達成するのに、すなわち、ほんの数分間などの短時間で行われる急速加熱に、使用できる。例えば、加熱工程は、最大1分、例えば最大0.8分、又は最大0.5分間実施され得る。
【0112】
最終温度に達すると、最終温度は、好適には、少なくとも約5分間、例えば20分間、及び任意選択でそれより長く維持される。最終温度を維持できる時間に特に制限はないが、好都合には約24時間未満又は約12時間未満が好適である。典型的には、最終温度は、約0.5~8時間、例えば、約0.5~3時間維持される。
【0113】
更なる工程
加熱工程の後、製品は、典型的には、例えば室温まで冷却される。好適には、冷却は、加熱が行われる炉内で行われる。
【0114】
任意選択で、加熱工程後に不動態化を実行してもよい。不動態化は、典型的には、室温で生じる。したがって、不動態化は、典型的には、冷却後に生じる。典型的には、不動態化は、窒素で希釈された空気などの不活性ガス及び酸素の混合下で生じる。好都合には、加熱が行われたのと同じ炉内で不動態化を行うことができる。不動態化は、ナノ粒子の更なる反応を有利に防ぐことができる。
【0115】
任意選択で、得られた金属含有ナノ粒子を、酸浸出工程に供してもよい。酸浸出は、PEM燃料電池で使用される触媒材料の調製において一般的に使用される。したがって、好適な酸及び所要時間は、当業者には既知である。単に例として、限定するものではないが、浸出工程は、数時間、例えば最大36時間又は最大24時間にわたって行われてもよく、使用される酸は、塩酸、硫酸、又は硝酸などの任意の通常の酸であり得る。酸浸出は、有利には、ナノ粒子の表面から塩基金属などの酸可溶性の化学種(acid-soluble species)を除去することによって、ナノ粒子を燃料電池における使用に適したものとすることができる。
【0116】
本明細書の他の箇所に記載されるように、本発明者らは、特定の実施形態では、主にN及びC及びOを含むコーティング又は被覆層が、製造中に金属合金ナノ粒子の表面上に実質的に形成されると考える。特定の用途では、金属合金ナノ粒子表面からこの被覆層を除去することが望ましい場合がある。したがって、任意選択で、金属合金ナノ粒子を更に処理して、このような被覆層を除去してもよい。このような被覆層の除去は、任意の好適な方法、例えば、酸化剤の使用によって達成することができる。
【0117】
製品
本発明による金属含有ナノ粒子は、単一の金属、複数の金属、又はこれらのそれぞれの酸化物を含むナノ粒子である。金属は、遷移金属である。
【0118】
金属が2つ以上の金属を含む場合、金属ナノ粒子は、少なくとも2つの金属、特に少なくとも2つの遷移金属を含む。すなわち、このようなナノ粒子は、周期表の3~12族の元素である遷移金属を少なくとも2つ含む。異なる金属元素は、本明細書では、異なる種類の金属と呼ばれることがある。好ましい遷移金属は、本明細書の他の箇所に記載されている。
【0119】
少なくとも2つの遷移金属は、好ましくは一緒に合金化される。好ましくは、合金ナノ粒子は、二元合金ナノ粒子であるが、代替的に、3つ以上の金属原子による合金ナノ粒子であってもよい。あるいは、少なくとも2つの遷移金属は、冶金学的な意味で一緒に合金化されなくてもよく、代わりに金属の混合物であってもよい実施形態が包含される。
【0120】
金属含有ナノ粒子が2つ以上の金属を含む場合、各金属の好適な割合は、要件及び用途に応じて当業者によって選択され得る。したがって、ナノ粒子中の各金属の量は、ここで特に限定されない。例として、金属:金属モル比は、約20:1~1:20、好ましくは10:1~1:10、最も好ましくは1:1を含む5:1~1:5であり得る。特に、Pt及びNiが使用される好ましい実施形態では、1:1を含む3:1~1:3の範囲のモル比が好ましいが、この範囲はこれらの金属に限定されることを意図するものではない。[当業者には理解されるように、このような比の範囲は、異なる書き方ができ、例えば、3:1~1:3は75:25~25:75である。対応する重量範囲は、使用される金属の質量を考慮して計算することができる。]
【0121】
好ましい実施形態は、本発明の方法によって調製される合金を包含する。これらは、金属合金ナノ粒子、特に遷移金属の合金を含むナノ粒子である。すなわち、金属ナノ粒子は、互いに合金化された少なくとも2種類の金属、特に遷移金属を含む。本明細書で使用するとき、合金という用語は、当業者によって理解される通常の意味を有し、金属-金属結合を有する材料を包含する。好ましくは、ナノ粒子は、二元合金ナノ粒子であるが、代替的に、3種類以上の金属原子による合金ナノ粒子であってもよい。
【0122】
本方法に従って調製された代替的な金属含有ナノ粒子は、単一の金属、又は金属の混合物、又はこれらの各々の酸化物を含む。
【0123】
本発明に従って調製されたナノ粒子は、典型的には、1つ以上の金属の微細粒子である。これは、典型的には、50nm未満、最も典型的には20nm未満のサイズを有する。好ましくは、本発明の方法によって製造されたナノ粒子は、約15nm以下のサイズを有する。ナノ粒子のサイズの下限は、特に限定されないが、0.1nm、好適には0.5nm、典型的には少なくとも1nmの小ささであってもよい。本明細書で製造される合金ナノ粒子のサイズの範囲は、典型的には1~10nmである。特に好ましいのは、最大10nm、最大9nm、又は最大8nmの平均粒径である。特に企図されるのは、2~7nm、例えば、3nm又は4nmなどの平均サイズである。
【0124】
粒子のサイズは、粒子の幅を指し、これは、球状又は回転楕円体の粒子の直径である。粒径を測定する方法は、当業者に既知であり、例えばTEM画像の分析を含み得る。
【0125】
製造されたナノ粒子は、典型的には、ほぼ球状、すなわち回転楕円体(例えば、切頂八面体)の形状であるが、本発明は形状によって限定されない。金属含有ナノ粒子は、楕円形、針状、及び球状(立方八面体を含む、回転楕円体など)を含むがこれらに限定されない、任意の都合のよい形状であり得る。形状は、結晶平衡形によって画定され得る。
【0126】
理論に束縛されるものではないが、本発明者らは、不活性雰囲気又は還元雰囲気下における金属合金ナノ粒子の調製方法は、薄い膜又はコーティング(本明細書では「被覆層」又は「シェル」とも呼ばれる)を有する金属合金ナノ粒子をもたらし、これは、好適には本発明の方法から得られる製品上で実質的に連続的に延びると考える。
図1の概略図を参照し、以下で更に説明する。炭素担体が存在すると、コーティングの直接観測が複雑になると考えられているが、X線光電子分光法(XPS)データは、その存在を間接的に推測するために使用されている。特に、XPSデータは、コーティングが窒素、酸素、及び炭素を含むことを示す。金属ナノ粒子の製造中に、特に、不活性若しくは還元アニーリング雰囲気中又は真空中で形成されるこのコーティングは、ナノ粒子の凝集又は焼結の防止に役立つと考えられる。凝集及び焼結は、通常、金属合金の形成に必要な加熱プロセス中に特に問題となることが見出されている。
【0127】
この結果は予想外のものである。米国特許出願公開第2010/152041(A1)号では、2つのジメチルグリオキシム分子と1つの遷移金属とのキレート錯体を含む粉末を、任意選択でアルミナの存在下で、300~400℃にて加熱して、Niのナノ粒子を形成することを含む、単一金属ナノ粒子の調製方法を開示している。本出願に記載される調製方法は、Ni-DMG粉末の空気中直接加熱、又はアルミナウィスカーを用いたNi-DMG粉末の粉砕、及びその後の加熱を伴う。この文書では、アルミナの非存在下ではNiナノ粒子が炭素粒子上に形成され、これに対して、アルミナの存在下ではNiナノ粒子がアルミナ上に担持されることを報告している。また、400℃を超える温度では、実質的な焼結及び/又は凝集が観察される、すなわち、実質的により大きな粒子が生じることも記載されている。本出願に記載の方法に従ってナノ粒子上にコーティングが形成されることを示唆する文書はない。したがって、本発明は、少なくとも、焼結及び/又は凝集を最小限に抑えてより高い温度を使用することができるので、以前から知られている方法よりも適応性が高い。コーティングが形成され得ることについて示唆は存在しない。本明細書に記載されているような金属ナノ粒子の溶液ベースでの調製もまた、優れた結果をもたらすことができるとは予測できなかった。
【0128】
図1は、不活性雰囲気下で本方法に従って調製された合金製品の概略図である。
図1では、図面の下側に担体が黒色で示されている。これは、本明細書で好ましい炭素担体などの任意の好適な担体であり得る。
図1では、担体は、平坦な下面及び不規則な上面を有するものとして示されているが、これは本発明を限定するものではない。
【0129】
灰色の六角形は、金属合金ナノ粒子を表す。形状は限定的なものではない。加えて、この六角形は、サイズが同一なものとして
図1に示されているが、これは当然ながら、本方法に従って調製された全ての製品を必ずしも代表するわけではない。すなわち、ナノ粒子は互いに異なるサイズであってもよい。
図1の金属合金ナノ粒子は、合金化された性質を表すために円状に分割されている。当然、ナノ粒子は様々な形状及びサイズをとることができるため、六角形の形状と同様に、この形状は、合金化されたナノ粒子内における金属の個々のドメインを代表することを意図するものではない。それぞれの球形は、任意の好適な数の金属を表すことができ、例えば、Pt及び/又はNi、又は本明細書に記載の任意の他の組み合わせであってもよい。
【0130】
担体及び金属合金ナノ粒子の上に灰色層が示されている。これは、本発明者らが、本発明による方法の間に製品上に形成すると考える被覆層又はコーティングを表す。これは、C、N及びOを含むと考えられる。
図1は、担持金属合金ナノ粒子の表面上の様々な厚さを有するコーティングを示す。他の実施形態では、コーティングは均一な厚さを有してもよい。加えて、
図1は、コーティングが表面上に連続的に形成されていることを示す。他の実施形態では、コーティングに破断又は間隙が存在してもよい。通常、コーティングは、表面上に実質的に連続的に形成されることが予想される。
【0131】
金属合金ナノ粒子は、冷却工程の終了時、又は適切な場合は任意選択の不動態化及び/又は浸出工程後の、製造された形態で使用され得る。あるいは、金属合金ナノ粒子は、使用前に更に処理されてもよい。例示的な更なる工程は、本明細書の他の箇所で説明されている。
【0132】
金属含有ナノ粒子、特に金属合金ナノ粒子は、触媒材料として、特に電極触媒として、使用され得る。好適には、金属ナノ粒子は、アノード又はカソードのいずれかの電極に使用され得る。金属ナノ粒子は、好適には、当該技術分野において既知の方法に従ってインクに形成され得る。好適には、金属ナノ粒子、又は金属ナノ粒子を含む電極を使用して、MEAの一部を形成できる。好適には、金属ナノ粒子、電極、又はMEAは、燃料電池において使用されてもよい。好ましい実施形態では、燃料電池は、プロトン交換膜(PEM)燃料電池である。
【0133】
金属ナノ粒子、特に金属合金ナノ粒子、又は電極触媒が使用される電極、及びそれらが適用される反応は、ナノ粒子を形成する金属の種類に依存することとなる。したがって、好適なナノ粒子は、燃料電池のアノード又はカソードのいずれかで使用するために調製できることが想定される。
【0134】
不活性雰囲気又は還元雰囲気を使用すると、本明細書に記載の様々な金属含有ナノ粒子の酸化物が生成される可能性が低くなることが理解されるであろう。金属合金の調製には不活性又は還元雰囲気が好ましいため、凝集を阻害又は防止する本明細書に記載されるコーティングを形成するべく、本出願は、実質的に酸化されていない生成物の優先度が高い。それでもなお、いくらかの酸化、例えば、部分酸化が、例えばナノ粒子表面で生じ得る。本明細書で使用するとき、酸化物は、混合酸化物、並びに酸化物の混合物を包含することができる。当業者は、特定の金属、例えばPt及びAuは、酸化するのが概して困難であり、そのような場合、当業者に知られている他の酸化方法が、所望に応じてそのような金属酸化物を得るために必要であり得ることを認識している。
【0135】
担体が使用される本発明の方法の間に、概ね、担体材料と、他の箇所で定義されているような金属イオン含有分子である分子のナノクラスターとを含む、複合材料が形成される。実際には、担体は、複数のナノクラスターを含む。ナノクラスターは、概ね、担体の1つ以上の表面全体にわたって分散又は分布している。すなわち、これらは、個々のナノクラスターを区別することができるように、間隔を置いて配置されている(すなわち、ナノクラスターを含まない領域でこれらを分離して配置されている)。ナノクラスターは、担体全体にわたって良好な分布を示すことが判明した。すなわち、これらは、一緒に固まったり、凝集したりしない。この結果は、当業者にとって予想外である。
【0136】
使用される担体の種類に応じて、ナノクラスターの位置及び/又は分布を制御できる場合がある。
【0137】
理論に束縛されるものではないが、ナノクラスターは、金属イオンの整列した鎖を有する、金属イオン含有化合物の積層体を構成すると考えられる。このように積層体を形成できることより、密接な金属-金属相互作用、金属イオンの均質な(intimately)混合(積み重ね)、及び調製プロセス中の急速な沈殿がもたらされると考えられる。したがって、拡散距離は小さく、ひいては、金属含有ナノ粒子、特に金属合金含有ナノ粒子を形成するために、金属イオンが加熱時にほとんど移動しなくてもよい。
【0138】
複合体は、本発明の方法中に形成された中間体であり、担体上の金属イオン含有化合物の析出及び沈殿後に、ただし、金属イオン含有化合物の金属イオンから配位子を分離、部分的に分離、分解、又は実質的に分解するように機能する加熱工程の前に、形成される中間体である。中間体であるが、複合体を単離し、評価することができる。複合体は、金属含有ナノ粒子を提供するためにアニール/加熱/焼成され得る。[加熱工程は、本明細書ではアニーリング又は焼成と呼ばれることもある。]すなわち、金属イオン含有化合物(錯体)の配位子は、部分的に、実質的に、又は完全に金属イオンから除去又は分離され、金属イオン自体が金属-金属結合を形成する。場合によっては、配位子の完全な除去が企図される。得られた材料は、「活性」材料と呼ばれることもあり、電極触媒として有用性が見出される可能性がある。ナノクラスターを含有する複合体は、例えば、電極触媒としても活性である可能性があり、この可能性を除外することを意図するものではない。
【0139】
したがって、概ね、触媒材料は、金属イオン含有化合物のナノクラスターを金属含有ナノ粒子に変換することによって調製される。これは、典型的には、上述のようにアニーリングによって達成される。アニーリングプロセスは、金属イオン含有化合物を分解し、それによって金属イオン含有化合物の配位子を除去するか、又は実質的に除去すると考えられる。これにより次に、金属イオンが結合し、金属含有ナノ粒子がナノクラスターから形成されることを可能にする。
【0140】
したがって、ナノクラスターが1種類の金属イオンを有する金属イオン含有化合物を含有する場合、アニーリングプロセスは、単一金属ナノ粒子を有する触媒材料を提供する。ナノクラスターが金属イオン含有化合物中に2種類以上の金属イオンを含有する場合、アニーリングプロセスは、多金属ナノ粒子を有する触媒材料を提供する。好ましいアニーリング条件は、他の場所に記載されている。
【0141】
担体上の金属の担持量は、所望の用途に従って当業者によって決定されるであろう。しかしながら、概ね、約80重量%以下など、最大90重量%の金属担持量が対象となることが予想される。好適な金属担持量は、少なくとも0.5重量%、例えば10重量%以上である。金属担持量の好適な範囲は、10~90重量%、好ましくは20~70重量%、最も好適には30~60重量%であり得る。ここでの担持量は、担体上の金属であり、他の箇所に記載される任意の被覆層(コーティング)の重量を包含することは意図しない。
【0142】
ナノクラスターは、最終的なナノ粒子よりわずかに小さいサイズ、又は同様のサイズを示してもよく、又は最終的なナノ粒子よりわずかに大きくてもよい(例えば、焼成工程中に配位子が分解されると収縮する場合)。したがって、ナノクラスターは、概して、10nm未満、典型的には7nm未満、及び5nm未満の平均サイズで測定されると予想される。ナノクラスターは、0.5nm超、典型的には1nm超、場合によっては1.5nm超の平均サイズを有し得る。概して、ナノクラスターの平均サイズの範囲は、約0.5nm~10nm、典型的には1nm~7nm、好ましくは1.5nm~5nm、例えば2nm又は3nmである。
【0143】
ナノクラスター及びナノ粒子のサイズは、当業者に既知のプロトコルに従ってTEM分析によって測定することができる。例えば、TEM画像を撮影し、適切なソフトウェアを使用して、粒子又はクラスターの幅を求めることができる。あるいは、画像を印刷し、手作業で測定してもよい。
【0144】
生成物のナノクラスター及びナノ粒子の組成は、既知の方法を使用して確認することができる。例えば、エネルギー分散X線(EDX)分析、及び/又はX線回折(XRD)パターン、及び/又はXPS分析を使用することができる。
【0145】
金属含有ナノ粒子は、電極触媒材料の一部として使用され得る。このような用途のために、ナノ粒子又は担持されたナノ粒子は、既知の方法に従って処理され得る。非限定的な例として、ナノ粒子又は担持されたナノ粒子をインクに形成し、その後触媒層として電極上に析出させることができる。
【0146】
選好
本発明の好ましい実施形態は、析出及び沈殿法を使用して、金属グリオキシム系前駆体から調製される、担持された金属合金ナノ粒子の調製に関する。
【0147】
好ましい析出及び沈殿方法は、炭素含有担体の存在下での、1つ以上の好適な溶媒(通常は、水性、極性、又はこれらの混合物)中での金属グリオキシム系前駆体の溶解を伴う。金属グリオキシム系前駆体のナノクラスターは、分散液の酸性化によって担体全体にわたって沈殿して、複合体を形成する。複合体は、担持された金属合金ナノ粒子の前駆体と見なすことができる。
【0148】
これらの好ましい実施形態では、複合体は、担体表面全体にわたって金属合金ナノ粒子を形成するように、不活性雰囲気下で少なくとも600℃まで加熱される。金属合金ナノ粒子の形成中、コーティング又は被覆層もまた、金属合金ナノ粒子及び担体(存在する場合)表面全体にわたって形成されると考えられ、このコーティングは、形成された金属合金ナノ粒子の凝集を阻害又は最小化すると考えられる。
【0149】
そのように調製された材料は、特に小さく均一な粒径、及び担体全体にわたる良好な分布を有することが見出された。合金として2種以上の異なる金属のナノ粒子を作製することも可能である。したがって、当該ナノ粒子は、本明細書に記載の電極触媒用途において良好な機能性を示すことが期待される。
【0150】
しかしながら、本発明は、上記の好ましい特徴の組み合わせに限定されず、これらは例示のみの目的で提供されていることは理解されるであろう。
【実施例】
【0151】
比較例1
比較ナノ粒子を以下のように調製した。Ptは、国際公開第2013/045894(A1)号に記載の提案に従って炭素上に析出させた。硝酸NiをPt/Cに添加し、加熱した。終夜撹拌した後、以下に記載の本発明に従って調製されたナノ粒子に対応する方法で、PtNi/C材料を回収し、洗浄し、乾燥し、アニーリングした。
【0152】
アルミナ皿に入れた試料を管炉内に置き、N2下で30分間パージした。Ar下で、試料を12時間(約1.2℃min-1の加熱速度)にわたって900℃に加熱した。これを1時間保持して冷却させた。不動態化は、試料を炉から除去する前に、N2及び空気を使用して実施した。
【0153】
次に、合金化したPtNi/C材料を、水溶液、続いてH2SO4アルコール溶液(20mLg-1材料)で洗浄して、Niの少なくとも一部を浸出させた。両方の洗浄工程を24時間実施した。
【0154】
実施例1
本発明の方法に従って、炭素担体上にPtNi
2合金ナノ粒子を調製した。この調製により得られたデータを
図3に示す。
【0155】
合金ナノ粒子を調製するために、4gの炭素担体を800mLの脱塩水中に分散させた。Pt前駆体(6.56g、3gのPt)を、十分なNEt4OHを添加した1Lの脱塩水に溶解し、透明な溶液を得た。更に、Ni前駆体(9.14g、1.8gのNi)を、十分なNEt4OHを添加した600mLの脱塩水中に提供して、透明な溶液を得た。この2つの前駆体溶液を、撹拌しながら、30分間かけ炭素含有分散液に滴状添加し、合わせて終夜撹拌した。H2SO4でpHを7に調整し、再び終夜撹拌した後、PtNi/C材料を回収し、乾燥した。次いで、上記比較例1のようにアニールし、酸洗浄を行った。
【0156】
結果
図2は、比較例1(
図2a)及び実施例1(
図2b)に従って調製された炭素担体上に析出したPt及びNiの金属合金ナノ粒子を比較するために使用できるTEM画像を示す。金属合金ナノ粒子は、灰色の領域によって分離された白色のスポットとして見える。
図2bの淡灰色は、担体及び/又は被覆層を示す。この比較は、本発明の方法で、先行技術の方法よりも実質的に均質である金属合金ナノ粒子が製造されることを示す。
図2aの左及び上部に見られるような大きな粒子は、
図2bでは観察されない。加えて、
図2bに示されるナノ粒子は、
図2aに示されるものよりも均一な分散を有する。本発明は、小さいサイズの金属合金ナノ粒子を提供する。
図2bはまた、製造された金属合金ナノ粒子が、この場合、実質的に球状(ほぼ球状)であることも示す。
【0157】
図3aは、Pt及びNiを含む、担持金属合金ナノ粒子のTEM画像を示す。金属ナノ粒子は、灰色の領域によって分離された黒色のスポットとして見える。生成物をXPSによって測定した結果、Pt:Niを1:1.6の比で含有していた。XPSデータはまた、C、O及びNを含有する被覆層の存在も示した。
図2bと同様に、これらの粒子は、高い均質性、実質的に均一な分散、及び球状の性質を示すことがわかる。
【0158】
図3bは、
図3aに示される粒子の代表的な粒径分布である。ナノ粒子は、1nm超かつ5nm未満の直径を有していたことがわかる。平均粒径は2.63nmであった。
【0159】
図3c及び3dは、試料中のNi及びPtの分布を示す。Ni及びPtは各々、試料全体に実質的に均一に分布している。すなわち、Ptのみ又はNiのみの材料を示す領域は存在しない。これは、ナノ粒子がPtとNiとの合金であるという主張を裏付けている。
【0160】
図3eは、試料の回折パターンである。加えられた垂直線は、Pt
0.5Ni
0.5参照に対応しており、回折パターンはわずかに左にシフトして、参照よりもPtが多いことを示唆しているが、これが密接に関連する組成であることを示す。2θ≒25における特徴は、炭素担体に対応する。
【0161】
上記の実施形態は、任意の限定的な意味ではなく、あくまで例として記載されており、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更及び修正が可能であることが当業者には理解されるであろう。