(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-14
(45)【発行日】2023-09-25
(54)【発明の名称】新規細胞及びそれを用いた目的タンパク質の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/63 20060101AFI20230915BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230915BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20230915BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20230915BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230915BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20230915BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20230915BHJP
【FI】
C12N15/63 Z
C12N5/10 ZNA
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12P21/08
C12N15/13
(21)【出願番号】P 2020510465
(86)(22)【出願日】2019-02-27
(86)【国際出願番号】 JP2019007434
(87)【国際公開番号】W WO2019187911
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-01-14
(31)【優先権主張番号】P 2018058953
(32)【優先日】2018-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、[次世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業]「国際基準に適合した次世代抗体医薬等の製造技術のうち高生産宿主構築の効率化基盤技術の開発に係るもの」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 洋一郎
(72)【発明者】
【氏名】石井 純
(72)【発明者】
【氏名】中村 泰之
(72)【発明者】
【氏名】近藤 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】西 輝之
【審査官】馬場 亮人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/170468(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/137579(WO,A1)
【文献】Database GenBank [online], Accession No. CCA37552,<http://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/328351152?sat=2&satkey=46463764>05-Oct-2016 updated,[retrieved on 21-May-2019]KUBERL A et al., Protein kinase [Komagataella phaffii CBS 7435]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/63
C12N 5/10
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12P 21/08
C12N 15/13
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的タンパク質をコードする塩基配列を含むベクターを含み、かつ前記目的タンパク質の生産性を向上させる活性を有する以下の(a)~(f)のいずれかの塩基配列を含む遺伝子が活性化された細胞:
(a)配列番号1に示す塩基配列、
(b)配列番号1に示す塩基配列に対して相補的な塩基配列からなる核酸にストリンジェントな条件でハイブリダイズする核酸の塩基配列であって、前記ストリンジェントな条件が65℃で1倍濃度のSSC溶液で洗浄することを含む、塩基配列、
(c)配列番号1に示す塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列、
(d)配列番号2に示すアミノ酸配列をコードする塩基配列、
(e)配列番号2に示すアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列、
(f)配列番号2に示すアミノ酸配列において、1~50個のアミノ酸が置換、欠失、及び/又は付加したアミノ酸配列をコードする塩基配列であって、
前記遺伝子を活性化させる処理を施していない親株の細胞と比較して、前記遺伝子の転写産物であるmRNA又は翻訳産物であるポリペプチドの発現量が上昇しており、
前記(a)~(f)のいずれかの塩基配列を含むベクターを含み、
前記目的タンパク質をコードする塩基配列が、前記(a)~(f)の塩基配列ではない、前記細胞。
【請求項2】
酵母細胞、細菌細胞、真菌細胞、昆虫細胞、動物細胞又は植物細胞である、請求項
1に記載の細胞。
【請求項3】
酵母細胞が、メタノール資化性酵母細胞、分裂酵母細胞、又は出芽酵母細胞である、請求項
2に記載の細胞。
【請求項4】
メタノール資化性酵母細胞がコマガタエラ属酵母細胞又はオガタエア属酵母細胞である、請求項
3に記載の細胞。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の細胞を培養する培養工程、及び培養工程で得られた培養物から目的タンパク質を回収する回収工程を含む、目的タンパク質の製造方法。
【請求項6】
目的タンパク質が抗体である、請求項
5に記載の製造方法。
【請求項7】
目的タンパク質をコードする塩基配列を含み、かつ前記目的タンパク質の生産性を向上させる活性を有する以下の(a)~(f)のいずれかの塩基配列を含むベクター:
(a)配列番号1に示す塩基配列、
(b)配列番号1に示す塩基配列に対して相補的な塩基配列からなる核酸にストリンジェントな条件でハイブリダイズする核酸の塩基配列であって、前記ストリンジェントな条件が65℃で1倍濃度のSSC溶液で洗浄することを含む、塩基配列、
(c)配列番号1に示す塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列、
(d)配列番号2に示すアミノ酸配列をコードする塩基配列、
(e)配列番号2に示すアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列、
(f)配列番号2に示すアミノ酸配列において、1~50個のアミノ酸が置換、欠失、及び/又は付加したアミノ酸配列をコードする塩基配列
であって、
前記目的タンパク質をコードする塩基配列が、前記(a)~(f)の塩基配列ではない、
ベクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の遺伝子を活性化することにより目的タンパク質の生産性が向上した新規細胞、遺伝子を活性化するためのベクター、該新規細胞を用いた目的タンパク質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療及び診断用途に活用するための抗体、酵素、及びサイトカイン等の産業上有用なバイオマテリアルの製造には、遺伝子組換え法が広く用いられている。遺伝子組換え法によって目的タンパク質を製造するための宿主としては、ニワトリ等の動物、CHO等の動物細胞、カイコ等の昆虫、sf9等の昆虫細胞、並びに酵母細胞、大腸菌細胞等の微生物が用いられている。宿主の中でも酵母細胞は、安価な培地で大規模かつ高密度での培養が可能であるため、目的タンパク質を低コストで製造することができること、シグナルペプチド等を利用すれば培養液中への分泌発現も可能なため目的タンパク質の精製過程も容易となること、及び真核生物であるため糖鎖付加等の翻訳後修飾も可能であることから非常に有益であり、様々な研究が行われている。酵母細胞において種々の目的タンパク質に対応できる革新的な製造技術を開発することができれば、幅広い産業展開が期待できる。
【0003】
酵母の一種であるコマガタエラ・パストリス(Komagataella pastoris)はタンパク質発現能力に優れ、工業生産上有利である安価な炭素源を活用できるメタノール資化性酵母である。例えば、非特許文献1には、コマガタエラ・パストリスを用いて、フィターゼ、トリプシン、硝酸レダクターゼ、ホスホリパーゼC、コラーゲン、プロテイナーゼK、Ecallantide(Kalbitor)、Ocriplasmin(Jetrea)、ヒトインシュリン、一本鎖抗体、及びヒト血清アルブミン等の外来タンパク質を生産する方法が報告されている。酵母細胞において外来タンパク質を生産する場合、その生産性の向上のために、シグナル配列の付加、強力なプロモーターの利用、コドン改変、シャペロン遺伝子の共発現、転写因子遺伝子の共発現、宿主酵母由来のプロテアーゼ遺伝子の不活性化、及び培養条件の検討等様々な試みがなされている。例えば、特許文献1には、コマガタエラ・パストリスを用いて、メタノール誘導性プロモーターを活性化させる転写因子を発現させることによる生産性向上が報告されている。また、特許文献2には、コマガタエラ・パストリスを用いて、内在性タンパク質及び外来タンパク質の分泌量を向上させる新規タンパク質を発現させることによる生産性向上が報告されている。
【0004】
一方、抗体医薬開発において、高い特異性を保持したまま分子量が比較的小さい低分子抗体、例えば可変領域のみで構成されたディアボディ(Diabody)型、二種の一本鎖 Fv(scFv)を連結したタンデムscFv(taFv)型、単ドメイン型(VHH)等の研究が盛んに行われているが、充分な生産性は得られていない(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2012/102171号
【文献】国際公開第2017/170468号
【非特許文献】
【0006】
【文献】M. Ahmad et al., Appl Microbiol Biotechnol, 98, 5301-5317 (2014)
【文献】Y. Liu et al., Appl Microbiol Biotechnol, 102, 539-551 (2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、目的タンパク質の生産性を向上させる新たな手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、コマガタエラ属酵母の染色体DNAの塩基配列の網羅的解析により、新規タンパク質を同定した。そして、該新規タンパク質をコードする遺伝子を活性化することで、細胞の目的タンパク質の生産性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の態様を包含する。
(1)以下の(a)~(f)のいずれかの塩基配列を含む遺伝子が活性化された細胞:
(a)配列番号1に示す塩基配列、
(b)配列番号1に示す塩基配列に対して相補的な塩基配列からなる核酸にストリンジェントな条件でハイブリダイズする核酸の塩基配列、
(c)配列番号1に示す塩基配列と85%以上の配列同一性を有する塩基配列、
(d)配列番号2に示すアミノ酸配列をコードする塩基配列、
(e)配列番号2に示すアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列、
(f)配列番号2に示すアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、及び/又は付加したアミノ酸は配列をコードする塩基配列。
(2)前記(a)~(f)のいずれかの塩基配列、
前記(a)~(f)のいずれかの塩基配列と相同領域を有する塩基配列、
前記(a)~(f)のいずれかの塩基配列を含む遺伝子のプロモーターと相同領域を有する塩基配列、及び/又は
前記(a)~(f)のいずれかの塩基配列を含む遺伝子のターミネーターと相同領域を有する塩基配列
を含むベクターを含む(1)に記載の細胞。
(3)目的タンパク質をコードする塩基配列を含むベクターを含む、(1)又は(2)に記載の細胞。
(4)酵母細胞、細菌細胞、真菌細胞、昆虫細胞、動物細胞又は植物細胞である、(1)~(3)のいずれかに記載の細胞。
(5)酵母細胞が、メタノール資化性酵母細胞、分裂酵母細胞、又は出芽酵母細胞である、(4)に記載の細胞。
(6)メタノール資化性酵母細胞がコマガタエラ属酵母細胞又はオガタエア属酵母細胞である、(5)に記載の細胞。
(7)(1)~(6)のいずれかに記載の細胞を培養する培養工程、及び培養工程で得られた培養物から目的タンパク質を回収する回収工程を含む、目的タンパク質の製造方法。
(8)目的タンパク質が抗体である、(7)に記載の製造方法。
(9)以下の(a)~(f)のいずれかの塩基配列を含むベクター:
(a)配列番号1に示す塩基配列、
(b)配列番号1に示す塩基配列に対して相補的な塩基配列からなる核酸にストリンジェントな条件でハイブリダイズする核酸の塩基配列、
(c)配列番号1に示す塩基配列と85%以上の配列同一性を有する塩基配列、
(d)配列番号2に示すアミノ酸配列をコードする塩基配列、
(e)配列番号2に示すアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列、
(f)配列番号2に示すアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、及び/又は付加したアミノ酸は配列をコードする塩基配列。
(10)抗体等の目的タンパク質をコードする塩基配列を更に含む、(9)に記載のベクター。
(11)(9)に記載のベクターと、抗体等の目的タンパク質をコードする塩基配列を含むベクターとのキット。
【0010】
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2018-058953号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、目的タンパク質の効率的な生産方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を、好ましい実施形態を用いて詳細に説明する。
一態様において、本発明は、以下の(a)~(f)のいずれかの塩基配列を含む遺伝子が活性化された細胞:
(a)配列番号1に示す塩基配列、
(b)配列番号1に示す塩基配列に対して相補的な塩基配列からなる核酸にストリンジェントな条件でハイブリダイズする核酸の塩基配列、
(c)配列番号1に示す塩基配列と85%以上の配列同一性を有する塩基配列、
(d)配列番号2に示すアミノ酸配列をコードする塩基配列、
(e)配列番号2に示すアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列、
(f)配列番号2に示すアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、及び/又は付加したアミノ酸は配列をコードする塩基配列、
に関する。
【0013】
前記(b)において、2つの核酸がストリンジェントな条件下でハイブリダイズするとは、例えば以下の意味である。例えば、核酸Xを固定化したフィルターを用いて、0.7~1.0MのNaCl存在下、65℃で配列同一性が85%以上の核酸Yとハイブリダイゼーションを行った後、2倍濃度のSSC溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウムよりなる)を用い、65℃の条件下でフィルターを洗浄することにより、核酸Yがフィルター上に結合した核酸として取得できる場合に、核酸Yを「核酸Xとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸」と言うことができる。或いは核酸Xと核酸Yとが「ストリンジェントな条件下で相互にハイブリダイズする」ということができる。SSC溶液の濃度を下げるほど、高い配列同一性を有する核酸がハイブリダイズすることが期待できることから、核酸Yは好ましくは65℃で1倍濃度のSSC溶液で洗浄、より好ましくは65℃で0.5倍濃度のSSC溶液で洗浄、より好ましくは65℃で0.2倍濃度のSSC溶液で洗浄、更に好ましくは65℃で0.1倍濃度のSSC溶液で前記フィルターを洗浄することによりフィルター上に結合した核酸として取得できる核酸である。また、温度を上げるほど高い配列同一性を有する核酸がハイブリダイズすることが期待できることから、核酸Yは好ましくは70℃で2倍濃度のSSC溶液で洗浄、より好ましくは75℃で2倍濃度のSSC溶液で洗浄、より好ましくは80℃で2倍濃度のSSC溶液で洗浄、更に好ましくは85℃で2倍濃度のSSC溶液で前記フィルターを洗浄することによりフィルター上に結合した核酸として取得できる核酸である。基準となる核酸Xは、コロニー又はプラーク由来の核酸Xであってよい。前記(b)の塩基配列の塩基数は、好ましくは、配列番号1に示す塩基配列の塩基数の例えば80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは96%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上、より好ましくは100%である。
【0014】
本発明において塩基配列やアミノ酸配列の配列同一性は、当業者に周知の方法、配列解析ソフトウェア等を使用して求めることができる。例えば、BLASTアルゴリズムのblastnプログラムやblastpプログラム、FASTAアルゴリズムのfastaプログラムが挙げられる。本発明において、ある評価対象アミノ酸配列の、アミノ酸配列Xとの「配列同一性」とは、アミノ酸配列Xと評価対象アミノ酸配列とを整列(アラインメント)させ、必要に応じてギャップを導入して、両者のアミノ酸一致度が最も高くなるようにしたときの、ギャップ部分も含んだアミノ酸配列において同一部位に同一のアミノ酸が出現する頻度を%で表示した値である。
【0015】
前記(c)の塩基配列の、配列番号1に示す塩基配列との配列同一性は、85%以上であり、90%以上が好ましく、95%以上がより好ましく、96%以上がさらにより好ましく、97%以上が特に好ましく、98%以上、又は99%以上が最も好ましい。
【0016】
前記(e)の塩基配列によりコードされるアミノ酸配列の、配列番号2に示すアミノ酸配列との配列同一性は、85%以上であり、90%以上が好ましく、95%以上がより好ましく、96%以上がさらにより好ましく、97%以上が特に好ましく、98%以上、又は99%以上が最も好ましい。
【0017】
前記(f)において、「1もしくは複数個」は、例えば1~80個、好ましくは1~70個、好ましくは1~60個、好ましくは1~50個、好ましくは1~40個、好ましくは1~30個、好ましくは1~20個、好ましくは1~15個、好ましくは1~10個、好ましくは1~5個、好ましくは1~4個、好ましくは1~3個、好ましくは1~2個、好ましくは1個である。
【0018】
本発明において「核酸」とは「ポリヌクレオチド」と呼ぶこともでき、DNA又はRNAを指し、好ましくはDNAである。DNAは一本鎖DNAであってもよいし、二本鎖DNAであってもよい。
【0019】
本明細書において「遺伝子」とは、宿主細胞が有する核酸のうちDNAのみならずそのmRNA及びcDNAも包含するが、典型的にはDNAであることができ、特にゲノムDNAであることができる。「遺伝子」は、機能領域の別を問うものではなく、例えば、エキソンのみ含むのであってもよいし、エキソン及びイントロンを含むものであってもよい。「遺伝子」がRNAである実施形態では、前記(a)~(f)の塩基配列における任意の1以上の又は全てのチミン(T)はウラシル(U)と読み替えることができる。
【0020】
前記(a)~(f)の塩基配列が、それぞれ、複数のエキソンが接続されて形成された塩基配列(例えばcDNA塩基配列)である場合には、前記(a)~(f)の塩基配列を含む遺伝子は、それぞれ、前記塩基配列に1以上のイントロンの塩基配列が更に挿入及び/又は付加された塩基配列を含むDNA又はRNAであってもよい。
【0021】
前記(b)、(c)、(e)、(f)の塩基配列は、配列番号2に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等の活性を有するポリペプチドをコードするものであることが好ましい。同等の活性とは、配列番号2に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドの活性と比較し、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは100%以上の活性を指し、より好ましくは200%以下、より好ましくは150%以下、より好ましくは120%以下の活性を指す。ここで、配列番号2に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドの活性とは、細胞での目的タンパク質の生産性を向上させる活性を指す。前記(b)、(c)、(e)、(f)の塩基配列がコードするポリペプチドは、配列番号2に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドと同様に、細胞での目的タンパク質の生産性を向上させる活性を有する。具体的には、前記(b)、(c)、(e)又は(f)の塩基配列を含む遺伝子が活性化された細胞による目的タンパク質の生産量が、前記(a)又は(d)の塩基配列を含む遺伝子が活性化された細胞による目的タンパク質の生産量と同等であることができ、例えば、前者が後者と比較し、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは100%以上の活性を指し、より好ましくは200%以下、より好ましくは150%以下、より好ましくは120%以下であることがきできる。
【0022】
本発明において、「アミノ酸配列をコードする塩基配列」とは、アミノ酸配列からなるポリペプチドに対してコドン表に基づいて設計された塩基配列を指し、該塩基配列は、転写及び翻訳によってポリペプチドの生成をもたらす。
【0023】
本発明において、「ポリペプチド」とは、2個以上のアミノ酸がペプチド結合したものを指し、タンパク質の他、ペプチドやオリゴペプチドと呼ばれる鎖長の短いものが含まれる。
【0024】
本発明において「活性化」とは、遺伝子の機能が得られている状態、または機能が増大している状態を指し、好ましくは当該遺伝子の機能が増大している状態を指し、当該遺伝子の転写産物であるmRNAや翻訳産物であるポリペプチドの発現量が上昇している状態やmRNAやタンパク質として正常に機能している状態も包含し、好ましくは、当該遺伝子の転写産物であるmRNAや翻訳産物であるポリペプチドの発現量が上昇している状態である。ここで「当該遺伝子の機能が増大している状態」、「当該遺伝子の転写産物であるmRNAや翻訳産物であるポリペプチドの発現量が上昇している状態」とは、上記(a)~(f)のいずれかの塩基配列を含む遺伝子を活性化させるような処理を施していない細胞(親株)と比較して、本発明の細胞が「当該遺伝子の機能が増大している状態」、「当該遺伝子の転写産物であるmRNAや翻訳産物であるポリペプチドの発現量が上昇している状態」であることを指す。なお、mRNAの発現量はリアルタイムPCR法、RNA-Seq法、ノーザンハイブリダイゼーション又はDNAアレイを利用したハイブリダイゼーション法等を用いて定量することができ、ポリペプチドの発現量は、ポリペプチドを認識する抗体やポリペプチドと結合性を有する染色化合物等を用いて定量することができる。また、上記に挙げた定量方法以外にも、当業者で用いられている従来法であってもよい。
【0025】
遺伝子を活性化させる手段としては、当該遺伝子に対応する塩基配列を含むベクターによる形質転換、薬剤や紫外線を用いたDNA変異処理、PCRを用いた部分特異的変異導入、RNAi、プロテアーゼ、相同組み換え等を利用することができる。遺伝子を活性化させる場合は、当該遺伝子のORF内の塩基配列の改変(欠失、置換、付加、挿入)、プロモーター領域、エンハンサー領域、ターミネーター領域などの転写開始または停止を制御する領域内の塩基配列の改変(欠失、置換、付加、挿入)、当該遺伝子に対応する塩基配列を含むベクターによる形質転換、及び/又は、当該遺伝子と相同領域を有する塩基配列を含有するベクターによる形質転換等により行う。なお、前記欠失、置換、付加、挿入を行う部位や、欠失、置換、付加、挿入される塩基配列は、当該遺伝子の正常な機能が得られる限り、特に限定されない。活性化させる遺伝子は、細胞の染色体上の遺伝子であってもよく、細胞の染色体外の遺伝子であってもよい。
【0026】
本発明における「塩基配列の改変」とは、相同組換えを利用した遺伝子の挿入や部位特異的変異導入の手法を使用して実施することができる。例えば、遺伝子のプロモーターのより活性の高いプロモーターへの置換や、遺伝子のターミネーターのより活性の高いターミネーターへの置換、細胞に適しているコドンへの改変等が挙げられる。ここで、「プロモーター」とは、例えば、細胞の染色体ゲノムDNAにおいて、活性化させたい遺伝子よりも上流側に位置する塩基配列を指し、該遺伝子産物の発現量を調整する塩基配列であり、(a)~(f)のいずれかの塩基配列を含む遺伝子の開始コドンより上流の5000bpまでの塩基配列を指す。「ターミネーター」とは、例えば、細胞の染色体ゲノムDNAにおいて、活性化させたい遺伝子よりも下流側に位置する塩基配列を指し、該遺伝子産物の発現量を調整する塩基配列であり、具体的には、(a)~(f)のいずれかの塩基配列を含む遺伝子の終始コドンより下流の5000bpまでの塩基配列を指し、例えば、後述する(a1)~(c1)のいずれかの塩基配列であって、ターミネーターとしての機能を有する塩基配列が例示できる。
【0027】
本発明における活性化による上記(a)~(f)のいずれかの塩基配列を含む遺伝子の発現量上昇の度合は、目的タンパク質の生産性が向上すれば特に限定されないが、上記(a)~(f)のいずれかの塩基配列を含む遺伝子を活性化させるような処理を施していない細胞と比較して、5%以上、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上上昇していることが好ましい。なお、発現量が上昇していなくとも、上述のとおり、遺伝子産物の正常な機能が得られる限り、活性化することができることは、当業者であれば周知であるから、発現量の上昇の度合は、あくまで活性化の判断基準の1つにすぎない。
【0028】
「配列番号1に示す塩基配列を含む遺伝子」は、コマガタエラ・パストリスの4本の染色体DNAの塩基配列(ATCC76273株:ACCESSION No. FR839628~FR839631(J. Biotechnol. 154 (4), 312-320 (2011)、及びGS115株:ACCESSION No. FN392319~FN392322(Nat. Biotechnol. 27 (6), 561-566 (2009)))の網羅的解析により見出された。具体的には、本発明者は、活性化によって目的タンパク質の生産性を向上させるポリペプチド、及びそのアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを探索した。その結果、ATCC76273株において配列番号2で示されるアミノ酸配列(ACCESSION No. CCA37552)で示されるポリペプチド、及び該ポリペプチドをコードする配列番号1で示される塩基配列を含むポリヌクレオチドを見出した。後述する実施例において、本発明者らは上記の塩基配列からなる遺伝子を活性化させるベクターを宿主細胞に導入し、目的タンパク質の生産性が向上することを確認している。
【0029】
本明細書において、細胞からの目的タンパク質の生産量の増加は、上記(a)~(f)のいずれかの塩基配列を含む遺伝子を活性化させるような処理を施していない細胞における目的タンパク質の生産量に対して、例えば1.01倍、1.02倍、1.03倍、1.04倍、1.05倍、1.1倍、1.2倍、1.3倍、1.4倍、1.5倍、1.6倍、1.7倍、1.8倍、1.9倍、2倍、2.5倍、3倍、3.5倍、4倍、4.5倍、又は5倍以上、また100倍、90倍、80倍、70倍、60倍、50倍、40倍、30倍、20倍、10倍、9倍、8倍、7倍、6倍、又は5倍以下であればよい。目的タンパク質を分泌生産する場合、分泌生産量は、細胞の培養上清等を用いて、当業者に公知の方法、例えばBradford法、Lowry法、BCA法、及びELISA法等により容易に決定することができる。
【0030】
本発明において、所定のベクターを含む細胞とは、所定のベクターにより形質転換して得られた細胞又はその後代細胞を指す。
【0031】
本発明に係る、(a)~(f)のいずれかの塩基配列を含む遺伝子が活性化された細胞は、典型的には、
(I)前記(a)~(f)のいずれかの塩基配列、
(II)前記(a)~(f)のいずれかの塩基配列と相同領域を有する塩基配列、
(III)前記(a)~(f)のいずれかの塩基配列を含む遺伝子のプロモーターと相同領域を有する塩基配列、及び/又は
(IV)前記(a)~(f)のいずれかの塩基配列を含む遺伝子のターミネーターと相同領域を有する塩基配列
を含むベクターを含む細胞であり、特に好ましくは、前記(I)を含むベクターを含む細胞である。
【0032】
前記(I)~(IV)の塩基配列を1つ以上含むベクターで細胞を形質転換することで、前記(a)~(f)のいずれかの塩基配列を含む遺伝子を活性化させることができる。また、これらの塩基配列を複数含むベクターとしては、複数の塩基配列を1つのベクターに組み込んだベクターを用いても良いし、1つの塩基配列を組み込んだベクターを複数用いてもよい。
【0033】
本発明の「相同領域を有する塩基配列」とは、対象とする塩基配列の少なくとも一部の塩基配列を有し、50%以上の配列同一性を有する塩基配列であればよく、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは85%以上、よりさらに好ましくは90%以上、より特に好ましくは95%以上、最も好ましくは100%である。また、該相同領域を有する塩基配列の長さは、目的とする塩基配列と相同領域を有する20bp以上の塩基配列であれば、相同組み換えすることができるため特に限定されないが、具体的には、¥対象とする塩基配列の長さの0.1%以上が好ましく、0.5%以上、1%以上、1.5%以上、2%以上、2.5%以上、3%以上、3.5%以上、4%以上、4.5%以上、5%以上、5.5%以上、6%以上、6.5%以上、7%以上、7.5%以上、8%以上、8.5%以上、9%以上、9.5%以上、10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、100%が好ましい。
【0034】
前記(I)~(IV)の塩基配列を1つ以上含むベクターは、前記(a)~(f)のいずれかの塩基配列を含む遺伝子又はそれを含む発現カセットの宿主細胞でのコピー数を、親株と比較して増加させるベクターとして用いることができる。
【0035】
後述する実施例では、配列番号1に示す塩基配列からなる遺伝子とターミネーターが連結された塩基配列(配列番号8)を、コマガタエラ・パストリスATCC76273株の染色体DNA混合物をテンプレートとしプライマー11及び12を用いたPCRでのPCR産物として調製し、該PCR産物をベクターのGAPプロモーター下流に挿入し、新しく構築したベクターをコマガタエラ属酵母に形質転換することで、配列番号1に示す塩基配列を含む遺伝子を活性化することに成功している。
【0036】
本発明のベクターは環状ベクター、直鎖状ベクター、プラスミド、人工染色体等であることができる。
【0037】
本発明において「ベクター」とは人為的に構築された核酸分子である。本発明のベクターを構成する核酸分子は、通常DNA、好ましくは二本鎖DNAであり、環状であっても、直鎖状であってもよい。本発明で用いるベクターは、前記(I)~(IV)のいずれか1以上の塩基配列に加えて、通常は、1つ以上の制限酵素認識部位を含むクローニングサイト、Clontech社のIn-FusionクローニングシステムやNew England Biolabs社のGibson Assemblyシステム等を利用するためのオーバーラップ領域、内在性遺伝子の塩基配列、目的タンパク質のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列、選択マーカー遺伝子(栄養要求性相補遺伝子、薬剤耐性遺伝子など)の塩基配列等を含むことができる。本発明のベクターの範囲には、上記のクローニングサイト、オーバーラップ領域、外来遺伝子又は内在性遺伝子の塩基配列、選択マーカー遺伝子の塩基配列等が既に付加されている形態だけでなく、これらの配列を付加可能な形態(例えば、これらの配列を付加可能な1つ以上の制限酵素認識部位を含むクローニングサイトを含む形態)の核酸分子も包含される。本発明のベクターは、通常は、前記(I)~(IV)のいずれか1以上の塩基配列を含む核酸断片が、その両端又は一端に、例えば制限酵素認識部位を介して、1又は複数の、上記で挙げたような他の機能的核酸断片と連結されて構成される。
【0038】
直鎖状ベクターの例としては、URA3遺伝子、LEU2遺伝子、ADE1遺伝子、HIS4遺伝子、ARG4遺伝子等の栄養要求性相補遺伝子やG418耐性遺伝子、Zeocin(商標)耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、Clone NAT耐性遺伝子、ブラストサイジンS耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子の塩基配列を有するPCR産物、または環状ベクターやプラスミドを適当な制限酵素によって切断し、直鎖状としたものなどが挙げられる。
【0039】
前記(I)~(IV)のいずれか1以上の塩基配列のうちポリペプチドをコードする塩基配列又は後述する目的タンパク質をコードする塩基配列(以下「ポリペプチドコード塩基配列」と総称する)は発現カセットに挿入された形態でベクター中に含めることが好ましい。「発現カセット」とは、前記ポリペプチドコード塩基配列を含み、それをポリペプチドとして発現可能な状態にすることのできる発現システムをいう。「発現可能な状態」とは、当該発現カセットに含まれる前記ポリペプチドコード塩基配列が、形質転換体内で発現可能なように、遺伝子発現に必要なエレメントの制御下に配置されている状態をいう。遺伝子発現に必要なエレメントには、プロモーター、ターミネーター等が挙げられる。
【0040】
ここで、「プロモーター」とは、前記ポリペプチドコード塩基配列の上流に位置する塩基配列領域をいい、RNAポリメラーゼのほか、転写の促進や抑制に関わる様々な転写調節因子が該領域に結合又は作用することによって鋳型である前記ポリペプチドコード塩基配列を読み取って相補的なRNAを合成(転写)する。
【0041】
ポリペプチドを発現させるプロモーターは、選択した炭素源にて発現が起こりうるプロモーターを適切に使用すればよく、特に限定されない。
【0042】
炭素源がメタノールの場合、ポリペプチドを発現させるプロモーターは、AOX1プロモーター、AOX2プロモーター、CATプロモーター、DHASプロモーター、FDHプロモーター、FMDプロモーター、GAPプロモーター、MOXプロモーター等が挙げられるが、特にこれらに限定されない。
【0043】
炭素源がグルコースやグリセロールの場合、ポリペプチドを発現させるプロモーターは、GAPプロモーター、TEFプロモーター、LEU2プロモーター、URA3プロモーター、ADEプロモーター、ADH1プロモーター、PGK1プロモーター等が挙げられるが、特にこれらに限定されない。
【0044】
前記(a)~(f)のいずれかの塩基配列を含むベクターは、更に、前記(a)~(f)のいずれかの塩基配列の下流側に連結された、ターミネーターとしての機能を有する塩基配列を含むことができる。
【0045】
ターミネーターとしての機能を有する塩基配列としては、例えば、以下の(a1)~(c1)のいずれかの塩基配列が例示できる:
(a1)配列番号8の第1651位~第2148位の塩基配列又はその部分塩基配列、
(b1)配列番号8の第1651位~第2148位の塩基配列又はその部分塩基配列に対して相補的な塩基配列からなる核酸にストリンジェントな条件でハイブリダイズする核酸の塩基配列、
(c1)配列番号8の第1651位~第2148位の塩基配列又はその部分塩基配列と85%以上の配列同一性を有する塩基配列。
【0046】
前記(a1)において部分塩基配列とは、例えば、配列番号8の第1651位~第2148位の塩基配列の塩基数の例えば70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上又は99%以上の塩基数からなる連続した部分塩基配列である。
【0047】
前記(b1)において、2つの核酸がストリンジェントな条件下でハイブリダイズするとは、本発明の前記(b)の塩基配列に関して記載の通りである。前記(b1)の塩基配列の塩基数は、例えば、配列番号8の第1651位~第2148位の塩基配列又はその部分塩基配列の例えば80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上又は100%である。
【0048】
前記(c1)における配列同一性は、85%以上であり、例えば90%以上、95%以上又は96%以上であることができ、具体的には97%以上、98%以上、又は99%以上であることができる。
【0049】
前記(a1)、(b1)、(c1)において、「配列番号8の第1651位~第2148位の塩基配列又はその部分塩基配列」は、「配列番号8の第1651位~第2148位の塩基配列」であることができる。
【0050】
本発明のベクターの作製方法は特に限定されないが、例えば全合成法、PCR法、Clontech社のIn-FusionクローニングシステムやNew England Biolabs社のGibson Assemblyシステム等を使用することができる。
【0051】
「形質転換」とは、ベクターを細胞に導入することを指す。ベクターを細胞へ導入する方法、すなわち形質転換法は公知の方法を適宜用いることができ、例えば宿主として酵母細胞を用いる場合、エレクトロポレーション法、酢酸リチウム法、スフェロプラスト法等が挙げられるが特にこれらに限定されるものではない。
【0052】
本発明において「細胞」とは生物を構成する基本的な単位を指し、当該遺伝子が活性化されていれば特に限定されないが、酵母細胞、細菌細胞、真菌細胞、昆虫細胞、動物細胞又は植物細胞等が挙げられ、酵母細胞が好ましく、酵母細胞としては、メタノール資化性酵母細胞、分裂酵母細胞、又は出芽酵母細胞が好ましく、メタノール資化性酵母細胞がより好ましい。メタノール資化性酵母細胞としてはコマガタエラ属酵母細胞又はオガタエア属酵母細胞が特に好ましい。
【0053】
本発明におけるメタノール資化性酵母細胞とは、唯一の炭素源としてメタノールを利用して培養可能な酵母細胞と定義されるが、本来メタノール資化性酵母細胞であったが、人為的な改変あるいは変異によりメタノール資化性能を喪失した酵母細胞も、本発明におけるメタノール資化性酵母細胞に包含される。
【0054】
メタノール資化性酵母細胞としては、ピキア(Pichia)属、オガタエア(Ogataea)属、コマガタエラ(Komagataella)属等に属する酵母が挙げられる。ピキア(Pichia)属ではピキア・メタノリカ(Pichia methanolica)、オガタエア(Ogataea)属ではオガタエア・アングスタ(Ogataea angusta)、オガタエア・ポリモルファ(Ogataea polymorpha)、オガタエア・パラポリモルファ(Ogataea parapolymorpha)、オガタエア・ミヌータ(Ogataea minuta)、コマガタエラ(Komagataella)属ではコマガタエラ・パストリス(Komagataella pastoris)、コマガタエラ・ファフィ(Komagataella phaffii)等が好ましい例として挙げられる。
【0055】
コマガタエラ属酵母細胞としては、コマガタエラ・パストリス(Komagataella pastoris)、コマガタエラ・ファフィ(Komagataella phaffii)が好ましい。コマガタエラ・パストリス及びコマガタエラ・ファフィはどちらもピキア・パストリス(Pichia pastoris)の別名を有する。
【0056】
具体的に宿主細胞として使用できる菌株として、コマガタエラ・パストリスATCC76273(Y-11430、CBS7435)、コマガタエラ・パストリスX-33等の株が挙げられる。これらの菌株は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションやサーモフィッシャーサイエンティフィック社等から入手することができる。
【0057】
また、本発明においては、これらコマガタエラ属酵母菌株からの誘導株も使用でき、例えばヒスチジン要求性であればコマガタエラ・パストリスGS115株(サーモフィッシャーサイエンティフィック社より入手可能)等が挙げられる。本発明においては、これらの菌株からの誘導株等も使用できる。
【0058】
本発明の他の実施形態は、上記細胞を培養する培養工程、及び培養工程で得られた培養物から目的タンパク質を回収する回収工程を含む、目的タンパク質の製造方法に関する。
【0059】
ここで、「培養工程で得られた培養物」とは、培養上清、培養細胞、培養細胞の破砕物等の、目的タンパク質を含み得る培養物であればよい。よって、目的タンパク質を製造する方法としては、上記に記載の細胞を培養し、その細胞中に目的タンパク質を蓄積させる方法や、培養上清中に目的タンパク質を分泌して蓄積させる方法が挙げられ、好ましくは培養上清中に目的タンパク質を分泌して蓄積させる方法が挙げられる。
【0060】
細胞の培養条件は特に限定されず、細胞に応じて適宜選択すればよい。該培養においては、細胞が資化しうる栄養源を含む培地であれば何でも使用できる。また、培養はバッチ培養や連続培養のいずれでも可能である。
【0061】
本発明において「目的タンパク質」とは、当該遺伝子が活性化された細胞が生産するタンパク質であって、細胞の内在性タンパク質であってもよいし、異種タンパク質であってもよい。目的タンパク質の例として、微生物由来の酵素類、多細胞生物である動物や植物が産生するタンパク質等が挙げられる。例えば、フィターゼ、プロテインA、プロテインG、プロテインL、アミラーゼ、グルコシダーゼ、セルラーゼ、リパーゼ、プロテアーゼ、グルタミナーゼ、ペプチダーゼ、ヌクレアーゼ、オキシダーゼ、ラクターゼ、キシラナーゼ、トリプシン、ペクチナーゼ、イソメラーゼ、フィブロイン、及び蛍光タンパク質等が挙げられるが、これらに限定はされない。特に、ヒト及び/又は動物治療用タンパク質が好ましい。ヒト及び/又は動物治療用タンパク質として、具体的には、B型肝炎ウイルス表面抗原、ヒルジン、抗体、ヒト抗体、部分抗体、ヒト部分抗体、血清アルブミン、ヒト血清アルブミン、上皮成長因子、ヒト上皮成長因子、インシュリン、成長ホルモン、エリスロポエチン、インターフェロン、血液凝固第VIII因子、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、トロンボポエチン、IL-1、IL-6、組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)、ウロキナーゼ、レプチン、及び幹細胞成長因子(SCF)等が挙げられる。特に、抗体が好ましい。
【0062】
本発明において「抗体」とは、それぞれ、免疫グロブリンG(IgG)、免疫グロブリンM(IgM)、免疫グロブリンD(IgD)、免疫グロブリンE(IgE)、免疫グロブリンA(IgA)等のどのクラスに属するものであってもよいが、典型的には、免疫グロブリンGである。
【0063】
免疫グロブリンは、完全長の状態では、2本の重鎖と2本の軽鎖とを含むヘテロテトラマータンパク質である。重鎖及び軽鎖はそれぞれ抗原結合に関与する可変領域と定常領域とから構成される。
【0064】
本発明の細胞は、必要に応じて、目的タンパク質をコードする塩基配列を含むベクターを含む細胞であってもよい。「目的タンパク質をコードする塩基配列を含むベクター」は、前記(I)~(IV)のいずれか1以上の塩基配列に加えて、目的タンパク質をコードする塩基配列を更に含むベクターであってもよいし、前記(I)~(IV)のいずれか1以上の塩基配列を含むベクターとは独立して、目的タンパク質をコードする塩基配列を含むベクターであってもよい。目的タンパク質をコードする塩基配列を含むベクター及び形質転換法の好ましい実施形態は、前記(I)~(IV)のいずれか1以上の塩基配列を含むベクターに関し記載したベクター及び形質転換法と同様である。
【0065】
分泌性でない目的タンパク質を細胞外に分泌させる場合には、ベクターにおいて、該目的タンパク質をコードする塩基配列の5’末端にシグナル配列をコードする塩基配列を導入することが好ましい。シグナル配列をコードする塩基配列は、酵母が分泌発現できるシグナル配列をコードする塩基配列であれば特に限定されないが、サッカロマイセス・セレビシエのMating Factor α(MFα)やオガタエア・アングスタの酸性ホスファターゼ(PHO1)、コマガタエラ・パストリスの酸性ホスファターゼ(PHO1)、サッカロマイセス・セレビシエのインベルターゼ(SUC2)、サッカロマイセス・セレビシエのPLB1、牛血清アルブミン(BSA)、ヒト血清アルブミン(HSA)、及び免疫グロブリンのシグナル配列をコードする塩基配列等が挙げられる。
【実施例】
【0066】
以下、製造例、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0067】
配列表に示すアミノ酸配列及び塩基配列の特徴を次表に纏めた。表の備考欄でFwはフォワードプライマー、Reはリバースプライマーを意味する。
【0068】
【0069】
<製造例1:ベクターの調製に用いた各種遺伝子の調製>
以下の実施例において用いた組換えDNA技術に関する詳細な操作方法等は、次の成書に記載されている:Molecular Cloning 2nd Edition(Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989)、Current Protocols in Molecular Biology(Greene Publishing Associates and Wiley-Interscience)。
【0070】
また、以下の実施例において、酵母の形質転換に用いるプラスミドは、構築したベクターを大腸菌E.coli DH5αコンピテントセル(タカラバイオ社製)に導入し、得られた形質転換体を培養して増幅することによって調製した。プラスミド保持株からのプラスミドの調製は、FastGene Plasmid Mini Kit(日本ジェネティクス社製)を用いて行った。
【0071】
ベクターの構築において利用したGAPプロモーター(配列番号3)、AOX1プロモーター(配列番号4)、AOX1ターミネーター(配列番号5)、CCA38473ターミネーター(配列番号6)、プロモーターで制御されたARG4遺伝子(配列番号7)、ターミネーターが連結された新規タンパク質(配列番号2で示されるアミノ酸配列(ACCESSION No. CCA37552))をコードする遺伝子(配列番号8)はコマガタエラ・パストリスATCC76273株の染色体DNA(塩基配列はEMBL (The European Molecular Biology Laboratory) ACCESSION No. FR839628~FR839631に記載)混合物をテンプレートにしてPCRで調製した。GAPプロモーターはプライマー1(配列番号9)及びプライマー2(配列番号10)、AOX1プロモーターはプライマー3(配列番号11)及びプライマー4(配列番号12)、AOX1ターミネーターはプライマー5(配列番号13)及びプライマー6(配列番号14)、CCA38473ターミネーターはプライマー7(配列番号15)及びプライマー8(配列番号16)、プロモーターで制御されたARG4遺伝子はプライマー9(配列番号17)及びプライマー10(配列番号18)、ターミネーターが連結された新規タンパク質(配列番号2で示されるアミノ酸配列(ACCESSION No. CCA37552))をコードする遺伝子はプライマー11(配列番号19)及びプライマー12(配列番号20)を用いてPCRで調製した。
【0072】
ベクターの構築において利用した分泌シグナルMFα遺伝子(配列番号21)はサッカロマイセス・セレビシエBY4741株の染色体DNA(塩基配列はACCESSION No. BK006934~BK006949に記載) 混合物をテンプレートにしてプライマー13(配列番号22)及びプライマー14(配列番号23)を用いてPCRで調製した。
【0073】
ベクターの構築において利用した、プロモーターで制御されたZeocin(商標)耐性遺伝子(配列番号24)は合成DNAをテンプレートにしてPCRで調製した。ベクターの構築において利用した、プロモーターで制御されたG418耐性遺伝子(配列番号25)は合成DNAをテンプレートにしてPCRで調製した。
【0074】
ベクターの構築において利用した、抗リゾチウム一本鎖抗体遺伝子(配列番号26)は合成DNAをテンプレートにしてPCRで調製した。
【0075】
PCRにはPrime STAR HS DNA Polymerase(タカラバイオ社製)等を用い、反応条件は添付のマニュアルに記載の方法で行った。染色体DNAの調製は、コマガタエラ・パストリスATCC76273株又はサッカロマイセス・セレビシエBY4741株からカネカ 簡易DNA抽出キット version 2(カネカ社製)等を用いて、これに記載の条件で実施した。
【0076】
<製造例2:基本ベクターの構築>
HindIII-NotI-BamHI-BglII-XbaI-EcoRIのマルチクローニングサイトもつ遺伝子断片(配列番号27)を全合成し、これをpUC19(タカラバイオ社製、Code No.3219)のHindIII-EcoRIサイト間に挿入して、pUC-1を調製した。プロモーターで制御されたG418耐性遺伝子(配列番号25)の両端にEcoRI認識配列を付加した核酸断片を、プライマー15(配列番号28)及びプライマー16(配列番号29)を用いたPCRにより調製し、EcoRI処理後にpUC-1のEcoRIサイトに挿入して、pUC_G418を構築した。
【0077】
次に、CCA38473ターミネーター(配列番号6)の核酸断片をプライマー7(配列番号15)及びプライマー8(配列番号16)を用いてPCRで調製し、上記pUC_G418をXbaI処理した核酸断片と混合し、In-fusion HD Cloning Kit(クロンテック社製)を用いて繋ぎ合わせて、pUC_T38473_G418を構築した。
【0078】
次に、AOX1プロモーター(配列番号4)の末端にBamHI認識配列及びSpeI認識配列を付加した核酸断片を、プライマー3(配列番号11)及びプライマー4(配列番号12)を用いてPCRで調製し、分泌シグナルMFα遺伝子(配列番号21)の末端にSpeI認識配列及びBglII認識配列を付加した核酸断片をプライマー13(配列番号22)及びプライマー14(配列番号23)を用いてPCRで調製し、AOX1プロモーター核酸断片はBamHI及びSpeI処理、分泌シグナルMFα遺伝子核酸断片はSpeI及びBglII処理後、pUC_T38473_G418のBamHI-BglIIサイト間に挿入して、pUC_Paox1_MFα_T38473_G418を構築した。
【0079】
次に、AOX1ターミネーター(配列番号5)の末端にMluI認識配列及びBglII認識配列を付加した核酸断片を、プライマー5(配列番号13)及びプライマー6(配列番号14)を用いてPCRで調製し、MluI及びBglII処理後にpUC_Paox1_MFα_T38473_G418のMluI-BglIIサイト間に挿入して、pUC_Paox1_MFα_Taox1_T38473_G418を構築した。
【0080】
<製造例3:抗リゾチウム一本鎖抗体発現ベクターの構築>
抗リゾチウム一本鎖抗体遺伝子を合成DNAをテンプレートにしてプライマー17(配列番号30)及びプライマー18(配列番号31)を用いてPCRで調製した。
この核酸断片は抗リゾチウム一本鎖抗体をコードする塩基配列の上流にオーバーラップ領域として分泌シグナルMFα遺伝子配列の下流末端領域、下流にオーバーラップ領域としてAOX1ターミネーター配列の上流末端領域が付加されている。また、抗リゾチウム抗体をコードする塩基配列とAOX1ターミネーター配列上流末端領域との間には、Hisタグ(配列番号32)をコードする塩基配列が付加されている。
【0081】
製造例2で構築したpUC_Pgap_MFα_Taox1_T38473_G418をXhoI及びMluI処理後に核酸断片を調製し、上記PCRにより調製された抗リゾチウム一本鎖抗体をコードする塩基配列の核酸断片と混合し、In-fusion HD Cloning Kitを用いて繋ぎ合わせて、pUC_Paox1_MFα_scFv_Taox1_T38473_G418を構築した。このベクターは、抗リゾチウム一本鎖抗体がAOX1プロモーター制御下で発現するように設計されている。
【0082】
<実施例1:新規タンパク質発現ベクターの構築>
プロモーターで制御されたZeocin(商標)耐性遺伝子(配列番号24)の両端にEcoRI認識配列を付加した核酸断片を、プライマー19(配列番号33)及びプライマー20(配列番号34)を用いてPCRで調製し、これをpUC19のEcoRIサイト間に挿入して、pUC_Zeoを構築した。
【0083】
次に、プロモーターで制御されたARG4遺伝子(配列番号7)の前半部分及び後半部分の核酸断片を、それぞれ、プライマー9(配列番号17)及びAscI-FseI-PmeI制限酵素部位を含むプライマー21(配列番号35)、AscI-FseI-PmeI制限酵素部位を含むプライマー22(配列番号36)及びプライマー10(配列番号18)を用いたPCRで調製し、HindIII及びPstI処理させたpUC_Zeoと混合し、In-fusion HD Cloning Kitを用いて繋ぎ合わせて、Arg4遺伝子の中央にAscI-FseI-PmeI制限酵素部位(配列番号37)を導入した配列を有するpUC_Arg4_Zeoを構築した。
【0084】
次に、EGFP遺伝子(配列番号38)の両端にSpeI認識配列及びXhoI認識配列を付加した核酸断片を、プライマー23(配列番号39)及び24(配列番号40)を用いたPCRにより調製し、BamHI処理させたpUC_Arg4_Zeoと混合し、In-fusion HD Cloning Kitを用いて繋ぎ合わせて、pUC_Arg4_EGFP_Zeoを構築した。
【0085】
次に、GAPプロモーター(配列番号3)の両端にPstI認識配列及びSpeI認識配列を付加した核酸断片を、プライマー1(配列番号9)及びプライマー2(配列番号10)を用いたPCRで調製し、SpeI処理させたpUC_Arg4_EGFP_Zeoと混合し、In-fusion HD Cloning Kitを用いて繋ぎ合わせて、pUC_Arg4_Pgap_EGFP_Zeoを構築した。
【0086】
次に、AOX1ターミネーター(配列番号5)の両端にXhoI認識配列及びHindIII認識配列を付加した核酸断片を、プライマー25(配列番号41)及びプライマー26(配列番号42)を用いてPCRで調製し、XhoI処理させたpUC_Arg4_Pgap_EGFP_Zeoと混合し、In-fusion HD Cloning Kitを用いて繋ぎ合わせて、pUC_Arg4_Pgap_EGFP_Taox1_Zeoを構築した。
【0087】
次にターミネーターが連結された新規タンパク質(配列番号2で示されるアミノ酸配列(ACCESSION No. CCA37552))をコードする遺伝子(配列番号8)の両端にSpeI認識配列及びHindIII認識配列を付加した核酸断片を、プライマー11(配列番号19)及びプライマー12(配列番号20)を用いたPCRで調製し、SpeI及びHindIII処理させたpUC_Arg4_Pgap_EGFP_Taox1_Zeoと混合し、In-fusion HD Cloning Kitを用いて繋ぎ合わせて、pUC_Arg4_Pgap_ CCA37552_T37552_Zeoを構築した。
【0088】
このベクターは、新規タンパク質(配列番号2で示されるアミノ酸配列(ACCESSION No. CCA37552))がGAPプロモーター制御下で発現するように設計されている。
【0089】
<実施例2:形質転換酵母の取得>
製造例3で構築した抗リゾチウム一本鎖抗体発現ベクターpUC_Paox1_MFα_scFv_Taox1_T38473_G418を用いて、以下のようにコマガタエラ・パストリスを形質転換した。
コマガタエラ・パストリスATCC76273株ヒスチジン要求性株をYPD培地(1% 乾燥酵母エキス(ナカライテスク社製)、2% Bacto Pepton(Becton Dickinson社製)、2% glucose)2mlにて、30℃で16時間振盪培養後、フレッシュなYPD培地に10倍希釈で植え継ぎ、さらに30℃にて4時間振盪培養した。培養後の酵母細胞を遠心にて回収し、酵母細胞の洗浄(滅菌水6mlを加えて懸濁、遠心での酵母細胞の回収)後、試験管壁に残った滅菌水で酵母細胞を再懸濁し、これをコンピテントセル溶液とした。
【0090】
製造例3で構築した抗リゾチウム一本鎖抗体発現ベクターpUC_Paox1_MFα_scFv_Taox1_T38473_G418を用いて大腸菌を形質転換し、得られた形質転換体を5mlのアンピシリン含有LB培地(1% トリプトン(ナカライテスク社製)、0.5% 乾燥酵母エキス(ナカライテスク社製)、1% 塩化ナトリウム、0.01%アンピシリンナトリウム(ナカライテスク社製))で培養し、得られた菌体からFastGene Plasmid Mini Kit(日本ジェネティクス社製)を用いて、プラスミドを取得した。本プラスミドをCCA38473ターミネーター内のEcoRV認識配列を利用して、EcoRV処理により直鎖状にした。
【0091】
前記コンピテントセル溶液42μlと直鎖状のpUC_Paox1_MFα_scFv_Taox1_T38473_G418を20μg、10 mg/mlキャリアDNA(タカラバイオ社製)溶液8μl、1M DTT溶液8μl、4M酢酸リチウム溶液4μl、60%ポリエチレングリコール溶液100μlを混合し、42℃で20分間静置した。20分間静置後、酵母細胞を回収し、500μlのYPD培地(1% 乾燥酵母エキス(ナカライテスク社製)、2% Bacto Pepton(Becton Dickinson社製)、2% glucose)に懸濁後、30℃で2時間静置した。2時間静置後、酵母細胞をYPDG418選択寒天プレート(1% 乾燥酵母エキス(ナカライテスク社製)、2% Bacto Pepton(Becton Dickinson社製)、2% glucose、2% アガロース、0.05% G418二硫酸塩(ナカライテスク社製))に塗布し、30℃、3日間の静置培養で生育する株を選択し、抗リゾチウム一本鎖抗体発現酵母を取得した。
【0092】
実施例1で構築した新規タンパク質発現ベクターpUC_Arg4_Pgap_CCA37552_T37552_Zeoを用いて、同様に、前記の抗リゾチウム一本鎖抗体発現酵母を形質転換した。
【0093】
抗リゾチウム一本鎖抗体発現酵母をYPD培地(1% 乾燥酵母エキス(ナカライテスク社製)、2% Bacto Pepton(Becton Dickinson社製)、2% glucose)2mlにて、30℃で16時間振盪培養後、フレッシュなYPD培地に10倍希釈で植え継ぎ、さらに30℃にて4時間振盪培養した。培養後の酵母細胞を遠心にて回収し、酵母細胞の洗浄(滅菌水6mlを加えて懸濁、遠心での酵母細胞の回収)後、試験管壁に残った滅菌水で酵母細胞を再懸濁し、これをコンピテントセル溶液とした。
【0094】
実施例1で構築した新規タンパク質発現ベクターpUC_Arg4_Pgap_ CCA37552_T37552_Zeoを用いて大腸菌を形質転換し、得られた形質転換体を5mlのアンピシリン含有LB培地(1% トリプトン(ナカライテスク社製)、0.5% 乾燥酵母エキス(ナカライテスク社製)、1% 塩化ナトリウム、0.01%アンピシリンナトリウム(ナカライテスク社製))で培養し、得られた菌体からFastGene Plasmid Mini Kit(日本ジェネティクス社製)を用いて、プラスミドを取得した。本プラスミドをARG4遺伝子内のAscI及びPmeI認識配列を利用して、AscI及びPmeI処理により直鎖状にした。
【0095】
前記コンピテントセル溶液42μlと直鎖状のpUC_Arg4_Pgap_ CCA37552_T37552_Zeoを20μg、10 mg/mlキャリアDNA(タカラバイオ社製)溶液8μl、1M DTT溶液8μl、4M酢酸リチウム溶液4μl、60%ポリエチレングリコール溶液100μlを混合し、42℃で20分間静置した。20分間静置後、酵母細胞を回収し、500μlのYPD培地(1% 乾燥酵母エキス(ナカライテスク社製)、2% Bacto Pepton(Becton Dickinson社製)、2% glucose)に懸濁後、30℃で2時間静置した。2時間静置後、酵母細胞をYPDG418Zeo選択寒天プレート(1% 乾燥酵母エキス(ナカライテスク社製)、2% Bacto Pepton(Becton Dickinson社製)、2% glucose、2% アガロース、0.05% G418二硫酸塩(ナカライテスク社製)、100mg/L Zeocin(商標)(InvivoGen社製))に塗布し、30℃、3日間の静置培養で生育する株を選択し、配列番号1に示す塩基配列からなる遺伝子(配列番号2に示すアミノ酸配列をコードする遺伝子)が活性化された抗リゾチウム一本鎖抗体発現酵母を取得した。
【0096】
遺伝子活性化の確認は形質転換酵母の染色体DNAをテンプレートにしたPCRによる増幅核酸断片の断片長や内部配列の配列解析、遺伝子発現解析等にて行った。その結果、実施例2で取得した形質転換酵母において、配列番号1に示す塩基配列からなる遺伝子が活性化されていることを確認した。
【0097】
<実施例3:形質転換酵母の培養>
実施例2で得られた抗リゾチウム一本鎖抗体発現酵母、及び、配列番号1に示す塩基配列からなる遺伝子が活性化された抗リゾチウム一本鎖抗体発現酵母を2mlのBMGY培地(1% yeast extract bacto(Becton Dickinson社製)、2% polypeptone(日本製薬社製)、0.34% yeast nitrogen base Without Amino Acid and Ammonium Sulfate(Becton Dickinson社製)、1% Ammonium Sulfate、0.4mg/l Biotin、100mM リン酸カリウム(pH6.0)、2% Glycerol)に接種し、これを30℃、170rpm、24時間振盪培養後、前培養液を得た。2mlのBMMY培地(1% yeast extract bacto(Becton Dickinson社製)、2% polypeptone(日本製薬社製)、0.34% yeast nitrogen base Without Amino Acid and Ammonium Sulfate(Becton Dickinson社製)、1% Ammonium Sulfate、0.4mg/l Biotin、100mM リン酸カリウム(pH6.0)、2% Methanol)に前培養液を200μl植継ぎ、これを30℃、170rpm、72時間振盪培養後、遠心分離(12000rpm、5分、4℃)により培養上清を回収した。
【0098】
<実施例4:ELISA法による抗リゾチウム一本鎖抗体の分泌量の測定>
実施例3で得られた培養上清への抗リゾチウム一本鎖抗体分泌発現量は、サンドイッチELISA(Enzyme-Linked Immunosorbent Assay)法により以下に示す方法で行った。
【0099】
ELISA用プレート(Coaster Assay Plate, 96well Clear, EasywashTM(コーニング社製))に固定化バッファー(8g/L 塩化ナトリウム、0.2g/L 塩化カリウム、1.15g/L リン酸一水素ナトリウム(無水)、0.2g/L リン酸二水素カリウム(無水)、1mM 塩化マグネシウム)にて1μM/mLとなるように溶解したリゾチウム(和光純薬社製)を各ウェル50μlずつ添加し、終夜4℃でインキュベートした。インキュベート後、ウェル中の溶液を除去し、イムノブロック(大日本住友製薬社製)200μlでブロッキングし、室温で1時間静置した。PBSTバッファー(8g/L 塩化ナトリウム、0.2g/L 塩化カリウム、1.15g/L リン酸一水素ナトリウム(無水)、0.2g/L リン酸二水素カリウム(無水)、0.1% Tween20)で3回洗浄後、系列希釈した標準抗リゾチウム一本鎖抗体と希釈した培養上清を各ウェル50μlずつ添加し、室温で1時間反応した。PBSTバッファーで3回洗浄後、PBSTバッファーにて120,000倍希釈した二次抗体溶液(二次抗体:Anti-6X His tag antibody (HRP)(アブカム社製))を各ウェル50μlずつ添加し、室温で1時間反応させた。PBSTバッファーで3回洗浄後、50μlのTMB-1 Component Microwell Peroxidase Substrate SureBlue(KPL社製)を添加し、室温で3分静置した。50μlのTMB Stop Solution(KPL社製)を添加して反応を停止させた後、マイクロプレートリーダー(Envison;パーキンエルマー社製)で450nmの吸光度を測定した。培養上清中の抗リゾチウム一本鎖抗体の定量は、標準抗リゾチウム一本鎖抗体の検量線を用いて行った。この方法により得られた抗リゾチウム一本鎖抗体分泌発現量と各々の菌体濃度(OD660)を表2に示した。
【0100】
その結果、配列番号1に示す塩基配列からなる遺伝子を活性化した株の抗リゾチウム一本鎖抗体分泌発現量は、活性化していない株と比較して、約1.6倍増加した。
【0101】
【配列表フリーテキスト】
【0102】
配列番号3:GAPプロモーター
配列番号4:AOX1プロモーター
配列番号5:AOX1ターミネーター
配列番号6:CCA38473ターミネーター
配列番号7:ARG4遺伝子
配列番号9:プライマー1
配列番号10:プライマー2
配列番号11:プライマー3
配列番号12:プライマー4
配列番号13:プライマー5
配列番号14:プライマー6
配列番号15:プライマー7
配列番号16:プライマー8
配列番号17:プライマー9
配列番号18:プライマー10
配列番号19:プライマー11
配列番号20:プライマー12
配列番号22:プライマー13
配列番号23:プライマー14
配列番号24:Zeocin(商標)耐性遺伝子
配列番号25:G418耐性遺伝子
配列番号26: svFC遺伝子
配列番号27:HindIII-NotI-BamHI-BglII-XbaI-EcoRI
配列番号28:プライマー15
配列番号29:プライマー16
配列番号30:プライマー17
配列番号31:プライマー18
配列番号32:Hisタグ
配列番号33:プライマー19
配列番号34:プライマー20
配列番号35:プライマー21
配列番号36:プライマー22
配列番号37:AscI-FseI-PmeI
配列番号38:EGFP遺伝子
配列番号39:プライマー23
配列番号40:プライマー24
配列番号41:プライマー25
配列番号42:プライマー26
【0103】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
【配列表】