(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-13
(45)【発行日】2023-09-22
(54)【発明の名称】原子間力顕微鏡によるナノスケール動的機械分析(AFM-nDMA)
(51)【国際特許分類】
G01Q 60/34 20100101AFI20230914BHJP
G01N 19/00 20060101ALI20230914BHJP
G01N 3/32 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
G01Q60/34
G01N19/00 B
G01N3/32 M
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022069161
(22)【出願日】2022-04-20
(62)【分割の表示】P 2022004078の分割
【原出願日】2019-08-02
【審査請求日】2022-07-29
(32)【優先日】2018-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520459595
【氏名又は名称】ブルカー ナノ, インク.
【氏名又は名称原語表記】BRUKER NANO, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100107364
【氏名又は名称】斉藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】オセシンスキー,セルゲイ
(72)【発明者】
【氏名】ロイター,アントニウス
(72)【発明者】
【氏名】ピッテンジャー,ベーデ
(72)【発明者】
【氏名】サイド-アマーヌッラー,サイド-アシフ
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-346784(JP,A)
【文献】特表2007-532916(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0018623(US,A1)
【文献】Susana Moreno-Flores、Rafael Benitez、Maria dM Vivanco、Jose Luis Toca-Herrera,“Stress relaxation and creep on living cells with the atomic force microscope: a means to calculate elastic moduli and viscosities of cell components”,Nanotechnology,英国,IOP PUBLISHING,2010年10月05日,Vol.21,No.44,445101(pp.1-8),doi:10.1088/0957-4484/21/44/445101
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01Q 10/00 - 90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子間力顕微鏡(AFM)ハードウェアを用いて粘弾性サンプルの機械的特性を決定するように構成された装置であって、
周波数空間における少なくとも1つのディケードをカバーするそれぞれに対応する別々の周波数を有する複数の正弦波信号を含む励起力信号を生成するように構成された励起電子回路であって、前記複数の正弦波信号の振幅が、前記複数の正弦波信号すべてについて同じである最大値と最小値の間で変化させられる、励起電子回路と、
前記AFMのカンチレバープローブのカンチレバーの先端が前記粘弾性サンプルの表面に接触した状態における前記カンチレバーの撓みを検出し、前記撓みを表すデータを生成するように構成された位置検出システムと、
前記位置検出システムと動作可能に接続され、
前記励起力信号の平均値および前記励起力信号の振動成分の両方を表すフィードバック出力を監視および生成するように構成されたフィードバック電子回路と、
前記励起電子回路および前記フィードバック電子回路と協働する電気-機械的サブシステムであって、
前記カンチレバーが前記カンチレバーの公称配向から所定の量だけ撓んだとき、前記励起電子回路から伝達された前記励起力信号に応答して、前記サンプルと前記プローブとの間に機械的振動を生じさせるように構成され、かつ、
前記フィードバック出力を受け取ると、前記サンプルと前記プローブの一方を、前記サンプルと前記プローブの他方に対して、前記プローブの先端と前記サンプルの表面との接触面積が前記機械的振動の間において実質的に一定に保たれる位置に維持する、
電気-機械的サブシステムと、
少なくとも位置検出システムと動作可能に通信するプログラマブルプロセッサであって、
前記サンプルの表面のクリープを緩和するのに十分な緩和期間の間、前記電気-機械的サブシステムの動作を停止し、前記クリープは、前記プローブによる前記サンプルの事前負荷によって引き起こされ、かつ、
前記緩和期間が経過した後に、前記位置検出システムから前記データを取得して粘弾性パラメータを決定する、
ようにプログラムされたプログラマブルプロセッサと、
を備える装置。
【請求項2】
前記励起電子回路は、
a)所定の時間的期間の開始時にのみ最大値を有すると共に前記期間の終了時にのみ最小値を有する前記励起力信号を生成するように、相互間における所定の位相シフトを含まない、あるいは、
b)前記期間内に複数の振幅のピークを持つ前記励起力信号を生成するように、相互間における所定の位相シフトを含む、
前記複数の正弦波信号を生成するように構成された、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記電気-機械的サブシステムは、前記カンチレバープローブのカンチレバーが前記装置のカンチレバーの公称配向から所定の量だけ撓むまで、前記サンプル及び前記カンチレバープローブの一方を再配置するようにさらに構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記電気-機械的サブシステムは、前記機械的振動の間において、前記プローブによって発生する平均サンプル負荷力が実質的に一定に保たれるような相互位置に、前記サンプルと前記プローブを互いに対して維持するように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記プログラマブルプロセッサは、前記励起電子回路から前記電気-機械的サブシステムに前記励起力信号を伝達するようにさらに構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記フィードバック電子回路は、
前記表面の前記クリープを補償するためにカンチレバーの撓みを実質的に一定に維持する信号を生成するように構成されている、請求項1に記載の
装置。
【請求項7】
前記プログラマブルプロセッサと動作可能に通信し、ユーザが知覚可能であると共に前記粘弾性パラメータを表す出力を生成するように構成されている、記録装置をさらに備える、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記プログラマブルプロセッサは、前記励起電子回路を制御して、
前記複数の正弦波信号の前記振動成分の振幅及び位相の最大値及び最小値のうちの1つ以上を調整するように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
ロックイン検出または高速フーリエ変換ベースの解析のいずれかを使用することなく、周波数空間における前記少なくとも1つのディケードをカバーする周波数のセットにおいて、前記粘弾性パラメータを決定するに構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
原子間力顕微鏡(AFM)ハードウェアを用いて粘弾性サンプルの機械的特性を決定するための方法であって、
請求項1に記載の装置を使用するステップと、
前記AFMのカンチレバープローブの先端と前記サンプルの表面との間の接触面積の変化を補正するために、
前記装置の前記フィードバック電子回路によって、前記装置の動作を事前に選択された基準周波数で監視するステップであって、前記変化は、前記表面のクリープによって引き起こされ、
前記監視することは、周波数空間において少なくとも1ディケードをカバーする周波数のセットからの別の周波数での前記カンチレバープローブの励起によって、前記事前に選択された基準周波数での前記カンチレバープローブの励起を補完することを含む、ステップと、
周波数空間における少なくとも1つのディケードをカバーする
前記周波数のセットにおいて、前記サンプルの表面の粘弾性パラメータを測定するステップと、
を含む方法。
【請求項11】
前記測定するステップが、ロックイン検出または高速フーリエ変換ベースの解析のいずれかを使用することなく、0.001Hzから1,000Hzまでの範囲内に必ず含まれる周波数のセットにおいて、前記サンプルの前記表面の前記粘弾性パラメータを測定するステップを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記接触面積を実質的に一定に保っている間、前記カンチレバープローブの前記カンチレバーが、前記装置の位置検出システムによって決定された前記カンチレバーの公称配向から所定の量だけ撓むまで、前記装置の前記プローブを前記粘弾性サンプルの前記表面に向けて再配置するステップ、をさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記接触面積を実質的に一定に保つことが、前記カンチレバープローブの前記先端と前記サンプルの前記表面との間の前記接触の動的剛性の変化の判定に基づいて、前記接触面積の前記変化を補償することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
第1の期間中に、前記プローブの前記先端による前記表面の変形の深さを決定するために、前記装置の
前記フィードバック電子回路のセンサから、前記周波数のセットからの周波数における第1の電気信号のセットを取得するステップと、
第2の期間中に、前記表面の前記クリープによって引き起こされる前記接触面積の変化を補償するために、前記装置の
前記フィードバック電子回路の前記センサから、基準周波数における第2の電気信号のセットを取得するステップと、をさらに含み、
前記センサは、撓みセンサと、前記表面に対する前記プローブの位置を測定するように構成されたセンサとのうちの少なくとも1つを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記電気信号の前記第1のセットを取得するステップ及び前記電気信号の前記第2のセットを取得するステップは、互いに交互に行われる工程である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記事前に選択された基準周波数は、前記周波数のセットに含まれない、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記装置の前記励起電子回路によって、前記周波数空間内の前記少なくとも1つのディケードをカバーするそれぞれに対応する別々の周波数を有する複数の正弦波信号を含む励起力信号を生成することによって、前記プローブによって前記サンプルに課されるサンプル負荷力を変調するステップをさらに含み、
前記複数の正弦波信号の振幅が、前記複数の正弦波信号すべてについて同じである最大値と最小値の間で変化させられる、請求項10に記載の方法。
【請求項18】
前記生成することは、
19a)所定の時間的期間の開始時にのみ最大値を有すると共に前記期間の終了時にのみ最小値を有する前記励起力信号を生成するように、相互間における所定の位相シフトを含まない、あるいは、
19b)前記期間内に複数の振幅のピークを持つ前記励起力信号を生成するように、相互間における所定の位相シフトを含む、
前記複数の正弦波信号を生成することを含む、請求項17に記載の
方法。
【請求項19】
前記サンプルと前記カンチレバープローブの一方が前記サンプルと前記カンチレバープローブの他方に対して再配置されることによって生じる前記サンプルの前記表面の前記クリープを緩和するのに十分な緩和時間の間、前記装置の電気-機械的サブシステムの動作を停止するステップをさらに含み、
前記測定するステップが、前記緩和期間が経過した後に、前記カンチレバープローブの前記カンチレバーの撓みを検出するように構成された、前記装置の前記位置検出システムからデータを取得して、前記粘弾性パラメータを決定するステップを含む、
請求項10に記載の
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年8月6日に出願された米国特許仮出願第62/715,166号、及び2018年11月20日に出願された米国特許仮出願第62/769,905号の優先権及び利益を主張するものである。上記で参照された各出願の開示は参照によって本明細書に組み込まれている。
【0002】
本発明は、概して、材料の動的機械的特性を決定する方法、特に、特定の範囲の周波数、すなわち、軟質材料のレオロジーに実質的に関連する低周波数範囲において、原子間力顕微鏡を使用して実行される材料のナノスケールのレオロジー(流動学)に関する。
【背景技術】
【0003】
動的機械解析(DMA)は、様々な材料(金属、複合材料、ポリマー、エラストマーなど)の粘弾性機械的特性を明らかにするために設計された測定方法である。
【0004】
粘弾性は、変形を受けたときに粘性と弾性の両方の特性を示す材料の特性であると認識されている。応力下の粘性材料は、通常、せん断流に抵抗し、時間とともに直線的にひずむ。弾性体は、伸ばされるとひずみが生じ、応力を取り除くとすぐに元の状態に戻る。粘弾性を考えると、荷重(応力)に応答して固体材料が示す変形(ひずみ)は、一般的に時間依存性を有する:このような変形(ひずみ)は、荷重(応力)の大きさだけでなく、負荷速度(~負荷速度)や緩和時間にも依存する。
【0005】
巨視的(又は体積 (bulk))DMAレオロジーの特性化手順によれば、典型的には、周期的な(調和的な)引張応力、圧縮応力、曲げ応力、又はせん断応力が、材料サンプルに印加され、そのような荷重の結果としてサンプルの励起を引き起こす。次いで、材料の機械的応答(例えば、このような応答の振幅及び位相)は、励振の周波数(励起周波数)で解析される。この解析は、通常、ロックインアンプを使用して実行される。DMA法は、材料の貯蔵弾性率(E′)と材料損失弾性率(E″)を測定するために確立されており、これらの弾性率の比E″/E′(「正接差分」(tan-delt)とも称され、「損失係数」、「損失正接」、又は「ダンピング」としても知られている)は、通常、MPa又はGPaで表される。これらの材料特性は、周波数、温度、時間、応力若しくは負荷、環境条件、又は上記の組み合わせの関数として特徴付けられる。(代替用語 - 動的機械的熱分析、DMTAは、DMA測定結果の温度の寸法又は依存性を強調するために使用されることがある)。
【0006】
軟質材料の機械的特性を考慮すると、低周波数の機械的特性(つまり、最大数百Hz、例えば最大300Hzの周波数での機械的特性)は、生体材料及び細胞の典型的な生理学的運動に最も関連していると認識されている。生体材料及び細胞の低周波数の機械的特性を決定する能力は、軟質材料の現在の知識を大幅に拡大するだろう。また、他の様々な材料の低周波数性能の詳細な理解も望まれており、例えば、現在産業界で使用されているポリマーやゴムの貯蔵損失係数のデータベースは、ミクロ且つナノスケールのデータを実質的に欠いていることがよく知られている。
【0007】
しかしながら、既存のDMA技術(材料のナノインデンターシステムの使用など、関連する技術ではほぼ普遍的に使用されている)は、軟質材料に使用される場合、限られた空間分解能を有することが認識されており、これは、AFMベースの装置が作動する長さスケールで軟質材料の力学を研究するためにそのような技術を使用することを制限するか、又は妨げるものでさえある。例えば、現在存在するDMA技術のいくつか(定義上AFMのような機器を使用しておらず、関連技術(例えば、Pharr, G.M., Oliver, W.C., & Brotzen, F.R., 材料研究ジャーナル 7, 613-617, 1992; S.A. Syed. Asif and J.P. P. Pethica, 505,103, 1997 シンポジウム 「NN-薄膜応力と機械的性質 VII」にて; S.A. Syed Asifら, 応用物理学論文集 , 90, 3, 2001; Herbert, E. G.ら , 物理学Dジャーナル 応用物理学41, 2008を参照。)でそのように認識されているナノインデンターシステムを使用する技術など)は、理論的にそのような測定の実行を可能にするように構造化されているが、例えば、既存のDMAナノインデンター方法には、AFMが生体材料や細胞などの軟質材料で測定を実行できる長さスケールで実際の測定を行うことを実質的に妨げる、いくつかの要因があることが指摘されている。これらの要因の中で、ほんの数例を挙げると、非線形な弾性応答や、密着度がかなり高いことがある。
【0008】
現在のAFMベースの粘弾性測定技術は、これらの技術を使用すると材料のクリープ緩和ができないという点で根本的に制限されており、これは必然的に測定中にプローブの先端部とサンプルの間に得られる接触の質や安定性に影響を与え、結果として測定の精度に悪影響を及ぼす。このような制限のため、例えば米国9,417,170に記載されているシステムは、測定中に、圧子プローブと関心表面との接触の緩和を待つことを明示的に避ける(遠ざけ、許可しない)ように構成されており、それにより、記載されているシステム及び方法は、レオロジー的に関連する(低範囲の)周波数での定量的な測定及びマッピングの両方において実質的に非実用的なものである。
【0009】
熟練した職人は、低周波数でナノスケールの軟質材料の動的弾性率を測定するために考案されたAFMベースのDMA技術に対する強い需要が依然としてあることを容易に理解している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施形態は、慎重に構成された原子間力顕微鏡法を使用して、低周波数(本明細書で定義される)での軟質材料の機械的応答のAFMベースのナノスケール測定(すなわち、ナノメートルの幾何学的スケールでの測定)を実行するように慎重に構成されており、
【0011】
平均サンプル負荷力、及び先端部とサンプルとの間の平均接触の少なくとも1つを実質的に一定に維持する。一つの非限定的な実施形態では、例えば、サンプル負荷力のDC成分は実質的に一定に維持されているが、サンプル負荷力のAC成分は、好ましくは可変に維持され、
【0012】
サンプルの励起の最新のキャリブレーションのためにデュアルチャネル復調を実行し、
【0013】
関連技術とは全く対照的に、サンプルの予圧によって引き起こされるサンプルのドリフト/クリープを意図的に考慮して補償すること、及び/又はサンプルの予圧によって引き起こされる材料の初期ドリフト/クリープの緩和を達成し、
【0014】
(例えば、基準周波数での接触剛性を介して)接触半径を補正する。
【0015】
本発明の実施形態は、粘弾性サンプルの表面の機械的特性を決定するように構成されたAFMベースのシステムを提供する。そのようなシステムは、少なくとも1つの周波数で第1の振動信号を生成するように構成された信号発生器と、信号発生器と動作可能に協働する機械的サブシステムとを含む。ここでは、機械的システムは、i)プローブのカンチレバーがカンチレバーの公称方向から予め決められた量だけ撓むまで、サンプル及びシステムのAFMのカンチレバープローブの一方を他方に対して再配置し、ii)プローブをサンプルの表面に対して所定の位置に維持し、その位置では、1)プローブによって発生する平均サンプル負荷力、及び2)プローブの先端部と表面との間の接触面積のうち少なくとも1つを実質的に一定に維持し、iii)信号周波数での第1の振動信号の機械システムへの転送の結果として、サンプル及びプローブの一方の機械的振動を他方に対して発生させるように構成されている。システムはさらに、システムの動作を特徴付ける時間的及び空間的要因の少なくとも1つの関数としてカンチレバーの撓みを検出するように構成された位置検出システムを含む。
【0016】
システムはさらに、機械的サブシステムと電気的に通信し、信号発生器から機械的サブシステムに第1の振動信号を転送するようにプログラムされたプログラマブルプロセッサを含み、表面のクリープを緩和するのに十分な時間、機械的サブシステムの動作を中断し(サンプル及びAFMのカンチレバープローブの一方をサンプル及びプローブの他方に対して再配置することによって引き起こされる);及び、位置検出システムからデータを取得して、緩和期間が経過した後の表面の粘弾性パラメータを決定する。ここで、緩和期間とは、サンプル及びAFMのカンチレバープローブの一方をサンプル及びカンチレバープローブの他方に対して再配置することによって引き起こされた(表面の)クリープの緩和に十分な期間である。ある特定の実施形態では、システムは、さらに、表面のクリープを補償しながら、予め定義された周波数のセットで、表面の粘弾性パラメータを測定するように構成された電子回路を含んでもよく、及び/又は、プロセッサと動作可能に通信して、ユーザが知覚可能であり、粘弾性パラメータの測定プロセスの少なくとも1つの可変条件の関数としての粘弾性パラメータを表す出力を生成するように構成された記録装置を含んでもよい。任意の実施形態では、信号発生器は、単一の周波数のみで第1の振動信号を生成するように意図的に構成されていてもよい。
【0017】
実施形態はさらに、原子間力顕微鏡(AFM)ベースのシステムを用いて軟質粘弾性サンプルの機械的特性を決定するための方法を提供する。この方法は、1)プローブのカンチレバーがカンチレバーの公称方向から予め決められた量だけ撓むまで、システムのカンチレバープローブをサンプルの表面に向けて再配置するステップと、2)i)プローブによって発生する平均サンプル負荷力、及びii)実質的に一定であるプローブの先端部と表面との間の接触面積の少なくとも1つを維持するために、再配置のプロセスを修正するステップと、を含む。また、この方法は、表面のクリープ及びシステムの空間ドリフトの少なくとも1つを補償又は補正しながら、予め定義された周波数のセットで、表面の粘弾性パラメータを測定するステップと、ユーザによって知覚可能であり、測定のプロセスの可変条件の少なくとも1つの関数として粘弾性パラメータを表す出力を生成するステップと、をさらに含む。一実施形態では、粘弾性パラメータを測定するステップは、予め定義された周波数のセットからの複数の周波数で同時に実行されてもよい。任意の実施形態では、再配置のプロセスを修正するステップは、予め定義された周波数のセットから所定の励起周波数で、プローブによってサンプルに印加されるサンプル負荷力を変調するステップを含んでもよい。(後者の具体的なケースでは、サンプル負荷力を変調するステップは、サンプル負荷力の各振動子成分の振幅及び位相を、予め定義された周波数のセットからそれぞれ対応する目標値に調整することによって行われ、そのような調整は、変調されたサンプル負荷力を印加されたサンプルの材料の応答に依存して行われる)。実質的に任意の実施形態においては、再配置を修正するプロセスは、プローブの表面とベースとの間の離間が修正されている間、平均サンプル負荷力を実質的に一定に維持することを含んでもよい。実質的に任意の実施形態においては、粘弾性パラメータを測定するステップは、(a)プローブによってサンプルに印加される励振力と、励振力によって引き起こされる表面の変形との両方を同時に測定することと、(b)システムの繰り返しキャリブレーションを回避/防止することの少なくとも1つを実現するために、システムのデュアルチャネル復調の動作を実行することによって行われる。(特定のケースでは、そのようなデュアルチャネル復調を実行するステップは、測定するステップの間において、システムの電子回路の第1のセンサとシステムの電子回路の第2のセンサからそれぞれ受信した第1のデータと第2のデータを組み合わせることを含んでもよい。ここで、第1のデータは、表面に対するプローブの位置を表し、第2のデータは、プローブのカンチレバーの公称方向からの撓みの程度を表す)。任意の実施形態において、方法は、再配置のプロセスによって引き起こされた表面のクリープを緩和するのに十分な時間の間において、システムの動作を一時停止又は途中停止することをさらに含んでもよい。実質的に任意の実施形態においては、デュアルチャネル復調を実行するステップは、第1チャネル及び第2チャネルのうちの少なくとも1つから受信された信号データのドリフト誘起変化及びクリープ誘起変化のうちの少なくとも1つの補正を導入することを含んでもよい。
【0018】
実質的に任意の実施形態においては、本方法は、システムの第1の電子回路及び第2の電子回路の少なくとも1つを用いて、表面のクリープによる接触面積の変化を補償/補正するために、基準周波数でのシステムの動作を連続的に監視するステップをさらに含んでもよい。(後者の具体的な実施形態では、連続的に監視するステップは、第1の電子回路及び前記第2の電子回路のうちの一方のみを用いて連続的に監視することによって行われてもよく、ハードキャリブレーションのサンプルから得られた第1の電子回路及び第2の電子回路のうちの他方から信号を表すキャリブレーションデータを取得するステップをさらに含む。)代替的又は追加的に、本方法は、表面のクリープによる接触面積の変化を補償するステップを含めてもよく、このような補償するステップは、i)システムのプログラマブルプロセッサを用いて粘弾性パラメータを計算しながら接触面積の変化を算定するステップであって、プログラマブルプロセッサがAFMと動作可能に接続される、当該算定するステップ、及び、ii)そのような変化を補償するためにプローブを再配置するステップのうちの少なくとも1つを含む。上記のいずれかの場合において、基準周波数の選択は、予め定義された周波数のセットの一部ではない基準周波数を選択することを含んでもよい。
【0019】
任意の実施形態の方法においては、測定するステップは、i)システムの電子回路のセンサから、プローブの先端部を有する表面の押込みの程度を決定するために、周波数のセットからの周波数での第1セットの電気信号を(第1の期間中に)取得するプロセスと、ii)システムの電子回路のセンサから、表面のクリープによる接触面積の変化を補償するための基準周波数での第2セットの電気信号を(第2の期間中に)取得するプロセスと、を含むように構成されてもよい。このような場合に、センサは、撓みセンサ、及び、表面に対するプローブの位置を測定するように構成されたセンサのうちの少なくとも1つを含む。(後者の特定の実施形態では、基準周波数は、周波数のセットに含まれないように選択されてもよい)。第1セットの電気信号を取得するプロセス及び第2セットの電気信号を取得するプロセスは、そのような取得が互いにインターリーブされるように編成されてもよい。本方法は、プローブとサンプルとの間の接触の動的剛性の変化を決定することに基づいて、接触面積の変化を補償するステップをさらに含んでもよい。
【0020】
本発明は、以下の特定の実施形態の詳細な説明を、縮尺なしの図面と併せて参照することにより、より完全に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明のAFM-nDMAシステムの実施形態の概略図を提供し、その動作は、力設定点変調モダリティの手順とZスキャナ変調電子回路の動作との協調を含む。
【
図2】力設定点変調モダリティを実施するように構成された、
図1の実施形態の特定のバージョンの概略図である。
【
図3A】信号トレース、垂直撓み、及びZセンサの例を示す。
【
図3B】信号トレース、垂直撓み、及びZセンサの例を示す。
【
図3C】信号トレース、垂直撓み、及びZセンサの例を示す。
【
図3D】信号トレース、垂直撓み、及びZセンサの例を示す。
【
図3E】信号トレース、垂直撓み、及びZセンサの例を示す。
【
図3F】信号トレース、垂直撓み、及びZセンサの例を示す。
【
図4A】ポリジメチルシロキサン(PDMS)の(固定温度での)低周波数における貯蔵弾性率及び損失弾性率の依存性を示す。本発明のAFM-nDMAベースの実施形態を用いて実施された測定結果と、従来の体積DMA方法を用いて実施された測定結果との間の比較が提供される。
【
図4B】ポリジメチルシロキサン(PDMS)の(固定温度での)低周波数における貯蔵弾性率及び損失弾性率の依存性を示す。本発明のAFM-nDMAベースの実施形態を用いて実施された測定結果と、従来の体積DMA方法を用いて実施された測定結果との間の比較が提供される。
【
図5A】(0.1Hz、1.0Hz、5.6Hzの3種類の固定低周波数における)温度の関数としてのフッ素化エチレンプロピレン(FEP)材料の貯蔵弾性率及び損失弾性率の測定結果を示す。(ミクロン以下の幾何学的スケールでの)本発明のAFM-nDMAベースの実施形態を用いて実行された粘弾性特性の測定結果と、(約1ミリメートル以上の尺度の)従来の体積DMA方法を用いて実行された粘弾性特性の測定結果との比較が提供される。
【
図5B】(0.1Hz、1.0Hz、5.6Hzの3種類の固定低周波数における)温度の関数としてのフッ素化エチレンプロピレン(FEP)材料の貯蔵弾性率及び損失弾性率の測定結果を示す。(ミクロン以下の幾何学的スケールでの)本発明のAFM-nDMAベースの実施形態を用いて実行された粘弾性特性の測定結果と、(約1ミリメートル以上の尺度の)従来の体積DMA方法を用いて実行された粘弾性特性の測定結果との比較が提供される。
【
図5C】(0.1Hz、1.0Hz、5.6Hzの3種類の固定低周波数における)温度の関数としてのフッ素化エチレンプロピレン(FEP)材料の貯蔵弾性率及び損失弾性率の測定結果を示す。(ミクロン以下の幾何学的スケールでの)本発明のAFM-nDMAベースの実施形態を用いて実行された粘弾性特性の測定結果と、(約1ミリメートル以上の尺度の)従来の体積DMA方法を用いて実行された粘弾性特性の測定結果との比較が提供される。
【
図5D】(0.1Hz、1.0Hz、5.6Hzの3種類の固定低周波数における)温度の関数としてのフッ素化エチレンプロピレン(FEP)材料の貯蔵弾性率及び損失弾性率の測定結果を示す。(ミクロン以下の幾何学的スケールでの)本発明のAFM-nDMAベースの実施形態を用いて実行された粘弾性特性の測定結果と、(約1ミリメートル以上の尺度の)従来の体積DMA方法を用いて実行された粘弾性特性の測定結果との比較が提供される。
【
図5E】(0.1Hz、1.0Hz、5.6Hzの3種類の固定低周波数における)温度の関数としてのフッ素化エチレンプロピレン(FEP)材料の貯蔵弾性率及び損失弾性率の測定結果を示す。(ミクロン以下の幾何学的スケールでの)本発明のAFM-nDMAベースの実施形態を用いて実行された粘弾性特性の測定結果と、(約1ミリメートル以上の尺度の)従来の体積DMA方法を用いて実行された粘弾性特性の測定結果との比較が提供される。
【
図5F】(0.1Hz、1.0Hz、5.6Hzの3種類の固定低周波数における)温度の関数としてのフッ素化エチレンプロピレン(FEP)材料の貯蔵弾性率及び損失弾性率の測定結果を示す。(ミクロン以下の幾何学的スケールでの)本発明のAFM-nDMAベースの実施形態を用いて実行された粘弾性特性の測定結果と、(約1ミリメートル以上の尺度の)従来の体積DMA方法を用いて実行された粘弾性特性の測定結果との比較が提供される。
【
図6A】FEPの損失弾性率に対する貯蔵弾性率の比の周波数に対する実験的に定義された依存性を示している。時間-温度重ね合わせ(TTS)を介して提示されている。本発明のAFM-nDMAベースの実施形態で実行された測定の結果と、従来の体積DMA方法で実行された測定の結果との間の比較が提供される。
【
図6B】周波数に対する貯蔵弾性率及び損失弾性率の依存性をそれぞれ示している(
図6Aのグラフに対応する)。時間-温度重ね合わせ(TTS)を介して提示されている。本発明のAFM-nDMAベースの実施形態で実行された測定の結果と、従来の体積DMA方法で実行された測定の結果との間の比較が提供される。
【
図6C】周波数に対する貯蔵弾性率及び損失弾性率の依存性をそれぞれ示している(
図6Aのグラフに対応する)。時間-温度重ね合わせ(TTS)を介して提示されている。本発明のAFM-nDMAベースの実施形態で実行された測定の結果と、従来の体積DMA方法で実行された測定の結果との間の比較が提供される。
【
図6D】本発明の実施形態の使用を用いて実行された測定の結果と、従来の体積DMA方法を用いて実行された測定の結果との間の比較を伴う、シフト因子の時間-温度重ね合わせ(TTS)の例を示す。
【
図7A】プローブが複数の選択された周波数を組み合わせた周波数スペクトルを有する信号で駆動されるシステムの動作モードの説明を提供する。
【
図7B】プローブが複数の選択された周波数を組み合わせた周波数スペクトルを有する信号で駆動されるシステムの動作モードの説明を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
一般的に、図面中の要素のサイズ及び相対的縮尺は、図面の単純性、明瞭性、及び理解を適切に容易化する為に、現実の物とは異なる様に設定され得る。同じ理由で、1つの図面に存在する全ての要素は別の図面に於いては必ずしも示されていない。
【0023】
本発明のシステムの実施形態(ハードウェア、ファームウェア、及びソフトウェアを含むが、これに限定されない)は、デジタルコントローラ及びプログラマブルプロセッサ(コンピュータシステム)を備えた最先端の原子間力顕微鏡(AFM)装置に基づいて実施される。サンプルのナノスケールの動的機械的分析(NDMA)は、制御された力でサンプル表面と相互作用し、サンプルを押し込むカンチレバープローブを用いて実行され、その力は、準静的(DC)成分と動的(AC)振動成分の両方で構成される。
【0024】
力の振動成分の周波数(又は複数の周波数)は、軟質材料及び種々のポリマーの体積、巨視的DMA調査に一般的に関心のある周波数範囲と実質的に一致する範囲内、すなわち、数ディケードのサブHz及び低Hzの周波数範囲(例えば、上で特定されたように、0.0lHzから約200~300Hzまで)の範囲内であり得る。このような制御された力(準静的相互作用部分と振動相互作用部分の両方を含む)をカンチレバープローブと試験中のサンプル(SUT)の間に加えるプロセスでは、(少なくとも荷重と除荷の変形をもたらす)準静的力成分と(振動荷重下で粘弾性変形をもたらす)動的振動力成分の両方とそれぞれに対するサンプルの機械的応答を決定するために、カンチレバープローブのベースのサンプルの法線に対する表面(表記を略して、垂直)の動きが、検出されて測定される。
【0025】
以下の開示において、「軟質材料」という用語は、その弾性率(ヤング率)が10GPaを超えない材料を示す。(これとは対照的に、例えば、キャリブレーションの目的で使用される硬いサンプルは、100GPaの範囲の弾性率を有するものとして定義され得る。複数の硬質材料のおおよその弾性率の値として、サファイアは約350GPa、シリコンは約50GPa、雲母は約30GPa以上、アルミニウムは約70GPa以上、銅は110GPa以上である。)。代替的又は追加的に、所定の材料が柔らかいかどうかは、測定に使用されるAFMプローブの材料と比較して定義されてもよい:AFMプローブは、シリコン又は窒化シリコンで作られていることが多いので、約10GPa未満の弾性率を有する「柔らかい材料」は、先端部の材料の弾性率の10%未満になる。この場合、ハードキャリブレーションのサンプルは、システムの動作中に使用されるAFMの先端部の材料の弾性率と実質的に等しい値、好ましくは約0%以上の値を有する弾性率を有するものとして定義されてもよい。
【0026】
本発明のシステム及び方法の実施形態(以下、概して「AFM-nDMA」と称する)は、軟質材料のレオロジーにとって実用的に重要である低周波数範囲(実施形態によっては、サブヘルツの周波数範囲、例えば、10ヘルツ以下の数ヘルツまでの周波数範囲として定義され、;又は特定の実施形態では、約300ヘルツ以下の周波数範囲として定義され、以下も参照のこと)で被試験システム(SUT)と称する試験中の材料サンプルに動的振動負荷力を印可する先端部の明確に定義された特定の幾何学的構成を有するカンチレバーAFMプローブを利用して、ナノスケールの動的応答上に局在するSUTの測定を可能にする。別の言い方をすれば、本発明の実施形態の使用は、SUTのナノスケールの動的な複素数変形の測定を可能にする。本開示及び特許請求の範囲の目的のために、「ナノスケール」という用語は、サブミクロンであるプローブサンプル接触の寸法を示し、それを表すために使用される。
【0027】
本実施形態では、特に、コーティングの薄膜又は複合材料として寸法が定められたSUTのナノスケールの動的応答を特徴付けることが可能である。関連する技術とは対照的に、測定方法は、材料のクリープの緩和を考慮するように特別に考案されている。
【0028】
このように構成されたナノスケールの動的応答の測定の部分的な結果として、材料SUTの粘弾性貯蔵及び損失弾性率は、材料特性の巨視的(体積)分析のために構成された従来のDMA法を使用して測定された材料特性との直接比較を可能にするような方法で、軟質材料のレオロジー分析に特に関連する低周波数領域で決定される。提示された方法は、一般的に数周波数ディケード(サブヘルツ、数ヘルツ、数十ヘルツ、約100ヘルツ、及び300ヘルツまでのような数百ヘルツ)での測定を容易にし、特に有用である。例えば、実施形態に応じて、本発明の実施形態は、0.001Hzから1000Hzの範囲、好ましくは0.01Hzから300Hzの範囲、より好ましくは0.1Hzから150Hzの範囲、最も好ましくは0.1Hzから100Hzの範囲での周波数での測定のための動作上の利点を提供する。
【0029】
当業者であれば、(低サブヘルツ周波数範囲の測定に必要な)測定時間が、より高い周波数で行われる測定時間と比較して比較的長いため、システムとプローブサンプル接触の長期的な安定性が重要であることを容易に認識できるであろう。
【0030】
測定システムの長期安定性の要件を満たし、低周波数での軟質サンプルの粘弾性の測定のためのDMAシステムの従来の実施形態の使用に起因する問題に対処するために、本発明の実施形態は、原子間力顕微鏡及び関連技術(異なることが当技術分野で知られているナノインデンターの様なシステムとは対照的である)を採用し、以下の技術的特徴の組み合わせにより、予め定義された周波数のセット(当該セットは、少なくとも1つ、好ましくは複数の周波数を含むように定義される)で長い測定時間(数秒から数分)にわたってAFM-nDMA測定を特異的に実施するように慎重に構成されている。
【0031】
力設定点変調方法の使用は、本発明のAFM-nDMAシステムが、(i)SUTに及ぼされる所定のレベルの予荷重力、及び(ii)熱ドリフト及び/又はクリープの存在にかかわらず、かつ測定中にそのようなドリフト及び/又はクリープが発生する場合にもかかわらず、実質的に一定の寸法(ある場合には、不変の寸法)を有するように保持されるプローブサンプル接触、のうちの少なくとも1つを動作中に維持するように構成されることによる。
【0032】
一実施形態では、これらの動作特性は、動的測定を可能にするために、力のAC成分によって引き起こされるプローブの振動を維持しつつ、プローブによってサンプルに加えられる力を(所定の励起周波数で)変調することによって達成され、同時に、そのような力のDC成分を(プローブの使用に伴う電子回路によるフィードバックを介して)実質的に一定のレベルに維持することによって達成される。これは、AFMプローブと試験中のサンプルとの間の変位の変調を採用する、関連するAFMベースの技術とは対照的に実施される。
【0033】
測定サブシステムとして構成されたAFMベースのデュアルチャネル復調スキームを使用して、データ収集電子回路(略してZセンサと撓みセンサと称する)の2つの測定チャネルから取得したデータ/情報を組み合わせて、SUTの励起力及び結果として生じる変形の両方を同時且つ瞬時に測定することを可能にする。これは、当該技術における唯一のシングル測定チャネルの確立された利用に反して行われる。(当業者によって容易に認識されるように、従来技術のシングル測定チャネルは、システムの継続的な使用がシステムの繰り返しキャリブレーションを必要とするように構成される)。
【0034】
本発明の一実施形態のZチャンネルは、先端部とSUTとの間の相互作用を表す信号の振幅及び位相の両方に関する情報を抽出するために、プローブの基部とSUTとの間の分離を測定するように構成されている。(プローブの基部は、先端部を所持し又は含む端部とは反対側にあるプローブの端部に相当する;それは、典型的にはAFMプローブホルダの仕掛けに固定されているプローブの基部である)。したがって、デュアルチャネルスキームの使用は、実施形態では、潜在的に長い測定時間の間、励起力の振幅及び位相のキャリブレーションを最新の状態に保つことに依存しないことを可能にする(及び、動作中は自由になる)。
【0035】
典型的な撓みセンサは、光ビームを送出するように構成されたレーザ光源を使用して実現され、この光ビームをプローブレバーの上面に集光し、その後、4象限光検出器に向けて光ビームを反射させる。プローブのカンチレバーの結果における撓みの変化は、反射されたレーザビームの角度変化及びと光検出器上の反射ビームの位置の変化に変換される。当技術分野で知られているように、慎重に定義された4象限光検出器回路からの差分電気信号は、増幅されて、プローブの垂直撓みを表す信号として機能する。適切なキャリブレーションにより、撓み信号は、ナノメートルスケールの撓み又はナノニュートンスケールのプローブによって及ぼされる力を検出するために使用され得る。
【0036】
よって、本発明の一実施形態は、デュアルチャネル復調を実行することが、測定中に、システムの電子回路の第1のセンサ及びシステムの電子回路の第2のセンサからそれぞれ受信された第1及び第2のデータを組み合わせる方法を含む。ここで、第1のデータは、表面に対するプローブの位置を表し、第2のデータは、プローブのカンチレバーの公称方向(撓んでいない、影響を受けていない)からの撓みの程度を表す。(より一般的には、例えば、Zセンサチャネルが使用されていないか又は使用できない場合、例えばサンプルアクチュエータの励振の場合のように、1つは、硬質表面のキャリブレーションサンプル上の第1のチャネルを使用してキャリブレーションを使用することによって、欠落したチャネルを補うことが理解される。このようなキャリブレーションは、Zセンサが使用できないことが判明した場合に、サファイアのサンプルの撓みを測定し、その後でターゲットサンプルのZ振幅及び位相としてその結果を使用することによって提供され得る)。
【0037】
「ソフトウェアロックイン」方法の使用は、デュアル-チャネル測定サブシステムから受信した信号の復調を実施するためのものである。ここでは、信号トレース(オンライン又はオフライン処理用にバッファリング又は記録)は、チャネルの少なくとも1つから受信した信号データの変化を補償するために、ドリフト/クリープ補正及び/又は減算のステップと、そのような信号の「ロックインのような」復調とを、ロックインのような方法で単一又は複数の周波数で組み合わせたアルゴリズムで処理される。
【0038】
ハードウェアロックインは、柔軟性のない単純な処理を実行することが知られている。一方、本発明の思想によれば、デジタル化された蓄積信号又はバッファリングされた信号を使用して、より洗練されたアルゴリズムが実行され得る:一例では、移動平均フィルタを使用して推定されたドリフトの傾向線が蓄積信号又はバッファリングされた信号から減算され、ロックイン復調機能のための振動成分だけが残される。その結果、ドリフト/クリープによってロックイン振幅(及び/又は特に位相)に導入されるエラーが劇的に減少される。
【0039】
このような復調は、関連する技術において、材料のドリフト又はクリープの補正を可能にしないハードウェアロックイン及び/又はフーリエ変換ベース(FFT/DFT)のスペクトル分析の使用と対照的に実施される(それにより、励起力の振幅値及び位相値のそれぞれの決定において不可避のエラーが生じ、このエラーは、材料のドリフト周波数の範囲と実質的に等しい周波数スケールにおいて特に顕著である)。本発明の一実施形態は、単一の励起周波数で動作するが(力点設定変調セットアップの一実施形態によれば)、提案されたアルゴリズムは、必要に応じて、複数の励起周波数でのそのような信号の同時復調のプロセスを容易にし(可能にする、許可する)、それにより並列処理の利点を提供し、全体の測定時間を短縮する。例えば、経験的に検証されたように、2つの周波数(0.lHz及び0.18Hz、20サイクル)での同時復調では、全体の測定時間が約36%短縮され、5つの周波数での同時復調では約51%短縮された。
【0040】
選択的に、一実施形態においては、材料クリープ又は接着クリープによるプローブの先端部とサンプルの間の接触面積の変化を補正するために、基準周波数でシステムの動作を連続的に監視するように構成された電子回路をさらに使用できる。ここで、このような監視を実施するために、予め選択された基準周波数でのプローブの励起は、他の測定(励起)周波数でのプローブの励起と連続的に混合されるか、インターリーブされるか、又は補完されるので、基準周波数でのプローブサンプル接触の動的剛性は、そのような他の励起周波数で実施される他の測定と並行して、かつ実質的に測定され得る。
【0041】
(基準周波数で決定された)動的剛性の変化から、接触の面積/サイズの相対的な変化が推論され、対応する補正が他の励起周波数でのAFM-nDMA測定に適用される(実際には、材料のドリフト/クリープがより顕著になる可能性のある低い周波数での測定を含む)。
【0042】
代替のAFMベースの実施形態として、基準周波数での連続的な監視の代わりに、「インターリーブ」(時間間隔)基準周波数測定が使用され得る(つまり、基準周波数セグメントは、他の周波数測定値の間でインターリーブできる)。本開示及び添付の特許請求の範囲の目的のために定義されるように、測定の第1の工程及び第2の工程(例えば、工程A及びB)が互いにインターリーブされている場合、これらの2つの工程は、ABABABAB AABABBA ...、ABABABABABA ...などのように、A及びBの両方が複数回存在する実質的に任意の連続的なシーケンスを形成するために、必ずしも規則的に交互に実行される必要はなく、一般的に実行されるように配置される。
【0043】
特筆すべきは、記載された参照周波数のモニタリングベースの補正は、典型的には、接触面積が力フィードバックを介して実質的に不変(実質的に一定)に維持され得る実施形態の力設定点変調と関連して、必要とされない(しかし、オプションで可能である)場合がある。いくつかの特定の実施例では、例えば、材料のクリープ/フローが実質的に重要な場合(例えば、架橋鎖を欠いたポリマーの測定の場合)には、提案された基準周波数に基づく補正は、力設定点変調に加えて有利に実施されてもよい。
【0044】
粘弾性体が段階関数的な荷重に応答して緩和を示すので、材料の初期クリープは、プローブを用いたサンプルの予負荷直後、例えば、押込みサイクルの初期負荷段階で発生することが、当技術分野では認識されている。ここで、注意が必要である。当業者は、ドリフトを完全に回避することを選択することはできないが、ドリフトが動作的に実質的ではない時間スケールを選択する立場にある。(そして、AFMに関連したいくつかの技術的調査は、その際に、より高い周波数での測定にその技術を限定された。言い換えれば、低周波数ドリフトは、異なる高周波数で測定を行うことによって回避された。)熟練した当業者であれば、本発明の思想の実施形態が動作上の利点を提供する周波数範囲に対応する時間スケールにおいて、材料の緩和(クリープ)及びドリフトを回避することができず、対処しなければならないことを容易に理解するであろう。(後述するデュアルチャネル復調アプローチ及び/又は基準周波数の技術のいずれかを採用する実施形態は、低周波数範囲でのドリフトからのクリープの分離に首尾よく対処する)。
【0045】
よって、本発明の実施形態は、初期クリープの存在によって引き起こされる問題に対処し、AFM-nDMAシステムの動作のステップとして、AFM-nDMAが励起ステップ及び測定ステップの動作を実行するステップに先行する待機期間又は時間セグメント(例えば、特定の実施形態に応じて、約10秒の継続時間、約20秒の継続時間、又は約30秒の継続時間)を明示的に含むことによって、低周波数での材料の粘弾性特性の全体的な測定の精度を向上させ、適用された予荷重ステップの下での材料の緩和を可能にする。本発明の実施形態では、そのような初期緩和「待ちセグメント」をシームレスに割り当てるために、柔軟なランプスクリプト方法を採用しており、これについて実際には、単一周波数のみ又は複数の混合周波数でのnDMA測定のステップが並行して続けられ得る。
【0046】
本発明は、古典的な巨視的体積DMAアプローチを1マイクロメートル以下の空間スケールに拡張するように構成されたAFMベースのナノスケールDMA(AFM-nDMA)法を提供する。nanoDMA(登録商標)は、AFMベースではなく、装置化されたナノインデンター(AFMベースではない)プラットフォーム(Bruker-Hysitron)上での粘弾性特性測定技術の商標であることに注意されたい。したがって、本発明及び本開示の一般的な範囲は、ナノインデンター器具を使用して実施される技術に特異的な上記商標「nanoDMA」技術名との混同を避けるために、「AFM-nDMA」とさらに称される、AFMプラットフォーム上で特異的に実施されるナノ(スケール)DMAである。
【0047】
AFM-nDMAハードウェアと測定方法の例
AFM-nDMAシステムの実施形態
【0048】
一般的に、ナノスケールの動的機械的解析では、共振のない「フラットドライブ」の機械的励起が必要であり、これは周波数範囲の上限kHz端で達成することが困難な場合がある。本発明の実施形態は、高い固有共振周波数を有する特別に設計されたサンプルアクチュエータを使用することにより、この課題に取り組む。さらに、本発明は、アクチュエータの共振特性に大きな影響を与えない特別なサンプル取り付けスキームを採用し、また、AFMシステムを用いたその場測定によるアクチュエータの振幅及び位相応答のキャリブレーションを可能にする。プローブホルダアクチュエータを使用した他の設計とは対照的に、このサンプルアクチュエータはAFMスキャナの共振を励起したり、又は「バックドライブ」したりすることはない。電気的若しくは磁気的な力又は光熱的な駆動に基づく他の設計とは対照的に、本発明は、従来のAFMプローブを使用することができ、特殊な(駆動)レバーを備えたAFMプローブを必要としない。
【0049】
AFM-nDMAシステムの実施形態では、上記の目標を達成するために、適切に変更/変形/拡張されたAFM機器が含まれる。
【0050】
一般に、AFM-nDMA装置(及びSUTの特性評価の関連する方法)は、閉ループスキャナを備えたAFMプラットフォームに基づいている。AFMスキャナ(互換的にスキャナヘッド又はAFMヘッドと称する)は、サンプルに対して相対的にプローブの先端部を有するAFMプローブの位置決め及び走査のために適切にプログラムされたピエゾベースのアクチュエータ(x軸、y軸、及びz軸の3つの直交する動作軸を有する)、及び/又はサンプルをAFMプローブに対して位置決め及び走査するように構成されたサンプルスキャナ又はアクチュエータを採用する。プローブとサンプルの間の分離距離(z軸に沿った)が専用の電子回路で維持されている間、プローブはサンプル平面(例えば、xy平面)に配置又はスキャンできる。スキャナは、サンプル面上又はサンプル面で、ホールド期間(ホールド時間)を有する押込みZランプ(「ランプ&ホールド」)を実行するように構成されており、ここでは、所定のレベルの負荷力(互換的に、トリガ力、予負荷力、又は押込み力と称される)は、ホールド期間が開始される時間までに到達される。先端部とサンプルの相互作用力は、AFMプローブのレバーの(垂直方向の)撓みによって決定され、これは光学的手段によって追跡され、4象限光検出器で感知される。オプションとして、動作中にプローブのレバーの横方向(例えば、水平方向)の撓みを記録する検出器チャネルは、プローブの先端部の転がり又は摺動に関する情報を提供するように構成されている。(そのような検出器チャネルは、「摩擦」チャネルと称されてもよい)。
【0051】
構造的には、AFMプローブは、ナノスケールの先端部(先端部の半径を有し、公称寸法が[nm]であり、その形状は典型的には円錐と球体の組み合わせによって近似される)を有するバネ定数又は剛性k(そして、例えば、1メートルあたりのニュートン、N/mで測定される)によって特徴付けられる柔軟なレバー部材(又は、略してレバー)を含む。レバー部材は、当技術分野で知られている様々なタイプのプローブホルダにスプリングクリップ又はその他の方法で取り付けられ得る基板の「先端部」(数mmのサイズ)に取り付けられている。次いで、プローブホルダは、(例えば、複数のリーフスプリングソケットと金属ピンとを含む取付部材を介して)AFMヘッドのXYZスキャナ装置に取り付けられるように寸法決めされている。
【0052】
一実施形態では、AFM装置は、好ましくは、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)及び装置の動作中にリアルタイム制御及びデジタルフィードバックを確立及び維持するように構成されたフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)を含む特殊な(プログラム可能な)コントローラ回路に動作可能に接続され、コンピュータプロセッサは、アプリケーションコードを実行し、AFMコントローラ回路と通信する。
【0053】
図1に模式的に示されるように、例えば、実施形態100は、原子間力顕微鏡(AFM、簡略化されたバージョンでは、動作中にSUT108の表面上に配置されるプローブ104と先端部104Aとの組み合わせとして示される)を含む。可撓性プローブ104の瞬時位置及び/又は(先端部104AとSUT108との間の相互作用の結果として)基準位置からのその偏差は、(a)レーザ光源114(通常は可視光を生成するように構成されている)からのビーム110の、プローブ104の表面からのそのようなビームの反射における偏差に基づいて評価され、(b)そのように反射されたビーム110が位置感応検出器118によって受信された後に記録される。(プローブの位置を決定する他の実施形態は、関連技術で知られているように、実施され得る)。
【0054】
AFMコントローラ電子回路システム122は、特定のタイプの励起信号を、(力設定点変調レジームにおけるシステム100の動作を制御するように構成されている)AFMフィードバック電子回路130、及び/又は、(システム100の動作中に、Zリポジショナ140の使用によるプローブ104の位置及び/又はZリポジショナ144の使用によるサンプル108の位置を、サンプル108の表面に法線方向に沿って変更及び/又は変調するように構成されている)Zスキャナ変調プログラマブル電子回路モジュール134に送達することを可能にする特殊な制御モジュールを備えている。特定の励起信号の中には、(それぞれ、電子ブロック126A、126B、及び126Cの電子回路によってそれぞれ生成された)少なくとも低周波数の励起信号、多周波(一実施形態では、二重)の励起信号、及び混合周波数の正弦波励起信号がある。DDS:ダイレクトデジタルシンセサイザ(関連する技術で知られるように、デジタル的に実施される波形発生器の特定の形態)。(Z軸を示すように)サンプル108の表面に法線方向に沿ってサンプル108とプローブ104のいずれか又は両方の位置を変更及び/又は変調するプロセスは、一般に、本明細書では「Z変調」と称される。リポジショナの例は、関連する技術で知られている電子的に制御されたマイクロ及びサブマイクロステッピングの位置決め装置を含む。
【0055】
ここでは、以下に示す通りである。
【0056】
Zスキャナモジュール134によって提供される低周波数の励起の場合には、システム100の動作中のプローブ及び/又はサンプルの動きの励起の周波数は、サブHzの周波数から数百Hzまで(具体的には、0.001Hzから1,000Hzまで、好ましくは0.01Hzから300Hzまで、さらに好ましくは0.1Hzから150Hzまで)である。
【0057】
デュアル周波数の励起の場合には、Zスキャナモジュール134によってリポジショナ140、144の少なくとも1つに提供される信号は、低周波数信号と予め定められた基準周波数(低周波数よりも高い周波数であってもよい)の信号とを組み合わせた混合波信号を含む。
【0058】
混合周波数の励起の場合には、モジュール134は、駆動用のそれぞれに対応する別々の周波数、振幅、及び(オプションで)互いに位相関係を有するいくつかの(好ましくは10個以上の)の正弦波を組み合わせた信号を生成するように構成される。混合周波数の励起における個々の正弦波成分の選択された複数の周波数は、周波数範囲で1つ又はいくつかのディケードをカバーすることができる。表1、2及び
図7A、7Bにまとめられた情報は、本発明の実施形態のプローブのそのような混合周波数の励起の実例を提供する。
【0059】
【0060】
【0061】
一実施形態(表1及び
図7Aを参照)では、プローブは、9つの周波数成分を組み合わせた電気信号で駆動され、そのうちの成分#1は基本波であると考えられ、残りの成分の周波数は成分#1の周波数の高調波である。周波数成分のそれぞれの振幅は、-1から+1まで変化するように選択される。さらに、(指定されたような)位相シフトは、プローブを駆動する信号の項目化された成分の間及びその間に導入される。
図7Aは、破線で、これらの周波数成分における駆動サブ信号のそれぞれを表す9つのプロット704と、実線(710)で、プローブを変位させるためにプローブに印加される結果としての集合的な励起力(又は、類似的に、システム全体の電子回路によってプローブに送達される結果としての集合的な変位信号)とを示す。
【0062】
比較のために。表2及び
図7Bは、選択された基本周波数(表2の成分#1の)の高調波を表す9つの信号の混合でプローブが駆動されるが、これらの高調波信号が、所定の位相シフトなしに、すなわち実際には同じ位相でプローブに同時に印加される場合の状況を例示している。
図7Bは、高調波成分を表す9つのプロット714(破線で示す)を示し、曲線720は、プローブの先端部に印加された結果の励起力を示す。
【0063】
一実施形態では、特殊な電子回路制御モジュール122は、一般に、例えば、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)及びデジタルシグナルプロセッサ(DSP)を使用して、既存の柔軟なAFM制御に基づいて、ファームウェアで実施され得る。さらに、プローブのZリポジショナ140及びサンプルのZリポジショナ144の少なくとも1つに(ライン140A、144Aによって示されるように)提供され、(好ましくは約100Hzから100kHzの範囲の周波数で)その動作を支配する励起信号も、ライン148Aによって示されるように、AFM-nDMA制御モジュール122によって、特殊な「高周波数」のサンプルアクチュエータ/サンプルヒータ148にルーティングされ得る。
【0064】
AFMデジタルフィードバック電子モジュール122(一実施形態では、DSP、FPGA、又はそれらの組み合わせで実現される)は、PID(比例積分微分)又はPI(比例積分)の電子回路コントローラを使用して構成されてもよく、このコントローラは、動作中に、撓み信号(150として示される)又はZセンサ(140又は144として示される)からの信号を入力として受け取り、入力と設定点との間の差(エラー信号)を最小化することを目的としたZスキャナの位置決めに向けた制御出力を生成する。(設定点は、フィードバックループで制御される信号の所望の値として理解される)。例えば、撓み信号が入力された場合、AFMは選択されたレベルで荷重を保持し、維持する。AC信号が設定値に混合されると(設定点変調と称される状況)、AFMデジタルフィードバックは、例えば力設定点変調レジームで、設定点の直流部分と交流部分の両方を表す信号に追従する。
【0065】
信号ルーティング制御電子回路160は、出力及び信号入力を制御するように構成されたデジタル制御マルチプレクサを含み、これは、例えば、力設定点変調、z設定点変調、及びz変調などの様々なAFM制御スキーム及び/又は動作モードを実現することを意図している。システムの動作において、このモジュール160は、入力信号、設定値信号、設定値変調信号をAFMデジタルフィードバックモジュール130に接続するとともに、適切なDDS((ダイレクトデジタルシンセサイザ、振動波形の生成装置)126A、126B、及び/又は126Cからの波形と、取得及びロックイン処理のための入力信号(150、
図1には示されていない撓み信号、及びZセンサ又は高さセンサからの信号)をルーティングする。
【0066】
図2は、システムの動作の力設定点変調モードを実施するように構成された、
図1の実施形態100の特定のバージョンの簡略化された概略
図100'である。ここで、撓み設定点は、AFMフィードバックループによって制御される撓み信号の所望の値、又は目標値を表す。変調成分(設定点変調)を含む撓み設定点は、152として示されている。
【0067】
サンプルの取り付け
【0068】
本発明のAFMnDMAの実施形態で測定されるサンプル(
図1の108として示される試験中のSUT)は、材料の薄い(数ミクロンの厚さの)断面又はスライスとして、あるいは代替的に、凍結切片化された表面(実質的に平坦なブロック面)を有する(例えば、厚さ3mmまでの)バルクピースとして、寸法決定され得る。本発明の思想の実施の目的のために、「実質的に平坦」という用語は、その空間プロファイルの平均凹凸差が20nm以下、より好ましくは10nm以下であることを特徴とする表面を特定する。
【0069】
そのような実質的に平坦又は実質的に平面の表面は、クライオミクロトームのセクショニングによって、熱硬化性ポリマーをマイカ表面にキャストすることによって、又はサンプルの表面に溶解ポリマーをスピンキャスティングすることによって調製され得る。調製されたサンプルセクションは、サンプル基板アセンブリを形成するために、選択された基板(例えば、一実施例では、直径10mmから12mm程度で1mm未満の厚さであるサファイアやステンレスの円盤)上に取り付けられる。その後、サンプル基板アセンブリは、磁性アタッチメント又はサーマルコンパウンドグリースを使用して、冷暖房装置に固定され得る。
【0070】
温度依存測定のためのシステム構成例
【0071】
可変温度でのサンプルのAFM-nDMA測定は、一般的にサンプルの冷暖房装置(148として示される;単純化のための冷暖房装置と同義で称される)を必要とする場合があることが認められる。サンプルの領域のみの熱勾配の高度に空間的に局在化された/焦点化された封じ込めのために特別に設計されたサンプルヒータを利用することが望ましく、この場合、全体的な熱ドリフトを最小化するために、サンプル全体とAFMステージの機械構造を加熱するのとは対照的に、サンプルのみが加熱される。
【0072】
本発明の思想によれば、そのような慎重に設計されたサンプルの冷暖房回路は、熱勾配の平衡状態において、横方向及び縦方向の空間的な方向(
図1の局所座標系を参照して、x方向、y方向、及びz方向)において、低レベルの熱ドリフト率を達成するように構成されている。(「低ドリフト率」という用語は、測定されたナノスケールの特徴の寸法と比較してその空間値が小さい測定時間中に観測されたそのようなドリフトを定義して参照する。横方向のドリフトの値を決定するために、接触半径/接触サイズと比較され得、垂直ドリフトの値は、押込み深さ/サンプルの変形深さと比較され得る。)次に、このような実用的な結果は、有利には、サンプル上又はサンプルでの特定のターゲット位置でサンプルの特性を測定することを可能にするので、空間的に分解されたAFM-nDMA測定の品質及び/又は精度に影響を与える。
【0073】
(当業者であれば、クーラ/ヒータの熱ドリフトは、プローブとサンプルの相対位置の横方向(XY)又は縦方向(Z)のドリフトを表すことが容易に理解できるだろう。ドリフト率は、単位時間あたりの位置変化として測定される。横方向のドリフトは、サンプルに対するプローブのXY位置が変化する速度を表す。垂直ドリフト又は単なるZドリフトは、プローブとサンプルの垂直方向の位置がどのくらいの速さで変化しているかを示すだろう。)
【0074】
サンプルヒータ装置に加えて、プローブの専用ヒータは、熱勾配の局在化を容易にし、プローブレバー104が結露堆積物を蓄積するのを防止するために利用される。したがって、一実施形態では、プローブヒータ装置154は、サンプルの上面及び下面と協働して配置された第1及び第2のヒータプレートを含んでもよい。
【0075】
代替的又は追加的に、サンプルの表面温度(ヒータ148の設定点及びヒータ148の発熱体に内蔵された専用センサによって測定された温度)のキャリブレーションは、サンプルキャリア上のサンプル108の位置に近接して、サンプルを機械的に支持して搬送するサンプルキャリア(
図1には示されておらず、一例では、直径10mmのサファイアディスク又はスチールパックとして構成される)の表面に取り付けられた小型の熱電対を用いて、実際に実現され得る。
【0076】
非限定的な例として
【0077】
温度(例えば、室温RTから範囲の上限までの範囲、例えば、250℃)の関数としての材料の粘弾性特性を測定するために、AFM-nDMAシステムの実施形態100は、X方向、Y方向、及びZ方向におけるホルダ148の基準表面の(2nm/分以下のオーダーでの)低い熱ドリフトを確実にするように設計された電子回路を含むサンプルヒータホルダ/サンプルアクチュエータ148をオプションで備えられ得る。このようなサンプルヒータホルダを使用する場合には、サンプル108は基準面と協働し、ホルダ148のヒータの温度はプログラム可能な温度設定値及びフィードバック(例えば、PIDフィードバック、又は比例積分微分コントローラ/フィードバック)を確立するサーマルコントローラ(図示の簡略化のために図示せず)で制御される。慎重に考案された電子加熱回路を備えたこのようなサンプルホルダの使用は、(ヒータの温度空間において、例えばRTから250℃まで低下したガラス転移温度Tgで)特定の高分子材料のガラス転移を介してスパンする温度の範囲内の実質的に所定の温度でのサンプル108の粘弾性特性の測定を容易にする。例えば、ガラス転移温度が約105℃であるポリメチルメタクリレート(PMMA)材料の場合には、好ましい所定の温度は、(約25℃の)室温から約140℃から150℃の上限までの範囲内である。
【0078】
好ましくは、システム100は、プローブサンプルの空間内で低い熱勾配を維持するように構成されたトッププレートヒータ、又はプローブヒータ154も備えてもよい。
【0079】
特筆すべきことに、室温以下のTgを有する材料上でAFM-nDMA測定を実施するためには、サンプルを冷却することによってサンプルの温度を下げることが望ましい場合がある。(このような例は、-20℃から-5℃の範囲のガラス転移温度を有するポリプロピレン、-20℃付近のガラス転移温度を有するポリビニルエチレン、又は-12℃付近のガラス転移温度を有するポリメチルポリシロキサンの場合が該当する)。冷暖房ハードウェアのオプション(詳細は図示せず)は、RT以下の温度空間、例えばRTから-35℃までの温度空間に対応する。
【0080】
上記のヒータ又は冷暖房ハードウェアによる動作のために、AFM走査機構(特定の実施形態に応じて、サンプルのZスキャナ144、及び/又はAFMプローブ104のZスキャナ140であるか否か)は、加熱/冷却源から十分に熱的に絶縁されている必要があり、そうしないと、スキャナのパフォーマンス(ドリフト、キャリブレーション、ダイナミクスなど)は、温度空間全体で多様に悪影響を受ける可能性がある。ある場合には、所望の断熱は、低い熱伝導率を有する材料(例えば、機械加工可能なセラミック材料であるMACOR)から作られた特殊なプローブホルダの使用によって達成され得る。一方で、同時に、AFMの先端部104Aは、レバー表面上での結露の形成、レバーの熱的屈曲、サンプルの局所的な冷却、及び熱勾配からのサンプル108の保持される温度に近い温度に同時に維持されることが好ましい。(注目すべきことに、関連する技術のシステムは、これらの2つの特徴的な要件及び条件をバランスさせるために知られていない)。先端部104Aをサンプル108の温度と実質的に等しい温度に保つことは、いわゆるプローブネストの下(すなわち、プローブの先端部がプローブホルダにスプリングクリップ又はその他の方法で取り付けられているプローブの部分の下)で、ヒータ要素を構成するプローブホルダ内の先端部のヒータハードウェアの使用によって達成され得る。
【0081】
AFM-nDMAシステムの実施形態における冷暖房オプションの使用は、好ましくは、吸湿によるサンプル表面の酸化及び劣化を防ぐために、環境制御(湿度制御-RH、不活性雰囲気、例えば乾燥窒素パージ)をさらに必要とする。最も単純な場合には、このような環境制御は、プローブホルダに取り付けられた柔軟性のあるシールスリーブを使用することで達成され得、このスリーブは、低流量の乾燥窒素ガスでパージされ得る絶縁された局所環境を形成する。あるいは、特殊な密閉型局所環境セル(LEC、冷暖房を組み込んだもの)は、使用され得る。
【0082】
室温のみで測定するように構成されたサンプルホルダアクチュエータ
【0083】
上記の「冷暖房」ハードウェアオプションが実施されて使用されると、AFM-nDMAに起因する機械的励起が先端部104の空間的な作動を介して送達される間、システムは、サンプルを空間に固定して静止させたまま保持するように構成される。(これは、AFMのZスキャナ140又は追加のプローブホルダのピエゾアクチュエータのいずれか一方の使用によって達成される)。しかしながら、測定が室温でのみ行われることを意図している場合には、サンプル108と先端部104との間の相互配向の機械的励起又は機械的作動は、サンプルホルダの(高調波、小振幅の)空間的な作動を介して代替的に行われ得ることが認識されている。よって、サンプルホルダのアクチュエータ148とサンプルのZスキャナ装置144の組み合わせは、広い周波数範囲(例えば、約100Hzから約100kHzまで)内の少なくとも1つの周波数でサンプル108の機械的な動きを引き起こすことによって動作するように慎重に設計されている。AFMのZスキャナ140とは異なり、サンプルホルダアクチュエータ148及び/又はサンプルのZスキャナ装置144は、典型的には、機械的な動きの機械的振動の振幅及び位相を検出して読み出しを提供するように構成された関連するZセンサを有していない。代わりに、周波数の関数としての装置144及び/又はl48によって提供される機械的運動の振幅及び位相は、AFMプローブを硬質な基準サンプルと接触させ、プローブの撓み(すなわち、そのような撓みの振幅及び/又は位相)を測定することによって、別個の追加の基準「キャリブレーション」測定においてキャリブレーションされ得る。
【0084】
AFM-nDMAの方法:動作的な特徴
【0085】
本発明のAFM-nDMAシステムの一実施形態は、サンプルの表面上の(ユーザが)選択した点位置で粘弾性特性を測定するように構成されている。(注目すべきことに、従来のAFMモダリティの大部分とは異なり、またそれとは対照的に、本発明のAFM-nDMA方法の実施形態は、限られた周波数範囲での粘弾性特性の「マッピング」を有するイメージングモードが可能であるが、一般的には表面撮像技術ではない。実際、提案された方法の主なターゲットは、点測定/点分光法(多周波)アプリケーションであるが、単一の選択された周波数又は限定された数の選択された周波数での表面撮像/マッピングにも使用され得る)。
【0086】
「ランプ」(又はフォワードランプ)の動作モード
試験中のサンプルの表面上の各点位置において、AFMナノインデンテーション測定が実行される。ここで、Zスキャナ140は、PSD118を使用して検出されるように、プローブのカンチレバーの撓みにおける指定及び/又は予め設定された閾値に達するまで、プローブ104の先端部104Aをサンプル108(ランプ運動)の表面に引き寄せるためにz軸に沿って空間的に拡張される。カンチレバーの撓みの事前設定は、プローブの先端部104Aによってサンプル108上に及ぼされる特定の事前負荷(通常)力(トリガー力と称される)に対応し、これにより、システム100は、対応する負荷の下で求められるサンプルの変形を決定することを可能にする。
【0087】
「ホールド」の動作モード
予負荷力が閾値に達した後、Zランプの動作は中止/停止され、プローブ104は指定された継続時間の間、「ホールド」上に維持(滞留)される。(AFM-nDMAの励起が存在する場合には、そのような継続時間は、測定のために選択された周波数での必要なサイクル数に応じて指定される。非限定的な例として、プローブは0.1Hzで20サイクル、又は200秒の間「ホールド」される)。これは、AFM-nDMAの変調/励起がオンになっている間の動作セグメントである。「ホールド」モダリティのいくつかのバリエーションは、本発明の範囲内にある。
【0088】
「ホールド力」の動作モード
ここで、AFMフィードバック電子回路は、カンチレバーの撓み(カンチレバーに加えられる力)を所定の目標値(典型的には、負荷前の力の値)で一定に維持し、一方、Z圧電素子のクリープ、熱ドリフト、負荷下での材料クリープは、AFMフィードバック回路でプローブ104のZ位置を調整することにより、その結果としてそれによって補償される。
【0089】
「ホールドZセンサ」の動作モード
このモードでは、AFMフィードバック回路は、Zスキャナ140に関連付けられたZセンサを用いて、Zスキャナ140の機械的延長を(Z軸に沿って)実質的に一定に維持する。Zピエゾのクリープは動的に補正されるが、Zセンサのドリフト、熱ドリフト、材料クリープは補正されない。この動作モードでは、サンプルに加えられる力は必ずしも一定に維持するわけではなく、その結果、「ホールドZセンサ」動作モードの使用が長期間ではないことが好ましい。(特筆すべきことに、この動作モードは、接着クリープ又は接着力クリープの場合に役立つかもしれない。このような場合には、位置を一定に保持することは、撓み/力を一定に保持することよりも良好に機能することがあり、後者の場合には、接着力クリープがプローブを表面に「吸い込む」ことができ、深い押込み孔を引き起こすことになる。)
【0090】
「ホールドZドライブ」の動作モード
ここで、AFMフィードバック回路の信号はオフの間、Zピエゾ高電圧は一定に維持され、結果として、補償は提供されないため、この動作モードは、ピエゾクリープを回避するために、好ましくは短時間で使用される。この動作モードは、比較的高い周波数(例えば、100Hzを超える周波数では、他のフィードバックベースの動作モードが変調周波数での性能を維持/追跡できない可能性がある領域)での高速測定を目的としている。
【0091】
「リトラクト」(又はリバースランプ)の動作モード
動作の「ホールド」セグメントの終了時に、プローブ104は、サンプル108の表面から引き込まれる。収縮曲線は、PSD118と動作可能に協働するプログラマブルプロセッサを使用して記録される。粘弾性材料にとって、収縮率は、JKRモデル解析(後述)の精度に影響を与える可能性のある重要なパラメータである。
【0092】
当業者は、提案されたAFM-nDMA方法が従来のAFMシステムの動作の「タッピング」モードと混同されるべきではなく、且つ混同されるはずがないこと:タッピングモードが異なる断続的に接触するAFM技術であることを容易に理解するであろう。本発明のAFM-nDMAモダリティにおいて、プローブをサンプルの表面に近づけて完全に接触させ、実際に表面を変形/凹ませた後、力又はZ変位の振動成分である変調をオンにする。ホールドの動作期間の終わりに、プローブは引っ込められ、その後、プローブは表面の別のポイントに横方向に移動/遷移し、表面の別の場所で別のポイント測定を実行するために使用される。
【0093】
「力-距離曲線」(「FDC」)
AFM力-距離曲線(撓み対Zスキャナ拡張としても知られている)は、順方向のランプと逆方向のランプ(プローブの後退)の間に記録される。当業者にはすぐに認識されるであろうかのように、力-距離曲線は、Zスキャナ140が先端部104Aをサンプル表面に向かって移動させる(~延長曲線)か、又は先端部104Aをサンプル表面との事前接触から遠ざける(~後退曲線)ように取得された、撓み/力信号対Z分離信号のプロット又はトレースである。FDCは、サンプルの弾性特性(還元弾性率及びヤング率など)を計算するために、さらに重要なことに、本発明のAFM-nDMAの実施形態について、先端部のサンプルの接触面積又は「接触半径」の大きさを推定するために、接触力学モデル(Hertzian、Johnson-Kendal-Roberts(JKR)、Derjaguin-Muller-Toporove(DMT)モデルのいずれかによって表されるものなど)を用いて分析され得る。(参考文献として、例えば、K. L. Johnson、K. Kendall、及び A. D. Roberts, 表面エネルギー及び弾性固体の接触, Proc. R. Soc. Lond. A 324 (1971) 301-313;又はDeqaguin, BV、Muller, VM、 及びToporov, Y.P.,1975, 粒子の接着に対する接触変形の影響, コロイドと界面科学のジャーナル, 53(2), pp. 314-326)
【0094】
サンプルが接着力の強い高分子材料で代表される場合には、JKRモデルは、実験データのフィッティングにおいて最も良い結果を提供する。(好ましい状況では、粘弾性材料の力-距離曲線は、粘弾性接着剤表面の接触力学モデルを用いて解析されるべきである。)収縮曲線から計算された接触半径は、ホールド期間の最後の条件にのみ適用され、正確な定量的AFMnDMAの結果を得るために必要とされるホールド期間中又はホールド期間内のすべての瞬間の接触半径に関する情報を実際には提供していない。
【0095】
サンプルのクリープにより、プローブの先端部とサンプルの間の接触面積は、ホールド/測定時間中に変化する可能性がある。(事前に選択された「基準」周波数で測定されたプローブとサンプル間の接触の)動的剛性は、接触半径に比例する。システムがホールド/測定時間全体で、(連続的又は主要な測定方式である「インターリーブ」で)この動的剛性を監視するように構成されている場合には、測定中に接触半径の相対的な変化の決定は実行され得る。接触半径は、ホールド期間の後又は前に、力-距離押込み曲線(ランプ)から決定され、この接触半径の補正は、ホールド期間の各特定の瞬間に適用される。
【0096】
「温度ステップ」
ランプ及びホールドベースの測定は、本発明のAFM-nDMAの実施形態は、機器サンプルヒータのシステムにおける熱平衡に達した後に、実質的に一定の温度で本発明のAFM-nDMAの実施形態を使用して実行される。一方で、温度の関数としてのAFM-nDMA測定は、(特定の温度プログラムに従って)温度設定点/ステップのリストを順次検討し、各温度設定点で熱平衡に達するのを待ってから、その温度ポイントでAFM-nDMAランプ及びホールドのポイント測定を実行することによって行われる。ランプ及びホールド測定を開始する前に到達した熱平衡の程度は、例えば、ピーク力のタッピングAFMモードで表面上の「ゼロサイズ」スキャンを待機し且つ実行しながら(オプションで、ゼロサイズ以外のスキャンを実行して、DMTモジュラスや接着性、変形などの材料特性マップの地形的特徴や境界特徴を追跡することでXYドリフトを評価する)、所望の(低い)ドリフト率の数値に到達するまでに、Z方向の熱ドリフト率を測定することによって評価され得る。
【0097】
熱平衡化を待って表面上のAFMフィードバックループ内に留まる間、Zスキャナ140は、熱ドリフト及び材料の熱膨張/収縮/流動のために、Zピエゾの伸長又は収縮の限界に達する可能性がある。したがって、スキャナのZ位置がピエゾのダイナミックレンジの中心に維持されるように、Zエンゲージモータを上下にステップさせることにより、Zスキャナを連続的に再集中させることが好ましい。
【0098】
図3A、3B、及び3Cは、力設定点変調のための信号トレースの例を示す。ここでは、力設定点変調の動作モードでは、AFMフィードバック電子モジュールは、設定点の静的(「DC」)成分と動的、振動的(「AC」)成分の両方を追跡している。(
図1のシステム100のAFMフィードバック制御電子回路130によって提供される)
図3Aに示したエラー信号トレースは、高周波ノイズと微小な残留振動(AC)エラー(これらのデータ例は5.6Hzの変調周波数で取得されたもの)を有しており、残留は高レベルのノイズを有している。これらの結果は、AFMフィードバック回路130が振動性設定点成分を追跡しており、プローブ104によって(動作の「力設定点変調」モードを構成している)サンプル108に及ぼされる負荷力の変調を提供していることを示している。
図3Bの実際の垂直撓みトレースは、振動(AC)成分、すなわち力の変調(ここでは、プローブがサンプルに及ぼす法線力は、レバーの垂直撓みにレバーのバネ定数を乗じたものに等しい)を示す。Zセンサ又は「高さ」信号トレースは、
図3Cに示される。ここでは、トレース線の全体的な下向きの傾きは、システムの熱ドリフト及び/又はサンプル材料の粘弾性クリープに起因している可能性がある。(ソフトウェアロックイン処理方法に記載されたドリフト補正技術は、信号の振幅及び位相測定の精度に対するこのような勾配/傾向の有害な影響を緩和するのに有用である)。
【0099】
図3D、3E、及び3Fに示されたデータは、
図3A、3B、及び3Cのデータと類似しているが、(
図3A、3B、及び3Cの5.6Hzと比較して)異なるより低い変調周波数-0.32Hzでの測定に対応する例を示している。注目すべきことに、
図3Dのエラー信号トレースにおける残留振動(AC)成分は、
図3Aのそれとは対照的に、ノイズの中で実質的に識別できない。この事実は、AFMフィードバック制御周波数応答と、高周波数と比較して低周波数での効果的に優れたフィードバックトラッキングによるものである。
図3Cと比較した
図3FのZセンサの「高さ」信号トレースは、
図3Cの5.6Hzでの短い測定時間(約4.5秒)と比較して、0.32Hzの低い周波数での測定時間(約60秒)がはるかに長いため、より顕著な下向きのドリフト/クリープ傾向を示している。これは、ソフトウェアロックイン法で説明したドリフト補正処理が、かなりの測定時間を必要とする低周波数で特に重要であることを示している。
【0100】
図4A、4Bは、本発明のシステムの実施形態で実行された実験的AFM-nDMA測定の結果を示す。ポリジメチルシロキサン(PDMS)材料のサンプルについて、
図4Aは、貯蔵(E’)弾性率データ対(固定、室温での)測定周波数の関係を示し、
図4Bは、損失(E”)弾性率データ対(固定、室温での)測定周波数の関係を示す。同じ材料からのサンプルについてのAFM-nDMA結果(赤、十字線、410、及び420)と体積DMA測定(緑、破線、415、及び425)との比較は、ナノスケール(AFM-nDMA)で測定された貯蔵弾性率及び損失弾性率と、体積マクロスコピック法(DMA)を使用して測定された弾性率との間の実質的な一致を示している(後者は、根拠となる真実、他の結果を検証するための参考として関連する技術で使用されている)。
【0101】
図5A、5B、5C、5D、5E、5Fは、(3つの異なる固定低周波数:0.1Hz、1.0Hz、及び5.6Hzでの)温度の関数としてのフッ素化エチレンプロピレン(FEP)材料の貯蔵弾性率及び損失弾性率の実験的AFM-nDMA測定の結果を示す。本発明のAFM-nDMAベースの実施形態を用いて実行された測定結果と、従来の体積DMA方法を用いて実行された測定結果との間の比較が提供される。
図5A、5B、5Cは、貯蔵弾性率対温度の依存性を示し、
図5D、5E、及び5Fは、本発明に従ったナノスケールAFM-nDMA法及び体積マクロスコピックDMA技術を使用して、(0.1Hzから10Hzの範囲内での)3つの異なる周波数で測定されたFEP材料サンプルの損失弾性率対温度の依存性を示す。AFM-nDMAのデータ(赤、十字形、530、540、550、560、570、580)と体積DMAのデータ(緑、破線、535、545、555、565、575、585)の比較は、両方の方法も温度上昇に伴う貯蔵弾性率値の顕著な低下を検出し、測定周波数がFEP材料の予想されるレオロジー挙動と一致して増加するにつれて、損失弾性率のピークが高温に向かってシフトすることを検出していることを示す。よって、FEPのガラス転移は、従来の体積DMA法と提案されたAFM-nDMA法の両方で検出され得る。
【0102】
図6Aは、時間-温度重ね合わせ(TTS)を介して提示された、周波数に対するFEPの損失正接(損失弾性率と貯蔵弾性率の比率)の実験的に定義された依存性を示す。本発明のAFMnDMAベースの実施形態(610)で実施された測定結果と、従来の体積DMA方法(615)で実施された測定結果との間の比較が提供される。
図6B、6Cは、それぞれ、時間-温度重ね合わせ(TTS)を介して示される貯蔵弾性率及び損失弾性率の(
図6Aのグラフに対応する)周波数に対する依存性を示す。ここでは、本発明のAFM-nDMAベースの実施形態(620、630)を用いて実行された測定の結果と、従来の体積DMA方法(625、635)を用いて実行された測定の結果との間の比較が提供される。
図6Dは、本発明の実施形態の使用を用いて実行された測定の結果(開いた円;640)と、従来の体積DMA方法で実行された測定の結果(実線の円;645)との間の比較による、(当技術分野の当業者によく知られている)シフト因子の時間-温度重ね合わせ(TTS)の例を示す。
【0103】
図6A、6B、6C、及び6Dを参照して、データは、本発明の思想にしたがって構成されたナノスケールAFMnDMA法と、(上述した
図5A~5Fの例におけるものと同じフッ素化エチレンプロピレン、FEP、材料についての)従来のマクロスコピック体積DMA法の両方を用いて、0.1Hzから100Hzを超える周波数範囲、及び室温から120℃を超える温度範囲で測定された。これらのすべての温度及び周波数のデータは、マクロな測定に一般的に使用されるレオロジーデータ解析技術である時間-温度重ね合わせ(TTS)を介して重畳され、「TTS-シフトされた」周波数のスケール上にプロットされる。
図6Aは、損失正接(「正接差分」)対シフトされた周波数のTTS-プロットを示し、
図6A及び
図6Bは、それぞれ、貯蔵弾性率及び損失弾性率のTTS-プロットを示す。
図6Dは、TTS処理中に周波数に適用されたTTSの「シフト因子」を示す。
図6A~6Dから明らかなように、開示されたAFM-nDMA方法は、DMA及びTTSのような従来の体積巨視的レオロジー技術及び方法を介して得られた結果と直接比較することを可能にする(低周波数でのナノスケール測定に関して)新規且つユニークな性能を提供する。本発明者らの知る限りでは、これらのAFM-nDMAの結果は、AFMを介したナノスケールでの時間-温度重ね合わせデータの最初の例である。
【0104】
追記:AFM-nDMA変調/励起。周波数空間のアドレス指定。
【0105】
周波数範囲での動作:0.1Hz~10Hz(力点設定変調)
低周波数での測定は、(励振周波数の10サイクル以上をカバーする)長い測定時間に関連付けられる。そのため、ドリフトやクリープがあっても荷重の状態を一定に保つことができるホールド力モードが好ましい。一方で、アクティブAFMフィードバックは、Zチャネルに導入された変調を打ち消し、機械的励起を効果的に無効にし、測定を役に立たなくするだろう。Z変調の代わりに、力設定点変調が、(アクティブAFMフィードバック帯域幅の範囲内の)低周波数で使用されるべきである。力設定点変調において、AFMフィードバックは、DC予負荷の力設定点とAC周期変調成分の両方を追跡し、必要な機械的励起を提供する。力設定点変調スキームは、低周波数のダイレクトデジタル合成(DDS)成分を追加することで、FPGAのファームウェアにおいて実現され得る。力及び変位(変形)の振幅及び位相は、撓みセンサとZセンサの2つのチャンネルを介して、FPGAのハードウェアロックイン、又はソフトウェアで実現されたドリフト及びクリープを補正した「ソフトウェアロックイン」方法(「ソフトウェアロックイン」)を用いて信号トレースをキャプチャし/記録し復調することで測定できる。
【0106】
約10Hz~100Hzの周波数範囲での動作(力設定点及び/又はZスキャナの変調)
この周波数範囲でのホールド期間は比較的短くすることができ、ホールドZドライブモード(又はZセンサチャンネルのDC位置とAC変調の両方を追跡するAFMフィードバック付きのホールドZセンサ)は、低又は中程度のドリフト及びクリープ率に対して許容され得る。したがって、(ホールドZセンサ又はホールドZドライブ付きの)Zスキャナ変調が使用され得る。代替的には、AFMフィードバックがこの周波数範囲でAC設定点を追跡するのに十分な帯域幅を有することができるので、力設定点変調が使用され得る。
【0107】
約100Hz~約1000Hzの周波数範囲で動作(「Z変調」)
AFMフィードバックは、100Hzを超える周波数でのAC設定点のトラッキングに問題があり、(変調振幅のかなりの部分が残留エラー信号で終わる)非効率的な励起を引き起こす可能性がある。Z変調が好ましい。
【0108】
(接触領域のクリープを補正する(ある場合には、その値を減算する)ための基準周波数技術、及び/又は関連するクリープの補正のプロセス中に接触領域を追跡するための基準周波数技術)
AFM-nDMAの場合、ある特定の周波数での材料の弾性率は、他の周波数でのAFM-nDMA測定と並行してホールドセグメントの全期間にわたって測定(監視)され、それからホールド終了時の収縮曲線のJKRフィットから計算された接触半径は、補正され得る。これは、少なくとも2つの周波数で同時に励起することを必要とする。代替的には、基準周波数での測定値は、他の周波数での測定値とインレーリーブさせられ得る。
【0109】
多周波励起
多周波励起は、AFM-nDMAの測定時間を短縮することができる。重ね合わせの原理が適用される場合、多周波励起の結果は(後者では、提供されたドリフト及びクリープが適切に考慮される)逐次測定と同等であるべきである。(先端部とサンプルの接触部に本質的に存在する)非線形性の場合、周波数間の「クロストーク」が多周波励起中に発生する可能性がある。
【0110】
AFM-nDMAモデル式((高調波励起における動的剛性))
【0111】
上述したように、AFM-nDMAは、サンプルのナノスケールの動的機械的分析であり、カンチレバーのプローブを用いて、準静的(DC)成分と動的(AC)成分、振動成分の両方を含む制御された力でサンプルの表面に押し込むことで実行される。サンプルに加えられる力の振動成分の周波数(複数の周波数)は、軟質材料や各種ポリマーの体積巨視的DMAに通常関連する低周波数域-サブヘルツから数百ヘルツまでの周波数に合わせて、慎重に選択される。
【0112】
本発明のAFM-nDMAシステムの実施形態は、複数の異なるレジームで動作するように構成されている。
【0113】
1.力設定点変調のレジーム又はモード:ここで、AFMフィードバックがオンされると、プローブカンチレバーの撓みを監視し、DC力(「予負荷力」)及びAC振動変調成分の両方を維持する。このレジームは、ドリフト及びサンプルのクリープにもかかわらず、安定した状態を維持できるため、低周波数のAFM-nDMA実験(サブヘルツ~数百ヘルツ)に適している。振動変位は、AFM高さセンサで測定される。力変調の固定された所定の振幅の場合に、Zスキャナ変位(高さセンサ)の振幅が一般的にサンプルの粘弾性特性に依存することに注意しなさい。
【0114】
2.変位モード(又はZ変調)のレジーム:押込みランプは所定のトリガ力(予負荷力)で停止されるが、AFMフィードバックは活性化されない。スキャナのZ変位は、固定された所定の振幅で変調される;それ故に、力AC成分(撓み)の振幅は、サンプル材料の粘弾性特性に依存する。このレジームは、接触時間の継続時間が比較的短い高速力の体積AFM-nDMA実験に最も適しており、測定周波数が約百から数百ヘルツの範囲になり得る。
【0115】
3.外部アクチュエータのモードのレジーム:ここで、サンプルは、高周波アクチュエータ(HFA)ステージに取り付けられる。AFMプローブは、サンプル表面に向かって傾斜され、所定の予圧力が存在する位置(高さセンサ信号の閉ループフィードバック内)に保持される。アクチュエータは、励起されて、高さセンサフィードバックループを介して静止位置に保持されたAFMプローブベースに対するサンプル表面の垂直(Z)変位の変調を提供する。AFM垂直撓み信号は記録され、(プローブベースとサンプル表面の分離の)分離距離の変調に応答して、プローブとサンプルの接触における力の振動部分に関する情報を提供する。アクチュエータの振動の振幅及び位相を測定するセンサがないため、キャリブレーションが使用されなければならない。
【0116】
これらすべてのシステム構成に対して、本発明の実施形態の動作は、ナノスケール動的機械解析の逆問題及び順問題の式に基づく1つの共通の理論的枠組み(「高調波励起における動的剛性」と呼ばれる)を使用して、サンプルの材料の粘弾性材料特性を評価する結果となる。逆問題の式は、貯蔵弾性率、損失弾性率、及び正接差分(損失正接、減衰係数)のような材料特性から、及び取得した信号の振幅及び位相を提供するAFMn-DMA測定の結果から、接触の動的剛性を計算することを可能にする。順問題の式は、所望の励振振幅及び予負荷力を計算することにより、実験の最適化に利用され得る。
【0117】
簡易化のために、(AFM-nDMAの理論及び計算を記載する式用の)ある共通の表記のセットは、Zスキャナ又はサンプルアクチュエータのいずれかを介したZ変調を用いて、上記で紹介した3つのレジームすべてを記載するために使用される。プローブベースのZ変位は、(複素数値形式の)高調波信号で記載されていると仮定する:
【0118】
Z(t)=Z1ei(ωt+Ψ)+Z0 (式1)
【0119】
ここで、Z1,Ψは、周波数ω=2πfでの変位振動成分の振幅及び位相である。プローブは、キャリブレーションが行われ且つ既知であり、プローブのバネ定数Kcを有すると考えられる。システムが(高調波励起に対して高調波応答を生じるという点で)線形であると仮定すると、AFMプローブの撓みは高調波信号(これは測定値であり、垂直方向の撓み信号)で記載され得る:
【0120】
d(t)=D1ei(ωt+φ)+D0 (式2)
【0121】
ここで、D1,φは、それぞれ周波数ω=2πfにおける撓み振動成分の振幅及び位相である。
【0122】
AFM-nDMA計算のための一般的な式は、動的剛性の定義(プローブとサンプル間の接触)を使用して導出され得、これは単に剛性の定義を高調波、複素数値の場合に拡張したものである:動的剛性S*(単位:ニュートン/メートル)は、この力によって生じる複素数値の変形に対する複素数値の力の比として定義される:
【0123】
S*=F*/L* (式3)
【0124】
そして、振動変形は、変位とプローブの撓みとの差として、又は複素数値の形式で決定され得る:
【0125】
L*=Z1ei(ωt+Ψ)-D1ei(ωt+φ) (式4)
【0126】
カンチレバーのバネ定数(Kc)が知られている場合に、撓みから振動力が決定される:
【0127】
F*=KcD1ei(ωt+φ) (式5)
【0128】
したがって、動的剛性の式3は、次のように書き換えられる。
【0129】
S*=S’+iS’’=KcD1ei(ωt+φ)/[Z1ei(ωt+Ψ)-D1ei(ωt+φ)] (式6)
【0130】
複素値式に代数的な操作を適用し、実部と虚部を分離すると、式6は次のようになる。
【0131】
【0132】
【0133】
【0134】
動的剛性の実験データからの粘弾性材料特性の数値的な決定は、接触サイズの知識が必要である。
【0135】
【0136】
【0137】
【0138】
ここで、acは、プローブの先端部とサンプルの接触半径である。
【0139】
実際には、ナノスケールの接触のサイズは、容易に可視化したり、直接測定され得ないが、例えば、Johnson-Kendall-Roberts(JKR)の接触力学モデルを力-距離曲線のリトラクト部分に適用することによって、押込み力-距離曲線の解析から決定され得る。
【0140】
よって、本発明のAFM-nDMA方法の実施形態は、よく特徴づけられた球状の先端部の形状を有するプローブの使用と併せて、接触サイズの計算によく知られているohnson-Kendall-Roberts(JKR)の接触力学モデルを利用する。(注目すべきは、JKRモデルは、ポリマーなどの軟質材料の機械的性質の解析に広く用いられており、十分に受け入れられているが、JKRモデルは、線形弾性材料のために定式化されたものであり、厳密に言えば粘弾性材料の正確な記載には適していないことも十分に認識されている。KJ Wahlら, コロイドと界面科学のジャーナル, 296 (1), 178-188, 2006は、この解析を振動接着剤接触用の粘弾性材料に拡張されたものである)。(例えば、低周波数でのAFM-nDMA測定の長いホールド期間を用いた実験での)粘弾性材料のJKRモデルの結果の不一致の疑いを軽減するために、本発明の実施形態では、既知の接触面積のサイズを持つ特殊な「パンチプローブ」AFMチップを利用し、動的剛性から材料特性を計算するための特定の接触力学モデルに依存しない検証方法を追加的に提供する。このような特徴は、AFM関連技術において知られていないか、又は使用されていない)。特筆すべきことに、式8.1, 8.2, 8.3を参照して、貯蔵弾性率及び損失弾性率の決定は、押込み接触の力学解析からの接触半径の推論を必要とする。これに対して、損失正接(正接差分)の決定は、接触半径を知る必要がなく、撓みと変位の振幅の比や、撓みと変位の位相差から直接計算される。
【0141】
基準周波数技術-AFMベースの測定における接触半径のクリープの補正
【0142】
上記のように、粘弾性貯蔵量及び損失弾性率の計算に必要な接触半径は、すべての所定の周波数でのAFM-nDMA測定によるすべてのホールドセグメントが完了した後に、力-距離曲線のリトラクト部分から決定される。押込みホールドの最後に推定されるこの接触半径値は、すべての周波数セグメントに渡って計算に適用される必要があり、これはリトラクトイベントよりも長い時間(サブヘルツ周波数ではおそらく数分)先行する可能性がある。周波数測定セグメントの前に、(予負荷の下での)サンプルのクリープ緩和が達成され(言い換えれば、最初の緩和待ちセグメントが十分に長い場合)、ホールド中(力設定点変調レジームのように)DC力が十分に一定に維持され、接着力のクリープが実質的にない場合に、接触半径はAFM-nDMA測定ホールドの全期間にわたって実質的に一定であり続けることができる。
【0143】
しかしながら、他のほとんどの場合、ホールド中の接触半径にはいくつかのクリープが存在し、リトラクト曲線の接触半径値の単純な適応は、AFMnDMAの計算において系統的なエラーをもたらす可能性がある。関連する技術は、これらの問題に対処していない。
【0144】
ホールド中の接触面積の可能性のあるクリープによる不確実性を補償するために、本発明の実施形態は、後述する特別な基準周波数アプローチを利用する。式8.1を再配置すると、次のようになる:
【0145】
S’=2acE’ (式9)
【0146】
当業者は、材料特性の実質的な安定性、連続性、不変性、特定の周波数における貯蔵弾性率E’を3/4に維持した実験条件(そのような温度、湿度など)で仮定することが実質的にも動作的にも合理的であることを容易に理解するであろう。そして、所定の周波数f0で測定された貯蔵剛性S’は、接触半径acに比例する。貯蔵剛性S’(ti)が、押込みホールド中の{t1, t2, t3 ...}の異なる瞬間に所定の周波数f0で測定され、さらにプローブリトラクト時間trの直前のホールドの最後尾でS’(tr)として測定される場合、接触半径値ac(ti)は、AFM-nDMA測定の全時間の間に再構成され得る(又は、さらに、補間され得る)。
【0147】
【0148】
ここで、接触半径ac(tr)の値は、リトラクト曲線から決定される。
【0149】
特に、損失剛性S”(式7.2)は、原則として、接触半径のクリープ補償にも同様の方法で使用され得るが、信号対雑音比を考慮すると、貯蔵剛性S’を使用する方がより実用的である。
【0150】
本発明の実施形態の動作を効果的に行うために、有形の記憶要素に記憶されたアプリケーションの特定の命令によって制御されるプロセッサの慎重な使用が必要とされてもよい。当業者であれば、必要とされるアルゴリズム機能、動作、及び決定は、コンピュータプログラム命令、ソフトウェア、ハードウェア、ファームウェア、又はそれらの組み合わせとして実施されてもよいことを容易に理解すべきである。当業者であれば、本発明の機能及び要素を定義する命令又はプログラムが、非書き込み可能な記憶媒体(例えば、ROMなどのコンピュータ内の読み取り専用メモリ装置、あるいは、CDROM又はDVDディスクなどのコンピュータI/Oアタッチメントによって読み取り可能な装置)に永久に記憶された情報、書き込み可能な記憶媒体(例えば、フロッピーディスク、リムーバブルフラッシュメモリ、及びハードドライブ)に変更可能に記憶された情報、又は有線又は無線のコンピュータネットワークを含む通信媒体を介してコンピュータに伝達された情報を含むが、これらに限定されない、多くの形態でプロセッサに配信されてもよいことを容易に理解すべきである。さらに、本発明はソフトウェアで具現化されてもよいが、本発明を実施するために必要な機能は、組合せ論理、特定用途集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、他のハードウェア、又はハードウェア、ソフトウェア、及び/又はファームウェアコンポーネントのいくつかの組み合わせなどのファームウェア及び/又はハードウェアコンポーネントを使用して、部分的又は全体的にオプションで又は代替的に具現化されてもよい。
【0151】
本明細書を通して、「一実施形態(one embodiment)」、「一実施形態(an embodiment)」、「関連する実施形態(a related embodiment)」又は同様の文言への参照は、その「実施形態(embodiment)」への参照に関連して説明された特定の特徴、構造、又は特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、これらの語句及び用語の出現は、同じ実施形態を参照している可能性があるが、必ずしもそうであるとは限らない。単独で、且つ/又は図面を参照して取り上げられた、開示のどの部分も、本発明の全ての特徴の完全な説明を提供することを意図していないことが理解されよう。
【0152】
また、いかなる単一の図面も、本発明のすべての特徴の完全な説明をサポートすることを意図していないことも理解されたい。言い換えると、所与の図面は一般に、本発明の全てではない一部の特徴だけを説明する。所与の図面及びそのような図面を参照する説明を含む開示の関連部分は、所与の図面及び議論を簡略化する目的で、及び、この図面で特徴づけられる特定要素に議論を向けるために、一般的に、特定の見解のすべての要素又は提示され得るすべての特徴をこの見解に含むものではない。熟練した当業者は、本発明が特定の特徴、要素、構成要素、構造、詳細、又は特徴のうちの1つ又は複数がなくても、あるいは他の方法、構成要素、材料などを使用して実施されてもよいことを理解されるだろう。したがって、本発明のある実施形態の特定の詳細は、必ずしもそのような実施形態を説明する各図面に示されていない場合があるが、図面中のこの詳細の存在は、本明細書の文脈がそうでないことを要求しない限り、暗示される場合がある。他の実施例では、よく知られた構造、詳細、材料、又は動作は、議論されている本発明の実施形態の側面を不明瞭にすることを避けるために、所定の図面に示されていないか、又は詳細に記載されていなくてもよい。
【0153】
本開示に付された特許請求の範囲に記載された発明は、全体としての開示に照らして評価されることを意図されており、特許請求の範囲に記載された記載及び参照される先行技術に開示された特徴を含む。
【0154】
本開示及び添付の特許請求の範囲の目的のために、身近にある価値、要素、特性、又は特性の記述子に関連して「ほぼ(substantially)」、「およそ(approximately)」、「約(about)」及び類似の用語を使用することは、参照される価値、要素、特性又は特性が必ずしも正確に記載されているとは限らないが、それにもかかわらず、実用的な目的のために、当業者によって記載されていると考えられることを強調することを意図されている。特定の特性又は品質記述子に適用されるこれらの用語は、その範囲が通常の当業者によって理解されるように、近似の言語を合理的に表すと共に、特定の特性又は記述子を記述するために、「ほとんど(mostly)」、「主に(mainly)」、「かなり(considerably)」、「全般的に(by and large)」、「本質的に(essentially)」、「大部分又はかなりの程度まで(to great or significant extent)」、「概ね同じだが、必ずしも完全に同じではない(largely but not necessarily wholly the same)」ことを意味する。ある具体的なケースでは、「約(approximately)」、「実質的に(substantially)」、及び「約(about)」という用語は、数値に関して使用される場合、指定された値に関してプラス又はマイナス20%の範囲を表し、より好ましくはプラス又はマイナス10%、さらに好ましくはプラス又はマイナス5%、最も好ましくはプラス又はマイナス2%の範囲を表す。非限定的な例として、2つの値が互いに「実質的に等しい(substantially equal)」とは、2つの値の間の差が、値自体の±20%の範囲内であってもよく、好ましくは値自体の±10%の範囲内であり、より好ましくは値自体の±5%の範囲内であり、さらに好ましくは値自体の±2%以下の範囲内であってもよいことを意味する。
【0155】
選択された特徴又は概念を記述する際のこれらの用語の使用は、不定性の根拠や指定された特性又は記述子に数値的な制限を加えるための根拠を示唆するものでもなく、提供するものでもない。当業者に理解されるように、そのような価値、要素、又は特性の正確な値又は特性の実際的な偏差は、記載されたものから外れており、そのような目的のために当該技術分野で認められている測定方法を使用する場合に典型的な実験的測定誤差によって定義された数値範囲内で変動する可能性がある。
【0156】
図示された実施形態への変更及びその変形は、本明細書に開示された本発明の概念から逸脱することなく行われてもよい。さらに、開示された側面又はこれらの側面の一部は、上記に記載されていない方法で組み合わされてもよい。したがって、本発明は、本明細書に記載されているように、開示された実施形態に限定されるものと見なされるべきではない。さらに、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態のみを説明することを目的としたものであり、本発明の範囲を限定することを意図したものではない。
〔付記1〕
原子間力顕微鏡(AFM)ベースのシステムを使用して軟質粘弾性サンプルの機械的特性を決定する方法であって、
プローブのカンチレバーが前記カンチレバーの公称配向から所定の量だけ撓むまで、前記システムのプローブを前記サンプルの表面に向けて再配置するステップと、
前記再配置するステップを修正するステップであって、
i)前記プローブによって発生する平均サンプル負荷力、及び
ii)前記プローブの先端部と表面との間の接触面積
のうち少なくとも1つを実質的に一定に維持するステップと、
前記表面のクリープ及び前記システムの空間ドリフトの少なくとも1つを補正しながら、予め定義された周波数のセットで、前記表面の粘弾性パラメータを測定するステップと、
前記粘弾性パラメータを、ユーザに知覚可能であり、且つ前記測定するステップの可変条件の少なくとも1つの関数として表現する出力を生成するステップと、
を含む方法。
〔付記2〕
前記測定するステップは、前記予め定義された周波数のセットから複数の周波数で同時に行われる、
付記1に記載の方法。
〔付記3〕
前記修正するステップは、前記プローブによって前記サンプルに印加されるサンプル負荷力を、前記予め定義された周波数のセットから所定の励起周波数で変調するステップを含む、
付記1又は2に記載の方法。
〔付記4〕
前記修正するステップは、前記プローブの表面と基部との間の離間が変調されている間、前記平均サンプル負荷力を実質的に一定に維持することを含む、
付記1又は2に記載の方法。
〔付記5〕
前記粘弾性パラメータを測定するステップは、
前記プローブによって前記サンプルに印加される励起力と、前記励起力によって引き起こされる前記表面の変形との両方を同時に測定することと、
前記システムの繰り返しキャリブレーションを回避すること、
のうちの少なくとも1つを実行するために、前記システムのデュアルチャンネル復調の動作を実行するステップを含む、
付記1から4のいずれか一項に記載の方法。
〔付記6〕
前記再配置するステップに起因する前記表面のクリープを緩和するのに十分な時間の間において、前記システムの動作を保持するステップをさらに含む、
付記1から5のいずれか一項に記載の方法。
〔付記7〕
前記デュアルチャネル復調を実行するステップは、前記測定するステップ中に、前記システムの電子回路の第1のセンサ及び前記システムの電子回路の第2のセンサからそれぞれ受信した第1のデータ及び第2のデータを結合することを含み、
前記第1のデータは、前記表面に対する前記プローブの位置を表し、前記第2のデータは、前記プローブのカンチレバーの公称方向からの撓みの程度を表す、
付記5に記載の方法。
〔付記8〕
前記デュアルチャネル復調を実行するステップは、2つのチャネルのうちの少なくとも1つから受信された信号データのドリフト誘起変化及びクリープ誘起変化のうちの少なくとも1つの補正を導入することを含む、
付記5又は7に記載の方法。
〔付記9〕
前記表面のクリープによる前記接触面積の変化を補償/補正するために、前記システムの第1の電子回路及び第2の電子回路の少なくとも1つを用いて、基準周波数で前記システムの動作を連続的に監視するステップをさらに含む、
付記1から6のいずれか一項に記載の方法。
〔付記10〕
前記連続的に監視するステップは、前記第1の電子回路及び前記第2の電子回路の一方のみで連続的に監視することを含み、前記ハードキャリブレーションのサンプルから得られた前記第1の電子回路及び前記第2の電子回路の他方からの信号を表すキャリブレーションデータを取得するステップをさらに含む、
付記9に記載の方法。
〔付記11〕
前記表面のクリープによる前記接触面積の変化を補償するステップをさらに含み、
前記補償するステップは、
i)前記システムのプログラマブルプロセッサを用いて前記粘弾性パラメータを計算しながら、前記接触面積の変化を算定するステップであって、前記プログラマブルプロセッサは前記AFMと動作可能に接続される、当該算定するステップ、及び、
ii)前記変化を補償するために前記プローブを再配置するステップのうちの少なくとも1つを含む、
付記9又は10に記載の方法。
〔付記12〕
前記基準周波数は、前記周波数のセットには含まれない、
付記9から11のいずれか一項に記載の方法。
〔付記13〕
前記測定するステップは、第1の期間中に、前記システムの電子回路のセンサから、前記プローブの先端部を有する前記表面の押込みの程度を決定するために前記周波数のセットからの周波数で第1のセットの電気信号を取得するステップと、
第2の期間中に、前記表面のクリープによる前記接触面積の変化を補償するための基準周波数での第2セットの電気信号を取得するステップと、を含み、
前記センサは、撓みセンサ(118)と、前記表面に対する前記プローブの位置を測定するように構成されたセンサのうちの少なくとも1つを含む、
付記1から12のいずれか一項に記載の方法。
〔付記14〕
前記基準周波数は、前記周波数のセットに含まれない、
付記13に記載の方法。
〔付記15〕
前記第1セットの電気信号の取得するステップと、前記第2の電気信号のセットを取得するステップは、互いにインターリーブされる、
付記13又は14に記載の方法。
〔付記16〕
前記プローブと前記サンプルとの間の接触の動的剛性の変化を決定することに基づいて、前記接触面積の変化を補償するステップをさらに含む、
付記13から15のいずれか一項に記載の方法。
〔付記17〕
前記サンプル負荷力を変調するステップは、前記サンプル負荷力の各振動子成分の振幅及び位相を、前記予め定義された周波数のセットからそれぞれ対応する目標値に調整することによって行われ、前記調整は、変調されたサンプル負荷力が印加された前記サンプルの材料の応答に依存する、
付記3に記載の方法。
〔付記18〕
原子間力顕微鏡(AFM)ハードウェアを用いて粘弾性サンプルの表面の機械的特性を決定するように構成されたシステムであって、
少なくとも1つの周波数で第1の振動信号を生成するように構成された信号発生器と、
前記信号発生器と協働して動作可能な機械的サブシステムであって、
プローブのカンチレバーが前記カンチレバーの公称方向から予め決められた量だけ撓むまで、前記サンプル及び前記AFMのカンチレバープローブの一方を他方に対して再配置し、
前記プローブを前記サンプルの表面に対して所定の位置に維持し、その位置では、1)前記プローブによって発生する平均サンプル負荷力、及び2)前記プローブの先端部と前記表面との間の接触面積のうち少なくとも1つが実質的に一定に維持され、
前記信号周波数での前記第1の振動信号の当該機械システムへの転送の結果として、前記サンプル及び前記プローブの一方の機械的振動を前記サンプル及び前記プローブの転送の他方に対して発生させるように構成されている、機械的サブシステムと、
当該システムの動作を特徴付ける時間的及び空間的要因の少なくとも1つの関数としてカンチレバーの撓みを検出するように構成された位置検出システムと、
前記機械的サブシステムと電気的に通信するプログラマブルプロセッサであって、
前記信号発生器から前記機械的サブシステムに前記第1の振動信号を転送し、
前記表面のクリープを緩和するのに十分な期間、前記機械的サブシステムの動作を中断することで、前記サンプル及び前記AFMのカンチレバープローブの一方を前記サンプル及び前記プローブの他方に対して再配置することによって引き起こされ、
前記位置検出システムからデータを取得して、緩和期間が経過した後の前記表面の粘弾性パラメータを決定し、前記緩和期間は、前記サンプル及び前記AFMのカンチレバープローブの一方を前記サンプル及び前記カンチレバープローブの他方に対して再配置することによって引き起こされた前記表面のクリープの緩和に十分な期間である、ことがプログラムされたプログラマブルプロセッサと、
を備えるシステム。
〔付記19〕
前記表面のクリープを補償しながら、前記表面の前記粘弾性パラメータを前記予め定義された周波数のセットで測定するように構成された電子回路と、
前記プロセッサと動作可能に通信する記録装置であって、ユーザが知覚可能であり、且つ、前記測定ステップの可変条件の少なくとも1つの関数として前記粘弾性パラメータを表す出力を生成するように構成されている記録装置と、をさらに備える、
付記18に記載のシステム。
〔付記20〕
前記信号発生器は、単一の周波数で前記第1の振動信号を発生するように構成されている、
付記18又は19に記載のシステム。