(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-14
(45)【発行日】2023-09-25
(54)【発明の名称】繊維製品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
D06M 15/507 20060101AFI20230915BHJP
D03D 27/18 20060101ALI20230915BHJP
D06M 15/277 20060101ALI20230915BHJP
【FI】
D06M15/507
D03D27/18
D06M15/277
(21)【出願番号】P 2019116184
(22)【出願日】2019-06-24
【審査請求日】2022-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】390004592
【氏名又は名称】株式会社森傳
(74)【代理人】
【識別番号】100165423
【氏名又は名称】大竹 雅久
(72)【発明者】
【氏名】内田 滋
(72)【発明者】
【氏名】加藤 高子
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-003771(JP,A)
【文献】特開2005-089873(JP,A)
【文献】特開平03-234872(JP,A)
【文献】特公平07-030513(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G 1/00 - 3/48
D02J 1/00 - 13/00
D03D 1/00 - 27/18
D06M 13/00 - 15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維から形成された布帛を有し、
前記布帛を構成する糸は、少なくとも1つがモール糸または疑似モール糸から形成されており、
前記布帛の表面には、親水性基を含む樹脂と、撥水性基を含む樹脂と、が付着して
おり、
前記モール糸または前記疑似モール糸の花糸は、75デニール72フィラメントから150デニール144フィラメントであり、
前記布帛の緯糸は、太さ1/3.5から1/6番手、打込本数15から25本/インチの前記モール糸または前記疑似モール糸を含み、
前記布帛の経糸は、太さ1/3.5から1/6番手、使用本数15から20本/インチの前記モール糸または前記疑似モール糸を含むことを特徴とする繊維製品。
【請求項2】
前記親水性基を含む樹脂は、前記布帛またはその製織前の原糸に前記親水性基を含む樹脂を付着させるSR加工工程と、前記SR加工工程を実行した後の前記布帛に前記親水性基及び前記撥水性基を含む樹脂を付着させる弱撥水加工工程と、が実行されることにより前記布帛の表面に付着されており、
前記SR加工工程は、染料とSR加工剤を入れた水溶液中に前記布帛または前記原糸を浸漬することにより行われ、
前記SR加工工程における前記SR加工剤の濃度は、2から10対繊維重量%であることを特徴とする請求項1に記載の繊維製品。
【請求項3】
前記弱撥水加工工程は、パディング法によって行われることを特徴とする
請求項2に記載の繊維製品。
【請求項4】
前記親水性基を含む樹脂は、ポリエステル系樹脂であり、
前記撥水性基を含む樹脂は、フッ素系樹脂であることを特徴とする請求項1ないし
請求項3の何れか1項に記載の繊維製品。
【請求項5】
前記布帛には、バッキング樹脂層が形成されていないことを特徴とする請求項1ないし
請求項4の何れか1項に記載の繊維製品。
【請求項6】
布帛またはその製織前の原糸に親水性基を含む樹脂を付着させるSR加工工程と、
前記SR加工工程を実行した後の前記布帛に親水性基及び撥水性基を含む樹脂を付着させる弱撥水加工工程と、を実行
し、
前記布帛を構成する糸は、少なくとも1つがモール糸または疑似モール糸から形成され、
前記モール糸または前記疑似モール糸の花糸は、75デニール72フィラメントから150デニール144フィラメントであり、
前記布帛の緯糸は、太さ1/3.5から1/6番手、打込本数15から25本/インチの前記モール糸または前記疑似モール糸を含み、
前記布帛の経糸は、太さ1/3.5から1/6番手、使用本数15から20本/インチの前記モール糸または前記疑似モール糸を含むことを特徴とする繊維製品の製造方法。
【請求項7】
前記SR加工工程は、染料とSR加工剤を入れた水溶液中に前記布帛または前記原糸を浸漬することにより行われ、
前記SR加工工程における前記SR加工剤の濃度は、2から10対繊維重量%であることを特徴とする
請求項6に記載の繊維製品の製造方法。
【請求項8】
前記弱撥水加工工程は、パディング法によって行われることを特徴とする請求項7に記載の繊維製品の製造方法。
【請求項9】
前記親水性基を含む樹脂は、ポリエステル系樹脂であり、
前記親水性基及び撥水性基を含む樹脂は、フッ素系樹脂であることを特徴とする
請求項6ないし請求項8の何れか1項に記載の繊維製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維製品及びその製造方法に関し、特に、防汚性、風合い及び耐久性に優れた合成繊維製の布帛からなる繊維製品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、合成繊維製の布帛において、防汚性を高めるために各種の防汚加工を施すことが知られている。
例えば、特許文献1には、ポリエステルフィラメント糸を含むポリエステル布帛であって、該ポリエステル布帛に、親水性基を含有しないフルオロアルキルアクリレート共重合体Aと、親水性基を含有するフルオロアルキルアクリレート共重合体Bとが付着してなる防汚性ポリエステル布帛が開示されている。
【0003】
また例えば、特許文献2には、繊維材料に対して、シリカ及び珪酸塩から選ばれる少なくとも1種を付着させる工程(A)と、繊維材料に対して、変性オルガノシリケートを付着させる工程(B)とを含む、防汚加工繊維の製造方法が開示されている。
【0004】
また例えば、特許文献3には、多孔質層と緻密層が交互に配列した多層構造繊維であって、かつ、光触媒活性を有する金属酸化物微粒子が緻密層に含有されている防汚性繊維を少なくとも一部に使用した防汚性繊維構造物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-255143号公報
【文献】特開2015-161036号公報
【文献】特開2007-046178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術の繊維製品は、防汚性、風合い及び耐久性を更に高めるために改善すべき点があった。
具体的には、従来技術の繊維製品では、例えば、高い防汚性が要求されるソファー等の表皮材となる布帛について、防汚性を高める防汚加工を施しても、汚れが織組織の間を通過して布帛の内部まで押し込まれ、汚れを落とし難くなってしまうこともあった。
【0007】
特に、引裂等の物性確保のため布帛の裏面にアクリル樹脂加工を施しバッキング樹脂層を形成した場合には、汚れがバッキング樹脂層まで付着すると、バッキング樹脂層に汚れが絡み、その汚れが落ちなくなってしまう。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、防汚性に優れ、風合いが好適であり、且つ耐久性が高い繊維製品及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の繊維製品は、合成繊維から形成された布帛を有し、前記布帛を構成する糸は、少なくとも1つがモール糸(シェニールヤーン)または疑似モール糸から形成されており、前記布帛の表面には、親水性基を含む樹脂と、撥水性基を含む樹脂と、が付着しており、前記モール糸または前記疑似モール糸の花糸は、75デニール72フィラメントから150デニール144フィラメントであり、前記布帛の緯糸は、太さ1/3.5から1/6番手、打込本数15から25本/インチの前記モール糸または前記疑似モール糸を含み、前記布帛の経糸は、太さ1/3.5から1/6番手、使用本数15から20本/インチの前記モール糸または前記疑似モール糸を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明の繊維製品の製造方法は、布帛またはその製織前の原糸に親水性基を含む樹脂を付着させるSR(Soil Release)加工工程と、前記SR加工工程を実行した後の前記布帛に親水性基及び撥水性基を含む樹脂を付着させる弱撥水加工工程と、を実行し、前記布帛を構成する糸は、少なくとも1つがモール糸または疑似モール糸から形成され、前記モール糸または前記疑似モール糸の花糸は、75デニール72フィラメントから150デニール144フィラメントであり、前記布帛の緯糸は、太さ1/3.5から1/6番手、打込本数15から25本/インチの前記モール糸または前記疑似モール糸を含み、前記布帛の経糸は、太さ1/3.5から1/6番手、使用本数15から20本/インチの前記モール糸または前記疑似モール糸を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の繊維製品によれば、合成繊維から形成された布帛を有し、布帛を構成する糸は、少なくとも1つがモール糸またはモール糸の代わりに用いられる毛羽及び花糸を有する糸である疑似モール糸から形成されており、布帛の表面には、親水性基を含む樹脂と、撥水性基を含む樹脂と、が付着している。このような構成により、親水性と撥水性を生かして優れた防汚性が得られ、風合いが良く、且つ耐久性が高い繊維製品が得られる。
【0012】
また、本発明の繊維製品の製造方法によれば、布帛またはその製織前の原糸に親水性基を含む樹脂を付着させるSR加工工程と、前記SR加工工程を実行した後の前記布帛に親水性基及び撥水性基を含む樹脂を付着させる弱撥水加工工程と、を実行することを特徴とする。このような方法により、防汚性に優れ、風合いが良く、且つ耐久性が高い繊維製品が得られる。
【0013】
また、本発明の繊維製品及びその製造方法によれば、布帛の糸は、モール糸または疑似モール糸を含み、モール糸または疑似モール糸の花糸は、75デニール72フィラメントから150デニール144フィラメントであっても良い。このように細い花糸を用いる布帛の構成により、毛細管現象を促進して汚れを落ちやすくすることができると共に、触った感じを非常にソフトにして風合いの良い繊維製品が得られる。
【0014】
また、本発明の繊維製品及びその製造方法によれば、布帛の緯糸は、太さ1/3.5から1/6番手、打込本数15から25本/インチのモール糸または疑似モール糸を含んでも良い。このような構成により、汚れが繊維製品の奥まで浸透せず表面に止まるようになり、優れた防汚性が得られる。即ち、細いモール糸または疑似モール糸で打ち込み本数を増やすことにより、汚れの浸透を抑えて防汚性を高めることができる。そして、打ち込み本数が多いことにより、糸の飛びを小さくして耐スナッキング性を高めることができる。
【0015】
また、本発明の繊維製品及びその製造方法によれば、布帛の経糸は、太さ1/3.5から1/6番手、使用本数15から20本/インチのモール糸または疑似モール糸を含んでも良い。このような構成により、防汚性に優れ、風合いが良く、且つ耐久性が高い繊維製品が得られる。
【0016】
また、本発明の繊維製品及びその製造方法によれば、親水性基を含む樹脂は、ポリエステル系樹脂であり、撥水性基を含む樹脂は、フッ素系樹脂であっても良い。このような組み合わせにより、優れた防汚性が得られる。
【0017】
また、本発明の繊維製品及びその製造方法によれば、布帛には、バッキング樹脂層が形成されていなくても良い。これにより、バッキング樹脂層への汚れの付着をなくして防汚性を向上させることができる。また、布帛を柔軟に仕上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態に係る繊維製品の概略構成を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る繊維製品の製造工程を示すフロー図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る繊維製品の製造工程の他の例を示すフロー図である。
【
図4】本発明の実施例に係る繊維製品の防汚試験の状態を示す写真である。
【
図5】本発明の実施例に係る繊維製品の防汚試験の結果を示す写真である。
【
図6】本発明の実施例に係る繊維製品の摩耗試験後の防汚試験の結果を示す写真である。
【
図7】比較例に係る繊維製品の防汚試験の結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態に係る繊維製品を図面に基づき詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る繊維製品1の概略構成を示す断面図である。
図1を参照して、繊維製品1は、家具等の表面を覆う繊維製の表皮材2を有する。具体的には、表皮材2は、例えば、家庭やオフィスで用いられるソファーや、ホテルやホール等で大量に用いられるコントラクト家具のソファー、その他各種インテリア等の表皮を構成する。
【0020】
上記ソファー等の用途に使用される繊維製品1は、ソファー等から取り外して洗浄することができない場合もあるので、付着した汚れを容易に落とすことができる優れた防汚性が求められている。また、これらソファー等に用いられる表皮材2には、座り心地のよい優れた風合いが求められている。また更に、繊維製品1は、長時間の使用に耐え得る表面強度が必要であり、猫等のペットの爪による引っかき等にも耐え得る耐スナッキング性が求められている。
【0021】
しかしながら、上記の要求を全て満たすことは難しかった。繊維製品1は、この課題を解決し、防汚性に優れ、風合いが好適であり、且つ耐久性が高いという優れた効果を奏するものである。
【0022】
表皮材2は、合成繊維を素材として形成された織布、不織布、編物等の布帛である。表皮材2の素材となる合成繊維としては、例えば、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ナイロン等のポリアミド繊維等が挙げられるが、特に、ポリエステル系の繊維が好ましい。
【0023】
表皮材2となる布帛の態様としては、織布が好ましく、具体的には平織である。特に、表皮材2の緯糸は、モール糸または疑似モール糸等毛羽及び花糸のある糸から形成されることが好ましい。
【0024】
具体的には、表皮材2の緯糸は、モール糸または疑似モール糸から形成され、モール糸または疑似モール糸の毛羽及び花糸は、75デニール72フィラメントから150デニール144フィラメントの極細繊維であるハイカウント糸である。このように細い毛羽及び花糸を用いる布帛の構成により、毛細管現象を促進して汚れを落ちやすくすることができる。また、表皮材2を触った感じを非常にソフトに仕上げることができ、風合いの良い繊維製品1が得られる。
【0025】
表皮材2の緯糸を構成するモール糸または疑似モール糸の太さは、1/3.5から1/6番手、打込本数は、15から25本/インチが好ましい。このような構成により、汚れが繊維製品1の奥まで浸透せず表面に止まるようになり、優れた防汚性が得られる。即ち、細いモール糸等で打ち込み本数を増やすことにより、汚れの浸透を抑えて防汚性を高めることができる。そして、打ち込み本数が多いことにより、糸の飛びを小さくして耐スナッキング性を高めることができる。そして、表皮材2の風合いを良くすることができる。
【0026】
表皮材2の経糸は、例えば、レギュラー糸、モール糸または疑似モール糸である。経糸にレギュラー糸が用いられる場合には、そのレギュラー糸の太さは、150から950デニール、整経本数は、90から130本/インチである。
【0027】
経糸にモール糸または疑似モール糸が用いられる場合には、その太さは、1/3.5から1/6番手、使用本数は、15から20本/インチが好ましい。また、経糸に用いられるモール糸または疑似モール糸の毛羽及び花糸は、前述の緯糸を構成するモール糸または疑似モール糸と同様に、75デニール72フィラメントから150デニール144フィラメントの極細繊維であるハイカウント糸が好ましい。
【0028】
表皮材2には、親水性基を含む樹脂と、撥水性基を含む樹脂と、が付着している。具体的には、表皮材2の表面には、親水性基を含む樹脂としてポリエステル系樹脂3と、親水性基及び撥水性基を含む樹脂としてフッ素系樹脂4と、が付着している。
【0029】
ポリエステル系樹脂3は、後述するSR加工工程S5(
図2参照)またはS102(
図3参照)によって表皮材2の表面側の糸に付着している。フッ素系樹脂4は、後述する弱撥水加工工程S7(
図2参照)またはS106(
図3参照)によってポリエステル系樹脂3の表面側に付着している。
【0030】
表皮材2の表面側にポリエステル系樹脂3及びフッ素系樹脂4が組み合わされた構成により、親水性と撥水性を生かして優れた防汚性が得られ、風合いが良く、且つ耐久性が高い繊維製品が得られる。
【0031】
また、表皮材2の裏面側には、バッキング樹脂層が形成されていなくても良い。即ち、繊維製品1は、バッキング樹脂層を設けるための裏面バッキング加工が不要である。表皮材2は、バッキング樹脂層が形成されていなくても椅子張地物性をクリアすることができる。これにより、バッキング樹脂層への汚れの付着をなくして防汚性を向上させることができる。また、布帛を柔軟に仕上げて優れた風合いを得ることができる。
【0032】
次に、
図2及び
図3を参照して、繊維製品1(
図1参照)の製造方法について詳細に説明する。
図2は、繊維製品1の製造工程を示すフロー図であり、具体的には、後染めの工程を示している。
図2を参照して、繊維製品1の製造工程では、先ず、原糸受入工程S1が実行される。原糸受入工程S1では、繊維製品1の表皮材2(
図1参照)を製織する原糸を受け入れる。
【0033】
前述のとおり、表皮材2の経糸は、太さ150から950デニールのポリエステル系の繊維からなるレギュラー糸が好ましい。または、表皮材2の経糸は、太さ1/3.5から1/6番手のモール糸若しくは疑似モール糸でも良い。表皮材2の緯糸は、太さ1/3.5から1/6番手のモール糸または疑似モール糸が好ましい。モール糸または疑似モール糸の毛羽及び花糸は、75デニール72フィラメントから150デニール144フィラメントが好適である。
【0034】
次に、整経工程S2で製織に必要な本数の経糸が準備され、長さ、張力が適度に整えられる。整経本数は、レギュラー糸であれば90から130本/インチ、モール糸または疑似モール糸であれば15から20本/インチが好ましい。そして、製織工程S3で表皮材2の製織が実行される。緯糸の打込本数は、15から25本/インチが好ましい。このような工程により、汚れを奥まで浸透させない優れた防汚性と、糸の外れが少ない耐スナッキング性が得られる。
【0035】
次に、製織工程S3で製織された表皮材2は、生機出荷工程S4において、織機から外されたままの染色前生地の状態で次のSR加工工程S5を実行する装置に搬送される。
【0036】
次に、表皮材2の表面側の原糸に親水性基を含む樹脂を付着させるSR加工工程S5が実行される。SR加工工程S5では、表皮材2を染色する染色工程と、親水性基を含む樹脂を付着させるSR加工と、が同時に行われる。
【0037】
SR加工工程S5で用いられるSR加工剤は、吸水性とSR性を付与する吸水SR加工剤が好ましい。例えば、SR加工剤の主成分は特殊ポリエステル樹脂、外観は乳白色エマルジョン、イオン性は弱アニオン、原液pHは4から6、粘度は100mPa・s以下/25℃、凝集温度は60から64℃/0.5%soln.、溶解性は常温水に易溶である。
【0038】
また、SR加工剤と共に触媒が使用されても良い。触媒は、例えば、主成分を無機複合化合物とし、外観が無色透明液状であり、原液pHは7から9、粘度は100mPa・s以下/25℃、溶解性は冷水に易溶で好ましい。
【0039】
SR加工工程S5は、染料とSR加工剤を入れた水溶液中に表皮材2を浸漬することにより行われる。ここで、SR加工剤の濃度は、2から10%であり、好ましくは、3から7%である。加工槽内の加工用水溶液の温度は、120から130℃、浸漬時間は、20分から60分、好ましくは、20分から40分である。
【0040】
SR加工工程S5を実行することにより、表皮材2を構成する繊維に対して、ポリエステル系樹脂3(
図1参照)が付着し、耐久性に優れたSR性と親水性が付与される。また、同時に染色加工が行われることによって、SR加工による優れた防汚性と染色加工による優れた製品意匠が同時に得られる。よって、製品の品質と生産性を高めることができる。
【0041】
SR加工工程S5が実行された後には、洗浄工程S6が実行される。洗浄工程S6では、SR加工工程S5によって染色されポリエステル系樹脂が付着した表皮材2の洗浄、脱水、乾燥が行われる。
【0042】
洗浄工程S6の後、表皮材2に親水性基及び撥水性基を含む樹脂を付着させる弱撥水加工工程S7が行われる。弱撥水加工工程S7で用いられる加工剤は、フッ素系SR加工剤である。
【0043】
フッ素系SR加工剤は、パーフルオロアルキル基を含み、外観が淡黄色から黄色の溶液であり、pHは酸性、比重は20℃において1.1、固形分は20%、イオン性は弱カチオン、水で容易に希釈できる希釈性である。また、フッ素系SR加工剤は、アルキルフェノールエトキシレートを含んでいない。
【0044】
弱撥水加工工程S7は、パディング法によって行われる。具体的には、上述のフッ素系SR加工剤が40から70g/L、メラミン樹脂が1から3g/L、触媒が1から3g/L、ブロックドイソシアネート系架橋剤が10から15g/L用いられる。表皮材2が加工槽内を通過する速度は、10から20m/分である。また、乾燥条件は、100から120℃で1から3分、キュアリング条件は、150から170℃で1から3分である。
【0045】
弱撥水加工工程S7が実行されることにより、表皮材2を構成する繊維に対して、ポリエステル系樹脂3の上面側に、親水性基及び撥水性基を含むフッ素系樹脂4(
図1参照)が付着する。
【0046】
弱撥水加工工程S7が実行された後には、仕上工程S8により繊維製品1が仕上セットされる。そして、製品検査工程S9が行われて、繊維製品1は、最終の製品検査を経て、出荷可能に梱包される。
【0047】
図3は、繊維製品1の製造工程の他の例を示すフロー図であり、具体的には、先染めの工程を示している。
図3を参照して、先染め工程による繊維製品1の製造工程では、先ず、原糸受入工程S101が実行され、繊維製品1の表皮材2(
図1参照)を製織する原糸が受け入れられる。
【0048】
表皮材2の経糸の原糸は、太さ150から950デニールのポリエステル系の繊維からなるレギュラー糸、または、太さ1/3.5から1/6番手のモール糸若しくは疑似モール糸が好ましい。表皮材2の緯糸の原糸は、太さ1/3.5から1/6番手のモール糸または疑似モール糸が好ましい。モール糸または疑似モール糸の毛羽及び花糸は、75デニール72フィラメントから150デニール144フィラメントが好適である。
【0049】
次に、受け入れられた表皮材2の原糸に親水性基を含む樹脂を付着させるSR加工工程S102が実行される。SR加工工程S102では、原糸を染色する染色工程と、親水性基を含む樹脂を付着させるSR加工と、が同時に行われる。
【0050】
SR加工工程S102で用いられるSR加工剤は、吸水性とSR性を付与する吸水SR加工剤が好ましい。例えば、SR加工剤の主成分は特殊ポリエステル樹脂、外観は乳白色エマルジョン、イオン性は弱アニオン、原液pHは4から6、粘度は100mPa・s以下/25℃、凝集温度は60から64℃/0.5%soln.、溶解性は常温水に易溶である。
【0051】
また、SR加工剤と共に触媒が使用されても良い。触媒は、例えば、主成分を無機複合化合物とし、外観が無色透明液状であり、原液pHは7から9、粘度は100mPa・s以下/25℃、溶解性は冷水に易溶で好ましい。
【0052】
SR加工工程S102は、染料とSR加工剤を入れた水溶液中に表皮材2の原糸を浸漬することにより行われる。ここで、SR加工剤の濃度は、2から10%であり、好ましくは、3から7%である。加工槽内の加工用水溶液の温度は、120から130℃、浸漬時間は、20分から60分、好ましくは、20分から40分である。
【0053】
SR加工工程S102を実行することにより、表皮材2に用いられる原糸の繊維に対して、ポリエステル系樹脂3(
図1参照)を形成する樹脂が付着し、耐久性に優れたSR性と親水性が付与される。
【0054】
SR加工工程S102が実行された後には、洗浄工程S103が実行される。洗浄工程S103では、SR加工工程S102によって染色されポリエステル系樹脂3を形成する樹脂が付着した原糸の洗浄、脱水及び乾燥が行われる。
【0055】
次に、整経工程S104で製織に必要な本数の経糸が準備され、長さ、張力が適度に整えられる。整経本数は、レギュラー糸であれば90から130本/インチ、モール糸または疑似モール糸であれば15から20本/インチが好ましい。そして、製織工程S105で表皮材2の製織が実行される。緯糸の打込本数は、15から25本/インチが好ましい。このような工程により、汚れを奥まで浸透させない優れた防汚性と、糸の外れが少ない耐スナッキング性が得られる。
【0056】
次に、製織工程S105で製織された表皮材2は織機から外されて搬送され、次の弱撥水加工工程S106が実行される。弱撥水加工工程S106は、表皮材2に親水性基及び撥水性基を含む樹脂を付着する工程である。弱撥水加工工程S106で用いられる加工剤は、フッ素系SR加工剤である。
【0057】
フッ素系SR加工剤は、外観が淡黄色から黄色の溶液であり、pHは酸性、比重は20℃において1.1、固形分は20%、イオン性は弱カチオン、水で容易に希釈できる希釈性である。また、フッ素系SR加工剤は、アルキルフェノールエトキシレートを含んでいない。
【0058】
弱撥水加工工程S106は、パディング法によって行われる。具体的には、上述のフッ素系SR加工剤が40から70g/L、メラミン樹脂が1から3g/L、触媒が1から3g/L、ブロックドイソシアネート系架橋剤が10から15g/L用いられる。フッ素系SR加工剤が入った槽内における表皮材2の通過速度は、10から20m/分である。また、乾燥条件は、100から120℃で1から3分、キュアリング条件は、150から170℃で1から3分である。
【0059】
弱撥水加工工程S106が実行されることにより、表皮材2を構成する繊維に対して、ポリエステル系樹脂3の上面側に、親水性基及び撥水性基を含むフッ素系樹脂4(
図1参照)が付着する。
【0060】
弱撥水加工工程S106が実行された後には、繊維製品1を脱水して乾燥させる脱水工程S107が行われる。その後、仕上工程S108により繊維製品1が仕上セットされる。そして、製品検査工程S109が行われて、繊維製品1は、最終の製品検査を経て、出荷可能に梱包される。
以上説明の後染め工程または先染め工程による製造方法により、防汚性に優れ、風合いが良く、且つ耐久性に優れた繊維製品1が得られる。
【0061】
[実施例]
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明は以下に挙げる実施例によって何ら限定されるものではない。
図4ないし
図6を参照して、繊維製品1の防汚性及び耐久試験後の防汚性を確認した防汚試験について詳細に説明する。
【0062】
図4は、本発明の実施例に係る繊維製品1の防汚試験の状態を示す写真である。
図4を参照して、先ず、防汚試験及び摩耗試験のために繊維製品1の試験生地を試作した。試験用の繊維製品1の表皮材2(
図1参照)は、ポリエステル系の繊維からなる平織の布帛であり、その緯糸はモール糸から形成されている。試験生地の製造方法は、
図2に示す後染めの工程による製造方法である。
【0063】
具体的には、表皮材2の経糸は、太さ150デニールのセミダルレギュラー糸、及び太さ150デニールのセミダルカチオン糸から構成され、整経本数は仕上げ巾140cmに対して3640本である。表皮材2の緯糸は、フルダルモール糸の太さ1/5.8番手、打込本数21本/インチとカチオンレギュラー混紡糸の太さ450デニール、打込本数21本/インチと、から構成されている。フルダルモール糸の毛羽及び花糸は75デニール72フィラメントである。
【0064】
表皮材2の表面には、親水性基を含む樹脂としてポリエステル系樹脂3(
図1参照)と、親水性基及び撥水性基を含む樹脂としてフッ素系樹脂4(
図1参照)と、が付着している。
【0065】
ポリエステル系樹脂3の付着は、
図2に示す後染め工程のSR加工工程S5によって行い、SR加工剤として前述の吸水SR加工剤及び触媒を用いた。使用した吸水SR加工剤の原液pHは5、粘度は100mPa・s以下/25℃、凝集温度は62℃/0.5%soln.である。触媒の原液pHは8、粘度は100mPa・s以下/25℃、である。
【0066】
SR加工工程S5は、染料と濃度5%のSR加工剤を入れた水溶液中に表皮材2を浸漬することにより行った。加工槽内の加工用水溶液の温度は、125℃、浸漬時間は、30分である。
【0067】
フッ素系樹脂4の付着は、
図2に示す後染め工程の弱撥水加工工程S7によって行い、加工剤として前述のフッ素系SR加工剤を用いた。弱撥水加工工程S7は、パディング法によって行い、フッ素系SR加工剤を55g/L、メラミン樹脂を2g/L、触媒を2g/L、ブロックドイソシアネート系架橋剤を12g/L用いた。加工槽内における試験生地の通過速度は、15m/分である。また、乾燥条件は、120℃で2分、キュアリング条件は、170℃で2分である。
【0068】
このような方法によって完成した繊維製品1の試験生地は、触った感じが非常にソフトな優れた風合いである。また、繊維製品1の試験生地は、スナッキング試験の自主基準値をクリアするものである。即ち、スナッキング試験により、ペット等の爪による引っ掻きに対しても優れた性能であることを確認している。
【0069】
上記の工程により完成した繊維製品1の試験生地に、防汚性を確認するため、汚染物質を付着させた。付着した試験用の汚染物質は、
図4に示す繊維製品1の上左のA1部にラー油、上右のB1部にボールペンのインク、下左のC1部に赤ワイン、下右のD1部にソースである。汚染物質を付着させた後、試験生地の汚れ部分に樹脂板と500gの重りを乗せて1分間放置した。
【0070】
そして、ペーパータオルまたティッシュ等で試験生地に付着している汚染物質を拭き取った。次に、水または10倍希釈の中性洗剤で濡らしたタオル等の布材若しくは歯ブラシやスポンジ等を使用して、そのタオル等を繊維製品1の試験生地の表面に軽く接触させることにより、汚れを除去した。次いで、水で汚染物質及び中性洗剤を洗い流し、乾いたタオル等で水分を拭き取った。そして、試験生地の表皮を乾かし、染みの除去具合や表面変化を観察した。
【0071】
図5は、本発明の実施例に係る繊維製品1の防汚試験の結果を示す写真である。
図5に結果を示す防汚試験では、水のみを使用して試験生地を洗浄している。なお、
図5ないし
図7において、結果欄の記号◎は、汚れが殆ど落ちたとの判定を示し、記号〇は、ほんの薄く色が着いたとの判定を示し、記号△は、薄くなったが汚れが見えるとの判定を示し、記号×は、汚れが落ちていないとの判定を示している。
【0072】
図5に示すように、汚染物質が付着した繊維製品1を洗浄することにより、付着していた汚染物質を略全て綺麗に拭き落とすことができた。このように、繊維製品1の優れた防汚性を確認することができた。
【0073】
なお、繊維製品1の試験生地では、汚染物質を拭き取る布材に水を着ける事により、多くの汚染物質を落とすことができた。特に、液体の汚染物質が付着した直後に洗浄を行う場合には、布材で拭き取るだけでも付着した略全ての汚染物質を落とすことができる。
【0074】
そして、前述の防汚試験のように、繊維製品1の表面の汚染物質近傍に水を垂らすと、更に良好に汚染物質を拭き取ることができる。繊維製品1の表面に水を垂らすと、ポリエステル系樹脂3(
図1参照)を含む繊維とフッ素系樹脂4(
図1参照)を含む表面側の繊維が入れ替わり、ポリエステル系樹脂3及びフッ素系樹脂4に含まれる親水性基と、フッ素系樹脂4に含まれる撥水性基と、によって汚染物質を浮き立たせることができる。これにより汚染物質を綺麗に落とすことができる。
【0075】
次に、繊維製品1の摩耗試験及び摩耗試験後の防汚試験の一例について説明する。
図6は、本発明の実施例に係る繊維製品1の摩耗試験及び摩耗試験後の防汚試験の結果を示す写真である。
図6に示す摩耗試験及び摩耗試験後の防汚試験では、前述の防汚試験と同様の方法で作成した繊維製品1の試験生地に対して1000回転のテーバ摩耗試験を行っている。その結果、試験生地は、表面糸の切断等がなく、耐摩耗性が確認された。
【0076】
テーバ摩耗試験を実行した後、
図4及び
図5に示す前述の防汚試験と同様の方法により、試験生地に汚染物質を付着させ、その後、水のみによる洗浄を行い、染みの除去具合や表面変化を観察した。試験に使用した汚染物質も前述の防汚試験と同様であり、
図6に示す繊維製品1の上左のA2部にラー油、上右のB2部にボールペンのインク、下左のC2部に赤ワイン、下右のD2部にソースを付着させた。
【0077】
図6に示すように、テーバ摩耗試験後の防汚試験においても、試験生地は十分な防汚性を有することが確認できた。即ち、A2部のラー油及びD2部のソースについては、それらの汚れが殆ど落ちていることが確認され、B2部のボールペン及びC2部の赤ワインについても、ほんの薄く色が着く程度であり、優れた防汚性が確認できた。
【0078】
[比較例]
次に、比較例として、従来技術の繊維製品による防汚試験の結果を説明する。
図7は、比較例に係る繊維製品の防汚試験の結果を示す写真である。試験に用いた比較例の試験生地は、アネルカである。経糸は、太さ400デニールのタスラン糸であり、その整経本数は32本/インチである。緯糸は、太さ400デニールのタスラン糸、打込本数16本/インチ、及び太さ1/4.5番手のモール糸、打込本数16本/インチである。
【0079】
比較例の試験生地については、本発明の実施形態に係る製造方法のSR加工工程S5(
図2参照)及び弱撥水加工工程S7(
図2参照)に相当する工程が行われていない。即ち、比較例の試験生地は、本発明の実施形態に係る繊維製品1のポリエステル系樹脂3(
図1参照)及びフッ素系樹脂4(
図1参照)に相当する構成を備えていない。
【0080】
比較例の防汚試験では、試験生地に本発明の実施例の防汚試験と同様の汚染物質を付着させた。即ち、
図7に示す比較例の試験生地の上左のA3部にラー油、上右のB3部にボールペンのインク、下左のC3部に赤ワイン、下右のD3部にソースを付着させた。その後、本発明の実施形態の防汚試験と同じ条件で水のみによる洗浄を行い、試験生地の染みの除去具合や表面変化を観察した。
【0081】
図7に示すように、比較例の試験生地では汚れ落ちが良くないことが確認されている。詳しくは、D3部のソースについては汚れが殆ど落ちたものの、A3部のラー油及びC3部の赤ワインについては、薄くなった汚れが視認できる状態で残っていた。B3部のボールペンについては、汚れが明らかに見える状態であり落ちていないと判定された。
【0082】
このように、比較例の繊維製品の試験生地は防汚性が低い。本願発明の実施例に係る繊維製品1は、従来技術と比較して、優れた防汚性を有することが確認された。
【0083】
また、図示を省略するが、その他の複数の試験生地についても同様の試験を実施し、繊維製品1が優れた防汚性、風合い及び耐久性を有することを確認している。
【0084】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の変更実施が可能である。
【符号の説明】
【0085】
1 繊維製品
2 表皮材
3 ポリエステル系樹脂
4 フッ素系樹脂