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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-13
(45)【発行日】2023-09-22
(54)【発明の名称】原油の回収方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 8/58 20060101AFI20230914BHJP
   E21B 43/22 20060101ALI20230914BHJP
   E21B 43/00 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
C09K8/58
E21B43/22 A
E21B43/00 A
E21B43/00 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023504244
(86)(22)【出願日】2021-12-22
(86)【国際出願番号】 JP2021047607
【審査請求日】2023-01-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591090736
【氏名又は名称】石油資源開発株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 龍
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 彩恵
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】海藤 佑太郎
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/056948(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0175876(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0058186(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0292354(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0198018(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0102490(US,A1)
【文献】米国特許第05295540(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 8/00 - 8/94
E21B 1/00 - 49/10
JSTPlus/JST7580/JSTChina (JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧入井と生産井との間の原油を含む地層に、前記圧入井を通じて前記地層の濡れ性を改質する地層改質流体を圧入する、地層改質流体圧入工程と、
前記地層に、前記圧入井を通じてオーバーフラッシュ流体を圧入し、前記地層に含まれる原油を前記圧入井側から前記生産井側に向けて移動させ、前記生産井を通じて前記地層から原油を回収する、第1原油回収工程と、
前記地層に、前記圧入井を通じてフォームを安定させる流体とフォームを形成する流体とを圧入し、前記地層に含まれる原油を前記圧入井側から前記生産井側に向けて移動させ、前記生産井を通じて前記地層から原油を回収する、第2原油回収工程と、
を含み、
前記地層改質流体が、第1のナノ粒子含有流体、及び水蒸気から選択される1種以上の流体であり、
前記第1のナノ粒子含有流体は、親水性のナノ粒子を含ことを特徴とする原油の回収方法。
【請求項2】
前記第1原油回収工程の実施中に、前記第2原油回収工程を開始する、請求項1に記載の原油の回収方法。
【請求項3】
前記第1原油回収工程の実施後に、前記第2原油回収工程を開始する、請求項1に記載の原油の回収方法。
【請求項4】
前記第1のナノ粒子含有流体が、前記親水性のナノ粒子と分散媒とを含む請求項1~3の何れか一項に記載の原油の回収方法。
【請求項5】
前記親水性のナノ粒子が、ケイ素、アルミニウム、チタン、鉄、亜鉛、銅、ニッケル、ジルコニウム、スズ、及びマグネシウムから選択される1種又は2種以上の成分からなるナノ粒子である、請求項4に記載の原油の回収方法。
【請求項6】
前記親水性のナノ粒子の最大径が1nm以上100nm以下である請求項4又は5に記載の原油の回収方法。
【請求項7】
前記分散媒が、水、天然ガス、二酸化炭素、空気、窒素、メタン、及び水素から選択される1種以上の流体を含む、請求項4~6の何れか一項に記載の原油の回収方法。
【請求項8】
前記オーバーフラッシュ流体が、水、天然ガス、二酸化炭素、空気、窒素、メタン、及び水素から選択される1種以上の流体を含む、請求項1~7の何れか一項に記載の原油の回収方法。
【請求項9】
前記フォームを安定させる流体が、界面活性剤含有流体及び第2のナノ粒子含有流体から選択される1種以上の流体である請求項1~8の何れか一項に記載の原油の回収方法。
【請求項10】
前記フォームを形成する流体が、天然ガス、二酸化炭素、空気、窒素、メタン、及び水素から選択される1種以上の流体である請求項1~9の何れか一項に記載の原油の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、効果的に原油を回収可能な原油の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油を生産する油田、天然ガスを生産するガス田等においては、原油やガスの生産性を向上させることが求められている。
そこで、特許文献1では、坑井付近の地層において、生産開始前は気体状で存在し、生産に伴う圧力低下によって凝縮するコンデンセート油がコンデンセートバンキングとして蓄積され、ガスが流れる流路が限定され、生産性が大幅に低下することに着目している。そして、金属酸化物ナノ粒子を含む流体を用いて、コンデンセートバンキングを除去し、ガスの生産性を改善する方法が提案されている。
【0003】
一般的に、原油の生産は一次回収、二次回収、及び三次回収の3つのフェーズに分類される。一次回収では、貯留層が持つ自然のエネルギーを利用した自噴採油法などで原油の採取が行われ、二次回収法では油層に水やガスを圧入する方法や、坑内に設置したポンプ等で原油を採取する方法が採用される。しかし、一次回収、二次回収を行った後にも貯留層には60~70%の原油が残されており、原油増進回収法(EOR:Enhanced Oil Recovery)などを採用する三次回収での更なる生産性の向上が期待されている。
【0004】
EORには、熱工法、ガス圧入工法、ケミカル工法、微生物工法などがある。
ケミカル工法では、化学薬剤を油層に圧入することで、原油の生産性の向上を図っている。
具体的には、特許文献4では、炭化水素とかん水と界面活性剤を含有するミセル溶液を油層に圧入して、原油を回収する方法が提案されている。特許文献6では、水性シリカゾル、アニオン界面活性剤、及び非イオン界面活性剤を処理流体に加えて油層に圧入して、原油を回収する方法が提案されている。特許文献7では、珪素含有物質とアルカリ性物質とを混合し、熱処理して得た酸溶解性を有する珪素含有溶質と、酸溶媒とを含有する珪素ゾルを圧入井から油層に圧入して、ゲル化させて、石油を生産井から回収する方法が提案されている。しかし、これらのケミカル工法では、十分に原油を回収することが困難であった。
【0005】
一方、ガス圧入工法では、油田又はガス田の油層内にガスを圧入し、油層内の圧力を維持し、且つガス相によって油相を置換して、原油の回収率を向上させている。
しかしガス圧入工法では、ガス相の粘度が油層を含む地層内の流体の粘度と比較して小さく、ガス相が早期に生産井から排出されやすく、ガス相によって油相が置換され難いという問題がある。
【0006】
そこで、ガスを油層内に圧入する前、又はガスを油層内に圧入する際に、界面活性剤等を含む処理流体を油層内に圧入するフォームEORが検討されている。
特許文献5では、水溶性の界面活性剤を含む水溶液とガスによってフォームを成形して、これを油田の油層に圧入し、ガスによる原油の押出効率を高めて、原油を回収する方法が提案されている。しかし、高温、高圧の環境である油層内でフォームを維持することは容易なことではなく、特許文献3では、高温、高圧、更に塩水に対するフォームの安定性を高めるために、フォームを形成する際に用いるCOと水と油とを含む水性ゾルに、ナノ粒子からなる分散質とpH1.0以上6.0以下の水性溶媒からなる分散媒とを添加する方法が検討されている。
また、界面活性剤を含むフォームが長く油層内に残存しても環境に影響を及ぼす可能性があるため、特許文献2では、フォームの消泡を目的として、フッ素化界面活性剤を含有する処理用液に表面改質ナノ粒子を添加して、フォームEORを行うことが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2020-514494号公報
【文献】特表2005-526887号公報
【文献】国際公開第2021/107048号パンフレット
【文献】特開昭59-44489号公報
【文献】米国特許2866507号公報
【文献】特開2021-6595号公報
【文献】国際公開第2009/150698号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、二次回収後の油層内の岩石の表面は全体または一部が油濡れ性であることが多い。フォームEORでは、岩石の表面間に水の薄膜を形成する必要があるが、岩石の表面が油濡れ性であると岩石の表面間に水の薄膜が形成され難いという問題がある。また、岩石の孔隙内に原油が多量に存在している場合、原油が消泡剤として作用し、薄膜の破壊を促進してしまうという課題があった。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、岩石の表面が油濡れ性である油層であっても、効果的に原油を回収可能な原油の回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下のいずれかの態様を有することを特徴とする。
[1] 圧入井と生産井との間の原油を含む地層に、前記圧入井を通じて前記地層の濡れ性を改質する地層改質流体を圧入する、地層改質流体圧入工程と、
前記地層に、前記圧入井を通じてオーバーフラッシュ流体を圧入し、前記地層に含まれる原油を前記圧入井側から前記生産井側に向けて移動させ、前記生産井を通じて前記地層から原油を回収する、第1原油回収工程と、
前記地層に、前記圧入井を通じてフォームを安定させる流体とフォームを形成する流体とを圧入し、前記地層に含まれる原油を前記圧入井側から前記生産井側に向けて移動させ、前記生産井を通じて前記地層から原油を回収する、第2原油回収工程と、
を含み、
前記地層改質流体が、第1のナノ粒子含有流体、及び水蒸気から選択される1種以上の流体であり、
前記第1のナノ粒子含有流体は、親水性のナノ粒子を含ことを特徴とする原油の回収方法。
【0011】
[2] 前記第1原油回収工程の実施中に、前記第2原油回収工程を開始する、[1]に記載の原油の回収方法。
[3] 前記第1原油回収工程の実施後に、前記第2原油回収工程を開始する、[1]に記載の原油の回収方法。
【0012】
] 前記第1のナノ粒子含有流体が、前記親水性のナノ粒子と分散媒とを含む[1]~[3]の何れか一項に記載の原油の回収方法。
] 前記親水性のナノ粒子が、ケイ素、アルミニウム、チタン、鉄、亜鉛、銅、ニッケル、ジルコニウム、スズ、及びマグネシウムから選択される1種又は2種以上の成分からなるナノ粒子である、[]に記載の原油の回収方法。
] 前記親水性のナノ粒子の最大径が1nm以上100nm以下である[]又は[]に記載の原油の回収方法。
] 前記分散媒が、水、天然ガス、二酸化炭素、空気、窒素、メタン、及び水素から選択される1種以上の流体を含む、[]~[]の何れか一項に記載の原油の回収方法。
【0013】
] 前記オーバーフラッシュ流体が、水、天然ガス、二酸化炭素、空気、窒素、メタン、及び水素から選択される1種以上の流体を含む、[1]~[]の何れか一項に記載の原油の回収方法。
] 前記フォームを安定させる流体が、界面活性剤含有流体及び第2のナノ粒子含有流体から選択される1種以上の流体である[1]~[]の何れか一項に記載の原油の回収方法。
10] 前記フォームを形成する流体が、天然ガス、二酸化炭素、空気、窒素、メタン、及び水素から選択される1種以上の流体である[1]~[]の何れか一項に記載の原油の回収方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、岩石の表面が油濡れ性である油層であっても、効果的に原油を回収可能な原油の回収方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の原油の回収方法の一例を示す断面模式図である。
図2】本発明の原油の回収方法における油層の岩石を拡大した断面模式図である。
図3】従来の原油の回収方法における油層の岩石を拡大した断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態の一例について詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定して解釈されるものではない。
【0017】
図1に本実施形態の原油の回収方法の一例を示す断面模式図を示す。
本実施形態の原油の回収方法では、圧入井11と生産井12との間の原油を含む油田10の地層に、圧入井11を通じて地層の濡れ性を改質する地層改質流体13を圧入する、地層改質流体圧入工程と、地層に圧入井11を通じてオーバーフラッシュ流体14を圧入し、地層に含まれる原油を圧入井11側から生産井12側に向けて移動させ、生産井12を通じて地層から原油を回収する、第1原油回収工程と、地層に圧入井11を通じてフォームを安定させる流体15とフォームを形成する流体16とを圧入し、地層に含まれる原油を圧入井11側から生産井12側に向けて移動させ、生産井12を通じて地層から原油を回収する、第2原油回収工程と、を有する。
本実施形態において原油とは、地層において液体状である流体から回収される原油と、地層において気体状である流体から回収されるコンデンセートとを含む。
【0018】
<油田>
図1では、シール層19の下の高浸透率である油層17と、高浸透率である油層17と比較して低浸透率である油層18とを有する貯留層に圧入井11と生産井12を設けた油田10を示したが、本発明の原油の回収方法はこれに限定することなく適用できるものである。
【0019】
<地層改質流体>
本実施形態における地層改質流体13とは、油田10の地層(油層)の岩石の表面を油濡れ性から水濡れ性に改質する流体である。
ここで、油濡れ性から水濡れ性に改質するとは、油層の岩石の表面の性質が相対的に油濡れ性から水濡れ性に変化することをいう。
地層改質流体13は、第1のナノ粒子含有流体、水蒸気、界面活性剤含有流体、高分子化合物含有流体、及び低塩分水から選択される1種以上の流体である。
【0020】
第1のナノ粒子含有流体は、ナノ粒子と分散媒とを含み、前記ナノ粒子が親水性を有することが好ましい。
親水性を有するナノ粒子としては、ケイ素、アルミニウム、チタン、鉄、亜鉛、銅、ニッケル、ジルコニウム、スズ、及びマグネシウムから選択される1種又は2種以上の成分からなるナノ粒子を用いることができる。前記2種以上の成分からなるナノ粒子は、2種以上の成分からなる複合体によって構成されていてもよく、複合体としてケイ素と鉄の複合体、及びケイ素とチタンの複合体等を挙げることができる。
ケイ素やアルミニウムは、油層を形成する砂岩や泥岩などの岩石の主成分であるケイ素やアルミニウムを含むため、油層内の岩石に吸着して、岩石の表面を油濡れ性から水濡れ性にしやすく、好ましい。
また、ナノ粒子は分離圧(Structural disjoining pressure)の効果で岩石の表面に存在する原油を引きはがす効果も奏するため、効率よく岩石の表面を油濡れ性から水濡れ性とすることができる。
【0021】
ナノ粒子の最大径は1nm以上100nm以下であることが好ましい。ナノ粒子の最大径が前述の範囲であれば、岩石の細孔内にもナノ粒子を吸着させて、油濡れ性から水濡れ性に改質させることができる。
特に、ナノ粒子の最大径が40nm以下であると、高浸透率である油層17だけでなく、低浸透率である油層18に第1のナノ粒子含有流体を圧入することができ、より好ましい。
【0022】
第1のナノ粒子含有流体の分散媒としては、水、天然ガス、二酸化炭素、空気、窒素、メタン、水素から選択される1種以上の流体であることが好ましい。
ここで、水とは現地で容易に準備可能なものであればよく、塩水などを用いてもよい。
また、二酸化炭素は、気体又は液体状の二酸化炭素のほか、超臨界二酸化炭素を含む。
【0023】
第1のナノ粒子含有流体において、ナノ粒子の含有割合が0.05wt%以上且つ5.0wt%以下であることが好ましく、0.05wt%以上且つ0.5wt%以下であるとより好ましい。
第1のナノ粒子含有流体におけるナノ粒子と分散媒の配合比が上記範囲であれば、第1のナノ粒子含有流体を圧入井11側から生産井12側に移動させながら、効率よく、油層の岩石を油濡れ性から水濡れ性に改質することができる。
【0024】
水蒸気は、地層圧力下において沸点温度以上の温度となり水蒸気の形態で存在する流体である。
水蒸気を圧入井11を通じて油層に供給すると、油層内の岩石の表面に吸着した原油中の極性成分の少なくとも一部を脱着させ、岩石の表面を油濡れ性から水濡れ性に改質することができると考えられる。
【0025】
界面活性剤含有流体としては、界面活性剤と溶媒とを含有する流体を用いることができる。界面活性剤含有流体を圧入井11を通じて油層に供給すると、油層内の岩石の表面に吸着した原油中の極性成分の少なくとも一部を脱着させ、岩石の表面を油濡れ性から水濡れ性に改質することができると考えられる。
界面活性剤は、油層内の岩石の表面を覆う原油の界面張力を低下させて岩石の表面を油濡れ性から水濡れ性に改質できるものであればよく、陽イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、両性界面活性剤、及び非イオン界面活性剤から選択される1種以上の界面活性剤を用いることができる。
溶媒としては、水やCOなどを用いることができる。
【0026】
高分子化合物含有流体としては、高分子化合物と溶媒とを含有する流体を用いることができる。高分子化合物としては、圧入した高分子化合物のうち少なくともその一部が岩石の表面に吸着あるいは微小孔隙内にトラップされることにより岩石の表面を油濡れ性から水濡れ性に改質できるものであればよい。
具体的には、水などの溶媒と、ポリカチオン、ポリアニオン、及びポリ塩から選択される1種類以上の高分子電解質を含む高分子化合物含有流体を用いることができる。更に具体的には、ポリサッカライド及び/又はポリアクリルアミドなどの高分子化合物を水などの溶媒に添加して得た高分子化合物含有流体が該当する。
【0027】
低塩分水とは、油田内に自然に存在する地下水の塩分濃度より低塩分であるものをいう。低塩分水を圧入井11を通じて油層に供給すると、油層内の岩石の表面の二価の陽イオンと低塩分水の一価の陽イオンとの交換が発生して、岩石の表面に吸着していた親油性を有する極性成分と岩石との相互作用が抑制される。低塩分水のこのような作用により、岩石の表面に吸着していた親油性を有する極性成分の少なくとも一部が脱着し、岩石の表面を油濡れ性から水濡れ性に改質することができると考えられる。
【0028】
以上説明した水蒸気、界面活性剤含有流体、高分子化合物含有流体、又は低塩分水を地層改質流体13として用いると、油層の岩石を、効率よく油濡れ性から水濡れ性に改質することができる。
【0029】
<オーバーフラッシュ流体>
オーバーフラッシュ流体14は、地層改質流体圧入工程で岩石の表面から遊離した原油を圧入井11側から生産井12側に移動させることが可能な流体であればよく、水、天然ガス、二酸化炭素、空気、窒素、メタン、及び水素から選択される1種以上の流体を含むことが好ましい。
二酸化炭素は、気体又は液体状の二酸化炭素のほか、超臨界二酸化炭素を含む。
ここで、水とは現地で容易に準備可能なものであればよく、塩水であるとより好ましい。
油田10では、油層を構成する岩石の構成によっては、真水を圧入すると地層が膨潤して流路が塞がれることがある。そのような油層においては、岩石の構成を考慮して、塩水を圧入することが好ましい。
【0030】
<フォームを安定させる流体>
フォームを安定させる流体15とは、図2で示すように油層20内の岩石21の表面間に形成されるフォーム25を安定化させて、原油の回収を強化することが可能な流体であればよく、界面活性剤含有流体及び第2のナノ粒子含有流体から選択される1種以上の流体を用いることが好ましい。
ここで、フォーム25とは、フォームを形成する流体16由来の気泡(ガス相)24と、気泡24を囲う水の薄膜23から形成される。
界面活性剤含有流体としては、界面活性剤と溶媒とを含有する流体を用いることができる。本実施形態では、地層改質流体圧入工程によって、油層の岩石の表面の性質が相対的に油濡れ性から水濡れ性に変化している。従って、強い起泡性を有する界面活性剤を使用せずに、一般的な陰イオン性界面活性剤や両親媒性界面活性剤などの界面活性剤を用いることができる。溶媒としては水やCOなどを用いることができる。
【0031】
第2のナノ粒子含有流体としては、ナノ粒子と分散媒とを含み、前記ナノ粒子がフォームの安定作用を有するものであることが好ましい。
ナノ粒子は、最大粒径が1nm以上且つ200nm以下であることが好ましく、30nm未満であることがより好ましい。また、ナノ粒子として表面処理を行った両親媒性のナノ粒子等を用いることができる。分散媒としては水やCOなどを用いることができる。
第2のナノ粒子含有流体において、ナノ粒子の含有割合が0.05wt%以上且つ5.0wt%以下であることが好ましく、0.1wt%以上且つ0.5wt%以下であるとより好ましい。
【0032】
<フォームを形成する流体>
フォームを形成する流体16は、前述のフォームを安定させる流体15と共に用いてフォーム25を形成できるものであればよく、天然ガス、二酸化炭素、空気、窒素、メタン、水素から選択される1種以上の流体であることが好ましい。二酸化炭素は、気体又は液体状の二酸化炭素のほか、超臨界二酸化炭素を含む。
【0033】
以下、本発明の原油の回収方法について、具体的な実施形態の例を示す。
【0034】
(実施形態1)
<地層改質流体圧入工程>
地層改質流体圧入工程では、図1に示すように、圧入井11と生産井12との間の原油を含む油田10の地層に、圧入井11を通じて地層の濡れ性を改質する地層改質流体13を圧入する。
本工程では、地層改質流体13によって油田10の地層(油層)の岩石の表面を油濡れ性から水濡れ性に改質することができる。
地層改質流体圧入工程では、特に、高浸透率である油層17で優先的に地層改質流体13が浸透して岩石の表面を油濡れ性から水濡れ性に改質すると考えられる。
地層改質流体圧入工程では、地層改質流体13によって油層の岩石の表面を油濡れ性から水濡れ性に改質されると同時に、油層に存在する原油、特に岩石の表面や孔隙内等に存在する原油の少なくとも一部が岩石の表面や孔隙内から脱着され、移動可能な状態とされると考えられる。
【0035】
<第1原油回収工程>
本実施形態では、地層改質流体13の圧入に連続して、油層に圧入井11を通じてオーバーフラッシュ流体14を圧入する。
ここで、「連続して」とは、所定量の地層改質流体13を圧入した後に、地層改質流体13で油層が満たされるのを待つことなく、地層改質流体圧入工程の実施中にオーバーフラッシュ流体14を圧入することをいう。
本工程では、地層改質流体圧入工程で移動可能な状態とされた原油を、オーバーフラッシュ流体14によって圧入井11側から生産井12側に向けて移動させ、生産井12を通じて油層から原油を回収する。
第1原油回収工程では、特に、高浸透率である油層17で優先的にオーバーフラッシュ流体14が浸透して油層から原油を回収する。
本実施形態では、油層において、地層改質流体13の圧入に連続してオーバーフラッシュ流体14を圧入する方法を示しているが、油層の圧入井11側から生産井12側までを地層改質流体13で満たしてから、オーバーフラッシュ流体14を圧入してもよい。
【0036】
<第2原油回収工程>
本実施形態では、オーバーフラッシュ流体14の圧入に連続して、油層に圧入井11を通じてフォームを安定させる流体15を圧入した後、更に連続してフォームを形成する流体16を圧入するとよい。
ここで、「連続して」とは、所定量のオーバーフラッシュ流体14を圧入した後に、オーバーフラッシュ流体14による原油の回収を待つことなく、第1原油回収工程の実施中に、フォームを安定させる流体15及びフォームを形成する流体16を圧入することをいう。
本工程では、フォームを安定させる流体15とフォームを形成する流体16とを同時に圧入してもよく、また予めフォームを形成する流体16にフォームを安定させる流体15を添加し、圧入してもよい
フォームを安定させる流体15とフォームを形成する流体16とを油層に圧入することで、図2で示すように、岩石21の表面間にフォーム25が形成される。これによって、フォームを形成する流体16が圧入井11側から生産井12側に移動する速度が抑制され、フォームを形成する流体16によるガス相によって岩石の孔隙内等に残存する原油等を置換し、原油の回収を強化することが可能になる。
ここでフォーム25は界面活性剤安定化発泡体または界面活性剤に準ずる物質、例えばナノ粒子によって安定化された発泡体を含む。
【0037】
従来のフォームEORでは、図3に示すように、油層20内の岩石21の表面が原油22でコーティングされているため、ナノ粒子や界面活性剤を用いた油層20内の岩石21間における水の薄膜23の形成が抑制されることや、原油22の消泡作用によって水の薄膜23の形成が抑制されることがある。従って、油層20内の岩石21の表面間に薄膜23が形成され難く、フォーム25を形成することが困難であり、ガス相が早期に油層から生産井を通じて排出される傾向が見られた。
【0038】
本実施形態では、地層改質流体圧入工程にて岩石21の表面を油濡れ性から水濡れ性に改質している。従って、第2原油回収工程において、図2で示すようにフォーム25を安定化させて、効率よく原油を回収することができる。
また、本実施形態では、高浸透率である油層17で優先的にフォーム25が形成される傾向が見られる。高浸透率である油層17と比較して相対的に低浸透率である油層18では、岩石の表面の改質が進みにくく、オーバーフラッシュ流体によって原油を回収することが困難な場合がある。しかし、本実施形態では、高浸透率である油層17で優先的にフォーム25が形成されており、高浸透率である油層17で形成されているフォーム25によって、低浸透率である油層18に供給されたフォームを形成する流体16によるガス相が、高浸透率である油層17を通じて生産井12側に早期に移動することが抑制されている。
従って、本実施形態の方法によれば、低浸透率である油層18における油相をガス相によって効率よく置換でき、原油の回収を強化することが可能になる。
【0039】
(実施形態2)
本実施形態では、第1原油回収工程の実施後に、第2原油回収工程を開始するとよい。即ち、第1原油回収工程において、オーバーフラッシュ流体14を圧入井11側から生産井12側に向けて移動させて、生産井12より原油を回収してから、第2原油回収工程を実施すること以外は、実施形態1と同様の方法で原油を回収することが好ましい。
第1原油回収工程において、オーバーフラッシュ流体14を圧入井11側から生産井12側に向けて移動させて、生産井12より原油を回収してから、第2原油回収工程を実施する場合、低浸透率である油層18も十分に地層改質した状態で第2原油回収工程を実施することが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の原油の回収方法によれば、岩石の表面は油濡れ性である油層を有する貯留層において、効果的に原油回収することが可能になる。
【符号の説明】
【0041】
10 油田
11 圧入井
12 生産井
13 地層改質流体
14 オーバーフラッシュ流体
15 フォームを安定させる流体
16 フォームを形成する流体
17 高浸透率である油層
18 低浸透率である油層
19 シール層
20 油層
21 岩石
22 原油
23 水の薄膜
24 気泡(ガス相)
25 フォーム
【要約】
この原油の回収方法は、圧入井と生産井との間の原油を含む地層に、前記圧入井を通じて前記地層の濡れ性を改質する地層改質流体を圧入する、地層改質流体圧入工程と、前記地層に、前記圧入井を通じてオーバーフラッシュ流体を圧入し、前記地層に含まれる原油を前記圧入井側から前記生産井側に向けて移動させ、前記生産井を通じて前記地層から原油を回収する、第1原油回収工程と、前記地層に、前記圧入井を通じてフォームを安定させる流体とフォームを形成する流体とを圧入し、前記地層に含まれる原油を前記圧入井側から前記生産井側に向けて移動させ、前記生産井を通じて前記地層から原油を回収する、第2原油回収工程と、有する。
図1
図2
図3