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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-14
(45)【発行日】2023-09-25
(54)【発明の名称】水底地盤改良装置
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/12 20060101AFI20230915BHJP
【FI】
E02D3/12 102
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023095132
(22)【出願日】2023-06-08
【審査請求日】2023-06-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000219406
【氏名又は名称】東亜建設工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000230700
【氏名又は名称】日本海工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166039
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 款
(72)【発明者】
【氏名】粟津 進吾
(72)【発明者】
【氏名】本田 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】野中 宗一郎
(72)【発明者】
【氏名】赤司 有三
(72)【発明者】
【氏名】浅田 英幸
(72)【発明者】
【氏名】三枝 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】山本 佳知
(72)【発明者】
【氏名】近本 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】北門 亨允
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-013447(JP,A)
【文献】特開2021-169733(JP,A)
【文献】特開2017-190667(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水底の在来地盤を内側に取り込むことが可能なケーシングと、
前記ケーシングの内側に向けて改質材を供給するための材料供給路と、
前記ケーシングの内側に取り込んだ前記在来地盤と前記改質材を攪拌混合するための攪拌翼と、を有しており、
前記攪拌翼は、
前記ケーシングの内側で前記材料供給路より下方において昇降可能に設けられ両端部が支持された横向きの回転軸と、
長さの異なる一対の翼軸を有する長短組み合わせ翼部であって、前記回転軸から略直立するように突出した長い翼軸の先端に設けられた長軸翼部と、前記回転軸の長い翼軸と対向する位置から略直立するように突出した短い翼軸の先端に設けられた短軸翼部とが組み合わされた長短組み合わせ翼部と、
を有することを特徴とする水底地盤改良装置。
【請求項2】
前記攪拌翼は、更に、
前記回転軸の略中央から突出した長さが等しい一対の中央翼軸と、前記中央翼軸先端に設けられ、前記ケーシング内に供給された前記改質材を左右に移動させるセンター翼部を有し、
前記長短組み合わせ翼部は、前記センター翼部を挟んで前記回転軸の端部方向に位置するように設けられている、
ことを特徴とする請求項1に記載の水底地盤改良装置。
【請求項3】
前記長軸翼部と前記短軸翼部と前記センター翼部は湾曲した板状部材である、
ことを特徴とする請求項2に記載の水底地盤改良装置。
【請求項4】
前記回転軸が周方向に1回転した際の前記長軸翼部による攪拌混合領域と、前記短軸翼部による攪拌混合領域が、重複しないように、前記長短組み合わせ翼部における前記長い翼軸と前記短い翼軸の軸長及び前記長軸翼部と前記短軸翼部の形状が構成されている、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の水底地盤改良装置。
【請求項5】
前記センター翼部が、前記材料供給路の排出口の下に位置し、前記長軸翼部に接触しないように前記中央翼軸の軸長が設けられている、
ことを特徴とする請求項2に記載の水底地盤改良装置。
【請求項6】
前記長短組み合わせ翼部は、側面視で前後に位置する他の長短組み合わせ翼部または前記センター翼部に対して所定の角度差を付けて前記回転軸に設けられている、
ことを特徴とする請求項2に記載の水底地盤改良装置。
【請求項7】
前記長短組み合わせ翼部と前記センター翼部の前記板状部材の向きは、前記在来地盤と前記改質材を攪拌混合してなる改質土または前記在来地盤を、前記回転軸が周方向に回転するに伴い切り込んで、前記回転軸の両端部方向に略水平に押し出すように設けられている、
ことを特徴とする請求項3に記載の水底地盤改良装置。
【請求項8】
前記水底地盤改良装置は、更に、
前記回転軸を回転可能に保持する回転軸保持部を有している、
ことを特徴とする請求項1に記載の水底地盤改良装置。
【請求項9】
前記水底地盤改良装置は、更に、回転駆動装置によって横方向に回転可能に設けられた縦向きのロッドを有しており、
前記回転軸保持部は、前記縦向きのロッドの前記回転を前記攪拌翼による縦方向の回転に変化させるギアボックスを備えている、
ことを特徴とする請求項8に記載の水底地盤改良装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘性土からなる海底の在来地盤等の水底地盤の改良に用いる水底地盤改良装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の図7には、海底地盤をはじめとする水底地盤の改良に利用可能な地盤改良装置が開示されている。
【0003】
特許文献1の図7に開示された地盤改良装置は、攪拌翼を備えたケーシングと、ケーシング内に製鋼スラグなどからなる改質材を投入するための材料供給管と、オーガーモーターの回転動力を攪拌翼に伝達するためのロッドやギアボックスを有している。攪拌翼は、横向きの回転軸と、長さが等しい複数の翼部を有している。攪拌翼の翼部は、ギアボックスを挟んで回転軸の左右にそれぞれ複数設けられている。ギアボックスは、攪拌翼の回転軸の中央に設けられており、ロッドの横回転を回転軸による縦回転に変化させる役割を担っている。
【0004】
特許文献1の図7に開示された地盤改良装置を用いた海底地盤改良では、当該地盤改良装置を地盤に圧入してケーシング内に海底の粘性土地盤を取り込み、材料供給路を介して改質材をケーシング内に投入し、ケーシング内の粘性土と改質材を攪拌翼により攪拌混合して改質土を製造する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-190667号公報(図7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の図7の地盤改良装置で海底地盤を改良する場合、ケーシング内で攪拌翼を回転させる際の撹拌翼の軌跡が縦の直線形状となるため、上下方向の一様な流れになりやすく、改質材を横方向に分散させる効果が弱いという問題があった。
【0007】
また、従来の地盤改良装置では、攪拌翼の回転軸の中央にギアボックスがあるため、攪拌翼の中央に翼部を設けることができなかった。すなわち、ケーシング内の中央には攪拌混合を担う翼部が設けられていなかった。そのため、ケーシング内の中央では粘性土が攪拌翼の剪断作用を受けることなく大きな塊のまま滞留し、特にケーシング内の中央に位置する粘性土に対して改質材を均等に混ぜ込むことができなかった。そのため、従来の地盤改良装置では、ケーシング内で製造する改質土の品質に偏りが生じるおそれがあった。
【0008】
そこで、ケーシング内に取り込んだ粘性土の全体に対して改質材を均等に混ぜ込むために、長時間にわたって攪拌翼を回転させ続けることが検討されたが、その場合、攪拌効率が著しく悪くなり施工に時間がかかるといった問題があった。
【0009】
そこで、上述した問題に鑑み、本発明の目的は、ケーシング内で攪拌翼を回転させる際に、ケーシング内で製造する改質土の品質に偏りが無く、効率的な攪拌混合を可能する水底地盤改良装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は、水底の在来地盤を内側に取り込むことが可能なケーシングと、前記ケーシングの内側に向けて改質材を供給するための材料供給路と、前記ケーシングの内側に取り込んだ前記在来地盤と前記改質材を攪拌混合するための攪拌翼と、を有しており、前記攪拌翼は、前記ケーシングの内側で前記材料供給路より下方において昇降可能に設けられ両端部が支持された横向きの回転軸と、長さの異なる一対の翼軸を有する長短組み合わせ翼部であって、前記回転軸から略直立するように突出した長い翼軸の先端に設けられた長軸翼部と、前記回転軸の長い翼軸と対向する位置から略直立するように突出した短い翼軸の先端に設けられた短軸翼部とが組み合わされた長短組み合わせ翼部と、を有する水底地盤改良装置よって達成される。
【0011】
上記水底地盤改良装置において、前記攪拌翼は、更に、前記回転軸の略中央から突出した長さが等しい一対の中央翼軸と、前記中央翼軸先端に設けられ、前記ケーシング内に供給された前記改質材を左右に移動させるセンター翼部を有している。そして、前記長短組み合わせ翼部は、前記センター翼部を挟んで前記回転軸の端部方向に位置するように設けられている。
【0012】
また、上記水底地盤改良装置において、前記長軸翼部と前記短軸翼部と前記センター翼部は湾曲した板状部材である。
【0013】
また、上記水底地盤改良装置では、前記回転軸が周方向に1回転した際の前記長軸翼部による攪拌混合領域と、前記短軸翼部による攪拌混合領域が、重複しないように、前記長短組み合わせ翼部における前記長い翼軸と前記短い翼軸の軸長及び前記長軸翼部と前記短軸翼部の形状が構成されている。
【0014】
また、上記水底地盤改良装置において、前記センター翼部が、前記材料供給路の排出口の下に位置し、前記長軸翼部に接触しないように前記中央翼軸の軸長が設けられている。
【0015】
また、上記水底地盤改良装置において、前記長短組み合わせ翼部は、側面視で前後に位置する他の長短組み合わせ翼部または前記センター翼部に対して所定の角度差を付けて前記回転軸に設けられている。
【0016】
また、上記水底地盤改良装置において、前記長短組み合わせ翼部と前記センター翼部の前記板状部材の向きは、前記在来地盤と前記改質材を攪拌混合してなる改質土または前記在来地盤を、前記回転軸が周方向に回転するに伴い切り込んで、前記回転軸の両端部方向に略水平に押し出すように設けられている。
【0017】
また、上記水底地盤改良装置は、更に、前記回転軸を回転可能に保持する回転軸保持部を有している。
【0018】
また、上記水底地盤改良装置は、更に、回転駆動装置によって横方向に回転可能に設けられた縦向きのロッドを有している。そして、回転軸保持部は、前記縦向きのロッドの横方向の横回転を前記攪拌翼による縦方向の回転に変化させるギアボックスを備えている。
【発明の効果】
【0019】
攪拌翼の翼軸の一方を短くして長短組み合わせ構造とすることで、攪拌翼を回転させる際に複雑な流れを発生させることができ、短時間で効率的な攪拌混合が可能になる。翼軸の長さが一律の場合、翼部の内側に粘土あるいは改質土が付着して、土と攪拌翼が一緒に回るだけで攪拌混合されない供回り現象が生じる恐れがあるが、長短組み合わせ構造では、攪拌翼の剪断作用を受ける領域も複雑になるため、供回り現象を抑制する効果もある。
【0020】
また、回転軸の略中央にセンター翼部を設けることで、従来装置では攪拌が不十分になるおそれがあったケーシング内中央の粘性土に対して十分な攪拌混合作用を与えることができる。
【0021】
また、「長軸の翼部」と「短軸の翼部」の攪拌混合領域を重複しないようにすることで、一つの「長短組み合わせ翼部」による1回転当りの攪拌混合領域を拡げることができ、短時間で効率的な攪拌混合が可能になる。
【0022】
また、材料供給路の排出口の下にセンター翼部を設けることで、ケーシング内に投入された改質材を、その投入直後にセンター翼部により左右に均等に振り分けることができ、ケーシング内の粘性土の全体に改質土を行き渡らせることが可能になるので、ケーシング内で製造する改質土の品質向上を図ることができる。
【0023】
また、所定の角度差を付けて長短組み合わせ翼部を設けることで、ケーシング内の中央に投入された改質材を滞りなくケーシング内の隅まで行き渡らせることができる。また、攪拌翼の周囲にある粘性土に対して、満遍なく攪拌混合作用を与えることができる。
【0024】
また、長短組み合わせ翼部とセンター翼部の板状部材の向きを、回転する過程で粘性土を切り込んでケーシング内の両サイドに押し出すように設けることで、硬くて大きな粘性土の塊を細かく切り刻むことができ、ケーシング内の粘性土の全体に改質材を行き渡らせることが可能になるので、攪拌翼を回転させる際のトルクを抑制して過負荷を回避することができる。
【0025】
また、昇降式の回転軸保持部をケーシング内に設けることで、ケーシング内で攪拌翼を回転させつつ昇降させることが可能になるので、ケーシング内の上下方向において、製造する改質土の品質に偏りをなくすことができる。
【0026】
また、回転軸保持部にギアボックスを持たせることで、攪拌翼を回転させるロッドの取り付け位置を側方に移すことができる。その結果、従来装置ではロッドが在った位置に(すなわちケーシング内の中央に)、ケーシング内に改質材を供給するための材料供給路を設けることが可能になる。また、ギアボックスと攪拌翼の回転軸の端部とをプーリーおよびチェーンを介して接続することで、攪拌翼の回転軸の中央を含む全体に翼部を等間隔で設けることが可能になる。そして、ケーシング内の中央に向かって改質材を投入することで、改質材をケーシング内の左右に均等に振り分けることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明に係る水底地盤改良装置を装備した作業船(地盤改良船)を示す側面図(a)と、水底地盤改良装置を用いた海底地盤改良の様子を示す側面拡大図(b)である。
図2】本発明に係る水底地盤改良装置を示す透視図(正面拡大図)であって、図2(a)は、ケーシング内の攪拌翼を上げた状態を示しており、図2(b)は、攪拌翼を下げた状態を示している。
図3】本発明に係る水底地盤改良装置を示す透視図(側面拡大図)であって、図3(a)は、ケーシング下端のグラブを開けた状態を示しており、図3(b)は、グラブを閉じた状態を示している。
図4図2に示す水底地盤改良装置が具備する攪拌翼を示す拡大図であって、図4(a)は攪拌翼を示す正面図であり、図4(b)は攪拌翼を示す側面図である。
図5図4に示す攪拌翼が具備する各翼部を示す図であって、図5(a)は長短組み合わせ翼部61aを示す側面図であり、図5(b)は長短組み合わせ翼部61bを示す側面図であり、図5(c)はセンター翼部61cを示す側面図であり、図5(d)は長短組み合わせ翼部61dを示す側面図であり、図5(e)は長短組み合わせ翼部61eを示す側面図である。
図6】水底地盤改良装置のケーシング内における攪拌翼の作用効果を示す側面図である。
図7】水底地盤改良装置を用いた地盤改良の一例を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明に係る水底地盤改良装置は、図1(a)に示すような作業船1(地盤改良船)に搭載して用いるものである。作業船1は、船首側に立設されたリーダ3と、このリーダ3に沿って昇降自在に設けられた水底地盤改良装置5を有している。
【0029】
水底地盤改良装置5は、図1(b)に示すように、例えば海底の在来地盤(粘性土地盤)と改質材を原位置で攪拌混合して改質土を製造し、海底の在来地盤を改質土に置き換える地盤改良工事などで利用することができる。
【0030】
以下、図1図5に基づいて水底地盤改良装置5の構成について説明する。
なお、この出願における「水底」の具体例としては、例えば、海底、川底、湖底が挙げられる。以下、本発明の説明に於いて水底の一例として海底を挙げる。
【0031】
(水底地盤改良装置)
水底地盤改良装置5は、図1に示すとおり、リーダ3に沿って昇降自在に設けられており、また、図1図3に示すとおり、
・海底の粘性土地盤(在来地盤)を内側に取り込むことが可能なケーシング21と、
・ケーシング21内に取り込んだ粘性土と改質材を攪拌混合する攪拌翼23と、
・ケーシング21内に昇降可能に設けられ、攪拌翼23の回転軸60を保持する回転軸保持部25と、
・多重管30の外管であって、ケーシング21を支持する支持管31と、
・多重管30の内管であって、ケーシング21内に改質材を供給する材料供給路33と、
・回転軸保持部25の天端の片側を支持する支持管22と、
・多重管40の外管であって、回転軸保持部25の片側を支持する支持管41と、
・多重管40の内管であって、攪拌翼23を回転させるための縦向きのロッド43と、
・ロッド43等を介して攪拌翼23を回転駆動するオーガーモーター7を
有している。
【0032】
ケーシング21は、平面視略矩形の箱型容器状の構成部材(矩形ケーシング)であり、底部の開口部を開閉可能に構成されている。ケーシング21の天端の中央には、多重管30の外管である支持管31が連結されている。この支持管31を上げ下げすることでケーシング21を昇降させることができる。
【0033】
ケーシング21の先端(下端)には、開閉式のグラブ27が設けられている。ケーシング21とグラブ27の組合せは、全体としてひとつのケーシングを構成しているともいえる。グラブ27が開くことでケーシング21の底部が開口し、また、該グラブ27が閉じることでケーシング21の底部が閉じて密閉される。グラブ27は、海底の粘性土地盤をケーシング21内に取り込む手段としての役割のほか、ケーシング21の底部を開閉する蓋(ケーシング21の底部を密閉する蓋)としての役割を担っている。
【0034】
グラブ27は、開閉動作の手段として例えば油圧シリンダを有している。
グラブ27が開いた状態を図3(a)に示す。この状態では、ケーシング21の底部は開口している。そして、グラブ27が開いた状態から閉じるときの一連の動作を通じて、グラブ27の内側およびケーシング21内に海底の粘性土地盤を取り込むことができる。
グラブ27が閉じた状態を図3(b)に示す。この状態では、ケーシング21の底部は閉じて、該ケーシング21は密閉されている。ケーシング21内に粘性土を取り込んでからグラブ27を閉じた場合には、該ケーシング21は密閉されて、該粘性土はケーシング21内に閉じ込められることになる。
【0035】
多重管30の内管である材料供給路33は、攪拌翼23の上方(真上)に改質材の排出口34を有しており、ケーシング21内の攪拌翼23に向けて改質材を送り込むための流路として機能する。材料供給路33の下は、回転軸保持部25の上部底面から突き出して、その下端の排出口34が攪拌翼23のセンター翼部61cと所定間隔(例えば数十cm程度の予め定められた間隔)を隔てて向かい合うように設けられている。また、材料供給路33の排出口34は、ケーシング21内の中央に位置している。材料供給路33の上には、当該材料供給路に改質材を投入するための材料投入口35(図示せず)が設けられている。
【0036】
材料投入口35から投入された改質材は、材料供給路33を通ってケーシング21内に突き出した排出口34から排出されて、ケーシング21内に送り込まれる。ケーシング21内に送り込まれた改質材は、ケーシング21内に取り込んだ粘性土の全体に均等に行き渡るように、攪拌翼23によって振り分けられる。
【0037】
また、図2(a)(b)に示すように、内管である材料供給路33は、その排出口34の鉛直方向の位置が、ケーシング21内における攪拌翼23の昇降動作に追随するように設けられている。つまり、攪拌翼23と材料供給路33は、一体となって昇降できるように構成されている。
【0038】
多重管40は、回転軸保持部25の上部片側を支持する外管からなる支持管41と、この支持管41の内側で周方向である横回転可能に設けられた縦向きのロッド43を有している。ロッド43の上端は、回転駆動装置であるオーガーモーター7に連結され、ロッド43の下端は回転軸保持部25のギアボックス51に繋がっている。
【0039】
オーガーモーター7は、図1(a)に示すとおりリーダ3に昇降自在に連結されており、また、その上端はワイヤーロープ4に連結されている。当該ワイヤーロープ4を上下方向で操作することでオーガーモーター7を含む水底地盤改良装置5の全体がリーダ3に沿って昇降する。
【0040】
オーガーモーター7の近傍には、ケーシング21内で回転軸保持部25を昇降させるための油圧シリンダが設けられている。この油圧シリンダによる押し引きの作用によって支持管22,41が上下動し、その動作に連動してケーシング21内で回転軸保持部25が昇降する。
【0041】
回転軸保持部25は、攪拌翼23の回転軸60を回転可能に保持している。また、回転軸保持部25の天端の両側には支持管22,41が連結されており、支持管22,41を上下させることでその上下動に連動してケーシング21内で回転軸保持部25が昇降する。その際、図2(a)(b)に示すように、攪拌翼23を回転させるためのロッド43と、ケーシング21内に改質材を送り込むための材料供給路33が、回転軸保持部25と一体となって昇降する。
【0042】
回転軸保持部25には、ギアボックス51、プーリー53,54、チェーン55などからなる動力伝達機構が設けられている。ギアボックス51は、回転軸保持部25の上部の側方に設けられ、プーリー53,54、チェーン55は、回転軸保持部25の側部に設けられている。
【0043】
オーガーモーター7から出力された回転動力は、横方向に回転するロッド43に伝達され、さらに、ギアボックス51、プーリー53,54、チェーン55を介して、攪拌翼23の回転軸60に伝達される。回転軸保持部25が具備するギアボックス51、プーリー53,54、チェーン55などからなる動力伝達機構は、縦向きのロッド43の周方向の回転を、攪拌翼23による縦方向の回転に変化する。
【0044】
攪拌翼23は、ケーシング21内で回転軸保持部25によって回転可能に保持されており、また、回転軸保持部25と一体となってケーシング21内で昇降可能に設けられている。この攪拌翼23は、主として、グラブ27によってケーシング21内に取り込んだ海底の粘性土と、ケーシング21内に投入された改質材を攪拌混合する役割を担っている。また、攪拌翼23は、上述した攪拌混合を行う前に、ケーシング21内に取り込んだ粘性土を解泥する役割(解きほぐす役割)も担っている。
【0045】
以下、水底地盤改良装置5の攪拌翼の構成について、図4図6に基づいて具体的に説明する。
【0046】
(攪拌翼)
攪拌翼23は、ケーシング21内に取り込んだ粘性土と、ケーシング21内に投入した改質材を、攪拌混合する役割を担うものである。
【0047】
この攪拌翼23は、図4図5に示すように、
・ケーシング21内で昇降可能に設けられた横向きの回転軸60と、
・等しい長さの中央翼軸63,63を具備するセンター翼部61cと、
・長軸翼部66と短軸翼部68を具備する長短組み合わせ翼部61a,61b,61d,61eを有している。
【0048】
回転軸60は、ケーシング21の内側で材料供給路33より下方において昇降可能に設けられており、その両端部が回転軸保持部25によって支持されている。
【0049】
本実施形態では、回転軸60の略中央にセンター翼部61cを備えている。また、回転軸60の左側に長短組み合わせ翼部61a,61bを備え、回転軸60の右側に長短組み合わせ翼部61d,61eを備えている。これらの翼部61a,61b,61c,61d,61eは等間隔で設けられている。以下、長短組み合わせ翼部を「長短翼部」と略称する。
【0050】
センター翼部61cは、等しい長さの一対の中央翼軸63,63を介して回転軸60の略中央に設けられている。一対の中央翼軸63,63は、回転軸60の略中央から突出しており、この中央翼軸63,63の先端に翼部64,65が設けられている。また、センター翼部61cでは、その前後に位置する長短翼部61b,61dの長軸翼部66に接触しないように、中央翼軸63,63の軸長が設定されている。
【0051】
また、センター翼部61cは、材料供給路33の排出口34の真下に位置するように設けられている。材料供給路33の排出口34をケーシング21内に中央に設けるとともに、センター翼部61cを排出口34の真下に設けることで、ケーシング21内に投入された改質材を最短距離でケーシング21内を回転軸両端部方向にケーシング21の内壁まで行き渡らせることができる。
【0052】
図5(c)、図6に示すように、このセンター翼部61cは、材料供給路33の排出口34からケーシング21内に投入された改質材をケーシング21内の回転軸端部の一方側である左方向に振り分けるための左翼部64と、投入された改質材を回転軸端部のもう1方側である右方向に振り分けるための右翼部65を有している。左翼部64と右翼部65の中央翼軸63,63の長さは等しい。
【0053】
図5(a)(b)(d)(e)に示すように、長短翼部61a,61b,61d,61eは、それぞれ、長さの異なる一対の翼軸67,69を有している。また、長短翼部61a,61b,61d,61eは、それぞれ、回転軸60から略直立するように突出した長い翼軸67の先端に設けられた長軸翼部66と、回転軸60の長い翼軸67と対向する位置から略直立するように突出した短い翼軸69の先端に設けられた短軸翼部68の組み合わせで構成される。
【0054】
長短翼部61a,61b,61d,61eが具備する長軸翼部66は、長い翼軸67を介して回転軸60に設けられている。短軸翼部68は、短い翼軸69を介して回転軸60に設けられている。回転軸60が周方向に1回転した際の長軸翼部66による攪拌混合領域Aは外側に位置し、短軸翼部68による攪拌混合領域Bは内側に位置している。すなわち、長軸翼部66と短軸翼部68は、異なる攪拌混合領域A,Bにおいて攪拌混合するように、翼軸67,69の軸長や、翼部66,68の形状が設定されている。なお、長軸翼部66による攪拌混合領域Aと、短軸翼部68による攪拌混合領域Bは、部分的に重複する領域でもよく、あるいは、重複しない領域でもよい。
【0055】
各翼部61a,61b,61c,61d,61eは、ケーシング21内に投入された改質材を、攪拌翼23が一回転する過程でケーシング内の左右の方向に略均等に振り分け可能な角度差で回転軸60に取り付けられている。すなわち、各翼部61a,61b,61c,61d,61eは、それぞれ、側面視で前後に位置する他の翼部に対して所定の角度差を付けて回転軸に設けられている。本実施形態では、一例として図4(b)に示すように、側面視で60度の角度差を付けて各翼部が等角度間隔で回転軸60に設けられている。
【0056】
また、長短翼部61a,61b,61d,61eが先端に具備する翼部66,68と、センター翼部61cが先端に具備する翼部64,65は、湾曲した板状部材で構成されている。翼部66,68と翼部64,65を構成する各板状部材の向きは、在来地盤と改質材を攪拌混合してなる改質土や在来地盤を、回転軸60が周方向に回転するに伴い切り込んで、回転軸60の両端部方向に略水平に押し出す向きに設定されている。
【0057】
次に、主として図4図6に基づいて、攪拌翼23が具備する各翼部の機能作用について説明する。
【0058】
攪拌翼23が具備する翼部61a,61b,61c,61d,61eは、当該攪拌翼23が図4の矢印A方向に向かって回転する過程で、粘性土と改質材を攪拌混合するほか、粘性土と改質材を攪拌混合してなる改質土または攪拌混合途中の粘性土を、切り込んでケーシング21内の両サイドに押し出す役割を担っている。また、ケーシング21内に取り込んだ粘性土を解泥する役割(解きほぐす役割)も担っている。
【0059】
センター翼部61cは、上述した役割のほか、攪拌翼23が図4の矢印A方向に向かって回転する過程で、ケーシング21内に供給された改質材をケーシング21内の左右の方向に均等に振り分ける役割を担っている。この点において、センター翼部61cは、長短翼部61a,61b,61d,61eと異なっている。そのため、センター翼部61cの翼部64,65の形状と、長短翼部61a,61b,61d,61eの翼部66,68の形状は、異なっている。
【0060】
すなわち、センター翼部61cの翼部64,65と、長短翼部61a,61b,61d,61eの翼部66,68は、全体が回転方向に湾曲した板状部材である点で共通しているが、長短翼部61a,61b,61d,61eには、センター翼部61cのように改質材をケーシング21内の左右に均等に振り分ける役割が無いので、長短翼部61a,61b,61d,61eの翼部66,68は回転方向に向かって先端が先細りするテーパ形状を有している。このような先細りテーパ形状を翼部66,68に持たせることで、攪拌翼23が回転する過程での改質土や粘性土の切り込み性能が向上する。一方、センター翼部61cの翼部64,65は、ケーシング21内に供給された改質材を左右の方向に略均等に振り分ける性能を優先すべく、湾曲した矩形状部材で構成され、翼部66,68のような先細りテーパ形状にはなっていない。
【0061】
図6において、センター翼部61cの左隣に位置する長短翼部61bは、前述した役割のほか、センター翼部61cの左翼部64によって左方向に振り分けられた改質材や、センター翼部61cで細かく切り込まれた粘性土を、更に左方向に移動させる役割を担っている。
長短翼部61bの左隣に位置する長短翼部61aは、前述した役割のほか、長短翼部61bが左方向に移動した改質材や、センター翼部61cと長短翼部61bで細かく切り込まれた粘性土を、更に左方向に移動させてケーシング21の内壁まで行き渡らせる役割を担っている。
【0062】
センター翼部61cの右隣に位置する長短翼部61dは、前述した役割のほか、センター翼部61cの右翼部65によって右方向に振り分けられた改質材や、センター翼部61cで細かく切り込まれた粘性土を、更に右方向に移動させる役割を担っている。
長短翼部61dの右隣に位置する長短翼部61eは、前述した役割のほか、長短翼部61dが右方向に移動した改質材や、センター翼部61cと長短翼部61dで細かく切り込まれた粘性土を、更に右方向に移動させてケーシング21の内壁まで行き渡らせる役割を担っている。
【0063】
上述した翼部61a,61b,61c,61d,61eによる攪拌混合を連続して行うことで、改質土や粘性土がケーシング21内の中央から回転軸両端部方向に移動する流れが生じるとともに、ケーシング21の内壁にぶつかってケーシング21内の内壁側から中央に移動する流れが生じる。その結果、ケーシング21内で改質土と粘性土が循環する流れ(ケーシング21内の中央から回転軸の両端部方向に向かう流れと、それに続く、ケーシング21内の内壁側から中央に向かう流れ)が発生する。
【0064】
そして、攪拌翼23の回転によりケーシング21内で上述したような循環流を発生させつつ、攪拌翼23をケーシング21内で昇降させることで、ケーシング21内の粘性土の全体に改質土を均等に行き渡らせることができ、その結果、品質に偏りの無い高品質の改質土をケーシング21内で製造することができる。
【0065】
なお、本実施形態では、一例として攪拌翼23の回転軸60に翼部を5つ設けているが、本発明の効果を達成可能である限り翼部の数は特に限定されるものではない。
【0066】
(水底地盤改良装置を用いた海底地盤改良の具体例)
次に、上述した水底地盤改良装置5を用いた海底地盤改良工事の具体例について、図7に基づいて説明する。なお、次に述べる工程a~hは、図7(a)~(h)に対応している。
【0067】
工程a
ケーシング21の先端のグラブ27を開口状態とし、材料供給路33を介して水底地盤改良装置のケーシング21内に圧縮空気を送り込んで、該ケーシング内の海水を排水し、ケーシング21内を空洞にする。すなわち、空気圧によりケーシング21内に海水の無い空間を確保する。以後、空気圧の作用によってケーシング21内に海水が流れ込まない状態が保持される。
【0068】
工程b
水底地盤改良装置の先端、すなわちケーシング21先端のグラブ27を、海底の粘性土地盤(在来地盤)の天端に押し付ける。
【0069】
工程c
そして、ケーシング21の先端にある油圧駆動式のグラブ27の開閉を繰り返し、粘性土地盤をケーシング21内に取り込む。
【0070】
工程d
必要量の粘性土をケーシング21内に取り込んだら、該ケーシング先端のグラブ27を閉じる。これによりケーシング21が密閉され、ケーシング21内に取り込んだ粘性土がケーシング周囲の海水や粘性土から隔離される。
【0071】
工程e
ケーシング21内の攪拌翼23を下降させ、ケーシング21内に取り込まれた粘性土を、攪拌翼23の回転によって解泥する。これにより、ケーシング21内の硬い粘性土が解きほぐされて、後の工程(工程g)で粘性土と改質材を均一に攪拌混合することが可能になる。
【0072】
工程f
ケーシング21の先端(グラブ27)を閉じたままの状態で、所定量の改質材を材料供給路33を介してケーシング21内に投入する。改質材として例えば、粘性土と反応して硬化する材料を用いる。そのような材料の具体例としては、水和反応を生じさせる材料、例えばカルシア改質材が挙げられる。カルシア改質材は、鉄鋼スラグの一種である転炉系製鋼スラグを原料として成分管理と粒度調整した材料である。
【0073】
工程g
ケーシング21内への改質材の投入後、ケーシング21内の攪拌翼23を回転させつつ、ケーシング21内で上下動させて、「ケーシング21内に取り込んだ粘性土」と「ケーシング21内に投入した改質材」とを攪拌混合する。これらをケーシング21内で攪拌混合することで「改質土」が製造される。
【0074】
工程h
続いて、ケーシング21の先端(グラブ27)を開き、ケーシング21を上方に引き揚げながら充分に攪拌混合された改質土をケーシング21から落下させることによって排出して、当該改質土を元の場所(粘性土を取り込んだ場所)に埋め戻す。以上の手順を経て、粘性土からなる在来地盤が改質土に置き換わる。なお、ケーシング21からの改質土の排出において、グラブ27を開いた後の改質土の落ちが悪い場合や、改質土を強制的に排出したい場合などには、補助的にケーシング21内に圧縮空気を送ってもよい。また、攪拌翼23を回転せずに降下させて改質土をケーシング21から押し出してもよい。
【0075】
最後に、上述した実施形態は、特許請求の範囲に記載した本発明の例示であって、本発明の形態は必ずしもこれに限定されるものではない。上述した長軸翼部66と短軸翼部68を具備する長短組み合わせ翼部61a,61b,61d,61eの数も、用いるケーシング21の大きさに合わせて変更可能である。また、本発明の用途は、海底地盤の改良に限定されるものではなく、川底の地盤改良や、湖底の地盤改良にも利用可能である。
【符号の説明】
【0076】
1 作業船(地盤改良船)
3 リーダ
4 ワイヤーロープ
5 水底地盤改良装置
7 オーガーモーター
21 ケーシング
22 支持管
23 攪拌翼
25 回転軸保持部
27 グラブ
30 多重管
31 支持管(外管)
33 材料供給路(内管)
34 排出口
35 材料投入口
40 多重管
41 支持管(外管)
43 ロッド(内管)
51 ギアボックス
53 プーリー
54 プーリー
55 チェーン
60 回転軸
61a 長短組み合わせ翼部(長短翼部)
61b 長短組み合わせ翼部(長短翼部)
61c センター翼部
61d 長短組み合わせ翼部(長短翼部)
61e 長短組み合わせ翼部(長短翼部)
63 中央翼軸
64 左翼部
65 右翼部
66 長軸翼部
67 長い翼軸
68 短軸翼部
69 短い翼軸

【要約】
【課題】ケーシング内で攪拌翼を回転させる際に、ケーシング内で製造する改質土の品質に偏りが無く、効率的な攪拌混合を可能する水底地盤改良装置を提供する。
【解決手段】水底地盤改良装置5は、海底の在来地盤を内側に取り込むケーシング21と、ケーシング21内に改質材を供給する材料供給路33と、ケーシング21内の在来地盤と改質材を攪拌混合する攪拌翼23を有している。攪拌翼23は、ケーシング21内で昇降可能に設けられた回転軸60と、センター翼部61cと、長軸翼部と短軸翼部を具備する長短組み合わせ翼部を有している。センター翼部61cは、改質材の排出口34の下に位置するように回転軸60に設けられている。長短組み合わせ翼部は、センター翼部を挟んで回転軸60の端部方向に位置するように複数設けられている。
【選択図】図2

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7