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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-13
(45)【発行日】2023-09-22
(54)【発明の名称】インクジェットプリンタ用インク
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/32 20140101AFI20230914BHJP
   C09B 57/10 20060101ALI20230914BHJP
   C09B 67/22 20060101ALI20230914BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20230914BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
C09D11/32
C09B57/10
C09B67/22 Z
B41J2/01 501
B41M5/00 120
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022530031
(86)(22)【出願日】2021-03-16
(86)【国際出願番号】 JP2021010675
(87)【国際公開番号】W WO2021250967
(87)【国際公開日】2021-12-16
【審査請求日】2022-07-19
(31)【優先権主張番号】P 2020099800
(32)【優先日】2020-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】音羽 拓也
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 洋
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 達之介
(72)【発明者】
【氏名】荻野 雅彦
【審査官】橋本 栄和
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-142146(JP,A)
【文献】特開2006-312711(JP,A)
【文献】特開2013-53285(JP,A)
【文献】特開2002-211100(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/32
C09B 57/10
C09B 67/22
B41J 2/01
B41M 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
色材と、溶剤と、樹脂と、を含み、
前記色材は、鉄イオン、マンガンイオン、銅イオン、コバルトイオン、及びクロムイオンから選択される金属イオンと、配位子と、が結合した第1金属錯体及び第2金属錯体を含み、
前記配位子は、化学構造中にジケトン構造を含むことを特徴とするインクジェットプリンタ用インク。
【請求項2】
請求項1に記載のインクジェットプリンタ用インクにおいて、
前記配位子がアセチルアセトン又はエチルアセト酢酸である
ことを特徴とするインクジェットプリンタ用インク。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のインクジェットプリンタ用インクにおいて、
前記第1金属錯体を構成する前記金属イオンは鉄イオンであることを特徴とするインクジェットプリンタ用インク。
【請求項4】
請求項3に記載のインクジェットプリンタ用インクにおいて、
前記第1金属錯体がアセチルアセトナート鉄(III)であって、
前記第2金属錯体がアセチルアセトナートマンガン(III)、アセチルアセトナートコバルト(III)、又はアセチルアセトナートクロム(III)であることを特徴とするインクジェットプリンタ用インク。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のインクジェットプリンタ用インクにおいて、
前記第1金属錯体と前記第2金属錯体の含有量の合計は、1質量%以上30質量%以下であることを特徴とするインクジェットプリンタ用インク。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載のインクジェットプリンタ用インクにおいて、
前記溶剤がメタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、3-メチル-2-ブタノン、2-ブタノン、アセトンのいずれかを含む
ことを特徴とするインクジェットプリンタ用インク。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載のインクジェットプリンタ用インクにおいて、
前記樹脂の含有量は、0質量%超32質量%以下であることを特徴とするインクジェットプリンタ用インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェットプリンタに使用されるインクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
食品、機械部品等、多くの産業製品の賞味期限、製造番号等のトレーサビリティ情報を記録するためインクジェットプリンタが用いられている。印字基材がセラミックスや金属等である場合、印字後に印字基材が300℃以上の環境で加熱処理されることがある。
【0003】
しかし、アゾ系染料、トリフェニルメタン系染料やカーボンブラック顔料など汎用的に使用されている色材は、加熱処理時の熱によって熱分解してしまう。その結果、加熱処理後、印字ドットの色濃度が低下してしまう、あるいは印字ドットが消失してしまう。
【0004】
加熱後の印字ドットの視認性を維持する色材として、遷移金属の酸化物が挙げられる。しかし、遷移金属の酸化物は総じて比重が高いため、遷移金属酸化物をインク液中に分散させても沈降してしまい、インクの分散安定性に懸念がある。
【0005】
そこで、インク溶剤に可溶な遷移金属の塩あるいは錯体を、遷移金属酸化物の前駆体としてインクに添加する方法がある。遷移金属酸化物の前駆体が添加されたインクで印字ドットを作製し、印字後に印字ドットが加熱処理される。加熱処理によって印字ドット内の遷移金属酸化物の前駆体から遷移金属酸化物が生成される。その結果、遷移金属酸化物由来の発色を得ることができ、印字ドットの視認性を確保できる。
【0006】
特許文献1には、300℃以上の温度でのマーキングに使用可能でジェット噴出可能なインクを提供することを目的に、溶剤に可溶な金属塩の溶液で構成されるインクが開示されている。また、金属塩として、クロム、マンガン、鉄、コバルト、銅、亜鉛、モリブデン、錫、アンチモン、硼素、鉛、ジルコニウム、チタン、バナジウム等の無機塩、有機金属塩が例示されている。
【0007】
また、特許文献2には、増大された彩度をもたらす新規なフタロシアニン染料を含有するインク調合物が開示されている。インク調合物には、金属フタロシアニン錯体が添加されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第5273575号明細書
【文献】特開2003-128949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1でインクに添加される金属塩は、有機溶剤への溶解安定性が不十分で、沈殿が生じ易いという課題がある。
【0010】
特許文献2で用いられるフタロシアニン系の金属錯体は有機溶剤への溶解量が低い。また、金属錯体に占める金属の割合が低い。そのため、加熱処理後に印字ドットで生成される遷移金属酸化物量が少なく、視認性が低い。
【0011】
本発明は、加熱後における印字ドットの良好な視認性と高い溶解安定性を両立するインクジェットプリンタ用インクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための本発明に係るインクジェットプリンタ用インクは、色材と溶剤と樹脂とを含み、前記色材は鉄イオン、マンガンイオン、銅イオン、コバルトイオン、及びクロムイオンから選択される金属イオンと、配位子と、が結合した第1金属錯体及び第2金属錯体を含み、前記配位子は、化学構造中にジケトン構造を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、加熱後における印字ドットの良好な視認性と高い溶解安定性を両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例に係る印字ドットの視認性評価結果
図2】実施例に係る印字ドットの印字品質評価結果
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態に係る発明において、インクジェットプリンタ用インクが印字基材に着弾し、溶剤が乾燥することで形成されたものが印字ドットである。まず、セラミックスなどの耐熱性印字基材にインクジェットプリンタ用インクが印字ドットを形成する。形成された印字ドットに含まれる錯体中の高濃度の遷移金属イオンが、加熱によって有色な遷移金属酸化物に変化して発色する。これにより、加熱後も印字ドットの視認性が維持される。金属錯体の種類によって、酸化物が生成される。
【0016】
<インクジェットプリンタ用インク>
インクジェットプリンタ用インクは、少なくとも色材、溶剤を含む。インクジェットプリンタ用インクは、色材や溶剤等をオーバーヘッドスターラー等により溶解撹拌混合した後、例えば、0.25μm以上10μm以下の孔径のフィルタにて濾過することにより、得られる。
【0017】
<色材>
色材は、鉄イオン、マンガンイオン、銅イオン、コバルトイオン、及びクロムイオンから選択される金属イオンと、配位子と、が結合した金属錯体を2種類以上含む。印字基材は白地の基材であることが多いため、酸化物が白地の基材に対して視認性の高い色となる鉄、銅、コバルト、マンガン、クロムのいずれかを遷移金属イオンとして用いる。金属錯体を構成する錯体の配位子は、化学構造中にジケトン構造を含む。ジケトン構造を含むことにより、溶解安定性が良くなるため、沈殿の生成を抑制できる。
【0018】
印字基材が加熱処理される温度条件は様々であり、例えば、最大温度が500℃である場合や最大温度が1,000℃である場合などがある。2種の金属錯体は、金属酸化物が生成され、印字ドットが発色する加熱温度条件が異なる。そのため、2種類以上の金属錯体を組み合わせることにより、広い加熱条件で印字ドットの発色が可能となる。
【0019】
錯体の化学構造を構造式(1)に示す。
【0020】
【化1】
【0021】
構造式(1)中のMは鉄、マンガン、銅、コバルト、クロムのいずれかである。2種の金属錯体をそれぞれ第1金属錯体、第2金属錯体としたときに、第1金属錯体は鉄イオンを含み、第2金属錯体はマンガンイオン、コバルトイオン、又はクロムイオンを含むことが好ましい。鉄イオンからなる金属錯体は、最大1,000℃の加熱条件で金属酸化物が生成され、マンガンイオン、コバルトイオン、又はクロムイオンからなる金属錯体は最大500℃の加熱条件で金属酸化物が生成される。そのため、これらの金属錯体を組み合わせることにより、広い加熱条件に対応して印字ドットが発色可能なインクを提供できる。
【0022】
構造式(1)中のnは配位数である。配位数は金属種およびイオン価数によって決まる。R、Rは長鎖・分岐のアルキル鎖、又は芳香環等の有機基であり、アルキル鎖中にはエーテル結合、エステル結合、アミド結合等を含んでも良い。Rは水素、あるいは長鎖・分岐のアルキル鎖である。
【0023】
金属錯体としては、構造式(1)中のR、Rがメチル基、Rが水素のアセチルアセトンを配位子としたアセチルアセトナート錯体が好適である。配位子としてアセチルアセトナートを用いることにより、金属錯体における金属含有率を高め、印字ドットの発色性を向上できるためである。
【0024】
また、Rは、Rと異なることが好ましい。錯体がスタッキング構造を形成しにくくなるため、金属錯体の溶剤への溶解性が向上するためである。RとRが異なる配位子としては、例えば、エチルアセト酢酸がある。
【0025】
以上より、金属錯体としては、具体的にアセチルアセトナート鉄(III)、アセチルアセトナートマンガン(III)、アセチルアセトナートコバルト(III)、アセチルアセトナートクロム(III)、アセチルアセトナート銅(II)、エチルアセト酢酸銅(II)が好ましい。
【0026】
金属錯体の添加量は、合計で1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、1質量%以上15質量%以下であることがさらに好ましい。インクに対して金属錯体を1質量%以上添加することにより、視認性を向上できる。また、金属錯体の添加量をインクに対して30質量%以下とすることにより、溶解安定性を向上できる。
【0027】
次に、ジケトン構造を有する配位子と他の配位子との溶解安定性と金属錯体中の金属含有率との差を説明する。
【0028】
表1に、アセチルアセトナート系錯体、フタロシアニン系錯体、硝酸塩の3種の金属錯体あるいは金属塩の、有機溶剤への溶解安定性、有機溶剤への溶解性、化合物中の鉄比率を比較した結果を示す。なお、アセチルアセトナート系錯体の例として、アセチルアセトナート鉄(III)、フタロシアニン系錯体の例として、フタロシアニン鉄(II)、硝酸塩の例として、硝酸鉄(III)・9水和物を用いた。
【0029】
【表1】
【0030】
表1の溶解安定性において、室温に7日間静置したときに沈殿物が生じた場合を「×」、沈殿物が生じなかった場合を「○」とした。また、表1の有機溶剤への溶解性において、アセチルアセトナート鉄(III)と比較して、同等あるいはそれ以上の溶解性を示す場合は「○」、低い溶解性を示す場合は「△」、全く溶けない場合は「×」とした。
【0031】
硝酸塩などの金属塩は、化合物の金属の比率がアセチルアセトナート系金属錯体と同等であり、有機溶剤への溶解性は高いが、室温に数日静置すると沈殿物が生じるなど溶解安定性が低かった。
【0032】
フタロシアニン系の遷移金属錯体は、ジケトン構造を有するアセチルアセトナート系遷移金属錯体と比較して、化合物中の金属の比率が低く、単位重量あたりの錯体から生成される金属酸化物量が少ない。そして、フタロシアニン系金属錯体は一般に有機溶剤への溶解性が低い。
【0033】
以上の理由より、印字ドットの視認性と高い溶解安定性を両立するためには、ジケトン構造を有する配位子により構成される金属錯体を用いることが効果的であることが分かった。
【0034】
また、加熱前の印字ドットの色の調整の観点から、色材に上述した金属錯体以外の染料や顔料を加えても良い。染料及び顔料は、溶剤への溶解性、分散性を満たしていれば良い。例えば、アゾ系染料、ニグロシン系染料、トリフェニルメタン系染料、ジフェニルメタン系染料、カーボンブラック顔料などを適宜利用できる。金属イオンと凝集構造を形成しにくいトリフェニルメタン系染料のクリスタルバイオレット、顔料のカーボンブラックが特に好ましい。
【0035】
<溶剤>
溶剤は、インク材料を溶かすために用いられる。インクの溶剤の主成分としては、アルコール系溶剤、及び、ケトン系溶剤が好適である。アルコール系溶剤、ケトン系溶剤は、沸点が100℃以下で乾燥速度が速く、かつ色材の溶解性が高いためである。なお、本明細書において、主成分とは、最も多く含まれる成分をいう。アルコール系溶剤の中でも、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノールが好適である。また、臭気性を抑制するという観点から、炭素数が3以下のアルコールが好ましい。ケトン系溶剤の中では、アセトン、3-メチル-2-ブタノン、2-ブタノンなどが好適である。
【0036】
主成分の他に、インク材料の溶解性の向上などのために助溶剤を添加してもよい。助溶剤としては、酢酸エステル、プロピオン酸エステル、酪酸エステル、吉草酸エステルなどのカルボン酸エステル系溶剤、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶剤、グリコール系溶剤が好ましい。
【0037】
<樹脂>
インクには、印字基材上での印字ドットサイズの調整、密着性の発現、および色材の溶解安定性向上のために樹脂を加えても良い。樹脂は、溶剤に溶解し、色材と相溶する性状を満たす材料であれば良い。樹脂は、セルロース系樹脂、ポリオール系樹脂、ブチラール変性ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン-アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、ロジン系樹脂等を単独あるいは混合して用いる。樹脂の含有量は、0質量%超32質量%以下であることが好ましい。
【0038】
<添加剤>
インクにはインク及び印字ドットの諸物性を調整するために添加剤を加えても良い。例えば、帯電制御方式のインクジェットプリンタ等で使用する場合は、導電剤を加えることでインクの比抵抗を低減し、低い電圧で所望の印字を実行することが可能となる。また、ポリシロキサン鎖の一部に有機基を導入して有機溶剤への溶解性を向上させた変性シリコーンをインクに加えることで、印字ドットの形状を平滑化させ、視認性を向上させることが可能となる。
【0039】
<インクジェットプリンタ>
上記のインクは、公知のインクジェットプリンタを使用して、印字することができる。インクジェットプリンタの例としては、帯電制御方式、ドロップ・オン・デマンド方式などのプリンタが挙げられる。凹凸のある面への高速印字においては、インク液滴の飛翔距離を長くとれる帯電制御方式が適している。
【実施例
【0040】
以下、種々の実験により本発明をさらに具体的に説明する。
【0041】
[実施例1]
85gのメタノール中に、色材としてアセチルアセトナート鉄(III)を3g、アセチルアセトナートマンガン(III)を3g、樹脂としてポリオール樹脂を10g、導電剤として硝酸リチウムを0.5g加え、撹拌して溶解させた。得られた液を0.5μm孔径のポリプロピレン製フィルタで濾過した。こうして実施例1のインクを調合した。
【0042】
調合したインクを帯電制御方式のインクジェットプリンタで吐出し、セラミックス基材にドット状の印字ドットを作製した。以下の実施例及び比較例でもセラミックス基材を用いた。印字ドットを観察したところ、直径400μm、平均膜厚1μmであり、以下の実施例および比較例でも印字ドットのサイズは同様であった。
【0043】
[実施例2]
アセチルアセトナートマンガン(III)をアセチルアセトナートコバルト(III)に変更したこと以外実施例1と同様にインクを調合し、印字ドットを作製した。
【0044】
[実施例3]
アセチルアセトナートマンガン(III)をアセチルアセトナートクロム(III)に変更したこと以外実施例1と同様にインクを調合し、印字ドットを作製した。
【0045】
[実施例4]
アセチルアセトナートマンガン(III)をエチルアセト酢酸銅(II)に変更したこと以外実施例1と同様にインクを調合し、印字ドットを作製した。
【0046】
[実施例5]
アセチルアセトナート鉄(III)をエチルアセト酢酸銅(II)に変更したこと以外実施例1と同様にインクを調合し、印字ドットを作製した。
【0047】
[実施例6]
メタノールを53g、アセチルアセトナート鉄(III)を5g、アセチルアセトナートマンガン(III)を10g、ポリオール樹脂を32gにしたこと以外実施例1と同様にインクを調合し、印字ドットを作製した。
【0048】
[実施例7]
メタノールを53g、アセチルアセトナート鉄(III)を10g、アセチルアセトナートマンガン(III)を5g、ポリオール樹脂を32gにしたこと以外実施例1と同様にインクを調合し、印字ドットを作製した。
【0049】
[実施例8]
メタノールを55g、アセチルアセトナート鉄(III)を5gとし、アセチルアセトナートマンガン(III)の代わりにアセチルアセトナートクロム(III)を10gとし、ポリオール樹脂の代わりにロジン系樹脂を30gとしたこと以外実施例1と同様にインクを調合し、印字ドットを作製した。
【0050】
[実施例9]
メタノールを55g、アセチルアセトナート鉄(III)を10gとし、アセチルアセトナートマンガン(III)の代わりにアセチルアセトナートクロム(III)を5gとし、ポリオール樹脂の代わりにロジン系樹脂を30gとしたこと以外実施例1と同様にインクを調合し、印字ドットを作製した。
【0051】
[実施例10]
メタノールを48g、アセチルアセトナート鉄(III)を10g、アセチルアセトナートマンガン(III)を10g、ポリオール樹脂を32gにしたこと以外実施例1と同様にインクを調合し、印字ドットを作製した。
【0052】
[実施例11]
メタノールを50g、ポリオール樹脂の代わりにスチレンアクリル樹脂を30gとしたこと以外実施例10と同様にインクを調合し、印字ドットを作製した。
【0053】
[実施例12]
メタノールを50g、ポリオ―ル樹脂の代わりにロジン系樹脂を30gとしたこと以外実施例10と同様にインクを調合し、印字ドットを作製した。
【0054】
[実施例13]
メタノールを45g、ポリオール樹脂を35gにしたこと以外実施例10と同様にインクを調合し、印字ドットを作製した。
【0055】
[実施例14]
メタノールを47g、スチレンアクリル樹脂を33gとしたこと以外実施例11と同様にインクを調合し、印字ドットを作製した。
【0056】
[実施例15]
メタノールを47g、ロジン系樹脂を33gとしたこと以外実施例12と同様にインクを調合し、印字ドットを作製した。
【0057】
(比較例1)
アセチルアセトナートマンガン(III)を添加しなかったこと以外実施例1と同様にインクを調合し、印字ドットを作製した。
【0058】
(比較例2)
アセチルアセトナート鉄(III)を添加しなかったこと以外実施例1と同様にインクを調合し、印字ドットを作製した。
【0059】
(比較例3)
色材として、アセチルアセトナートコバルト(III)3gのみを添加したこと以外実施例1と同様にインクを調合し、印字ドットを作製した。
【0060】
(比較例4)
色材として、アセチルアセトナートクロム(III)3gのみを添加したこと以外実施例1と同様にインクを調合し、印字ドットを作製した。
【0061】
(比較例5)
色材として、フタロシアニン鉄(II)0.5gのみを添加したこと以外実施例1と同様にインクを調合し、印字ドットを作製した。
【0062】
(比較例6)
色材として、フタロシアニン鉄(II)0.25g、フタロシアニンマンガン(II)0.25gを添加したこと以外実施例1と同様にインクを調合し、印字ドットを作製した。
【0063】
(比較例7)
色材として硝酸鉄(III)・9水和物10gのみを添加したこと以外実施例1と同様にインクを調合し、印字ドットを作製した。
【0064】
(比較例8)
メタノールを94g、ポリオ―ル樹脂を添加しなかったこと以外実施例1と同様にインクを調合し、印字ドットを作製した。
【0065】
実施例1~15及び比較例1~8に係るインクに対して、インク溶解安定性と、印字ドットの視認性を評価した。また、実施例10~15に係るインクに対して、印字品質を評価した。
【0066】
溶解安定性は、次の方法で評価した。実施例1~15、比較例1~8で調合したインクをそれぞれガラス容器に10g入れ、20℃で1カ月間静置後、析出発生の有無を目視で確認した。
【0067】
印字ドットの視認性は、実施例1~15、比較例1~8で作製した印字ドットについて、加熱処理前、500℃加熱処理後、1,000℃加熱処理後それぞれについて目視で確認することにより評価した。具体的には、図1に示すように印字ドットの濃さに応じて、〇:視認可、△:視認困難、×:視認不可の3段階で評価した。
【0068】
印字品質は、実施例10~15で調合したインクで作製した印字ドットの配列を目視で確認することにより評価した。具体的には、図2に示すように印字ドットの配列パターンに応じて、印字品質良好/合格の2段階で評価した。実施例及び比較例に係るインク組成及び試験結果を表2、表3及び表4に示す。
【0069】
【表2】
【0070】
【表3】
【0071】
【表4】
【0072】
表2、表3及び表4に示したように、インクの溶解安定性に関する試験では、ジケトン構造を有する配位子からなる金属錯体を色材として用いた実施例1~15及び比較例1~4のインクでは析出が生じなかった。一方、ジケトン構造を含まない配位子からなる金属錯体あるいは金属塩を用いた比較例5~7のインク、及び樹脂を添加していない比較例8のインクで析出の発生が見られた。この結果から、金属錯体の配位子としてジケトン構造を有する配位子を用いることにより、溶解安定性が向上し、析出を抑制できること、また、樹脂の添加によって錯体の析出を抑制できることが分かった。
【0073】
印字ドットの視認性に関する試験では、色材としてアセチルアセトナート錯体を2種類添加した実施例1~15のインクで形成した印字ドットは加熱処理前、500℃加熱処理後、1,000℃加熱処理後すべての条件で視認可能であった。一方、アセチルアセトナート錯体を1種類のみ添加した比較例1~4のインクで形成した印字ドットでは500℃あるいは1,000℃いずれかの条件で視認が困難であることがわかった。この結果から、2種の金属錯体を色材として用いることにより、広範囲の加熱処理条件で印字ドットが視認可能なインクを提供できることが分かった。
【0074】
また、フタロシアニン鉄(II)を添加した比較例5、フタロシアニン鉄(II)、フタロシアニンマンガン(II)を添加した比較例6の印字ドットは加熱処理前は視認可能であったが、加熱処理後は視認不可となった。硝酸鉄(III)・9水和物を添加した比較例7の印字ドットは、加熱処理後は視認可能だったが、加熱前は視認不可であった。
【0075】
印字品質に関する試験では実施例10~12の印字品質は良好と判定した。一方、実施例13~15の印字品質は、実施例10~12の印字品質よりは劣るものの合格と判定した。実施例10~12で調合したインクの粘度がそれぞれ20℃で4.5mPa・sだったのに対し、実施例13~15調合したインクの粘度はそれぞれ20℃で5.5mPa・sであった。実施例13~15は粘度が高かったために、良好な印字品質を得ることができなかった。
【0076】
以上の結果より、ジケトン構造を有する配位子から構成される金属錯体2種を色材として用いることにより、広範囲な加熱処理条件でも印字ドットが視認可能なインクを提供できることが分かった。また、樹脂を添加することによって色材の析出を抑制できることがわかった。更に、インクの粘度が20℃で4.5mPa・s以下となるように樹脂添加量を調整することで良好な印字品質を得られることがわかった。
【0077】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
図1
図2