(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-14
(45)【発行日】2023-09-25
(54)【発明の名称】推定方法、推定装置およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G01S 13/46 20060101AFI20230915BHJP
G01S 7/02 20060101ALI20230915BHJP
G01S 13/52 20060101ALI20230915BHJP
【FI】
G01S13/46
G01S7/02 216
G01S13/52
(21)【出願番号】P 2019153396
(22)【出願日】2019-08-26
【審査請求日】2022-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2018247386
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】中山 武司
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 翔一
(72)【発明者】
【氏名】本間 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】白木 信之
(72)【発明者】
【氏名】アブドゥサイミ アブドゥアイニ
【審査官】石原 徹弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-119770(JP,A)
【文献】特開2015-117972(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0138010(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/42
G01S 13/00-13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1個の送信アンテナ素子およびN個(Nは2以上の自然数)の受信アンテナ素子を有するアンテナ部を備える推定装置による推定方法であって、
測定対象の領域に前記送信アンテナ素子を用いて送信信号を送信し、
前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれにより受信された受信信号であって、前記送信アンテナ素子から送信された前記送信信号が動体によって反射された反射信号を含む受信信号を、前記動体の動きの周期に相当する第1期間について観測し、
前記第1期間に観測された複数の前記受信信号を用いて、前記送信アンテナ素子と前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれとの間の伝搬特性を表す第一複素伝達関数を複数算出し、
前記第一複素伝達関数の1以上の要素を用いて
抽出された直接波成分であって、前記受信信号から前記動体を経由しない直接波成分で、前記第一複素伝達関数の全要素を除算することによ
り第二複素伝達関数を算出し、
算出された複数の前記第二複素伝達関数における所定周波数範囲に対応する動体情報を抽出することで、前記動体に関する成分に対応する前記動体情報を抽出し、
所定の到来方向推定手法により、当該動体情報を用いて、前記推定装置を方向の基準として前記動体の存在する方向を推定する
推定方法。
【請求項2】
前記直接波成分は、前記第一複素伝達関数から
抽出された一つの要素
である
請求項1に記載の推定方法。
【請求項3】
前記直接波成分は、前記第一複素伝達関数の全要素の平均値
である
請求項1に記載の推定方法。
【請求項4】
前記直接波成分は、前記第一複素伝達関数の相関行
列を固有値分解することで
算出された固有値および固有ベクトル
の対のうち、前記固有値が最大となる対となる前記固有ベクトルを前記第一複素伝達関数に乗算して
算出された、直接波のチャネル成分である第三複素伝達関数
である
請求項1に記載の推定方法。
【請求項5】
前記直接波成分は、前記第一複素伝達関数を特異値分解することで
算出された左特異ベクトルおよび右特異ベクト
ルを前記第一複素伝達関数に乗算して
算出された、直接波のチャネル成分である第四複素伝達関数
である
請求項1に記載の推定方法。
【請求項6】
前記所定の到来方向推定手法は、MUSIC(MUltipleSIgnal Classification)法、ビームフォーマ法、およびCapon法のいずれかに基づく推定手法である
請求項1から5のいずれか1項に記載の推定方法。
【請求項7】
前記受信信号は、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)信号に変調されている信号である
請求項6に記載の推定方法。
【請求項8】
M個(Mは2以上の自然数)の送信アンテナ素子からなる送信アンテナ部と、N個(Nは2以上の自然数)の受信アンテナ素子からなる受信アンテナ部とを備える推定装置による推定方法であって、
測定対象の領域に前記M個の送信アンテナ素子を用いて送信信号を送信し、
前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれにより受信された受信信号であって、前記M個の送信アンテナ素子のそれぞれから送信された前記送信信号が動体によって反射された反射信号を含む受信信号を、当該動体の動きの周期に相当する第1期間について観測し、
前記第1期間に観測された複数の前記受信信号を用いて、前記M個の送信アンテナ素子のそれぞれと前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれとの間の伝搬特性を表す第一複素伝達関数を複数算出し、
前記第一複素伝達関数の1以上の要素を用いて
抽出された直接波成分であって、前記受信信号から前記動体を経由しない直接波成分で、前記第一複素伝達関数の全要素を除算することによ
り第二複素伝達関数を算出し、
算出された複数の前記第二複素伝達関数における所定周波数範囲に対応する動体情報を抽出することで、前記動体に関する成分に対応する前記動体情報を抽出し、
所定の到来方向推定手法により、当該動体情報を用いて、前記動体の存在する位置を推定する
推定方法。
【請求項9】
前記直接波成分は、前記第一複素伝達関数から
抽出された一つの要素
である
請求項8に記載の推定方法。
【請求項10】
前記直接波成分は、前記第一複素伝達関数の全要素の平均値
である
請求項8に記載の推定方法。
【請求項11】
前記直接波成分は、前記第一複素伝達関数の相関行
列を固有値分解することで
算出された固有値および固有ベクトル
の対のうち、前記固有値が最大となる対となる前記固有ベクトルを前記第一複素伝達関数に乗算して
算出された、直接波のチャネル成分である第三複素伝達関数
である
請求項8に記載の推定方法。
【請求項12】
前記直接波成分は、前記第一複素伝達関数を特異値分解することで
算出された左特異ベクトルおよび右特異ベクト
ルを前記第一複素伝達関数に乗算して
算出された、直接波のチャネル成分である第四複素伝達関数
である
請求項8に記載の推定方法。
【請求項13】
前記所定の到来方向推定手法は、MUSIC(MUltipleSIgnal Classification)法、ビームフォーマ法、およびCapon法のいずれかに基づく推定手法である
請求項8
から12
のいずれか1項に記載の推定方法。
【請求項14】
前記受信信号は、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)信号に変調されている信号である
請求項13に記載の推定方法。
【請求項15】
推定装置であって、
1個の送信アンテナ素子およびN個(Nは2以上の自然数)の受信アンテナ素子を有するアンテナ部と、
測定対象の領域に前記送信アンテナ素子を用いて送信信号を送信する送信部と、
前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれにより受信された受信信号であって、前記送信アンテナ素子から送信された前記送信信号が動体によって反射された反射信号を含む受信信号を、前記動体の動きの周期に相当する第1期間について観測する受信部と、
前記第1期間に観測された複数の前記受信信号を用いて、前記送信アンテナ素子と前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれとの間の伝搬特性を表す第一複素伝達関数を複数算出する第一複素伝達関数算出部と、
前記第一複素伝達関数の1以上の要素を用いて
抽出された直接波成分であって、前記受信信号から前記動体を経由しない直接波成分で、前記第一複素伝達関数の全要素を除算することによ
り第二複素伝達関数を算出する第二複素伝達関数算出部と、
算出された複数の前記第二複素伝達関数における所定周波数範囲に対応する動体情報を抽出することで、前記動体に関する成分に対応する前記動体情報を抽出する動体情報算出部と、
所定の到来方向推定手法により、当該動体情報を用いて、前記推定装置を方向の基準として前記動体の存在する方向を推定する方向推定処理部と、を備える
推定装置。
【請求項16】
1個の送信アンテナ素子およびN個(Nは2以上の自然数)の受信アンテナ素子を有するアンテナ部を備える推定装置による推定方法をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、
測定対象の領域に前記送信アンテナ素子を用いて送信信号を送信し、
前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれにより受信された受信信号であって、前記送信アンテナ素子から送信された前記送信信号が動体によって反射された反射信号を含む受信信号を、前記動体の動きの周期に相当する第1期間について観測し、
前記第1期間に観測された複数の前記受信信号を用いて、前記送信アンテナ素子と前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれとの間の伝搬特性を表す第一複素伝達関数を複数算出し、
前記第一複素伝達関数の1以上の要素を用いて
抽出された直接波成分であって、前記受信信号から前記動体を経由しない直接波成分で、前記第一複素伝達関数の全要素を除算することによ
り第二複素伝達関数を算出し、
算出された複数の前記第二複素伝達関数における所定周波数範囲に対応する動体情報を抽出することで、前記動体に関する成分に対応する前記動体情報を抽出し、
所定の到来方向推定手法により、当該動体情報を用いて、前記推定装置を方向の基準として前記動体の存在する方向を推定する
推定方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、無線信号を利用することで動体の方向または位置を推定する推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1または特許文献2では、人物の位置などを知る方法として、無線信号を利用する方法が開示されている。特許文献1には、無線機の複素伝達関数の周波数応答を利用して検出対象となる人物の位置を知る方法が開示されている。また、特許文献2には無線機の複素伝達関数のうち、所定の間隔の2つの時点における2つの複素伝達関数の差分情報を利用して検出対象となる人物の位置や状態を知る方法が開示されている。
【0003】
また、特許文献3には複数のセンサ間でタイマー補正命令によりタイミング補正を行う方法が開示されている。特許文献4には2つのセンサの統計結果に基づいて疲労度を測定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-72173号公報
【文献】特開2017-129558号公報
【文献】特開2014-216786号公報
【文献】特開2011-019845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1~4のような技術では、推定装置に対する生体の方向または位置を精度よく推定することが難しいという課題がある。
【0006】
本開示は、上述の事情を鑑みてなされたもので、推定装置に対する生体を含む動体の方向または位置を精度よく推定することができる推定方法などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本開示の一形態に係る推定方法は、1個の送信アンテナ素子およびN個(Nは2以上の自然数)の受信アンテナ素子を有するアンテナ部を備える推定装置による推定方法であって、測定対象の領域に前記送信アンテナ素子を用いて送信信号を送信し、前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれにより受信された受信信号であって、前記送信アンテナ素子から送信された前記送信信号が動体によって反射された反射信号を含む受信信号を、前記動体の動きの周期に相当する第1期間について観測し、前記第1期間に観測された複数の前記受信信号を用いて、前記送信アンテナ素子と前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれとの間の伝搬特性を表す第一複素伝達関数を複数算出し、前記第一複素伝達関数の1以上の要素を用いて所定の演算を行うことにより、前記第一複素伝達関数から、(1)送信アンテナ部から送信する送信信号を生成する送信部と受信部との間のクロック揺らぎ、および、(2)前記送信信号のデジタル-アナログ変換または前記受信信号のアナログ-デジタル変換のタイミング揺らぎ、の少なくとも一方に対応する成分が抑制された第二複素伝達関数を算出し、算出された複数の前記第二複素伝達関数における所定周波数範囲に対応する動体情報を抽出することで、前記動体に関する成分に対応する前記動体情報を抽出し、所定の到来方向推定手法により、当該動体情報を用いて、前記推定装置を方向の基準として前記動体の存在する方向を推定する。
【0008】
また、本開示の他の一態様に係る推定方法は、M個(Mは2以上の自然数)の送信アンテナ素子からなる送信アンテナ部と、N個(Nは2以上の自然数)の受信アンテナ素子からなる受信アンテナ部とを備える推定装置による推定方法であって、測定対象の領域に前記M個の送信アンテナ素子を用いて送信信号を送信し、前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれにより受信された受信信号であって、前記M個の送信アンテナ素子のそれぞれから送信された前記送信信号が動体によって反射された反射信号を含む受信信号を、当該動体の動きの周期に相当する第1期間について観測し、前記第1期間に観測された複数の前記受信信号を用いて、前記M個の送信アンテナ素子のそれぞれと前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれとの間の伝搬特性を表す第一複素伝達関数を複数算出し、前記第一複素伝達関数の1以上の要素を用いて所定の演算を行うことにより、前記第一複素伝達関数から、(1)前記送信アンテナ部から送信する送信信号を生成する送信部と受信部との間のクロック揺らぎ、および、(2)前記送信信号のデジタル-アナログ変換または前記受信信号のアナログ-デジタル変換のタイミング揺らぎ、の少なくとも一方に対応する成分が抑制された第二複素伝達関数を算出し、算出された複数の前記第二複素伝達関数における所定周波数範囲に対応する動体情報を抽出することで、前記動体に関する成分に対応する前記動体情報を抽出し、所定の到来方向推定手法により、当該動体情報を用いて、前記動体の存在する位置を推定する。
【0009】
また、本開示の一態様に係る推定装置は、推定装置であって、1個の送信アンテナ素子およびN個(Nは2以上の自然数)の受信アンテナ素子を有するアンテナ部と、測定対象の領域に前記送信アンテナ素子を用いて送信信号を送信する送信部と、前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれにより受信された受信信号であって、前記送信アンテナ素子から送信された前記送信信号が動体によって反射された反射信号を含む受信信号を、前記動体の動きの周期に相当する第1期間について観測する受信部と、前記第1期間に観測された複数の前記受信信号を用いて、前記送信アンテナ素子と前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれとの間の伝搬特性を表す第一複素伝達関数を複数算出する第一複素伝達関数算出部と、前記第一複素伝達関数の1以上の要素を用いて所定の演算を行うことにより、前記第一複素伝達関数から、(1)送信アンテナ部から送信する送信信号を生成する送信部と前記受信部との間のクロック揺らぎ、および、(2)前記送信信号のデジタル-アナログ変換または前記受信信号のアナログ-デジタル変換のタイミング揺らぎ、の少なくとも一方に対応する成分が抑制された第二複素伝達関数を算出する第二複素伝達関数算出部と、算出された複数の前記第二複素伝達関数における所定周波数範囲に対応する動体情報を抽出することで、前記動体に関する成分に対応する前記動体情報を抽出する動体情報算出部と、所定の到来方向推定手法により、当該動体情報を用いて、前記推定装置を方向の基準として前記動体の存在する方向を推定する方向推定処理部と、を備える。
【0010】
なお、これらの包括的または具体的な態様は、システム、方法、集積回路、コンピュータプログラムまたはコンピュータ読み取り可能なCD-ROMなどの記録媒体で実現されてもよく、システム、方法、集積回路、コンピュータプログラムおよび記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、推定装置に対する生体を含む動体の方向または位置を精度よく推定することができる推定方法などを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施の形態1における推定装置の構成、および、検出対象の一例を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すアンテナ部における信号波の伝達の様子を概念的に示す図である。
【
図3】
図3は、実施の形態1における受信I,Q信号の周波数成分の一例を示す概念図である。
【
図4】
図4は、実施の形態1における推定装置の推定処理を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、実施の形態2における推定装置の構成、および、検出対象の一例を示すブロック図である。
【
図6】
図6は、実施の形態2における推定装置の推定処理を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、実施の形態2に係る推定方法を用いた実験の概念を示す図である。
【
図8】
図8は、実施の形態2に係る推定方法を用いた実験の条件を示す図である。
【
図9】
図9は、実施の形態2に係る推定方法を用いた実験結果を示す図である。
【
図10】
図10は、実施の形態2に係る推定方法を用いた別の実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(本開示の基礎となった知見)
人物の位置などを知る方法として、無線信号を利用する方法が検討されている。
【0014】
例えば特許文献1には、フーリエ変換を用いてドップラシフトを含む成分を解析することで検出対象となる人物の位置や状態を知る方法が開示されている。より具体的には、複素伝達関数の要素の時間変化を記録し、その時間波形をフーリエ変換する。人物などの生体は呼吸や心拍などの生体活動は、反射波に僅かなドップラ効果を与える。したがって、ドップラシフトを含む成分は人物の影響を含んでいる。一方、ドップラシフトの無い成分は人物の影響を受けていない、つまり固定物からの反射波や送受信アンテナ間の直接波に対応する。以上のことから、特許文献1では、ドップラシフトを含む成分を解析することで検出対象となる人物の位置や状態を知ることができることが開示されている。
【0015】
また特許文献2には無線機の複素伝達関数のうち、所定の間隔の2つの時点における2つの複素伝達関数の差分情報を利用して検出対象となる人物の位置や状態を知る方法が開示されている。
【0016】
しかしながら、上述した特許文献1および2の方法は、送信機および受信機を用いて、または、複数の無線機を用いて推定装置を構成しているが、送信機と受信機との間のクロック周波数誤差、AD変換機およびDA変換機内で使われるサンプリングクロック周波数誤差など、送信機および受信機由来の周波数変動に関する記載がない。そして無線機の複素伝達関数、またはそれに順ずる情報の時系列データを扱い生体の方向や位置を推定する場合、人により発生したドップラシフトと前記クロック周波数誤差の区別がつかないという課題がある。
【0017】
また、特許文献3には複数のセンサ間にタイマー補正命令を送りタイミング補正する方法が開示されているが、無線機のRF信号の位相調整をコマンドで行うのは難しい。また、特許文献4は加速度センサを対象とした技術であって、無線機に適用することは難しい。
【0018】
発明者らは、以上の課題に対して研究を重ねた結果、
図3に示すように受信信号には、送信アンテナから送信される送信信号100、送信機および受信機由来の周波数変動102、生体由来のドップラシフト101などの成分が含まれることを見出した。その中でも、送信信号100が空間を伝播することによる減衰または位相回転は周波数変動が少なく、送信機および受信機由来の周波数変動と生体由来のドップラシフトは周波数変動が大きいことが分かった。更に、発明者らは、送信信号100が空間を伝播することによる減衰または位相回転と、前記送信機および受信機由来の周波数変動とは、受信アンテナ毎に成分の差分が小さいことと、生体由来のドップラシフトは受信アンテナ毎に成分の差分が大きい事を見出した。これにより、例えば、前記複素伝達関数の任意の1成分を抽出し当該抽出された成分などのような、受信信号に含まれる直接波のチャネル成分(直接波のチャネル成分とも言う)にて前記複素伝達関数の全要素を除算することで、前記送信機および受信機由来の周波数変動の成分を抑制し、送信機および受信機のクロック周波数誤差が発生する場合でも無線信号を利用して推定装置に対する動体が存在する方向または位置等の推定を精度よく行うことができる推定方法等を見出すことに至った。
【0019】
すなわち、本開示の一態様に係る推定方法は、1個の送信アンテナ素子およびN個(Nは2以上の自然数)の受信アンテナ素子を有するアンテナ部を備える推定装置による推定方法であって、測定対象の領域に前記送信アンテナ素子を用いて送信信号を送信し、前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれにより受信された受信信号であって、前記送信アンテナ素子から送信された前記送信信号が動体によって反射された反射信号を含む受信信号を、前記動体の動きの周期に相当する第1期間について観測し、前記第1期間に観測された複数の前記受信信号を用いて、前記送信アンテナ素子と前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれとの間の伝搬特性を表す第一複素伝達関数を複数算出し、前記第一複素伝達関数の1以上の要素を用いて所定の演算を行うことにより、前記第一複素伝達関数から、(1)送信アンテナ部から送信する送信信号を生成する送信部と受信部との間のクロック揺らぎ、および、(2)前記送信信号のデジタル-アナログ変換または前記受信信号のアナログ-デジタル変換のタイミング揺らぎ、の少なくとも一方に対応する成分が抑制された第二複素伝達関数を算出し、算出された複数の前記第二複素伝達関数における所定周波数範囲に対応する動体情報を抽出することで、前記動体に関する成分に対応する前記動体情報を抽出し、所定の到来方向推定手法により、当該動体情報を用いて、前記推定装置を方向の基準として前記動体の存在する方向を推定する。
【0020】
これによれば、受信信号から動体を経由しない直接波成分を抽出し、周波数誤差によって生じる位相回転を検出し、複素伝達関数から送信部および受信部間のクロック揺らぎ、および、周波数誤差由来の位相回転を除去するため、動体の存在する方向を精度よく推定することが可能となる。
【0021】
また、前記第二複素伝達関数の算出では、前記第一複素伝達関数から一つの要素を抽出し、前記第一複素伝達関数の全要素を抽出した前記一つの要素にて除算することで、前記第二複素伝達関数を算出してもよい。
【0022】
また、前記第二複素伝達関数の算出では、前記第一複素伝達関数の全要素の平均値を算出し、前記第一複素伝達関数の全要素を算出した前記平均値にて除算することで、前記第二複素伝達関数を算出してもよい。
【0023】
また、前記第二複素伝達関数の算出では、前記第一複素伝達関数の相関行列を算出し、前記相関行列を固有値分解することで固有値および固有ベクトルを算出し、前記固有値が最大となる対となる前記固有ベクトルを前記第一複素伝達関数に乗算して、直接波のチャネル成分である第三複素伝達関数を算出し、前記第一複素伝達関数の全要素を前記第三複素伝達関数にて除算することで、前記第二複素伝達関数を算出してもよい。
【0024】
また、前記第二複素伝達関数の算出では、前記第一複素伝達関数を特異値分解することで左特異ベクトルおよび右特異ベクトルを算出し、前記左特異ベクトルおよび前記右特異ベクトルを前記第一複素伝達関数に乗算して、直接波のチャネル成分である第四複素伝達関数を算出し、前記第一複素伝達関数の全要素を前記第四複素伝達関数にて除算することで、前記第二複素伝達関数を算出してもよい。
【0025】
また、前記所定の到来方向推定手法は、MUSIC(MUltipleSIgnal Classification)法、ビームフォーマ法、およびCapon法のいずれかに基づく推定手法であってもよい。
【0026】
また、前記受信信号は、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)信号に変調されている信号であってもよい。
【0027】
また、M個(Mは2以上の自然数)の送信アンテナ素子からなる送信アンテナ部と、N個(Nは2以上の自然数)の受信アンテナ素子からなる受信アンテナ部とを備える推定装置による推定方法であって、測定対象の領域に前記M個の送信アンテナ素子を用いて送信信号を送信し、前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれにより受信された受信信号であって、前記M個の送信アンテナ素子のそれぞれから送信された前記送信信号が動体によって反射された反射信号を含む受信信号を、当該動体の動きの周期に相当する第1期間について観測し、前記第1期間に観測された複数の前記受信信号を用いて、前記M個の送信アンテナ素子のそれぞれと前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれとの間の伝搬特性を表す第一複素伝達関数を複数算出し、前記第一複素伝達関数の1以上の要素を用いて所定の演算を行うことにより、前記第一複素伝達関数から、(1)前記送信アンテナ部から送信する送信信号を生成する送信部と受信部との間のクロック揺らぎ、および、(2)前記送信信号のデジタル-アナログ変換または前記受信信号のアナログ-デジタル変換のタイミング揺らぎ、の少なくとも一方に対応する成分が抑制された第二複素伝達関数を算出し、算出された複数の前記第二複素伝達関数における所定周波数範囲に対応する動体情報を抽出することで、前記動体に関する成分に対応する前記動体情報を抽出し、所定の到来方向推定手法により、当該動体情報を用いて、前記動体の存在する位置を推定してもよい。
【0028】
これによれば、受信信号から動体を経由しない直接波成分を抽出し、周波数誤差によって生じる位相回転を検出し、複素伝達関数から送信部および受信部間のクロック揺らぎ、および、周波数誤差由来の位相回転を除去するため、動体の存在する位置を精度よく推定することが可能となる。
【0029】
また、前記第二複素伝達関数の算出では、前記第一複素伝達関数から一つの要素を抽出し、前記第一複素伝達関数の全要素を抽出した前記一つの要素にて除算することで、前記第二複素伝達関数を算出してもよい。
【0030】
また、前記第二複素伝達関数の算出では、前記第一複素伝達関数の全要素の平均値を算出し、前記第一複素伝達関数の全要素を算出した前記平均値にて除算することで、前記第二複素伝達関数を算出してもよい。
【0031】
また、前記第二複素伝達関数の算出では、前記第一複素伝達関数の相関行列を算出し、前記相関行列を固有値分解することで固有値および固有ベクトルを算出し、前記固有値が最大となる対となる前記固有ベクトルを前記第一複素伝達関数に乗算して、直接波のチャネル成分である第三複素伝達関数を算出し、前記第一複素伝達関数の全要素を前記第三複素伝達関数にて除算することで、前記第二複素伝達関数を算出してもよい。
【0032】
また、前記第二複素伝達関数の算出では、前記第一複素伝達関数を特異値分解することで左特異ベクトルおよび右特異ベクトルを算出し、前記左特異ベクトルおよび前記右特異ベクトルを前記第一複素伝達関数に乗算して第四複素伝達関数を算出し、前記第一複素伝達関数の全要素を前記第四複素伝達関数にて除算することで、前記第二複素伝達関数を算出してもよい。
【0033】
また、前記所定の到来方向推定手法は、MUSIC(MUltipleSIgnal Classification)法、ビームフォーマ法、およびCapon法のいずれかに基づく推定手法であってもよい。
【0034】
また、前記受信信号は、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)信号に変調されている信号であってもよい。
【0035】
また、本開示の一態様に係る推定装置は、推定装置であって、1個の送信アンテナ素子およびN個(Nは2以上の自然数)の受信アンテナ素子を有するアンテナ部と、測定対象の領域に前記送信アンテナ素子を用いて送信信号を送信する送信部と、前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれにより受信された受信信号であって、前記送信アンテナ素子から送信された前記送信信号が動体によって反射された反射信号を含む受信信号を、前記動体の動きの周期に相当する第1期間について観測する受信部と、前記第1期間に観測された複数の前記受信信号を用いて、前記送信アンテナ素子と前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれとの間の伝搬特性を表す第一複素伝達関数を複数算出する第一複素伝達関数算出部と、前記第一複素伝達関数の1以上の要素を用いて所定の演算を行うことにより、前記第一複素伝達関数から、(1)送信アンテナ部から送信する送信信号を生成する送信部と前記受信部との間のクロック揺らぎ、および、(2)前記送信信号のデジタル-アナログ変換または前記受信信号のアナログ-デジタル変換のタイミング揺らぎ、の少なくとも一方に対応する成分が抑制された第二複素伝達関数を算出する第二複素伝達関数算出部と、算出された複数の前記第二複素伝達関数における所定周波数範囲に対応する動体情報を抽出することで、前記動体に関する成分に対応する前記動体情報を抽出する動体情報算出部と、所定の到来方向推定手法により、当該動体情報を用いて、前記推定装置を方向の基準として前記動体の存在する方向を推定する方向推定処理部と、を備える。
【0036】
なお、これらの包括的または具体的な態様は、システム、方法、集積回路、コンピュータプログラムまたはコンピュータ読み取り可能なCD-ROMなどの記録媒体で実現されてもよく、システム、方法、集積回路、コンピュータプログラムおよび記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。
【0037】
以下、本開示の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも本開示の好ましい一具体例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本開示を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、本開示の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、より好ましい形態を構成する任意の構成要素として説明される。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0038】
(実施の形態1)
以下では、図面を参照しながら、実施の形態1における推定装置10が、所定期間の異なる2つの時点に観測された複素伝達関数の差分情報を用いて、検出対象である動体(生体)の方向を推定することについて説明する。
【0039】
[推定装置10の構成]
図1は、実施の形態1における推定装置10の構成の一例を示すブロック図である。
図1には、
図1に示す推定装置10の検出対象である生体が合わせて示されている。
【0040】
図1に示す推定装置10は、アンテナ部11と、送信機12と、受信部13と、第一複素伝達関数算出部14と、第二複素伝達関数算出部15と、動体情報算出部16と、方向推定処理部17とを備える。推定装置10は、推定装置10に対する、動体の存在する方向を推定する。
【0041】
[送信機12]
送信機12は、生体50の方向を推定するために用いる高周波の信号を、送信機12内部クロックf
TXを用いて生成する。例えば、
図2に示すように、送信機12は、生成した信号(送信波)を、アンテナ部11が備える1個の送信アンテナ素子から送信する。
【0042】
[アンテナ部11]
アンテナ部11は、1個の送信アンテナ素子およびN個(Nは2以上の自然数)の受信アンテナ素子を有する。本実施の形態では、アンテナ部11は、送信アンテナ部11Aと受信アンテナ部11Bとを有する。送信アンテナ部11Aは、1素子の送信アンテナである送信アンテナ素子を有し、受信アンテナ部11Bは、MR個の受信アンテナ素子(受信アレーアンテナ)を備える。
【0043】
上述したように、1個の送信アンテナ素子は、送信機12が生成した信号(送信波)を送信する。そして、例えば
図2に示すように、M
R個の受信アンテナ素子のそれぞれは、当該1個の送信アンテナ素子から送信され、生体50によって反射された信号(受信信号)を受信する。
【0044】
[受信部13]
受信部13は、N個の受信アンテナ素子のそれぞれにより受信された受信信号であって、送信アンテナ素子から送信され、動体によって反射された反射信号を含む受信信号を、動体の活動に由来する周期に相当する第1期間について観測する。ここで、動体は、
図2に示すような生体50である。また、動体の活動に由来する周期は、生体50の呼吸、心拍、体動の少なくとも一つを含む生体由来の周期(生体変動周期)である。
【0045】
本実施の形態では、受信部13は、N個(MR個)の受信機(受信機13-1~受信機13-N)からなる。受信機13-1~受信機13-Nのそれぞれは、対応する受信アンテナ素子で受信された高周波の信号を、受信機内部クロックfRXを用いて信号処理が可能な低周波の信号に変換する。受信部13は、少なくとも第1期間、受信機13-1~受信機13-Nのそれぞれが変換した低周波の信号を、第一複素伝達関数算出部14に伝達する。
【0046】
[第一複素伝達関数算出部14]
第一複素伝達関数算出部14は、第1期間に観測された複数の受信信号から、送信アンテナ素子とN個の受信アンテナ素子のそれぞれとの間の伝搬特性を表す複素伝達関数を複数算出する。
【0047】
本実施の形態では、第一複素伝達関数算出部14は、受信部13から伝達された低周波の信号から、1個の送信アンテナ素子とM
R個の受信アンテナ素子との間の伝搬特性を表す複素伝達関数を算出する。以下、
図2を用いてより具体的に説明する。
【0048】
図2は、
図1に示すアンテナ部11における信号波の伝達の様子を概念的に示す図である。
図2に示すように、送信アンテナ部11Aの送信アンテナ素子から送信される送信波は、生体50によって反射され、受信アンテナ部11Bの受信アレーアンテナに到達する。ここで、受信アレーアンテナは、M
R個の受信アンテナ素子からなり、素子間隔dのリニアアレーである。また、受信アレーアンテナの正面から見た生体50の方向をθとする。生体50と受信アレーアンテナとの距離は十分に大きく、受信アレーアンテナに到来する生体由来の反射波は平面波と見なせるものとする。
【0049】
この場合、第一複素伝達関数算出部14は、受信アレーアンテナを使って観測された複素受信信号ベクトル
【数1】
から、送信アンテナ素子と受信アレーアンテナとの間の伝搬特性を表す第一複素伝達関数ベクトルを算出することができる。第一複素伝達関数ベクトルh
0は、例えば、
【数2】
により算出できる。ここで、sは複素送信信号であり、既知であるものとする。なお、第一複素伝達関数ベクトルh
0は、第一複素伝達関数の一例である。
【0050】
[第二複素伝達関数算出部15]
ここで第一複素伝達関数ベクトルh0には、送信機および受信機由来の周波数変動成分と、生体由来のドップラシフトとが含まれる。送信機および受信機由来の周波数変動成分には、例えば、(i)送信信号の空間伝播による減衰または位相回転、(ii)送信機および受信機間のクロック周波数誤差(fRX-fTX)、(iii)DA変換など無線機内にて用いられるサンプリングクロック周波数誤差などが含まれる。第一複素伝達関数ベクトルh0から送信機および受信機由来の周波数変動成分の位相回転を除去するために、第二複素伝達関数算出部15は、直接波成分としてh0内の任意の一つの要素hlを抽出する。
【0051】
【0052】
そして、第二複素伝達関数算出部15は、(式1)に示されるように第一複素伝達関数ベクトルh0の全要素を直接波成分として抽出した一つの要素hlにて除算することで、第二複素伝達関数ベクトルh′を算出する。ここで、直接波成分の要素は、要素h1など、第一複素伝達関数ベクトルh0のうちの一つの要素であればどの要素を用いても良い。なお、第二複素伝達関数ベクトルh′は、第二複素伝達関数の一例である。
【0053】
このように、第二複素伝達関数算出部15は、第一複素伝達関数ベクトルh0の1以上の要素を用いて所定の演算を行うことにより、第一複素伝達関数ベクトルh0から、(1)送信アンテナ部11Aから送信する送信信号を生成する送信部を含む送信機12と受信部13との間のクロック揺らぎ、および、(2)送信信号のデジタル-アナログ変換または受信信号のアナログ-デジタル変換のタイミング揺らぎ、の少なくとも一方に対応する成分が抑制された第二複素伝達関数ベクトルh′を算出する。
【0054】
[動体情報算出部16]
動体情報算出部16は、算出された第二複素伝達関数ベクトルh′を用い、特許文献1に記載の差分情報算出部と同様に所定間隔の2つの時点における2つの第二複素伝達関数ベクトルh′の差分情報を算出することで、動体情報を算出する。つまり、動体情報算出部16は、算出された複数の第二複素伝達関数ベクトルh′における所定周波数範囲に対応する動体情報を抽出することで、動体に関する成分に対応する動体情報を抽出する。例えば、動体情報算出部16は、動体情報として、生体の呼吸、心拍および体動の少なくともいずれかを含むバイタル活動の影響を受けた成分に対応する動体情報を抽出する。
【0055】
なお、この動体情報は第二複素伝達関数ベクトルh′より生体由来の成分を算出すればよく、周波数応答を用いても同様の効果が得られることは言うまでもない。
【0056】
本実施の形態では、受信アンテナ素子は複数(M
R個)あるため受信アンテナ部11Bに対応する第二複素伝達関数ベクトルh′の差分値(差分情報)の数も複数となる。これらをまとめて複素差分チャネルベクトルと定義する。受信アンテナ素子の数をM
Rとすると複素差分チャネルベクトルは、
【数4】
と表せ、
【数5】
である。また、l、mは測定番号を表す正の整数であり、サンプル時間である。なお、
【数6】
は転置を表す。
【0057】
[方向推定処理部17]
方向推定処理部17は、第二複素伝達関数ベクトルh′より抽出した当該動体情報を用いて、所定の到来方向推定手法により、推定装置10を方向の基準として動体の存在する方向を推定する。より具体的には、所定の到来方向推定手法は、特許文献1記載の方向推定処理部のようなMUSIC(MUltipleSIgnal Classification)アルゴリズムに基づく推定手法であってもよいし、ビームフォーマ法またはCapon法に基づく推定手法であってもよい。
【0058】
なお、送信機12より送信される信号は、連続信号(CW信号)であっても良いし、OFDM信号のような符号化された信号でもよい。
【0059】
[直接波成分の他の例]
なお、実施の形態1の第二複素伝達関数算出部15は、第一複素伝達関数ベクトルh0を、直接波成分として第一複素伝達関数ベクトルh0内の任意の一つの要素hlにて除算することで、第二複素伝達関数ベクトルh′を算出したが、一つの要素hlにて除算することに限らない。
【0060】
例えば、第一複素伝達関数ベクトルh0の除算に用いる直接波成分には、任意の一つの要素hlの代わりに、|hl|の時変動が最も小さい要素hlminを用いてもよい。要素hlminは、以下の(式2)を用いて算出され、第二複素伝達関数ベクトルh′は、算出された要素hlminおよび(式3)を用いて算出される。(式2)に示されるように、第一複素伝達関数ベクトルh0の各要素の時間的変化について分散を算出し、算出した分散が最も小さい要素をhlminとして算出してもよい。
【0061】
【0062】
【0063】
また、例えば、第一複素伝達関数ベクトルh0の除算に用いる直接波成分には、第一複素伝達関数ベクトルh0の全要素の平均値を用いてもよい。つまり、この場合、第二複素伝達関数算出部15は、第一複素伝達関数ベクトルh0の全要素を算出した平均値にて除算することで、第二複素伝達関数ベクトルh′を算出する。
【0064】
また、例えば、除算に用いる直接波成分は、複素伝達関数を一定期間観測することでh0(t)を取得し、任意の時間tの複素伝達関数を特異値分解し、(式4)より特異ベクトルを求め、これにより、(式5)のように第二複素伝達関数ベクトルh′を算出してもよい。
【0065】
【0066】
【0067】
(式4)に示されるように、第二複素伝達関数算出部15は、第一複素伝達関数ベクトルh0(t)を特異値分解することで左特異ベクトルU(t)および右特異ベクトルV(t)を算出する。次に、第二複素伝達関数算出部15は、(式4)で算出された結果を用いて、(式5)に示されるように、左特異ベクトルU(t)および右特異ベクトルV(t)を第一複素伝達関数ベクトルh0(t)に乗算して、直接波のチャネル成分である第四複素伝達関数u1
Hh0(t)v1を算出し、第一複素伝達関数ベクトルh0(t)の全要素を第四複素伝達関数u1
Hh0(t)v1にて除算することで、第二複素伝達関数ベクトルh′を算出する。
【0068】
また、例えば、除算に用いる直接波成分は、複素伝達関数を一定期間観測することでh0(t)を取得し、当該観測時間全体の相関行列を固有値分解し、(式6)および(式7)より固有ベクトルを求め、これにより、(式8)のように第二複素伝達関数ベクトルh′を算出してもよい。
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
(式6)および(式7)に示されるように、第二複素伝達関数算出部15は、第一複素伝達関数ベクトルh0(t)の相関行列RR、RTを算出し、算出した相関行列RR、RTのそれぞれを固有値分解することで、固有値D、Dおよび固有ベクトルU、Vを算出する。次に、第二複素伝達関数算出部15は、(式6)および(式7)で算出された結果を用いて、(式8)で示されるように、固有値D、Dが最大となる対となる固有ベクトルu1、v1を第一複素伝達関数ベクトルh0(t)に乗算して、直接波のチャネル成分である第三複素伝達関数u1
Hh0(t)v1を算出し、第一複素伝達関数ベクトルh0の全要素を第三複素伝達関数u1
Hh0(t)v1にて除算することで、第二複素伝達関数ベクトルh′を算出する。
【0073】
なお、当該直接波成分は、前記観測時間全体の相関行列を固有値分解し、(式6)、(式7)より固有ベクトルを求め、これにより(式9)のように第二複素伝達関数ベクトルh′を算出してもよい。
【0074】
【0075】
なお、送信機12、受信部13、第一複素伝達関数算出部14、第二複素伝達関数算出部15、動体情報算出部16および方向推定処理部17は、推定装置10が備えるメモリに格納されているプログラムを、1以上のプロセッサが実行することにより実現されてもよいし、1以上の専用回路により実現されてもよい。つまり、上記の構成要素は、ソフトウェアで実現されてもよいし、ハードウェアにより実現されてもよい。
【0076】
[推定装置10の動作]
以上のよう構成された推定装置10の推定処理の動作について説明する。
図4は、実施の形態1における推定装置10の推定処理を示すフローチャートである。
【0077】
まず、推定装置10は、測定対象の領域に送信信号を送信し、第1期間、受信信号を観測する(S10)。より具体的には、推定装置10は、1個の送信アンテナ素子から送信され、生体50によって反射された反射信号を含む受信信号を、生体50の活動に由来する周期に相当する第1期間について観測する。
【0078】
次に、推定装置10は、ステップS10において第1期間に観測された複数の受信信号から、1個の送信アンテナ素子とMR個の受信アンテナ素子のそれぞれとの間の伝搬特性を表す第一複素伝達関数を複数算出する(S20)。詳細は上述した通りであるため、ここでの説明は省略する。以下も同様である。
【0079】
次に、推定装置10は、当該第一複素伝達関数を直接波成分にて除算することで、第二複素伝達関数を算出する(S30)。
【0080】
次に、推定装置10は、当該第二複素伝達関数より動体情報を算出する(S40)。
【0081】
そして、推定装置10は、2以上の動体情報を用いて、生体50の存在する方向を推定する(S50)。
【0082】
[効果等]
本実施の形態の推定装置10および推定方法によれば、受信信号から生体を経由しない直接波成分を抽出し、周波数誤差によって生じる位相回転を検出し、チャネル全体から送信部および受信部間のクロック揺らぎ、および、周波数誤差由来の位相回転を除去するため、動体の存在する方向を精度よく推定することが可能となる。このため、推定装置10は、推定装置10に対する動体が存在する方向を精度よく推定することができる。
【0083】
(実施の形態2)
実施の形態1では、受信信号より生体を経由しない直接波を抽出し、周波数誤差によって生じる位相回転を検出し、チャンネル全体から周波数誤差由来の位相回転を除去することで、動体の存在する方向を推定することが可能となる。それにより、無線信号を利用して動体が存在する方向の推定を行う推定装置10等について説明した。実施の形態2では、同様に直接波成分を用いて検出対象である動体(生体)の位置を推定する推定装置20等について説明する。
【0084】
[推定装置20の構成]
図5は、実施の形態2における推定装置20の構成の一例を示すブロック図である。
図1と同様の要素には同一の符号を付しており、詳細な説明は省略する。実施の形態2において、実施の形態1と同じ要素については特に言及が無い限り、同様の動作、バリエーションがあるとし、重複した説明は省略する。
【0085】
図5に示す推定装置20は、送信アンテナ部21Aと、受信アンテナ部21Bと、送信部22と、受信部23と、第一複素伝達関数算出部24と、第二複素伝達関数算出部25と、動体情報算出部26と、位置推定処理部27とを備える。推定装置20は、動体の位置を推定する。
図5に示す推定装置20は、
図1に示す推定装置10と比較して、少なくとも送信アンテナ素子の数が異なり、それにより、動体の位置を推定することができる。
【0086】
[送信部22]
送信部22は、生体50の方向を推定するために用いる高周波の信号を、送信機12内部クロックf
TXを用いて生成する。例えば、
図5に示すように、送信部22は、生成した信号(送信波)を、送信アンテナ部21Aが備えるM
T個の送信アンテナ素子(送信アレーアンテナ)から送信する。
【0087】
[送信アンテナ部21A]
送信アンテナ部21Aは、M個(Mは2以上の自然数)の送信アンテナ素子を有する。本実施の形態では、送信アンテナ部21Aは、MT個の送信アンテナ素子を備える。上述したように、MT個の送信アンテナ素子は、送信部22が生成した信号(送信波)を送信する。
【0088】
[受信アンテナ部21B]
受信アンテナ部21Bは、N個(Nは2以上の自然数)の受信アンテナ素子(受信アレーアンテナ)を有する。本実施の形態では、実施の形態1と同様に、受信アンテナ部21Bは、M
R個の受信アンテナ素子(受信アレーアンテナ)を備える。そして、例えば
図5に示すように、M
R個の受信アンテナ素子のそれぞれは、当該M
T個の送信アンテナ素子(送信アレーアンテナ)から送信された信号は、生体50によって反射された信号(受信信号)を受信する。
【0089】
[受信部23]
受信部23は、N個の受信アンテナ素子のそれぞれにより受信された受信信号であって、M個の送信アンテナ素子のそれぞれから送信され、動体によって反射された反射信号を含む受信信号を、当該動体の活動に由来する周期に相当する第1期間について観測する。ここで、動体は、
図5に示すような生体50である。動体の活動に由来する周期に相当する。また、動体の活動に由来する周期は、生体50の呼吸、心拍、体動の少なくとも一つを含む生体由来の周期(生体変動周期)である。
【0090】
本実施の形態では、受信部23は、MR個の受信機からなる。MR個の受信機のそれぞれは、対応する受信アンテナ素子で受信された高周波の信号を、信号処理が可能な低周波の信号に変換する。受信部23は、少なくとも第1期間、MR個の受信機のそれぞれが変換した低周波の信号を、第一複素伝達関数算出部24に伝達する。
【0091】
[第一複素伝達関数算出部24]
第一複素伝達関数算出部24は、第1期間に観測された複数の受信信号ら、M個の送信アンテナ素子とN個の受信アンテナ素子のそれぞれとの間の伝搬特性を表す複素伝達関数を複数算出する。
【0092】
本実施の形態では、第一複素伝達関数算出部24は、受信部23から伝達された低周波の信号から、M
T個の送信アンテナ素子とM
R個の受信アンテナ素子との間の伝搬特性を表す複素伝達関数を算出する。以下、
図5を用いてより具体的に説明する。
【0093】
図5において、送信アレーアンテナおよび受信アレーアンテナは共に素子間隔dのリニアアレーとし、送信アレーアンテナおよび受信アレーアンテナそれぞれの正面から見た生体50の方向をθ
T,θ
Rとしている。生体50と送受信アレーアンテナの距離は、アレーアンテナの開口幅と比べて十分に大きいものと仮定し、送信アレーアンテナから出発および受信アレーアンテナに到来する生体経由の信号は平面波と見なせるものとする。
【0094】
図5に示すように、送信アンテナ部21AのM
T個の送信アンテナ素子(送信アレーアンテナ)から角度θ
Tで送信される送信波は、生体50によって反射され、受信アレーアンテナに角度θ
Rで到達する。
【0095】
この場合、第一複素伝達関数算出部24は、受信アレーアンテナを使って観測された複素受信信号ベクトルから第一複素伝達関数ベクトルを算出することができる。第一複素伝達関数ベクトルは行列形式となるが実施の形態1と同様に算出できる。なお、算出した第一複素伝達関数行列には、上述したように、直接波や固定物由来の反射波など、生体50を経由しない反射波が含まれている。
【0096】
[第二複素伝達関数算出部25]
ここで、第一複素伝達関数には、実施例1と同様に送信機および受信機由来の周波数変動成分と、生体由来のドップラシフトとが含まれる。第二複素伝達関数算出部25は、直接波成分としてH0内の任意の要素hklを抽出し、(式10)で示される第一複素伝達関数行列H0を、(式11)に示されるように直接波成分にて除算し第二複素伝達関数行列H′を算出する。
【0097】
【0098】
【0099】
ここで、直接波成分の要素はh11など、第一複素伝達関数行列H0のうちの一つの要素であればのどの要素を用いても良い。また、実施の形態1で説明した直接波成分の他の例を用いてもよい。
【0100】
このように、第二複素伝達関数算出部25は、第一複素伝達関数行列H0の1以上の要素を用いて所定の演算を行うことにより、第一複素伝達関数行列H0から、(1)送信アンテナ部21Aから送信する送信信号を生成する送信部22と受信部23との間のクロック揺らぎ、および、(2)送信信号のデジタル-アナログ変換または受信信号のアナログ-デジタル変換のタイミング揺らぎ、の少なくとも一方に対応する成分が抑制された第二複素伝達関数行列H′を算出する。
【0101】
[動体情報算出部26]
動体情報算出部26は、算出された複数の第二複素伝達関数行列H′を、複数の受信信号が観測された順である時系列に逐次記録する。そして、動体情報算出部26は、当該複数の第二複素伝達関数行列H′のうち所定間隔の2つの時点における2つの複素伝達関数の差分を示す動体情報であってM×N次元の行列により表現される動体情報を2以上算出する。ここで、2以上の動体情報それぞれにおける所定間隔の2つの時点のうちの始点は、異なる時刻である。また、所定間隔は生体50由来の周期(生体変動周期)の略半分であってもよい。
【0102】
このように、動体情報算出部26は、算出された複数の第二複素伝達関数行列H′における所定周波数範囲に対応する動体情報を抽出することで、動体に関する成分に対応する動体情報を抽出する。例えば、動体情報算出部26は、動体情報として、生体の呼吸、心拍および体動の少なくともいずれかを含むバイタル活動の影響を受けた成分に対応する動体情報を抽出する。
【0103】
なお、ここでは動体情報を2つの複素伝達関数の差分より求めたが、周波数応答により生体由来の成分を抽出可能なことはいうまでもない。
【0104】
本実施の形態では、送信アンテナ素子と受信アンテナ素子の数は共に複数ある。そのため、送信アンテナ部21A、受信アンテナ部21Bに対応する第二複素伝達関数の差分値(動体情報)の数は送信アンテナ素子×受信アンテナ素子数(MR×MT)となり、これらをまとめて複素差分チャネル行列H(l,m)と定義する。第二複素伝達関数算出部25は、差分情報として、(式11)のように表せる複素差分チャネル行列H(l,m)を算出する。この複素差分チャネル行列H(l,m)には、差分演算によって生体50を経由しない全ての反射波が消去されるため、生体50由来の反射波のみが含まれる。
【0105】
【0106】
ここで、(式13)の関係がなりたつ。
【0107】
【0108】
また、l、mは、測定番号を表す正の整数であり、サンプル時間である。
【0109】
[位置推定処理部27]
位置推定処理部27は、第二複素伝達関数行列H′より抽出した当該動体情報を用いて、所定の到来方向推定手法により、動体の存在する位置を推定する。より具体的には、所定の到来方向推定手法は、特許文献1に記載の位置推定部のようなMUSIC(MUltipleSIgnal Classification)アルゴリズムに基づく推定手法であってもよいし、ビームフォーマ法またはCapon法に基づく推定手法であってもよい。
【0110】
なお、送信部22、受信部23、第一複素伝達関数算出部24、第二複素伝達関数算出部25、動体情報算出部26および位置推定処理部27は、推定装置20が備えるメモリに格納されているプログラムを、1以上のプロセッサが実行することにより実現されてもよいし、1以上の専用回路により実現されてもよい。つまり、上記の構成要素は、ソフトウェアで実現されてもよいし、ハードウェアにより実現されてもよい。
【0111】
[推定装置20の動作]
以上のよう構成された推定装置20の推定処理の動作について説明する。
図6は、実施の形態2における推定装置20の推定処理を示すフローチャートである。
【0112】
まず、推定装置20は、測定対象の領域に送信信号を送信し、第1期間、受信信号を観測する(S10A)。より具体的には、推定装置20は、MT個の送信アンテナ素子から送信され、生体50によって反射された反射信号を含む受信信号を、生体50の活動に由来する周期に相当する第1期間について観測する。
【0113】
次に、推定装置20は、ステップS10Aにおいて第1期間に観測された複数の受信信号から、MT個の送信アンテナ素子とMR個の受信アンテナ素子のそれぞれとの間の伝搬特性を表す第一複素伝達関数を複数算出する(S20A)。詳細は上述した通りであるため、ここでの説明は省略する。以下も同様である。
【0114】
次に、推定装置20は、当該第一複素伝達関数を直接波成分にて除算することで、第二複素伝達関数を算出する(S30A)。
【0115】
次に、推定装置20は、当該複数の第二複素伝達関数のうち所定間隔の2つの時点における2つの複素伝達関数の差分を示す動体情報を2以上算出する(S40A)。
【0116】
そして、推定装置20は、2以上の動体情報を用いて、生体50の存在する位置を推定する(S50A)。
【0117】
[効果等]
本実施の形態の推定装置20および推定方法によれば、受信信号から生体を経由しない直接波成分を抽出し、周波数誤差によって生じる位相回転を検出し、チャネル全体から送信部および受信部間のクロック揺らぎ、および、前記周波数誤差由来の位相回転を除去するため、動体の存在する位置を精度よく推定することが可能となる。
【0118】
ここで、実施の形態2に係る効果を確かめるために実験による評価を行った。以下に、実験について説明する。
【0119】
(実験)
図7は、実施の形態2に係る推定方法を用いた実験の概念を示す図である。
図8は、実施の形態2に係る推定方法を用いた実験の条件を示す図である。
【0120】
図7に示す送信アレーアンテナ(Tx array)と受信アレーアンテナ(Rx array)との双方は、4素子パッチアレーアンテナを用いた4×4MIMO(Multiple InputMultiple Output)構成である。また、送信側にSP4T(Single-Pole-4-Throw)スイッチ、受信側には4系統の受信機を用いた。そして、本実験では、これらの機器を用いてMIMOチャネルの測定を行った。
【0121】
ここで、
図8に示すように、送受信アンテナのアレー素子間隔を0.5波長、送受信間距離Dを4.0 m、アンテナ高hを人間(Living-Body)の直立時の胸の高さである1.0 mに設定した。送信機からは2.47125GHzの無変調連続波(CW:Continuous Wave)が送信され、チャネル測定時間は33秒とした。チャネル測定時、被験者以外無人とし、被験者はアンテナ側の壁に対して正面を向いた状態とした。
【0122】
図9は、実施の形態2に係る推定方法を用いた実験結果を示す図である。
図9の(a)は送信機と受信機のクロックを同期接続して測定した結果を示し、
図9の(b)は送信機と受信機のクロックを同期接続無しで測定した結果を示し、
図9の(c)は送信機と受信機のクロックを同期接続無し、かつ、実施の形態2の方法を適用して測定した結果を示している。
図9では、被験者が1人の場合の生体位置推定の結果が示されている。実験時の被験者の立ち位置は、被験者1が(X=2.0m,Y=1.0m)であった。
図9では、実際の被験者の位置が印で示され、評価関数の値がドットの疎密のグラデーションで示されている。
図9では、評価関数の値は、大きい方ほどドットが疎となるように表されている。
図9の(c)より送信機と受信機のクロックの同期接続無しの場合でも、実施の形態2に係る推定方法により人の生体位置推定が可能であることが分かる。
【0123】
図10は、実施の形態2に係る推定方法を用いた別の実験結果を示す図である。
図10には、被験者が1人の場合の位置推定誤差の累積確率分布(CDF:Cumulative Distribution Function)が示されている。
図10の実線110は送信機と受信機のクロックを同期接続して測定した結果を示し、点線111は送信機と受信機のクロックを同期接続無し、かつ、実施の形態2の方法で測定した結果を示し、破線112は送信機と受信機のクロックを同期接続無しの従来の手法で測定した結果を示す。
【0124】
図10より、測位誤差1mのCDF値は、実線110で示される同期した場合の結果では90%であり、点線111で示される実施の形態2による結果では75%であり、破線112で示される同期接続無しの従来の手法による結果では10%である。したがって、実施の形態2に係る推定方法の方が、従来の手法よりも、送信機と受信機のクロック同期接続を無しにした時に精度よく推定できていることが分かる。これにより、本実施の形態によって送信機と受信機のクロック同期接続無しであっても高い精度で生体位置を推定できることが示された。
【0125】
以上のように、本開示によれば、受信信号から生体を経由しない直接波成分を抽出し、周波数誤差によって生じる位相回転を検出し、チャネル全体から送信部および受信部間のクロック揺らぎ、および、前記周波数誤差由来の位相回転を除去するため、動体の存在する位置を精度よく推定することが可能となる。
【0126】
以上、本開示の一態様に係る推定装置および推定方法について、実施の形態に基づいて説明したが、本開示は、これらの実施形態に限定されるものではない。本開示の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施形態に施したもの、あるいは異なる実施形態における構成要素を組み合わせて構築される形態も、本開示の範囲内に含まれる。
【0127】
例えば、実施の形態1および2では、生体50の方向推定や位置推定を例として説明したが、推定処理の対象は生体50に限らない。推定処理の対象は、高周波の信号が照射された場合に、その活動または動きによって反射波にドップラ効果を与える種々の動体(機械等)に適用可能である。
【0128】
なお、上記各実施の形態において、各構成要素は、専用のハードウェアで構成されるか、各構成要素に適したソフトウェアプログラムを実行することによって実現されてもよい。各構成要素は、CPUまたはプロセッサなどのプログラム実行部が、ハードディスクまたは半導体メモリなどの記録媒体に記録されたソフトウェアプログラムを読み出して実行することによって実現されてもよい。ここで、上記各実施の形態の画像復号化装置などを実現するソフトウェアは、次のようなプログラムである。
【0129】
すなわち、このプログラムは、コンピュータに、1個の送信アンテナ素子およびN個(Nは2以上の自然数)の受信アンテナ素子を有するアンテナ部を備える推定装置による推定方法であって、測定対象の領域に前記送信アンテナ素子を用いて送信信号を送信し、前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれにより受信された受信信号であって、前記送信アンテナ素子から送信された前記送信信号が動体によって反射された反射信号を含む受信信号を、前記動体の動きの周期に相当する第1期間について観測し、前記第1期間に観測された複数の前記受信信号を用いて、前記送信アンテナ素子と前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれとの間の伝搬特性を表す第一複素伝達関数を複数算出し、前記第一複素伝達関数の1以上の要素を用いて所定の演算を行うことにより、前記第一複素伝達関数から、(1)送信アンテナ部から送信する送信信号を生成する送信部と受信部との間のクロック揺らぎ、および、(2)前記送信信号のデジタル-アナログ変換または前記受信信号のアナログ-デジタル変換のタイミング揺らぎ、の少なくとも一方に対応する成分が抑制された第二複素伝達関数を算出し、算出された複数の前記第二複素伝達関数における所定周波数範囲に対応する動体情報を抽出することで、前記動体に関する成分に対応する前記動体情報を抽出し、所定の到来方向推定手法により、当該動体情報を用いて、前記推定装置を方向の基準として前記動体の存在する方向を推定する推定方法を実行させる。
【0130】
また、このプログラムは、コンピュータに、M個(Mは2以上の自然数)の送信アンテナ素子からなる送信アンテナ部と、N個(Nは2以上の自然数)の受信アンテナ素子からなる受信アンテナ部とを備える推定装置による推定方法であって、測定対象の領域に前記M個の送信アンテナ素子を用いて送信信号を送信し、前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれにより受信された受信信号であって、前記M個の送信アンテナ素子のそれぞれから送信された前記送信信号が動体によって反射された反射信号を含む受信信号を、当該動体の動きの周期に相当する第1期間について観測し、前記第1期間に観測された複数の前記受信信号を用いて、前記M個の送信アンテナ素子のそれぞれと前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれとの間の伝搬特性を表す第一複素伝達関数を複数算出し、前記第一複素伝達関数の1以上の要素を用いて所定の演算を行うことにより、前記第一複素伝達関数から、(1)前記送信アンテナ部から送信する送信信号を生成する送信部と受信部との間のクロック揺らぎ、および、(2)前記送信信号のデジタル-アナログ変換または前記受信信号のアナログ-デジタル変換のタイミング揺らぎ、の少なくとも一方に対応する成分が抑制された第二複素伝達関数を算出し、算出された複数の前記第二複素伝達関数における所定周波数範囲に対応する動体情報を抽出することで、前記動体に関する成分に対応する前記動体情報を抽出し、所定の到来方向推定手法により、当該動体情報を用いて、前記動体の存在する位置を推定する推定方法を実行させる。
【0131】
以上、一つまたは複数の態様に係る推定装置および推定方法について、実施の形態に基づいて説明したが、本開示は、この実施の形態に限定されるものではない。本開示の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施の形態に施したものや、異なる実施の形態における構成要素を組み合わせて構築される形態も、本開示の範囲内に含まれてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本開示は、無線信号を利用した動体の方向や位置を推定する推定装置に利用でき、特に、生体と機械を含む動体の方向や位置を測定する測定器、動体の方向や位置に応じた制御を行う家電機器、動体の侵入を検知する監視装置などに搭載される推定装置等に利用できる。
【符号の説明】
【0133】
10、20 推定装置
11 アンテナ部
11A、21A 送信アンテナ部
11B、21B 受信アンテナ部
12 送信機
13、23 受信部
13-1~13-N 受信機
14、24 第一複素伝達関数算出部
15、25 第二複素伝達関数算出部
16、26 動体情報算出部
17 方向推定処理部
22 送信部
27 位置推定処理部
50 生体