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特許7349492上限臨界溶液温度を有する新規なポリスチレンベースのポリアンホライト及びその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-13
(45)【発行日】2023-09-22
(54)【発明の名称】上限臨界溶液温度を有する新規なポリスチレンベースのポリアンホライト及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C08F 212/14 20060101AFI20230914BHJP
   B01D 61/00 20060101ALI20230914BHJP
   C02F 1/44 20230101ALI20230914BHJP
【FI】
C08F212/14
B01D61/00 500
C02F1/44 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021506129
(86)(22)【出願日】2019-07-04
(86)【国際出願番号】 JP2019026555
(87)【国際公開番号】W WO2020188839
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2022-04-28
(31)【優先権主張番号】P 2019053241
(32)【優先日】2019-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年7月13日から平成31年3月17日にかけて、「第64回高分子研究発表会」等、合計7回公開された。
(73)【特許権者】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182073
【弁理士】
【氏名又は名称】萩 規男
(72)【発明者】
【氏名】遊佐 真一
(72)【発明者】
【氏名】コモル カンタ シャーカー
(72)【発明者】
【氏名】小原 由希
(72)【発明者】
【氏名】重田 優輔
(72)【発明者】
【氏名】尾添 真治
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04739834(US,A)
【文献】中国特許出願公開第101987878(CN,A)
【文献】特開昭52-022091(JP,A)
【文献】特開平06-220678(JP,A)
【文献】特開2006-030477(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0259452(US,A1)
【文献】特開2018-023933(JP,A)
【文献】特開2013-194240(JP,A)
【文献】Giebeler, E.Stadler, R.,ABC triblock polyampholytes containing aneutral hydrophobic block, a polyacid anda polybase,Macromolecular chemistry and physics.,ドイツ,HUETHIG & WEPF VERLAG,1997年,198/12,3815-3826
【文献】Bhardwaj, Y. K. Kumar, V. Sabharwal, S.,Swelling Behavior of Radiation-Polymerized Polyampholytic Two-Component Gels: Dynamic andEquilibrium,Journal of applied polymer science.,WILEY,2003年,88/3,730-742
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 212/
C08C 19/
B01D 61/
C02F 1/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構造単位(A)及び下記一般式(2)で表される構造単位(B)を含み、構造単位(A)が、構造単位(A)及び(B)の合計に対して36~64モル%であり、ゲル浸透クロマトグラフィーで測定される数平均分子量が500~100,000ダルトン(Da)である、上限臨界溶液温度(UCST)型の感熱応答性を有するポリスチレンベースのポリアンホライト。
(A);一般式(1)
【化1】
(式(1)中、Xはハロゲン原子を表し、R~Rは各々独立して炭素数1~10の直鎖若しくは分岐アルキル基を示す。)
(B);一般式(2)
【化2】
(式(2)中、Mは水素原子、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を示す。)
【請求項2】
数平均分子量/重量平均分子量の範囲が1.00~3.00である、請求項1に記載したポリアンホライト。
【請求項3】
下記一般式で表される構造単位(A)及び下記一般式(2)で表される構造単位(B)を含み、構造単位(A)が、構造単位(A)及び(B)の合計に対して36~64モル%であり、ゲル浸透クロマトグラフィーで測定される数平均分子量が500~100,000ダルトン(Da)である、上限臨界溶液温度(UCST)型の感熱応答性を有するポリスチレンベースのポリアンホライト。
構造単位(A);
一般式(1)
【化1】
式(1)中、Xはハロゲン原子を表し、R ~R は各々独立して炭素数1~10の直鎖若しくは分岐アルキル基を示す。)で表されるビニルベンジルトリアルキルアンモニウム構造単位、
一般式(2)
【化2】
で表されるビニルピリジン構造単位(式(2)中、Qはハロゲンイオン又はOHを表す。)
及び
一般式(3)
【化3】
で表される四級化ビニルピリジン構造単位(式(3)中、Xaはハロゲンイオンを表し、R は炭素数1~3のアルキル基を示す。)からなる群より選ばれる少なくとも一つであ
構造単位(B);一般式(2)
【化2】
(式(2)中、Mは水素原子、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を示す。)
【請求項4】
前記構造単位(B)が、下記の構造である、請求項1に記載のポリアンホライト。
構造単位(B);
一般式(4)
【化4】
(式(4)中、Mは水素原子又はアルカリ金属を表す。)
【請求項5】
下記一般式(3)で表される構造単位(C)、下記一般式(4)で表される構造単位(D)及び下記一般式(5)で表される構造単位(E)を含み、構造単位(C)が、構造単位(C)及び(D)の合計に対して36~64モル%であり、構造単位(E)が、構造単位(C)~(E)の合計に対して1~50モル%であり、ゲル浸透クロマトグラフィーで測定される数平均分子量が500~100,000ダルトン(Da)である、UCST型の感熱応答性を有する新規なポリスチレンベースのポリアンホライト。
(C);一般式(3)
【化3】
(式(3)中、X及びR~Rは上記式(1)と同じ。)
(D);一般式(4)
【化4】
(式(4)中、Yはスルホフェニル基、スルホ基、カルボキシル基、及びこれらのアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属を示す。)
(E);一般式(5)
【化5】
(式(5)中、Rは水素又はメチル基を示し、Rはハロゲン原子を示し、nは0~5の整数を示す。)
【請求項6】
数平均分子量/重量平均分子量の範囲が1.00~3.00である、請求項5に記載したポリアンホライト。
【請求項7】
前記構造単位(D)および構造単位(E)が、下記の構造である、請求項5に記載のポリアンホライト。
構造単位(D);
一般式(8)
【化8】
(式(8)中、Rcは水素原子又はメチル基を示し、Yはスルホフェニル基、カルボキシル基、及びこれらのアルカリ金属塩を示す。)
構造単位(E);
一般式(9a)
【化9a】
(式(9a)中、R4は水素原子又はメチル基を表す。)
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載した上限臨界溶液温度(UCST)型の感熱応答性を有するポリスチレンベースのポリアンホライトを含む正浸透膜法水処理システム用の駆動溶液。
【請求項9】
ポリマー水溶液濃度が20重量%以上において、50℃における浸透圧が30bar以上である、請求項8に記載の駆動溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラッグデリバリーシステムや正浸透膜法水処理システムの駆動溶液等として有用な、上限臨界溶液温度(UCST)を示す新規なポリスチレンベースのポリアンホライト(Polyampholytes)及びその用途としての感熱応答性を有するポリスチレンベースのポリアンホライトを含む正浸透膜法水処理システム用の駆動溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
刺激応答性ポリマーは、温度、pH、イオン強度、光照射、電磁場の印加などの外部刺激に応答して物理的・化学的特性が変化する材料である。中でも感熱応答性ポリマーは、ドラッグデリバリーシステム、遺伝子治療、バイオセパレーション、バイオイメージング、カテーテル、人工筋肉、光学デバイス、触媒、正浸透膜法水処理システムなどの分野への利用が期待されるため、広く研究されている(例えば、特許文献1、特許文献2)。
【0003】
上記刺激応答性ポリマーの内、温度応答性ポリマーは温度による相変化により、下限臨界溶液温度(LCST)挙動と上限臨界溶液温度(UCST)挙動に分類できる。1968年、Heskinsらはポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(以下、P-NIPAMと略称する)水溶液のLCSTが約32℃で観測されることを報告した。この転移温度が比較的人の体温に近いため、バイオメディカル分野においてP-NIPAMの感熱応答挙動を利用した研究が広範に渡り行われてきた。さらに、ポリ(N-イソプロピルメタクリルアミド)、ポリ(N-ビニルカプロラクタム)、ポリ(オリゴエチレングリコール)アクリレートなど多くのLCST型ポリマーが報告されている。しかしUCST挙動を示すポリマーの報告例は少ない。
【0004】
UCSTを示すポリマーは、加熱により水に溶解するため、体温の上昇で自発的に薬物を制御放出できる可能性がある。最近、Agarwalらは、アクリルアミド-アクリロニトリル共重合体が水中で水素結合をドライビングフォースとするUCSTを示すことを報告している。また、ポリマーの側鎖にカチオンとアニオンの両方を含む双性イオンポリマーが水中でUCSTを示すことが知られている。
【0005】
例えば、ポリ(N-(3-スルホプロピル)-N-メタクロイルオキシエチル-N,N-ジメチルアンモニウム ベタイン)は、同一側鎖にカチオン性のアンモニウムとアニオン性のスルホネートを含み、それらの間の強い静電相互作用により水中でUCSTを示すと言われている。
【0006】
上記した感熱応答性ポリマーの研究は、バイオメディカル分野での利用に関連するものが殆どだが、正浸透膜法水処理システムの駆動溶液に利用する試みもいくつか行われている(例えば、特許文献2)。しかし、従来の感熱応答性ポリマーの殆どは加水分解性のエステル基やアミド基を含むため、加水分解によって感熱応答性が消失し易い課題があった(例えば、非特許文献1、2)。また、感熱応答性ポリマーが非イオン性の場合、正浸透膜法水処理システムの駆動溶液としては浸透圧が低すぎる課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4069221号公報
【文献】特許第6125863号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】嶋田;高分子、51巻、11月号、2002年、889~893頁
【文献】Seema Agarwal et al; Macromolecules,45,3910-3918 page (2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の上限臨界溶液温度(UCST)型の感熱応答性を有するポリマーは、加水分解し易いエステル基やアミド基を含むタイプが殆どだったため、加水分解性部位を含まず、且つ高い浸透圧が期待できるイオン性ポリマーが求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、ハロゲン化4-ビニルベンジルトリアルキルアンモニウム、ビニルピリジン及び四級化ビニルピリジンからなる群より選ばれる少なくとも一つのカチオン性モノマー成分と4-ビニルベンゼンスルホン酸塩を主成分とするポリスチレンベースのポリアンホライト(Polyampholytes)が、特定のポリマー組成と分子量域において上限臨界溶液温度(以下、UCSTと略称)型の感熱応答性を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち本発明は、下記構造単位(A)及び下記構造単位(B)を含み、構造単位(A)が、構造単位(A)及び(B)の合計に対して36~64モル%である、UCST型の感熱応答性を有する新規なポリスチレンベースのポリアンホライト(Polyampholytes)に関する。
構造単位(A);
一般式(1)
【化1】
(式(1)中、Xはハロゲン原子を表し、R~Rは各々独立して炭素数1~10の直鎖若しくは分岐アルキル基を示す。)で表されるビニルベンジルトリアルキルアンモニウム構造単位、
一般式(2)
【化2】
で表されるビニルピリジン構造単位(式(2)中、Qはハロゲンイオン、OH、HSO 、NO 、RSO 又はRCO を表し、Rは炭素数1~3のアルキル基を示す。)
及び
一般式(3)
【化3】
で表される四級化ビニルピリジン構造単位(式(3)中、Xはハロゲンイオン又はHSO を表し、Rは炭素数1~3のアルキル基を示す。)からなる群より選ばれる少なくとも一つである。
構造単位(B);
一般式(4)
【化4】
(式(4)中、Mは水素原子、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を示す。)
【0012】
また本発明は、下記構造単位(C)、下記構造単位(D)及び下記構造単位(E)を含み、構造単位(C)が、構造単位(C)及び(D)の合計に対して36~64モル%であり、構造単位(E)が、構造単位(C)~(E)の合計に対して1~50モル%である、UCST型の感熱応答性を有する新規なポリスチレンベースのポリアンホライトに関する。
構造単位(C);
一般式(5)
【化5】
(式(5)中、X及びR~Rは上記式(1)と同じ。)で表されるビニルベンジルトリアルキルアンモニウム構造単位、
一般式(6)
【化6】
(式(6)中、Qは上記式(2)と同じ。)で表されるビニルピリジン構造単位、
及び
一般式(7)
【化7】
で表される四級化ビニルピリジン構造単位(式(7)中、Xa、は上記式(3)と同じ。)からなる群より選ばれる少なくとも一つである。
構造単位(D);
一般式(8)
【化8】
(式(8)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Yはスルホフェニル基、スルホ基、カルボキシル基、及びこれらのアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属を示す。)
(E);一般式(9)
【化9】
(式(9)中、Rは水素又はメチル基を示し、Rはハロゲン原子を示し、nは0~5の整数を示す。)
【0013】
また本発明は、ゲル浸透クロマトグラフィーで測定される数平均分子量が500~100,000ダルトン(Da)である上記UCST型の感熱応答性を有する新規なポリスチレンベースのポリアンホライトに係る。
【0014】
また本発明は、上記UCST型の感熱応答性を有する新規なポリスチレンベースのポリアンホライトの正浸透膜法水処理システム用の駆動溶液としての利用に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のハロゲン化4-ビニルベンジルトリアルキルアンモニウム、ビニルピリジン及び四級化ビニルピリジンからなる群より選ばれる少なくとも一つのカチオン性モノマーと4-ビニルベンゼンスルホン酸塩を主成分とするポリスチレンベースのポリアンホライト(Polyampholytes)は、新規な上限臨界溶液温度(UCST)型の感熱応答性ポリマーである。
【0016】
その用途としてバイオメディカル分野への利用が期待できる他、加水分解性部位を含まないため、耐久性が要求される正浸透膜法水処理システム用の駆動溶液として極めて有用である。本発明のポリアンホライトはUCST型であるため、正浸透膜法水処理の中でも、例えば50℃以上での海水、石油随伴水、工業廃水の淡水化処理や食品濃縮に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】重合例1における、重合時間(横軸、単位は分)と重合転化率(図中の記号は〇、左縦軸、単位は%)及び一次プロット(図中の記号は△、右縦軸、lnは自然対数)の関係を示す。[M]は重合開始前の初期の全モノマーのモル濃度を表し、[M]は反応開始後のある時間の全モノマーのモル濃度を示す。
図2】(a)は実施例1で得られた共重合体の全反射赤外吸収スペクトル(縦軸は透過率%、横軸は波数cm-1)を示し、(b)は実施例2で得られた共重合体の全反射赤外吸収スペクトルを示す。
図3】(a)は実施例1で得られた共重合体のプロトン核磁気共鳴スペクトル(横軸は化学シフトppm)を示し、(b)は実施例2で得られた共重合体のプロトン核磁気共鳴スペクトルを示す。
図4】(a)は実施例1で得られた共重合体水溶液の700nm光の透過率(%T)の温度依存性について、食塩濃度を変えて測定した結果を示し、(b)は実施例2で得られた共重合体水溶液の700nm光の透過率(%T)の温度依存性について、食塩濃度を変えて測定した結果を示す。ここで、図中の数値は食塩のモル濃度を示す。(c)は、(a)及び(b)中の曲線の変曲点から求めた相転移温度(T)を食塩濃度に対してプロットしたものである。ここで、図中の記号〇は実施例1の共重合体を、△は実施例2の共重合体についての結果を示す。また、図中の全てのデータは、ポリマー濃度2.0g/Lで測定した結果である。
図5】(a)は実施例1で得られた共重合体水溶液の700nm光の透過率(%T)の温度依存性について、食塩濃度0.1Mで共重合体濃度を変えて測定した結果を示し、(b)は実施例2で得られた共重合体水溶液の700nm光の透過率(%T)の温度依存性について、食塩濃度1.0Mで共重合体濃度を変えて測定した結果を示す。ここで、図中の数値はポリマーの濃度を示す。(c)は(a)及び(b)から求めた相転移温度(T)を共重合体濃度に対してプロットしたものである。ここで、図中の記号〇は実施例1の共重合体を、△は実施例2の共重合体についての結果を示す。
図6】(a)は実施例1で得られた共重合体水溶液の流体力学的半径(R、図中の記号〇)と散乱光強度(SI、図中の記号△)の温度依存性について、ポリマー濃度0.2g/L、食塩濃度0.1Mで測定した結果を示し、(b)は実施例2で得られた共重合体水溶液の流体力学的半径(R、図中の記号〇)と散乱光強度(SI、図中の記号△)の温度依存性について、ポリマー濃度0.2g/L、食塩濃度1.0Mで測定した結果を示す。
図7】実施例17で調製したポリマー水溶液の相平衡を示し、横軸はポリマー濃度(wt%)、縦軸は温度(℃)であり、図中に示した曲線の上側は均一相であり、下側は二相分離(不溶化)する領域である。
図8】実施例17で調製したポリマー水溶液の50℃で測定した浸透圧を示し、横軸は水中のポリマー濃度(wt%)、縦軸は浸透圧(bar)である。
図9】実施例18で調製したポリマー水溶液の相平衡を示し、横軸はポリマー濃度(wt%)、縦軸は温度(℃)であり、図中に示した曲線の上側は均一相であり、下側は二相分離(不溶化)する領域である。
図10】実施例18で調製したポリマー水溶液の50℃で測定した浸透圧を示し、横軸は水中のポリマー濃度(wt%)、縦軸は浸透圧(bar)である。
図11】実施例19で調製したポリマー水溶液の相平衡を示し、横軸はポリマー濃度(wt%)、縦軸は温度(℃)であり、図中に示した曲線の上側は均一相であり、下側は二相分離(不溶化)する領域である。
図12】実施例19で調製したポリマー水溶液の50℃で測定した浸透圧を示し、横軸は水中のポリマー濃度(wt%)、縦軸は浸透圧(bar)である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜変形して実施できる。
【0019】
本発明に用いられるハロゲン化4-ビニルベンジルトリアルキルアンモニウム、ビニルピリジン及び四級化ビニルピリジンは、本発明のポリアンホライトに含まれ、上記一般式(1)~(3)で表される構造単位(A)又は一般式(5)~(7)で表される構造単位(C)を形成するために必要なカチオン性モノマーである。
【0020】
本発明に用いられるハロゲン化4-ビニルベンジルトリアルキルアンモニウム、ビニルピリジン及び四級化ビニルピリジンは特に限定するものではないが、例えば、塩化4-ビニルベンジルトリメチルアンモニウム、臭化4-ビニルベンジルトリメチルアンモニウム、沃化4-ビニルベンジルトリメチルアンモニウム、塩化4-ビニルベンジルトリエチルアンモニウム、塩化4-ビニルベンジルトリプロピルアンモニウム、塩化4-ビニルベンジルトリブチルアンモニウム、塩化4-ビニルベンジルトリヘキシルアンモニウムが挙げられる。さらに、4-ビニルピリジン、2-ビニルピリジンや、これらのビニルピリジンと塩酸、臭化水素、硫酸、硝酸、スルホン酸、カルボン酸などの酸から成る塩、これらのビニルピリジンと塩化メチル、臭化メチル、沃化メチル、塩化エチル、臭化エチル、沃化エチルなどのハロゲン化アルキルとの反応により得られる四級化ビニルピリジン、あるいはこれらのビニルピリジンと硫酸ジメチル、硫酸ジエチルなどの硫酸ジアルキルとの反応により得られる四級化ビニルピリジン等があげられる。
【0021】
上記したビニルベンジルトリアルキルアンモニウムは、パラ体に限定されず、メタ体やオルソ体などの混合物でも良い。
【0022】
入手容易性の観点から、特に塩化4-ビニルベンジルトリメチルアンモニウム、臭化4-ビニルベンジルトリメチルアンモニウム、塩化4-ビニルベンジルトリエチルアンモニウム、臭化4-ビニルベンジルトリエチルアンモニウム、4-ビニルピリジン、2-ビニルピリジンが好ましい。
【0023】
本発明に用いられる4-ビニルベンゼンスルホン酸塩(4-スチレンスルホン酸塩とも言う)は、本発明のポリアンホライト(Polyampholytes)に含まれる、上記一般式(4)で表される構造単位(B)を形成するために必要なアニオン性モノマーであり、特に限定するものではないが、例えばスチレンスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸カリウム、スチレンスルホン酸アンモニウム、スチレンスルホン酸リチウム、スチレンスルホン酸カルシウム、スチレンスルホン酸マグネシウム、スチレンスルホン酸バリウム、スチレンスルホン酸等が挙げられる。
【0024】
これらの内でも入手容易性及び浸透圧の観点から、特にスチレンスルホン酸ナトリウム又はスチレンスルホン酸リチウムが好ましく、さらに好ましくは、汎用性が高く安価なスチレンスルホン酸ナトリウムである。但し、イオン半径が小さく水和が強いリチウムの方が、ナトリウムよりも(ポリスチレンスルホン酸に対する)イオン凝縮度が低いため、より高い浸透圧が求められる場合には好ましい。
【0025】
上記したスチレンスルホン酸塩は通常パラ体であるが、メタ体やオルソ体などの異性体を含んでも支障はない。また、上記一般式(8)で表される構造単位(D)を形成するために必要なアニオン性モノマーとして、メタクリル酸、メタクリル酸塩、アクリル酸、アクリル酸塩、ビニル安息香酸、ビニル安息香酸塩、ビニルホスホン酸、ビニルホスホン酸塩、ビニルスルホン酸、ビニルスルホン酸塩、マレイン酸塩などの非芳香族系のアニオン性モノマー、及び上記したスチレンスルホン酸塩が挙げられる。
【0026】
本発明に用いられるスチレン系モノマーは、本発明のポリアンホライトに含まれる、上記一般式(9)で表される構造単位(E)を形成するための非イオン性のモノマーであり、特に限定するものではないが、スチレン、α-メチルスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、トリクロロスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、トリブロモスチレン、クロロメチルスチレン、シアノスチレン、アミノスチレン、フロロスチレン、トリフロロスチレン、メトキシスチレン等が挙げられるが、入手性の観点から、スチレン、α-メチルスチレンが好ましい。
【0027】
本発明のポリアンホライトが示すUCST挙動は、主としてポリマー中のカチオン性基とアニオン性基間の強い静電相互作用によると考えられる。このため、上記した構造単位(A)及び(B)を含むポリマーにおいて、カチオン性モノマー単位(A)とアニオン性モノマー単位(B)のモル比は極めて重要であり、構造単位(A)の含有量は構造単位(A)及び(B)の合計に対して36~64モル%が好ましく、より熱応答性の感度を高めるためには、45~55モル%がより好ましい。
【0028】
また、本発明のポリアンホライトはポリスチレンベースであり、芳香環に由来する非静電的な相互作用もUCST挙動の発現に寄与していると考えられる。即ち、本発明のポリアンホライトは、静電的及び非静電的な二つの相互作用によって水中で凝集(不溶化)し、加熱によって水に溶解する(UCST挙動)と考えられる。
【0029】
よって、分子量が大きくなるほど溶解又は凝集温度(UCST転移温度)は上昇すると考えられる。従って、例えば、高分子量体でUCST転移温度を低くしたい場合は、カチオン性基又はアニオン性基の一方を増やしたり、あるいは上記した非芳香族性のアニオン性モノマーを併用することにより、芳香環による相互作用を弱くすれば良い。
【0030】
逆に、低分子量体でUCST転移温度を高くしたい場合、例えば上記した構造単位(C)及び(D)を含むポリマーに、第三成分として構造単位(E)を導入することにより、非静電的な相互作用を強くすれば良い。
【0031】
ここで、構造単位(E)は構造単位(C)、(D)及び(E)の合計に対して1~50モル%とすることが好ましいが、用途によっては転移温度が高くなり過ぎることや浸透圧が低くなることがあるため、1~30モル%が好ましい。
【0032】
また、構造単位(C)の含有量が、構造単位(C)及び(D)の合計に対して36~64モル%であり、ポリアンホライトのUCST性と耐久性、浸透圧を損なわない範囲であれば、構造単位(E)の他に構造単位(F)を導入しても構わない。
【0033】
構造単位(F)を形成するモノマーとしては、上記(C)、(D)及び(E)を形成するモノマーと共重合するものであれば特に制限はなく、例えば、アクリロニトリル、塩化ビニル、N-置換マレイミド、(無水)マレイン酸、マレイン酸エステル、フマル酸エステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、ビニルピロリドン、ビニルフェニルメタンスルホン酸、ビニルフェニルメタンホスホン酸、スチレンホスホン酸、ビニルピリジン等が挙げられる。
【0034】
上記したポリアンホライト間の静電的及び非静電的な相互作用は、カチオン性モノマーの種類によっても異なる。より塩基性と芳香族性が強いビニルベンジルトリアルキルアンモニウムを用いると、基本的に相互作用は強くなり、塩基性と芳香族性が弱いビニルピリジン(塩)を用いると基本的に相互作用は弱くなる。但し、これらの相互作用は窒素原子上の置換基や対アニオンの種類によっても影響されるため、目的に応じて細かく調整する必要がある。
【0035】
尚、スチレンスルホン酸ナトリウムと塩化ビニルベンジルトリメチルアンモニウム共重合体に関する研究例はいくつか知られている(例えば、Y.TakeokaらPhysical Review Letters,Vol.82,No.24,4863-4865,1999年;Y.K.Bhardwajら Journal of Applied Polymer Science,Vol.88,730-742,2003年)。
【0036】
しかし、これらの文献の何れも架橋性モノマーとしてN,N’-メチレンビスアクリルアミドを共重合したものであり、生成物は化学的に(共有結合により)架橋されたゲルに限定される。後者の文献には、N,N’-メチレンビスアクリルアミドを含まない系も記載されているが、ガンマ線を用いた重合によるものであり、依然、生成物は化学的に(共有結合により)架橋されたゲルである。ゲル又は少なくとも分岐ポリマーであるため、例えば、より構造制御された自己組織化は困難である。また、これらのポリマーを、例えば、中空糸膜を用いた正浸透水処理システムの駆動剤として考えた場合、ゲル状では狭い流路を流すことは難しい。
【0037】
一方、本発明のポリアンホライトは化学的な架橋構造を含まないゾルであり、後の実施例に記載するように、ゲル浸透クロマトグラフィーにより分子量測定が可能であり、動的光散乱で測定した流体力学的半径が数ナノメートルであるようなポリマーである。即ち、従来のゲル又は分岐ポリマーに対して、より構造制御された自己組織化が可能である。
【0038】
また、スチレンスルホン酸ナトリウムと4-ビニルピリジニウム共重合体に関する報告例がある(例えば、J.C.SalamoneらJournal of Macromolecular Science-Chemistry,A13(5),665-672,1979年)。得られた共重合体は、0~6のpH範囲では水に不溶であり、それ以外のpH域では水溶性と記載されている。しかし、共重合体の分子量、濃度及び溶液物性に関する記載は一切ない。
【0039】
本実施形態の上限臨界溶液(以下、UCSTと略称)型の感熱応答性を有する新規なポリスチレンベースのポリアンホライトの製造方法は、特に限定はされない。
【0040】
例えば、ハロゲン化4-ビニルベンジルトリアルキルアンモニウム、ビニルピリジン、ビニルピリジン塩及び四級化ビニルピリジンなどのカチオン性モノマーとスチレンスルホン酸塩などのアニオン性モノマー及び必要に応じて非イオン性のスチレン系モノマーを溶解したモノマー溶液、重合開始剤及び連鎖移動剤(分子量調節剤とも言う)を反応容器に一括で仕込んで重合する一括重合法、上記モノマーと連鎖移動剤の混合溶液、及び重合開始剤を反応容器に供給しながら重合する逐次添加法が挙げられる。これらの内でも、重合熱の除去性が優れる点で逐次添加法が好ましく用いられる。
【0041】
また重合法としては、一般的なラジカル重合の他、高度な分子量制御やブロック共重合が可能なリビングラジカル重合法が適用できる。
【0042】
別の製造方法として、クロロメチルスチレンなどのハロメチルスチレンやビニルピリジンとスチレンスルホン酸塩、スチレンスルホン酸エステルあるいはクロロスルホニルスチレンとを共重合した後、ハロメチル基をトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジンなどの第三級アミンと反応させて四級アンモニウム化したり、ピリジン残基をハロゲン化アルキルと反応させて四級アンモニウム化したり、スルホン酸エステルやクロロスルホニル基を加水分解してスルホン酸を再生することも出来るが、生産性の面から、水溶性であるハロゲン化4-ビニルベンジルトリアルキルアンモニウムやビニルピリジン塩とスチレンスルホン酸塩とを共重合する方法が好ましい。
【0043】
溶媒としては、上記モノマー混合物を均一に溶解できるものであれば特に制限はないが、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール等のアルコール類、メトキシエタノール、エトキシエタノール等のセロソルブ類、アセトニトリル、アセトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミドなどの他、これらの混合溶媒が挙げられる。
【0044】
上記モノマー混合物の溶解度を高めるため、水性溶媒中に塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウム等の無機塩を添加しても良い。また、モノマー混合物の析出を防ぐため、夫々のモノマーを別々に反応容器へ供給しても良い。重合速度や転化率を高めるためには、モノマー濃度は可能な限り高い方が好ましいが、溶解性との両立を考慮すると、5wt%~30wt%が好ましい。
【0045】
上記ラジカル重合開始剤としては、例えば、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジラウリルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-シクロヘキサン、シクロヘキサノンパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、クミルパーオキシオクトエート、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素などのパーオキサイド系化合物、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、1-[(1-シアノ-1-メチルエチル)アゾ]ホルムアミド、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリックアシッド)、2,2’-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[1,1’-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス{2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’-アゾビス{2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジサルフェートジハイドレート、2,2’-アゾビス{2-[1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]}ジハイドロクロライド、2,2’-アゾビス(1-イミノ-1-ピロリジノ-2-メチルプロパン)ジハイドロクロライド、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]テトラハイドレート、1,1’-アゾビス(1-アセトキシ-1-フェニルメタン)、4,4’-ジアゼンジイルビス(4-シアノペンタン酸)・α-ヒドロ-ω-ヒドロキシポリ(オキシエチレン)重縮合物などのアゾ化合物等があげられる。
【0046】
これらの内でも、溶解性及び後述するリビングラジカル重合における分子量制御性の観点から、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[1,1’-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス{2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’-アゾビス{2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジサルフェートジハイドレート、2,2’-アゾビス{2-[1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]}ジハイドロクロライド、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]テトラハイドレート等の水溶性アゾ開始剤が好ましい。
【0047】
また、経済性の観点から上記したパーオキサイド系重合開始剤を使用する場合、必要に応じて、アスコルビン酸、エリソルビン酸、アニリン、三級アミン、ロンガリット、ハイドロサルファイト、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、次亜リン酸ナトリウムなどの還元剤を併用しても良い。
【0048】
ラジカル重合開始剤の使用量は、全モノマーに対し、通常、0.01~10モル%であり、目的物の純度を考慮すると、0.01~5モル%がより好ましい。
【0049】
上記分子量調節剤(連鎖移動剤)は、特に限定されるものではないが、例えば、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸、チオサリチル酸、3-メルカプト安息香酸、4-メルカプト安息香酸、チオマロン酸、ジチオコハク酸、チオマレイン酸、チオマレイン酸無水物、ジチオマレイン酸、チオグルタール酸、システイン、ホモシステイン、5-メルカプトテトラゾール酢酸、3-メルカプト-1-プロパンスルホン酸、3-メルカプトプロパン-1,2-ジオール、メルカプトエタノール、1 ,2-ジメチルメルカプトエタン、2-メルカプトエチルアミン塩酸塩、6-メルカプト-1-ヘキサノール、2-メルカプト-1-イミダゾール、3-メルカプト-1,2,4-トリアゾール、システイン、N-アシルシステイン、グルタチオン、N-ブチルアミノエタンチオール、N,N-ジエチルアミノエタンチオールなどのメルカプタン類、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド、ジエチルキサントゲンジスルフィド、ジエチルチウラムジスルフィド、2,2’-ジチオジプロピオン酸、3,3’-ジチオジプロピオン酸、4,4’-ジチオジブタン酸、2,2’-ジチオビス安息香酸などのジスルフィド類、ヨードホルムなどのハロゲン化炭化水素、ベンジルジチオベンゾエート、2-シアノプロプ-2-イルジチオベンゾエート、4-シアノ-4-(チオベンゾイルチオ)ペンタン酸、4-シアノ-4-(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニルペンタン酸、S,S-ジベンジルトリチオカーボネート、3-((((1-カルボキシエチル)チオ)カーボノチオイル)チオ)プロパン酸、シアノメチル(3,5-ジメチル-1H-ピラゾール)カルボジチオエートなどのチオカルボニルチオ化合物、α-ヨードベンジルシアニド、1-ヨードエチルベンゼン、エチル2-ヨード-2-フェニルアセテート、2-ヨード-2-フェニル酢酸、2-ヨードプロパン酸、2-ヨード酢酸などの沃化アルキル化合物、ジフェニルエチレン、p-クロロジフェニルエチレン、p-シアノジフェニルエチレン、α-メチルスチレンダイマー、有機テルル化合物、イオウなどが挙げられる。これらの中で、チオカルボニルチオ化合物や沃化アルキル化合物を用いたリビングラジカル重合が分子量制御性の面で好ましい。
【0050】
反応容器へモノマーを逐次添加しながら重合する方法として、例えば、撹拌機、冷却管、窒素導入管を取付けた反応器に水性溶媒及び又は分子量調節剤を含むモノマー混合物の一部を仕込み、減圧-不活性ガス導入などの方法で十分脱酸素し、所定温度まで昇温した後、分子量調節剤を含む残りのモノマー混合物とラジカル重合開始剤を連続的に添加しながら重合することで、本発明のポリアンホライトを得ることができる。
【0051】
重合温度は通常のラジカル重合と同様、10~100℃であり、より好ましくは40~90℃で、重合転化率の観点から、さらに好ましくは60~90℃である。
【0052】
重合時間は、2時間~30時間が好ましく、さらに好ましくは2時間~10時間である。逐次添加法にて重合する場合、分子量調節剤を含むモノマー混合物と重合開始剤の連続添加を行う時間は、通常1時間~4時間である。
【0053】
上記したリビングラジカル重合法の場合、ドーマント種から可逆的にラジカルを生成しながら重合が進行し、暴走反応が起こり難いため、逐次添加重合法よりも全一括添加重合の方が、重合転化率や分子量制御性の面で好ましい場合もある。
【0054】
上記したように、本発明において、ポリアンホライトに含まれるカチオン性モノマー単位(A)とアニオン性モノマー単位(B)のモル比は、熱応答性に影響する最も重要な因子だが、ポリマーの分子量は転移温度、ポリマー水溶液を冷却した際の相分離性及び浸透圧に影響する重要因子である。
【0055】
即ち、本発明のポリスチレンベースのポリアンホライトは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定される数平均分子量が500~100,000ダルトン(Da)であることが好ましい。数平均分子量が500ダルトン以下の場合、ポリマーは低温でも水に溶解することがあり、一方、数平均分子量が100,000ダルトンを超えると加熱しても塩を添加してもポリマーは水に溶解しないことがある。さらに熱応答性を考慮すると、1,000~50,000ダルトンがより好ましい。
【0056】
また、分子量分布は狭いほど熱応答性や相分離性が優れるため、重量平均分子量を数平均分子量で除した値は小さいほど良く、1.00~3.00の範囲であれば問題ないが、1.00~2.00がより好ましく、特に高純度が要求されるバイオメディカル用途向けには1.00~1.50がさらに好ましい。分子量分布は上記したリビングラジカル重合法などの手法で狭く出来るが、一般的なラジカル重合法で重合した後、分別沈殿、透析、精密濾過などの方法で分子量分布を狭くすることが出来る。また、本発明のポリマーは、冷却によって水溶液から相分離するため、ポリマーの加熱溶解と冷却分離を繰返すことによって、より分子量が小さく相分離温度が低い成分を取り除くことが出来るほか、ポリマーに含まれる少なくとも2種の対イオンからなる低分子の塩を取り除くことが出来る。
【実施例
【0057】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何らの制限を受けるものではない。
【0058】
1.重合転化率の測定とポリマーの同定
(1)プロトン核磁気共鳴スペクトル測定
ブルカー・バイオスピン株式会社製DRX-500を用いて反応溶液のNMRスペクトルを測定し、化学シフト5.7ppmに観測されるビニル基由来の積分強度の減少割合から重合転化率を算出した。また、精製後の共重合体を1.2Mの食塩を含む重水に溶解し、同じくプロトンNMRを測定した。
【0059】
(2)全反射赤外吸収スペクトル測定
セレン化亜鉛製の集光プリズムの上に粉末状の共重合体サンプルを押し付け、日本分光株式会社製FT/IR-4200を用いて測定した。尚、入射角45度(°)で256回の積算で測定を行った。データ解析には、日本分光株式会社製Spectra Manager Ver. 2ソフトウェアを用いた。
【0060】
(3)ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定
共重合体を下記溶離液に溶解して0.1wt%溶液を調製し、東ソー株式会社製HLC-8320を用いて以下の条件でGPC測定を行った。モノマー由来のピーク面積(a)と重合物由来のピーク面積(b)から、下式により重合物の転化率を算出した。
重合物の転化率(面積%)=100×[1-{a/(a+b)}]
カラム=TSKガードカラムAW-H/TSK AW-6000/TSK AW-3000/TSK AW-2500
溶離液=硫酸ナトリウム水溶液(0.05mol/L)/アセトニトリル=65/35(体積比)溶液
流速・注入量・カラム温度=0.6ml/min、注入量=10μl、カラム温度=40℃
検出器=UV検出器(波長230nm)またはRI検出器
検量線=標準ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(創和科学製)及び標準ポリエチレングリコール(Mp400~40,000、アルドリッチアルドリッチジャパン合同会社製)を用いて、ピークトップ分子量と溶出時間から作成した。
【0061】
2.ポリマー水溶液のUCST挙動の観察
(1)光透過率の測定
光路長10mmの石英セルにサンプル溶液を入れ、700nmの光の透過率(%T)を測定した。%Tは温度制御システム(日本分光株式会社製ETC-717)を備えた日本分光株式会社製V-630 Bioで測定した。1.0℃/minの加熱及び冷却速度で、温度は20から80℃の昇温と、80から20℃の降温で測定した。
【0062】
(2)動的光散乱(DLS)測定
サンプル溶液を0.2μmのメンブレンフィルターで濾過した後、ヘリウム-ネオンレーザー(632.8nm、4mW)を備えたマルバーン社製ゼータサイザーナノZSを用いて、散乱角173度での散乱光強度の経時変化を調べた。得られたデータをマルバーン社製Zetasizer 7.11ソフトウェアで解析して、流体力学的半径(Rh)および多分散指数(PDI)を求めた。Rh及び散乱光強度(SI)の値は、2回の測定値の平均値である。
【0063】
(3)ゼータ電位の測定
上記(2)動的光散乱測定において用いたサンプルと装置にてゼータ電位を測定し、マルバーン社製Zetasizer 7.11ソフトウェアで解析する。
【0064】
(4)位相差顕微鏡観察
ポリマー濃度2.0g/L、食塩濃度0.1Mのサンプル溶液をプレパラート上に滴下し、そのまま20℃で観察した。顕微鏡はキーエンス株式会社製 オールインワン蛍光顕微鏡BZ-8000(対物レンズ:ニコン株式会社製 CFI Plan Apo10X)を用いる。
【0065】
(5)蛍光スペクトル測定
N-フェニル-1-ナフチルアミン(PNA)の飽和水溶液を用いて、目的のポリマー及び塩濃度になるようサンプル溶液を調製し、日立ハイテクノロジーズ株式会社製 分光蛍光光度計F-2500を用いて蛍光スペクトルを測定する。330nmで励起し、励起側と発光側のスリット幅はそれぞれ20nmと5nmで測定する。尚、循環型恒温槽(東京理科器械株式会社製NCB-1200)を取り付けたセルホルダーで温度を制御する。
【0066】
3.ポリマー水溶液の浸透圧測定
ポリマー水溶液の水分活性値から下記の換算式を用いて浸透圧(bar)へ換算した〔Divina D.;Separation and Purification Technology 138 (2014) 92-97参照〕。
【数1】
【0067】
水分活性は、水分活性測定装置(アイネクス株式会社製 AquaLab Series 4TDL)を用いて50℃で測定した。測定は3回行い、平均値を浸透圧の計算に用いた。尚、測定誤差を抑えるため、上記水分活性装置を50℃の恒温槽内に設置して測定した。
【0068】
<使用試薬>
実施例に記載の化合物は下記を使用したが、本発明はこれらの実施例により何らの制限を受けるものではない。
NaSS:パラスチレンスルホン酸ナトリウム(純度98%、東京化成工業社製)
LiSS:パラスチレンスルホン酸リチウム(純度86%、東ソー・ファインケム株式会社製)
VBTAC:塩化ビニルベンジルトリメチルアンモニウム(純度99%、シグマアルドリッチ社製)
4VP:4-ビニルピリジン(純度96%、富士フィルム和光純薬株式会社製)
2VP:2-ビニルピリジン(純度97%、富士フィルム和光純薬株式会社製)
MAA:メタクリル酸(純度99%、富士フィルム和光純薬株式会社製)
St:スチレン(純度99%、富士フィルム和光純薬株式会社製)
αMSt:α-メチルスチレン(純度99%、東京化成工業株式会社製)
PNA:N,N-フェニル-1-ナフチルアミン(純度98%、東京化成工業社製)V-501:4,4’-アゾビス-(4-シアノペンタン酸)(純度98%、富士フィルム和光純薬株式会社製)
V-50:2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド(純度97%、富士フィルム和光純薬株式会社製)
TGL:3-メルカプト-1,2-プロパンジオール(純度97%、富士フィルム和光純薬株式会社製)
P-NaSS:ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(分子量7万、シグマアルドリッチ社製)
CPD:4-シアノペンタン酸ジチオベンゾエート(公知の方法(Y.MitsukamiらMacromolecules 2001年,34,2248~2256頁)に従って合成した)
【0069】
重合例1
リビングラジカル重合法の一つであるRAFT(可逆的付加開裂移動)重合法の適用性を確認した。
【0070】
VBTAC(212mg,1.00mmol)、NaSS(206mg,1.00mmol)、RAFT剤CPD(5.61mg,0.20mmol)、開始剤V-501(2.86mg,0.10mmol)を1.2MのNaClを含む重水(1.8mL)とメタノール(0.2mL)に溶解した(モル比[VBTAC]/[NaSS]/[CPD]/[V-501]=50/50/10/5)。
【0071】
溶液をNMR管に移し、アルゴンバブリングにより脱酸素した後、NMR装置内で温度を70℃に保ちながら重合を行った。適当な時間間隔で反応系のNMRスペクトルを測定し、化学シフト5.7ppmに観測されるビニル基由来の積分強度の減少割合から重合転化率を算出した。
【0072】
VBTACとNaSSのビニル基のピークは重なったため、VBTACとNaSSのトータルのモノマーの重合転化率を見積った。図1に示したように、4.5分間の誘導期の後、重合転化率は重合時間と共に増加した。一次プロットは、4.5分から100分間まで直線的に増加したため、この重合は一次の反応機構に従うことが判った。即ち、重合反応中の成長ラジカル濃度は一定であり、重合がリビング的に進行していることを確認した。
【0073】
RAFT剤を用いたリビング重合の場合、理論重合度と理論数平均分子量は、下記の計算式から算出できる。
理論重合度=(モノマーの初期濃度)/(RAFT剤の初期濃度)×(重合転化率/100)
理論数平均分子量=理論重合度×モノマー分子量+RAFT剤の分子量
【0074】
実施例1
<RAFT重合法によるNaSS/VBTAC共重合体の合成>
重合例1により、RAFT剤を用いてNaSSとVBTACをリビングラジカル共重合できることを確認できたため、本法によりトータル理論重合度20のNaSS/VBTAC共重合体を合成した。
【0075】
即ち、二方コック付きの25mlナス型フラスコにVBTAC(530mg,2.51mmol)、NaSS(546mg,2.65mmol)、RAFT剤CPD(69.8mg,0.250mmol)、開始剤V-501(35.0mg,0.125mmol)、1.2MのNaClを含む水溶液(4.50mL)とメタノール(0.502mL)を仕込んで溶解し、均一溶液とした(モル比[VBTAC]/[NaSS]/[CPD]/[V-501]=10/10/1/0.5)。
【0076】
溶液を凍結-脱気法により脱酸素した後、アルゴン雰囲気下、70℃で5時間加熱しながら重合した。重合終了後、重合溶液をプロトンNMR測定した結果、ビニル基の減少から重合転化率は99.2%であることが判った。
【0077】
反応混合物である重合溶液を、セルロースチューブ透析膜36/32(積水メディカル株式会社製)を用いて1.2MのNaCl水溶液に対して2日間、次に純水に対して1日間透析した。その後、凍結乾燥によりポリマーを回収した(689mg、64.0%)。当該ポリマー P(VBTAC/NaSS)20の理論数平均分子量は4.18×10g/molである。
【0078】
<ポリマーの同定:全反射赤外吸収スペクトル測定>
3033cm-1および2923cm-1に観測される特徴的なピークは、それぞれ芳香族と脂肪族のC-H伸縮による。1623cm-1と1482cm-1に観測されるピークは芳香族の炭素-炭素二重結合の伸縮振動と、アルキルのC-Hの伸縮振動を示す。1183cm-1にスルホネート基由来のピークが観測された。ポリマーの構造上、空気中の水分を吸着してしまうため3400cm-1に水由来のO-H伸縮反応が観測された(図2(a))。
【0079】
<ポリマーの同定:プロトンNMR測定>
1.2Mの食塩を含む重水中、80℃で測定したプロトンNMRスペクトルを図3(a)に示した。尚、ポリマーを溶媒に完全に溶解するためにUCSTより高い80℃に昇温して測定した。主鎖のプロトンのシグナルは、化学シフト0.8ppmから2.3 ppmに観測された。化学シフト6.2ppmから7.8ppmに観測された側鎖のフェニルプロトンと、化学シフト2.9ppmのVBTAC側鎖のメチレンプロトンの積分強度比から、ポリマー中のVBTAC含量は48mol%であることが判った。即ち、共重合体中のVBTACとNaSSのモル比はほぼ等しいと考えられる。
【0080】
<ポリマーのUCST挙動の確認:水溶液の光透過率の測定>
先ず、一定ポリマー濃度における相転移温度の食塩濃度依存性、即ち、ポリマー濃度2.0g/L、食塩濃度0~0.2Mでの相転移温度を決定するため、溶液温度とポリマー水溶液の光透過率の関係を調べた。ポリマーは常温では水に溶けなかったが、加熱によって完全に溶解し、透明(即ち、光透過率がほぼ100%)になった。冷却すると再び不溶化したことから、当該ポリマーがUCSTを示すことを確認した。
【0081】
冷却過程での光透過率の変化を示したのが図4(a)であり、食塩濃度により、相転移温度を容易に制御できることが明らかである。
【0082】
次に、一定食塩濃度における相転移温度のポリマー濃度依存性、即ち、食塩濃度0.1M、ポリマー濃度1.0~5.0g/Lでの相転移温度を決定するため、溶液温度とポリマー水溶液の光透過率の関係を調べた。先ずポリマー水溶液が完全に透明(即ち、光透過率がほぼ100%)になるまで加熱した後、冷却過程での光透過率の変化を示したのが図5(a)である。ポリマー濃度により、相転移温度を容易に制御できることが明らかである。
【0083】
<ポリマーのUCST挙動の確認:動的光散乱測定>
ポリマー濃度2.0g/L、食塩濃度0.1Mでサンプル溶液を調製し、冷却過程での流体力学的半径(Rh)と散乱強度(SI)の温度依存性を調べた。図6(a)に示したように、相転移付近、即ち50℃以下で急激にRhとSIが増加した。この温度は上記した光透過率測定による転移温度と良く一致した。
【0084】
相転移温度以上では、Rhは2.5nm、SIは107kcpsと小さく、一定であることから、相転移温度以上では、ポリマーがユニマー状態で溶解していることが示唆された。
【0085】
実施例2
実施例1と同様の方法でトータル理論重合度97のNaSS/VBTAC共重合体を合成した。即ち、二方コック付きの25mLナス型フラスコにVBTAC(529mg,2.50mmol)、NaSS(515mg,2.50mmol)、RAFT剤CPD(13.9mg,0.05mmol)、開始剤V-501(7.0mg,0.025mmol)、1.2MのNaClを含む水溶液(4.50mL)とメタノール(0.500mL)を仕込んで溶解し、均一溶液とした(モル比[VBTAC]/[NaSS]/[CPD]/[V-501]=50/50/1/0.5)。以下、実施例1と同様の方法でポリマーを回収した(720mg、68.0%)。当該ポリマーP(VBTAC/NaSS)97の理論数平均分子量は2.03×10g/molである。
【0086】
<ポリマーの全反射赤外吸収スペクトル測定>
図2(b)に示したように実施例1のP(VBTAC/NaSS)20と同じスペクトルが得られた。
【0087】
<ポリマーのプロトンNMR測定>
1.2Mの食塩を含む重水中、80℃で測定したプロトンNMRスペクトルを図3(b)に示した。図3(b)に示したように実施例1のP(VBTAC/NaSS)20とほぼ同じスペクトルが得られた。積分強度比からポリマー中のVBTAC含量は52mol%であり、共重合体中のVBTACとNaSSのモル比はほぼ等しいことを確認した。
【0088】
<ポリマーのUCST挙動の確認:水溶液の光透過率の測定>
実施例1と同様、ポリマーは常温では水に溶けなかったが、加熱によって完全に溶解し、透明(即ち、光透過率がほぼ100%)になった。冷却すると再び不溶化したことから、当該ポリマーがUCST性を示すことを確認した。
【0089】
実施例1と同様、ポリマー濃度2.0g/L、食塩濃度0.2~2.0Mで溶液温度と光透過率の関係を調べた。冷却過程での光透過率の変化を示したのが図4(b)であり、実施例1と同様、食塩濃度により、相転移温度を容易に制御できることが明らかである。
【0090】
次に、食塩濃度1.0M、ポリマー濃度0.5~3.0g/Lで溶液温度とポリマー水溶液の光透過率の関係を調べた。冷却過程での光透過率の変化を示したのが図5(b)であり、実施例1と同様、ポリマー濃度により、相転移温度を容易に制御できることが明らかである。また、相転移挙動のポリマー濃度及び塩濃度依存性が実施例1と異なることから、ポリマーの分子量によって相転移挙動を制御できることが明らかである。
【0091】
<ポリマーの温度応答性の確認:動的光散乱測定>
ポリマー濃度2.0g/L、食塩濃度1.0Mでサンプル溶液を調製し、冷却過程での流体力学的半径(Rh)と散乱強度(SI)の温度依存性を調べた。図6(b)に示したように、相転移付近、即ち50℃以下で急激にRhとSIが増加した。この温度は上記した光透過率測定による相転移温度と良く一致した。
【0092】
実施例1と同様、相転移温度以上では、Rhは4.0nm、SIは161kcpsと小さく、一定であることから、相転移温度以上では、ポリマーがユニマー状態で溶解していることが示唆された。
【0093】
実施例3 一般的なラジカル重合法 NaSS/VBTAC
<NaSS/VBTAC共重合体の合成>
窒素導入管、三方コック、ジムロート冷却器を取り付けた100mLガラス製四つ口フラスコにVBTAC(2.00g,9.35mmol)、NaSS(2.15g,9.35mmol、東ソー・ファインケム株式会社製、純度88.6%)、開始剤V-50(50.0mg,0.18mmol)、連鎖移動剤チオグリセロール(220.0mg,2.03mmol)、イオン交換水(75.0g)を仕込んで溶解し、均一溶液とした(モノマーモル比[VBTAC]/[NaSS]=50/50)。この溶液をアスピレーター減圧と窒素導入を繰り返すことで十分に脱気した後、窒素雰囲気下、磁気撹拌子で攪拌しながら60℃で24時間重合した。
【0094】
反応終了時の重合転化率は各モノマーそれぞれ100%、数平均分子量は600、重量平均分子量は1,100であった。当該ポリマーは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)溶離液(硫酸ナトリウム水溶液(0.05mol/L)/アセトニトリル=65/35(体積比)溶液)に可溶であり、重合転化率および数平均分子量の測定はGPCによるピーク面積比より算出した。
【0095】
当該ポリマー溶液は、反応温度60℃では透明溶液だったが、冷却すると55℃付近で不溶化して白濁し、60℃に再加熱すると再び透明溶液になったことから、一般的な溶液ラジカルで得られた当該ポリマーも実施例1及び2と同様にUCST性を有することが明らかである。
【0096】
<NaSS/VBTAC共重合体の耐加水分解性評価>
窒素導入管、三方コック、ジムロート冷却器を取り付けた50mLガラス製四つ口フラスコに上記ポリマー溶液を30ml仕込み、磁気撹拌子で攪拌しながら95℃で100時間加熱した。加熱前後でGPCを比較したところ、ピーク形状に変化は見られず、ピークトップも変化しなかった。また、加熱後も55℃付近にUCSTが観測されたことから、当該ポリマーが耐加水分解性に優れることが明らかである。
【0097】
実施例4 一般的なラジカル重合法 NaSS/VBTAC共重合体(溶媒変更)
窒素導入管、三方コック、ジムロート冷却器を取り付けた200mLガラス製四つ口フラスコに、VBTAC(2.50g,11.68mmol)、NaSS(2.71g,11.68mmol、東ソー・ファインケム株式会社製、純度88.8%)、開始剤V-50(200.0mg,0.74mmol)、連鎖移動剤チオグリセロール(100.0mg,0.92mmol)、イオン交換水(65.0g)、アセトニトリル(35.0g)を仕込んで溶解し、均一溶液とした(モノマーモル比[VBTAC]/[NaSS]=50/50)。この溶液をアスピレーター減圧と窒素導入を繰り返すことで十分に脱気を行った後、窒素雰囲気下、磁気撹拌子で攪拌しながら60℃で24時間重合した。
【0098】
反応終了時の重合転化率は各モノマーそれぞれ99%、数平均分子量は1,100、重量平均分子量は2,200であった。得られた共重合体(イオン交換水・アセトニトリル混合溶媒)は、反応時および室温冷却時いずれにおいても透明均一溶液であった。
【0099】
反応終了後、得られた共重合体を300mlナスフラスコに移液し、エバポレーターにてアセトニトリルを留去した。アセトニトリルを完全に留去したポリマー水溶液は、60℃では透明均一溶液だったが、冷却すると55℃付近で不溶化して白濁し、60℃に再加熱すると再び透明均一溶液になったことから、当該ポリマーも実施例1~3と同様にUCST性を有することが明らかである。
【0100】
当該ポリマーは、GPC溶離液(硫酸ナトリウム水溶液(0.05mol/L)/アセトニトリル=65/35(体積比)溶液)に可溶であり、重合転化率および数平均分子量の測定は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるピーク面積比より算出した。
【0101】
実施例5 NaSS/VBTAC/St共重合体(1)
窒素導入管、三方コック、ジムロート冷却器を取り付けた200mLガラス製四つ口フラスコにVBTAC(2.70g,12.62mmol)、NaSS(2.94g,12.62mmol、東ソー・ファインケム株式会社製、純度88.5%)、St(0.14g,1.32mmol)、開始剤V-50(260.0mg,0.96mmol)、連鎖移動剤チオグリセロール(260.0mg,2.36mmol)、イオン交換水(49.0g)、2-プロパノール(49.0g)を仕込んで溶解し、均一溶液とした(モノマーモル比[VBTAC]/[NaSS]/[St]=47.5/47.5/5.0)。この溶液をアスピレーター減圧と窒素導入を繰り返すことで十分に脱気を行った後、窒素雰囲気下、磁気撹拌子で攪拌しながら60℃で24時間重合した。反応終了時の重合転化率は各モノマーそれぞれ99%、数平均分子量は800、重量平均分子量は1,700であった。得られた共重合体(イオン交換水・2-プロパノール混合溶媒)は、反応時および室温冷却時いずれにおいても透明均一溶液であった。
【0102】
反応終了後、得られた共重合体を300mlナスフラスコに移液し、エバポレーターにて2-プロパノールを留去した。2-プロパノールを完全に留去したポリマー水溶液は、80℃では透明均一溶液だったが、冷却すると72℃付近で不溶化して白濁し、80℃に再加熱すると再び透明均一溶液になったことから、当該ポリマーも実施例1~4と同様にUCST性を有することが明らかである。尚、本実施例では、疎水性の非イオン性モノマーであるスチレンの共重合によって、UCSTが上昇したと考えられる。
【0103】
当該ポリマーは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)溶離液(硫酸ナトリウム水溶液(0.05mol/L)/アセトニトリル=65/35(体積比)溶液)に可溶であり、重合転化率および数平均分子量の測定はGPCによるピーク面積比より算出した。
【0104】
実施例6 NaSS/VBTAC/St共重合体(2)
窒素導入管、三方コック、ジムロート冷却器、磁気撹拌子を備えた200mLガラス製四つ口フラスコにVBTAC(2.70g、12.63mmol)、NaSS(2.94g、12.63mmol、東ソー・ファインケム株式会社製、純度88.6%)、St(0.25g、2.38mmol)、開始剤V-50(300.0mg、1.07mmol)、連鎖移動剤チオグリセロール(280.0mg、2.51mmol)、イオン交換水(60.00g)、2-プロパノール(60.00g)を仕込んで溶解し、均一溶液とした(イオン性モノマーモル比[VBTAC]/[NaSS]=50/50、全モノマー中のSt含量=8.6モル%)。この溶液をアスピレーター減圧と窒素導入を繰り返すことで十分に脱気を行った後、窒素雰囲気下、攪拌しながら60℃で24時間重合した。反応終了時の重合転化率は各モノマーそれぞれ99%、数平均分子量は900、重量平均分子量は1,800であった。得られた共重合体(イオン交換水・2-プロパノール混合溶媒)は、反応時および室温冷却時いずれにおいても透明均一溶液であった。
【0105】
反応終了後、得られた共重合体を300mlナスフラスコに移液し、エバポレーターにて2-プロパノールを留去した。2-プロパノールを完全に留去したポリマー水溶液は、80℃では透明均一溶液だったが、冷却すると75℃付近で不溶化して白濁し、80℃に再加熱すると再び透明均一溶液になったことから、当該ポリマーも実施例1~5と同様にUCST性を有することが明らかである。
【0106】
実施例7 NaSS/MAA/VBTAC共重合体
窒素導入管、三方コック、ジムロート冷却器、磁気撹拌子を備えた100mLガラス製四つ口フラスコにイオン交換水(35.00g)、MAA(0.26g、2.99mmol)、1N水酸化ナトリウム(2.00g、2.00mmol)、VBTAC(3.15g、14.73mmol)、NaSS(2.72g、11.69mmol、東ソー・ファインケム株式会社製、純度88.6%)、開始剤V-50(300.0mg、1.07mmol)、連鎖移動剤チオグリセロール(150.0mg、1.35mmol)、を仕込んで溶解し、均一溶液とした(イオン性モノマーモル比[VBTAC]/[NaSS+MAA]=50/50)。この溶液をアスピレーター減圧と窒素導入を繰り返すことで十分に脱気した後、窒素雰囲気下、攪拌しながら60℃で24時間重合した。
【0107】
反応終了時の重合転化率は各モノマーそれぞれ100%、数平均分子量は1,200、重量平均分子量は2,400であった。
【0108】
当該ポリマー溶液は、反応温度60℃では透明溶液だったが、冷却すると40℃付近で不溶化して白濁し、50℃に再加熱すると再び透明溶液になったことから、UCST性を有することが明らかである。
【0109】
実施例8 NaSS/2VP共重合体
窒素導入管、三方コック、ジムロート冷却器、磁気撹拌子を備えた1Lガラス製四つ口フラスコ(反応器)にイオン交換水(51.00g)を仕込み、窒素を流しながら系内の酸素を除去した。別の1Lガラス製二口フラスコに1N塩酸(375.00g、375.0mmol)、イオン交換水(300.00g)、2VP(40.00g、369.03mmol)、NaSS(86.00g、369.53mmol、東ソー・ファインケム株式会社製、純度88.6%)、連鎖移動剤チオグリセロール(2.90g、26.01mmol)を採取し、完全に溶解した後、開始剤V-50(3.20g、11.45mmol)を加えて溶解した(イオン性モノマーのモル比[2VP]/[NaSS]=50/50)。この溶液をアスピレーター減圧と窒素導入を繰り返すことで十分に脱気し、滴下用のモノマー溶液とした。窒素雰囲気下、このモノマー溶液を、定量ポンプを用いて反応器へ3時間かけて滴下しながら85℃で重合した。その後、85℃で2時間熟成した。
【0110】
反応終了時の重合転化率は各モノマーそれぞれ100%、数平均分子量は9,300、重量平均分子量は19,400であった。
【0111】
当該ポリマー溶液は、反応温度70℃では透明溶液だったが、冷却すると60℃付近で不溶化して白濁し、70℃に再加熱すると再び透明溶液になったことから、UCST性を有することが明らかである。
【0112】
実施例9 NaSS/4VP共重合体
窒素導入管、三方コック、ジムロート冷却器、磁気撹拌子を備えた100mLガラス製四つ口フラスコにイオン交換水(65.00g)、4VP(1.50 g、13.70mmol)を仕込んだ後、氷冷しながら1N塩酸(15.00g、15.0mmol)を加えて4VPを中和した。その後、NaSS(3.15g、13.54mmol、東ソー・ファインケム株式会社製、純度88.6%)、開始剤V-50(250.0mg、0.89mmol)、連鎖移動剤チオグリセロール(120.0mg、1.08mmol)を加えて溶解し、均一溶液とした(イオン性モノマーモル比[4VP]/[NaSS]=50/50)。この溶液をアスピレーター減圧と窒素導入を繰り返すことで十分に脱気した後、窒素雰囲気下、攪拌しながら60℃で24時間重合した。
【0113】
反応終了時の重合転化率は各モノマーそれぞれ100%、数平均分子量は1,300、重量平均分子量は2,600であった。
【0114】
当該ポリマー溶液は、反応温度60℃では透明溶液だったが、冷却すると50℃付近で不溶化して白濁し、60℃に再加熱すると再び透明溶液になったことから、UCST性を有することが明らかである。
【0115】
実施例10 NaSS/4VP/St共重合体
窒素導入管、三方コック、ジムロート冷却器、磁気撹拌子を備えた200mLガラス製四つ口フラスコにイオン交換水(30.0g)、2-プロパノール(40.0g)、4VP(1.35g、12.33mmol)を仕込み、氷冷しながら1N塩酸(13.50g、13.50mmol)を加えて4VPを中和した。その後、NaSS(2.85g、12.25mmol、東ソー・ファインケム株式会社製、純度88.6%)、St(0.14g、1.33mmol)、開始剤V-50(250.0mg、0.89mmol)、連鎖移動剤チオグリセロール(260.0mg、2.33mmol)を加えて溶解し、均一溶液とした(イオン性モノマーモル比[4VP]/[NaSS]=50/50、全モノマー中のSt含量=5.1モル%)。この溶液をアスピレーター減圧と窒素導入を繰り返すことで十分に脱気を行った後、窒素雰囲気下、攪拌しながら60℃で24時間重合した。反応終了時の重合転化率は各モノマーそれぞれ99%、数平均分子量は1,000、重量平均分子量は1,900であった。得られた共重合体(イオン交換水・2-プロパノール混合溶媒)は、反応時および室温冷却時いずれにおいても透明均一溶液であった。
【0116】
反応終了後、得られた共重合体を300mlナスフラスコに移液し、エバポレーターにて2-プロパノールを留去した。2-プロパノールを完全に留去したポリマー水溶液は、80℃では透明均一溶液だったが、冷却すると68℃付近で不溶化して白濁し、75℃に再加熱すると再び透明均一溶液になったことから、当該ポリマーはUCST性を有することが明らかである。尚、本実施例では、疎水性の非イオン性モノマーであるスチレンの共重合によって、UCSTが上昇したと考えられる。
【0117】
実施例11 NaSS/2VP/VBTAC共重合体
窒素導入管、三方コック、ジムロート冷却器、磁気撹拌子を備えた100mLガラス製四つ口フラスコにイオン交換水(80.00g)、1N塩酸(6.70g、6.70mmol)、2VP(0.70g、6.46mmol)、VBTAC(1.25g、5.85mmol)及びNaSS(2.85g、12.25mmol、東ソー・ファインケム株式会社製、純度88.6%)、開始剤V-50(250.0mg、0.89mmol)、連鎖移動剤チオグリセロール(120.0mg、1.08mmol)を仕込んで溶解し、均一溶液とした(イオン性モノマーモル比[2VP+VBTAC]/[NaSS]=50/50)。この溶液をアスピレーター減圧と窒素導入を繰り返すことで十分に脱気した後、窒素雰囲気下、攪拌しながら60℃で24時間重合した。
【0118】
反応終了時の重合転化率は各モノマーそれぞれ100%、数平均分子量は1,800、重量平均分子量は3,900であった。
【0119】
当該ポリマー溶液は、反応温度60℃では透明溶液だったが、冷却すると55℃付近で不溶化して白濁し、60℃に再加熱すると再び透明溶液になったことから、UCST性を有することが明らかである。
【0120】
実施例12 NaSS/四級化4VP共重合体
窒素導入管、三方コック、ジムロート冷却器、磁気撹拌子を備えた200mLガラス製四つ口フラスコに、4VP(1.38g、12.60mmol)、臭化エチル(純度99%、東京化成工業株式会社製)(1.39g、12.63mmol)、アセトニトリル(35.0g)、イオン交換水(65.0g)、NaSS(2.85g、12.25mmol、東ソー・ファインケム株式会社製、純度88.6%)、連鎖移動剤チオグリセロール(120.0mg、1.08mmol)を加えて、窒素雰囲気下50℃で10時間攪拌し、均一溶液とした(イオン性モノマーモル比[4VP]/[NaSS]=51/49)。常温まで冷却後、開始剤V-50(110.0mg、0.39mmol)を加えた後、アスピレーター減圧と窒素導入を繰り返すことで十分に脱気を行った後、攪拌しながら60℃で10時間重合した。
【0121】
反応終了時の重合転化率は各モノマーそれぞれ100%、数平均分子量は1,900、重量平均分子量は4,100であった。得られた共重合体(イオン交換水・アセトニトリル混合溶媒)は、反応時および室温冷却時いずれにおいても透明均一溶液であった。
【0122】
反応終了後、得られた共重合体を300mlナスフラスコに移液し、エバポレーターにてアセトニトリルを留去した。アセトニトリルを完全に留去したポリマー水溶液は、60℃では透明均一溶液だったが、冷却すると55℃付近で不溶化して白濁し、60℃に再加熱すると再び透明均一溶液になったことから、当該ポリマーも実施例1~11と同様にUCST性を有することが明らかである。
【0123】
実施例13 NaSS/四級化4VP/St共重合体
窒素導入管、三方コック、ジムロート冷却器、磁気撹拌子を備えた200mLガラス製四つ口フラスコに、4VP(1.38g、12.60mmol)、臭化エチル(純度99%、東京化成工業株式会社製、1.39g、12.63mmol)、St(0.14g、1.33mmol)、2-プロパノール(55.0g)、イオン交換水(65.0g)、NaSS(2.85g、12.25mmol、東ソー・ファインケム株式会社製、純度88.6%)、連鎖移動剤チオグリセロール(120.0mg、1.08mmol)を仕込んで、窒素雰囲気下50℃で10時間攪拌した(イオン性モノマーモル比[4VP]/[NaSS]=51/49、全モノマー中のSt含量=5.0モル%)。室温まで冷却後、開始剤V-50(250.0mg、0.89mmol)を加えた後、アスピレーター減圧と窒素導入を繰り返すことで十分に脱気を行った後、窒素雰囲気下、攪拌しながら60℃で24時間重合した。
【0124】
反応終了時の重合転化率は各モノマーそれぞれ99%、数平均分子量は1,700、重量平均分子量は3,500であった。得られた共重合体(イオン交換水・アセトニトリル混合溶媒)は、反応時および室温冷却時いずれにおいても透明均一溶液であった。
【0125】
反応終了後、得られた共重合体を300mlナスフラスコに移液し、エバポレーターにて2-プロパノールを留去した。アセトニトリルを完全に留去したポリマー水溶液は、70℃では透明均一溶液だったが、冷却すると60℃付近で不溶化して白濁し、70℃に再加熱すると再び透明均一溶液になったことから、当該ポリマーはUCST性を有することが明らかである。
【0126】
実施例14 LiSS/VBTAC共重合体
窒素導入管、三方コック、ジムロート冷却器、磁気撹拌子を備えた200mLガラス製四つ口フラスコにVBTAC(2.00g、9.35mmol)、LiSS(2.05g、9.27mmol、東ソー・ファインケム株式会社製、純度86.00%)、開始剤V-50(200.0mg、0.715mmol)、連鎖移動剤チオグリセロール(60.0mg、0.538mmol)、イオン交換水(75.0g)を仕込んで溶解し、均一溶液とした(イオン性モノマーモル比[VBTAC]/[LiSS]=50/50)。この溶液をアスピレーター減圧と窒素導入を繰り返すことで十分に脱気した後、窒素雰囲気下、攪拌しながら60℃で24時間重合した。
【0127】
反応終了時の重合転化率は各モノマーそれぞれ100%、数平均分子量は1,400、重量平均分子量は2,600であった。
【0128】
当該ポリマー溶液は、反応温度60℃では透明溶液だったが、冷却すると55℃付近で不溶化して白濁し、60℃に再加熱すると再び透明溶液になったことから、当該ポリマーはUCST性を有することが明らかである。
【0129】
実施例15 NaSS/4VP/αMSt共重合体
窒素導入管、三方コック、ジムロート冷却器、磁気撹拌子を備えた200mLガラス製四つ口フラスコにイオン交換水(30.0g)、2-プロパノール(40.0g)、4VP(1.35g、12.33mmol)を仕込み、氷冷しながら1N塩酸(13.50g、13.50mmol)を加えて4VPを中和した。その後、NaSS(2.85g、12.25mmol、東ソー・ファインケム株式会社製、純度88.6%)、αMSt(0.14g、1.17mmol)、開始剤V-50(250.0mg、0.89mmol)、連鎖移動剤チオグリセロール(260.0mg、2.33mmol)を加えて溶解し、均一溶液とした(イオン性モノマーモル比[4VP]/[NaSS]=50/50、全モノマー中のαMSt含量=4.8モル%)。この溶液をアスピレーター減圧と窒素導入を繰り返すことで十分に脱気を行った後、窒素雰囲気下、攪拌しながら60℃で24時間重合した。
【0130】
反応終了時の重合転化率は各モノマーそれぞれ99%、数平均分子量は1,200、重量平均分子量は2,300であった。得られた共重合体(イオン交換水・2-プロパノール混合溶媒)は、反応時および室温冷却時いずれにおいても透明均一溶液であった。
【0131】
反応終了後、得られた共重合体を300mlナスフラスコに移液し、エバポレーターにて2-プロパノールを留去した。2-プロパノールを完全に留去したポリマー水溶液は、80℃では透明均一溶液だったが、冷却すると70℃付近で不溶化して白濁し、80℃に再加熱すると再び透明均一溶液になったことから、当該ポリマーはUCST性を有することが明らかである。尚、本実施例では、疎水性の非イオン性モノマーであるスチレンの共重合によって、UCSTが上昇したと考えられる。
【0132】
実施例16 NaSS/2VP共重合体
窒素導入管、三方コック、ジムロート冷却器、磁気撹拌子を備えた200mLガラス製四つ口フラスコにイオン交換水(10.0g)、2VP(4.00g、36.90mmol)を仕込み、氷冷しながら1N塩酸(36.90g、36.90mmol)を加えて2VPを中和した。その後、NaSS(8.59g、36.91mmol、東ソー・ファインケム株式会社製、純度88.6%)、開始剤V-50(203.0mg、0.73mmol)、連鎖移動剤チオグリセロール(201.0mg、1.80mmol)を加えた(イオン性モノマーモル比[2VP]/[NaSS]=50/50。この溶液をアスピレーター減圧と窒素導入を繰り返すことで十分に脱気を行った後、窒素雰囲気下、攪拌しながら60℃で24時間重合した。
【0133】
反応終了時の重合転化率は各モノマーそれぞれ99%、数平均分子量は54,000、重量平均分子量は120,000であった。得られた共重合体は、反応時および室温冷却時いずれにおいても黄白色の不均一溶液であった。得られた共重合物溶液をそのまま80℃まで加熱したところ、80℃では淡黄色均一溶液となったが、冷却すると70℃付近で不溶化して白濁し、80℃に再加熱すると再び淡黄色均一溶液になったことから、当該ポリマーはUCST性を有することが明らかである。尚、実施例8と比較し、本実施例では、ポリマーが高分子量化したことによって、UCSTが上昇したと考えられる。
【0134】
実施例17 駆動溶液としての利用(1)
<NaSS/VBTAC共重合体の合成>
窒素導入管、三方コック、ジムロート冷却器、磁気撹拌子を備えた1Lガラス製四つ口フラスコ(反応器)にイオン交換水(55.0g)を仕込み、窒素を流しながら系内の酸素を除去した。別の1Lガラス製二口フラスコにVBTAC(54.98g、257.04mmol)、NaSS(59.17g、254.24mmol、東ソー・ファインケム株式会社製、純度88.6%)、開始剤V-50(6.80g、 24.32mmol)、連鎖移動剤チオグリセロール(1.54g、13.81mmol)、イオン交換水(551.30g)を採取して溶解し、均一溶液とした(イオン性モノマーのモル比[VBTAC]/[NaSS]=50/50)。この溶液をアスピレーター減圧と窒素導入を繰り返すことで十分に脱気し、滴下用のモノマー溶液とした。窒素雰囲気下、このモノマー溶液を定量ポンプを用いて反応器へ3時間かけて滴下しながら70℃で重合した。その後、70℃で5時間熟成した。反応終了時の重合転化率は各モノマーそれぞれ100%だった。
【0135】
反応溶液を25℃で一晩静置した後、デカンテーションにより上澄みを廃棄した。回収したポリマー溶液をロータリーエバポレータで濃縮後、フッ素樹脂製のバットに広げ、105℃で10時間真空乾燥し、乾燥ポリマーを99.6g取得した。当該乾燥ポリマーはゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)溶離液(硫酸ナトリウム水溶液(0.05mol/L)/アセトニトリル=65/35(体積比)溶液)に可溶であり、数平均分子量は1,000、重量平均分子量は2,300であった。
【0136】
<ポリマー溶液の相平衡>
所定量のイオン交換水と乾燥ポリマーを混合し、完全溶解するまで加熱した。その後、放冷しながら光透過率の変化(透過率が急激に低下=相分離する温度)を測定することにより、ポリマー水溶液の相平衡図を作成した。図7に示したように、高濃度では広い温度域で水に溶解し、低濃度では狭い温度域でしか水に溶解しないことが明らかである。
【0137】
<浸透圧の測定>
上記と同様の手順で20~50wt%のポリマー水溶液を調製し、50℃の水分活性を測定し、換算式により50℃の浸透圧を算出した。
図8に示したように、20wt%ポリマー水溶液の浸透圧は30barだったが、50wt%ポリマー水溶液の浸透圧は146barと高く、3.5wt%塩化ナトリウム水溶液(海水に相当)の浸透圧30barよりも十分高かった。即ち、当該ポリマーの50wt%溶液は、温海水よりも浸透圧が高いため、逆浸透膜のように温海水側に高い圧力を掛けなくても、正浸透(半透)膜を介して温海水から水を吸収することが出来る。例えば、水を吸収して20wt%まで濃度低下したポリマー溶液は、図7に示したように、少なくとも40℃まで冷却すれば二相分離するため、淡水とポリマーの濃厚溶液へ分離することが出来る。よって、当該ポリマーの濃厚溶液は、正浸透膜水処理システムの駆動溶液として利用できる。実施例3に示したように、当該ポリマーは耐加水分解性に優れるため、長期間の繰り返し再利用が可能と考えられる。
【0138】
実施例18 駆動溶液としての利用(2)
<NaSS/VBTAC/St共重合体の合成>
窒素導入管、三方コック、ジムロート冷却器、磁気撹拌子を備えた3Lガラス製四つ口フラスコ(反応器)にイオン交換水(80.0g)、2-プロパノール(80.0g)を仕込み、窒素を流しながら系内の酸素を除去した。別の3Lガラス製二口フラスコにVBTAC(54.0g、252.49mmol)、NaSS(58.6g、251.79mmol、東ソー・ファインケム株式会社製、純度88.6%)、St(2.80g、26.62mmol)、開始剤V-50(6.80g、25.07mmol)、連鎖移動剤チオグリセロール(5.20g、46.64mmol)、イオン交換水(900.00g)、2-プロパノール(900.00g)を採取して溶解し、均一溶液とした(イオン性モノマーモル比[VBTAC]/[NaSS]=50/50、全モノマー中に対するSt含量=5.01モル%)。この溶液をアスピレーター減圧と窒素導入を繰り返すことで十分に脱気し、滴下用のモノマー溶液とした。窒素雰囲気下、このモノマー溶液を定量ポンプを用いて反応器へ3時間かけて滴下しながら75℃で重合した。その後、75℃で5時間熟成した。反応終了時の重合転化率は各モノマーそれぞれ100%だった。
【0139】
ロータリーエバポレータを用いてポリマー溶液から2-プロパノールと水を合計960g留去した後、25℃で一晩静置した後、デカンテーションにより上澄みを廃棄した。回収したポリマー溶液をフッ素樹脂製のバットに広げ、105℃で10時間真空乾燥し、乾燥ポリマーを101.20g取得した。当該乾燥ポリマーはゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)溶離液(硫酸ナトリウム水溶液(0.05mol/L)/アセトニトリル=65/35(体積比)溶液)に可溶であり、数平均分子量は1,000、重量平均分子量は1,900であった。
【0140】
<ポリマー溶液の相平衡>
所定量のイオン交換水と上記乾燥ポリマーを混合し、完全溶解するまで加熱した。その後、徐冷しながら光透過率の変化(透過率が急激に低下=ポリマーが析出する温度)を観測することにより、ポリマー水溶液の相平衡図を作成した。図9に示したように、高濃度では広い温度域で水に溶解し、低濃度では狭い温度域でしか水に溶解しないことが明らかである。実施例17よりも分子量が小さいにも関わらず、相転移温度が高くなったのは、疎水性Stを共重合したためと考えられる。
【0141】
<ポリマーの耐加水分解性評価>
窒素導入管、三方コック、ジムロート冷却器を取り付けた50mLガラス製四つ口フラスコに上記ポリマーの20wt%溶液を30ml仕込み、磁気撹拌子で攪拌しながら95℃で100時間加熱した。加熱前後でGPCを比較したところ、ピーク形状に変化は見られず、ピークトップも変化しなかった。また、加熱後も75℃付近に相転移温度が観測されたことから、当該ポリマーが耐加水分解性に優れることが明らかである。
【0142】
<浸透圧の測定>
上記と同様の手順で30~50wt%のポリマー水溶液を調製し、50℃で水分活性を測定し、換算式により浸透圧を算出した。
図10に示したように、20wt%ポリマー水溶液の浸透圧は30barだったが、50wt%ポリマー水溶液の浸透圧は152barと高く、3.5wt%塩化ナトリウム水溶液(海水に相当)の浸透圧30barよりも十 分高かった。即ち、当該ポリマーの50wt%溶液は、温海水よりも浸透圧 が高いため、逆浸透膜のように温海水側に高い圧力を掛けなくても、正浸透(半透)膜を介して温海水から水を吸収することが出来る。例えば、水を吸収して30wt%まで濃度低下したポリマー溶液は、図9に示したように、少なくとも55℃まで冷却すれば二相分離するため、淡水とポリマーの濃厚 溶液へ分離することが出来る。よって、当該ポリマーの濃厚溶液は、正浸透膜水処理システムの駆動溶液として利用できる。さらに、当該ポリマーは耐加水分解性に優れるため、長期間の繰り返し再利用が可能と考えられる。
【0143】
実施例19 駆動溶液としての利用(3)
<LiSS/4VP/St共重合体の合成>
窒素導入管、三方コック、ジムロート冷却器、磁気撹拌子を備えた3Lガラス製四つ口フラスコ(反応器)にイオン交換水(80.0g)、2-プロパノール(80.0g)を仕込み、窒素を流しながら系内の酸素を除去した。別の3Lガラス製二口フラスコにイオン交換水(850.00g)、1N塩酸(282.00g、282.0mmol)、2-プロパノール(1120.00g)を採取した後、4VP(30.60g、279.399mmol)をゆっくり加えた。常温まで冷却後、LiSS(61.50g、278.16mmol、東ソー・ファインケム株式会社製、純度86.0%)、St(3.60g、30.16mmol)、開始剤V-50(7.50g、26.83mmol)、連鎖移動剤チオグリセロール(1.80g、16.14mmol)を加えて溶解し、均一溶液とした(イオン性モノマーモル比[4VP]/[LiSS]=50/50、全モノマー中に対するSt含量=5.13モル%)。この溶液をアスピレーター減圧と窒素導入を繰り返すことで十分に脱気し、滴下用のモノマー溶液とした。窒素雰囲気下、このモノマー溶液を定量ポンプを用いて反応器へ3時間かけて滴下しながら75℃で重合した。その後、75℃で5時間熟成した。反応終了時の重合転化率は各モノマーそれぞれ100%だった。
【0144】
ロータリーエバポレータを用いてポリマー溶液から2-プロパノールと水を合計960g留去した後、25℃で一晩静置した後、デカンテーションにより上澄みを廃棄した。回収したポリマー溶液をフッ素樹脂製のバットに広げ、105℃で10時間真空乾燥し、乾燥ポリマーを101.20g取得した。当該乾燥ポリマーはゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)溶離液(硫酸ナトリウム水溶液(0.05mol/L)/アセトニトリル=65/35(体積比)溶液)に可溶であり、数平均分子量は1,200、重量平均分子量は2,300であった。
【0145】
<ポリマー溶液の相平衡>
所定量のイオン交換水と上記乾燥ポリマーを混合し、完全溶解するまで加熱した。その後、徐冷しながら光透過率の変化(透過率が急激に低下=ポリマーが析出する温度)を観測することにより、ポリマー水溶液の相平衡図を作成した。図11に示したように、高濃度では広い温度域で水に溶解し、低濃度では狭い温度域でしか水に溶解しないことが明らかである。
【0146】
<ポリマーの耐加水分解性評価>
窒素導入管、三方コック、ジムロート冷却器を取り付けた50mLガラス製四つ口フラスコに上記ポリマーの20wt%溶液を30ml仕込み、磁気撹拌子で攪拌しながら95℃で100時間加熱した。加熱前後でGPCを比較したところ、ピーク形状に変化は見られず、ピークトップも変化しなかった。また、加熱後も70℃付近に相転移温度が観測されたことから、当該ポリマーが耐加水分解性に優れることが明らかである。
【0147】
<浸透圧の測定>
上記と同様の手順で30~50wt%のポリマー水溶液を調製し、50℃で水分活性を測定し、換算式により浸透圧を算出した。図12に示したように、20wt%ポリマー水溶液の浸透圧は31barだったが、50wt%ポリマー水溶液の浸透圧は172barと高く、3.5wt%塩化ナトリウム水溶液(海水に相当)の浸透圧30barよりも十 分高かった。実施例16及び17よりも高い浸透圧が発現したのは、リチウムイオンの効果と推察される。即ち、当該ポリマーの50wt%溶液は、温 海水よりも浸透圧が高いため、逆浸透膜のように温海水側に高い圧力を掛けなくても、正浸透(半透)膜を介して温海水から水を吸収することが出来る。例えば、水を吸収して30wt%まで濃度低下したポリマー溶液は、図11に示したように、50℃以下まで冷却すれば二相分離するため、淡水とポリマーの濃厚溶液へ分離することが出来る。よって、当該ポリマーの濃厚溶 液は、正浸透膜水処理システムの駆動溶液として利用できる。さらに、当該ポリマーは耐加水分解性に優れるため、長期間の繰り返し再利用が可能と考 えられる。
【0148】
比較例1 NaSS/VBTAC=65/35モル比
窒素導入管、三方コック、ジムロート冷却器を取り付けた100mLガラス製四つ口フラスコにVBTAC(0.407g,1.90mmol)、NaSS(0.82g,3.53mmol、東ソー・ファインケム株式会社製、純度88.6%)、開始剤V-50(30.0mg,0.11mmol)、連鎖移動剤チオグリセロール(55.0mg,0.51mmol)、イオン交換水(23.0g)を仕込んで溶解し、均一溶液とした(モノマーモル比[VBTAC]/[NaSS]=35/65)。この溶液をアスピレーター減圧と窒素導入を繰り返すことで十分に脱気を行った後、窒素雰囲気下、磁気撹拌子で攪拌しながら60℃で24時間重合した。
【0149】
反応終了時の重合転化率は各モノマーそれぞれ100%、数平均分子量は1,300、重量平均分子量は2,400であった。当該ポリマーは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)溶離液(硫酸ナトリウム水溶液(0.05mol/L)/アセトニトリル=65/35(体積比)溶液)に可溶であり、重合転化率および数平均分子量の測定はGPCによるピーク面積比より算出した。
【0150】
当該ポリマー溶液は透明均一溶液であり、0℃まで冷却しても白濁しかなかったことから、当該ポリマーはUCST性を示さないことが明らかである。
【0151】
比較例2 NaSS/VBTAC=35/65モル比
窒素導入管、三方コック、ジムロート冷却器を取り付けた100mLガラス製四つ口フラスコにVBTAC(0.62g,2.90mmol)、NaSS(0.36g,1.56mmol、東ソー・ファインケム株式会社製、純度88.6%)、開始剤V-50(24.5mg,0.10mmol)、連鎖移動剤チオグリセロール(44.0mg,0.41mmol)、イオン交換水(19.0g)を仕込んで溶解し、均一溶液とした(モノマーモル比[VBTAC]/[NaSS]=65/35)。この溶液をアスピレーター減圧と窒素導入を繰り返すことで十分に脱気を行った後、窒素雰囲気下、磁気撹拌子で攪拌しながら60℃で24時間重合した。
【0152】
反応終了時の重合転化率は各モノマーそれぞれ100%、数平均分子量は600、重量平均分子量は800であった。当該ポリマーはゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)溶離液(硫酸ナトリウム水溶液(0.05mol/L)/アセトニトリル=65/35(体積比)溶液)に可溶であり、重合転化率および数平均分子量の測定はGPCによるピーク面積比より算出した。
【0153】
当該ポリマー溶液は反応温度60℃では透明均一溶液であり、0℃まで冷却しても透明だったことから、当該ポリマーはUCST性を示さないことが明らかである。
【0154】
比較例3 NaSS/4VP=70/30モル比
窒素導入管、三方コック、ジムロート冷却器、磁気撹拌子を備えた100mLガラス製四つ口フラスコにイオン交換水(60.00g)、1N塩酸(6.39g、6.39mmol)、4VP(0.70g、6.39mmol)、NaSS(3.50g、15.04mmol、東ソー・ファインケム株式会社製、純度88.6%)、連鎖移動剤チオグリセロール(60.0mg、0.54mmol)開始剤V-50(170.0mg、0.61mmol)を仕込んで溶解し、均一溶液とした(イオン性モノマーモル比[4VP]/[NaSS]=30/70)。この溶液をアスピレーター減圧と窒素導入を繰り返すことで十分に脱気を行った後、窒素雰囲気下、攪拌しながら60℃で24時間重合した。
【0155】
反応終了時の重合転化率は各モノマーそれぞれ100%、数平均分子量は2,400、重量平均分子量は4,900であった。
【0156】
当該ポリマー溶液は透明均一溶液であり、0℃まで冷却しても白濁しかなかったことから、当該ポリマーはUCST性を示さないことが明らかである。
【0157】
比較例4 NaSS/4VP=30/70モル比
窒素導入管、三方コック、ジムロート冷却器、磁気撹拌子を備えた100mLガラス製四つ口フラスコにイオン交換水(40.00g)、1N塩酸(20.08g、20.08mmol)を仕込み、氷冷しながら4VP(2.20g、20.09mmol)を加えた。常温まで戻してからNaSS(2.00g、8.59mmol、東ソー・ファインケム株式会社製、純度88.6%)、連鎖移動剤チオグリセロール(50.0mg、0.45mmol)、開始剤V-50(230.0mg、0.82mmol)を仕込んで溶解し、均一溶液とした(モノマーモル比[4VP]/[NaSS]=70/30)。この溶液をアスピレーター減圧と窒素導入を繰り返すことで十分に脱気を行った後、窒素雰囲気下、攪拌しながら60℃で24時間重合した。
【0158】
反応終了時の重合転化率は各モノマーそれぞれ100%、数平均分子量は5,400、重量平均分子量は11,300であった。
【0159】
当該ポリマー溶液は透明均一溶液であり、0℃まで冷却しても白濁しかなかったことから、当該ポリマーはUCST性を示さないことが明らかである。
【0160】
比較例5 酢酸ビニル/N-ビニルピロリドン共重合体の合成と評価
<共重合体の調製>
UCST性ポリマーとして報告されている酢酸ビニル/N-ビニルピロリドン共重合体(米国特許3,386,912参照)を調製した。
【0161】
窒素導入管、三方コック、ジムロート冷却器、磁気撹拌子を備えた300mLガラス製四つ口フラスコに酢酸ビニル(東京化成工業株式会社製、純度99%、8.00g、92.0mmol)、N-ビニルピロリドン(東京化成工業株式会社製、純度99%、12.00g、106.9mmol)、開始剤V-601(富士フィルム和光純薬株式会社製、2.100g、9.10mmol)、イオン交換水(50.00g)、2-プロパノール(50.00g)を仕込んで溶解し、均一溶液とした(モノマーモル比[酢酸ビニル]/[N-ビニルピロリドン]=40/60)。この溶液をアスピレーター減圧と窒素導入を繰り返すことで十分に脱気した後、窒素雰囲気下、攪拌しながら70℃で20時間重合した。
【0162】
反応終了時の重合転化率は各モノマーそれぞれ100%、数平均分子量は2,000、重量平均分子量は8,000であった。
【0163】
重合溶液は透明均一溶液だったが、ロータリーエバポレータで2-プロパノールを留去した所、やや白濁した。そのため、温度応答性を調べたが、明瞭な転移温度は測定できなかった。
【0164】
<浸透圧の測定>
上記ポリマーの50wt%水溶液を調製し(やや白濁)、50℃で浸透圧を測定した結果は11barであり、海水よりも低かったことから、正浸透膜水処理システムの駆動溶液としての利用は難しいと考えられる。
【0165】
比較例6 NaSS単独重合体
窒素導入管、三方コック、ジムロート冷却器、磁気撹拌子を備えた300 mLガラス製四つ口フラスコにイオン交換水(131.00g)、NaSS(30.01g、128.95mmol、東ソー・ファインケム株式会社製、純度88.6%)、連鎖移動剤チオグリセロール(1.40g、12.53mmol)、開始剤V-50(1.01g、3.61mmol)を仕込んで溶解し、均一溶液とした。この溶液をアスピレーター減圧と窒素導入を繰り返すことで十分に脱気を行った後、窒素雰囲気下、攪拌しながら60℃で24時間重合した。
【0166】
反応終了時の重合転化率は100%、数平均分子量は1,400、重量平均分子量は2,700であった。
【0167】
当該ポリマーの50wt%水溶液の浸透圧は119barであり、海水よりも十分高かったが、5~50wt%水溶液は0℃まで冷却しても白濁しかなかった。即ち、当該ポリマーはカチオン性モノマー由来の重合単位を含まないため、UCST性を示さなかったことが明らかである。
【0168】
比較例7 NaSS/2VP共重合体
窒素導入管、三方コック、ジムロート冷却器、磁気撹拌子を備えた200mLガラス製四つ口フラスコにイオン交換水(10.0g)、2VP(4.00g、36.90mmol)を仕込み、氷冷しながら1N塩酸(36.90g、36.90mmol)を加えて2VPを中和した。その後、NaSS (8.59g、36.91mmol、東ソー・ファインケム株式会社製、純度88.6%)開始剤V-50(203.0mg、0.73mmol)、連鎖移動剤チオグリセロール(105.0mg、0.94mmol)を加えた(イオン性モノマーモル比[2VP]/[NaSS]=50/50。この溶液をアスピレーター減圧と窒素導入を繰り返すことで十分に脱気を行った後、窒素雰囲気下、攪拌しながら60℃で24時間重合した。
【0169】
反応終了時の重合転化率は各モノマーそれぞれ99%、数平均分子量は110,000、重量平均分子量は240,000であった。得られた共重合体は、反応時および室温冷却時いずれにおいても黄白色の不均一溶液であった。得られた共重合物をそのままの濃度で90℃まで加熱したが、その外観は黄白色の不均一溶液のままであり、当該ポリマーはUCST性を示さないことが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0170】
本発明の新規なポリスチレンベースのポリアンホライトは、数少ない上限臨界溶液温度(UCST)型の感熱応答性ポリマーであり、ドラッグデリバリーシステム、遺伝子治療、バイオセパレーション、バイオイメージング、カテーテル、人工筋肉、熱光学光スイッチ、触媒、分散剤、正浸透膜法水処理システムの駆動溶液など広範な用途への利用が期待できる。

図1
図2
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図10
図11
図12