(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-14
(45)【発行日】2023-09-25
(54)【発明の名称】眼科装置
(51)【国際特許分類】
A61B 3/103 20060101AFI20230915BHJP
【FI】
A61B3/103
(21)【出願番号】P 2019150110
(22)【出願日】2019-08-20
【審査請求日】2022-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】501299406
【氏名又は名称】株式会社トーメーコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000660
【氏名又は名称】Knowledge Partners弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】辺 光春
【審査官】増渕 俊仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-054770(JP,A)
【文献】特開2014-150857(JP,A)
【文献】特開2006-187483(JP,A)
【文献】特開2016-187461(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00-3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源から出力された測定光を被検眼に対して投光する投光光学系と、
前記測定光が前記被検眼の眼底から反射した反射光を撮像素子に受光させる受光光学系と、
前記投光光学系と前記受光光学系とで共用され、または、それぞれに備えられた光学偏向部材であって、前記投光光学系および前記受光光学系の光軸を通る前記測定光を前記光軸に対して変位させ、前記光軸に対して変位している前記反射光が前記光軸を通るように前記反射光を変位させる光学偏向部材と、
前記光軸を回転軸とし、前記撮像素子の露光時間において前記光学偏向部材を略N回転(Nは1以上の整数)させる回転制御部と、
前記撮像素子の撮像画像に基づいて前記被検眼の眼屈折力を測定する測定部と、
を備え
、
前記撮像素子は前記露光時間を変化させることが可能であり、
前記露光時間が変化した場合、前記回転制御部は前記露光時間の変化に追従させて前記光学偏向部材の回転速度を変化させる、
眼科装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被検眼に対してリング状に測定光を投光し、眼底からの反射光を測定することによって眼屈折力を測定する技術が知られている。例えば、特許文献1においては、光束偏向部材を受光素子の蓄積時間よりも短い周期で測定光学系の測定光軸の回りに回転させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術においては、測定結果を安定化させることが困難であった。具体的には、従来技術においては、受光素子の蓄積時間よりも短い周期で光束偏向部材を回転させるため、投光される測定光は1回転より多く回転する。仮に測定光が1.5回転した場合を考えると、1回転を超えて回転する0.5回転分の測定光が被検眼に投光される位置は、測定のたびに変動する。被検眼においては、水晶体の混濁度合いや血管の密度が位置によって異なるなど、測定光の反射光を変動させる要素が局所的に変動し得る。従来の技術においては、0.5回転分の測定光のように、整数回数分の回転に対する余剰分が存在するが、当該余剰分が混濁している部分に投光された場合と、混濁していない部分に投光された場合とで、測定結果が異なってしまう。従って、従来技術においては測定のたびに被検眼の位置による差異の影響が異なり、測定結果が安定しない。
本発明は、前記課題にかんがみてなされたもので、測定結果を安定化させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するため、眼科装置は、光源から出力された測定光を被検眼に対して投光する投光光学系と、測定光が被検眼の眼底から反射した反射光を撮像素子に受光させる受光光学系と、投光光学系と受光光学系とで共用され、または、それぞれに備えられた光学偏向部材であって、投光光学系および受光光学系の光軸を通る測定光を光軸に対して変位させ、光軸に対して変位している反射光が光軸を通るように反射光を変位させる光学偏向部材と、光軸を回転軸とし、撮像素子の露光時間において光学偏向部材を略N回転(Nは1以上の整数)させる回転制御部と、撮像素子の撮像画像に基づいて被検眼の眼屈折力を測定する制御部と、を備える。
【0006】
すなわち、眼科装置は、光学偏向部材を回転させることによって被検眼に対して測定光をリング状に投影する。この構成において、眼科装置は、撮像素子の露光時間において光学偏向部材を略N回転(Nは1以上の整数)させる。このため、いつ撮影を行っても、露光時間において撮像素子で撮影される像は、測定光が略整数回回転して得られた像である。従って、撮影結果においては、被検眼において反射光を変動させる要素が局所的に生じているとしても、その影響を受けたり受けなかったりすることはなく、必ず同程度の影響を受けた状態で撮像素子による撮像が行われる。このため、眼科装置における測定結果を安定化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】眼屈折力を測定する際に利用される光学系を示す図である。
【
図2】制御部を含めた本発明の一実施例に係る眼科装置の全体構成を説明するブロック図である。
【
図3】投光光学系と受光光学系とを模式的に示す図である。
【
図4】
図4Aは被検眼の模式図、
図4Bは回転速度毎の輝度バラツキを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
ここでは、下記の順序に従って本発明の実施の形態について説明する。
(1)眼科装置の構成:
(2)測定結果の安定化:
(3)他の実施形態:
【0009】
(1)眼科装置の構成:
本発明の一実施形態にかかる眼科装置1は筐体を備えており、筐体内には、少なくとも眼屈折力の測定に利用される光学系および制御部が備えられている。
図1は、光学系を示す図である。
図2は制御部を含めた本発明の一実施例に係る眼科装置1の全体構成を説明するブロック図である。以下においては、
図1および
図2を用いて本発明の一実施例に係る眼科装置1を説明する。眼科装置1は
図2に示すように、被検眼を測定するための光学系が配置されたヘッド部602と、ヘッド部602の中の光学系に含まれる撮像素子や光学偏向部材の回転動作などを制御する制御部600を備えた本体部601とによって構成される。
【0010】
なお、本体部601は、ヘッド部602を本体部601に対してXYZ(左右、上下、前後)方向に移動させるXYZ駆動制御部630、ヘッド部602の空間位置の調整等を指示するジョイスティック640、撮影された被検眼の画像や、眼屈折力の測定結果等を表示する表示部650、測定項目等の指示を受け付けるタッチパネル660、制御部600の制御処理において利用されるメモリ670、固視標部(後述)を制御する固視標制御部680、光学偏向部材(後述)を回転させる駆動部690を備えている。
【0011】
(光学系の構成)
図1には被検眼の眼屈折力測定を行う光学系を示す。ヘッド部602は、光源101からプロファイルセンサ107、108に至る光路上の光学素子等を含むアライメント光学系100を備えている。また、ヘッド部602は、光源301,302から2次元撮像素子(CCD)306に至る光路上の光学素子等を含む観察光学系300を備えている。さらに、ヘッド部602は、光源514からリレーレンズ403を経て被検眼Eに至る光路上の光学素子等を含む固視光学系400を備えている。
図1に示すように各光学系はその一部が共有される構成になっている。本実施形態においては、被検眼の眼前に配置される見口部に、眼屈折力測定のための平面ガラス510および511が配置される。
【0012】
(アライメント光学系100)
アライメント光学系100においては、光源101からの光がホットミラー102で反射され、対物レンズ103を通り、ホットミラー104で反射された後、平面ガラス511,510を通り被検眼Eの角膜に照射される。本実施例では、光源101は赤外光を出力するLEDが採用されている。
【0013】
角膜で反射された光は、主光軸O1に対して対称的に配置されたレンズ105およびプロファイルセンサ107、レンズ106およびプロファイルセンサ108で受光される。なお、本実施形態において、光軸は、光学系を構成するレンズの中心を結ぶ線分であり、各レンズは厚さが光軸に対して回転不変であるように配置される(以下同様)。
【0014】
本実施形態においては、被検眼の3次元方向の位置が適正な位置である場合に、角膜で反射された光がプロファイルセンサ107およびプロファイルセンサ108で検出される位置が予め決められている。本体部601の制御部600は、角膜で反射された光がプロファイルセンサ107およびプロファイルセンサ108で検出される位置が予め決められた位置になるように、XYZ駆動制御部630に指示を行うことで3次元方向にヘッド部602を移動させる。この結果、ヘッド部602およびその内部の光学系が、被検眼に対して3次元方向にアライメントされる。
【0015】
なお、アライメントを実施する手法は種々の手法が採用されてよい。例えば、検者が粗アライメントを行った後に、制御部600がオートアライメント(微調整)を実施する構成等を採用可能である。なお、粗アライメントは、例えば、表示部650に表示された被検眼の画像上で検者が角膜からの反射による輝点を視認し、さらに、ジョイスティック640で輝点を所定の範囲に入るようにヘッド部602を移動させるなどの手法を採用可能である。むろん、アライメント光学系は、
図1に示される例に限定されず、例えば、Z方向のアライメントを行う光学系とXY方向のアライメントを行う光学系が別の光学系(一部重複含む)である構成等が採用されてもよい。
【0016】
(観察光学系300)
観察光学系300は、光源301,302を備えている。本実施形態において、光源301,302は赤外光を出力するが、光源301,302から出力される光の波長域は、種々の波長域であってよい。すなわち、検者が表示部650に表示された被検眼を観察する際に被検眼に照射されるべき光を出力する光源が選択されてよい。むろん、色温度や波長毎の光の強度は限定されない。
【0017】
眼屈折力測定の際に観察光学系300が利用される場合、ヘッド部602の被検眼側に配置された光源301および光源302により被検眼の角膜部を含む前眼部領域に光が照射される。この状態で、対物レンズ303、結像レンズ305および2次元撮像素子306により、被検眼の前眼部画像が取得され、取得された被検眼の前眼部画像が表示部650に表示される。
【0018】
本実施形態において、光源301および光源302およびアライメント用の光源101は赤外光を出力するLEDであるが、本実施形態において光源301および光源302は光源101より短波長の光を出力する。このため、ホットミラー104は観察用の光(観察光)は透過し、アライメント用の光(アライメント光、光源101からの光)は反射する。また、ダイクロイックミラー304は、観察光は透過するように反射/透過の波長領域が設定されている。これにより、アライメント光と観察光は適切に分割され、各々の測定を可能にしている。
【0019】
(固視光学系400)
固視光学系400が利用される場合、光源514からの光はコリメータレンズ513で平行光とされ、固視標512に照射される。そして、固視標512からの光はリレーレンズ403を透過した後、反射ミラー404で反射し、ホットミラー506を透過して、ダイクロイックミラー304で反射して主光軸O1を通る。この後、光は、対物レンズ303、ホットミラー104、平面ガラス511、510を透過して、被検眼Eの網膜上で結像する。そのため、固視標512と被検眼の網膜位置は略共役であることが望ましい。被検眼は固視標512に基づいて固視され、眼屈折力測定などの眼特性の測定が可能になる。光源514は被検者が視認可能な可視光を出力するLEDが採用される。
【0020】
眼屈折力を測定する際は、制御部600が固視標制御部680に制御指示を出力する。この結果、固視標制御部680は、固視標と被検眼の網膜位置が略共役になるように固視標部(固視標512、コリメータレンズ513および光源514)を移動制御して被検眼を固視させる。その後、制御部600が固視標制御部680に制御指示を出力し、固視標制御部680が固視標部を所定距離移動して雲霧状態にし、後述する光学偏向部材を回転させて眼屈折力を測定する。そのため、制御部600からの信号により固視標部は光軸に沿って前後に移動可能となっている。
【0021】
(眼屈折力光学系500)
眼屈折力が測定される際には、眼屈折力光学系500が利用される。本実施形態においては眼屈折力光学系500に、投光光学系と受光光学系とが含まれている。眼屈折力光学系500は、光源501からミラー503や平面ガラス511を経て被検眼Eに至る光路上の光学素子等を含む。具体的には、眼屈折力が測定される場合、光源501からの測定光(レフ光)が集光レンズ502で集光し、ミラー503で反射して穴あきミラー504の中心にある穴を通る。そして、測定光は、光軸O2に対して斜めに配置された光学偏向部材としての平行平面ガラス505を透過し、さらにホットミラー506およびダイクロイックミラー304で反射して主光軸O1を通る。
【0022】
なお、光学偏向部材としての平行平面ガラス505は、ガラス面が光軸O2に平行な状態から光軸O2に垂直な軸に対して所定の傾斜角だけ傾斜した向きとなるように設置される。ここで、傾斜角は90度より小さい角度(例えば、45度等)であり、測定光と光軸との変位(後述するΔHf)に応じて決められてよい。本実施形態において、平行平面ガラス505は、駆動部690によって光軸O2を中心に回転可能である。駆動部690においては、図示しないモーターを備えており、図示しない動力伝達機構によって当該モーターの回転駆動力を平行平面ガラス505に作用させて回転させる。
【0023】
ダイクロイックミラー304で反射した測定光は、対物レンズ303、ホットミラー104、平面ガラス511および平面ガラス510を透過して被検眼Eに照射する。測定光が被検眼Eに達すると、測定光は被検眼Eの眼屈折力に応じて変化し、被検眼Eの眼底で反射する。被検眼Eの眼底からの反射光は、照射時とは逆の経路で、平面ガラス510、平面ガラス511、ホットミラー104および対物レンズ303を透過する。さらに、反射光は、ダイクロイックミラー304およびホットミラー506で反射して光軸O2を通り、平行平面ガラス505を透過した後、穴あきミラー504で反射し、レンズ507を透過する。その後、反射光は、リングレンズ508により、2次元撮像素子(CCD)509でリング状に結像(リング像)する。
【0024】
なお、光源501は、アライメント光(光源101)や観察光(光源301および302)より長波長の赤外光が採用されている。本実施例では、SLD(スーパールミネッセントダイオード)を採用しているが、これに限定するものではなく、光源101などに採用したLEDやレーザーダイオード(LD)を採用してもよい。
【0025】
本実施形態において、平行平面ガラス505は被検眼Eの瞳孔に共役となる位置に配置されている。平行平面ガラス505は、空気より大きい屈折率を有しているため、平行平面ガラス505に入射した光の進行方向は変化し、平行平面ガラス505から出力される光の進行方向も変化する。この結果、平行平面ガラス505からの出力光は、入射光に対して所定距離ずれた位置となり、かつ、入射光の進行方向と平行になる。
【0026】
図3は、投光光学系と受光光学系とを模式的に示す図である。投光光学系は、光源501から出力された測定光を被検眼Eに対して投光する光学系であり、本実施形態においては、光源501から被検眼Eまでの光路を形成する各光学素子、すなわち、光源501,集光レンズ502,ミラー503,穴あきミラー504,ホットミラー506,ダイクロイックミラー304,対物レンズ303,平面ガラス510,511等によって構成される。
【0027】
受光光学系は、測定光が被検眼Eの眼底から反射した反射光を2次元撮像素子509に受光させる光学系であり、本実施形態においては、平面ガラス510,511,対物レンズ303,ダイクロイックミラー304,ホットミラー506,穴あきミラー504,レンズ507,リングレンズ508,2次元撮像素子509等によって構成される。
【0028】
なお、
図3において、投光光学系からは、光源501を抜き出し、光学偏向部材としての平行平面ガラス505および被検眼Eと共に示している。受光光学系からは、2次元撮像素子509とリングレンズ508とを抜き出し、光学偏向部材としての平行平面ガラス505および被検眼Eと共に示している。なお、
図3においては、光軸O2を一点鎖線で示し、測定光および反射光を二点鎖線で示している。測定光または反射光が光軸上を進行している部分においては、測定光および反射光を示す二点鎖線が図面に表記されており一点鎖線は表記されていない。なお、本実施形態において、測定光や反射光は線状ではなく幅を持った光束である。
【0029】
投光光学系において光源501から出力された測定光は、平行平面ガラス505に入射し、平行平面ガラス505から出力されると、屈折して光軸O2に対して所定距離(
図3に示すΔHf)変位する。上述のように、平行平面ガラス505は、駆動部690によって光軸O2を中心に回転するため、平行平面ガラス505を透過した測定光は平行平面ガラス505の位置で、距離ΔHfを半径として回転する。
図3においては、破線の矢印Rによって平行平面ガラス505が回転することを示している。
【0030】
平行平面ガラス505は被検眼Eの瞳孔位置と共役な位置に配置されているため、被検眼Eの瞳孔位置で所定(一定)の半径(例えばΔh)で回転しながら被検眼の網膜上に照射される。このため、反射光は被検眼Eの網膜上で被検眼Eの眼屈折力に応じた大きさや形状を持つリング状に結像される。
図3においては、被検眼Eを正面から見た状態を模式的に示すEfに、被検眼Eの瞳孔位置で測定光が半径Δhで回転する様子を破線の矢印で示している。
【0031】
被検眼Eに測定光が入射し、眼屈折力の影響を受けた後に眼底で反射した反射光は、受光光学系によって進行し、光軸O2から距離ΔHrだけ変位した状態で平行平面ガラス505に達する。なお、反射光は被検眼E内で測定光と逆の光路を進行するため、受光光学系での距離ΔHrと投光光学系での距離ΔHfはほぼ等しい。また、光の速度は、平行平面ガラス505の回転速度と比較して極めて速いため、測定光が平行平面ガラス505から被検眼Eに向けて出力されるタイミングと、被検眼Eからの反射光が平行平面ガラス505に入射するタイミングはほぼ等しい。
【0032】
従って、反射光が平行平面ガラス505に入射され、平行平面ガラス505から出力されると、反射光は元の光軸(
図3においては光軸O3と表記)上を、測定光と逆向きの方向に進行していく。このように、本実施形態においては、被検眼Eに投光された段階でリング状の軌跡を描く光は、平行平面ガラス505から出力されると、すなわち、光軸O3を進行する段階で、進行方向に垂直な方向に幅を持つ光束となる。
【0033】
本実施形態においては、光束となった反射光を再度リング状に変化させて測定が行われる。すなわち、反射光はリングレンズ508を通ることにより、リング状に変化する。
図3においては、リングレンズ508を拡大し、光軸O3と平行な方向から眺めた状態(A)と、光軸O3に平行な方向へ切断した状態(B)とを示している。リングレンズ508は、状態(A)に示すように光軸O3を中心とした同心円状の構造を有しており、グレーに着色した部分、すなわち、光軸O3を含む中央の円と最外周を構成する環状の部分とは光を遮蔽する。
【0034】
一方、状態(A)で白に着色した部分は光を透過させる。また、当該部分は状態(B)に示すように曲面を有しており、当該部分に入射した光を集光して出力する。従って、リングレンズ508に達した反射光Lrは、集光されてリング状になり2次元撮像素子509で受光される。本実施形態において、2次元撮像素子509は被検眼Eの網膜と共役の位置に配置されているため、2次元撮像素子509で取得したリング像を解析することにより、被検眼の眼屈折力を求めることができる。
【0035】
すなわち、制御部600は、図示しない制御プログラムを実行することによって、測定部600bとして機能する。測定部600bは、2次元撮像素子509の撮像画像に基づいて被検眼Eの眼屈折力を測定する機能を制御部600に実行させる。具体的には、制御部600は、測定部600bの機能により、眼屈折力光学系500に含まれる2次元撮像素子509を制御し、撮像画像を取得する。そして、当該撮像画像に対して既定の解析処理を行い、その結果に基づいて眼屈折力の測定値を取得する。
【0036】
(2)測定結果の安定化:
以上のように、本実施形態においては、光学偏向部材を回転させることによって光軸O2を中心としたリング状の軌跡を描くように変化する測定光を被検眼Eに投光させる。このため、測定光は、被検眼E上の異なる位置に照射され、異なる位置を通って被検眼から出力された反射光に基づいて眼屈折力が測定される。従って、反射光は、眼屈折力に加え、被検眼Eの局所的な状況に応じて変化する。
【0037】
このため、測定光が照射される位置が測定のたびに異なると、測定のたびに異なる反射光が得られ、測定結果(撮像画像の輝度)が安定しない。
図4Aは、被検眼Eの拡大図である。
図4Aに示す被検眼Eにおいて、例えば、位置Pにおいて水晶体の混濁度合いや血管の密度が他の位置より多いと、位置Pに照射された測定光が反射した場合の反射光の光量が他の位置よりも少なくなるなどの影響がある。従って、ある測定の際に測定光のリンク状の軌跡が位置Pを含むが、他の測定の際に測定光のリンク状の軌跡が位置Pを含まないという状況であると、測定結果が安定しない。
【0038】
このような状況は、光学偏向部材としての平行平面ガラス505が、2次元撮像素子509の露光時間において、非整数回回転する場合に発生する。
図4Aにおいては、測定光が被検眼E上で1.5回転することが想定されており、一点鎖線は1回転分の軌跡を示し、破線は0.5回転分の軌跡を示している。なお、
図4Aに示す0.5回分の軌跡の位置は一例であり、非整数回回転する場合、0.5回分の軌跡の位置は固定的ではなく、変動し得る。
【0039】
このように、2次元撮像素子509の露光時間において、平行平面ガラス505非整数回回転する場合、位置Pが0.5回分の軌跡と重なる場合と重ならない場合とがある。従って、2次元撮像素子509の露光時間において、平行平面ガラス505非整数回回転する構成では、測定結果が安定しない。
【0040】
そこで、本実施形態においては、2次元撮像素子509の露光時間において、平行平面ガラス505を整数回回転させることで、測定結果を安定化させる。このような制御を行うため、制御部600は、図示しない制御プログラムを実行することによって、回転制御部600aとして機能する。回転制御部600aは、光軸O2を回転軸とし、2次元撮像素子509の露光時間において光学偏向部材としての平行平面ガラス505をN回転(Nは1以上の整数)させる機能を制御部600に実行させる。
【0041】
具体的には、本実施形態において、2次元撮像素子509の露光時間は既知であり、当該露光時間における回転数N(1以上の整数)は予め決められている。また、本実施形態において、制御部600は、回転制御部600aの機能により、回転数をN回とするために必要な回転速度を決定する。例えば、2次元撮像素子509の露光時間がT(秒)である場合、制御部600は、回転速度(rps)をN/Tとする。
【0042】
そして、制御部600は、回転速度を駆動部690に出力する。駆動部690は、当該回転速度となるように図示しないモーター等を制御し、平行平面ガラス505を回転させる。この結果、平行平面ガラス505は、2次元撮像素子509の露光時間にN回回転する。平行平面ガラス505がこのように回転した状態で2次元撮像素子509による撮像が行われた場合、
図4Aに示すリング状の軌道の任意の位置に対して同一回数だけ測定光が照射され、その結果得られた反射光に基づいて撮像が行われる。撮像タイミングが異なると、撮影開始段階で測定光が照射される位置は撮影のたびに異なり得るが、露光時間内において、被検眼E上で測定光が網羅した位置は不変である。従って、測定結果が安定化する。
【0043】
図4Bは、回転速度の調整によって測定結果が安定化する様子を示す図である。
図4Bにおいては、横軸が平行平面ガラス505の回転速度、縦軸が眼底に形成されるリング像の輝度バラツキである。ここで、眼底に形成されるリング像は、2次元撮像素子509による撮像画像である。また、リング像の輝度は、撮像画像から抽出されたリング像の画素毎の輝度値を平均化して得られた値である。そして、リング像の輝度バラツキは、同一の被検眼Eについて、10回測定を行った場合のリング像の輝度に基づいて算出した標準偏差(σ)の2倍の値である。なお、
図4Bに示す測定は、2次元撮像素子509のフレームレートを30fpsとして実施された。
【0044】
ここでは、フレームレートが30fpsであることから、露光時間が1/30(秒)であるとみなした。この場合、露光時間における平行平面ガラス505の回転数を1とするための回転速度は1800rpmであり、回転数を2とするための回転速度は3600rpmである。
図4Bに示されるように、輝度バラツキは、回転数N=1に相当する1800rpmと、回転数N=2に相当する3600rpmとにおいて極小値を取る。従って、2次元撮像素子509の露光時間において光学偏向部材としての平行平面ガラス505を整数回回転させることにより、測定結果が安定化することが確認された。なお、フレームレートが30fpsである場合の実効的な露光時間は1/30(秒)よりも若干短くなり得るが、露光時間が1/30(秒)であるとみなされても、
図4Bに示すように測定結果が安定化されることが確認された。
【0045】
以上のようにして、2次元撮像素子509によって反射光の撮像画像が得られると、眼屈折力が測定される。すなわち、制御部600は、測定部600bの機能により、2次元撮像素子509の撮像画像に基づいて被検眼Eの眼屈折力を測定する。当該測定の基になる撮像画像は、上述のように、測定結果のバラツキが発生しにくい状態で撮像される。従って、眼屈折力の測定結果が安定化される。
【0046】
(3)他の実施形態:
以上の実施形態は本発明を実施するための一例であり、露光時間において光学偏向部材を略N回転させる限りにおいて、他にも種々の実施形態を採用可能である。例えば、眼科装置は、上述のようにヘッド部と本体部とを備える構成に限定されず、他にも種々の要素を備える眼科装置であって良い。また、測定対象は眼屈折力のみに限定されず、他の測定対象、例えば、眼圧が測定可能な眼科装置であってもよい。
【0047】
投光光学系は、光源から出力された測定光を被検眼に対して投光することができればよい。すなわち、眼科装置においては、測定光が被検眼によって変化した結果が反射光として得られるようにすることで眼屈折力が測定される光学系が採用されている。そこで、投光光学系は、被検眼の眼屈折力に応じた変化が生じる前の測定光が被検眼に対して照射するように光学系が設計されていればよい。このため、投光光学系は、光源、レンズ、ミラー等の光学部品を含むが、その光軸の向きや光学部品の配置等は上述の実施形態のような態様に限定されず、各種の態様であってよい。
【0048】
受光光学系は、測定光が被検眼の眼底から反射した反射光を撮像素子に受光させることができればよい。すなわち、測定光が被検眼の眼屈折力に応じて変化した結果を撮像素子での撮像画像として取得することで、眼屈折力の撮影を実行可能であれば良い。このため、受光光学系は、レンズ、ミラー、撮像素子等の光学部品を含むが、その光軸の向きや光学部品の配置等は上述の実施形態のような態様に限定されず、各種の態様であってよい。
【0049】
測定光は、被検眼の眼屈折力による変化前の光であれば良く、種々の態様であってよい。従って、上述の実施形態のように、進行方向に垂直な断面が円形となる光束が光学偏向部材に入射し、光学偏向部材によって進行方向が光軸に対して変位し、光学偏向部材の回転によって被検眼に投光された測定光の軌跡がリング状になる構成に限定されない。例えば、被検眼に投光される測定光自体がリング状等の他の形状であってもよい。測定光がリング状である場合、光学偏向部材の回転によりリングの中央の軌跡がさらにリング状になる。
【0050】
また、上述の実施形態においては、投光光学系と、受光光学系とで一部の部品が共有されているが、他の部品が共有されていても良いし、全ての部品が共有されていても良いし、部品が共有されていなくてもよい。投光光学系と受光光学系とで共有される部品が上述の実施形態よりも少なく、光学偏向部材が共用されない場合、投光光学系と受光光学系とのそれぞれに光学偏向部材が備えられる。この場合、投光光学系の光学偏向部材でリング状にされた測定光が、受光光学系の光学偏向部材で元の態様(例えば、ビーム状)に戻ることが好ましい。このため、投光光学系と受光光学系とのそれぞれに備えられる光学偏向部材は、同期して回転する。
【0051】
光学偏向部材は、投光光学系と受光光学系とで共用され、または、それぞれに備えられた光学偏向部材であって、投光光学系および受光光学系の光軸を通る測定光を光軸に対して変位させ、光軸に対して変位している反射光が光軸を通るように反射光を変位させることができればよい。従って、光学偏向部材は、上述の実施形態のように、平行平面ガラスに限定されず、他の部材、例えば、各種形状のプリズムやミラー等であってもよい。なお、光軸は、光学系を構成するレンズの中心を結ぶ線分であり、投光光学系と受光光学系とにおいて少なくとも一部の光軸が共用されていてもよいし、それぞれの光学系にそれぞれの光軸が設けられていてもよい。
【0052】
光学偏向部材は、測定光を光軸に対して変位させ、光軸に対して変位した反射光が光軸を通るように変位させることができればよい。すなわち、測定光が光学偏向部材に入射する前と反射光が光学偏向部材から出力した後とにおいて、それぞれの光の進行方向が逆向きであり、かつ、ともに光軸上にある状態にすることができればよい。このように、光学偏向部材は、光軸から変位させた光を元に戻す作用があれば良く、変位した光の態様、例えば、向き等は限定されない。
【0053】
回転制御部は、光軸を回転軸とし、撮像素子の露光時間において光学偏向部材を略N回転(Nは1以上の整数)させることができればよい。従って、光学偏向部材の回転数や回転速度等を制御することにより、露光時間において光学偏向部材が略整数回転する限りにおいて、光学偏向部材を回転させるための機構や駆動源の種類等は限定されない。また、光学偏向部材の回転数は、露光時間において略N回であればよい。すなわち、同一の被検眼が異なるタイミングで撮像された場合であっても、露光時間における露光によって撮像された撮像画像が同等であればよい。この限りにおいて、露光時間における光学偏向部材の回転数がN回から変動していてもその変動量は誤差であるとみなすことができ、この意味で、露光時間における光学偏向部材の回転数は略N回であればよい。
【0054】
誤差の範囲とみなすことができる要素としては、不可避の計測誤差が挙げられる。例えば、モーターで光学偏向部材を回転させる際に回転数をN回としたが不可避の制御誤差等によって回転数がN回から変動しても誤差の範囲である。また、光源(例えばLED)による輝度の誤差が10%程度である場合、回転数が10%程度変動しても、誤差の範囲である。さらに、測定対象量の測定に影響を与えない程度の変動が誤差とみなされてもよい。例えば、眼屈折力としてディオプトリー値を測定するため、レンズの選択等の際にディオプトリー値の測定結果が0.25間隔で変動するように測定が行われる場合、測定結果の誤差として、0.25以上の誤差が出ない範囲で回転数がN回と異なっていてもよい。
【0055】
測定部は、撮像素子の撮像画像に基づいて被検眼の眼屈折力を測定することができればよい。すなわち、測定部は、撮像素子の撮像画像に対して既定の解析処理を行い、その結果として眼屈折力を測定することができればよい。測定対象となる眼屈折力は限定されず、例えば、ディオプトリー値(D)や球面度数(S)、乱視度数(C)、乱視軸角度(A)等のいずれかまたは組み合わせ等であってもよい。
【0056】
さらに、露光時間は固定長であってもよいし、可変長であってもよい。露光時間が可変である構成において露光時間が変化した場合、回転制御部は露光時間の変化に追従させて光学偏向部材の回転速度を変化させる。具体的には、例えば、
図2に示す構成において、タッチパネル660の操作等に応じて露光時間の指示を入力できるように構成される。また、露光時間が指示されると、制御部600は、眼屈折力光学系500の2次元撮像素子509に制御信号を出力し、指示された露光時間となるように2次元撮像素子509を駆動する。
【0057】
さらに、制御部600は、回転制御部600aの機能により、変化後の露光時間において光学偏向部材を略N回転させるための回転速度を算出し、駆動部690に指示する。この結果、駆動部690は、変化後の露光時間において光学偏向部材を略N回転させる。なお、露光時間は、被検眼の状況に応じて変化されてよく、例えば、白内障が進行している被検眼を測定する場合には、白内障ではない被検眼を測定する場合よりも露光時間を長くする構成等が挙げられる。この構成によれば、被検眼の状況に応じた測定を実行する際にも、測定結果を安定化させることができる。
【0058】
さらに、露光時間において光学偏向部材を略N回転させる手法は、方法の発明としても適用可能である。また、以上のような眼科装置、方法は、単独の装置として実現される場合や、複数の機能を有する装置の一部として実現される場合が想定可能であり、各種の態様を含むものである。
【符号の説明】
【0059】
1…眼科装置、100…アライメント光学系、101…光源、102…ホットミラー、103…対物レンズ、104…ホットミラー、105…レンズ、106…レンズ、107…プロファイルセンサ、108…プロファイルセンサ、300…観察光学系、301…光源、302…光源、303…対物レンズ、304…ダイクロイックミラー、305…結像レンズ、306…2次元撮像素子、400…固視光学系、403…リレーレンズ、404…反射ミラー、500…眼屈折力光学系、501…光源、502…集光レンズ、503…ミラー、504…ミラー、505…平行平面ガラス、506…ホットミラー、507…レンズ、508…リングレンズ、509…2次元撮像素子、510…平面ガラス、511…平面ガラス、512…固視標、513…コリメータレンズ、514…光源、600…制御部、600a…回転制御部、600b…測定部、601…本体部、602…ヘッド部、630…XYZ駆動制御部、640…ジョイスティック、650…表示部、660…タッチパネル、670…メモリ、680…固視標制御部、690…駆動部