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特許7349508リチウムイオン電池のカソード生産のための分散剤としてのポリビニルピロリドン
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  • 特許-リチウムイオン電池のカソード生産のための分散剤としてのポリビニルピロリドン 図1
  • 特許-リチウムイオン電池のカソード生産のための分散剤としてのポリビニルピロリドン 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-13
(45)【発行日】2023-09-22
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池のカソード生産のための分散剤としてのポリビニルピロリドン
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20230914BHJP
   H01M 4/1391 20100101ALI20230914BHJP
   H01M 4/1397 20100101ALI20230914BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20230914BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20230914BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20230914BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20230914BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/1391
H01M4/1397
H01M4/485
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/58
H01M4/62 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021560843
(86)(22)【出願日】2019-04-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-18
(86)【国際出願番号】 CN2019084562
(87)【国際公開番号】W WO2020215316
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】ガオ、ポン
(72)【発明者】
【氏名】ワン、タオ
(72)【発明者】
【氏名】チャン、チー
(72)【発明者】
【氏名】チャン、シン
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-097946(JP,A)
【文献】特開2012-009227(JP,A)
【文献】特開2017-054649(JP,A)
【文献】国際公開第2019/031508(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M 10/05-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池のカソードを作製するプロセスであって、前記プロセスが、活物質、ナノサイズ導電剤、バインダーポリマー、溶媒、および分散剤のスラリーを形成するステップを含み、
前記溶媒が、N,N-ジメチルプロピオンアミドを含み
前記分散剤が、ポリビニルピロリドンを含む、プロセス。
【請求項2】
前記溶媒が、N,N-ジメチルアセトアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアセトアミド、γ-バレロラクトン、およびリン酸トリエチルのうちの少なくとも1つをさらに含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記ナノサイズ導電剤が、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン、またはナノグラファイトである、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記バインダーポリマーが、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)である、請求項1~のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記活物質が、コバルト酸リチウ、マンガン酸リチウ、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化、リン酸鉄リチウ、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化、およびチタン酸リチウのうちの1つ以上である、請求項1~のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載のプロセスによって作製されたカソード。
【請求項7】
請求項に記載の前記カソードを備えるリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池の生産に関する。一態様では、本発明は、このような電池のカソードの生産に関するが、別の態様では、本発明は、このようなカソードの生産に使用される材料に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車および携帯型電子デバイスの著しい成長により、二次電池としても知られている充電式電池、特に様々な種類のリチウムイオン電池の需要が高まっている。小型かつ軽量の現代の傾向では、これらの充電式電池が高いエネルギー密度を有するだけでなく、環境にも優しいことが必要とされている。環境に配慮した要件は、電池製品自体だけでなく、それが作製される製造プロセスにも適用される。
【0003】
リチウムイオン電池のカソード構成要素は、溶媒に溶解した、活物質(例えば、コバルト酸リチウム、リン酸鉄リチウムなど)と、バインダーポリマー(例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF))とからスラリーを形成し、スラリーをアルミニウムホイルにコーティングし、コーティングされたホイルを乾燥させて溶媒を除去することによって作製される。カソードの導電性は、常に改善目標であり、この目的のために、リチウムイオン電池製造業者は、導電剤を混合体に添加している。これらの薬剤(例えば、カーボンブラック)は、アルミニウムホイルに塗布されるスラリーの一部を形成する。これらの導電剤は、良好な導電性に加えて、低重力、安定した構造、および良好な耐薬品性を特徴とする。
【0004】
一般に、導電剤のサイズが小さいほど、導電性はより良好である。ナノサイズ粒子は、非常に大きな表面積および表面エネルギーを有することがよく知られているが、これらの特性のため、ナノサイズ粒子は、容易に凝集する、つまり、分散が困難である。ナノサイズ導電剤粒子がカソード内に十分に分散されていない場合、カソードの導電性に対する上昇は弱められる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ナノサイズ導電剤を分散させて、スラリー配合物のカソード材料中で導電剤を安定させるために、ナノサイズ導電剤粒子間の強い反発力が必要とされる。この目的を達成する従来の方式は、静電気メカニズムを使用して、粒子表面の電荷密度および種類を変更することである。しかし、この方法は、高用量レベルの分散剤を必要とする。
【0006】
一実施形態では、本開示は、リチウムイオン電池のカソードを作製するプロセスを提供し、このプロセスは、活物質、ナノサイズ導電剤、バインダーポリマー、溶媒、および分散剤のスラリーを形成するステップを含み、
【0007】
該溶媒が、本質的に、式1の第1の化合物のうちの1つ以上からなり、
【化1】
式中、RおよびRは、水素またはC1-4直鎖または分岐鎖アルキルもしくはアルコキシであり、Rは、C1-10直鎖または分岐鎖アルキルもしくはアルコキシであるが、ただし、RおよびRが、両方とも水素でないことを条件とし、任意選択で、N,N-ジメチルアセトアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアセトアミド、γ-バレロラクトン、およびリン酸トリエチルのうちの1つ以上であり、分散剤は、ポリビニルピロリドンを含む。
【0008】
いくつかの実施形態では、式1の溶媒と組み合わせた(および任意選択で、N,N-ジメチルアセトアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアセトアミド、γ-バレロラクトン、およびリン酸トリエチルのうちの1つ以上と組み合わせた)分散剤としてのポリビニルピロリドン(「PVP」)の使用は、いくつかの利点を提供する。特に、PVPは、有利には、溶媒に迅速に溶解し、ナノサイズ導電剤を分散させて、泡の生成を有利に回避しながら、良好なカソードコーティングを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、活物質、導電剤、バインダー、および分散剤からのカソードおよびアノードスラリーの形成における溶媒としてNMPが使用されるリチウムイオン電池を作製するための従来の生産プロセスを説明するブロックフロー図である。
図2図2は、異なる分散剤中のSUPER P導電性カーボンブラックの外観を示す顕微鏡写真の集合である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
定義
米国特許実務の目的のため、任意の参照される特許、特許出願、または公開の内容は、特に定義の開示(本開示に具体的に提供されるあらゆる定義と矛盾しない程度に)および当該技術分野における一般的知識に関して、それらの全体が参照により組み込まれる(またはその同等の米国版が参照によりそのように組み込まれる)。
【0011】
本明細書に開示される数値範囲は、下限値および上限値(これらを含む)までのすべての値を含む。範囲が明示的な値(例えば、1~7)を含む場合、任意の2つの明示的な値の間の任意の部分範囲が含まれる(例えば、1~2、2~6、5~7、3~7、5~6など)。
【0012】
「含む(comprising)」、「含む(including)」、「有する(having)」という用語、およびこれらの派生語は、任意の追加の成分、ステップ、または手順が、本明細書で具体的に開示されているかどうかに関わりなく、それらの存在を除外するよう意図されない。疑義を回避するために、「含む(comprising)」という用語の使用を通じて特許請求されるすべての組成物は、反対の記載がない限り、ポリマーであろうとなかろうと、任意の追加の添加剤、アジュバント、または化合物を含み得る。対照的に、「本質的に~からなる」という用語は、操作性に不可欠ではないものを除き、以降の記述の範囲から任意の他の成分、ステップ、または手順を除外する。「からなる」という用語は、明確に描写または列挙されていない任意の成分、ステップ、または手順を除外する。「または」という用語は、特に明記しない限り、列挙されたメンバーを個別に、ならびに任意の組み合わせで指す。単数形の使用には、複数形の使用が含まれ、逆の場合も同じである。
【0013】
相反して述べられていないか、文脈から暗黙的であるか、または当該技術分野で習慣的でない限り、すべての部およびパーセントは重量に基づき、すべての試験方法は、本開示の出願日の時点で最新のものである。
【0014】
「活物質」および同様の用語は、リチウムイオン電池の文脈で使用される場合、リチウムイオンの供給源であるか、またはリチウムイオンを受け取りおよび受け入れることができる物質を意味する。リチウムイオンセルのカソードの文脈では、活物質は、リチウムイオンの供給源、例えば、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウムなどである。リチウムイオンセルのアノードの文脈では、活物質は、リチウムイオンの受容体、例えば、グラファイトである。活物質は、典型的には、直径が1000ナノメートル~100マイクロメートルの非常に小さな粒子の形態である。
【0015】
「アルコキシ」は、-OZラジカルを指し、代表的なZには、アルキル、置換アルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、置換ヘテロシクロアルキル、シリル基、およびそれらの組み合わせが含まれる。好適なアルコキシラジカルには、例えば、メトキシ、エトキシ、ベンジルオキシ、t-ブトキシなどが含まれる。関連用語は、「アリールオキシ」であり、代表的なZには、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、およびそれらの組み合わせが含まれる。好適なアリールオキシラジカルの例には、フェノキシ、置換フェノキシ、2-ピリジノキシ、8-キナリノキシなどが含まれる。
【0016】
「アルキル」は、飽和した線状、環状、または分岐の炭化水素基を指す。好適なアルキル基の非限定的な例には、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、t-ブチル、i-ブチル(または2-メチルプロピル)などが含まれる。一実施形態では、アルキルは、1~20個の炭素原子を有する。
【0017】
「アノード」および同様の用語は、リチウムイオン電池の文脈で使用される場合、放電サイクルにおける負極を意味する。アノードは、放電中に電池内で酸化が起こる電極であり、すなわち電子が解放されて電池から流れ出す。
【0018】
「電池」および同様の用語は、すぐに使用できるセルまたはセルアセンブリの集合を意味する。電池は、典型的には、適切なハウジング、電気的相互接続、および場合によってはセルを制御して故障、例えば、火災、熱暴走、爆発、充電の喪失などから保護するための電子機器を含有する。最も単純な電池は、単一セルである。電池は、一次、すなわち非充電式および二次、すなわち充電式であり得る。
【0019】
「バインダーポリマー」および同様の用語は、リチウムイオン電池の文脈で使用される場合、リチウムイオン電池の電極内に活物質粒子を一緒に保持して、電極と接点との間の強力な接続を維持するポリマーを意味する。バインダーポリマーは、通常、放電、充電、および保管中にリチウムイオン電池内で接触する物質に対して不活性である。
【0020】
「カソード」および同様の用語は、リチウムイオン電池の文脈で使用される場合、放電サイクルにおける正極を意味する。リチウムイオン電池中のリチウムは、正極にある。カソードは、放電中に電池内で還元が起こる電極である。
【0021】
「セル」および同様の用語は、電極、セパレータ、および電解質を含有する基本的な電気化学ユニットを意味する。
【0022】
「導電剤」および同様の用語は、リチウムイオン電池の文脈で使用される場合、セルの電極間のイオンの流れを促進する物質を意味する。炭素系化合物および材料、例えば、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ、炭素系ポリマーなどは、リチウムイオン電池で使用される典型的な導電剤である。
【0023】
「分散剤」および同様の用語は、粒子の分離を改善するため、かつ沈降または集塊を防止するために、懸濁液に添加される物質、通常はコロイドを意味する。分散剤は、通常、1つ以上の界面活性剤からなる。
【0024】
「電解質」および同様の用語は、リチウムイオン電池の文脈で使用される場合、セパレータを介してアノードからカソードに、またその逆に、正電荷のリチウムイオンを運ぶ物質を意味する。
【0025】
「リチウムイオン電池」および同様の用語は、リチウムイオンが放電中に負極から正極に移動し、充電時に戻る、充電式電池、すなわち二次電池を意味する。リチウムイオン電池は、非充電式リチウム電池(一次電池としても知られる)で使用される金属リチウムとは対照的に、インターカレートリチウム化合物を1つの電極材料として使用する。イオンの移動を可能にする電解質および2つの電極は、リチウムイオン電池セルの構成要素である。
【0026】
「ナノ」は、10億分の1(10-9)を意味する。「ナノサイズ粒子」および同様の用語は、数十億分の一の単位で従来測定されていたサイズ、例えば、直径、長さ/幅/深さなどの粒子を意味する。ナノサイズ粒子には、10億分の1よりも小さいまたは大きい粒子、例えば、100万分の1から1ピコまでの粒子サイズが含まれる。
【0027】
「セパレータ」および同様の用語は、リチウムイオン電池の文脈で使用される場合、アノードとカソードとを物理的に分離する薄い多孔性膜を意味する。セパレータの主な機能は、セル内でのリチウムイオンの輸送を促進しながら、アノードとカソードとの間の物理的な接触を防ぐことである。セパレータは、典型的には、リチウムイオンの通過を可能にするように設計された孔径を有する単純なプラスチックフィルム、例えば、ポリエチレンもしくはポリプロピレン、またはセラミックである。
【0028】
「溶媒」および同様の用語は、別の物質(すなわち、溶質)を溶解させて、分子レベルまたはイオンサイズレベルで本質的に均一に分散した混合物(すなわち、溶液)を形成することができる物質を意味する。
【0029】
リチウムイオン電池の生産プロセス
図1は、NMPが溶媒として使用されるリチウムイオン電池のための従来の製造プロセスのフロー図を示す。NMPは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)のようなバインダーポリマーを溶解する溶媒として使用され、次に、活物質、導電剤、分散剤、および他の添加剤のスラリーを形成するために使用される。導電剤には、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン、ナノグラファイト、およびまたはフラーレンが含まれるが、これらに限定されない。活物質には、コバルト酸リチウム(LiCoO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(LiNiMnCoOまたはNMC)、リン酸鉄リチウム(LiFePO)、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(LiNiCoAlO)、およびチタン酸リチウム(LiTi12)が含まれるが、これらに限定されない。次に、スラリーをホイル、典型的にはカソードにはアルミニウム、アノードには銅上にコーティングし、次に、コーティングされたホイルを乾燥させる。
【0030】
乾燥プロセス(典型的にはオーブン内)では、NMPは、残留物を残さずに蒸発し、乾燥したホイルは、50マイクロメートル~200マイクロメートルの厚さを有し、かつバインダーポリマー、活物質、導電剤、分散剤、および他の添加剤を含む乾燥スラリーである固体成分を含む、微細なフィルムを含む。次に、乾燥したホイルを、カレンダー機にカレンダー掛けし、セットさせておき、次にリールに収集する。最終的には、カソードおよびアノードのフィルムが組み合わされて電極スタックになり、電解質を追加してセルが完成する。
【0031】
導電剤
本開示の実施形態の実施において、任意のナノサイズ導電剤を使用することができる。典型的には、導電剤は、ナノサイズのカーボンブラック、例えば、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、グラフェン、ナノグラファイト、などである。いくつかの実施形態では、ナノサイズ導電剤は、1.2ミクロン以下の平均粒子サイズを有する。ナノサイズ導電剤は、いくつかの実施形態では、1.0ミクロン以下の平均粒子サイズを有する。TIMCAL(商標)Graphite and Carbonより入手可能であるSUPER P導電性カーボンブラックは、本開示の実施形態の実施において使用可能である市販の導電剤の例である。SUPER P導電性カーボンブラックの平均粒子サイズは、約1マイクロメートルである。
【0032】
分散剤
本開示の実施形態の実施において使用される分散剤は、ポリビニルピロリドンであり、その構造は、上記のとおりである。
【化2】
式中、nは100~10,000である。いくつかの実施形態では、上記の構造におけるnは、300~3,000である。分散剤は、例えば、1つの分子量の単一のPVP種、または分子量が異なPVPの混合物であり得る。PVPは、いくつかの実施形態では3,000~400,000、他の実施形態では10,000~200,000、および他の実施形態では30,000~60,000の分子量を有する。市販のPVPの非限定的な例には、PVP K-15、PVP K-30、PVP K-60、および様々な供給業者から市販されている他のものが含まれる。スラリーに使用される溶媒がDMPAであるいくつかの実施形態では、スラリー中のPVPの量は、0.01~5重量パーセント、または0.1~2重量パーセント、または0.3~1重量パーセント(各々、スラリーの総重量に基づく)であり得る。
【0033】
分散剤は、PVPのみからなり得(好ましくは)、または1つ以上の他の分散剤と、例えば、ポリエチレングリコール、ならびに他の非イオン性および陰イオン性界面活性剤と組み合わせてPVPを含むことができる。1つ以上の他の分散剤と混合する場合、PVPは、典型的には、分散剤混合物の少なくとも50、または55、または60、または65、または70、または75重量%を含む。他の分散剤がPVPと共に使用されるいくつかの実施形態では、分散剤の混合物は、エチルセルロースを含まない。他の分散剤がPVPと共に使用されるいくつかの実施形態では、分散剤の混合物は、1重量%未満のエチルセルロース、または0.1重量%未満のエチルセルロース、または0.01重量%未満のエチルセルロース(各々分散剤混合物の重量に基づく)を含む。
【0034】
溶媒
本開示の実施形態の実施において使用される溶媒は、図1に示すようなリチウムイオン電池の生産プロセスにおけるNMPの代替溶媒である。この溶媒は、式1の化合物のうちの1つ以上、および任意選択で、N,N-ジメチルアセトアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアセトアミド、γ-バレロラクトン、およびリン酸トリエチルのうちの1つ以上からなるか、または本質的にそれらからなる。一実施形態では、溶媒は、式1のうちの任意の化合物の1つのみからなる。一実施形態では、溶媒は、N,N-ジメチルプロピオンアミド(DMPA)からなる。溶媒が、式1からなる、または式1の2つ以上の化合物からなる、または式1の化合物と、N,N-ジメチルアセトアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアセトアミド、γ-バレロラクトン、およびリン酸トリエチルのうちの1つ以上とからなる実施形態では、混合物中の化合物のうちのいずれか1つの量は、混合物の重量の1~99、または10~90、または20~80、または30~70、または40~60重量パーセント(wt%)にわたり得る。一実施形態では、溶媒の混合物中の各溶媒は、混合物中の他の溶媒の各々の20、または15、または10、または5、または3、または1wt%以内の量で存在する。
【0035】
一実施形態では、本発明の実施において使用される溶媒は、式1の化合物からなる。一実施形態では、本開示の実施形態に従って使用される溶媒は、式1の2つ以上の化合物からなり、
【化3】
式中、RおよびRは、水素またはC1-4直鎖または分岐鎖アルキルもしくはアルコキシであり、Rは、C1-10直鎖または分岐鎖アルキルもしくはアルコキシであるが、ただし、RおよびRが、両方とも水素でないことを条件とする。
【0036】
一実施形態では、式1の化合物を含む溶媒は、N,N-ジメチルプロピオンアミド(DMPA)、3-メトシキシ-N,N-ジエチルプロパンアミド(M3DMPA)、N,N-ジメチルブチルアミド、N,N-ジブチルバレルアミド、N,Nジエチルプロピオンアミド、N,Nジプロピルプロピオンアミド、N,Nジブチルプロピオンアミド、N,Nジメチルエチルプロピオンアミド、3-ブトキシ-N-メチルプロピオンアミド、およびN,N-ジエチルアセトアミド(DEAC)のうちの1つ以上である。一実施形態では、式1の化合物は、DMPAである。
【0037】
いくつかの実施形態では、本発明の実施において使用される溶媒は、式1による溶媒に加えて、少なくとも1つの追加の化合物を含む。式1による溶媒とブレンドすることができる溶媒の例には、N,N-ジメチルアセトアセトアミド(DMAA)、N,N-ジエチルアセトアセトアミド(DEAA)、γ-バレロラクトン、リン酸トリエチル(TEP)、およびそれらの混合物が含まれる。
【0038】
本発明の実施において使用される個々の溶媒は、既知の化合物であり、周囲条件(23℃および大気圧)で液体であり、一般に市販されている。2つ以上の溶媒の混合物(例えば、式1の2つ以上の溶媒、式1の溶媒および、DMAA、DEAA、およびTEPのうちの1つ以上)を形成するには、個々の溶媒を従来の混合装置および標準のブレンドプロトコルを使用して互いに単純に混合することができる。個々の溶媒は、同時を含む任意の順序で互いに添加することができる。
【0039】
一実施形態では、溶媒は、リチウムイオン電池の生産プロセスにおけるNMPの代替品として意図されている。したがって、溶媒は、そのようなプロセス(例えば、図1に示すプロセスなど)でNMPと同じように使用される。典型的には、このプロセスは、バインダーポリマーを溶媒で溶解するステップと、次に、溶解したバインダー、活物質、導電剤、および分散剤からスラリーを形成するステップとを含む。次に、スラリーをホイルに塗布し、ホイルを乾燥させ、その間に溶媒が蒸発により除去される。
【0040】
本開示の実施形態の実施で使用される溶媒は、NMPよりも速くバインダーポリマーを溶解することができ、これにより、電池の生産効率を改善することができる。本開示の実施形態では使用される溶媒に基づくバインダーポリマー溶液はまた、NMPに基づくバインダーポリマー溶液よりも低い粘度を示し、これもまた、電池の生産効率を改善する。さらに、本開示の実施形態で使用される溶媒のいくつかは、NMPよりも低い沸点および高い蒸発速度を有し、これは、その溶媒が、より低いエネルギー消費でより速く蒸発し、より少ない残留物を残し得ることを意味する。NMPは、典型的にリサイクルされるため、本明細書に開示される溶媒は、そのより低い沸点およびより高い蒸発速度によりリサイクルがより容易であり、電池生産プロセスの全体的なコスト削減になる。
【0041】
一実施形態では、本開示は、式1の化合物のうちの1つ以上(または式1の化合物およびその1つ以上)がバインダーポリマーの溶媒として使用され、およびポリビニルピロリドンが、ナノサイズ導電剤の分散剤である、リチウムイオン電池で使用するためのカソードを作製するプロセスを提供する。この溶媒および分散剤の組み合わせにより、導電剤の良好な分散、PVDFの強力な溶解能力、溶解時間の短縮、および粘度の低下がもたらされる。これらの利点によって、生産効率の向上および製造コストの削減について、リチウムイオン電池生産者に価値がもたらされる。
【0042】
例として、これらに限定されないが、ここで、本開示のいくつかの実施形態を以下の実施例で詳細に説明する。
【実施例
【0043】
材料
溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)(Sinopharma、99%)およびN,N-ジメチルプロピオンアミド(DMPA)(Xingxin、98%)である。すべての溶媒試料を4A脱水モレキュラーシーブ(Sigma-Aldrich製)で2日超えて処理して、水分を除去する。
【0044】
ナノサイズ導電剤は、TIMCAL(商標)Graphite and Carbonより入手可能なSUPER P導電性カーボンブラックである。
【0045】
分散剤は、The Dow Chemical CompanyのETHOCEL(商標)Std.100エチルセルロースおよびSinopharm Chemical Reagent Col.LtdのPVP K-30ポリビニルピロリドン(PVP)である。 分散剤は、使用前に少なくとも2時間60℃のオーブンで脱水する。
【0046】
バインダーは、Arkema GroupのKynar 761Aポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)である。PVDFを、使用前に少なくとも2時間80℃のオーブンで脱水する。
【0047】
カソード材料は、China Aviation Lithium Battery Co.,Ltdのリン酸鉄リチウム(LiFePOまたはLFP)である。カソード材料を、使用前に2時間超80℃のオーブンで脱水する。
【0048】
実施例1
この実施例では、分散剤をDMPA溶媒に溶解するための時間を測定する。指定された分散剤0.2グラムとDMPA19.8グラムをバイアルに添加し、次にこれをキャップで密封する。バイアルをSPEEDMIX(商標)DAC150.1 FVZ-kミキサー内に固定し、2000rpmで混合する。混合中、このミキサーを冷却のために2分ごとに停止し、すべての分散剤が溶解したかどうかを決定する。バイアル内のすべての分散剤が溶解した時間を記録する。異なる試料および結果を表1に示す。
【表1】
【0049】
これらの溶液の発泡形成は、望ましくない。混合後、比較例Aおよび発明例1を手動で30秒間振とうして、発泡形成を評価する。比較例Aは、30分超続く安定した泡(高さ1センチメートル未満)を生成した。対照的に、発明例1は、勢いよく振とうした後でさえ発泡泡を生成しなかった。
【0050】
実施例2
この例では、2つの分散剤の分散性能を評価する。指定量の導電剤(Super P導電性カーボンブラック)をバイアルに秤量する。指定された分散剤が溶解した溶媒を添加する。バイアルをキャップで密閉し、SPEEDMIX(商標)DAC 150.1 FVZ-kミキサーで、3000rpmで3分間混合した後、さらに3分間繰り返す。混合後、導電剤分散液をスライドガラス上に滴下して、導電剤粒子が凝集または分散しているかどうかを観察する。LEICA DM2500M顕微鏡を使用して、溶液の外観を観察し、顕微鏡写真を撮る。図2は、異なる濃度の2つの分散剤中の導電剤の外観を示す。図2に示すように、分散剤としてエチルセルロースを使用する場合と比較して、分散剤としてPVPを使用した場合、導電剤はDMPAで分散が少し良い。
【0051】
実施例3
この実施例では、カソードスラリーの性能およびコーティング性能を評価する。以下の表2は、調製する異なるカソードスラリーの配合物を示す。各スラリー配合物を以下のように調製する。
【0052】
まず、高濃度のPVDF溶液を調製する。PVDFを三つ口フラスコに移し、所望の濃度に応じて溶媒を充填する。高品質Nによる10分間のパージ後、油浴を60℃に加熱し、60rpmで混合を開始する。すべての固体またはゲル状の物質が完全に溶解した後、装置を停止し、溶液を清潔で乾燥したガラス瓶に移して使用する。
【0053】
導電剤の4つの異なる分散液を、実施例2に記載の手順に従って、分散剤および溶媒を使用して調製する。
【0054】
次に、カソードスラリーを、導電剤分散液、カソード材料、PVDF溶液、および溶媒を使用して配合する。表2のカソードスラリーに指定された量の成分をバイアルに添加する。バイアルをキャップで密閉し、SPEEDMIX(商標)DAC150-1FVZ-kミキサー中で、3000rpmで18分間混合する。このステップの間、ミキサーを冷却のために3分ごとに停止する。各カソードスラリーの粘度を、Brookfield DV1MLVTJ0粘度計で#63スピンドルを使用して、ASTM D562-2001に従って25℃で測定する。結果を表2に示す。
【0055】
次に、アルミニウムホイルの20cm×30cmの試料をエタノールで洗浄し、カソードスラリーの基板として使用するために乾燥させる。150ミクロンの間隙を有する手動ドローダウンブレードを使用して、各カソードスラリーをAlホイル基板に塗布する。ドローダウン塗布後、ウェットコーティングを換気装置付きのオーブンに移して乾燥させる。乾燥温度を50℃で開始し、その温度で30分間保持する。次に、温度を10℃上昇させ、その温度で30分間保持する。こうした上昇を、100℃の温度に達するまで続ける。
【0056】
コーティング表面の形態を、導電剤が十分に分散しているかどうかを決定するために高解像度によって特徴付ける。各カソードスラリー配合物について、スラリーを4つのフィルム試料上にコーティングする。各コーティングされたフィルム試料で、電気抵抗を評価するために4プローブテスターを使用して3つの部位の電気抵抗を試験する。合計12のデータポイントを収集し、平均電気抵抗を表2に報告する。さらに、各カソードスラリー配合物の4つの異なる試料で2つのスポットの接着力を試験する。接着力は、ASTM D-3359に従って測定する。これらの結果を表2に示す。
【表2】
【0057】
上記の実施例に見られるように、分散剤としてのPVPとDMPAの組み合わせは、カーボンブラックの良好な分散、良好なスラリー粘度、望ましいカソード電気抵抗、および望ましい接着力を提供する溶媒である。さらに、PVPは、発泡形成を回避しながら、エチルセルロース分散剤と比較してはるかに迅速に溶媒に溶解する。これは、リチウムイオン電池の製造にとって有益である。
本願発明には以下の態様が含まれる。
項1.
リチウムイオン電池のカソードを作製するプロセスであって、前記プロセスが、活物質、ナノサイズ導電剤、バインダーポリマー、溶媒、および分散剤のスラリーを形成するステップを含み、
前記溶媒が、本質的に、式1の化合物のうちの1つ以上と、
【化1】
式中、RおよびRは、水素またはC1-4直鎖または分岐鎖アルキルもしくはアルコキシであり、Rは、C1-10直鎖または分岐鎖アルキルもしくはアルコキシであるが、ただし、RおよびRが、両方とも水素でないないことを条件とし、
任意選択で、N,N-ジメチルアセトアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアセトアミド、γ-バレロラクトン、リン酸トリエチルのうちの1つ以上と、からなり、
前記分散剤が、ポリビニルピロリドンを含む、プロセス。
項2.
前記溶媒が、式1の化合物からなる、項1に記載のプロセス。
項3.
前記溶媒が、N,N-ジメチルプロピオンアミドである、項2に記載のプロセス。
項4.
前記溶媒が、式1の化合物と、N,N-ジメチルアセトアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアセトアミド、γ-バレロラクトン、およびリン酸トリエチルのうちの少なくとも1つからなる、項1に記載のプロセス。
項5.
式1の前記化合物が、N,N-ジメチルプロピオンアミドである、項4に記載のプロセス。
項6.
前記ナノサイズ導電剤が、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン、またはナノグラファイトである、項1~5のいずれか一項に記載のプロセス。
項7.
前記バインダーポリマーが、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)である、項1~6のいずれか一項に記載のプロセス。
項8.
前記活物質が、コバルト酸リチウム(LiCoO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(LiNiMnCoO)、リン酸鉄リチウム(LiFePO)、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(LiNiCoAlO)、およびチタン酸リチウム(LiTi12)のうちの1つ以上である、項1~7のいずれか一項に記載のプロセス。
項9.
項1~8のいずれか一項に記載のプロセスによって作製されたカソード。
項10.
項9に記載の前記カソードを備えるリチウムイオン電池。
図1
図2