IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋インキSCホールディングス株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-13
(45)【発行日】2023-09-22
(54)【発明の名称】抗菌性を有する印刷物
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20230914BHJP
   A01N 25/34 20060101ALI20230914BHJP
   A01N 33/02 20060101ALI20230914BHJP
   A01N 41/10 20060101ALI20230914BHJP
   A01N 43/40 20060101ALI20230914BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20230914BHJP
   B41M 3/00 20060101ALI20230914BHJP
   C09D 4/02 20060101ALI20230914BHJP
   C09D 5/14 20060101ALI20230914BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20230914BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
C09D201/00
A01N25/34 Z
A01N33/02
A01N41/10 A
A01N43/40 101K
A01P1/00
B41M3/00 Z
C09D4/02
C09D5/14
C09D7/63
C12Q1/04
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022067367
(22)【出願日】2022-04-15
【審査請求日】2022-05-24
【審判番号】
【審判請求日】2023-04-13
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】岡本 真平
(72)【発明者】
【氏名】福島 明葉
【合議体】
【審判長】古屋野 浩志
【審判官】藤本 義仁
【審判官】佐藤 海
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/028850(WO,A1)
【文献】特開2004-123990(JP,A)
【文献】特開2015-101074(JP,A)
【文献】特開2012-20570(JP,A)
【文献】FUKUI,“抗菌とは/抗菌方法の種類、抗菌の仕組み、抗菌試験と基準値”,[online],2021年7月13日,健康アクト,[令和5年5月30日検索],インターネット <URL:https://mo-kenkou.com/2021/07/13/kohkin/>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 1/00-3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸収性基材とインキ層と該インキ層の表面に形成されるオーバープリント層とを含む印刷物であって、
前記オーバープリント層は、光重合開始剤、重合性化合物、及び抗菌剤を含む活性エネルギー線硬化型組成物の硬化物であり、
前記光重合開始剤の含有量は、活性エネルギー線硬化型組成物全量中に~20質量%であり、
前記抗菌剤は有機系抗菌剤を含み、該有機系抗菌剤の含有量は、活性エネルギー線硬化型組成物全量中に0.5~15質量%であり、トリアジン系抗菌剤、及び第4級アンモニウム塩系抗菌剤からなる群より選ばれる1種以上を含み、
記オーバープリント層は、前記印刷物を試験体とした黄色ブドウ球菌についてのJIS L1902:2015抗菌性試験(トランスファー法)において抗菌性を示す、印刷物。
【請求項2】
前記光重合開始剤は、アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤、ジアルコキシアセトフェノン系光重合開始剤、及びベンゾフェノン系光重合開始剤からなる群より選ばれる1種類以上を含有する、請求項記載の印刷物。
【請求項3】
前記重合性化合物は、分子中に1~3個の(メタ)アクロイル基を有する化合物を含有する、請求項1又は2記載の印刷物。
【請求項4】
前記重合性化合物は、分子中に4個以上の(メタ)アクロイル基を有する化合物を含有する、請求項1又は2記載の印刷物。
【請求項5】
前記オーバープリント層は、前記印刷物を試験体とした黄色ブドウ球菌についてのJIS Z2801:2010抗菌性試験(フィルム密着法)において抗菌活性値が2.0未満である、請求項1又は2記載の印刷物。
【請求項6】
光重合開始剤、重合性化合物、及び抗菌剤を含む活性エネルギー線硬化型組成物の硬化物である、吸収性基材及びインキ層を含む印刷物用の前記インキ層の表面に形成されるオーバープリント層であって、
前記光重合開始剤の含有量は、活性エネルギー線硬化型組成物全量中に~20質量%であり、
前記抗菌剤は有機系抗菌剤を含み、該有機系抗菌剤の含有量は、活性エネルギー線硬化型組成物中に0.5~15質量%であり、トリアジン系抗菌剤、及び第4級アンモニウム塩系抗菌剤からなる群より選ばれる1種以上を含み、
記吸収性基材とインキ層とオーバープリント層とを含む印刷物を試験体とした黄色ブドウ球菌についてのJIS L1902:2015抗菌性試験(トランスファー法)において抗菌性を示す、オーバープリント層。
【請求項7】
吸収性基材及びインキ層を含む印刷物用の前記インキ層の表面に形成されるオーバープリント層を形成するための活性エネルギー線硬化型組成物であって、光重合開始剤、重合性化合物、及び抗菌剤を含み、
前記光重合開始剤の含有量は、活性エネルギー線硬化型組成物全量中に~20質量%であり、
前記抗菌剤は有機系抗菌剤を含み、該有機系抗菌剤の含有量は、活性エネルギー線硬化型組成物中に0.5~15質量%であり、トリアジン系抗菌剤、及び第4級アンモニウム塩系抗菌剤からなる群より選ばれる1種以上を含み、
前記活性エネルギー線硬化型組成物中の溶媒の含有量は5質量%以下であり、
前記オーバープリント層は、前記吸収性基材とインキ層とオーバープリント層とを含む印刷物を試験体とした黄色ブドウ球菌についてのJIS L1902:2015抗菌性試験(トランスファー法)において抗菌性を示す、活性エルギー線硬化型組成物。
【請求項8】
吸収性基材とインキ層とオーバープリント層とを含む印刷物におけるオーバープリント層の抗菌性の評価方法であって、前記印刷物を試験体としてJIS L1902:2015抗菌性試験(トランスファー法)を用いる、評価方法であって、
前記オーバープリント層は、光重合開始剤、重合性化合物、及び抗菌剤を含む活性エネルギー線硬化型組成物の硬化物であり、
前記光重合開始剤の含有量は、活性エネルギー線硬化型組成物全量中に~20質量%であり、
前記抗菌剤は有機系抗菌剤を含み、該有機系抗菌剤の含有量は、活性エネルギー線硬化型組成物中に0.5~15質量%である、評価方法。
【請求項9】
吸収性基材とインキ層と該インキ層の表面に形成されるオーバープリント層とを含む印刷物の製造方法であって、
前記オーバープリント層は、光重合開始剤、重合性化合物、及び抗菌剤を含み、溶媒の含有量は5質量%以下である活性エネルギー線硬化型組成物の硬化物であり、
前記インキ層を有する吸収性基材の該インキ層上に、前記活性エネルギー線硬化型組成物を塗布して硬化させる工程を含み、
前記光重合開始剤の含有量は、活性エネルギー線硬化型組成物全量中に5~20質量%であり、
前記抗菌剤は有機系抗菌剤を含み、該有機系抗菌剤の含有量は、活性エネルギー線硬化型組成物全量中に0.5~15質量%であり、トリアジン系抗菌剤、及び第4級アンモニウム塩系抗菌剤からなる群より選ばれる1種以上を含み、
前記オーバープリント層は、前記印刷物を試験体とした黄色ブドウ球菌についてのJIS L1902:2015抗菌性試験(トランスファー法)において抗菌性を示す、印刷物の製造方法。
【請求項10】
前記光重合開始剤は、アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤、ジアルコキシアセトフェノン系光重合開始剤、及びベンゾフェノン系光重合開始剤からなる群より選ばれる1種類以上を含有する、請求項9記載の印刷物の製造方法。
【請求項11】
前記重合性化合物は、分子中に1~3個の(メタ)アクロイル基を有する化合物を含有する、請求項9又は10記載の印刷物の製造方法。
【請求項12】
前記重合性化合物は、分子中に4個以上の(メタ)アクロイル基を有する化合物を含有する、請求項9又は10記載の印刷物の製造方法。
【請求項13】
前記オーバープリント層は、前記印刷物を試験体とした黄色ブドウ球菌についてのJIS Z2801:2010抗菌性試験(フィルム密着法)において抗菌活性値が2.0未満である、請求項9又は10記載の印刷物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施形態は、表面に優れた抗菌性、高光沢、及び高い堅牢性を有する印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、公衆衛生への意識の高まりから、抗菌加工が施された製品(抗菌製品)への需要が高まっており、市場においても様々な抗菌製品が出回っている。一般的な抗菌製品(例えばプラスチック又は紙)は、抗菌剤を基材に練り込むことで抗菌性能を付与しているが、抗菌剤は価格が高く、種類によっては環境有害性がある等の制約により、抗菌剤が使用される製品は限定的である。抗菌剤の抗菌性能は、主に表面に露出している抗菌剤により発現されるため、抗菌剤の添加量を極力抑えつつ抗菌性能を最大限有効に活用するためには、製品表面にのみ塗布するコーティングが有効な解決手段の一つである。近年では、印刷物等の表面に抗菌性を有するニスをオーバープリントする事例が増えてきている。
【0003】
印刷物においては、色インキを印刷した後に表面保護を目的にオーバープリント層を設けることは一般的であり、このオーバープリント層に抗菌性を付与することで印刷物表面に効果的に抗菌性を付与する方法は理にかなっており、抗菌性オーバープリント層を有する印刷物の市場も広がりを見せている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-311373号公報
【文献】特許第5800212号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、今までの抗菌性オーバープリント層を有する印刷物では、その抗菌性の評価方法をJIS Z2801に準拠して行っている。JIS Z2801はプラスチック製品等、液体を吸収しない製品表面の抗菌性を評価する評価方法である。しかし、本発明者の検討によれば、紙等の液体吸収性の基材に塗布された抗菌性オーバープリント層を有する印刷物について、JIS Z2801に準拠して抗菌性試験を行うと、菌液が基材に染み出してしまい、正確に評価できないという問題があることが判明した。
【0006】
一方、繊維製品等の液体を吸収する製品の抗菌性は、JIS L1902記載の菌液吸収法で評価することが望ましいとされている。しかし、この方法では印刷物内部を含めた全体の抗菌性を評価していることになり、最も重要な印刷物表面の抗菌性を正しく評価できないという問題があった。すなわち、従来技術においては、印刷物としてみた際にその表面の抗菌性が適正に評価されていないものであった。
【0007】
そこで、本発明の一実施形態は、オーバープリント層に求められる光沢性と堅牢性を備え、かつ、印刷物表面に良好な抗菌性を付与できるオーバープリント層を備えた印刷物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、液体吸収性の基材に塗布された抗菌性オーバープリント層を有する印刷物に対してJIS L1902:2015(トランスファー法)を用いて抗菌性を評価することにより、印刷物表面のオーバープリント層の抗菌性を適正に評価できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の実施形態は次のとおりである。本発明の実施形態が以下に限定されることはない。
[1]吸収性基材とインキ層とオーバープリント層とを含む印刷物であって、
前記オーバープリント層は、光重合開始剤、重合性化合物、及び抗菌剤を含む活性エネルギー線硬化型組成物であって、
前記光重合開始剤の含有量が、活性エネルギー線硬化型組成物全量中に3~20質量%であり、
前記抗菌剤は有機系抗菌剤を含み、該有機系抗菌剤の含有量は、活性エネルギー線硬化型組成物全量中に0.1~15質量%であり、
前記オーバープリント層は、前記印刷物を試験体とした黄色ブドウ球菌についてJIS L1902:2015抗菌性試験(トランスファー法)において抗菌性を示す、印刷物。
【0010】
[2]前記抗菌剤は、有機ハロゲン系抗菌剤、ピリジン系抗菌剤、ハロアルキルチオ系抗菌剤、チアゾール系抗菌剤、ベンゾイミダゾール系抗菌剤、イソフタロニトリル系抗菌剤、フェノール系抗菌剤、トリアジン系抗菌剤、臭素系抗菌剤、第4級アンモニウム塩系抗菌剤、及び有機金属系抗菌剤からなる群より選ばれる1種以上を含む、上記[1]に記載の印刷物。
[3]前記抗菌剤は、窒素原子を含有する抗菌剤を含む、上記[1]又は[2]に記載の印刷物。
[4]前記活性エネルギー線硬化型組成物は、実質的に溶剤を含まない、上記[1]~[3]のいずれか一に記載の印刷物。
[5]前記光重合開始剤は、アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤、ジアルコキシアセトフェノン系光重合開始剤、及びベンゾフェノン系光重合開始剤からなる群より選ばれる1種類以上を含有する、上記[1]~[4]のいずれか一に記載の印刷物。
[6]前記活性エネルギー線硬化型組成物は、アルキレンオキサイド変性(メタ)アクリレート化合物を、活性エネルギー線硬化型組成物全量中に10~80質量%含有する、上記[1]~[5]のいずれか一に記載の印刷物。
[7]前記重合性化合物は、分子中に1~3個の(メタ)アクロイル基を有する化合物を含有する、上記[1]~[6]のいずれか一に記載の印刷物。
[8]前記重合性化合物は、分子中に4個以上の(メタ)アクロイル基を有する化合物を含有する、上記[1]~[7]のいずれか一に記載の印刷物。
[9]前記オーバープリント層は、前記印刷物を試験体とした黄色ブドウ球菌についてのJIS Z2801:2010抗菌性試験(フィルム密着法)において抗菌活性値が2.0未満である、上記[1]~[8]のいずれか一に記載の印刷物。
【0011】
[10]光重合開始剤、重合性化合物、及び抗菌剤を含む活性エネルギー線硬化型組成物からなる、吸収性基材及びインキ層を含む印刷物用のオーバープリント層であって、
前述光重合開始剤の含有量は、活性エネルギー線硬化型組成物全量中に3~20質量%であり、
前記抗菌剤は有機系抗菌剤を含み、該有機系抗菌剤の含有量は、活性エネルギー線硬化型組成物中に0.1~15質量%であり、
吸収性基材とインキ層とオーバープリント層とを含む印刷物を試験体とした黄色ブドウ球菌についてのJIS L1902:2015抗菌性試験(トランスファー法)において抗菌性を示す、オーバープリント層。
【0012】
[11]吸収性基材及びインキ層を含む印刷物用のオーバープリント層を形成するための活性エネルギー線硬化型組成物であって、光重合開始剤、重合性化合物、及び抗菌剤を含み、
前記光重合開始剤の含有量は、活性エネルギー線硬化型組成物全量中に3~20質量%であり、
前記抗菌剤は有機系抗菌剤を含み、該有機系抗菌剤の含有量は、活性エネルギー線硬化型組成物中に0.1~15質量%であり、
前記オーバープリント層は、吸収性基材とインキ層とオーバープリント層とを含む印刷物を試験体とした黄色ブドウ球菌についてのJIS L1902:2015抗菌性試験(トランスファー法)において抗菌性を示す、活性エルギー線硬化型組成物。
【0013】
[12]吸収性基材とインキ層とオーバープリント層とを含む印刷物におけるオーバープリント層の抗菌性の評価方法であって、前記印刷物を試験体としてJIS L1902:2015抗菌性試験(トランスファー法)を用いる、評価方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、オーバープリント層に求められる光沢性と堅牢性を備え、かつ、印刷物表面に良好な抗菌性を付与できるオーバープリント層を備えた印刷物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0016】
本明細書で使用される用語について説明する。「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイル及び/又はメタアクリロイル(メタクリロイル)を意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及び/又はメタアクリレート(メタクリレート)を意味する。「活性エネルギー線」とは、紫外線、電子線等、照射することによって照射されたものに化学反応等の化学的変化を生じさせ得る性質を有するエネルギー線を意味する。
【0017】
本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含んでいる。本明細書に段階的に記載されている複数の数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができるものである。また、本明細書に例示する材料及び化合物は、特に断らない限り、1種を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いてもよいものである。
【0018】
1.活性エネルギー線硬化型組成物
一実施形態に係る活性エネルギー線硬化型組成物(オーバープリント用ニス;以下、活性エネルギー線硬化型組成物を「ニス」又は「組成物」と称する場合もある。)は、吸収性基材とインキ層とオーバープリント層とを含む印刷物のオーバープリント層を形成するものであり、光重合開始剤、重合性化合物、及び抗菌剤を含む。光重合開始剤の含有量は、活性エネルギー線硬化型組成物全量中に3~20質量%である。抗菌剤は有機系抗菌剤を含み、該有機系抗菌剤の含有量は、活性エネルギー線硬化型組成物全量中に0.1~15質量%である。この組成物は、良好な保存安定性を有する。また、この組成物を用いて得られるオーバープリント層は、後述する抗菌性を有するものである。
【0019】
<抗菌剤>
オーバープリント層の抗菌性を担保するため、活性エネルギー線硬化型組成物は有機系抗菌剤を含む組成である。有機系抗菌剤は、JIS L1902:2015(トランスファー法)に定めた抗菌試験法により抗菌性能を発現する物質であれば特に制限はなく使用できる。
なかでも、有機系抗菌剤として、有機ハロゲン系抗菌剤、ピリジン系抗菌剤、ハロアルキルチオ系抗菌剤、チアゾール系抗菌剤、ベンゾイミダゾール系抗菌剤、イソフタロニトリル系抗菌剤、フェノール系抗菌剤、トリアジン系抗菌剤、臭素系抗菌剤、第4級アンモニウム塩系抗菌剤、及び有機金属系抗菌剤からなる群より選ばれる1種以上を含有することが好ましい。更に、抗菌剤が窒素原子を含有することがより好ましく、具体的には、ピリジン系抗菌剤、トリアジン系抗菌剤、第4級アンモニウム塩系抗菌剤などを例示することができる。
【0020】
有機系抗菌剤の含有量は、組成物全量中に0.1~15質量%である。0.1質量%未満では抗菌効果が安定せず、一方、15質量%を越えると必要十分な抗菌効果が飽和し、抗菌剤が過剰となって価格面、印刷適性共に不利となり、さらに組成物の保存安定性が低下し、塗膜の堅牢性も低下する恐れがある。抗菌剤の含有量は、好ましくは組成物全量中に0.1~10質量%であり、より好ましくは組成物全量中0.5~7質量%であり、0.5~5質量%であってもよい。
【0021】
<光重合開始剤>
光重合開始剤は、アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤、ジアルコキシアセトフェノン系光重合開始剤、アルキルフェノン系光重合開始剤、及びベンゾフェノン系光重合開始剤からなる群より選ばれる1種類を含むことが好ましく、さらには、アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤、ジアルコキシアセトフェノン系光重合開始剤、及びベンゾフェノン系光重合開始剤からなる群より選ばれる1種類以上を含むことが好ましい。これらアシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤、ジアルコキシアセトフェノン系光重合開始剤、及びベンゾフェノン系光重合開始剤は、それぞれ単独で使用してもよいし、複数の種類を併用して使用することもできる。
【0022】
また、より効率的に組成物の皮膜を硬化させるためには、光重合開始剤を2種類以上含有させることが好ましい。この場合、アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤、ジアルコキシアセトフェノン系光重合開始剤、及びベンゾフェノン系光重合開始剤からなる群より選ばれる1種類を含んでいることが好ましい。併用する開始剤は、アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤、ジアルコキシアセトフェノン系光重合開始剤、及びベンゾフェノン系光重合開始剤のなかから選んでもよいし、後述するその他の光重合開始剤から選択してもよい。
【0023】
アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤としては、ジフェニルアシルフェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイドなどが挙げられる。
【0024】
ジアルコキシアセトフェノン系光重合開始剤としては、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、ジメトキシアセトフェノン、ジエトキシアセトフェノンなどが挙げられる。
【0025】
ベンゾフェノン系光重合開始剤としては、ベンゾフェノン、4-メチルベンゾフェノン、4-フェニルベンゾフェノンなどが挙げられる。
【0026】
一方、上記以外の光重合開始剤(以下、「その他の光重合開始剤」と称する。)としては、アルキルフェノン系光重合開始剤であるα-ヒドロキシアルキルフェノン系光重合開始剤又はα-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤、チオキサントン系光重合開始剤、オキシムエステル系光重合開始剤等を併用することができる。これらその他の光重合開始剤の含有量は、全光重合開始剤中に50質量%以下であることが好ましい。その他の光重合開始剤量が多いと、ニスが黄変し外観を損ねる恐れがある。その他の光重合開始剤の含有量は、全光重合開始剤中に40質量%以下がより好ましく、25質量%以下がさらに好ましく、10質量%以下が特に好ましい。
【0027】
光重合開始剤の含有量は、活性エネルギー線硬化型組成物の全質量に対して、ラジカル反応を十分に進行させて塗膜としての堅牢性を良好なものとすると共に、組成物の保存安定性を確保する観点から、3~20質量%であることが好ましく、より好ましくは5~15質量%であり、3~8質量%であってもよい。
【0028】
<重合性化合物>
活性エネルギー線硬化型組成物は、重合性化合物を含む。重合性化合物は、エチレン性不飽和結合を有する化合物であり、特に制限はなく公知のもの用いることができ、ラジカル重合性化合物であることが好ましい。重合性化合物の含有量は、特に限定されないが、例えば組成物全量中に約40~約96質量%程度とすることができ、約40~約90質量%程度、又は約50~約80質量%程度であってもよい。
【0029】
ラジカル重合性化合物は、ラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有する化合物であり、分子中に、少なくとも1個のエチレン性不飽和結合を有する化合物であればよく、モノマー、オリゴマー、ポリマー等の化学形態をもつものが含まれる。ラジカル重合性化合物は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
ラジカル重合性化合物の例としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸及びそれらの塩、エチレン性不飽和基を有する無水物、アクリロニトリル、スチレン、さらに種々の不和飽ポリエステル、不飽和ポリエーテル、不飽和ポリアミド、不飽和ウレタン等が挙げられる。
【0031】
ラジカル重合性化合物して、さらに具体的には、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、β-カルボキシルエチル(メタ)アクリレート、4-tert-ブチルシクロヘキサノール(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、アルコキシ化テトラヒドロフルフリルアクリレート、カプロラクトン(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノール(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(オキシエチル)(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジメタノール(メタ)アクリレート、環状トリメチロールプロパンフォルマル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、EO変性(2)ノニルフェノールアクリレート、(2-メチル-2-エチル-1、3-ジオキソラン-4-イル)メチルアクリレート、アクリロイルモルフォリン、N-ビニルカルバゾール、1-ビニルイミダゾール、N-ビニル-2-ピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニルホルムアミドなどの1官能のラジカル重合性化合物;
1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2-ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(200)ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(300)ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(400)ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(600)ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、EO変性(2)1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、PO変性(2)ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、(ネオペンチルグリコール変性)トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、EO変性(4)ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、PO変性(4)ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートジ(メタ)アクリレートなどの2官能のラジカル重合性化合物;
トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、EO変性(3)トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、PO変性(3)トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン変性トリス-(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート、エトキシ化イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートなどの3官能のラジカル重合性化合物;
ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレートなどの4官能のラジカル重合性化合物;
ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートなどの5官能のラジカル重合性化合物;及び
ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどの6官能のラジカル重合性化合物等が挙げられる。
【0032】
また、ラジカル重合性化合物として、不飽和ウレタンとして脂肪族ウレタンアクリレート、芳香族ウレタンアクリレート等のウレタンアクリレート;不飽和ポリエステルとしてポリエステルアクリレート等;不飽和ポリエーテルとしてポリエーテルアクリレート等を使用することができ、その他にもエポキシアクリレートなどを用いることができる。
【0033】
一実施形態において、活性エネルギー線硬化型組成物がアルキレンオキサイド変性(メタ)アクリレート化合物を含むことが好ましく、その含有量は特に限定されないが、組成物の保存安定性、塗膜の堅牢性、及び印刷適性を確保する観点から、活性エネルギー線硬化型組成物全量中に10~80質量%含有することが好ましく、10~60質量%含有することがより好ましく、15~55質量%又は20~50質量%であってもよい。
【0034】
官能基数から検討すると、一実施形態において、重合性化合物が、分子中に1~3個の(メタ)アクロイル基を有する化合物を含有することが好ましく、その含有量は特に限定はされないが、良好な塗布性と塗膜の堅牢性を確保する観点から10~60質量%であることが好ましい。
【0035】
また、一実施形態において、重合性化合物が、分子中に4個以上の(メタ)アクロイル基を有する化合物を含有することが好ましく、その含有量は特に限定はされないが、良好な塗布性と塗膜の堅牢性を確保する観点から10~80質量%含むことが好ましく、20~60質量%含むことがより好ましい。
【0036】
<樹脂>
活性エネルギー線硬化型組成物は、樹脂を含むことができる。樹脂の含有量は、特に限定されないが、例えば組成物全量中に約50質量%以下程度とすることができ、約40質量%以下であってもよく、約5質量%以上又は約10質量%以上であってもよい。
【0037】
樹脂としては、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロース誘導体(例えば、エチルセルロース、酢酸セルロース、ニトロセルロース)、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリアミド樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ジアリルフタレート樹脂、アルキッド樹脂、ロジン変性アルキッド樹脂、石油樹脂、尿素樹脂、ブタジエン-アクリルニトリル共重合体のような合成ゴムなどが挙げられる。さらに、これらの樹脂を変性して使用することもできる。具体的には塩素化、臭素化、アミン変性、カルボン酸変性等が例示できる。樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。ここで、樹脂は、エチレン性不飽和結合を有しないものを意味し、エチレン性不飽和結合を持つ樹脂は上記の重合性化合物に含まれる。
【0038】
樹脂は相溶性と硬化性の観点から、重量平均分子量(以下、「Mw」とも称する)が、500~100,000であることが好ましく、1,000~100,000又は1,000~80,000であることも好ましく、2,000~70,000がより好ましい。また、樹脂のガラス転移温度(以下、「Tg」とも称する。)は、耐薬品性の観点から、50~150℃であることが好ましく、60~120℃がより好ましい。
【0039】
なお、本発明において、Mwは、ゲルパーミエイションクロマトグラフィ(以下、「GPC」という。)で測定することができる。GPCの具体的な測定方法については、次のとおりである。すなわち、東ソー株式会社製HLC-8020を用い、検量線は標準ポリスチレンサンプルにより作成し、溶離液はテトラヒドロフランを、カラムにはTSKgel SuperHM-M(東ソー株式会社製)3本を用い、流速0.6ml/分、注入量10μl、カラム温度40℃で測定することができる。
【0040】
Tgは、樹脂を構成する単量体のホモポリマーのTgから計算してもよいし、実験的に測定してもよい。単量体のホモポリマーのTgから算出する方法としては、例えば、FOXの式から算出される。また、実験的に測定する方法としては、示差走査熱量計を用いてDSC曲線を測定することで得られる。
【0041】
<その他の成分>
活性エネルギー線硬化型組成物は、体質顔料を含むことができる。体質顔料を使用することでニスの基材へ浸透を抑制し、少量のニスの塗布でも高い抗菌性を得ることができる。
【0042】
体質顔料としては、特に制限はなく、公知の体質顔料を用いることができる。具体的には、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、シリカ等が例示できる。
【0043】
体質顔料の含有量は、活性エネルギー線硬化型組成物の全質量に対して、体質顔料添加効果を得るとともに、光沢及び印刷適性への配慮から、1~20質量%であることが好ましく、より好ましくは3~15質量%である。
【0044】
さらに、活性エネルギー線硬化型組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲内で、着色剤、ワックス、レベリング剤、帯電防止剤、界面活性剤、消泡剤、重合禁止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、抗酸化剤(防腐剤)などを任意に、必要に応じて含むことができる。例えば、抗酸化剤としてジブチルヒドロキシルトルエン、酸化防止剤としてメトキノン等を用いることができる。
【0045】
一実施形態において、活性エネルギー線硬化型組成物は溶媒を含むことができる。溶媒としては特に限定されることはなく、任意の有機溶媒を用いることができるが、その含有量は組成物中に50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下、30質量%以下、20質量%以下、又は10質量%以下のいずれであってもよい。一実施形態において、組成物は実質的に溶媒を含まないことが好ましい。ここで、実質的に含まないとは、組成物中の溶媒の含有量が5質量%以下であることを意味する。実質的に溶媒を含まないことにより、抗菌剤配合量が少なくても、抗菌性を有するオーバープリント層を得ることができる。推測ではあるが、組成物中に溶剤が含まれると抗菌剤が溶剤に溶解して分子レベルで分散すると考えられるのに対し、溶剤が含まれないことにより抗菌剤がオーバープリント層表面において凝集し、その結果、抗菌剤が分解等の変化を受けにくくなって化合物として安定に存在し、良好な抗菌性が得られるものと考えられる。
【0046】
2.印刷物
一実施形態に係る印刷物は、吸収性基材とインキ層とオーバープリント層とを含み、オーバープリント層は、上記活性エネルギー線硬化型組成物の硬化物である。また、オーバープリント層は、印刷物を試験体とした黄色ブドウ球菌についてのJIS L1902:2015(トランスファー法)において抗菌性を示すものである。
【0047】
<吸収性基材>
印刷物の基材は、吸収性基材(液体吸収性基材)である。吸収性基材とは、50mm×50mmの大きさの基材片表面に水を0.4ml滴下し、密閉した状態で24時間放置した際に、水が基材に浸透する基材をいう。具体的には、アート紙、コート紙、マットコート紙、上質紙、クラフト紙、更紙、段ボール等の紙製品;及び、織物、不織布、ガーゼ、フィルター等の繊維製品を例示することができる。また、素材が金属又はプラスチックであっても、表面に微細な隙間があり、液体を吸収する性質がある場合は、吸収性基材となる。
【0048】
<インキ層>
インキ層は、吸収性基材上に、オフセット印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、インクジェット印刷等の公知の印刷方法を用いて形成することができる。インキは、それぞれの印刷方法に適した任意のインキを使用することができ、特に限定されない。
【0049】
<オーバープリント層>
オーバープリント層は、インキ層の表面(印刷面上)に、活性エネルギー線硬化型組成物を印刷し、硬化することによって得られる。
【0050】
活性エネルギー線硬化型組成物を印刷又はコーティングする方法としては、ロールコーター、グラビアコーター、フレキソコーター、エアドクターコーター、ブレードコーター、エアナイフコーター、スクイズコーター、含浸コーター、トランスファーロールコーター、キスコーター、カーテンコーター、キャストコーター、スプレーコーター、ダイコーター、オフセット印刷(湿し水を使用する通常の平版、及び湿し水を使用しない水無し平版)、フレキソ印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷等が挙げられる。
【0051】
活性エネルギー線硬化型組成物を硬化する方法に特に制限はなく、公知のものを用いることができる。具体的には、水銀ランプ、キセノンランプ、メタルハイドライドランプ、紫外線発光ダイオード(UV-LED)、紫外線レーザーダイオード(UV-LD)等のLED(発光ダイオード)、及びガス・固体レーザーなどが挙げられる。
【0052】
硬化後のオーバープリント層は、印刷物を試験体とした黄色ブドウ球菌についてのJIS L1902:2015抗菌性試験(トランスファー法)において抗菌性を示す。抗菌性を示すとは、同試験において抗菌活性値が0より大きいことを意味し、この抗菌活性値は1.0以上であることが好ましく、2.0以上であることがより好ましい。JIS L1902:2015(トランスファー法)に従った抗菌性は、後述する実施例における評価方法を用いて行うことができる。なお、大腸菌についても同様に評価できる。
【0053】
また、一実施形態においてオーバープリント層は、前記印刷物を試験体とした黄色ブドウ球菌についてのJIS Z2801:2010抗菌性試験(フィルム密着法)においては、抗菌活性値が2.0未満となるものである。これは、菌液が印刷物に浸透してしまい、無加工試験片においても生菌数が減少してしまうために、結果として抗菌活性値が低くなってしまうためである。
【0054】
フィルム密着法に従った抗菌性は、次のようにして評価できる。すなわち、50mm×50mmに切断した試験片の表面に、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)を含む菌液を0.4mL滴下し、その上から40mm×40mmのポリエチレンフィルムを密着させ、温度35℃、湿度90%の条件下で24時間培養する。培養後、ポリエチレンフィルムおよび試験片に付着している菌体をSCDLP培地10ml(V)で洗い出す。洗い出した液を1ml取り、リン酸緩衝生理食塩水9mlの入った試験管に加えて混合し、さらにこの試験管から1mlを取り、別の試験管に入ったリン酸緩衝生理食塩水9mlに入れて混合する。この操作を繰り返して、10倍希釈系列希釈液を作製する。洗い出し液と各希釈液からそれぞれ1ml(希釈倍率:D)をシャーレ2枚に分注する。シャーレ1枚あたり、46~48℃に保温した標準寒天培地15~20mlを加えてよく混合し、温度35℃の条件下で40~48時間培養した後、黄色ブドウ球菌の生菌数をそれぞれカウントする。評価の対照には、抗菌剤を含んでいないオーバープリント層を形成した試験片(無加工試験片)を用いる。また、無加工試験片について、菌液接種後にポリエチレンフィルムを密着させた直後にSCDLP培地10mLで洗い流した洗い出し液についても、同様の操作で生菌数を測定する。試験はそれぞれ3回行い、平均を取ることとする。
【0055】
生菌数(N)は以下の方法により算出する。
N=(C×D×V)/A
N:生菌数(試験片1cmあたり)
C:集落数(採用した2枚のシャーレの集落数平均値)
D:希釈倍数(採用したシャーレに分注した希釈液の希釈倍率)
V:洗い出しに用いたSCDLP培地の液量(ml)
A:被覆フィルムの表面積(cm
ただし、Cが<1の場合はCを1として生菌数を算出する。例えば、V=10ml、A=16cm、D=1の場合、N<0.63と表示する。
抗菌活性値(R’)は以下の方法により算出する。
R’=(U-U)-(A-U)=U-A
:無加工試験片の接種直後の生菌数の対数値の平均値
:無加工試験片の24時間後の生菌数の対数値の平均値
:抗菌加工試験片の24時間後の生菌数の対数値の平均値
ただし、生菌数(N)が<0.63の場合、0.63で計算する。小数点以下2けた目は切り捨て、小数点以下1けたで表示する。
【0056】
3.評価方法
一実施形態にかかる評価方法は、吸収性基材とインキ層とオーバープリント層とを含む印刷物におけるオーバープリント層の抗菌性の評価方法であり、印刷物を試験体としてJIS L1902:2015(トランスファー法)を用いるものである。この評価方法により、JIS Z2801:2010(フィルム密着法)とは異なり、吸収性基材上に形成されたオーバープリント層の抗菌性を、該オーバープリント層が形成された物の状態で適正に評価することができる。なお、オーバープリント用ニスを非浸透性の基材に塗布してJIS Z2801に従う抗菌性評価を行っても、それは印刷物上に存在するオーバープリント層の抗菌性を評価したことにはならない。本実施形態の評価方法において、吸収性基材、インキ層、オーバープリント層、及び抗菌性評価方法等は、上述のとおりである。
【実施例
【0057】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の記載において「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」をそれぞれ表す。
【0058】
[活性エネルギー線硬化型組成物の製造A(RIテスター用ニス)]
実施例1A
エポキシ樹脂ワニス(「バンビームUV103D」ハリマ化成株式会社製)36.9部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 20部、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート 10.0部、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジアクリレート 10.0部、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレート 10.0部、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド 5.0部、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール 0.1部、抗菌剤A(「アモルデンJM」)3.0部、及び炭酸カルシム 5.0部を測り取り、全体が均一になるまで攪拌した後、3本ロールで分散してろ過を行うことにより、活性エネルギー線硬化型組成物を得た。
【0059】
実施例2A~15A
表1に記載した原料の種類と量を用いた以外は、実施例1Aと同様の方法で実施例2A~15Aの活性エネルギー線硬化型組成物を得た。なお、表中の配合量を示す数値は「質量部」を表し、空欄は配合していないことを表す。
【0060】
比較例1~6
表1に記載した組成に従い、上記実施例と同様にして、比較例1~6の活性エネルギー線硬化型組成物を得た。
【0061】
なお、表1中に記載した原料の詳細は、以下のとおりである。
エポキシ樹脂:エポキシ樹脂ワニス(ハリマ化成株式会社製「バンビームUV103D」)
DPHA:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(サートマー社製「DPHA」)
DP(EO)HA:エチレンオキサイド変性ジトリメチロールプロパンヘキサアクリレート(共栄社化学工業株式会社製「ニューフロンティアMF-001」)
DTMPTA:ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート(サートマー社製「SR355」)
TPGDA:トリプロピレングリコールジアクリレート(サートマー社製「SR306」)
BPA(EO)DA:エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジアクリレート(ミウォン社製「MIRAMER M240」)
TMP(EO)TA:エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレート(サートマー社製「SR454」)
炭酸カルシウム:(白石カルシウム株式会社製「白煙華O」)
TPO:2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド(アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤)
HCPK:1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(α-ヒドロキシアルキルフェノン系光重合開始剤)
4MBP:4-メチルベンゾフェノン(ベンゾフェノン系光重合開始剤)
H-BHT:ジブチルヒドロキシルトルエン(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール)
抗菌剤A:4級アンモニウム系抗菌剤(大和化学工業株式会社製「アモルデンJM」)
抗菌剤B:トリアジン系抗菌剤(エム・アイ・シー社製「PBM-OJ」)
抗菌剤C:4級アンモニウム系抗菌剤(タマ化学工業株式会社製「ハイジェニアS-100」)
抗菌剤D:銀系抗菌剤(東亜合成株式会社製「AG-300」)
抗菌剤E:銀・亜鉛系抗菌剤(株式会社タイショーテクノス製「ビオサイドTB-B100」)
【0062】
[抗菌性評価用試験サンプルの作製]
得られた実施例及び比較例の活性エネルギー線硬化型組成物を、UVオフセット用インキ(「FD カルトンGT 墨 M」東洋インキ株式会社製)を用いて濃度1.8になるようにベタ画像を印刷したコートボール紙上に、RIテスター(テスター産業株式会社製)を用いて、0.25mlの盛り量で一面に塗工した。その後、コンベア速度60m/分で、高圧水銀ランプ(アイグラフィックス株式会社製、照射距離10mm、出力160W/cmの条件)を用いて活性エネルギー線硬化型組成物を硬化させ、オーバーコート層付きの印刷物を作製した。
【0063】
[抗菌性]
得られた印刷物について、以下の方法で抗菌性の評価を行った。
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)について、1×10cfu/mL~3×10cfu/mLとなるように調整した菌液を、寒天培地上に1mL滴下し、滴下した菌液を、寒天培地表面全体に濡れ広がらせ、余分な菌液を回収した。5分後、38mm四辺の四角片に切断した試験片の表面を寒天培地面に接触するように置き、その上から質量が200gで、直径が35mmの重りを乗せた。試験片を接触させてから1分後、試験片を回収し、温度37℃、湿度90%の条件下で24時間培養した。培養後、試験片に付着している菌体を不活性化液20mlで洗い出し、洗い出した液を1ml取り、リン酸緩衝生理食塩水9mlの入った試験管に加え、混合し、さらにこの試験管から1mlを取り、別の試験管に入ったリン酸緩衝生理食塩水9mlに入れて混合した。この操作を順次繰り返して,10倍希釈系列希釈液を作製した。これらの試験管から1mlを取り、シャーレ2枚に分注した。シャーレ1枚あたり、46~48℃に保温した標準寒天培地15~20mlを加え、よく混合し、温度37℃の条件下で24~48時間培養した後、黄色ブドウ球菌の生菌数をそれぞれカウントした。評価の対照には、抗菌剤を含んでいないオーバープリント層を形成した試験片(無加工試験片)を用いた。また、菌液を保持した寒天培地に試験片を接触させ1分経過後に、回収した各試験片を不活性化液20mLで洗い流した洗い出し液についても、同様の操作で生菌数を測定した。試験はそれぞれ3回行い、平均を取ることとした。
【0064】
生菌数(M)は、測定した集落数から次式によって算出した。
M=C×D×V
C:集落数(採用した2枚のシャーレの集落数平均値)
D:希釈倍数(採用したシャーレに分注した希釈液の希釈倍数)
V:洗い出しに用いた不活性化液の液量(mL)
抗菌活性値(R)は、以下の方法により算出した。
R=(U-U)-(A-A
:無加工試験片の接種直後の生菌数の対数値の平均値
:無加工試験片の24時間後の生菌数の対数値の平均値
:抗菌加工試験片の接触直後の生菌数の対数値の平均値
:抗菌加工試験片の24時間後の生菌数の対数値の平均値
ただし、A<Uの場合は、AをUに置き換えて計算する。
なお、計算において小数点以下2けた目は切り捨て、小数点以下1けたで表す。
【0065】
得られた抗菌活性値(R)から、以下のように抗菌性を評価した。抗菌活性値が1.0以上であれば、本実施形態において抗菌効果が良好であると評価できる。
○:2.0以上
△:2.0未満、1.0以上
×:1.0未満
【0066】
[塗膜堅牢性評価用試験サンプルの作製]
得られた実施例及び比較例の活性エネルギー線硬化型組成物を、RIテスター(テスター産業株式会社製)を用いて、ポリエチレンコート紙に0.25mlの盛り量で一面に塗工した。その後、上記抗菌性評価用試験サンプルと同様に活性エネルギー線硬化型組成物を硬化させてオーバープリント層を形成し、試験サンプルとした。
【0067】
[塗膜の堅牢性]
ポリエチレンコート紙上に形成されたオーバープリント層を綿布で1回擦過した際に付く傷を肉眼で観察し、評価した。3以上の評価であれば実用上好ましい。
5:傷が全く付かない。
4:わずかに傷が確認できる。
3:傷が確認できる。
2:下地がうっすら見える。
1:下地がはっきり見える。
【0068】
[光沢評価用試験サンプルの作製]
基材をアート紙(三菱製紙株式会社「特菱アートN」)に変更した他は、上記塗膜堅牢性評価用試験サンプルの作製と同様にして、光沢評価用試験サンプルを作製した。
【0069】
[光沢性]
得られた試験サンプルの光沢を、光沢計(「GLOSS METER GM-26D」村上色学研究所製)を用いて、入射角60°で測定した。光沢値が40以上であると、実用上好ましい。
5:光沢値が50以上
4:光沢値が45以上50未満
3:光沢値が40以上45未満
2:光沢値が35以上40未満
1:光沢値が35未満
【0070】
[保存安定性]
得られた実施例及び比較例の活性エネルギー線硬化型組成物を、密閉容器に入れ60℃で保管した。一定期間経過した後、容器の底面から組成物を採取して、グラインドゲージにて分散性を評価した。2週間経過しても初期の分散状態からの劣化が見られなければ、実用上好ましい。
〇:1か月以上経過しても初期の分散状態からの劣化が見られない。
△:2週間経過しても初期の分散状態からの劣化が見られないが1か月経過で劣化が見られる。
×:2週間経過で初期の分散状態からの劣化が見られる。
【0071】
以上の結果を、表1に併せて示す。
【表1】
【0072】
[活性エネルギー線硬化型組成物の製造B(ロールコーター用ニス)]
実施例1B
エポキシ樹脂ワニス 21.5部、DPHA 20.0部、BPA(EO)DA 20.0部、TPGDA 30.0部、TPO 5.0部、メトキノン 0.5部、抗菌剤A(「アモルデンJM」)3.0部を測り取り、60℃に加熱しながら攪拌し、全体が均一になったことを確認した後ろ過を行うことで、活性エネルギー線硬化型組成物を得た。
【0073】
実施例2B~15B
表2に記載した原料の種類と量を用いた以外は、実施例1と同様の方法で実施例2B~15Bを得た。なお、表2中の配合部を示す数値は「質量部」を表し、空欄は配合していないことを表す。
【0074】
表2中に記載した原料の詳細は、上記「製造A」で記載のとおりであり、それ以外は以下のとおりである。
1.6-HDDA:1.6-ヘキサンジオールジアクリレート(ダイセル・オルネクス社製)
メトキノン:ハイドロキノンモノメチルエーテル
【0075】
得られた実施例の活性エネルギー線硬化型組成物を用い、上記「製造A」と同様にして、抗菌性評価用、塗膜堅牢性評価用、及び光沢性評価用の試験サンプルを作製し、抗菌性、光沢性、及び塗膜の堅牢性を評価し、また組成物の保存安定性を評価した。結果を表2に併せて示す。
【0076】
【表2】
【0077】
上記のとおり実施例では、活性エネルギー線硬化型組成物中の抗菌剤の含有量が少ない場合であっても、印刷物表面に良好な抗菌性を付与することができ、併せて光沢性、及び塗膜の堅牢性を有する印刷物を得ることができた。
【要約】
【課題】オーバープリント層に求められる光沢性と堅牢性を備え、かつ、印刷物表面に抗菌性を付与できるオーバープリント層を備えた印刷物を提供すること。
【解決手段】
吸収性基材とインキ層とオーバープリント層とを含む印刷物であって、前記オーバープリント層は、光重合開始剤、重合性化合物、及び抗菌剤を含む活性エネルギー線硬化型組成物の硬化物であり、前記光重合開始剤の含有量は、活性エネルギー線硬化型組成物全量中に3~20質量%であり、前記抗菌剤は有機系抗菌剤を含み、該有機系抗菌剤の含有量は、活性エネルギー線硬化型組成物全量中に0.1~15質量%であり、前記オーバープリント層は、前記印刷物を試験体とした黄色ブドウ球菌についてのJIS L1902:2015抗菌性試験(トランスファー法)において抗菌性を示す、印刷物。
【選択図】なし